説明

インクジェット捺染方法

【課題】ポリエステル繊維などの疎水性の繊維媒体に、予め前処理を施すことなくダイレクトにインクジェット印刷できるインクジェット捺染方法を提供する。
【解決手段】水溶性又は分散性の色剤を含有する水性インクを用いるインクジェット捺染方法であって、
インクジェット方式により繊維媒体に対して前記水性インクを吐出する吐出段階と、
前記水性インクが吐出された前記繊維媒体に対してマイクロ波を照射するマイクロ波照射段階とを備えるとともに、
前記水性インクが吐出された前記繊維媒体に対してマイクロ波を照射しているときに、前記繊維媒体へのインクの浸透及び前記繊維媒体への色剤の定着を促進する作用を有する化合物(例えば複素環構造を有する水溶性化合物、特にラクトン環構造を有する水溶性化合物)を水性インクに含有させたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット捺染用インク組成物を用いたインクジェット捺染方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット印刷は、インクの小滴を飛翔させ、被印刷媒体に付着させる方法である。 このインクジェット印刷方法を捺染に適用したインクジェット捺染方法は、予め前処理(天然繊維でも前処理は必須である)された各種の繊維媒体(天然又は合成繊維の布等)にインクの小滴を吐出させて飛翔させ、インクを付着させるため、階調性及び多色表現性等に優れた種々の画像を繊維媒体上に容易に形成することができる(例えば、特許文献1参照。)。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
インクジェット方式に用いるインクとしては、各種水溶性染料を水に溶解させたものが知られている。そして、水溶性染料としては、直接染料、酸性染料、反応性染料等が用いられてきたが、かかる染料はポリエステル系繊維に応用できないという問題があった。そこで、分散染料を用いたインクジェット捺染用のインク開発がなされ、例えば、水溶性でない有機溶媒に分散染料を溶解させた分散型のものが、また水に分散染料を溶解させた分散型のものが提案されている(例えば、特許文献2参照。)。
【0004】
ところで、ポリエステル繊維などの繊維媒体に、予め前処理を施すことなくダイレクトにインクジェット印刷できる実用的な水性インクは、開発されていない。これは、ポリエステル繊維は疎水性で水性インクを弾くので、熱プレスしても染料が繊維に定着しないためである。このため、ポリエステル繊維への水性インクを用いたインクジェット印刷は、ポリエステル繊維に前処理を施す手法を用いる必要があった(例えば、特許文献2、特許文献3参照。)。また、水性インクを用いたインクジェット印刷とは別の手法として、水性の分散昇華インクを用い、昇華した染料ガスをポリエステル繊維に浸透させて印刷を行う手法、を用いる必要があった。
また、インクジェット捺染方法では、種の繊維媒体(天然又は合成繊維の布等)にインクジェット捺印した後、後処理として、色剤の定着及び発色のための蒸気処理(スチーミング処理)、及び、水洗処理、などを行う必要があった(例えば、特許文献1〜3参照。)。
【特許文献1】特開2007−119657号公報
【特許文献2】特開2005−213484号公報
【特許文献3】特開平7−3179号公報
【0005】
本発明は、ポリエステル繊維などの疎水性の繊維媒体に、予め前処理を施すことなくダイレクトにインクジェット印刷できるインクジェット捺染方法の提供を第1の目的とする。
また、インクジェット捺染方法において従来必須であった蒸気処理(スチーミング処理)や水洗処理が不要であるインクジェット捺染方法の提供を第2の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、鋭意研究により、マイクロ波照射とインク組成との相互作用により、上記第1の目的及び第2の目的を達成可能であることを見出し、本願発明に至った。
また、本発明者は、水性インクが吐出された繊維媒体に対してマイクロ波を照射しているときに、繊維媒体へのインクの浸透及び繊維媒体への色剤の定着を促進する作用を有する化合物を水性インクに含有させることにより、上記第1の目的及び第2の目的を達成可能であることを見出し、本願発明に至った。
ここで、水性インクが吐出された繊維媒体に対してマイクロ波を照射しているときに、繊維媒体へのインクの浸透及び繊維媒体への色剤の定着を促進する作用を有する化合物としては、このような作用を実質的に有する複素環構造を有する水溶性化合物、特にラクトン環構造を有する水溶性化合物、などが挙げられる。
【0007】
本発明は、以下の構成を有する。
(構成1)
