説明

イミド変性エラストマー

【課題】柔軟な弾性率を有するゴム状物であると共に高強度を有し、特に耐熱性に優れる新規なイミド変性エラストマーを提供することである。
【解決手段】一般式(I):
【化7】


[式中、R1は、芳香族環または脂肪族環を含む2価の有機基を示す。R2は、ポリカーボネート構造単位およびポリエステル構造単位の少なくとも一方を含む2価の有機基を示す。R3は、芳香族環、脂肪族環または脂肪族鎖を含む2価の有機基を示す。R4は、4個以上の炭素を含む4価の有機基を示す。nは1〜100の整数を示す。mは2〜100の整数を示す。]で表されるイミド変性エラストマーである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、柔軟な弾性率を有するゴム状物であると共に高強度を有し、特に耐熱性に優れるイミド変性エラストマーに関する。
【背景技術】
【0002】
エラストマーは、その用途によっては、柔軟な弾性率を有するゴム状物で、かつ高強度および高耐熱性等の種々の物性が要求される。ところが、従来のゴム材料のうち、耐熱性の高いフッ素ゴムやシリコンゴムは、熱硬化性なのでリサイクル性が低く、成形加工コストが高いという問題がある。また、熱可塑性ゴムは、リサイクル性や成形加工コストに優れるものの、耐熱性が低いという問題がある。
【0003】
一方、耐熱性に優れるエラストマーとして、イミド変性エラストマーがある。例えば特許文献1には、高弾性でかつゴム状弾性領域の温度範囲が広い弾性を有するポリイミドエラストマー化合物(イミド変性エラストマー)が記載されている。この文献によると、ジアミンとイソシアネートを反応させて得られる高分子量のポリウレア化合物と、環状カルボン酸二無水物とを反応させてイミド変性エラストマーを得ている。また、非特許文献1,2には、ポリウレタンにイミド結合を導入したイミド変性エラストマーが記載されおり、耐熱性に劣るポリウレタンにイミド結合を導入して、ポリウレタンの有する物性を維持しつつ耐熱性を向上させている。
【0004】
しかしながら、これらの文献に記載されているイミド変性エラストマーでは、上記した物性、すなわち柔軟な弾性率を有するゴム状物で、かつ高強度および高耐熱性等を十分に得られないのが現状である。具体的には、特許文献1では、使用するジアミン化合物の分子量が数千程度であるため、柔軟なエラストマーを得ることは困難である。非特許文献1では、ポリイミドのプレポリマーをあらかじめ合成して、これをウレタンプレポリマーと共重合しており、このためイミドウレタンプレポリマーとウレタンプレポリマーとの間に形成されるテトラカルボン酸二無水物とイソシアナートあるいはジアミンからなるイミドユニットが、ランダムな数となり、イミドユニットの凝集が均一でないため、エラストマー成分を多くし、柔軟なゴム状物を得る場合、充分な強度および耐熱性が得られない。非特許文献2では、ウレタンプレポリマーをテトラカルボン酸二無水物で鎖延長することから、イミドユニットが1つであり、このためエラストマー成分を多くし、柔軟なゴム状物を得る場合、充分な強度および耐熱性が得られない。
したがって、より優れたイミド変性エラストマーの開発が望まれている。
【0005】
【特許文献1】特開平11−106507号公報
【非特許文献1】手銭英之、椎葉哲郎、古川睦久、「ポリイミドウレタンエラストマーの合成と物性」、エラストマー討論会要旨集、1999年、p72-75
【非特許文献2】松尾祥子、山田英介、稲垣愼二、「ポリイミドウレタンエラストマーの合成とその物性」、中部化学関係学協会支部連合・秋季大会予稿集、1995年、p381
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、柔軟な弾性率を有するゴム状物であると共に高強度を有し、特に耐熱性に優れる新規なイミド変性エラストマーを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するための、本発明のイミド変性エラストマーは、一般式(I):
【化2】

[式中、R1は、芳香族環または脂肪族環を含む2価の有機基を示す。R2は、ポリカーボネート構造単位およびポリエステル構造単位の少なくとも一方を含む2価の有機基を示す。R3は、芳香族環、脂肪族環または脂肪族鎖を含む2価の有機基を示す。R4は、4個以上の炭素を含む4価の有機基を示す。nは1〜100の整数を示す。mは2〜100の整数を示す。]で表される。かかる本発明のイミド変性エラストマーは文献未記載の新規化合物である。
【0008】
本発明のイミド変性エラストマーは、ジイソシアナートとポリオールとから得た分子両末端にイソシアナト基を有するウレタンプレポリマーをジアミン化合物でウレア結合により鎖延長し、テトラカルボン酸二無水物でウレア結合部にイミドユニットを導入したブロック共重合体であり、前記ポリオールがポリカーボネート構造単位およびポリエステル構造単位の少なくとも一方を有するのが好ましい。
【0009】
