説明

イオン注入装置

【課題】 主として、基板に入射する際のイオンビームの平行度調整が容易なイオン注入装置を提供する。
【解決手段】 イオン注入装置において、平行化電磁石10の内側磁極間隔Di、外側磁極間隔Doの一方又は両方を変更可能とする磁極間隔制御機構20を備え、この磁極間隔制御機構20は、平行化電磁石10の上部磁極12と下部磁極14との接合部に、上部磁極12が下部磁極14に対して軸回転可能となるように設けられた円筒状の回転軸22と、平行化電磁石10の上部磁極12と下部磁極14とを接合すると共に磁極間距離Di、Doを調整可能とするボルト24とを備えている構成とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イオン注入装置に係り、特に、基板に入射する際のイオンビームの平行度調整が容易なイオン注入装置、及び、走査器の偏心中心と平行化電磁石の焦点位置がずれた場合でも容易に調整可能なイオン注入装置に関する。
【背景技術】
【0002】
イオン源からのイオンを所望のエネルギーに加速又は減速し、半導体等の固体表面に注入する種々のタイプのイオン注入装置が実用に供されている(特許文献1参照)。
以下、従来のイオン注入装置の一例について、図8を用いて説明する。
図8は、従来のイオン注入装置の概略構成を示す平面図である。
【0003】
イオン注入装置100の主要構成は、図8に示すように、イオン源110、質量分離器120、質量分離スリット130、加減速管140、四重極レンズ150、走査器160、平行化装置170である。
なお、同図中、180は、図示しないエンドステーションに配置されたイオンを注入するターゲットとなる基板である。
また、BMは、中心軸(以下、「光軸」ともいう)を中心に進行するイオンであるが、以下、「イオンビーム」又は「ビーム」という場合がある。
【0004】
以下、イオン注入装置100の上記各主要構成について、順次、補足説明する。
先ず、イオン源110は、原子や分子から電子を剥ぎ取ってイオンを生成する装置であり、図示しない引き出し口に高電圧を印加して、イオン源110内のイオンを引き出す。
【0005】
質量分離器120は、イオンや電子等の荷電粒子が磁場又は電場中で偏向される性質を利用して、磁場、或いは、電場、又は、その双方を発生して、基板180に注入したいイオン種を特定するための装置である。
図8では、磁場の作用によりイオンBMを選定するタイプの質量分離器120で図示されている。
【0006】
加減速管140は、質量分離スリット130を通過した所望のイオン種を加速又は減速する装置であるが、図8に示すように、通常は軸対象で、複数の電極を等間隔に並べ、それらの電極に等しい高電圧を印加して、静電界の作用により、イオンビームBMを所望の注入エネルギーに加速又は減速する。
なお、加減速管140を軸対称の構造とするのは、製作が容易となるためである。
【0007】
四重極レンズ150は、イオンビームBMの基板180上でのビームスポット形状を調整するために、図8に示すように、加減速管140と走査器160との間に設置される場合が多い。
四重極レンズ150は、光学上の凸レンズが光を収束するのと同様に、イオンビームBMがその進行方向に対して垂直な平面において収束させる機能を有する。
【0008】
走査器160は、イオンビームBMの進行方向と直交する方向に一様な外部電界を発生させ、この電界の極性や強度を変化させることにより、イオンの偏向角度を制御し、図8に示すように、基板180の注入面の所望の位置にイオンBMを走査し、均一に注入する。
図8に示すものでは、1kHz程度の高速で走査されている。
【0009】
平行化装置170は、荷電粒子であるイオンBMが磁場中で偏向される性質を利用して、イオンビームBMを構成する各イオンの経路の違いによって、ビームの広がりを抑えて、ビームBMを基板180に平行に入射させる電磁石である。
従って、以下、「平行化装置」を「平行化電磁石」という場合がある。
【0010】
この平行化装置170について、図8及び図9を用いて補足説明する。
図9は、平行化装置170の断面図である。
