説明

インクジェット捺染方法

【課題】高い印捺濃度を維持しながら、同時に曳糸性が低下するので、連続的な前処理工
程が可能になるインクジェット捺染用前処理剤及びインクジェット捺染方法を提供する。
【解決手段】前処理剤は、反応染料を含有する捺染用インクジェットインクと組み合わせ
て用いる水系前処理剤であって、少なくともポリオキシエチレン/ポリオキシプロピレン
共重合体、ヒドロトロピー剤、及びアルカリ剤を含む。インクジェット捺染方法は、前記
の前処理剤によって予め処理した布帛に、反応染料を含有する捺染用インクジェットイン
クを吐出させる工程を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、捺染用インクジェットインク用の水系前処理剤に関する。本発明による前処
理剤は、反応染料を含有する捺染用インクジェットインクと組み合わせて用いる。
【背景技術】
【0002】
インクジェット印刷は、インクの小滴を飛翔させ、紙やトランスペアレンシーフィルム
等の記録媒体に付着させる方法である。この方法は、比較的安価な装置で、高解像度及び
高品位な画像を高速で印刷することができる。
【0003】
このインクジェット印刷方法を捺染に適用したインクジェット捺染方法は、予め前処理
された各種の布帛にインクの小滴を吐出させ、インクを付着させるため、階調性及び多色
表現性等に優れた種々の画像を布帛上に容易に形成することができる。また、インクジェ
ット捺染では、従来の印捺工程で発生する余剰のインクが殆ど発生しないので、環境保全
にも有効である。
【0004】
従来のスクリーン捺染法と同程度の捺染濃度や鮮明性を、インクジェット捺染方法で達
成するために種々の前処理剤が提案されている。例えば、特開平8−127982号公報
(特許文献1)には、通常の前処理剤の基本的配合成分である糊剤と尿素とアルカリ剤に
加えて、粘度平均分子量10万以上のポリエチレンオキサイド樹脂を含む水系前処理剤が
記載されており、布帛ににじみのない深みのある高濃度画像を記録することができるもの
としている。
【0005】
【特許文献1】特開平8−127982号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、前記特許文献1に記載の前処理剤は、湿潤状態において曳糸性(ねばね
ばして糸を引く性質)が強いためにパディング特性に劣っており、特に連続的な前処理操
作を実施する際の欠点となっていた。すなわち、各種コーター又はパディング機で前記の
前処理剤を布帛に塗工し、湿潤状態の塗工布帛を乾燥工程に搬送する際にローラー間を通
過させると、前処理剤の曳糸性(粘着性)によって湿潤塗工布帛がローラー表面に粘着し
て剥離性が悪くなり、連続処理に支障を生じたり、通過速度を遅らせる必要があった。
従来、反応染料を含有する捺染用インクジェットインクと組み合わせて使用する前処理
剤において、布帛ににじみを生ずることが無く、深みのある高濃度画像を記録することが
でき、しかも曳糸性が低く、連続処理的な前処理工程が可能な前処理剤は、提案されてい
ない。
従って、本発明の課題は、反応染料を含有する捺染用インクジェットインクと組み合わ
せて使用する前処理剤であって、布帛ににじみを生ずることが無く、発色性が向上し、し
かも曳糸性が低く、連続処理的な前処理工程が可能な前処理剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記の課題は、本発明により、
反応染料を含有する捺染用インクジェットインクと組み合わせて用いる水系前処理剤で
あって、少なくともポリオキシエチレン/ポリオキシプロピレン共重合体、ヒドロトロピ
ー剤、及びアルカリ剤を含むことを特徴とする、インクジェット捺染用の前処理剤によっ
て解決することができる。
【0008】
本発明による前処理剤の好ましい態様においては、更に、アルギン酸ナトリウム、カル
ボキシメチルセルロース、及び澱粉からなる群から選んだ糊剤少なくとも1種を含む。
