説明

インクジェット捺染方法

【課題】
本発明の目的は、インクジェット捺染におけるこれらのブリードを改良し、上述の前処理工程を省略して、インクジェットプリントすることが可能となる捺染方法を提供することである。
【解決手段】
疎水性繊維材料に少なくとも3色以上の分散染料インクを用いて直接付与するインクジェット捺染方法において、分散染料インクの内の1乃至2色のインクのインクジェットノズルからの吐出量を他の色の30〜70%とすることを特徴とするインクジェット捺染方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は分散染料によるインクジェット捺染方法に関し、更に詳しくは予め繊維表面にインク受容性材料が付与されていない疎水性繊維材料に、少なくとも3色以上の分散染料インクを用いて直接付与するインクジェット捺染方法に関する。
【背景技術】
【0002】
分散染料を用いたポリエステル繊維のインクジェット捺染は、スクリーン捺染に比べ、まだ速度が遅いなどの課題はあるが、製版工程が不要なこと、素早く見本反が作製できる、小ロット短納期の加工に応えやすい、CADコンピュータシステムと連動させられるなどの利点があり、広く行われるようになってきた(非特許文献1、非特許文献2)。
【0003】
ポリエステル繊維のインクジェット捺染は、主に繊維へ染料インクを付与(プリント)した後、高温スチーミングなどの熱処理により染料を染着させるダイレクトプリント法と、中間記録媒体(専用の転写紙)に染料インクを付与(プリント)した後、熱により染料を中間記録媒体から繊維側へ昇華転写させる熱転写プリント法の2つの方法に大別される。
【0004】
ダイレクトプリント法は、主に衣料、カーシートなどの繊維資材用途に用いられ、(1)前処理工程:インクジェットプリンタを用いて繊維上に図柄を形成する際のインクの滲みを防止する為に、予め水溶性高分子などの糊剤をパディング等による方法で繊維に付与する(特許文献3、特許文献4)、(2)プリント工程:インクジェットプリンタにより染料インクを繊維に付与する、(3)固着工程:繊維に付与された染料を熱処理により繊維中に染着させる、(4)洗浄工程:未染着の染料及び糊剤などを繊維が除去する、の4つの工程が必要とされる。
【0005】
一方、熱転写プリントはのぼり旗等の捺染加工に主に用いられ、インク中には熱処理によるポリエステルへの転写適性に優れた易昇華型の染料が用いられる。加工工程としては、(1)プリント工程:インクジェットプリンタにより染料インクを中間媒体に付与する、(2)転写工程:熱処理により染料を中間媒体から繊維中に転写・染着させる、の2工程であり、市販の転写紙が広く使用できる為、前処理は必要とせず、また洗浄工程も、のぼり旗用途では省略されている。しかし、熱転写プリント方法は、転写工程において転写紙のしわによる転写不良などが起こり易い、易昇華性の染料を用いているために昇華堅牢度が劣る、また易昇華性と高耐光堅牢性を兼ね備える染料が限られ、フルカラーで耐光堅牢度が劣る等の問題がある。
【0006】
【非特許文献1】日本画像学会誌第41巻第2号p68(2002)
【非特許文献2】染織経済新聞2004年1月28日号)
【特許文献3】特公昭61−55277の3頁
【特許文献4】特開2004−292468
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
インクジェット方式によるポリエステル繊維のダイレクトプリント法は、熱転写プリント法に比べ適用できる染料の範囲が広く、耐光堅牢性や昇華堅牢性などが要求される用途など幅広い用途へ適用できる反面、前処理や洗浄などが必要な為にコストアップになること、前処理、固着、洗浄などに要する各設備が必要となることなどの問題があった。本発明者らが鋭意検討した結果、ポリエステル繊維へ複数の色のインクを用いて、直接プリントする場合、複数の色のインクを重ねうちする部分でブリードが大きく、更にプリント後の熱処理による固着工程で、インク中のグリセリンなどの影響でブリードが更に加速されることが分かった。
【0008】