平行化装置170の主要構成は、図8及び図9に示すように、主として、上部磁極172、下部磁極174、励磁コイル176から構成される。
また、上部、下部磁極172、174の平面形状は扇形であり、断面形状は、図9に示すように、上部、下部磁極172、174間のギャップ形状がH字であるH型電磁石である。
【0011】
次に、この平行化装置170の基本動作を説明する。
一般に、図8に示す平行化電磁石170のような扇形電磁石は、イオンビームBMを収束させる収束レンズ作用を持つ。
そこで、扇形電磁石である平行化装置170の焦点位置が、走査器160の偏向中心に一致するように配置することにより、平行化装置170を通過したイオンビームは走査器160での走査角度に依存せずに一定の角度になる。
従って、走査器160の下流側に平行化装置170を、上記した位置関係となるように配置することにより、イオンビームBMをスキャンさせても、平行に基板180に注入することができる。
【0012】
以上の構成において、次に、従来のイオン注入装置100の基本動作を図8を用いて説明する。
従来のイオン注入装置100では、基板180のイオンBMの注入面全面に渡って一様な密度で所定のイオン種を所定のエネルギーでイオン注入を行うために、イオン源110から所定のエネルギーで引き出されたイオンビームBMは、質量分離器120で偏向され、質量分離スリット130で所定のイオン種のみが選別される。
【0013】
選別されたイオンビームBMは加減速管140で、所望のエネルギーに加速又は減速され、上述したように、1kHz程度の周期の外部電界を走査器160に印加し、更に、平行化装置170により平行化された後に、基板180の走査面に走査される。
なお、上記では、外部電界によりイオンビームBMをスキャンする静電タイプの走査器160を取り上げたが、走査器160には静電タイプの代わりに磁気タイプのものが用いられる場合がある。
【0014】
イオンBMが固体中に入り込む深さは、イオンBMのエネルギーで正確に制御できるので、例えば、イオン注入装置100の立ち上げ時等で、イオンビームのドーズ量分布をモニタリングすることにより、基板180の注入面にイオンビームBMを走査することにより所望のイオン種の均一なイオン注入処理が容易に行える。
【0015】
【特許文献1】特開平8−213339号
【非特許文献1】T.Nishihashi et al. Proceedings of 1998 Int. Conf. on Ion Implantation Technology, (1999)150-
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
ところで、半導体デバイスの微細化に伴い、イオン注入装置においても、基板に注入されるイオンビームの平行度に対する要求がますます厳しくなっている。
具体的には、基板全面に渡って±0.1°程度の平行度を維持することが望ましい。
【0017】
一方、電磁石の磁場分布の形状は、電磁石を構成する磁極の形状とは若干異なるが、このことを図8を用いて補足説明する。
平行化電磁石170のような電磁石のイオンビームBMの軸方向の磁場分布は、イオンビームBMの入射側磁極端面170aで急に設計磁場強度に立ち上がり、出射側磁極端面170bで、急に0に立ち下がるのではなく、磁極端面170a、170b近傍内側からなだらかに設計値から0に収束するテール状の漏洩磁場を持つ形状である。
【0018】
また、一般に、電磁石の磁極やヨークを構成する純鉄などの磁性材料の透磁率が、特に、磁気飽和を起こす近傍で非線形特性を持つために、磁場の強さによっても上記した磁場分布の形状が若干異なる場合もある。
【0019】
従って、これらの理由により、平行化装置170において、磁極端面170a、170bにおける有効端面が設計値と異なり、走査器160の偏向中心と平行化装置170の焦点が設計値と若干ずれる可能性がある。
【0020】
ここで、上記した「有効端面」について補足説明をする。
上述したように、電磁石は磁極端面で漏洩磁場を持つが、ビームラインの設計段階では、この漏洩磁場の形状を考慮して補正した実効的な磁場の端面を算出して、電磁石の磁場は、入射側有効端面から設計磁場強度に立ち上がり、出射側有効端面で0に立ち下がり、有効端面間では一様磁場であるという矩形の等価の磁場形状に近似する。
