説明

インクジェットインク及びインクジェット画像形成方法

【課題】布帛を加熱するだけで、高画質で、高耐久性な画像を作成でき、安定射出性に優れ、かつ長期にわたり安定にプリントできるインクジェットインク及びそれを用いた画像形成方法を提供する。
【解決手段】インクジェット捺染に用いる分散染料を含有するインクジェットインクにおいて、酸性基としてカルボキシル基またはスルホン酸基を有し、酸価が80mgKOH/g以上、300mgKOH/g以下のポリマー樹脂を固形分で2質量%以上、10質量%以下含有し、かつ水溶性有機溶剤を含有することを特徴とするインクジェットインク。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット捺染に用いるインクジェットインク及び画像形成方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、記録媒体として紙類を対象に発展しているインクジェット記録方式を、布帛の捺染に適用する検討がなされており、その実用化が進んでいる。インクジェット記録方式を用いた布帛への捺染方法においては、その布帛の種類によって、適用可能なインクジェットインクの種類が限定されている。中でも、ポリエステル繊維の捺染には、分散染料を分散し、微細化した染料粒子を含むインクジェットインクを用いる必要がある。
【0003】
また、インクジェット染色の場合、通常の捺染方式とは異なり、布帛上に微小な液滴が付着、吸着するのみであり、特に、分散染料は水に難溶性であり、染料色素をそのまま布帛に付与しても実用的な染色は困難である。このため、インクジェット方式により布帛に図柄を形成するときは、色の濃度を高める、あるいはにじみを抑制するために、印字前に布帛を撥水剤、捺染糊等を用いて前処理を行う必要がある。また、印字後も布帛の種類にもよるが、100〜200℃の温度で加熱して染色する工程が必要となる。更に、分散染料の高温条件下での加水分解を回避する目的で、弱酸性での処理を行うこともある。これら前後処理は、染色工程の増大及びコスト増加の要因になっている。
【0004】
上記課題に対し、特許文献1には、特定の分散染料と分散剤の組み合わせによって、堅牢性が向上する技術が開示されている。しかしながら、この特許文献1に記載の方法では、前述の如くインクジェット印画に際しての前後処理を行うことが前提となっており、印刷物を作製するための処理工数及びコストの負担を回避することができない。
【0005】
また、特許文献2には、カルボキシ化ジオールとポリイソシナナートからなる付加重合体であって、かつ酸価が100〜250の範囲にある水溶性付加重合体を、分散染料インクジェットインクに含有せしめることにより、にじみ耐性、発色性を向上できる技術が開示されている。しかしながら、布帛への印字評価では、180℃で5分間のスチーム処理を施す方法である。
【0006】
また、特許文献3には、分散染料を含むインクジェットインクに、塩基性基を有する分散剤及び中和剤を含有させることで、インクジェット記録方式における連続出射性を向上させる技術が開示されている。しなしながら、印字後の画像堅牢性についての言及は、なされていない。
【特許文献1】特開2000−239980号公報
【特許文献2】特開平10−168151号公報
【特許文献3】特表平10−501353号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、その目的は、布帛を加熱するだけで、高画質で、高耐久性な画像を作成でき、安定射出性に優れ、かつ長期にわたり安定にプリントできるインクジェットインク及びそれを用いた画像形成方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の上記目的は、以下の構成により達成される。
【0009】
1.インクジェット捺染に用いる分散染料を含有するインクジェットインクにおいて、酸性基としてカルボキシル基またはスルホン酸基を有し、酸価が80mgKOH/g以上、300mgKOH/g以下のポリマー樹脂を固形分で2質量%以上、10質量%以下含有し、かつ水溶性有機溶剤を含有することを特徴とするインクジェットインク。
【0010】
2.前記水溶性有機溶剤が、グリコールエーテル類または1,2−アルカンジオール類であることを特徴とする前記1に記載のインクジェットインク。
