説明

イオン性化合物

【課題】電気化学安定性等の優れた電解コンデンサ用電解質を提供する。
【解決手段】式(1)


(式中、Xは、B、C等の元素、M及びMは連結基、Qは1価の元素等を表す。)で表されるアニオンと、式(2)


(式中、Lは、C、Si等の元素、Rは1価の元素等である。)で表されるカチオンとを有する電解質。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イオン性化合物に関する。より詳しくは、電気化学デバイスを構成するイオン伝導体の材料として好適なイオン伝導性材料、及び、該イオン伝導性材料を用いてなるリチウム二次電池、電解コンデンサ又は電気二重層キャパシタ等に用いるイオン性化合物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
イオン性化合物は、カチオンとアニオンにより構成される化合物よりなるイオン性物質を必須とするものであり、様々な用途に広く用いられている。このようなイオン性化合物の中でも、イオン伝導性を有するものは、イオン伝導性材料として、イオン伝導による各種の電池等において必須であるイオン伝導体の構成材料等に好適に用いられている。イオン伝導体の構成材料とは、イオン伝導体を構成する電解液において、電解質及び/又は溶媒として機能することができるものであり、また、固体電解質として機能することができるものである。その用途としては、例えば、一次電池、リチウム(イオン)二次電池や燃料電池等の充電及び放電機構を有する電池の他、電解コンデンサ、電気二重層キャパシタ、太陽電池・エレクトロクロミック表示素子等の電気化学デバイスが挙げられる。これらでは、一般に、一対の電極とその間を満たすイオン伝導体とから電池が構成されることになる。
【0003】
イオン伝導体としては、通常、γ−ブチロラクトン、N,N−ジメチルホルムアミド、プロピレンカーボネート、テトラヒドロフラン等の有機溶媒に、過塩素酸リチウム、LiPF、LiBF、ホウフッ化テトラエチルアンモニウム、フタル酸テトラメチルアンモニウム等の電解質を溶解した電解液が使用されており、電解質が溶解することによって、カチオンとアニオンとに解離して電解液中をイオン伝導することとなる。また、固体状態でイオン伝導することができる固体電解質もイオン伝導体として使用されている。
【0004】
一般的なリチウム(イオン)二次電池の一形態の断面模式図を図1に示す。このようなリチウム(イオン)二次電池においては、活性物質から形成される正極と負極とを有し、LiPF等のリチウム塩を溶質として溶解した有機溶媒により構成される電解液により、正極と負極との間にイオン伝導体が形成されている。この場合、充電時には、負極においてCLi→6C+Li+eの反応が起こり、負極表面で発生した電子(e)は、電解液中をイオン伝導して正極表面に移動し、正極表面では、CoO+Li+e→LiCoOの反応が起こり、負極から正極へ電流が流れることになる。放電時には、充電時の逆反応が起こり、正極から負極へ電流が流れることになる。
【0005】
しかしながら、このような電気化学テバイスを構成する電解液においては、有機溶媒が揮発しやすく引火点が低いという点や、漏液が発生し易く、長期間の信頼性に欠けるという点や、低温で電解液が凝固してしまい、電解液としての性能を発揮できないという点があることから、これらを改善することができる材料が求められていた。
【0006】
そこで、全体の電子的中性を保証するために充分な数で、少なくとも1つのカチオン部分Mに結合した少なくとも1つのアニオン部分を含むイオン性化合物であって、Mがヒドロキソニウム、ニトロソニウム NO、アンモニウム NH、原子価mを有する金属カチオン、原子価mを有する有機カチオン又は原子価mを有する有機金属カチオンであり、アニオン性部分が、式R−Y−C(C≡N)又はZ−C(C≡N)のうちの1つに相当するイオン性化合物は、イオン伝導性材料等に用いることができることが開示されている(例えば、特許文献1参照。)。アニオン部分は、五員環状であるか又はテトラアザペンタレンから誘導されたものであり、実施例においては、アニオン部分としてトリアゾール、イミダゾール、シクロペンタジエンの誘導体が記載されている。具体的には、トリシアノメチドが開示されている。しかしながら、優れた基本性能を発揮する電解液を構成する好適な材料とするための工夫の余地があった。
また、有機極性溶媒としてのγ−ブチロラクトンに、溶質としてペンタアルキルグアニジン類のカルボン酸塩を溶解してなる電解コンデンサ駆動用電解液が開示されている(例えば、特許文献2参照。)。しかしながら、三級アンモニウム塩系電解液は、四級アンモニウム塩系電解液に比較して、電気伝導率が充分ではないことから、電解質としての信頼性が高く、さらに電気伝導率の高い電解液を開発する工夫の余地があった。
【特許文献1】特表2000−508676号公報(第2−13、39−67頁)
【特許文献2】特開平9−97749号公報(第1−2頁)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記現状に鑑みてなされたものであり、電気化学安定性等の優れた基本性能を発揮することができ、様々な用途に好適に使用することが可能なイオン性化合物、電気化学デバイスを構成するイオン伝導体の材料として好適な電解質、及び、該電解質を用いてなるリチウム二次電池、電解コンデンサ又は電気二重層キャパシタ等を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は、イオン性化合物について種々検討したところ、カチオンとアニオンにより構成されるイオン性化合物中で、イオン伝導性を有するものは、イオン伝導性材料として種々の用途に好適に用いられることに着目した。カチオンとして、水素原子を有するものとすると、カチオンが水酸化物イオンと反応して水を生成することができることに起因して、例えば、水酸化物イオン濃度が高くなる環境であっても、強アルカリになるおそれがないことから、ゴム等のアルカリ環境下で劣化しやすいものを用いることができ、種々の用途に好適に用いることができることを見いだし、上記課題をみごとに解決することができることに想到した。また、このようなイオン性化合物及び電解質材料は、電気化学デバイスの材料等の様々な用途に好適に適用することができることも見いだし、本発明に到達したものである。
【0009】
従来の電解コンデンサ用途においては、γ−ブチロラクトンを主体とする溶媒に、四級アンモニウム塩を溶質として用いた電気伝導率の高い電解液が使用されてきた。このような四級アンモニウム塩系電解液を用いると、その塩基成分が陰極部から漏れることがあることから、液漏れが生じない三級アンモニウム塩系電解液を用いることが検討されている。本発明では、イオン性化合物のカチオンを特定の3級塩構造のものとすることで、四級アンモニウム塩系電解液に比較して、電気伝導率が充分ではないといった従来技術の三級アンモニウム塩系電解液の有する問題を解決することができ、長期間の信頼性と充分な電気伝導率とが両立でき、充電及び放電機構を有する電池や電気化学デバイス等の種々の用途に好適に用いることができることを見いだした。また、イオン性化合物を含有する電解質材料もまた、電気化学デバイスの材料等の種々の用途に用いることができ、性能や耐久性や品質を充分に優れたものとできる電解質等に適用することができることも見いだし、本発明に到達したものである。
すなわち本発明は、下記一般式(1);
【0010】
【化1】

【0011】
(式中、Xは、B、C、N、O、Al、Si、P、As及びSeからなる群より選ばれる少なくとも1種類の元素であり、M及びMは、同一又は異なって、連結基を表し、複数ある場合は、同一又は異なっていてもよい。Qは、1価の元素又は有機基を表す。aは、1以上の整数であり、b、c、d及びeは、0以上の整数である。)で表されるアニオンと、下記一般式(2);
【0012】
【化2】

【0013】
(式中、Lは、C、Si、N、P、S及びOからなる群より選ばれる1種類の元素を表す。Rは、同一又は異なって、1価の元素、官能基又は有機基であり、互いに結合した元素となっていてもよい。sは、2、3又は4の整数であり、Lの元素の価数によって決まる値である。)で表されるカチオンとを有するイオン性化合物でもある。なお、本発明において、イオン性化合物は、上記一般式(1)で表されるアニオンと、上記一般式(2)で表されるカチオンとを有するものであるが、上記カチオンとアニオン以外のものを含むイオン性化合物含有組成物(イオン性組成物)の形態としてもよい。本明細書中において、「イオン性化合物」は、「イオン性組成物」を意味することもある。
以下に本発明を詳述する。
【0014】
上記イオン性化合物は、上述した一般式(1)で表されるアニオンを必須とすることにより、イオン伝導度により優れるとともに、電極等への腐食性が充分に抑制され、経時的に安定な材料とすることが可能となる。
上記一般式(1)において、Xは、B、C、N、O、Al、Si、P、As及びSeからなる群より選択される少なくとも1種の元素を表すが、C、N又はOが好ましい。より好ましくは、C又はNである。上記Xとして更に好ましくは、後述するようにCである。M及びMは、同一又は異なって、連結基を表すが、それぞれ独立に、−S−、−O−、−SO−及び−CO−からなる群より選択される少なくとも1種の連結基であることが好適である。より好ましくは、−SO−、−CO−である。また、Qは、1価の元素又は有機基を表すが、水素元素;ハロゲン元素;アルキル基、アリル基、アシル基、その置換誘導体;C(2p+1−q)、OC(2p+1−q)、SO(2p+1−q)、CO(2p+1−q)、SO5−r、NO(式中、1≦p≦6、0<q≦13、0<r≦5である)からなる群より選ばれる少なくとも1種の1価の元素又は有機基であることが好適である。より好ましくは、フッ素元素、塩素元素、C(2p+1−q)、SO(2p+1−q)である。更に、aは、1以上の整数であり、b、c、d及びeは、0以上の整数であるが、a、d及びeは、元素Xの価数によって決まることになり、例えば、Xが酸素元素の場合、a=1、d=0、e=0となり、Xが窒素元素の場合、(1)a=2、d=0、e=0、(2)a=1、d=1、e=0、又は、(3)a=1、d=0、e=1のいずれかとなる。また、b及びcは0であることが好適である。すなわち、シアノ基が直接Xに結合する形態が好ましく、この場合、M及びMで表される基を有さないことになる。
【0015】
上記一般式(1)で表されるアニオンにおいて、一般式(1)におけるXは、N又はCであることが好ましく、Cであることがより好ましい。すなわち、上記一般式(1)におけるXは、炭素元素であるイオン性化合物もまた、本発明の好ましい形態の一つである。この場合、上記一般式(1)で表されるアニオンとしては、一般式(1)においてXがCである下記一般式(4);
【0016】
【化3】

【0017】
(式中、M、M、Q、a、b、c、d及びeは、上述したとおりである。)で表されるアニオンとなる。
上記一般式(1)で表されるアニオンとしてはまた、一般式(1)においてeが0である下記一般式(5)で表されるアニオンが好ましい。より好ましくは、トリシアノメチドアニオン、ジシアノアミドアニオン、チオイソシアネートアニオン、シアノオキシアニオンであり、更に好ましくは、ジシアノアミドアニオン、トリシアノメチドアニオンであり、フッ素を含まず、電極等の耐腐食性に優れるため好ましい。特に好ましくは、トリシアノメチドアニオンである。また、下記一般式(6)や(7)で表されるもの等も好ましいアニオンである。
【0018】
【化4】

