説明

インクジェット捺染方法

【課題】にじみを少なくしインク混じり防止するとともに、高い発色濃度、射出安定を両立させ、布の厚みや種類変化にも対応できるインクジェット捺染方法を提供する。
【解決手段】少なくとも反応性染料、有機溶剤、及び水を含有する水性インクを吐出して、加熱した布帛上に画像を形成した後、加熱工程により該反応性染料を該布帛に固定化する工程を含むインクジェット捺染方法であって、該水性インクは、水、有機溶剤以外の成分の総量が10質量%以上20質量%未満で、その表面張力が20mN/m以上35mN/m以下であり、かつ、前記布帛は、実質的に、水溶性高分子を主成分とするインク保持成分を含有してないことを特徴とするインクジェット捺染方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット捺染方法に関し、さらに詳しくは、インク混じりの少ないインクジェット捺染方法に関する。
【背景技術】
【0002】
布帛に従来の水性インクを直接吐出して布帛上に画像を形成する場合、にじみが発生する。このため通常、CMC、アルギン酸Naなどの水溶性高分子からなる成分を布帛に付与した前処理を行って(例えば、特許文献1参照)きた。布帛中の水溶性高分子がインク保持成分(吸収層)として働き、にじみ発生を防止してきた。しかしながら、布帛前処理に要する、コスト、時間が課題であった。また、布帛中の水溶性高分子は染色後の洗濯で除去するので洗濯排水は特別な処理が必要となる場合があった。
【0003】
従って、前処理のない布帛への、水性インクを用いた、にじみのない、インクジェット捺染方法の開発が切望されてきた。
【特許文献1】特開平6−116880号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、にじみを少なくしインク混じり防止するとともに、高い発色濃度、射出安定を両立させ、布の厚みや種類変化にも対応できるインクジェット捺染方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の上記目的は、以下の構成により達成することができる。
【0006】
1.少なくとも反応性染料、有機溶剤、及び水を含有する水性インクを吐出して、加熱した布帛上に画像を形成した後、加熱工程により該反応性染料を該布帛に固定化する工程を含むインクジェット捺染方法であって、該水性インクは、水、有機溶剤以外の成分の総量が10質量%以上20質量%未満で、その表面張力が20mN/m以上35mN/m以下であり、かつ、前記布帛は、実質的に、水溶性高分子を主成分とするインク保持成分を含有してないことを特徴とするインクジェット捺染方法。
【0007】
2.前記布帛が、アルカリ成分を含有していることを特徴とする前記1記載のインクジェット捺染方法。
【0008】
3.前記加熱工程の前に、アルカリを付与する工程を含むことを特徴とする前記1又は2記載のインクジェット捺染方法。
【0009】
4.前記布帛の表面温度を30℃以上70℃以下に加熱しながら水性インクを吐出して該布帛上に画像を形成することを特徴とする前記1〜3のいずれか1項記載のインクジェット捺染方法。
【0010】
5.前記水性インクがシリコーン系活性剤もしくはフッ素系活性剤を含有することを特徴とする前記1〜4のいずれか1項記載のインクジェット捺染方法。
【0011】
6.前記水性インクが水溶性高分子を含有することを特徴とする前記1〜5のいずれか1項記載のインクジェット捺染方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、にじみを少なくしインク混じり防止するとともに、高い発色濃度、射出安定を両立させ、布の厚みや種類変化にも対応できるインクジェット捺染方法を提供することができた。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明を更に詳しく説明する。一般に、前処理のない布帛では繊維にそったにじみが発生しやすいのでにじみ抑制が必要である。そして、にじみを抑制するには、繊維内部にインクを速やかに浸透させ布帛表面でのインク合一を防止することと、繊維内部でのインク同士の混ざりを防止するために、インク粘度を上げ流動性を低下することが必要となることが判り、本発明を成すに至った。
【0014】
