説明

インクジェット捺染方法

【課題】滲みを抑え、インク溢れを防ぎ、裏面画像描写性に優れたインクジェット捺染プリントを得ることができるインクジェット捺染方法を提供する。
【解決手段】顔料、水、界面活性剤、定着樹脂及び水溶性溶媒を含有し、該定着樹脂が、カルボキシル基を有する不飽和ビニルモノマーを成分として重合した共重合体をアミンにより中和溶解した水溶性共重合物で、該水溶性溶媒としてグリコールエーテル類または1.2−アルカンジオール類を含有する水性顔料インクを用いて、平均太さが20〜100dのポリエステル糸で構成されている布帛を40〜90℃に加熱し、記録解像度360〜1440dpiで、インク液滴量が3.5〜56plで、かつ最大インク付与量が40ml/m以下の条件で、該インクジェット用水性顔料インクをインクジェット捺染用布帛に記録することを特徴とするインクジェット捺染方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット捺染方法に関し、特に、ポリエステル繊維を主体とするインクジェット捺染用布帛を加熱して、水性顔料インクを用いて記録するインクジェット捺染方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
インクジェット方式による画像記録方法は、インクの微小液滴を飛翔させ、記録媒体に付着させる方法であって、その機構が比較的簡便、安価であり、高精細、高品位な画像を形成できる利点がある。
【0003】
このインクジェット方式の利点を生かして布帛へ記録する、いわゆるインクジェット捺染も行われている。インクジェット捺染は、従来の捺染方法とは異なり、版を作製する必要がなく、種々の画像を少量作成するのに適している。また、画像形成のために必要な量だけのインクを用いるため廃液が少なく環境適正にも優れた画像形成方法である。
【0004】
インクジェット捺染用布帛としては、インクの発色性、定着性、乾燥性や、インクの滲みの抑制などの性能が要求される。従来、これらの要求性能を満足させるためには、主として布帛に対して、予め前処理を施しておくことにより対応してきた。しかしながら、煩雑な前処理工程を経るのでは、インクジェット方式の簡便さという利点を生かしきれない。また、最終工程後のプリント画像の優劣は、使用する布帛自体の有する基本特性と、インクの基本特性に負うところが多い。
【0005】
特許文献1には、反応剤を含有する反応液を予め布帛に付着させ、次いで顔料インクを吐出させる方法が記載されているが、反応液を付着させる工程が必要であり煩雑である。
【0006】
また、特許文献2には、架橋構造を有する重合体で顔料を包含した着色剤をインクジェット捺染に用いる方法が記載されているが、この技術をもっても滲みの課題を解決することができない。
【特許文献1】特開2003−55886号公報
【特許文献2】特開2002−338859号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、その目的は、滲みを抑え、インク溢れを防ぎ、裏面画像描写性に優れた高品位プリントを得ることができるインクジェット捺染方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の上記目的は、以下の構成により達成される。
【0009】
1.顔料、水、界面活性剤、定着樹脂及び水溶性溶媒を含有し、該定着樹脂の少なくとも1種が、カルボキシル基を有する不飽和ビニルモノマーを成分として重合した共重合体をアミンにより中和溶解した水溶性共重合物であり、水溶性溶媒としてグリコールエーテル類または1.2−アルカンジオール類を含有するインクジェット用水性顔料インクを用いて、主として平均太さが20d(デニール)以上、100d(デニール)以下のポリエステル糸で構成されているインクジェット捺染用布帛に記録する方法であって、記録する際に該インクジェット捺染用布帛を40℃以上、90℃以下で加熱し、記録解像度360dpi以上、1440dpi以下(dpiとは、2.54cmあたりのドット数を表す)で、インク液滴量が3.5pl以上、56pl以下で、かつ最大インク付与量が40ml/m以下の条件で、該インクジェット用水性顔料インクをインクジェット捺染用布帛に記録することを特徴とするインクジェット捺染方法。
【0010】
2.前記インクジェット用水性顔料インクが、更に前記定着樹脂として水系分散型ポリマー微粒子を含有することを特徴とする前記1に記載のインクジェット捺染方法。
【0011】
3.前記ポリエステル糸で構成されているインクジェット捺染用布帛が、予め処理が施されていないことを特徴とする前記1または2に記載のインクジェット捺染方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、滲みを抑え、インク溢れを防ぎ、裏面画像描写性に優れたインクジェット捺染プリントを得ることができるインクジェット捺染方法を提供することができた。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明を実施するための最良の形態について詳細に説明する。
【0014】
本発明者は、上記課題に鑑み鋭意検討を行った結果、
少なくとも
1)顔料、
2)水、
3)界面活性剤、
4)定着樹脂として、カルボキシル基を有する不飽和ビニルモノマーを成分として重合した共重合体をアミンにより中和溶解した水溶性共重合物、
5)水溶性溶媒として、グリコールエーテル類または1.2−アルカンジオール類を含むインクジェット用水性顔料インクを用いて、
6)主として平均太さが20〜100dのポリエステル糸で構成されているインクジェット捺染用布帛を記録媒体として用いて、
7)該インクジェット捺染用布帛の表面温度を40〜90℃に加熱し、
8)、記録解像度360dpi以上、1440dpi以下(dpiとは、2.54cmあたりのドット数を表す)で、
9)インク液滴量が3.5pl以上、56pl以下で、
10)かつ最大インク付与量が40ml/m以下の条件で、該インクジェット用水性顔料インクをインクジェット捺染用布帛に記録することを特徴とするインクジェット捺染方法により、滲みを抑え、インク溢れを防ぎ、裏面画像描写性に優れたインクジェット捺染プリントを得ることができるインクジェット捺染方法が得られることを見出し、本発明に至った次第である。
【0015】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0016】