本発明の目的は、インクジェット捺染におけるこれらのブリードを改良し、上述の前処理工程を省略して、インクジェットプリントすることが可能となる捺染方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは上記課題を解決する為に鋭意研究を行った結果、予め繊維表面にインク受容性材料が付与されていないポリエステル繊維などの疎水性繊維材料に、少なくとも3色以上の分散染料インクをインクジェットプリンタを用いて直接付与するインクジェット捺染方法において、1乃至2色のインクの染料濃度を通常よりも1.5〜3倍と高濃度にすると同時に、該インクのノズルからの吐出量を他色に比べ30%〜70%に低減することで、混色部の滲みを大幅に低減できることが分かった。更にインク中にノズル先端でのインクの乾燥防止及び物性調整の目的で添加されている有機溶剤を特定の材料及び特定の比率で組み合わせることで、固着工程におけるブリードを低減することができることを見出した。更にインクの吐出量調整によるブリード防止とインク中の特定の有機溶剤組成を用いる事によるブリード防止を組み合わせて行う事で大幅にブリードが低減でき、ポリエステルポンジ、ポリエステルスエード等の繊維織物に、インク受容性材料が付与されていない状態でもそのままプリントする事が可能であることを見出し本発明に至ったものである。即ち本発明は、
(1)疎水性繊維材料に、少なくとも3色以上の分散染料インクをインクジェットプリンタを用いて直接付与するインクジェット捺染方法において、その内の1乃至2色のインクのインクジェットノズルからの吐出量を他の色の30〜70%とすることを特徴とするインクジェット捺染方法。
(2)イエローインクの吐出量を、他色の30〜70%にする事を特徴とする
(1)に記載のインクジェット捺染方法
(3)少なくとも分散染料、水、下記式(1)に示される有機溶剤を少なくとも1種以上及び下記Bに示される有機溶剤を少なくとも1種以上を含有し、更に式(1)とBの有機溶剤の重量比率が4:1〜1:1の範囲であるインク組成物を用いる(1)乃至(2)に記載のインクジェット捺染方法
式(1)下記式1であらわされる多価アルコール
【0010】
【化1】

【0011】
(但し、nは1〜12までの整数)
B)炭素数3乃至5のアルカンジオール類、分子量200以上700以下のポリプロピレングリコール
(4)上記式(1)及びBの有機溶剤のインク中の含有量の合計が、15〜45重量%である(1)乃至(3)に記載のインクジェット捺染方法
(5)染料の固着方法が乾式固着であることを特徴とする(1)乃至(4)に記載のインクジェット捺染方法
(6)疎水性繊維材料が、インクの滲みを防止する処理をしていない繊維材料である(1)乃至(5)のいずれか1項に記載のインクジェット捺染方法
を提供するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明のインク組成物に用いられる分散染料としては、公知の分散染料を用いることができる。具体的にはC.I.ディスパースイエロー42、49、76、83、88、93、99、119、126、160、163、165、180、183、186、198、199、200、224、237、C.I.ディスパースオレンジ29、30、31、38、42、44、45、53、54、55、71、73、80、86、96、118、119、C.I.ディスパースレッド73、88、91、92、111、127、131、143、145、146、152、153、154、179、191、192、206、221、258、283、302、323、328、359、C.I.ディスパースバイオレット26、35、48、56、77,97、C.I.ディスパースブルー27、54、60、73、77、79、79:1、87、143、165、165:1、165:2、181、185、197、225、257、266、267、281、341、353、354、358、364、365、368等が挙げられ、用途によって要求される色相及び堅牢性を満足させ得るのに適した染料を使用できる。