繊維内部に水性インク(以後単にインクとも言う)を速やかに浸透させるには、インクの表面張力を制御することが重要である。表面張力が35mN/mより大きいとにじみが防止できない、また、20mN/mより低いと浸透が速すぎ繊維にそったにじみや色混ざりが発生する。従って、20〜35mN/mに制御が必要である。
【0015】
また、繊維内部でのインク同士の混ざりを防止するために、インク粘度を上げ流動性を低下するには、布帛を加熱しながらプリントすることが効果的である。加熱温度が高いほどにじみ抑制には好ましいが、あまり高すぎると後の加熱工程により反応性染料を布帛に固定化する工程後の発色濃度が上がらない。温度が高すぎると、繊維への浸透過程でインクが増粘しすぎインクまじりはないものの浸透が不十分で、布帛表面近傍に染料が局在するため、染料が布帛に十分固定化しなかったり、また染料密度が高すぎ染料同士の相互作用で色が濁るなどして発色濃度が上がらない、あるいは反応染料の一部が加水分解したため、などが考えられる。また、加熱温度を上げるほど乾燥による増粘速度は上がるが、ヘッドでのインク乾燥が進み出射欠の発生があり現実的ではない。
【0016】
そこで、水性インク中の水、有機溶剤以外の成分の総量が6質量%以上20質量%未満にすることと布帛の加熱を同時行い、さらにインクの表面張力を制御することではじめてインクにじみの効果的な抑制と発色濃度低下の抑制を同時に達成することを見出した。
【0017】
以下に本発明の構成について詳細に説明する。
【0018】
(反応性染料)
本発明の水性インクは、インク中の水、有機溶剤以外の成分の総量が10質量%以上20質量%未満であり、反応性染料は、5%以上20質量%未満であることが好ましく、さらに、反応性染料は、5%以上15質量%未満であることが好ましい。特に同一色のインクで最も染料濃度の高いインク中の、反応性染料は、10%以上15%未満であることが好ましい。
【0019】
本発明で用いることのできる反応性染料としては、例えば、アゾ染料、メチン染料、アゾメチン染料、キサンテン染料、キノン染料、フタロシアニン染料、トリフェニルメタン染料、ジフェニルメタン染料等を挙げることができる。
【0020】
以下、本発明のインクジェット用インクに適用可能な染料の具体例を列挙するが、本発明では、これら例示する染料にのみ限定されるものではない。
【0021】
C.I.Reactive Yellow2,3,7,15,17,18,22,23,24,25,27,37,39,42,57,69,76,81,84,85,86,87,92,95,102,105,111,125,135,136,137,142,143,145,151,160,161,165,167,168,175,176、
C.I.Reactive Orange1,4,5,7,11,12,13,15,16,20,30,35,56,64,67,69,70,72,74,82,84,86,87,91,92,93,95,107、
C.I.Reactive Red2,3,3:1,5,8,11,21,22,23,24,28,29,31,33,35,43,45,49,55,56,58,65,66,78,83,84,106,111,112,113,114,116,120,123,124,128,130,136,141,147,158,159,171,174,180,183,184,187,190,193,194,195,198,218,220,222,223,226,228,235、
C.I.Reactive Violet1,2,4,5,6,22,23,33,36,38、
C.I.Reactive Blue2,3,4,7,13,14,15,19,21,25,27,28,29,38,39,41,49,50,52,63,69,71,72,77,79,89,104,109,112,113,114,116,119,120,122,137,140,143,147,160,161,162,163,168,171,176,182,184,191,194,195,198,203,204,207,209,211,214,220,221,222,231,235,236、
C.I.Reactive Green8,12,15,19,21、
C.I.Reactive Brown2,7,9,10,11,17,18,19,21,23,31,37,43,46、
C.I.Reactive Black5,8,13,14,31,34,39等が挙げられる。
【0022】
