説明

イオン注入装置及びイオンビーム生成方法

【課題】ビーム断面形状が一方向に長い、幅広形状のイオンビームをターゲット基板に照射して、ターゲット基板にイオンを均一に注入するイオン注入装置であって、イオンビームのビーム幅をターゲット基板のサイズに応じて自在に調整する。
【解決手段】イオン注入装置1は、イオン源10、イオン分析器12及び多極子レンズ14を介して拡がり角度を有するイオンビームXを生成するとともに、生成されたイオンビームXの幅方向の拡がりを4重極子デバイス16により抑制することにより、イオンビームXを略平行ビームにして幅広形状のイオンビームとする。4重極子デバイス16は、イオンビームの経路に沿って上流側又は下流側方向に移動して位置決めされて固定される。この後、イオンビームXの幅方向の拡がりを抑制するようにイオンビームの収束強度が調整される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ビーム断面形状が一方向に長い、幅広形状のイオンビームをターゲット基板に照射して、ターゲット基板にイオンを均一に注入するイオン注入装置及びこのイオンビームを生成するイオンビーム生成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体プロセス処理、例えばLSIの製造分野では、シリコンウエハに所望のイオンを注入するイオン注入処理が広く行われている。処理対象となるシリコンウエハは高度に標準化されており、種々の半導体を製造するに際し、同じ形状、同じサイズのシリコンウエを用いて製造する。
一方、近年需要の拡大しつつある低温ポリシリコンTFT液晶等に代表される平面型表示装置(以降、FPD(フラットパネルディスプレイ)という)においてもガラス基板上にアクティブマトリクス素子としてTFT(薄膜トランジスタ)が形成される。すなわち、ガラス基板上に形成したポリシリコン層等に一定量のホウ素、りん、砒素等の不純物を極微少量(ppm〜ppbの範囲)含ませるため、イオン注入処理が行われる。
このようなイオン注入では、チャンバ内に供給された原料ガスを電離させてプラズマを生成し、このプラズマから取り出された荷電粒子からなるイオンビームをターゲット基板に照射するイオン注入装置が用いられる。
【0003】
LSI等の作製に用いるシリコンウエハの場合、シリコンウエハは上述したように標準化されたサイズ、形状を有する。しかも、このときのシリコンウエハのサイズの大小と、このシリコンウエハから作製されるLSIデバイスの機能の優劣との間には直接関係がなく、LSIデバイスの機能を保持し、あるいは高機能化しつつ、サイズの縮小化が可能である。一方において、LSIの生産性を向上するためにシリコンウエハは大型化の一途をたどっている。例えば1992年から10年間の間に直径6インチのウエハから直径12インチのウエハに、4倍に拡大されている。今後、LSIデバイスのサイズは縮小化し、一方シリコンウエハは大型化するため、イオン注入を含むシリコンウエハの処理効率は今後一層向上することが期待される。
【0004】
一方、FPDの分野では、FPDのサイズ拡大が望まれており、サイズ自体が性能の一要素となっている。このため、例えば1992年から10年間の間にFPD用ガラス基板は360mm×465mmから1500mm×1800mmに、略16倍に拡大されている。
上記従来から用いられてきたイオン注入装置ではイオンビームのビーム幅が一定であり、固定されたものであるため、FPDの分野におけるイオン注入の処理効率は、今後のFPD用ガラス基板の大型化に伴って一層低下すると予想される。
【0005】
このような状況下、下記特許文献1,2では、ビーム断面形状が一方向に長い、所定のビーム幅を有する幅広形状のリボン状イオンビームを用いるイオン注入装置が開示されている。また、下記特許文献3では、基板に対してイオンビームを走査することで大型の基板に対しても効率よく処理可能なイオン注入装置を開示している。
【0006】
特許文献1,2で開示されるイオン注入装置では、ビーム断面形状が一方向に長い、所定のビーム幅を有する幅広形状のリボン状イオンビームを用いて基板に照射する。特許文献1では、リボン状のイオンビームを生成するシステムの構成により、特許文献2ではイオン源のサイズ及びイオンビームを生成するシステムの構成により、ビーム幅は一意的に定められている。これにより、処理対象基板のサイズも決定される。