これらの染料は粉末あるいは塊状の乾燥状態でも、ウエットケーキやスラリーの状態でも良く、染料合成中や合成後に染料粒子の凝集を抑える目的で界面活性剤等の分散剤が少量含有されたものであっても良い。市販のこれらの染料には、工業染色用、樹脂着色用インキ用、インクジェット用などのグレードがあり、製造方法、純度、染料の粒径等がそれぞれ異なる。粉砕後の凝集性を抑えるには染料としてはより粒子の小さいものが好ましく、また分散安定性及びインクの吐出精度への影響からできるだけ不純物の少ないものが好ましい。またブルー系染料を主体にオレンジ及びレッド系を配合する事でブラック用の染料として用いることができる。また色調調製の範囲内で他の染料を少量含んでも良い。
【0013】
本発明のインク組成物は上述の分散染料を、水中で微粒子に分散化した後に、インク化することで得ることができる。本発明の分散染料インクの分散染料の分散化に用いる分散剤としては、リグニンスルホン酸塩のホルマリン縮合物、クレオソート油スルホン酸塩のホルマリン縮合物、βナフタレンスルホン酸塩のホルマリン縮合物、アルキルナフタレンスルホン酸塩のホルマリン縮合物など公知のアニオン系分散剤を用いることができる。インクジェットインクとしての分散安定性の点で、これらのアニオン分散剤と併せて、フィトステロールのアルキレンオキサイド付加物、コレスタノールのアルキレンオキサイド付加物から選ばれる1種以上の分散剤を組み合わせて用いることが好ましい。
【0014】
アニオン系分散剤は市販のリグニンスルホン酸塩のホルマリン縮合物、クレオソート油スルホン酸塩のホルマリン縮合物、β−ナフタレンスルホン酸塩のホルマリン縮合物、アルキルナフタレンスルホン酸塩のホルマリン縮合物などを使用することができる。フィトステロールのアルキレンオキサイド付加物、コレスタノールのアルキレンオキサイド付加物の具体例としては、NIKKOL BPS−20、NIKKOL BPS−30(日光ケミカルズ株式会社製、フィトステロールのEO付加物)、NIKKOL BPSH−25(日光ケミカルズ株式会社製、水素添加フィトステロールのEO付加物)、NIKKOL DHC−30(日光ケミカルズ株式会社製、コレスタノールのEO付加物)等が挙げられる。
【0015】
染料を微粒子に分散する方法としては、サンドミル(ビーズミル)、ロールミル、ボールミル、ペイントシェーカー、超音波分散機、マイクロフルイダイザー等を用いる方法が挙げられるが、これらの中でもサンドミル(ビーズミル)が好ましい。またサンドミル(ビーズミル)における染料の粉砕においては、径の小さいビーズを使用する、ビーズの充填率を大きくすること等により粉砕効率を高めた条件で処理することが好ましく、更に粉砕処理後に濾過、遠心分離などで素粒子を除去することが好ましい。また粉砕時の泡立ち性を抑える目的でシリコーン系あるいはアセチレン系等の消泡剤を、染料粉砕時に極微量添加使用しても良い。
【0016】
分散時のスラリー中の染料濃度は20〜40重量%、分散剤は合わせて対色材の30−1100重量%程度で粉砕することが好ましく、分散化後あるいは濾過等の後処理後少量の水で分散液を稀釈し所望の染料濃度に調製できる。また分散化された染料を用いインクとして用いる場合、染料はインク中へ染料純分として0.5〜15重量%の範囲で含有するのが好ましい。また少なくとも3色以上の分散染料インクを用いる場合にインクジェットノズルからの吐出量を他の色の30〜70%に低減する色のインクには、インクの吐出量の低減を染料の濃度で補うことができる為に、他の色に比べカラーバリュー(吸光特性あるいは発色性)の優れる染料を用いることが望ましい。カラーバリューの高い染料としては、例えばイエロー系染料は非常に吸光度が高いものが多く、またアゾ系の赤色系染料や青色系染料も非常にカラーバリューが高く、プリンタの色再現性を考慮して、各インクの吐出量と発色濃度を調整することが望ましい。また分散後に水、湿潤剤、表面調製剤、消泡剤、防腐剤、pH調製剤などを添加する事でインク組成物を得ることが出来る。
【0017】
本発明のインクにおいて用いられる有機溶剤は、上記式(1)に示される多価アルコール((ポリ)グリセリン)より1種類以上及び下記Bに示される有機溶剤より1種以上を選んで用いることができる。
