説明

インクジェット記録方法および記録物

【課題】着色金属光沢性に優れた画像を記録するインクジェット記録方法を提供すること。
【解決手段】本発明に係るインクジェット記録方法は、光輝性顔料を含有する光輝性インク組成物の液滴を記録媒体に吐出して、該記録媒体上に光輝性領域を形成する工程と、着色剤を含有する着色インク組成物を前記光輝性領域上に吐出して、前記記録媒体上に着色光輝性領域を形成する工程と、を含み、前記着色光輝性領域に対する法線方向を0度として、該着色光輝性領域に45度の角度で光を照射した際に、−45度の角度で反射した光を基に測定される前記着色光輝性領域の彩度(C45°)と、0度の角度で反射した光を基に測定される前記着色光輝性領域の彩度(C0°)と、の比[(C45°)/(C0°)]が、1以上であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット記録方法、ならびにこれにより得られる記録物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、記録媒体上に金属光沢を有する塗膜を形成する手法として、真鍮、アルミニウム微粒子等から作製された金粉、銀粉を顔料に用いた印刷インキや金属箔を用いた箔押し印刷、金属箔を用いた熱転写方式等が用いられてきた。
【0003】
近年、印刷におけるインクジェット方式の記録方法への応用例が数多く見受けられ、その中の一つの応用例として、金属光沢性を有する画像を得るためのメタリック印刷が知られている。例えば、特許文献1には、金属微粒子を含有するインクを用いて、金属光沢を有する画像を得ることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−292836号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献に記載のインクを用いて得られた画像は、金属光沢性に優れない場合があった。特に、着色剤に由来する色相の再現性に優れつつ、光輝性顔料に由来する金属光沢性に優れた画像(着色金属光沢性に優れた画像)を記録することが困難な場合があった。
【0006】
本発明に係る幾つかの態様は、前記課題の少なくとも一部を解決することで、優れた着色金属光沢性を有する画像が得られるインクジェット記録方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は前述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の態様または適用例として実現することができる。
【0008】
[適用例1]
本発明に係るインクジェット記録方法の一態様は、
光輝性顔料を含有する光輝性インク組成物の液滴を記録媒体に吐出して、該記録媒体上に光輝性領域を形成する工程と、
着色剤を含有する着色インク組成物を前記光輝性領域上に吐出して、前記記録媒体上に着色光輝性領域を形成する工程と、
を含み、
前記着色光輝性領域に対する法線方向を0度として、該着色光輝性領域に45度の角度で光を照射した際に、−45度の角度で反射した光を基に測定される前記着色光輝性領域の彩度(C45°)と、0度の角度で反射した光を基に測定される前記着色光輝性領域の彩度(C0°)と、の比[(C45°)/(C0°)]が、1以上である。
【0009】
適用例1のインクジェット記録方法によれば、着色金属光沢性に優れた画像が得られる。
【0010】
[適用例2]
適用例1において、
前記着色光輝性領域の60°鏡面光沢度が、100以上であることができる。
【0011】
[適用例3]
適用例1または適用例2において、
前記光輝性領域の60°鏡面光沢度が、250以上であることができる。
【0012】
[適用例4]
適用例1ないし適用例3のいずれか1例において、
前記記録媒体中に含まれる塩素の濃度が、10質量%以下であることができる。
【0013】
[適用例5]
適用例1ないし適用例4のいずれか1例において、
前記光輝性領域に含まれる光輝性顔料の量[W1(mg/inch)]と、前記着色光輝性領域に含まれる着色剤の量[W2(mg/inch)]と、の比(W2/W1)が、0.1以上1.5以下であることができる。
【0014】
[適用例6]
適用例1ないし適用例5のいずれか1例において、
さらに、前記光輝性インク組成物および前記着色インク組成物が、水を含有することができる。
【0015】
[適用例7]
適用例1ないし適用例6のいずれか1例において、
複数のノズル孔からなるノズル列を備えたヘッドと、
前記ヘッドを主走査方向に走査させるキャリッジと、
を有し、
前記ノズル列は、前記光輝性インク組成物を吐出するための前記ノズル孔を前記主走査方向と交差する副走査方向に複数並べてなる第1ノズル列と、前記着色インク組成物を吐出するための前記ノズル孔を前記副走査方向に複数並べてなる第2ノズル列と、含み、