【0011】
3.シリコーン系界面活性剤またはフッ素系界面活性剤を含有することを特徴とする前記1または2に記載のインクジェットインク。
【0012】
4.前記1〜3のいずれか1項に記載のインクジェットインクを用いて、布帛を加熱しながらインクジェット記録方式で印字することを特徴とするインクジェット画像形成方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明により、布帛を加熱するだけで、高画質で、高耐久性な画像を作成でき、安定射出性に優れ、かつ長期にわたり安定にプリントできるインクジェットインク及びそれを用いた画像形成方法を提供することができた。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明を実施するための最良の形態について詳細に説明する。
【0015】
本発明者は、上記課題に鑑み鋭意検討を行った結果、インクジェット捺染に用いる分散染料を含有するインクジェットインクにおいて、酸性基としてカルボキシル基またはスルホン酸基を有し、酸価が80mgKOH/g以上、300mgKOH/g以下のポリマー樹脂を固形分で2質量%以上、10質量%以下含有し、かつ水溶性有機溶剤を含有することを特徴とするインクジェットインクにより、布帛を加熱するだけで、高画質で、高耐久性な画像を作成でき、安定射出性に優れ、かつ長期にわたり安定にプリントできるインクジェットインクを実現できることを見出したものである。
【0016】
本発明のインクジェットインク(以下、単にインクともいう)としては、少なくとも、イエロー、マゼンタ、シアン、ブラックの4色を使用する分散染料インクジェット捺染に用いることが好ましい。
【0017】
以下に本発明の構成について詳細に説明する。
【0018】
(分散染料)
本発明のインクで使用される分散染料について説明する。
【0019】
本発明に係る分散染料とは、水に難溶性で、アゾ系、アントラキノン系またはその他の縮合系の化学構造を有し、比較的分子量が小さく、水溶性基を有していない染料である。
【0020】
本発明においては、このような条件を満たす従来公知の分散染料は、何れも使用することができる。
【0021】
本発明に好ましい分散染料を具体的に例示すると、
C.I.DisperseYellow 3、4、5、7、9、13、24、30、33、34、42、44、49、50、51、54、56、58、60、63、64、66、68、71、74、76、79、82、83、85、86、88、90、91、93、98、99、100、104、114、116、118、119、122、124、126、135、140、141、149、160、162、163、164、165、179、180、182、183、186、192、198、199、202、204、210、211、215、216、218、224等、
C.I.DisperseOrange 1、3、5、7、11、13、17、20、21、25、29、30、31、32、33、37、38、42、43、44、45、47、48、49、50、53、54、55、56、57、58、59、61、66、71、73、76、78、80、89、90、91、93、96、97、119、127、130、139、142等、
C.I.DisperseRed 1、4、5、7、11、12、13、15、17、27、43、44、50、52、53、54、55、56、58、59、60、65、72、73、74、75、76、78、81、82、86、88、90、91、92、93、96、103、105、106、107、108、110、111、113、117、118、121、122、126、127、128、131、132、134、135、137、143、145、146、151、152、153、154、157、159、164、167、169、177、179、181、183、184、185、188、189、190、191、192、200、201、202、203、205、206、207、210、221、224、225、227、229、239、240、257、258、277、278、279、281、288、289、298、302、303、310、311、312、320、324、328等、
