インクジェットヘッド基板の製造方法
【課題】生産性や強度の低下を招くことなく、インク供給口の開口幅をより狭くする。
【解決手段】シリコン基板10の表面においてインク供給口が開口される領域に第一のパッシベイション層20を形成し、第一のパッシベイション層20の上に第二のパッシベイション層15を形成する。シリコン基板10の裏面においてインク供給口が開口される領域に開口部22を有するエッチングマスク21を形成し、開口部22の内側に、所定の深さの未貫通孔25を形成する。異方性ウエットエッチングにより、開口部22の内側に凹部を形成し、第一のパッシベイション層20をエッチングストップ層として、凹部の内面を基板表面に達するまで異方性ドライエッチングする。第一のパッシベイション層20を除去する。
【解決手段】シリコン基板10の表面においてインク供給口が開口される領域に第一のパッシベイション層20を形成し、第一のパッシベイション層20の上に第二のパッシベイション層15を形成する。シリコン基板10の裏面においてインク供給口が開口される領域に開口部22を有するエッチングマスク21を形成し、開口部22の内側に、所定の深さの未貫通孔25を形成する。異方性ウエットエッチングにより、開口部22の内側に凹部を形成し、第一のパッシベイション層20をエッチングストップ層として、凹部の内面を基板表面に達するまで異方性ドライエッチングする。第一のパッシベイション層20を除去する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、記録媒体に向けてインクを吐出して該記録媒体に対して記録を行うインクジェットヘッド基板(以下、「ヘッド基板」という。)の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般的なインクジェットヘッドは、インクが吐出される吐出口と、該吐出口からインクを吐出させるためのエネルギーを発生するエネルギー発生素子と、インクが供給される供給口と、該供給口と吐出口とを連通させるインク流路とを有する基板を備えている。ここで、吐出口、エネルギー発生素子及びインク流路は、基板の表面側に設けられている。一方、供給口は基板の表裏面を貫通している。そして、基板の裏面側から供給口に供給されたインクは、該供給口を通って各インク流路に流入し、各インク流路内に設けられたエネルギー発生素子によって付与されたエネルギーによって吐出口から吐出される。
【0003】
上記構造を有するヘッド基板では、小型化や安定した吐出性能確保のために、基板裏面における供給口の開口幅(以下「裏面開口幅」)を狭くすることが求められる。特に、一つの基板に複数の供給口を形成する場合には、各供給口の裏面開口幅を狭くすることが強く求められる。
【0004】
しかし、基板を貫通する供給口は、結晶異方性ウエットエッチングによって形成される。結晶異方性ウエットエッチングでは、結晶方位に応じて、エッチングの深さ方向と幅方向との間に異方性が生じる。図11に従来の製造方法によって製造されたヘッド基板の模式的断面を示す。同図に示されている基板30に形成された供給口34の裏面開口幅は、基板表面における開口幅(「表面開口幅」)に応じて決定される。例えば、基板30がシリコン基板である場合、表面開口幅をW2、基板30の厚みをD、裏面開口幅をW1とした場合、裏面開口幅W1は、W1=W2+2D/tan54.7°の関係式によって決まる。
【0005】
したがって、裏面開口幅W1を狭くするためには、表面開口幅W2を狭くするか、基板30の厚みDを薄くする必要があった。
【0006】
そこで、表面開口幅を狭くしたり、基板の厚みを薄くしたりすることなく、裏面開口幅を狭くすることを目的としたヘッド基板の製造方法が特許文献1によって提案されている。
【0007】
特許文献1に記載されている製造方法は、基板裏面に設けられたマスクを利用して異方性ドライエッチング方式にて未貫通穴を形成した後に、同一のマスクを用いて結晶異方性ウエットエッチング方式にて供給口を形成するものである。すなわち、異方性ドライエッチングと異方性ウエットエッチングの二段階の異方性エッチングによって供給口を形成するものである。
【特許文献1】米国特許第6805432号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
確かに、特許文献1に開示された製造方法によれは、同一の表面開口幅を有する供給口を結晶異方性ウエットエッチングのみによって形成した場合に比べて、裏面開口幅を狭く抑えることができる。
【0009】
しかし、裏面開口幅を変更することなく、表面開口幅をさらに拡大するためには、異方性ドライエッチングによる掘り込み量を増大させる必要がある。換言すれば、異方性ドライエッチングの深さをより深くしなければならない。しかしながら、異方性ドライエッチングによる掘り込み量を増大させると、エッチングに長時間を要し、ヘッド基板の生産性が低下する。一方、エッチングを短縮するために基板の厚みを薄くすると、強度低下などの問題が生じる。
【0010】
本発明は、生産性や強度の低下を招くことなく、インク供給口の開口幅をより狭くすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明のインクジェットヘッド基板の製造方法は、基板の表裏面に貫通するインク供給口を有するインクジェットヘッド基板の製造方法であって、少なくとも次の工程を有する。
(a)基板の表面において前記インク供給口が開口される領域に第一のパッシベイション層を形成する工程
(b)前記基板の表面に、前記第一のパッシベイション層を被覆する第二のパッシベイション層を形成する工程
(c)前記基板の裏面において前記インク供給口が開口される領域に開口部を有するエッチングマスクを形成する工程
(d)前記エッチングマスクの前記開口部の内側に、所定の深さの未貫通孔を形成する工程
(e)異方性ウエットエッチングにより、前記エッチングマスクの前記開口部の内側に、前記基板の裏面において開口する凹部を形成する工程
(f)前記第一のパッシベイション層をエッチングストップ層として、前記凹部の内面を前記基板の表面に達するまで異方性ドライエッチングする工程
(g)前記第一のパッシベイション層を除去する工程
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、ヘッド基板のインク供給口の開口幅を狭くすることで、ヘッド基板を小型化でき、さらに安定した吐出性能を確保することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明のヘッド基板の製造方法は、基板に未貫通孔を形成した上で、結晶異方性ウエットエッチングと結晶異方性ドライエッチングを段階的に実施して、基板の表裏面に貫通するインク供給口を形成することを特徴とする。
【0014】
以下、本発明のヘッド基板の製造方法の実施形態の一例について図面を参照しながら詳細に説明する。
【0015】
(実施形態1)
説明の便宜上、本実施形態に係るヘッド基板の製造方法によって製造されるヘッド基板の構造について予め概説する。図1は、本例の製造方法によって製造されたヘッド基板1の模式的斜視図であり、図2は同断面図である。尚、図2に示す断面は、図1に示すヘッド基板1を同図中のA−Aに沿って切断したときの断面である。
