説明

イムノクロマトグラフィー用複合粒子

【課題】イムノクロマトグラフィー法において、吸光及び蛍光のいずれも検出でき、吸光強度の低下がなく目視であっても十分標的物質の検出を可能とし、検体に標的物質が一定量以上含まれる場合は目視判定を可能とする一方、標的物質が微量で標識粒子の吸光性により判断できない場合はより高感度な機器を用いることで標的物質の検出が可能な、イムノクロマトグラフィー用複合粒子を提供する。
【解決手段】金属からなる微粒子の外側が、少なくとも一種の蛍光物質を含有するシリカの少なくとも1層で覆われた構造を持ち、標的物質を特異的に認識する標識物質で表面修飾された微粒子からなる、イムノクロマトグラフィー用複合粒子。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イムノクロマトグラフィー用複合粒子に関する。
【背景技術】
【0002】
イムノクロマトグラフィー(イムノクロマト法)とは、検出対象物(標的物質)が毛細管現象により多孔質支持体内を移動し、抗原抗体反応等、標的物質を特異的に認識する標識物質により標識粒子に捕捉され、更に多孔質支持体に局所的(例えば、ライン状)に固定化された検出対象物を捕捉する捕捉物質と効率的に接触することによって前記検出対象物が結合した標識粒子が濃縮され、捕捉物質が固定化されたラインが発色することによって検出対象物の有無を判定する免疫測定法をいう。
イムノクロマト法の特徴として下記の3点が挙げられる。(1)判定までに要する時間が20分以下であり迅速な検査が可能である。(2)検体を滴下するだけで測定でき、操作が簡便であるため、複数の検体処理が可能である。(3)特別な検出装置を必要とせず、判定が容易なため一般消費者が自身で検査できる。
これらの特徴を利用して、イムノクロマト法は妊娠検査やインフルエンザ検査に用いられており、新たなPOCT(Point Of Care Testing)の手法として注目を集めている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
現在イムノクロマト法では標識粒子として金ナノ粒子や着色ラテックス粒子が使用されており、ラインの発色を目視で確認する方法が一般的である(例えば、特許文献2参照)。しかし、ラインの発色を目視で判定する方法は、簡便であるものの、感度が十分高くないことが問題である。
【0004】
一方、イムノクロマト法において、標識粒子として蛍光粒子を用いラインの蛍光発色を蛍光検出装置で確認する方法が知られている(例えば、特許文献3参照)。蛍光検出装置を用いる蛍光型イムノクロマト検査薬は従来の目視で確認するタイプに比べて感度が向上するものの、以下のような問題点がある。
〈1〉イムノクロマト法試薬の製造工程において、抗体を感作させた標識粒子をパッドに含有させ、乾燥させ、コンジュゲートパッドを作製する。標識粒子が、発色を目視で判定する金粒子や着色ラテックス粒子等の着色粒子は、粒子の吸光度が高いのでパッドに粒子が含有されているかどうか、あるいは均一に含有されているかどうかを容易に判断できる。しかし標識粒子が蛍光粒子の場合は、粒子の吸光度が低いため、蛍光粒子をパッドに含有させた際に蛍光粒子がどの程度含有されているかどうかが容易に判断できず、一定量に含有させることが難しい。一定量に含有できているかどうかは蛍光検出装置で判定する必要があり、生産コストが高くなる。
〈2〉蛍光検出型イムノクロマト法試薬は、蛍光検出器が故障した場合や蛍光検出装置を持ち合わせていない場合など、蛍光検出器が使用できない環境においては使用できない。
〈3〉蛍光粒子は保存期間が長くなると退色によって蛍光強度が低下するため、長期間保管した蛍光型イムノクロマト法試薬を用いると、正しい判定ができない場合がある。
〈4〉検査後のイムノクロマト法試薬を検査結果として保管する際、蛍光型イムノクロマト法試薬では蛍光粒子の退色によってラインが消えてしまい、イムノクロマト法試薬の検査後の判定結果を長期保管ができない。
【0005】
上記問題を解決すべく、イムノクロマト法において、着色粒子と発色粒子の混合物を標識粒子として抗原抗体反応等により標的物質を検出する方法が知られている(例えば、特許文献4参照)。しかし、抗原が着色粒子と発色粒子の両方に分かれて捕捉されるため、発色輝度の低下により検出感度が低下してしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−67979号公報
【特許文献2】特開2003−262638号公報
【特許文献3】特開2009−115822号公報
【特許文献4】特開2010−014631号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記の問題点に鑑み、本発明は、イムノクロマトグラフィーにおいて、吸光及び蛍光のいずれも検出でき、吸光強度の低下がなく目視であっても十分標的物質の検出を可能とし、検体に標的物質が一定量以上含まれる場合は目視判定を可能とする一方、標的物質が微量で標識粒子の吸光性により判断できない場合はより高感度な機器を用いることで標的物質の検出が可能な、イムノクロマトグラフィー用複合粒子を提供することを課題とする。
また、本発明は、作製から長期間経た後でも検出感度が低下しない、目視判定を可能としたイムノクロマト用テストストリップを提供することを課題とする。
更に、本発明は、検査後のイムノクロマト用テストストリップを検査結果として長期保存が可能なイムノクロマト用テストストリップを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題は以下の手段により解決される。
(1)金属からなる微粒子の外側が、少なくとも一種の蛍光物質を含有するシリカの少なくとも1層で覆われた構造を持ち、標的物質を特異的に認識する標識物質で表面修飾された微粒子からなる、イムノクロマトグラフィー用複合粒子。
