説明

イオン伝導性電解質膜の検査方法および検査装置

【課題】イオン伝導性電解質膜の検査方法および検査装置の提供。
【解決手段】電解質膜の一方の面に調光薄膜を接合し、調光薄膜を水素化した後、酸素ガスを電解質膜の他方の面側から供給する。電解質膜に欠陥部があると、酸素ガスが電解質膜の一方の面へ漏洩するから、欠陥部に近接する調光薄膜が漏洩酸素ガスで脱水素化し、調光薄膜の反射率が局部的に変化して欠陥部を検査できる(欠陥部検査)。さらに電解質膜の他方の面に空気極を接合し、調光薄膜と空気極の間に電気回路を接続し、電解質膜を加熱すると、酸素イオンが電解質膜を透過して調光薄膜を脱水素化して、調光薄膜の反射率が変化する。この反射率の変化は、電解質膜を透過した酸素イオンの多寡に依存するから、酸素イオン伝導性の均一性を反射率の均一性で検査することができる(イオン伝導性検査)。欠陥部検査とイオン伝導性検査は、電気回路の接続をオフまたはオンすることで選択でき、また連続する工程で検査できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イオン伝導性電解質膜の検査方法および検査装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
イオン伝導性電解質膜は、例えば燃料電池に使用され、酸素イオン伝導性電解質膜は、固体酸化物型燃料電池の膜電極接合体(membrane electrode assembly )等に用いられる。かかる膜電極接合体では、電解質膜である固体酸化物電解質膜の一方の面に燃料極(水素極)が、他方の面に空気極(酸素極)が接合等され、燃料極には水素又は一酸化炭素が、空気極には酸素又は空気がそれぞれ供給され、膜電極接合体が加熱される。すると酸素が空気極で電子を受け取って酸素イオン化し、この酸素イオンは、電解質膜を透過して燃料極に達し、水素(又は一酸化炭素)と反応して、水(水蒸気)又は二酸化炭素が生成されるとともに、電子が放出される。この電子が負荷を流れ(負荷に電力を供給し)再び空気極に達し、空気極に供給された酸素を酸素イオン化する。
【0003】
したがって、固体酸化物型燃料電池では、膜電極接合体の一部を構成する電解質膜にピンホールやクラック等の欠陥部があると、電解質膜にガス漏れが生じて発電能力が低下する。欠陥部は、電解質膜のいずれか一方の面側の空間に例えば水素ガスを供給した場合、電解質膜の他方の面に水素ガスの漏洩を生じさせるから、水素センサで漏洩水素ガスの濃度を測定することで欠陥部が存在することを検知できる。こうした測定における水素センサとしては、例えば水素吸収合金を用いたものなどがある(例えば特許文献1)。
【0004】
また固体酸化物型燃料電池において、膜電極接合体を電気的に直列接続して出力電圧を高めるときの最大出力電流は、酸素イオン伝導が最も低い膜電極接合体で決定される。よって直列接続される膜電極接合体は、酸素イオン伝導ができるだけ均一であることが望ましい。そこで、電解質膜の両面に金属電極を圧接した状態で電解質膜の交流インピーダンス等の電気的特性を測定して、電解質膜の酸素イオン伝導性を推定する技術が開発された(例えば特許文献2)。
【特許文献1】特開2004−233097号公報
【特許文献2】特開2006−286397号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、雰囲気中に拡散した漏洩水素ガスを検知する検査方法では、漏洩水素ガスの拡散で欠陥部の検知感度が低下し、欠陥部の位置を特定できない。また電解質膜の電気的特性(交流インピーダンス等)の測定は、酸素イオン伝導性の直接測定ではなく、酸素イオン伝導性を推定するものにすぎず、加えて酸素イオン伝導性が電解質膜のあらゆる領域で均一か否かを検査するものではない。さらにこれら検査技術は、連続した工程において、電解質膜の欠陥部および酸素イオン伝導性の均一性を検査する技術ではない。そこで本発明は、電解質膜の欠陥部の位置を高感度で検知する検査方法、電解質膜における酸素イオン伝導性の均一性を直接検査できる検査方法、並びに電解質膜の欠陥部の位置と酸素イオン伝導性を連続した工程で検査する方法および装置の提供を課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、本発明に係るイオン伝導性電解質膜の検査方法(請求項1)では、電解質膜の一方の面に調光薄膜を接合し、この調光薄膜を水素化したのち、酸素ガスが電解質膜の他方の面側の空間に供給される。すると電解質膜にガスの漏洩を生じさせる欠陥部があるときには、欠陥部を通じて酸素ガスが電解質膜の他方の面から電解質膜の一方の面へと漏洩するから、漏洩箇所に接する調光薄膜が漏洩酸素ガスで脱水素化して光学的反射率が変化する。すなわち調光薄膜の局部的な光学的反射率の変化の有無を目視等して電解質膜の欠陥部の有無を検査することができる(欠陥部検査)。
