説明

インクジェット用インク、インクジェット記録方法、インクカートリッジ、記録ユニット、及びインクジェット記録装置

【課題】普通紙及び光沢紙などのインクジェット用にも適用可能な記録媒体に対して、色調、発色性、耐光性、及び耐ガス性に優れた画像を与えるインクジェット用インクを提供すること。
【解決手段】少なくとも、第1の色材及び第2の色材、の2つの色材を含有するインクジェット用インクであって、前記第1の色材が、式(I)で表される金属キレート化合物若しくはその塩、及び/又は、一般式(II)で表される化合物であり、前記第2の色材が、一般式(III)で表される化合物であることを特徴とするインクジェット用インク。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット用インク、インクジェット記録方法、インクカートリッジ、記録ユニット、及びインクジェット記録装置に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録方法は、インク小滴を、所謂、普通紙、或いは、光沢紙などの、表面にコート層やインク受容層を有する特殊媒体などの記録媒体に付与して画像を形成する記録方法であり、その低価格化、記録速度の向上により、急速に普及が進んでいる。また、インクジェット記録方法により得られる画像の高画質化が進んだことに加えて、デジタルカメラの急速な普及に伴い、銀塩写真に匹敵する画像の出力方法として広く一般的になっている。
【0003】
近年、インクジェット記録方法では、インク滴の極小化や、多色インクの導入に伴う色域の向上などにより、今まで以上に画像の高画質化が進んでいる。しかしその反面、色材やインクに対する要求はより大きくなり、発色性の向上や、目詰まり、吐出安定性などの信頼性においてより厳しい特性が要求されている。
【0004】
一方で、インクジェット記録方法の問題点としては、得られた記録物の画像保存性に劣ることが挙げられる。一般に、インクジェット記録方法で得られた記録物は、銀塩写真と比較してその画像保存性が低い。具体的には、記録物が、光、湿度、熱、空気中に存在する環境ガスなどに長時間さらされた際に、記録物上の色材が劣化し、画像の色調変化や褪色が発生しやすいといった問題がある。
【0005】
中でも、色材として染料を含有する染料インクを用いて形成した画像の堅牢性、特に耐光性の観点では、色材に特有の化学反応に伴う耐光性の低さが課題となっている。これに対して、このような耐光性の問題を解決し、画像の耐光性を向上させるために、従来から数多くの提案がなされている。そして、シアン、マゼンタ、及びイエローの各インクの中でも画像保存性が低いマゼンタインクに用いる染料に関しては、従来から数多くの提案がなされている。
【0006】
例えば、耐水性などの画像保存性や色調に優れた画像を形成することができる色材として、キサンテン系染料や、H酸を用いたアゾ系染料に関する提案がある(特許文献1及び2参照)。また、色調及び耐光性に優れたマゼンタ染料として、アントラピリドン系染料に関する提案がある(特許文献3参照)。さらに、アントラピリドン系染料及びアゾ系染料を含有することで、色調が良好であり、耐オゾン性及び耐光性が良好な画像の形成を可能としたマゼンタインクに関する提案がある(特許文献4及び5参照)。また、含金属系アゾ染料を含有することで、高い耐オゾン性や耐光性を有し、良好な発色性を有する画像の形成を可能としたマゼンタインクに関する提案がある(特許文献6)。
【0007】
【特許文献1】特開平8−73791号公報
【特許文献2】特開平9−255882号公報
【特許文献3】特開2005−008868号公報
【特許文献4】特開2005−105136号公報
【特許文献5】特開2005−307068号公報
【特許文献6】特表2005−533900号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1及び2に記載の方法では、以下のような課題を有していた。先ず、キサンテン系染料は、色調には優れるが、耐光性が非常に劣る。一方、H酸を用いたアゾ系染料は、色調は良いものもあるが、耐光性や耐ガス性に劣る。また、これらのタイプの染料については、色調及び耐光性に優れたマゼンタ染料とする開発が広く行われているが、銅フタロシアニン系染料に代表されるシアン染料や、イエロー染料などの他の色相を有する染料と比較すると、依然として耐光性が劣る水準にある。
【0009】
また、特許文献3に記載の方法においても、他の色相を有する染料に匹敵する鮮明性、耐ガス性、耐光性を満足するマゼンタ染料は得られていない。
特許文献4及び5には、耐ガス性が高く、耐光性が低いアントラピリドン系染料と、耐ガス性が低く、耐光性が高いアゾ系染料とを併用し、互いの特性を補い合うことで、耐ガス性と耐光性が共に高いマゼンタインクが得られることが記載されている。そして、このようなアントラピリドン系染料とアゾ系染料を併有するインクを用いた場合は、色材として、アントラピリドン系染料のみ又はアゾ系染料のみを含有する各インクと比較して、画像における耐ガス性及び耐光性がある程度は良化する。しかし、このようなアントラピリドン系染料とアゾ系染料とを併有するインクを用いたとしても、近年求められている堅牢性に対する高い水準に達した画像の形成には至っていない。さらに、記録媒体が、インク受容層を有さない、所謂、普通紙である場合には、マゼンタ画像として十分な発色性を有する画像を得るには至っていないという課題もある。さらに、特許文献6に記載のマゼンタインクも、近年求められている高いレベルの画像の堅牢性を満たすには十分ではない。
【0010】
したがって、本発明の目的は、普通紙及び光沢紙などのインクジェット用にも適用可能な記録媒体に対し、色調、発色性、耐光性、及び耐ガス性に優れた画像を与えるインクジェット用インクを提供することにある。また、本発明の別の目的は、発色性、耐光性、耐ガス性に優れたマゼンタ画像の形成を可能とするインクジェット記録方法、インクカートリッジ、記録ユニット、及びインクジェット記録装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の目的は以下の本発明によって達成される。すなわち、本発明にかかるインクジェット用インクは、少なくとも、第1の色材及び第2の色材、の2つの色材を含有するインクジェット用インクであって、前記第1の色材が、下記式(I)で表される金属キレート化合物若しくはその塩、及び/又は、下記一般式(II)で表される化合物であり、前記第2の色材が、下記一般式(III)で表される化合物であることを特徴とする。


(一般式(II)中、Mはそれぞれ独立に、水素原子、アルカリ金属、アンモニウム、又は有機アンモニウムである。)