また、主鎖に連続した2つのイミドユニットを、その分布を制御しつつ所望の割合(イミド分率)で導入するうえで、前記ウレタンプレポリマーの重量平均分子量が300〜50,000であるのが好ましい。前記ジアミン化合物が1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼンおよび1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼンから選ばれる少なくとも1種であると、耐溶剤性に優れるイミド変性エラストマーを得ることができるうえで好ましい。前記イミド分率が5〜45重量%であると、主鎖に導入される連続した2つのイミドユニットの分布および割合が最適化されるうえで望ましい。柔軟な弾性率を有するゴム状物とするうえで、50℃での貯蔵弾性率E’が5×106〜5×108Paであるのが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明の前記一般式(I)で表されるイミド変性エラストマーは、ポリウレタンをエラストマー成分として含有するので、柔軟な弾性率を有するゴム状物とすることができる。そして、主鎖に連続した2つのイミドユニットを、その分布を制御しつつ所望の割合(イミド分率)で導入することができるので、高強度および高耐熱性を有する。しかも、主鎖がポリカーボネート構造単位およびポリエステル構造単位の少なくとも一方を含むので、連続した2つのイミドユニットによる耐熱性に加えて、ポリカーボネート構造単位またはポリエステル構造単位による耐熱性も加わる。したがって、本発明にかかるイミド変性エラストマーは、特に耐熱性に優れるという効果を有する。さらに、本発明にかかるイミド変性エラストマーは熱可塑性を有するので、リサイクル性および成形性にも優れ、耐溶剤性にも優れるという効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明のイミド変性エラストマーは、前記一般式(I)で表される。この式中において前記R1は、芳香族環または脂肪族環を含む2価の有機基を示すものであり、該有機基としては、例えば後述する反応行程式(A)に従ってウレタンプレポリマー(c)を合成する際に用いるジイソシアナート(a)の残基等が挙げられる。
【0012】
前記R2は、ポリカーボネート構造単位およびポリエステル構造単位の少なくとも一方を含む2価の有機基を示すものであり、該有機基としては、例えば反応行程式(A)に従ってウレタンプレポリマー(c)を合成する際に用いるポリカーボネートポリオールおよびポリエステルポリオールから選ばれる少なくとも1種からなるポリオール(b)の残基等が挙げられる。
【0013】
前記R3は、芳香族環、脂肪族環または脂肪族鎖を含む2価の有機基を示すものであり、該有機基としては、例えば後述する反応行程式(B)に従ってポリウレタン−ウレア化合物(e)を合成する際に用いるジアミン化合物(d)の残基等が挙げられる。前記脂肪族鎖は、炭素数1のものも含む。
【0014】
前記R4は、4個以上の炭素を含む4価の有機基を示すものであり、該有機基としては、例えば後述する反応行程式(C)に従ってイミド変性エラストマー(I)を合成する際に用いるテトラカルボン酸二無水物(f)の残基等が挙げられる。
前記nは1〜100の整数、好ましくは2〜50の整数を示す。前記mは2〜100の整数、好ましくは2〜50の整数を示す。
【0015】
イミド変性エラストマー(I)は、ジイソシアナートとポリオールとから得た分子両末端にイソシアナト基を有するウレタンプレポリマーをジアミン化合物でウレア結合により鎖延長し、テトラカルボン酸二無水物でウレア結合部にイミドユニットを導入したブロック共重合体であり、前記ポリオールがポリカーボネート構造単位およびポリエステル構造単位の少なくとも一方を有するのが好ましい。このようなイミド変性エラストマー(I)は、例えば以下に示すような反応工程式(A)〜(C)を経て製造することができる。
【0016】
[反応行程式(A)]
【化3】

[式中、R1,R2,nは、前記と同じである。]
【0017】
(ウレタンプレポリマー(c)の合成)
上記反応行程式(A)に示すように、まず、ジイソシアナート(a)とポリオール(b)から分子両末端にイソシアナート基を有するウレタンプレポリマー(c)を得る。本発明のイミド変性エラストマー(I)は、このウレタンプレポリマー(c)をエラストマー成分とするので、ゴム状領域(室温付近)の弾性率が低くなり、よりエラスティックにすることができると共に、このウレタンプレポリマー(c)の分子量を制御することにより、主鎖に連続した2つのイミドユニットを、その分布を制御しつつ所望の割合で導入することが可能となる。
【0018】
具体的には、前記ジイソシアナート(a)としては、例えば2,4−トリレンジイソシアナート(TDI)、2,6−トリレンジイソシアナート(TDI)、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアナート(MDI)、ポリメリックMDI(Cr.MDI)、ジアニシジンジイソシアナート(DADL)、ジフェニルエーテルジイソシアナート(PEDI)、ピトリレンジイソシアナート(TODI)、ナフタレンジイソシアナート(NDI)、ヘキサメチレンジイソシアナート(HMDI)、イソホロンジイソシアナート(IPDI)、リジンジイソシアナートメチルエステル(LDI)、メタキシリレンジイソシアナート(MXDI)、2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアナート(TMDI)、2,4,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアナート(TMDI)、ダイマー酸ジイソシアナート(DDI)、イソプロピリデンビス(4−シクロヘキシルイソシアナート)(IPCI)、シクロヘキシルメタンジイソシアナート(水添MDI)、メチルシクロヘキサンジイソシアナート(水添TDI)、TDI2量体(TT)等が挙げられ、これらは1種または2種以上を混合して用いてもよく、減圧蒸留したものを用いるのが好ましい。