【0007】
請求項2に記載のように、調光薄膜が触媒層と反応層を有し、触媒層が電解質膜と接していれば、触媒層の触媒作用で、反応層が電解質膜を透過した酸素ガスで脱水素化して、調光薄膜の光学的反射率が変化する。請求項8に記載のように、調光薄膜が、マグネシウム・ニッケル合金、マグネシウム・チタン合金、マグネシウム・ニオブ合金、マグネシウム・バナジウム合金もしくはマグネシウムで形成した反応膜と、触媒膜をパラジウムもしくは白金で形成した触媒膜を有していれば、調光薄膜は、脱水素化によって光学的反射率が迅速かつ可逆的に変化する。請求項9に記載のように、電解質膜の他方の面側もしくは空気極側の空間における気圧を、調光薄膜側の空間における気圧よりも高くすると、欠陥部における漏洩酸素ガスの量が多くなって、漏洩箇所に接する調光薄膜の光学的反射率がより顕著に変化するから、欠陥部検査をより迅速に行うことができる。
【0008】
請求項3に記載のイオン伝導性電解質膜の検査方法は、電解質膜の一方の面に調光薄膜を、電解質膜の他方の面に空気極を、それぞれ接合したうえで、空気極と調光薄膜との間に電気回路を接続するとともに、調光膜を水素化したのち、電解質膜を加熱して酸素イオン伝導性を生じさせ、空気極側の空間に供給した酸素ガスを空気極によって酸素イオン化し、この酸素イオン化で生じた電子を電気回路経由で空気極から調光薄膜に供給するとともに、酸素イオンを空気極から電解質膜の厚さ方向に透過させて調光薄膜に供給するものである。こうして酸素イオンを調光薄膜に到達させると、酸素イオンが調光薄膜で電子と結合して酸素分子となって、調光薄膜を水素化した水素と化合して水蒸気となるから、すなわち調光薄膜を脱水素化するから、調光薄膜の光学的反射率に変化が生じるのである。この光学的反射率の変化は、電解質膜を透過して調光薄膜に達した酸素イオンの多寡に依存する。よって該検査方法によれば、電解質膜の面方向における酸素イオン伝導性の相違が調光薄膜の光学的反射率の斑(むら)として検知されて、電解質膜の酸素イオン伝導性の均一性の良否を検査することができるのである(イオン伝導性検査)。
【0009】
請求項4に記載のイオン伝導性電解質膜の検査方法では、電解質膜の一方の面に調光薄膜が、電解質膜の他方の面に空気極が、それぞれ接合され、調光薄膜と空気極との間にスイッチを介して電気回路が接続される。そして調光薄膜を水素化したのち、スイッチがオフの状態において酸素ガスを空気極側の空間に供給する。すると、電解質膜にガスの漏洩を生じさせる欠陥部があるときには、酸素ガスが空気極を通過し、さらに欠陥部から電解質膜の一方の面へと漏洩する。この漏洩酸素ガスが調光薄膜を脱水素化するから、脱水素化で生じる調光薄膜の光学的反射率の変化によって、電解質膜の欠陥部を検査できる(欠陥部検査工程)。また調光薄膜を水素化したのち、スイッチがオンの状態において電解質膜を加熱して酸素イオン伝導性を生じさせ、酸素ガスを空気極側の空間に供給すると、請求項3と同様にして、電解質膜の酸素イオン伝導性の均一性を検査できる(イオン伝導性検査工程)。よって該検査方法によれば、スイッチの操作だけで、電解質膜の欠陥部と酸素イオン伝導性の均一性を連続した工程で検査することができる。
【0010】
請求項5に記載のように、電気回路を電源回路で構成し、空気極を電源回路の負電圧電極に、調光薄膜を電源回路の正電圧電極にそれぞれ電気的に接続する。すると空気極へ電子が供給さて、空気極で酸素イオンが生成されるとともに、調光薄膜から電子が電源回路の正電圧電極に流入する。また、空気極に対し調光薄膜を正電圧にバイアスして、空気極で生成された酸素イオンを電解質膜へ流入させ、さらに調光薄膜へと供給することができる。かくして電解質膜の酸素イオン伝導性の均一性をより良好に検査することができる。
【0011】