【0016】
ヘッド基板1は、シリコン基板10を有する。シリコン基板10の表面側には、複数のエネルギー発生素子(例えばヒータ)11、インク流路12及び吐出口13が設けられている。シリコン基板10には、該基板10を貫通し、その表裏面において開口するインク供給口14が形成されている。
【0017】
より具体的には、複数のエネルギー発生素子11がシリコン基板10の表面上に所定ピッチで配列されて、2列の素子列が形成されている。さらに、シリコン基板10の表面には、パッシベイション層(保護層)15が形成され、エネルギー発生素子11はパッシベイション層15に覆われている。また、パッシベイション層15の上には、ポリエーテルアミド層(密着層)16を介して感光性樹脂層17が形成され、この感光性樹脂層17によって、インク流路12及び吐出口13が形成されている。すなわち、感光性樹脂層17は、流路形成部材あるいはノズル形成部材としての役割を有する。さらに、感光性樹脂層17の上には、撥水層18が形成されている。尚、図示は省略したが、シリコン基板10の表面には、エネルギー発生素子11を駆動するための配線や回路なども形成されている。
【0018】
上記構成を有するヘッド基板1では、インク供給口14を介してインク流路12内に充填された不図示のインクに、エネルギー発生素子11が発生するエネルギーが付与されることによって、吐出口13からインク滴が吐出される。当該ヘッド基板1は、プリンタ、複写機、通信システムを有するファクシミリ、プリンタ部を有するワードプロセッサなどの装置、さらに各種処理装置と複合的に組み合わされた産業記録装置に搭載されるインクジェット記録ヘッドに適用可能である。そして、当該ヘッド基板1が適用されたインクジェット記録ヘッドを用いることによって、紙、糸、繊維、皮革、金属、プラスチック、ガラス、木材、セラミックなど種々の被記録媒体に記録を行うことができる。尚、本発明において「記録」とは、文字や図形などの意味を持つ画像を被記録媒体に対して付与することだけでなく、パターンなどの意味を持たない画像を付与することも意味する。
【0019】
次に、図1、図2に示すヘッド基板1の製造方法について説明する。図3Aに示すように、表面にエネルギー発生素子11及び該素子11を駆動するための配線や回路(不図示)などが形成されたシリコン基板10を用意する。
【0020】
次いで、シリコン基板10の表面に、第一のパッシベイション層20を形成する。第一のパッシベイション層20は、図2に示すインク供給口14のシリコン基板表面における開口部(表面開口14a)に対応させて、シリコン基板表面の一部の領域にのみ形成する。また、第一のパッシベイション層20は、ハロゲン系ガスによる異方性ドライエッチング時にシリコンとのエッチング選択比がとれる材料、例えばAlなど用いて形成する。
【0021】
その後、第一のパッシベイション層20を覆うように、シリコン基板1の表面全域に第二のパッシベイション層15を形成する。ここで、第二のパッシベイション層15は、図2に示すパッシベイション層15に相当する。第二のパッシベイション層15は、第一のパッシベイション層20との選択除去ができる材料、例えば窒化シリコンなどを用いて形成する。さらに、シリコン基板1の裏面全域に、SiO2膜(不図示)を形成する。もっとも、第二のパッシベイション層15とSiO2膜との形成順序は上記と逆であってもよい。
【0022】
次に、図3Bに示すように、シリコン基板10の表裏面にポリエーテルアミド樹脂を塗布し、ベーク工程によりそれらを硬化させて、不図示のポリエーテルアミド樹脂層を形成する。そして、シリコン基板10の表面側に形成されたポリエーテルアミド樹脂層の上に、ポジ型レジストをスピンコート等により塗布、露光、現像し、ドライエッチング等によりパターニングした後にレジストを除去して、密着層16を形成する。また、シリコン基板10の裏面に形成されたポリエーテルアミド樹脂層の上に、ポジ型レジストをスピンコート等により塗布、露光、現像し、ドライエッチング等によりパターニングした後にレジストを除去して、エッチングマスク21を形成する。このエッチングマスク21の厚みは、後工程で行う結晶異方性ドライエッチングに対する耐性を考えた厚みとする。また、ここでのパターニングでは、エッチングマスク21に、図2に示すインク供給口14のシリコン基板裏面における開口部(裏面開口14b)に対応した開口部22を形成する。
【0023】
次に、図3Cに示すように、シリコン基板10の表面側に、インク流路12(図2)の型材となるポジ型レジスト23をパターニングする。
【0024】
次に、図3Dに示すように、ポジ型レジスト23の上に、被覆感光性樹脂をスピンコート等により塗布して流路形成部材となる感光性樹脂層17を形成する。さらに、被覆感光性樹脂層17の上に、ドライフィルム状にした撥水材をラミネートして撥水層18を形成する。その後、被覆感光性樹脂層17を紫外線やDeep-UV光等によって露光、現像してパターニングすることにより、吐出口13を形成する。
【0025】
次に、図3Eに示すように、ポジ型レジスト23及び被覆感光性樹脂層17などが形成されたシリコン基板10の表面及び側面を、スピンコート等によって保護材24で覆う。
【0026】
次に、図3Fに示すように、エッチングマスク21の開口部22の内側に、未貫通孔としての先導孔25を形成する。具体的には、開口部22において露出しているシリコン基板10の裏面から表面に向けて複数の先導孔25を形成する。尚、エッチングマスク21の開口部22は長方形であって、短手方向(幅方向)の寸法は100μmである。
【0027】
図4Aは、上記のようにして未貫通孔(先導孔25)が形成されたシリコン基板10の裏面を示す模式的平面図である。同図に示すように、各先導孔25は、エッチングマスク21の開口部22の短手方向(幅方向)中心線上に100μmのピッチで1列に形成する。換言すれば、第一のパッシベイション層20の幅方向中心線上に、吐出口13の配列方向に沿って、複数の先導孔25を一列に形成する。
【0028】
本実施形態では、レーザ加工によって先導孔25を上記のように形成した。具体的には、YAGレーザの3倍波(THG:波長355nm)のレーザ光を用い、そのレーザ光のパワーおよび周波数を適切な値に設定した。また、各先導孔25の径を約φ40μmとした。先導孔25の径は、約φ5〜約100μmの範囲内であることが望ましい。先導孔25の径が小さすぎると、この後に行われる結晶異方性ウエットエッチングの際にエッチング液が先導孔25内に進入し難くなる。逆に先導孔25の径が大きすぎると、所望の深さの先導孔25を形成するのに時間を要し、生産性が低下する。尚、先導孔25の径を大きくする場合には、それに応じて、隣接する先導孔25同士が重ならないように加工ピッチを設定する。
【0029】
また、シリコン基板10の厚みは625μmであり、該基板10を貫通しない未貫通孔としての先導孔25の深さは420〜460μmの範囲が望ましい。
【0030】