このようなイオン注入装置では、ビーム幅の広いイオンビームを用いて小さいサイズの基板を処理することもできるが、基板に照射されないイオンビームは無駄となって効率が悪く、さらに装置を構成するイオン源の寿命を考慮すると、非効率な処理を行うことは好ましくない。このため、処理対象基板のサイズに応じたビーム幅を有するイオンビームを用いることが好ましい。
【0007】
しかし、FPD用ガラス基板のような急激に大型化する基板に対して、それぞれの処理対象基板のサイズに合ったリボン状イオンビームを生成するイオン注入装置を別々に設計し作製することは極めて装置作製業者にとって効率が悪い。
また、特許文献3のようにイオンビームを走査する装置では、別途走査機構を設ける必要があり、小型のイオン注入装置を提供することができない。
【0008】
【特許文献1】特許第2878112号公報
【特許文献2】特許第3449198号公報
【特許文献3】特開平11−354064号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
そこで、本発明は、ビーム断面形状が一方向に長い、幅広形状のイオンビームをターゲット基板に照射して、ターゲット基板にイオンを均一に注入するイオン注入装置であって、イオンビームのビーム幅をターゲット基板のサイズに応じて調整することができるイオン注入装置及びこのイオンビームを生成するイオンビーム生成方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、本発明は、ビーム断面形状が一方向に長い、幅広形状のイオンビームをターゲット基板に照射して、ターゲット基板にイオンを注入するイオン注入装置であって、所定の角度でイオンビームの幅方向に拡がるイオンビームを生成するイオンビーム生成部と、生成されたイオンビームの幅方向の拡がりを抑制することにより、イオンビームを略平行ビームにして幅広形状のイオンビームを生成するイオンビーム調整部と、前記イオンビーム調整部が行うイオンビームの拡がりを抑制するためのイオンビームの収束強度の制御を行なう制御部と、ターゲット基板を配し、略平行ビームとなった幅広形状のイオンビームを照射してイオン注入処理を行う処理部と、を有することを特徴とするイオン注入装置を提供する。
【0011】
その際、前記イオンビーム調整部は、磁場又は電場を用いた多極子デバイスであり、前記制御部は、前記多極子デバイスに所望の電流又は電圧を与えることにより前記イオンビーム調整部における前記収束強度を制御することが好ましい。
前記イオンビーム調整部は、前記イオンビームの経路に沿って上流側又は下流側に自らを移動する可動機構を有することが好ましい。
その際、前記イオンビーム調整部は、例えば、所定のビーム幅のイオンビームを生成するように位置決めされて前記処理部と前記イオンビーム生成部との間に固定されることが好ましい。あるいは、前記イオン注入装置は、前記制御部の制御により前記イオンビーム調整部を上流側又は下流側に移動させる駆動モータを有し、前記イオンビーム調整部の移動により、ターゲット基板のサイズに応じてビーム幅を変更することも、同様に好ましい。
【0012】
さらに、前記幅広形状のイオンビームの電流密度分布を計測するビーム計測ユニットを有し、このビーム計測ユニットにより計測された電流密度分布から求められるビーム幅に応じて、前記制御部は、前記収束強度を制御することが好ましい。
さらに、前記幅広形状のイオンビームの電流密度分布を計測するビーム計測ユニットを有し、このビーム計測ユニットにより計測された電流密度分布から求められるビーム幅に応じて、前記可動機構を用いて前記イオンビーム調整部の位置を調整することが好ましい。
【0013】
また、前記イオンビーム生成部は、所定のイオン種を含むイオンビームを生成するとともに、生成されたイオンビームから所定のイオン種を分離抽出し、前記イオンビーム調整部は、磁場又は電場を用いた多極子デバイスを有し、前記制御部は、前記多極子デバイスに所望の電流又は電圧を与えることにより前記多極子デバイスにおける前記収束強度を制御し、さらに、イオンビームの電流密度分布を計測するビーム計測ユニットが、前記多極子デバイスの前記イオンビームの経路に沿った下流側に設けられ、前記制御部は、前記所定のイオン種、前記イオン源から出力されるイオンビームの設定エネルギ、及びイオンビームの目標ビーム幅を設定することにより、前記収束強度を算出する演算手段を有するとともに、この演算手段で算出された前記収束強度の値を用いて、前記イオンビーム調整部における収束強度を制御し、さらに前記ビーム計測ユニットにより計測された電流密度分布から求められる幅広形状のイオンビームのビーム幅が前記目標ビーム幅に近づくように前記収束強度を繰り返し変更して調整することが好ましい。
