説明

インクジェットヘッド

【課題】 ワイヤボンディング不良の発生を防止することにより、製品の歩留まり及び信頼性を向上させたインクジェットヘッドを提供する。
【解決手段】 本発明に係るインクジェットヘッドは、駆動用基板1と、駆動用基板1上にポリイミド層21を介して配置されたドライバーICチップ11と、このチップ11と駆動用基板1との間に配置された圧電体膜6と、圧電体膜6にチップ11からの電圧を印加するためのボンディングワイヤ13と、駆動用基板1内に形成された圧力発生室1bであって、圧電体膜6によって加圧されるインクを入れる圧力発生室1bと、チップ11の裏面と圧電体膜6との間にポリイミド層21により設けられた空間11aであって、圧力発生室1b内のインクを加圧する際に圧電体膜6の動きを阻害しないための空間11aと、を具備するものである。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、圧電方式のインクジェットプリンタのヘッドに関する。特には、ワイヤボンディング不良の発生を防止することにより、製品の歩留まり及び信頼性を向上させたインクジェットヘッドに関する。
【0002】
【従来の技術】図3は、従来のインクジェットヘッドの概略構成を示す断面図である。
【0003】このインクジェットヘッドはSiからなる駆動用基板101を有している。この駆動用基板101の下面にはステンレス製の薄い板からなるノズル基板103が配置されている。駆動用基板101の上面にはSiからなる対向基板105が配置されている。対向基板105の下面と駆動用基板101との間にはピエゾ素子などからなる圧電体膜(PZT)106が配置されている。対向基板105の上面には有機フィルム(PPS Film)107が配置されており、この有機フィルム107の上面にはステンレス製の薄い板からなる基板109が配置されている。有機フィルム107及び基板109の内側且つ対向基板105の上面にはドライバーICチップ111が配置されている。
【0004】対向基板105にはインク流路105aが設けられており、インク流路105aの一端にはインク導入口109aが形成されている。このインク導入口109aは、基板109及び有機フィルム107に設けられており、インクをインク流路105a内に導入するためのものである。インク流路105aの他端にはインク供給部101aの一端が連通して設けられており、インク供給部101aの他端には圧力発生室101bが連通して設けられている。インク供給部101a及び圧力発生室101bは駆動用基板101に設けられている。
【0005】圧力発生室101bの上部には圧電体膜106が位置している。圧力発生室101bの下部にはインク滴を吐出させるノズル開口部103a,103bが形成されており、このノズル開口部103a,103bはノズル基板103に設けられている。
【0006】圧電体膜106の上下には図示せぬ電極層が形成されている。対向基板105には圧電体膜106上に位置する空間105bが設けられている。この空間105bは、圧力発生室101bに圧力を発生させるための圧電体膜の運動を阻害しない程度のものである。
【0007】前記電極層にはボンディングワイヤ113の一端が電気的に接続されており、このボンディングワイヤ113の他端はドライバーICチップ111に電気的に接続されている。対向基板105の上には配線パターン115が形成されている。この配線パターン115にはボンディングワイヤ114の一端が電気的に接続されており、ボンディングワイヤ114の他端はドライバーICチップ111に電気的に接続されている。
【0008】次に、上記インクジェットヘッドを用いて実際に印字を行う際の動作について説明する。
【0009】インク導入口109aからインク流路105aにインクを導入し、インク供給部101aを介して圧力発生室101bにインクを満たす。そして、ドライバーICチップ111からボンディングワイヤ113,114を介して圧電体膜の上下の電極層間に電界をかけることで圧電体膜106を矢印117の方向にたわませる。このたわんだ分の体積分が圧力発生室101bの容積を減少させ、それにより、その体積減少分の一部のインクがノズル開口部103a,103bから吐出される。このように吐出したインクを用いて印字を行う。
【0010】
【発明が解決しようとする課題】ところで、上記従来のインクジェットヘッドでは、ドライバーICチップ111と圧電体膜106の上下の電極層との間に対向基板105を配置しているので、ICチップ111の上面と電極層との高低差が大きくなる。このように高低差が大きいと、ICチップ111の上面のパッドと電極層とをワイヤ113によってボンディングする際、ボンディング不良が発生することがある。これにより、歩留まりが悪くなり、製品の信頼性も低下するという問題が生じる。
