説明

イオン性複合体

【課題】リンペプチド/リンタンパク質によって安定化された無定形リン酸カルシウムおよび/または無定形リン酸フッ化カルシウムの超増量複合体を提供すること。
【解決手段】本発明は、リンペプチドまたはリンタンパク質(PP)によって安定化された無定形リン酸カルシウムまたは無定形リン酸フッ化カルシウムの複合体であって、PP1モル当たりのカルシウムが約30モルよりも高いカルシウムイオン含量を有する複合体を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リンペプチド/リンタンパク質によって安定化された無定形リン酸カルシウムおよび/または無定形リン酸フッ化カルシウムの超増量(superloaded)複合体に関する。これらの超増量複合体は、齲蝕の早期段階の齲蝕を再石灰化(修復)することから、歯および骨の構造を保護するために、ならびにその他の歯学的/医学的用途(歯石予防、歯の侵食/腐食予防、および象牙質知覚過敏予防を含む)のために有用な抗齲蝕原性特性を有する。本発明の超増量複合体を生成する方法、ならびに齲蝕、歯石、歯の侵食/腐食、象牙質知覚過敏を処置または予防する方法もまた提供される。
【背景技術】
【0002】
(背景)
齲蝕は、歯垢の歯病原性(odontopathogenic)細菌による食事性糖分の発酵から通常生じる有機酸による歯の硬質組織の脱灰によって開始される。齲蝕は依然として公衆衛生上の大きな問題である。さらに、修復した歯の表面は、修復部の縁部周囲がさらに齲蝕になり得る。大部分の先進国におけるフッ素の使用によって齲蝕の罹患率は低減してきてはいるものの、この疾患は依然として公衆衛生上の大きな問題となっている。歯の侵食/腐食は、食事性酸または逆流した酸による歯のミネラル分の喪失である。象牙質知覚過敏は、保護石灰化層の喪失により露出した象牙細管によるものであり、セメント質および歯石は、歯の表面へのリン酸カルシウムミネラルの望ましくない付着物である。従って、これらの全ての状態、齲蝕、歯の侵食/腐食、象牙質知覚過敏および歯石は、リン酸カルシウムレベルの不均衡である。齲蝕、歯の侵食/腐食、および象牙質知覚過敏は、失われたリン酸カルシウムを補うために生物学的に利用可能なカルシウムイオンおよびリン酸イオンを提供することにより、安定化された無定形リン酸カルシウム(ACP)を用いて処置され得る。安定化されたACPは、歯石の表面にも結合して、さらなる付着を防ぎ得る。従って、安定化されたACPおよび安定化された無定形リン酸フッ化カルシウム(ACFP)は、口腔疾患およびその他の医学的状態の予防および処置において大きな役割を果たし得る。
【0003】
カゼインはミルク中にミセル形態で存在し、これらのミセルは、直径約100nmの概ね球状をした粒子であり、水、塩、乳糖およびホエイタンパク質の連続相中に分散していると考えられている。カゼインミセルは、骨および歯を形成するカルシウムおよびリン酸イオンの生物学的に利用可能な供給源を提供する、リン酸カルシウムの担体の役割を果たす。カルシウムおよびリン酸イオンを可溶性および生物学的利用性の状態に維持するカゼインミセルの能力は、カゼインホスホペプチド(CPP)として知られる、カゼインのトリプシン処理された多リン酸化ペプチドによって保持されている。特許文献1には、アルカリ性pHで生成されたカゼインホスホペプチド−無定形リン酸カルシウム複合体(CPP−ACP)およびCPPによって安定化された無定形フッ化リン酸カルシウム複合体(CPP−ACFP)が記載されている。このような複合体は、動物およびヒトのインサイチュ齲蝕モデルにおけるエナメル質脱灰を予防し、エナメル質の表層下病変の再石灰化を促進することが示されている。
【0004】
これらの複合体を形成するのに活性であるリンペプチドは、それらが完全長カゼインタンパク質の一部であるか否かに関係なく、この形成を行う。トリプシン消化により形成される活性カゼインホスホペプチド(CPP)は、特許文献2に明記されており、これには、以下のようなペプチドBos αs1−カゼインX−5P(f59−79)[1]、Bos β―カゼインX−4P(f1−25)[2]、Bos αs2−カゼインX−4P(f46−70)[3]、およびBos αs2−カゼインX−4P(f1−21)[4]が含まれる:
【0005】
【化1】

超増量無定形リン酸カルシウム複合体の安定化を助ける活性を有するその他のカゼインホスホペプチドは、配列Ser(P)−Xaa−Glu/Ser(P)(この場合Ser(P)はホスホセリル残基を表す)を含むペプチドである。従って、超増量無定形リン酸カルシウムおよび無定形フッ化リン酸カルシウム複合体を安定化させるのに活性であるリンペプチド/リンタンパク質は、配列−A−B−C−(この場合、Aはホスホアミノ酸、好ましくはホスホセリンであり;Bはホスホアミノ酸を含む任意のアミノ酸であり;Cはグルタメート、アスパルテートまたはホスホアミノ酸のうちの1つである)を含むものである。
【0006】
特許文献1に記載の通りカゼインホスホペプチドによって安定化された無定形リン酸カルシウムは、Recaldent Pty Ltd.(オーストラリア ビクトリア)から供給されるRecaldentTMとして販売される製品にて市販されている。しかし、カゼインホスホペプチドによって安定化された無定形リン酸カルシウムのさらに効果的な形態を処置に利用することが望ましいと思われる。さらに、RecaldentTMを蒸留水のような担体に溶解させると、平衡を形成するためにイオンが周囲の水へ漏出することが避けられなくなる。これは、用途によっては、処置等のためにこの組成物により送達可能なリン酸カルシウムを低減することになる。
【特許文献1】国際公開第98/40406号
【特許文献2】米国特許第5,015,628号明細書
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0007】
例えば、本発明は以下の項目を提供する。
(項目1)
リンペプチドまたはリンタンパク質(PP)によって安定化された無定形リン酸カルシウムまたは無定形リン酸フッ化カルシウムの複合体であって、PP1モル当たりのカルシウムが約30モルよりも高いカルシウムイオン含量を有する、複合体。
(項目2)
前記PPがカゼインホスホペプチド(CPP)である、項目1に記載の複合体。
(項目3)
前記カルシウムイオン含量が、PP1モル当たりカルシウム30〜50モルの範囲内にある、項目1に記載の複合体。
(項目4)
項目1に記載の複合体を含む、口腔ケア配合物。
(項目5)
リンペプチドまたはリンタンパク質(PP)によって安定化された無定形リン酸カルシウム(ACP)および/または無定形リン酸フッ化カルシウム(ACFP)の複合体であってPP1モル当たりのカルシウムが約30モルよりも高いカルシウムイオン含量を有する複合体を生成するための方法であって、
(i)PP−ACPおよび/またはPP−ACFPの複合体を含む溶液を得る工程;ならびに
