説明

イオン液体保持材料及びその製造方法、並びにイオン導電性材料

【課題】グルコース系多糖類に対して3級ホウ素を導入した上で、イオン液体と混合することにより、安定性の高いイオン導電性材料を得ることを解決すべき課題とする。
【解決手段】グルコースを構成単位とするグルコース系多糖類に対して、前記グルコース系多糖類がもつ遊離OH基のうちの実質的に全てに、ヒドロボラン又はアルコキシボランからなるボラン化合物を反応させて得られる基材を有する組成物とイオン液体とをもつ組成物である。例えば、アミロース誘導体21に対してメシチルボラン15を反応させた下記化合物22とイオン液体との組成物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イオン液体保持材料及びその製造方法、並びにイオン導電性材料に関する。
【背景技術】
【0002】
イオン液体は常温付近で液体となる塩の総称である。一般的に塩はNaClに代表されるように常温で固体であり、数百℃以上の高い融解温度を持つことが知られている。しかし、イオン間の相互作用を弱め、かつ結晶化しにくいようなイオン構造をデザインすることにより、融点を著しく低下させ、常温で液体となる塩(すなわちイオン液体)を作り出せることが見出された。
【0003】
水や空気に対して安定で融点が室温以下のイオン液体が報告(非特許文献1)されて以来、その研究と利用開発が活発に進められてきた。イオン液体は難燃性、難揮発性といった性質を持ち、環境中に飛散しにくくリサイクルも可能であることから、環境に優しいグリーンな溶媒としての注目を集めた。
【0004】
さらに現在ではイオン液体を太陽電池、燃料電池、キャパシタ、リチウム二次電池等の電解質として利用するための研究開発が活発に行われ、化学、電気、自動車産業の分野等での有望な材料としても期待されている。また、その導電性を利用して、タッチパネル、耐電防止剤、エレクトロクロミック素子などに適用することもできる。
【0005】
近年、リチウムイオン二次電池は、携帯電話やノートパソコンなどのポータブル電子デバイス用の電源として利用され、さらにはハイブリッド自動車への搭載や電気自動車への利用が検討されている。一方で、電池のリコールが度々報じられるようにその安全性の向上には多くの課題が山積しており、リチウムイオン二次電池向け電解質の安全性、機能性両面においての向上が望まれている。その解決策の一つとして、難燃性イオン液体の利用とホウ素の導入が挙げられる。電解質にルイス酸であるホウ素化合物を添加することにより、アニオンをトラップしつつ、塩解離を促進することで、高いイオン伝導度とリチウムイオン輸率を兼ね備えたシングルイオン伝導体が得られることが期待できるものと本発明者らは考えた。イオン液体へのホウ素の導入例として、(1)アニオンレセプターを有するイミダゾリウム系イオン液体(非特許文献2)、(2)高解離性ボレートを含む双性イオン型イオン液体(非特許文献3)等が挙げられる。非特許文献2にて提示された化合物は常温でリチウムイオン輸率0.67を示し、非特許文献3にて提示された化合物は50℃で3.00×10-5S/cmのイオン伝導度を示し、常温で0.69のリチウムイオン輸率を示した。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】J. S. Wilkes and M. J. Zaworotko, Chem. Commun. 1992, 965.
【非特許文献2】N. Matsumi, M. Miyake, and H. Ohno, Chem. Commun. 2004, 2852.
【非特許文献3】A. Narita, W. Shibayama, K. Sakamoto, T. Mizuno, N. Matsumi and H. Ohno, Chem. Commun. 2006, 1926.
【非特許文献4】R. D. Swatloski, S. K. Spear, J. D. Holbrey, and R. D. Rogers, J. Am. Chem. Soc. 2002, 124, 4974.
【非特許文献5】T. Hirata, K. E. Werner, J. Appl. Polym. Sci. 1987, 33, 1533.
【非特許文献6】N. Matsumi. Y. Nakamura, K. Aoi, T. Watanabe, T. Mizumo and H. Ohno, Polym. J. 2009 , 41, 437.