尚、本実施形態ではYAGレーザの3倍波(THG:波長355nm)のレーザ光を用いて先導孔25を形成したが、シリコン基板10の材料であるシリコンに対して穴開け加工ができる波長であれば、加工に用いることができるレーザ光はこれに限られない。例えば、YAGレーザの2倍波(SHG:波長532nm)のレーザ光も、THGと同様にシリコンに対する高い吸収率を有しており、かかるレーザ光によって先導孔25を形成してもよい。もっとも、先導孔25を形成するための穴開け加工の方法は、レーザ加工に限られるものではない。
【0031】
次に、シリコン基板10の裏面に形成されている不図示のSiO2膜のうち、エッチングマスク21の開口部22において露出している部分を除去し、シリコン基板10に対する結晶異方性ウエットエッチングの開始面となるSi面を露出させる。次いで、エッチングの開始面が露出されたシリコン基板10をエッチング液に浸し、図2に示すインク供給口14を形成するためのエッチングを開始する。
【0032】
先導孔25が形成されたシリコン基板10をエッチング液に浸すと、エッチング液が先導孔25内に進入し、シリコン基板10の結晶方位に依存してエッチングが進行する。よって、シリコン基板10は、先導孔25の先端を頂点として側壁方向にエッチングされ、面方位<111>面が露出したところでエッチングが極端に進まなくなる。この結果、シリコン基板10には、図3Gに示すような“<>”形の凹部(未貫通口)26が形成される。このときのエッチング液にはTMAH(tetra methyl ammonium hydroxide)を用いる。また、凹部26の内面は、シリコン基板10の裏面に対して54.7°の角度を有する<111>面からなる。もっとも、エッチング液はTMAHに限られず、KOH(希釈水酸化カリウム)など、結晶異方性ウエットエッチングができるアルカリ水溶液を用いることができる。
【0033】
次に、図3Hに示すように、結晶異方性ウエットエッチングにて形成された凹部26の内面(底面)をシリコン基板10の表面側に向けて結晶異方性ドライエッチングし、シリコン基板10の表面に貫通させる。ここでのエッチングでは、Deep-RIE(反応性イオンエッチング方式)などでハロゲン系ガスを用いてトレンチ構造を形成する。また、エッチングマスクには、結晶異方性ウエットエッチングの際にマスクとして用いたエッチングマスク21をそのまま利用する。
【0034】
結晶異方性ドライエッチングによる加工の深さD2は、レーザ加工の深さ(未貫通孔25の深さ)D1との関係で次の条件を満たことが望ましい。すなわち、シリコン基板10の厚さをDとしたとき、D2>D−D1の関係を満たすことが望ましい。
【0035】
上記の条件が満たされるように結晶異方性ドライエッチングを行うと、図3I及び図4Bに示すように、第一のパッシベイション層20でエッチングがストップする。すなわち、第一のパッシベイション層20はエッチングストップ層として機能する。既述のように、第一のパッシベイション層20には、アルミなどある程度の耐ドライエッチング性を持った材料を用いることが望ましい。
【0036】
第一のパッシベイション層20の幅W1(図3I)と、インク供給口14の表面開口幅W2(図2)とがW1≦W2の関係であるとき、ドライエッチングの深さD2(図3H)は、レーザ加工の深さD1(図3F)との関係で次の条件を満たすことが望ましい。すなわち、シリコン基板10の厚さをDとしたとき、D2≦D−D1+W1・(tan54.7°)/2の関係を満たすことが望ましい。
【0037】
続いて、図3Jに示すように、第一のパッシベイション層20を硝酸、酢酸、リン酸を含有した混酸などの水溶液で除去するか、塩素系のガスを用いてドライエッチングすることによって除去する。
【0038】
次に、図3Kに示すように、第二のパッシベイション層15のうち、少なくともインク供給口14の表面開口14a(図2)と重複する部分をドライエッチングにて除去し、凹部26内においてポジ型レジスト23を露出させる。
【0039】
次に、図3Kに示すエッチングマスク21及び保護材24を除去し、ポジ型レジスト23を凹部26を介して溶出させる。すると、ポジ型レジスト23が除去された後の空間が図2に示すインク流路12となり、インク流路14と連通した凹部26が図2に示すインク供給口14となる。
【0040】
以上の工程により、図1、図2に示すヘッド基板1が完成する。より正確には、複数のヘッド基板1が作り込まれたシリコンウエハが完成する。シリコンウエハ上に形成された各ヘッド基板1をダイシングソー等によって切断分離してチップ化し、各チップにおいて、エネルギー発生素子11を駆動させる電気配線の接合を行う。その後、各チップにインク供給用のチップタンク部材を接続することによって、インクジェット記録ヘッドが完成する。
【0041】
尚、本実施形態では、厚さ625μmのシリコン基板を用いてヘッド基板を製造したが、これよりも薄い、もしくは厚い基板に対しても、本発明のヘッド基板の製造方法を適用することができる。
【0042】
(実施形態2)
以下、本発明のヘッド基板の製造方法の他の実施形態について図5及び図6を参照して説明する。図5は、本実施形態に係る製造方法の一工程を示す模式的断面図である。図6は、本実施形態に係る製造方法によって製造されたヘッド基板の模式的断面図である。
【0043】
本実施形態に係るヘッド基板の製造方法は、実施形態1に係る製造方法と基本的に同一の工程を有する。異なるのは、後にインク供給口14となる凹部(未貫通口)26を形成するための結晶異方性エッチングの時間のみである。具体的には、図5に示すように、凹部26を形成するための結晶異方性エッチングの時間を実施形態1の場合よりも短くした。この結果、図6に示すように、実施形態1に係る製造方法によって得られるインク供給口14(図2)に比べ、より垂直なトレンチ構造を有するインク供給口14が形成される。尚、実施形態1において既に説明した構成と同一の構成については、図5及び図6中に同一の符号を付して説明に代える。
(実施形態3)
以下、本発明のヘッド基板の製造方法の他の実施形態について図7及び図8を参照して説明する。図7は、本実施形態に係る製造方法の一工程を示す模式的断面図である。図8は、本実施形態に係る製造方法によって製造されたヘッド基板の模式的断面図である。
【0044】
本実施形態に係るヘッド基板の製造方法は、実施形態1に係る製造方法と同一の工程を有する。異なるのは、後にインク供給口14となる凹部(未貫通口)26を三段階の結晶異方性エッチング処理によって形成する点である。
【0045】
具体的には、実施形態1に係る製造方法では、シリコン基板10に対して、結晶異方性ウエットエッチングと結晶異方性ドライエッチングをそれぞれ一回ずつ、この順で行って凹部26を形成した。しかし、本実施形態に係る製造方法では、図7に示すように、結晶異方性ドライエッチングの後に、再度結晶異方性ウエットエッチングを行って凹部26を形成する。この結果、図8に示すように、<111>面が露出したインク供給口14が形成される。
【0046】
尚、実施形態1において既に説明した構成と同一の構成については、図7及び図8中に同一の符号を付して説明に代える。
(実施形態4)
これまでは、インク供給口が一つの場合を例にとって本発明のヘッド基板の製造方法の実施形態について説明した。しかし、本発明のヘッド基板の製造方法によれば、複数のインク供給口を有するヘッド基板を製造することもできる。
【0047】