(ii)該溶液のpHを7未満に保持しながらカルシウムイオンおよびリン酸イオンと混合する工程
を包含する、方法。
(項目6)
PPによって安定化されたACPおよび/またはACFPの複合体を少なくとも等重量のリン酸カルシウムと一緒にした配合物。
(項目7)
前記リン酸カルシウムがCaHPOの形態にある、項目6に記載の配合物。
(項目8)
項目7に記載の配合物を含む、口腔ケア配合物。
(項目9)
歯の表面または表層下を再石灰化するための方法であって、リンペプチドまたはリンタンパク質(PP)によって安定化された無定形リン酸カルシウムまたは無定形リン酸フッ化カルシウムの複合体を該歯の表面または表層下に適用する工程を包含し、該複合体がPP1モル当たりカルシウム約30モルより高いカルシウムイオン含量を有する、方法。
(項目10)
ヒトを含む動物における齲蝕、歯の侵食/腐食、象牙質知覚過敏および歯石の1つ以上を処置および/または予防する方法であって、リンペプチドまたはリンタンパク質(PP)によって安定化された無定形リン酸カルシウムまたは無定形リン酸フッ化カルシウムの複合体を歯の表面または表層下に適用する工程を包含し、該複合体がPP1モル当たりカルシウム約30モルより高いカルシウムイオン含量を有する、方法。
(発明の要旨)
一態様において、本発明は「超増量」リンペプチドまたはリンタンパク質(PP)によって安定化された無定形リン酸カルシウム(ACP)または無定形リン酸フッ化カルシウム(ACFP)の複合体を提供する。この複合体は、任意のpH(例えば、3〜10)で形成され得る。好ましくは、リンペプチドは、配列−A−B−C−(この場合、Aはホスホアミノ酸、好ましくはホスホセリンであり;Bはホスホアミノ酸を含む任意のアミノ酸であり;Cはグルタメート、アスパルテートまたはホスホアミノ酸である)を含む。ホスホアミノ酸はホスホセリンであり得る。PPは、カルシウムイオンおよびリン酸イオンが超増量されている。カルシウムイオンは、PP1モル当たりCaが30〜1,000モルの範囲内にあり得るか、またはPP1モル当たりCaが30〜100モルもしくは30〜50の範囲内にあり得る。別の実施形態において、PP1モル当たりのCaのモル数は、少なくとも25、30、35、40、45または50である。リン酸イオンは一般的に、カルシウムイオンに対する比率(Ca:P)が1.5〜1.8:1にて存在する。1つの実施形態において、この比は約1.58:1である。
【0008】
さらなる態様において、本発明は、リンペプチドまたはリンタンパク質(PP)によって安定化された無定形リン酸カルシウムまたは無定形リン酸フッ化カルシウムの複合体であって、PP1モル当たりのカルシウムが約30モルよりも高いカルシウムイオン含量を有する複合体を提供する。
【0009】
好ましい実施形態において、カルシウムイオン含量は、PP1モル当たりのカルシウムが約30〜100モルの範囲内にある。より好ましくは、カルシウムイオン含量は、PP1モル当たりのカルシウムが約30〜約50モルの範囲内にある。
【0010】
本発明はさらに、上述のPPによって安定化されたACPまたはACFPの複合体の水性配合物に関する。
【0011】
本明細書で使用される「含む(comprises)」という用語(またはその文法上の変形)は、「含む(includes)」という用語と同等であり、交換可能に使用され得、その他の要素または特徴の存在を排除するものと見なしてはならない。
【0012】
驚いたことに、WO98/40406号に記載の方法を使用して生成されるようなカゼインホスホペプチド−無定形リン酸カルシウム(CPP−ACP)の、エナメル質表層下病変(齲歯の早期段階)を再石灰化(修復)する活性は、可能であるとされる量を上回るカルシウムおよびリン酸イオンをカゼインホスホペプチドに超増量することによって、実質的に増大させることができる。このカルシウムは、CaHPO、または乳酸カルシウムおよびリン酸水素ナトリウム、またはカルシウム塩またはリン酸塩のその他の好適な形態であってもよい。
【0013】
本発明の複合体のPPは、カゼインリン酸ペプチド(CPP)であり得、これはインタクトなカゼインまたはカゼインの断片であり得る。形成されたCPP−無定形リン酸カルシウム複合体は、コロイド複合体であり得、この場合、コア粒子が凝集して、水に懸濁した大径の(例えば100nm)コロイド粒子を形成する。
【0014】
PPは何れの供給源に由来するものであってもよく;完全長カゼインポリペプチドを含めたより大きなポリペプチド中に存在してもよく、あるいは、カゼインまたはホスビチンのようなその他のホスホアミノ酸リッチタンパク質のトリプシン消化または化学的消化(例えばアルカリ性加水分解)によって、あるいは化学合成または組み換え合成によって単離されてもよいが、但し、これは、配列−A−B−C−を含む。このコア配列に隣接する配列は、任意の配列であり得る。しかし、αs1(59−79)[1]、β(1−25)[2]、αs2(46−70)[3]、およびαs2(1−21)[4]中の隣接配列が好ましい。これらの隣接配列は、1つ以上の残基の欠失、付加または保存的置換によって改変され得る。このアミノ酸組成物および隣接領域の配列は、重要ではないものの、好ましい隣接領域は、モチーフの構造的作用に寄与してペプチドのコンホメーションを維持し、全てのホスホリル基およびカルボキシル基がカルシウムイオンと相互作用できるようにする。
【0015】
好ましい実施形態において、PPは、αs1(59−79)[1]、β(1−25)[2]、αs2(46−70)[3]、およびαs2(1−21)[4]からなる群から選択される。
【0016】
好ましい実施形態において、PPによって安定化されたACPまたはACFP中の少なくとも40重量%のPPは、上記のペプチド[1]〜[4]の1つ以上であるかそれらを含むタンパク質またはタンパク質断片の混合物である。好ましくは、PPによって安定化されたACPまたはACFP中PPの少なくとも60重量%、より好ましくは少なくとも70重量%が、ペプチド[1]〜[4]であるかそれらを含むタンパク質またはタンパク質断片の混合物である。
【0017】
リンペプチドは、超増量カルシウム、リン酸塩(およびフッ化物)を安定化させて準安定溶液を生成すると考えられている。この結合は、ACPまたはACFPがリン酸カルシウムの核形成および沈殿を開始するサイズに成長するのを阻害すると考えられている。このように、カルシウム、およびフッ化物イオンのようなその他のイオンは、例えば歯の表面に局在して、脱灰を予防し、齲蝕の形成を予防または低減することができる。
【0018】
そのため、さらなる態様において、本発明は、上述のような安定した超増量ACFP複合体または安定した超増量ACP複合体であって、標的部位において、カルシウム、フッ化物およびリン酸塩イオンを含むがこれらに限定されないイオンを共局在させる送達ビヒクルとして作用する複合体を提供する。好ましい実施形態において、複合体は、優れた齲食予防作用を生じる徐放性無定形剤形中にある。