【非特許文献7】H. Zhang, J. Wu, J. Zhang, and J. He, Macromolecules 2005, 38, 8272.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
近年、環境に対する配慮から植物由来のバイオソースを利用した材料合成が奨励されているが、一方で植物由来のポリマーは一般的に熱安定性などに課題を有するものが多く見られ、またセルロースのように結晶性が高く溶解性が低いことが化学修飾を難しくしている。
【0008】
Rogerらはイオン液体である1-butyl-3-methylimidazolium chlorideがセルロースを100℃程度に加熱することで溶解させることができることを報告した(非特許文献4)。また、セルロースをホウ酸で表面処理することにより熱安定性が付与されることも報告されている(非特許文献5)。
【0009】
これらのことからイオン液体に溶解させたセルロースにホウ素を導入することで、優れた熱安定性とイオン伝導特性を有する高分子電解質が得られることが期待できる。近年、本発明者らはイオン液体中でセルロースとホウ酸を縮合させることにより、高解離性のペンタフルオロフェニルボレート塩を有するイオンゲルを合成し、10-4Scm-1を超える高いイオン伝導度を報告している(非特許文献6)。
【0010】
ところで、グルコース系多糖類に対してホウ酸を導入すると、4級ホウ素(B)が形成されることとなる。しかし、イオン導電性材料への応用を意図した場合に、3級ホウ素を導入できれば選択的イオン輸送に更に有利であると考え、4級ホウ素ではなく3級ホウ素をもつ新規材料について検討を行った。
【0011】
本発明では、上記課題に鑑み、グルコース系多糖類に対して3級ホウ素を導入することで、イオン液体と混合することにより、安定性の高いイオン導電性材料を得ることができるイオン液体保持材料を提供することを解決すべき課題とする。更に、そのイオン液体保持材料を用いて構成されたイオン導電性材料を提供することも解決すべき課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決する請求項1に記載の本発明のイオン液体保持材料の特徴は、グルコースを構成単位とするグルコース系多糖類に対して、前記グルコース系多糖類がもつ遊離OH基のうちの実質的に全てに、ヒドロボラン又はアルコキシボランからなるボラン化合物を反応させて得られる基材を有する組成物であることにある。
【0013】
上記課題を解決する請求項2に記載の本発明のイオン液体保持材料の特徴は、請求項1において、前記グルコース系多糖類は、アミロース、セルロース、アミロペクチン、グリコーゲン、デキストリン、シクロデキストリン、デキストラン、プルラン、及びカードランからなる群から選択される1種又は2種以上の化合物であることにある。
【0014】
上記課題を解決する請求項3に記載の本発明のイオン液体保持材料の特徴は、請求項2において、前記グルコース系多糖類はアミロースであり、前記ボラン化合物を反応させる前に前記アミロースがもつグルコース構造における6位のOH基に保護基を導入することにある。
【0015】
上記課題を解決する請求項4に記載の本発明のイオン液体保持材料の特徴は、請求項2において、前記グルコース系多糖類はセルロースであり、前記ボラン化合物を反応させる前に前記セルロースをセルロース溶解剤に溶解させていることにある。
【0016】
上記課題を解決する請求項5に記載の本発明のイオン液体保持材料の特徴は、請求項1〜4の何れか1項において、前記ボラン化合物は、メシチルボラン又はメシチルジメトキシボランであることにある。
【0017】
上記課題を解決する請求項6に記載の本発明のイオン導電性材料の特徴は、請求項1〜5の何れか1項に記載のイオン液体保持材料と、イオン液体とを有することにある。
【0018】
上記課題を解決する請求項7に記載の本発明のイオン導電性材料の特徴は、請求項6において、更にリチウム塩を有することにある。
【0019】
上記課題を解決する請求項8に記載の本発明のイオン液体保持材料の製造方法の特徴は、グルコースを構成単位とするグルコース系多糖類を溶解剤に溶解して多糖類溶液とする溶解工程と、
前記多糖類溶液に対して、前記グルコース系多糖類がもつ遊離OH基のうちの実質的に全てに、ヒドロボラン又はアルコキシボランからなるボラン化合物を反応させる反応工程と、を有することにある。
【0020】
上記課題を解決する請求項9に記載の本発明のイオン液体保持材料の製造方法の特徴は、請求項8において、前記グルコース系多糖類はアミロースであり、前記ボラン化合物を反応させる前に前記アミロースがもつグルコース構造における6位のOH基に保護基を導入する保護基導入工程を有することにある。
【0021】
上記課題を解決する請求項10に記載の本発明のイオン液体保持材料の製造方法の特徴は、請求項9において、前記ボラン化合物は、メシチルボラン又はメシチルジメトキシボランであることにある。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、グルコース系多糖類に対して3級ホウ素を導入した新規化合物をもつイオン液体保持材料及びそれを用いたイオン導電性材料を提供することができる。グルコース系多糖類に対して、3級ホウ素を導入することによって、高いイオン導電性をもち且つ高い熱安定性を示すイオン導電性材料を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】実施例においてイオン伝導度のセルロース濃度依存性を示すグラフである。