(有機溶剤)
本発明の水性インクには、以下に示す具体例の有機溶剤を含有することができる。
【0023】
アルコール類(例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、イソブタノール、sec−ブタノール、t−ブタノール)、多価アルコール類(例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、ブチレングリコール、ヘキサンジオール、ペンタンジオール、グリセリン、ヘキサントリオール、チオジグリコール)、アミン類(例えば、エタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、N−メチルジエタノールアミン、N−エチルジエタノールアミン、モルホリン、N−エチルモルホリン、エチレンジアミン、ジエチレンジアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ポリエチレンイミン、ペンタメチルジエチレントリアミン、テトラメチルプロピレンジアミン)、アミド類(例えば、ホルムアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド等)、複素環類(例えば、2−ピロリドン、N−メチル−2−ピロリドン、シクロヘキシルピロリドン、2−オキサゾリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン等)、スルホキシド類(例えば、ジメチルスルホキシド)等が挙げられる。
【0024】
(表面張力)
本発明の水性インクは、その表面張力が20mN/m以上35mN/m以下である。35mN/mより大きくても、20mN/m未満であっても布帛上での滲みが発生する。35mN/mより大きい場合はインクが布帛上で合一することによるにじみが発生してしまい、20mN/m未満の場合は、インクが布帛に浸透しながら繊維にそってインクが滲むようである。
【0025】
広範囲の布帛に適用できるためには、25mN/m以上35mN/m以下であることがより好ましい。
【0026】
水性インクの表面張力を上記の範囲に調整する方法としては、低表面張力溶剤を適量用いること、活性剤を適量用いることにより調整することができる。特に、低表面張力溶剤と活性剤の両方を適量用いて調整することが好ましい。
【0027】
低表面張力溶剤としては、表面張力が25〜40mN/mの溶剤を10〜30質量%含有することが好ましい。より好ましくは、表面張力が25〜35mN/mの溶剤を10〜30質量%含有する態様である。
【0028】
表面張力が25〜40mN/mの溶剤としては、グリコールエーテル、1,2−アルカンジオール等の水溶性有機溶剤が挙げられる。
【0029】
当該溶剤は、単独で10〜30質量%含有してもよいし、複数種用いて、それらの総計量が10〜30質量%含有するものであってもよい。
【0030】
表面張力の測定方法については、一般的な界面化学、コロイド化学の参考書等において述べられているが、例えば、新実験化学講座第18巻(界面とコロイド)、日本化学会編、丸善株式会社発行:P.68〜117を参照することができ、具体的には、輪環法(デュヌーイ法)、垂直板法(ウィルヘルミー法)を用いて求めることができる。
【0031】
本発明の表面張力の測定においては、表面張力計CBVP式A−3型(協和科学株式会社)を用いて測定した。
【0032】
具体的に各有機溶剤の表面張力を示すと、(各数値はmN/mである)グリコールエーテルとしてはエチレングリコールモノエチルエーテル(28.2)、エチレングリコールモノブチルエーテル(27.4)、ジエチレングリコールモノエチルエーテル(31.8)、ジエチレングリコールモノブチルエーテル(33.6)、トリエチレングリコールモノブチルエーテル(32.1)、プロピレングリコールモノプロピルエーテル(25.9)、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル(28.8)、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル(30.0)等が挙げられる。
【0033】
また、1,2−アルカンジオールとしては、1,2−ブタンジオール、1,2−ペンタンジオール、1,2−ヘキサンジオール(28.1)、1,2−ヘプタンジオール等が挙げられる。
