説明

インクジェットヘッドの製造方法

【課題】感度及び解像性に優れるポジ型レジストをインクジェットヘッドの製造に適用し、インク流路及びインク吐出口の変形、レジストの残存を生じないインクジェットヘッドの製造方法を提供する。
【解決手段】インク流路パターンを形成する工程が、基板上に少なくともフェノール性水酸基を有する樹脂を含有するポジ型レジストを塗布してポジ型レジスト層を形成する工程と、ポジ型レジスト層をパターニングして不溶化処理前のインク流路パターンを形成する工程と、インク流路パターンの上に少なくともビニルエーテル基を2つ以上有する化合物を含有するコーティング剤を塗布する工程と、コーティング剤が塗布されたインク流路パターンを加熱処理して表面が不溶化処理されたインク流路パターンを形成する工程と、を含むインクジェットヘッドの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェットヘッドの製造方法に関し、特に高精度、高密度に形成されたインク流路を有するインクジェットヘッドの製造方法に関する。さらに本発明は、小液滴のインクを精度良く吐出することが可能な、インクジェットヘッドに関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録方式に適用されるインクジェットヘッドは、一般にインク流路と、該インク流路の一部に設けられるエネルギー発生部と、エネルギー発生部のエネルギーによってインクを吐出するための微細なインク吐出口とを備える。このようなインクジェットヘッドを製造する方法としては、例えば特許文献1に開示された方法が知られている。該方法では、エネルギー発生部としてエネルギー発生素子を形成した基板上に感光性樹脂材料にてインク流路の型となるインク流路パターンを形成する。該インク流路パターンを被覆するように前記基板上にノズル材となる被覆樹脂層を形成する。該被覆樹脂層に、該インク流路パターンに連通するインク吐出口を形成する。その後、該インク流路パターンを除去してインク流路を形成し、インクジェットヘッドを製造する。
【0003】
また、特許文献2には、前記インク流路パターンを形成するための感光性樹脂材料として、ポリメチルイソプロペニルケトン、ポリビニルケトン等のビニルケトン系光崩壊性高分子化合物からなるポジ型レジストを用いることが開示されている。これらのポジ型レジストは高分子であることから、ノズル材となる被覆樹脂層を塗布形成する際の溶剤に対する耐性に優れており、型くずれを起こしにくい。また、インク流路パターンを除去する際に、光照射を行うことで低分子量化することから、有機溶剤等を用いて容易に溶解除去することができる。
【0004】
一方、近年の半導体集積回路の微細化に伴い、微細なレジストパターンを得るための方法として、パターニングを二回繰り返すダブルパターニングの手法が注目されている。この手法においては、パターニングされたレジスト上に再度レジストを塗布し、パターニングを繰り返すことから、一回目にパターニングされたレジストには、耐溶剤性が必要となる。レジストパターンに耐溶剤性を付与する方法としては、例えばポジ型の化学増幅レジストからなるパターンの表面上に、イソシアネート基、加熱によりイソシアネート基を生成する官能基を有する化合物を塗布及びベークする方法が開示されている(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特公平6−45242号公報
【特許文献2】特開平6−286149号公報
【特許文献3】特開2009−15194号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、前記ポリメチルイソプロペニルケトン、ポリビニルケトン等のビニルケトン系光崩壊性高分子化合物からなるポジ型レジストは、その分解反応に多くのエネルギーを必要とするため、極めて低感度である。一方、ポリヒドロキシスチレン、フェノールノボラック等の樹脂を主成分とするアルカリ現像型のポジ型レジストは、極性の変化を利用して画像を形成するレジストであるため、一般的に高感度、高解像性であることから、半導体分野で広く使用されている。しかしながら、アルカリ現像型のポジ型レジストはフェノール性水酸基を有する樹脂を主成分とするため耐溶剤性が低い。このため、インクジェットヘッドの製造においてインク流路パターンの材料に適用した場合、ノズル材となる被覆樹脂層を塗布形成した際に、型くずれを起こす場合がある。
【0007】
また、前記ポジ型の化学増幅レジストは極めて高感度かつ解像性に優れるレジストであることから、インクジェットヘッドの製造においてインク流路パターンの形成に用いる材料として好ましい。特許文献3記載の手法に従い、イソシアネート基による化学反応を利用してポジ型の化学増幅レジストからなるパターンを処理した場合、レジストパターン表面に硬化成分が形成され、ノズル材となる被覆樹脂層を塗布形成する際の溶剤に対する耐性は十分となる。しかしながら、有機溶剤等を用いての溶解除去が困難となる。これは、レジストパターン表面に形成された硬化成分の光分解反応が生じないため、有機溶剤等への溶解性が低いことに起因する。
【0008】