C.I.DisperseViolet1、4、8、23、26、27、28、31、33、35、36、38、40、43、46、48、50、51、52、56、57、59、61、63、69、77等、
C.I.DisperseGreen 9等、
C.I.DisperseBrown 1、2、4、9、13、19等、
C.I.DisperseBlue 3、7、9、14、16、19、20、26、27、35、43、44、54、55、56、58、60、62、64、71、72、73、75、79、81、82、83、87、91、93、94、95、96、102、106、108、112、113、115、118、120、122、125、128、130、139、141、142、143、146、148、149、153、154、158、165、167、171、173、174、176、181、183、185、186、187、189、197、198、200、201、205、207、211、214、224、225、257、259、267、268、270、284、285、287、288、291、293、295、297、301、315、330、333等、
C.I.DisperseBlack 1、3、10、24等、
が挙げられる。
【0022】
(ポリマー樹脂)
本発明のインクにおいては、2%質量以上、10質量%以下のポリマー樹脂を含有することを特徴の1つとする。
【0023】
本発明に係るポリマー樹脂としては、画像の耐久性向上のためのバインダー樹脂としての機能があるため、インク中では安定に溶解しているが、布帛上で乾燥した後は、耐水性が付与される樹脂であることが好ましい。
【0024】
このような樹脂としては、樹脂中に疎水性成分と親水性成分をあるバランスで有するものを設計して用いる。この際、親水性成分としては、イオン性のもの、ノニオン性のもののいずれを用いてもよいが、より好ましくはイオン性のものであり、更に好ましくはアニオン性のものである。特に、アニオン性の親水性成分を、揮発可能な塩基成分で中和することで水溶性を付与したものが好ましい。特に、インクに適用するポリマー樹脂の少なくとも1種は、酸性基としてカルボキシル基またはスルホン酸基を有しており、且つ酸価が80mgKOH/g以上、300mgKOH/g未満である樹脂が、本発明の効果発現上好ましい。酸価としては、特に、90mgKOH/g以上、200mgKOH/g以下のものを好ましく用いることができる。
【0025】
本発明でいう酸価とは、ポリマー樹脂1g中に含まれる酸性成分を中和するのに要する水酸化カリウムのミリグラム数である。
【0026】
このようなポリマー樹脂としては、アクリル系、スチレン−アクリル系、アクリロニトリル−アクリル系、酢酸ビニル−アクリル系、ポリウレタン系、ポリエステル系の各樹脂を挙げることができる。
【0027】
ポリマー樹脂として疎水性モノマーと親水性モノマーを含有する樹脂を用いることができる。
【0028】
疎水性モノマーとしては、例えば、アクリル酸エステル(例えば、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸2−ヒドロキシエチル等)、メタクリル酸エステル(例えば、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸グリシジル等)、スチレン等が挙げられる。
【0029】
親水性モノマーとしては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、アクリルアミド等が挙げられ、アクリル酸のような酸性基を有するものは、重合後に塩基で中和したものを好ましく用いることができる。
【0030】
ポリマー樹脂の分子量としては、重量平均分子量で、3000〜30000のものを用いることができる。好ましくは7000〜20000のものである。
【0031】
ポリマー樹脂のガラス転移点(Tg)は−30℃〜100℃程度のものを用いることができる。好ましくは−10℃〜80℃程度のものである。
【0032】
重合方法としては、溶液重合を用いることが好ましい。ポリマー樹脂の酸性モノマー由来の酸性基は、部分的、あるいは完全に塩基成分で中和することが好ましい。この場合の中和塩基としては、アルカリ金属含有塩基、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等や、アミン類(例えば、アンモニア、アルカノールアミン、アルキルアミン等を用いることができる)を用いることができる。特に、沸点が200℃未満のアミン類で中和することは、画像耐久性向上の観点から特に好ましい。