前記第1ノズル列および前記第2ノズル列は、前記副走査方向に向かって、所定数の前記ノズル孔を含む群毎に分割して用いられ、
前記群は、前記副走査方向の上流側にある第1群と、該第1群よりも前記副走査方向の下流側にある第2群と、を備え、
前記光輝性領域を形成する工程は、前記第1ノズル列の前記第1群から前記光輝性インク組成物を吐出させることにより行われ、
前記着色光輝性領域を形成する工程は、前記第2ノズル列の前記第2群から前記着色インク組成物を吐出させることにより行われることができる。
【0016】
[適用例8]
本発明に係る記録物の一態様は、
適用例1ないし適用例7のいずれか1例に記載のインクジェット記録方法により得られたものである。
【0017】
適用例8の記録物によれば、着色金属光沢性に優れる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の一実施形態に係るインクジェット記録方法に用いるプリンターの構成を示す斜視図。
【図2】本発明の一実施形態に係るインクジェット記録方法に用いるプリンターのノズル面を示す概略図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に本発明の好適な実施の形態について説明する。以下に説明する実施の形態は、本発明の一例を説明するものである。また、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲において実施される各種の変形例も含む。
【0020】
1.インク組成物
本発明の一実施形態に係るインクジェット記録方法は、光輝性インク組成物および着色インク組成物を用いて行われる。まず、本実施形態に係るインクジェット記録方法に用いられる光輝性インク組成物および着色インク組成物について説明する。
【0021】
1.1.光輝性インク組成物
本実施形態に係るインクジェット記録方法に用いる光輝性インク組成物(以下、単に「光輝性インク組成物」ともいう。)は、光輝性顔料を含有する。
【0022】
1.1.1.光輝性顔料
光輝性顔料としては、媒体に付着されたときに光輝性を呈しうるものであれば特に限定されないが、例えば、アルミニウム、銀、金、白金、ニッケル、クロム、錫、亜鉛、インジウム、チタン、および銅からなる群より選択される1種または2種以上の合金や、パール光沢を有するパール顔料を挙げることができる。パール顔料の代表例としては、二酸化チタン被覆雲母、魚鱗箔、酸塩化ビスマス等の真珠光沢や干渉光沢を有する顔料が挙げられる。また、光輝性顔料は、水との反応を抑制するための表面処理が施されていてもよい。インク組成物が、光輝性顔料を含むことにより、優れた光輝性を有する画像を形成することができる。
【0023】
光輝性顔料の含有量は、光輝性インク組成物の全質量に対して、1質量%以上20質量%以下であることが好ましく、1質量%以上15質量%以下であることが好ましい。光輝性顔料の含有量が上記範囲内にあると、優れた光輝性を有する画像を形成できる。
【0024】
本実施形態に係る光輝性インク組成物は、光輝性顔料としてアルミニウム粒子または銀粒子を用いることが好ましく、より好ましくは銀粒子である。光輝性顔料に銀粒子が含有される場合には、銀粒子は、例えば以下のような銀粒子水分散液として供給される。なお、銀粒子は、必ずしも水分散液の性状で供給されなくてもよく、分散性が確保できる限り、粉体の性状で供給されてもよい。
【0025】
銀粒子水分散液は、銀粒子および水を含む。本実施形態の銀粒子水分散液に含まれる銀粒子は、銀を主成分とする粒子である。銀粒子は、例えば、副成分として、他の金属、酸素、炭素等を含んでも良い。銀粒子における銀の純度としては、例えば、50%以上とすることができる。銀粒子は、銀と他の金属の合金であってもよい。また、銀粒子水分散液中の銀粒子は、コロイド(粒子コロイド)の状態で存在していてもよい。銀粒子がコロイド状態で分散している場合は、さらに分散性が良好となり、例えば、銀粒子水分散液、およびこれをインク組成物に配合した場合の保存安定性の向上に寄与することができる。
【0026】
アルミニウム粒子の好ましい形態としては、米国特許第7763108号明細書に記載されたものが挙げられる。
【0027】
1.1.2.その他の成分
本実施形態に係る光輝性インク組成物は、水、水溶性有機溶剤、界面活性剤、樹脂を含有してもよい。
【0028】
(水)
水は、イオン交換水、限外濾過水、逆浸透水、蒸留水等の純水または超純水を用いることが好ましい。特に、これらの水を、紫外線照射または過酸化水素添加等により滅菌処理した水は、長期間に亘ってカビやバクテリアの発生が防止されるので好ましい。
【0029】
(水溶性有機溶剤)
水溶性有機溶剤としては、例えば、多価アルコール類、ピロリドン誘導体等が挙げられる。水溶性有機溶剤は、1種単独で用いてもよいし、2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0030】