本発明の目的は、上記課題を解決し、感度及び解像性に優れるポジ型レジストをインクジェットヘッドの製造に適用し、インク流路及びインク吐出口の変形、レジストの残存を生じないインクジェットヘッドの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係るインクジェットヘッドの製造方法は、エネルギー発生素子を有する基板上に表面が不溶化処理されたインク流路パターンを形成する工程と、前記表面が不溶化処理されたインク流路パターン及び前記基板の上に、紫外線照射により硬化する流路形成材料を塗布し、インク流路形成層を形成する工程と、前記インク流路形成層の一部に紫外線を照射し、現像することでインク吐出口を形成する工程と、前記表面が不溶化処理されたインク流路パターンを除去することによりインク流路を形成する工程と、を含むインクジェットヘッドの製造方法であって、前記表面が不溶化処理されたインク流路パターンを形成する工程が、前記基板上に少なくともフェノール性水酸基を有する樹脂を含有するポジ型レジストを塗布し、ポジ型レジスト層を形成する工程と、前記ポジ型レジスト層をパターニングして不溶化処理前のインク流路パターンを形成する工程と、前記インク流路パターンの上に、少なくともビニルエーテル基を2つ以上有する化合物を含有するコーティング剤を塗布する工程と、前記コーティング剤が塗布されたインク流路パターンを加熱処理する工程と、を含む方法である。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る方法によれば、感度及び解像性に優れるポジ型レジストをインクジェットヘッドの製造に適用し、インク流路及びインク吐出口の変形、レジストの残存を生じないインクジェットヘッドを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明に係るインクジェットヘッドの一例を示す模式図である。
【図2】本発明に係るインクジェットヘッドの基板の一例を示す模式図である。
【図3】本発明に係るインクジェットヘッドの製造方法の一例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、図面を参照して本発明を詳細に説明する。なお、以下の説明では、同一の機能を有する構成には図面中に同一の番号を付与し、その説明を省略する場合がある。
【0013】
図1は、本発明に係るインクジェットヘッドの製造方法で製造されたインクジェットヘッドの一例を示す一部透かしの模式的断面図である。図1のインクジェットヘッドは、エネルギー発生素子2を複数有する基板1上に、インクを保持するインク流路3cと、インク流路3cと連通しインクを吐出できるインク吐出口5と、インク流路3c及びインク吐出口5を形成するインク流路形成層4とを備える。また、基板1には、インクをインク流路3cに供給できるインク供給口6が設けられている。図2に示すように、基板1上にはエネルギー発生素子2が所定のピッチで複数個配置されている。図3に、本発明に係るインクジェットヘッドの製造方法の各工程の一例を、図1及び図2のA−Bにおける断面図で示す。以下、図3(a)から(h)を用いて本発明に係るインクジェットヘッドの製造方法における各工程の説明を行う。なお、以下の工程(a)から(h)は、図3の(a)から(h)に対応する。
【0014】
[工程(a)及び(b)]
まず、エネルギー発生素子2の形成された基板1を準備する(図3(a))。エネルギー発生素子2を制御するドライバーやロジック回路等は汎用的な半導体製法にて製造されるため、基板1としてはシリコン基板を適用することが好ましい。基板上のエネルギー発生素子2は、インクを吐出させるための吐出エネルギーがインクに与えられ、インクをインク吐出口5から吐出可能なものであれば特に限定されない。例えば、エネルギー発生素子2として発熱抵抗素子が用いられる場合、該発熱抵抗素子が近傍のインクを加熱することにより、インクに状態変化を生起させ吐出エネルギーを発生させる。なお、エネルギー発生素子2には素子を動作させるための制御信号入力電極(図示せず)が接続されている。
【0015】
次に、前記基板1上にポジ型レジストを塗布し、ポジ型レジスト層3aを形成する(図3(b))。ポジ型レジストとしては、少なくともフェノール性水酸基を有する樹脂を含有するポジ型レジストを用いる。該フェノール性水酸基は、後述する工程(d)において、少なくともビニルエーテル基を2つ以上有する化合物を含有するコーティング剤で処理する際、ビニルエーテル基と架橋構造を形成するために機能する官能基である。フェノール性水酸基を有する樹脂を含有するポジ型レジストとしては、フェノールノボラック樹脂、ポリヒドロキシスチレン樹脂及びこれらの共重合体をベースとするナフトキノンジアジド(NQD)タイプや、化学増幅タイプのポジ型レジストが挙げられる。本発明においては、後述する工程における溶解除去の容易性の観点から、化学増幅タイプのポジ型レジスト(化学増幅ポジ型レジスト)を用いることが好ましい。
【0016】
NQDタイプのポジ型レジストとしては、前記樹脂と、光照射により構造変化を生じる溶解禁止剤としてのナフトキノンジアジド誘導体とを含むポジ型レジストを用いることができる。
【0017】
化学増幅ポジ型レジストは、前記樹脂のフェノール性水酸基の一部を酸により分解可能な置換基で保護した樹脂(部分保護されたフェノール性水酸基を有する樹脂)と、光照射により酸を発生する化合物(光酸発生剤)とを含むことが好ましい。また、前記樹脂と、酸により分解し水酸基やカルボキシル基を生成する溶解禁止剤としての添加物と、光酸発生剤とを含む化学増幅ポジ型レジストも使用可能である。さらに、化学増幅ポジ型レジストは、耐溶剤性をさらに高める目的で、前記樹脂又は部分保護されたフェノール性水酸基を有する樹脂と、フェノール性水酸基と反応して酸により分解可能な架橋構造を形成し得る架橋剤と、光酸発生剤とを含むことが好ましい。
【0018】
前記部分保護されたフェノール性水酸基を有する樹脂としては、例えば下記式(1)又は(2)で示される構造を有する化合物が挙げられる。なお、下記式(1)、(2)において、nは正の整数を示す。
【0019】
【化1】

【0020】
【化2】

【0021】
前記架橋剤としては、少なくとも下記式(3)で示されるビニルエーテル基を2つ以上有する化合物が好ましい。
【0022】
【化3】

【0023】
該架橋剤を含む化学増幅ポジ型レジストは、基板1上に塗布された後、加熱処理されることでフェノール性水酸基と架橋剤とが反応してアセタール結合を形成する。これにより、耐溶剤性が向上する。一方、後述する工程において光照射がなされた部分においては、光酸発生剤から生成した酸の作用によりアセタール結合が切断され、ポジ型のレジストとして機能する。