【0019】
前記ポリオール(b)としては、ポリカーボネートポリオールおよびポリエステルポリオールから選ばれる少なくとも1種であるのが好ましい。これにより、主鎖がポリカーボネート構造単位およびポリエステル構造単位の少なくとも一方を含むようになるので、耐熱性を向上させることができる。
【0020】
前記ポリカーボネートポリオールとしては、例えばポリオール(多価アルコール)と、ホスゲン、クロル蟻酸エステル、ジアルキルカーボネート、ジアリルカーボネート、アルキレンカーボネート等とを縮合重合させて得られるポリカーボネートポリオール等が挙げられ、前記ポリオールとしては、例えば1,6−ヘキサンジオール、1,4−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,5−ペンタンジオール等が挙げられ、前記ジアルキルカーボネートとしては、例えばジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート等が挙げられる。ポリカーボネートポリオールの具体例としては、ポリテトラメチレンカーボネートジオール、ポリヘキサメチレンカーボネートジオール等のポリカーボネートジオールが挙げられ、これらは1種または2種以上を混合して用いてもよい。
【0021】
前記ポリエステルポリオールとしては、例えばポリカルボン酸とポリオールとを縮合重合させて得られるポリエステルポリオール等が挙げられ、具体例としては、ポリエチレンアジペート、ポリジエチレンアジペート、ポリプロピレンアジペート、ポリテトラメチレンアジペート、ポリヘキサメチレンアジペート、ポリネオペンチレンアジペート、3−メチル−1,5−ペンタンジオールとアジピン酸からなるポリオール、ε−カプロラクトンを開環重合して得たポリカプロラクトンポリオール、ポリカプロラクトンジオール、β−メチル−δ−バレロラクトンをエチレングリコールで開環することにより得られたポリオール等が挙げられ、これらは1種または2種以上を混合して用いてもよい。
【0022】
さらに、前記ポリエステルポリオールとしては、テレフタル酸、イソフタル酸、無水フタル酸、コハク酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸、ダイマー酸(混合物)、パラオキシ安息香酸、無水トリメリット酸、ε−カプロラクトン、β−メチル−δ−バレロラクトンから選ばれる少なくとも1種の酸と、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、ポリエチレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、ペンタエリスリトール、3−メチル−1,5−ペンタンジオールから選ばれる少なくとも1種のグリコールとの共重合体等が挙げられる。
【0023】
ポリオール(b)は、70〜90℃、1〜5mmHg、10時間〜30時間程度の条件で減圧乾燥したものを用いるのが好ましい。また、ポリオール(b)の重量平均分子量は100〜10,000、好ましくは300〜5,000であるのが好ましい。前記重量平均分子量は、ポリオール(b)をゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定し、得られた測定値をポリスチレン換算した値である。
【0024】
反応は、上記で例示したジイソシアナート(a)とポリオール(b)とを所定の割合で混合した後、アルゴンガス等の不活性ガス雰囲気下、室温で1時間〜5時間程度反応させればよい。ジイソシアナート(a)とポリオール(b)との混合比(モル)は、ジイソシアナート(a):ポリオール(b)=1.01:1〜2:1の範囲にするのが好ましい。これにより、得られるウレタンプレポリマー(c)の重量平均分子量を、下記で説明する所定の値にすることができる。
【0025】
すなわち、得られるウレタンプレポリマー(c)の重量平均分子量は、300〜50,000、好ましくは500〜45,000であるのがよい。この範囲内でウレタンプレポリマー(c)の重量平均分子量を制御して、イミドユニットを所望の割合で導入すると、柔軟な弾性率を有するゴム状物で、かつ高強度および高耐熱性を有するイミド変性エラストマー(I)を得ることができる。
【0026】
より具体的には、ウレタンプレポリマー(c)の重量平均分子量を上記所定の範囲にすると、イミド変性エラストマー(I)のイミド分率(イミド成分含有率)を5〜45重量%、好ましくは5〜40重量%にすることができる。該イミド分率は、イミド変性エラストマー中のイミド成分の割合を意味している。該イミド分率が前記所定の範囲にあると、主鎖に導入される連続した2つのイミドユニットの分布および割合が最適化され、その結果、イミド変性エラストマー(I)が、柔軟な弾性率を有するゴム状物で、かつ高強度および高耐熱性を有するようになる。これに対し、前記イミド分率が5重量%より低いと、強度や耐熱性が低下するおそれがあり、45重量%を超えると、柔軟性が低下するおそれがある。
【0027】
前記イミド分率は、原料、すなわちジイソシアナート(a)、ポリオール(b)、後述するジアミン化合物(d)およびテトラカルボン酸二無水物(f)の仕込み量から算出される値であり、より具体的には、下記式(α)から算出される値である。
【数1】

【0028】