【図2】図1で示したグラフについてVFTプロットを行ったものである。
【図3】実施例においてイオン伝導度のリチウム塩濃度依存性を示すグラフである。
【図4】図3で示したグラフについてVFTプロットを行ったものである。
【図5】実施例においてイオン伝導度のホウ素添加量依存性を示すグラフである。
【図6】図5で示したグラフについてVFTプロットを行ったものである。
【図7】実施例においてイオン液体として化合物7を用いた場合のイオン伝導度を示すグラフである。
【図8】実施例において化合物22、イオン液体及びリチウム塩を用いた場合のイオン伝導度を示すグラフである。
【図9】実施例において化合物22、イオン液体及びリチウム塩を用いた場合の熱安定性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明のイオン液体保持材料及びイオン導電性材料について実施形態に基づき以下詳細に説明を行う。本実施形態のイオン導電性材料は太陽電池、燃料電池、キャパシタ、リチウム二次電池等の電解質として利用可能である。更に、その導電性を利用して、タッチパネル、耐電防止剤、エレクトロクロミック素子などに適用することもできる。
【0025】
(イオン液体保持材料及びその製造方法)
本実施形態のイオン液体保持材料はイオン液体と混合することによりイオン液体を安定的に保持することができる。本実施形態のイオン液体保持材料はホウ素を有することで熱安定性に優れたイオン導電性材料を提供することができる。本実施形態のイオン液体保持材料はグルコースを構成単位とするグルコース系多糖類に対して、グルコース系多糖類がもつ遊離OH基のうちの実質的に全てに、ヒドロボラン又はアルコキシボランからなるボラン化合物を反応させて得られる基材を有する組成物である。ボラン化合物がグルコース系多糖類をもつ遊離のOH基に結合することにより遊離のOH基が実質的に含まれなくなる。
【0026】
グルコース系多糖類は、ボラン化合物が反応する官能基である遊離のOH基を有していれば充分である。例えばグルコース系多糖類としては、アミロース、セルロース、アミロペクチン、グリコーゲン、デキストリン、シクロデキストリン、デキストラン、プルラン、及びカードランからなる群から選択される1種又は2種以上の化合物が挙げられる。特にアミロース、セルロースが望ましいものとして挙げられる。更にグルコース系多糖類は遊離のOH基をもつものであればOH基の一部が修飾されていても良い。例えばヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロースなどの置換基自体がOH基をもつものや、シアノエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、エチルセルロース、プロピルセルロース、メチルセルロースなどにおいて、置換基の導入量を遊離のOH基を残すように設定したものが挙げられる。
【0027】
グルコース系多糖類における単糖の重合度(グルコース残基の数)は特に限定されず、最終的に製造されるイオン液体保持材料やイオン導電性材料に要求される物理的性能や、それらを製造する際の容易さから選択することができる。例えば、重合度が大きくなれば機械的強度が大きくなることが期待できる。反対に重合度が小さくなればイオン導電性材料に適用した場合の粘度が小さくなることが期待できる。更に重合度が小さくなればイオン液体保持材料を製造する際の取り扱いが容易になることが期待できる。
【0028】
グルコース系多糖類はボラン化合物を反応させる際に何らかの溶解剤により溶解されていることが望ましい。グルコース系多糖類を溶解剤に溶解した状態でボラン化合物を接触させることにより反応を進行させることができる。
【0029】
溶解剤はグルコース系多糖類の種類に応じて適正に選択される。グルコース系多糖類としてアミロースを採用する場合にはイミダゾリウムハライド系イオン液体を始めとする各種イオン液体(イミダゾリウムホルメート系イオン液体、イミダゾリウムホスフェイト系イオン液体なども含む)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ピリジンなどが溶解剤として例示できる。また、これらの溶解剤に対し、リチウム塩(LiCl、LiBrなど)を添加することでアミロースの溶解性を向上することもできる。リチウム塩はリチウムのイオン化傾向が高いことから解離性が高くアニオンが生成しやすいため、生成したアニオンの作用により効果的に水素結合を解くことができ、溶解剤への溶解性が向上する。
【0030】
グルコース系多糖類としてセルロースを採用する場合にはイミダゾリウムハライド系イオン液体、イミダゾリウムホルメート系イオン液体、イミダゾリウムホスフェイト系イオン液体などのイオン液体を溶解剤として採用したり、DMSOやN,N-ジメチルホルムアミドなどの溶媒に対しリチウム塩(LiCl、LiBrなど)を添加したものを溶解剤として採用したりすることができる。また、前述のイオン液体に対してもリチウム塩を添加することでセルロースの溶解性を向上することもできる。アミロース、セルロース以外のグルコース系多糖類についても上述したようなものなどを溶解剤として適宜採用できる。