【0019】
上記イオン性化合物において、上記アニオンの存在量としては、イオン性化合物100質量%に対して、アニオンの由来となる化合物の含有量の下限値が1質量%であることが好ましい。より好ましくは、5質量%であり、更に好ましくは、10質量%である。また、上限値は99.5質量%であることが好ましい。より好ましくは、95質量%であり、更に好ましくは、90質量%である。
【0020】
上記一般式(2)において、Lは、C、Si、N、P、S及びOからなる群より選ばれる1種類の元素を表す。好ましくは、N、P、Sの元素であり、より好ましくは、Nの元素である。LがNの元素である場合、化学的、電気化学的に安定である。
【0021】
上記Rは、同一又は異なって、1価の元素、官能基又は有機基であり、互いに結合した元素となっていてもよい。上記1価の元素、官能基又は有機基としては、水素元素、フッ素元素、アミノ基、イミノ基、アミド基、エーテル基、エステル基、ヒドロキシル基、カルボキシル基、カルバモイル基、シアノ基、スルホン基、スルフィド基、ビニル基、炭素数1〜18の炭化水素基、炭素数1〜18の炭化フッ素基等が好ましい。上記炭素数1〜18の炭化水素基、炭素数1〜18の炭化フッ素基は、直鎖、分岐鎖又は環状であってもよく、窒素元素、酸素元素、硫黄元素を含んでいてもよい。また、これらの炭素数としては、1〜18であることが好ましく、1〜8であることがより好ましい。
上記1価の元素、官能基又は有機基としてより好ましくは、水素元素、フッ素元素、シアノ基、スルホン基、炭素数1〜8の炭化水素基、酸素もしくは窒素元素を含有する炭素数1〜8の炭化水素基、炭素数1〜8の炭化フッ素基であり、更に好ましくは、炭素数1〜8の炭化水素基、酸素もしくは窒素元素を含有する炭素数1〜8の飽和炭化水素基である。また、窒素元素を含有する場合、その窒素元素は水素元素を有しない(窒素元素に水素元素が結合又は配位していない)ものが好ましい。
【0022】
上記sは、2、3又は4の整数であり、Lの元素の価数によって決まる値である。Lの元素が、C又はSiの元素の場合、sは4であり、N又はPの元素の場合、sは3であり、S又はOの元素の場合、sは2である。すなわち、上記一般式(2)で表されるカチオンとしては、下記一般式;
【0023】
【化5】

【0024】
(式中、Rは、一般式(2)と同様である。)で表されるものが好ましい。Rは、上述のものであればいずれも好適に用いることができるが、水素元素以外であることが好ましい。
上記カチオンとしては、上記一般式(2)を満たすものであれば特に限定されないが、中でも、Lが窒素元素である形態、オニウムカチオンである形態がより好ましい。
すなわち、下記一般式(1);
【0025】
【化6】

【0026】
(式中、Xは、B、C、N、O、Al、Si、P、As及びSeからなる群より選ばれる少なくとも1種類の元素であり、M及びMは、同一又は異なって、連結基を表し、複数ある場合は、同一又は異なっていてもよい。Qは、1価の元素又は有機基を表す。aは、1以上の整数であり、b、c、d及びeは、0以上の整数である。)で表されるアニオンと、下記一般式(3);
【0027】
【化7】

【0028】
(式中、R、R及びRは、同一又は異なって、水素元素又は炭素数が1〜8の炭化水素基を表す。R、R及びRのうちの少なくとも2つが炭化水素基である場合は、それらの炭化水素基は、直接結合するか、又は、O、S及びNの中から選ばれる少なくとも1種類の元素を介して結合した構造となっていてもよい。)で表されるカチオンとを有するイオン性化合物でもある。
【0029】
上述したように、上記一般式(1)におけるXは、C又はNであることが好ましい。
【0030】
上記オニウムカチオンとしては、下記(I)〜(IV)のものが好適である。なお、オニウムカチオンとは、O、N、S、P等の非金属原子又は半金属原子のカチオンを有する有機基を意味する。
(I)下記一般式;
【0031】
【化8】

【0032】
で表される8種類の複素環オニウムカチオン。
(II)下記一般式;
【0033】
【化9】

【0034】
で表される5種類の不飽和オニウムカチオン。
(III)下記一般式;
【0035】
【化10】

【0036】
で表される9種類の飽和環オニウムカチオン。
上記一般式中、R〜R14は、同一若しくは異なって、1価の元素、官能基又は有機基であり、互いに結合していてもよく、O、N、S、Pカチオン上のRは、1価の元素、官能基又は有機基であればいずれも好適に用いることができるが、水素元素以外であることが好ましい。
(IV)Rの1つ以上が水素元素で、C〜Cのアルキル基である鎖状オニウムカチオン。このようなオニウムカチオンの中でも、より好ましくは、上記一般式(2)におけるLが窒素原子であるものである。
上記Lが窒素原子であるオニウムカチオンとしては、下記一般式;
【0037】
【化11】

【0038】
(式中、R〜R14は、上記と同様である。)で表される6種類のオニウムカチオンや、トリメチルアンモニウム、トリエチルアンモニウム、トリプロピルアンモニウム、トリブチルアンモニウム、ジメチルエチルアンモニウム、ジエチルメチルアンモニウム等のアルキルアンモニウム類、テトラメチルエチレンジアミン、ジアザビシクロオクタン、ジエチレントリアミン、ヘキサエチレンテトラミン等の分子内に2個以上の第3アミンを有する化合物のアンモニウム類、グアニジウム及びそのアルキル置換体が好ましい。
【0039】
上記R〜R14の1価の元素、官能基又は有機基としては、水素元素、フッ素元素、アミノ基、イミノ基、アミド基、エーテル基、エステル基、ヒドロキシル基、カルボキシル基、カルバモイル基、シアノ基、スルホン基、スルフィド基、ビニル基、炭素数1〜18の炭化水素基、炭素数1〜18の炭化フッ素基等が好ましい。上記炭素数1〜18の炭化水素基、炭素数の1〜18の炭化フッ素基は、直鎖、分岐鎖又は環状であってもよく、窒素元素、酸素元素、硫黄元素を含んでいてもよい。また、これらの炭素数としては、1〜18であることが好ましく、1〜8であることがより好ましい。
【0040】
上記1価の元素、官能基又は有機基としてより好ましくは、水素元素、フッ素元素、シアノ基、スルホン基、炭素数1〜8の炭化水素基、酸素もしくは窒素元素を含有する炭素数1〜8の炭化水素基、炭素数1〜8の炭化フッ素基であり、更に好ましくは、炭素数1〜8の炭化水素基、酸素もしくは窒素元素を含有する炭素数1〜8の飽和炭化水素基である。また、窒素を含有する場合、その窒素元素は水素元素を有しない(窒素元素に水素元素が結合又は配位していない)ものが好ましい。
【0041】
上記イオン性化合物においては耐熱性が優れるという理由で、(1)共役二重結合を有しない窒素カチオンを必須としてなる形態や、(2)上記一般式(2)において、LがNの元素でありRの1つが水素元素であり、他が同一又は異なって窒素を含んでもよい炭素数1〜8の炭化水素であり、その窒素元素は第3アミンであることが好ましい。
【0042】
上記イオン性化合物としてはまた、本発明の作用効果が発揮される限り、上述したオニウムカチオンを必須としてなるアニオンの有機塩以外の、その他のアニオンを含有していてもよい。
上記オニウムカチオンを有する有機化合物としては、例えば、ハロゲンアニオン(フルオロアニオン、クロロアニオン、ブロモアニオン、ヨードアニオン)、4フッ化ホウ酸アニオン、6フッ化リン酸アニオン、4フッ化アルミン酸アニオン、6フッ化ヒ酸アニオン、下記一般式(8)で表されるスルホニルイミドアニオン、下記一般式(9)で表されるスルホニルメチドアニオン、有機カルボン酸(酢酸、トリフルオロ酢酸、フタル酸、マレイン酸、安息香酸等のアニオン)の他、ヘキサフルオロリン酸イオン、ヘキサフルオロヒ酸イオン、ヘキサフルオロアンチモン酸イオン、ヘキサフルオロニオブ酸イオン、ヘキサフルオロタンタル酸イオン等の含フッ素無機イオン;フタル酸水素イオン、マレイン酸水素イオン、サリチル酸イオン、安息香酸イオン、アジピン酸イオン等のカルボン酸イオン;ベンゼンスルホン酸イオン、トルエンスルホン酸イオン、ドデシルベンゼンスルホン酸イオン、トリフルオロメタンスルホン酸イオン、パーフルオロブタンスルホン酸等のスルホン酸イオン;ホウ酸イオン、リン酸イオン等の無機オキソ酸イオン;ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドイオン、ビス(ペンタフルオロエタンスルホニル)イミドイオン、トリス(トリフルオロメタンスルホニル)メチドイオン、パーフルオロアルキルフルオロボレートイオン、パーフルオロアルキルフルオロホスフェートイオン、ボロジカテコレート、ボロジグリコレート、ボロジサリチレート、ボロテトラキス(トリフルオロアセテート)、ビス(オキサラト)ボレート等の四配位ホウ酸イオン等のアニオンと、オニウムカチオンとを有する有機化合物が好適である。
【0043】
【化12】

