説明

イソシアネート含有マイクロカプセル及びその製造方法、並びに、イソシアネート含有マイクロカプセルを含有する塗料組成物、接着剤組成物及びプラスチック改質剤

【課題】耐水性に優れ、長期間安定に保存でき、粒子径が小さくて分散性に優れたイソシアネート含有マイクロカプセル及びその製造方法を提供する。
【解決手段】溶解工程としてジシクロヘキシルメタン−4,4’−ジイソシアネートと、イソパラフィンと、酢酸エチルとを混合し溶解させてイソシアネート含有液とする。次に分散工程として、イソシアネート含有液にポリビニルアルコール水溶液と、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムとを加え、ホモミキサーで撹拌してO/Wエマルションとする。さらに、皮膜形成工程として、O/Wエマルションを撹拌しながら、ジエチレントリアミン水溶液を加え、加温しながら6時間撹拌を行う。こうして、ジシクロヘキシルメタン−4,4’−ジイソシアネートとイソパラフィンとがイソシアネート重合皮膜に内包されたイソシアネート含有マイクロカプセルの分散液を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イソシアネート化合物が皮膜に内包された、イソシアネート含有マイクロカプセル及びその製造方法に関する。このイソシアネート含有マイクロカプセルは、塗料組成物、接着剤組成物、プラスチック改質剤等に好適に用いることができる。
【背景技術】
【0002】
イソシアネート化合物は、アミノ基や水酸基等、活性水素を有する有機化合物と反応する性質を有しており、この性質を利用し、塗料や接着剤やプラスチック改質剤等の構成成分として広く用いられている。しかし、イソシアネート化合物は化学的に活性であり、空気中の水分等によって徐々に分解される等、長期安定性に欠けるという問題がある。この問題を解決するため、従来から、様々な提案がなされている。
【0003】
例えば、特許文献1には、イソシネート化合物とポリオレフィン樹脂とを溶融混合し、冷却後に粉砕したイソシアネート含有ポリオレフィン粉末について記載されている。この粉末は、ポリオレフィンの疎水性によって粉末内部に水が侵入するのを防ぐことができるため、イソシアネート化合物をある程度長期間保存することができる。
【特許文献1】特開平7−68158号公報
【0004】
また、特許文献2には、疎水性プラスチック粉末とイソシアネート化合物とを混錬した粉末について記載されている。この粉末も、疎水性プラスチック粉末によって粉末内部に水が侵入するのを防ぐことができるため、イソシアネート化合物をある程度長期間保存することができる。
【特許文献2】特開平7−75707号公報
【0005】
さらに、特許文献3には、多孔質の塩化ビニル樹脂粉末にイソシアネート化合物を染み込ませた後、塩化ビニル微粉末を表面にまぶしたイソシアネート化合物含有粉末が記載されている。このイソシアネート化合物含有粉末も、表面にまぶされた塩化ビニル微粉末によって、イソシアネート化合物含有粉末内部への水の侵入を防ぐことができるため、イソシアネート化合物をある程度長期間保存することができる。
【特許文献3】特開平8−113624号公報
【0006】
しかし、上記特許文献1及び2のイソシアネート化合物含有粉末を水の中に入れた場合、その粉末の表面に存在するイソシアネート化合物は直接水と接触するため、化学反応によってゲル化や凝集を起こすおそれがある。また、特許文献3のイソシアネート化合物含有粉末は、単に塩化ビニル微粉末が表面にまぶされているだけであるため、その隙間から水が浸入してイソシアネート化合物と反応し、同様の現象を生ずるおそれがある。このため、それらの耐水性及び長期保存性は、充分なものではなかった。
【0007】
こうした問題点を解決すべく、イソシアネート化合物を皮膜に内包させてマイクロカプセルとし、イソシアネート化合物と水とが直接接触することを防いだ、イソシアネート含有マイクロカプセルが開発されている。
【0008】
例えば、特許文献4では、ポリビニルアセタールの曇点現象を利用し、イソシアネート化合物を含有する粉末の表面をポリビニルアセタールでコーティングしたイソシアネート含有マイクロカプセルが提案されている。
【特許文献4】特開昭54−139885号公報
【0009】