本発明による前処理剤の好ましい態様においては、更に、均染剤(例えば、多価アルコ
ール脂肪酸エステル)を含む。
本発明による前処理剤の好ましい態様においては、ポリオキシエチレン/ポリオキシプ
ロピレン共重合体の粘度平均分子量が10万以下である。
本発明による前処理剤の好ましい態様においては、更に、還元防止剤(例えば、メタ−
ニトロベンゼンスルホン酸ナトリウム)を含む。
本発明による前処理剤の好ましい態様においては、ヒドロトロピー剤は尿素である。
【0009】
本発明は、前記の前処理剤によって処理した布帛にも関する。
更に、本発明は、前記の前処理剤によって予め処理した布帛に、反応染料を含有する捺
染用インクジェットインクを吐出させる工程を含むことを特徴とする、インクジェット捺
染方法にも関する。
【0010】
本発明による前処理剤は、ポリオキシエチレン/ポリオキシプロピレン共重合体を含有
するので、高い印捺濃度を維持しながら、同時に曳糸性が低下するので、連続的な前処理
工程が可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
[前処理剤]
(ポリオキシエチレン/ポリオキシプロピレン共重合体)
本発明の前処理剤は、ポリオキシエチレン/ポリオキシプロピレン共重合体を含有する
。ポリオキシエチレン/ポリオキシプロピレン共重合体は、式(1):
HO−〔CH2CH2O〕m−〔CH(CH3)CH2O〕n−H (1)
(式中、mは2以上の整数、好ましくは30以上の整数であり、nは2以上の整数、好
ましくは30以上の整数である)
で表される高分子化合物である。前記の式(1)において、〔CH2CH2O〕のエチレ
ンオキシド繰返単位と、〔CH(CH3)CH2O〕のプロピレンオキシド繰返単位とは、
それぞれ、ブロック状(例えば、A−B型又はA−B−A型)又はランダム状に存在する
ことができる。好ましいポリオキシエチレン/ポリオキシプロピレン共重合体は、式(2
):
HO−〔CH2CH2O〕p−〔CH(CH3)CH2O〕q−〔CH2CH2O〕r−H
(2)
(式中、p、q、及びrは、それぞれ独立して2以上の整数、好ましくは30以上の整
数である)
で表される高分子化合物である。
【0012】
本発明の前処理剤において使用されるポリオキシエチレン/ポリオキシプロピレン共重
合体の粘度平均分子量は特に限定されず適宜決定することができるが、好ましくは10万
以下であり、より好ましくは8万以下であり、更に好ましくは4万以下である。前記のポ
リオキシエチレン/ポリオキシプロピレン共重合体の粘度平均分子量の下限も特に限定さ
れないが、好ましくは5000以上であり、より好ましくは1万以上である。前記の粘度
平均分子量が10万を超えると、曳糸性が強くなり、連続的な前処理工程が困難になる。
また、5000未満になると増膜性が低くなることがある。
【0013】
本発明の前処理剤において、ポリオキシエチレン/ポリオキシプロピレン共重合体の含
有量は特に限定されず適宜決定することができるが、前処理剤の全重量に対して0.1〜
10重量%程度が好ましく、より好ましくは0.5〜3重量%程度である。ポリオキシエ
チレン/ポリオキシプロピレン共重合体料の含有量が0.1重量%未満になると、効果が
乏しくなることがあり、10重量%を超えると、粘性が高く塗布し難いことがある。
【0014】
(ヒドロトロピー剤)
本発明の前処理剤は、ヒドロトロピー剤を含有する。ヒドロトロピー剤としては、例え
ば、尿素、ジメチル尿素、チオ尿素、モノメチルチオ尿素、又はジメチルチオ尿素等のア
ルキル尿素を用いることができる。
ヒドロトロピー剤の含有量は、特に限定されるものではないが、前処理剤の全重量に対
して、好ましくは1〜15重量%、更に好ましくは3〜10重量%である。ヒドロトロピ
ー剤の含有量が1重量%未満になると、発色効果が低いことがあり、15重量%を超える
と、ヒドロトロピー剤の粉末が浮遊し、ヘッド詰まりの原因となることがある。
【0015】
(アルカリ剤)