本発明のインクジェット捺染方法は、定着樹脂として特定の水溶性共重合物を含有するインクジェット用水性顔料インク(以下、水性顔料インクあるいは単にインクともいう)を、主として平均太さが20〜100dのポリエステル糸で構成されているインクジェット捺染用布帛(以下、単に布帛ともいう)に、特定のプリント条件で記録するインクジェット捺染方法である。該水性顔料インクは、布帛への着弾時に粘度が上昇して、インクの流動性を低下させる。また、併用するグリコールエーテル類や界面活性剤により、インクは糸内部に速やかに浸透することによって、インク溢れを防ぎ、また、インクが糸同士の隙間を拡散して滲むのを抑えることにより、高画質画像を実現すると共に、布帛に色材を十分に定着させることができるものである。
【0017】
上記の効果が発揮される現象について、本発明者は以下のように推定している。
【0018】
即ち、本発明に係る水性顔料インク中では、該水溶性共重合物のカルボキシル基がアミンによって中和されて安定に存在しており、加熱された布帛に着弾すると、水分等の溶媒やアミンなどが蒸発して該水溶性共重合物の濃度が上昇する。また、同時に、中和に用いられたアミンも揮発することによって、更に該水溶性共重合物の濃度が上昇する。その結果、インクの粘度が増すのでインクの流動性を低下させることができ、着弾したインクの溢れや滲みを防ぐことができる。
【0019】
更に、中和剤であるアミンは揮発しているので、記録画像に再度水分が付与されたとしても、該水溶性共重合物は水に再溶解することなく固化し、顔料を定着されるので、耐擦過性や耐水性といった画像耐久性に優れる、という効果が認められると本発明者は考えている。
【0020】
〔水溶性共重合物〕
本発明に係る水溶性共重合物は、カルボキシル基である親水性成分と、疎水性成分とを適切なバランスで有するものを設計して用いる。この際、カルボキシル基を揮発可能な塩基成分で中和することで、水溶性を付与した本発明に係る水溶性共重合体は上記の機能を十分に発揮するものである。このような水溶性共重合物としては、アクリル系、スチレン−アクリル系、アクリロニトリル−アクリル系、酢酸ビニル−アクリル系、ポリウレタン系、ポリエステル系の各樹脂を例示することができる。
【0021】
本発明に係る水溶性共重合物を構成する疎水性モノマーとしては、例えば、アクリル酸エステル(例えば、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸2−ヒドロキシエチル等)、メタクリル酸エステル(例えば、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸グリシジル等)、スチレン等が挙げられる。
【0022】
本発明に係る水溶性共重合物を構成する親水性モノマーとしては、アクリル酸、メタクリル酸、アクリルアミド等が挙げられる。
【0023】
本発明に係る水溶性共重合物が有しているカルボキシル基のような酸性基は、部分的あるいは完全にアミンで中和されている必要がある。アミンとしては、例えば、アンモニア、トリエチルアミン、2−ジメチルアミノエタノール、2−ジ−n−ブチルアミノエタノール、メチルジエタノールアミン、2−アミノ−2−メチル−1−プロパノール、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、2−メチルアミノエタノール等を好ましく用いることができる。
【0024】
特に、沸点が200℃未満のアミンで中和することは、乾燥時にアミンが揮発し易く、疎水性を速く高めて画像の耐久性向上に寄与することから更に好ましい。
【0025】
本発明に係る水溶性共重合物は、インク総質量に対して1.0質量%以上、10質量%以下含有することが好ましく、より好ましくは2.0質量%以上、7.0質量%以下である。本発明に係る水溶性共重合物の含有量が1.0質量%以上であると、顕著に滲みを防止して高画質画像を得ることができる。また、10質量%以下であれば、インクの保存安定性が顕著に良好で、安定出射が可能で長期に渡って安定にプリントを得ることができる。
【0026】
また、本発明に係る水溶性共重合物は、その酸価が80mgKOH/g以上、300mgKOH/g未満であることが好ましいが、これによって該水溶性共重合物の、乾燥時の粘度増加が顕著になるとともに、乾燥後も更に強固に固化して顔料の定着性が良好である。更に好ましい酸価は90〜250mgKOH/g程度のものである。本発明で規定する酸価は、JIS K0070に準拠して測定できる。
【0027】
本発明に係る水溶性共重合物の重合方法としては溶液重合であることが好ましい。本発明に係る水溶性共重合物の分子量としては、平均分子量で3000〜30000のものを好ましく用いることができ、より好ましくは7000〜20000である。
【0028】
本発明に係る水溶性共重合物のTgは、−30℃〜100℃程度のものを好ましく用いることができ、より好ましくは−10℃〜80℃である。
【0029】
〔水溶性溶媒〕
また、本発明に係るインクジェット用水性顔料インクでは、水溶性溶媒として、グリコールエーテル類または1,2−アルカンジオール類を含むことを特徴の一つとする。
【0030】
水溶性共重合物と共に、グリコールエーテル類や1,2−アルカンジオール類を用いることにより、これら水溶性溶媒が、顔料分散体や該水溶性共重合物と疎水的な相互作用を起こし、特に、加熱された布帛へインクが着弾した後に、水分が減少してグリコールエーテル類等の濃度増加に伴ってより強く作用しあい、インクの増粘効果をもたらす。従って、該水溶性重合物とグリコールエーテル類等を併用することにより、滲み防止効果が顕著に発揮されると考えられる。
【0031】
一方、該グリコールエーテル類等は、比較的表面張力が小さい溶媒であり、併用する界面活性剤との相乗効果で、平均太さが20〜100dのポリエステル糸で構成されているインクジェット捺染用布帛に対する十分な親和性を発揮する。これにより、水性顔料インクは、本発明に係るような特定範囲の太さのポリエステル糸内部に速やかに浸透するので、糸同士の隙間を拡散して滲みを起こす現象は抑えられ、顔料は布帛に十分に定着されると本発明者は考えている。
【0032】
本発明に係るグリコールエーテル類としては、例えば、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル等が挙げられる。また、1,2−アルカンジオール類としては、例えば、1,2−ブタンジオール、1,2−ペンタンジオール、1,2−ヘキサンジオール、1,2−ヘプタンジオール等が挙げられる。