B)炭素数3乃至5のアルカンジオール類、分子量200以上700以下のポリプロピレングリコール
【0018】
上記式(1)で示される多価アルコールの具体例としては、グリセリン、ジグリセリン、ポリグリセリンが挙げられる。上記Bで示される有機溶剤の具体例としては、プロピレングリコール、1,3ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1、5−ペンタンジオール、ポリプロピレングリコールなどが挙げられる。本発明者らの検討で、式1で示す多価アルコールは、分散染料の分散安定性を維持する点で優れている反面、分散染料の固着工程でのインクのブリードを引き起こすということ、及び式1のnが大きいほどブリードを小さく抑える傾向にあることなどが分かった。またこのブリードは式1の多価アルコールのインク中への添加量が多いほど大きくなることが予測できるので、インクの粘度、分散安定性、ブリード性をみながら、式1の多価アルコールを選択使用することが好ましい。またBの溶剤も分散染料の分散安定性を維持する点で良好であるが、添加量が多くなると分散安定性を劣化させる傾向にあり、また保湿効果は式1の多価アルコールほど高くない為、式1の多価アルコールと併用することで、分散安定性とブリード性を両立できる。また本発明のインク組成物には、分散安定性とブリード性に影響を及ぼさない範囲で、ノズルでの目詰まり防止の目的で湿潤効果のある公知の有機溶剤を添加してもよく、例としてはエチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、トリメチロールプロパン、1,3−ペンタンジオール、1,5−ペンタンジオール等の多価アルコール類、尿素、エチレン尿素、2−ピロリドン、N−メチル−2−ピロリドン、糖類などが挙げられる。これらの有機溶剤はインク中に15−45重量%程度添加するのが好ましい。
【0019】
本発明のインクジェット捺染用インク組成物は、使用するプリンタに応じて物性を調整することが好ましく、25℃における粘度は2−20mPa・s、表面張力が25−45mN/mの範囲が好ましい。更に詳細には使用するプリンタの吐出量、応答速度、インク液滴飛行特性などを考慮し適切な物性値に調製する必要がある。また本発明のインク組成物にはその他の添加剤として表面調整剤、防腐剤、防黴剤、pH調整剤などを含んでも良い。表面調整剤としては、ポリシロキサン系あるいはポリジメチルシロキサン系の界面活性剤、防腐・防黴剤としてはデヒドロ酢酸ナトリウム、安息香酸ナトリウム、ソジウムピリジンチオン−1−オキサイド、ジンクピリジンチオン−1−オキサイド、1,2−ベンズイソチアゾリン−3−オン、1−ベンズイソチアゾリン−3−オンのアミン塩等を、pH調整剤としては水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム等の水酸化アルカリ類、トリエタノールアミン、ジエタノールアミン、ジメチルエタノールアミン、ジエチルエタノールアミン等の3級アミン類などが挙げられ、それぞれ必要に応じて添加することができる。本発明のインク組成物は上記各成分を適宜、適当な方法で水に分散及び混合することによって調整することができる。
【0020】
本発明の捺染方法では連続式、サーマル方式、ピエゾ方式などの公知のインクジェットプリンタを用いることができる。また捺染の対象となる疎水性繊維材料としては、分散染料によって染色され得る繊維であれば適用でき、具体的には例えば、ポリエチレンテレフタレートなどのポリエステル繊維、カチオン可染ポリエステル繊維、アセテート繊維、ジアセテート繊維、トリアセテート繊維、ポリ乳酸繊維などが挙げられる。また本発明のインク組成物を用いることで、これらの疎水性材料にインク受容層を設けるための前処理なしで、プリントすることも可能である。本発明の捺染における熱固着方法としては、常圧スチーマー、高温スチーマー、高圧スチーマー等のスチーマーによる湿式固着、あるいはヒートセッター、ヒーター等による乾式固着方法が挙げられる。工程短縮の為には、ヒーター等の固着装置が備わっているインクジェットプリンターを用いることも出来る。なお、2色以上のインクを同じ場所に重ねて吐出する際にそれらの吐出量が多いとにじみが発生する場合があるが、インクの吐出量を制限することによりこの現象を抑えることができる。