本発明の前処理剤は、アルカリ剤を含有する。アルカリ剤としては、好適には、ナトリ
ウム灰、水酸化ナトリウム、第三リン酸ナトリウム、又は酢酸ナトリウム等を挙げること
ができ、特に好適には重炭酸ナトリウムを挙げることができる。
アルカリ剤の含有量は、特に限定されるものではないが、前処理剤の全重量に対して、
好ましくは1〜7重量%、更に好ましくは2〜5重量%である。アルカリ剤の含有量が1
重量%未満になると、定着反応促進効果が少なくなることがあり、7重量%を超えると、
絹等の動物性繊維を傷めることがある。
【0016】
(糊剤)
本発明の前処理剤は、糊剤を含むことが好ましい。糊剤としては、例えば、グアー、ロ
ーカストビーン等の天然ガム類、澱粉類、アルギン酸ソーダ、ふのり等の海草類、ペクチ
ン酸等の植物皮類、メチル繊維素、エチル繊維素、ヒドロキシエチルセルロース、カルボ
キシメチルセルロース等の繊維素誘導体、焙焼澱粉、アルファ澱粉、カルボキシメチル澱
粉、カルボキシエチル澱粉、ヒドロキシエチル澱粉等の加工澱粉、シラツガム系、ロース
トビーンガム系等の加工天然ガム、アルギン誘導体、あるいは、ポリビニールアルコール
、ポリアクリル酸エステル等の合成糊、エマルジョン等が用いられ、これらの1種又は2
種以上を組み合わせて使用することができる。
糊剤としては、アルギン酸ナトリウム、カルボキシメチルセルロース、又は澱粉の1種
又は2種以上を組み合わせて使用するのが好ましい。
糊剤の含有量は、特に限定されるものではないが、前処理剤の全重量に対して、好まし
くは0.1〜5重量%、更に好ましくは0.3〜2重量%である。糊剤の含有量が0.1
重量%未満になると、滲み防止効果が少なくなることがあり、5重量%を超えると、高粘
性となり、塗工が難しくなることがある。
【0017】
(均染剤)
本発明の前処理剤は、均染剤を含むことが好ましい。均染剤としては、例えば、多価ア
ルコール脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、又は
ペンタエリスリット脂肪酸エステルを用いることができ、多価アルコール脂肪酸エステル
〔例えば、日華化学(株)から市販されているサンフローレン〕を用いるのが好ましい。
均染剤の含有量は、インク中の染料量及び種類に依存して適宜決定され、特に限定され
るものではないが、均染剤の含有量は、前処理剤の全重量に対して、好ましくは0.1〜
5重量%、更に好ましくは0.3〜2重量%である。均染剤の含有量が0.1重量%未満
になると、発色効果が少なくなることがあり、5重量%を超えると、滲みが発生すること
がある。
【0018】
(還元防止剤)
還元防止剤としては、ニトロベンゼンスルホン酸塩を用いるのが好ましく、メタニトロ
ベンゼンスルホン酸塩を用いるのがより好ましい。塩は、例えば、アルカリ金属塩であり
、好ましくはナトリウム塩である。
還元防止剤の含有量は、特に限定されるものではないが、前処理剤の全重量に対して、
好ましくは0.1〜7重量%、更に好ましくは1〜5重量%である。還元防止剤の含有量
が0.1重量%未満になると、蒸熱後の染着色が不安定となることがあり、5重量%を超
えても、それ以上色安定効果は変わらない。なお、前処理液に還元防止剤を添加する効果
は、インク中に染料としてC.I.リアクティブブルー176を含む場合に特に有効であ
る。
【0019】
(水)
本発明の前処理剤において、水は主溶媒である。水は、イオン交換水、限外濾過水、逆
浸透水、又は蒸留水等の純水、又は超純水を用いることができる。また、紫外線照射、又
は過酸化水素添加などにより滅菌した水を用いることにより、前処理剤を長期保存する場
合にカビやバクテリアの発生を防止することができるので好適である。
【0020】
(その他の添加物)
発色を向上させるために前記の各成分に加えて、シリカ及び/又はアルミナを添加する
こともできる。
【0021】
[捺染用インクジェットインク]
(染料)
本発明の前処理剤は、反応染料を含有する捺染用インクジェットインクと組み合わせて