【0024】
ビニルエーテル基を2つ以上有する化合物としては、例えば、トリエチレングリコールジビニルエーテル、テトラメチレングリコールジビニルエーテル、テトラエチレングリコールジビニルエーテル、ネオペンチルグリコールエトキシレートジビニルエーテル等のジビニルエーテル類、トリメチロールプロパンエトキシレートトリビニルエーテル、トリメチロールエタンエトキシレートトリビニルエーテル、ペンタエリスリトールエトキシレートトリビニルエーテル、トリメチロールプロパンエトキシエトキシレートトリビニルエーテル、トリメチロールプロパンエトキシエトキシエトキシレートトリビニルエーテル等のトリビニルエーテル類、エリスリトールエトキシレートペンタビニルエーテル等のペンタビニルエーテル類が挙げられる。これらは一種のみを用いてもよく、二種以上を併用してもよい。
【0025】
ポジ型レジスト層3aの形成方法としては、例えば、前記ポジ型レジストをスピンコート法により基板1上に塗布した後、加熱により溶剤を除去することでポジ型レジスト層3aを形成する方法が挙げられる。ポジ型レジスト層3aの厚さはインク流路3cの高さに相当するため、インク流路3cの高さに合わせて適宜選択することができるが、例えば、2〜50μmであることが好ましい。
【0026】
[工程(c)]
ポジ型レジスト層3aにフォトマスク(不図示)を介して紫外線を照射し、必要に応じてPEB(Post Exposure Bake)を行った後現像することによりポジ型レジスト層3aをパターニングする。これにより、不溶化処理前のインク流路パターン3bを形成する(図3(c))。現像には、例えばテトラメチルアンモニウムハイドロオキサイド水溶液等のアルカリ性水溶液が使用できる。さらに、純水等によりリンス処理を行ってもよい。
【0027】
[工程(d)]
不溶化処理前のインク流路パターン3bの耐溶剤性を向上させる目的で、不溶化処理前のインク流路パターン3bに対し不溶化処理を行う。具体的には、不溶化処理前のインク流路パターン3bに対し、少なくともビニルエーテル基を2つ以上有する化合物を含有するコーティング剤を塗布し、加熱処理を行う。これにより、不溶化処理されたインク流路パターン3dが形成される(図3(d))。
【0028】
前記コーティング剤に含まれる、少なくともビニルエーテル基を2つ以上有する化合物としては、例えば、トリエチレングリコールジビニルエーテル、テトラメチレングリコールジビニルエーテル、テトラエチレングリコールジビニルエーテル、ネオペンチルグリコールエトキシレートジビニルエーテル等のジビニルエーテル類、トリメチロールプロパンエトキシレートトリビニルエーテル、トリメチロールエタンエトキシレートトリビニルエーテル、ペンタエリスリトールエトキシレートトリビニルエーテル、トリメチロールプロパンエトキシエトキシレートトリビニルエーテル、トリメチロールプロパンエトキシエトキシエトキシレートトリビニルエーテル等のトリビニルエーテル類、エリスリトールエトキシレートペンタビニルエーテル等のペンタビニルエーテル類が挙げられる。これらは一種のみを用いてもよく、二種以上を併用してもよい。
【0029】
前記コーティング剤は、少なくともビニルエーテル基を2つ以上有する化合物と、該化合物を溶解可能な溶剤とを含むことができる。該溶剤としては、例えば、アルコール類、ケトン類、グリコール類、芳香族系溶剤等の有機溶剤を用いることができる。これらは一種のみを用いてもよく、二種以上を併用してもよい。また、該コーティング剤の被膜性を向上させる目的で、該コーティング剤はさらに樹脂成分を含んでもよい。該樹脂成分としては、被膜性が高く、前記溶剤に溶解可能なものを用いることができるが、ビニルエーテル基と反応する官能基を有さないことが必要である。ビニルエーテル基と反応する官能基としては、フェノール性水酸基、エポキシ基等が挙げられる。ビニルエーテル基と反応する官能基を有さない樹脂としては、ポリメチルメタクリレート等のアクリル樹脂、ポリビニルアルコール、ポリスチレン等が挙げられる。
【0030】
前記コーティング剤を不溶化処理前のインク流路パターン3b上に塗布する方法としては、スピンコート法により塗布する方法、コーティング剤中に基板1を浸漬させる方法等が挙げられる。該コーティング剤を不溶化処理前のインク流路パターン3b上に塗布した後、加熱処理を行う。これにより、コーティング剤に含まれる化合物のビニルエーテル基が、不溶化処理前のインク流路パターン3bのフェノール性水酸基と反応してアセタール結合を形成し、耐溶剤性が向上する。加熱処理の温度としては、50〜200℃が好ましく、80〜180℃がより好ましい。加熱処理の温度を200℃以下とすることにより、インク流路パターンの加熱による変形や型崩れを防ぐことができる。また、加熱処理の温度を50℃以上とすることにより、ビニルエーテル基とフェノール性水酸基との架橋反応が進行し易くなるため、耐溶剤性を向上させることができる。
【0031】
次に、不溶化処理されたインク流路パターン3d以外の部分に付着したコーティング剤を除去する目的で、必要に応じて洗浄処理を行う。洗浄処理に用いる洗浄液としては、コーティング剤に含まれる少なくともビニルエーテル基を2つ以上有する化合物及び樹脂成分を溶解できるものであれば使用可能であるが、コーティング剤に含まれる溶剤を使用することが好ましい。洗浄処理を行った後、必要に応じて加熱乾燥を行うことができる。
【0032】