【0033】
ポリマー樹脂のインク中への添加量としては、本発明の目的を得るためには、固形分として2質量%以上、10質量%以下の添加量範囲とすることを特徴とし、3質量%以上、6質量%以下で用いることが好ましい。
【0034】
本発明において、固形分として2質量%以上、10質量%以下のポリマー樹脂を含有することにより、本発明の目的効果が発現できる理由として、以下のように推察している。
【0035】
布帛に高画質で印字する要件として、画像堅牢性とインク混じりによる画質低下を防ぐことが重要である。これには、バインダー樹脂によるインク着弾後の急速な粘度上昇と、それに伴う流動性の低下が有効であり、特に、本発明のように布帛を加熱して印字するためのインクでは非常に有効である。
【0036】
また、この場合、バインダー樹脂としてインク溶解性のものを、固形分として2質量%以上、10質量%以下用いることが重要である。2質量%以上であれば、所望の粘度上昇硬化を得ることができ、インク混じり防止が十分となり、高品位の画質が得られる。また、10質量%以下であれば、インクの保存安定性、吐出安定性を維持することができる。
【0037】
(水溶性有機溶剤)
本発明のインクは、水溶性有機溶剤を含有することを特徴の1つとし、更には、本発明に係る水溶性有機溶剤が、グリコールエーテル類、もしくは1,2−アルカンジオール類から選ばれる水溶性有機溶剤であることが好ましく、更には本発明に係る水溶性有機溶剤のインク中への添加量が、20質量%以上、45質量%未満であることが好ましく、更に好ましくは25質量%以上、40質量%未満である。本発明に係る水溶性有機溶剤は、単独で20質量%以上、45質量%未満含有してもよいし、複数種用いて、それらの総量が20質量%以上、45質量%未満含有するものであってもよい。
【0038】
本発明に係る水溶性有機溶剤としては、グリコールエーテル類としては、例えば、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル等が挙げられる。
【0039】
また、1,2−アルカンジオール類としては、例えば、1,2−ブタンジオール、1,2−ペンタンジオール、1,2−ヘキサンジオール、1,2−ヘプタンジオール等が挙げられる。
【0040】
本発明において、グリコールエーテル類もしくは1,2−アルカンジオール類から選ばれる水溶性有機溶剤を、20質量%以上、45質量%未満含有することが好ましい理由として以下のように推察している。
【0041】
第1の理由としては、上述の様に、水溶性有機溶剤を20質量%以上、45質量%未満含有することにより、インクの乾燥時の粘度上昇を促進し、高画質を実現できる効果があるものと考えている。
【0042】
第2の理由は、得られる画像の耐久性が向上する点である。この要因としては、以下のように推察している。グリコールエーテル類もしくは1,2−アルカンジオール類は、水混和性有機溶剤の中では比較的疎水性の部類であり、このことが本発明に係る分散染料を用いるインクでは、インクの乾燥、定着過程でポリマー樹脂を軟化もしくは部分的に溶解することで、分散染料同士、または分散染料と布帛との密着性を高めていることで画像耐久性を高めているものと考えている。
【0043】
また、グリコールエーテル類もしくは1,2−アルカンジオール類は、ポリエステル等の布帛を軟化しやすく、このことも耐久性向上効果に寄与しているものと考えている。特に、本発明のように、布帛を加熱して印字するのに用いるインクとしては、その効果が顕著である。
【0044】
更に、グリコールエーテル類もしくは1,2−アルカンジオール類等の水溶性有機溶剤を20質量%以上添加することで、比較的高い保湿効果も同時に得られ、顔料、バインダー樹脂を含有するインクでも乾燥固化しにくく、インクジェット記録画像形成時、インクジェット記録ヘッドでのインク吐き捨て等の軽度のメンテナンス操作で速やかに定常状態に回復するメリットがある。
【0045】
しかしながら、45質量%以上の添加は、分散染料の分散安定性を著しく損ない、また初期粘度が高くなりすぎ、安定な射出性が得られない。
【0046】