【0021】
本発明を実施例、製造例及び比較例に基づいて更に具体的に説明するが、これらの実施例により本発明が限定されるものではない。また、特に断りのない限り、部は質量部、濃度は質量%を示す。
【0022】
製造例1
下記組成割合の下記成分を、0.3mm径ガラスビーズを用いサンドミルにて水冷下約15時間分散処理を行い、分散処理終了後イオン交換水100部を追加して染料濃度15%の水性分散液を調整した。次いで当該分散液をガラス繊維濾紙GC−50(東洋濾紙株式会社製)で濾過し、粗大粒子を除去し水性分散液を得た。水性分散液の染料濃度は約15%である。平均粒径99nm、粘度3.5mPa・sであった。
尚、粘度は東洋産業社性R−115型粘度計(E型)、平均粒径は色材濃度0.5質量%までイオン交換水で希釈し、粒度分布測定装置LB−500(堀場製作所製)を用いて体積平均のメジアン径を測定した。
表1
C.I.ディスパースレッド92(注1) 30.0部
ラベリンAN−40(注2) 45.0部
NIKKOL BPS−30(注3) 1.8部
サーフィノール104PG50(注4) 0.2部
イオン交換水 23.0部
注1:日本化薬(株)製
注2:第一工業製薬(株)製、メチルナフタレンスルホン酸塩のホルマリン縮合物の40%水溶液
注3:日光ケミカルズ(株)製、フィトステロールのEO(30)付加物
注4:エアープロダクツ社製、アセチレングリコール系消泡剤
【0023】
製造例2
下記割合の下記成分を製造例1と同様に分散処理、イオン交換水希釈及び濾過を行い、水性分散液を得た。この水性分散液の染料濃度は15%である。平均粒径40nm、粘度3.7mPa・sであった。
表2
C.I.ディスパースブルー60(注5) 30.0部
ラベリンAN−40 45.0部
NIKKOL BPS−30 1.8部
サーフィノール104PG50 0.2部
イオン交換水 23.0部
注5:日本化薬(株)製
【0024】
製造例3
下記割合の下記成分製造例1と同様に分散処理、イオン交換水希釈及び濾過を行い、水性分散液を得た。この水性分散液の染料濃度は15%である。平均粒径97nm、粘度3.4mPa・sであった。
表3
カヤセットイエローA−H(注6) 30.0部
ラベリンAN−40 45.0部
NIKKOL BPS−30 1.8部
サーフィノール104PG50 0.2部
イオン交換水 23.0部
注6:日本化薬(株)製、C.I.ディスパースイエロー160
【0025】
製造例4
下記処方のものを混合することにより本発明のインク組成を調整し、0.8μmのフィルター(DISMIC 25CS080AN)にて加圧濾過し、インクジェットプリント用のインク組成物とした。粘度3.8mPa・s、平均粒径92nm、表面張力33mN/mであった。得られたインク組成物を市販のプリンター(ローランド ディー.ジー.社製Versa CAMM SP−300)により、市販のポリエステル布(ポンジ)にダイレクトプリント法により印字し、吐出性と繊維上での滲み(印刷直後)を評価した。また同様に、印刷物に190℃、45秒の熱処理を実施した後、繊維上での滲み(加熱処理後)を評価した。また印刷画像は鮮明なマゼンタ色となってポリエステル布(ポンジ)へ染色された。
染色されたポリエステル布(ポンジ)の堅牢度は、耐光堅牢度(JIS L−0842、カーボン)=7級と非常に優れる水準であった。
尚、粘度と平均粒径は製造例1と同じ方法で測定し、表面張力は協和界面科学社製CBVP−Z型表面張力計(プレート法)を用いて測定した。
表4
製造例1の分散液 43.33部
イオン交換水 34.14部
ポリグリセリン#750(注7) 15.00部
プロピレングリコール 7.50部
BYK−348(注8) 0.03部
注7:商品名、阪本薬品工業社製、式(1)の多価アルコール(n=10)
注8:商品名、ビックケミー社製、表面調整剤
【0026】
製造例5