【0044】
上記一般式中、R15、R16及びR17は、同一若しくは異なって、エーテル基を1個又は2個有してもよい炭素数1〜4のパーフルオロアルキル基を表す。
【0045】
上記イオン性化合物において、上記オニウムカチオンの存在量としては、上記アニオン1モルに対して、下限値が0.5モルであることが好ましい。より好ましくは、0.8モルである。また、上限値は2.0モルであることが好ましい。より好ましくは、1.2モルである。
【0046】
上記イオン性化合物としてはまた、更にアルカリ金属塩及び/又はアルカリ土類金属塩を含んでなるものであってもよい。このようなアルカリ金属塩及び/又はアルカリ土類金属塩を含んでなるイオン性化合物は、アルカリ金属塩及び/又はアルカリ土類金属塩を電解質として含有するものとなり、電気化学デバイスのイオン伝導体の材料としてより好適なものとなる。アルカリ金属塩としては、リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩が好適であり、アルカリ土類金属塩としては、カルシウム塩、マグネシウム塩が好適である。より好ましくは、リチウム塩である。
【0047】
上記アルカリ金属塩及び/又はアルカリ土類金属塩は、上記アニオンを必須とするイオン性物質であってもよく、それ以外の化合物であってもよい。
上記アニオンを必須とするイオン性物質の場合には、上記一般式(1)で表されるアニオンのアルカリ金属塩及び/又はアルカリ土類金属塩であることが好ましい。例えば、リチウム塩の形態として用いることができる。その他のアルカリ金属塩及び/又はアルカリ土類金属塩としては、例えば、リチウム塩を用いることができ、このようなリチウム塩としては、LiC(CN)、LiSi(CN)、LiB(CN)、LiAl(CN)、LiP(CN)、LiP(CN)、LiAs(CN)、LiOCN、LiSCN等が好適である。
【0048】
上記イオン性物質以外の化合物である場合には、電解液中や高分子固体電解質中での解離定数が大きい電解質塩であることが好ましく、例えば、LiCFSO、NaCFSO、KCFSO等のトリフロロメタンスルホン酸のアルカリ金属塩やアルカリ土類金属塩;LiN(CFSO、LiN(CFCFSO等のパーフロロアルカンスルホン酸イミドのアルカリ金属塩やアルカリ土類金属塩;LiPF、NaPF、KPF等のヘキサフロロリン酸のアルカリ金属塩やアルカリ土類金属塩;LiClO、NaClO等の過塩素酸アルカリ金属塩やアルカリ土類金属塩;LiBF、NaBF等のテトラフロロ硼酸塩;LiAsF、LiI、NaI、NaAsF、KI等のアルカリ金属塩が好適である。これらの中でも、溶解性やイオン伝導度の点から、LiPF、LiBF、LiAsF、パーフロロアルカンスルホン酸イミドのアルカリ金属塩やアルカリ土類金属塩が好ましい。
【0049】
上記イオン性化合物としてはまた、重合体を含むことにより、固体化して高分子固体電解質として好適に用いることができるものとなる。また、溶媒を含むことにより、イオン伝導度がより向上することになる。
上記重合体としては、例えば、ポリアクリロニトリル、ポリ(メタ)アクリル酸エステル類、ポリ塩化ビニル、ポリフッ化ビニリデン等のポリビニル系重合体;ポリオキシメチレン:ポリエチレンオキサイド、ポリプロピレンオキサイド等のポリエーテル系重合体;ナイロン6、ナイロン66等のポリアミド系重合体;ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル系重合体;ポリスチレン、ポリフォスファゼン類、ポリシロキサン、ポリシラン、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリカーボネート系重合体、アイオネン系重合体の1種又は2種以上が好適である。
上記イオン性化合物を高分子固体電解質とする場合、重合体の存在量としては、イオン性化合物100質量%に対して、下限値が0.1質量%、上限値が5000質量%であることが好ましい。0.1質量%未満であると、固体化の効果を充分に得られないおそれがあり、5000質量%を超えると、イオン伝導度が低下するおそれがある。より好ましい下限値は1質量%、上限値は1000質量%である。
【0050】
上記溶媒としては、イオン伝導度を向上することが可能なものであればよく、例えば、水や有機溶媒等が好適である。上記有機溶媒としては、上述したイオン性化合物における構成要素との相溶性が良好であって、誘電率が大きく、電解質塩の溶解性が高いうえに、沸点が60℃以上であり、電気化学的安定範囲が広い化合物が好適である。より好ましくは、含有水分量が低い有機溶媒(非水系溶媒)である。このような有機溶媒としては、1,2−ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、クラウンエーテル、トリエチレングリコールメチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエ−テル、ジオキサン等のエーテル類;エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ジエチルカーボネート、メチルエチルカーボネート等のカーボネート類;炭酸ジメチル、炭酸エチルメチル、炭酸ジエチル、炭酸ジフェニル、炭酸メチルフェニル等の鎖状炭酸エステル類;炭酸エチレン、炭酸プロプレン、2,3−ジメチル炭酸エチレン、炭酸ブチレン、炭酸ビニレン、2−ビニル炭酸エチレン等の環状炭酸エステル類;蟻酸メチル、酢酸メチル、プロピオン酸、プロピオン酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、酢酸アミル等の脂肪族カルボン酸エステル類;安息香酸メチル、安息香酸エチル等の芳香族カルボン酸エステル類;γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン、δ−バレロラクトン等のカルボン酸エステル類;リン酸トリメチル、リン酸エチルジメチル、リン酸ジエチルメチル、リン酸トリエチル等のリン酸エステル類;アセトニトリル、プロピオニトリル、メトキシプロピオニトリル、グルタロニトリル、アジポニトリル、2−メチルグルタロニトリル等のニトリル類;N−メチルホルムアミド、N−エチルホルムアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリジノン、N−メチルピロリドン、N−ビニルピロリドン等のアミド類;ジメチルスルホン、エチルメチルスルホン、ジエチルスルホン、スルホラン、3−メチルスルホラン、2,4−ジメチルスルホラン等の硫黄化合物類:エチレングリコール、プロピレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル等のアルコール類;エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、1,4−ジオキサン、1,3−ジオキソラン、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、2,6−ジメチルテトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン等のエーテル類;ジメチルスルホキシド、メチルエチルスルホキシド、ジエチルスルホキシド等のスルホキシド類;ベンゾニトリル、トルニトリル等の芳香族ニトリル類;ニトロメタン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、1,3−ジメチル−3,4,5,6−テトラヒドロ−2(1H)−ピリミジノン、3−メチル−2−オキサゾリジノン等を挙げることができ、これらの1種又は2種以上が好適である。これらの中でも、炭酸エステル類、脂肪族エステル類、エーテル類がより好ましく、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等のカーボネート類が更に好ましく、γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン等の環状エステル類が最も好ましい。
【0051】
上記溶媒の含有量としては、イオン性化合物含有組成物100質量%中、1〜99質量%であることが好ましい。すなわち、溶媒の含有量は、イオン性化合物と溶媒との質量の総和を100質量%としたときに、溶媒の含有量が1〜99質量%であることが好ましい。上記溶媒の含有量が1質量%未満であると、イオン伝導度が充分には向上しないこととなり、99質量%を超えると、溶媒の揮発等で安定性が充分には向上しないこととなる。下限値としては、好ましくは、1.5質量%であり、より好ましくは、20質量%であり、更に好ましくは、50質量%である。上限値としては、好ましくは、85質量%であり、より好ましくは、75質量%であり、更に好ましくは、65質量%である。範囲としては、溶媒量50〜85質量%が好ましい。
上記イオン性化合物は、揮発分が低減されものであり、かつ、例えば−55℃の低温においても凍ることがなく、イオン伝導度に優れるものであり、例えば、このようなイオン性化合物を電解液として用いた場合に優れた電気特性を発揮することができる。
【0052】
上記イオン性化合物にはまた、上述した塩や溶媒の他にも種々の添加剤を含有させてもよい。添加剤を加える目的は多岐にわたり、電気伝導率の向上、熱安定性の向上、水和や溶解による電極劣化の抑制、ガス発生の抑制、耐電圧の向上、濡れ性の改善等を挙げることができる。このような添加剤としては、例えば、p−ニトロフェノール、m−ニトロアセトフェノン、p−ニトロ安息香酸等のニトロ化合物、リン酸ジブチル、リン酸モノブチル、リン酸ジオクチル、オクチルホスホン酸モノオクチル、リン酸、亜リン酸、次亜リン酸等のリン化合物、ホウ酸又はホウ酸と多価アルコール(エチレングリコール、グリセリン、マンニトール、ポリビニルアルコール等)や多糖類との錯化合物等のホウ素化合物、ニトロソ化合物、尿素化合物、ヒ素化合物、チタン化合物、ケイ酸化合物、アルミン酸化合物、硝酸及び亜硝酸化合物、2−ヒドロキシ−N−メチル安息香酸、ジ(トリ)ヒドロキシ安息香酸等の安息香酸類、グルコン酸、重クロム酸、ソルビン酸、ジカルボン酸、EDTA、フルオロカルボン酸、ピクリン酸、スベリン酸、アジピン酸、セバシン酸、ヘテロポリ酸(タングステン酸、モリブデン酸)、ゲンチシン酸、ボロジゲンチシン酸、サリチル酸、N−アミノサリチル酸、ボロジプロトカクテ酸、ボロジピロカテコール、バモン酸、ボン酸、ボロジレゾルシル酸、レゾルシル酸、ボロジプロトカクエル酸、グルタル酸、ジチオカルバミン酸等の酸類、そのエステル、そのアミド及びその塩、シランカップリング剤、シリカ、アミノシリケート等のケイ素化合物、トリエチルアミン、ヘキサメチレンテトラミン等のアミン化合物、L−アミノ酸類、ベンゾール、多価フェノール、8−オキシキノリン、ハイドロキノン、N−メチルピロカテコール、キノリンおよびチオアニソール、チオクレゾール、チオ安息香酸等の硫黄化合物、ソルビトール、L−ヒスチジン等の1種又は2種以上を使用することができる。
上記添加剤の含有量は特に限定されないが、例えば、イオン性化合物100質量%に対して、0.1〜20質量%の範囲であることが好ましい。より好ましくは、0.5〜10質量%の範囲である。
【0053】
上記イオン性化合物において、不純物含有量としては、イオン性化合物100質量%中、0.1質量%(1000ppm)以下であることが好ましい。0.1質量%を超えると、充分な電気化学安定性を得ることができないおそれがある。より好ましくは、0.05質量%以下であり、更に好ましくは、0.01質量%以下である。
なお、上記不純物とは、水を含まないものであり、例えば、イオン性化合物を製造する際や輸送する際に混入するものが挙げられる。具体的には、上述の一般式(1)で表されるアニオンを必須とするイオン性化合物を製造する場合を例にすると、例えば、ハロゲン化合物を用いて該イオン性化合物を誘導して得たときには、ハロゲン化合物が不純物として混入する可能性があり、また、銀塩を用いて該イオン性化合物を誘導して得たときには、銀塩が不純物として混入する可能性がある。また、製造原料や副生成物等が不純物として混入する可能性もある。
本発明においては、イオン性化合物における不純物含量を上記のように設定することにより、例えば、ハロゲン化合物が電気化学デバイスにおける電極を被毒して性能を低下させることを充分に抑制したり、銀イオンや鉄イオン等がイオン伝導性に影響して性能を低下させることを充分に抑制したりすることが可能となる。なお、不純物含有量の測定は、下記の測定方法により行うことが好ましい。
【0054】
(不純物の測定方法)
(1)ICP(銀イオン、鉄イオン等陽イオン類測定)
機器:ICP発光分光分析装置SPS4000(セイコー電子工業社製)
方法:サンプル0.3gをイオン交換水で10倍に希釈し、その溶液を測定
(2)イオンクロマト(硝酸イオン、臭素イオン、塩素イオン、硫酸イオン等陰イオン類測定)
機器:イオンクロマトグラフシステムDX−500(日本ダイオネクス社製)
分離モード:イオン交換
検出器:電気伝導度検出器CD−20
カラム:AS4A−SC
方法:サンプル0.3gをイオン交換水で100倍に希釈し、その溶液を測定
【0055】
上記イオン性化合物において、水分含有量としては、イオン性化合物100質量%中、0.05〜10質量%であることが好ましい。0.05質量%未満であると、水分管理が困難となり、コストアップに繋がるおそれがある。また、10質量%を超えると、電気安定性を充分に発揮できないおそれがある。好ましい下限は、0.1質量%、上限は5質量%であり、より好ましい下限は0.5質量%、上限は3質量%である。
なお、水分含有量の測定は、下記の測定方法により行うことが好ましい。
(水分測定方法)
サンプル調製においては、露点−80℃以下のグローボックス中で測定サンプル0.25g、脱水アセトニトリル0.75gを混合し、グローボックス中で充分乾燥したテルモシリンジ(商品名、2.5ml)で混合溶液0.5gを採取することにより行う。その後、カールフィッシャー水分計AQ−7(商品名、平沼産業社製)にて水分測定を行う。
【0056】
上記イオン性化合物の製造方法としては特に限定されないが、一般式(1)で表されるアニオンを有する化合物からイオン性物質を誘導する工程を含んでなる製造方法が好適である。これにより、イオン性物質を溶融塩や固体電解質を構成する塩として好適な形態とすることが可能となる。このような製造方法としては、ハロゲン化物、炭酸化物を用いて一般式(1)で表されるアニオンの構造を有する化合物からイオン性物質を誘導する工程を含んでなることが好ましく、例えば、一般式(1)で表されるアニオンを有する化合物と、ハロゲン化物又は炭酸化合物とを反応させる工程を含んでなり、該ハロゲン化物又は炭酸化合物は、オニウムカチオン、又は、アルカリ金属原子、アルカリ土類金属原子、遷移金属原子及び希土類金属原子から選ばれる少なくとも1種の金属原子を必須とするカチオンを有するものであることが好適である。これらの製造原料は、それぞれ1種又は2種以上を用いることができる。
【0057】
上記製造方法としては、一般式(1)で表されるアニオンを有する化合物からイオン性物質を誘導する工程において用いられる一般式(1)で表されるアニオンを有する化合物を製造する工程を含んでもよく、この場合には、上述したような一般式(1)で表されるアニオンを有する化合物とハロゲン化物又は炭酸化物とを反応させることにより、一般式(1)で表されるアニオンを有する化合物を製造することが好ましい。これにより、イオン性物質における一般式(1)で表されるアニオンの構造をイオン性化合物に要求される性能等に応じて適宜設定することが可能となり、この場合には、一般式(1)で表されるアニオンを有する化合物を製造する工程における製造原料である該アニオンを有する化合物がもつアニオンと、イオン性物質における一般式(1)で表されるアニオンとは同一のものではないこととなる。また、3級アミン等の化合物と一般式(1)の酸型化合物とを反応させる工程も好ましい製造方法の一つである。
【0058】
上記工程において、上記一般式(1)で表されるアニオンを有する化合物からイオン性物質を誘導する工程における化学反応式の1形態を下記式に示す。
【0059】
【化13】