(2)前記金属物質が、プラズモン吸収を生じる物質であることを特徴とする、前記(1)項記載のイムノクロマトグラフィー用複合粒子。
(3)前記金属物質が、金、銀、銅、白金及びこれらの混合物からなる群より選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする、前記(1)又は(2)項記載のイムノクロマトグラフィー用複合粒子。
(4)前記蛍光物質が有機物質であり、前記蛍光物質の最大吸収波長と前記金属の最大プラズモン吸収波長との差が100nm以上あることを特徴とする、前記(1)〜(3)のいずれか1項記載のイムノクロマトグラフィー用複合粒子。
(5)前記(1)〜(4)のいずれか1項記載のイムノクロマトグラフィー用複合粒子を用いて標的物質を特異的に捕捉し、標的物質を捕捉した複合粒子の金属の発色を目視により観察することで標的物質検出の判定を行い、標的物質を捕捉した複合粒子の蛍光物質の蛍光を蛍光検出装置により観察することで標的物質検出の判定及び/又は標的物質の定量を行うことを特徴とする、標的物質の検出方法。
(6)前記(1)〜(4)のいずれか1項記載のイムノクロマトグラフィー用複合粒子からなる、イムノクロマト用テストストリップ。
【0009】
なお、本明細書において、本発明のイムノクロマトグラフィー用複合粒子を、単に「複合粒子」ともいう。
【発明の効果】
【0010】
本発明のイムノクロマトグラフィー用複合粒子は、標識粒子が吸光性と蛍光性の両方の機能を含有しており、吸光強度の低下がなく目視であっても標的物質の検出が可能である。したがって、検体に標的物質が一定量以上含まれる場合は蛍光検出装置によらないで目視で標的物質の検出を可能とする一方、標的物質が微量で標識粒子の吸光性により判断できない場合はより高感度な機器を用いることで標的物質の検出が可能となる。
本発明のイムノクロマトグラフィー用テストストリップは、プラズモン吸収等の金属微粒子の吸光発光により目視による標的物質の検出が可能であるため、テストストリップを長期間保存した後であっても標的物質の検出感度が低下しない。
さらに、本発明のイムノクロマトグラフィー用テストストリップは、検査後の前記テストストリップを保存した後であっても、プラズモン吸収等の金属微粒子の吸光発光により目視判定結果の再確認が可能であるため、判定結果の長期間の保存が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】図1(a)は本発明のイムノクロマト用テストストリップの一実施形態の平面図を示し、図1(b)は、図1(a)で示したイムノクロマト用テストストリップの縦断面図を示す図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
まず、本発明の複合粒子について説明する。
本発明の複合粒子は、標的物質を特異的に認識する標識物質(例えば、抗体、抗原、DNA、RNAなどの生体分子)で表面修飾された複合粒子である。
本発明において、前記複合粒子の平均粒径は20〜1000nmであることが好ましく、20〜600nmであることがより好ましく、60〜300nmであることがさらに好ましい。粒径が小さすぎると検出感度が低下し、粒径が大きすぎるとイムノクロマト法に用いられる多孔質支持体(メンブレン)の目詰まりの原因となる。
【0013】
本発明において、前記平均粒径は、透過型電子顕微鏡(TEM)、走査型電子顕微鏡(SEM)等の画像から無作為に選択した50個の標識粒子の合計の投影面積から複合粒子の占有面積を画像処理装置によって求め、この合計の占有面積を、選択した複合粒子の個数(50個)で割った値に相当する円の直径の平均値(平均円相当直径)を求めたものである。
本発明の複合粒子は粒状物質として単分散であることが好ましく、粒度分布の変動係数いわゆるCV値は特に制限はないが、15%以下が好ましく、10%以下がより好ましい。
【0014】
本発明の複合粒子は、着色性及び蛍光性の両機能を有する。本発明の複合粒子は、そのコア部分にモル吸光係数εが5×105-1cm-1以上(より好ましくは1×107-1cm-1以上)のプラズモン吸収を有する(プラズモンによって光を吸収する)金属を含有していることが好ましい。
ここで、モル吸光係数εは下記ランベルト−ベールの式から算出することができる。

A=Log10(I0/I)=εbc

[A:吸光度、I:透過光の強度、I0:入射光の強度、ε:モル吸光係数(M-1cm-1)、b:光路長(cm)、c:複合粒子の濃度(M(mol/L))、as:比吸光度、c’:複合粒子の濃度(g/L)]
【0015】
上記複合粒子の濃度c(mol/L)は、標識粒子の大きさをTEM写真から求め、一粒子の体積を決定し、粒子の密度(例えばシェルであるシリカとコアである金属の体積比率を加重平均により算出)から一粒子の質量を決定し、一定量(例えば1mL)の複合粒子分散液から複合粒子のみを回収し、乾燥させて得られた複合粒子の質量からモル数を決定して得られた値である。
【0016】
本明細書において、「複合粒子のモル吸光係数ε」とは、複合粒子分散液について吸光度を測定し、前記ランベルト−ベールの式に適用することにより得られた、前記分散液中における複合粒子のモル吸光係数εをいう。
複合粒子の吸光度、吸光スペクトル及びεは、任意の吸光光度計ないしはプレートリーダーを用いて、水分散液、エタノール分散液、N,N−ジメチルフォルムアミド分散液等の分散液を用いて測定することができる。
【0017】
本発明の複合粒子のコア部を構成する金属は、金属微粒子に特有のプラズモン吸収を生じる(プラズモンにより光を吸収する)物質が好ましい。前記金属としては、金、銀、銅、白金、及びこれらの混合物が挙げられる。