請求項6に記載のように、調光薄膜が触媒層と反応層を有し、反応層が電源回路の正電圧電極に電気的に接続され、触媒層が電解質膜と接していれば、触媒層の触媒作用で、反応層が電解質膜を透過した酸素ガスで脱水素化して、調光薄膜の光学的反射率が変化する。請求項7に記載のように、空気極が酸素拡散膜とカソード極を有し、カソード極が電源回路の負電圧電極に電気的に接続されるとともに電解質膜と接していれば、酸素拡散膜が酸素ガスを拡散して、カソード極で効率よく酸素イオンを生成することができる。請求項8に記載の調光薄膜を用いれば、欠陥部検査の場合と同様に、調光薄膜の光学的反射率は、脱水素化で迅速かつ可逆的に変化する。請求項9に記載のように、電解質膜の他方の面側もしくは空気極側の空間における気圧を、調光薄膜側の空間における気圧よりも高くすると、欠陥部における漏洩酸素ガスの量が多くなって、欠陥部検査をより迅速に行うことができ、また酸素ガスが空気極および電解質膜を透過しやすくなって、イオン伝導性検査をより迅速に行うことができる。
【0012】
本発明に係るイオン伝導性電解質膜の検査装置(請求項10)は、一方の面に接合された調光薄膜と、他方の面に接合された空気極を有する酸素イオン伝導性電解質膜の検査装置であって、空気極側の空間および調光薄膜側の空間を形成する容器と、調光薄膜と空気極との間に、スイッチを介して接続される電気回路と、電解質膜を加熱して酸素イオン伝導性を生じさせるヒータを有している。したがって、調光薄膜側の空間に水素ガスを供給して調光薄膜を水素化した後、スイッチがオフの状態において空気極側の空間に酸素ガスを供給すると請求項4と同様に、欠陥部近傍に接した調光薄膜の脱水素化で生じる調光薄膜の光学的反射率の変化によって、欠陥部の有無を検査することができる(欠陥部検査)。また調光薄膜側の空間に水素ガスを供給して調光薄膜を水素化した後、ヒータで電解質膜を加熱して酸素イオン伝導性を生じさせ、スイッチをオンにするとともに空気極側の空間に酸素ガスを供給すると請求項3、4と同様に、調光薄膜の脱水素化で生じる調光薄膜の光学的反射率の変化の均一性によって、電解質膜の酸素イオン伝導性の均一性を検査することができる(イオン伝導性検査)。すなわち、該検査装置によれば、スイッチの操作だけで、欠陥部検査とイオン伝導性検査を選択することはもとより、欠陥部検査とイオン伝導性検査を連続した工程で検査することができる。
【0013】
請求項11では、請求項5と同様の理由で、電解質膜の酸素イオン伝導性の均一性をより良好に検査することができる。請求項12では、請求項9と同様の理由で、電解質膜の検査がより迅速になる。
【発明の効果】
【0014】
以上のように本発明にかかるイオン伝導性電解質膜の検査方法によれば、イオン伝導性電解質膜の欠陥部を、調光薄膜の光学的反射率の変化で直接的かつ迅速に検査することができる。また本発明にかかるイオン伝導性電解質膜の検査方法によれば、酸素イオン伝導性の均一性を直接的かつ迅速に検査することができて、均一な酸素イオン伝導性を有する酸素イオン伝導性電解質膜および膜電極接合体の選別も可能となる。さらに本発明にかかるイオン伝導性電解質膜の検査装置によれば、スイッチを操作することで、欠陥部検査およびイオン伝導性検査を選択できることはもとより、酸素イオン伝導性電解質膜の欠陥部検査とイオン伝導性検査を連続した工程で実施することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、図面を参照して、本発明にかかるイオン伝導性電解質膜の検査方法および検査装置を説明する。
【実施例1】
【0016】
実施例1は、イオン伝導性電解質膜における欠陥部の検査方法の一例である。ここで、図1は、検査対象となる電解質膜に調光薄膜を接合したときの構成例を示す図であり、図2は、その斜視図であり、図3は、検査のために図1に示す電解質膜等を容器に収容するときの概略構成例を示す図である。
【0017】
(電解質膜及び調光薄膜)
図1及び図2に示すように、電解質膜10と同一平面状形を有する調光薄膜11は、触媒膜12と反応膜13を有し、触媒膜12で電解質膜10の一方の面10aに接している。なお図1(a)中の10bは、電解質膜10の他方の面である。固体酸化物電解質である電解質膜10は、例えば、8mol−YSZ(イットリア安定化ジルコニア)、5mol−YSZ、SDC(スカンジナドープドセリア)、GDC(ガドリウムドープドセリア)、またはScSZ(スカンジア安定化ジルコニア)等で形成することができる。調光薄膜11が有する反応膜13は、例えばMgNix(0≦x<0.6)の薄膜であり、またマグネシウム・チタン合金、マグネシウム・ニオブ合金、マグネシウム・バナジウム合金もしくはマグネシウムで形成することもできる。