用いる。本発明の前処理剤と組み合わせて用いる捺染用インクジェットインクに含まれる
反応染料は、加熱蒸着により布帛と化学接合して定着する性質を有する限り、特に制限さ
れないが、例えば、モノクロロトリアジニル基、ジクロロトリアジニル基、クロルピリミ
ジル基、ビニルスルホン基、又はアルキル硫酸基等を反応基として有する染料が好ましい
。これらの染料は、個々の目的により選択される。例えば、高濃度の黒色を特に所望する
際はビニルスルホン系反応染料が好適である。また、捺染用インクジェットインクを長時
間保存することが必要な際は、モノクロロトリアジニル骨格、即ちモノクロロ置換1,3
,5−トリアジン2−イル骨格を有する染料が好ましい。モノクロロトリアジニル骨格を
有する反応染料は比較的熱安定が優れているため、長時間保存安定性が要求されるインク
ジェットインク用染料として特に好適である。捺染用インクジェットインクに含まれる反
応染料の具体例を以下に列挙する。
C.I.リアクティブイエロー3、6、12、18、86、
C.I.リアクティブオレンジ2、5、12、13、20、
C.I.リアクティブレッド3、4、7、12、13、15、16、24、29、31
、32、33、43、45、46、58、59、
C.I.リアクティブバイオレット1、2、
C.I.リアクティブブルー2、3、5、7、13、14、15、25、26、39、
40、41、46、49、176、
C.I.リアクティブグリーン5、8、
C.I.リアクティブブラウン1、2、7、8、9、11、14、及び
C.I.リアクティブブラック1、2、3、8、10、12、13、
なお、本明細書において反応染料とは、カラーインデックス中で反応染料に分類されて
いる化合物をいう。
【0022】
本発明の前処理剤と組み合わせて用いる捺染用インクジェットインクにおいて、反応染
料の含有量は特に限定されず適宜決定することができるが、インクの全重量に対して1〜
15重量%程度が好ましく、より好ましくは6〜12重量%程度である。反応染料の含有
量が6重量%未満になると、充分な印捺濃度を得ることができず、15重量%を超えると
、インクジェット用インクに求められる吐出安定性が悪化し、特に高温下では吐出不良と
なることがある。また、印捺階調性を特に得たい場合は、上記インクに加えて、染料濃度
6重量%以下の淡色系インクを加えることで、中〜低濃度の階調性が向上する。
【0023】
(緩衝剤)
本発明の前処理剤と組み合わせて用いる捺染用インクジェットインクは、緩衝剤を加え
てpHを安定させることが望ましい。またpHを9以下に調整することによりインク液中
の反応染料の加水分解を遅延させることができる。加水分解の進行は布帛の定着濃度を低
下させるのみならず、インクを強い酸性領域に進めるため印捺機を腐食しやすくなる。特
に、プリントヘッド部分の腐食はインクジェットシステムに大きなダメージを与える。本
本発明の前処理剤と組み合わせて用いる捺染用インクジェットインクの好適なpHは6〜
9、更に好適には7〜8.5である。pHがあまり高くなると反応染料の加水分解が進行
しやすくなる。例えば30℃で1年以上放置することを要する場合は、pH9以下が好ま
しい。但し、短期間でインクを使い切る場合は、インクのpHが10を超えても差し支え
ない。
【0024】
これらのpHは、緩衝剤を用いて調整することができる。これらの緩衝剤としては、例
えば、2−ヒドロキシ−3−モノフォリノプロパンスルホン酸、N−シクロヘキシル−3
−アミノプロパンスルホン酸(CAPS)、N−シクロヘキシル−2−アミノエタンスル
ホン酸、2−[4−(2−ヒドロキシエチル)−1−ピペラジニル]エタンスルホン酸、
N,N−Bis−(2−ヒドロキシエチル)グリシン、リン酸、又はトリポリリン酸等の
ナトリウム又はカリウム塩を挙げることができる。本発明の前処理剤と組み合わせて用い
る捺染用インクジェットインクにおいては、緩衝剤としてはリン酸系緩衝剤を用いること
が好ましい。
【0025】
(水)