【0031】
グルコース系多糖類が有するグルコース残基のうちグルコースの6位に遊離のOH基を備えるもの(アミロース、セルロースなど)については6位のOH基とその他のOH基との反応性の違いを利用して6位にある遊離のOH基をボラン化合物の反応から選択的に保護することができる。6位のOH基を保護することにより1つのグルコース残基には遊離のOH基が最大2つしか存在しなくなる。例えば、アミロースに対して、6位の遊離のOH基に保護基を導入すると、遊離のOH基が2位と3位との隣接した状態で残り、ボラン化合物として2官能性のものを採用すると、ボラン化合物が分子間を跨いで進行するよりも、隣接するOH基にて完了する確率が増えて、イオン液体保持材料やイオン導電性材料として、溶媒に溶解可能な線状高分子が得られるようにすることが可能になる。
【0032】
また、6位のOH基とその他のOH基とを区別できる反応以外にもグルコース系多糖類がもつ遊離のOH基の数よりも少ない量の保護基を導入することによりグルコース系多糖類がもつ遊離のOH基の量を制御することができる。遊離のOH基の量を制御することにより製造されるイオン液体保持材料やイオン導電性材料の架橋度、ホウ素の導入量を制御することができる。
【0033】
OH基を保護するための方法としては一般的なOH基の保護基を採用することができる。例えば、トリフェニルクロロメタンなどを反応させることによりトリチル基を導入したもの、各種カルボン酸やアシルハライドを利用したカルボン酸エステル保護(セルロースにカルボン酸としての酢酸を導入した酢酸セルロースなど)、硝酸/硫酸の混酸を利用してOH基を硝化したもの(セルロースに対して硝化を行いニトロセルロースとしたものなど)、SO/塩基との反応によりOH基に代えて−O−SONaを導入したもの、CS/NaOHとの反応によりOH基に代えて−O−CS−SNaを導入したもの(濃水酸化ナトリウムにセルロースを溶解後、二硫化炭素を反応させるなど。ビスコースレーヨン製造時の中間体)、R−SOCl/塩基(Rはアルキル基)との反応によりOH基に代えて−OSORを導入したもの、アクリロニトリルとの反応によりOH基に代えてシアノエチルエーテル基(−OCHCHCN)としたもの、TMSClやTBSClなどのシランカップリング剤を用いたシリル保護によりOH基に代えて、−OSiMe基や−OSiMe(t−Bu)基を導入したものが挙げられる。
【0034】
ボラン化合物はヒドロボラン、アルコキシボランから選択される。ヒドロボランはB−H結合を有する化合物であり、3官能性(B−H結合が3つある)のヒドロボランを始め、2官能性ヒドロボラン、1官能性ヒドロボランなどが採用できる。ホウ素原子に結合する官能基を変えることにより、製造されるイオン液体保持材料やイオン導電性材料にその官能基を導入することができる。3官能性ボラン化合物、2官能性ボラン化合物は複数のOH基と反応できるため、反応条件を制御することで、反応するOH基を変えることもできる。例えば、異なる分子にそれぞれ存在するOH基に反応することにより、その異なる分子間を架橋することができる。隣接するOH基の間(例えば同一グルコース残基の2位と3位との間)に2官能性ボラン化合物を反応させることにより分子間の架橋は進行しない。特に3官能性ボラン化合物(ボラン)を用いると、殆どの場合、異なる分子間を架橋したゲル状物質が得られることになる。
【0035】
3官能性のヒドロボランとしてはボラン、ジボランなどが挙げられる。ボランは安定性を高めるために、以下に示すようにルイス塩基と錯体を形成することができる。ボラン・テトラヒドロフラン錯体、ボラン・ピリジン錯体、ボラン・tert−ブチルアミン錯体、ボラン・ジメチルスルフィド錯体、ボラン・アンモニア錯体、ボラン・トリメチルアミン錯体、ボラン・トリエチルアミン錯体、ボラン・ジメチルアミン錯体、ボラン・ジエチルアミン錯体、ボラン・ジイソプロピルアミン錯体、ボラン・エチルジイソプロピルアミン錯体、ボラン・ピペリジン錯体、ボラン・モルホリン錯体、ボラン・4−メチルモルホリン錯体、ボラン・4−エチルモルホリン錯体、ボラン・ジエチルアニリン錯体、ボラン・オキサチアン錯体、ボラン・トリフェニルホスリン錯体、ボラン・トリブチルホスリン錯体、ボラン・ルチジン錯体などである。2官能性ヒドロボランとしてはピロリルボラン、メシチルボラン、トリピルボラン、テキシルボラン、イソピノカンフェイルボラン、及びそれらの各種錯体が挙げられる。1官能性ヒドロボランとしては9−ボラビシクロノナン、ジシアミルボラン、ジシクロヘキシルボラン、ジメシチルボラン、カテコールボラン、ジイソピノカンフェイルボラン、及びそれらの各種錯体が挙げられる。アルコキシボランとしてはメシチルジメトキシボラン、トリメトキシボラン、トリエトキシボラン、トリプロポキシボラン、トリイソプロポキシボラン、トリブトキシボラン、トリtert-ブトキシボランが例示できる。ヒドロボランとしてはボランの錯体やメシチルボラン、メシチルジメトキシボランであることが望ましい。
【0036】
(イオン導電性材料及びその製造方法)
本実施形態のイオン導電性材料は前述したイオン液体保持材料と、イオン液体とを有する。イオン液体としては特に限定しないが、ピリジニウム系カチオン、イミダゾリウム系カチオン、アンモニウム系カチオン、ピロリジニウム系カチオン、ピペリジニウム系カチオン、ホスホニウム系カチオンに基づいたN(CF3SO2)-、BF4-、PF6-、B(CN)4-、[(C2F5)3PF3]-、[(CN)2N]-、CF3SO3-、CF3CO2-、N(FSO2)2-を含むイオン液体などが例示でき、特にイミダゾリウムTFSA系、イミダゾリウムPF6系、イミダゾリウムBF4系を採用することがイオン伝導性や熱安定性上の理由で望ましい。