【0018】
本発明の複合粒子のコア部(金属からなる微粒子)の大きさに特に制限はないが、プラズモン吸収性の見地から、10nm〜100nmが好ましく、30nm〜60nmがより好ましい。
なお、プラズモン波長は金属の粒度(曲率)に依存するので、粒度を調製することにより最大プラズモン吸収波長を適宜調整することができる。
【0019】
本発明の複合粒子は、金属からなる微粒子の外側を、少なくとも一種の蛍光物質を含有するシリカの少なくとも1層で覆われた構造を有する。
前記蛍光物質としては特に制限は無いが、例えば、有機蛍光分子(例えば、フルオレセイン、ローダミン、テキサスレッド、Alexa(商品名、Invitrogen社製)、Cy(商品名、Applied Biosystems社製)等)、半導体ナノ粒子(例えば、CdSe、InGaP、ZnSSe等)が挙げられる。
【0020】
本発明の複合粒子において、シェル部の厚さに特に制限はないが、100〜400nmが好ましく、200〜300nmがより好ましい。
シェル部に含有される蛍光物質のモル吸光係数は、1×105〜1×109-1cm-1が好ましく、1×107〜1×108-1cm-1がより好ましい。
【0021】
本発明の複合粒子において、前記蛍光物質の最大吸収波長と前記金属の最大プラズモン吸収波長との差が50nm以上であることが好ましく、100nm以上であることがより好ましい。このように蛍光物質の最大吸収波長と金属の最大プラズモン吸収波長とを調整することで、蛍光物質の励起に必要な光吸収量を増加させ、蛍光物質からの蛍光強度を上昇させることができる。
【0022】
本発明の複合粒子において、コア―シェル法により、金属粒子を核とし、その外側に少なくとも一種の蛍光物質を含有するシリカ層を1層以上形成する。ここで、例えば市販されているクエン酸水溶液に金属粒子が分散している金属分散液を用いて複合粒子を調製するのが、シリカ層形成の観点から好ましい。
本発明の複合粒子としては、任意のいかなる調製方法によって得られた複合粒子であってよい。例えば、Journal of Colloid and Interface Science,159,150−157(1993)に記載のゾル−ゲル法で調製される複合粒子等が挙げられる。
本発明において、国際公開2007/074722A1公報に記載された蛍光色素化合物含有コロイドシリカ粒子の調製方法に準じて得られた、複合粒子を用いることが特に好ましい。
例えば、金コロイドにシランカップリングであるAPSを添加し金コロイド粒子表面にAPSを吸着させる。さらにその溶液にNa2O・nSiO2(水ガラス)を添加し、APS上でシリカ被覆を行い、複合粒子が得られる。あるいは、Na2O・nSiO2によるシリカ被覆の表面に、更に蛍光物質を含有するシェルを形成してもよい。
【0023】
蛍光物質を含有するシェル形成は、具体的には、蛍光物質とシラン化合物とを反応させ、共有結合、イオン結合その他の化学的に結合もしくは吸着させて得られた生成物に1種又は2種以上のシラン化合物を重合させることにより行うことができる。
蛍光物質を含有するシェル形成方法の態様として、N−ヒドロキシスクシンイミド(NHS)エステル基、マレイミド基、イソシアナート基、イソチオシアナート基、アルデヒド基、パラニトロフェニル基、ジエトキシメチル基、エポキシ基、シアノ基等の活性基を有する又は付加した蛍光物質と、それら活性基と対応して反応する置換基(例えば、アミノ基、水酸基、チオール基)を有するシランカップリング剤とを反応させ、共有結合させて得られた生成物に1又は2種以上のシラン化合物を重合させることにより調製することができる。
【0024】
前記蛍光物質の具体例として、5−(及び−6)−カルボキシテトラメチルローダミン・スクシンイミジルエステル(商品名、emp Biotech GmbH社製)等のNHSエステル基を有する又は付加した蛍光物質を挙げることができる。
【0025】
前記置換基を有するシランカップリング剤の具体例として、γ-アミノプロピルトリエトキシシラン(APS)、3−[2−(2−アミノエチルアミノ)エチルアミノ]プロピル-トリエトキシシラン、N−2(アミノエチル)3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン等のアミノ基を有するシランカップリング剤を挙げることができる。中でも、APSが好ましい。
【0026】
前記重合させる前記シラン化合物としては、特に制限はされないが、テトラエトキシシラン(TEOS)、γ-メルカプトプロピルトリメトキシシラン(MPS)、γ-メルカプトプロピルトリエトキシシラン、γ-アミノプロピルトリエトキシシラン(APS)、3−チオシアナトプロピルトリエトキシシラン、3−グリシジルオキシプロピルトリエトキシシラン、3−イソシアナトプロピルトリエトキシシラン、及び3−[2−(2−アミノエチルアミノ)エチルアミノ]プロピル−トリエトキシシランを挙げることができる。中でも、TEOS、MPS又はAPSが好ましい。
【0027】
本発明において、前記蛍光物質は、前記シリカ層においてシリカ粒子中に固定化された状態にある。
【0028】
上述のように調製すると、金等の金属粒子をコアとして、球状、もしくは、球状に近い複合粒子が製造できる。球状に近い複合粒子とは、具体的には長軸と短軸の比が2以下の形状である。
所望の平均粒径の複合粒子を得るためには、YM−10、YM−100(いずれも商品名、ミリポア社製)等の限外ろ過膜を用いて限外ろ過を行い、粒径が大きすぎたり小さすぎる粒子を除去するか、または適切な重力加速度で遠心分離を行い、上清または沈殿のみを回収することで可能である。
【0029】
前記複合粒子は、標的物質(検体)を特異的に認識する標識物質(例えば、抗体、抗原、DNA、RNAなどの生体分子)で表面修飾されている。