(一般式(III)中、R2、R3、R4、及びR5はそれぞれ独立に、アルキル基であり、Mはそれぞれ独立に、水素原子、アルカリ金属、アンモニウム、又は有機アンモニウムである。)
【0012】
また、本発明の別の実施態様にかかるインクジェット記録方法は、インクをインクジェット方式で吐出して記録媒体に記録を行うインクジェット記録方法において、前記インクが、上記本発明のインクジェット用インクであることを特徴とする。
【0013】
また、本発明の別の実施態様にかかるインクカートリッジは、インクを収容するインク収容部を備えたインクカートリッジにおいて、前記インクが、上記本発明のインクジェット用インクであることを特徴とする。
【0014】
また、本発明の別の実施態様にかかる記録ユニットは、インクを収容するインク収容部と、インクを吐出するための記録ヘッドとを備えた記録ユニットにおいて、前記インクが、上記本発明のインクジェット用インクであることを特徴とする。
【0015】
また、本発明の別の実施態様にかかるインクジェット記録装置は、インクを収容するインク収容部と、インクを吐出するための記録ヘッドとを備えたインクジェット記録装置において、前記インクが、上記本発明のインクジェット用インクであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、普通紙及び光沢紙などのインクジェット用にも適用可能な記録媒体に対し、色調、発色性、耐光性、及び耐ガス性に優れた画像を与えるインクジェット用インクを提供することができる。また、本発明の別の実施態様によれば、発色性、耐光性、耐ガス性に優れたマゼンタ画像の形成が可能となるインクジェット記録方法、インクカートリッジ、記録ユニット、及びインクジェット記録装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下に、好ましい実施の形態を挙げて、本発明を詳細に説明する。なお、本発明においては、化合物が塩である場合は、インク中では塩はイオンに解離して存在しているが、便宜上、「塩を含有する」と表現する。また、以下、式(I)で表される金属キレート化合物若しくはその塩を、「式(I)の化合物」と省略して記載することがある。また、一般式(II)で表される化合物、及び一般式(III)で表される化合物を、それぞれ、「一般式(II)の化合物」、及び「一般式(III)の化合物」と省略して記載することがある。
【0018】
<インク>
以下、本発明にかかるインクジェット用インク(以下、単に「インク」と呼ぶこともある)を構成する成分などについて詳細に述べる。
【0019】
本発明者らの検討の結果、特定の構造を有する含金属系染料とアゾ系染料とを併有した構成とすることにより、高いレベルでの画像の耐光性及び耐ガス性の向上が得られると同時に、マゼンタインクとしての好ましい色調の両立が達成できることがわかった。さらに、このような構成のインクを用いることにより、普通紙に対しても、マゼンタ画像として十分な発色性を有する画像形成が可能となることがわかった。
【0020】
すなわち、本発明のインクの特徴は、含金属系染料である、後述する式(I)の化合物及び/又は下記一般式(II)の化合物(第1の色材)と、アゾ系染料である、後述する下記一般式(III)の化合物(第2の色材)とを組み合わせて用いた点にある。
【0021】
〔第1の色材〕
本発明のインクは、第1の色材として、色調及び耐光性に優れるという特徴を有する、下記式(I)で表される金属キレート化合物若しくはその塩、及び/又は、下記一般式(II)の化合物を含有してなることを要する。
【0022】
[式(I)の化合物]

【0023】
第1の色材が、上記式(I)で表される金属キレート化合物の塩である場合、塩を形成するための陽イオンとしては、アルカリ金属イオン、アンモニウムイオン、及び有機アンモニウムイオンが挙げられる。前記アルカリ金属としては、例えば、リチウム、ナトリウム、及びカリウムなどが挙げられる。前記有機アンモニウムとしては、例えば、アセトアミド、ベンズアミド、メチルアミノ、ブチルアミノ、ジエチルアミノ、及びフェニルアミノなどが挙げられる。
【0024】
本発明で使用する第1の色材は、上記式(I)で表される金属キレート化合物、若しくは金属キレート化合物の塩の形態となり得るが、さらに、これらの互変異性体、特にトリアゾール環の互変異性体をも含む。
【0025】
上記式(I)で表される金属キレート化合物は、公知の技術を用いて、塩に変換され得る。例えば、化合物のアルカリ金属塩は、染料のアルカリ金属塩を水中に溶解させ、この溶液を適切に修飾されたイオン交換樹脂のカラムに通過させることによって、アンモニア又はアミンとの塩に変換され得る。
【0026】
[一般式(II)で表される化合物]

(一般式(II)中、Mはそれぞれ独立に、水素原子、アルカリ金属、アンモニウム、又は有機アンモニウムである。)
【0027】
一般式(II)におけるMはそれぞれ独立に、水素原子、アルカリ金属、アンモニウム、又は有機アンモニウムである。前記アルカリ金属としては、例えば、リチウム、ナトリウム、及びカリウムなどが挙げられる。前記有機アンモニウムとしては、例えば、アセトアミド、ベンズアミド、メチルアミノ、ブチルアミノ、ジエチルアミノ、及びフェニルアミノなどが挙げられる。
【0028】
一般式(II)の化合物は、公知の技術を用いて、塩に変換され得る。例えば、化合物のアルカリ金属塩は、染料のアルカリ金属塩を水中に溶解させ、この溶液を適切に修飾されたイオン交換樹脂のカラムに通過させることによって、アンモニア又はアミンとの塩に変換され得る。
【0029】
〔第2の色材:一般式(III)で表される化合物〕
本発明のインクは、第2の色材として、色調に特に優れるという特徴を有する、下記一般式(III)の化合物を含有してなる。
【0030】

(一般式(III)中、R2、R3、R4、及びR5はそれぞれ独立に、アルキル基であり、Mはそれぞれ独立に、水素原子、アルカリ金属、アンモニウム、又は有機アンモニウムである。)
【0031】
一般式(III)におけるR2、R3、R4、及びR5はそれぞれ独立にアルキル基である。アルキル基は、インクを構成する水性媒体への溶解性の観点から、炭素数が1乃至3であることが好ましく、具体的には、メチル基、エチル基、第1級プロピル基、及び第2級プロピル基が挙げられる。なお、アルキル基の炭素数が4以上であると、色材の疎水性が大きくなり、色材がインクを構成する水性媒体に溶解しない場合があるので好ましくない。
【0032】
一般式(III)におけるMはそれぞれ独立に、水素原子、アルカリ金属、アンモニウム、又は有機アンモニウムである。前記アルカリ金属としては、例えば、リチウム、ナトリウム、及びカリウムなどが挙げられる。前記有機アンモニウムとしては、例えば、アセトアミド、ベンズアミド、メチルアミノ、ブチルアミノ、ジエチルアミノ、トリエチルアミノ及びフェニルアミノなどが挙げられる。
【0033】
前記一般式(III)の化合物の好ましい具体例は、下記の例示化合物3〜5が挙げられる。なお、下記の例示化合物は遊離酸の形で記載する。勿論、本発明は、前記一般式(III)の構造及びその定義に包含されるものであれば、下記の例示化合物に限られるものではない。本発明においては、下記の例示化合物の中でも、例示化合物4を用いることが特に好ましい。
【0034】