【0037】
イオン液体を前述のイオン液体保持材料を製造する場合のセルロースの溶解剤として利用する場合には、イミダゾリウムハライド系イオン液体、イミダゾリウムホルメート系イオン液体、イミダゾリウムホスフェイト系イオン液体を採用することができる。
【0038】
本実施形態のイオン導電性材料はリチウム塩を更に有することが望ましい。リチウム塩としては特に限定しない。例えば、LiCl、LiPF、LiBF、LiAsF、LiCFSO、LiN(CFSO、LiC(CFSO、LiSbF、LiSCN、LiClO、LiAlClが挙げられる。これらの中でも、LiPF、LiBF、LiClO、LiAsF、LiCFSO、LiN(CFSO、LiC(CFSO、LiN(FSO、LiN(CFSO)(CSO)からなる群から選ばれる1種以上の塩を用いることが、電気特性の観点からは好ましく、更にはLiN(CFSO(以下、「LiTFSA」と称する)を用いることが好ましい。なお、リチウム塩にはイオン液体であるものも含まれる。
【0039】
リチウム塩はイオン導電性材料と混合乃至は溶解することでイオン導電性が向上する。例えば、イオン液体保持材料を製造するときに、リチウム塩を共存させることでリチウム塩を含有させることができる。更に、イオン液体保持材料及びリチウム塩の双方に対して望ましくない反応が生起しない溶媒中に基材とリチウム塩とを溶解乃至は分散させた後、混合することができる。混合が終了した後、溶媒を除去することで、リチウム塩が分散されたリチウムイオン導電性材料を得ることができる。一般的なリチウム塩は水分による影響を受けやすいので乾燥雰囲気にて溶媒を除去する。ここで、リチウムイオン導電性材料を製する際に望ましい溶媒としては前述したグルコース系多糖類を溶解できる溶媒のうち、リチウム塩と反応しないものが選択できる。
【実施例】
【0040】
本発明のイオン液体保持材料、イオン導電性材料、及びそれらの製造方法について実施例に基づき詳細に説明を行う。
【0041】
(試薬の調製)
実験に使用した有機溶媒は市販特級あるいは一般品をそのままもしくは必要に応じて乾燥、蒸留して用いた。DMSOはカルシウムヒドリドで乾燥を行ってから、減圧下で蒸留した。ピリジンはカルシウムヒドリドで乾燥を行ってから、常圧で蒸留した。ジエチルエーテルは塩化カルシウムで予備乾燥してからナトリウムで乾燥し、常圧で蒸留を行った。また、合成に用いた各種試薬の入手先は以下の通りである。アミロース ポテト由来(SIGMA)、トリフェニルクロロメタン(ALDRICH)、N-メチルイミダゾール(東京化成工業株式会社)、アリルクロリド(東京化成工業株式会社)、活性炭素,破砕状,0.2~1mm(関東化学株式会社)、メシチルブロミド(東京化成工業株式会社)、マグネシウム 削状(キシダ化学)、トリメトキシボラン(和光純薬工業株式会社)、トリイソプロピルボラン(ALDRICH)、ボラン-THF complex in THF(関東化学株式会社)、水素化アルミニウムリチウム(関東化学株式会社)、セルロース microcrystalline powder(ALDRICH)、塩化リチウム(無水)(キシダ化学)、1-ethyl-3-methylimidazolium TFSA(関東化学株式会社)である。
【0042】
(イオン液体 (1-ブチル-3-メチルイミダゾリウムクロリド) (以下、[BMIm][Cl])(化合物5) の合成)
1-ブチル-3-メチルイミダゾリウムクロリドは文献に従って合成した(非特許文献7)。冷却管を取り付けた200mLナスフラスコにN-メチルイミダゾール(化合物3) 31.0 g (0.38 mol)及びn-ブチルクロリド(化合物4) 60mL (0.58 mol)を加え、5時間加熱還流した。過剰のn-ブチルクロリドを減圧下で留去した後、ジエチルエーテルで再沈殿を行った。30分放置し、上澄みを除去した後、1.5時間加熱真空乾燥した。さらにメタノールに溶かし、活性炭を通した後、メタノールを減圧下で留去した。約1時間加熱真空乾燥し無色透明で粘度の高い目的物(化合物5)を22.5g (1.27mol) 得た。(収率34%)
1H-NMR (CD3OD) : δ(ppm) 1.02 (3H, -CH2CH2CH3), 1.40 (2H, -CH2CH2CH3), 1.90 (2H, -CH2CH2CH2-), 3.96 (3H, -NCH3), 4.26 (2H, -NCH2CH2-), 7.61, 7.68 (2H, -NCHCHN-), 9.02 (1H, -NCHN)
【0043】
【化1】

【0044】
(イオン液体 (1-アリル-3-メチルイミダゾリウムクロリド) (以下、[AMIm][Cl])(化合物7) の合成)
1-アリル-3-メチルイミダゾリウムクロリドは文献に従って合成した(非特許文献7)。冷却管を取り付けた100mLナスフラスコにN−メチルイミダゾール(化合物3) 19.9 g (0.24 mol) にアリルクロリド(化合物6) 40.8 mL (0.54 mol) を加え、80℃で6時間加熱還流した。過剰のアリルクロリドを減圧下で留去した後、ジエチルエーテルで再沈殿を行った。30分放置し上澄みを除去した後、1.5時間真空乾燥した。さらに、メタノールに溶かし、活性炭に通した後、メタノールを減圧下で留去した。その後、約1日間加熱真空乾燥し無色透明でやや粘度の高い目的物を30.7 g (化合物7)(0.20 mol) 得た。(収率81%)