また、ウレタンプレポリマー(c)の重量平均分子量が、前記範囲内において小さいほど、ハードなイミド変性エラストマー(I)を得ることができる。これに対し、前記分子量が300より小さいと、イミド変性エラストマー(I)がハードになりすぎ、柔軟性が低下するおそれがある。また、50,000より大きいと、イミド変性エラストマー(I)がソフトになりすぎ、強度や耐熱性が低下するおそれがあるので好ましくない。前記重量平均分子量は、ウレタンプレポリマー(c)をGPCで測定し、得られた測定値をポリスチレン換算した値である。
【0029】
[反応行程式(B)]
【化4】

[式中、R1〜R3,n,mは、前記と同じである。]
【0030】
(ポリウレタン−ウレア化合物(e)の合成)
上記で得られたウレタンプレポリマー(c)を用いて、反応行程式(B)に従ってイミド前駆体であるポリウレタン−ウレア化合物(e)を合成する。すなわち、ウレタンプレポリマー(c)をジアミン化合物(d)でウレア結合により鎖延長してポリウレタン−ウレア化合物(e)を得る。
【0031】
具体的には、前記ジアミン化合物(d)としては、例えば1,4−ジアミノベンゼン(別名:p−フェニレンジアミン、略称:PPD)、1,3−ジアミノベンゼン(別名:m−フェニレンジアミン、略称:MPD)、2,4−ジアミノトルエン(別名:2,4−トルエンジアミン、略称:2、4−TDA)、4,4’−ジアミノジフェニルメタン(別名:4,4’−メチレンジアニリン、略称:MDA)、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル(別名:4,4’−オキシジアニリン、略称:ODA、DPE)、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル(別名:3,4’−オキシジアニリン、略称:3,4’−DPE)、3,3’−ジメチル−4,4’−ジアミノビフェニル(別名:o−トリジン、略称:TB)、2,2’−ジメチル−4,4’−ジアミノビフェニル(別名:m−トリジン、略称:m−TB)、2,2’−ビス(トリフルオロメチル)−4,4’−ジアミノビフェニル(略称:TFMB)、3,7−ジアミノ−ジメチルジベンゾチオフェン−5,5−ジオキシド(別名:o−トリジンスルホン、略称:TSN)、4,4’−ジアミノベンゾフェノン、3,3’−ジアミノベンゾフェノン、4,4’−ビス(4−アミノフェニル)スルフィド(別名:4,4’−チオジアニリン、略称:ASD)、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン(別名:4,4’−スルホニルジアニリン、略称:ASN)、4,4’−ジアミノベンズアニリド(略称:DABA)、1,n−ビス(4−アミノフェノキシ)アルカン(n=3,4,5、略称:DAnMG)、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)−2,2−ジメチルプロパン(略称:DANPG)、1,2−ビス[2−(4−アミノフェノキシ)エトキシ]エタン(略称:DA3EG)、9,9−ビス(4−アミノフェニル)フルオレン(略称:FDA)、5(6)−アミノ−1−(4−アミノメチル)−1,3,3−トリメチルインダン、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン(略称:TPE−Q)、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン(別名:レゾルシンオキシジアニリン、略称:TPE−R)、1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン(略称:APB)、4,4’−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル(略称:BAPB)、4,4’−ビス(3−アミノフェノキシ)ビフェニル、2,2−ビス(4−アミノフェノキシフェニル)プロパン(略称:BAPP)、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン(略称:BAPS)、ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン(略称:BAPS−M)、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン(略称:HFBAPP)、3,3’−ジカルボキシ−4,4’−ジアミノジフェニルメタン(略称:MBAA)、4,6−ジヒドロキシ−1,3−フェニレンジアミン(別名:4,6−ジアミノレゾルシン)、3,3’−ジヒドロキシ−4,4’−ジアミノビフェニル(別名:3,3’−ジヒドロキシベンジジン、略称:HAB)、3,3’,4,4’−テトラアミノビフェニル(別名:3,3’−ジアミノベンジジン、略称:TAB)等の炭素数6〜27の芳香族ジアミン化合物;1,6−ヘキサメチレンジアミン(HMDA)、1,8−オクタメチレンジアミン(OMDA)、1,9−ノナメチレンジアミン、1,12−ドデカメチレンジアミン(DMDA)、1−アミノ−3−アミノメチル−3,5,5−トリメチルシクロヘキサン(別名:イソホロンジアミン)、4,4’−ジシクロヘキシルメタンジアミン、シクロヘキサンジアミン等の炭素数6〜24の脂肪族または脂環式ジアミン化合物;1,3−ビス(3−アミノプロピル)−1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン等のシリコーン系ジアミン化合物等が挙げられ、これらは1種または2種以上を混合して用いてもよい。
