説明

インクと反応液とのセット及び該セットを用いる画像形成方法

【課題】熱エネルギーによるインクジェット記録を安定に行うことができ、しかも均一な耐擦過性と高い画像濃度とを両立した高品位画像が得られる顔料インクと反応液のセットの提供。
【解決手段】熱エネルギーの作用によりインクジェット方式の記録ヘッドから少なくともインクを吐出させる画像形成方法に用いられる、樹脂により分散されてなる顔料及び界面活性剤を含むインクと、色材を含まず、カルボキシ基を持つ有機酸を含む、pHが3.5〜5.5の反応液との組み合わせを有するセットであり、前記樹脂の酸価が30〜100mgKOH/gで、インク中の樹脂/顔料の含有量の質量比率が0.10〜0.90倍であり、前記界面活性剤が特定の高級アルコールのエチレンオキサイド付加物で、そのグリフィン法により求められるHLB値が13.0以上であるインクと反応液とのセット。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット用インクと、反応液との組み合わせを有するセット、及び該セットを用いて画像を形成する画像形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、インクジェット記録装置は、フルカラー記録を行う機器として、高画質化、高速化、さらに低価格化が進み、広く普及している。また、記録媒体に形成した画像の画像濃度(発色性)が優れていることや省電力であること、省スペースでの設置が可能であることから、オフィスにおける需要も近年伸びてきている。このような背景のもと、画像濃度に対する要求レベルは年々高くなってきている。
【0003】
これに対し、例えば、記録媒体として普通紙を用いる場合に、より高い画像濃度を達成させるため、インクを記録媒体の表面近傍で凝集、定着させる試みが多くなされている。例えば、インクで記録を行う前にインクを凝集させるための多価金属イオンを含む反応液を予め付与し、インクと接触した瞬間にインクの凝集を引き起こす、所謂2液システムに用いられる反応液に関する提案がある(特許文献1参照)。
【0004】
しかし、2液システムでは、反応性が高すぎるため、反応液とインクとが接触した時点(接触の瞬間〜数百m秒)で反応がほぼ終了する。その結果、反応液と反応した色材は記録媒体の表面近傍に残っている状態となるため、記録箇所を擦ると色材は削れてしまう。このことは、両面記録を行う際や、マーカーペンで画像をマーキングする際などの弊害の原因となり得る。この問題に対しては、特許文献2に開示されているように、インク中にバインダー能を有する物質を添加することが有効である。また、このような構成によって、記録媒体の表面近傍において皮膜を形成することが可能となり、耐擦過性を向上することができる。
【0005】
その一方で、インクジェット記録方法により、高品位な画像を安定して形成するためには、記録ヘッドの微細な吐出口から、インクを液滴として安定に吐出させることが重要である。具体的には、乾燥によって、記録ヘッドの吐出口においてインクが固化しないことが、安定なインクジェット記録を行う上で重要である。しかし、熱エネルギーを用いたインクジェット方式の場合、バインダー能を有する物質である親水性の低い樹脂などが記録ヘッドの吐出口近傍などに付着することによって吐出口の目詰まりを生じさせてしまう。すなわち、バインダー能を有する物質は親水性の低い樹脂であるので、熱エネルギーを用いたインクジェット方式において安定して液滴を吐出させることが困難であった。
【0006】
上記した課題に対して、特許文献3では、バインダー能を有する物質を用いるという手段ではなく、下記の方法で画像の耐擦過性を向上させている。すなわち、2液システムにおいて、多価金属イオンを含む反応液と、インクとの反応性をやや低くし、色材を記録媒体の表面近傍よりやや沈み込んだ位置に存在させるという手段によって、画像の耐擦過性を向上させている。つまり、色材を記録媒体の内部に存在させることで、画像濃度を犠牲にして耐擦過性を向上させていた。
【0007】
しかし、上記したこれまでの提案の中には、熱エネルギーによるインクジェット方式での吐出安定性と、得られる画像濃度を高いレベルで保ちつつも、画像の耐擦過性を向上させることは十分にできていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2002−211106号公報
【特許文献2】特開2000−044855号公報
【特許文献3】特開2005−298809号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
したがって、本発明の目的は、熱エネルギーによるインクジェット記録を安定に行うことができ、かつ、均一な耐擦過性と、高い画像濃度を両立した高品位の画像が得られる顔料インクと反応液のセットを提供することにある。また、本発明の目的は、熱エネルギーによるインクジェット記録を安定に行うことができ、上記の優れた画像を得ることができる画像形成方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的は、下記の本発明によって達成される。すなわち、本発明は、熱エネルギーの作用によりインクジェット方式の記録ヘッドから少なくともインクを吐出させて、記録媒体においてインク及び反応液を互いに接触させて画像を形成する画像形成方法に用いられるインクと反応液とのセットであって、前記インクが、樹脂により分散されてなる顔料、及び界面活性剤を含有してなり、前記樹脂の酸価が、30mgKOH/g以上100mgKOH/g以下であり、インク中の樹脂の含有量が、前記顔料の含有量に対する質量比率で、0.10倍以上0.90倍以下であり、前記界面活性剤が、直鎖一級アルコール、直鎖二級アルコール及びイソアルキルアルコールからなる群より選ばれる高級アルコールのエチレンオキサイド付加物であり、前記高級アルコールの炭素数が12以上であり、かつ、そのグリフィン法により求められるHLB値が13.0以上であり、前記反応液は色材を含有せず、カルボキシ基を持つ有機酸を含有してなり、かつ、そのpHが3.5以上5.5以下であることを特徴とするインクと反応液とのセット、及び、該セットを用いることを特徴とする画像形成方法を提供する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、熱エネルギーによるインクジェット記録を安定に行うことができ、かつ、均一な耐擦過性と、高い画像濃度を両立した高品位の画像が得られるインクと反応液のセットが提供される。