【0060】
上記工程において、一般式(1)で表されるアニオンを有する化合物のモル数をxとし、ハロゲン化物のモル数をyとすると、反応におけるモル比(x/y)としては、100/1〜0.1/1であることが好ましい。アニオンを有する化合物が0.1未満であると、ハロゲン化物が過剰となりすぎて効率的に生成物を得られないおそれがあり、また、イオン性化合物中にハロゲンが混入し、電極等を被毒させるおそれがある。100を超えると、アニオンを有する化合物が過剰となりすぎて更に収率の向上は期待できないおそれがあり、また、金属イオンがイオン性化合物中に混入して電気化学デバイスの性能を低下させるおそれがある。より好ましくは、10/1〜0.5/1である。
【0061】
上記工程の反応条件としては、製造原料や他の反応条件等により適宜設定することができるが、反応温度としては、−20〜200℃が好ましく、0〜100℃がより好ましく、10〜60℃が更に好ましい。反応圧力としては、1×10〜1×10Paが好ましく、1×10〜1×10Paがより好ましく、1×10〜1×10Paが更に好ましい。反応時間としては、48時間以下が好ましく、24時間以下がより好ましく、12時間以下が更に好ましい。
【0062】
上記工程においては、通常では反応溶媒を用いることとなるが、反応溶媒としては、(1)ヘキサン、オクタンなど脂肪族炭化水素系;(2)シクロヘキサンなど脂環式飽和炭化水素系;(3)シクロヘキセンなど脂環式不飽和炭化水素系;(4)ベンゼン、トルエン、キシレンなど芳香族炭化水素系;(5)アセトン、メチルエチルケトンなどケトン類;(6)酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、γ−ブチロラクトンなどエステル類;(7)ジクロロエタン、クロロホルム、四塩化炭素などハロゲン化炭化水素類;(8)ジエチルエーテル、ジオキサン、ジオキソランなどエーテル類、(9)プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノメチルエーテルアセテートなどアルキレングリコールのエーテル類;(10)メチルアルコール、エチルアルコール、ブチルアルコール、イソプロピルアルコール、エチレングリコール、プロピレングリコールモノメチルエーテルなどアルコール類;(11)ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドンなどアミド類;(12)ジメチルスルホキシドなどスルホン酸エステル類;(13)ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネートなど炭酸エステル類;(14)エチレンカーボネート、プロピレンカーボネートなど脂環式炭酸エステル類;(15)アセトニトリル等のニトリル類;(16)水等が好適である。これらは1種又は2種以上を用いることができる。この中でも、(5)、(6)、(10)、(11)、(12)、(13)、(14)、(15)、(16)が好適である。より好ましくは、(5)、(6)、(10)、(14)、(15)、(16)である。
【0063】
上記イオン性化合物の製造方法においては、上記工程の後に、沈殿物等のろ過、溶媒の除去、脱水、減圧乾燥等の処理を行ってもよく、例えば、生成した沈殿物をろ過し、イオン性物質を含んだ溶媒から真空等の条件下で溶媒を除去した後、ジクロロメタン等の溶剤に溶解することで洗浄し、MgSO等の脱水効果を有する物質を添加して脱水し、溶媒除去後に減圧乾燥することでイオン性化合物を得てもよい。溶剤による洗浄処理の回数としては、適宜設定すればよく、溶剤としては、ジクロロメタン以外に、クロロホルム、テトラヒドロフラン、アセトン等のケトン類、エチレングリコールジメチルエーテル等のエーテル類、アセトニトリル、水等が好適である。また、脱水効果を有する物質としては、MgSO以外に、モレキュラーシーブ、CaCl、CaO、CaSO、KCO、活性アルミナ、シリカゲル等が好適であり、添加量は、生成物や溶剤の種類等により適宜設定すればよい。
【0064】
本発明はまた、上記イオン性化合物を含有する電解質材料でもある。上記イオン性化合物は、上述したような特性を発揮することができるため、様々な用途に好適に適用することが可能であり、中でも、一次電池、リチウム(イオン)二次電池や燃料電池等の充電/放電機構を有する電池、電解コンデンサ用電解液、電解コンデンサ、電気二重層キャパシタ、太陽電池・エレクトロクロミック表示素子等の電気化学デバイスを構成する電解質、及び、このような電解質の材料として特に好適なものである。このような本発明の電解質を用いてなるリチウム二次電池、電解コンデンサ用電解液、電解コンデンサ又は電気二重層キャパシタもまた、本発明の好ましい形態の一つである。なお、上記イオン性化合物としては、電解質として用いることが好ましいが、電解質以外の材料に用いることも可能である。
【0065】
上記電解質としては、電解質材料を含むものであればよく、好ましくは、電解質材料とマトリックス材料とを含むものである。このように上記電解質材料は、マトリックス材料を含む電解質材料もまた、本発明の1つである。
上記電解質は、電解液用材料又は電解質用材料の意味であって、(1)電解液を構成する溶媒及び/又は(2)電解質の材料(イオン伝導体用材料)として、また、(3)固体電解質の材料(電解質用材料)として電気化学デバイスのイオン伝導体に好適に用いることができるものである。例えば、(1)の場合は、本発明の電解質とともに、溶媒中でイオン伝導性を示す物質を含有させることによって、電解液(又は固体電解質)を構成することになる。(2)の場合は、本発明の電解質を溶媒中に含有させることによって、電解質の材料を構成することになる。(3)の場合は、本発明の電解質をそのまま又は他の成分を含有させて固体電解質とすることになる。
上記マトリックス材料は、有機溶媒を必須とする電解質であることが好ましい。このような有機溶媒としては、上述の有機溶媒と同様のものが好適である。
【0066】
本発明の電解質を用いて電気化学デバイスを構成する場合、電気化学デバイスの好ましい形態としては、基本構成要素として、イオン伝導体、負極、正極、集電体、セパレータ及び容器を有するものである。
上記イオン伝導体としては、電解質と有機溶媒又は重合体との混合物が好適である。有機溶媒を用いれば、一般にこのイオン伝導体は電解液と呼ばれ、重合体を用いれば、高分子固体電解質と呼ばれるものとなる。高分子固体電解質には可塑剤として有機溶媒を含有するものも含まれる。本発明の電解質は、このようなイオン伝導体において、電解液における電解質や有機溶媒の代替として、また、高分子固体電解質として好適に適用することができ、本発明の電解質をイオン伝導体の材料として用いてなる電気化学デバイスでは、これらのうちの少なくとも1つが、本発明の電解質により構成されることになる。これらの中でも、電解液における有機溶媒の代替、又は、高分子固体電解質として用いることが好ましい。
【0067】
上記有機溶媒としては、本発明の電解質を溶解できる非プロトン性の溶媒であればよく、上述した有機溶媒と同様のものが好適である。ただし、2種類以上の混合溶媒にする場合、電解質がリチウムイオンを含むものである場合は、これらの有機溶媒のうち誘電率が20以上の非プロトン性溶媒と誘電率が10以下の非プロトン性溶媒とからなる混合溶媒に溶解することにより電解液を調製することが好ましい。特にリチウム塩を用いる場合には、ジエチルエーテル、ジメチルカーボネート等の誘電率が10以下の非プロトン性溶媒に対する溶解度が低く単独では充分なイオン伝導度が得られず、また、逆に誘電率20以上の非プロトン性溶媒単独では溶解度は高いもののその粘度も高いため、イオンが移動しにくくなりやはり充分なイオン伝導度が得られないことになる。これらを混合すれば、適当な溶解度と移動度を確保することができ、充分なイオン伝導度を得ることができる。
【0068】
上記電解質を溶解する重合体としては、上述した重合体1種又は2種以上を好適に用いることができる。これらの中でも、ポリエチレンオキシドを主鎖又は側鎖にもつ重合体又は共重合体、ポリビニリデンフロライドの単独重合体又は共重合体、メタクリル酸エステル重合体、ポリアクリロニトリルが好適である。これらの重合体に可塑剤を加える場合は、上記の非プロトン性有機溶媒を用いることができる。
【0069】
上記イオン伝導体中における電解質濃度としては、0.01mol/dm以上が好ましく、また、飽和濃度以下が好ましい。0.01mol/dm未満であると、イオン伝導度が低いため好ましくない。より好ましくは、0.1mol/dm以上、また、1.5mol/dm以下である。
【0070】
上記負極材料としては、リチウム電池の場合、リチウム金属やリチウムと他の金属との合金が好適である。また、リチウムイオン電池の場合、重合体、有機物、ピッチ等を焼成して得られたカーボンや天然黒鉛、金属酸化物等のインターカレーションと呼ばれる現象を利用した材料が好適である。電気二重層キャパシタの場合、活性炭、多孔質金属酸化物、多孔質金属、導電性重合体が好適である。
【0071】
上記正極材料としては、リチウム電池及びリチウムイオン電池の場合、LiCoO、LiNiO、LiMnO、LiMn等のリチウム含有酸化物;TiO、V、MoO等の酸化物;TiS、FeS等の硫化物;ポリアセチレン、ポリパラフェニレン、ポリアニリン、ポリピロール等の導電性高分子が好適である。電気二重層キャパシタの場合、活性炭、多孔質金属酸化物、多孔質金属、導電性重合体が好適である。
【0072】
本発明は更に、下記一般式(1);
【0073】
【化14】

【0074】
(式中、Xは、B、C、N、O、Al、Si、P、S、As及びSeからなる群より選ばれる少なくとも1種類の元素であり、M及びMは、同一又は異なって、連結基を表し、複数ある場合は、同一又は異なっていてもよい。Qは、1価の元素又は有機基を表す。aは、1以上の整数であり、b、c、d及びeは、0以上の整数である。)で表されるアニオンと、下記一般式(2);
【0075】
【化15】