【0033】
本発明に係るグリコールエーテルまたは1,2−アルカンジオール系有機溶剤は、インク総質量に対して2〜20質量%含有することが、本発明の効果を顕著に奏するという観点において特に好ましい。
【0034】
〔界面活性剤〕
本発明に係る界面活性剤は、特に限定されないが、例えば、シリコン系界面活性剤、フッ素系界面活性剤またはアセチレン系界面活性剤等が挙げられる。
【0035】
シリコン系界面活性剤としては、ジメチルポリシロキサンの側鎖または末端をポリエーテル変性したもの(ポリエーテル変性ポリシロキサン化合物)が好ましく、例えば、信越化学工業製のKF−351A、KF−642やビッグケミー製のBYK347、BYK348等が挙げられる。
【0036】
また、フッ素系界面活性剤としては、通常の界面活性剤の疎水性基の炭素に結合した水素の代わりに、その一部または全部をフッ素で置換したものを意味する。この内、分子内にパーフルオロアルキル基を有するものが好ましい。
【0037】
フッ素系界面活性剤のうち、ある種のものは市販されており、例えば、大日本インキ化学工業社からメガファック(Megafac)Fなる商品名で、旭硝子社からサーフロン(Surflon)なる商品名で、ミネソタ・マイニング・アンド・マニファクチュアリング・カンパニー社からフルオラッド(Fluorad)FCなる商品名で、インペリアル・ケミカル・インダストリー社からモンフロール(Monflor)なる商品名で、イー・アイ・デュポン・ネメラス・アンド・カンパニー社からゾニルス(Zonyls)なる商品名で、またファルベベルケ・ヘキスト社からリコベット(Licowet)VPFなる商品名で、それぞれ市販されている。
【0038】
また、非イオン性フッ素系界面活性剤としては、例えば、大日本インキ社製のメガファックス144D、旭硝子社製のサーフロンS−141、同145等を挙げることができ、また、両性フッ素系界面活性剤としては、例えば、旭硝子社製のサーフロンS−131、同132等を挙げることができる。
【0039】
本発明で用いることのできるアセチレン系界面活性剤としては、アセチレングリコール系界面活性剤であり、分子中に三重結合を有し、その隣接炭素原子に水酸基及びアルキル基を有し、三重結合に対して左右対称構造であるものが好ましい。本発明で用いることができるアセチレングリコール化合物、アセチレンアルコール化合物は市販品として入手することができ、例えば、日信化学工業(株)製のサーフィノール、オルフィン、川研ファインケミカル社製のアセチレノール等が挙げられる。
【0040】
〔顔料〕
次いで、本発明に係る顔料について説明する。
【0041】
本発明に適用可能な顔料は、水系で安定に分散できるものであればよく、高分子樹脂により分散した顔料分散体、水不溶性樹脂で被覆されたカプセル顔料、顔料表面を修飾し分散樹脂を用いなくても分散可能な自己分散顔料等から選択することができる。インクの保存性を特に重視する場合は、水不溶性樹脂で被覆されたカプセル顔料を選択することが好ましい。
【0042】
高分子樹脂により分散した顔料分散体を用いる場合、高分子樹脂として好ましく用いられるのは、スチレン−アクリル酸−アクリル酸アルキルエステル共重合体、スチレン−アクリル酸共重合体、スチレン−マレイン酸共重合体、スチレン−マレイン酸−アクリル酸アルキルエステル共重合体、スチレン−メタクリル酸共重合体、スチレン−メタクリル酸−アクリル酸アルキルエステル共重合体、スチレン−マレイン酸ハーフエステル共重合体、ビニルナフタレン−アクリル酸共重合体、ビニルナフタレン−マレイン酸共重合体等のような樹脂である。
【0043】
顔料の分散方法としては、ボールミル、サンドミル、アトライター、ロールミル、アジテータ、ヘンシェルミキサー、コロイドミル、超音波ホモジナイザー、パールミル、湿式ジェットミル、ペイントシェーカー等各種を用いることができる。
【0044】
本発明に係る顔料分散体を調製するには、顔料分散体の粗粒分を除去する目的で遠心分離装置を使用すること、フィルターを使用することも好ましく用いられる。
【0045】
また、水不溶性樹脂で被覆されたカプセル顔料を用いる場合の水不溶性樹脂とは、弱酸性ないし弱塩基性の水に対して不溶な樹脂であり、好ましくは、pH4〜10の水溶液に対する溶解度が2質量%未満の樹脂である。
【0046】
このような樹脂としては、アクリル系、スチレン−アクリル系、アクリロニトリル−アクリル系、酢酸ビニル系、酢酸ビニル−アクリル系、酢酸ビニル−塩化ビニル系、ポリウレタン系、シリコン−アクリル系、アクリルシリコン系、ポリエステル系、エポキシ系の各樹脂を挙げることができる。
【0047】
また、本発明では、顔料を分散するのに用いる樹脂として疎水性モノマーと親水性モノマーを構成成分として作成された樹脂を用いることができる。
【0048】
疎水性モノマーとしては、アクリル酸エステル(例えば、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸2−ヒドロキシエチル等)、メタクリル酸エステル(例えば、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸グリシジル等)、スチレン等が挙げられる。
【0049】
親水性モノマーとしては、アクリル酸、メタクリル酸、アクリルアミド等が挙げられ、アクリル酸のような酸性基を有するものは、重合後に塩基で中和したものを好ましく用いることができる。
【0050】
樹脂の分子量としては、重量平均分子量Mwで、3000〜500000のものを用いることができる。好ましくは、7000〜200000のものを用いることができる。
【0051】
樹脂のTgは−30〜100℃程度のものを用いることができ、好ましくは−10〜80℃程度のものを用いることができる。
【0052】
重合方法としては、溶液重合、乳化重合を用いることができる。重合はあらかじめ顔料と別途行ってもよいし、顔料を分散した系内にモノマーを供給して重合してもよい。
【0053】
顔料を樹脂で被覆する方法としては、公知の種々の方法を用いることができるが、好ましくは、転相乳化法や酸析法の他に、顔料を重合性界面活性剤を用いて分散し、そこへモノマーを供給し、重合しながら被覆する方法から選択することがよい。より好ましい方法としては、水不溶性樹脂をメチルエチルケトン等の有機溶剤に溶解し、さらに塩基にて樹脂中の酸性基を部分的または完全に中和後、顔料及びイオン交換水を添加し、分散した後、有機溶剤を除去、必要に応じて加水し調製する製造方法が好ましい。