触媒膜12は、例えばパラジウムもしくは白金からなり、反応膜13の表面にコーティングなどによって形成することができ、厚さは1nmないし100nmである。かかる調光薄膜11が、水素化した状態で、酸素濃度が100ppmないし1%程度以上の雰囲気に触れると、例えば数秒ないし10秒程度で、反応膜13が迅速かつ可逆的に脱水素化して光学的反射率(以下、単に「反射率」と表示することがある)に目視可能な変化が生じる(反応膜13は、水素化した状態では反射率が低く、脱水素化すると反射率が高くなる)。なおポリエチレンシート上に反応膜13を形成し、さらに触媒層12を形成した調光薄膜11では(図1における調光薄膜11の上面にポリエチレンシートが位置することになる)、その取り扱いが容易になる。
【0018】
(酸素ガスを供給する空間等)
図3に示すように、調光薄膜11を接合した電解質膜10を容器20に収容する。先ず、容器20の供給口22aから、調光薄膜11の側の空間(第2の空間22)に水素ガスを供給して(図示しないポンプで供給する)、調光薄膜11の反応膜13を触媒膜12の触媒作用で水素化する(反応膜13の反射率が低下して、調光薄膜11は透過状態になる)。薄膜層13を水素化したのち、第2の空間22に、例えば窒素、アルゴン、ヘリウム等の不活性ガスを供給して、薄膜層13の水素化状態を維持する。あるいは、第2の空間22に不活性ガスを供給しつつ、水素を僅かに供給して第2の空間22の水素濃度を例えば100ppmないし1%程度にして、調光薄膜11を水素化する。次に、容器20内における電解質膜10の他方の面10b側の酸素ガス供給空間(第1の空間21)に、容器20の酸素ガス供給口21aから酸素ガスを供給する(図示しないポンプで供給する)。第1の空間21と第2の空間22とは、電解質膜10で遮られている。第2の空間22の周壁23には、調光薄膜11を目視するための窓24が設けられている(ガラス25が窓24に取り付けられて容器20の内部と外部を遮蔽している)。要するに、調光薄膜11を予め水素化しておき、第1の空間21に酸素ガスを供給するのである。なお調光薄膜11を接合した電解質膜10は、その周辺部を枠(図示せず)で挟持されるなどして容器20の内部に取り付けられる。また好ましくは、第1の空間21は第2の空間22の気圧よりも高い気圧に維持される。
【0019】
(電解質膜の欠陥部検査)
電解質膜10にピンホール等の欠陥部が全くないときには、第1の空間21に供給された酸素ガスOは、電解質膜10に阻まれて調光薄膜11に触れることができない。したがって、調光薄膜11は脱水素化されず、調光薄膜11の反射率は変化しない(調光薄膜11は透過状態になっている)。電解質膜10にクラック10c(欠陥部)があるときには、図1(b)に示すように、酸素ガスOが電解質膜10の他方の面10bからクラック10cを経て電解質膜10の一方の面10aへと漏洩する。するとクラック10cに接する調光薄膜11の部分11cは、漏洩した酸素ガスOの多寡に応じて反射率が迅速に変化する(反射率が高くなって、調光薄膜11の斑として目視できる)。かくして調光薄膜10にガス漏洩を生じさせる欠陥部の有無、欠陥部の位置を目視によって迅速に検査することができる。
【0020】
なお、調光薄膜11と電解質膜10の一方の面10aとの接合は、両膜の間に間隙が全く生じない完全な密着状態を意味するものではない。なぜならば、両膜を接合するときに僅かな間隙が生じたとしても、クラック10cで漏洩した酸素ガスOは、クラック10cの直近の反応層13を脱水素化できるからである。また酸素イオン伝導性電解質膜を検査する場合において、電解質膜の他方の面10bに空気極が接合されていてもよい。なぜならば、電解質膜に欠陥部があるときには、酸素ガスは、空気極を透過したのち欠陥部を通じて電解質膜の一方の面へと漏洩して反応層を脱水素化するからであり(すなわち酸素イオン伝導性電解質膜に空気極を接合した膜電極接合体の半完成品状態において、欠陥部の検査を行うことができるのであり)、また空気極を接合することで、調光薄膜と電解質膜との接合体(両膜とも極めて薄い)に空気極の厚さが加わって、電解質膜等の取り扱いが容易になるからである。
【実施例2】
【0021】
実施例2は、電解質膜の酸素イオン伝導性の検査方法の一例である。ここで図4は、検査対象となる電解質膜に空気極と調光薄膜とを接合し、さらに空気極と調光薄膜の間に電源回路を接続するときの構成例を示す図である。図5は、図4の電解質膜等の斜視図であり、図6は、検査のために図4の電解質膜等を容器に収容するときの概略構成例を示す図であり、図7は、図4の電解質膜における酸素イオン伝導を模式的に説明する図である。なお実施例1と同様の機能を有する構成要素には、同一の符号を附してその説明を省略する。