水溶性又は分散性の色剤を含有する水性インクを用いるインクジェット捺染方法であって、
インクジェット方式により繊維媒体に対して前記水性インクを吐出する吐出段階と、
前記水性インクが吐出された前記繊維媒体に対してマイクロ波を照射するマイクロ波照射段階とを備えるとともに、
前記水性インクが吐出された前記繊維媒体に対してマイクロ波を照射しているときに、前記繊維媒体へのインクの浸透及び前記繊維媒体への色剤の定着を促進する作用を有する化合物を水性インクに含有させたことを特徴とするインクジェット捺染方法。
(構成2)
水性インクを用いるインクジェット捺染方法であって、
インクジェット方式により繊維媒体に対して前記水性インクを吐出する吐出段階と、
前記水性インクが吐出された前記繊維媒体に対してマイクロ波を照射するマイクロ波照射段階とを備えるとともに、
前記水性インクとして、水溶性又は分散性の色剤と、複素環構造を有する水溶性化合物と、を含有する水性インクを用いる
ことを特徴とするインクジェット捺染方法。
(構成3)
前記複素環構造を有する水溶性化合物が、ラクトン環構造を有する水溶性化合物であることを特徴とする構成2に記載のインクジェット捺染方法。
(構成4)
前記複素環構造を有する水溶性化合物が、γ−ブチロラクトンを含む水溶性化合物であることを特徴とする構成2又は3に記載のインクジェット捺染方法。
(構成5)
前記水性インクは、多価アルコール系溶剤を含有することを特徴とする構成1から4のいずれかに記載のインクジェット捺染方法。
(構成6)
前記繊維媒体は、ポリエステル繊維を含有することを特徴とする構成1から5のいずれかに記載のインクジェット捺染方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、ポリエステル繊維などの疎水性の繊維媒体に、予め前処理を施すことなくダイレクトにインクジェット印刷できるインクジェット捺染方法を提供できる。
また、インクジェット捺染方法において従来必須であった蒸気処理(スチーミング処理)や水洗処理が不要であるインクジェット捺染方法を提供できる。
【0009】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明のインクジェット捺染方法は、水溶性又は分散性の色剤を含有する水性インクを用いるインクジェット捺染方法であって、
インクジェット方式により繊維媒体に対して前記水性インクを吐出する吐出段階と、
前記水性インクが吐出された前記繊維媒体に対してマイクロ波を照射するマイクロ波照射段階とを備えるとともに、
前記水性インクが吐出された前記繊維媒体に対してマイクロ波を照射しているときに、前記繊維媒体へのインクの浸透及び前記繊維媒体への色剤の定着を促進する作用を有する化合物を水性インクに含有させたことを特徴とする(構成1)。
上記構成1に係る発明によれば、ポリエステル繊維などの疎水性の繊維媒体に、予め前処理を施すことなくダイレクトにインクジェット印刷できるインクジェット捺染方法を提供できる。
また、インクジェット捺染方法において従来必須であった蒸気処理(スチーミング処理)や水洗処理が不要であるインクジェット捺染方法を提供できる。
上記構成1に係る発明においては、マイクロ波照射とインク組成との相互作用により、マイクロ波照射による繊維媒体へのインクの浸透及び色剤の定着を促進する作用が発揮させ、これによって、上記作用効果が得られる。
上記構成1に係る発明において、水性インクが吐出された繊維媒体に対してマイクロ波を照射しているとき(マイクロ波を照射しているあいだ、又はマイクロ波照射の際)に、繊維媒体へのインクの浸透及び繊維媒体への色剤の定着を促進する作用を有する化合物としては、繊維媒体へのインクの浸透及び繊維媒体への色剤の定着を促進する作用を実質的に有する化合物であることが必要である。繊維媒体へのインクの浸透及び繊維媒体への色剤の定着を促進する作用を実質的に有さず、これらの作用が不十分であると、実用的な印刷品質で印刷を行うことが困難である。
本発明では、水性インクが吐出された繊維媒体に対してマイクロ波を照射しているときに、繊維媒体へのインクの浸透及び繊維媒体への色剤の定着を促進する作用を有する化合物としては、木綿や絹などへのインクジェット捺染と同等又は同等以上の印刷品質を実現可能な化合物であることが好ましい。
本発明において、繊維媒体へのインクの浸透及び繊維媒体への色剤の定着を促進する作用が非常に大きい場合、水洗を行っても着色排水が出ない。すなわち、繊維媒体に吐出された水性インクはほぼ完全に繊維媒体へ浸透し、色剤はほぼ完全に繊維媒体へ定着される。
本発明では、水性インクが吐出された繊維媒体に対してマイクロ波を照射しているときに、繊維媒体へのインクの浸透及び繊維媒体への色剤の定着を促進する作用を有する化合物としては、蒸気処理(スチーミング処理)や水洗処理が不要とすることを実現可能な化合物であることが好ましい。