また、本発明によれば、該セットを用いることで、熱エネルギーによるインクジェット記録を安定に行うことができ、均一な耐擦過性と、高い画像濃度を両立した高品位の画像を得ることができる画像形成方法が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、発明を実施するための形態を挙げて本発明をさらに詳細に説明する。なお、本発明における粘度、表面張力、pHなどの各種の物性は25℃における値である。また、本発明で規定する「pKa」は、酸の強さを定量的に表すための指標の一つであって、酸解離定数や酸性度定数とも呼ばれるものである。酸から水素イオンが放出される解離反応を考えて、負の常用対数pKaによって表す。したがって、pKaが小さいほど強い酸であることを示す。
【0013】
本発明者らは、上記従来技術の課題を解決すべく、画像に耐擦過性を持たせるために、バインダー能を有する物質をインクに添加することによって生じた、吐出安定性の低下を抑制できる機能を有する、所謂吐出補助剤についての検討を行った。なお、本発明においては、バインダー能を有する物質としては、樹脂を用いて検討を行った。その結果、界面活性剤の一種である高級アルコールのエチレンオキサイド付加物、中でも特定のものが吐出補助剤として有用であることを見出して本発明に至った。具体的には、高級アルコールが、直鎖一級アルコール、直鎖二級アルコール及びイソアルキルアルコールからなる群より選ばれる高級アルコールのエチレンオキサイド付加物であり、前記高級アルコールの炭素数が12以上であり、かつ、そのグリフィン法により求められるHLB値が13.0以上の界面活性剤が吐出補助剤として有効であることがわかった。その結果、上記特定の界面活性剤を含有してなるインクは、インクジェット方式における吐出安定性が改善され、しかも形成した画像は、十分な耐擦過性を有するものとなる。
【0014】
しかし、上記した構成のインクを用い、該インクと、多価金属イオンを含む反応液とを用いた2液システムで記録を行ったところ、本来2液システムで得られるはずの画像濃度がほとんど得られなくなることがわかった。そこで、本発明者らは、2液システムで画像形成を行った場合に、インク中に上記した特定の界面活性剤が存在しても、顔料の凝集が起こる反応液の構成についてさらに検討を行った。その結果、カルボキシ基を持つ有機酸を含有し、そのpHが3.5以上5.5以下であることを特徴とする反応液を用いることが有効であるとの結論に至った。なお、反応液は画像を形成する際にインクと併用するので、色材を含有しないものであることを要する。上記構成を有するインクと反応液とのセットを用いることで、良好なインクの吐出安定性を実現できると同時に、該セットを用いて記録した画像は、耐擦過性を保ちながらも、画像濃度が向上したものとなることを見出し、本発明に至った。
【0015】
本発明のポイントは、2液システムにおける顔料の凝集反応が、吐出補助剤としての作用を得るためにインクに添加させる界面活性剤により阻害されないような反応液を用いることで、画像の耐擦過性を向上させ得る低酸価の樹脂を用いる構成とできた点にある。以下、本発明を達成した経緯についてより詳細に説明する。
【0016】
本発明者らは、まず、形成した画像の記録箇所を擦っても顔料が削れない性能を持たせる、すなわち、画像の耐擦過性を向上するための検討を行った。その中で、顔料を分散させるための樹脂として、その酸価が30mgKOH/g以上100mgKOH/g以下の範囲にある樹脂を用いると、耐擦過性の向上を達成できることを見出した。このような酸価を有する樹脂は、親水性が低く顔料に吸着しやすいので、記録媒体の表面近傍に皮膜を形成する特徴を示す。それにより、擦っても顔料が削れにくい画像を形成することが可能となる。一方、酸価が30mgKOH/g未満であると、樹脂中の酸性基の量が少なすぎるため、インクを構成する水性媒体への溶解性が低く、インクを調製することができない。また、酸価が100mgKOH/gを超えると、樹脂の親水性が高いため顔料に吸着しにくく、また、記録媒体の内部に浸透し、皮膜を形成することができず、耐擦過性が得られなくなる。
【0017】
本発明において、顔料を分散させている樹脂とは、インク中に存在する樹脂のうち、顔料に相対的に多く吸着している樹脂のことを指すものとする。例えば、顔料を分散するために使用した樹脂が、インクを調製する際に添加した樹脂と置き換わったことで、インク中の顔料に吸着している樹脂の割合が、分散に使用した樹脂よりも添加した樹脂の方が多くなることがある。この場合は、本発明における顔料を分散させている樹脂は添加した樹脂ということになる。
【0018】
また、インク中の樹脂の含有量が、顔料の含有量に対する質量比率で、0.10倍以上0.90倍以下であることも必要である。質量比率が0.10倍未満であると、記録媒体において皮膜を形成する樹脂の量が少ないため、耐擦過性が得られない。一方、質量比率が0.90倍を超えると、顔料に吸着しない状態で存在する樹脂が多くなってしまい、記録媒体へ十分に定着せず、結果として画像濃度が低下し、また、インクの吐出安定性も得られない。
【0019】
次に、本発明者らは、前記した特定の酸価を有する樹脂を、顔料に対して特定の質量比率の範囲で含有してなる、十分な耐擦過性をもつインクを用い、熱エネルギーの作用によりインクジェット方式の記録ヘッドから吐出させて画像を形成した。すると、この場合には以下の課題があることがわかった。すなわち、上記構成によって画像の耐擦過性は改善されるものの、当該インクでは良好な吐出安定性が得られなかった。これは、前述したように、上記構成のインクを用いた場合は、前記樹脂は親水性が低いため、記録ヘッドの吐出口を有する面などに付着することによって吐出口の目詰まりを生じさせてしまうことに起因すると考えられる。
【0020】