【0035】

【0036】

【0037】
なお、本発明に用いるアゾ系染料は、モノアゾ染料であればどのような構造を有する化合物であってもよいというわけではない。例えば、上述した、含金属系染料である式(I)の化合物及び/又は一般式(II)の化合物と、モノアゾ染料である下記の一般式(IV)の化合物とを組み合わせて含有するインクでは、優れた耐光性を有する画像を得ることはできない。
【0038】

(一般式(IV)中、R1、R2、及びR3はそれぞれ独立に、炭素数1乃至9の置換若しくは非置換のアルキル基、炭素数1乃至9のアルコキシ基、ハロゲン原子、水素原子、ヒドロキシル基。置換若しくは非置換のカルバモイル基、置換若しくは非置換のスルファモイル基、置換若しくは非置換のアミノ基。ニトロ基、スルホン酸エステル基、炭素数1乃至9のアルキルスルホニル基、炭素数6乃至15のアリールスルホニル基、カルボキシル基、又はカルボン酸エステル基である。iは0、1、又は2である。R4、R5、及びR6はそれぞれ独立に、水素原子、炭素数1乃至18のアルキル基、炭素数2乃至18の、アルケニル基、アリール基、アラルキル基、アリサイクリック基、又はヘテロサイクリック基である。これらのうち水素原子以外は置換基を有してもよい。)
【0039】
〔色材の含有量〕
上述した、式(I)の化合物及び一般式(II)の化合物は、青味のマゼンタの色調を有する。そして、インクとし、普通紙や光沢紙などのインクジェット用にも適用可能な記録媒体に画像を形成した場合には、光学濃度の高い画像が得られるが、画像の耐オゾン性が十分に得られないという特性を有する。これに対し、上述した一般式(III)の化合物は、黄味のマゼンタの色調を有する。そして、インクとし、光沢紙などのインクジェット用にも適用可能な記録媒体に画像を形成した場合には光学濃度の高い画像が得られるものの、普通紙に形成した画像では、十分な光学濃度を有する画像が得られないという特性を有する。本発明のインクは、このような特性を有する、式(I)の化合物及び/又は一般式(II)の化合物と、一般式(III)の化合物とを併有させてなるものである。そして、このような構成のインクとすることにより、光沢紙などのインクジェット用にも適用可能な記録媒体だけでなく、普通紙に対しても発色性の高いマゼンタ画像の形成が可能となる。また、光沢紙などのインクジェット用にも適用可能な記録媒体に形成した画像に対して、近年求められている高いレベルの耐オゾン性や耐光性の向上を図ることができる。
【0040】
上記したような本発明の効果をより好適に得るためには、第1の色材のインク中における含有量(質量%)を、第2の色材のインク中における含有量(質量%)に対して、質量比率で、0.1以上5.0以下とすることが好ましい。すなわち、(第1の色材/第2の色材)=0.1以上5.0以下、具体的には、{(式(I)の化合物及び/又は一般式(II)の化合物の含有量)/(一般式(III)の化合物の含有量)}=0.1以上5.0以下とすることが好ましい。本発明のインクにおいて、第1の色材と第2の色材の含有量の質量比率を上記範囲とすることで、さらに、予想を超えた以下の2つの相乗効果が得られる。先ず、相乗効果の1つ目は、インク画像における、予想を超えた耐オゾン性の向上である。すなわち、本発明のインクで形成した画像の耐オゾン性は、第1の色材と第2の色材をそれぞれ単独で含むインクによって得られる画像の耐オゾン性から予測される、これらの色材を組み合わせた場合の画像の耐オゾン性のレベルをはるかに上回るものになる。次に、相乗効果の2つ目は、インク画像の色調の改善である。すなわち、特に、第1の色材と第2の色材の含有量の質量比率を上記範囲としたインクとすることで、普通紙においても、より好ましい色調(発色性)のマゼンタ画像を得ることができる。
【0041】
さらに、本発明のインクは、各色材の含有量が、以下の構成を満たす形態とした場合が特に好ましい。先ず、インク中における第1の色材の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、0.1質量%以上10.0質量%以下の範囲であることが好ましい。また、インク中における第2の色材の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、0.1質量%以上10.0質量%以下の範囲であることが好ましい。
【0042】
さらに、本発明においては、インク中における、第1の色材の含有量と第2の色材の含有量の合計(質量%)が、インク全質量を基準として、4.0質量%以上10.0質量%以下の範囲であることが好ましい。これに対して、インク中における色材の含有量の合計(質量%)が、4.0質量%未満であると、記録物の画像濃度を十分に得ることができない場合があるので好ましくない。一方、インク中における色材の含有量の合計(質量%)が、10.0質量%を超えると、耐固着性などのインクジェット特性が得られない場合があるので好ましくない。
【0043】
〔色材の検証方法〕
本発明で用いる色材がインク中に含まれているか否かの検証には、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を用いた下記(1)〜(3)の検証方法が適用できる。
(1)ピークの保持時間
(2)(1)のピークについての最大吸収波長
(3)(1)のピークについてのマススペクトルのM/Z(posi)、M/Z(nega)
【0044】
高速液体クロマトグラフィーの分析条件は、以下に示す通りである。純水で約1,000倍に希釈した液体(インク)を測定用サンプルとする。そして、下記の条件で高速液体クロマトグラフィーでの分析を行い、ピークの保持時間(retention time)、及び、ピークの極大吸収波長を測定する。
・カラム:SunFire C18(日本ウォーターズ社製)2.1mm×150mm
・カラム温度:40℃
・流速:0.2mL/min
・PDA:200nm〜700nm
・移動相及びグラジエント条件:下記表1
【0045】