【0054】
顔料と樹脂の質量比率は、顔料/樹脂比で100/40〜100/150から選択することができる。特に画像耐久性と射出安定性やインク保存性が良好なのは100/60〜100/110である。
【0055】
水不溶性樹脂で被覆された顔料粒子の平均粒子径は、80〜150nm程度がインク保存安定性、発色性の観点から好ましい。
【0056】
顔料粒子の平均粒子径は、光散乱法、電気泳動法、レーザードップラー法等を用いた市販の粒径測定機器により求めることができる。また、透過型電子顕微鏡による粒子像撮影を少なくとも100粒子以上に対して行い、この像をImage−Pro(メディアサイバネティクス製)等の画像解析ソフトを用いて統計的処理を行うことによっても求めることが可能である。
【0057】
また、自己分散顔料としては、表面処理済みの市販品を用いることもでき、例えば、CABO−JET200、CABO−JET300(以上、キャボット社製)、ボンジェットCW1(オリエント化学工業社製)等を挙げることができる。
【0058】
本発明に使用できる顔料としては、従来公知の有機及び無機顔料が使用できる。例えば、アゾレーキ、不溶性アゾ顔料、縮合アゾ顔料、キレートアゾ顔料のアゾ顔料や、フタロシアニン顔料、ペリレン及びペリレン顔料、アントラキノン顔料、キナクリドン顔料、ジオキサンジン顔料、チオインジゴ顔料、イソインドリノン顔料、キノフタロニ顔料等の多環式顔料や、塩基性染料型レーキ、酸性染料型レーキ等の染料レーキや、ニトロ顔料、ニトロソ顔料、アニリンブラック、昼光蛍光顔料等の有機溶剤、カーボンブラック等の無機顔料が挙げられる。
【0059】
具体的な有機顔料を以下に例示する。
【0060】
マゼンタまたはレッド用の顔料としては、C.I.ピグメントレッド2、C.I.ピグメントレッド3、C.I.ピグメントレッド5、C.I.ピグメントレッド6、C.I.ピグメントレッド7、C.I.ピグメントレッド15、C.I.ピグメントレッド16、C.I.ピグメントレッド48:1、C.I.ピグメントレッド53:1、C.I.ピグメントレッド57:1、C.I.ピグメントレッド122、C.I.ピグメントレッド123、C.I.ピグメントレッド139、C.I.ピグメントレッド144、C.I.ピグメントレッド149、C.I.ピグメントレッド166、C.I.ピグメントレッド177、C.I.ピグメントレッド178、C.I.ピグメントレッド222等が挙げられる。
【0061】
オレンジまたはイエロー用の顔料としては、C.I.ピグメントオレンジ31、C.I.ピグメントオレンジ43、C.I.ピグメントイエロー12、C.I.ピグメントイエロー13、C.I.ピグメントイエロー14、C.I.ピグメントイエロー15、C.I.ピグメントイエロー17、C.I.ピグメントイエロー74、C.I.ピグメントイエロー93、C.I.ピグメントイエロー94、C.I.ピグメントイエロー128、C.I.ピグメントイエロー138等が挙げられる。
【0062】
グリーンまたはシアン用の顔料としては、C.I.ピグメントブルー15、C.I.ピグメントブルー15:2、C.I.ピグメントブルー15:3、C.I.ピグメントブルー16、C.I.ピグメントブルー60、C.I.ピグメントグリーン7等が挙げられる。
【0063】
〔水系分散型ポリマー〕
本発明に係るインクには、上記で説明したもの以外にも種々の化合物等を含有することができる。例えば、色材を定着する樹脂として、前述したような本発明に係る水溶性共重合物の他に、水系分散型ポリマー微粒子を含有するのが好ましい。
【0064】
本発明に係る水溶性共重合物は、乾燥時にインクを増粘させて滲みを防ぐ働きを示すと共に、中和剤としてのアミンが揮発することによって、水分に再溶解されにくく顔料定着性にも優れるが、更に水系分散型ポリマー微粒子を含有させることによって、より顔料定着性を強固なものとして耐擦性向上に寄与することができる。また、水系分散型ポリマー微粒子との併用により、インクを増粘させる速さをコントロールして、着弾時のインク滴を適度にレベリングさせて画像表面に凸凹が生ずるのを防いで写像性を良好に保ち、滲み抑制、顔料定着性と併せて満足することができるという利点がある。
【0065】
該水系分散型ポリマー微粒子のTgは、35℃以上であることが、画像の耐擦過性効果を特に発揮するという点においてより好ましく、さらに49℃以上であることがより好ましい。Tgの上限は特に制限されるものではないが、概ね100℃未満であれば柔軟なインク皮膜を得ることができ、プリント物の折り曲げ等による画像のひび割れ故障を抑制できるという点で好ましい。
【0066】
水系分散型ポリマー微粒子の酸価は、44mgKOH/g以上が好ましく、更には60mgKOH/g以上が好ましい。酸価の上限は特に限定されるものではないが、より安定な分散物を得やすいという観点で110mgKOH/g未満が好ましい。
【0067】
水系分散型ポリマー微粒子の平均粒子径は、インクジェット記録ヘッドのノズルにおける目詰まりがなく、良好な光沢感が得られる点で300nm以下であることが好ましく、より好ましくは130nm以下である。平均粒子径の下限は、微粒子の製造安定性の観点から30nmが好ましい。
【0068】
水系分散型ポリマー微粒子の含有量は、色材の定着性とインクの保存安定性の観点から0.7%〜6%が好ましく、特に好ましくは、1〜3%である。
【0069】
水系分散型ポリマー微粒子は、水系で重合された分散物をそのまま、あるいは処理したものを用いてもよいし、溶剤系で重合されたポリマーを水系に分散したものを用いてもよく、アクリル系、ウレタン系、スチレン系、酢酸ビニル系、塩化ビニリデン系、塩化ビニル系、スチレン−ブタジエン系、スチレン−アクリロニトリル系、ポリブタジエン系、ポリエチレン系、ポリイソブチレン系、ポリエステル系等から選択することができる。
【0070】
また、該水系分散型ポリマー微粒子は、吐出安定性の観点からソープフリー型の分散ポリマー粒子が好ましい。特に好ましい水系分散型ポリマー微粒子は、カルボキシル基を有する不飽和ビニルを単量体成分として重合した共重合体の自己分散型ディスパージョンであり、例えば、アクリル酸エチルなどのアクリル系モノマー単独もしくはアクリル系モノマーと共重合し得るエチレン姓の不飽和モノマーからなる組成物にカルボン酸モノマーとしてアクリル酸やマレイン酸などを乳化重合もしくは懸濁重合して得られた分散液をアルカリで膨潤後、機械的せん断により粒子を分割して得られるアクリルヒドロゾルである。尚、アクリルヒドロゾルの中でも、樹脂の屈折率を高めて高い光沢感が得られる点で、モノマー組成にスチレンを含有することが好ましい。