1H-NMR (CDCl3) : δ(ppm) 4.05 (3H, -NCH3), 4.97 (2H, -NCH2CH3), 5.39~5.47 (2H, -CH=CH2), 5.57~5.65 (1H, -CH2CH=CH2), 7.59, 7.74 (2H, -NCH=CHN), 9.92 (1H, -NCHN)
【0045】
【化2】

【0046】
(メシチルジメトキシボラン(化合物12) の合成)
冷却管、滴下ロート、三方コックを取り付けた200 mL 三口フラスコにスターラーチップとマグネシウム(化合物9) 3.107 g (0.128 mol)を加えた。ヒートガンで加熱しながら真空乾燥してマグネシウムを活性化させた後、窒素置換した。滴下ロートにメシチルブロミド(化合物8)17.0 g(0.117mol)のTHF(80mL)溶液を加え、激しく攪拌させながら一滴ずつ室温で滴下した。滴下終了後、85℃で3時間還流を行い室温に戻し化合物10を得た。別に、三方コック、滴下ロートを取り付けた二口フラスコにスターラーチップを入れ窒素置換した。フラスコにトリメトキシボラン(化合物11)26 mLを加え、ジエチルエーテル80 mLに溶解させた。滴下ロートに化合物10のTHF溶液を全て加え、-15℃で一滴ずつ滴下した。滴下終了後、-15℃で3時間攪拌を続けた。室温に戻し一日攪拌させた後、窒素雰囲気下で反応溶液をろ過して白色の沈殿物を取り除き、沈殿物を20mLのヘキサンで2回洗浄した。混合ろ液をエバポレーターによって濃縮した後、減圧蒸留を行って目的物(化合物12)を得た。(収率42%)
1H-NMR (DMSO) : δ (ppm) 2.19-2.23 (9H, -CH3), 3.49 (6H, -OCH3), 6.80 (2H, C6H2)
11B NMR (DMSO): δ (ppm) 30.6
【0047】
【化3】

【0048】
(メシチルボラン(化合物15)の合成)
窒素雰囲気下、メシチルジメトキシボラン(化合物12)1.988gにジエチルエーテル 40mL、ヘキサン20mLを加え溶解させた(A液)。一方、窒素雰囲気下、水素化アルミニウムリチウム(化合物13)粉末0.410 gにジエチルエーテル 20 mLを加え溶解させ、氷を用いて0℃に冷却し保持した(B液)。B液をA液に一滴ずつ滴下し、常温にて3時間攪拌し反応させた。反応終了後、反応溶液を窒素雰囲気下でろ過し、沈殿物をジエチルエーテル20mL、ヘキサン10mLで洗浄した。ろ液にトリエチルシリルクロリド(化合物14)1.20mLを滴下し、3時間攪拌した後、放置することで白色の沈殿が生じた。上澄みを乾燥することで、白色の固体である目的物(化合物15)を得た。(収率56%)
【0049】
【化4】

【0050】
(イオンゲルの合成)
三方コックを取り付けたすり付き試験管にスターラーチップ、イオン液体( [BMIm][Cl](化合物5)もしくは[AMIm][Cl](化合物7))を2.3g入れ、適当量のセルロース(化合物16)を加え真空乾燥しながら110〜120℃に加熱することで溶解させた。常温に戻しジクロロメタン、塩化リチウム(化合物18)のTHF溶液を加え、攪拌後、ボラン(化合物17)もしくはメシチルボラン(化合物15)を加え反応させた(室温、1時間)。反応後、溶液に対して1日加熱真空乾燥を行い目的のゲル状物質を得た。反応時に水素と思われるガスの発生を確認した。ジクロロメタンを添加することにより反応溶液の均一性が向上し反応が効率的に進行した。得られたゲル状物質は本発明のイオン液体保持材料(セルロースにボラン17又はメシチルボラン15が反応した化合物)とそのイオン液体保持材料に保持されたイオン液体(化合物5又は7)とからなる本発明のイオン導電性材料の1つである。特にボランを反応させた場合についての各化合物の添加量を表1に示す。
【0051】
【表1】

【0052】
【化5】

【0053】
(アミロース(化合物19)の6位水酸基選択的保護による6-O-トリチルアミロース (化合物21) の合成)
窒素雰囲気下、冷却管、三方コックを付けた100 mL二口フラスコに19を0.65g (4.0 unit mmol)を入れ、DMSO 15mL、ピリジン15mLを加え溶解させた(A液)。一方、窒素雰囲気下、三方コックを付けた50 mLナスフラスコにトリチルクロリド(化合物20)を2.78 g (10.0 mol)を入れピリジン 5mLを加え溶解させた(B液)。B液をA液に一滴ずつ滴下した。滴下終了後、適当な時間、温度で反応させた。反応終了後、減圧下でピリジンを留去した後、反応溶液を過剰量のメタノールに加え生成ポリマーを再沈殿した。生成物(化合物21)をろ過により回収し、少量のメタノールで数回洗浄した後、6時間加熱真空乾燥した。構造は13C-NMRにより決定した。(収率94%)
13C-NMR (DMSO) : δ (ppm) 62.0-66.0 (C-6), 69.0-76.0 (C-2, C-3), 80.0 (C-5), 86.5 (C-4), 101 (C-1), 126-132 (-OC(C6H5)3) , 145 (-OC(C6H5)3).