しかし、このマイクロカプセルは、無機物やその塩類を用いて急速にポリビニルアセタールを凝固させて製造されるため、マイクロカプセルを構成する被膜が多孔性となりやすい。また、ポリビニルアセタールは水中において水の付加物と平衡反応となり、化学的に安定な化合物ではない。このため、耐水性に乏しいという問題があった。
【0010】
また、特許文献5では、ポリビニルアルコールの曇点現象を利用し、イソシアネート化合物を含有する粉末の表面をポリビニルアルコールでコーティングしたイソシアネート含有マイクロカプセルが提案されている。
【特許文献5】特公昭63−6258号公報
【0011】
この方法によれば、耐水性に優れたイソシアネート含有マイクロカプセルとすることができる。しかし、この方法によって得られるマイクロカプセルは、大きさが100μm程度と大きく、塗料や接着剤の構成成分として利用しようとした場合、分散が不均一となるという問題があった。
【0012】
さらに、特許文献6には、イソシアネート化合物と疎水性の物質(特許文献6中には「疎水性芯物質」と記載されている)と界面活性剤とを混合し、水を加えて乳化させ、多価アミンで液滴表面のイソシアネート化合物を重合させてマイクロカプセルとすることが提案されている。
【特許文献6】特開昭52−156775号公報
【0013】
このマイクロカプセルは、界面活性剤によって乳化した微粒子をマイクロカプセル化しているため、マイクロカプセルの粒径を小さなものにすることができる。このため、塗料や接着剤の構成成分とした場合でも、均一に分散させることができる。しかし、耐水性に優れ、長期間安定に保存できるマイクロカプセルとするためには、どのような疎水性の物質が適しているかということについては、明らかにされていない。
また、このマイクロカプセルは疎水性芯物質(実施例では殺虫剤等)の特性を発現させることを目的としており、マイクロカプセルの皮膜を形成するために加えられたイソシアネート化合物を利用しようとするものではない。即ち、この従来例のマイクロカプセルにはイソシアネート化合物は実質的に含有されていないといえる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、上記従来の実情に鑑みてなされたものであって、耐水性に優れ、長期間安定に保存できるイソシアネート含有マイクロカプセルを提供することを解決すべき課題としている。また、耐水性に優れ、長期間安定に保存でき、粒子径が小さくて分散性に優れた、イソシアネート含有マイクロカプセルの製造方法を提供することを解決すべき課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明のイソシアネート含有マイクロカプセルは、イソシアネート化合物が皮膜に内包されたイソシアネート含有マイクロカプセルにおいて、前記皮膜は熱可塑性樹脂からなり、前記イソシアネート化合物は極性官能基を有さない疎水性有機化合物中に溶解又は分散されていることを特徴とする。
【0016】
本発明のイソシアネート含有マイクロカプセルでは、イソシアネート化合物が皮膜によって外界と隔てられているため、イソシアネート化合物が水と直接接触することを防止することができる。このため、耐水性に優れ、長期間安定に保存することができる。また、マイクロカプセルを構成する皮膜が熱可塑性樹脂からなるため、加熱することによって皮膜が溶融し、皮膜に内包されていたイソシアネート化合物を外部に放出させることができる。このため、必要に応じていつでもイソシアネート化合物を放出させることができる。
さらには、皮膜に内包されているイソシアネート化合物が極性官能基を有さない疎水性有機化合物中に溶解又は分散されているため、たとえ皮膜の欠陥等を介して水がマイクロカプセルの内部に侵入したとしても、極性官能基を有さない疎水性有機化合物によって、イソシアネート化合物と水との接触が防止される。すなわち、パラフィン類やシリコーンオイルといった、極性官能基を有さない疎水性有機化合物は、撥水性に極めて優れているため、イソシアネート化合物と水との接触を極めて効果的に防止することができるのである。なお、疎水性有機化合物は、単一の化合物であってもよいし、異なる複数の疎水性有機化合物の混合物であってもよい。
パラフィン等のオイル類のような液体状のものが好ましい。これは融点をもったものは乳化工程中に融点以上に加熱する必要があり、これによりイソシアネートの反応速度が大きくなり、乳化時にゲル化してしまう恐れがあるからである。固体のものを添加する場合は溶剤により溶解した状態で使用することが好ましい。
【0017】