前記複合粒子に前記標的物質を特異的に認識する標識物質で表面修飾させる方法としては特に制限は無く、静電的引力、ファンデルワールス力、疎水性相互作用等によって前記標的物質を特異的に認識する標識物質を前記複合粒子に吸着させても良いし、架橋剤や縮合剤によって化学結合で結合させても良い。また、前記複合粒子表面にチオール基を有する場合には、前記標的物質を特異的に認識する物質のチオール基とS−S結合によって結合させても良い。
また、前記複合粒子表面に標識物質を結合したときに複合粒子が凝集する場合は、予め、前記複合粒子表面に交互吸着法によって表面処理を施しておいても良い。交互吸着法とは、電荷を有する基板や粒子の表面に電荷を持った高分子を静電的引力で吸着させることで、基板や粒子の表面に高分子の薄膜を形成する手法である。前記複合粒子の表面に交互吸着処理を行うことにより複合粒子表面に電荷を付与できるため、粒子間に静電的反発力が生じ、分散性が向上する。また、複合粒子に結合した高分子は、粒子間の距離が近づくと重なり合うようになり、エントロピー斥力を生じ分散性が向上する。
【0030】
本発明の複合粒子の分散性の向上、及び抗体修飾の目的で、複合粒子の表面にさらに高分子を吸着又は結合させることが好ましい。前記高分子としては、アミド結合、ジスルフィド結合等により抗体等の前記標識物質と結合可能な官能基を側鎖に有し、緩衝液中などでは該官能基が電離し親水性基として作用する高分子が好ましく、具体的にはアルギン酸、ポリアリルアミン塩酸塩、ポリアクリル酸ナトリウム、キトサンが挙げられる。
ここで、「抗体修飾」とは、高分子の側鎖(例えば、側鎖のカルボキシル基等)と抗体(例えば、抗体のアミノ基等)とを化学的に結合(ペプチド結合等)させることをいう。しかし、本発明において、粒子に抗体を結合させる手法として必ずしも高分子を介する必要はなく、上述したように静電引力、ファンデルワールス力、疎水性相互作用等を利用して直接的に粒子表面を抗体等で修飾してもよい。
本発明において、標的物質を認識する標識物質の他、界面活性剤や生体由来物質等で複合粒子表面を修飾してもよい。
【0031】
本発明のイムノクロマトグラフィー用テストストリップは、
(1)試料添加用部材(サンプルパッド)と本発明の複合粒子を含有させてなる部材(コンジュゲートパッド)とが、
(2)前記コンジュゲートパッドと抗体固定化部を有するメンブレン(抗体固定化メンブレン)とが、並びに
(3)前記抗体固定化メンブレンと吸収パッドとが
相互に毛細管現象が生じるように直列連結していることが好ましい。
【0032】
図1(a)及び(b)を参照して、本発明のイムノクロマトグラフィー用テストストリップの好ましい実施形態について説明するが、本発明はこれに制限するものではない。
図1(a)は、本発明のイムノクロマトグラフィー用テストストリップの好ましい一実施形態の平面図を示し、図1(b)は、図1(a)で示したイムノクロマトグラフィー用テストストリップの縦断面図を示す図である。
本発明のイムノクロマトグラフィー用テストストリップ1は、サンプルパッド2、コンジュゲートパッド3、抗体固定化メンブレン4、吸収パッド5からなることが好ましい。上記各構成部材は粘着剤付きバッキングシート6により裏打ちされていることが好ましい。
【0033】
前記抗体固定化メンブレン4における抗体固定化部に、標的物質の有無を判定、すなわち陽性陰性を判定するための標的物質捕捉用抗体が固定化されたテストライン41を設ける。抗体固定化メンブレン4には、複合粒子に標識された抗体を認識する抗体が固定化されたコントロールライン42を含むことが好ましい。
【0034】
本発明において、検出、定量の対象としての標的物質は、抗原、抗体、DNA、RNA、糖、糖鎖、リガンド、受容体、ペプチド、化学物質等が挙げられる。
本発明において、標的物質を含有する試料としては特に制限ないが、尿、血液などの液体試料が挙げられる。
【0035】
次に、上記各部材について説明する。
1)サンプルパッド2
サンプルパッド2は標的物質を含むサンプルを滴下する構成部材である。
【0036】
2)コンジュゲートパッド3
コンジュゲートパッド3は本発明の複合粒子が含有された構成部材であり、サンプルパッド2から毛細管現象により移動してきた試料に含まれる標的物質が抗原抗体反応等の特異的分子認識反応で、前記複合粒子によって捕捉され、標識される部分である。
【0037】
3)抗体固定化メンブレン4
メンブレン4は前記複合粒子により標識された標的物質が毛細管現象によって移動する構成部材であり、固定化抗体−標的物質−複合粒子からなるサンドイッチ型免疫複合体形成反応が行われる抗体固定化部(判定部)を有する。
前記メンブレンにおける前記抗体固定化部(判定部)の形状としては局所的に捕捉用抗体が固定化されている限り特に制限はなく、ライン状、円状、帯状等が挙げられるが、ライン状であることが好ましく、幅0.5〜1.5mmのライン状であることがより好ましい。
【0038】
固定化抗体−標的物質−複合粒子からなるサンドイッチ型免疫複合体形成反応により抗体固定化部(判定部)に、前記複合粒子により標識された標的物質が捕捉され、形成された前記複合体中の前記複合粒子に由来する発色又は蛍光の程度により標的物質の有無を判定、すなわち陽性陰性を判定することができる。すなわち、前記抗体固定化部(判定部)に複合粒子が濃縮され、着色又は蛍光シグナルとして目視的に又は検出機器を用いて検出、判定できる。
【0039】
前記サンドイッチ型免疫複合体形成反応を充分に完了させるため、あるいは液体試料中の着色又は蛍光物質による測定への影響や標的物質と結合していない複合粒子による測定への影響を回避するため、抗体固定化メンブレンにおける判定部は、前記コンジュゲートパッドとの連結端及び前記吸収パッドとの連結端からある程度離れた位置(例えば、前記メンブレンの中程など)に設けることが好ましい。