そこで、本発明者らは、さらに、熱エネルギーの作用によりインクを安定に吐出するための検討を行った。そうしたところ、かかる課題の改善のためには、ポリオキシエチレンアルキルエーテルというノニオン性界面活性剤を併用することが有効であることを見出した。その理由としては、顔料粒子の表面及び樹脂の疎水部に、このノニオン性界面活性剤が配向し、そのノニオン性界面活性剤の水溶性によって、顔料や樹脂が安定化されたことによると考えられる。また、このノニオン性界面活性剤の水溶性は、その親水部が、水素結合により多くの水和水を形成することによる。
【0021】
ノニオン性界面活性剤が効果的に、上記したインクの吐出安定性をもたらすためには、下記の要件が重要となる。すなわち、顔料粒子の表面や樹脂の疎水部と効果的に相互作用を形成するための疎水部の構造と、相互作用したものが水中に安定に存在するための界面活性剤の親水性が重要である。そして、本発明者らは、これらの要素について検討することで、良好な吐出安定性を得るためには、以下の要件が必要であることをつきとめた。すなわち、直鎖一級アルコール、直鎖二級アルコール及びイソアルキルアルコールから選ばれる高級アルコールのエチレンオキサイド付加物であり、前記高級アルコールの炭素数が12以上であることを要する。さらに、そのグリフィン法により求められるHLB値が13.0以上であることを要する。
【0022】
ここで、本発明者らが見出した、特定のノニオン性界面活性剤の添加によって、インクの吐出安定性を得るための要件について述べる。ノニオン性界面活性剤の疎水部であるアルキル鎖が、直鎖状でなく、複数の箇所で分岐しているような構造の場合、その立体障害により、顔料粒子の表面や樹脂の疎水部と強固な相互作用を形成することができないので不適である。また、高級アルコールの炭素数は、12以上である必要がある。炭素数が12未満であると、界面活性剤の疎水性が弱く、界面活性能が低くなりすぎるため好ましくない。また、本発明で使用する界面活性剤は、グリフィン法により求められるHLB値が13.0未満であると、ノニオン性界面活性剤の親水性が低くなり、結果として顔料や樹脂を十分に安定化することができないので、不適である。
【0023】
以上で説明した前記樹脂と、前記ノニオン性界面活性剤を含むインクと多価金属塩に由来する多価金属イオンを含む反応液を用いた2液システムで記録を行った。すると、画像の耐擦過性と、熱エネルギーを利用する記録ヘッドからの吐出安定性とをいずれも満足するものが得られた。しかし、この場合は、2液システムで記録したにも関わらず顔料の凝集が起こらず、顔料インクのみで記録したものと変わらない程度の、画像濃度の低い画像しか得られなかった。そこで、本発明者らは、樹脂により分散されている顔料(以下、樹脂分散顔料とも呼ぶ)と多価金属イオンが混ざり合ったときに生じる顔料の分散状態の不安定化、また、界面活性剤による顔料の分散状態の不安定化の抑制について、さらに詳細な解析を行った。その結果、以下のことがわかった。
【0024】
先ず、前者の反応、すなわち、樹脂分散顔料と多価金属イオンが混ざり合った際に生じる顔料の分散状態の不安定化は、以下のようにして生じる。すなわち、インク中では、アニオン型となっている酸性基を有する樹脂が顔料粒子の表面に吸着しているので、顔料は、電気二重層により分散状態が安定となっている。ここで、多価金属イオン(カチオン)が存在する場合、その作用により電気二重層が圧縮されることによって、顔料粒子間の電気的反発力が消失する。そして、このようにして顔料粒子間の電気的反発力が消失するので、顔料粒子同士が衝突し、凝集状態が形成されることで、顔料の分散状態が不安定化される。また、反応液中に含まれる多価金属イオンが樹脂を不溶化させ、それによって形成される樹脂の凝集物についても顔料の凝集に寄与する。
【0025】
次に、後者の反応、つまり、ノニオン性界面活性剤による分散状態の不安定化の抑制は、以下のようにして生じる。すなわち、ノニオン性界面活性剤を含有するインクを用いると、顔料粒子の表面や樹脂の疎水部にノニオン性界面活性剤が配向し、そのノニオン性界面活性剤の水溶性により、顔料の分散状態や樹脂の溶解性が安定化される。ノニオン性界面活性剤の水溶性は前記界面活性剤の親水部が水素結合により多くの水和水を形成することによりもたらされているため、多価金属イオンの影響を受けづらい。このため、多価金属イオンを含有する反応液と前記ノニオン性界面活性剤を含有するインクが混ざり合ったときに分散状態の不安定化が抑制されてしまい、高い画像濃度が得られないことが明らかになった。
【0026】
以上の多価金属イオンによる凝集メカニズムを踏まえ、本発明者らは電気二重層の圧縮によらずに顔料を凝集させることができないかということについて、さらなる検討を行った。その結果、上記構成のインクと併用する反応液が、pHが3.5以上5.5以下であり、カルボキシ基を持つ有機酸を含有する反応液を用いた場合に、顔料の凝集が起こり、高い画像濃度を得ることができることを見出した。上記反応液は、一般的には、水及び水溶性有機溶剤で構成される水性媒体を含有してなる。
【0027】
上記したように、多価金属イオンでは起こらなかった顔料の凝集が、有機酸を含みpHが3.5以上5.5以下の前記反応液であると起こった理由を、本発明者らは以下のように考えている。すなわち、前記反応液は、顔料粒子間の電気的反発力を消失させて顔料同士を衝突させるのではなく、以下のような作用によって顔料を凝集させている。本発明のセットを構成するインクと反応液とが記録媒体において互いに接触、混合した際に、混合液のpHは当初のインクのpHよりも低くなる。すると、酸析作用により、樹脂の酸性基は可溶性であるアニオン型から難溶性のH型へと変化する。このような作用によって樹脂を不溶化させ、顔料を凝集させている。そのため、本発明のセットにおいては、ノニオン性界面活性剤が存在していても顔料の凝集が起こり、結果として画像濃度が向上したものと考えている。
【0028】
〔インクと反応液とのセット〕
以下、本発明のセットを構成するインク及び反応液について、それぞれ詳細に説明する。
【0029】
[インク]
本発明で使用するインクは、顔料を含有し、該顔料が樹脂により分散されてなるものである。以下、インクを構成する各成分について説明する。
【0030】
<顔料>