以上のように、本発明のイソシアネート含有マイクロカプセルは、熱可塑性樹脂の皮膜の存在によるバリア効果と、極性官能基を有さない疎水性有機化合物による耐水性効果との相乗作用によって、極めて優れた耐水性を示し、長期間の安定保存が可能となる。このため、たとえカプセルの粒径を小さくて皮膜が薄くなったとしても、カプセルに内包されているイソシアネート化合物を長期間安定に保存することが可能となる。こうした粒径の小さいイソシアネート含有マイクロカプセルは分散性に優れているため、塗料や接着剤やプラスチック改質剤等の添加剤として好適に使用することができる。
【0018】
本発明のイソシアネート含有マイクロカプセルにおけるイソシアネート化合物としては、
一分子中に2つ以上のイソシアネート基又はイソチオシアネート基を有する化合物であれば用いることができる。こうしたイソシアネート化合物として、例えばm−フェニレンジイソシアネート、p−フェニレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート、2,4−トリレンジイソシアネート、ナフタレン−1,4−ジイソシアネート、ジフェニルメタン−4,4’−ジイソシアネート、3,3’−ジメチルジフェニルメタン−4,4’−ジイソシアネート、キシリレン−1,3−ジイソシアネート、4,4’−ジフェニルプロパンジイソシアネート、トリメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、プロピレン−1,2−ジイソシアネート、ブチレン−1,2−ジイソシアネート、エチリジンジイソシアネート、シクロヘキシレン−1,2−ジイソシアネート、シクロヘキシレン−1,4−ジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタン−4,4’−ジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート等のジイソシアネートや、p−フェニレンジイソチオシアネート、キシリレン−1,4−ジイソチオシアネート、エチリジンジイソチオシアネート等のジイソチオイソシアネートを用いることができる。また、4,4’,4”−トリフェニルメタントリイソシアネート、トルエン−2,4,6−トリイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネートの3量体などのトリイソシアネート、ポリメチレンポリフェニルイソシアネート、4,4’−ジメチルジフェニルメタン−2,2’,5,5’−テトライソシアネートなどの多価イソシアネートや、これらの多価イソシアネートを多価アミン、多価カルボン酸、多価チオール、多価ヒドロキシ化合物、エポキシ化合物などの親水性基を有する化合物に付加させたものを用いることもできる。さらには、上記のイソシアネート化合物を複数混合して用いることもできる。マイクロカプセルの調製を水中で行う場合には、イソシアネート基と水との反応速度が遅いヘキサメチレンジイソシアネート、シクロヘキシレン−1,2−ジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタン−4,4’−ジイソシアネート等の脂肪族イソシアネート化合物を用いることが好ましい。
【0019】
本発明のイソシアネート含有マイクロカプセルの皮膜は、熱可塑性樹脂であれば特に限定されることはなく、例えばポリウレタンウレア樹脂、アミノ樹脂、アクリル樹脂などが挙げられる。この中でもポリウレタンウレア樹脂は、後述するように、イソシアネート化合物と多価アミンとの反応によって容易に皮膜を形成させることができるため好適である。
【0020】
また、イソシアネート化合物を溶解又は分散するための極性官能基を有さない疎水性化合物としては、パラフィンやイソパラフィン、オレフィン、脂肪族ジエン等のオイル類、ベンゼン、ナフタレン、アントラセン、ビフェニル、ターフェニル等の芳香族炭化水素およびその誘導体や水素化物、テレピン油やナフテン油等の天然または合成オイル等を用いることができる。また、オクタメチルトリシロキサン、デカメチルテトラシロキサン、ポリメチルシロキサン、ポリメチルフェニルシロキサン等のシリコーンオイルを用いることもできる。さらには、これらの疎水性有機化合物を混合して用いることもできる。また、固体のパラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス、ペトロラタム等のJIS K-2235に規定されている石油ワックス、ポリオレフィン、脂肪族や脂環族炭化水素樹脂等の固体を添加しても良い。疎水性有機化合物の沸点は80℃以上であることが好ましい。疎水性有機化合物の沸点が80℃未満である場合には、マイクロカプセルの製造や、保存状態時において、疎水性有機化合物が徐々に揮発してしまい、耐水性の効果が低下するからである。