本発明のインクには、グリコールエーテル類もしくは1,2−アルカンジオール類以外にも、従来公知の水溶性有機溶剤を、本発明の目的効果を損なわない範囲で添加することができる。
【0047】
好ましく用いられる水溶性有機溶剤の例としては、アルコール類(例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、イソブタノール、sec−ブタノール、t−ブタノール)、多価アルコール類(例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、ブチレングリコール、ヘキサンジオール、ペンタンジオール、グリセリン、ヘキサントリオール、チオジグリコール)、アミン類(例えば、エタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、N−メチルジエタノールアミン、N−エチルジエタノールアミン、モルホリン、N−エチルモルホリン、エチレンジアミン、ジエチレンジアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ポリエチレンイミン、ペンタメチルジエチレントリアミン、テトラメチルプロピレンジアミン)、アミド類(例えば、ホルムアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド等)、複素環類(例えば、2−ピロリドン、N−メチル−2−ピロリドン、シクロヘキシルピロリドン、2−オキサゾリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン等)、スルホキシド類(例えば、ジメチルスルホキシド)等が挙げられる。
【0048】
(界面活性剤)
本発明のインクでは、シリコーン系界面活性剤もしくはフッ素系の界面活性剤を好ましく用いることができる。本発明のインクにおいては、上述の様なグリコールエーテル類もしくは1,2−アルカンジオール類を50質量%程度に添加することでも、布帛への濡れ性を確保することはできるが、更には、シリコーン系界面活性剤もしくはフッ素系界面活性剤を添加することで、より優れた濡れ性を得ることができ、布帛への浸透性、定着性を更に高めることになり好ましい。
【0049】
特に、前処理をしてない種々の布帛に対して、高品位の画質を得ることができる。前処理を施していない布帛に対して、インク混じりを低減させて高画質を得るには、布帛中の糸に沿ったインクの拡散を低減する必要がある。この目的には、本発明のインクの作用機構の一つと考えているインクを布帛に着弾した直後に高速でインク粘度を上昇させ、流動性を低下させることが重要であると思われる。
【0050】
また、布帛の場合、糸を構成する更に微細な空隙へのインクの浸透によってもインクが濃縮され、粘度増加を起こしていると考えている。このインクの浸透作用は、シリコーン系界面活性剤もしくはフッ素系界面活性剤を、上述のグリコールエーテル類もしくは1,2−アルカンジオール類から選ばれる水溶性有機溶剤を20質量%以上、45質量%未満含有することと併用することで、大幅に向上するものと考えている。
【0051】
シリコーン系界面活性剤としては、特に制限はないが、好ましくはポリエーテル変性ポリシロキサン化合物が挙げられ、例えば、信越化学工業製のKF−351A、KF−642やビッグケミー製のBYK347、BYK348などが挙げられる。
【0052】
フッ素系界面活性剤は、通常の界面活性剤の疎水性基の炭素に結合した水素の代わりに、その一部または全部をフッ素で置換したものを意味する。この内、分子内にパーフルオロアルキル基を有するものが好ましい。
【0053】
フッ素系界面活性剤としては、ある種のものは大日本インキ化学工業社からメガファック(Megafac)Fなる商品名で、旭硝子社からサーフロン(Surflon)なる商品名で、ミネソタ・マイニング・アンド・マニファクチュアリング・カンパニー社からフルオラッド(Fluorad)FCなる商品名で、インペリアル・ケミカル・インダストリー社からモンフロール(Monflor)なる商品名で、イー・アイ・デュポン・ネメラス・アンド・カンパニー社からゾニルス(Zonyls)なる商品名で、またファルベベルケ・ヘキスト社からリコベット(Licowet)VPFなる商品名で、それぞれ市販されている。
【0054】