【0014】
また、本発明は、ビーム断面形状が一方向に長い、幅広形状のイオンビームを所定の幅のターゲット基板に照射して、ターゲット基板にイオンを注入する際に、所定の角度でイオンビームの幅方向に拡がるイオンビームを生成し、生成されたイオンビームの幅方向の拡がりを抑制する収束強度を制御することにより、イオンビームの拡がりを抑制した幅広形状のイオンビームを生成するステップと、生成された幅広形状のイオンビームの電流密度分布をターゲット基板の直前で計測するステップと、計測された電流密度分布から求められるビーム幅が、目標とするビーム幅に近づくように、イオンビームの幅方向の拡がりを抑制する収束強度の調整を繰り返し行うステップと、を有することを特徴とするイオンビーム生成方法を提供する。
【発明の効果】
【0015】
本発明は、イオンビームの幅方向の拡がりを抑制するイオンビーム調整部を有するので、このイオンビーム調整部の作用により、イオンビームを略平行ビームに制御することができる。特に、イオンビームの経路の上流側又は下流側方向にイオンビーム調整部を移動する可動機構を設けることで、イオンビームが所定のビーム幅になるようにイオンビーム調整部を所定の位置に位置決め調製して固定した後、イオンビーム調整部によりビーム幅を調整、制御することができる。
また、イオンビーム注入装置は、イオンビーム調整部を上流側又は下流側に移動させる駆動モータを有し、この駆動モータの駆動によりイオンビーム調整部を自在に移動させることにより、ターゲット基板のサイズに応じてビーム幅を変更することができる。これにより、FPD用ガラス基板のようなサイズが種々変更される基板に対して、1つのイオン注入装置で対応することができ、装置開発の迅速化及び開発資源の簡素化を実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明のイオン注入装置について、添付の図面に示される好適実施例を基に詳細に説明する。
【0017】
図1は、本発明の一実施形態であるイオン注入装置1を概念的に示す図である。
イオン注入装置1は、ビーム断面形状が一方向に長い、幅広形状(リボン形状)のイオンビームをターゲット基板に照射して、ターゲット基板にイオンを均一に注入する装置である。
イオン注入装置1は、イオンビームの上流側から、イオン源10、イオン分析器12、多極子レンズ14、4重極子デバイス16、分離板18及びファラディカップ22を有し、さらに、最下流側には、ターゲット基板20を移動可能に支える処理部24を有する。
【0018】
イオン源10は、原料ガスを供給し放電することによりプラズマを生成し、このプラズマからイオンを取り出すことによりイオンビームを作るバーナス型イオン源である。図2は、イオン源10の構成図である。
イオン源10は、図2に示す様に、チャンバ32、フィラメント34、反射電極板(リペラープレート)36、背面電極板38、絶縁部材40、原料ガス供給口42、イオンビーム取出口44、および所定の電圧を印加する引出電源46、アーク電源48、フィラメント電源50、原料ガス調整バルブ52を主に有して構成される。チャンバ32は、図示されない減圧容器内に収納され、チャンバ32内で10−3〜10−4(Pa)に減圧された状態となっている。
チャンバ32は、アーク放電に対して耐高温性を有する、タングステン、モリブデン、タンタル、炭素等の材料で構成され、導電性を有する放電箱である。
チャンバ32の外側には、背面電極板38、フィラメント34および反射電極板36の配置方向(図2中の左右方向)に沿って磁場が形成されるようにN極、S極の磁石47が設けられている。
【0019】
このようなチャンバ32の内部空間では、フィラメント34から放出された電子と、チャンバ32とフィラメント34との間に印加されたアーク電圧によりアーク放電を開始し、プラズマが励起される。このプラズマ中の電子は、磁石47の磁場の作用によってらせん運動を起こしつつ反射電極板36に向けて移動しながら反射電極板36に到達し、反射電極板36で反射し、背面電極板38に向かう。さらに、背面電極板38において電子は反射される。このように内部空間で移動する電子は、更にアルゴン等の原料ガス分子に衝突し、ガス分子はイオン化しプラズマが再生成され、生成されたプラズマが内部空間全体で保持される。この状態で、チャンバ32の側壁に設けられたスリット状のイオンビーム取出口44から、引出電極49に印加された引出電圧によってイオンが引き出され、幅広形状のイオンビームXが生成される。ここで、引出電極49は、チャンバ32との間で所定の電位が生ずるように引出電源46が設けられ、引出電極がチャンバ32から見て電位が低く設定される。
