説明

インクジェット捺染用インク組成物、これを用いた捺染方法、及び捺染物

【課題】良好な発色性と各種堅牢性とを兼備するインクジェット捺染用インク組成物、その製造方法、それを用いるインクジェット捺染方法、及びその方法によって得られる捺染布帛を提供する。
【解決手段】インクジェット捺染用インク組成物は、C.I.アシッドレッド274を含む。製造方法は、(1)尿素系化合物、(2)含窒素有機溶媒又は含イオウ有機溶媒、及び(3)多価アルコールを含む混合液にC.I.アシッドレッド274を溶解し、得られた溶液に他の配合成分を添加することを含む。インクジェット捺染方法は、前記インクジェット捺染用インク組成物を用いて実施し、捺染布帛は、前記捺染方法によって得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット捺染用インク組成物に関する。本発明によれば、良好な発色性と良好な堅牢性とを兼備した捺染布帛を得ることができる。
【背景技術】
【0002】
インクジェット印刷は、インクの小滴を飛翔させ、紙やトランスペアレンシーフィルム等の記録媒体に付着させる方法である。この方法は、比較的安価な装置で、高解像度及び高品位な画像を高速で印刷することができる。
【0003】
このインクジェット印刷方法を捺染に適用したインクジェット捺染方法は、予め前処理された各種の布帛にインクの小滴を吐出させて飛翔させ、インクを付着させるため、階調性及び多色表現性等に優れた種々の画像を布帛上に容易に形成することができる。また、インクジェット捺染では、従来の印捺工程で発生する余剰のインクが殆ど発生しないので、環境保全にも有効である。
【0004】
インクジェット捺染で重要な基本的条件は、インクをプリンタヘッドから吐出させるインクジェット方式に適した低粘性に調整すること、インクが布帛の前処理剤と好ましいマッチング特性を示して良好な画像を実現すること、インク乾燥時間を比較的早くして、例えば印捺後に布帛を巻き取る際に裏移りさせないこと、更にインクが長期間の保存に耐えるものであることなどを挙げることができる。
【0005】
特に、絹や羊毛等の動物性繊維系あるいはポリアミド繊維系の布帛に対するインクジェット捺染用インクとして、酸性染料を用いるインクが、従来から種々提案されている(例えば、特許文献1〜3参照)。
【0006】
【特許文献1】特開2004−292522号公報
【特許文献2】特開平8−259832号公報
【特許文献3】特表2002−520498号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
インクジェット捺染においては、布帛上での色再現性を確保するために、紙などの記録媒体に印刷を行う一般的なインクジェット用インクと比較すると、染料濃度を高濃度にする必要がある。しかしながら、染料濃度を高濃度にするために、水溶解性が比較的良好な酸性染料を用いると、満足な湿潤堅牢性を得ることが困難になる。一方、布帛上で十分な湿潤堅牢性を示す酸性染料は、一般的に良好な発色性を有することが少なく、良好な発色性と良好な湿潤堅牢性とを兼備した酸性染料を見出すのは極めて困難である。
【0008】
本発明者は、良好な発色性と良好な湿潤堅牢性とを兼備した酸性染料を見出すために鋭意研究を重ねていたところ、C.I.アシッドレッド274を用いると、良好な発色性と良好な湿潤堅牢性とを兼備したインクジェット用インクを得ることができることを見出した。また、C.I.アシッドレッド274を用いると、湿潤堅牢性が優れているだけでなく、その他の種々の堅牢性も同時に優れていることを見出した。
【0009】
本発明は、こうした知見に基づくものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
従って、本発明は、C.I.アシッドレッド274を含むことを特徴とする、インクジェット捺染用インク組成物に関する。
【0011】