また、非イオン性フッ素系界面活性剤としては、例えば、大日本インキ社製のメガファックス144D、旭硝子社製のサーフロンS−141、同145等を挙げることができ、また、両性フッ素系界面活性剤としては、例えば、旭硝子社製のサーフロンS−131、同132等を挙げることができる。
【0055】
(布帛)
本発明のインクを用いたインクジェット画像形成方法で適用可能な布帛としては、ポリエステル、アセテート、トリアセテート等の分散染料で染色可能な繊維を、織物、編物、不織布等いずれの形態にしたものでもよい。また、本発明で使用し得る布帛としては、分散染料で染色可能な繊維が100%であることが好適であるが、レーヨン、綿、ポリエステル、ポリウレタン、アクリル、ナイロン、羊毛及び絹等との混紡織布又は混紡不織布等も捺染用布帛として使用することができる。又、上記の様な布帛を構成する糸の太さとしては、10〜100dの範囲が好ましい。
【0056】
(記録時の加熱)
本発明のインクジェット画像形成方法では、布帛を加熱して印字することを特徴とする。布帛を加熱することで、インクの乾燥過程での粘度上昇速度が著しく向上し、高画質が得られ、かつ得られる画像の耐久性も向上させることができる。
【0057】
加熱温度としては、布帛の印字表面温度を40〜80℃になるように加熱することが好ましい。40℃以上の加熱であれば十分な画質が得られ、同時に十分な画像耐久性が得られることに加え、乾燥時間を短縮することができる。また、加熱温度が80℃以下であれば、インク射出に大きな影響を与えることなく、安定にプリントすることができる。より好ましくは、布帛印字面の表面温度を40〜60℃とすることである。
【0058】
加熱方法としては、布帛搬送系もしくはプラテン部材に発熱ヒーターを組み込み、布帛の背面よりより接触式で加熱する方法や、ランプ等により背面あるいは表面の各上面から非接触で加熱する方法を、適宜選択することができる。
【実施例】
【0059】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、実施例において「部」あるいは「%」の表示を用いるが、特に断りがない限り「質量部」あるいは「質量%」を表す。
【0060】
《ポリマー樹脂の合成》
〔ポリマー樹脂R−1の合成〕
滴下ロート、窒素導入管、還流冷却管、温度計及び攪拌装置を備えたフラスコにメチルエチルケトン50gを加え、窒素バブリングしながら、75℃に加温した。そこへ、表1に記載の様に、モノマーとしてメタクリル酸n−ブチルを80g及びアクリル酸を20gと、メチルエチルケトン50g、開始剤AIBN(アゾビスイソブチルニトリル)500mgの混合物を滴下ロートより3時間かけ滴下した。滴下後、更に6時間、加熱還流した。放冷後、減圧下で加熱し、メチルエチルケトンを留去し、重合物残渣を得た。次いで、モノマーとして添加したアクリル酸の1.05倍モル相当のジメチルアミノエタノールを溶解したイオン交換水450mlに、上記重合物残渣を溶解し、最後にイオン交換水で調整し、ポリマー樹脂R−1を固形分濃度で20%含有する水溶液を得た。
【0061】
以上の様にして得られたポリマー樹脂R−1の重量平均分子量を、下記のゲルパーミエーションクロマトグラフィーを用いて測定した結果、12000であった。
【0062】
測定条件は以下の通りである。
【0063】
溶媒: メチレンクロライド
カラム: Shodex K806、K805、K803G(昭和電工(株)製を3本接続して使用した)
カラム温度:25℃
試料濃度: 0.1質量%
検出器: RI Model 504(GLサイエンス社製)
ポンプ: L6000(日立製作所(株)製)
流量: 1.0ml/min
校正曲線: 標準ポリスチレンSTK standard ポリスチレン(東ソー(株)製)Mw=1000000〜500迄の13サンプルによる校正曲線を使用した。13サンプルは、ほぼ等間隔に用いる。
【0064】
また、ポリマー樹脂の酸価は、平沼産業社製の自動滴定装置COM−2500WSC12を用い、滴定液:0.1mol/Lの水酸化カリウム(エタノール性)、分注液:アセトン、ガラス電極:GE−101B、比較電極:RE−201により測定した結果、155mgKOH/gであった。
【0065】
〔ポリマー樹脂R−2〜R−5の合成〕