多価アルコール類としては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ジプロピレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、1,2−ブタンジオール、1,2−ペンタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,2−ヘキサンジオール、2−エチル−1,3−ヘキサンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,2−ヘプタンジオール、1,2−オクタンジオール、1,2,6−ヘキサントリオール、チオグリコール、ヘキシレングリコール、グリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン等が挙げられる。これらの多価アルコールは、インク組成物の乾燥を防止し、ノズル孔における目詰まりを低減する効果がある。
【0031】
多価アルコール類の含有量は、光輝性インク組成物の全質量に対して、1質量%以上30質量%以下であることが好ましい。多価アルコール類の含有量が上記範囲内にあると、ノズル孔における目詰まり等を低減する効果が一層高まる場合がある。
【0032】
ピロリドン誘導体としては、例えば、N−メチル−2−ピロリドン、N−エチル−2−ピロリドン、N−ビニル−2−ピロリドン、2−ピロリドン、5−メチル−2−ピロリドン等が挙げられる。
【0033】
(界面活性剤)
界面活性剤は、インク組成物の表面張力および、ノズル等のインクと接触するプリンター部材との界面張力を適正に保つことができる。したがって、これをインクジェット記録装置に用いた場合、吐出安定性を高めることができる。また、記録媒体上でインクの濃淡ムラや滲みを生じないように均一に濡れ拡げる効果を有する。
【0034】
このような効果を有する界面活性剤としては、ノニオン系界面活性剤であることが好ましい。ノニオン系界面活性剤の中でも、シリコーン系界面活性剤および/またはアセチレングリコール系界面活性剤がより好ましい。
【0035】
シリコーン系界面活性剤としては、ポリシロキサン系化合物等が好ましく用いられ、ポリエーテル変性オルガノシロキサン等が挙げられる。より詳しくは、BYK−306、BYK−307、BYK−333、BYK−341、BYK−345、BYK−346、BYK−348(以上商品名、ビックケミー・ジャパン株式会社製)、KF−351A、KF−352A、KF−353、KF−354L、KF−355A、KF−615A、KF−945、KF−640、KF−642、KF−643、KF−6020、X−22−4515、KF−6011、KF−6012、KF−6015、KF−6017(以上商品名、信越化学株式会社製)等が挙げられる。シリコーン系界面活性剤を含有する場合には、その含有量が、光輝性インク組成物の全質量に対して、0.1質量%以上2質量%以下であることが好ましい。
【0036】
アセチレングリコール系界面活性剤として、たとえばサーフィノール104、104E、104H、104A、104BC、104DPM、104PA、104PG−50、104S、420、440、465、485、SE、SE−F、504、61、DF37、CT111、CT121、CT131、CT136、TG、GA、DF110D(以上全て商品名、Air Products and Chemicals. Inc.社製)、オルフィンB、Y、P、A、STG、SPC、E1004、E1010、PD−001、PD−002W、PD−003、PD−004、EXP.4001、EXP.4036、EXP.4051、AF−103、AF−104、AK−02、SK−14、AE−3(以上全て商品名、日信化学工業株式会社製)、アセチレノールE00、E00P、E40、E100(以上全て商品名、川研ファインケミカル株式会社製)等が挙げられる。アセチレングリコール系界面活性剤を含有する場合には、その含有量が、インク組成物の全質量に対して、0.1質量%以上2質量%以下であることが好ましい。
【0037】
なお、上記以外の界面活性剤として、アニオン界面活性剤、ノニオン界面活性剤、両性界面活性剤等をさらに添加してもよい。
【0038】
(樹脂)
光輝性インク組成物は、樹脂を含有してもよい。樹脂としては、例えば、アクリル系樹脂、スチレンアクリル系樹脂、フルオレン系樹脂、ウレタン系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ロジン変性樹脂、テルペン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、エポキシ系樹脂、塩化ビニル系樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、エチレン酢酸ビニル系樹脂等の公知の樹脂や、ポリオレフィンワックス等が挙げられる。これらの樹脂は、1種単独または2種以上組み合わせて用いることができる。これらの樹脂は、インク組成物の記録媒体に対する定着性や耐擦性を向上させたり、インク組成物中における光輝性顔料の分散性を向上させたりすることができる。