【0076】
(式中、Lは、C、Si、N、P、S及びOからなる群より選ばれる1種類の元素を表す。Rは、同一又は異なって、1価の元素、官能基又は有機基であり、互いに結合した元素となっていてもよい。sは、2、3又は4の整数であり、Lの元素の価数によって決まる値である。)で表されるカチオンとを有するイオン性化合物を含んでなる電解コンデンサの駆動用電解液でもある。本発明の電解コンデンサの駆動用電解液は、上記式(2)を含むものであり、カチオンとして、水素原子を有するものである。したがって、例えば、水酸化物イオン濃度が高くなる環境であっても、強アルカリにならないことから、性能や耐久性や品質を充分に優れたものとでき、電気化学デバイスの材料等、種々の用途に好適に用いることができる。
【0077】
上記一般式(1)において、Xは、B、C、N、O、Al、Si、P、S、As及びSeからなる群より選択される少なくとも1種の元素を表すが、C、N、O又はSが好ましい。より好ましくは、上記一般式(1)におけるXは、C又はNである。上記一般式(1)におけるXのより好ましい形態、更に好ましい形態、M、M、Q、a、b、c、d及びeの好ましい形態、上記カチオンの好ましい形態、例示等は、上述と同様である。
【0078】
本発明はそして、下記一般式(1);
【0079】
【化16】

【0080】
(式中、Xは、B、C、N、O、Al、Si、P、S、As及びSeからなる群より選ばれる少なくとも1種類の元素であり、M及びMは、同一又は異なって、連結基を表し、複数ある場合は、同一又は異なっていてもよい。Qは、1価の元素又は有機基を表す。aは、1以上の整数であり、b、c、d及びeは、0以上の整数である。)で表されるアニオンと、下記一般式(3);
【0081】
【化17】