本発明で使用するインクを構成する色材は顔料である。本発明で用いることができる顔料の種類は特に限定されず、公知の無機顔料や有機顔料をいずれも用いることができる。具体的には、例えば、炭酸カルシウム、酸化チタン、カーボンブラックなどの無機顔料、フタロシアニン、キナクドリンなどの有機顔料が挙げられる。インク中の顔料の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、0.1質量%以上15.0質量%以下、さらには0.2質量%以上10.0質量%以下であることが好ましい。
【0031】
<樹脂>
本発明のセットを構成するインクに使用する樹脂は、酸価が30mgKOH/g以上100mgKOH/g以下であり、かつ、インク中の樹脂の含有量が、顔料の含有量に対する質量比率(樹脂/顔料)で、0.10倍以上0.90倍以下であることを要する。なお、この質量比率を算出する場合の樹脂及び顔料の含有量は、いずれもインク全質量を基準とした値であり、また、インク中に複数種の顔料や樹脂が存在する場合には、それぞれの合計量として算出するものとする。前記したように、該樹脂は、「顔料を分散させる樹脂」(すなわち樹脂分散剤)として用いてもよいが、これに限らず、該分散剤とは別にインクに添加してもよい。インク中の樹脂の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、0.01質量%以上10.0質量%以下、さらには0.05質量%以上5.0質量%以下であることが好ましい。
【0032】
上記した特性を有する樹脂を、インクに含有させる「顔料を分散させる樹脂」として用いる場合には、以下に挙げるような単量体からなる、親水性ユニット及び疎水性ユニットの両方を構成ユニットとして少なくとも有するものが用いられる。なお、以下の記載における(メタ)アクリルとは、アクリル及びメタクリルを示すものとする。
【0033】
重合により親水性ユニットとなる、親水性基を有する単量体としては、以下のものが挙げられる。例えば、(メタ)アクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸などのカルボキシ基を有する単量体、(メタ)アクリル酸−2−ホスホン酸エチルなどのホスホン酸基を有する単量体、これらの酸性単量体の無水物や塩などのアニオン性単量体、(メタ)アクリル酸−2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸−3−ヒドロキシプロピルなどのヒドロキシ基を有する単量体が挙げられる。なお、アニオン性単量体の塩を構成するカチオンとしては、リチウム、ナトリウム、カリウム、アンモニウム、有機アンモニウムなどのイオンが挙げられる。
【0034】
また、重合により疎水性ユニットとなる、疎水性基を有する単量体としては、スチレン、α−メチルスチレン、ベンジル(メタ)アクリレートなどの芳香環を有する単量体、エチル(メタ)アクリレート、メチル(メタ)アクリレート、(イソ)プロピル(メタ)アクリレート、(n−、iso−、t−)ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレートなどの脂肪族基を有する単量体が挙げられる。
【0035】
本発明においては、インクに含有させる樹脂は、上記に挙げた中でも、親水性基を有する単量体として、アニオン性基であるカルボキシ基を有する単量体を用いて、重合により親水性ユニットを形成してなるものが好ましい。より具体的には、以下に挙げるようなカルボキシ基を有する単量体に由来するユニットを含む水溶性樹脂を用いることが好ましい。スチレン−(メタ)アクリル酸共重合体、スチレン−(メタ)アクリル酸−(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体、スチレン−マレイン酸共重合体、スチレン−マレイン酸−(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体、スチレン−マレイン酸ハーフエステル共重合体、ビニルナフタレン−(メタ)アクリル酸共重合体、ビニルナフタレン−マレイン酸共重合体、スチレン−無水マレイン酸−マレイン酸ハーフエステル共重合体、これらの塩などが挙げられる。
【0036】
また、本発明においては、インク中に複数種の樹脂を含有させてもよい。この場合には、インク中において顔料を分散させている樹脂の酸価が30mgKOH/g以上100mgKOH/g以下であることを要する。インク中に複数種の樹脂が含まれている場合に、顔料を分散させている樹脂がいずれの樹脂であるかは以下のようにして知ることができる。先ず、複数種の樹脂を含有するインクを遠心分離(20,000rpm、2時間)して、顔料を含む沈降分を回収する。この上澄みには、顔料を分散させていない樹脂が含まれていることになり、沈降分には顔料を分散させている樹脂が含まれていることになる。この沈降分について、テトラヒドロフラン(THF)でソックスレー抽出を行い、その後THFを留去し、樹脂成分を得る。得られた樹脂成分についてNMR測定を行い、顔料を分散させている樹脂の特性を分析することで、インク中において顔料を分散させていた樹脂を知ることができる。
【0037】
本発明においては、インクに含有させる樹脂が、水溶性を有することが好ましい。本発明において樹脂が水溶性であることとは、該樹脂を酸価と当量のアルカリで中和した場合に粒径を有さないものであることを意味する。このような条件を満たす樹脂を、本発明においては水溶性の樹脂として記載する。また、顔料を分散させている樹脂の他に、インク中に、例えば、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリオレフィン樹脂なども含有させることができる。特に、ポリウレタン樹脂は、得られる画像の耐擦過性の向上に有効である。なお、単量体として、エチレンオキシドなどのノニオン性基を有するものを使用した樹脂は、記録媒体において形成された膜の強度が弱くなってしまう場合もあるので、あまり好ましくない。
【0038】
<界面活性剤>
本発明を構成するインクには、界面活性剤として、グリフィン法により求められるHLB値が13.0以上の、直鎖一級アルコール、直鎖二級アルコール及びイソアルキルアルコールからなる群より選ばれる高級アルコールのエチレンオキサイド付加物を含有させる。高級アルコールの好適な具体例としては、例えば、カプリルアルコール、ラウリルアルコール、2級トリデシルアルコール、ミリスチルアルコール、セチルアルコール、イソセチルアルコール、パルミトレイルアルコール、ステアリルアルコール、イソステアリルアルコール、オレイルアルコール、リノレイルアルコール、ベヘニルアルコールが挙げられる。