【0020】
イオン分析器12は、イオンビームXの向きを変えることにより、所望の質量を有するイオンのみを選別するデバイスである。イオン源10から取り出されて生成されたイオンビームXは、一定の拡がりを持っており、質量の異なる種々の荷電粒子からなるイオンが含まれている。イオン注入装置1では所望のイオンのみをターゲット基板20に注入するため、所望のイオンのみイオン照射することができるようにイオンの質量によって選別する。
イオン分析器12は、扇形磁石(セクターマグネット)がイオンビームXの両側に設けられて、図1中の紙面に垂直方向に磁場を形成するように構成されている。
このため、イオンビームX中のイオンが磁場によって曲がるときの軌道半径が、所望の質量を有するイオンのみ、設計されたイオンビームXの経路半径に一致するように設計され、下流側に設けられた分離板18の開口部Aを通過してターゲット基板20に照射される。所望の質量より軽いイオンは、軌道半径が小さく、大きく曲がり、扇形磁石の側面の位置Bや下流側の分離板18の位置Bにおいて遮断される。一方、所望の質量より重いイオンは、軌道半径が大きく、曲がりが小さく、扇形磁石の出口の位置Cや下流側の分離板18の位置Cにおいて遮断される。
【0021】
多極子レンズ14は、図3に示すように、複数の電磁石60がイオンビームXの幅方向に隣接して配置され、幅広形状のイオンビームXの形成する幅広面に対して直交する方向に局所磁場を形成し、この局所磁場によって、イオンビームXの電流密度分布を調整するデバイスである。イオン分析器12にて分離され、多極子レンズ14を透過した所望の質量を有するイオンから成る幅広形状のイオンビームXは、6〜30度の拡がり角度(イオンビームの幅方向の端における、イオンビームの中心に対する角度)を有する。
図3は多極子レンズ14の概略図である。
各電磁石60は、イオンビームXの幅方向に平行して延びる支持棒62に対して直交する方向に鉄心を配置し、その周りに巻き回されたコイルによって構成される。鉄心の断面は長方形〜長円形の形状を成しており、鉄心は、その断面の長手方向(断面が長方形の場合は長辺方向、長円形の場合は長軸方向)が、直下又は直上を通るイオンビームの進行方向に沿うように設けられるのが好ましい。
各電磁石60は、制御ユニット64とそれぞれ接続され、各電磁石60に流れる電流を自在に制御できる構成となっている。電流の制御は、制御ユニット64にて行われ、下流側のターゲット基板20の照射直前の位置でファラディカップ22によって計測され、データ処理装置65にて作成された電流密度分布のプロファイルに基づいて、電磁石60に流す電流を設定し、電磁石60によって形成される局所磁場を調整、制御する。
なお、イオン源10、イオン分析器12及び多極子レンズ14は、所定の角度でイオンビームの幅方向に拡がるイオンビームを生成するイオンビーム生成部として機能する。
【0022】
4重極子デバイス16は、イオンビームXのビーム幅及びビームの収束性を制御するデバイスであり、図4に示すように、幅広形状のイオンビームXの幅広面の両側に鉄心71に巻き回された電磁石70により構成される。電磁石70の作用により、4重極の磁場を形成し、イオンビームXの収束性を変化させる。すなわち、4重極子デバイス16は、支持棒71にコイルが巻き回された電磁石の対で構成され、イオンビームXの幅方向に向けて配置されたデバイスである。4重極子デバイス16は、イオンビームXを中心としてイオンビームXを挟むように対向する位置に設けられ、イオンビームXの上側及び下側で磁極が互いに異なるように電流が制御されて4重極が形成される。この4重極デバイス16は、制御ユニット64に接続されて、電流の大小が自在に制御される。制御ユニット64は、データ処理装置65に接続され、データ処理装置65にて作成された電流密度分布のプロファイルに基づいて、電流が制御されている。
すなわち、4重極子デバイス16は、本発明において、6〜30度の拡がり角度で拡がるイオンビームXの収束強度を調整することにより、略平行ビーム(拡がり角度±1度以内)とするイオンビーム調整部として機能する。
【0023】