【0046】
また、マススペクトルの分析条件は以下に示す通りである。得られたピークについて、下記の条件でマススペクトルを測定し、最も強く検出されたM/Zをposi、negaそれぞれに対して測定する。
・イオン化法
・ESI
キャピラリ電圧:3.5kV
脱溶媒ガス:300℃
イオン源温度:120℃
・検出器
posi:40V 200〜1500amu/0.9sec
nega:40V 200〜1500amu/0.9sec
【0047】
上記した方法及び条件下で、それぞれの色材の代表例として、第1の色材の具体例である式(I)の化合物(金属キレート化合物)、第2の色材の具体例である例示化合物4についてそれぞれ測定を行った。その結果、得られた保持時間、極大吸収波長、M/Z(posi)、M/Z(nega)の値を下記表2に示した。未知のインクについて、上記と同様の方法及び条件下で測定を行って、得られた測定値が表2に示す値に該当する場合、式(I)の化合物(金属キレート化合物)又は例示化合物4に該当すると判断できる。なお、第1の色材又は第2の色材のその他の具体的化合物についても、同様の方法及び条件下で測定を行うことで、インク中に含まれているか否かを検証できる。また、本発明に用いる第1の色材及び第2の色材は、それぞれ、公知の方法によって合成することができ、また、市販品を用いてもよい。
【0048】