【0022】
(電解質膜、空気極及び調光薄膜)
図4及び図5に示すように、電解質膜10と同一平面状形を有する空気極14は、酸素拡散膜15及びカソード極16を有し、カソード極16で電解質膜10の他方の面10bに接している。調光薄膜11及び空気極14は、電解質膜10を挟んで相対している。空気極14が有する酸素拡散膜15は、例えばカーボンクロス、カーボンペーパー等の炭素繊維、または多孔質樹脂、多孔質セラミック若しくは多孔質金属(発泡金属)等で構成され、厚さが例えば0.1mmないし50mmであり、またカソード極16は、例えば、LSM(ランタンストロンチウムマンガナイト)やLSC(ランタンストロンチウムコバルタイト)等で構成される。空気極14は、電解質膜10とともに燃料電池の膜電極接合体の一部を構成するものでもよいし、検査時に電解質膜10に接合する検査専用のものでもよい。
【0023】
(空気極と調光薄膜の間の電気回路)
図4及び図6に示すように、電源回路17の正電圧電極17pは調光薄膜11の反応膜13に接続され、負電圧電極17nは空気極14のカソード極16に接続されている。すなわち電源回路17は、反応膜13から電子を取り出してカソード極16へと移動させる電気回路を形成するとともに、カソード極16を反応膜13に対し負電位にバイアスする(反応膜13とカソード極16間に電界を生じさせる)。なお電源回路17と、調光薄膜11もしくは反応膜13との間に適宜スイッチを設けてもよい。
【0024】
(酸素ガスを供給する空間)
図6に示すように、空気極14及び調光薄膜11を接合した電解質膜10を容器20に収容する。第1の空間21と第2の空間22とは、空気極14及び調光薄膜11を接合した電解質膜10で遮られている。先ず、実施例1と同様に、調光薄膜11の反応膜13を水素化状態に維持しておく。容器20の第1の空間21には、容器20の酸素ガス供給口21aから酸素ガスOが供給される。電解質膜10に酸素イオン伝導性を生じさせるため、図示しない加熱手段(例えば赤外線ヒータ)を容器20内に配置して、電解質膜10を加熱する。又は、酸素ガスあるいは不活性ガスを加熱したうえで容器20に供給して、電解質膜10を加熱する。加熱温度は、例えば電解質膜10を燃料電池に使用した場合のいわゆる発電開始温度(例えば摂氏800ないし1000度程度)であるが、発電開始温度以下であっても、酸素イオンが電解質膜10を透過できる温度であればよい。
【0025】
ここで、調光薄膜11の水素化、第1の空間21への酸素ガスOの供給、および電解質膜10の加熱の時間的前後関係は、任意である。例えば調光薄膜11を水素化し、さらに電解質膜10を加熱したのち、第1の空間21への酸素ガスOを供給してもよい。あるいは電解質膜10を加熱したのち、調光薄膜11を水素化し、第1の空間21への酸素ガスOを供給してもよい。要するに、酸素イオンO−が電解質膜10を透過して、水素化された調光薄膜11を脱水素化することができればよい。
【0026】
(電解質膜の酸素イオン伝導性の検査)
図7に示すように、第1の空間21に供給された酸素ガスOは、空気極14の酸素拡散膜15で拡散されカソード極16に到達する。カソード極16には、電源回路17から電子eが供給されているから(矢印A)、酸素ガスOは電子eを獲得して酸素イオンO−になる。酸素イオンO−は、電源回路17の負電圧による電気的斥力と、カソード極16に対し正電位にバイアスさた反応膜13の電気的引力とによって、電解質膜10を透過して触媒膜12に到達し(矢印C)、さらに電解質膜10と触媒膜12との界面近傍において、電子eを失って一旦酸素ガスOとなる。こうして酸素イオンO−によって調光薄膜11へ運ばれた電子eは、反応膜13に電気的に接続された電源回路17の正電圧電極17pへと流入する一方(矢印B)、酸素ガスOは、触媒膜12の作用で反応膜13と反応して(酸素分子Oとなって)、反応膜13を可逆的に脱水素化する。
【0027】