さらに、この4重極子デバイス16はスライドレール72上を移動する移動台70に設けられており、可動機構を有する。本装置のインストールの際、4重極子デバイス16の位置を規制するスライドレール72を所定の位置に固定し、4重極子デバイス16を予め設定されたビーム幅となるように位置決め可能に構成される。すなわち、移動台70及びスライドレール72は、本装置をインストールする際、4重極子デバイス16をイオンビームXの経路に沿って上流側又は下流側方向に位置調整して位置決めするための位置決め調整用の可動機構を成している。多極子レンズ14と処理部24との間の所定の位置に位置決め調整された4重極子デバイス16は、地面と固定するためにアンカー留めされる。
すなわち、多極子レンズ14を通過したイオンビームXは、5〜30度の拡がり角度で拡がっているので、4重極子デバイス16をイオンビームXの上流側に移動することにより、略平行ビームとする4重極子デバイス16は、イオンビームXのビーム幅を狭め、下流側に移動することにより、ビーム幅を拡げる。このようなビーム幅の調整のために、移動台17は移動可能になっている。
【0024】
ファラディカップ22は、ターゲット基板20の前方に配置され、イオンビームXの幅方向に自在に移動し、イオンビームXの電流密度を計測するデバイスである。計測された電流密度はデータ処理装置65に送られ、データ処理装置65にて、電流密度のプロファイルが作成される。このプロファイルは電流密度の均一性及びビーム幅を求めるために用いられる。電流密度の均一性が十分でないと判断される場合、上述したように、多極子レンズ14の電磁石20に流す電流を電源67を介して調整、制御する。ビーム幅が所定の目標ビーム幅の許容範囲内でないと判断される場合、4重極子デバイス16の電磁石70に流す電流を、電源67を介して調整、制御する。電磁石70に流す電流を調整、制御することにより、4重極子デバイス16におけるイオンビームの収束強度を調整、制御する。こうして、4重極子デバイス16によりイオンビームの収束強度を調整することにより、ターゲット基板20の幅に応じて設定された目標ビーム幅を有する略平行のイオンビームXを生成することができる。
【0025】
処理部24は、ターゲット基板20を移動可能に支え、ターゲット基板20に対して垂直な方向からイオンビームXを照射することにより、イオン注入を行う部分である。
処理部24は、高真空(10−3〜10−4(Pa))に減圧されたチャンバ80内に設けられ、図5に示すように、プーリ82に張られたベルト84に基台86が設けられ、この基台86にターゲット基板20が支持固定されている。プーリ82は、図示されないモータにより回転が制御され、基台86が図5中の上下方向に移動する構成となっている。このため基台86の移動によりターゲット基板20がイオンビームXの照射位置に対して上下方向に移動することで、ターゲット基板20をイオンビームXに対して走査移動する構成となっている。イオンビームXは、ターゲット基板20の幅に従ってビーム幅が調整されて、イオンビームXのビーム幅はターゲット基板20の幅と一致するか、あるいはそれよりも広くなっている。したがって、イオンビームXを用いて幅の広いターゲット基板20についても効率よくイオン注入することができる。
【0026】
データ処理装置65は、ファラディカップ22によって計測されたデータから電流密度分布のプロファイルを算出する部分である。
制御ユニット64は、算出されたプロファイルに基づいて、電磁石60及び電磁石70に流す電流を設定する制御部分である。すなわち、制御ユニット64は、4重極子デバイス16にて行うイオンビームの拡がりを抑制するための収束強度の制御を行なうとともに、多極子レンズ14が行なうイオンビームの電流密度分布を所望の分布にするように制御する。
データ処理装置65及び制御ユニット64は、コンピュータ66によって構成される。このコンピュータ66は、イオン注入装置1の各部分の操作を調整し、制御する部分も兼ねる。
【0027】
制御ユニット64は、イオン源10で生成されるイオン種(特に、イオンの質量)、イオン源10から出力されるイオンビームの設定エネルギ、及びイオンビームXの目標ビーム幅が操作者から入力されると、コンピュータ66の演算ユニットは、4重極子デバイス16におけるイオンビームXの収束強度を算出し、これに基づいて収束制御用磁場を算出する。制御ユニット64は、演算ユニットで算出されたイオンビームの収束強度の値を用いて、4重極子デバイス16に流す電流を生成する。
一方、制御ユニット64は、データ処理装置65から、電流密度分布のプロファイルの供給を受けると、プロファイルから求められるビーム幅と目標ビーム幅との差分を計算してイオンビームの収束強度の修正量を算出する。こうして、計測された電流密度のプロファイルから求められるビーム幅が目標ビーム幅に近づくように4重極子デバイス16におけるイオンビームの収束強度を繰り返し変更して調整する。