こうすると、一様磁場中では、荷電粒子は円軌道又は円弧軌道を描くことは良く知られているので、イオンビームBMの電磁石入出射前後の軌道は、電磁石中の一様磁場に入射するまでは直線になり、電磁石中では円弧となり、イオンビームBMの軌道解析が非常に簡単になる。
【0021】
ところで、上記したように、従来のイオン注入装置100では、平行化装置170を通過した後のイオンビームBMの角度が走査角度によってよって若干異なり、基板180上の位置によって注入角度が変化してしまうという問題がある。
この平行化装置170の有効端面が設計値と異なったり、磁場の強度が変化したりすることによって、平行化装置170を通過したイオンビームが平行でなくなってしまう従来装置の問題を図10を用いて説明する。
図10は、従来のイオン注入装置100において、平行化装置170を通過したイオンビームBMが平行でなくなってしまう問題を説明するための平面図である。
【0022】
図10に示すように、平行化装置170において、イオンビームBMの入射側の有効端面の設計値をA1、出射側の有効端面の設計値をB1とする。
一方、入射側の実際の有効端面をA2、出射側の実際の有効端面をB2とし、走査器160における偏向中心をCとする。
【0023】
なお、以下、平行化電磁石170の作る磁場は、上記した通り、設計値では、入射側の有効端面A1から設計磁場強度に立ち上がり、出射側の有効端面B1から0に立ち下がり、入射側の有効端面A1から出射側の有効端面B1の間は設計された一様磁場であるという近似を行う。
また、実際上の有効端面A2、B2における磁場についても同様の近似を行う。
【0024】
このようにすると、入射側の有効端面A1から出射側の有効端面B1までは、イオンビームは円弧軌道を描くと見なすことができるので、平行化電磁石170が作るイオンビームBMの軌道は、設計上では、基板180の中央に到達させるイオンビームBMの軌道は実線K1のようになり、走査器160で外側に偏向されたイオンビームBMの軌道は実線K2のようになるはずである。
【0025】
しかし、有効端面が、上述した理由などにより、有効端面A2、B2のように変化した場合、基板180の中央に到達させるイオンビームBMの軌道は破線K3のようになり、走査器160で外側に偏向されたイオンビームBMの軌道は破線K4のようになる。
即ち、従来のイオン注入装置100では、平行化電磁石170を通過した後のイオンビームの角度が、走査器160による走査角度に依存して変化してしまうことが示される。
【0026】
ところで、平行化電磁石170の入射部及び出射部の端面170a、170bは、基板180の中央に到達させるイオンビームBMに対して斜めの角度を持たせたり曲線としたりする(図8では斜め入出射)。
しかし、ここでは、以下、具体的には数値を検討するに当たり、簡単のために平行化電磁石170の入射部及び出射部の端面170a、170bは、基板180の中央に到達させるイオンビームBMに対して垂直であるとし、かつ、線形光学理論で考える。
【0027】
平行化電磁石170における基板180の中央に到達させるイオンビームの偏向角をθ、イオンビームの旋回半径をR、走査器160の偏向中心Cと平行化電磁石170の有効端面A1までの距離をLとし、走査器160を通過後のイオンビームが基板180中央に到達させるイオンビームBMとなす角をδ1とすると、平行化電磁石170を通過後のイオンビームBMが基板180の中央に到達させるイオンビームとなす角δ2は、次式(1)で与えられる。
【数1】

【0028】
従って、例えば、平行化電磁石170の偏向角θを60°、旋回半径Rを0.8mとすると、走査器160の偏向中心Cと有効端面A1との距離Lが、0.461mであれば、平行化電磁石170を通過後の角度δ2は、走査器160を通過後の角度δ2に依存せずに常に0°である。
【0029】
しかし、有効端面A2、B2が入射側および出射側でそれぞれΔL=50mm広がったとする。
この場合、平行化電磁石170での基板180の中央に到達させるイオンビームBMの偏向角θが設計値と一致するためには、平行化電磁石170での旋回半径R´は、