【0019】
さらなる態様において、本発明は又、上述のようなACPまたはACFPの安定した超増量複合体を生成する方法であって、
(i)カルシウム、無機リン酸塩およびフッ化物(場合による)を含む溶液を得る工程;ならびに
(ii)PP−ACPを含む溶液と(i)を混合する工程
を包含する方法も提供する。
【0020】
好ましい実施形態において、PPは、カゼインホスホペプチド(CPP)である。
【0021】
本発明のさらなる態様においては、PPによって安定化されたACPおよび/またはACFPのACP/ACFPとしてのカルシウム(およびリン酸塩)イオン含量を増大させる方法であって、
(i)カルシウム、無機リン酸塩およびフッ化物(場合による)からなる溶液を得る工程;ならびに
(ii)PP−ACPおよび/またはPP−ACFPを含む溶液と(i)を混合する工程;
あるいは
(i)カルシウム(例えば、CaHPO、乳酸カルシウム等)を含む粉末を得る工程;ならびに
(ii)PP−ACPおよび/またはPP−ACFP粉末と(i)を混合する工程
を包含する方法が提供される。
【0022】
RecaldentTMとして知られる商品中のPP−ACP複合体のリン酸カルシウム充填量を増大させると、特定の用途に好適であるよりも粘性の高い調剤が生成され得ることが、既に見出されている。従って、用途によっては、PP−ACPをリン酸カルシウム(特にCaHPO)と乾燥混合させた後に、配合物、例えば練り歯磨きまたはチューインガムのような口腔ケア配合物に混入するのが有用である。
【0023】
本発明のさらなる態様においては、PP1モル当たりのカルシウムが約30モルよりも高いカルシウムイオン含量を有する、リンペプチドまたはリンタンパク質(PP)によって安定化された無定形リン酸カルシウム(ACP)または無定形リン酸フッ化カルシウム(ACFP)の複合体を生成する方法であって、
(i)PP−ACPおよび/またはPP−ACFPの複合体を含む溶液を得る工程;
(ii)溶液のpHを7未満に保持しながらカルシウムおよびリン酸イオンと混合する工程
を包含する方法が提供される。
【0024】
本発明のさらなる態様においては、PPによって安定化されたACPおよび/またはACFPの複合体を少なくとも等重量のリン酸カルシウムと一緒にした配合物が提供される。好ましくは、リン酸カルシウムはCaHPOである。好ましくは、リン酸カルシウム(例えばCaHPO)は、PPによって安定化されたACPおよび/またはACFPの複合体と乾燥混合される。好ましい実施形態において、PP−ACPおよび/またはPP−ACFPの複合体とリン酸カルシウムとの比率は、約1:1〜50、より好ましくは約1:1〜25、より好ましくは約1:5〜15である。一実施形態において、PP−ACPおよび/またはPP−ACFPの複合体とリン酸カルシウムとの比率は、約1:10である。
【0025】
本発明のさらなる態様においては、上述のように、PPによって安定化されたACPおよび/またはACFPの複合体を少なくとも等しい重量のリン酸カルシウムと一緒にした配合物を含む口腔ケア組成物が提供される。
【0026】
本発明のさらなる態様においては、口腔内に使用する時にPP1モル当たりのカルシウムが約30モルより高いカルシウムイオン含量を有する、リンペプチドまたはリンタンパク質(PP)によって安定化された無定形リン酸カルシウム(ACP)および/または無定形リン酸フッ化カルシウム(ACFP)の複合体を含む口腔ケア配合物を生成する方法であって、
(i)PP−ACPおよび/またはPP−ACFPの複合体を含む粉末を得る工程;
(ii)有効量のリン酸カルシウムと乾燥混合させる工程;ならびに
(iii)乾燥混合されたPP−ACPおよび/またはPP−ACFPおよびリン酸カルシウム混合物を口腔ケア配合物に配合する工程
を包含する方法が提供される。
【0027】
好ましくは、乾燥混合させるリン酸カルシウムの形態は、CaHPOである。
【0028】
好ましくは、口腔ケア配合物は、練り歯磨き、歯科用クリーム;チューインガム;ロゼンジ;含嗽薬および歯磨き粉からなる群から選択される。何らかの理論または作用様式に束縛されるわけではないが、生理学的に許容される担体への複合体の混入によって本来の希釈が行われ、さらに歯科用途における唾液中にて希釈が行われるにもかかわらず、「超増量」リンペプチドは、十分に高い濃度のカルシウムおよびリン酸イオン、特に場合によりACPおよびACFPを送達できると考えられている。そのため、この配合物はカルシウムおよびリン酸イオンのイオン種形成を維持する。本発明は、送達部位における増量されたACP−ACFPを対象とする。これは、ACP/ACFP含量が高い出発原料、および/または製造と使用の間におけるACP/ACFPの喪失または漏出の低減によって達成することができる。
【0029】
これらの超増量複合体は又、食事不耐性、アレルギー、または宗教的または文化的要因のような何らかの理由によって、食事におけるカルシウム必要量を供給するのに充分な量の乳製品を消費できない、または消費したがらない対象の栄養補助食品としても有用である。本発明の超増量複合体は、骨の成長の促進を必要とする対象、例えば、骨折修復、関節置換、骨移植または頭蓋顔面手術を受ける対象のカルシウムアジュバントとして有用である。
【0030】
本発明のさらなる態様においては、歯を再石灰化する方法であって、上述のような超増量複合体を望ましくは薬学的に許容される担体にて歯に適用することを含む方法が提供される。この複合体は、リン酸カルシウム、フッ化カルシウムまたはその両方を含み得る。この方法は、好ましくは処置を必要とする対象に適用する。
【0031】
さらなる態様において、本発明は、歯の表面または表層下を再石灰化する方法であって、PP1モル当たりのカルシウムが約30モルより高いカルシウムイオン含量を有する、リンペプチドまたはリンタンパク質(PP)によって安定化された無定形リン酸カルシウムまたは無定形リン酸フッ化カルシウムの複合体を、歯の表面または表層下に適用する工程を含む方法を提供する。
【0032】
本発明のさらなる態様においては、歯の表面または表層下を再石灰化する医薬品の製造における、PP1モル当たりのカルシウムが約30モルより高いカルシウムイオン含量を有する、リンペプチドまたはリンタンパク質(PP)によって安定化された無定形リン酸カルシウムまたは無定形リン酸フッ化カルシウム複合体の使用が提供される。
【0033】
本発明のさらなる態様においては、歯の表面または表層下を再石灰化するための、PP1モル当たりのカルシウムが約30モルより高いカルシウムイオン含量を有する、リンペプチドまたはリンタンパク質(PP)によって安定化された無定形リン酸カルシウムまたは無定形リン酸フッ化カルシウムの複合体の使用が提供される。
【0034】