【0028】
また、制御ユニット64は、上述したように、必要に応じて、電流密度のプロファイルに基づいて多極子レンズ14に流す電流を繰り返し調整、制御する。例えば電流密度が均一でないと判断した場合、イオンビームXが均一になるように電流を調整、制御する。
イオン注入装置1は以上のように構成される。
【0029】
このようなイオン注入装置1では、イオン源10、イオン分析器12及び多極子レンズ14を介して、所定の拡がり角度、例えば6〜30度の拡がり角度でイオンビームの幅方向に拡がるイオンビームXを生成する。このイオンビームXは、4重極子デバイス16により略平行ビームとされるが、4重極子デバイス16は、イオンビームXの上流側、あるいは下流側に移動調整して設定されるので、イオンビームXのビーム幅をターゲット基板20の幅に合わせて位置調整することができる。例えば、多極子レンズ14の出口におけるビーム幅が600mmとなるようにイオン源10、イオン分析器12及び多極子レンズ14が設計されている場合、例えば、4重極子デバイス16を多極子レンズ14の出口近辺に位置調整すると600mmのビーム幅となり、4重極子デバイス16を上記出口から535mm下流側に位置調整する場合740mmのビーム幅となる。また、イオンビームXの拡がり角度が7度の場合、4重極子デバイス16を100mm移動することでビーム幅は、片側で12mm両側で24mm変化し、さらに、多極子レンズ14の出口におけるビーム幅が600mmの場合、この出口から下流側へ600mm移動させることで750mmのビーム幅を実現できる。
【0030】
このように、所定のビーム幅で略平行なイオンビームを生成するためには、イオンビームXが略平行ビームであり、しかも均一な電流密度となるように、4重極子デバイス16の収束強度用磁場、すなわち4重極子デバイス16におけるイオンビームの収束強度を規定する磁場、及び多極子レンズ14の局所磁場をそれぞれ調整、制御する必要がある。
本発明では、生成したイオンビームの電流密度のプロファイルがファラディカップ22によって計測されてデータ処理装置65で求められるので、この電流密度分布のプロファイルから、位置調整された4重極子デバイス16及び多極子レンズ14の電流の調整、制御を行う。
【0031】
具体的には、制御ユニット64において、設定入力されたイオン種(イオンの質量)、イオンビームXの設定エネルギ、及びイオンビームXの目標ビーム幅から、イオンビームの収束強度を規定する収束強度用磁場の初期値が算出される。収束強度用磁場の算出に際しては、イオンの質量、設定エネルギ及び目標ビーム幅を入力することで、収束強度、あるいは収束強度用磁場の値が一意的に計算されるように、予めパラメータによって規定された伝達関数が用いられる。この初期値を用いて、幅方向に所定の角度で拡がるイオンビームの拡がりが抑制される。
一方、幅広形状のイオンビームの電流密度がターゲット基板の直前でファラディカップ22により計測される。計測されたデータはデータ処理装置65に供給され、電流密度分布のプロファイルが求められる。このプロファイルは、制御ユニット64に供給され、初期値が適切か否かが、電流密度分布のプロファイルから求められるビーム幅と目標ビーム幅との比較によって判断される。このとき、比較するビーム幅の差が所定値より大きい場合には、初期値の修正が必要と判断され、得られたプロファイルに応じて伝達関数のパラメータが修正される。この修正された伝達関数を用いて、上記設定入力されたイオンの質量、設定エネルギ及び目標ビーム幅から、初期値の修正量が算出される。
同様に、電流密度分布のプロファイルが所望のプロファイル形状とならない場合、多極子レンズ14の各局所磁場の設定値も修正される。なお、多極子レンズ14の局所磁場の設定値が修正されると、これに連動して上記伝達関数のパラメータを修正するようにしてもよい。こうして、多極子レンズ14の局所磁場及び4重極子デバイス16の収束強度用磁場が電源67を介して修正される。
【0032】
このように、計測されるイオンビームの電流密度分布及びビーム幅が、目標とする電流密度分布及び目標ビーム幅に近づくように、局所磁場及び収束強度用磁場の調整が繰り返し行われる。目標ビーム幅を処理対象のターゲット基板20の基板幅とした場合、実際に生成され計測されるイオンビームのビーム幅の許容範囲は、目標ビーム幅以上この幅の120%以下、好ましくは目標ビーム幅以上この幅の110%以下、より好ましくは目標ビーム幅以上このビーム幅の105%以下であるのが好ましい。
【0033】