【0021】
本発明のイソシアネート含有マイクロカプセルにおいて、疎水性有機化合物の含有量は、イソシアネート化合物100重量部に対して10〜300重量部とされていることが好ましい。疎水性有機化合物が10質量部未満の場合、水とイソシアネート化合物との接触防止の効果が小さくなる。また、疎水性有機化合物が300質量部を超えた場合には、塗料や接着剤やプラスチック改質剤として使用した場合に、イソシアネートの濃度が薄すぎて、塗料や接着剤やプラスチック改質剤としての効果を得られ難くなる。更に好ましいのは、疎水性有機化合物がイソシアネート化合物100重量部に対して50〜150重量部である。
【0022】
本発明のイソシアネート含有マイクロカプセルの平均粒径は、0.5〜50μmとされていることが好ましい。イソシアネート含有マイクロカプセルの平均粒径が50μmを超える場合、接着剤や塗料に混合した場合の分散性が悪くなったり、エマルションとしての安定性が悪くなったりする。また、平均粒子系が0.5μm未満の場合、比表面積が増えるためにマイクロカプセル化工程中に水と接触するイソシアネートの量も増え、カプセル中のイソシアネート基残存量が少なくなってしまう等の不具合を生じる。
【0023】
本発明のイソシアネート含有マイクロカプセルは、塗料組成物や接着剤組成物や樹脂改良剤の構成成分として、これらの中に含ませることができる。こうであれば、イソシアネート化合物による架橋反応によって、塗膜を強固にしたり、接着強度を高めたり、樹脂の性質を変化させたりすることができる。
【0024】
本発明のイソシアネート含有マイクロカプセルは、以下の方法によって製造することができる。すなわち、本発明のイソシアネート含有マイクロカプセルの製造方法は、極性官能基を有さない疎水性有機化合物中にイソシアネート化合物を溶解又は分散させてイソシアネート含有液とする溶解工程と、該イソシアネート含有液と水とを界面活性剤の存在下で混合してO/Wエマルションとする分散工程と、該O/Wエマルションの状態下においてイソシアネート化合物を界面重合させて皮膜を形成させる皮膜形成工程とを備えることを特徴とする。
【0025】
本発明イソシアネート含有マイクロカプセルの製造方法では、まず溶解工程として、イソシアネート化合物を極性官能基を有さない疎水性有機化合物中に溶解又は分散してイソシアネート含有液とする。この際、疎水性有機化合物は単一物質であっても、混合物であってもよい。そして、次に分散工程として、イソシアネート含有液と水とを界面活性剤の存在下で混合して、水中にイソシアネート含有液の細かい液滴が分散したO/Wエマルションとする。さらに、皮膜形成工程として、O/Wエマルションの状態下においてイソシアネート含有液の細かい液滴の表面に存在するイソシアネート化合物を界面重合させて皮膜を形成させる。以上の工程によって、極めて小さい粒径のイソシアネート含有マイクロカプセルを簡単に調製することができる。こうして得られたイソシアネート含有マイクロカプセルは水に分散した状態で得られるが、遠心分離や、噴霧乾燥等の方法によって、イソシアネート含有マイクロカプセルを単離してもよい。
【0026】
皮膜形成工程において、O/Wエマルション中に多価アミン化合物を添加することもできる。こうであれば、多価アミンとイソシアネート化合物との反応によって界面重合が迅速に進行し、短時間で皮膜を形成させることができる。ここで、多価アミンとしては、分子中に2個以上のNH基またはNH2基を含有し、水相中に溶解あるいは分散可能なものであれば全て利用することができる。こうした多価アミンの具体的な例としては、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、1,3−プロピレンジアミン、ヘキサメチレンジアミンなどの脂肪族多価アミン、脂肪族多価アミンのエポキシ化合物付加物、ピペラジンなどの脂環式多価アミン、3,9−ビス−アミノプロピル−2,4,8,10−テトラオキサスピロ−(5,5)ウンデカンなどの複素環状ジアミンなどを挙げることができる。これらの多価アミンを複数種類添加することも可能である。なお、多価アミンの添加量は、イソシアネート化合物の種類、その含有量、所望するマイクロカプセルの硬度等に応じて適宜決定されが、通常イソシアネート化合物100重量部に対して0.1〜100重量部が添加され、より好ましくは1〜50重量部が添加される。