【0034】
(活性剤)
本発明の水性インクにおいて、活性剤として、各種の界面活性剤を用いることができる。本発明で用いることのできる界面活性剤として、特に制限はないが、例えば、ジアルキルスルホコハク酸塩類、アルキルナフタレンスルホン酸塩類、脂肪酸塩類等のアニオン性界面活性剤、ポリオキシエチレンアルキルエーテル類、ポリオキシエチレンアルキルアリルエーテル類、アセチレングリコール類、ポリオキシエチレン・ポリオキシプロピレンブロックコポリマー類等のノニオン性界面活性剤、アルキルアミン塩類、第四級アンモニウム塩類等のカチオン性界面活性剤が挙げられる。特にアニオン性界面活性剤及びノニオン性界面活性剤を好ましく用いることができる。
【0035】
本発明の水性インクは、その表面張力を20mN/m以上、35mN/m以下に制御するために、特にシリコーン系活性剤もしくはフッ素系活性剤を含有することが好ましい。
【0036】
(シリコーン系活性剤もしくはフッ素系活性剤)
シリコーン系の界面活性剤としては、好ましくはポリエーテル変性ポリシロキサン化合物がであり、例えば、信越化学工業製のKF−351A、KF−642やビッグケミー製のBYK345、BYK347、BYK348などが挙げられる。
【0037】
フッ素系の界面活性剤は、通常の界面活性剤の疎水性基の炭素に結合した水素の代わりに、その一部または全部をフッ素で置換したものを意味する。この内、分子内にパーフルオロアルキル基を有するものが好ましい。
【0038】
フッ素系の界面活性剤の内、ある種のものは大日本インキ化学工業社からメガファック(Megafac)Fなる商品名で、旭硝子社からサーフロン(Surflon)なる商品名で、ミネソタ・マイニング・アンド・マニファクチュアリング・カンパニー社からフルオラッド(Fluorad)FCなる商品名で、インペリアル・ケミカル・インダストリー社からモンフロール(Monflor)なる商品名で、イー・アイ・デュポン・ネメラス・アンド・カンパニー社からゾニルス(Zonyls)なる商品名で、またファルベベルケ・ヘキスト社からリコベット(Licowet)VPFなる商品名で、それぞれ市販されている。
【0039】
また、非イオン性フッ素系界面活性剤としては、例えば、大日本インキ社製のメガファックス144D、旭硝子社製のサーフロンS−141、同145等を挙げることができ、また、両性フッ素系界面活性剤としては、例えば、旭硝子社製のサーフロンS−131、同132等を挙げることができる。
【0040】
(水性インク中の水、有機溶剤以外の成分の総量)
繊維内部でのインク同士の混ざりを防止するために、インク粘度を上げ流動性を低下することは重要で、布帛を加熱しながらプリントすることが効果的である。加熱温度が高いほどにじみ抑制には好ましいが、あまり高すぎると後の加熱工程により反応性染料を布帛に固定化する工程後の発色濃度が上がらない。温度が高すぎると、繊維への浸透過程でインクが増粘しすぎインクまじりはないものの浸透が不十分で、布帛表面近傍に染料が局在するため、染料が布帛に十分固定化しなかったり、また染料密度が高すぎ染料同士の相互作用で色が濁るなどして発色濃度が上がらない、あるいは反応染料の一部が加水分解したため、などが考えられる。また、加熱温度を上げるほど乾燥による増粘速度は上がるが、ヘッドでのインク乾燥が進み出射欠の発生があり現実的ではない。そこで、水性インク中の水、有機溶剤以外の成分の総量を10質量%以上20質量%未満に調整することで布帛を加熱した場合の乾燥増粘が適度に進行しにじみ抑制と高発色を両立し好ましい。
【0041】
水性インク中の水、有機溶剤以外の成分としては、反応性染料、無機塩、高分子成分、防腐剤、活性剤などの成分をいう。特に、反応染料濃度と高分子成分で水性インク中の水、有機溶剤以外の成分の総量を調整することが好ましい。
【0042】
(水溶性高分子)
本発明の水性インクは高分子成分を添加することが好ましい。高分子成分を添加して、インク粘度を調整したり、また、水性インク中の水、有機溶剤以外の成分の総量が10質量%以上20質量%未満になるように、高分子成分を添加することがにじみ抑制上特に好ましい。
【0043】
この場合、高分子成分としては以下の要件を満たすことが好ましい。
(1)適量添加でインク乾燥増粘性を上げインク滲みを効果的に防止する。