【0011】本発明は上記のような事情を考慮してなされたものであり、その目的は、ワイヤボンディング不良の発生を防止することにより、製品の歩留まり及び信頼性を向上させたインクジェットヘッドを提供することにある。
【0012】
【課題を解決するための手段】本発明に係るインクジェットヘッドは、駆動用基板と、この駆動用基板上にポリイミド層を介して配置されたドライバーICチップと、このドライバーICチップと駆動用基板との間に配置された圧電体膜と、この圧電体膜にドライバーICチップからの電圧を印加するためのボンディングワイヤと、上記駆動用基板内に形成された圧力発生室であって、上記圧電体膜によって加圧されるインクを入れる圧力発生室と、上記ドライバーICチップの裏面と上記圧電体膜との間に上記ポリイミド層により設けられた空間であって、圧力発生室内のインクを加圧する際に圧電体膜の動きを阻害しないための空間と、を具備することを特徴とする。
【0013】上記インクジェットヘッドによれば、駆動用基板上にポリイミド層を介してドライバーICチップを配置し、このドライバーICチップの裏面と圧電体膜との間に上記ポリイミド層によって空間を設けている。つまり、ポリイミド層の厚みによってドライバーICチップの裏面と圧電体膜との間に空間を形成することにより、従来のインクジェットヘッドにおける対向基板を不要とした構造としている。その結果、ドライバーICチップの上面と圧電体膜との高低差を従来のそれに比べて小さくできる。従って、ドライバーICチップから電圧を圧電体膜に印加するためのワイヤをボンディングする際、ボンディング不良の発生を抑制することができる。これにより、製品の歩留まり及び信頼性を向上させることができる。
【0014】本発明に係るインクジェットヘッドは、駆動用基板と、この駆動用基板上にポリシリコン膜を介して配置されたドライバーICチップと、このドライバーICチップと駆動用基板との間に配置された圧電体膜と、この圧電体膜にドライバーICチップからの電圧を印加するためのボンディングワイヤと、上記駆動用基板内に形成された圧力発生室であって、上記圧電体膜によって加圧されるインクを入れる圧力発生室と、上記ドライバーICチップの裏面と上記圧電体膜との間に上記ポリシリコン膜により設けられた空間であって、圧力発生室内のインクを加圧する際に圧電体膜の動きを阻害しないための空間と、を具備することを特徴とする。
【0015】また、本発明に係るインクジェットヘッドにおいては、上記駆動用基板下に配置されたノズル基板と、このノズル基板に形成され、上記圧力発生室内で加圧されたインクの一部を吐出するためのノズル開口部と、をさらに含むことが好ましい。
【0016】また、本発明に係るインクジェットヘッドにおいては、上記圧力発生室に連通して形成され、この圧力発生室にインクを供給するインク供給部をさらに含むことが好ましい。
【0017】また、本発明に係るインクジェットヘッドにおいては、上記インク供給部にインクを導入するためのインク導入口をさらに含むことが好ましい。
【0018】
【発明の実施の形態】以下、図面を参照して本発明の一実施の形態について説明する。
【0019】図1は、本発明の第1の実施の形態によるインクジェットヘッドの概略構成を示す断面図である。
【0020】このインクジェットヘッドはSiからなる駆動用基板1を有している。この駆動用基板1の下面にはステンレス製の薄い板からなるノズル基板3が配置されている。駆動用基板1の上面には有機フィルム(PPS Film)7が配置されており、この有機フィルム7の上面にはステンレス製の薄い板からなる基板9が配置されている。有機フィルム7及び基板9の内側且つ駆動用基板1の上面にはドライバーICチップ11がポリイミド層21を介して配置されている。このICチップ11の下面と駆動用基板1の上面との間にはピエゾ素子などからなる圧電体膜(PZT)6が配置されている。
【0021】なお、駆動用基板1、ノズル基板3、有機フィルム7及び基板9それぞれの厚さや細部の形状等は、機械的強度やインクジェットヘッドの印字機能等を発揮できるものであれば、種々の形状等を用いることが可能である。
【0022】駆動用基板1にはインク供給部1aが設けられている。このインク供給部1aの一端にはインク導入口9aが配置されており、このインク導入口9aは、基板9及び有機フィルム7に設けられている。インク導入口9aはインクをインク供給部1a内に導入するものであるから、インク導入口9aの大きさや形状等はインクの導入に適したものであれば種々の形状等を用いることが可能である。
【0023】インク供給部1aの他端には圧力発生室1bが連通して形成されており、これらインク供給部1a及び圧力発生室1bは駆動用基板1に設けられている。インク供給部1aは圧力発生室1bにインクを供給するものであるから、インク供給部1aの大きさや形状等はインクの供給に適したものであれば種々の形状等を用いることが可能である。なお、駆動用基板1は、フォトリソグラフィー技術及びエッチング技術等を用いてシリコン基板をエッチング加工することにより形成されるものである。