【0027】
また、皮膜形成工程における温度としては30〜90°C、更に好ましくは40〜80°Cである。後述するように、溶解工程におけるイソシアネート含有液に揮発性の極性溶媒を混合する場合には、皮膜形成工程における温度を高めに設定することにより、極性溶媒を迅速に除去することができる。
【0028】
溶解工程では、必要に応じてイソシアネート含有液に揮発性の極性溶媒を混合しても良い。イソシアネート化合物と疎水性有機化合物との混合又は分散が困難である場合、不均一なとなる恐れがある。また、イソシアネート化合物と多価アミン化合物、あるいは水との接触が疎水性有機化合物によって阻害され、非常に弱い皮膜しかできなかったり、皮膜を形成するために長時間を要したりする。このような場合、揮発性の極性溶媒をイソシアネート含有液に添加すれば、イソシアネート化合物と疎水性有機化合物との混合または分散が容易になり、こうした問題を解決することができる。なお、極性有機溶剤はマイクロカプセル化工程後に残存すると、保存安定性に悪影響を及ぼすため、沸点が低く、揮発しやすいものが好ましい。具体的には、例えば酢酸エチル、メチルエチルケトン、塩化メチレンなどが挙げられる。これら極性溶剤は常圧で加熱により揮発除去しても、減圧下で除去しても良い。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
(実施例1)
溶解工程
イソシアネート化合物としてのジシクロヘキシルメタン−4,4’−ジイソシアネート(NCO含有量32.2%)を100重量部、疎水性有機化合物としてのイソパラフィン(エクソンモービル化学製、「アイソパーM」)を100重量部、さらに極性溶媒として酢酸エチル40重量部を混合し溶解させてイソシアネート含有液とする。
分散工程
次に、上記イソシアネート含有液に対し、5%ポリビニルアルコール水溶液を600重量部、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムを2.5重量部加え、ホモミキサーで6000rpmの回転速度で3分間撹拌してO/Wエマルションとする。
皮膜形成工程
さらに、このO/Wエマルションを室温で撹拌しながら、4%ジエチレントリアミン水溶液を140重量部加え、60°Cに加温し、6時間撹拌を行う。こうして、イソシアネート化合物とジエチレントリアミンとを界面重合させてイソシアネート重合皮膜を形成させることにより、ジシクロヘキシルメタン−4,4’−ジイソシアネートとイソパラフィンとがイソシアネート重合皮膜に内包されたイソシアネート含有マイクロカプセルの分散液を得た。こうして得られたマイクロカプセルの平均粒径は5μmであり、その容積比率は28%であった。
【0030】
(実施例2)
溶解工程
イソシアネート化合物としてノルボルネンジイソシアネート(NCO含有量40.8%)を100重量部、疎水性有機化合物として脂肪族系炭化水素樹脂を60重量部(日本ゼオン製、クイントンB−170、軟化点70℃)、さらに疎水性有機化合物としてイソパラフィン(エクソンモービル化学製、「アイソパーM」)を40重量部、極性溶媒として酢酸エチルを60重量部を混合し、70°Cに加温しながら溶解してイソシアネート含有液を調製した。
分散工程
次に、上記イソシアネート含有液を室温まで冷却し、5%ポリビニルアルコール水溶液を600重量部、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムを2.5重量部加え、ホモミキサーで6000rpmの回転速度で3分間撹拌してO/Wエマルションとした。
皮膜形成工程
さらに、このO/Wエマルションを室温で撹拌しながら、2%ジエチレントリアミン水溶液を140重量部加え、60°Cに加温し、6時間撹拌を行い、界面重合を行うことに、マイソシアネート含有マイクロカプセルの分散液を得た。こうして得られたマイクロカプセルの平均粒子径は7μmであり、その容積比は26%であった。
【0031】
(実施例3)
イソシアネート化合物としてタケネートD-178N(三井武田ケミカル株式会社製、NCO含有量19.2%)を100重量部、シリコーンオイルとしてKF-54(信越化学工業株式会社製)を100重量部、極性溶剤として酢酸エチルを40重量部を混合し、イソシアネート含有液を調製した。