R´=R+2ΔL/θ ・・・ (2)

とする必要があるため、R´=0.895mとなる。
【0030】
また、偏向中心と有効端面との距離は、
L´=L−ΔL
となるため、L´=0.411mとなる。
この結果、走査器160を通過後の角度が5°のイオンビームは、平行化電磁石170を通過後の角度が0.5°となってしまい、上記した平行度に対する要求の上限に到達してしまう。
【0031】
このように、従来のイオン注入装置100では、平行化電磁石170の実際の有効端面A2、B2が、設計値の有効端面A1、B1と異なるなどの理由で、基板180に入射するイオンビームの角度が基板180上の位置によって変化してしまうという問題があった。
【0032】
また、従来のイオン注入装置100では、図9に示すように、平行化電磁石170を一旦製作してしまうと、励磁コイル176の励磁電流量で、イオンビームBMのイオン種やエネルギーに合わせて磁場の強度を調整する機能を有するのみであり、例えば、径方向での磁場強度分布を調整する機能を一切有さず、有効端面がずれた場合には何ら対応できないという問題を備えていた。
【0033】
更に、従来のイオン注入装置100では、図8に示すように、走査器160を一旦ビームライン中に設置してしまうと、上記した理由等で平行化電磁石170の有効端面がずれ、これにより走査器160の偏心中心と平行化電磁石170の焦点位置がずれた場合に、何ら対応できないという問題も備えていた。
【0034】
本発明は、上記従来の課題を解決し、基板に入射する際のイオンビームの平行度調整が容易なイオン注入装置、及び、走査器の偏心中心と平行化電磁石の焦点位置がずれた場合でも容易に調整可能なイオン注入装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0035】
本発明のイオン注入装置は、請求項1に記載のものでは、イオンを生成するイオン源からイオンを引き出し、質量分離器により所望のイオン種を選定し、加減速管によりこのイオン種を所望のエネルギーに加速又は減速し、平行化電磁石により前記イオンを平行化して、半導体ウェーハ等の基板の注入面に前記所望のイオンを注入するイオン注入装置において、前記平行化電磁石の内側磁極間隔及び外側磁極間隔の一方又は両方を変更可能とする磁極間隔制御機構を有し、前記平行化電磁石の磁極間磁場強度分布が調整可能である構成とした。
【0036】
請求項2に記載のイオン注入装置は、前記平行化電磁石の内側磁極間隔及び外側磁極間隔の一方又は両方を変更可能とする磁極間隔制御機構は、前記平行化電磁石の上部磁極と下部磁極との接合部に、前記上部磁極が前記下部磁極に対して軸回転可能となるように設けられた円筒状の回転軸と、前記平行化電磁石の上部磁極と下部磁極とを接合すると共に磁極間距離を調整可能とする1又は2以上のボルトとを備えている構成とした。
【0037】
請求項3に記載のイオン注入装置は、イオンを生成するイオン源からイオンを引き出し、質量分離器により所望のイオン種を選定し、加減速管によりこのイオン種を所望のエネルギーに加速又は減速し、走査器により走査すると共に、平行化電磁石により前記イオンを平行化して、半導体ウェーハ等の基板の注入面に前記所望のイオンを注入するイオン注入装置において、前記走査器の軸方向位置が、変更可能となる位置制御機構を有し、前記走査器の偏向中心位置が調整可能である構成とした。
【0038】
請求項4に記載のイオン注入装置は、前記走査器の軸方向位置が変更可能となる位置制御機構は、イオンビームの中心軸方向に平行に配置される1又は2以上のレールと、前記走査器を載置すると共に前記レール上を移動可能となる可動体と、前記可動体を前記レールの所望の位置に固定する固定具とを備えた構成とした。
【0039】
請求項5に記載のイオン注入装置は、前記走査器の軸方向位置が変更可能となる位置制御機構は、イオンビームの中心軸方向に平行に配置される1又は2以上のレールと、前記走査器を載置すると共に前記レール上を移動可能となる可動体と、前記イオンの中心軸方向に平行に配置されると共に前記可動体を位置制御するボールネジとを備えた構成とした。
【発明の効果】