(2)水性インクを吐出して布帛上に画像を形成した後、加熱工程により反応性染料を布帛に固定化する工程後の洗浄工程で、高分子成分が除去されやすいことが必要である。高分子成分が多量残存すると手触り、風合いが固くなり好ましくない。高分子成分としては染浄水や、洗剤に対する溶解性が高いものが好ましい。
(3)本発明の表面張力が20mN/m以上35mN/m以下のインク中で安定に存在する。安定に存在するとは種々の保存環境下で析出発生や、粘度などの物性変動が少ないことを意味する。
(4)ヘッドの吐出口付近でインク乾燥したばあいも、インクもしくは洗浄液により容易に再溶解、もしくは再膨潤、再分散するなどして除去しやすく、メンテナンスしやすい。
【0044】
以上から、高分子成分としては水溶性高分子であることが好ましい。水溶性高分子としては、合成高分子類(例えば、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリビニルメチルエーテル、ポリエチレンオキシド、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリアクリルアミド、ポリアミンサルホン、ビニルアルコール−酢酸ビニル共共重合体、ポリアクリル酸塩、ポリビニル硫酸塩、ポリ(4−ビニルピリジン)塩、ポリアリルアミン塩、縮合ナフタレンスルホン酸塩、アクリル酸共重合体、メタクリル酸共重合体、スチレン−イタコン酸塩共重合体、イタコン酸エステル−イタコン酸塩共重合体、ビニルナフタレン−イタコン酸塩共重合体等)、セルロース誘導体(例えば、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、エチルヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキメチルセルロース塩、ビスコース等)、でんぷん誘導体(例えば、ヒドロキシアルキルでんぷん、酢酸でんぷん、架橋でんぷん、デキストリン、カチオンでんぷん、リン酸でんぷん、カルボキシメチルでんぷん塩等)、天然高分子類(例えば、アルギン酸塩、ゼラチン、アルブミン、ガゼイン、アラビアゴム、トンガントゴム、リグニンスルホン酸塩等)があげられる。
【0045】
中でも、アクリル酸共重合体、メタクリル酸共重合体を好ましく用いることができる。
【0046】
特に、酸価60〜300、Tg−20〜100℃、重量平均分子量5000〜60000程度のものを好ましく用いることができる。
【0047】
(布帛)
本発明に用いる布帛は、実質的に、水溶性高分子を主成分とするインク保持成分を含有してない。いわゆる布帛の前処理工程を省略することで、費用削減、時間削減できるメリットがあるが、本発明のインクジェット捺染方法において、布帛を加熱することがインク滲み抑制に大きな働きをもっており、この観点から布帛が水溶性高分子を主成分とするインク保持成分を含有していないがゆえに、布帛に熱が伝わりやすくインク乾燥効率上好ましいこと、また、布帛からの蒸発乾燥も速く、インクの乾燥増粘のために好ましい。また、布帛に対して均一に染め上げるためにも水溶性高分子を主成分とするインク保持成分を含有してないことは好ましい。
【0048】
実質的に、水溶性高分子を主成分とするインク保持成分を含有してないとは、水溶性高分子を主成分とするインク保持成分の含有量が100mg/m以下である。
【0049】
布帛としては、水性インクを吐出して布帛上に画像を形成した後、加熱工程により反応性染料を固定化できる布帛が好ましく、綿、絹が好ましい。
【0050】
また、本発明に用いる布帛は、アルカリ成分を含有することが好ましい。反応性染料は、布帛の反応基と反応する際に、酸の離脱が伴うため、反応を進行させるためには酸を中和除去するためのアルカリ成分が必要。従来は、前処理工程で、布帛に水溶性高分子を主成分とするインク保持成分を付与し、その成分中にアルカリ成分も含有させていた。本発明では、用いる布帛は水溶性高分子を主成分とするインク保持成分を含有してないが、アルカリ成分を含有することが好ましい。
【0051】
アルカリ成分としては、無機性のものでも有機性のものでも良い。
【0052】
無機アルカリ化合物としては、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどの水酸化物や、炭酸カリウム、炭酸ナトリウムなどの炭酸塩、炭酸水素カリウムや、炭酸水素ナトリウムなどの重炭酸塩を用いることができる。
【0053】