【0049】
(水性媒体)
本発明のインクには、水、又は水及び水溶性有機溶剤の混合溶媒である水性媒体を用いることができる。水は、脱イオン水(イオン交換水)を用いることが好ましい。インク中における水の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、10.0質量%以上90.0質量%以下であることが好ましい。
【0050】
水溶性有機溶剤は、水溶性であれば特に制限はなく、アルコール、多価アルコール、ポリグリコール、グリコールエーテル、含窒素極性溶媒、含硫黄極性溶媒などを用いることができる。インク中における水溶性有機溶剤の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、5.0質量%以上90.0質量%以下、さらには10.0質量%以上50.0質量%以下であることが好ましい。水溶性有機溶剤の含有量が上記した範囲より少ないと、インクをインクジェット記録装置に用いる場合に吐出安定性などの信頼性が得られない場合がある。また、水溶性有機溶剤の含有量が上記した範囲より多いと、インクの粘度が上昇して、インクの供給不良が起きる場合がある。
【0051】
水溶性有機溶剤は、具体的には、例えば、以下のものを用いることができる。メチルアルコール、エチルアルコール、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n−ブチルアルコール、sec−ブチルアルコール、tert−ブチルアルコールなどの炭素数1乃至4のアルキルアルコール類。ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミドなどのアミド類。アセトン、ジアセトンアルコールなどのケトン又はケトアルコール類。テトラヒドロフラン、ジオキサンなどのエーテル類。ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールなどのポリアルキレングリコール類。エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ヘキシレングリコール、チオジグリコールなどのグリコール類。1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、2−メチルー1,3−プロパンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、1,2,6−ヘキサントリオ−ルなどのアルキレン基が2乃至6個の炭素原子を持つアルキレングリコール類。ビス(2−ヒドロキシエチル)スルホン。ポリエチレングリコールモノメチルエーテルアセテートなどの低級アルキルエーテルアセテート類。エチレングリコールモノメチル(又はエチル)エーテル、ジエチレングリコールメチル(又はエチル)エーテル、トリエチレングリコールモノメチル(又はエチル)エーテルなどの多価アルコールのアルキルエーテル類。N−メチル−2−ピロリドン、2−ピロリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノンなど。勿論、本発明はこれらに限られるものではない。これらの水溶性有機溶剤は、必要に応じて1種又は2種以上を用いることができる。
【0052】
(その他の添加剤)
本発明のインクは、上記した成分以外にも必要に応じて、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタンなどの多価アルコール類や、尿素、エチレン尿素などの尿素誘導体などの、常温で固体の水溶性有機化合物を含有していてもよい。さらに、本発明のインクは必要に応じて、界面活性剤、pH調整剤、防錆剤、防腐剤、防黴剤、酸化防止剤、還元防止剤、蒸発促進剤、キレート化剤、及び水溶性ポリマーなど、種々の添加剤を含有していてもよい。
【0053】
<その他のインク>
また、フルカラーの画像などを形成するために、本発明のインクを、本発明のインクとは別の色調を有するインクと組み合わせて用いることができる。本発明のインクは、例えば、ブラックインク、シアンインク、マゼンタインク、イエローインク、レッドインク、グリーンインク、ブルーインクなどの少なくともいずれか1種のインクと共に用いられることが好ましい。また、これらのインクと実質的に同一の色調を有する、所謂淡インクをさらに組み合わせて用いることもできる。これらのインク又は淡インクの色材は、公知の染料であっても、新規に合成された色材であっても用いることができる。
【0054】
<記録媒体>
本発明のインクを用いて画像を形成する際に用いる記録媒体は、インクジェット用にも適用可能であり、インクを付与することにより記録を行うことができる記録媒体であればいずれのものでも用いることができる。例えば、普通紙、或いは光沢紙、コート紙、光沢フィルムと呼ばれるような、表面にコート層或いはインク受容層を有する特殊媒体など、一般的に用いられている記録媒体を用いることができる。本発明においては、所謂コピー用紙として用いられるPPC用普通紙や染料や顔料などの色材をインク受容層の多孔質構造を形成する微粒子に吸着させる、インクジェット用の記録媒体を用いることが好ましい。特には、支持体上のインク受容層に形成された空隙によりインクを吸収する、所謂隙間吸収タイプのインク受容層を有する記録媒体を用いることが好ましい。隙間吸収タイプのインク受容層は、微粒子を主体として構成されるものであり、さらに必要に応じて、バインダーやその他の添加剤を含有してもよい。
【0055】
微粒子は、具体的には、以下のものを用いることができる。シリカ、クレー、タルク、炭酸カルシウム、カオリン、アルミナ又はアルミナ水和物などの酸化アルミニウム、珪藻土、酸化チタン、ハイドロタルサイト、又は酸化亜鉛などの無機顔料。尿素ホルマリン樹脂、エチレン樹脂、スチレン樹脂などの有機顔料。これらの微粒子は、必要に応じて1種又は2種以上を用いることができる。
【0056】
バインダーは、水溶性高分子やラテックスなどが挙げられ、具体的には、以下のものを用いることができる。ポリビニルアルコール、澱粉、ゼラチン、又はこれらの変性体。アラビアゴム。カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、又はヒドロキシプロオイルメチルセルロースなどのセルロース誘導体。SBRラテックス、NBRラテックス、メチルメタクリレート−ブタジエン共重合体ラテックス、官能基変性重合体ラテックス、又はエチレン酢酸ビニル共重合体などのビニル系共重合体ラテックス。ポリビニルピロリドン。無水マレイン酸若しくはその共重合体、又はアクリル酸エステル共重合体など。これらのバインダーは、必要に応じて1種又は2種以上を用いることができる。
【0057】
その他に、必要に応じて添加剤を用いることができる。例えば、分散剤、増粘剤、pH調整剤、潤滑剤、流動性変性剤、界面活性剤、消泡剤、離型剤、蛍光増白剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、染料定着剤などを用いることができる。
【0058】
特に、本発明においては、平均粒子径が1μm以下である微粒子を主体として、インク受容層を形成した記録媒体を用いることが好ましい。前記微粒子の具体例は、シリカ微粒子や酸化アルミニウム微粒子などが挙げられる。シリカ微粒子として好ましいものは、コロイダルシリカに代表されるシリカ微粒子である。コロイダルシリカは市販品を用いることもできるが、特には、例えば特許第2803134号公報、同2881847号公報に記載のコロイダルシリカを用いることが好ましい。また、酸化アルミニウム微粒子として好ましいものは、アルミナ水和物微粒子(アルミナ系顔料)を挙げることができる。
【0059】
前記アルミナ系顔料の中でも、下記式で表される擬ベーマイトなどのアルミナ水和物を特に好適なものとして挙げることができる。
AlO3-n(OH)2n・mH2
(式中、nは1乃至3の整数であり、mは0乃至10、好ましくは0乃至5である。ただし、mとnは同時には0とならない。)
mH2Oは、多くの場合、mH2O結晶格子の形成に関与しない脱離可能な水相をも表すものである。このため、mは整数又は整数でない値を取ることができる。また、この種のアルミナ水和物を加熱すると、mは0に達することがあり得る。
【0060】
アルミナ水和物は、下記のような公知の方法で製造することができる。例えば、米国特許第4,242,271号明細書、米国特許第4,202,870号明細書に記載のアルミニウムアルコキシドの加水分解やアルミン酸ナトリウムの加水分解で製造することができる。また、特公昭57−44605号公報に記載のアルミン酸ナトリウムなどの水溶液に、硫酸ナトリウムや塩化アルミニウムなどの水溶液を加えて中和を行う方法で製造することができる。
【0061】
記録媒体は上記したインク受容層を支持するための支持体を有することが好ましい。支持体は、インク受容層が、上記多孔質の微粒子で形成することが可能であって、かつインクジェット記録装置などの搬送機構によって搬送可能な剛度を与えるものであれば、特に制限はなく、いずれのものも用いることができる。例えば、天然セルロース繊維を主体としたパルプ原料で構成される紙支持体を用いることができる。また、ポリエステル(例えば、ポリエチレンテレフタレート)、セルローストリアセテート、ポリカーボネート、ポリ塩化ビニル、ポリプロピレン、ポリイミドなどの材料で構成されるプラスチック支持体を用いることができる。さらに、基紙の少なくとも一方の面に白色顔料などを添加したポリオレフィン樹脂被覆層を有する樹脂被覆紙(例:RCペーパー)を用いることができる。
【0062】
特に、本発明においては、記録媒体の表面のpHが3.0以上8.0以下であることが好ましい。また、本発明の効果を十分に得るためには、記録媒体の表面のpHが4.0以上6.0以下であることが特に好ましい。
【0063】
<インクジェット記録方法>
本発明のインクは、インクをインクジェット方式で吐出して記録媒体に記録を行うインクジェット記録方法に用いることが特に好ましい。インクジェット記録方法は、インクに力学的エネルギーを作用することによりインクを吐出する記録方法や、インクに熱エネルギーを作用することによりインクを吐出する記録方法などがある。特に、本発明においては、熱エネルギーを利用するインクジェット記録方法を好ましく用いることができる。
【0064】
<インクカートリッジ>
本発明のインクを用いて記録を行うのに好適なインクカートリッジとしては、かかるインクを収容するインク収容部を備えたインクカートリッジが挙げられる。
【0065】
<記録ユニット>
本発明のインクを用いて記録を行うのに好適な記録ユニットは、かかるインクを収容するインク収容部と、インクを吐出するための記録ヘッドとを備えた記録ユニットが挙げられる。特に、前記記録ヘッドが、記録信号に対応した熱エネルギーをインクに作用することによりインクを吐出する記録ユニットを好ましく用いることができる。特に、本発明においては、金属及び/又は金属酸化物を含有する発熱部接液面を有する記録ヘッドを用いることが好ましい。前記発熱部接液面を構成する金属及び/又は金属酸化物は、具体的には、例えば、Ta、Zr、Ti、Ni、若しくはAlなどの金属、又はこれらの金属の酸化物などが挙げられる。
【0066】
<インクジェット記録装置>