【0040】
本発明のイオン注入装置は、上述のように構成したために、以下のような優れた効果を有する。
(1)請求項1に記載したように構成すると、平行化電磁石を一旦製作した後でも、イオンビームの平行度を容易に調整することができる。
【0041】
(2)請求項2に記載したように構成すると、簡単な構成の磁極間隔制御装置とすることができる。
【0042】
(3)請求項3に記載したように構成すると、一旦ビームライン上に走査器を配置した後でも、走査器の偏向中心の軸方向位置を容易に調整することができる。
【0043】
(4)請求項4に記載したように構成すると、簡単な構成の位置制御装置とすることができる。
【0044】
(5)請求項5に記載したように構成すると、簡単な構成の位置制御装置とすることができるほか、遠隔操作で、リアルタイムで走査器の偏向中心を調整することが容易になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0045】
本発明のイオン注入装置の第1乃び第2の各実施の形態について、図1乃至図7を用いて、順次説明する。
第1の実施の形態:
先ず、本発明のイオン注入装置の第1の実施の形態について、図1乃至図3を用い、図8を参照して説明する。
【0046】
図1は、本発明のイオン注入装置の第1の実施の形態に用いる平行化電磁石の主要構成を示す断面図である。
図2は、本発明のイオン注入装置の第1の実施の形態に用いる平行化電磁石の基本動作を説明するための断面図である。
図3は、本発明のイオン注入装置の第1の実施の形態に用いる平行化電磁石の基本動作を説明するための平面図である。
【0047】
先ず、本実施の形態のイオン注入装置の基本構成について説明する。
本実施の形態のイオン注入装置の特徴は、図8に示す従来のイオン注入装置100において、平行化装置170を改良した点にある。
従って、以下、本実施の形態のイオン注入装置に用いる平行化装置を中心に説明し、それ以外の各構成については、図8に示す従来のイオン注入装置100と同一の構成であり、その説明については割愛するものとする。
【0048】
先ず、本実施の形態のイオン注入装置に用いる平行化電磁石10の基本構成について説明する。
本実施の形態の平行化電磁石10は、図1に示すように、上部磁極12、下部磁極14、励磁コイル30を具備すると共に、平行化電磁石10の内側磁極間隔Di、外側磁極間隔Doが変更可能となる磁極間隔制御機構20を有したことに特徴がある。
また、図1は、平行化電磁石10を上流側から眺めた断面図であり、左側が走査器160で平行化電磁石10の外側に偏向されたイオンビームBMが通過する領域、即ち、外側磁極16を表し、右側が内側磁極18を表すものとする。
なお、図1に示すようなH型電磁石10では、外側磁極16と内側磁極18との明確な境界はないが、中心より左側を外側磁極16、中心より右側を内側磁極18とするものとする。
【0049】
また、当該磁極間隔制御機構20は、平行化電磁石10の上部磁極12と下部磁極14との接合部に、上部磁極12が下部磁極14に対して軸回転可能となるように設けられた円筒状の回転軸22と、上部磁極12と下部磁極14とを接合すると共に磁極間距離Di、Doが調整可能とする1又は2以上(図示のものは2)のボルト24とを備えている。
また、図1に示すように、上部磁極12と下部磁極14との接合面の左右両端部は、磁極間距離Di、Doの調整が容易になるために、数度の角度のテーパーが設けられている。
【0050】
次に、本実施の形態の平行化電磁石10の基本動作を図1乃至図5を用いて説明する。
本実施の形態の平行化電磁石10の基本動作の特徴は、上部磁極12と下部磁極14とを接合するボルト24により、内側及び外側磁極間距離Di、Doの一方又は両方を制御することにより、平行化電磁石10の径方向磁場強度を制御し、平行化電磁石10の実際の有効端面が、設計値の有効端面と異なるなどの理由で、基板に入射するイオンビームの角度が基板上の位置によって変化してしまうという問題を解決することである。
なお、ここでは、磁極間距離Di、Doが大きくなると磁場強度が小さくなり、磁極間距離Di、Doが小さくなると磁場強度が大きくなるという電磁石の性質を利用している。