本発明のインクジェット捺染用インク組成物の好ましい態様においては、更に、(1)尿素系化合物、(2)含窒素有機溶媒又は含イオウ有機溶媒、及び(3)多価アルコールを含む。
【0012】
本発明のインクジェット捺染用インク組成物の好ましい態様においては、前記多価アルコールがエチレングリコール系の多価アルコールである。
【0013】
また、本発明は、前記の本発明によるインク組成物を用いることを特徴とする、インクジェット捺染方法にも関する。
【0014】
更に、本発明は、前記の本発明によるインクジェット捺染方法によって捺染された布帛にも関する。
【発明の効果】
【0015】
本発明のインクジェット捺染用インク組成物によれば、良好な発色性と良好な堅牢性とを同時に得ることができる。
【0016】
本発明のインクジェット捺染用インク組成物は、種々の繊維製品の捺染に適用可能であることは勿論のこと、水着のように高度のファッション性や広範な高堅牢性を求められる製品に対しても充分に適用可能である。例えば、水着においては、高度のファッション性が求められるため、優れた発色性を有することが必要であるだけでなく、各種の堅牢性が必要である。本発明のインクジェット捺染用インク組成物は、後述する実施例において具体的データで示すとおり、例えば、耐光堅牢性、洗濯堅牢性、ドライクリーニング堅牢性、汗堅牢性、水堅牢性、摩擦堅牢性、ホットプレッシング堅牢性、及び塩素処理水堅牢性に優れており、高度の堅牢性を求められる製品に対しても充分に適用可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
〔インクジェット捺染用インク組成物〕
(1)染料
本発明のインクジェット捺染用インク組成物においては、酸性染料としてC.I.アシッドレッド274を含む。前記酸性染料の含有量は特に限定されるものではないが、インク組成物の全重量に対して、好ましくは2〜8重量%、より好ましくは4〜6重量%である。前記酸性染料の含有量を2重量%以上とすることにより充分な印捺濃度を得ることができ、8重量%以下とすることによりインクジェット用インク組成物に求められる吐出安定性を良好に維持することができ、特に高温下での吐出不良を防止することができる。
【0018】
(2)尿素系化合物
本発明のインク組成物は、尿素系化合物を含有することが好ましい。尿素系化合物としては、例えば、尿素、ジメチル尿素、モノメチルチオ尿素、チオ尿素、又はジメチルチオ尿素等のアルキル尿素、あるいはアルキルチオ尿素を挙げることができる。本発明のインク組成物が尿素系化合物を含有すると、前記酸性染料の溶解度を向上させることができる。尿素系化合物の含有量は特に限定されるものではないが、インク組成物の全重量に対して、好ましくは1〜10重量%、より好ましくは2〜7重量%である。尿素系化合物の含有量を1重量%以上とすることにより充分な溶解度向上効果を得ることができ、10重量%以下とすることにより印捺滲みを防止することができる。
【0019】
(3)含窒素有機溶媒又は含イオウ有機溶媒
本発明のインク組成物は、含窒素有機溶媒及び/又は含イオウ有機溶媒を含有することが好ましい。含窒素有機溶媒としては、例えば、2−ピロリドン、N−メチル−2−ピロリドン、1,3−ジメチルイミダゾリジノン、又はジメチルホルムアミドを挙げることができる。含イオウ有機溶媒としては、例えば、ジメチルスルホキシド又はチオグリコールを挙げることができる。これらの含窒素有機溶媒又は含イオウ有機溶媒を単独で、あるいはそれらの1種又はそれ以上を適宜組み合わせて用いることができる。含窒素有機溶媒及び/又は含イオウ有機溶媒の含有量は特に限定されるものではないが、インク組成物の全重量に対して、好ましくは3〜20重量%、より好ましくは5〜20重量%である。含窒素有機溶媒及び/又は含イオウ有機溶媒の含有量を3重量%以上とすることにより充分な溶解度向上効果を得ることができ、20重量%以下とすることにより、インクジェット捺染機を構成するゴム部材の破損原因を排除することができる。
【0020】
(4)多価アルコール