本発明のインクを用いて記録を行うのに好適なインクジェット記録装置は、かかるインクを収容するインク収容部と、インクを吐出するための記録ヘッドとを備えたインクジェット記録装置が挙げられる。特に、前記インクを収容するインク収容部を有する記録ヘッドの内部のインクに、記録信号に対応した熱エネルギーを作用することによりインクを吐出するインクジェット記録装置が挙げられる。
【0067】
以下に、インクジェット記録装置の機構部の概略構成を説明する。インクジェット記録装置は、各機構の役割から、給紙部、搬送部、キャリッジ部、排紙部、クリーニング部、及びこれらを保護し、意匠性を持たせる外装部などで構成される。
【0068】
図1は、インクジェット記録装置の斜視図である。また、図2及び図3は、インクジェット記録装置の内部機構を説明する図であり、図2は右上部からの斜視図、図3はインクジェット記録装置の側断面図をそれぞれ示す。
【0069】
給紙を行う際には、給紙トレイM2060を含む給紙部において、記録媒体の所定枚数のみが給紙ローラM2080と分離ローラM2041から構成されるニップ部に送られる。記録媒体はニップ部で分離され、最上位の記録媒体のみが搬送される。搬送部に搬送された記録媒体は、ピンチローラホルダM3000及びペーパーガイドフラッパーM3030に案内されて、搬送ローラM3060とピンチローラM3070とのローラ対に搬送される。搬送ローラM3060とピンチローラM3070とのローラ対は、LFモータE0002の駆動により回転し、この回転により記録媒体がプラテンM3040上を搬送される。
【0070】
記録媒体に画像を形成する際には、キャリッジ部は、記録ヘッドH1001(図4;詳細な構成は後述する)を目的の画像を形成する位置に配置して、電気基板E0014からの信号にしたがって記録媒体にインクを吐出する。記録ヘッドH1001により記録を行いながらキャリッジM4000が列方向に走査する主走査と、搬送ローラM3060により記録媒体を行方向に搬送する副走査とを交互に繰り返すことにより、記録媒体に画像を形成する。画像が形成された記録媒体は、排紙部において、第1の排紙ローラM3110と拍車M3120とのニップに挟まれた状態で搬送されて、排紙トレイM3160に排出される。
【0071】
なお、クリーニング部は、画像を形成する前後の記録ヘッドH1001をクリーニングする。キャップM5010で記録ヘッドH1001の吐出口をキャッピングした状態で、ポンプM5000を作動すると、記録ヘッドH1001の吐出口から不要なインクなどが吸引されるようになっている。また、キャップM5010を開いた状態で、キャップM5010の内部に残っているインクなどを吸引することにより、残インクによる固着やその他の弊害が起こらないようになっている。
【0072】
(記録ヘッドの構成)
ヘッドカートリッジH1000の構成について説明する。ヘッドカートリッジH1000は、記録ヘッドH1001と、インクカートリッジH1900を搭載する手段、及びインクカートリッジH1900から記録ヘッドにインクを供給する手段を有しており、キャリッジM4000に対して着脱可能に搭載される。
【0073】
図4は、ヘッドカートリッジH1000に、インクカートリッジH1900を装着する様子を示した図である。インクジェット記録装置は、イエロー、マゼンタ、シアン、ブラック、淡マゼンタ、淡シアン、及びグリーンの各インクで画像を形成する。したがって、インクカートリッジH1900も7色分が独立に用意されている。なお、上記において、少なくともひとつのインクに、本発明のインクを用いる。そして、図4に示すように、それぞれのインクカートリッジが、ヘッドカートリッジH1000に対して着脱可能となっている。なお、インクカートリッジH1900の着脱は、キャリッジM4000にヘッドカートリッジH1000を搭載した状態でも行うことができる。
【0074】
図5は、ヘッドカートリッジH1000の分解斜視図である。ヘッドカートリッジH1000は、記録素子基板、プレート、電気配線基板H1300、カートリッジホルダーH1500、流路形成部材H1600、フィルターH1700、シールゴムH1800などで構成される。記録素子基板は第1の記録素子基板H1100及び第2の記録素子基板H1101で構成され、プレートは第1のプレートH1200及び第2のプレートH1400で構成される。
【0075】
第1の記録素子基板H1100及び第2の記録素子基板H1101はSi基板であり、その片面にインクを吐出するための複数の記録素子(ノズル)がフォトリソグラフィ技術により形成されている。各記録素子に電力を供給するAlなどの電気配線は成膜技術により形成されており、個々の記録素子に対応した複数のインク流路はフォトリソグラフィ技術により形成されている。さらに、複数のインク流路にインクを供給するためのインク供給口が裏面に開口するように形成されている。
【0076】
図6は、第1の記録素子基板H1100及び第2の記録素子基板H1101の構成を説明する正面拡大図である。H2000〜H2600は、それぞれ異なるインク色に対応する記録素子の列(以下、ノズル列ともいう)である。第1の記録素子基板H1100には、イエローインクのノズル列H2000、マゼンタインクのノズル列H2100、及びシアンインクのノズル列H2200の3色分のノズル列が形成されている。第2の記録素子基板H1101には、淡シアンインクのノズル列H2300、ブラックインクのノズル列H2400、グリーンインクのノズル列H2500、及び淡マゼンタインクのノズル列H2600の4色分のノズル列が形成されている。
【0077】
各ノズル列は、記録媒体の搬送方向(副走査方向)に1200dpi(dot/inch;参考値)の間隔で並ぶ768個のノズルによって構成され、約2ピコリットルのインクを吐出する。各吐出口における開口面積は、およそ100μm2に設定されている。
【0078】
以下、図4及び図5を参照して説明する。第1の記録素子基板H1100及び第2の記録素子基板H1101は第1のプレートH1200に接着固定されている。ここには、第1の記録素子基板H1100及び第2の記録素子基板H1101にインクを供給するためのインク供給口H1201が形成されている。さらに、第1のプレートH1200には、開口部を有する第2のプレートH1400が接着固定されている。この第2のプレートH1400は、電気配線基板H1300と第1の記録素子基板H1100及び第2の記録素子基板H1101とが電気的に接続されるように、電気配線基板H1300を保持する。
【0079】
電気配線基板H1300は、第1の記録素子基板H1100及び第2の記録素子基板H1101に形成されている各ノズルからインクを吐出するための電気信号を印加する。この電気配線基板H1300は、第1の記録素子基板H1100及び第2の記録素子基板H1101に対応する電気配線と、この電気配線端部に位置し、インクジェット記録装置からの電気信号を受け取るための外部信号入力端子H1301とを有する。外部信号入力端子H1301は、カートリッジホルダーH1500の背面側に位置決め固定されている。
【0080】
インクカートリッジH1900を保持するカートリッジホルダーH1500には、流路形成部材H1600が、例えば、超音波溶着により固定され、インクカートリッジH1900から第1のプレートH1200に通じるインク流路H1501を形成する。インクカートリッジH1900と係合するインク流路H1501のインクカートリッジ側端部には、フィルターH1700が設けられており、外部からの塵埃の侵入を防止し得るようになっている。また、インクカートリッジH1900との係合部にはシールゴムH1800が装着され、係合部からのインクの蒸発を防止し得るようになっている。
【0081】
さらに、上記したように、カートリッジホルダー部と記録ヘッド部H1001とを接着などで結合することで、ヘッドカートリッジH1000が構成される。なお、カートリッジホルダー部は、カートリッジホルダーH1500、流路形成部材H1600、フィルターH1700、及びシールゴムH1800から構成される。また、記録ヘッド部H1001は、第1の記録素子基板H1100及び第2の記録素子基板H1101、第1のプレートH1200、電気配線基板H1300及び第2のプレートH1400から構成される。
【0082】
なお、ここでは記録ヘッドの一形態として、電気信号に応じた膜沸騰をインクに生じさせるための熱エネルギーを生成する電気熱変換体(記録素子)を用いて記録を行うサーマルインクジェット方式の記録ヘッドについて述べた。この代表的な構成や原理については、例えば、米国特許第4,723,129号明細書、同第4,740,796号明細書に開示されている基本的な原理を用いて行うものが好ましい。この方式は、所謂、オンデマンド型、コンティニュアス型のいずれにも適用することができる。
【0083】
サーマルインクジェット方式は、オンデマンド型に適用することが特に有効である。オンデマンド型の場合には、インクを保持する液流路に対応して配置されている電気熱変換体に、記録情報に対応していて核沸騰を超える急速な温度上昇を与える少なくとも一つの駆動信号を印加する。このことによって、電気熱変換体に熱エネルギーを発生せしめ、インクに膜沸騰を生じさせて、結果的にこの駆動信号に一対一で対応したインク内の気泡を形成できる。この気泡の成長及び収縮により吐出口を介してインクを吐出することで、少なくともひとつの滴を形成する。駆動信号をパルス形状とすると、即時、適切に気泡の成長及び収縮が行われるので、特に応答性に優れたインクの吐出が達成でき、より好ましい。
【0084】
また、本発明のインクは、前記のサーマルインクジェット方式に限らず、下記に述べるような、力学的エネルギーを利用したインクジェット記録装置においても好ましく用いることができる。かかる形態のインクジェット記録装置は、複数のノズルを有するノズル形成基板と、ノズルに対向して配置される圧電材料と導電材料からなる圧力発生素子と、この圧力発生素子の周囲を満たすインクを備えてなる。そして、印加電圧により圧力発生素子を変位させ、インクをノズルから吐出する。
【0085】
インクジェット記録装置は、上記したように、記録ヘッドとインクカートリッジとが別体となったものに限らず、それらが分離不能に一体になったものを用いてもよい。さらに、インクカートリッジは、記録ヘッドに対して分離可能又は分離不能に一体化されてキャリッジに搭載されるもの、また、インクジェット記録装置の固定部位に設けられて、チューブなどのインク供給部材を介して記録ヘッドにインクを供給するものでもよい。また、記録ヘッドに対して、好ましい負圧を作用させるための構成をインクカートリッジに設ける場合には、以下の構成とすることができる。すなわち、インクカートリッジのインク収容部に吸収体を配置した形態、又は可撓性のインク収容袋とこれに対してその内容積を拡張する方向の付勢力を作用するばね部とを有した形態などとすることができる。また、インクジェット記録装置は、上記したようなシリアル型の記録方式を採るもののほか、記録媒体の全幅に対応した範囲にわたって記録素子を整列させてなるラインプリンタの形態を採るものであってもよい。
【実施例】
【0086】
以下、実施例及び比較例を用いて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、その要旨を超えない限り、下記の実施例によって何ら限定されるものではない。なお、以下の記載で、「部」及び「%」とあるものは特に断らない限り質量基準である。
【0087】
<色材の合成>
(例示化合物1)
特表2005−533900号公報に記載の方法にしたがって合成した例示化合物1を第1の色材として用いた。