また、不溶化処理前のインク流路パターン3b又は不溶化処理されたインク流路パターン3dの上に、後述するインク吐出口5を形成する工程において照射する紫外線を吸収する材料を付与することが好ましい。これは、インク吐出口5が所望のパターンにならない場合に特に好ましい形態である。本発明者らが鋭意検討した結果、インク吐出口5のパターン形状の変形は、紫外線照射によるパターン露光を施した際に、基板1表面での紫外線の反射により未露光部分に紫外線が不均一に回り込み、この部分がわずかに硬化したために生じたと考えられた。そこで、紫外線照射によるパターン露光を施す際に、基板1表面での反射により未露光部分に不均一に回り込む紫外線を、該紫外線を吸収する材料で吸収することにより、インク吐出口パターンの変形を抑制することができる。例えば、インク吐出口5を形成する工程において照射する紫外線がi線(波長365nm)である場合には、該紫外線を吸収する材料としてi線を吸収する材料を用いる。
【0033】
前記紫外線を吸収する材料の吸光度としては、基板1表面での反射により未露光部に不均一に回り込む紫外線を吸収し、所望のインク吐出口5のパターンが形成できる吸光度であれば特に限定されない。しかしながら、厚さ方向に対するパターン全体の吸光度で、インク吐出口5を形成する工程において照射する紫外線に対して、該吸光度が0.2以上であることが好ましい。ここで、厚さ方向に対するパターン全体の吸光度とは、不溶化処理前のインク流路パターン3b又は不溶化処理されたインク流路パターン3dを形成するポジ型レジストの吸光度と、紫外線を吸収する材料との吸光度とを合わせた値である。該吸光度は0.3以上であることがより好ましく、0.4以上であることが更に好ましい。該吸光度を0.2以上とすることにより、インク吐出口5のパターン変形を十分に抑制することができる。
【0034】
前記紫外線を吸収する材料は、フェノール性水酸基を1つ以上有する化合物であることが好ましい。フェノール性水酸基を有することで、コーティング剤に含まれる少なくともビニルエーテル基を2つ以上有する化合物と結合できる。該結合を形成することにより、紫外線を吸収する材料が溶出して流路形成材料中に混入することを抑制することができる。さらに、前記紫外線を吸収する材料は、フェノール性水酸基を2つ以上有する化合物であることがより好ましい。これは、結合点が増えることにより、該材料がより溶出しにくくなるためである。
【0035】
i線を吸収し、フェノール性水酸基を1つ以上有する化合物としては、例えば、4−ヒドロキシベンゾフェノン、4,4’−ジヒドロキシベンゾフェノン、2,3,4−トリヒドロキシベンゾフェノン等のベンゾフェノン類、5−ヒドロキシ−1,4−ナフトキノン、5,8−ジヒドロキシ−1,4−ナフトキノン等のナフトキノン類、1−ヒドロキシアントラキノン、2−ヒドロキシアントラキノン、1,2−Dihydroxyanthraquinone(和名:アリザリン)、1,4−Dihydroxyanthraquinone(和名:キニザリン)、1,5−Dihydroxyanthraquinone(和名:アントラルフィン)、2,6−Dihydroxyanthraquinone(和名:アントラフラビン酸)、1,2,4−Trihydroxyanthraquinone(和名:プルプリン)等のアントラキノン類、1,8,9−トリヒドロキシアントラセン、1,4,9,10−Tetrahydroxyanthracene等のアントラセン類、2−ヒドロキシ−9−フルオレノン等を挙げることができる。これらは一種のみを用いてもよく、二種以上を併用してもよい。また、これら以外の化合物であっても、本発明の主旨を逸脱しないものであれば使用できる。
【0036】
不溶化処理前のインク流路パターン3b又は不溶化処理されたインク流路パターン3dの上に、前記紫外線を吸収する材料を付与する方法としては、様々な方法を用いることができる。例えば、紫外線を吸収する材料の溶液をスピンコート法により塗布する方法、該溶液に基板1を浸漬させる方法が挙げられる。この際、不溶化処理前のインク流路パターン3b又は不溶化処理されたインク流路パターン3dの内部への拡散が進むように、加熱したり、該溶液のpHを調整したりしてもよい。この他の方法でも本発明の主旨を逸脱しないものであれば使用できる。その後、必要に応じて、不溶化処理前のインク流路パターン3b又は不溶化処理されたインク流路パターン3d以外の部分に付与された紫外線を吸収する材料を除去する目的で、水や各種有機溶媒を用いて洗浄してもよい。
【0037】
なお、コーティング剤を塗布する工程と、紫外線を吸収する材料を付与する工程とは、いずれの工程を先に行ってもよく、また両工程を同時に行ってもよい。両工程を同時に行う方法としては、例えば、紫外線を吸収する材料とコーティング剤とを溶解させた溶液をスピンコート法により塗布する方法、紫外線を吸収する材料とコーティング剤とを溶解させた溶液に基板1を浸漬させる方法が挙げられる。また、前述した余剰の紫外線を吸収する材料の除去と余剰のコーティング剤の除去とを同時に行ってもよい。この順番以外でも、本発明の主旨を逸脱しない範囲であれば、紫外線を吸収する材料の付与・除去の工程と、コーティング剤の塗布、除去の工程は順序を入れ替えてもよい。さらに、これらの工程を繰り返し行ってもよい。
【0038】
[工程(e)]
不溶化処理されたインク流路パターン3d及び基板1の上に、紫外線照射により硬化する流路形成材料を塗布し、インク流路形成層4を形成する(図3(e))。紫外線照射により硬化する流路形成材料としては、カチオン重合性基を有するカチオン重合性の樹脂と、光カチオン重合開始剤とを含有する光カチオン重合型感光性樹脂組成物が好ましい。カチオン重合性基を有するカチオン重合性の樹脂としては、エポキシ樹脂、オキセタン樹脂等が挙げられる。
【0039】
エポキシ樹脂としては、例えばビスフェノールAとエピクロルヒドリンとの反応物のうち分子量が900以上の樹脂、含ブロモビスフェノールAとエピクロルヒドリンとの反応物が挙げられる。また、フェノールノボラック又はo−クレゾールノボラックとエピクロルヒドリンとの反応物、特開平2−140219号公報に記載のオキシシクロヘキサン骨格を有する多官能エポキシ樹脂等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。エポキシ樹脂のエポキシ当量は2000以下であることが好ましく、1000以下であることがより好ましい。エポキシ当量が2000以下である場合、硬化反応の際に架橋密度が低下することがなく、十分な密着性、耐インク性が得られる。