【0024】圧力発生室1bの上部には圧電体膜6が位置している。圧力発生室1bの下部にはインク滴を吐出させるノズル開口部3a,3bが形成されており、このノズル開口部3a,3bはノズル基板3に設けられている。圧力発生室1bはその内部に供給されたインクに圧電体膜6によって圧力を発生させるものであるから、圧力発生室1bの大きさや形状等は圧力発生に適したものであれば種々の形状等を用いることが可能である。また、ノズル開口部3a,3bについても種々の形状等を用いることが可能である。
【0025】ドライバーICチップ11の裏面と圧電体膜6との間の一部、及び、ドライバーICチップ11の裏面と駆動用基板1との間の一部には、ポリイミド層21が配置されている。このポリイミド層21は、ICチップ11の裏面に選択的に形成されており、従来のインクジェットヘッドの対向基板に相当する機能を備えている。つまり、ポリイミド層21の厚みにより、ICチップ11の裏面と圧電体膜6との間に空間11aが設けられる。この空間11aは、圧力発生室1bに圧力を発生させるための圧電体膜の動きを阻害しない程度のものである。
【0026】圧電体膜6の上下には図示せぬ電極層が形成されている。前記電極層にはボンディングワイヤ13の一端が電気的に接続されており、このボンディングワイヤ13の他端はドライバーICチップ11の上面のパッドに電気的に接続されている。このような接続はワイヤボンディング技術を用いて行われる。また、ICチップ11及びボンディングワイヤ13は樹脂(図示せず)により封止されている。
【0027】次に、上記インクジェットヘッドを用いて実際に印字を行う際の動作について説明する。
【0028】インク導入口9aからインク供給部1aにインクを導入し、このインク供給部1aから圧力発生室1bにインクを満たす。そして、ドライバーICチップ11からボンディングワイヤ13を介して圧電体膜の上下の電極層間に電界をかけることで圧電体膜6を矢印17の方向にたわませる。このたわんだ分の体積分が圧力発生室1bの容積を減少させ、それにより、その体積減少分の一部のインクがノズル開口部3a,3bから吐出される。このように吐出したインクを用いて印字を行う。
【0029】上記第1の実施の形態によれば、従来のインクジェットヘッドでは対向基板に形成していた空間を、ドライバーICチップ11の裏面に選択的に設けたポリイミド層21によって形成している。つまり、ポリイミド層21の厚みによってICチップ11の裏面と圧電体膜6との間に空間11aを形成することにより、従来のインクジェットヘッドにおける対向基板を不要とした構造としている。このため、インクジェットヘッドの構造を簡略化することができ、インクジェットヘッドの部品コストを低減することができる。
【0030】また、本実施の形態では、対向基板を必要としないため、ICチップ11の表面と電極層との高低差を従来のそれに比べて小さくできる。具体的には、その高低差を従来のそれに比べて半分程度とすることができる。従って、ICチップ11の表面のパッドと電極層とをワイヤ13によってボンディングする際、ボンディングスピードを上げることができると共に、ボンディング不良の発生を抑制することができる。これにより、歩留まりを向上でき、製品の信頼性も向上させることができる。
【0031】図2は、本発明の第2の実施の形態によるインクジェットヘッドの概略構成を示す断面図であり、図1と同一部分には同一符号を付し、異なる部分についてのみ説明する。
【0032】有機フィルム7及び基板9の内側且つ駆動用基板1の上面にはドライバーICチップ11がポリシリコン膜25及びシリコン酸化膜27を介して配置されている。
【0033】すなわち、ドライバーICチップ11の裏面上にはシリコン酸化膜27が形成されており、このシリコン酸化膜27上には選択的にポリシリコン膜25が形成されている。このシリコン酸化膜27と圧電体膜6との間の一部、及び、ドライバーICチップ11の裏面と駆動用基板1との間の一部には、ポリシリコン膜25が配置されている。
【0034】このポリシリコン膜25は、従来のインクジェットヘッドの対向基板に相当する機能を備えている。つまり、ポリシリコン膜25の厚みにより、ICチップ11の裏面と圧電体膜6との間に空間11aが設けられる。この空間11aは、圧力発生室1bに圧力を発生させるための圧電体膜の動きを阻害しない程度のものである。
【0035】上記第2の実施の形態においても第1の実施の形態と同様の効果を得ることができる。