特に、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン(TPE−Q)、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン(TPE−R)を用いると、耐溶剤性に優れるイミド変性エラストマー(I)を得ることができる。
【0032】
反応は、ウレタンプレポリマー(c)と、上記で例示したジアミン化合物(d)とを等モル、好ましくはNCO/NH2比が1.0程度の割合で混合した後、アルゴンガス等の不活性ガス雰囲気下、室温〜100℃、好ましくは50〜100℃において、2時間〜30時間程度で溶液重合反応または塊状重合反応させればよい。
【0033】
前記溶液重合反応に使用できる溶媒としては、例えばN,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、N−ヘキシル−2−ピロリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリドン等が挙げられ、特に、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、N−ヘキシル−2−ピロリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリドンが好ましい。これらの溶媒は、1種または2種以上を混合して用いてもよく、定法に従い脱水処理したものを用いるのが好ましい。
【0034】
[反応行程式(C)]
【化5】

[式中、R1〜R4,n,mは、前記と同じである。]
【0035】
(イミド変性エラストマー(I)の合成)
上記で得られたポリウレタン−ウレア化合物(e)を用いて、反応行程式(C)に従ってイミド変性エラストマー(I)を合成する。すなわち、テトラカルボン酸二無水物(f)でウレア結合部にイミドユニットを導入してブロック共重合体であるイミド変性エラストマー(I)を得る。
【0036】
具体的には、前記テトラカルボン酸二無水物(f)としては、例えば無水ピロメリット酸(PMDA)、オキシジフタル酸二無水物(ODPA)、ビフェニル−3,4,3’,4’−テトラカルボン酸二無水物(BPDA)、ベンゾフェノン−3,4,3’,4’−テトラカルボン酸二無水物(BTDA)、ジフェニルスルホン−3,4,3’,4’−テトラカルボン酸二無水物(DSDA)、4,4’−(2,2−ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸二無水物(6FDA)、m(p)−ターフェニル−3,4,3’,4’−テトラカルボン酸二無水物、シクロブタン−1,2,3,4−テトラカルボン酸二無水物、1−カルボキシメチル−2,3,5−シクロペンタントリカルボン酸−2,6:3,5−二無水物等が挙げられ、これらは1種または2種以上を混合して用いてもよい。
【0037】
反応は、ポリウレタン−ウレア化合物(e)とテトラカルボン酸二無水物(f)とのイミド化反応である。該イミド化反応は、溶媒下、無溶媒下のいずれであってもよい。溶媒下でイミド化反応を行う場合には、まず、ポリウレタン−ウレア化合物(e)と、上記で例示したテトラカルボン酸二無水物(f)とを所定の割合で溶媒に加え、アルゴンガス等の不活性ガス雰囲気下、100〜300℃、好ましくは135〜200℃、より好ましくは150〜170℃において、1時間〜10時間程度反応させて、下記式(g)で表されるポリウレタンアミック酸(PUA)を含む溶液(PUA溶液)を得る。
【0038】
【化6】

[式中、R1〜R4,n,mは、前記と同じである。]
【0039】
ここで、ポリウレタン−ウレア化合物(e)とテトラカルボン酸二無水物(f)との混合は、ポリウレタン−ウレア化合物(e)の合成で使用したジアミン化合物(d)とテトラカルボン酸二無水物(f)との混合比(モル)が、ジアミン化合物(d):テトラカルボン酸二無水物(f)=1:2〜1:2.02の範囲となる割合で混合するのが好ましい。これにより、確実にウレア結合部にイミドユニットを導入することができる。
【0040】
使用できる溶媒としては、上記反応行程式(B)の溶液重合反応に使用できる溶媒で例示したものと同じ溶媒を例示することができる。なお、反応行程式(B)において溶液重合反応でポリウレタン−ウレア化合物(e)を得た場合には、該溶媒中でイミド化反応を行えばよい。
【0041】
ついで、上記で得たPUA溶液を例えば遠心成形機等に流し込み、100〜300℃、好ましくは135〜200℃、より好ましくは150〜170℃において、100〜2,000rpm、30分〜2時間程度で遠心成形してシート状に成形し、PUAシートを得る。
【0042】
ついで、該PUAシートを加熱処理(脱水縮合反応)することにより、シート状の一般式(I)で表されるイミド変性エラストマー(ポリウレタンイミド:PUI)を得ることができる。加熱処理は、PUAシートが熱分解しない条件であるのが好ましく、例えば減圧条件下において150〜450℃、好ましくは150〜250℃、1時間〜5時間程度であるのがよい。得られるシート(PUIシート)の厚みとしては、例えば50〜500μm程度である。
【0043】
無溶媒下でイミド化反応を行う場合には、通常の攪拌槽型反応器の他、排気系を有する加熱手段を備えた押出機の中でも行うことができるので、得られるイミド変性エラストマー(I)を押し出して、そのままフィルム状や板状に成形することができる。