【0039】
本発明においては、高級アルコールの炭素数は12以上であることを要し、界面活性剤が効率的に顔料粒子の表面や樹脂に配向するためには、高級アルコールの炭素数が16以上であることがより好ましい。また、高級アルコールの炭素数は22以下であることが好ましい。炭素数が22を超えると、界面活性剤の疎水性が強くなりすぎ、インクに添加することが困難になる場合や、記録ヘッドの吐出口面に界面活性剤が付着する場合があるため好ましくない。また、本発明においては、エチレンオキサイド基の付加数が、10以上50以下、さらには10以上30以下であることが好ましい。
【0040】
本発明を構成するインクにおいては、界面活性剤により顔料や樹脂の安定化を図るため、これら顔料や樹脂の含有量に対して界面活性剤の含有量を十分にしておくことが好ましい。そのためには、インク中の界面活性剤の含有量(質量%)は、界面活性剤の構造やHLB値にもよるが、インク全質量を基準として、0.1質量%以上、さらには0.3質量%以上であることが好ましく、また、2.5質量%以下であることが好ましい。なお、この界面活性剤の含有量は、2種以上の界面活性剤を使用する場合には合計の値である。
【0041】
また、本発明においては、高級アルコールのエチレンオキサイド付加物のグリフィン法により求められるHLB値は13.0以上であることを要する。なお、HLB値の上限は後述する通り20.0であり、本発明で使用できる高級アルコールのエチレンオキサイド付加物のHLB値の上限も20.0以下である。
【0042】
ここで、本発明において、界面活性剤のHLB値を規定するために利用しているグリフィン法について説明する。グリフィン法によるHLB値は、界面活性剤の親水基(エチレンオキサイド基)の式量と分子量から下記式(1)により求められ、界面活性剤の親水性や親油性の程度を0.0から20.0の範囲で示すものである。このHLB値が低いほど界面活性剤の親油性すなわち疎水性が高いことを示し、逆に、HLB値が高いほど界面活性剤の親水性が高いことを示す。
【0043】

【0044】
また、本発明においては、その効果を妨げない限り、前記した特定の界面活性剤以外にも、インクジェット用のインクに一般的に使用される公知のものをさらに用いることができる。具体的には、上記以外のポリオキシエチレンアルキルエーテル、アセチレングリコール系化合物、アセチレングリコールのエチレンオキサイド付加物、ポリオキシエチレン・ポリオキシプロピレンブロック共重合体などのノニオン性界面活性剤が挙げられる。また、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、ベタイン系化合物などの両性界面活性剤、また、フッ素系化合物、シリコーン系化合物などの界面活性剤が挙げられる。
【0045】
<水性媒体>
本発明で使用するインクは、水、又は水及び水溶性有機溶剤の混合溶媒を水性媒体として含有してなるものであることが好ましい。水としては、脱イオン水やイオン交換水を用いることが好ましい。インク中の水の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、50.0質量%以上95.0質量%以下であることが好ましい。また、水溶性有機溶剤としては、インクジェット用のインクに一般的に使用される公知のものをいずれも用いることができ、1種又は2種以上の水溶性有機溶剤を用いることができる。具体的には、1価又は多価のアルコール類、アルキレン基の炭素数が1〜4程度のアルキレングリコール類、数平均分子量200〜2,000程度のポリエチレングリコール類、グリコールエーテル類、含窒素化合物類などが挙げられる。インク中の水溶性有機溶剤の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、3.0質量%以上50.0質量%以下であることが好ましい。
【0046】
<その他の成分>
本発明で使用するインクには、上記成分以外にも必要に応じて、尿素、エチレン尿素などの含窒素化合物、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパンなどの常温で固体の有機化合物を含有させてもよい。また、上記の成分の他に、さらに必要に応じて、pH調整剤、消泡剤、防錆剤、防腐剤、防カビ剤、酸化防止剤、還元防止剤、蒸発促進剤、キレート剤などの種々の添加剤をインクに含有させてもよい。
【0047】
なお、インクのpHは、6.0以上9.5以下であることが好ましい。pHが6.0未満であると、顔料の分散安定性が低くなる傾向があり、インクの保存安定性などが十分に得られない場合がある。一方、pHが9.5を超えると、インクジェット記録装置を構成する部材を腐食するなど、インクの接液性が低下する問題が生じやすい場合がある。
【0048】
〔反応液〕
上記で説明したインクと組み合せて本発明を構成する反応液は、反応剤として作用するカルボキシ基を持つ有機酸を含有してなり、そのpHが3.5以上5.5以下であることを要する。なお、本発明において、反応液とインクとの反応は、反応液中のカルボキシ基を持つ有機酸によって、インク中の顔料を分散させている樹脂が酸析されるために生じる。反応液は、画像を形成する際にインクと併用するので、顔料や染料などの色材を含有せず、画像への影響を考慮すると可視域に吸収を示さない無色のものであることが好ましい。ただし、可視域に吸収を示すものであっても、実際の画像に影響を与えない程度であれば、可視域に吸収を示す淡色ものであっても構わない。以下、反応液を構成する成分について説明する。
【0049】
<カルボキシ基を持つ有機酸>
本発明で使用するカルボキシ基を有する有機酸は、水への溶解度が高いものが好ましく用いられる。例えば、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸などのモノカルボン酸やその塩が挙げられる。また、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、セバシン酸、ダイマー酸、ピロメリット酸、トリメリット酸などのジカルボン酸の塩や水素塩が挙げられる。また、クエン酸などのトリカルボン酸の塩や水素塩、オキシコハク酸、DL−リンゴ酸、酒石酸などのヒドロキシカルボン酸の塩が挙げられる。塩を形成するカチオンとしては、リチウム、ナトリウム、カリウムなどのアルカリ金属イオンが挙げられる。