【0040】
前記抗体固定化部(判定部)における抗体固定化量は特に制限ないが、形状がライン状の場合、単位長さ(cm)当たりの0.1μg〜5μgが好ましい。固定化方法としては、抗体溶液を塗布、滴下ないしは噴霧後、乾燥して物理吸着により固定化する方法等が挙げられる。
前述の抗体固定化後に、非特異的吸着による測定への影響を防止するために前記抗体固定化メンブレン全体をいわゆるブロッキング処理を施しておくことが好ましい。例えば、アルブミン、カゼイン、ポリビニルアルコール等のブロッキング剤を含有する緩衝液中に適当な時間浸漬した後乾燥する方法等が挙げられる。市販の前記ブロッキング剤としては、例えば、スキムミルク(DIFCO社製)、4%ブロックエース(明治乳業社製)などが挙げられる。
【0041】
4)吸収パッド5
吸収パッド5は、毛細管現象でメンブレンを移動してきた試料および複合粒子を吸収し、常に一定の流れを生じさせるための構成部材である。
【0042】
これら各構成部材の材料としては特に制限は無く、イムノクロマトグラフィー用テストストリップに用いられる部材が使用できるが、サンプルパッド及びコンジュゲートパッドとしてはGlass Fiber Conjugate Pad(商品名、MILLIPORE社製)等のガラスファイバーのパッドが好ましく、メンブレンとしてはHi−Flow Plus120メンブレン(商品名、MILLIPORE社製)等のニトロセルロースメンブレンが好ましく、吸収パッドとしてはCellulose Fiber Sample Pad(商品名、MILLIPORE社製)等のセルロースメンブレンが好ましい。
前記粘着剤付きバッキングシートとしては、AR9020(商品名、Adhesives Research社製)等が挙げられる。
【0043】
前記テストストリップの作製法としては、サンプルパッド、コンジュゲートパッド、抗体固定化メンブレン、吸収パッドの並び順に、各部材間で毛管現象を生じさせ易くするために、それら各部材の両端を隣接する部材と1〜5mm程度重ね合わせて(好ましくはバッキングシート上に)貼付することで作製することができる。
【0044】
次に本発明の複合粒子を用いてなる標的物質の検出方法について説明する。
本発明の標的物質の検出方法は、まず、標的物質を含む試料をイムノクロマトグラフィー用テストストリップのサンプルパッドに滴下する。
試料に含まれる標的物質が一定量(目視検出可能量)以上であれば、イムノクロマトグラフィー用テストストリップの抗体固定化メンブレンに設けたテストラインの発色は目視で確認が可能であり、陽性あるいは陰性の判定ができる。一方、標的物質が一定量以下の試料ではテストラインの発色は目視では確認されないが、前記ストリップを、イムノクロマトグラフィー用蛍光検出装置を用いて観察することで陽性あるいは陰性の判定を高感度に行うことが可能である。このように、本発明のイムノクロマトグラフィー用複合粒子を用いてなる検査方法は、標的物質が一定量以上の場合は目視によって簡便かつ迅速に陽性の判定が可能であり、標的物質の量が一定以下の場合にはイムノクロマトグラフィー用蛍光検出装置を用いて高感度に判定することが可能である。このように、本発明標的物質の検出方法は、本発明の複合粒子が蛍光粒子と着色粒子のそれぞれの機能を互いに補完し、標的物質の検出感度が低下しない粒子を用いているため、標的物質の量に応じた適切な標的物質の検出手段を適宜選択することができる。
【0045】
本発明の標的物質の検出方法は、本発明の複合粒子を用いて標的物質を抗原抗体反応等の特異的分子認識反応で捕捉し、標的物質を捕捉した複合粒子の金属の発色を目視により観察することで標的物質検出の判定を行い、標的物質を捕捉した複合粒子の蛍光物質の蛍光を蛍光検出装置により観察することで標的物質検出の判定及び/又は標的物質の定量を行う。
本明細書における「定量」とは、例えば、前記テストストリップのテストラインに所定の光を照射することで得られる複合粒子からの蛍光強度の差異に基づく、標的物質の量の相対的な大小を表す。具体的には、蛍光強度は蛍光検出に利用された受光素子(CCD検出器など)の出力値によって定義され、その大小によって標的物質の量を測定することができる。
【0046】
次に、本発明の標的物質の検出方法に用いる蛍光検出装置について説明する。
本発明の標的物質の検出方法に用いる蛍光検出装置は、励起光源およびフィルタからなる。
前記励起光源としては水銀ランプ、ハロゲンランプ、キセノンランプ、レーザダイオード、発光ダイオードなどが挙げられる。前記フィルタは、励起光源から特定の波長の光のみを透過するためのフィルタと、さらに、蛍光のみを検出する観点から、前記励起光を除去し蛍光のみを透過するフィルタであり、前記蛍光粒子の蛍光波長、蛍光波長から適宜選択する。
前記蛍光検出装置は、前記蛍光を受光する光電子倍増管又はCCD検出器を備えていてもよい。これにより目視では確認できない強度ないしは波長の蛍光も検出でき、さらにはその蛍光強度を測定できることから標的物質の定量もでき、高感度検出及び定量が可能となる。
【実施例】
【0047】
以下、本発明を実施例に基づいてさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0048】
製造例1(複合粒子の調製)
蛍光色素(商品名:HiLyte Fluor 647 スクシンイミドエステル、AnaSpec社製)5.8mgを1mLのジメチルホルムアミド(DMF)に溶解した。ここに2.6μLのAPSを加え、室温(23℃)で1時間反応を行った。
得られた反応液400μLと、クエン酸水溶液に分散した粒径約40nmのAu粒子(商品名、Auクエン酸コロイド溶液)1mLの混合液に、エタノール128mL、TEOS400μL、蒸留水28.8mL、28質量%アンモニア水400μLを加え、室温で24時間反応を行った。