【0051】
次に、本実施の形態の平行化電磁石10の基本動作を図1乃至図3を用いて検証するが、平行化電磁石10におけるイオンビームBMの偏向面は水平面内にあるものとする。
図2に、平行化電磁石10のイオンビームBMの光軸(中心軸)に直交する面での断面図を示す。
なお、図2においては、図面の簡略化のために、磁極間隔制御機構20の図示は省略している。
【0052】
先ず、平行化電磁石10において、実際の有効端面A2が設計上の有効端部A1よりも外側にずれた場合を、図3を用いて考察する。
図3に示したように、走査器160で平行化電磁石10の外側に走査されたイオンビームBMは外側に、平行化電磁石10の内側に走査されたイオンビームBMは内側に角度を持って出射する。
【0053】
この場合には、図2に示したように、平行化電磁石10の下側磁極14と上側磁極12の間を、図1に示すボルト24及び回転軸22によりイオンビームの内側に偏向された側で広くなるように機械的に調整する。
上側磁極12の内側を上げて、外側の磁極間距離Doより内側の磁極間距離Diが大きくなるように調整すると、外側の磁場が内側の磁場よりも相対的に強くなる。
【0054】
この状態で、基板180の中央に到達させるイオンビームBMの旋回半径が設計値に等しくなるように平行化電磁石10の磁場を若干強くすると、外側を通過するイオンビームBMの旋回半径は若干小さくなり、内側を通過するイオンビームBMの旋回半径は若干大きくなる。
【0055】
この結果、外側を通過するイオンビームBMと内側を通過するイオンビームBMが同じ角度となり、基板180の位置に関わらず、一定の角度で、基板180へのイオン注入ができる。
この状態を図3に示す。
図3では、走査器160で外側に偏向されたイオンビームBMの調整前の軌道を実線K7で、調整後の軌道を破線K6で示す。
【0056】
外側に偏向されたイオンビームBMの平行化電磁石10における旋回半径R″が、調整前の旋回半径R´より若干小さくなり、外側に開いていたイオンビームBMの軌道が設計通りに基板180の中央に到達させるイオンビームBMと平行になるように修正されていることが分かる。
【0057】
逆に、平行化電磁石10の有効端部A2が設計値の有効端部A1(図10参照)より内側にずれた場合は、下側磁極16と上側磁極14の間隔を、イオンビームが外側に偏向された側で広くなるように図2とは逆の方向に機械的に調整すればよい。
【0058】
即ち、本実施の形態のイオン注入装置の平行化電磁石10は、従来のものとは相違して、一旦平行化電磁石10を製作した後でも、イオンビームBMの平行度を容易に調整することができる。
【0059】
次に、本実施の形態の平行化電磁石10において、上記した有効端部の変化による偏向角のずれと、偏向角のずれと、このときの内側、外側磁極間ギャップDi、Doの調整幅との関係について図4及び図5を用いて説明する。
図4は、本発明のイオン注入装置の第1の実施の形態に用いる平行化電磁石において、偏向角のずれと、磁極間ギャップの調整幅との関係を説明するための断面図である。
図5は、本発明のイオン注入装置の第1の実施の形態に用いる平行化電磁石において、偏向角のずれと、磁極間ギャップの調整幅との関係を説明するための平面図である。
【0060】
ところで、有効端部の変化により、平行化電磁石10において、図5に示すように、旋回半径がRからR+ΔRに微小に変化した場合、偏向角のずれΔθは次式(3)で与えられる。
【数3】

【0061】
一般に、R∝1/B(Bは磁束密度とする)、B∝1/D(Dは磁極間ギャップ:図4参照)なので、偏向角をΔθだけ修正するには、
【数4】

従って、Δθ=0.5°、θ=60°とすると、ΔD/D=1%となる。
ここで、図4に示す、平行化電磁石10の端部における調整幅ΔXとΔDとの関係は、平行化電磁石10の構造にも依るが、概ね、ΔXは、磁極間ギャップDの数%程度でよい。
【0062】
第2の実施の形態:
先ず、本発明のイオン注入装置の第2の実施の形態について、図6乃び図7を用い、図8を参照して説明する。
【0063】
図6は、本発明のイオン注入装置の第2の実施の形態に用いる走査器の主要構成を示す斜視図である。