【0010】
本発明のインクジェット捺染方法は、水性インクを用いるインクジェット捺染方法であって、
インクジェット方式により繊維媒体に対して前記水性インクを吐出する吐出段階と、
前記水性インクが吐出された前記繊維媒体に対してマイクロ波を照射するマイクロ波照射段階とを備えるとともに、
前記水性インクとして、水溶性又は分散性の色剤と、複素環構造を有する水溶性化合物と、を含有する水性インクを用いる
ことを特徴とする(構成2)。
上記構成2に係る発明によれば、以下の作用効果が得られる。
(1)水性インクに複素環構造を有する水溶性化合物、特にラクトン環構造を有する水溶性化合物を入れるとポリエステル繊維などの疎水性繊維媒体に浸透しやすくなる。このことはマイクロ波を照射しない場合においても同様である。したがって、ポリエステル繊維などの疎水性繊維媒体に前処理せずにダイレクトにインクジェット印刷を行うことが可能となる。
(2)更に、複素環構造を有する水溶性化合物を含有する水性インクでポリエステル繊維などの繊維媒体にインクジェット印刷した後、マイクロ波を照射することによって、ポリエステル繊維などの繊維媒体に十分に(しっかり)水性インクが浸透する(繊維中の浸透量が増加する)。
(3)繊維に十分に(しっかり)色剤が浸透することによって、マイクロ波照射しない場合と比べ、あるいは、従前の手法(例えば上述した特許文献1〜3に記載の手法)を用いた場合と比べ、発色が濃くなる(繊維中の色剤の含浸量が増加する)。
(4)マイクロ波照射によって、マイクロ波照射しない場合と比べ、あるいは、従前の手法(例えば上述した特許文献1〜3に記載の手法)を用いた場合と比べ、相対的に少ないインク量であってもその全てを定着させることが可能となる。したがって、マイクロ波を照射しない場合や従前の手法を用いた場合と比べ、相対的に少ないインク量で同等又は同等以上の色剤の定着及びそれによる発色が可能となる。
(5)色剤の定着及び発色のための蒸気処理(スチーミング処理)が不要となり、画期的である。
(6)水洗しても着色排水が出ないので、画期的である。本発明では水洗は不要である。
【0011】
本発明のインクジェット捺染方法は、複素環構造を有する水溶性化合物を含有する水性インク(インク組成物)を用いる。
ここで、複素環とは、環を1個以上有し、その環に炭素原子のほか、酸素、窒素、硫黄のような元素を有する化合物をいう。
前記複素環としては、5員または6員環の複素環が好ましい。また、環に酸素原子を有する複素環が好ましい。
複素環は、複素環に脂肪族環、芳香族環または他の複素環が縮合していてもよい。複素環には、置換基を有する複素環が含まれる。この置換基を有する複素環における置換基の例には、脂肪族基、ハロゲン原子、アルキルスルホニル基、アリールスルホニル基、アシル基、アシルアミノ基、スルファモイル基、カルバモイル基、イオン性親水性基などが含まれる。前記複素環の例には、2−ピリジル、2−チエニル、2−チアゾリル、2−ベンゾチアゾリル、2−ベンゾオキサゾリルおよび2−フリルが含まれる。
【0012】
本発明においては、前記複素環構造を有する水溶性化合物は、ラクトン環構造を有する水溶性化合物であることが好ましい(構成3)。
上述した作用効果(1)〜(6)がより大きく発揮されるためである。
ここで、ラクトン環とは、エステルの官能基−CO−O−を含む環を意味する。
【0013】
ラクトン環構造を有する水溶性化合物としては、下記化学式で示される化合物が挙げられる。
【0014】
【化1】

但し、上記式中、前記Rは炭化水素で、前記R及び前記Rはアルキル基又は水素原子である。
【0015】
前記Rは、飽和炭化水素が好ましい。前記R中に不飽和結合が存在すると、副反応を生じる恐れがある。前記Rの炭素数は、2〜6の範囲内にすることが好ましい。これは次のような理由によるものである。炭素数を2未満にすると、ラクトン誘導体が3員環もしくは4員環構造になって安定性が低下する恐れがある。一方、炭素数が6を超えると、ラクトン誘導体の粘度が高くなり、さらには固体になる可能性があり、使用できない。
前記R及び前記Rは同じでも、異なっていても良い。また、前記R及び前記Rは環状に結合していても良い。アルキル基の中でも、メチル基、エチル基が好ましい。
前記化学式に示されるラクトン誘導体の一例として、前記Rが炭素数2の飽和炭化水素であるγ−ブチロラクトン誘導体、前記Rが炭素数3の飽和炭化水素であるγ−バレロラクトン誘導体及びδ−バレロラクトン誘導体が挙げられる。
【0016】
本発明においては、前記複素環構造を有する水溶性化合物が、γ−ブチロラクトンを含む水溶性化合物であることことが好ましい(構成4)。