反応液を18000×gの重力加速度で30分間遠心分離を行い、上清を除去した。沈殿した複合粒子に蒸留水を4mL加え、複合粒子を分散させ、再度18000×gの重力加速度で30分間遠心分離を行った。本洗浄操作をさらに2回繰り返し、複合粒子分散液に含まれる未反応のTEOSやアンモニア等を除去し、平均粒径約200nmの複合粒子94.2mgを得た。なお、得られた複合粒子のコアが金微粒子、シェルがシリカであることを電子顕微鏡写真により確認した。また、得られた複合粒子において、蛍光物質の最大吸収波長は647nm、金の最大プラズモン吸収波長530nmであった。
【0049】
前記標識シリカナノ粒子1g/Lの複合粒子の吸光度を測定し(測定波長:600nm〜700nm)、シリカの密度を2.3mg/cmとして、複合粒子のシリカに相当するモル吸光係数を求めたところ、7.4×10−1cm−1であった。また、前記複合粒子1g/Lの蛍光強度を測定し、シリカの密度を2.3mg/cmとして、1粒子あたりの蛍光強度を求めたところ、蛍光色素の44000個分の蛍光強度に相当した。
【0050】
製造例2(シリカ粒子/アルギン酸の複合粒子の作製)
製造例1と同様な方法により得られた、濃度40mg/mLの蛍光色素(商品名:HiLyte Fluor 647 スクシンイミドエステル、AnaSpec社製)含有シリカ粒子(平均粒径183nm)のコロイド500μL(分散媒:蒸留水)に、蒸留水2.9mLと、濃度10mg/mLのアルギン酸ナトリウム水溶液(重量平均分子量70000)400μLを加え、撹拌子でよく撹拌した。続いて、28質量%のアンモニア水を200μL加え、コロイドを室温(23℃)で1時間撹拌した。得られたコロイドを15,000×Gの重力加速度で30分遠心分離し、上清を除去した。沈殿させた粒子に蒸留水を3.4mL加え、粒子を再分散させた。続いて、10mg/mLのアルギン酸ナトリウム水溶液を400μL加え撹拌子でよく撹拌したあと、28質量%のアンモニア水を200μL加え、1時間撹拌した。このコロイドを15,000×Gの重力加速度で30分遠心分離し、上清を除去後、蒸留水を1mL加え粒子を分散させた。同様にして更に2回遠心分離と蒸留水への分散を繰り返して粒子を洗浄し、蒸留水1mLに分散させ、蛍光色素含有シリカ粒子/アルギン酸の複合粒子のコロイドを得た(収量20mg/mL×1mL)。なお、得られた複合粒子のコアが金微粒子、シェルがシリカであることを電子顕微鏡写真により確認した。また、得られた複合粒子において、蛍光物質の最大吸収波長は647nm、金の最大プラズモン吸収波長530nmであった。
【0051】
製造例3(複合粒子の抗hCG抗体修飾)
製造例2で作製した濃度20mg/mLの蛍光色素含有シリカ粒子/アルギン酸の複合粒子のコロイド500μLに、0.5MのMES(2-Morpholinoethanesulfonic acid)緩衝液(pH6.0)を100μL、50mg/mLのNHSを461μL、19.2mg/mLのEDC(1-ethyl-3-(3-(dimethylamino)propyl)carbodiimide)を150μL、蒸留水を1.089mL加え、30分間混合した。
反応液を15,000×Gの重力加速度で30分遠心分離し、上清を除去後、蒸留水を1mL加え粒子を分散させた。同様にして更に2回遠心分離と蒸留水への分散を繰り返して粒子を洗浄し、最後に50mMのKH2PO4緩衝液(pH8.0)1mLに分散させた。ここに50mMのKH2PO4緩衝液(pH8.0)に溶解した1mg/mLの抗hCG抗体(Anti−hCG マウスIgG1、Medix Biochemica社製)を1mL加え、2時間混合した。続いて100mg/mLのBSA溶液を100μL加え、さらに1時間混合した。
反応液を15,000×Gの重力加速度で30分遠心分離し、上清を除去後、50mMのKH2PO4緩衝液(pH8.0)を1mL加え粒子を分散させた。同様にして更に2回、遠心分離と50mMのKH2PO4緩衝液(pH8.0)への分散を繰り返して粒子を洗浄し、最後に50mMのKH2PO4緩衝液(pH8.0)1mLに分散させ、抗hCG抗体で修飾されたローダミン含有シリカ粒子のコロイドを得た(収量10mg/mL×1mL)。
【0052】
参考例1(混合粒子を含有したコンジュゲートパッドの作製)
粒径0.16μm、濃度10mg/mLの着色ラテックス粒子(DC02B/5641,Bangs Laboratories社製)1mLについて、製造例3と同様の方法で抗hCG抗体を修飾し、50mMのKH2PO4緩衝液(pH8.0)に分散した抗hCG抗体で修飾された着色ラテックス粒子コロイド1mL(10mg/mL)を得た。
続いて、粒径0.19μm、濃度10mg/mLの蛍光ラテックス粒子(FS02F/8234、Bangs Laboratories社製)1mlについて、製造例3と同様の方法で抗hCG抗体を修飾し、50mMのKH2PO4緩衝液(pH8.0)に分散した抗hCG抗体で修飾された蛍光ラテックス粒子コロイド1mL(10mg/mL)を得た。
【0053】
前記抗hCG抗体で修飾された着色ラテックス粒子コロイド(10mg/mL)0.05mL、前記抗hCG抗体で修飾された蛍光ラテックス粒子コロイド(10mg/mL)0.25mL、50mg/mlLスクロース3mL、及び蒸留水1.7mLを混合した。得られた混合粒子コロイドをコンジュゲートパッド(商品名:Glass Fiber Conjugate Pad、MILLIPORE社製、8×150mm)1枚に対し0.8mL含有させた。
着色ラテックス粒子と蛍光ラテックス粒子の混合粒子を含有させたコンジュゲートパッドは薄い青色であり、パッドに粒子が含有されていることが目視で確認できた。
【0054】