【0050】
顔料と接触した場合の凝集性の観点から、モノカルボン酸よりも、少なくとも2つのカルボキシ基を持つ、例えば、ジカルボン酸が好ましく用いられる。このメカニズムを、本発明者らは以下のように推測している。すなわち、カルボン酸と顔料インクが接触した場合における、顔料のモル数に対するカルボン酸のモル数の比率が高い方が、インクと反応液の混合物のpHが変動しにくくなり、酸による顔料の凝集がより一層促進されると考えられる。
【0051】
また、一分子中のカルボキシ基の数を増加させることで、反応性がより高くなることが考えられるが、その一方で、カルボキシ基の数の増加に伴い水に対する溶解性が低くなることも考えられる。このため、本発明では、グルタル酸に代表される水溶性の高いジカルボン酸が特に好ましく用いられる。
【0052】
カルボキシ基を持つ有機酸は一般に弱酸であるため、酸の強さを示す尺度として、酸解離定数(pKa)を適用することができる。本発明で用いるカルボキシ基を持つ有機酸のpKaは、反応性を効果的に向上させる観点からは、25℃の水中でのpKaが2.5以上6.5以下であるものが特に好ましく用いられる。反応液中のカルボキシ基を持つ有機酸の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、0.1質量%以上20.0質量%以下であることが好ましい。
【0053】
<水性媒体>
本発明を構成する反応液には、上記した成分の他に、水、又は水及び水溶性有機溶剤の混合溶媒を水性媒体として含有させることが好ましい。水としては、脱イオン水やイオン交換水を用いることが好ましい。反応液中の水の含有量は、反応液全質量を基準として、25.0質量%以上95.0質量%以下、さらには50.0質量%以上95.0質量%以下であることが好ましい。また、水溶性有機溶剤としては、インクジェット用の反応液に一般的に使用される公知のものをいずれも用いることができ、1種又は2種以上の水溶性有機溶剤を用いることができる。具体的には、1価又は多価のアルコール類、アルキレン基の炭素数が1〜4程度のアルキレングリコール類、数平均分子量200〜2,000程度のポリエチレングリコール類、グリコールエーテル類、含窒素化合物類などが挙げられる。反応液中の水溶性有機溶剤の含有量(質量%)は、反応液全質量を基準として、3.0質量%以上70.0質量%以下、さらには3.0質量%以上50.0質量%以下であることが好ましい。
【0054】
<その他の成分>
本発明を構成する反応液には、上記成分以外にも必要に応じて、尿素、エチレン尿素などの含窒素化合物、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパンなどの常温で固体の有機化合物を含有させてもよい。また、上記の成分の他に、さらに必要に応じて、高分子化合物、界面活性剤、pH調整剤、消泡剤、防錆剤、防腐剤、防カビ剤、酸化防止剤、還元防止剤、蒸発促進剤、キレート剤などの種々の添加剤を反応液に含有させてもよい。本発明においては、反応液のpHを3.5以上5.5以下に調整するためには、無機酸や水酸化物などのpH調整剤を用いることができる。
【0055】
〔画像形成方法〕
本発明の画像形成方法では、インクジェット方式の記録ヘッドからインクを吐出させて、記録媒体においてインク及び反応液を互いに接触させて画像を形成する。そして、この際に、上記で説明した本発明のインクと反応液とのセットを用いることを特徴とする。本発明においては、インクはインクジェット方式の記録ヘッドから吐出させることを要するが、記録媒体への反応液の付与方法はインクジェット方式に限らず、ローラーなどで塗布する方式を利用することもできる。つまり、反応液を何らかの方法で記録媒体に付与し、インクと反応液とを記録媒体において互いに接触させることができればよい。本発明の画像形成方法を行うための装置の構成としてはインクジェット記録装置が挙げられる。インクジェット記録装置に搭載される記録ヘッドは、熱エネルギーの作用により液体を吐出させる方式を用いる。
【0056】
インク及び反応液を記録媒体に付与する場合の順序としては、反応液を付与した後にインクを付与する場合や、インクを付与した後に反応液を付与する場合、また、これらを組み合わせる場合が挙げられる。本発明の目的を鑑みれば、反応液を先に付与した後にインクを付与する場合を少なくとも含むことが好ましい。
【0057】
また、インクジェット方式の記録ヘッドからの吐出性という観点からは、インク及び反応液の特性について、粘度が1mPa・s以上15mPa・s以下、さらには1mPa・s以上5mPa・s以下であることが好ましい。また、反応液は記録媒体において、意図したインクと効率的に接触させて反応させることが好ましい。そのため、所望のインクによる記録領域とは別の箇所に反応液が滲まないように、反応液の表面張力を、記録ヘッドから吐出可能な範囲内で、かつ、反応液によって不安定化させる対象となるインクのそれよりも大きくすることが好ましい。
【0058】
記録媒体への反応液の付与量は、反応液中のカルボキシ基を持つ有機酸の種類やその含有量、それと反応させるインクの構成によって適宜調整すればよい。本発明においては、得られる画像の均一性や定着性などの観点から、反応液の付与量を0.5g/m2以上10.0g/m2以下、さらには、2g/m2を超えて5.0g/m2以下とすることが好ましい。なお、記録媒体の大きさ(面積:m2)に対して、反応液を付与する領域が、ある一部分のみである場合は、記録媒体の全面に付与したと仮定して、反応液の付与量の値(g/m2)を求め、この値が上記の範囲を満足することが好ましい。
【実施例】
【0059】
次に、実施例及び比較例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、下記実施例によって限定されるものではない。なお、文中「部」及び「%」とあるのは、特に断りのない限り質量基準である。また、各種の物性は、25℃において測定した値である。