【0088】
(例示化合物2)
下記の構造式で表される例示化合物2を第1の色材として用いた。

【0089】
(例示化合物3及び例示化合物4)
特開2006−143989号公報に記載の方法でそれぞれ合成した例示化合物3及び例示化合物4を第2の色材として用いた。

【0090】

【0091】
<インクの調製>
下記表3に示した組成の各成分を混合して、十分撹拌した。その後、ポアサイズ0.2μmのフィルターにて加圧濾過を行い、実施例及び比較例の各インクを調製した。
【0092】

【0093】

【0094】
<光沢紙の作製>
低密度ポリエチレン70部、高密度ポリエチレン20部、及び酸化チタン10部を含む樹脂組成物を、坪量155g/m2の基紙の両面に25g/m2となるように塗布することで、樹脂で被覆した支持体を作製した。そして、得られた支持体上に、アルミナ水和物及びポリビニルアルコールを主成分としたインク受容層を形成した。このようにして、隙間タイプのインク受容層を備えてなり、JAPAN TAPPI紙パルプ試験方法No.49−1にしたがって測定した3分後の表面pHが5.0である記録媒体(光沢紙)を作製した。
【0095】
<評価>
上記で得られた実施例及び比較例の各インクをそれぞれ、熱エネルギーを利用したインクジェット記録装置(商品名:PIXUS iP8600)に搭載した。記録条件を、温度23℃、相対湿度55%、記録密度2400dpi×1200dpi、吐出量2.5pLとした。そして、上記で得られた記録媒体(光沢紙)と、普通紙(商品名:オフィスプランナー;キヤノン製)に、それぞれ、記録デューティを0%から100%まで10%刻みで変化させた各画像を形成した記録物を得た。さらに、得られた記録物を温度23℃、相対湿度55%で24時間自然乾燥させて、評価用の記録物とした。得られた各記録物について、下記に示す方法で、光沢紙及び普通紙に形成した各画像おける光学濃度の測定と、光沢紙に形成した画像の堅牢性(耐光性、耐オゾン性)の評価を行った。
【0096】
[光学濃度]
上記で得られた記録物における記録デューティが100%の画像の部分について、分光光度計(商品名:Spectrolino;Gretag Macbeth製)を用いて光学濃度を測定し、評価を行った。光学濃度の評価基準は以下の通りであり、得られた評価結果を表4に示した。下記の夫々の記録媒体に対する評価基準において、A及びBがマゼンタの光学濃度として許容できるレベルであり、色調が良好であると評価できる範囲である。評価基準のCは、マゼンタの光学濃度として低いため、画像が薄く見え、発色性に劣り、許容できないレベルである。
【0097】
(光沢紙における光学濃度の評価基準)
A:光学濃度が2.0以上
B:光学濃度が1.5以上2.0未満
C:光学濃度が1.5未満
(普通紙における光学濃度の評価基準)
A:光学濃度が1.30以上
B:光学濃度が1.25以上1.30未満
C:光学濃度が1.25未満
【0098】
[画像の堅牢性:耐光性]
上記で光沢紙を用いて得た記録物の記録デューティが50%の画像の部分について、CIE(国際照明委員会)により規定されたL***表示系におけるL*、a*、及びb*を測定した(「耐光性試験前のLab値」とする)。さらに、この記録物を、スーパーキセノン試験機(商品名:SX−75;スガ試験機製)を用いて、照射強度100キロルクス、相対湿度60%、槽内温度24℃、相対湿度60%で168時間曝露した。耐光性試験終了後、記録物における記録デューティが50%の画像の部分について、L*、a*、及びb*を測定した(「耐光性試験後のLab値」とする)。なお、L*、a*、及びb*は、分光光度計(Spectorolino;Gretag Macbeth製)を用いて、光源:D50、視野:2°の条件で測定した。得られた耐光性試験前のLab値及び耐光性試験後のLab値から、下記式(B)に基づいて色差(ΔE)を算出して、耐光性の評価を行った。耐光性の評価基準は以下の通りであり、これによって得られた評価結果を表4に示した。下記の評価基準において、A及びBが許容できるレベルであり、Cが耐光性試験後における画像の褪色の度合いが大きく、許容できないレベルである。
【0099】