好ましくは、歯の表面または表層下は、歯のエナメル質であり、より好ましくは歯のエナメル質における表面または表層下の病巣である。
【0035】
安定したACFPまたはACP超増量複合体は、練り歯磨き、含嗽薬または口内用配合物のような口腔ケア組成物に混入される場合もあれば、これらの組成物中で形成する場合もある。これは、例えば、齲蝕または齲歯の予防および/または処置を助け得る。ACFPまたはACP超増量複合体(単独でCPP−ACPおよび/またはCPP−ACFPの複合体を含むか、あるいはリン酸カルシウム(例えばCaHPO)と共にCPP−ACPおよび/またはCPP−ACFPの複合体を含み得る)は、組成物の0.01〜50重量%、好ましくは0.1〜25%、より好ましくは0.5〜20%、および場合により0.5〜10%を含み得る。口腔組成物の場合、CPP−ACPおよび/またはCPP−ACFPの投与量は、組成物の0.01〜50重量%、好ましくは0.5%〜20%または0.5%〜10%であることが好ましい。特に好ましい実施形態において、本発明の口腔組成物は、約1〜5%の超増量CPP−ACP(sCPP−ACP)を含む。上記の薬剤を含む本発明の口腔組成物は、例えば、練り歯磨き、歯磨き粉および液体歯磨き剤等の歯磨き剤、含嗽薬、トローチ、チューインガム、歯科用ペースト、歯肉マッサージクリーム、嗽錠剤、乳製品およびその他の食品のような、口内に適用可能な種々の形態で調製および使用され得る。本発明による口腔組成物は、それぞれの口腔組成物の種類および形態に応じて、追加の周知の成分をさらに含み得る。
【0036】
本発明の特定の好ましい形態において、口腔組成物は、含嗽薬またはリンスのように、実質的に液体の性質であり得る。このような調剤において、ビヒクルは一般的に、望ましくは以下に記載するような湿潤剤を含む、水とアルコールの混合物である。一般的に、水とアルコールの重量比は、約1:1〜約20:1の範囲内にある。この種の調剤中における水とアルコールの混合物の合計量は、一般的に調剤の約70〜約99.9重量%の範囲内にある。アルコールは一般的にエタノールまたはイソプロパノールであるが、エタノールが好ましい。
【0037】
本発明のこのような液体およびその他の調剤のpHは、一般的に約3〜約10の範囲内にあり、典型的には約5.0〜7.0の範囲内にある。このpHは、酸(例えば、クエン酸または安息香酸)または塩基(例えば水酸化ナトリウム)で調節してもよければ、あるいは(クエン酸ナトリウム、安息香酸塩、炭酸塩または重炭酸塩、水素化リン酸二ナトリウム、二水素リン酸ナトリウム等で)緩衝化してもよい。
【0038】
一実施形態において、本発明の口腔組成物は、約5.5のpHを有する。
【0039】
従って、本発明のさらなる態様においては、歯の表面または表層下を再石灰化する組成物であって、PP1モル当たりのカルシウムが約30モルより高いカルシウムイオン含量を有する、リンペプチドまたはリンタンパク質(PP)によって安定化された無定形リン酸カルシウムまたは無定形リン酸フッ化カルシウムの複合体を、薬学的に許容される担体および/またはアジュバントと共に含む組成物が提供される。
【0040】
本発明のさらなる態様においては、歯の表面または表層下を再石灰化する組成物であって、PP1モル当たりのカルシウムが約30モルより高いカルシウムイオン含量を有する、リンペプチドまたはリンタンパク質(PP)によって安定化された無定形リン酸カルシウムまたは無定形リン酸フッ化カルシウムの複合体と共に、薬学的に許容される担体および/またはアジュバントとにより本質的に構成される組成物が提供される。
【0041】
別の実施形態において、本発明による口腔組成物は、カルシウムキレート剤、例えばピロリン酸塩、ポリホスフェート、クエン酸塩、EDTA等を含む。
【0042】
本発明の他の望ましい形態において、口腔組成物は、歯磨き粉、歯科用錠剤、または練り歯磨き(歯科用クリーム)またはゲル状歯磨きのように、実質的に固体またはペースト状の性質であり得る。このような固体またはペースト状の口腔調剤は、一般的に歯科学的に許容される研磨剤を含む。研磨剤の例としては、水不溶性メタリン酸ナトリウム、メタリン酸カリウム、リン酸三カルシウム、リン酸カルシウム二水和物、無水リン酸二カルシウム、ピロリン酸カルシウム、オルトリン酸マグネシウム、リン酸三マグネシウム、炭酸カルシウム、水和アルミナ、焼成アルミナ、ケイ酸アルミニウム、ケイ酸ジルコン、シリカ、ベントナイト、およびそれらの混合物である。その他の好適な研磨剤としては、メラミン−、フェノール−および尿素−ホルムアルデヒド、および架橋ポリエポキシドおよびポリエステルのような粒状熱硬化性樹脂が挙げられる。好ましい研磨剤としては、約5ミクロン以下の粒子サイズ、約1.1ミクロン以下の平均粒子サイズ、および約50,000cm/g以下の表面積を有する結晶性シリカ、シリカゲルまたはコロイドシリカ、ならびに複合無定形アルカリ金属アルミノケイ酸塩が挙げられる。
【0043】
見た目に透明なゲルを使用する場合には、Syloid 72およびSyloid 74のような商標名SYLOID、あるいはSantocel 100のような商標名SANTOCELで販売されているようなコロイドシリカの研磨剤、即ち、アルカリ金属アルミノケイ酸塩複合体が特に有用である。なぜなら、これらの複合体の屈折率が、歯磨き粉に共通して使用されるゲル化剤−液体(水および/または保湿剤を含む)系の屈折率に近いためである。
【0044】
いわゆる「水不溶性」研磨剤の多くは、陰イオンの性質をしており、少量の溶解性物質も含む。そのため、不溶性メタリン酸ナトリウムは、例えばThorpe’s Dictionary of Applied Chemistry, Volume 9,4th Edition, pp.510−511で例示されるような、任意の好適な方法で形成され得る。Madrell’s saltおよびKurrol’s saltとして知られる不溶性メタリン酸ナトリウムの形態が、好適な物質のさらなる例である。これらのメタリン酸塩は、僅かな水溶解性しか示さないため、通常は不溶性メタリン酸塩(IMP)と呼ばれる。これらの中には、不純物として少量の可溶性リン酸塩物質が、通常の場合、数重量%(例えば4重量%以下)存在する。不溶性メタリン酸塩の場合に可溶性トリメタリン酸ナトリウムを含むと考えられている可溶性リン酸塩物質の量は、所望の場合水で洗浄することによって、低減または除去され得る。不溶性アルカリ金属メタリン酸塩は一般的に、本物質の1%以下で37ミクロンを超えるような粒子サイズの粉末形態で使用される。
【0045】
研磨剤は一般的に、約10重量%〜約99重量%の濃度で固体またはペースト状の組成物中に存在する。好ましくは、研磨剤は、練り歯磨き中に約10%〜約75%の量で存在し、歯磨き粉中に約75%〜約99%の量で存在する。練り歯磨きにおいて、研磨剤が珪素系の性質である場合には、一般的に約10〜30重量%の量で存在する。その他の研磨剤は、一般的に約30〜75重量%の量で存在する。