下記処方のものを、製造例4と同様にしてインク組成物を調整した。粘度3.6mPa・s、平均粒径95nm、表面張力34mN/mであった。得られたインク組成物を製造例4と同様に印刷と熱処理を行い、吐出性と繊維状での滲み(印刷直後及び加熱処理後)を評価した。また熱処理後の印刷画像は鮮明なマゼンタ色となってポリエステル布(ポンジ)へ染色された。
表5
製造例1の分散液 43.33部
イオン交換水 29.64部
グリセリン 18.00部
1,3−ブタンジオール 9.00部
BYK−348 0.03部
【0027】
製造例6
下記処方のものを、製造例4と同様にしてインク組成物を調整した。粘度3.7mPa・s、平均粒径50nm、表面張力35mN/mであった。得られたインク組成物を製造例4と同様に印刷と熱処理を行い、吐出性と繊維状での滲み(印刷直後及び加熱処理後)を評価した。また熱処理後の印刷画像は鮮明なシアン色となってポリエステル布(ポンジ)へ染色された。
染色されたポリエステル布(ポンジ)の堅牢度は、耐光堅牢度(JIS L−0842、カーボン)=7級と非常に優れる水準であった。
表6
製造例2の分散液 43.33部
イオン交換水 29.64部
グリセリン 18.00部
1,5−ペンタンジオール 9.00部
BYK−348 0.03部
【0028】
製造例7
下記処方のものを、製造例4と同様にしてインク組成物を調整した。粘度3.8mPa・s、平均粒径55nm、表面張力34mN/mであった。得られたインク組成物を製造例4と同様に印刷と熱処理を行い、吐出性と繊維状での滲み(印刷直後及び加熱処理後)を評価した。また熱処理後の印刷画像は鮮明なシアン色となってポリエステル布(ポンジ)へ染色された。
表7
製造例2の分散液 43.33部
イオン交換水 29.64部
グリセリン 18.00部
ポリプロピレングリコール400(注9) 9.00部
BYK−348 0.03部
注9:平均分子量約400のポリプロピレングリコール
【0029】
製造例8
下記処方のものを、製造例4と同様にしてインク組成物を調整した。粘度4.0mPa・s、平均粒径105nm、表面張力34mN/mであった。得られたインク組成物を製造例4と同様に印刷と熱処理を行い、吐出性と繊維状での滲み(印刷直後及び加熱処理後)を評価した。また熱処理後の印刷画像は鮮明なイエロー色となってポリエステル布(ポンジ)へ染色された。
染色されたポリエステル布(ポンジ)の堅牢度は、耐光堅牢度(JIS L−0842、カーボン)=6−7級と非常に優れる水準であった。
表8
製造例3の分散液 18.58部
イオン交換水 51.39部
ポリグリセリン#750 20.00部
プロピレングリコール 10.00部
BYK−348 0.03部
【0030】
製造例9
下記処方のものを、製造例4と同様にしてインク組成物を調整した。粘度4.2mPa・s、平均粒径102nm、表面張力34mN/mであった。得られたインク組成物を製造例4と同様に印刷と熱処理を行い、吐出性と繊維状での滲み(印刷直後及び加熱処理後)を評価した。また熱処理後の印刷画像は鮮明なイエロー色となってポリエステル布(ポンジ)へ染色された。
表9
製造例3の分散液 9.29部
イオン交換水 57.68部
ポリグリセリン#750 22.00部
プロピレングリコール 11.00部
BYK−348 0.03部
【0031】
製造例4〜製造例9で得られたインクの吐出性の評価、繊維上での滲みの評価(印刷直後)、繊維上での滲みの評価(加熱処理後)と熱処理後の印刷画像の色相をの結果を表10にまとめた。
吐出性の評価の判定基準は以下に示す。
○ 1000mm×1000mmベタを10枚連続印刷し、最後まで良好に印刷できた。
△ 同印刷で僅かスジ欠けあり。
× 同印刷で吐出不良激しい。
繊維上での滲みの評価(印刷直後及び加熱処理後)の判定基準は以下に示す。
○ 文字や抜き文字、細線パターンに滲み・つぶれ等が殆ど無く、良好な印刷が出来た。
△ 僅かに滲みやつぶれが確認できる。
× 著しい滲みが・つぶれが確認できる。
【0032】
【表10】

【0033】