本発明のインク組成物は、多価アルコールを含有することが好ましい。多価アルコールとしては、例えば、常圧における沸点が150℃以上の多価アルコールを用いることが好ましく、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、分子量2000以下のポリエチレングリコール、1,3−プロピレングリコール、イソプロピレングリコール、イソブチレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,2−ペンタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,2−ヘキサンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,2,6−ヘキサントリオール、1,8−オクタンジオール、1,2−オクタンジオール、メソエリスリトール、ペンタエリスリトール、チオグリコールなどを挙げることができる。多価アルコールの中では、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール等のエチレングリコール系の多価アルコールが特に好ましい。
【0021】
多価アルコールの含有量は特に限定されるものではないが、インク組成物の全重量に対して、好ましくは1〜40重量%、より好ましくは3〜20重量%である。
【0022】
(5)pH調整剤
本発明のインク組成物は、pH調整剤によってpHをアルカリ域に調整することが望ましい。特に、有機アミンで調整することが望ましい。有機アミンであれば特に制限はないが、比較的蒸気圧の低いアルカノールアミン、特にトリエタノールアミンが好ましい。
【0023】
(6)水
本発明のインク組成物において、水としては任意の水を用いることができるが、純水を用いるのが好ましい。純水は、イオン交換、又は蒸留等で容易に製造することができる。
また、純水を更に紫外線等で滅菌処理するのが更に好ましい。
【0024】
(7)その他の添加物
本発明のインク組成物は、インクの吐出安定性(特には、ピエゾヘッドでの吐出安定性)を向上させる目的で、アルキレングリコールモノアルキルエーテル(例えば、トリエチレングリコールモノ−n−ブチルエーテル)、及び/又は界面活性剤(例えば、アセチレングリコール系界面活性剤)を含有することができる。
【0025】
また、本発明のインクジェット捺染用インク組成物は、前記成分に加えて、防腐剤を含有することが好ましい。好ましい防腐剤としては、例えば、プロキセルCRL、プロキセルBDN、プロキセルGXL、プロキセルXL−2、プロキセルIB、又はプロキセルTNなどを挙げることができる。
【0026】
更に、本発明のインクジェット捺染用インク組成物は、キレート剤(金属封鎖剤)を含有することができる。キレート剤は、インク中の金属をトラップし、インクの信頼性を向上すると共に、布帛上の重金属をトラップし、染め斑防止に有効である。キレート剤としては、エチレンジアミン四酢酸塩、ニトリロトリ酢酸塩、ヘキサメタリン酸塩、ピロリン酸塩、又はメタリン酸塩等が好適である。また、BASF社から市販されているTRILON TA、DEKOL SN、Benkiesed社から市販されているCalgon Tは生分解性に優れており環境面で好適である。
【0027】
更に、本発明のインク組成物は、前記構成成分を適宜選択して含有するが、粘度が20℃で8.0m・Pa・s以下、好ましくは1.5〜6.0m・Pa・sとすることが好ましい。8.0m・Pa・s以下であれば通常の環境温度で何ら支障なくインク吐出が可能である。20℃で8.0m・Pa・sを超えるインクは低温領域での吐出安定性が悪くなる。また、本発明のインク組成物は、pH値が好ましくは10以下、より好ましくは7〜9である。pH値を10以下及び3以上とすることによって、良好な溶解性を得ることができる。
【0028】
[インク組成物の製造方法]
本発明によるインクジェット捺染用インク組成物は、通常の方法によって製造することができる。
【0029】