【0046】
練り歯磨きにおいて、液状ビヒクルは、一般的に調剤の約10重量%〜約80重量%の量の水および保湿剤を含み得る。グリセリン、プロピレングリコール、ソルビトールおよびポリプロピレングリコールは、好適な保湿剤/担体の例である。水、グリセリンおよびソルビトールの液体混合物も好都合である。屈折率が重要となる透明なゲルにおいて、約2.5〜30重量/重量%の水、0〜約70重量/重量%のグリセリン、および約20〜80重量/重量%のソルビトールを使用するのが好ましい。
【0047】
練り歯磨き、クリームおよびゲルは、一般的に約0.1〜約10、好ましくは約0.5〜約5重量/重量%の割合で、天然若しくは合成増粘剤またはゲル化剤を含む。好適な増粘剤は、合成ヘクトライト、即ち、例えばLaporte Industries Limitedにより販売されているLaponite(例えばCP、SP2002、D)として入手可能な合成コロイドマグネシウムアルカリ金属ケイ酸塩複合体クレイである。Laponite Dは、重量で約58.00%のSiO、約25.40%のMgO、約3.05%のNa0、約0.98%のLiO、ならびに幾らかの水および微量の金属である。その真比重は2.53であり、見掛け嵩密度は湿度8%で1.0g/mlである。
【0048】
その他の好適な増粘剤としては、トチャカ、イオタカラギナン、トラガカントガム、澱粉、ポリビニルピロリドン、ヒドロキシエチルプロピルセルロース、ヒドロキシブチルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース(例えば、Natrosolとして入手可能)、ナトリウムカルボキシメチルセルロース、ならびに微細に粉砕されたSyloid(例えば244)のようなコロイドシリカが挙げられる。プロピレングリコール、ジプロピレングリコールおよびヘキシレングリコールのような保湿ポリオール;メチルセロソルブおよびエチルセロソルブのようなセロソルブ;オリーブオイル、ヒマシ油およびワセリンのような、直鎖に少なくとも約12個の炭素を有する植物性油およびワックス;ならびに酢酸アミル、酢酸エチルおよび安息香酸ベンジルのようなエステルといった可溶化剤が含まれる場合もある。
【0049】
口腔調剤は、従来通り、好適なラベルを貼ったパッケージに入れて販売されるか、あるいは流通されるべきであることが理解されるであろう。そのため、マウスリンスのジャーは、本質的にマウスリンスまたは含嗽薬であると記載し、使用上の注意事項を記載したラベルを有し;練り歯磨き、クリームまたはゲルは通常、本質的に練り歯磨き、ゲルまたは歯科用クリームであると記載したラベルを有する押出しチューブ(一般的にはアルミニウム製、鉛張りまたはプラスチック張り)、あるいは含量を計量するその他のスクィーズ式、ポンプ式または加圧式ディスペンサーに入れられる。
【0050】
本発明の組成物では、有機界面活性剤が使用されて、予防作用を増大させ、口腔全体へ活性剤を十分且つ完全に分散させるのを助け、本発明の組成物を化粧品としてより許容されるものにし得る。有機界面活性剤は、好ましくは陰イオン性、非イオン性または両性の性質をしており、好ましくは活性剤と相互作用しない。界面活性剤としては、組成物に洗浄および発泡特性をもたらす洗浄剤を使用するのが好ましい。陰イオン性表面剤の好適な例には、硬化ココナッツオイル脂肪酸の一硫化モノグリセリドのナトリウム塩のような高級脂肪酸一硫酸モノグリセリド;ラウリル硫酸ナトリウムのような高級硫化アルキル、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムのようなアルキルアリールスルホン酸塩;ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムのようなアルキルアリールスルホン酸塩;高級アルキルスルホ−アセテート;1,2−ジヒドロキシプロパンスルホネートの高級脂肪酸エステル;および低級脂肪酸アミノカルボキシ酸化合物の実質的に飽和した高級脂肪族アシルアミド(例えば、脂肪酸、アルキルまたはアシル基に12個〜16個の炭素を有するアミド)等がある。最後に述べたアミドの例には、N−ラウロイルサルコシン、ならびに石鹸または類似の高級脂肪酸物質を実質的に含まないN−ラウロイル、N−ミリストイルまたはN−パルミトイルサルコシンのナトリウム塩、カリウム塩およびエタノールアミン塩がある。本発明の口腔組成物におけるこれらのサルコナイト化合物の使用は、特に好都合である。なぜなら、これらの物質は、酸溶液における歯のエナメル質の溶解度の幾分低下させることに加えて、炭水化物の分解によって口腔内における酸形成を阻止する効果を長期間示すためである。使用するのに好適な水溶性非イオン性界面活性剤の例には、長い疎水性鎖(例えば約12〜20個の炭素からなる脂肪族鎖)を有する、エチレンオキシドと種々の反応性水素含有化合物との縮合生成物があり、これらの縮合生成物(「エトキサマー」)は、親水性ポリオキシエチレン部分、例えば、ポリ(エチレンオキシド)と脂肪酸、脂肪アルコール、脂肪アミド、多価アルコール(例えば、ソルビタンモノステアレート)およびポリプロピレンオキシド(例えば、Pluronic物質)の縮合生成物を含む。
【0051】
界面活性剤は、一般的に約0.1〜5重量%の量で存在する。界面活性剤は、本発明の活性剤の溶解を助けることによって、必要とされる溶解保湿剤の量を減らし得ることは、注目すべき点である。
【0052】
本発明の口腔調剤には、漂白剤、保存剤、シリコン、クロロフィル化合物、および/または尿素、リン酸二アンモニウムのようなアンモニア材料、ならびにそれらの混合物といったその他種々の物質が混入され得る。これらのアジュバントは、存在する場合、所望の特性および特徴に実質的に悪影響を与えない量で調剤に混入される。
【0053】
着香剤または甘味剤は、何れの好適なものも使用され得る。好適な着香成分の例には、着香オイル(例えば、スペアミント、ペパーミント、ウインターグリーン、サッサフラス、クローブ、セージ、ユーカリ、マヨラナ、シナモン、レモンおよびオレンジのオイル、ならびにサリチル酸メチルがある。好適な甘味剤には、蔗糖、乳糖、マルトース、ソルビトール、キシリトール、サイクラミン酸ナトリウム、ペリラルチン、AMP(アスパルチルフェニルアラニン、メチルエステル)、サッカリン等がある。好適には、着香剤および甘味剤は、それぞれまたは一緒になって、調剤の約0.1%〜5%以上を含み得る。
【0054】
本発明は又、上述のような組成物の使用も提供する。本発明の好ましい実施において、本発明の組成物を含む含嗽薬または歯磨き粉のような、本発明による口腔組成物は、定期的に(例えば、毎日若しくは2日毎若しくは3日毎に、または好ましくは1日1〜3回)、好ましくは約3.0〜約10.0、より好ましくは5.0〜約9.0のpHで、少なくとも2週間〜8週間以上または一生にわたり、歯肉および歯に適用される。一実施形態において、口腔組成物のpHは、約5.0、5.5、6.0、6.5、7.0、7.5、8.0、8.5、9.0である。