参考例2(蛍光粒子を含有したコンジュゲートパッドの作製)
前記参考例1で得られた抗hCG抗体を修飾した蛍光ラテックス粒子コロイド(10mg/mL)0.3mL、50mg/mLのスクロース3mL、及び蒸留水1.7mLを混合して得られた蛍光ラテックス粒子コロイドをコンジュゲートパッド(商品名:Glass Fiber Conjugate Pad、MILLIPORE社製、8×150mm)1枚に対し0.8mL含有させた。
蛍光ラテックス粒子のみを含有させたコンジュゲートパッドは無色であり、パッドに粒子が含有されていることが目視で確認できなかった。
【0055】
製造例4(複合粒子を含有したコンジュゲートパッドの作製)
製造例3で作製した、抗hCG抗体で修飾された着色蛍光シリカ粒子(10mg/mL)0.3mL、50mg/mLスクロース3mL、及び蒸留水1.7mLを混合した。得られた着色蛍光シリカ粒子(複合粒子)コロイドをコンジュゲートパッド(商品名:Glass Fiber Conjugate Pad、MILLIPORE社製、8×150mm)1枚に対し0.8mL含有させた。
複合粒子を含有させたコンジュゲートパッドは薄い赤色であり、パッドに複合粒子が含有されていることが目視で確認できた。
【0056】
実施例1(着色蛍光シリカ粒子を含有させたコンジュゲートパッドを用いて作製したイムノクロマトグラフィー用テストストリップを用いたリコンビナントhCGの検出)
下記に示すように、製造例4で作成したコンジュゲートパッドを用いてイムノクロマトグラフィー用テストストリップを作製し、リコンビナントhCGの検出を行った。
【0057】
(1)抗体固定化メンブレンの作製
メンブレン(丈25mm、商品名:Hi−Flow Plus120 メンブレン、MILLIPORE社製)の中央付近(端から約12mm)に、幅約1mmのテストラインとして、抗hCG抗体(alpha subunit of FSH(LH),clone code/6601、Medix Biochemica社製)を1mg/mL含有する溶液((50mM KH2PO4,pH7.0)+5%スクロース)を0.75μL/cmの塗布量で塗布した。
続いて、幅約1mmのコントロールラインとして、抗IgG抗体(Anti Mouse IgG、Dako社製)を1mg/mL含有する溶液((50mM KH2PO4,pH7.0)シュガー・フリー)を0.75μL/cmの塗布量で塗布し、50℃で30分乾燥させた。なお、テストラインとコントロールラインとの間隔は1cmとした。
次に、ブロッキング処理として前記メンブレン全体をブロッキングバッファー(0.5%カゼイン含有50mMホウ酸緩衝液(pH8.5))中に室温で30分浸した。
前記メンブレンをメンブレン洗浄/安定バッファー(0.5%スクロース、0.05%コール酸ナトリウム含有50mMトリスヒドロキシメチルアミノメタン塩酸塩緩衝液(pH7.5))に移し室温で30分静置した。メンブレンを引上げ、ペーパータオル上に置いて室温で一夜乾燥させて、抗体固定化メンブレンを作製した。
【0058】
(2)テストストリップの作製
サンプルパッド(商品名:Glass Fiber Conjugate Pad(GFCP)、MILLIPORE社製)、参考例1で作成したコンジュゲートパッド、前記抗体固定化メンブレン、及び吸収パッド(商品名:Cellulose Fiber Sample Pad(CFSP)、MILLIPORE社製)をバッキングシート(商品名AR9020,Adhesives Research社製)上でこの順に組み立て、5mm幅、長さ60mmのストリップ状に切断し、図1(a)及び図1(b)に示した構成のテストストリップを作製した。
なお、各構成部材は、図1(a)及び図1(b)に示しているように、各々その両端を隣接する部材と2mm程度重ね合わせて貼付した(以下、同様である)。
【0059】
(3)リコンビナントhCGの検出
100、50、20、10、5、2又は0.2IU/LのリコンビナントhCG(ロート製薬社製)100μLを前記テストストリップのサンプルパッド部分に100μL滴下し、5分間放置し、目視で抗hCG抗体を塗布したテストライン及び抗IgG抗体を塗布したコントロールラインの発色を確認した。その結果、リコンビナントhCGが100、50及び20IU/Lの場合は目視でテストラインおよびコントロールラインの発色が確認できた。リコンビナントhCGが10、5、2、0.2IU/Lのときは目視ではテストラインの発色は確認されなかった。
【0060】
前記リコンビナントhCGを10、5、2又は0.2IU/L含むサンプルを滴下したテストストリップを水銀ランプ(103W)で照射し、検出器としてCCD検出器(商品名:C2741−35A、浜松ホトニクス社製)を用いて蛍光の画像化を行った。その結果リコンビナントhCGが10、5、2、0.2IU/Lの何れのサンプルについても、テストラインおよびコントロールラインの蛍光発色を確認した。
【0061】
以上の結果から、前記着色蛍光シリカ粒子を用いた前記テストストリップはリコンビナントhCGが一定量以上の場合は目視で簡単に確認でき、リコンビナントhCGが微量であっても蛍光検出装置で判定が可能であった。
【0062】
比較例1
コンジュゲートパッドとして、参考例1で作製したコンジュゲートパッドを用いた以外は、実施例1と同じ方法でテストストリップを作製した。得られたテストストリップを用いて、実施例1(3)と同じ方法でリコンビナントhCGの検出を行った。
その結果、リコンビナントhCGが100、50又は20IU/Lの場合は目視でテストラインおよびコントロールラインの発色が確認できたが、リコンビナントhCGが10、5、2又は0.2IU/Lのときは目視ではテストラインの発色は確認できなかった。蛍光検出装置を用いた評価においては、リコンビナントhCGが20、10、5及び2IU/Lのサンプルについてテストラインおよびコントロールラインの蛍光発色を確認できたが、0.2IU/Lのサンプルについてはテストラインおよびコントロールラインの蛍光発色を確認できなかった。