【0040】
前記エポキシ樹脂を硬化させるための光カチオン重合開始剤としては、紫外線の照射により酸を発生する化合物(光酸発生剤)を用いることができる。具体的には、芳香族スルフォニウム塩、芳香族ヨードニウム塩が挙げられる。より具体的には、SP−150、SP−170、SP−172(以上商品名、(株)ADEKA製)、DTS−103、NDS−103(以上商品名、みどり化学(株)製)等を好適に用いることができる。
【0041】
さらに、前記光カチオン重合型感光性樹脂組成物に対し、必要に応じて添加剤等を適宜添加することができる。該添加剤としては、例えば、エポキシ樹脂の弾性率を低下させる可撓性付与剤、下地との密着力を向上させるシランカップリング剤、波長増感するための増感剤等が挙げられる。
【0042】
インク流路形成層4を形成する方法としては、例えば、紫外線照射により硬化する流路形成材料を有機溶剤に溶解し、スピンコート法により塗布し、その後、プリベークすることでインク流路形成層4を形成する方法が挙げられる。塗布溶剤として用いる有機溶剤としては、エタノール、イソプロピルアルコール等のアルコール系溶剤、アセトン、メチルイソブチルケトン、ジイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン系溶剤、トルエン、キシレン、メシチレン等の芳香族系溶剤、乳酸エチル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル等の溶剤を単独もしくは混合して用いることができる。インク流路形成層4の厚さとしては、インク流路壁にある程度の機械的強度が必要なことから、不溶化処理されたインク流路パターン3d上の厚さとして3μm以上であることが好ましい。また、該厚さの上限は、後の工程で形成されるインク吐出口5の現像性が損なわれない範囲であれば、特に制限されるものではない。さらに、必要に応じてインク流路形成層4上に撥水処理、親水処理等の表面改質処理を行ってもよい。
【0043】
[工程(f)]
インク流路形成層4の一部にフォトマスク(不図示)を介して紫外線を照射し、現像することによりインク吐出口5を形成する(図3(f))。現像に用いる現像液としては、MIBK(メチルイソブチルケトン)、キシレン等を用いることができる。必要に応じて、IPA(イソプロピルアルコール)等によるリンス処理及びポストベークを行ってもよい。
【0044】
紫外線の照射に用いる装置としては、所望のパターンが形成できる装置であれば特に限定されないが、アライメント精度の観点からステッパー(縮小投影型の露光装置)を用いることが好ましく、汎用的であるi線ステッパーを用いることがより好ましい。このような観点から、インク吐出口5を形成する工程において照射される紫外線としては、i線(365nm)が好適に用いられる。
【0045】
[工程(g)]
基板1を貫通するインク供給口6を形成する(図3(g))。インク供給口6の形成方法としては、サンドブラスト、ドライエッチング、ウエットエッチング等の手法、又はこれらの手法の組み合わせにより行うことができる。例えば、アルカリ系のエッチング液である水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、テトラメチルアンモニウムハイドロオキサイド等の水溶液を用いた異方性エッチングについて説明する。結晶方位として、<100>、<110>の方位を持つシリコン基板は、アルカリ系の化学エッチングを行うことにより、エッチングの進行方向に関して、深さ方向と幅方向の選択性ができ、これによりエッチングの異方性を得ることができる。特に、<100>の結晶方位を持つシリコン基板は、エッチングを行う幅によってエッチングされる深さが幾何学的に決定されるため、エッチング深さを制御することができる。例えば、エッチングの開始面から深さ方向に54.7°の傾斜を持って狭くなる孔を形成することができる。エッチング液に対して耐性を持つ適当な樹脂材料や無機膜をマスクとして前記異方性エッチングを行うことで、基板1を貫通するインク供給口6を形成することができる。なお、エッチング液から基板1表面の各樹脂層を保護するために、該エッチング液に耐性のある保護膜でインク流路形成層4全面を覆うことができる。
【0046】
[工程(h)]
不溶化処理されたインク流路パターン3dを除去することによりインク吐出口5と連通するインク流路3cを形成する(図3(h))。不溶化処理されたインク流路パターン3dの除去方法としては、工程(b)で用いたポジ型レジストの感光波長を含む紫外線をインク流路形成層4上から照射し、必要に応じて加熱処理を行い、分解反応を進行させた後、溶剤を用いて溶解除去することが好ましい。
【0047】
例えば、ポジ型レジストとしてNQDタイプのポジ型レジスト、流路形成材料として光カチオン重合型感光性樹脂組成物を用いた場合、溶解除去が可能となる。紫外線照射により、光カチオン重合型感光性樹脂組成物中に残存する光カチオン重合開始剤からカチオン(プロトン)が発生し、ビニルエーテル基とフェノール性水酸基との反応で形成されたアセタール結合の分解が促進されるためである。また、ポジ型レジストとして化学増幅ポジ型レジストを用いた場合、前記効果に加え、紫外線照射によりポジ型レジスト内でカチオン(プロトン)が発生し、アセタール結合を分解するため、容易に溶解除去することができる。
【0048】
その後、基板1の切断分離工程を経た後(不図示)、必要に応じて加熱処理を施してインク流路形成層4を完全に硬化させる。インク供給のための部材(不図示)の接合、エネルギー発生素子2を駆動するための電気的接合(不図示)等を行い、インクジェットヘッドを完成させる。本発明に係る方法により製造されるインクジェットヘッドは、インク吐出口5及びインク流路3cの変形が抑制され、インク吐出口5及びインク流路3c内にレジスト残渣が存在しない。