布帛への付与量としては、0.005モル/mから0.05モル/mが好ましく、より好ましくは、0.01モル/mから0.03モル/mである。
【0054】
(画像形成工程)
本発明のインクジェット捺染方法では、布帛を加熱しながら水性インクを吐出して布帛上に画像を形成する。
【0055】
加熱温度としては、記録媒体の記録表面温度を30〜70℃になるように加熱することが好ましい。30℃未満の加熱ではにじみ抑制が不十分であること、乾燥に時間がかかり好ましくない。70℃を超えると、インク射出に大きな影響が出て安定にプリントすることができない。
【0056】
加熱方法としては、記録媒体搬送系もしくはプラテン部材に発熱ヒーターを組み込み、記録媒体下方より接触式で加熱する方法が特に好ましい。ランプ等により下方もしくは上方から非接触で加熱方法を選択することができる。
【0057】
(反応性染料固定化工程)
本発明のインクジェット捺染方法では、水性インクを吐出して布帛上に画像を形成した後、加熱工程により反応性染料を布帛に固定化する工程を含む。
【0058】
予備乾燥した布帛は、スチーミングに付されることが好ましい。その条件は布帛の種類などを勘案して決定されてよいが、湿度50〜100%(より好ましくは湿度80〜100%)および温度90〜120℃(好ましくは95〜105℃)の環境に、3〜120分(好ましくは5〜40分)置かれることが好ましい。更にその後、界面活性剤(好ましくはノニオン系界面活性剤)を含む温水により洗浄することが好ましい。このような後処理が行われた印捺布は発色、堅牢性に優れ、インク滲みが少なくなる。
【0059】
(アルカリ成分付与工程)
布帛にアルカリ成分を添加していない場合は、別途手段によりアルカリを付与することが必要である。画像形成前に布帛にアルカリを付与する方法、もしくは、画像形成後、加熱工程前にアルカリを付与する方法のいずれかを用いることができる。アルカリとしては、炭酸塩もしくは重炭酸塩を好ましく用いることができる。
【0060】
画像形成後にアルカリを付与する場合はにじみが発生しないようにする必要がある、また、画像形成前にアルカリを付与する場合は、画像形成まえにアルカリ付与時に濡れた布帛を十分乾燥しておく必要がある。
【実施例】
【0061】
以下、本発明の実施例を挙げて具体的に説明するが、本発明の実施態様はこれらに限定されるものではない。なお、実施例中で「%」は、特に断りのない限り質量%を表す。
【0062】
実施例1
(インク調製)
表1に記載のインク中濃度になるように、反応性染料、水溶性樹脂、溶剤、及び活性剤を加え、残部を100質量%になるようにイオン交換水で調整した。調製後、1μmフィルターにてろ過した。
【0063】
表1中の略号は以下を表す。
【0064】
RR24:C.I.Reactive Red24
RB72:C.I.Reactive Blue24
DEGBE:ジエチレングリコールモノブチルエーテル
DEGEE:ジエチレングリコールモノエチルエーテル
PG:プロピレングリコール
KF351:信越化学工業株式会社製のシリコン系活性剤
BYK347:ビッグケミー・ジャパン製のシリコン系活性剤
S465:サーフィノール465
F系:FTX400P(株式会社ネオス製のフッ素系活性剤)
【0065】
【表1】

【0066】
実施例2
(プリント作製1)
表2記載の水性インク、及び布帛Aを用いてピエゾ型ヘッド(720dpi(dpiとは、1インチ当たりのドット数を表す)、液適量14pl)を4ヶを並列した4色プリント可能なプリント装置を用いて評価を行った。尚、布帛Aは、炭酸ナトリウムを含有させた綿ブロードである。
【0067】
上記評価装置の1つのヘッドに作製した水性インクを各々導入し、単色画像を作製して画質評価を行った。評価条件は以下の通りである。
【0068】
印字解像度:720dpi×720dpi
ヘッド搬送速度:200mm/sec(双方向印字)
該装置には、記録媒体を下方より接触式ヒーターにて任意に加温できるので、表2記載の布帛表面温度(白地部測定)になるようにヒーター温度を調整して加熱した。
【0069】
また、ヘッド格納ポジションにインク空打ちポジションとブレードワイプ式のメンテナンスユニットを備え、任意の頻度でヘッドクリーニングができる。
【0070】
(プリント作製2)