【0100】
(耐光性の評価基準)
A:ΔEが17未満
B:ΔEが17以上20未満
C:ΔEが20以上
【0101】
[画像の堅牢性:耐オゾン性]
上記で光沢紙を用いて得た記録物における記録デューティが50%の画像の部分について、CIE(国際照明委員会)により規定されたL***表示系におけるL*、a*、及びb*を測定した(「耐オゾン性試験前のLab値」とする)。さらに、この記録物を、オゾン試験装置(商品名:OMS−H;スガ試験機製)を用いて、オゾンガス濃度10ppm、相対湿度60%、槽内温度24℃で4時間曝露した。耐オゾン性試験終了後、記録物における記録デューティが50%の画像の部分について、L*、a*、及びb*を測定した(「耐オゾン性試験後のLab値」とする)。なお、L*、a*、及びb*は、分光光度計(Spectorolino;Gretag Macbeth製)を用いて、光源:D50、視野:2°の条件で測定した。得られた耐オゾン性試験前のLab値及び耐オゾン性試験後のLab値から、下記式(C)に基づいて色差(ΔE)を算出して、耐オゾン性の評価を行った。耐オゾン性の評価基準は以下の通りであり、得られた評価結果を表4に示した。下記の評価基準において、A及びBが許容できるレベルであり、Cが耐オゾン性試験後における画像の褪色の度合いが大きく、許容できないレベルである。
【0102】

【0103】
(耐オゾン性の評価基準)
A:ΔEが5未満
B:ΔEが5以上10未満
C:ΔEが10以上
【0104】

【図面の簡単な説明】
【0105】
【図1】インクジェット記録装置の斜視図である。
【図2】インクジェット記録装置の機構部の斜視図である。
【図3】インクジェット記録装置の断面図である。
【図4】ヘッドカートリッジにインクカートリッジを装着する状態を示す斜視図である。
【図5】ヘッドカートリッジの分解斜視図である。
【図6】ヘッドカートリッジにおける記録素子基板を示す正面図である。
【符号の説明】
【0106】
M2041:分離ローラ
M2060:給紙トレイ
M2080:給紙ローラ
M3000:ピンチローラホルダ
M3030:ペーパーガイドフラッパー
M3040:プラテン
M3060:搬送ローラ
M3070:ピンチローラ
M3110:排紙ローラ
M3120:拍車
M3160:排紙トレイ
M4000:キャリッジ
M5000:ポンプ
M5010:キャップ
M7030:アクセスカバー
E0002:LFモータ
E0014:電気基板
H1000:ヘッドカートリッジ
H1001:記録ヘッド
H1100:第1の記録素子基板
H1101:第2の記録素子基板
H1200:第1のプレート
H1201:インク供給口
H1300:電気配線基板
H1301:外部信号入力端子
H1400:第2のプレート
H1500:カートリッジホルダー
H1501:インク流路
H1600:流路形成部材
H1700:フィルター
H1800:シールゴム
H1900:インクカートリッジ
H2000:イエローノズル列
H2100:マゼンタノズル列
H2200:シアンノズル列
H2300:淡シアンノズル列
H2400:ブラックノズル列
H2500:グリーンノズル列
H2600:淡マゼンタノズル列

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも、第1の色材及び第2の色材、の2つの色材を含有するインクジェット用インクであって、
前記第1の色材が、下記式(I)で表される金属キレート化合物若しくはその塩、及び/又は、下記一般式(II)で表される化合物であり、
前記第2の色材が、下記一般式(III)で表される化合物であることを特徴とするインクジェット用インク。


(一般式(II)中、Mはそれぞれ独立に、水素原子、アルカリ金属、アンモニウム、又は有機アンモニウムである。)

(一般式(III)中、R2、R3、R4、及びR5はそれぞれ独立に、アルキル基であり、Mはそれぞれ独立に、水素原子、アルカリ金属、アンモニウム、又は有機アンモニウムである。)
【請求項2】
前記第1の色材のインク中における含有量(質量%)が、前記第2の色材のインク中における含有量(質量%)に対して、質量比率で、0.1以上5.0以下である請求項1に記載のインクジェット用インク。
【請求項3】
インクをインクジェット方式で吐出して記録媒体に記録を行うインクジェット記録方法において、前記インクが、請求項1又は2に記載のインクジェット用インクであることを特徴とするインクジェット記録方法。
【請求項4】
インクを収容するインク収容部を備えたインクカートリッジにおいて、前記インクが、請求項1又は2に記載のインクジェット用インクであることを特徴とするインクカートリッジ。
【請求項5】
インクを収容するインク収容部と、インクを吐出するための記録ヘッドとを備えた記録ユニットにおいて、前記インクが、請求項1又は2に記載のインクジェット用インクであることを特徴とする記録ユニット。
【請求項6】
インクを収容するインク収容部と、インクを吐出するための記録ヘッドとを備えたインクジェット記録装置において、前記インクが、請求項1又は2に記載のインクジェット用インクであることを特徴とするインクジェット記録装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−100670(P2010−100670A)
【公開日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−270676(P2008−270676)
【出願日】平成20年10月21日(2008.10.21)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】