【実施例】
【0049】
以下に実施例を示し、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0050】
(実施例1)
図3に示す工程に従ってインクジェットヘッドを作製した。まず、図3(a)に示される基板1を準備した。本実施例においては8インチのシリコン基板の上に、エネルギー発生素子2としての電気熱変換素子(HfB2からなるヒーター)と、インク流路3c及びインク流路形成層4形成部位にSiN+Taの積層膜(不図示)と、を備えるシリコン基板を準備した。
【0051】
次に、基板1の上にNQDタイプのポジ型レジストであるiP−5700レジスト(商品名、東京応化工業(株)製)をスピンコート法により塗布した。その後、90℃、3分間のベークを行うことでポジ型レジスト層3aを形成した(図3(b))。なお、ポジ型レジスト層3aのベーク後の膜厚は7μmであった。
【0052】
次に、ポジ型レジスト層3aに対し、i線ステッパー(キヤノン(株)製、商品名:i5)を用いてフォトマスクを介して2000J/m2の露光量でパターン露光した。その後、2.38質量%のテトラメチルアンモニウムハイドロオキサイド水溶液を用いて現像し、不溶化処理前のインク流路パターン3bを形成した(図3(c))。
【0053】
次に、不溶化処理前のインク流路パターン3bに対し、コーティング剤として10質量%のトリメチロールプロパンエトキシレートトリビニルエーテル溶液をスピンコート法により塗布した。なお、該溶液の溶媒には、エタノール:イオン交換水=50:50(質量比)の溶媒を用いた。その後、140℃で5分間ベークし、エタノールを用いて洗浄処理を行うことで、表面が不溶化処理されたインク流路パターン3dとした(図3(d))。
【0054】
次に、基板1及び表面が不溶化処理されたインク流路パターン3dの上に、流路形成材料として以下の組成からなる光カチオン重合型感光性樹脂組成物を、スピンコート法により塗布した。なお、表面が不溶化処理されたインク流路パターン3dの上の膜厚が10μmとなるように光カチオン重合型感光性樹脂組成物を塗布した。その後、ホットプレート上で90℃、2分間のプリベークを行い、インク流路形成層4を形成した(図3(e))。
・EHPE(商品名、ダイセル化学工業(株)製) 100質量部
・SP−172(商品名、(株)ADEKA製) 5質量部
・A−187(商品名、日本ユニカー(株)製) 5質量部
・メチルイソブチルケトン 100質量部。
【0055】
次に、インク流路形成層4に対し、i線ステッパー(キヤノン(株)製、商品名:i5)を用いてフォトマスクを介して4000J/m2の露光量にてパターン露光した。その後、ホットプレート上で120℃2分のPEBを行った。さらに、メチルイソブチルケトンにより現像し、イソプロピルアルコールによりリンス処理を行い、100℃、60分間の熱処理を行うことでインク吐出口5を形成した(図3(f))。なお、本実施例ではφ13μmのインク吐出口5を形成した。
【0056】
次に、基板1の裏面にポリエーテルアミド樹脂組成物(日立化成工業(株)製、商品名:HIMAL)を用いて、幅1mm、長さ24mmの開口部形状を有するエッチングマスク(不図示)を作製した。次いで、80℃に保持した22質量%のテトラメチルアンモニウムハイドロオキサイド水溶液中に基板1を浸漬して基板1の異方性エッチングを行い、インク供給口6を形成した(図3(g))。なお、この際エッチング液から基板1表面の各樹脂層を保護する目的で、保護膜(不図示、東京応化工業(株)製、商品名:OBC)をインク流路形成層4の上に塗布して異方性エッチングを行った。
【0057】
次に、キシレンを用いて保護膜を溶解除去した。その後、Deep−UV露光装置(ウシオ電機(株)製、商品名:UX−3200)を用いて20000mJ/cm2の露光量で基板1全面に対し露光を行った。超音波を付与しつつ基板1を乳酸メチル中に浸漬し、表面が不溶化処理されたインク流路パターン3dを溶解除去することで、インク流路3cを形成した(図3(h))。
【0058】
基板1の切断分離工程を経た後(不図示)、200℃、60分の加熱処理を施してインク流路形成層4を完全に硬化させた。その後、インク供給のための部材(不図示)の接合、エネルギー発生素子2を駆動するための電気的接合(不図示)等を行い、インクジェットヘッドを完成させた。光学顕微鏡を用いて該インクジェットヘッドを観察したところ、インク吐出口5及びインク流路3cの変形は観察されなかった。また、インク吐出口5及びインク流路3cにレジスト残渣は観察されなかった。
【0059】
(実施例2)
ポジ型レジストとして、以下の組成からなる化学増幅ポジ型レジストを用いてポジ型レジスト層3aを形成した以外は、実施例1と同様の方法でインクジェットヘッドを作製した。
・水酸基の60%がtert−ブチル基で置換されたポリヒドロキシスチレン
(下記式(4)で示される化合物(n:m=60:40)) 100質量部
・SP−172(商品名、(株)ADEKA製) 5質量部
・SP−100(商品名、(株)ADEKA製) 2質量部
・乳酸エチル 150質量部
【0060】
【化4】

【0061】
光学顕微鏡を用いて該インクジェットヘッドを観察したところ、インク流路3cの変形は観察されなかったが、インク吐出口5はわずかに変形していた。しかし、実用上ほとんど問題にならない程度であった。また、インク吐出口5及びインク流路3cにレジスト残渣は観察されなかった。
【0062】
(実施例3)
コーティング剤として、10質量%のトリメチロールプロパンエトキシレートトリビニルエーテル溶液の代わりに10質量%のトリエチレングリコールジビニルエーテル溶液を用いた以外は実施例1と同様の方法でインクジェットヘッドを作製した。なお、該溶液の溶媒は実施例1と同様である。光学顕微鏡を用いて該インクジェットヘッドを観察したところ、インク吐出口5及びインク流路3cの変形は観察されなかった。また、インク吐出口5及びインク流路3cにレジスト残渣は観察されなかった。