図7は、本発明のイオン注入装置の第2の実施の形態に用いる走査器の基本動作を説明するための断面図である。
【0064】
先ず、本実施の形態のイオン注入装置の基本構成について説明する。
本実施の形態のイオン注入装置の特徴は、図8の従来のイオン注入装置100において、走査器160を改良した点にある。
従って、以下、本実施の形態のイオン注入装置に用いる走査器40を中心に説明し、それ以外の各構成については、図8に示す従来のイオン注入装置100と同一の構成であり、その説明については割愛するものとする。
【0065】
先ず、本実施の形態のイオン注入装置に用いる走査器40の基本構成について説明する。
本実施の形態の走査器40は、図6に示すように、走査器40のイオンビームBMの軸方向位置が、変更可能となる位置制御機構50を有することを特徴としている。
【0066】
この当該位置制御機構50は、イオンビームBMの中心軸方向に平行に配置される1又は2以上(図示のものは2)のレール54と、走査器本体160を載置すると共にレール54上を移動可能となる可動体52と、この可動体52をレール54の所望の位置に固定する固定具56とを備えた構成である。
58は、高電圧が印加される走査器本体160を支持する絶縁碍子である。
【0067】
次に、本実施の形態の走査器40の基本動作を図7を用いて説明する。
本実施の形態の走査器40の基本動作の特徴は、走査器40の軸方向位置を機械的に調整することにより、走査器40の偏向中心を制御し、平行化電磁石170の実際の有効端面が、設計値の有効端面と異なるなどの理由で、基板180に入射するイオンビームの角度が基板180上の位置によって変化してしまうという問題を解決することである(図8参照)。
【0068】
以下、本実施の形態の走査器40の基本動作を図7を用いて検証する。
平行化電磁石170の実際の有効端面A2が設計値の有効端面A1(図10参照)よりも外側にずれた場合は、偏向中心Cで外側に偏向されたイオンビームBMの軌道は実線K9のようになり、平行化電磁石170を通過した後のイオンビームBMは開き気味になる。
【0069】
この場合、本実施の形態のイオン注入装置では、走査器40を上流側に移動し、走査器40における偏向中心を設計値上のCからC´に移動させることにより、外側に偏向されたイオンビームBMの軌道は破線K10のようになり、平行化電磁石170を通過した後のイオンビームBMは走査器40による偏向角度に依存せずに一定の角度とすることができる。
また、平行化電磁石170の有効端面が内側にずれた場合は、逆に、走査器40を下流側に移動すればよい。
【0070】
即ち、本実施の形態のイオン注入装置の走査器40は、従来のものとは相違して、一旦ビームライン上に走査器40を配置した後でも、イオンビームの平行度を容易に調整することができる。
【0071】
本発明のイオン注入装置は、上記各実施の形態には限定されず、種々の変更が可能である。
先ず、上記実施の形態としては、走査器の位置制御機構としては、レールの所望の位置に固定する固定具を備えた構成のもので説明したが、これを可動体を位置制御するボールネジを備えたものに置き換えても良い。
このように構成すると、ボールネジを遠隔操作することにより、イオン注入装置を運転したいる間でも、リアルタイムで走査器の偏向中心を調整することが容易になる。
【0072】
また、図8に示した構成のイオン注入装置の例で説明したが、必ずしもこの従来例にのみ適用できるのではなく、走査器及び平行化電磁石を備えたイオン注入装置全般に本発明が適用できるのは言うまでもないことである。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】本発明のイオン注入装置の第1の実施の形態に用いる平行化電磁石の主要構成を示す断面図である。
【図2】本発明のイオン注入装置の第1の実施の形態に用いる平行化電磁石の基本動作を説明するための断面図である。
【図3】本発明のイオン注入装置の第1の実施の形態に用いる平行化電磁石の基本動作を説明するための平面図である。
【図4】本発明のイオン注入装置の第1の実施の形態に用いる平行化電磁石において、偏向角のずれと、磁極間ギャップの調整幅との関係を説明するための断面図である。