【0082】
(式中、R、R及びRは、同一又は異なって、水素元素又は炭素数が1〜8の炭化水素基を表す。R、R及びRのうちの少なくとも2つが炭化水素基である場合は、それらの炭化水素基は、直接結合するか、又は、O、S及びNの中から選ばれる少なくとも1種類の元素を介して結合した構造となっていてもよい。)で表されるカチオンとを有するイオン性化合物を含んでなる電解コンデンサの駆動用電解液でもある。
【0083】
上記一般式(1)において、Xは、B、C、N、O、Al、Si、P、S、As及びSeからなる群より選択される少なくとも1種の元素を表すが、C、N、O又はSが好ましい。より好ましくは、上記一般式(1)におけるXは、C又はNである。上記一般式(1)におけるXのより好ましい形態、更に好ましい形態、M、M、Q、a、b、c、d及びeの好ましい形態、上記カチオンの好ましい形態、例示等は、上述と同様である。
【0084】
以下に本発明の電解質を用いてなる(1)リチウム二次電池、(2)電解コンデンサ、及び、(3)電気二重層キャパシタについてより詳しく説明する。
(1)リチウム二次電池
リチウム二次電池は、正極、負極、正極と負極との間に介在するセパレータ及び本発明の電解質を用いてなるイオン伝導体を基本構成要素として構成されるものである。この場合、本発明の電解質にはイオン伝導性を示す物質としてリチウム塩が含有されていることになる。このようなリチウム二次電池としては、水電解質以外のリチウム二次電池である非水電解質リチウム二次電池であることが好ましい。リチウム二次電池の一形態の断面模式図を図1に示す。このリチウム二次電池は、後述する負極活物質としてコークスを用い、正極活物質としてCoを含有する化合物を用いたものであるが、このようなリチウム二次電池おいて、充電時には、負極においてCLi→6C+Li+eの反応が起こり、負極表面で発生した電子(e)は、電解液中をイオン伝導して正極表面に移動し、正極表面では、CoO+Li+e→LiCoOの反応が起こり、負極から正極へ電流が流れることになる。放電時には、充電時の逆反応が起こり、正極から負極へ電流が流れることになる。このように、イオンによる化学反応により電気を蓄えたり、供給したりすることとなる。
【0085】
上記負極としては、負極活物質、負極用導電剤、負極用結着剤等を含む負極合剤を負極用集電体の表面に塗着して作製されるものであることが好ましい。負極合剤は、導電剤や結着剤の他にも各種添加剤を含有してもよい。
上記負極活物質としては、金属リチウム、リチウムイオンを吸蔵・放出することが可能な材料等が好適である。上記リチウムイオンを吸蔵・放出することが可能な材料としては、金属リチウム;熱分解炭素;ピッチコークス、ニードルコークス、石油コークス等のコークス;グラファイト;ガラス状炭素;フェノール樹脂、フラン樹脂等を適当な温度で焼成し炭素化したものである有機高分子化合物焼成体;炭素繊維;活性炭素等の炭素材料;ポリアセチレン、ポリピロール、ポリアセン等のポリマー;Li4/3Ti5/3、TiS等のリチウム含有遷移金属酸化物又は遷移金属硫化物;アルカリ金属と合金化するAl、Pb、Sn、Bi、Si等の金属;アルカリ金属を格子間に挿入することのできる、AlSb、MgSi、NiSi等の立方晶系の金属間化合物や、Li3−fN(G:遷移金属)等のリチウム窒素化合物等が好適である。これらは1種又は2種以上を用いることができる。これらの中でも、アルカリ金属イオンを吸蔵・放出できる金属リチウムや炭素材料がより好ましい。
【0086】
上記負極用導電剤は、電子伝導性材料であればよく、鱗片状黒鉛等の天然黒鉛、人造黒鉛等のグラファイト;アセチレンブラック、ケッチェンブラック、チャンネルブラック、ファーネスブラック、ランプブラック、サーマルブラック等のカーボンブラック;炭素繊維、金属繊維等の導電性繊維;フッ化カーボン、銅、ニッケル等の金属粉末;ポリフェニレン誘導体等の有機導電性材料等が好適である。これらは1種又は2種以上を用いることができる。これらの中でも、人造黒鉛、アセチレンブラック、炭素繊維がより好ましい。負極用導電剤の使用量としては、負極活物質100重量部に対して、1〜50重量部が好ましく、より好ましくは、1〜30重量部である。また、負極活物質は電子伝導性を有するため、負極用導電剤を用いなくてもよい。
【0087】
上記負極用結着剤としては、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂のいずれであってもよく、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、スチレンブタジエンゴム、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、フッ化ビニリデン−クロロトリフルオロエチレン共重合体、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体、ポリクロロトリフルオロエチレン、フッ化ビニリデン−ペンタフルオロプロピレン共重合体、プロピレン−テトラフルオロエチレン共重合体、エチレン−クロロトリフルオロエチレン共重合体、フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン−テトラフルオロエチレン共重合体、フッ化ビニリデン−パーフルオロメチルビニルエーテル−テトラフルオロエチレン共重合体、エチレン−アクリル酸共重合体、エチレン−メタクリル酸共重合体、エチレン−アクリル酸メチル共重合体、エチレン−メタクリル酸メチル共重合体、ポリアミド、ポリウレタン、ポリイミド、ポリビニルピロリドン及びその共重合体等が好適である。これらは1種又は2種以上を用いることができる。これらの中でも、スチレンブタジエンゴム、ポリフッ化ビニリデン、エチレン−アクリル酸共重合体、エチレン−メタクリル酸共重合体、エチレン−アクリル酸メチル共重合体、エチレン−メタクリル酸メチル共重合体、ポリアミド、ポリウレタン、ポリイミド、ポリビニルピロリドン及びその共重合体がより好ましい。
【0088】
上記負極用集電体としては、電池の内部において化学変化を起こさない電子伝導体であればよく、ステンレス鋼、ニッケル、銅、チタン、炭素、導電性樹脂、銅やステンレス鋼の表面に炭素、ニッケル、チタン等を付着又は被膜させたもの等が好適である。これらの中でも、銅や銅を含む合金がより好ましい。これらは1種又は2種以上を用いることができる。また、これらの負極用集電体の表面を酸化して用いることもできる。更に、集電体表面に凹凸を付けることが望ましい。負極用集電体の形状としては、フォイル、フィルム、シート、ネット、パンチングされたもの、ラス体、多孔質体、発泡体、繊維群の成形体等が好適である。集電体の厚さとしては、1〜500μmが好適である。
【0089】
上記正極としては、正極活物質、正極用導電剤、正極用結着剤等を含む正極合剤を正極用集電体の表面に塗着して作製されるものであることが好ましい。正極合剤は、導電剤や結着剤の他にも各種添加剤を含有してもよい。
上記正極活物質としては、金属Li、LiCoO、LiNiO、LiMnO、LiCoNi1−y、LiCo1−y、LiNi1−y、LiMn、LiMn2−y;MnO、V、Cr(g及びhは、1以上の整数)等のリチウムを含まない酸化物等が好適である。これらは1種又は2種以上を用いることができる。
上記Jは、Na、Mg、Sc、Y、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Al、Cr、Pb、Sb及びBから選ばれた少なくとも1種の元素を表す。また、xは、0≦x≦1.2であり、yは、0≦y≦0.9であり、zは、2.0≦z≦2.3であり、xは、電池の充放電により増減することとなる。また、正極活物質としては、遷移金属カルコゲン化物、リチウムを含んでいてもよいバナジウム酸化物やニオブ酸化物、共役系ポリマーからなる有機導電性物質、シェブレル相化合物等を用いてもよい。正極活物質粒子の平均粒径としては、1〜30μmであることが好ましい。
【0090】
上記正極用導電剤としては、用いる正極活物質の充放電電位において、化学変化を起こさない電子伝導性材料であればよく、上述した負極用導電剤と同様のもの;アルミニウム、銀等の金属粉末;酸化亜鉛、チタン酸カリウム等の導電性ウィスカー;酸化チタン等の導電性金属酸化物等が好適である。これらは1種又は2種以上を用いることができる。これらの中でも、人造黒鉛、アセチレンブラック、ニッケル粉末がより好ましい。正極用導電剤の使用量としては、正極活物質100重量部に対して、1〜50重量部が好ましく、より好ましくは、1〜30重量部である。カーボンブラックやグラファイトを用いる場合には、正極活物質100重量部に対して2〜15重量部とすることが好ましい。
【0091】
上記正極用結着剤としては、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂のいずれであってもよく、上述した負極用結着剤におけるスチレンブタジエンゴム以外のものや、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロエチレン共重合体等が好適である。これらは1種又は2種以上を用いることができる。これらの中でも、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレンがより好ましい。
上記正極用集電体としては、用いる正極活物質の充放電電位において化学変化を起こさない電子伝導体であればよく、ステンレス鋼、アルミニウム、チタン、炭素、導電性樹脂、アルミニウムやステンレス鋼の表面に炭素、チタン等を付着又は被膜させたもの等が好適である。これらは1種又は2種以上を用いることができる。これらの中でも、アルミニウム又はアルミニウムを含む合金が好ましい。また、これらの正極用集電体の表面を酸化して用いることもできる。更に、集電体表面に凹凸を付けることが望ましい。正極用集電体の形状及び厚さとしては、上述した負極集電体と同様である。
【0092】
上記セパレータとしては、イオン伝導体として電解液を用いた場合においては、大きなイオン透過度と、所定の機械的強度を有する絶縁性の微多孔性薄膜であることが好ましく、一定温度以上で孔を閉塞し、抵抗をあげる機能を有するものであることが好ましい。材質としては、耐有機溶剤性と疎水性の点から、ポリエチレン、ポリプロピレン等ポリオレフィン系ポリマーの多孔性合成樹脂フィルム、ポリプロピレン、フッ素化ポリオレフィン等の有機材料からなる織布もしくは不織布、ガラス繊維、無機材料からなる織布もしくは不織布等が好適である。セパレータが有する細孔の孔径としては、電極から脱離した正極活物質や負極活物質、結着剤、導電剤が透過しない範囲であることが好ましく、0.01〜1μmであることが好ましい。セパレータの厚さとしては、10〜300μmであることが好ましい。また、空隙率としては、30〜80%であることが好ましい。
またセパレータの表面は、予めコロナ放電処理、プラズマ放電処理、その他界面活性剤を用いた湿式処理により、その疎水性が低減するように改質しておくことが好ましい。これによりセパレータの表面及び空孔内部の濡れ性が向上し、電池の内部抵抗の増加を極力抑制することが可能となる。
【0093】
上記リチウム二次電池としては、ポリマー材料に、電解液を保持させたゲルを正極合剤又は負極合剤に含ませたり、電解液を保持するポリマー材料からなる多孔性のセパレータを正極又は負極と一体化することで構成されるものであってもよい。上記ポリマー材料としては、電解液を保持できるものであればよく、フッ化ビニリデンとヘキサフルオロプロピレンの共重合体等が好ましい。
上記リチウム二次電池の形状としては、コイン形、ボタン形、シート形、積層形、円筒形、偏平形、角形、電気自動車等に用いる台形等が挙げられる。
【0094】
(2)電解コンデンサ
電解コンデンサとしては、上記電解液を用いることが好適であるが、中でも、上述した電解コンデンサの駆動用電解液を用いてなる電解コンデンサが好ましく、このような形態は、本発明の好ましい形態の一つである。
電解コンデンサは、陽極箔、陰極箔、陽極箔と陰極箔との間に挟まれたセパレータである電解紙及びリード線より構成されるコンデンサ素子と、本発明の電解質を用いてなるイオン伝導体と、有底筒状の外装ケースと、外装ケースを密封する封口体とを基本構成要素として構成されているものである。コンデンサ素子の一形態の斜視図を図2(a)に示す。本発明における電解コンデンサは、コンデンサ素子に上記電解質材料を用いてなるイオン伝導体である電解液を含浸し、該コンデンサ素子を有底筒状の外装ケースに収納し、外装ケースの開口部に封口体を装着するとともに、外装ケースの端部に絞り加工を施して外装ケースを密封することにより得ることができるものである。このような電解コンデンサとしては、アルミニウム電解コンデンサ、タンタル電解コンデンサ、ニオブ電解コンデンサが好適である。アルミニウム電解コンデンサの一形態の断面模式図を図2(b)に示す。このようなアルミニウム電解コンデンサとしては、電解エッチング又は蒸着により細かな凹凸を作って粗面化したアルミニウム箔の表面に陽極酸化によって形成した薄い酸化皮膜(酸化アルミニウム)を誘電体とするものが好適である。
またアルミニウム電解コンデンサの要部切断断面を図2(c)に示す。図2(c)は、粗面化処理及び酸化皮膜形成処理をした陽極箔1と陰極箔2とをセパレータ3を介して巻回したコンデンサ素子6を形成し、このコンデンサ素子は駆動用電解液(以下、電解液と称す)に含浸した後、有底筒状の外装ケース8に収納する。陽極及び陰極引き出しリード4、5を弾性封口体7に形成した貫通孔に挿入して引き出し、外装ケースの開口部には、弾性封口体7を装着し、絞り加工により密閉した構造をしている。
【0095】
アルミニウム電解コンデンサは、一般には図3、図4に示すような構造からなる。エッチング処理及び酸化皮膜形成処理をした陽極箔1と陰極箔2とをセパレータ3を介して巻回したコンデンサ素子6を形成し、このコンデンサ素子は電解液に含浸した後、有底筒状の外装ケース8に収納する。外装ケース8の開口部には、封口体9を装着し、絞り加工により密閉した構造をしている。外装ケース8にコンデンサ素子6を固定する素子固定剤17を有していてもよい。封口体9の外端面には陽極端子13及び陰極端子14が構成され、これらの端子13、14の下端部は、陽極内部端子15及び陰極内部端子16として、コンデンサ素子6から引き出された陽極タブ端子11及び陰極タブ端子12が電気的に接続されている。ここで、陽極タブ端子11については、化成処理が施されたものが使用されるが、陰極タブ端子12については、化成処理が施されていないものが使用される。いずれのタブ端子11、12についても、表面加工の施されていないアルミニウム箔が用いられている。
【0096】
電子部品の小型化、薄型化、高密度面実装技術の進歩に伴い、アルミニウム電解コンデンサにおいてもチップ形であることが求められており、チップ形アルミニウム電解コンデンサは、図5に示すような構造からなる。粗面化処理及び酸化皮膜形成処理をした陽極箔と陰極箔とをセパレータを介して巻回したコンデンサ素子6を形成し、このコンデンサ素子は電解液に含浸した後、有底筒状の外装ケース8に収納するとともに、開口部を弾性封口体7を用いて封口し、アルミニウム電解コンデンサを構成する。このアルミニウム電解コンデンサのリード端子18を引き出した端面に当接するように配設し、かつ該リード端子18が貫通する貫通孔を備えた絶縁板19を装着して、基板装着上の安定性を持たせるよう構成されている。
本発明のイオン性化合物を供した電解液を用いたアルミニウム電解コンデンサの構造は、新たに提案されているアルミニウム電解コンデンサの構造においても用いてもよく、例えば、エッチング処理及び酸化皮膜形成処理をした陽極箔と陰極箔とをセパレータを介して積層した構造よりなるアルミニウム電解コンデンサ等が挙げられる。
【0097】
上記陽極箔としては、純度99%以上のアルミニウム箔を酸性溶液中で化学的又は電気化学的にエッチングして拡面処理した後、ホウ酸アンモニウム、リン酸アンモニウム又はアジピン酸アンモニウム等の水溶液中で化成処理を行い、その表面に陽極酸化皮膜層を形成したものを用いることができる。
上記陰極箔としては、化学的又は電気化学的にエッチングして拡面処理したアルミニウム箔の一部又は全部に、窒化チタン、窒化ジルコニウム、窒化タンタル及び窒化ニオブから選ばれる1種以上の金属窒化物、及び/又は、チタン、ジルコニウム、タンタル及びニオブから選ばれる1種以上の金属より構成される皮膜を形成したアルミニウム箔を用いることができる。