電解質膜10の酸素イオン伝導性が如何なる領域においても均一であれば、電解質膜10の一方の面10aの如何なる領域においても、触媒膜12へ到達する酸素イオンO−の量が等しくなる。ここで調光薄膜11の反射率は、電解質膜10を透過した酸素イオンO−の多寡に応じて迅速かつ可逆的に変化するから、電解質膜10の酸素イオン伝導性が均一であれば、調光薄膜11の反射率が均一かつ迅速に変化する。すなわち調光薄膜11を目視等したとき、調光薄膜11の表面11aの全領域において、反射率が等しく変化したときには、電解質膜10における酸素イオン伝導性が電解質膜10の如何なる領域においても均一であることを直接的に検査したことになる。
【0028】
電解質膜10の酸素イオン伝導性が不均一であるときには、酸素イオン伝導性が低い領域に接した調光薄膜11の領域では、反射率の変化が他の領域よりも少なくなる。すなわち調光薄膜11の反射率に目視可能な斑が生じて、酸素イオン伝導性が不均一であることを直接的かつ迅速に検査することができる。もし電解質膜10に酸素イオン伝導性の局部的欠陥部があるときには、該欠陥部領域に接する調光薄膜11の反射率が他の領域と異なるから、酸素イオン伝導性の局部的欠陥も直接的かつ迅速に検査することができる。
【0029】
ところで、調光薄膜11と電解質膜10の一方の面10aとの接合は、両膜の間に間隙が全く生じない完全な密着状態を意味するものではない。なぜならば、両膜を接合するときに僅かな間隙が生じたとしても、電解質膜10内を透過した酸素イオンO−は、反応膜13とカソード極16間に生じた電界の作用で、調光薄膜11に向け直進するからである。同様にカソード極16と電解質膜10の間に僅かな間隙が生じていても、カソード極16で生じた酸素イオンO−は、電解質膜10に向け直進するから、カソード極16と電解質膜10の他方の面10bとの接合も完全な密着状態である必要はないのである。また水素極14が電解質膜10とともに燃料電池の膜電極接合体の一部を形成するものであれば、電解質膜10に水素極14を接合した状態において、膜電極接合体の酸素イオン伝導性を検査することができる。
【実施例3】
【0030】
実施例3は、電解質膜の欠陥部と酸素イオン伝導性を検査する方法および装置の一例である。ここで図8は、該検査装置の概略構成例を示す図である。なお実施例1、2と同様の機能を有する構成要素には、同一の符号を附してその説明を省略する。
検査装置30は、図4および5に示す電解質膜10を検査対象とするものであり、図8に示すように、第1の空間(空気極側の空間)21と第2の空間22を形成する容器20、電源回路17、電解質膜10を加熱して酸素イオン伝導性を生じさせるヒータHt、スイッチSを有している。ヒータHtは、第1の空間へ供給される酸素ガスOを加熱することで電解質膜10を加熱する。検査装置30は、スイッチSがオフのときに、実施例1の手順で電解質膜の欠陥部の検査を行うことができ、またスイッチSがオンのときに、実施例2の手順で電解質膜の酸素イオン伝導性の検査を行うことができる。欠陥部検査は、図1(b)および図3において、さらに電解質膜の他方の面10bに空気極が接合された状態で行われる(欠陥部があるときには、酸素ガスOは、空気極を透過したのち欠陥部を通じて電解質膜の一方の面へと漏洩する)。したがって、第1の空間21へ供給する酸素ガスOをポンプ(気圧調整手段)26で加圧することが望ましい。またイオン伝導性検査においても、ポンプ26の加圧で酸素ガスOが空気極14を通過しやすくなる。図8ではポンプ26がヒータHtに酸素ガスOを加圧供給するように構成されているが、気圧調整手段は、第1の空間21の気圧を第2の空間22の気圧よりも高く維持できれば、その構成を問わない。
【0031】
実施例3では、欠陥部検査とイオン伝導性検査は、いずれの検査が先行してもよいが、欠陥部検査に合格した電解質膜10にイオン伝導性検査を実施することが好ましい。何故ならば、欠陥部を有さない電解質膜10は、欠陥部検査で反応膜13が脱水素化しないため、欠陥部検査後ただちにイオン伝導性検査を実施できるからである。もし酸素イオン伝導性検査を先行させるときには、酸素イオン伝導性検査を実施したことで電解質膜10の反応膜13が脱水素化するから、欠陥部検査に先立ち、第1の空間21への酸素ガスOの供給を停止し、第2の空間に水素ガスHを供給して、電解質膜10の反応膜13を水素化しておけばよい。
【0032】