上述した作用効果(1)〜(6)がさらに大きく発揮されるためである。
γ−ブチロラクトンは、前記化学式において、前記Rが炭素数2の飽和炭化水素であり、前記R及び前記Rは共に水素原子である。
【0017】
本発明において、前記水性インクは、多価アルコール系溶剤を含有することが好ましい(構成5)。
マイクロ波照射による上述した作用効果(1)〜(6)の発揮を補助する作用が期待されるためである。
また、多価アルコール系溶剤などの水溶性溶剤含有であると、溶剤インクに比べ溶剤臭が少ないため、好ましい。
【0018】
多価アルコールとしては、例えば、常圧における沸点が150℃以上の多価アルコールを用いることが好ましく、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、分子量2000以下のポリエチレングリコール、1,3−プロピレングリコール、イソプロピレングリコール、イソブチレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,2−ペンタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,2−ヘキサンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,2,6−ヘキサントリオール、1,8−オクタンジオール、1,2−オクタンジオール、メソエリスリトール、ペンタエリスリトール、チオグリコールなどを挙げることができる。多価アルコールの中では、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール等のエチレングリコール系の多価アルコールが特に好ましい。
多価アルコールの含有量は特に限定されるものではないが、水性インク(インク組成物)の全重量に対して、好ましくは1〜40重量%、より好ましくは3〜20重量%である。
【0019】
本発明の水性インクにおいて、水としては任意の水を用いることができるが、純水を用いることが好ましい。純水は、イオン交換、又は蒸留等で容易に製造することができる。
また、純水を紫外線等で滅菌処理することが好ましい。
水の含有量は特に限定されるものではないが、マイクロ波照射による上述した作用効果(1)〜(6)の発揮を補助する観点からは、水性インク(インク組成物)の全重量に対して、好ましくは30〜80重量%、より好ましくは40〜60重量%である。
【0020】
本発明の水性インクにおいて、水溶性又は分散性の色剤としては、公知の色剤(染料、顔料)を用いることができる。
水溶性の色剤としては、例えば、直接染料、酸性染料、反応性染料等の水溶性染料が挙げられる。
分散性の色剤としては、例えば、C.I.Disperse Yellow 149が挙げられる。
【0021】
本発明の水性インクは、その他の添加物として、インクの吐出安定性(特には、ピエゾヘッドでの吐出安定性)を向上させる目的で、アルキレングリコールモノアルキルエーテル(例えば、トリエチレングリコールモノ−n−ブチルエーテル)、及び/又は界面活性剤(例えば、アセチレングリコール系界面活性剤)を含有することができる。
【0022】
また、本発明の水性インクは、前記成分に加えて、防腐剤を含有することが好ましい。好ましい防腐剤としては、例えば、プロキセルCRL、プロキセルBDN、プロキセルGXL、プロキセルXL−2、プロキセルIB、又はプロキセルTNなどを挙げることができる。
【0023】
更に、本発明の水性インクは、キレート剤(金属封鎖剤)を含有することができる。キレート剤は、インク中の金属をトラップし、インクの信頼性を向上すると共に、布帛上の重金属をトラップし、染め斑防止に有効である。キレート剤としては、エチレンジアミン四酢酸塩、ニトリロトリ酢酸塩、ヘキサメタリン酸塩、ピロリン酸塩、又はメタリン酸塩等が好適である。また、BASF社から市販されているTRILON TA、DEKOL SN、Benkiesed社から市販されているCalgon Tは生分解性に優れており環境面で好適である。
【0024】
本発明において、繊維媒体は、繊維からなる媒体である。繊維媒体としては、例えば、布、織布、混紡織布、布帛(ふはく)、不織布等である。
繊維媒体は、例えば、ポリエステル、アセテート等の疎水性繊維で構成される。
【0025】
本発明においては、水性インクが吐出された繊維媒体に対してマイクロ波を照射する。
ここで、マイクロ波照射に際しては、マイクロ波照射による上述した作用効果(1)〜(6)の発揮が大きくなるように、好ましくは最大となるように、マイクロ波の周波数、照射強度を調整する。
【0026】