【0060】
<樹脂の合成>
(樹脂A〜F、H)
表1に示した種類の樹脂A〜F、Hを常法により合成し、得られた各樹脂を中和当量1となる水酸化ナトリウムを用いて中和し、水溶性の樹脂A〜F、Hを得た。
【0061】

【0062】
(樹脂G)
ポリプロピレングリコール(数平均分子量2,000)37.8部をメチルエチルケトン中で十分撹拌溶解し、次いで、イソホロンジイソシアネート43.1部、ジメチロールプロピオン酸19.1部を加え、75℃で1時間反応させた。次いで、得られたプレポリマー溶液を60℃まで冷却して、水酸化カリウム水溶液を加え、カルボキシ基を中和した後、40℃まで冷却してイオン交換水を添加し、ホモミキサーで高速撹拌することで乳化した。乳化後、ジエチレントリアミン2.0部(プレポリマーの残存イソシアネートに対して80%モル換算相当)を加え、アミン鎖延長反応を30℃にて12時間行った。FT−IRによりイソシアネート基の存在が確認されなくなったところで、この樹脂溶液を加熱減圧下、メチルエチルケトンを留去した。さらに、中和当量1となる水酸化ナトリウムを用いて中和し、水溶性の樹脂G(酸価80mgKOH/g、重量平均分子量30,000)を得た。なお、先の表1中に、上記で調製した樹脂Gについてもあわせて示した。
【0063】
<顔料分散液の調製>
表2に示した成分の混合物をバッチ式縦型サンドミルに仕込み、3時間分散させた。顔料としては、カーボンブラックA(比表面積が220m2/g、DBP吸油量105mL/100gのもの)、C.I.ピグメントブルー15:3(ファストゲンブルーFGF;DIC製)、後述するようにして調製したカーボンブラックBを、それぞれ用いた。得られた各顔料分散液を遠心分離することで粗大粒子を除去した後、ポアサイズ3.0μmのミクロフィルター(富士フイルム製)にて加圧ろ過し、イオン交換水を加えて、顔料分散液A〜Mをそれぞれ調製した。得られた各顔料分散液中の顔料及び樹脂の含有量(単位:%)、樹脂の含有量/顔料の含有量の値(樹脂/顔料、単位:倍)を表2の下段に示した。
【0064】
カーボンブラックBは以下のようにして調製した。5.5gの水に5gの濃塩酸を溶かした溶液に、5℃に冷却した状態で1.5gの4−アミノ−1,2−ベンゼンジカルボン酸を加えた。次に、この溶液の入った容器をアイスバスに入れて液を撹拌することにより溶液を常に10℃以下に保った状態とし、これに5℃の水9gに1.8gの亜硝酸ナトリウムを溶かした溶液を加えた。この溶液をさらに15分間撹拌後、6gのカーボンブラックA(比表面積が220m2/g、DBP吸油量105mL/100gのもの)を撹拌下で加えた。その後、さらに15分間撹拌した。得られたスラリーをろ紙(商品名:標準用濾紙No.2;アドバンテック製)でろ過した後、粒子を充分に水洗し、110℃のオーブンで乾燥させた。上記の方法により、顔料粒子の表面に−C63−(COONa)2基が結合している自己分散型のカーボンブラックを得た。
【0065】
上記で得たカーボンブラックを水中に分散させた分散液について、イオンメーター(東亜DKK製)を用いてナトリウムイオン濃度を測定した。得られた値から換算して求めた、自己分散型のカーボンブラックのイオン性基密度は3.1μmol/m2であった。その後、イオン交換法によりナトリウムイオンをカリウムイオンに置換して、顔料粒子の表面に−C63−(COOK)2基が結合している自己分散型のカーボンブラックBを得た。
【0066】

【0067】
<界面活性剤の構造及び物性>
表3に、ノニオン性界面活性剤である、各界面活性剤の構造、HLB値、並びに、かかる界面活性剤の構造が本発明の規定するところに該当する場合は、高級アルコールの一般式、炭素数及びポリオキシエチレン鎖のモル数も併せて示した。なお、HLB値は、上述の式(1)に基づいて算出したグリフィン法による値である。表3中、NIKKOL BL−21、BC−20、BB−20、BT−12、BC−10(商品名)は、いずれも日光ケミカルズ製の界面活性剤である。EMALEX 1825、512、CS−30(商品名)は、いずれも日本エマルジョン製の界面活性剤である。FINESURF D−1310は青木油脂工業製の界面活性剤である。アセチレノールE100は川研ファインケミカル製の界面活性剤である。
【0068】

【0069】
<インクの調製>
表4の上段に示した各成分(単位:%)を混合して、十分撹拌した後、ポアサイズ1.0μmのミクロフィルター(富士フイルム製)にて加圧ろ過して、インク1〜25を調製した。表4の下段には、各インク中の顔料及び樹脂の含有量(単位:%)、樹脂の含有量/顔料の含有量の値(樹脂/顔料、単位:倍)を示した。なお、インク中に複数種の樹脂が含まれる場合には、その合計の含有量の値を樹脂の含有量の値とした。
【0070】

【0071】

【0072】

【0073】
<反応液の調製>
表5の上段に示した組成の各成分(単位:%)を混合して、十分撹拌した。その後、ポアサイズ0.45μmのフィルターにて加圧ろ過を行い、反応液1〜7を調製した。反応液1〜6については、8mol/Lの水酸化カリウム水溶液を用いて、下段に示すpHとなるように調整した。
【0074】

【0075】
<評価>
上記で得られた各インク及び反応液を、表6の左側に示す組み合わせで、反応液とインクとのセットとした。
このセットを用いて、以下の条件で評価を行った。画像の形成には、熱エネルギーの作用により液体を吐出させる記録ヘッドを搭載するインクジェット記録装置(商品名:PIXUS Pro9500;キヤノン製)を改造したものを用いた。セットを構成するインク及び反応液をそれぞれカートリッジに充填し、反応液のカートリッジをグレーのポジションに、また、インクのカートリッジをイエローのポジションにそれぞれセットした。
【0076】
記録条件は、記録ヘッドの吐出口の配置幅分の画像を、記録ヘッドのホームポジションから開始する走査のみで記録を行う、1パス片方向記録とし、同一のパスで反応液を記録媒体に付与し、その後にインクを重なるように付与した。本評価試験においては、1/600inch×1/600inchを1ピクセルと定義し、記録媒体への反応液の付与量は1ピクセルあたり7ng、また、記録媒体へのインクの付与量は1ピクセルあたり16ngとした。そして、PB PAPER GF−500及びCanon Extra(以上、キヤノン製)、並びに、PPC用紙 BUSINESS MULTIPURPOSE 4200 PAPER(ゼロックス製)の3種の記録媒体に、各評価に用いる画像を形成した。各試験の評価結果を表6の右側にまとめて示した。