【0071】
前記のアクリルヒドロゾルは、ジョンソンポリマー株式会社のジョンクリル(商標)などが市販されている。
【0072】
〔その他の溶媒〕
本発明に係るインクには、本発明に係る水溶性溶媒のほかにも、種々の液媒体を用いることもできる。該液媒体としては、水及び水溶性有機溶剤等の混合溶剤がさらに好ましく用いられる。例えば、アルコール類(例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、イソブタノール、sec−ブタノール、t−ブタノール等)、多価アルコール類(例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、ブチレングリコール、ヘキサンジオール、ペンタンジオール、グリセリン、ヘキサントリオール、チオジグリコール等)、アミン類(例えば、エタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、N−メチルジエタノールアミン、N−エチルジエタノールアミン、モルホリン、N−エチルモルホリン、エチレンジアミン、ジエチレンジアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ポリエチレンイミン、ペンタメチルジエチレントリアミン、テトラメチルプロピレンジアミン等)、アミド類(例えば、ホルムアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド等)等が挙げられる。
【0073】
〔インクジェット捺染用布帛〕
本発明に係るインクジェット捺染用布帛は、主として平均太さが20〜100dのポリエステル糸で構成されているが、この太さである場合に本発明に係る水性顔料インクが十分に糸内部に浸透し、糸同士の隙間を拡散して生じる滲みを顕著に抑制できる。また、更に好ましくは該ポリエステル糸の平均太さが30〜75dであると、顕著にインク溢れと滲みを防止して、高画質な画像を実現すると共に、布帛に色材を十分に定着させることができる。本発明でいう主として平均太さが20〜100dのポリエステル糸とは、インクジェット捺染用布帛の60%以上が、平均太さが20〜100dのポリエステル糸で構成されていることを意味し、好ましくはインクジェット捺染用布帛の80%以上が、平均太さが20〜100dのポリエステル糸で構成されていることであり、特に好ましくはインクジェット捺染用布帛の90%以上が、平均太さが20〜100dのポリエステル糸で構成されていることである。
【0074】
また、このポリエステル糸は、ポリエステル繊維が撚り合わされて糸となるが、ポリエステルは、エステル結合を有する合成繊維であり、ポリエステル糸は、引張強度、摩擦強度、及び耐熱性が大きく、天然繊維や再生繊維等と高率混紡してもよい。
【0075】
本発明に係るポリエステル糸を構成するポリエステル繊維は、エチレングリコールとテレフタル酸の縮重合物か、炭素数3〜8の直鎖ジオールとテレフタル酸の縮重合物、あるいはエチレングリコールとテレフタル酸と炭素数3〜8の直鎖ジカルボン酸の縮重合物を主として含む繊維から構成されるのが好ましく、特に、ポリエステル主鎖に炭素数3〜8の直鎖アルキレン基を導入した繊維であることが好ましい。
【0076】
本発明に係る平均太さのポリエステル糸を構成するポリエステル繊維の平均太さは、特に制限されないが、1〜10dであることが好ましく、更には2〜7dであることが好ましい。このようなポリエステル繊維を撚り合わせて作製した平均太さが20〜100dのポリエステル糸は、繊維の絡み合いが適切な状態を形成しており、これにより糸内部に本発明に係る水性顔料インクを含むようになり、中和剤が揮発した定着樹脂と顔料がうまく絡み合って、糸同士の隙間をインクが拡散して滲むのを抑え、溢れのない良好な画像を形成することができる。
【0077】
また、本発明のインクジェット捺染方法は、予め前処理等を施していない布帛の場合も、本発明の効果を顕著に示すものであって、この様なときにこそ、インクジェット捺染方法のもつ簡便で高画質画像形成という利点を発揮することができるものである。
【0078】
即ち、従来のような捺染糊と比べて格段に低粘度のインクを用い、必要最小限の量の色材だけを布帛に付与して、ドット表現により画像を形成するインクジェット捺染方法では、他の画像形成方法に比べて、布帛の物理的条件に対する制約が極めて多いものであるが、本発明のインクジェット捺染方法によれば、特定の定着樹脂を含む水性顔料インクを用いることによって、ポリエステル糸の平均太さをコントロールした布帛を用いるだけで、予め捺染用の前処理などを施すことなく、簡便に高品質画像を形成できる。
【0079】
〔印字条件〕
本発明に係る特定の太さをもつポリエステル糸から構成されるインクジェット捺染用布帛において高画質プリントを得るには、各ドット自体を微小化して、1インチ(2.54cm)当たりのドット数(これを記録解像度:単位dpiという。)を多くする必要があるが、ここで、所望のドットサイズを達成するためには、各ノズルから1回で吐出される1滴のインク液滴量が決まってくる。
【0080】
このとき、一定の液滴量のときに記録解像度が大きすぎると、本発明に係る水性顔料インクを用いたとしても、布帛上のインク溢れを防止することができず、また、記録解像度が小さすぎると高画質なプリントを形成することが難しい。
【0081】
一方、一定のドット数のときに、インク液滴量が小さすぎると、本発明にかかる布帛にプリントしたとしても、布帛上のドット間に隙間ができるバンディングという現象を引き起こし、プリント品質上好ましくなく、また、インク液滴量が大きすぎると布帛上のインク溢れを防ぐことができない。
【0082】
記録解像度とインク液滴量と最大インク付与量は下記の関係が成り立つものである。
【0083】
I={(D×L)/(0.0254)}×(10−9
式中、Dは記録解像度(dpi)、Lはインク液滴量(pl)、Iは1色あたりのインクの付与量(ml/m)を表す。
【0084】