【0054】
【化6】

【0055】
(6-O-トリチルアミロース(化合物21) とメシチルボラン(化合物15) の縮合反応による6位を保護したアミロースのホウ素化)
三方コックを取り付けた50 mLナスフラスコにスターラーチップと化合物21 を0.24 g(0.60 unit mmol)入れ、THF 0.5mLを加え、溶解させた。化合物15の1.0 M溶液0.60 mL (0.60 mmol)を室温でマイクロシリンジにより滴下し、攪拌した。反応後、得られた固体(化合物22)を1日加熱真空乾燥した。構造確認は11B-NMR、1H-NMRにより行った。なお、得られた化合物22は溶媒に可溶であり、架橋の程度が少なく、ほぼ直線状の構造をもつ化合物であることが分かった。
1H-NMR (DMSO) : δ (ppm) 2.19 (9H -CH3), 4.18〜5.73 (sugar protons), 6.73 (2H, C6H2) , 6.40-7.75 (-OC(C6H5)3).
11B-NMR (DMSO): δ (ppm) 28.4
【0056】
【化7】

【0057】
(評価試験)
<交流インピーダンス法によるイオン伝導度測定>
イオン伝導体の導電率を求めるにあたり留意すべきは、電極と界面において電極分極や電気化学反応が起きるため、試料バルクと界面の特性を適当な方法で分離しないと試料バルクの特性である導電率を求めることができないという点である。
【0058】
この問題を解決する一つの手法が以下の交流法を用いた手法である。交流法とは一定の交流電圧下で周波数を変化させて測定する方法である。これは、周波数を変化させて測定した交流応答を等価回路によって解析することにより、イオン伝導体の導電率、誘電率などの固有の性質のみならず、イオン伝導体内部の不均一性、さらには電流/イオン伝導体界面に関する情報など、数多くの情報が得られる方法である。交流インピーダンス測定はソーラートロン1260を使用して行った。
・セルロースの濃度のイオン伝導度への影響
試験例1及び2のイオン導電性材料についてイオン伝導特性を交流インピーダンス法にて評価した。交流インピーダンス法による測定は温度を変化させてイオン伝導特性の温度依存性を評価した。試験例1のイオン導電性材料にはイオン液体の質量を基準としてセルロースが5質量%含まれる。試験例2のイオン導電性材料にはイオン液体の質量を基準としてセルロースが7質量%含まれる。結果を図1に示す。なお、ボランの量はセルロースの量に比例して増減した。また、リチウム塩の量はボランの量に比例して増減した(以下同じ)。
【0059】
図1から明らかなように、セルロースの濃度が7質量%含む試験例2のイオン導電性材料よりもセルロースを5質量%含む試験例1のイオン導電性材料の方がイオン伝導特性に優れることが分かった。
【0060】
この結果について、Vogel-Fulcher-Tammanプロット(以下、「VFTプロット」と称する)によるイオン伝導挙動の解析を行った。VFTプロットは下式(1)を用いて解析を行う方法であり、測定したイオン導電性材料におけるイオン伝導の機序を推定することができる手法である。
【0061】
【数1】

【0062】
ここで式(1)中、A、Bはそれぞれ系中のキャリアーイオン数とイオン輸送の活性化エネルギーに相当するパラメータである。またT0は理想的なガラス転移温度である。この式を用いることにより、理想溶液からのずれの影響を排除し、直線状のフィッティングを得ることができる。図1に示す結果を式(1)に当てはめたところ、図2に示す良好な直線関係が得られた。この結果から式(1)におけるA、B、T0を算出した。試験例1のイオン導電性材料(5質量%セルロース)はAが133Scm-1K1/2、Bが1526K、T0が170Kであり、試験例2のイオン導電性材料(7質量%セルロース)はAが166Scm-1K1/2、Bが1666K、T0が170Kであった。
【0063】
この結果から、試験例2のイオン導電性材料(7質量%)は試験例1のイオン導電性材料(5質量%)に比べてキャリアーイオン数(A)では上回っているが、イオン輸送の活性化エネルギー(B)が高くなっている。このことは、セルロース濃度が増加することで系の粘度が上昇し、キャリアーイオンが移動しにくいマトリックス環境であることが示唆された。
・リチウム塩の有無のイオン伝導度への影響
イオンゲルへのリチウム塩の添加がイオン伝導度にどのように影響しているのかを検討するため、試験例1(リチウム塩有り)及び試験例3(リチウム塩無し)についてイオン伝導特性を測定した。測定結果を図3に、VFTプロットを図4にそれぞれに示す。
【0064】
図4に示すように、各試験例のイオン導電性材料のVFTプロットは良好な直線性を示した。VFT式を用いた解析によって得られた。この結果から式(1)におけるA、B、T0を算出した。試験例3のイオン導電性材料(リチウム塩無し)はAが1535Scm-1K1/2、Bが2091K、T0が150Kであった。試験例1のイオン導電性材料の方が試験例3のイオン導電性材料よりもイオン伝導度が高い理由としては、リチウム塩が添加されたことで過剰な電荷同士が凝集し、キャリアーイオンの減少は生じているが、その効果を上回るイオン輸送の活性化エネルギー低下が生起したためであると考えられる。
・ホウ素添加量(架橋点の数)のイオン伝導度への影響
イオンゲルのホウ素含有量がイオン伝導度にどのように影響しているのかを検討するため、ホウ素の量をグルコースユニットに対して等モル量にした試験例1のイオン導電性材料と、1/3当量にした試験例4のイオン導電性材料との2つについて、交流インピーダンス測定を行った。測定結果を図5に、VFTプロットを図6にそれぞれに示す。この結果から式(1)におけるA、B、T0を算出した。試験例4のイオン導電性材料はAが119Scm-1K1/2、Bが1463K、T0が150Kであった。