【0077】
(耐擦過性の評価)
表6に示すセットを用いて、上記3種の記録媒体に、それぞれ1inch×0.5inchのベタ画像を形成した。記録の10分後に40g/cm2のおもりを載せたシルボン紙でベタ画像を刷り、白地部の汚れの程度を目視で確認して、それらの平均値として耐擦過性の評価を行った。耐擦過性の評価基準は下記の通りである。本発明においては、耐擦過性の評価基準で、Aを許容できるレベル、Bを許容できないレベルとした。
[評価基準]
A:白地部の汚れがなかった。
B:白地部の汚れが見られた。
【0078】
(耐マーカー性の評価)
表6に示すセットを用いて、上記3種の記録媒体に、それぞれ太さ1/10インチの縦罫線を記録した。記録10分後に、黄色ラインマーカー・OPTEX2(ゼブラ製)を用いて、縦罫線にマーカーし、その後すぐに白地部にマーカーし、マーカーのペン先を目視で確認して、それらの平均値として耐マーカー性の評価を行った。耐マーカー性の評価基準は下記の通りである。本発明においては、耐マーカー性の評価基準で、Aを許容できるレベル、Bを許容できないレベルとした。
[評価基準]
A:ペン先に汚染がなく、白地部にマーキングしても汚染はなかった。
B:ペン先に汚染があり、白地部にマーキングすると汚染があった。
【0079】
(画像濃度の評価)
表6に示すセットを用いて、上記3種の記録媒体にそれぞれ5cm×5cmのベタ画像を形成した。1日後に分光光度計(商品名:Spectrolino;Gretag Macbeth製)を用いて、光源:D50、視野:2°の条件でベタ画像の画像濃度を測定し、3種の記録媒体についての平均値と最低値により評価を行った。画像濃度の評価基準は以下の通りである。本発明においては、各色のベタ画像の画像濃度の評価基準で、B以上を許容できるレベル、Cを許容できないレベルとした。
[ブラックのベタ画像の場合の評価基準]
A:平均値が1.4以上であり、かつ最低値が1.3以上であった。
B:平均値が1.4以上であり、かつ最低値が1.2以上1.3未満であった。
C:平均値が1.4未満であった。
[シアンのベタ画像の場合の評価基準]
A:平均値が1.3以上であり、かつ最低値が1.2以上であった。
B:平均値が1.3以上であり、かつ最低値が1.1以上1.2未満であった。
C:平均値が1.3未満であった。
【0080】
(吐出安定性の評価)
表6に示したセットを構成するインクをインクカートリッジに充填し、熱エネルギーの作用により液体を吐出させる記録ヘッドを搭載するインクジェット記録装置(商品名:PIXUS iP3100;キヤノン製)に搭載した。そして、A4サイズのPB PAPER GF−500(キヤノン製)に、19cm×26cmのベタ画像を10枚記録した。そして、5枚目及び10枚目のベタ画像を目視で確認して、吐出安定性の評価を行った。吐出安定性の評価基準は下記の通りである。本発明においては、吐出安定性の評価基準で、B以上を許容できるレベル、C以下を許容できないレベルとした。
[評価基準]
A:5枚目及び10枚目において、白スジやカスレが生じず、正常に記録されていた。
B:5枚目においては白スジやカスレが生じず、正常に記録されており、10枚目において、僅かに白スジやカスレが見られるが、ほとんど気にならないレベルであった。
C:5枚目においては白スジやカスレが生じず、正常に記録されているが、10枚目において白スジやカスレが見られた。
D:5枚目及び10枚目において、白スジやカスレが見られた。
【0081】

【0082】
比較例1のセットを構成するインク15は酸価が25mgKOH/gと低い樹脂を用いているため、樹脂が十分に溶解せず、インクを調製することができなかったため、評価を行うこともできなかった。また、比較例10のセットを構成する反応液5はpHが3.5未満であるため、反応液と接する記録装置の部材の一部が酸により腐食したため、評価を行うことはできなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱エネルギーの作用によりインクジェット方式の記録ヘッドから少なくともインクを吐出させて、記録媒体においてインク及び反応液を互いに接触させて画像を形成する画像形成方法に用いられるインクと反応液とのセットであって、
前記インクが、樹脂により分散されてなる顔料、及び界面活性剤を含有してなり、前記樹脂の酸価が、30mgKOH/g以上100mgKOH/g以下であり、インク中の樹脂の含有量が、前記顔料の含有量に対する質量比率で、0.10倍以上0.90倍以下であり、前記界面活性剤が、直鎖一級アルコール、直鎖二級アルコール及びイソアルキルアルコールからなる群より選ばれる高級アルコールのエチレンオキサイド付加物であり、前記高級アルコールの炭素数が12以上であり、かつ、そのグリフィン法により求められるHLB値が13.0以上であり、
前記反応液は色材を含有せず、カルボキシ基を持つ有機酸を含有してなり、かつ、そのpHが3.5以上5.5以下であることを特徴とするインクと反応液とのセット。
【請求項2】
前記高級アルコールの炭素数が16以上である請求項1に記載のインクと反応液とのセット。
【請求項3】
前記有機酸が、少なくとも2つのカルボキシ基を持つ請求項1又は2に記載のインクと反応液とのセット。
【請求項4】
インクジェット方式の記録ヘッドから少なくともインクを吐出させて、記録媒体において、インク及び反応液を互いに接触させて画像を形成する画像形成方法であって、反応液及びインクに、請求項1乃至3のいずれか1項に記載のインクと反応液とのセットを用いることを特徴とする画像形成方法。

【公開番号】特開2012−224739(P2012−224739A)
【公開日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−93353(P2011−93353)
【出願日】平成23年4月19日(2011.4.19)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】