例えば、記録解像度720dpi×720dpi、インク液滴量14plの場合、すべての画素に液滴が配置されるように吐出すると1色あたりのインク付与量は11ml/mということになり、マゼンタインク、イエローインク、シアンインクを3色のインクを用いて黒色ベタ画像を形成するならば、33ml/mインクが、本発明に係る布帛に付与され、本発明に係る水性顔料インクは該布帛を構成する特定の太さのポリエステル糸の内部に浸透し、糸同士の隙間をたどって滲む現象を抑えて、かつインク溢れを防いだ高画質プリントを形成する。更に、本発明に係る布帛と水性顔料インクを用いてインクジェット捺染記録するならば、更に6ml/m程度の黒色インクを付与して黒ベタ画像を形成するにあたっても、滲みを抑え、インク溢れを防止した高画質プリントを形成することができる。
【0085】
よって、本発明の記録方法においては、最大インク付与量が40ml/m以下であって、記録解像度が360dpi以上、1440dpi以下であり、インク液滴量が3.5pl以上、56pl以下である必要があり、この場合にこそ、本発明に係る特定の水溶性共重合物を含む水性顔料インクを用いて、特定の太さのポリエステル糸で構成されている布帛を加熱してインクジェット捺染記録することにより、滲みを抑え、インク溢れを防いだ、バンディングの無い高画質プリントを得ることができるものである。
【0086】
仮に、本発明に係る特定の水溶性共重合物以外の定着樹脂を含む水性顔料インクを用いて、本発明のインクジェット捺染方法に準じて、本発明に係る記録解像度、インク液滴量、最大インク付与量の値をもってプリントしても滲みの発生、インク溢れを防ぐことができない。
【0087】
〔布帛の加熱〕
本発明のインクジェット捺染方法は、布帛を40〜90℃に加熱して印字することを特徴の一つとする。
【0088】
布帛を加熱することで、インクの乾燥増粘速度が著しく向上し、高画質が得られる。また、画像の耐久性も向上する。40℃以上であれば、画質は十分であり、また十分な画像耐久性が得られることに加え、乾燥時間も比較的短時間ですむ。一方、90℃以下であれば、インクの安定射出性を確保し安定にプリントすることができる。更に好ましくは、記録媒体の記録表面温度を40〜60℃とすることが好ましい。加熱方法としては、記録媒体搬送系もしくはプラテン部材に発熱ヒーターを組み込み、記録媒体下方から接触式で加熱する方法や、ランプ等により下方または上方から非接触で加熱する方法を選択することができる。また、本発明では、印字後に後処理として120〜180℃に加熱し、最終画像とすることも、好ましく選択することができる。
【0089】
〔インクジェットヘッド〕
本発明のインクジェット捺染方法に使用するインクジェットヘッドは、オンデマンド方式でもコンティニュアス方式でもよく、また吐出方式としては、電気−機械変換方式(例えば、シングルキャビティー型、ダブルキャビティー型、ベンダー型、ピストン型、シェアーモード型、シェアードウォール型等)、電気−熱変換方式(例えば、サーマルインクジェット型、バブルジェット(登録商標)型)等などいずれの吐出方式を用いてもよい。
【実施例】
【0090】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、実施例において「部」あるいは「%」の表示を用いるが、特に断りがない限り「質量部」あるいは「質量%」を表す。
【0091】
《布帛の作製》
〔布帛Aの作製〕
平均太さ2dのポリエステル繊維からなる平均太さ50dのポリエステルフィラメント糸を用いてポリエステル100%の織布を作製し、これを布帛Aとした。
【0092】
〔布帛Bの作製〕
平均太さ4dのポリエステル繊維からなる平均太さ70dのポリエステルフィラメント糸を用いてポリエステル100%の織布を作製し、これを布帛Bとした。
【0093】
〔布帛Cの作製〕
平均太さ2dのポリエステル繊維からなる平均太さ30dのポリエステルフィラメント糸を用いてポリエステル100%の織布を作製し、これを布帛Cとした。
【0094】
〔布帛Dの作製〕
平均太さ0.5dのポリエステル繊維からなる平均太さ10dのポリエステルフィラメント糸を用いてポリエステル100%の織布を作製し、これを布帛Dとした。
【0095】
〔布帛Eの作製〕
平均太さ15dのポリエステル繊維からなる平均太さ120dのポリエステルフィラメント糸を用いてポリエステル100%の織布を作製し、これを布帛Eとした。
【0096】
《顔料分散体の調製》
〔顔料分散体−Cの調製〕
顔料分散剤としてスチレン−アクリル酸共重合体(ジョンクリル678、分子量8500、酸価215)3部、ジメチルアミノエタノール1.3部、イオン交換水80.7部を70℃で攪拌混合して溶解した。
【0097】
次いで、前記溶液に、C.I.ピグメントブルー15:3を15部添加してプレミックスした後、0.5mmのジルコニアビーズを体積率で50%充填したサンドグラインダーを用いて分散し、シアン顔料の含有量が15%の顔料分散体−Cを調製した。
【0098】
〔顔料分散体−Y、M、Bkの調製〕
上記顔料分散体−Cの調製において、シアン顔料C.I.ピグメントブルー15:3に代えて、イエロー顔料としてC.I.ピグメントイエロー−74、マゼンタ顔料としてC.I.ピグメントレッド122、ブラック顔料としてカーボンブラックをそれぞれ用いる以外は同様にして、顔料分散体−Y、顔料分散体−M、顔料分散体−Bkを調製した。
【0099】
《水溶性共重合物の合成》
〔水溶性共重合物1の合成〕
滴下ロート、窒素導入官、還流冷却官、温度計及び攪拌装置を備えたフラスコにメチルエチルケトン50gを加え、窒素バブリングしながら、75℃に加温した。
【0100】
そこへ、メタクリル酸n−ブチル80g、アクリル酸20g、メチルエチルケトン50g、重合開始剤(AIBN)500mgからなる混合物を、滴下ロートより3時間かけ滴下した。滴下後、さらに6時間加熱還流した。放冷後、減圧下で加熱し、メチルエチルケトンを留去して重合物残渣を得た。
【0101】
イオン交換水450mlに対して、モノマーとして添加したアクリル酸の1.05倍モル相当のジメチルアミノエタノールを溶解し、そこへ上記重合物残渣を添加して溶解した。次いで、イオン交換水で濃度を調整し、水溶性共重合物の含有量が20%である水溶性共重合物1(酸価117mgKOH/g)の水溶液を得た。
【0102】
〔比較用の水溶性共重合物αの合成〕
滴下ロート、窒素導入官、還流冷却官、温度計及び攪拌装置を備えたフラスコにメチルエチルケトン50gを加え、窒素バブリングしながら、75℃に加温した。
【0103】
そこへ、メタクリル酸n−ブチル80g、アクリル酸20g、メチルエチルケトン50g、重合開始剤(AIBN)500mgの混合物を滴下ロートより3時間かけ滴下した。滴下後さらに6時間、加熱還流した。放冷後、減圧下加熱しメチルエチルケトンを留去して重合物残渣を得た。