なお本発明は、上述した各実施例に限定されるものでもなく、その趣旨を逸脱しない範囲において、適宜変形して実施できる。たとえば電解質膜は、各実施例のような平板形状に限定されず他の平面形状であってもよい。また円柱状の電解質膜であっても、円柱の外周面に調光薄膜を接合等し、円柱の内周面側の空間に酸素ガスを供給するなどして、調光薄膜の反射率変化から電解質膜の欠陥部を検査することができる。また目視に代えて、テレビジョンカメラなどで調光薄膜の反射率を電気信号に変換すれば、映像処理装置で反射率の変化を検出して、酸素イオン伝導性電解質膜を迅速に検査することができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】(a)は本発明の検査方法によって、電解質膜のピンホール等の欠陥部を検査するために、検査対象となる電解質膜に調光薄膜を接合した例を示す図であり、(b)は電解質膜における酸素ガス漏洩の例を示す図である。
【図2】図1に示す電解質膜の斜視図である。
【図3】本発明の検査方法によって、電解質膜のピンホール等の欠陥部を検査するために、電解質膜等を容器に収容するときの一構成例を示す図である。
【図4】本発明の検査方法によって、電解質膜の酸素イオン伝導性を検査するために、検査対象となる電解質膜に空気極と調光薄膜とを接合し、さらに空気極と調光薄膜の間に電源回路を接続した例を示す図である。
【図5】図4に示す電解質膜の斜視図である。
【図6】本発明の検査方法によって、電解質膜の酸素イオン伝導性を検査するために、電解質膜等を容器に収容するときの一構成例を示す図である。
【図7】電解質膜の酸素イオン伝導性を模式的に説明する図である。
【図8】電解質膜の欠陥部と酸素イオン伝導性を検査する装置一構成例を説明するための図である。
【符号の説明】
【0034】
10 電解質膜
10a 電解質膜の一方の面
10b 電解質膜の他方の面
10c クラック(欠陥部)
11 調光薄膜
11c 電解質膜の欠陥部に接する調光薄膜の部分
12 触媒膜
13 反応膜
14 空気極
15 酸素拡散膜
16 カソード極
17 電源回路(電気回路)
17p 電源回路の正電圧電極
17n 電源回路の負電圧電極
21 第1の空間(電解質膜の他方の面側の空間、空気極側の空間)
22 第2の空間(調光薄膜側の空間)
26 ポンプ(気圧調整手段)
30 検査装置
Ht ヒータ
O 酸素分子
O− 酸素イオン
酸素ガス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
イオン伝導性電解質膜の検査方法であって、
前記電解質膜の一方の面に調光薄膜を接合し、
前記調光薄膜を水素化したのち、
酸素ガスを前記電解質膜の他方の面側の空間に供給して、
前記電解質膜にガスの漏洩を生じさせる欠陥部があるときには、前記欠陥部を通じて前記酸素ガスを前記電解質膜の他方の面から前記電解質膜の一方の面へと漏洩させて、
漏洩した前記酸素ガスで前記調光薄膜を脱水素化して、
前記脱水素化で生じる前記調光薄膜の光学的反射率の変化によって、前記電解質膜の前記欠陥部の有無を検査することを特徴とするイオン伝導性電解質膜の検査方法。
【請求項2】
前記調光薄膜は触媒層と反応層を有し、
前記電解質膜と接する前記触媒層が、前記電解質膜を透過した酸素ガスで前記反応層を脱水素化することを特徴とする請求項1に記載のイオン伝導性電解質膜の検査方法。
【請求項3】
イオン伝導性電解質膜の検査方法であって、
前記電解質膜の一方の面に調光薄膜を、前記電解質膜の他方の面に空気極を、それぞれ接合し、前記調光薄膜と前記空気極との間に電気回路を接続するとともに、前記調光薄膜を水素化したのち、
前記電解質膜を加熱して酸素イオン伝導性を生じさせるとともに、酸素ガスを前記空気極側の空間に供給して前記酸素ガスを前記空気極によってイオン化し、
前記イオン化で生じた電子を前記電気回路経由で前記空気極から前記調光薄膜に供給するとともに、前記イオン化で生じた酸素イオンを前記空気極から前記電解質膜を透過させて前記調光薄膜に供給し、
前記調光薄膜に到達した前記酸素イオンで前記調光薄膜を脱水素化して、
前記脱水素化で生じる前記調光薄膜の光学的反射率の変化の均一性によって、前記電解質膜の酸素イオン伝導性の均一性を検査することを特徴とするイオン伝導性電解質膜の検査方法。
【請求項4】
イオン伝導性電解質膜の検査方法であって、
前記電解質膜の一方の面に調光薄膜を、前記電解質膜の他方の面に空気極を、それぞれ接合し、前記調光薄膜と前記空気極との間にスイッチを介して電気回路を接続し、
前記調光薄膜を水素化したのち、前記スイッチがオフの状態において酸素ガスを前記空気極側の空間に供給して、前記電解質膜にガスの漏洩を生じさせる欠陥部があるときには、前記欠陥部を通じて前記酸素ガスを前記電解質膜の他方の面から前記電解質膜の一方の面へと漏洩させて、漏洩した前記酸素ガスで前記調光薄膜を脱水素化して、前記脱水素化で生じる前記調光薄膜の光学的反射率の変化によって、前記電解質膜の前記欠陥部の有無を検査する工程と、