以下実施例1と同様の操作で5μm、容積比27%のカプセル分散液が得られた。

【0032】
(比較例1)
比較例1では、溶解工程において、実施例1において疎水性有機化合物として用いたイソパラフィンの替わりに、ラウリン酸メチルを同量の割合で添加した。他の製造条件は実施例1と同様であり、説明を省略する。こうして、得られたイソシアネート含有マイクロカプセルの平均粒径は、5μmであった。
【0033】
(比較例2)
比較例2では、溶解工程において、疎水性有機化合物を用いることなく、イソシアネート化合物としてデスモジュールW(住化バイエルウレタン株式会社製)を200重量部、極性溶媒として酢酸エチルを60重量部の割合で混合した。他の製造条件は実施例1と同様であり、説明を省略する。こうして得られたイソシアネート含有マイクロカプセルの平均粒径は5μmであった。
【0034】
<イソシアネート基の安定性評価試験>
以上のようにして製造された実施例1、2及び比較例1、2のイソシアネート含有マイクロカプセルの分散液を25°Cで長期間放置し、マイクロカプセル中のイソシアネート基の含有量の変化を測定した。イソシアネート基の含有量の測定は、イソシアネート含有マイクロカプセルの分散液を乾燥させて残った不揮発成分のFT−IRを測定し、イソシアネート伸縮振動に起因する吸収ピークと、メチレン伸縮振動に起因する吸収ピークとのピーク強度比から求めた。結果を表1に示す。
【表1】

【0035】
表1から、実施例1及び実施例2のイソシアネート含有マイクロカプセルは、水中においても長期間にわたってイソシアネート基を安定に維持できることが分かる。これに対して、比較例1及び比較例2のイソシアネート含有マイクロカプセルは、イソシアネート基を安定に維持することはできず、水に対する安定性に劣っていることが分かる。以上の結果から、イソシアネート化合物と極性官能基を有さない疎水性有機化合物中とを皮膜内部に共存させれば、水に対する安定性に優れたイソシアネート含有マイクロカプセルとなることが分かる。
【0036】
<塗料組成物評価試験>
さらに、実施例1、2及び比較例1、2のイソシアネート含有マイクロカプセルの分散液をアクリル塗料に添加し、塗料組成物としての性能を評価した。
【0037】
すなわち、イソシアネート含有マイクロカプセルの分散液100重量部と、アクリルラテックス(スチレン/メタクリル酸メチル/アクリル酸−n−ブチル/2−ヒドロキシメチルアクリレート/メタアクリル酸の共重合体、水酸基価100mgKOH/g、酸価10mgKOH/g、Tg40℃、濃度50%、粒子径0.08μm)100重量部とを混合し、水系熱硬化性ウレタン樹脂組成物を調製した。同様の操作を実施例2及び比較例1、2のイソシアネート含有マイクロカプセルの分散液を用いて行った。こうして、実施例1、2及び比較例1、2の水系熱硬化性ウレタン樹脂組成物を調製した。
【0038】
こうして得られた水系熱硬化性ウレタン樹脂組成物を厚さ30μmとなるように塗布し、80°Cで1分間放置した後、120°Cで30分硬化して塗膜を得た。この塗膜を25℃の水に24時間浸漬し、塗膜の耐水性を目視で評価した。結果を表2に示す。
【表2】

【0039】
表2から分かるように、実施例1、2のイソシアネート含有マイクロカプセルを用いた接着剤組成物は、3週間後であっても変化せず、耐水性に優れた塗膜となることが分かる。これに対して、比較例1、2では、1週間後にはすでに白化し、2週間で剥離し、耐水性が極めて劣っていることが分かる。
【0040】
<接着剤組成物評価試験>
さらに、実施例1、2及び比較例1、2のイソシアネート含有マイクロカプセルの分散液を接着剤に添加し、接着剤組成物としての性能を評価した。
【0041】
すなわち、実施例1で得られたイソシアネート含有マイクロカプセルの分散液40重量部と、エチレン−酢酸ビニル共重合体のエマルション(濃度50%、ポリビニルアルコール含有量5%)100部とを混合し、さらに炭酸カルシウム30部を添加し、撹拌して接着剤組成物を調製した。同様の操作を実施例2及び比較例1、2のイソシアネート含有マイクロカプセルの分散液を用いて行った。こうして、実施例1,2及び比較例1、2の接着剤組成物を調製した。
【0042】