例えば、全配合成分を同時に混合し、常温下で攪拌して前記酸性染料C.I.アシッドレッド274を溶解させることによって本発明のインク組成物を製造することができる。
【0030】
[インクジェット捺染方法]
本発明によるインクジェット捺染用インク組成物を用いて、通常のインクジェット捺染を実施することができる。このインクジェット捺染方法は、本発明の前記インク組成物を用いて、予め前処理を施した布帛に、吐出させたインク組成物を付着させる工程、定着する工程、及び洗浄する工程により主に構成される。それぞれの工程には、公知の方法及び操作を使用することができる。以下、各工程の具体的な態様を例示する。
【0031】
(布帛の前処理)
本発明のインク組成物を用いるインクジェット捺染方法は、予め前処理を施した布帛、例えば、動物性繊維、又はアミド系繊維のいずれか一つから構成される布帛、あるいはこれら2種以上の繊維の混紡からなる布帛に、インクジェット捺染を行うことが好ましい。
【0032】
布帛の前処理には、公知の前処理剤を用いることができ、前処理剤は、一般に、糊剤、pH調整剤、及びヒドロトロピー剤を含み、更に場合によりシリカを含むことができる。
【0033】
糊剤としては、例えば、グアー、ローカストビーン等の天然ガム類、澱粉類、アルギン酸ソーダ、ふのり等の海草類、ペクチン酸等の植物皮類、メチル繊維素、エチル繊維素、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース等の繊維素誘導体、焙焼澱粉、アルファ澱粉、カルボキシメチル澱粉、カルボキシエチル澱粉、ヒドロキシエチル澱粉等の加工澱粉、シラツガム系、ローストビーンガム系等の加工天然ガム、アルギン誘導体、あるいは、ポリビニールアルコール、ポリアクリル酸エステル、ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド等の合成糊、エマルジョン等が用いられる。
【0034】
また、pH調整剤としては、酸アンモニウム塩、例えば、硫酸アンモニウム、酒石酸アンモニウムが望ましい。更に、ヒドロトロピー剤としては、尿素、ジメチル尿素、チオ尿素、モノメチルチオ尿素、エチレン尿素、又はジメチルチオ尿素等のアルキル尿素を挙げることができる。
【0035】
(後処理)
後処理は、例えば、公知のスチーマー(マチス社製;スチーマーDHe型)を用いて定着操作を行うことができる。具体的には、例えば、温度102℃の高加湿条件下で30分間スチーミング処理を行う。
【0036】
その後、洗浄操作を行う。具体的には、布帛を水道水で揉み洗いした後に、50℃程度の温水中に、ノニオン性ソーピング剤を添加し、時々撹拌しながら15分間程度浸ける。浴比(印捺布重量/浴重量)は1/50であることが好ましい。更に洗浄液中に水道水を入れながら手揉み洗いをする。十分に水洗した後に布を乾燥させ、アイロンを掛けして印捺布を得ることができる。
【0037】
(プリンタヘッド)
インクジェット捺染は、サーマル方式、コンテティニュアス方式、又はピエゾ方式などの任意のインクジェット方式に適用することができるが、好適にはピエゾ振動子方式である。
【0038】
捺染用インクジェットインク組成物をピエゾ振動子型インクジェットプリントヘッドに充填して吐出する際には、このプリントヘッドのノズルプレート表層部分に撥インク処理を施してあることが望ましい。撥インク処理を施すことにより、インクの飛行曲がりが発生しにくくなり、布帛上に再現性の優れた所望の画像を印捺することができる。この飛行曲がり防止効果は、前記の捺染インクにアルキレングリコール−モノ−アルキルエーテルあるいは1,2−ヘキサンジオールを添加することで著しく向上させることができる。
【0039】
また、撥インク処理は、ノズル孔内面にも施すことが好ましい。内面に施すことにより、インクメニスカス位置が安定し、更に吐出安定性が向上する。また、ノズルプレート表面にインクが出にくくなり、ノズル表面の撥インク性を、より長時間維持することができる。
【0040】