前記調光薄膜を水素化したのち、前記スイッチがオンの状態において前記電解質膜を加熱して酸素イオン伝導性を生じさせるとともに、酸素ガスを前記空気極側の空間に供給して前記酸素ガスを前記空気極によってイオン化し、前記イオン化で生じた電子を前記電気回路経由で前記空気極から前記調光薄膜に供給するとともに、前記イオン化で生じた酸素イオンを前記空気極から前記電解質膜を透過させて前記調光薄膜に供給し、前記調光薄膜に到達した前記酸素イオンで前記調光薄膜を脱水素化して、前記脱水素化で生じる前記調光薄膜の光学的反射率の変化の均一性によって、前記電解質膜の酸素イオン伝導性の均一性を検査する工程を有することを特徴とするイオン伝導性電解質膜の検査方法。
【請求項5】
前記電気回路が電源回路であり、前記空気極が前記電源回路の負電圧電極に電気的に接続され、前記調光薄膜が前記電源回路の正電圧電極に電気的に接続されることを特徴とする請求項3または4に記載のイオン伝導性電解質膜の検査方法。
【請求項6】
前記調光薄膜は触媒層と反応層を有し、
前記反応層が前記電源回路の正電圧電極に電気的に接続され、
前記電解質膜と接する前記触媒層が、前記電解質膜を透過した酸素イオンで前記反応層を脱水素化することを特徴とする請求項5に記載のイオン伝導性電解質膜の検査方法。
【請求項7】
前記空気極は酸素拡散膜とカソード極を有し、前記カソード極が前記電源回路の負電圧電極に電気的に接続されるとともに前記電解質膜と接することを特徴とする請求項5に記載のイオン伝導性電解質膜の検査方法。
【請求項8】
前記反応膜はマグネシウム・ニッケル合金、マグネシウム・チタン合金、マグネシウム・ニオブ合金、マグネシウム・バナジウム合金もしくはマグネシウムで形成された反応膜であり、前記触媒膜はパラジウムもしくは白金で形成された触媒膜であることを特徴とする請求項2または6に記載のイオン伝導性電解質膜の検査方法。
【請求項9】
前記電解質膜の他方の面側もしくは前記空気極側の空間における気圧が、前記調光薄膜側の空間における気圧よりも高いことを特徴とする請求項1、3または4のいずれかに記載のイオン伝導性電解質膜の検査方法。
【請求項10】
一方の面に接合された調光薄膜と、他方の面に接合された空気極を有するイオン伝導性電解質膜の検査装置であって、
前記空気極側の空間および前記調光薄膜側の空間を形成する容器と、
前記調光薄膜と前記空気極との間に、スイッチを介して接続される電気回路と、
前記電解質膜を加熱して酸素イオン伝導性を生じさせるヒータを有し、
前記調光薄膜側の空間に水素ガスを供給して、前記調光薄膜を水素化しておき、
前記スイッチがオフの状態において前記空気極側の空間に酸素ガスを供給し、前記欠陥部近傍に接した前記調光薄膜の脱水素化で生じる前記調光薄膜の光学的反射率の変化によって、前記欠陥部の有無を検査することができ、
前記ヒータで前記電解質膜を加熱して酸素イオン伝導性を生じさせ、前記スイッチをオンにするとともに前記空気極側の空間に酸素ガスを供給し、前記調光薄膜の脱水素化で生じる前記調光薄膜の光学的反射率の変化の均一性によって、前記電解質膜の酸素イオン伝導性の均一性を検査することができることを特徴とするイオン伝導性電解質膜の検査装置。
【請求項11】
前記電気回路が電源回路であり、前記電源回路の負電圧電極を前記空気極に電気的に接続し、前記電源回路の正電圧電極を前記調光薄膜に電気的に接続することを特徴とする請求項10に記載のイオン伝導性電解質膜の検査装置。
【請求項12】
請求項10または11に記載のイオン伝導性電解質膜の検査装置において、さらに前記空気極側の空間における気圧を前記調光薄膜側の空間における気圧よりも高く維持する気圧調整手段を備えたことを特徴とするイオン伝導性電解質膜の検査装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−64625(P2009−64625A)
【公開日】平成21年3月26日(2009.3.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−230134(P2007−230134)
【出願日】平成19年9月5日(2007.9.5)
【出願人】(391064005)株式会社アツミテック (39)
【Fターム(参考)】