【図5】本発明のイオン注入装置の第1の実施の形態に用いる平行化電磁石において、偏向角のずれと、磁極間ギャップの調整幅との関係を説明するための平面図である。
【図6】本発明のイオン注入装置の第2の実施の形態に用いる走査器の主要構成を示す斜視図である。
【図7】本発明のイオン注入装置の第2の実施の形態に用いる走査器の基本動作を説明するための断面図である。
【図8】従来のイオン注入装置の概略構成を示す平面図である。
【図9】従来のイオン注入装置に用いる平行化装置の断面図である。
【図10】従来のイオン注入装置において、平行化装置を通過したイオンビームが平行でなくなってしまう問題を説明するための平面図である。
【符号の説明】
【0074】
10:平行化電磁石(平行化装置)
12:上部磁極
14:下部磁極
16:外側磁極
18:内側磁極
20:磁極間隔制御機構
22:回転軸
24:ボルト
30:励磁コイル
40:走査器
50:位置制御機構
54:レール
52:可動体
56:固定具
100:イオン注入装置
120:質量分離器
140:加減速管
180:基板
Do:外側磁極間隔
Di:内側磁極間隔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
イオンを生成するイオン源からイオンを引き出し、質量分離器により所望のイオン種を選定し、加減速管によりこのイオン種を所望のエネルギーに加速又は減速し、平行化電磁石により前記イオンを平行化して、半導体ウェーハ等の基板の注入面に前記所望のイオンを注入するイオン注入装置において、
前記平行化電磁石の内側磁極間隔及び外側磁極間隔の一方又は両方を変更可能とする磁極間隔制御機構を有し、前記平行化電磁石の磁極間磁場強度分布が調整可能であることを特徴とするイオン注入装置。
【請求項2】
前記平行化電磁石の内側磁極間隔及び外側磁極間隔の一方又は両方を変更可能とする磁極間隔制御機構は、
前記平行化電磁石の上部磁極と下部磁極との接合部に、前記上部磁極が前記下部磁極に対して軸回転可能となるように設けられた円筒状の回転軸と、
前記平行化電磁石の上部磁極と下部磁極とを接合すると共に磁極間距離を調整可能とする1又は2以上のボルトとを備えていることを特徴とする請求項1に記載のイオン注入装置。
【請求項3】
イオンを生成するイオン源からイオンを引き出し、質量分離器により所望のイオン種を選定し、加減速管によりこのイオン種を所望のエネルギーに加速又は減速し、走査器により走査すると共に、平行化電磁石により前記イオンを平行化して、半導体ウェーハ等の基板の注入面に前記所望のイオンを注入するイオン注入装置において、
前記走査器の軸方向位置が、変更可能となる位置制御機構を有し、前記走査器の偏向中心位置が調整可能であることを特徴とするイオン注入装置。
【請求項4】
前記走査器の軸方向位置が変更可能となる位置制御機構は、
イオンビームの中心軸方向に平行に配置される1又は2以上のレールと、
前記走査器を載置すると共に前記レール上を移動可能となる可動体と、
前記可動体を前記レールの所望の位置に固定する固定具とを備えたことを特徴とする請求項3に記載のイオン注入装置。
【請求項5】
前記走査器の軸方向位置が変更可能となる位置制御機構は、
イオンビームの中心軸方向に平行に配置される1又は2以上のレールと、
前記走査器を載置すると共に前記レール上を移動可能となる可動体と、
前記イオンの中心軸方向に平行に配置されると共に前記可動体を位置制御するボールネジとを備えたことを特徴とする請求項3に記載のイオン注入装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2006−140053(P2006−140053A)
【公開日】平成18年6月1日(2006.6.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−329164(P2004−329164)
【出願日】平成16年11月12日(2004.11.12)
【出願人】(000231464)株式会社アルバック (1,740)
【Fターム(参考)】