以下、本発明の実施に適したインクジェットプリンタを、図面を参照しながら説明する。図1は、本発明の実施に適したインクジェットプリンタ10の構成の一例を示す。インクジェットプリンタ10は、水性インクを用いるインクジェットプリンタであり、インクジェットヘッド12、プラテン14、複数のローラ16a〜16d、及びマイクロ波照射部18を備える。
【0027】
インクジェットヘッド12は、媒体50に対して水性インクを吐出する印刷ヘッドである。インクジェットヘッド12は、所定の主走査方向及び副走査方向へ媒体50に対して相対的に移動することにより、媒体50上の各位置へ水性インクを吐出する。
【0028】
プラテン14は、インクジェットヘッド12により水性インクが吐出される媒体50を上面に保持する台である。複数のローラ16a〜16dは、媒体50を搬送するローラである。複数のローラ16a〜16dは、媒体50を搬送することにより、インクジェットヘッド12を、副走査方向へ、媒体50に対して相対的に移動させる。
【0029】
マイクロ波照射部18は、媒体50の搬送方向においてインクジェットヘッド12の下流側に設けられており、水性インクが吐出された媒体50に対してマイクロ波を照射する。本例において、マイクロ波照射部18は、例えば、金網で被われた筐体の内部で媒体50を通過させつつ、媒体50にマイクロ波を照射する。これにより、マイクロ波照射部18は、インクジェットヘッド12により吐出された水性インクを、媒体50に定着させる。
【0030】
ここで、マイクロ波とは、例えば、周波数で300MHz〜30GHz(波長で1cm〜1m)の電磁波である。マイクロ波照射部は、例えば周波数で1〜4GHz、より好ましくは2〜4GHzのマイクロ波を照射する。また、マイクロ波照射部18は、例えば家庭用の電子レンジと同程度の強度のマイクロ波を照射する。
【0031】
また、マイクロ波照射部18は、例えば、媒体50に対して送風を行いつつ、マイクロ波を照射してもよい。このように構成すれば、例えば、より速く水性インクを定着させることができる。また、各種ヒータと組み合わせることもできる。
【0032】
以下、実施例について説明する。
(実施例1)
インクジェットプリンタ10として、ミマキエンジニアリング社製のインクジェットプリンタを用いて、実施例1に係る印刷を行った。実施例1で用いたインクジェットプリンタの型番はTx2−1600である。但し、マイクロ波照射部18としては、インクジェットプリンタ10の本体に設けるマイクロ波発生装置に代えて、家庭用の電子レンジを用いた。
【0033】
実施例1において、下記組成の水性インクを用いた。
1)色剤:C.I.Disperse Yellow 149;5重量%
2)γ−ブチロラクトン;15重量%
3)多価アルコール系溶剤:名称グリセリン;10重量%
4)その他:ペンタンジオール;10重量%
5)残部:水
媒体50としては、ポリエステルの白布を用いた。
【0034】
上記で調製した水性インクを用いて、実施例1に係る印刷を行った。この印刷では、インクジェットプリンタ10により、100%の印字濃度で水性インクの吐出を行った後、電子レンジを用いて、媒体50に対するマイクロ波の照射を、2分間行った。電子レンジの出力は、600Wとした。
【0035】
(参考例1)
実施例1においてマイクロ波照射を行わないこと以外は、実施例1と同様とした。
【0036】
(参考例2)
実施例1においてγ−ブチロラクトンを含有させないこと以外は、実施例1と同様とした。
【0037】
(比較例1)
ミマキエンジニアリング社製の水性インクを用いた。用いた水性インクの型番は、spc−0356である。媒体50としては、木綿の白布を用いた。
木綿の白布に、インクジェットプリンタ10により印捺し、80度で乾燥後、130度の過熱蒸気中で30分間保持し、水洗、還元洗浄し水洗、乾燥を行った。
実施例1は、比較例1に比べ、発色は同程度か濃い。
尚、比較例1の工程において、マイクロ波照射の有無による違いを調べたが、明確な差異は確認できなかった。
【0038】
(評価)
(1)上記で得られた染色物に対して、水洗いによる色落ち評価を行った。
実施例1で得られた染色物は、水洗いを行っても、着色排水は出なかった。
比較例1で得られた染色物は、水洗いの際に、大量の着色排水が出た。
参考例1、2で得られた染色物は、水洗いを行うと、大量の着色排水が出た。
(2)上記で得られた染色物に対して、目視による評価を行った。
実施例1で得られた染色物は、にじみの無いきれいな染色物であった。実施例1で得られた染色物は、彩度と色強度(カラーバリユー)が極めて優れており、比較例1と比べても優れていた。
