説明

イオン交換膜用織物

【課題】設備的な改良を行なうことなく、高速且つ安定して製造することが可能な高品質のイオン交換膜用織物を提供すること。
【解決手段】2種以上の合成繊維から構成されてなる織物であって、該合成繊維のうちの1種以上の合成繊維が該織物に格子状に織り込まれており、該格子状に織り込まれた合成繊維の初期抗張力が該織物を構成する他の合成繊維の初期抗張力の2倍以上であり、さらに該格子状に織り込まれた合成繊維の、他の合成繊維に対する単位面積あたりの重量の比が0.02〜1である織物に、イオン交換樹脂が含浸されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イオン交換膜用織物に関するものであり、さらに詳しくは、良好な品質を有するイオン交換膜用織物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、イオン交換膜は水質の改善や食品の分野で多く用いられている。この膜は合成繊維などからなる織物を基布としてこれにイオン交換能がある樹脂を含浸せしめることにより製造される。例えば特開平8−12775号公報には、一方面側を合成樹脂製ファブリックで補強する複合イオン交換膜が記載されている。
【0003】
近年、このようなイオン交換膜の生産効率を高めることが試みられており、その際、製造工程の高速化が図られているが、この場合、布帛に掛かる張力が従来よりも高くなるため、製造工程を通過する間に布帛の一部が伸張固定化され、樹脂含浸加工のムラができたり、設定した樹脂付着量とならなかったりするという問題があった。
【0004】
このような問題を解決するためには、製造の各工程において、精密な張力制御を行う等の設備的な改良が必要となるが、設備の改良を行なうと今度はコスト高となってしまうという問題が発生するため、イオン交換膜の安定した性能を確保しつつ、生産効率を可及的に高める方法が切望されてきた。
【特許文献1】特開平8−12775号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、上記従来技術の有する問題点を解消し、設備的な改良を行なうことなく、高速且つ安定して製造することが可能な高品質のイオン交換膜用織物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意検討した結果、イオン交換膜用の織物を2種以上の合成繊維から構成させ、その配列を巧みに制御するとき、上記目的が達成できることを究明し、本発明に到達した。
【0007】
すなわち、本発明によれば、2種以上の合成繊維から構成されてなる織物であって、該合成繊維のうちの1種以上の合成繊維が該織物に格子状に織り込まれており、該格子状に織り込まれた合成繊維の初期抗張力が該織物を構成する他の合成繊維の初期抗張力の2倍以上であり、さらに該格子状に織り込まれた合成繊維の、他の合成繊維に対する単位面積あたりの重量の比が0.02〜1である織物に、イオン交換樹脂が含浸されていることを特徴とするイオン交換膜用織物が提供される。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、設備的な改良を行なうことなく、高品質のイオン交換膜用織物を高速且つ安定して製造することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。本発明において使用する、織物に格子状に織り込まれる合成繊維としては、ポリ塩化ビニル、ポリプロピレン、ポリエステル、ポリ塩化ビニリデン、ポリエチレン、ポリアミド、アラミド、ビニロン、ポリアリレート又はポリベンザゾールなどの合成高分子を繊維化したものが挙げられる。
【0010】
上記合成繊維の初期抗張力は、織物を構成する他の合成繊維の初期抗張力の2倍以上であることが必要であり、さらに上記合成繊維の、他の合成繊維に対する単位面積あたりの重量の比は0.02〜1であることが必要である。
【0011】
織物に格子状に織り込まれる合成繊維と、織物を構成する他の合成繊維とがこのような関係を満足するとき、織物の潜在伸張性能が減少し、イオン交換樹脂を含浸する工程およびその後の仕上げの工程での伸張による品質のばらつきなどが抑えられるので、高速でも品質の安定したイオン交換膜の製造が可能となる。
【0012】
織物に格子状に織り込まれる合成繊維の初期抗張力が、織物を構成する他の合成繊維の初期抗張力の2倍未満の場合、或いは織物に格子状に織り込まれる合成繊維の、他の合成繊維に対する単位面積あたりの重量の比が0.02未満の場合は、イオン交換樹脂を含浸する工程およびその後の仕上げの工程において、織物が充分な初期抗張力を有さなくなる。