上記皮膜の形成方法としては、蒸着法、メッキ法、塗布法等を挙げることができ、皮膜を形成する部分としては、陰極箔の全面に被覆してもよいし、必要に応じて陰極箔の一部、例えば陰極箔の一面のみに金属窒化物又は金属を被覆してもよい。
【0098】
上記リード線は、陽極箔及び陰極箔に接する接続部、丸棒部及び外部接続部より構成されるものであることが好適である。このリード線は、接続部においてそれぞれステッチや超音波溶接等の手段により陽極箔及び陰極箔に電気的に接続されている。また、リード線における接続部及び丸棒部は、高純度のアルミニウムよりなるものが好適であり、外部接続部は、はんだメッキを施した銅メッキ鉄鋼線よりなるものが好適である。また、陰極箔との接続部及び丸棒部の表面の一部又は全部に、ホウ酸アンモニウム水溶液、リン酸アンモニウム水溶液又はアジピン酸アンモニウム水溶液等による陽極酸化処理によって形成した酸化アルミニウム層を形成したり、Al、SiO、ZrO等より構成されるセラミックスコーティング層等の絶縁層を形成することができる。
【0099】
上記外装ケースは、アルミニウム又はアルミニウム合金より構成されるものであることが好適である。
上記封口体は、リード線をそれぞれ導出する貫通孔を備え、例えば、ブチルゴム等の弾性ゴムより構成されるものであることが好適であり、ブチルゴムとしては、例えば、イソブチレンとイソプレンとの共重合体からなる生ゴムに補強剤(カーボンブラック等)、増量剤(クレイ、タルク、炭酸カルシウム等)、加工助剤(ステアリン酸、酸化亜鉛等)、加硫剤等を添加して混練した後、圧延、成型したゴム弾性体を用いることができる。加硫剤としては、アルキルフェノールホルマリン樹脂;過酸化物(ジクミルペルオキシド、1,1−ジ−(t−ブチルペルオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、2,5−ジメチル−2,5−ジ−(t−ブチルペルオキシ)ヘキサン等);キノイド(p−キノンジオキシム、p,p′−ジベンゾイルキノンジオキシム等);イオウ等を用いることができる。なお、封口体の表面をテフロン(登録商標)等の樹脂でコーティングしたり、ベークライト等の板を貼り付けたりすると、溶媒蒸気の透過性が低減するので更に好ましい。
上記セパレータとしては、通常マニラ紙やクラフト紙等の紙が用いられるが、ガラス繊維、ポリプロピレン、ポリエチレン等の不織布を用いることもできる。
【0100】
上記電解コンデンサとしてはまた、ハーメチックシール構造や樹脂ケースに密閉した構造(例えば、特開平8−148384号公報に記載)のものであってもよい。ゴム封止構造のアルミニウム電解コンデンサの場合、ある程度ゴムを通して気体が透過するため、高温環境下においてはコンデンサ内部から大気中へ溶媒が揮発し、また、高温高湿環境下においては大気中からコンデンサ内部へ水分が混入するおそれがあり、これらの過酷な環境の下では、コンデンサは静電容量の減少等の好ましくない特性変化を起こすおそれがある。一方、ハーメチックシール構造や樹脂ケースに密閉した構造のコンデンサにおいては、気体の透過量が極めて小さいため、このような過酷な環境下においても安定した特性を示すこととなる。
【0101】
(3)電気二重層キャパシタ
電気二重層キャパシタは、負極、正極及び本発明の電解質を用いてなるイオン伝導体を基本構成要素として構成されているものであり、好ましい形態としては、対向配置した正極及び負極からなる電極素子に、イオン伝導体である電解液を含ませたものである。このような電気二重層キャパシタの一形態の断面模式図及び電極表面の拡大模式図を図6に示す。
【0102】
上記正極及び負極は、分極性電極であり、電極活物質として活性炭繊維、活性炭粒子の成形体、活性炭粒子等の活性炭と、導電剤と、バインダー物質とから構成され、薄い塗布膜、シート状又は板状の成形体として使用することが好適である。このような構成を有する電気二重層キャパシタにおいては、図6の拡大図に示されるように、イオンの物理的な吸・脱着により分極性電極と電解液との界面に生成する電気二重層に電荷が蓄えられることとなる。
【0103】
上記活性炭としては、平均細孔径が2.5nm以下であるものが好ましい。この活性炭の平均細孔径は、窒素吸着によるBET法によって測定されることが好ましい。活性炭の比表面積としては、炭素質種による単位面積あたりの静電容量(F/m)、高比表面積化に伴う嵩密度の低下等により異なるが、窒素吸着によるBET法により求めた比表面積としては、500〜2500m/gが好ましく、1000〜2000m/gがより好ましい。
【0104】
上記活性炭の製造方法としては、植物系の木材、のこくず、ヤシ殻、パルプ廃液、化石燃料系の石炭、石油重質油、又は、それらを熱分解した石炭及び石油系ピッチ、石油コークス、カーボンアエロゲル、メソフェーズカーボン、タールピッチを紡糸した繊維、合成高分子、フェノール樹脂、フラン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリ塩化ビニリデン樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミド樹脂、イオン交換樹脂、液晶高分子、プラスチック廃棄物、廃タイヤ等の原料を炭化した後、賦活して製造する賦活法を用いることが好ましい。
【0105】
上記賦活法としては、(1)炭化された原料を高温で水蒸気、炭酸ガス、酸素、その他の酸化ガス等と接触反応させるガス賦活法、(2)炭化された原料に、塩化亜鉛、リン酸、リン酸ナトリウム、塩化カルシウム、硫化カリウム、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、炭酸カルシウム、ホウ酸、硝酸等を均等に含浸させて、不活性ガス雰囲気中で加熱し、薬品の脱水及び酸化反応により活性炭を得る薬品賦活法が挙げられ、いずれを用いてもよい。
【0106】
上記賦活法により得られた活性炭は、窒素、アルゴン、ヘリウム、キセノン等の不活性ガス雰囲気下で、好ましくは500〜2500℃、より好ましくは700〜1500℃で熱処理することが好ましく、不要な表面官能基を除去したり、炭素の結晶性を発達させて電子伝導性を増加させてもよい。活性炭の形状としては、破砕、造粒、顆粒、繊維、フェルト、織物、シート状等が挙げられる。粒状の場合においては、電極の嵩密度の向上、内部抵抗の低減という点で、平均粒子径は30μm以下であることが好ましい。
上記電極活物質としては、活性炭以外にも上述の高比表面積を有する炭素材料を用いてもよく、例えば、カーボンナノチューブやプラズマCVDにより作製したダイヤモンド等を用いてもよい。
【0107】
上記導電剤としては、アセチレンブラック、ケッチェンブラック等のカーボンブラック、天然黒鉛、熱膨張黒鉛、炭素繊維、酸化ルテニウム、酸化チタン、アルミニウム、ニッケル等の金属ファイバー等が好適である。これらは1種又は2種以上を用いることができる。これらの中でも、少量で効果的に導電性が向上する点で、アセチレンブラック及びケッチェンブラックがより好ましい。導電剤の配合量としては、活性炭の嵩密度等によっても異なるが、活性炭を100質量%とすると、5〜50質量%が好ましく、10〜30質量%がより好ましい。
【0108】
上記バインダー物質としては、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、カルボキシルメチルセルロース、フルオロオレフィン共重合体架橋ポリマー、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸、ポリイミド、石油ピッチ、石炭ピッチ、フェノール樹脂等が好適である。これらは1種又は2種以上を用いることができる。バインダー物質の配合量としては、活性炭の種類と形状等によっても異なるが、活性炭を100質量%とすると、0.5〜30質量%が好ましく、2〜30質量%がより好ましい。
【0109】
上記正極及び負極の成形方法としては、(1)活性炭とアセチレンブラックの混合物に、ポリテトラフルオロエチレンを添加混合した後、プレス成形して得る方法、(2)活性炭とピッチ、タール、フェノール樹脂等のバインダー物質を混合、成型した後、不活性雰囲気下で熱処理して焼結体を得る方法、(3)活性炭とバインダー物質又は活性炭のみを焼結して電極とする方法等が好適である。炭素繊維布を賦活処理して得られる活性炭繊維布を用いる場合は、バインダー物質を使用せずにそのまま電極として使用してもよい。
【0110】
上記電気二重層キャパシタには、セパレータを分極性電極に挟み込む方法や、保持手段を用いることにより分極性電極を、間隔を隔てて対向させる方法等により、分極性電極が接触や短絡することを防ぐことが好ましい。セパレータとしては、使用温度域において溶融塩等と化学反応を起こさない多孔性の薄膜を用いることが好適である。セパレータの材質としては、紙、ポリプロピレン、ポリエチレン、ガラス繊維等が好適である。
上記電気二重層キャパシタの形状としては、コイン型、巻回型、角型、アルミラミネート型等が挙げられ、いずれの形状としてもよい。
【発明の効果】
【0111】
本発明のイオン性化合物は、上述の構成よりなり、電気化学安定性等の優れた基本性能を発揮することができ、様々な用途に好適に使用することが可能なものであり、例えば、一次電池、リチウム(イオン)二次電池や燃料電池等の充電及び放電機構を有する電池の他、電解コンデンサ、電気二重層キャパシタ、太陽電池・エレクトロミック表示素子等の電気化学デバイス等に好適に適用することができるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0112】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、「部」は「重量部」を、「%」は「質量%」を意味するものとする。
【0113】
[実施例1]
温度計、窒素ガス導入管、還流冷却管、攪拌装置、及び、滴下漏斗を備えたフラスコに硝酸銀41.2g(0.24mol)、イオン交換水250mlを加え攪拌し、硝酸銀を完全に溶解させた。次いで滴下漏斗にカリウムトリシアノメチド(以下、KTCMと記す)26.1g(0.20mol)の30%水溶液を入れ、硝酸銀溶液に対し室温、1時間で滴下した。得られた白色固体を濾別し、イオン交換水300mlで洗浄した。この洗浄工程を5回繰り返した。
次いで白色固体にイオン交換水300mlを加え、セパラブルフラスコに入れ攪拌することでスラリー状にし、ここに滴下漏斗に入れたトリエチルアンモニウムブロミド27.3g(0.15mol)50%水溶液を室温で1時間かけて滴下した。更に室温で1時間攪拌した後、得られた反応液をメンブレンフィルター(親水タイプ、孔径0.2μm)でろ過を行った。得られた水溶液をエバポレーターで濃縮することで、トリエチルアンモニウムトリシアノメチド(以下、TEATCMと記す)27.0g(0.14mol)を得た。収率は94%であった。
【0114】
[実施例2]
イオン交換水で十分に洗浄したイオン交換樹脂(製品名:アンバーライトIR120−H(120ml)をカラム管に充填し、ここにKTCM19.3g(0.15mol)0.2mol/l水溶液を4時間かけて通液させた。得られた水溶液をビーカーに入れ、そこへトリエチルアミン30.2g(0.30mol)の50%メタノール溶液を室温で加えた。30分攪拌した後、得られた水溶液をエバポレーターで濃縮することでTEATCM28.5g(0.15mol)を得た。収率は99%であった。
【0115】
[実施例3]
実施例2におけるトリエチルアミンをピリジンに変更した以外、同様の方法を用いてピリジニウムトリシアノメチドを得た。収率は93%であった。
【0116】
[実施例4]
実施例2におけるトリエチルアミンをメチルピロリジンに変更した以外は、同様の方法を用いて1−メチルピロリジウムトリシアノメチドを得た。収率は95%であった。
【0117】
[実施例5]
実施例2におけるトリエチルアミンをN,N−ジメチルヘキシルアミンに変更した以外は、同様の方法を用いてN,N−ジメチルヘキシルアンモニウムトリシアノメチドを得た。収率は93%であった。
【0118】
[実施例6]
実施例2におけるトリエチルアミンを4−アザ−1−アゾニア−[2,2,2]−ビシクロオクタンに変更した以外、同様の方法を用いて4−アザ−1−アゾニア−[2,2,2]−ビシクロオクタントリシアノメチドを得た。収率は92%であった。
【0119】
[実施例7]
実施例1におけるトリエチルアンモニウムブロミドを8−アザ−1−アゾニアビシクロ[5,4,0]ウンデ−7−センブロミドに変更した以外、同様の方法を用いて8−アザ−1−アゾニアビシクロ[5,4,0]ウンデ−7−セントリシアノメチドを得た。収率は90%であった。
【0120】
[実施例8]
実施例1におけるトリエチルアンモニウムブロミドを5−アザ−1−アゾニアビシクロ[4,3,0]ノン−5−ネンブロミドに変更した以外、同様の方法を用いて5−アザ−1−アゾニアビシクロ[4,3,0]ノン−5−ネントリシアノメチドを得た。収率は88%であった。
【0121】
[実施例9]
実施例2におけるトリエチルアミンをN,N,N´,N´−テトラメチルグアニジンに変更した以外、同様の方法を用いてN,N,N´,N´−テトラメチルグアニジニウムトリシアノメチドを得た。収率は91%であった。
【0122】
[実施例10]
実施例2におけるトリエチルアミンをジメチルフェニルアミンに変更した以外、同様の方法を用いてジメチルフェニルアンモニウムトリシアノメチドを得た。収率は95%であった。
【0123】
[実施例11]
実施例2におけるトリエチルアミンをN−メチルイミダゾールに変更した以外、同様の方法を用いてN−メチルイミダゾリウムトリシアノメチドを得た。収率は98%であった。
【0124】
[実施例12]
実施例2におけるトリエチルアミンをトリメチルアミンに変更した以外、同様の方法を用いてトリメチルアンモニウムトリシアノメチドを得た。収率は97%であった。
【0125】
[実施例13]
実施例2におけるトリエチルアミンをジメチルエチルアミンに変更した以外、同様の方法を用いてジメチルエチルアンモニウムトリシアノメチドを得た。収率は97%であった。
【0126】
[実施例14]
実施例2におけるトリエチルアミンを3,5,7−トリアザ−1−アゾニア−トリシクロ[3,3,1,1]デカンに変更した以外、同様の方法を用いて3,5,7−ドリアザ−1−アゾニア−トリシクロ[3,3,1,1]デカントリシアノメチドを得た。収率は97%であった。
【0127】
[実施例15]
実施例1におけるカリウムトリシアノメチドをナトリウムジシアノアミドに変更した以外、同様の方法を用いてトリエチルアンモニウムジシアノアミドを得た。収率は88%であった。
実施例2〜15の25℃におけるイオン伝導度、H−NMR及び13C−NMRのスペクトルデータを表1に示す。また比較例1としてトリエチルアンモニウムフタレート及び比較例2としてテトラエチルアンモニウムフタレートの25℃におけるイオン伝導度を表1に示す。なお、イオン伝導度、H−NMR及び13C−NMRの測定条件は、以下のとおりである。
【0128】
(イオン伝導度)
測定装置:インピーダンスアナライザーSI1260(ソーラトロン社製)
方法:SUS電極、複素インピーダンス法
H−NMR測定条件)
溶媒:DMSO
温度:室温
装置:GEMINI−200BB gemini2000
パルスシークエンス:
リラクゼーションディレイ:1.254秒
パルス:45.4度
取り込み時間:2.741秒
スペクトル範囲:3000.3Hz
積算回数:16回
観測 H1,199.9329029MHz
データプロセッシング
データポイント数 32768
測定時間 1分
【0129】
13C−NMR測定条件)
溶媒:DMSO
温度:室温
装置:GEMINI−200BB gemini2000
パルスシークエンス:
リラクゼーションディレイ:1.000秒
パルス:44.6度
取り込み時間:1.498秒
スペクトル範囲:12500.0Hz
積算回数:13712回
観測 C13, 50.2732453MHz
デカップル H1,199.9339080MHz
power 41dB
continuously on
WALTZ−16 modulated
データプロセッシング
線幅:1.0Hz
データポイント数 65536
測定時間 9.5時間
【0130】
【表1】