このように、イオン注入装置1では、イオンビームXのビーム幅をターゲット基板20のサイズに応じて調整し、略平行なイオンビームを生成することができる。
なお、イオン注入装置1では、拡がり角度を持って拡がるイオンビームXを略平行ビームとするデバイスとして4重極子デバイス16を用いるが、多極子レンズ14を、イオンビームを略平行ビームにして幅広形状のイオンビームを生成するイオンビーム調整部として用いてもよい。また、本発明において、イオンビーム調整部は、4重極子デバイス16、多極子レンズ14に限定されない。6重極子デバイス等の多極子デバイスを用いてもよい。また、例えば電場を利用してイオンビームの収束強度を制御する静電4重極レンズ等の静電レンズを用いることもできる。この場合、電流の代わりに電圧を制御する。
【0034】
上述の実施形態では、本装置のインストールの際、4重極子デバイス16をスライドレール72に沿って位置決めして設置固定するが、本発明においては、4重極子デバイス16をモータの駆動制御により常時自在に移動させるように構成してもよい。例えば、図6に示すようにスライドレール72に替えてボールネジ79を用い、モータ68の駆動制御により、4重極子デバイス16を載置する移動台17をイオンビームの経路に沿った上流側又は下流側に自在に移動させて、ビーム幅を自在に調整、制御するように駆動機構を備えることもできる。すなわち、本発明において、イオンビームの幅方向の拡がりを抑制するイオンビーム調整部は、制御ユニット64の制御により4重極子デバイス16を上流側又は下流側に自在に移動させるモータ68を有する構成とし、ビーム幅を、ターゲット基板20の幅に応じて自在に変更可能に調整できるようにすることもできる。
【0035】
従来のようなイオンビームのビーム幅が固定されたイオン注入装置では、ターゲット基板のサイズが頻繁に変化し、また需要によりサイズも大型化の傾向にあるFPD用ガラス基板に対して、それぞれの基板サイズに対応した装置の開発及び設計には十分な時間が割けない。また、十分な時間を割いて開発、設計しても、費やされた開発設計投資の回収が困難となる場合も多い。
これに対して、図6に示すイオン注入装置1はイオンビームXのビーム幅を変更できるので、上記問題は生じない。また、一般にイオン注入装置で行うイオンビームの照射時間は、ビームの電流強度と相反関係にある。このため、ビーム幅を可能な限りターゲット基板の幅に一致させて照射することは、イオン注入装置の処理能力及びメンテナンス頻度つまり運用効率に直接影響を与えるものである。このような点からイオンビームのビーム幅とターゲット基板の幅を可能な限り一致させることは装置能力を決定する上で重要であり、イオンビームのビーム幅を可変とする本発明を好適に用いることができる。
【0036】
以上、本発明のイオン注入装置について詳細に説明したが、本発明は上記実施形態に限定されず、本発明の主旨を逸脱しない範囲において、種々の改良や変更をしてもよいのはもちろんである。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明のイオン注入装置の一実施形態を概念的に示す図である。
【図2】本発明のイオン注入装置に用いるイオン源の構成図である。
【図3】図1に示すイオン注入装置に用いる多極子レンズの概略図である。
【図4】図1に示すイオン注入装置に用いる4重極子デバイスの概略図である。
【図5】図1に示すイオン注入装置に用いる処理部の構成図である。
【図6】本発明のイオン注入装置の他の実施形態を概念的に示す図である。
【符号の説明】
【0038】
1 イオン注入装置
10 イオン源
12 イオン分析器
14 多極子レンズ
16 4重極子デバイス
17 移動台
18 分離板
20 ターゲット基板
22 ファラディカップ
24 処理部
32 チャンバ
34 フィラメント
36 反射電極板(リペラープレート)
38 背面電極板
40 絶縁部材
42 原料ガス供給口
44 イオンビーム取出口
46 引出電源
47 磁石
48 アーク電源
49 引出電極
50 フィラメント電源
52 原料ガス調整バルブ
60,70 電磁石
62 支持棒
64 制御ユニット
65 データ処理装置
66 コンピュータ
67 電源
68 モータ
72 スライドレール
79 ボールネジ
80 チャンバ
82 プーリ
84 ベルト
86 基台


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビーム断面形状が一方向に長い、幅広形状のイオンビームをターゲット基板に照射して、ターゲット基板にイオンを注入するイオン注入装置であって、