【0013】
一方、織物に格子状に織り込まれる合成繊維の、他の合成繊維に対する単位面積あたりの重量の比が1を越える場合は、イオン交換樹脂を含浸する工程およびその後の仕上げの工程における織物の取扱性が悪化する。
尚、上記合成繊維を織物に格子状に織り込む際には、2mm〜5cm程度の格子が形成されるように織り込むことが好ましい。
【0014】
上記合成繊維以外の、織物を構成する他の合成繊維としては、ポリ塩化ビニル、ポリプロピレン、ポリエステル、ポリ塩化ビニリデン、ポリエチレン、ポリアミド、アラミド、ビニロン、ポリアリレート又はポリベンザゾールなどの合成高分子を繊維化したものが挙げられ、上記の織物に格子状に織り込まれる合成繊維と、上述の関係を満足する合成繊維を適宜使用すれば良い。
【0015】
中でも、イオン交換樹脂の含浸性などの点からポリ塩化ビニルがより好適に用いられる。ポリ塩化ビニル繊維はポリ塩化ビニルを繊維形態としたもので、帝人テクノプロダクツ株式会社製の商標名「テビロン」などを具体的に挙げることができる。
【0016】
本発明においては、上記合成繊維を用い、常法により上記の織物を得るが、得られた織物の破断伸度は、織物の製造工程内での走行中の安定性の点から小さいほうが好ましく、具体的には10%以下であることが好ましく、5%以下であることが更に好ましい。
【0017】
また、この破断伸度は、織物の製造工程内での走行方向(マシン・ディレクション)、即ち経方向の値であることが好ましいが、幅方向、即ち緯方向の破断伸度も上記の値であれば、織物の走行安定性が更に増すのでより好ましい。
【0018】
上記方法により得られた織物は、次いでイオン交換樹脂を含浸され、イオン交換膜用織物とされる。ここで、使用されるイオン交換樹脂としては、例えばスチレン系樹脂、エチレン系樹脂、ポリスルフォン系樹脂、含フッ素系樹脂等が例示され、加熱溶融又は溶媒に溶解するなどの方法で液状化できるものなら特に限定されない。特にスルフォン酸基を有する含フッ素重合体は耐熱性、耐薬品性、成形加工性、機械的性質の面で良好な性質を持っており電解用の隔膜として適している。例えばスルフォン酸基を有する含フッ素重合体では、イオン交換容量0.65〜2.5ミリ当量/g樹脂のものが好ましい。
【0019】
上記イオン交換樹脂の量が多すぎると緻密層の厚みが必要以上に大きくなり電気抵抗が上昇する場合がある。一方イオン交換樹脂の量が少ないと布帛に欠陥が発生したりする場合がある。そのため充填するイオン交換樹脂量は、布帛重量に対して5〜100重量%、好ましくは10〜60重量%がよい。
【実施例】
【0020】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。尚、実施例中の各特性は、以下の方法に従って評価した。
(1)品質安定性
得られたイオン交換膜用布帛30mを1mごとに切断し、その重量を測定して平均値および標準偏差を算出し、標準偏差を平均値で除した値である変動率(以下、「膜重量変動率」と称する)が5%以内の場合を合格とした。
【0021】
[実施例1]
レピア織機を用い、織物に格子状に織り込まれる合成繊維としてポリプロピレン繊維(繊度766dtex、初期抗張力612kN)を使用し、一方、織物を構成する他の合成繊維として、帝人テクノプロダクツ株式会社製のポリ塩化ビニル繊維(商品名「テビロン」、繊度122dtex、初期抗張力44kN)を使用して、ポリプロピレン繊維を経糸及び緯糸ともに2.5本/インチの密度で、ポリ塩化ビニル繊維を経糸及び緯糸ともに76本/インチの密度で配して平織物を得た。
【0022】
得られた平織物の破断伸度は経緯方向とも8%であった。また、該織物において、ポリプロピレン繊維の、ポリ塩化ビニル繊維に対する単位面積あたりの重量の比は0.14であった。
得られた織物を、常法に従い含フッ素重合体からなるイオン交換樹脂を含浸する工程に通し、樹脂を52重量%含浸させてイオン交換膜用織物を得た。該織物の膜重量変動率は1.5%で、合格の品質であった。
【0023】
[比較例1]
実施例1において、ポリプロピレン繊維を使用せず、ポリ塩化ビニル繊維のみを経糸及び緯糸ともに78本/インチの密度で配して平織物を得た以外は実施例1と同様に実施した。
得られた平織物の破断伸度は経緯方向とも16%であった。また、該織物の膜重量変動率は12%で、不合格の品質であった。
【0024】
[実施例2]