表10より明らかなように、上記製造例4〜9のインク組成物はいずれも吐出性、繊維状での滲み(印刷直後及び加熱処理後)に優れている。
【0034】
実施例1
市販のプリンター(ローランド ディー.ジー.社製Versa CAMM SP−300、イエロー、マゼンタ、シアン、ブラックの4色機)に、製造例8のイエローインクと製造例4のマゼンタインクを搭載し、製造例8のイエローインクと製造例4のマゼンタインクの出力混合比(体積比)が50:100になるように、市販のポリエステル布(ポンジ)に印字し、繊維上での滲み(印刷直後)を評価した。また同様に、印刷物に190℃、45秒の熱処理を実施した後、繊維上での滲み(加熱処理後)を評価した。また印刷画像は鮮明なレッド色となってポリエステル布(ポンジ)へ染色された。
【0035】
実施例2
市販のプリンター(ローランド ディー.ジー.社製Versa CAMM SP−300、イエロー、マゼンタ、シアン、ブラックの4色機)に、製造例8のイエローインクと製造例5のマゼンタインクを搭載し、製造例8のイエローインクと製造例5のマゼンタインクの出力混合比(体積比)が50:100になるように、市販のポリエステル布(ポンジ)に印字し、繊維上での滲み(印刷直後)を評価した。また同様に、印刷物に190℃、45秒の熱処理を実施した後、繊維上での滲み(加熱処理後)を評価した。また印刷画像は鮮明なレッド色となってポリエステル布(ポンジ)へ染色された。
【0036】
実施例3
市販のプリンター(ローランド ディー.ジー.社製Versa CAMM SP−300、イエロー、マゼンタ、シアン、ブラックの4色機)に、製造例8のイエローインクと製造例6のシアンインクを搭載し、製造例8のイエローインクと製造例6のシアンインクの出力混合比(体積比)が50:100になるように、市販のポリエステル布(ポンジ)に印字し、繊維上での滲み(印刷直後)を評価した。また同様に、印刷物に190℃、45秒の熱処理を実施した後、繊維上での滲み(加熱処理後)を評価した。また印刷画像は鮮明なグリーン色となってポリエステル布(ポンジ)へ染色された。
【0037】
実施例4
市販のプリンター(ローランド ディー.ジー.社製Versa CAMM SP−300、イエロー、マゼンタ、シアン、ブラックの4色機)に、製造例8のイエローインクと製造例7のシアンインクを搭載し、製造例8のイエローインクと製造例7のシアンインクの出力混合比(体積比)が50:100になるように、市販のポリエステル布(ポンジ)に印字し、繊維上での滲み(印刷直後)を評価した。また同様に、印刷物に190℃、45秒の熱処理を実施した後、繊維上での滲み(加熱処理後)を評価した。また印刷画像は鮮明なグリーン色となってポリエステル布(ポンジ)へ染色された。
【0038】
比較例1
市販のプリンター(ローランド ディー.ジー.社製Versa CAMM SP−300、イエロー、マゼンタ、シアン、ブラックの4色機)に、製造例9のイエローインクと製造例4のマゼンタインクを搭載し、製造例9のイエローインクと製造例4のマゼンタインクの出力混合比(体積比)が100:100になるように、市販のポリエステル布(ポンジ)に印字し、繊維上での滲み(印刷直後)を評価した。また同様に、印刷物に190℃、45秒の熱処理を実施した後、繊維上での滲み(加熱処理後)を評価した。また印刷画像は鮮明なレッド色となってポリエステル布(ポンジ)へ染色された。
【0039】
比較例2
市販のプリンター(ローランド ディー.ジー.社製Versa CAMM SP−300、イエロー、マゼンタ、シアン、ブラックの4色機)に、製造例9のイエローインクと製造例5のマゼンタインクを搭載し、製造例9のイエローインクと製造例5のマゼンタインクの出力混合比(体積比)が100:100になるように、市販のポリエステル布(ポンジ)に印字し、繊維上での滲み(印刷直後)を評価した。また同様に、印刷物に190℃、45秒の熱処理を実施した後、繊維上での滲み(加熱処理後)を評価した。また印刷画像は鮮明なレッド色となってポリエステル布(ポンジ)へ染色された。
【0040】
比較例3