同様に表3記載の水性インク、及び布帛を用いて同様にプリント作製した。この場合、ヘッド4ヶのうち、2ケにアルカリ液を導入し、インクジェットヘッドからアルカリを供給し、その後、着色インクにてプリントを作製した。尚、布帛Bは、未処理の綿天竺で、布帛Cは未処理の綿ブロードである。
【0071】
アルカリ液は、炭酸ナトリウム3%にプロピレングリコール適量を加えたもの。
【0072】
プリント作製1、及び2の方法で作製したプリントを、捺染用スチーマーにて加熱発色した。発色条件は、94℃15分。その後、水洗5分、50℃温水洗5分後、乾燥しプリント画質評価を行った。
【0073】
(プリント画質評価)
評価は以下の比較前処理布帛へのプリントとにじみ、発色性を比較して評価した。
【0074】
プリント作製1では綿ブロードにアルギン酸ナトリウム、炭酸ナトリウム含有の水溶液をあらかじめディップ、乾燥した比較前処理布(比較前処理済み綿ブロード)を使用した。
【0075】
プリント作製2では、上記比較前処理済み綿ブロードと、別途、綿天竺にアルギン酸ナトリウム、炭酸ナトリウム含有の水溶液をあらかじめディップ、乾燥した比較前処理布(比較前処理済み綿天竺)を用意して用いた。プリント作製2では、本発明の評価に綿天竺を用いたものは、比較前処理済み綿天竺を比較として用いて、本発明の評価に綿ブロードを用いたものは、比較前処理済み綿ブロードを比較として用いた。
【0076】
評価は、目視により、下記基準で試料10点の評価者5人の平均点を四捨五入で求めた。
【0077】
にじみ評価及び発色性評価
5:比較前処理済み布帛より同等かそれ以上
4:比較前処理済み布帛とほぼ同等
3:比較前処理済み布帛より若干劣るが実用可能
2:比較前処理済み布帛より劣る
1:比較前処理済み布帛より相当に劣る。
【0078】
なお、比較インクであるインクNo.5以外のインクは安定に射出した。インクNo.5は欠の発生がありヘッドクリーニングを繰り返し行いプリントを行った。
【0079】
【表2】

【0080】
【表3】

【0081】
表2及び表3の結果から明らかなように、本発明のインクジェット捺染方法により作製したプリント布帛は、比較のプリント布帛に対して、にじみを少なくするとともに、高い発色濃度を種々の布帛に対して実現可能である優れた特性を有することが判った。また、本発明に用いたインクは射出安定性も良好であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも反応性染料、有機溶剤、及び水を含有する水性インクを吐出して、加熱した布帛上に画像を形成した後、加熱工程により該反応性染料を該布帛に固定化する工程を含むインクジェット捺染方法であって、該水性インクは、水、有機溶剤以外の成分の総量が10質量%以上20質量%未満で、その表面張力が20mN/m以上35mN/m以下であり、かつ、前記布帛は、実質的に、水溶性高分子を主成分とするインク保持成分を含有してないことを特徴とするインクジェット捺染方法。
【請求項2】
前記布帛が、アルカリ成分を含有していることを特徴とする請求項1記載のインクジェット捺染方法。
【請求項3】
前記加熱工程の前に、アルカリを付与する工程を含むことを特徴とする請求項1又は2記載のインクジェット捺染方法。
【請求項4】
前記布帛の表面温度を30℃以上70℃以下に加熱しながら水性インクを吐出して該布帛上に画像を形成することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項記載のインクジェット捺染方法。
【請求項5】
前記水性インクがシリコーン系活性剤もしくはフッ素系活性剤を含有することを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項記載のインクジェット捺染方法。
【請求項6】
前記水性インクが水溶性高分子を含有することを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項記載のインクジェット捺染方法。

【公開番号】特開2009−275332(P2009−275332A)
【公開日】平成21年11月26日(2009.11.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−130561(P2008−130561)
【出願日】平成20年5月19日(2008.5.19)
【出願人】(305002394)コニカミノルタIJ株式会社 (317)
【Fターム(参考)】