本発明の前処理剤と組み合わせて用いるインクジェット捺染インクにおいては、水とし
ては任意の水を用いることができるが、純水を用いるのが好ましい。純水は、イオン交換
、又は蒸留等で容易に製造することができる。また、純水を更に紫外線等で滅菌処理する
のが更に好ましい。
【0026】
(還元防止剤)
本発明の前処理剤と組み合わせて用いるインクジェット捺染インクは、還元防止剤を含
むことができる。還元防止剤としては、ニトロベンゼンスルホン酸塩を用いるのが好まし
く、メタニトロベンゼンスルホン酸塩を用いるのがより好ましい。塩は、例えば、アルカ
リ金属塩であり、好ましくはナトリウム塩である。また、この効果はインク中の染料にC
.I.リアクティブブルー176が含まれる場合、特に効果が大きい。
【0027】
(金属封鎖剤)
更に、本発明の前処理剤と組み合わせて用いるインクジェット捺染インクは、金属イオ
ン封鎖剤を含有することができる。金属封鎖剤としてはエチレンジアミンテトラ酢酸(E
DTA)、EDTA塩(例えば、ナトリウム塩)、ヒドロキシエチルエチレンジアミント
リ酢酸(EDTA−OH)等が好適である。
【0028】
(その他の添加物)
本発明の前処理剤と組み合わせて用いるインクジェット捺染インクには、インクの吐出
安定性(特には、ピエゾヘッドでの吐出安定性)を向上させる目的で、アルキレングリコ
ールモノアルキルエーテル(例えば、トリエチレングリコールモノ−n−ブチルエーテル
)を添加することができる。
また、本発明の前処理剤と組み合わせて用いるインクジェット捺染インクは、上記成分
に加えて、防腐剤を含有することが好ましい。好ましい防腐剤としては、例えば、プロキ
セルCRL、プロキセルBDN、プロキセルGXL、プロキセルXL−2、プロキセルI
B、又はプロキセルTNなどを挙げることができる。
更に、前記捺染インクは、ピロリドン系溶媒(例えば、2−ピロリドン、N−メチル−
2−ピロリドン)又はチオグリコールを含有することによって染料の溶解度を高くし、高
濃度染料インクにも優れた吐出安定性を付与することができる。
【0029】
更に、本発明の前処理剤と組み合わせて用いるインクジェット捺染インクは、上記構成
成分を適宜選択して含有するが、粘度が20℃で8.0m・Pa・s以下、好ましくは1
.5〜6.0m・Pa・sとすることが好ましい。8.0m・Pa・s以下であれば通常
の環境温度で何ら支障なくインク吐出が可能である。20℃で8.0m・Pa・sを超え
るインクは低温領域での吐出安定性が悪くなる。
【0030】
[インクジェット捺染方法]
本発明によるインクジェット捺染方法は、本発明の前処理剤によって予め前処理を施し
た布帛に、インクジェット捺染インクをインクジェット方式によって吐出させて付着させ
る工程、定着する工程、及び洗浄する工程により主に構成される。それぞれの工程には、
公知の方法及び操作を使用することができる。以下、各工程の具体的な態様を例示する。
(前処理方法)
本発明による前処理剤を布帛に付着させる方法としては、常法通り、コーティング又は
パディング法が望ましい。例えば、パディング時のピックアップ率は、布帛の厚さ、繊維
の太さ等で適宜決めることができ、50%以上が望ましく、更に好適には65%以上であ
る。
【0031】
(布帛)
本発明方法によって捺染することにできる布帛は、植物性繊維、動物性繊維、アミド系
繊維からなる布帛又は少なくともこれらの繊維の一つを含む混紡からなる布帛である。好
ましくは、セルロース系繊維、又はアミド系繊維からなる布帛である。好適に使用される
のは、木綿、麻、羊毛、絹、ビスコスレーヨン、キュプラレーヨン、ポリノジック、ビニ
ロン、又はナイロン等の繊維からなる布帛である。
【0032】
(定着)
前記の前処理剤で処理された布帛は、インクジェット方法によって、前記の捺染インク
によって印捺された後、高熱又は高熱の蒸気により定着される。定着条件は、例えば、セ
ルロース系布帛では、95〜105℃にて飽和蒸気近辺で、4〜12分間処理するのが好