図9に、実施形態1で説明した本発明のヘッド基板の製造方法を応用して製造したヘッド基板1の模式的断面図を示す。図示されているヘッド基板1には、六つのインク供給口14が形成されている。これら二つのインク供給口14は、実施形態1で説明した工程を経て形成されたものである。よって、図9に示すヘッド基板1の製造工程については、実施形態1に接した当業者であれば容易に理解することができるはずであるが、念のためインク供給口14の形成に関する工程についてのみ図10を参照して説明する。尚、実施形態1において既に説明した構成と同一の構成については、図9及び図10中に同一の符号を付して説明に代える。
【0048】
図10(a)は、未貫通孔(先導孔25)が形成されたシリコン基板10の裏面を示す模式的平面図である。同図に示すように、シリコン基板10の裏面に形成されたエッチングマスク21には、図9に示す各インク供給口14の裏面開口14bに対応した複数の開口部22を形成する。この点、エッチングマスク21に長方形の開口部22を一つだけ形成した実施形態1と異なる。然る後、エッチングマスク21の各開口部22から露出しているシリコン基板10の裏面から表面側に向けて未貫通孔としての先導孔25を形成する。尚、各先導孔25は、各開口部22の中心に形成されている。
【0049】
その後、先導孔25が形成されたシリコン基板10をエッチング液に浸して、凹部26を形成する。次に、形成された凹部26の内面(底面)をシリコン基板10の表面側に向けて結晶異方性ドライエッチングし、シリコン基板10の表面に貫通させる。このとき第一のパッシベイション層20がストップ層として機能することは既述のとおりである。図10(b)は、第一のパッシベイション層20をストップ層とする結晶異方性ドライエッチングが行われた後のシリコン基板10の裏面を示す模式的平面図である。
【0050】
本実施形態のヘッド基板の製造方法によれば、同一のエネルギー発生素子11に対して、複数のインク供給口14を形成することができる。これにより、独立供給口や副流路など様々なノズル設計に対して供給口を形成できる。
【0051】
さらに、隣接するインク供給口14同士の間に形成される色分離面の幅を従来よりも広く形成することができるので、同一基板で複数の色を使用するときの混色を抑えることもきる。
【0052】
尚、本発明は、上記実施形態に限られず、特許請求の範囲に記載された本発明の概念に包含されるべき他の技術にも応用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】実施形態1に係るヘッド基板の製造方法によって製造されたヘッド基板の一部を示す模式的斜視図である。
【図2】図1に示すヘッド基板の模式的断面図である。
【図3A】実施形態1に係るヘッド基板の製造方法の一工程を示す模式的断面図である。
【図3B】実施形態1に係るヘッド基板の製造方法の一工程を示す模式的断面図である。
【図3C】実施形態1に係るヘッド基板の製造方法の一工程を示す模式的断面図である。
【図3D】実施形態1に係るヘッド基板の製造方法の一工程を示す模式的断面図である。
【図3E】実施形態1に係るヘッド基板の製造方法の一工程を示す模式的断面図である。
【図3F】実施形態1に係るヘッド基板の製造方法の一工程を示す模式的断面図である。
【図3G】実施形態1に係るヘッド基板の製造方法の一工程を示す模式的断面図である。
【図3H】実施形態1に係るヘッド基板の製造方法の一工程を示す模式的断面図である。
【図3I】実施形態1に係るヘッド基板の製造方法の一工程を示す模式的断面図である。
【図3J】実施形態1に係るヘッド基板の製造方法の一工程を示す模式的断面図である。
【図3K】実施形態1に係るヘッド基板の製造方法の一工程を示す模式的断面図である。
【図4A】実施形態1に係るヘッド基板の製造方法の一工程を示す模式的平面図である。
【図4B】実施形態1に係るヘッド基板の製造方法の一工程を示す模式的平面図である。
【図5】実施形態2に係るヘッド基板の製造方法によって製造されたヘッド基板の模式的断面図である。
【図6】実施形態2に係るヘッド基板の製造方法の一工程を示す模式的断面図である。
【図7】実施形態3に係るヘッド基板の製造方法によって製造されたヘッド基板の模式的断面図である。
【図8】実施形態3に係るヘッド基板の製造方法の一工程を示す模式的断面図である。
【図9】実施形態4に係るヘッド基板の製造方法によって製造されたヘッド基板の模式的断面図である。
【図10】(a)(b)は、実施形態4に係るヘッド基板の製造方法の一工程を示す模式的平面図である。
【図11】従来の製造方法によって製造されたヘッド基板の模式的断面図である。
【符号の説明】
【0054】
1 ヘッド基板
10 シリコン基板
14 インク供給口
14a 表面開口
14b 裏面開口
15 第二のパッシベイション層
20 第一のパッシベイション層
21 エッチングマスク
22 開口部
25 先導孔
26 凹部
【技術分野】
【0001】
本発明は、記録媒体に向けてインクを吐出して該記録媒体に対して記録を行うインクジェットヘッド基板(以下、「ヘッド基板」という。)の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般的なインクジェットヘッドは、インクが吐出される吐出口と、該吐出口からインクを吐出させるためのエネルギーを発生するエネルギー発生素子と、インクが供給される供給口と、該供給口と吐出口とを連通させるインク流路とを有する基板を備えている。ここで、吐出口、エネルギー発生素子及びインク流路は、基板の表面側に設けられている。一方、供給口は基板の表裏面を貫通している。そして、基板の裏面側から供給口に供給されたインクは、該供給口を通って各インク流路に流入し、各インク流路内に設けられたエネルギー発生素子によって付与されたエネルギーによって吐出口から吐出される。
【0003】
上記構造を有するヘッド基板では、小型化や安定した吐出性能確保のために、基板裏面における供給口の開口幅(以下「裏面開口幅」)を狭くすることが求められる。特に、一つの基板に複数の供給口を形成する場合には、各供給口の裏面開口幅を狭くすることが強く求められる。
【0004】
しかし、基板を貫通する供給口は、結晶異方性ウエットエッチングによって形成される。結晶異方性ウエットエッチングでは、結晶方位に応じて、エッチングの深さ方向と幅方向との間に異方性が生じる。図11に従来の製造方法によって製造されたヘッド基板の模式的断面を示す。同図に示されている基板30に形成された供給口34の裏面開口幅は、基板表面における開口幅(「表面開口幅」)に応じて決定される。例えば、基板30がシリコン基板である場合、表面開口幅をW2、基板30の厚みをD、裏面開口幅をW1とした場合、裏面開口幅W1は、W1=W2+2D/tan54.7°の関係式によって決まる。
【0005】
したがって、裏面開口幅W1を狭くするためには、表面開口幅W2を狭くするか、基板30の厚みDを薄くする必要があった。
【0006】
そこで、表面開口幅を狭くしたり、基板の厚みを薄くしたりすることなく、裏面開口幅を狭くすることを目的としたヘッド基板の製造方法が特許文献1によって提案されている。
【0007】