【0065】
図5及び6から明らかなように、ホウ素の量の増加に伴い、イオン伝導度が低下することが分かった。ホウ素の量が減少すると、ルイス酸の減少による塩解離の促進効果が失われ、キャリアーイオンの減少が見られた。しかし架橋点の減少による粘度の低下により、イオン輸送の活性化エネルギーが低下し、結果としてイオン伝導度が向上したと考えられる。従って、ホウ素の添加が架橋することにならないようなもの(線状の分子構造をもつイオン液体保持材料など。後述するグルコース系多糖類としてのアミロースにおいて6位のOH基を保護したものなどが相当するものと考えられる。)であれば、ホウ素の添加量を増加することにより粘度は上昇せず、キャリアーイオンの増加に伴うイオン伝導度の向上が図られるものと考えられる。
・イオン液体を化合物7(1-アリル-3-メチルイミダゾリウムクロリド)とした場合のイオン伝導特性評価
試験例5のイオン導電性材料について測定を行った。図7に測定結果を示す。試験例5のイオン導電性材料は51℃で6.83×10-4Scm-1のイオン伝導度を示し、化合物5(1-ブチル-3-メチルイミダゾリウムクロリド)を溶媒とする試験例1のイオン導電性材料と比較して高い値を示した。イオン液体のアリル基とボランが反応している可能性があったが、メタノールを溶媒として抽出を行ったところ、透明なゲルが得られた。これより生成したゲルは分子間の架橋によって形成されていることが示唆された。
・化合物22のイオン伝導度
化合物22とイオン液体(1-エチル-3-メチルイミダゾリウムTFSA)及びLiTFSAの混合マトリックス(質量比1:1:1、イオン導電性材料)において、イオン伝導度測定を行い、図8にその結果を示す。この混合マトリックスは51℃において1.05×10-4 Scm-1のイオン伝導度を示した。
<熱安定性の評価>
・化合物22の熱安定性
化合物22に対して熱重量分析 (TGA)を行った。TGA測定はセイコーインスツルメンツ製TGA-6200熱重量分析計を使用した。結果を図9に示す。アミロースのみのTGA測定結果と比較して、およそ290℃から450℃にわたって混合マトリックスの方が高い熱安定性を有していることが分かった。なお、200℃付近における混合マトリックスの質量減少はホウ素の分解により生じたものであると考えられる。化合物22における5質量%分解温度(T5%)は242℃、50質量%分解温度(T50%)は430℃であり、アミロース単体と比べてT5%は僅かに低下しているものの、T50%は大幅に上昇していることが分かった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
グルコースを構成単位とするグルコース系多糖類に対して、前記グルコース系多糖類がもつ遊離OH基のうちの実質的に全てに、ヒドロボラン又はアルコキシボランからなるボラン化合物を反応させて得られる基材を有する組成物であることを特徴とするイオン液体保持材料。
【請求項2】
前記グルコース系多糖類は、アミロース、セルロース、アミロペクチン、グリコーゲン、デキストリン、シクロデキストリン、デキストラン、プルラン、及びカードランからなる群から選択される1種又は2種以上の化合物である請求項1に記載のイオン液体保持材料。
【請求項3】
前記グルコース系多糖類はアミロースであり、前記ボラン化合物を反応させる前に前記アミロースがもつグルコース構造における6位のOH基に保護基を導入する請求項2に記載のイオン液体保持材料。
【請求項4】
前記グルコース系多糖類はセルロースであり、前記ボラン化合物を反応させる前に前記セルロースをセルロース溶解剤に溶解させている請求項2に記載のイオン液体保持材料。
【請求項5】
前記ボラン化合物は、メシチルボラン又はメシチルジメトキシボランである請求項1〜4の何れか1項に記載のイオン液体保持材料。
【請求項6】
請求項1〜5の何れか1項に記載のイオン液体保持材料と、イオン液体とを有することを特徴とするイオン導電性材料。
【請求項7】
更にリチウム塩を有する請求項6に記載のイオン導電性材料。
【請求項8】
グルコースを構成単位とするグルコース系多糖類を溶解剤に溶解して多糖類溶液とする溶解工程と、
前記多糖類溶液に対して、前記グルコース系多糖類がもつ遊離OH基のうちの実質的に全てに、ヒドロボラン又はアルコキシボランからなるボラン化合物を反応させる反応工程と、を有することを特徴とするイオン液体保持材料の製造方法。
【請求項9】
前記グルコース系多糖類はアミロースであり、前記ボラン化合物を反応させる前に前記アミロースがもつグルコース構造における6位のOH基に保護基を導入する保護基導入工程を有する請求項8に記載のイオン液体保持材料の製造方法。
【請求項10】
前記ボラン化合物は、メシチルボラン又はメシチルジメトキシボランである請求項8又は9に記載のイオン液体保持材料の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−236320(P2011−236320A)
【公開日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−108421(P2010−108421)
【出願日】平成22年5月10日(2010.5.10)
【出願人】(504139662)国立大学法人名古屋大学 (996)
【Fターム(参考)】