所定の角度でイオンビームの幅方向に拡がるイオンビームを生成するイオンビーム生成部と、
生成されたイオンビームの幅方向の拡がりを抑制することにより、イオンビームを略平行ビームにして幅広形状のイオンビームを生成するイオンビーム調整部と、
前記イオンビーム調整部が行うイオンビームの拡がりを抑制するためのイオンビームの収束強度の制御を行なう制御部と、
ターゲット基板を配し、略平行ビームとなった幅広形状のイオンビームを照射してイオン注入処理を行う処理部と、を有することを特徴とするイオン注入装置。
【請求項2】
前記イオンビーム調整部は、磁場又は電場を用いた多極子デバイスであり、
前記制御部は、前記多極子デバイスに所望の電流又は電圧を与えることにより前記イオンビーム調整部における前記収束強度を制御する請求項1に記載のイオン注入装置。
【請求項3】
前記イオンビーム調整部は、前記イオンビームの経路に沿って上流側又は下流側に自らを移動する可動機構を有する請求項1又は2に記載のイオン注入装置。
【請求項4】
前記イオンビーム調整部は、所定のビーム幅のイオンビームを生成するように位置決めされて前記処理部と前記イオンビーム生成部との間に固定される請求項3に記載のイオン注入装置。
【請求項5】
前記制御部の制御により前記イオンビーム調整部を上流側又は下流側に移動させる駆動モータを有し、前記イオンビーム調整部の移動により、ターゲット基板のサイズに応じてビーム幅を変更する請求項3に記載のイオン注入装置。
【請求項6】
さらに、前記幅広形状のイオンビームの電流密度分布を計測するビーム計測ユニットを有し、
このビーム計測ユニットにより計測された電流密度分から求められるビーム幅に応じて、前記制御部は、前記収束強度を制御する請求項1〜5のいずれか1項に記載のイオン注入装置。
【請求項7】
さらに、前記幅広形状のイオンビームの電流密度分布を計測するビーム計測ユニットを有し、
このビーム計測ユニットにより計測された電流密度分から求められるビーム幅に応じて、前記可動機構を用いて前記イオンビーム調整部の位置を調整する請求項5に記載のイオン注入装置。
【請求項8】
前記イオンビーム生成部は、所定のイオン種を含むイオンビームを生成するとともに、生成されたイオンビームから所定のイオン種を分離抽出し、
前記イオンビーム調整部は、磁場又は電場を用いた多極子デバイスを有し、
前記制御部は、前記多極子デバイスに所望の電流又は電圧を与えることにより前記多極子デバイスにおける前記収束強度を制御し、
さらに、イオンビームの電流密度分布を計測するビーム計測ユニットが、前記多極子デバイスの前記イオンビームの経路に沿った下流側に設けられ、
前記制御部は、前記所定のイオン種、前記イオン源から出力されるイオンビームの設定エネルギ、及びイオンビームの目標ビーム幅を設定することにより、前記収束強度を算出する演算手段を有するとともに、この演算手段で算出された前記収束強度の値を用いて、前記イオンビーム調整部における収束強度を制御し、さらに前記ビーム幅計測ユニットにより計測された電流密度分布から求められる幅広形状のイオンビームのビーム幅が前記目標ビーム幅に近づくように前記収束強度を繰り返し変更して調整する請求項1〜7のいずれか1項に記載のイオン注入装置。
【請求項9】
ビーム断面形状が一方向に長い、幅広形状のイオンビームを所定の幅のターゲット基板に照射して、ターゲット基板にイオンを注入する際に、
所定の角度でイオンビームの幅方向に拡がるイオンビームを生成し、生成されたイオンビームの幅方向の拡がりを抑制する収束強度を制御することにより、イオンビームの拡がりを抑制した幅広形状のイオンビームを生成するステップと、
生成された幅広形状のイオンビームの電流密度分布をターゲット基板の直前で計測するステップと、
計測された電流密度分布から求められるビーム幅が、目標とするビーム幅に近づくように、イオンビームの幅方向の拡がりを抑制する収束強度の調整を繰り返し行うステップと、を有することを特徴とするイオンビーム生成方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−139996(P2006−139996A)
【公開日】平成18年6月1日(2006.6.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−327768(P2004−327768)
【出願日】平成16年11月11日(2004.11.11)
【出願人】(000005902)三井造船株式会社 (1,723)
【Fターム(参考)】