上記ポリマー樹脂R−1の合成において、モノマー組成を表1に記載の様に変更した以外は同様にして、それぞれポリマー樹脂R−2〜R−5を固形分濃度で20%含有する水溶液を得た。
【0066】
また、表1に、上記方法に従って測定した重量平均分子量及び酸価を示す。
【0067】
【表1】

【0068】
《インクの調製》
〔分散液の調製〕
C.I.Disperse Blue 60 30質量%
リグニンスルホン酸Na(日本製紙(株)製 バニレックスRN) 15質量%
イオン交換水 55質量%
上記各添加剤を混合した液を、0.5mmのジルコニアビーズを体積率で50%充填したサンドグラインダーを用いて分散し、分散染料の平均粒径が0.19μmの分散液を得た。
【0069】
〔インクの調製〕
上記分散液を30質量%、ポリマー樹脂、水溶性有機溶剤及び界面活性剤を表2に記載の量を添加し、次いで、5μmフィルターでろ過した後、総量が100質量%になるようにイオン交換水を添加して仕上げて、インクA〜Pを調製した。
【0070】
【表2】

【0071】
なお、表2に略称で記載した水溶性有機溶剤及び界面活性剤の詳細は、以下の通りである。
【0072】
〈水溶性有機溶剤〉
DEGBE:ジエチレングリコールモノブチルエーテル
DEG:ジエチレングリコール
PG:プロピレングリコール
1,2−HDO:1,2−ヘキサンジオール
Gly:グリセリン
〈界面活性剤〉
KF−351A:シリコーン系界面活性剤(信越化学社製)
S465:サーフィノール465、アセチレン系界面活性剤(日信化学社製)
M144D:メガファックス144D、フッ素系界面活性剤(大日本インキ社製)
《インクの評価》
〔画像形成〕
上記調製した各インクを用いて、下記の方法に従って画像101〜121を作成した。
【0073】
ピエゾ型ヘッド(720dpi(dpiとは、1インチ当たりのドット数を表す)、液適量16pl)4基を並列に配置した4色プリント可能なインクジェットプリント装置を用いて、下記の条件で画像を形成した。なお、このインクジェットプリント装置には、布帛を、接触式ヒーターを用いて背面より任意の温度に加温できる装置を備えている。
【0074】
上記インクジェットプリント装置の1つのピエゾ型ヘッドに、上記調製したインクを各々装填し、単色画像を作成した。
【0075】
印字解像度:720dpi×720dpi
ヘッド搬送速度:200mm/sec(双方向印字)
布帛:前処理をしていないポリエステル布
布帛加熱温度:印字面表面温度、表3に記載の条件
評価画像:ウエッジ画像、文字、白抜き文字
評価環境:20℃、相対湿度55%。
【0076】
〔形成画像の評価〕
以上の様にして作成した画像について、下記の各評価を行った。
【0077】
(画質の評価)
上記方法に従って作成した各画像について、はじきの有無、インク混じりにより発生するビーディングの有無、小文字描画性について目視観察し、下記の基準に従って画質を評価した。
【0078】
1:局所的なはじきが見られ、ビーディングも激しく、小文字描画ができていない
2:はじきの発生は認められないが、ビーディングが目立ち、小文字描画も不十分である
3:はじきの発生は認められないが、ビーディングがごく僅かに認められ、また小文字描画は判読可能ではあるが不明瞭である
4:はじき、ビーディングの発生もなく、小文字描画でできているが、白抜き文字の描画性がやや不明瞭であるが、品質上問題のないレベルである
5:はじき、ビーディングの発生もなく、小文字描画、白抜き文字の描画性も明瞭である
(画像耐久性の評価)
形成した各画像面を乾いた布(ポリエステル布)及び水を浸した布(ポリエステル布)で20往復擦った後の画像の状態を目視観察し、下記の基準に従って画像耐久性を評価した。
【0079】
1:乾いた布で拭くと、プリント画像が乱れる
2:乾いた布で拭いても画像は見た目には変化は少ないが、拭いた布側にインクが付いて汚れる
3:乾いた布で拭いても画像は見た目には変化は少なく、拭いた布側にも汚れはほとんどないが、水を浸した布で拭くと画像が乱れる
4:水を浸した布で拭いても画像は見た目では変化は少なく、品質上問題ないレベル
5:水を浸した布で拭いても画像変化は全くなく、拭いた布側にも汚れはほとんどない
(出射安定性の評価)
上記評価画像(A4サイズ)を連続で30枚作成した後、60分間その状態で停止した後、再度画像作成を行い、得られた画像を目視観察し、下記の基準に従って出射安定性を評価した。なお、60分の間隔をおいて再度画像作成を行う際には、全ノズルから一度インクの空打ちを行った後、画像を作成した。