【0036】すなわち、本実施の形態では、ポリシリコン膜25の厚みによってICチップ11の裏面と圧電体膜6との間に空間11aを形成することにより、従来のインクジェットヘッドにおける対向基板を不要とした構造としている。このため、インクジェットヘッドの構造を簡略化することができ、インクジェットヘッドの部品コストを低減することができる。また、ICチップ11の表面のパッドと電極層とをワイヤ13によってボンディングする際、ボンディングスピードを上げることができると共に、ボンディング不良の発生を抑制することができる。これにより、歩留まりを向上でき、製品の信頼性も向上させることができる。
【0037】尚、本発明は上記実施の形態に限定されず、種々変更して実施することが可能である。
【0038】
【発明の効果】以上説明したように本発明によれば、駆動用基板上にポリイミド層又はポリシリコン膜を介してドライバーICチップを配置し、このドライバーICチップの裏面と圧電体膜との間に上記ポリイミド層又はポリシリコン膜によって空間を設けている。したがって、ワイヤボンディング不良の発生を防止することができ、製品の歩留まり及び信頼性を向上させたインクジェットヘッドを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の第1の実施の形態によるインクジェットヘッドの概略構成を示す断面図である。
【図2】本発明の第2の実施の形態によるインクジェットヘッドの概略構成を示す断面図である。
【図3】従来のインクジェットヘッドの概略構成を示す断面図である。
【符号の説明】
1 駆動用基板
1a インク供給部
1b 圧力発生室
3 ノズル基板
3a,3b ノズル開口部
6 圧電体膜(PZT)
7 有機フィルム(PPS Film)
9 基板
9a インク導入口
11a 空間
11 ドライバーICチップ
13 ボンディングワイヤ
17 矢印
21 ポリイミド層
25 ポリシリコン膜
27 シリコン酸化膜
101 駆動用基板
101a インク供給部
101b 圧力発生室
103 ノズル基板
103a,103b ノズル開口部
105 対向基板
105a インク流路
105b 空間
106 圧電体膜(PZT)
107 有機フィルム(PPS Film)
109 基板
109a インク導入口
111 ドライバーICチップ
113,114 ボンディングワイヤ
115 配線パターン
117 矢印

【特許請求の範囲】
【請求項1】 駆動用基板と、この駆動用基板上にポリイミド層を介して配置されたドライバーICチップと、このドライバーICチップと駆動用基板との間に配置された圧電体膜と、この圧電体膜にドライバーICチップからの電圧を印加するためのボンディングワイヤと、上記駆動用基板内に形成された圧力発生室であって、上記圧電体膜によって加圧されるインクを入れる圧力発生室と、上記ドライバーICチップの裏面と上記圧電体膜との間に上記ポリイミド層により設けられた空間であって、圧力発生室内のインクを加圧する際に圧電体膜の動きを阻害しないための空間と、を具備することを特徴とするインクジェットヘッド。
【請求項2】 駆動用基板と、この駆動用基板上にポリシリコン膜を介して配置されたドライバーICチップと、このドライバーICチップと駆動用基板との間に配置された圧電体膜と、この圧電体膜にドライバーICチップからの電圧を印加するためのボンディングワイヤと、上記駆動用基板内に形成された圧力発生室であって、上記圧電体膜によって加圧されるインクを入れる圧力発生室と、上記ドライバーICチップの裏面と上記圧電体膜との間に上記ポリシリコン膜により設けられた空間であって、圧力発生室内のインクを加圧する際に圧電体膜の動きを阻害しないための空間と、を具備することを特徴とするインクジェットヘッド。
【請求項3】 上記駆動用基板下に配置されたノズル基板と、このノズル基板に形成され、上記圧力発生室内で加圧されたインクの一部を吐出するためのノズル開口部と、をさらに含むことを特徴とする請求項1又は2記載のインクジェットヘッド。
【請求項4】 上記圧力発生室に連通して形成され、この圧力発生室にインクを供給するインク供給部をさらに含むことを特徴とする請求項1〜3のうちいずれか1項記載のインクジェットヘッド。
【請求項5】 上記インク供給部にインクを導入するためのインク導入口をさらに含むことを特徴とする請求項4記載のインクジェットヘッド。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2001−171107(P2001−171107A)
【公開日】平成13年6月26日(2001.6.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願平11−356506
【出願日】平成11年12月15日(1999.12.15)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】