市販のプリンター(ローランド ディー.ジー.社製Versa CAMM SP−300、イエロー、マゼンタ、シアン、ブラックの4色機)に、製造例9のイエローインクと製造例6のシアンインクを搭載し、製造例9のイエローインクと製造例6のシアンインクの出力混合比(体積比)が100:100になるように、市販のポリエステル布(ポンジ)に印字し、繊維上での滲み(印刷直後)を評価した。また同様に、印刷物に190℃、45秒の熱処理を実施した後、繊維上での滲み(加熱処理後)を評価した。また印刷画像は鮮明なグリーン色となってポリエステル布(ポンジ)へ染色された。
【0041】
比較例4
市販のプリンター(ローランド ディー.ジー.社製Versa CAMM SP−300、イエロー、マゼンタ、シアン、ブラックの4色機)に、製造例9のイエローインクと製造例7のシアンインクを搭載し、製造例9のイエローインクと製造例7のシアンインクの出力混合比(体積比)が100:100になるように、市販のポリエステル布(ポンジ)に印字し、繊維上での滲み(印刷直後)を評価した。また同様に、印刷物に190℃、45秒の熱処理を実施した後、繊維上での滲み(加熱処理後)を評価した。また印刷画像は鮮明なグリーン色となってポリエステル布(ポンジ)へ染色された。
【0042】
次に実施例1〜実施例4、比較例1〜比較例4で得られた印刷・染色物の滲みの評価(印刷直後)と熱処理後の印刷画像の色相を表11にまとめた。繊維上での滲みの評価(印刷直後及び加熱処理後)の判定基準は上記のものを採用した。
【0043】
【表11】

【0044】
表11より明らかなように、上記実施例1〜4の本発明捺染方法は繊維状での滲み(印刷直後及び加熱処理後)が無く良好な印刷物及び染色物が出来た。
比較例1〜4の印刷物及び染色物は、印刷直後の滲み、及び熱処理後の滲み共に悪く結果となった。
更に、実施例1、実施例2、比較例1、比較例2の色相は同等のレッド色を示し、また実施例3、実施例4、比較例3、比較例4の染色物の色相が同様のグリーン色を示した。
よって、本発明インクジェット捺染方法によって、印刷直後の滲み、及び熱処理後の滲みが無く、良好な色相を表面できる方法が確立できた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
疎水性繊維材料に少なくとも3色以上の分散染料インクを用いて直接付与するインクジェット捺染方法において、分散染料インクの内の1乃至2色のインクのインクジェットノズルからの吐出量を他の色の30〜70%とすることを特徴とするインクジェット捺染方法。
【請求項2】
イエローインクの吐出量を、他色の30〜70%にする事を特徴とする
請求項1に記載のインクジェット捺染方法
【請求項3】
少なくとも分散染料、水、下記式(1)に示される有機溶剤を少なくとも1種以上及び下記Bに示される有機溶剤を少なくとも1種以上を含有し、更に式(1)とBの有機溶剤の重量比率が4:1〜1:1の範囲であるインク組成物である請求項1または2に記載のインクジェット捺染方法
式(1)下記式1であらわされる多価アルコール
【化1】

(但し、nは1〜12までの整数)
B)炭素数3乃至5のアルカンジオール類、分子量200以上700以下のポリプロピレングリコール
【請求項4】
上記式(1)及びBの有機溶剤のインク中の含有量の合計が、15〜45重量%である請求項1乃至3のいずれか1項に記載のインクジェット捺染方法
【請求項5】
染料の固着方法が乾式固着であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載のインクジェット捺染方法
【請求項6】
疎水性繊維材料が、インクの滲みを防止する処理をしていない繊維材料である請求項1乃至5のいずれか1項に記載のインクジェット捺染方法

【公開番号】特開2007−238687(P2007−238687A)
【公開日】平成19年9月20日(2007.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−60371(P2006−60371)
【出願日】平成18年3月6日(2006.3.6)
【出願人】(000004086)日本化薬株式会社 (921)
【Fターム(参考)】