【0080】
1:画像欠陥(インク射出不良)が多数見られる
2:画像欠陥が散発している
3:画像欠陥はほとんどないが、小文字描写が劣化し、拡大観察するとドットにサテライトが見られた
4:画像欠陥はないが、画像の書き出し部(数mm)にごく僅かにかすれが見られるが問題のないレベル
5:画像の書き出し部も含め画像欠陥は見られない。
【0081】
(連続プリント性の評価)
上記評価画像(A4サイズ)を連続100枚プリントした。なお、連続10枚プリント毎に、全ノズルからインクの空打ちをしてプリント作成をした。得られた画像について印字欠の有無を確認し、下記の基準に従って連続プリント性を評価した。
【0082】
1:10枚までで欠が発生し、プリントを中止した
2:20〜50枚で欠が発生し、プリントを中止した
3:50枚までは初期プリント画質が得られるが、その後小文字描画性がやや劣化した
4:70枚までは初期プリント画質と同様の画質が得られ、品質上問題のないレベル
5:100枚まで初期プリント画質と同様の画質が安定して得られた
以上により得られた各評価結果を、表3に示す。
【0083】
【表3】

【0084】
表3に記載の結果より明らかな様に、インク中にポリマー樹脂を添加しないインクAを用いた形成した画像101は、出射安定性は良好であるが、画像耐久性が著しく劣っている。これに対して、ポリマー樹脂R−3を添加したインクBを用いて形成した画像102では画像耐久性は若干向上するものの、その効果は小さい。これに対して、ポリマー樹脂の添加量をさらに増量したインクにより形成した画像103、104では、画質、画像耐久性も向上し、出射安定性との両立も図れていることが分かる。これに対して、印字中の加熱を行わないで形成した画像105は、画像耐久性が大きく低下し、印字中の加熱が必須であることもわかる。一方、界面活性剤をサーフィノール465に変更したインクにより形成した画像106では、画像105に比較し、画質、画像耐久性がやや低下しており、それ以外のインクにより形成した画像の結果を踏まえると、フッ素系界面活性剤あるいはシリコーン系界面活性剤の有効性が分かる。また、インクが含有する水溶性有機溶剤については、画像110とそれ以外の画像を比較すると、グリコールエーテル系、あるいは1,2−アルカンジオール系水溶性有機溶剤の効果を確認することができた。また、画像113、114は、画質、画像耐久性に劣化がみられ、本発明の効果を得るためには、添加するポリマー樹脂の酸価に適切は領域があることが分かる。
【0085】
また、布帛加熱温度を、40〜60℃の範囲とすることにより、画質、画像耐久性、出射安定性及び連続プリント性の観点から、特に好ましい条件であることが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インクジェット捺染に用いる分散染料を含有するインクジェットインクにおいて、酸性基としてカルボキシル基またはスルホン酸基を有し、酸価が80mgKOH/g以上、300mgKOH/g以下のポリマー樹脂を固形分で2質量%以上、10質量%以下含有し、かつ水溶性有機溶剤を含有することを特徴とするインクジェットインク。
【請求項2】
前記水溶性有機溶剤が、グリコールエーテル類または1,2−アルカンジオール類であることを特徴とする請求項1に記載のインクジェットインク。
【請求項3】
シリコーン系界面活性剤またはフッ素系界面活性剤を含有することを特徴とする請求項1または2に記載のインクジェットインク。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載のインクジェットインクを用いて、布帛を加熱しながらインクジェット記録方式で印字することを特徴とするインクジェット画像形成方法。

【公開番号】特開2008−291079(P2008−291079A)
【公開日】平成20年12月4日(2008.12.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−136521(P2007−136521)
【出願日】平成19年5月23日(2007.5.23)
【出願人】(305002394)コニカミノルタIJ株式会社 (317)
【Fターム(参考)】