実施例1において、ポリプロピレン繊維を経糸及び緯糸ともに0.4本/インチの密度で配した以外は実施例1と同様に実施した。得られた平織物において、ポリプロピレン繊維の、ポリ塩化ビニル繊維に対する単位面積あたりの重量の比は0.022であった。
また、該織物の膜重量変動率は4.5%で、合格の品質であった。
【0025】
[比較例2]
実施例1において、ポリプロピレン繊維を経糸及び緯糸ともに0.3本/インチの密度で配した以外は実施例1と同様に実施した。得られた平織物において、ポリプロピレン繊維の、ポリ塩化ビニル繊維に対する単位面積あたりの重量の比は0.017であった。
また、該織物の膜重量変動率は6%で、不合格の品質であった。
【0026】
[実施例3]
実施例1において、ポリプロピレン繊維を繊度132dtex、初期抗張力105kNのポリプロピレン繊維に変更した以外は実施例1と同様に実施した。得られた平織物において、ポリプロピレン繊維の、ポリ塩化ビニル繊維に対する単位面積あたりの重量の比は0.024であった。
また、該織物の膜重量変動率は4.5%で、合格の品質であった。
【0027】
[比較例3]
実施例1において、ポリプロピレン繊維を繊度102dtex、初期抗張力81kNのポリプロピレン繊維に変更し、ポリ塩化ビニル繊維に対する初期抗張力の比を1.8とした以外は実施例1と同様に実施した。得られた平織物において、ポリプロピレン繊維の、ポリ塩化ビニル繊維に対する単位面積あたりの重量の比は0.018であった。
また、該織物の膜重量変動率は6.5%で、不合格の品質であった。
【0028】
[比較例4]
比較例3において、ポリプロピレン繊維を経糸及び緯糸ともに5本/インチの密度で配し、ポリ塩化ビニル繊維を経糸及び緯糸ともに68本/インチの密度で配した以外は比較例3と同様に実施した。得られた平織物において、ポリプロピレン繊維の、ポリ塩化ビニル繊維に対する単位面積あたりの重量の比は0.04であった。
また、該織物の膜重量変動率は6%で、不合格の品質であった。
【0029】
[実施例4]
実施例1において、ポリプロピレン繊維を繊度220dtex、初期抗張力1144kNのアラミド繊維(帝人テクノプロダクツ株式会社製、商品名「テクノーラ」)に変更し、ポリ塩化ビニル繊維に対する初期抗張力の比を26とした以外は実施例1と同様に実施した。得られた平織物において、アラミド繊維の、ポリ塩化ビニル繊維に対する単位面積あたりの重量の比は0.055であった。
また、該織物の膜重量変動率は4.5%で、合格の品質であった。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明によれば、良好な品質を有するイオン交換膜用織物を高速且つ安定して製造することが可能となるので、イオン交換膜の用途に好適に使用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2種以上の合成繊維から構成されてなる織物であって、該合成繊維のうちの1種以上の合成繊維が該織物に格子状に織り込まれており、該格子状に織り込まれた合成繊維の初期抗張力が該織物を構成する他の合成繊維の初期抗張力の2倍以上であり、さらに該格子状に織り込まれた合成繊維の、他の合成繊維に対する単位面積あたりの重量の比が0.02〜1である織物に、イオン交換樹脂が含浸されていることを特徴とするイオン交換膜用織物。
【請求項2】
織物の引張破断伸度が10%以下である請求項1記載のイオン交換膜用織物。
【請求項3】
織物の引張破断伸度が5%以下である請求項1記載のイオン交換膜用織物。
【請求項4】
格子状に織り込まれる合成繊維がポリプロピレン繊維である請求項1〜3のいずれか1項に記載のイオン交換膜用織物。
【請求項5】
格子状に織り込まれる合成繊維がアラミド繊維である請求項1〜3のいずれか1項に記載のイオン交換膜用織物。
【請求項6】
織物を構成する他の合成繊維がポリ塩化ビニル繊維である請求項1〜3のいずれか1項に記載のイオン交換膜用織物。
【請求項7】
織物を構成する他の合成繊維がポリ塩化ビニリデン繊維である請求項1〜3のいずれか1項に記載のイオン交換膜用織物。

【公開番号】特開2006−307394(P2006−307394A)
【公開日】平成18年11月9日(2006.11.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−134103(P2005−134103)
【出願日】平成17年5月2日(2005.5.2)
【出願人】(303013268)帝人テクノプロダクツ株式会社 (504)
【Fターム(参考)】