特許文献1に記載されている製造方法は、基板裏面に設けられたマスクを利用して異方性ドライエッチング方式にて未貫通穴を形成した後に、同一のマスクを用いて結晶異方性ウエットエッチング方式にて供給口を形成するものである。すなわち、異方性ドライエッチングと異方性ウエットエッチングの二段階の異方性エッチングによって供給口を形成するものである。
【特許文献1】米国特許第6805432号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
確かに、特許文献1に開示された製造方法によれは、同一の表面開口幅を有する供給口を結晶異方性ウエットエッチングのみによって形成した場合に比べて、裏面開口幅を狭く抑えることができる。
【0009】
しかし、裏面開口幅を変更することなく、表面開口幅をさらに拡大するためには、異方性ドライエッチングによる掘り込み量を増大させる必要がある。換言すれば、異方性ドライエッチングの深さをより深くしなければならない。しかしながら、異方性ドライエッチングによる掘り込み量を増大させると、エッチングに長時間を要し、ヘッド基板の生産性が低下する。一方、エッチングを短縮するために基板の厚みを薄くすると、強度低下などの問題が生じる。
【0010】
本発明は、生産性や強度の低下を招くことなく、インク供給口の開口幅をより狭くすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明のインクジェットヘッド基板の製造方法は、基板の表裏面に貫通するインク供給口を有するインクジェットヘッド基板の製造方法であって、少なくとも次の工程を有する。
(a)基板の表面において前記インク供給口が開口される領域に第一のパッシベイション層を形成する工程
(b)前記基板の表面に、前記第一のパッシベイション層を被覆する第二のパッシベイション層を形成する工程
(c)前記基板の裏面において前記インク供給口が開口される領域に開口部を有するエッチングマスクを形成する工程
(d)前記エッチングマスクの前記開口部の内側に、所定の深さの未貫通孔を形成する工程
(e)異方性ウエットエッチングにより、前記エッチングマスクの前記開口部の内側に、前記基板の裏面において開口する凹部を形成する工程
(f)前記第一のパッシベイション層をエッチングストップ層として、前記凹部の内面を前記基板の表面に達するまで異方性ドライエッチングする工程
(g)前記第一のパッシベイション層を除去する工程
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、ヘッド基板のインク供給口の開口幅を狭くすることで、ヘッド基板を小型化でき、さらに安定した吐出性能を確保することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明のヘッド基板の製造方法は、基板に未貫通孔を形成した上で、結晶異方性ウエットエッチングと結晶異方性ドライエッチングを段階的に実施して、基板の表裏面に貫通するインク供給口を形成することを特徴とする。
【0014】
以下、本発明のヘッド基板の製造方法の実施形態の一例について図面を参照しながら詳細に説明する。
【0015】
(実施形態1)
説明の便宜上、本実施形態に係るヘッド基板の製造方法によって製造されるヘッド基板の構造について予め概説する。図1は、本例の製造方法によって製造されたヘッド基板1の模式的斜視図であり、図2は同断面図である。尚、図2に示す断面は、図1に示すヘッド基板1を同図中のA−Aに沿って切断したときの断面である。
【0016】
ヘッド基板1は、シリコン基板10を有する。シリコン基板10の表面側には、複数のエネルギー発生素子(例えばヒータ)11、インク流路12及び吐出口13が設けられている。シリコン基板10には、該基板10を貫通し、その表裏面において開口するインク供給口14が形成されている。
【0017】
より具体的には、複数のエネルギー発生素子11がシリコン基板10の表面上に所定ピッチで配列されて、2列の素子列が形成されている。さらに、シリコン基板10の表面には、パッシベイション層(保護層)15が形成され、エネルギー発生素子11はパッシベイション層15に覆われている。また、パッシベイション層15の上には、ポリエーテルアミド層(密着層)16を介して感光性樹脂層17が形成され、この感光性樹脂層17によって、インク流路12及び吐出口13が形成されている。すなわち、感光性樹脂層17は、流路形成部材あるいはノズル形成部材としての役割を有する。さらに、感光性樹脂層17の上には、撥水層18が形成されている。尚、図示は省略したが、シリコン基板10の表面には、エネルギー発生素子11を駆動するための配線や回路なども形成されている。
【0018】
上記構成を有するヘッド基板1では、インク供給口14を介してインク流路12内に充填された不図示のインクに、エネルギー発生素子11が発生するエネルギーが付与されることによって、吐出口13からインク滴が吐出される。当該ヘッド基板1は、プリンタ、複写機、通信システムを有するファクシミリ、プリンタ部を有するワードプロセッサなどの装置、さらに各種処理装置と複合的に組み合わされた産業記録装置に搭載されるインクジェット記録ヘッドに適用可能である。そして、当該ヘッド基板1が適用されたインクジェット記録ヘッドを用いることによって、紙、糸、繊維、皮革、金属、プラスチック、ガラス、木材、セラミックなど種々の被記録媒体に記録を行うことができる。尚、本発明において「記録」とは、文字や図形などの意味を持つ画像を被記録媒体に対して付与することだけでなく、パターンなどの意味を持たない画像を付与することも意味する。
【0019】
次に、図1、図2に示すヘッド基板1の製造方法について説明する。図3Aに示すように、表面にエネルギー発生素子11及び該素子11を駆動するための配線や回路(不図示)などが形成されたシリコン基板10を用意する。
【0020】
次いで、シリコン基板10の表面に、第一のパッシベイション層20を形成する。第一のパッシベイション層20は、図2に示すインク供給口14のシリコン基板表面における開口部(表面開口14a)に対応させて、シリコン基板表面の一部の領域にのみ形成する。また、第一のパッシベイション層20は、ハロゲン系ガスによる異方性ドライエッチング時にシリコンとのエッチング選択比がとれる材料、例えばAlなど用いて形成する。
【0021】
その後、第一のパッシベイション層20を覆うように、シリコン基板1の表面全域に第二のパッシベイション層15を形成する。ここで、第二のパッシベイション層15は、図2に示すパッシベイション層15に相当する。第二のパッシベイション層15は、第一のパッシベイション層20との選択除去ができる材料、例えば窒化シリコンなどを用いて形成する。さらに、シリコン基板1の裏面全域に、SiO2膜(不図示)を形成する。もっとも、第二のパッシベイション層15とSiO2膜との形成順序は上記と逆であってもよい。
【0022】
次に、図3Bに示すように、シリコン基板10の表裏面にポリエーテルアミド樹脂を塗布し、ベーク工程によりそれらを硬化させて、不図示のポリエーテルアミド樹脂層を形成する。そして、シリコン基板10の表面側に形成されたポリエーテルアミド樹脂層の上に、ポジ型レジストをスピンコート等により塗布、露光、現像し、ドライエッチング等によりパターニングした後にレジストを除去して、密着層16を形成する。また、シリコン基板10の裏面に形成されたポリエーテルアミド樹脂層の上に、ポジ型レジストをスピンコート等により塗布、露光、現像し、ドライエッチング等によりパターニングした後にレジストを除去して、エッチングマスク21を形成する。このエッチングマスク21の厚みは、後工程で行う結晶異方性ドライエッチングに対する耐性を考えた厚みとする。また、ここでのパターニングでは、エッチングマスク21に、図2に示すインク供給口14のシリコン基板裏面における開口部(裏面開口14b)に対応した開口部22を形成する。