参考例1では、γ−ブチロラクトンを含有することによる水性インクのポリエステル繊維への浸透が見られたが、マイクロ波照射を行っていないため、ポリエステル繊維に十分に(しっかり)水性インクを浸透させることはできなかった。したがって、実用的な印刷を行うことはできなかった。
参考例2では、γ−ブチロラクトンを含有していないので、ポリエステル繊維に水性インクを浸透させることが殆どできなかった。したがって、実用的な印刷を行うことはできなかった。
(3)上記で得られた染色物に対して、測色機を用いた評価を行った。この評価においては、実施例及び比較例のそれぞれにおいて、1色のインクによるK、C、M、Yの各色の印刷と、2色のインクによるY+M、M+C、C+Yの各色の印刷とを行った。
印刷を行った後、測色機により、各色の印刷結果について、CIE色度図のL*(エルスター)、a*(エースター)、b*(ビースター)、c*(シースター)の値を求めた。ここでL*とは明度を、a*b*とは色相と彩度を表す色度の単位であり、c*は彩度を表す単位である。尚、測色機としては、X−Rite社(米国)製の分光測色濃度計X−RITE530LP(型式:530LP)を用いた。これらの結果を、表1に示す。
【0039】
【表1】

【0040】
以上、本発明を実施例を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施例に記載の範囲には限定されない。上記実施例に、多様な変更又は改良を加えることが可能であることが当業者に明らかである。その様な変更又は改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれ得ることが、特許請求の範囲の記載から明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明は、例えばインクジェットプリンタに好適に利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明の一実施形態に係るインクジェットプリンタ10の構成の一例を示す図である。
【符号の説明】
【0043】
10・・・インクジェットプリンタ、12・・・インクジェットヘッド、14・・・プラ
テン、16・・・ローラ、18・・・マイクロ波照射部、50・・・媒体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水溶性又は分散性の色剤を含有する水性インクを用いるインクジェット捺染方法であって、
インクジェット方式により繊維媒体に対して前記水性インクを吐出する吐出段階と、
前記水性インクが吐出された前記繊維媒体に対してマイクロ波を照射するマイクロ波照射段階とを備えるとともに、
前記水性インクが吐出された前記繊維媒体に対してマイクロ波を照射しているときに、前記繊維媒体へのインクの浸透及び前記繊維媒体への色剤の定着を促進する作用を有する化合物を水性インクに含有させたことを特徴とするインクジェット捺染方法。
【請求項2】
水性インクを用いるインクジェット捺染方法であって、
インクジェット方式により繊維媒体に対して前記水性インクを吐出する吐出段階と、
前記水性インクが吐出された前記繊維媒体に対してマイクロ波を照射するマイクロ波照射段階とを備えるとともに、
前記水性インクとして、水溶性又は分散性の色剤と、複素環構造を有する水溶性化合物と、を含有する水性インクを用いる
ことを特徴とするインクジェット捺染方法。
【請求項3】
前記複素環構造を有する水溶性化合物が、ラクトン環構造を有する水溶性化合物であることを特徴とする請求項2に記載のインクジェット捺染方法。
【請求項4】
前記複素環構造を有する水溶性化合物が、γ−ブチロラクトンを含む水溶性化合物であることを特徴とする請求項2又は3に記載のインクジェット捺染方法。
【請求項5】
前記水性インクは、多価アルコール系溶剤を含有することを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載のインクジェット捺染方法。
【請求項6】
前記繊維媒体は、ポリエステル繊維を含有することを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載のインクジェット捺染方法。

【図1】
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【公開番号】特開2009−263823(P2009−263823A)
【公開日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−117084(P2008−117084)
【出願日】平成20年4月28日(2008.4.28)
【出願人】(000137823)株式会社ミマキエンジニアリング (437)
【Fターム(参考)】