【0055】
本発明の組成物は又、例えば、温かいガムベースに撹拌するか、またはガムベースの表面を被覆することによって、ロゼンジに、またはチューインガムに、またはその他の製品に混入してもよい。ガムベースの例は、望ましくは従来の可塑剤または軟化剤、砂糖、あるいはグルコース、ソルビトール等のその他の甘味剤と一緒にした、ジェルトン、ゴムラテックス、ビニライト樹脂等である。
【0056】
別の実施形態において、本発明の複合体は、好ましくは0.1〜100重量/重量%、より好ましくは1〜50重量/重量%、最も好ましくは1〜10%、および特に2重量/重量%の食料品を含む栄養補助食品を形成するように配合される。本複合体は又、食品に混入される場合もある。
【0057】
さらなる態様において、本発明は、上述のような超増量ACFPおよび/またはACP複合体の何れかを、薬学的に許容される担体と一緒に含む薬学的組成物を含む組成物を提供する。このような組成物は、歯科用抗齲食性組成物、治療用組成物、および栄養補助食品からなる群から選択され得る。歯科用組成物または治療用組成物は、ゲル、液体、固体、粉末、クリームまたはロゼンジの形態であり得る。治療用組成物は又、錠剤またはカプセルの形態である場合もある。一実施形態において、超増量ACPおよび/またはACFP複合体は、実質的にこのような組成物の再石灰化活性化合物にすぎない。さらなる実施形態において、超増量ACPおよび/またはACFPは、口腔ケア組成物である組成物が口腔内の唾液と接触した後に形成する。
【0058】
さらなる態様においては、齲蝕または齲歯、歯牙浸食/腐食、象牙質知覚過敏、および歯石を処置または予防する方法であって、処置を必要とする対象の歯または歯肉に本発明の複合体または組成物を投与する工程を含む方法が提供される。複合体の局所投与が好ましい。
【0059】
本発明のさらなる態様によれば、本発明による超増量ACFPおよび/またはACP複合体を添加した歯科用修復材を含む、歯科修復用組成物が提供される。歯科用修復材の基部は、グラスアイオノマーセメント、複合材料、またはその他何れかの適合する修復材であってよい。歯科用修復材に含まれる超増量CPP−ACP複合体または超増量CPP−ACFP複合体の量は、0.01〜80重量%、好ましくは0.5〜10重量%、より好ましくは1〜5重量%であるのが好ましい。上述の薬剤を含む本発明の歯科用修復材は、歯科用途での実施に適用可能な種々の形態で調製および使用され得る。本発明による歯科用修復材はさらに、それぞれの歯科用修復材の種類および形態に応じて、その他のイオン(例えば、抗菌イオンZn2+、Ag等)またはその他の追加の成分を含み得る。超増量CPP−ACP複合体または超増量CPP−ACFP複合体のpHは、2〜10、より好ましくは5〜9、さらに好ましくは5〜7であるのが好ましい。超増量CPP−ACP複合体または超増量CPP−ACFP複合体を含む歯科用修復材料のpHは、2〜10、より好ましくは5〜9、さらに好ましくは5〜7であるのが好ましい。
【0060】
本発明は又、修復組成物の製造方法も対象とする。好ましくは、本方法は、上述のような超増量ACPおよび/またはACFP複合体を基部の歯科用修復材に添加することを含む。本発明は又、上述のような修復組成物を齲蝕の処置および/または予防に使用することにも関する。
【0061】
本発明のさらなる態様においては、歯科用修復組成物の調製に使用するキットであって、(a)歯科用修復材、および(b)PP1モル当たりのカルシウムが約30モルより高いカルシウムイオン含量を有する、リンペプチドまたはリンタンパク質(PP)によって安定化された無定形リン酸カルシウムおよび/または無定形フッ化リン酸カルシウムの複合体を含むキットも提供される。本キットは場合により、歯科用修復組成物の調製に使用するための説明書を含み得る。
【0062】
好ましい実施形態において、歯科用修復材は、多孔性の歯科用セメントである。さらに好ましい実施形態において、歯科用修復材料は、グラスアイオノマーセメントである。何らかの理論または作用様式に拘束されるわけではないが、グラスアイオノマーセメントのような特定の種類の多孔性歯科用セメントにおける微孔は、本発明の複合体を歯表面へ通過させて、歯科用物質の再石灰化を促進する。
【0063】
本発明は又、歯科用修復組成物の調製に使用するキットであって、(a)歯科用修復材、および(b)超増量CPP−ACP複合体および/または超増量CPP−ACFP複合体を含むキットにも関する。
【0064】
本発明は又、歯科用修復組成物の調製に使用するキットであって、(a)歯科用修復材、(b)カゼインホスホペプチド、(c)カルシウムイオン、および(d)リン酸イオン、ならびに場合によりフッ化物イオンを含むキットにも関する。本キットは場合により、歯科用修復組成物の調製に使用するための説明書を含み得る。
【0065】
本発明は又、ヒトを含む動物における齲蝕、歯の侵食/腐食、象牙質知覚過敏および歯石を処置および/または予防する方法であって、本発明による組成物あるいは本発明により製造される組成物を用意する工程、処置および/または予防を必要とする動物の歯に適用する工程を含む方法も提供する。
【0066】
さらなる態様において、本発明は、身体、特に骨のカルシウムの喪失、カルシウムの欠乏、カルシウム吸収不良等に関連する1つ以上の状態を処置する方法に関する。このような状態の例としては、骨粗しょう症および骨軟化症が挙げられるが、これらに限定されない。一般的には、カルシウムの生物学的利用性を増大させることによって改善することができる状態であれば何れも考慮される。
【0067】
本発明のさらなる態様においては、齲蝕または齲歯、歯牙浸食/腐食、象牙質知覚過敏および歯石を処置または予防する組成物の製造における、PP1モル当たりのカルシウムが約30モルよりも高いカルシウムイオン含量を有する、リンペプチドまたはリンタンパク質(PP)によって安定化された無定形リン酸カルシウムおよび/または無定形フッ化リン酸カルシウムの複合体の使用が提供される。
【0068】
本発明のさらなる態様においては、齲蝕または齲歯、歯牙浸食/腐食、象牙質知覚過敏および歯石を処置または予防するための、PP1モル当たりのカルシウムが約30モルより高いカルシウムイオン含量を有する、リンペプチドまたはリンタンパク質(PP)によって安定化された無定形リン酸カルシウムおよび/または無定形フッ化リン酸カルシウムの複合体の使用が提供される。
【0069】
本明細書では特にヒトにおける用途を言及しているが、本発明は獣医学的の目的にも有用であることが明確に理解されるであろう。そのため、全ての態様において、本発明は、牛、羊、馬および家禽のような家畜;猫および犬のような愛玩動物;ならびに動物園の動物に対して有用である。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】カルシウムおよびリン酸イオンを超増量したCPPによる、インビトロにおけるエナメル質表層病変の再石灰化の増大。