【0131】
以下に実施例としてアルミニウム電解コンデンサの電解液として実施例2及び12に代表される当該イオン性化合物を供した製品の試験結果を示すが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0132】
[実施例16〜44及び比較例3、4]
以下、本発明の実施例として、前記実施例2及び12で示した物質を供したアルミニウム電解コンデンサに用いる電解液を表2及び表3に示す配合で調製し、30℃における比抵抗を測定した。比抵抗の測定条件は、以下のとおりである。結果を表2及び表3に示す。
(比抵抗)
装置:HIOKI 3522 LCR HiTESTER
測定周波数:1kHz
測定温度:30℃
【0133】
【表2】

【0134】
【表3】

【0135】
表2及び表3によって明らかなように、本発明におけるイオン性化合物を用いた電解質の実施例は、比較例と比べて、低比抵抗化がなされていることがわかる。本発明におけるイオン性化合物を用いた電解液は、溶質濃度が減少するとともに、比抵抗値は高くなっていくが、溶質濃度3重量%の実施例16においても、比較例3と比べて低比抵抗化がなされており、同じ溶質濃度である実施例20と比較して満足のできる低比抵抗化を実現している。
本発明におけるイオン性化合物を用いた電解液の実施例は、同じ溶質濃度である比較例4で示される四級アンモニウム塩電解液と実施例20及び29と比べて、溶質が3級塩であるにもかかわらず、充分な低比抵抗化を実現している。
【0136】
表2及び表3において、溶媒にスルホラン類を用いた実施例33〜35は、比較例3と較べて低比抵抗化がなされている。
表2及び表3において、溶媒にエチレングリコールを用いた実施例36は、比較例3及び4と較べて低比抵抗化がなされている。
また表2及び表3において、ニトロ化合物を添加剤として含有した場合である実施例37〜41は、急激な比抵抗上昇はみられず、比較例3及び4と較べて低比抵抗化がなされている。
表2及び表3において、リン化合物を添加剤として含有した場合である実施例42〜44は、急激な比抵抗上昇はみられず、比較例3及び4と較べて低比抵抗化がなされている。
【0137】
次に、本発明のアルミニウム電解コンデンサを下記に示すような手順で製造した。
エッチング処理及び酸化皮膜形成処理をした陽極箔と陰極箔とをマニラ麻系のセパレータを介して巻回したコンデンサ素子を形成し、このコンデンサ素子は前記電解液に含浸した後、アルミニウムよりなる有底筒状の外装ケースに収納する。化成皮膜を形成した陽極引き出しリードと陰極引き出しリードとをブチルゴムからなる弾性封口体に形成した貫通孔に押入して引き出し、外装ケースの開口部には、ブチルゴムからなる弾性封口体を装着し、絞り加工により密閉して、アルミニウム電解コンデンサを作製した。
【0138】
本発明は、いずれの構造によっても適用されるが、実施例において図2(c)に示すような構造を代表して説明する。以下、実施例に使用されるアルミニウム電解コンデンサはすべて同様の構造をとっている。
表2及び表3の電解液(実施例18〜22、27〜31及び比較例3、4)を使用して、コンデンサ素子の仕様6.3V−1000μF(φ10×12.5mmL)のアルミニウム電解コンデンサを各20個作製した。
実施例18〜22、27〜31及び比較例3、4について、20℃、100kHzにおけるインピーダンス値、及び、20℃、100kHzにおける等価直列抵抗値を、HEWLETT PACKARD 4284A PRECISION LCR METER(Hewlett−Packard Company製)にて測定した。結果を表4に示す。
【0139】
【表4】

【0140】
表4によって明らかなように、本発明の実施例は、比較例と比べて、低インピーダンス化、低等価直列抵抗化がなされていることがわかる。したがって、本発明は、低インピーダンス向けアルミニウム電解コンデンサとして用いることができる。
【0141】
次に、20℃、120Hzにおける静電容量、tanδについて初期特性測定後、高温印加試験(105℃、1000時間、DC6.3V印加)を行った。また、初期特性測定後と高温印加試験後のアルミニウム電解コンデンサ各5個を分解して電解液を取り出し、製品中電解液の水分量を測定した。静電容量、tanδ、製品中電解液水分量の結果を表5に示す。なお、静電容量、tanδ、水分量の測定方法は下記のとおりである。
【0142】
(静電容量、tanδ)
測定装置:Agilent 4263B LCR METER(Agilent Technologies, Inc製)
(水分測定方法)
サンプル調製においては、露点−80℃以下のグローボックス中で測定サンプル0.25g、脱水アセトニトリル0.75gを混合し、グローボックス中で充分乾燥したテルモシリンジ(商品名、2.5ml)で混合溶液0.5gを採取することにより行う。その後、カールフィッシャー水分計AQ−7(商品名、平沼産業社製)にて水分測定を行う。
【0143】
【表5】

【0144】
表5によって明らかなように、本発明の実施例は、比較例と比べて、高温印加試験においてtanδの増大が抑制され、優れた特性を示していることがわかる。
【0145】
1つの実施形態においては、アルミニウム電解コンデンサ中の電解液中の水分含有量は、電解液100質量%中0.05〜3質量%であることが好ましい。0.05質量%未満であると、水分管理が困難になり、コストアップに繋がるおそれがある。また、3質量%を超えると、電気安定性を充分に発揮できないおそれがある。好ましい下限は0.07質量%、上限は2.5質量%であり、より好ましい下限は0.1質量%、上限は2.0質量%である。
【0146】
続いて、表2及び表3の電解液(実施例18〜22、27〜31及び比較例3、4)を使用して、コンデンサ素子の仕様6.3V−1000μF(φ10×12.5mmL)のアルミニウム電解コンデンサを各10個作製し、温度85℃、相対湿度85%の高温高湿条件下で2000時間、DC6.3V印加し、封口部のリード孔部からの液漏れの有無を調べた。結果を表6に示す。
【0147】
【表6】

【0148】
表6によって明らかなように、本発明の実施例は、四級アンモニウム塩を溶質として用いている比較例4と比べて、高湿度条件下でも液漏れがなく、優れた信頼性を示していることがわかる。
なお、本発明は、実施例に限定されるものではなく、先に記載した各種化合物を単独又は複数溶解した電解液を用いて、いずれの材料、構造からなる電解コンデンサにも適用することができ、また、いずれの構造の電解コンデンサにおいても実施例と同等の効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0149】
【図1】リチウム二次電池の一形態を示す断面模式図である。
【図2】(a)は、電解コンデンサの一形態を示す斜視図であり、(b)は、アルミニウム電解コンデンサの一形態を示す断面模式図である。(c)は、アルミニウム電解コンデンサの要部切断正面図である。
【図3】その他の形態のアルミニウム電解コンデンサ素子の分解斜視図である。
【図4】その他の形態のアルミニウム電解コンデンサの要部切断正面図である。
【図5】チップ形アルミニウム電解コンデンサの要部切断正面図である。
【図6】電気二重層キャパシタの一形態を示す断面模式図及び電極表面の拡大模式図である。
【符号の説明】
【0150】
1 陽極箔
2 陰極箔
3 セパレータ
4 陽極引き出しリード
5 陰極引き出しリード
6 コンデンサ素子
7 弾性封口体
8 外装ケース
9 封口体
10 加締め(又は溶接)
11 陽極タブ端子
12 陰極タブ端子
13 陽極端子
14 陰極端子
15 陽極内部端子
16 陰極内部端子
17 素子固定剤
18 リード端子
19 絶縁板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1);
【化1】

(式中、Xは、B、C、N、O、Al、Si、P、As及びSeからなる群より選ばれる少なくとも1種類の元素であり、M及びMは、同一又は異なって、連結基を表し、複数ある場合は、同一又は異なっていてもよい。Qは、1価の元素又は有機基を表す。aは、1以上の整数であり、b、c、d及びeは、0以上の整数である。)で表されるアニオンと、下記一般式(2);
【化2】

(式中、Lは、C、Si、N、P、S及びOからなる群より選ばれる1種類の元素を表す。Rは、同一又は異なって、1価の元素、官能基又は有機基であり、互いに結合した元素となっていてもよい。sは、2、3又は4の整数であり、Lの元素の価数によって決まる値である。)で表されるカチオンとを有することを特徴とするイオン性化合物。
【請求項2】
下記一般式(1);
【化3】

(式中、Xは、B、C、N、O、Al、Si、P、As及びSeからなる群より選ばれる少なくとも1種類の元素であり、M及びMは、同一又は異なって、連結基を表し、複数ある場合は、同一又は異なっていてもよい。Qは、1価の元素又は有機基を表す。aは、1以上の整数であり、b、c、d及びeは、0以上の整数である。)で表されるアニオンと、下記一般式(3);
【化4】

(式中、R、R及びRは、同一又は異なって、水素元素又は炭素数が1〜8の炭化水素基を表す。R、R及びRのうちの少なくとも2つが炭化水素基である場合は、それらの炭化水素基は、直接結合するか、又は、O、S及びNの中から選ばれる少なくとも1種類の元素を介して結合した構造となっていてもよい。)で表されるカチオンとを有することを特徴とするイオン性化合物。
【請求項3】
前記一般式(1)におけるXは、C又はNであることを特徴とする請求項1又は2記載のイオン性化合物。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載のイオン性化合物を含有することを特徴とする電解質材料。
【請求項5】
前記電解質材料は、マトリックス材料を含むことを特徴とする請求項4記載の電解質材料。
【請求項6】
下記一般式(1);
【化5】

(式中、Xは、B、C、N、O、Al、Si、P、S、As及びSeからなる群より選ばれる少なくとも1種類の元素であり、M及びMは、同一又は異なって、連結基を表し、複数ある場合は、同一又は異なっていてもよい。Qは、1価の元素又は有機基を表す。aは、1以上の整数であり、b、c、d及びeは、0以上の整数である。)で表されるアニオンと、下記一般式(2);
【化6】

(式中、Lは、C、Si、N、P、S及びOからなる群より選ばれる1種類の元素を表す。Rは、同一又は異なって、1価の元素、官能基又は有機基であり、互いに結合した元素となっていてもよい。sは、2、3又は4の整数であり、Lの元素の価数によって決まる値である。)で表されるカチオンとを有するイオン性化合物を含んでなることを特徴とする電解コンデンサの駆動用電解液。
【請求項7】
下記一般式(1);
【化7】

(式中、Xは、B、C、N、O、Al、Si、P、S、As及びSeからなる群より選ばれる少なくとも1種類の元素であり、M及びMは、同一又は異なって、連結基を表し、複数ある場合は、同一又は異なっていてもよい。Qは、1価の元素又は有機基を表す。aは、1以上の整数であり、b、c、d及びeは、0以上の整数である。)で表されるアニオンと、下記一般式(3);
【化8】

(式中、R、R及びRは、同一又は異なって、水素元素又は炭素数が1〜8の炭化水素基を表す。R、R及びRのうちの少なくとも2つが炭化水素基である場合は、それらの炭化水素基は、直接結合するか、又は、O、S及びNの中から選ばれる少なくとも1種類の元素を介して結合した構造となっていてもよい。)で表されるカチオンとを有するイオン性化合物を含んでなることを特徴とする電解コンデンサの駆動用電解液。
【請求項8】
前記一般式(1)におけるXは、C又はNであることを特徴とする請求項6又は7記載の電解コンデンサの駆動用電解液。
【請求項9】
請求項6〜8のいずれかに記載の電解コンデンサの駆動用電解液を用いてなることを特徴とする電解コンデンサ。


【図1】
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【図2a】
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【図2b】
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【図2c】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−159865(P2008−159865A)
【公開日】平成20年7月10日(2008.7.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−347413(P2006−347413)
【出願日】平成18年12月25日(2006.12.25)
【出願人】(000004628)株式会社日本触媒 (2,292)
【出願人】(000004606)ニチコン株式会社 (656)
【Fターム(参考)】