【0104】
イオン交換水450mlに対して、モノマーとして添加したアクリル酸の1.05倍モル相当の水酸化ナトリウムを溶解し、そこへ上記重合物残渣を溶解した。イオン交換水で濃度を調整し、水溶性共重合物の含有量が20%である水溶性共重合物α(酸価117mgKOH/g)の水溶液を得た。
【0105】
《インクセットの調製》
〔インクセット1の調製:本発明〕
(インクC1の調製)
上記調製した顔料分散体−Cの46.6部を攪拌しながら、疎水モノマーを重合成分として有する上記水溶性共重合物の含有量が20%である水溶性共重合物1の水溶液15.0部を添加し、次いで、下記に示す各化合物を順次添加してインク組成物を調製し、0.8μmのフィルターによりろ過してインクC1を得た。
【0106】
顔料分散体−C 46.6部
水溶性共重合物1の水溶液(水溶性共重合物含有量:20%) 15.0部
PDX−7667(BASF社製、アクリル粒子含有量:45%) 2.9部
トリエチレングリコールモノブチルエーテル 10.0部
1,2−ヘキサンジオール 5.0部
ジエチレングリコール 11.2部
シリコン系界面活性剤:KF−351A(信越化学工業社製) 0.6部
イオン交換水を加えて全量100部に調製した。なお、インクC11中の水溶性共重合物1の含有量は、3.0質量%、アクリル粒子の含有量は1.3質量%である。
【0107】
(インクY1、M1、Bk1の調製)
上記インクC1の調製において、顔料分散体−Cに代えて、顔料分散体−Y、M及びBkを用いた以外は同様にして、インクY1、インクM1及びインクBk1を調製した。
【0108】
以上のようにして調製したインクC1、インクY1、インクM1及びインクBk1を、インクセット1とした。
【0109】
〔インクセット2の調製:本発明〕
上記インクセット1を構成するインクC1、インクY1、インクM1及びインクBk1の調製において、水溶性共重合物1の含有量を、1.0質量%に変更した以外は同様にして、インクC2、インクY2、インクM2及びインクBk2を調製し、これをインクセット2とした。
【0110】
〔インクセット3の調製:比較例〕
上記インクセット1を構成するインクC1、インクY1、インクM1及びインクBk1の調製において、水溶性共重合物1を、同量の水溶性共重合物αに変更した以外は同様にして、インクC3、インクY3、インクM3及びインクBk3を調製し、これをインクセット3とした。
【0111】
〔インクセット4の調製:本発明〕
上記インクセット1を構成するインクC1、インクY1、インクM1及びインクBk1の調製において、水溶性共重合物1の含有量を、3.0質量%から4.0質量%に変更し、更にPDX−7667(アクリル粒子)を除いた以外は同様にして、インクC4、インクY4、インクM4及びインクBk4を調製し、これをインクセット4とした。
【0112】
実施例1
〔画像印字〕
ピエゾ型ヘッド4個を並列した4色プリント可能なインクジェット記録装置を用いてインクジェット記録を行った。該インクジェット記録装置には、布帛を下方から接触式ヒーターによって加温できる。また、ヘッド格納ポジションにインク空打ちポジションとブレードワイプ式のメンテナンスユニットを備え、任意の頻度でヘッドクリーニングができる機構を備えている。
【0113】
上記インクジェット記録装置の各ヘッドに、上記調製したインクセット1〜4(Y、M、C、Bk)をそれぞれ装填し、記録解像度720dpi×720dpi、液滴量14pl、ヘッド搬送速度200mm/sec(双方向印字)、布帛加熱温度60℃の条件で、上記作製した布帛A(平均太さ50d)に、各インクを100dutyにて、グレーのベタ画像11〜14及び文字画像11〜14を形成した。この時の最大インク付与量は33ml/mであった。
【0114】
〔形成画像の評価〕
(溢れ(ムラ)の評価)
上記形成したグレーのベタ画像において、インク溢れに起因する画像ムラ発生状態を目視観察し、下記の基準に従って溢れ(ムラ)を評価した。
【0115】
◎:均一でムラの発生がなく、鮮明な画像である
○:わずかに弱いムラの発生は認められるが、実用上許容される画質である
×:強いムラの発生は認められ、鮮明性に乏しい画像である
(滲みの評価)
上記形成したグレーの文字画像の白地(未印字部)との境界領域の画像において、滲みに伴う不規則な乱れの発生の有無を目視観察し、下記の基準に従って滲みを評価した。
【0116】
◎:境界領域での画像の乱れがほぼ無い
○:境界領域での画像の乱れがわずかに認められるが、実用上許容される画質である
×:境界領域で強い画像の乱れが発生し、実用に耐えない画像である
以上により得られた結果を、表1に示す。
【0117】
【表1】

【0118】
表1に記載の結果より明らかなように、本発明で規定する構成からなるインクセットを用いることにより、比較例に対し、布帛に形成した画像の溢れを防ぎ、滲みを抑えた高品位の画像が得られることが分かる。
【0119】
実施例2
〔画像印字〕
実施例1に記載したのと同様のインクジェット記録装置を用い、インクジェット記録装置の各ヘッドに、上記調製したインクセット1(Y1、M1、C1、Bk1)をそれぞれ装填し、記録解像度720dpi×720dpi、液滴量14pl、ヘッド搬送速度200mm/sec(双方向印字)、布帛加熱温度60℃の条件で、上記作製した布帛A〜Eのそれぞれに、各インクを100dutyで、グレーのベタ画像21〜25及び文字画像21〜25を形成した。この時の最大インク付与量は33ml/mであった。
【0120】
〔形成画像の評価〕
形成した各画像について、実施例1に記載の方法と同様にして、溢れ(ムラ)及び滲みの評価を行い、得られた結果を表2に示す。
【0121】
【表2】

【0122】
表2に記載の結果より明らかなように、平均太さが本発明で規定する範囲にある布帛を用いて、本発明のインク及び印字条件で画像形成を行うことにより、溢れを防ぎ、滲みを抑えた高品位の画像が得られることが分かる。比較例の布帛D、Eを用いた場合には、特に、印字部と非印字部の境界領域で滲みが発生し、鮮明な画像を得ることができなかった。
【0123】
実施例3
〔画像印字〕