【図2】リン酸カルシウムを超増量したCPPを含有する練り歯磨きによる、インビトロにおけるエナメル質表層病変の再石灰化の増大。
【実施例】
【0071】
次に、以下の非限定的な実施例を参照しながら、本発明を説明する。
(実施例1)
RecaldentTM(CPP−ACP)は、オーストラリア ビクトリアのRecaldent Pty Ltd.から販売されたものである。この製品(#841117)は、14.3重量%のカルシウム、22.3重量%のリン酸塩、および47重量%のカゼインホスホペプチドを含んでいた。この製品を0.5%溶解し、HClを添加してpH5.5に調節した。次いで、2.5MのNaOHを添加してpHを5.5に維持しながら、3.25MのCaClおよび2MのNaHPOを滴下することにより、カルシウムおよびリン酸イオンを添加した。この溶液が半透明になるまで、カルシウムおよびリン酸イオンの滴下を続けた。添加したカルシウムとリン酸塩の濃度を記録した。この溶液は又、カルシウムおよびリン酸イオンを0.5%のCPP−ACP溶液に滴下し、さらにリン酸カルシウムを添加してpHを5.5に低下させることによっても形成され得る。
【0072】
【表1】

これらの結果は、CPP−ACPにカルシウムおよびリン酸イオンを超増量することにより、熱力学的に安定した複合体を準安定溶液中に生成できることを示している。
【0073】
(実施例2)
別の実施例においては、RecaldentTM(CPP−ACP)粉末をCaHPO粉末と、CPP−ACP:CaHPO=1:10の重量比で乾燥混合させた。次いで、この粉末を無糖のガムおよび練り歯磨き配合物に1〜5重量/重量%で添加した。
【0074】
(実施例3)
通常CPP−ACPおよび超増量CPP−ACP(sCPP−ACP)によるインビトロにおけるエナメル質表層下病変の再石灰化の比較
抜歯したヒト第3大臼歯の研磨したエナメル質表層を、鋸でひいて平板(8×4mm)に切断し、酸耐性マニキュア液を被覆して、1mmの間隔をおいた咬合側半分および歯肉側半分の近遠心窓(1×7mm)を形成した(Reinolds E.C. (1997) J. Dent. Res. 76, 1587−1595)。これらの窓の中に表層下エナメル質病変を、Reinolds(Reinolds E.C. (1997) J. Dent. Res. 76, 1587−1595)が改良したWhiteのCarbopol法(White D.J. (1987) Caries Res 21, 228−242)を使用して作り出した。エナメル質の平板を鋸で半分に切断し、4×4mmブロックを形成した。一方のブロックの歯肉側半分の病変と他方のブロックの咬合側半分病変にマニキュアで封止し、Reinolds(Reinolds E.C. (1997) J. Dent. Res. 76, 1587−1595)に記載の通りに脱灰対照を作り出した。
【0075】
これらのエナメル質側半分の病変を、37℃にて10日間混合せずに、2種類の再石灰化溶液に曝した。再石灰化溶液は、塩酸でpH5.5に調節した0.5重量/容量%のCPP−ACP、ならびに実施例1で調製した超増量CPP−ACPであった。
【0076】
再石灰化後、両ブロックのそれぞれの対をエタノール中で脱水し、メタクリン酸メチル樹脂(Paladur、Kulzer[ドイツ])に埋め込んだ。これらの200〜300μmの切片を、病変の表面に対して垂直に切断し、ラップ盤で80±5μmに加工し、上述のように厚さ10×14μmのアルミニウムステップウェッジと並べて放射線透過写真を撮影した。
【0077】
病変の放射線透過画像を、Dilux 22顕微鏡(Ernst Leiz Wetzlar[ドイツ])の透過光によって造影した。これらの画像をビデオカメラ(Sony DXC 930P)で撮影し、画像化ソフトウェア(Optimas 6.2)の制御下でデジタル化した(Scion Imaginng Corporation、Colour Grabber 7)。病変、対照およびアルミニウムステップウェッジの画像を、Shen等(Shen, et al. (2001) J. Dent. Res. 80, 2066−2070)による既述の通りスキャンした。エナメル質切片の厚さを測定し、Shen等(Shen, et al. (2001) J. Dent. Res. 80, 2066−2070)による既述の通り、Angmar(Angmar B., et al. (1963) Ultrastructural Res 8, 12−23)の等式を使用して、容量%のミネラルデータを測定した。再石灰化の百分率(%R)も、Shen等(Shen, et al. (2001) J. Dent. Res. 80, 2066−2070)による既述の通り計算した。
【0078】
エナメル質表層下病変の再石灰化を図1に示す。
【0079】
図1の結果は、超増量CPP−ACP(sCPP−ACP)溶液が、通常のCPP−ACP溶液よりも、インビトロにおけるエナメル質表層下病変の再石灰化に優れていることを示している。
【0080】
(実施例4)
超増量CPP−ACP(sCPP−ACP)を含む練り歯磨き配合物がエナメル質表層下病変を再石灰化する能力を、Reinolds等(Reinolds E.C., et al. (2003) J. Dent Res. 82, 206−211)のプロトコールを使用し、インサイチュ無作為クロスオーバー二重盲検臨床試験にて調査した。10人の対象が、実施例3に記載の通り調製した表層下の脱灰病変を含む6つのヒトエナメル質の半分の平板片を使用した取り外し可能な口蓋装置を装着した。各エナメル質のもう半分の平板を加湿容器中に保存し、対照脱灰病変として使用した。この試験では以下の7つの処置を行った:即ち、0.2重量/重量%の通常CPP−ACPを含む練り歯磨きB;0.2%のCPP−ACP/1.0%のCaHPOを含む練り歯磨きC(図2および実施例5では「1.2%のsCPP−ACP」を呼ばれる);1.0%のCaHPOを含む練り歯磨きE;1,000ppmのFを含む練り歯磨きF;1.2%のsCPP−ACPおよび1,000ppmのFを含む練り歯磨きG;0.2%のCPP−ACP/1.8%のCaHPOを含む練り歯磨きD(図2および実施例5では「2.0%のsCPP−ACP」と呼ばれる);および対照練り歯磨きA(プラセボ)。これらの練り歯磨きを1日に4回30秒ずつ使用した。装置は、練り歯磨きの使用中および該練り歯磨きの使用後1時間、装着した。各処置を14日間続け、10人の対象それぞれが、各処置の間に1週間の休みを入れながら、各処置を行った。各処置の完了時にエナメル質平板を取り出し、それらの各々の脱灰対照と対にして、埋込みおよび切片化を行い、マイクロラジオグラフィーならびにコンピュータによるデンシトメトリー画像解析にかけて、再石灰化のレベルを測定した。エナメル質の再石灰化の百分率(%R)として示した結果は、図2に示されており;1.0%のCaHPO(1.2%のsCPP−ACP)または1.8%のCaHPO(2.0%のsCPP−ACP)の何れかを超増量した0.2%のCPP−ACPが、同じ濃度の通常の0.2%CPP−ACPまたはCaHPO単独よりも、エナメル質表層下病変を有意に再石灰化することを示している。2.0%のsCPP−ACPのペーストは、1,000ppmのフッ化物を含むペーストよりも有意に優れていた。さらに、1.2%のsCPP−ACPおよび1,000ppmのFは、1.2%のsCPP−ACPまたは1,000ppmのF単独よりも、さらなる効果を示した。