【0044】
上記のようにして得られるイミド変性エラストマー(I)は、柔軟な弾性率を有するゴム状物で、かつ高強度および高耐熱性を有するようになる。具体的には、50℃での貯蔵弾性率E’が5×106〜5×108Paであるのが好ましい。該貯蔵弾性率は、後述するように、動的粘弾性測定装置を用いて測定して得られる値である。
【0045】
イミド変性エラストマー(I)が、柔軟な弾性率を有するゴム状物で、かつ高強度および高耐熱性を有するようになる理由としては、以下の理由が推察される。すなわち、上記で説明した通り、本発明のイミド変性エラストマー(I)は、主鎖に連続した2つのイミドユニットを、その分布を制御しつつ所望の割合(イミド分率)で導入することができるので、このイミドユニットからなるハードセグメントの凝集が均一かつ強固なものになる。このため、イミド変性エラストマー(I)は、より均一かつ強固なミクロ相分離構造を形成し、ガラス転移温度が低くなることで、ゴム状弾性領域の温度範囲が広くなる。その結果、ポリウレタンをエラストマー成分として含有し、柔軟な弾性率を有するゴム状物としても、高強度および高耐熱性を有するようになる。
【0046】
イミド変性エラストマー(I)の重量平均分子量は10,000〜1000,000、好ましくは50,000〜800,000、より好ましくは50,000〜500,000であるのがよい。これに対し、前記分子量が10,000より小さいと、強度や耐熱性が低下するおそれがあり、1000,000より大きいと、成形性が低下するおそれがあるので好ましくない。前記重量平均分子量は、前記PUA溶液をGPCで測定し、得られた測定値をポリスチレン換算した値から導き出した値である。なお、イミド変性エラストマー(I)ではなく、前記PUA溶液をGPCで測定するのは、イミド変性エラストマー(I)がGPCの測定溶媒に不溶なためである。
【0047】
本発明のイミド変性エラストマーは、柔軟な弾性率を有するゴム状物で、かつ高強度および高耐熱性を有すると共に、熱可塑性を有するので、通常用いられる射出成形機、押出成形機、ブロー成形機等で容易に成形でき、例えばシート、フィルム、チューブ、ホース、ロールギア、パッキング材、防音材、防振材、ブーツ、ガスケット、ベルトラミネート製品、被覆材、パーベーパレーション用の分離膜、光学非線形材料、弾性繊維、圧電素子、アクチュエーター、その他の各種自動車部品、工業機械部品、スポーツ用品等に使用することができるが、これらの用途に限定されるものではない。
【0048】
以下、合成例および実施例を挙げて本発明のイミド変性エラストマーを詳細に説明するが、本発明は以下の合成例および実施例のみに限定されるものではない。
【0049】
以下の実施例で使用したイミド変性エラストマーは、以下の6種類である。
<合成例1>
前記反応行程式(A)〜(C)に従ってイミド変性エラストマー(1)を合成した。
(ウレタンプレポリマーの合成)
まず、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアナート(MDI)[日本ポリウレタン工業(株)社製]を減圧蒸留した。また、ポリカーボネートジオール(PCD)[日本ポリウレタン工業(株)社製の商品名「二ッポラン981」、重量平均分子量:1,000]を80℃、2〜3mmHg、24時間の条件で減圧乾燥した。
【0050】
ついで、上記MDI30.4gと、PCD69.6gとを、攪拌機およびガス導入管を備えた500mlの四つ口セパラブルフラスコにそれぞれ加え、アルゴン雰囲気下、80℃で2時間攪拌して、分子両末端にイソシアナート基を有するウレタンプレポリマーを得た。このウレタンプレポリマーをGPCで測定した結果、ポリスチレン換算した値で重量平均分子量は0.8×104であった。
【0051】
(ポリウレタン−ウレア化合物(l)の合成)
上記で得たウレタンプレポリマー10gを脱水処理したN−メチル−2−ピロリドン(NMP)60mlに溶解させたものと、4,4’−ジアミノジフェニルメタン(MDA)1.034gを脱水処理したNMP20mlに溶解させたものとを、攪拌機およびガス導入管を備えた500mlの四つ口セパラブルフラスコにそれぞれ加え、アルゴン雰囲気下、室温(23℃)で24時間攪拌して、ポリウレタン−ウレア化合物の溶液を得た。
【0052】
(イミド変性エラストマー(1)の合成)
上記で得たポリウレタン−ウレア化合物の溶液中に、無水ピロメリット酸(PMDA)2.276gを加え、アルゴンガス雰囲気下、150℃で2時間攪拌して、ポリウレタンアミック酸(PUA)溶液を得た。ついで、該PUA溶液を遠心成形機に流し込み、150℃で1,000rpm、1時間遠心成形してPUAシートを得た。このPUAシートを減圧デシケータ内で200℃、2時間加熱処理(脱水縮合反応)して、厚さ100μmのシート状のイミド変性エラストマー(1)(PUIシート)を得た(イミド分率:35重量%)。なお、前記イミド分率は、前記式(α)から算出して得た値である。
【0053】
このイミド変性エラストマー(1)について、KBr法にてIRスペクトルを測定した結果、1780cm-1、1720cm-1および1380cm-1にイミド環に由来する吸収が観察された。
【0054】
<合成例2>
まず、ポリカプロラクトンジオール(PCL)[ダイセル化学(株)社製の商品名「プラクセル210」、重量平均分子量:1,000]を80℃、2〜3mmHg、24時間の条件で減圧乾燥した。ついで、PCD69.6gに代えて、上記のPCLを69.6g用いた以外は、上記合成例1と同様にして、重量平均分子量が0.6×104のウレタンプレポリマーを得た。