ましい。また、絹や羊毛等のアミド系繊維では、95〜105℃にて、飽和蒸気近辺で、
20〜40分間処理するのが好ましい。
【0033】
(吐出ヘッド)
インクジェット捺染方法は、サーマル方式、コンテティニュアス方式、又はピエゾ方式
などの任意のインクジェット方式に適用することができるが、好適にはピエゾ振動子方式
である。
【0034】
捺染用インクジェットインクをピエゾ振動子型インクジェットプリントヘッドに充填し
て吐出する際には、このプリントヘッドのノズルプレート表層部分に撥インク処理を施し
てあることが望ましい。撥インク処理を施すことにより、インクの飛行曲がりが発生しに
くくなり、布帛上に再現性の優れた所望の画像を印捺することができる。この飛行曲がり
防止効果は、前記の捺染インクに1,2−ヘキサンジオールを添加することで著しく向上
させることができる。
【0035】
また、撥インク処理は、ノズル孔内面にも施すことが好ましい。内面に施すことにより
、インクメニスカス位置が安定し、更に吐出安定性が向上する。また、ノズルプレート表
面にインクが出にくくなり、ノズル表面の撥インク性を、より長時間維持することができ
る。
【0036】
ノズルプレートには、所望の口径を有する孔を設けることができる。ノズルプレートの
構成材料としては、金属、セラミックス、シリコン、硝子、又はプラスチック等を挙げる
ことができ、好ましくはチタン、クロム、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、錫、又は
金等の単一材、若しくはニッケル−リン合金、錫−銅−リン合金、銅−亜鉛合金、又はス
テンレス鋼等の合金や、ポリカーボネート、ポリサルフォン、アクリルニトリル−ブタジ
エン−スチレン共重合体、ポリエチレンテレフタレート、ポリサルフォン、又は各種の感
光性樹脂で形成されていることが望ましい。
【0037】
これらの材料表面を撥インク処理する方法は、特に限定されないが、例えば、ニッケル
イオンと撥水性高分子樹脂粒子を電荷により分散させた電解液中に浸漬し、電解液を攪拌
しながら浸漬されているノズルプレート表面に共析メッキする方法が好ましい。この共析
メッキに使用する撥水性高分子樹脂材料としては、ポリテトラフルオロエチレン、ポリパ
ーフルオロアルコキシブタジエン、ポリフルオロビニリデン、ポリフルオロビニル、又は
ポリジパーフルオロアルキルフマレート等の樹脂を単独に又は混合して用いることが好適
である。また、金属材料としては、ニッケルに限定する必要はなく、例えば銅、銀、錫、
又は亜鉛等を適宜選択することができる。好ましくは、ニッケル、ニッケル−コバルト合
金、又はニッケル−ホウ素合金等のように、表面硬度が大きく、対摩耗性に優れる材料が
適している。
【0038】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、これらは本発明の範囲を限定する
ものではない。
【0039】
<実施例1〜3及び比較例1〜2:前処理剤の調製>
表1に示す組成を有する実施例1〜3及び比較例1〜2の前処理剤を調製した。表1に
おいて、数値の単位は重量%であり、EOPO共重合体は、ポリオキシエチレン/ポリオ
キシプロピレン共重合体(粘度平均分子量=15,500;プルロニックF108;旭電
化工業社)であり、均染剤は、多価脂肪酸エステル(サンフローレンSN;日華化学社)
である。
【0040】
【表1】

【0041】
<物性評価>
(1)パディング
実施例1〜3及び比較例1〜2で調製した前処理剤のパディングは、パッダー(マチス
社製HVF350)を用いて60℃下で行った。予め210×315mmに裁断した布帛
を、圧力2bar、スピード2〜3m/分、絞り率約70%の条件下でパディングした。
パディングした布帛は綿ブロードであった。なお、パッダーからパディングされた布を取
り出す際に、曳糸が観察されることもなく、優れたパディング特性を示した。
【0042】
(2)インクジェット印捺