【0063】
(実施例4)
ポジ型レジストとして、以下の組成からなる化学増幅ポジ型レジストを用いてポジ型レジスト3aを形成した以外は、実施例1と同様の方法でインクジェットヘッドを作製した。
・水酸基の30%がtert−ブチル基で置換されたポリヒドロキシスチレン
(前記式(4)で示される化合物(n:m=30:70)) 100質量部
・トリメチロールプロパンエトキシレートトリビニルエーテル 100質量部
・TPS−1000(商品名、みどり化学(株)製) 2質量部
・SP−100(商品名、(株)ADEKA製) 1質量部
・乳酸エチル 150質量部
光学顕微鏡を用いて該インクジェットヘッドを観察したところ、インク流路3cの変形は観察されなかったが、インク吐出口5はわずかに変形していた。しかし、実用上ほとんど問題にならない程度であった。また、インク吐出口5及びインク流路3cにレジスト残渣は観察されなかった。
【0064】
(実施例5)
ポジ型レジストとして、以下の組成からなる化学増幅ポジ型レジストを用いてポジ型レジスト3aを形成した以外は、実施例1と同様の方法でインクジェットヘッドを作製した。
・水酸基の30%がtert−ブトキシカルボニル基で置換されたポリヒドロキシスチレン
(下記式(5)で示される化合物(n:m=30:70)) 100質量部
・トリメチロールプロパンエトキシレートトリビニルエーテル 100質量部
・TPS−1000(商品名、みどり化学(株)製) 2質量部
・SP−100(商品名、(株)ADEKA製) 1質量部
・乳酸エチル 150質量部
【0065】
【化5】

【0066】
光学顕微鏡を用いて該インクジェットヘッドを観察したところ、インク流路3cの変形は観察されなかったが、インク吐出口5はわずかに変形していた。しかし、実用上ほとんど問題にならない程度であった。また、インク吐出口5及びインク流路3cにレジスト残渣は観察されなかった。
【0067】
(実施例6)
コーティング剤として以下の組成からなる溶液を用い、ジグライムを用いて洗浄処理を行うことで、表面が不溶化処理されたインク流路パターン3dを形成した以外は、実施例4と同様の方法でインクジェットヘッドを作製した。
・トリメチロールプロパンエトキシレートトリビニルエーテル 10質量部
・ポリメチルメタクリレート(重量平均分子量=5000) 10質量部
・ジグライム 80質量部
光学顕微鏡を用いて該インクジェットヘッドを観察したところ、インク流路3cの変形は観察されなかったが、インク吐出口5はわずかに変形していた。しかし、実用上ほとんど問題にならない程度であった。また、インク吐出口5及びインク流路3cにレジスト残渣は観察されなかった。
【0068】
(実施例7)
流路形成材料としての光カチオン重合型感光性樹脂組成物の溶剤として、メチルイソブチルケトンに代えてキシレンを用いた以外は、実施例1と同様の方法でインクジェットヘッドを作製した。光学顕微鏡を用いて該インクジェットヘッドを観察したところ、インク吐出口5及びインク流路3cの変形は観察されなかった。また、インク吐出口5及びインク流路3cにレジスト残渣は観察されなかった。
【0069】
(実施例8)
流路形成材料としての光カチオン重合型感光性樹脂組成物の溶剤として、メチルイソブチルケトンに代えてジエチレングリコールジメチルエーテルを用いた以外は、実施例1と同様の方法でインクジェットヘッドを作製した。光学顕微鏡を用いて該インクジェットヘッドを観察したところ、インク吐出口5及びインク流路3cの変形は観察されなかった。また、インク吐出口5及びインク流路3cにレジスト残渣は観察されなかった。
【0070】
(実施例9)
コーティング剤を塗布する前に、不溶化処理前のインク流路パターン3bに対し、i線を吸収する材料として1,2−Dihydroxyanthraquinoneのキシレン溶液をスピンコート法により塗布した。それ以外は実施例2と同様の方法でインクジェットヘッドを作製した。光学顕微鏡を用いて該インクジェットヘッドを観察したところ、インク吐出口5及びインク流路3cの変形は観察されなかった。また、インク吐出口5及びインク流路3cにレジスト残渣は観察されなかった。
【0071】
(実施例10)
コーティング剤を塗布する前に、不溶化処理前のインク流路パターン3bに対し、i線を吸収する材料として1,2−Dihydroxyanthraquinoneのキシレン溶液をスピンコート法により塗布した。それ以外は実施例4と同様の方法でインクジェットヘッドを作製した。光学顕微鏡を用いて該インクジェットヘッドを観察したところ、インク吐出口5及びインク流路3cの変形は観察されなかった。また、インク吐出口5及びインク流路3cにレジスト残渣は観察されなかった。
【0072】
(実施例11)
コーティング剤を塗布する前に、不溶化処理前のインク流路パターン3bに対し、i線を吸収する材料として1,2−Dihydroxyanthraquinoneのキシレン溶液をスピンコート法により塗布した。それ以外は実施例5と同様の方法でインクジェットヘッドを作製した。光学顕微鏡を用いて該インクジェットヘッドを観察したところ、インク吐出口5及びインク流路3cの変形は観察されなかった。また、インク吐出口5及びインク流路3cにレジスト残渣は観察されなかった。
【0073】
(実施例12)
コーティング剤を塗布する前に、不溶化処理前のインク流路パターン3bに対し、i線を吸収する材料として1,2−Dihydroxyanthraquinoneのキシレン溶液をスピンコート法により塗布した。それ以外は実施例6と同様の方法でインクジェットヘッドを作製した。光学顕微鏡を用いて該インクジェットヘッドを観察したところ、インク吐出口5及びインク流路3cの変形は観察されなかった。また、インク吐出口5及びインク流路3cにレジスト残渣は観察されなかった。