【0055】
このウレタンプレポリマーを用いた以外は上記合成例1と同様にして厚さ100μmのシート状のイミド変性エラストマー(2)(PUIシート)を得た(イミド分率:35重量%)。このイミド変性エラストマー(2)について、KBr法にてIRスペクトルを測定した結果、1780cm-1、1720cm-1および1380cm-1にイミド環に由来する吸収が観察された。
【0056】
<合成例3>
上記合成例1と同様にして重量平均分子量が0.8×104のウレタンプレポリマーを得、MDA1.034gに代えて、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン(TPE−R)を1.525g用いた以外は、上記合成例1と同様にして、ポリウレタン−ウレア化合物の溶液を得た。
【0057】
ついで、このポリウレタン−ウレア化合物を用いた以外は上記合成例1と同様にして厚さ100μmのシート状のイミド変性エラストマー(3)(PUIシート)を得た(イミド分率:35重量%)。このイミド変性エラストマー(3)について、KBr法にてIRスペクトルを測定した結果、1780cm-1、1720cm-1および1380cm-1にイミド環に由来する吸収が観察された。
【0058】
<合成例4>
上記合成例1と同様にして重量平均分子量が0.8×104のウレタンプレポリマーを得、MDA1.034gに代えて、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン(TPE−Q)を1.525g用いた以外は、上記合成例1と同様にして、ポリウレタン−ウレア化合物の溶液を得た。
【0059】
ついで、このポリウレタン−ウレア化合物を用いた以外は上記合成例1と同様にして厚さ100μmのシート状のイミド変性エラストマー(4)(PUIシート)を得た(イミド分率:35重量%)。このイミド変性エラストマー(4)について、KBr法にてIRスペクトルを測定した結果、1780cm-1、1720cm-1および1380cm-1にイミド環に由来する吸収が観察された。
【0060】
<合成例5>
上記合成例2と同様にして重量平均分子量が0.6×104のウレタンプレポリマーを得、MDA1.034gに代えて、TPE−Rを1.525g用いた以外は、上記合成例2と同様にして、ポリウレタン−ウレア化合物の溶液を得た。
【0061】
ついで、このポリウレタン−ウレア化合物を用いた以外は上記合成例2と同様にして厚さ100μmのシート状のイミド変性エラストマー(5)(PUIシート)を得た(イミド分率:35重量%)。このイミド変性エラストマー(5)について、KBr法にてIRスペクトルを測定した結果、1780cm-1、1720cm-1および1380cm-1にイミド環に由来する吸収が観察された。
【0062】
<合成例6>
上記合成例2と同様にして重量平均分子量が0.6×104のウレタンプレポリマーを得、MDA1.034gに代えて、TPE−Qを1.525g用いた以外は、上記合成例2と同様にして、ポリウレタン−ウレア化合物の溶液を得た。
【0063】
ついで、このポリウレタン−ウレア化合物を用いた以外は上記合成例2と同様にして厚さ100μmのシート状のイミド変性エラストマー(6)(PUIシート)を得た(イミド分率:35重量%)。このイミド変性エラストマー(6)について、KBr法にてIRスペクトルを測定した結果、1780cm-1、1720cm-1および1380cm-1にイミド環に由来する吸収が観察された。
【0064】
上記で得たイミド変性エラストマー(1)〜(6)を表1に示す。
【表1】

【0065】
[実施例1〜6]
上記合成例1〜6で得たイミド変性エラストマー(1)〜(6)の各PUIシートについて、引張試験、引裂き試験、応力緩和、熱老化試験、動的粘弾性試験および耐溶剤性試験を行った。各試験方法を以下に示すと共に、その結果を表2に示す。
【0066】
(引張試験方法)
PUIシートを3号ダンベルで打ち抜き、標線間20mm、500mm/分の条件で、JIS K6251に準拠し、100%引張応力、破断強度および破断伸びをそれぞれ測定した。
【0067】
(引裂き試験方法)
PUIシートをダンベルで切り込みなしアングル形に打ち抜き、500m/分の条件で、JIS K6252に準拠して引裂き強度を測定した。
【0068】
(応力緩和試験方法)
PUIシートを1号ダンベルで打ち抜き、チャック間50mmで取り付け、500mm/分で5mm伸長させて停止し、停止後30秒後の応力と3630秒後の応力とを測定した。そして、各測定値を式:(3630秒後の応力/30秒後の応力)×100に当てはめて応力緩和(%)を算出した。
【0069】
(熱老化試験方法)
PUIシートを3号ダンベルで打ち抜き、150℃、180℃および200℃の各温度において96時間、ギアオーブン中で熱老化後、上記した引張試験方法と同じ条件で、JIS K6257に準拠して引張試験を行った。そして、熱老化前後の破断強度を式:[(熱老化後の破断強度/熱老化前の強度)−1]×100に当てはめて耐熱老化破断強度(Tb)変化率(%)を算出した。
【0070】
(動的粘弾性試験方法)
セイコーインスツルメンツ社(Seiko Instruments Inc.)製の動的粘弾性測定装置「DMS 6100」を用い、20Hz、5℃/分、−100〜400℃の昇温過程にて測定した。
【0071】
(耐溶剤性試験方法)