ノズルプレートには、所望の口径を有する孔を設けることができる。ノズルプレートの構成材料としては、金属、セラミックス、シリコン、硝子、又はプラスチック等を挙げることができ、好ましくはチタン、クロム、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、錫、又は金等の単一材、若しくはニッケル−リン合金、錫−銅−リン合金、銅−亜鉛合金、又はステンレス鋼等の合金や、ポリカーボネート、ポリサルフォン、アクリルニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体、ポリエチレンテレフタレート、ポリサルフォン、又は各種の感光性樹脂で形成されていることが望ましい。
【0041】
これらの材料表面を撥インク処理する方法は、特に限定されないが、例えば、ニッケルイオンと撥水性高分子樹脂粒子を電荷により分散させた電解液中に浸漬し、電解液を攪拌しながら浸漬されているノズルプレート表面に共析メッキする方法が好ましい。この共析メッキに使用する撥水性高分子樹脂材料としては、ポリテトラフルオロエチレン、ポリパーフルオロアルコキシブタジエン、ポリフルオロビニリデン、ポリフルオロビニル、又はポリジパーフルオロアルキルフマレート等の樹脂を単独に又は混合して用いることが好適である。また、金属材料としては、ニッケルに限定する必要はなく、例えば銅、銀、錫、又は亜鉛等を適宜選択することができる。好ましくは、ニッケル、ニッケル−コバルト合金、又はニッケル−ホウ素合金等のように、表面硬度が大きく、対摩耗性に優れる材料が適している。
【0042】
<実施例>
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、これらは本発明の範囲を限定するものではない。
【0043】
なお、本明細書において、水溶解度の判定は、以下に示す濾紙スポット法によって実施した。ここで濾紙スポット法とは、マイクロシリンジから試験液1滴を濾紙上に滴下させ、濾紙上に形成される展開像を目視によって観察して溶解性を判定するものである。具体的には、濾紙上に濃淡模様(輪染みと称する)が形成されたり、染料結晶が観察された場合は、非溶解(不溶)と判定し、前記のような濃淡模様(輪染み)や染料結晶が観察されず、溶液による均一な円形模様が形成された場合には、溶解と判定する。
【実施例1】
【0044】
以下の表1に示す組成に基づいて4種のインク組成物を調製した。なお、以下の表1で、「TEG−BE」は、トリエチレングリコールモノ−n−ブチルエーテルであり、「オルフィンPD002W」(日信化学工業社)は、アセチレングリコール系界面活性剤である。
【0045】
【表1】

【0046】
表1の数値の単位はg(グラム)である。
【0047】
インク組成物の調製
組成1の配合成分ををサンプル瓶に入れ、常温(25℃)下にてマグネティックスターラーで3時間攪拌した。その後、酸性染料C.I.アシッドレッド274が全て溶解していたことを前記濾紙スポット法で確認しインクとした。組成2〜4も同様である。
【実施例2】
【0048】
印捺試験
捺染用インクジェットプリンタとしては、改造したインクジェットプリンタ〔EM900C;セイコーエプソン社〕を用いた。前処理剤〔グアガム/硫酸アンモニウム/尿素/水=2/4/10/84〕により、絹製布帛を常法によってパッディングした。なお、グアガムとしては、市販品〔NP8;(株)三昌〕を用い、ピックアップ率は約70%とした。パディング処理した布帛に、実施例1で調製した組成1インクをインクジェット記録方法によって印捺し、印捺した布帛を、102℃の高加湿条件下で30分間蒸熱定着し、常法によって洗浄し、乾燥した。こうして得られた印捺物に関して、マクベス分光光度計(光源=D50)を用いて測色し、CIE表色系のL***を求めた。結果を表2に示す。
【0049】
【表2】

【0050】
表2の結果は、実施例1で調製したインク組成物は、良好なマゼンタ色を発色したことを示している。
【実施例3】
【0051】