【0023】
次に、図3Cに示すように、シリコン基板10の表面側に、インク流路12(図2)の型材となるポジ型レジスト23をパターニングする。
【0024】
次に、図3Dに示すように、ポジ型レジスト23の上に、被覆感光性樹脂をスピンコート等により塗布して流路形成部材となる感光性樹脂層17を形成する。さらに、被覆感光性樹脂層17の上に、ドライフィルム状にした撥水材をラミネートして撥水層18を形成する。その後、被覆感光性樹脂層17を紫外線やDeep-UV光等によって露光、現像してパターニングすることにより、吐出口13を形成する。
【0025】
次に、図3Eに示すように、ポジ型レジスト23及び被覆感光性樹脂層17などが形成されたシリコン基板10の表面及び側面を、スピンコート等によって保護材24で覆う。
【0026】
次に、図3Fに示すように、エッチングマスク21の開口部22の内側に、未貫通孔としての先導孔25を形成する。具体的には、開口部22において露出しているシリコン基板10の裏面から表面に向けて複数の先導孔25を形成する。尚、エッチングマスク21の開口部22は長方形であって、短手方向(幅方向)の寸法は100μmである。
【0027】
図4Aは、上記のようにして未貫通孔(先導孔25)が形成されたシリコン基板10の裏面を示す模式的平面図である。同図に示すように、各先導孔25は、エッチングマスク21の開口部22の短手方向(幅方向)中心線上に100μmのピッチで1列に形成する。換言すれば、第一のパッシベイション層20の幅方向中心線上に、吐出口13の配列方向に沿って、複数の先導孔25を一列に形成する。
【0028】
本実施形態では、レーザ加工によって先導孔25を上記のように形成した。具体的には、YAGレーザの3倍波(THG:波長355nm)のレーザ光を用い、そのレーザ光のパワーおよび周波数を適切な値に設定した。また、各先導孔25の径を約φ40μmとした。先導孔25の径は、約φ5〜約100μmの範囲内であることが望ましい。先導孔25の径が小さすぎると、この後に行われる結晶異方性ウエットエッチングの際にエッチング液が先導孔25内に進入し難くなる。逆に先導孔25の径が大きすぎると、所望の深さの先導孔25を形成するのに時間を要し、生産性が低下する。尚、先導孔25の径を大きくする場合には、それに応じて、隣接する先導孔25同士が重ならないように加工ピッチを設定する。
【0029】
また、シリコン基板10の厚みは625μmであり、該基板10を貫通しない未貫通孔としての先導孔25の深さは420〜460μmの範囲が望ましい。
【0030】
尚、本実施形態ではYAGレーザの3倍波(THG:波長355nm)のレーザ光を用いて先導孔25を形成したが、シリコン基板10の材料であるシリコンに対して穴開け加工ができる波長であれば、加工に用いることができるレーザ光はこれに限られない。例えば、YAGレーザの2倍波(SHG:波長532nm)のレーザ光も、THGと同様にシリコンに対する高い吸収率を有しており、かかるレーザ光によって先導孔25を形成してもよい。もっとも、先導孔25を形成するための穴開け加工の方法は、レーザ加工に限られるものではない。
【0031】
次に、シリコン基板10の裏面に形成されている不図示のSiO2膜のうち、エッチングマスク21の開口部22において露出している部分を除去し、シリコン基板10に対する結晶異方性ウエットエッチングの開始面となるSi面を露出させる。次いで、エッチングの開始面が露出されたシリコン基板10をエッチング液に浸し、図2に示すインク供給口14を形成するためのエッチングを開始する。
【0032】
先導孔25が形成されたシリコン基板10をエッチング液に浸すと、エッチング液が先導孔25内に進入し、シリコン基板10の結晶方位に依存してエッチングが進行する。よって、シリコン基板10は、先導孔25の先端を頂点として側壁方向にエッチングされ、面方位<111>面が露出したところでエッチングが極端に進まなくなる。この結果、シリコン基板10には、図3Gに示すような“<>”形の凹部(未貫通口)26が形成される。このときのエッチング液にはTMAH(tetra methyl ammonium hydroxide)を用いる。また、凹部26の内面は、シリコン基板10の裏面に対して54.7°の角度を有する<111>面からなる。もっとも、エッチング液はTMAHに限られず、KOH(希釈水酸化カリウム)など、結晶異方性ウエットエッチングができるアルカリ水溶液を用いることができる。
【0033】
次に、図3Hに示すように、結晶異方性ウエットエッチングにて形成された凹部26の内面(底面)をシリコン基板10の表面側に向けて結晶異方性ドライエッチングし、シリコン基板10の表面に貫通させる。ここでのエッチングでは、Deep-RIE(反応性イオンエッチング方式)などでハロゲン系ガスを用いてトレンチ構造を形成する。また、エッチングマスクには、結晶異方性ウエットエッチングの際にマスクとして用いたエッチングマスク21をそのまま利用する。
【0034】
結晶異方性ドライエッチングによる加工の深さD2は、レーザ加工の深さ(未貫通孔25の深さ)D1との関係で次の条件を満たことが望ましい。すなわち、シリコン基板10の厚さをDとしたとき、D2>D−D1の関係を満たすことが望ましい。
【0035】
上記の条件が満たされるように結晶異方性ドライエッチングを行うと、図3I及び図4Bに示すように、第一のパッシベイション層20でエッチングがストップする。すなわち、第一のパッシベイション層20はエッチングストップ層として機能する。既述のように、第一のパッシベイション層20には、アルミなどある程度の耐ドライエッチング性を持った材料を用いることが望ましい。
【0036】
第一のパッシベイション層20の幅W1(図3I)と、インク供給口14の表面開口幅W2(図2)とがW1≦W2の関係であるとき、ドライエッチングの深さD2(図3H)は、レーザ加工の深さD1(図3F)との関係で次の条件を満たすことが望ましい。すなわち、シリコン基板10の厚さをDとしたとき、D2≦D−D1+W1・(tan54.7°)/2の関係を満たすことが望ましい。
【0037】
続いて、図3Jに示すように、第一のパッシベイション層20を硝酸、酢酸、リン酸を含有した混酸などの水溶液で除去するか、塩素系のガスを用いてドライエッチングすることによって除去する。
【0038】
次に、図3Kに示すように、第二のパッシベイション層15のうち、少なくともインク供給口14の表面開口14a(図2)と重複する部分をドライエッチングにて除去し、凹部26内においてポジ型レジスト23を露出させる。
【0039】
次に、図3Kに示すエッチングマスク21及び保護材24を除去し、ポジ型レジスト23を凹部26を介して溶出させる。すると、ポジ型レジスト23が除去された後の空間が図2に示すインク流路12となり、インク流路14と連通した凹部26が図2に示すインク供給口14となる。