PUIシートをトルエンに室温(23℃)で96時間浸漬し、浸漬前後の重量増加を計量した。より具体的には、PUIシートから幅2.0cm、長さ3.0cmの試験片を切り出し、この試験片を前記条件で溶剤に浸漬し、浸漬前後の重量を下記式(β)に当てはめて膨潤率(重量変化率)(%)を算出した。
【数2】

【0072】
[比較例1,2]
市販の耐熱性ポリエステルおよび耐熱性ポリウレタンを厚さ100μmのシート状にしたものについて、前記実施例1〜6と同様にして引張試験、引裂き試験、応力緩和、熱老化試験、動的粘弾性試験および耐溶剤性試験を行った。その結果を表2に示す。なお、用いた耐熱性ポリエステルおよび耐熱性ポリウレタンは、以下の通りである。
・耐熱性ポリエステル:東洋紡績(株)社製の商品名「ペルプレンC−2000」
・耐熱性ポリウレタン:BASFジャパン(株)社製の商品名「エラストランC85A50」
【0073】
[比較例3]
ポリアミド酸溶液(宇部興産(株)社製の商品名「UワニスA」)を遠心成形機に流し込み、150℃で1,000rpm、1時間遠心成形してシート状にした後、減圧デシケータ内で200℃、2時間加熱処理(脱水縮合反応)して、厚さ100μmのシート状のポリイミド樹脂を得た。得られたポリイミド樹脂シートについて、前記実施例1〜6と同様にして引張試験、引裂き試験、応力緩和、熱老化試験、動的粘弾性試験および耐溶剤性試験を行った。その結果を表2に示す。
【0074】
【表2】

【0075】
表2から明らかなように、実施例1〜6にかかるイミド変性エラストマー(1)〜(6)は、優れた物理強度(100%引張応力、破断強度、引裂き強度および応力緩和)を示すと共に、柔軟性(破断伸びおよび50℃での貯蔵弾性率E’)にも優れているのがわかる。また、これらのイミド変性エラストマーは耐熱老化Tb変化率が小さく、したがって高い耐熱性を有しているのがわかる。
【0076】
特に、ジアミン化合物がTPE−RまたはTPE−Qである実施例3〜6にかかるイミド変性エラストマー(3)〜(6)は、耐溶剤性に優れているのがわかる。この結果から、ジアミン化合物にTPE−R、TPE−Qを用いると、耐溶剤性に優れるイミド変性エラストマーを得ることができると言える。
【0077】
比較例1にかかる耐熱性ポリエステルは、実施例1〜6にかかるイミド変性エラストマー(1)〜(6)よりも、破断伸びには優れるものの、破断強度が低くい結果を示した。200℃における耐熱老化Tb変化率は、実施例1,2にかかるイミド変性エラストマー(1),(2)と同程度であるものの、200℃で96時間後(すなわち熱老化後)の破断強度(Tb)が、小さい結果を示した。
【0078】
比較例2にかかる耐熱性ポリウレタンは、実施例1〜6にかかるイミド変性エラストマー(1)〜(6)よりも、破断伸びには優れるものの、100%引張応力、破断強度および引裂き強度が低くい結果を示した。また、180℃および200℃における耐熱老化Tb変化率が、実施例1,2にかかるイミド変性エラストマー(1),(2)よりも劣る結果を示した。
【0079】
比較例3にかかるポリイミド樹脂は、実施例1〜6にかかるイミド変性エラストマー(1)〜(6)よりも、物理強度、耐熱性および耐溶剤性には優れるものの、破断伸びおよび50℃での貯蔵弾性率E’が低く、柔軟性に劣る結果を示した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(I):
【化1】

[式中、R1は、芳香族環または脂肪族環を含む2価の有機基を示す。R2は、ポリカーボネート構造単位およびポリエステル構造単位の少なくとも一方を含む2価の有機基を示す。R3は、芳香族環、脂肪族環または脂肪族鎖を含む2価の有機基を示す。R4は、4個以上の炭素を含む4価の有機基を示す。nは1〜100の整数を示す。mは2〜100の整数を示す。]で表されるイミド変性エラストマー。
【請求項2】
ジイソシアナートとポリオールとから得た分子両末端にイソシアナト基を有するウレタンプレポリマーをジアミン化合物でウレア結合により鎖延長し、テトラカルボン酸二無水物でウレア結合部にイミドユニットを導入したブロック共重合体であり、前記ポリオールがポリカーボネート構造単位およびポリエステル構造単位の少なくとも一方を有する請求項1記載のイミド変性エラストマー。
【請求項3】
前記ウレタンプレポリマーの重量平均分子量が300〜50,000である請求項2記載のイミド変性エラストマー。
【請求項4】
前記ジアミン化合物が、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼンおよび1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼンから選ばれる少なくとも1種である請求項2または3記載のイミド変性エラストマー。
【請求項5】
イミド分率が5〜45重量%である請求項1〜4のいずれかに記載のイミド変性エラストマー。
【請求項6】
50℃での貯蔵弾性率E’が5×106〜5×108Paである請求項1〜5のいずれかに記載のイミド変性エラストマー。

【公開番号】特開2009−51949(P2009−51949A)
【公開日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−220394(P2007−220394)
【出願日】平成19年8月27日(2007.8.27)
【出願人】(000111085)ニッタ株式会社 (588)
【出願人】(303062093)
【Fターム(参考)】