吐出試験
実施例1で調製したインク組成物を、改造したインクジェットプリンタ〔EM900C;セイコーエプソン社〕に充填し、35℃〜10℃条件下で吐出試験を実施した。吐出は各条件でエプソンファイン紙(A4版)に10000枚に行った。結果を表3に示す。
【0052】
【表3】

表3より組成4は高温、低温下で時々吐出曲がりを起こすことが分かる。これは、組成1〜3までに配合されているTEG−BEが温度環境に関わらず、インクの吐出性能を向上させることを示している。但し、組成4でも常温下では全く問題なく吐出が行われることから、実用上問題になることは無い。
【実施例4】
【0053】
環境放置試験
実施例1で調整したインク組成物を、+15℃〜−5℃の条件下で、10日放置し、染料析出の有無を濾紙スポット法で確認した。結果を表4に示す。
【0054】
【表4】

【0055】
組成1〜4は水の溶解性が少ないアシッドレッド274を種種の添加剤で溶解させ、水性インクとしたものである。組成3はマイナス5℃下に放置されると、少量の染料析出がみられが、これエチレングリコール系溶媒は貧溶媒である水中にある染料を低温下でも溶解させるのに対し、グリセリンでは低温下では十分な溶解性保持できないことを示している。染料の析出は吐出詰まりの原因となる。但し、表3からも判断できるように、組成3は通常の作業環境下では全く問題なく印捺が可能である。
【実施例5】
【0056】
各種堅牢性試験
捺染用インクジェットプリンタとしては、改造したインクジェットプリンタ〔EM900C;セイコーエプソン社〕を用いた。前処理剤〔グアガム/硫酸アンモニウム/尿素/水=2/4/10/84〕により、絹製布帛を常法によってパッディングした。なお、グアガムとしては、市販品〔NP8;(株)三昌〕を用い、ピックアップ率は約70%とした。パディング処理した布帛に、実施例3で調製したインク組成物をインクジェット記録方法によって印捺し、印捺した布帛を、102℃の高加湿条件下で30分間蒸熱定着し、常法によって洗浄し、乾燥した。こうして得られた印捺物に関して、以下の各種堅牢性試験(a)〜(h)を実施した。以下の各種堅牢性試験(a)〜(h)による評価は、数値が高いほど堅牢性が高いことを意味する。一般的には、3級以上であれば、実用上の問題はないものと考えられている。それぞれの結果を以下の表5に示す。
【0057】
(a)耐光堅牢性
この試験は、「キセノンアーク灯光に対する染色堅牢度試験方法(JIS L 0843)」のA−3法に従って実施した。具体的には、試験片(供試捺染物)を規定の方法に基づいてキセノンアーク灯光に露光し、試験片(供試捺染物)の変退色によって堅牢度を判定した。
【0058】
(b)洗濯堅牢性
この試験は、「洗濯に対する染色堅牢度試験方法(JIS L 0844)」のA−2号に従って実施した。
【0059】
(c)ドライクリーニング堅牢性
この試験は、「ドライクリーニングに対する染色堅牢度試験方法(JIS L 0860)」のA法に従って実施した。
【0060】
(d)汗堅牢性
この試験は、「汗に対する染色堅牢度試験方法(JIS L 0848)」に従って実施した。具体的には、複合試験片(供試捺染物を添付白布2枚で挟んで作成した試験片)を規定の方法に基づいて人工汗液で処理し、取り出して乾燥した後、試験片(供試捺染物)の変退色と、試験片(供試捺染物)に添付した白布(綿又は絹)の汚染の程度を、それぞれ変退色用グレースケール及び汚染用グレースケールと比較して、その堅牢度を判定した。なお、人工汗液として、酸性人工汗液(pH5.5)及びアルカリ性人工汗液(pH8.0)を用いて試験を実施した。
【0061】
(e)水堅牢性
この試験は、「水に対する染色堅牢度試験方法(JIS L 0846)」に従って実施した。具体的には、複合試験片(供試捺染物を添付白布2枚で挟んで作成した試験片)を加圧下にて水で処理した後、乾燥し、試験片(供試捺染物)の変退色と、試験片(供試捺染物)に添付した白布(綿又は絹)の汚染の程度を、それぞれ変退色用グレースケール及び汚染用グレースケールと比較して、その堅牢度を判定した。