【0040】
以上の工程により、図1、図2に示すヘッド基板1が完成する。より正確には、複数のヘッド基板1が作り込まれたシリコンウエハが完成する。シリコンウエハ上に形成された各ヘッド基板1をダイシングソー等によって切断分離してチップ化し、各チップにおいて、エネルギー発生素子11を駆動させる電気配線の接合を行う。その後、各チップにインク供給用のチップタンク部材を接続することによって、インクジェット記録ヘッドが完成する。
【0041】
尚、本実施形態では、厚さ625μmのシリコン基板を用いてヘッド基板を製造したが、これよりも薄い、もしくは厚い基板に対しても、本発明のヘッド基板の製造方法を適用することができる。
【0042】
(実施形態2)
以下、本発明のヘッド基板の製造方法の他の実施形態について図5及び図6を参照して説明する。図5は、本実施形態に係る製造方法の一工程を示す模式的断面図である。図6は、本実施形態に係る製造方法によって製造されたヘッド基板の模式的断面図である。
【0043】
本実施形態に係るヘッド基板の製造方法は、実施形態1に係る製造方法と基本的に同一の工程を有する。異なるのは、後にインク供給口14となる凹部(未貫通口)26を形成するための結晶異方性エッチングの時間のみである。具体的には、図5に示すように、凹部26を形成するための結晶異方性エッチングの時間を実施形態1の場合よりも短くした。この結果、図6に示すように、実施形態1に係る製造方法によって得られるインク供給口14(図2)に比べ、より垂直なトレンチ構造を有するインク供給口14が形成される。尚、実施形態1において既に説明した構成と同一の構成については、図5及び図6中に同一の符号を付して説明に代える。
(実施形態3)
以下、本発明のヘッド基板の製造方法の他の実施形態について図7及び図8を参照して説明する。図7は、本実施形態に係る製造方法の一工程を示す模式的断面図である。図8は、本実施形態に係る製造方法によって製造されたヘッド基板の模式的断面図である。
【0044】
本実施形態に係るヘッド基板の製造方法は、実施形態1に係る製造方法と同一の工程を有する。異なるのは、後にインク供給口14となる凹部(未貫通口)26を三段階の結晶異方性エッチング処理によって形成する点である。
【0045】
具体的には、実施形態1に係る製造方法では、シリコン基板10に対して、結晶異方性ウエットエッチングと結晶異方性ドライエッチングをそれぞれ一回ずつ、この順で行って凹部26を形成した。しかし、本実施形態に係る製造方法では、図7に示すように、結晶異方性ドライエッチングの後に、再度結晶異方性ウエットエッチングを行って凹部26を形成する。この結果、図8に示すように、<111>面が露出したインク供給口14が形成される。
【0046】
尚、実施形態1において既に説明した構成と同一の構成については、図7及び図8中に同一の符号を付して説明に代える。
(実施形態4)
これまでは、インク供給口が一つの場合を例にとって本発明のヘッド基板の製造方法の実施形態について説明した。しかし、本発明のヘッド基板の製造方法によれば、複数のインク供給口を有するヘッド基板を製造することもできる。
【0047】
図9に、実施形態1で説明した本発明のヘッド基板の製造方法を応用して製造したヘッド基板1の模式的断面図を示す。図示されているヘッド基板1には、六つのインク供給口14が形成されている。これら二つのインク供給口14は、実施形態1で説明した工程を経て形成されたものである。よって、図9に示すヘッド基板1の製造工程については、実施形態1に接した当業者であれば容易に理解することができるはずであるが、念のためインク供給口14の形成に関する工程についてのみ図10を参照して説明する。尚、実施形態1において既に説明した構成と同一の構成については、図9及び図10中に同一の符号を付して説明に代える。
【0048】
図10(a)は、未貫通孔(先導孔25)が形成されたシリコン基板10の裏面を示す模式的平面図である。同図に示すように、シリコン基板10の裏面に形成されたエッチングマスク21には、図9に示す各インク供給口14の裏面開口14bに対応した複数の開口部22を形成する。この点、エッチングマスク21に長方形の開口部22を一つだけ形成した実施形態1と異なる。然る後、エッチングマスク21の各開口部22から露出しているシリコン基板10の裏面から表面側に向けて未貫通孔としての先導孔25を形成する。尚、各先導孔25は、各開口部22の中心に形成されている。
【0049】
その後、先導孔25が形成されたシリコン基板10をエッチング液に浸して、凹部26を形成する。次に、形成された凹部26の内面(底面)をシリコン基板10の表面側に向けて結晶異方性ドライエッチングし、シリコン基板10の表面に貫通させる。このとき第一のパッシベイション層20がストップ層として機能することは既述のとおりである。図10(b)は、第一のパッシベイション層20をストップ層とする結晶異方性ドライエッチングが行われた後のシリコン基板10の裏面を示す模式的平面図である。
【0050】
本実施形態のヘッド基板の製造方法によれば、同一のエネルギー発生素子11に対して、複数のインク供給口14を形成することができる。これにより、独立供給口や副流路など様々なノズル設計に対して供給口を形成できる。
【0051】
さらに、隣接するインク供給口14同士の間に形成される色分離面の幅を従来よりも広く形成することができるので、同一基板で複数の色を使用するときの混色を抑えることもきる。
【0052】
尚、本発明は、上記実施形態に限られず、特許請求の範囲に記載された本発明の概念に包含されるべき他の技術にも応用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】実施形態1に係るヘッド基板の製造方法によって製造されたヘッド基板の一部を示す模式的斜視図である。
【図2】図1に示すヘッド基板の模式的断面図である。
【図3A】実施形態1に係るヘッド基板の製造方法の一工程を示す模式的断面図である。
【図3B】実施形態1に係るヘッド基板の製造方法の一工程を示す模式的断面図である。
【図3C】実施形態1に係るヘッド基板の製造方法の一工程を示す模式的断面図である。
【図3D】実施形態1に係るヘッド基板の製造方法の一工程を示す模式的断面図である。
【図3E】実施形態1に係るヘッド基板の製造方法の一工程を示す模式的断面図である。
【図3F】実施形態1に係るヘッド基板の製造方法の一工程を示す模式的断面図である。
【図3G】実施形態1に係るヘッド基板の製造方法の一工程を示す模式的断面図である。
【図3H】実施形態1に係るヘッド基板の製造方法の一工程を示す模式的断面図である。
【図3I】実施形態1に係るヘッド基板の製造方法の一工程を示す模式的断面図である。
【図3J】実施形態1に係るヘッド基板の製造方法の一工程を示す模式的断面図である。
【図3K】実施形態1に係るヘッド基板の製造方法の一工程を示す模式的断面図である。
【図4A】実施形態1に係るヘッド基板の製造方法の一工程を示す模式的平面図である。
【図4B】実施形態1に係るヘッド基板の製造方法の一工程を示す模式的平面図である。
【図5】実施形態2に係るヘッド基板の製造方法によって製造されたヘッド基板の模式的断面図である。