こうして得られた接着剤組成物を用いて、厚さが1.5mmのワラン板材を3層積層させた合板を製造した。製造条件としては、接着剤組成物の塗布量を30g/30×30cm2とし、5分間堆積させた後、コールドプレス(12kgf/cm2)により常温で5時間プレスし、さらに120°Cでホットプレス(12kgf/cm2)を行い、さらに25°Cで三日間の養生を行って合板とした。こうして得られた合板について、JAS規格による常態接着力及び材破率を測定した。結果を表3に示す。

【表3】

【0043】
表3から分かるように、実施例1、2のイソシアネート含有マイクロカプセルを用いた接着剤組成物は、そのカプセルが調整後3週間を経過していたとしても常態接着力はほとんど低下することはなく、材破率も90%以上となった。これに対し、比較例1,2のイソシアネート含有マイクロカプセルを用いた接着剤組成物は、そのカプセル調整後の経過時間に従って、常態接着力が著しく低下し、材破率も著しく低下した。以上の結果から、実施例1、2のイソシアネート含有マイクロカプセルは、極めて耐水性に極めて優れた耐水性を示し、長期にわたって安定に保存できることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明は、ソシアネート含有マイクロカプセルとして長期間安定に保存でき、分散性に優れており、塗料組成物、接着剤組成物及びプラスチック改質剤に利用可能である。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
イソシアネート化合物が皮膜に内包されたイソシアネート含有マイクロカプセルにおいて、
前記皮膜は熱可塑性樹脂からなり、前記イソシアネート化合物は極性官能基を有さない疎水性有機化合物中に溶解又は分散されていることを特徴とするイソシアネート含有マイクロカプセル。
【請求項2】
皮膜は、イソシアネート化合物が界面重合することによって形成されたイソシアネート重合皮膜であることを特徴とする請求項1記載のイソシアネート含有マイクロカプセル
【請求項3】
疎水性有機化合物の含有量は、イソシアネート化合物100重量部に対して10〜300重量部の割合とされていることを特徴とする請求項1又は2記載のイソシアネート含有マイクロカプセル。
【請求項4】
疎水性有機化合物がその構造中に極性官能基を持たず、炭化水素からのみから成る化合物であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項記載のイソシアネート含有マイクロカプセル。
【請求項5】
疎水性有機化合物がシリコーンオイルであることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項記載のイソシアネート含有マイクロカプセル。
【請求項6】
平均粒子径が0.5〜50μmとされていることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項記載のイソシアネート含有マイクロカプセル。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれか1項記載のイソシアネート含有マイクロカプセルを含む塗料組成物。
【請求項8】
請求項1乃至6のいずれか1項記載のイソシアネート含有マイクロカプセルを含む接着剤組成物。
【請求項9】
請求項1乃至6のいずれか1項記載のイソシアネート含有マイクロカプセルを含むプラスチック改質剤。
【請求項10】
極性官能基を有さない疎水性有機化合物中にイソシアネート化合物を溶解又は分散させてイソシアネート含有液とする溶解工程と、
該イソシアネート含有液と水とを界面活性剤の存在下で混合してO/Wエマルションとする分散工程と、
該O/Wエマルションの状態下においてイソシアネート化合物を界面重合させて皮膜を形成させる皮膜形成工程と、
を備えることを特徴とするイソシアネート含有マイクロカプセルの製造方法。
【請求項11】
皮膜形成工程において、O/Wエマルション中に多価アミン化合物を添加することを特徴とする請求項10記載のイソシアネート含有マイクロカプセルの製造方法。


【公開番号】特開2006−61802(P2006−61802A)
【公開日】平成18年3月9日(2006.3.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−246186(P2004−246186)
【出願日】平成16年8月26日(2004.8.26)
【出願人】(596000154)中京油脂株式会社 (13)
【Fターム(参考)】