【0081】
(実施例5)
超増量CPP−ACP(sCPP−ACP)を含む練り歯磨き配合物
【0082】
【表2】

【0083】
【表3】

【0084】
【表4】

【0085】
【表5】

【0086】
【表6】

【0087】
【表7】

【0088】
【表8】

(実施例6)
含嗽薬配合物
【0089】
【表9】

(実施例7)
ロゼンジ配合物
【0090】
【表10】

(実施例8)
チューインガム配合物
【0091】
【表11】

本明細書で開示および定義した本発明は、本文または図面に記載した、またはこれらから明らかになる複数の個々の特徴からなる代替の組み合わせ全てに適用されることが理解されるであろう。これらの異なる組み合わせは全て、本発明の種々の態様を構成する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リンペプチドまたはリンタンパク質(PP)によって安定化された無定形リン酸カルシウム(ACP)または無定形リン酸フッ化カルシウム(ACFP)の複合体であって、PP1モル当たりのカルシウムが30モル以上のカルシウムイオン含量を有する、複合体。
【請求項2】
請求項1に記載のリンペプチドまたはリンタンパク質(PP)によって安定化された無定形リン酸カルシウム(ACP)または無定形リン酸フッ化カルシウム(ACFP)の複合体であって、
(i)PP−ACPおよび/またはPP−ACFPの複合体を含む溶液を得る工程;ならびに
(ii)該溶液のpHを7未満に保持しながらカルシウムイオンおよびリン酸イオンと混合する工程
を包含する工程によって生成される、複合体。
【請求項3】
前記PPがカゼインホスホペプチド(CPP)である、請求項1または2に記載の複合体。
【請求項4】
前記複合体のカルシウムイオン含量が、PP1モル当たりカルシウム30〜100モルの範囲内にある、請求項1から3のいずれか1項に記載の複合体。
【請求項5】
前記複合体のカルシウムイオン含量が、PP1モル当たりカルシウム30〜50モルの範囲内にある、請求項1から3のいずれか1項に記載の複合体。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか1項に記載の複合体を含む、口腔ケア配合物。
【請求項7】
前記複合体と少なくとも等重量のリン酸カルシウムまたは乳酸カルシウムをさらに含む、請求項6に記載の口腔ケア配合物。
【請求項8】
水性である、請求項6または7に記載の口腔ケア配合物。
【請求項9】
リンペプチドまたはリンタンパク質(PP)によって安定化された無定形リン酸カルシウム(ACP)および/または無定形リン酸フッ化カルシウム(ACFP)の複合体であってPP1モル当たりのカルシウムが30モル以上のカルシウムイオン含量を有する複合体を生成するための方法であって、
(i)PP−ACPおよび/またはPP−ACFPの複合体を含む溶液を得る工程;ならびに
(ii)該溶液のpHを7未満に保持しながらカルシウムイオンおよびリン酸イオンと混合する工程
を包含する、方法。
【請求項10】
リンペプチドまたはリンタンパク質(PP)によって安定化された無定形リン酸カルシウム(ACP)および/または無定形リン酸フッ化カルシウム(ACFP)の複合体を少なくとも等重量のリン酸水素カルシウムまたは乳酸カルシウムと一緒にした配合物。
【請求項11】
前記PPによって安定化された無定形リン酸カルシウム(ACP)および/または無定形リン酸フッ化カルシウム(ACFP)の複合体:リン酸水素カルシウムの重量比が1:10である、請求項10に記載の配合物。
【請求項12】
請求項10または11に記載の配合物を含む、口腔ケア配合物。
【請求項13】
口腔内で使用するときにリンペプチドまたはリンタンパク質(PP)1モル当たりのカルシウムが30モル以上のカルシウムイオン含量を有する、PPによって安定化された無定形リン酸カルシウム(ACP)および/または無定形リン酸フッ化カルシウム(ACFP)の複合体を含む口腔ケア配合物を生成する方法であって、
(i)PP−ACPおよび/またはPP−ACFPの複合体を含む粉末を得る工程;
(ii)有効量のリン酸水素カルシウムまたは乳酸カルシウムと乾燥混合させる工程;ならびに
(iii)乾燥混合されたPP−ACPおよび/またはPP−ACFPおよびリン酸カルシウム混合物を口腔ケア配合物に配合する工程
を包含する方法。
【請求項14】
請求項13に記載の方法により生成される口腔ケア配合物。
【請求項15】
歯の表面または表層下を再石灰化するための口腔ケア配合物であって、該配合物は請求項1から5のいずれか1項に記載のリンペプチドまたはリンタンパク質(PP)によって安定化された無定形リン酸カルシウム(ACP)または無定形リン酸フッ化カルシウム(ACFP)の複合体を活性成分として含有し、該複合体がPP1モル当たりのカルシウムが30モル以上のカルシウムイオン含量を有する、口腔ケア配合物。
【請求項16】
齲蝕、歯の侵食/腐食、象牙質知覚過敏および歯石の1つ以上を処置および/または予防するための口腔ケア配合物であって、該配合物は請求項1から5のいずれか1項に記載のリンペプチドまたはリンタンパク質(PP)によって安定化された無定形リン酸カルシウムまたは無定形リン酸フッ化カルシウムの複合体を活性成分として含有し、該複合体がPP1モル当たりのカルシウムが30モル以上のカルシウムイオン含量を有する、口腔ケア配合物。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−28644(P2013−28644A)
【公開日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2012−237656(P2012−237656)
【出願日】平成24年10月29日(2012.10.29)
【分割の表示】特願2008−517280(P2008−517280)の分割
【原出願日】平成18年6月23日(2006.6.23)
【出願人】(304054507)ザ ユニバーシティー オブ メルボルン (4)
【Fターム(参考)】