以下の表2に示す組成を有する捺染用インクジェットインクAを調製した。表2におい
て、数値の単位は重量%であり、RR31は、C.I.リアクティブレッド31であり、
リン酸系緩衝剤はトリポリリン酸であり、サーフィノールE1010はアセチレングリコ
ール系界面活性剤である。前記のインクAをインクジェットプリンタ(MJ8000C;
セイコーエプソン株式会社製)に充填し、前項(1)でパディングした綿にインクジェッ
ト捺染を行った。
【0043】
【表2】

【0044】
(3)後処理
前項(2)で処理した綿を、スチーマ(DHe型;マチス社)を用いて定着した。定着
は、102℃にて8分間で飽和蒸気圧近辺の条件下で実施した。
その蒸熱処理後に洗浄を行った。すなわち、布を水道水で揉み洗いし、徐々に温水を追
加していった。その後、アニオン活性剤を含む沸騰水中に、時々撹拌しながら15分間浸
けた。更に、洗浄液中に水道水を入れながら手揉み洗いをした。洗浄布にアイロンを掛け
て、捺染布を得た。
【0045】
(4)OD測定
OD値は、測色計(グレタグマクベスSPM50)にて測定した。結果を表1に示す。
表1の実施例2と比較例1との比較、あるいは実施例3と比較例2との比較から明らか
なとおり、ポリオキシエチレン/ポリオキシプロピレン共重合体を含む前処理剤で処理す
ると、印捺濃度の向上が観察された。
また、表1の実施例1及び実施例2と実施例3との比較、あるいは比較例1と比較例2
との比較から明らかなとおり、均染剤を含む前処理剤で処理すると、印捺濃度の向上が観
察された。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明の前処理剤は、反応染料を含有する捺染用インクジェットインクと組み合わせて
用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
反応染料を含有する捺染用インクジェットインクと組み合わせて用いる水系前処理剤で
あって、少なくともポリオキシエチレン/ポリオキシプロピレン共重合体、ヒドロトロピ
ー剤、及びアルカリ剤を含むことを特徴とする、インクジェット捺染用の前処理剤。
【請求項2】
更に、アルギン酸ナトリウム、カルボキシメチルセルロース、及び澱粉からなる群から
選んだ糊剤少なくとも1種を含む、請求項1に記載の前処理剤。
【請求項3】
更に、均染剤を含む、請求項1又は2に記載の前処理剤。
【請求項4】
均染剤が多価アルコール脂肪酸エステルである、請求項3に記載の前処理剤。
【請求項5】
ポリオキシエチレン/ポリオキシプロピレン共重合体の粘度平均分子量が10万以下で
ある、請求項1〜4のいずれか一項に記載の前処理剤。
【請求項6】
更に、還元防止剤を含む、請求項1〜5のいずれか一項に記載の前処理剤。
【請求項7】
還元防止剤がメタ−ニトロベンゼンスルホン酸ナトリウムである、請求項6に記載の前
処理剤。
【請求項8】
ヒドロトロピー剤が尿素である、請求項1〜7のいずれか一項に記載の前処理剤。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか一項に記載の前処理剤によって処理した布帛。
【請求項10】
請求項1〜8のいずれか一項に記載の前処理剤によって予め処理した布帛に、反応染料
を含有する捺染用インクジェットインクを吐出させる工程を含むことを特徴とする、イン
クジェット捺染方法。

【公開番号】特開2009−133057(P2009−133057A)
【公開日】平成21年6月18日(2009.6.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−315342(P2008−315342)
【出願日】平成20年12月11日(2008.12.11)
【分割の表示】特願2004−76589(P2004−76589)の分割
【原出願日】平成16年3月17日(2004.3.17)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】