【図6】実施形態2に係るヘッド基板の製造方法の一工程を示す模式的断面図である。
【図7】実施形態3に係るヘッド基板の製造方法によって製造されたヘッド基板の模式的断面図である。
【図8】実施形態3に係るヘッド基板の製造方法の一工程を示す模式的断面図である。
【図9】実施形態4に係るヘッド基板の製造方法によって製造されたヘッド基板の模式的断面図である。
【図10】(a)(b)は、実施形態4に係るヘッド基板の製造方法の一工程を示す模式的平面図である。
【図11】従来の製造方法によって製造されたヘッド基板の模式的断面図である。
【符号の説明】
【0054】
1 ヘッド基板
10 シリコン基板
14 インク供給口
14a 表面開口
14b 裏面開口
15 第二のパッシベイション層
20 第一のパッシベイション層
21 エッチングマスク
22 開口部
25 先導孔
26 凹部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板の表裏面に貫通するインク供給口を有するインクジェットヘッド基板の製造方法であって、
前記基板の表面において前記インク供給口が開口される領域に第一のパッシベイション層を形成する工程と、
前記基板の表面に、前記第一のパッシベイション層を被覆する第二のパッシベイション層を形成する工程と、
前記基板の裏面において前記インク供給口が開口される領域に開口部を有するエッチングマスクを形成する工程と、
前記エッチングマスクの前記開口部の内側に、所定の深さの未貫通孔を形成する工程と、
異方性ウエットエッチングにより、前記エッチングマスクの前記開口部の内側に、前記基板の裏面において開口する凹部を形成する工程と、
前記第一のパッシベイション層をエッチングストップ層として、前記凹部の内面を前記基板の表面に達するまで異方性ドライエッチングする工程と、
前記第一のパッシベイション層を除去する工程と、
を有するインクジェットヘッド基板の製造方法。
【請求項2】
前記異方性ドライエッチングによる加工の深さをD2、前記未貫通孔の深さをD1、前記基板の厚みをDとしたとき、
D2>D−D1
の関係が満たされることを特徴とする請求項1記載のインクジェットヘッド基板の製造方法。
【請求項3】
前記異方性ドライエッチングによる加工の深さをD2、前記未貫通孔の深さをD1、前記基板の厚みをD、前記第一のパッシベイション層の幅方向の寸法をW1としたとき、
D2≦D−D1+W1*(tan54.7°)/2
の関係が満たされることを特徴とする請求項1又は請求項2記載のインクジェットヘッド基板の製造方法。
【請求項4】
前記未貫通孔をレーザ加工によって形成することを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載のインクジェットヘッド基板の製造方法。
【請求項5】
前記異方性ドライエッチングを反応性イオンエッチング方式によって行うことを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれかに記載のインクジェットヘッド基板の製造方法。
【請求項6】
前記異方性ウエットエッチングをアルカリ水溶液を用いて前記基板の結晶方位に依存して行うことを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれかに記載のインクジェットヘッド基板の製造方法。
【請求項1】
基板の表裏面に貫通するインク供給口を有するインクジェットヘッド基板の製造方法であって、
前記基板の表面において前記インク供給口が開口される領域に第一のパッシベイション層を形成する工程と、
前記基板の表面に、前記第一のパッシベイション層を被覆する第二のパッシベイション層を形成する工程と、
前記基板の裏面において前記インク供給口が開口される領域に開口部を有するエッチングマスクを形成する工程と、
前記エッチングマスクの前記開口部の内側に、所定の深さの未貫通孔を形成する工程と、
異方性ウエットエッチングにより、前記エッチングマスクの前記開口部の内側に、前記基板の裏面において開口する凹部を形成する工程と、
前記第一のパッシベイション層をエッチングストップ層として、前記凹部の内面を前記基板の表面に達するまで異方性ドライエッチングする工程と、
前記第一のパッシベイション層を除去する工程と、
を有するインクジェットヘッド基板の製造方法。
【請求項2】
前記異方性ドライエッチングによる加工の深さをD2、前記未貫通孔の深さをD1、前記基板の厚みをDとしたとき、
D2>D−D1
の関係が満たされることを特徴とする請求項1記載のインクジェットヘッド基板の製造方法。
【請求項3】
前記異方性ドライエッチングによる加工の深さをD2、前記未貫通孔の深さをD1、前記基板の厚みをD、前記第一のパッシベイション層の幅方向の寸法をW1としたとき、
D2≦D−D1+W1*(tan54.7°)/2
の関係が満たされることを特徴とする請求項1又は請求項2記載のインクジェットヘッド基板の製造方法。
【請求項4】
前記未貫通孔をレーザ加工によって形成することを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載のインクジェットヘッド基板の製造方法。
【請求項5】
前記異方性ドライエッチングを反応性イオンエッチング方式によって行うことを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれかに記載のインクジェットヘッド基板の製造方法。
【請求項6】
前記異方性ウエットエッチングをアルカリ水溶液を用いて前記基板の結晶方位に依存して行うことを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれかに記載のインクジェットヘッド基板の製造方法。
【図1】
【図2】
【図3A】
【図3B】
【図3C】
【図3D】
【図3E】
【図3F】
【図3G】
【図3H】
【図3I】
【図3J】
【図3K】
【図4A】
【図4B】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3A】
【図3B】
【図3C】
【図3D】
【図3E】
【図3F】
【図3G】
【図3H】
【図3I】
【図3J】
【図3K】
【図4A】
【図4B】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2009−61663(P2009−61663A)
【公開日】平成21年3月26日(2009.3.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−231335(P2007−231335)
【出願日】平成19年9月6日(2007.9.6)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年3月26日(2009.3.26)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年9月6日(2007.9.6)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】
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