【0074】
(比較例1)
不溶化処理前のインク流路パターン3bに対し、不溶化処理を行わなかった以外は実施例1と同様の方法でインクジェットヘッドの作製を試みた。しかしながら、不溶化処理前のインク流路パターン3b上に流路形成材料としての光カチオン重合型感光性樹脂組成物を塗布した際に、不溶化処理前のインク流路パターン3bが溶解による型くずれを起こしたために、その後の工程を行うことができなかった。
【0075】
(比較例2)
不溶化処理前のインク流路パターン3bに対し、不溶化処理を行わなかった以外は実施例2と同様の方法でインクジェットヘッドの作製を試みた。しかしながら、不溶化処理前のインク流路パターン3b上に流路形成材料としての光カチオン重合型感光性樹脂組成物を塗布した際に、不溶化処理前のインク流路パターン3bが溶解による型くずれを起こしたために、その後の工程を行うことができなかった。
【0076】
(比較例3)
不溶化処理前のインク流路パターン3bに対し、不溶化処理を行わなかった以外は実施例3と同様の方法でインクジェットヘッドの作製を試みた。しかしながら、不溶化処理前のインク流路パターン3b上に流路形成材料としての光カチオン重合型感光性樹脂組成物を塗布した際に、不溶化処理前のインク流路パターン3bが溶解による型くずれを起こしたために、その後の工程を行うことができなかった。
【0077】
(比較例4)
不溶化処理前のインク流路パターン3bに対し、不溶化処理を行わなかった以外は実施例4と同様の方法でインクジェットヘッドを作製した。光学顕微鏡を用いて該インクジェットヘッドを観察したところ、インク流路3cの変形が観察された。
【符号の説明】
【0078】
1 基板
2 エネルギー発生素子
3a ポジ型レジスト層
3b 不溶化処理前のインク流路パターン
3c インク流路
3d 不溶化処理されたインク流路パターン
4 インク流路形成層
5 インク吐出口
6 インク供給口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エネルギー発生素子を有する基板上に表面が不溶化処理されたインク流路パターンを形成する工程と、
前記表面が不溶化処理されたインク流路パターン及び前記基板の上に、紫外線照射により硬化する流路形成材料を塗布し、インク流路形成層を形成する工程と、
前記インク流路形成層の一部に紫外線を照射し、現像することでインク吐出口を形成する工程と、
前記表面が不溶化処理されたインク流路パターンを除去することによりインク流路を形成する工程と、を含むインクジェットヘッドの製造方法であって、
前記表面が不溶化処理されたインク流路パターンを形成する工程が、
前記基板上に少なくともフェノール性水酸基を有する樹脂を含有するポジ型レジストを塗布し、ポジ型レジスト層を形成する工程と、
前記ポジ型レジスト層をパターニングして不溶化処理前のインク流路パターンを形成する工程と、
前記インク流路パターンの上に、少なくともビニルエーテル基を2つ以上有する化合物を含有するコーティング剤を塗布する工程と、
前記コーティング剤が塗布されたインク流路パターンを加熱処理する工程と、を含むインクジェットヘッドの製造方法。
【請求項2】
前記コーティング剤が、少なくともビニルエーテル基を2つ以上有する化合物と、該化合物を溶解可能な溶剤とを含む請求項1に記載のインクジェットヘッドの製造方法。
【請求項3】
前記コーティング剤が、さらに、前記ビニルエーテル基と反応する官能基を有さない樹脂を含有する請求項2に記載のインクジェットヘッドの製造方法。
【請求項4】
前記ポジ型レジストが、部分保護されたフェノール性水酸基を有する樹脂と、該フェノール性水酸基と反応して酸により分解可能な結合を形成し得る架橋剤と、光照射により酸を発生する化合物と、を含有する請求項1から3のいずれか一項に記載のインクジェットヘッドの製造方法。
【請求項5】
前記部分保護されたフェノール性水酸基を有する樹脂が、下記式(1)又は(2)で示される構造を有する請求項4に記載のインクジェットヘッドの製造方法。
【化1】

(前記式(1)において、nは正の整数を示す。)
【化2】

(前記式(2)において、nは正の整数を示す。)
【請求項6】
前記架橋剤が、少なくともビニルエーテル基を2つ以上有する化合物である請求項4又は5に記載のインクジェットヘッドの製造方法。
【請求項7】
前記流路形成材料が、少なくともカチオン重合性基を有するカチオン重合性の樹脂と、光カチオン重合開始剤と、を含有する光カチオン重合型感光性樹脂組成物である請求項1から6のいずれか一項に記載のインクジェットヘッドの製造方法。
【請求項8】
前記不溶化処理前のインク流路パターン又は前記表面が不溶化処理されたインク流路パターンの上に、前記インク吐出口を形成する工程において照射する紫外線を吸収する材料を付与する工程を含む請求項1から7のいずれか一項に記載のインクジェットヘッドの製造方法。
【請求項9】
前記インク吐出口を形成する工程において照射する紫外線がi線であり、前記紫外線を吸収する材料がi線を吸収する材料である請求項8に記載のインクジェットヘッドの製造方法。
【請求項10】
前記紫外線を吸収する材料がフェノール性水酸基を1つ以上有する化合物である請求項8に記載のインクジェットヘッドの製造方法。
【請求項11】
請求項1から10のいずれか一項に記載の方法により製造されるインクジェットヘッド。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−56175(P2012−56175A)
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−201016(P2010−201016)
【出願日】平成22年9月8日(2010.9.8)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】