以上の結果から、前記混合粒子を用いた前記テストストリップはリコンビナントhCGがある程度の量までは検出できるが、リコンビナントhCGがごく微量の場合は標的物質を全く検出することができず、標的物質の検出感度は低いものであった。
本発明の複合粒子とは異なり、着色粒子と蛍光粒子の混合粒子を用いた場合、標的物質である抗原が着色粒子と蛍光粒子の両方に結合する。そのため、1粒子当たりの表面に捕捉された抗原の濃度は、本発明の複合粒子の場合と比較して低下する。したがって、テストラインの抗体が標識粒子を捕捉する力が小さくなり、標的物質の検出感度が低下した。
【0063】
実施例2(長期放置後のテストストリップを用いたリコンビナントhCGの検出評価)
参考例2で作製した蛍光ラテックス粒子を含有させたコンジュゲートパッドを用いて作製したテストストリップと、製造例4で作製した複合粒子を含有させたコンジュゲートパッドを用いて作製したテストストリップそれぞれを、室温で9ヶ月間放置した。
9ヶ月間放置後のテストストリップに、100、50、20、10、5又は3IU/LのリコンビナントhCGを滴下し、ラインの検出を行ったところ、複合粒子を含有させたテストストリップは、リコンビナントhCGが50IU/L以上であれば目視でテストラインおよびコントロールラインの発色が確認できた。一方、蛍光ラテックス粒子を含有させたテストストリップでは何れの濃度のリコンビナントhCGを滴下した場合でも、目視によるテストラインおよびコントロールラインの発色の確認、および蛍光検出器によるテストラインおよびコントロールラインの蛍光発色の確認が共にできなかった。
【0064】
以上の結果から、本発明の複合粒子を含有させたコンジュゲートパッドを用いて作製したテストストリップは長期保存に適していることが分かる。
【0065】
実施例3(リコンビナントhCGの検出にもちいたテストストリップの長期放置後のライン発色確認の可否の評価)
参考例2で作製した蛍光ラテックス粒子を含有させたコンジュゲートパッドを用いて作製したテストストリップと、製造例4で作製した複合粒子を含有させたコンジュゲートパッドを用いて作製したテストストリップそれぞれについて、50IU/LのリコンビナントhCGを100μL滴下し、テストラインとコントロールラインを発色させた。このテストストリップを室温で10ヶ月間放置した。
その結果、蛍光ラテックス粒子を含有させたコンジュゲートパッドを用いて作製したテストストリップは目視によっても、蛍光検出器を用いてもコントロールライン及びテストラインの発色または蛍光発色が確認できなかった。一方、複合粒子を含有させたコンジュゲートパッドを用いて作製したテストストリップは目視でコントロールライン及びテストラインの発色が確認できた。
【0066】
以上の結果から、本発明の複合粒子を含有させたコンジュゲートパッドを用いて作製したテストストリップは、検査後のテストストリップを検査結果として長期間保存するのに適していることが分かる。
【符号の説明】
【0067】
1 テストストリップ
2 サンプルパッド
3 コンジュゲートパッド
4 抗体固定化メンブレン
5 吸収パッド
6 バッキングシート
41 テストライン
42 コントロールライン



【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属からなる微粒子の外側が、少なくとも一種の蛍光物質を含有するシリカの少なくとも1層で覆われた構造を持ち、標的物質を特異的に認識する標識物質で表面修飾された微粒子からなる、イムノクロマトグラフィー用複合粒子。
【請求項2】
前記金属物質が、プラズモン吸収を生じる物質であることを特徴とする、請求項1記載のイムノクロマトグラフィー用複合粒子。
【請求項3】
前記金属物質が、金、銀、銅、白金及びこれらの混合物からなる群より選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする、請求項1又は2記載のイムノクロマトグラフィー用複合粒子。
【請求項4】
前記蛍光物質が有機物質であり、前記蛍光物質の最大吸収波長と前記金属の最大プラズモン吸収波長との差が100nm以上であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか記載のイムノクロマトグラフィー用複合粒子。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか記載のイムノクロマトグラフィー用複合粒子を用いて標的物質を特異的に捕捉し、標的物質を捕捉した複合粒子の金属の発色を目視により観察することで標的物質検出の判定を行い、標的物質を捕捉した複合粒子の蛍光物質の蛍光を蛍光検出装置により観察することで標的物質検出の判定及び/又は標的物質の定量を行うことを特徴とする、標的物質の検出方法。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれか記載のイムノクロマトグラフィー用複合粒子からなる、イムノクロマト用テストストリップ。



【図1】
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【公開番号】特開2011−220705(P2011−220705A)
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−86758(P2010−86758)
【出願日】平成22年4月5日(2010.4.5)
【出願人】(000005290)古河電気工業株式会社 (4,457)
【Fターム(参考)】