実施例1に記載したのと同様のインクジェット記録装置を用い、インクジェット記録装置の各ヘッドに、上記調製したインクセット1(Y1、M1、C1、Bk1)をそれぞれ装填し、記録解像度720dpi×720dpi、液滴量14pl、ヘッド搬送速度200mm/sec(双方向印字)の条件で、布帛の加熱温度を30℃、40℃、60℃、85℃、100℃で、上記作製した布帛Aに、各インクを100dutyで、グレーのベタ画像31〜35及び文字画像31〜35を形成した。この時の最大インク付与量は33ml/mであった。
【0124】
〔形成画像の評価〕
形成した各画像について、実施例1に記載の方法と同様にして、溢れ(ムラ)及び滲みの評価と、下記の方法に従って裏面画像描写性の評価を行った。
【0125】
(裏面画像描写性の評価)
上記作成したグレーベタ画像を表面(印字面側)側と裏面側から目視観察し、下記の基準に従って裏面画像描画性を評価した。
【0126】
◎:裏面から観察しても、十分に高濃度の画像が形成されている
○:裏面から観察すると表面からの観察画像より低濃度であるが、裏面側としては実用に耐えうる濃度の画像が形成されている
×:裏面側から観察すると、濃度がまだら状になっていて、低品位の画像が形成されている
以上により得られた結果を、表3に示す。
【0127】
【表3】

【0128】
表3に記載の結果より明らかなように、本発明で規定する温度範囲で布帛を加熱して描画することにより、溢れを防ぎ、滲みを抑えると共に、裏面画像描写性に優れた画像が得られることが分かる。
【0129】
実施例4
〔画像印字〕
実施例1に記載したのと同様のインクジェット記録装置を用い、下記の41〜46の印字条件で画像形成を行い、実施例1に記載の方法と同様にして、溢れ(ムラ)及び滲みの評価を行った。
【0130】
(印字条件41:本発明)
実施例1に記載のインクジェット記録装置を用い、記録解像度720dpi×720dpi、液滴量14pl、ヘッド搬送速度200mm/sec(双方向印字)、布帛加熱温度60℃にて、布帛Aに、前記調製したインクセット1のインクC1,M1、Y1を用いて、各色インクを各々100dutyにてグレーのベタ画像及び文字画像を形成した。なお、このときの最大インク付与量は33ml/mであった。
【0131】
(印字条件42:本発明)
実施例1に記載のインクジェット記録装置を用い、記録解像度360dpi×360dpi、液滴量56pl、ヘッド搬送速度200mm/sec(双方向印字)、布帛加熱温度60℃の条件を備えたインクジェット記録装置を用いて、布帛Aにインクセット1のインクC1,M1、Y1を用いて、各色インクを各々100dutyにてグレーのベタ画像及び文字画像を形成した。なお、このときの最大インク付与量は33ml/mであった。
【0132】
(印字条件43:本発明)
実施例1に記載のインクジェット記録装置を用い、記録解像度1440dpi×1440dpi、液滴量3.5pl、ヘッド搬送速度200mm/sec(双方向印字)、布帛加熱温度60℃にて、布帛Aにインクセット1のインクC1,M1、Y1を用いて、各色インクを各々100dutyにてグレーのベタ画像及び文字画像を形成した。なお、このときの最大インク付与量は33ml/mであった。
【0133】
(印字条件44:比較例)
実施例1に記載のインクジェット記録装置を用い、記録解像度720dpi×720dpi、液滴量84pl、ヘッド搬送速度200mm/sec(双方向印字)、布帛加熱温度60℃にて、布帛Aにインクセット1のインクC1,M1、Y1を用いて、各色インクを各々100dutyにてグレーのベタ画像及び文字画像を形成した。
【0134】
(印字条件45:本発明)
上記印字条件41において、インクセット1のインクC1,M1、Y1、Bk1を用いて、インクC1,M1、Y1の各色インクは各々100dutyで、また、インクBk1は50dutyでグレーのベタ画像及び文字画像を形成した。なお、このときの最大インク付与量は38ml/mであった。
【0135】
(印字条件46:本発明)
上記印字条件41において、インクセット1のインクC1,M1、Y1、Bk1を用いて、各色インクを各々100dutyでグレーのベタ画像及び文字画像を形成した。なお、このときの最大インク付与量は44ml/mであった。
【0136】
〔形成画像の評価〕
形成した各画像について、実施例1に記載の方法と同様にして、溢れ(ムラ)及び滲みの評価を行い、得られた結果を表4に示す。
【0137】
【表4】

【0138】
表4に記載の結果より明らかなように、本発明のインク及び布帛を用いて、本発明で規定する条件で印字を行うことにより、溢れを防ぎ、滲みを抑えて、優れた高品位の画像が得られることが分かる。なお、印字条件41に対し、印字条件42ではやや画像の鮮鋭性が低下した。また、印字条件43は、印字条件41に比較し、画像形成にやや時間を要した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
顔料、水、界面活性剤、定着樹脂及び水溶性溶媒を含有し、該定着樹脂の少なくとも1種が、カルボキシル基を有する不飽和ビニルモノマーを成分として重合した共重合体をアミンにより中和溶解した水溶性共重合物であり、水溶性溶媒としてグリコールエーテル類または1.2−アルカンジオール類を含有するインクジェット用水性顔料インクを用いて、主として平均太さが20d(デニール)以上、100d(デニール)以下のポリエステル糸で構成されているインクジェット捺染用布帛に記録する方法であって、記録する際に該インクジェット捺染用布帛を40℃以上、90℃以下で加熱し、記録解像度360dpi以上、1440dpi以下(dpiとは、2.54cmあたりのドット数を表す)で、インク液滴量が3.5pl以上、56pl以下で、かつ最大インク付与量が40ml/m以下の条件で、該インクジェット用水性顔料インクをインクジェット捺染用布帛に記録することを特徴とするインクジェット捺染方法。
【請求項2】
前記インクジェット用水性顔料インクが、更に前記定着樹脂として水系分散型ポリマー微粒子を含有することを特徴とする請求項1に記載のインクジェット捺染方法。
【請求項3】
前記ポリエステル糸で構成されているインクジェット捺染用布帛が、予め処理が施されていないことを特徴とする請求項1または2に記載のインクジェット捺染方法。

【公開番号】特開2010−31402(P2010−31402A)
【公開日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−192048(P2008−192048)
【出願日】平成20年7月25日(2008.7.25)
【出願人】(305002394)コニカミノルタIJ株式会社 (317)
【Fターム(参考)】