【0062】
(f)摩擦堅牢性
この試験は、「摩擦に対する染色堅牢度試験方法(JIS L 0849)」に従い、摩擦試験機II形(学振形)を用いて実施した。この試験方法は、前記摩擦試験機を用いて規定の方法(供試捺染物を試験片台上に、摩擦用白綿布を摩擦子の先端に、それぞれ取り付け、2Nの荷重で、供試捺染物100mmの間を毎分30回往復の速度で100回往復摩擦する)に基づいて、供試捺染物と摩擦用白綿布とを互いに摩擦し、摩擦用白綿布の着色の程度を汚染用グレースケールと比較して、その堅牢度を判定する方法である。なお、乾燥試験では、供試捺染物(試験片)及び摩擦用白綿布を予め標準状態で4時間以上放置してから試験を実施した。湿潤試験では、摩擦用白綿布を水で濡らし、約100%湿潤状態にしたものを用いて、標準状態の供試捺染物(試験片)を摩擦した後、60℃を超えない温度で乾燥した。
【0063】
(g)ホットプレッシング堅牢性
この試験は、「ホットプレッシングに対する染色堅牢度試験方法(JIS L 0850)」の乾熱試験機法(A−2法)に従って実施した。具体的には、供試捺染物(試験片)を規定の方法(ホットプレス台上に白綿布1枚を載せ、更に、その上に試験片1枚を上部加熱板のほぼ中央部が接するように置き、予め加熱した上部加熱板を重ね、試験片に4±1kPaの圧力が加わるようにして、15秒間圧力を加える)に基づいてホットプレッシングし、供試捺染物(試験片)と白綿布を取り出し、供試捺染物(試験片)の熱板接触側の変退色と、供試捺染物(試験片)と共に使用した白綿布(試験片との接触側の面)の汚染の程度を、それぞれ変退色用グレースケール又は汚染用グレースケールと比較し、その堅牢度を判定した。
【0064】
(h)塩素処理水堅牢性
この試験は、「塩素処理水に対する染色堅牢度試験方法(JIS L 0884)」のA法に従って実施した。具体的には、供試捺染物(試験片)を規定の方法に基づいて、洗濯試験機中で次亜塩素酸ナトリウムの希薄溶液で処理し、乾燥後、供試捺染物(試験片)の変退色を変退色用グレースケールと比較して、その堅牢度を判定した。
【0065】
【表5】

【0066】
各種堅牢性試験の結果は、いずれも3級以上であり、実用上の問題は全くないことが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明のインクジェット捺染用インク組成物は、酸性染料C.I.アシッドレッド274を含有し、良好な発色性と良好な各種堅牢性とを兼備しているので、種々の繊維製品の捺染に適用可能であることは勿論のこと、水着のように高度のファッション性や高度の堅牢性を求められる製品に対しても好適に適用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
C.I.アシッドレッド274を含むことを特徴とする、インクジェット捺染用インク組成物。
【請求項2】
更に、(1)尿素系化合物、(2)含窒素有機溶媒又は含イオウ有機溶媒、及び(3)多価アルコールを含む、請求項1に記載のインク組成物。
【請求項3】
前記多価アルコールがエチレングリコール系の多価アルコールであることを特徴とする請求項1または2に記載のインク組成物。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載のインク組成物を用いることを特徴とする、インクジェット捺染方法。
【請求項5】
請求項4に記載のインクジェット捺染方法によって捺染された布帛。

【公開番号】特開2007−119657(P2007−119657A)
【公開日】平成19年5月17日(2007.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−315762(P2005−315762)
【出願日】平成17年10月31日(2005.10.31)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】