【0039】
(その他の成分)
光輝性インク組成物は、さらに、浸透溶剤、pH調整剤、防腐剤・防かび剤、防錆剤、キレート化剤等を含有することができる。光輝性インク組成物は、これらの化合物を含有していると、その特性がさらに向上する場合がある。
【0040】
浸透溶剤は、記録媒体に対するインク組成物の濡れ性をさらに向上させて均一に塗らす作用を有する。これにより、形成された画像のインクの濃淡ムラや滲みをさらに低減させることができる。浸透溶剤としては、例えば、グリコールエーテル類、一価アルコール類等が挙げられる。
【0041】
グリコールエーテル類としては、例えば、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノ−n−プロピルエーテル、エチレングリコールモノ−iso−プロピルエーテル、ジエチレングリコールモノ−iso−プロピルエーテル、エチレングリコールモノ−n−ブチルエーテル、エチレングリコールモノ−t−ブチルエーテル、ジエチレングリコールモノ−n−ブチルエーテル、トリエチレングリコールモノ−n−ブチルエーテル、ジエチレングリコールモノ−t−ブチルエーテル、1−メチル−1−メトキシブタノール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノ−t−ブチルエーテル、プロピレングリコールモノ−n−プロピルエーテル、プロピレングリコールモノ−iso−プロピルエーテル、プロピレングリコールモノ−n−ブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノ−n−ブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノ−n−プロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノ−iso−プロピルエーテル等が挙げられる。
【0042】
一価アルコール類としては、例えば、メタノール、エタノール、n−プロピルアルコール、iso−プロピルアルコール、2,2−ジメチル−1−プロパノール、n−ブタノール、2−ブタノール、tert−ブタノール、iso−ブタノール、2−メチル−1−ブタノール、3−メチル−1−ブタノール、3−メチル−2−ブタノール、n−ペンタノール、2−ペンタノール、3−ペンタノール、tert−ペンタノール等の水可溶性のものが挙げられる。
【0043】
pH調整剤としては、例えば、リン酸二水素カリウム、リン酸水素二ナトリウム、水酸化ナトリウム、水酸化リチウム、水酸化カリウム、アンモニア、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、トリイソプロパノールアミン、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム等が挙げられる。
【0044】
防腐剤・防かび剤としては、例えば、安息香酸ナトリウム、ペンタクロロフェノールナトリウム、2−ピリジンチオール−1−オキサイドナトリウム、ソルビン酸ナトリウム、デヒドロ酢酸ナトリウム、1,2−ジベンジソチアゾリン−3−オン等が挙げられる。市販品では、プロキセルXL2、プロキセルGXL(以上商品名、アビシア社製)や、デニサイドCSA、NS−500W(以上商品名、ナガセケムテックス株式会社製)等が挙げられる。
【0045】
防錆剤としては、例えば、ベンゾトリアゾール等が挙げられる。
【0046】
キレート化剤としては、例えば、エチレンジアミン四酢酸およびそれらの塩類(エチレンジアミン四酢酸二水素二ナトリウム塩等)等が挙げられる。
【0047】
1.2.着色インク組成物
本実施形態に係るインクジェット記録方法に用いる着色インク組成物(以下、単に「着色インク組成物」ともいう。)は、着色剤を含有する。
【0048】
1.2.1.着色剤
着色剤としては、特に限定されないが、例えば、染料、顔料、白色系色材等が挙げられる。着色剤の含有量は、インク組成物全質量に対して、好ましくは1質量%以上20質量%以下であり、より好ましくは1質量%以上15質量%以下である。
【0049】
染料および顔料は、米国特許出願公開2010/0086690号明細書、米国特許出願公開2005/0235870号明細書、国際公開第2011/027842に記載されているもの等を好適に用いることができる。染料および顔料のうち、顔料を含むことが一層好ましい。顔料は、耐光性、耐候性、耐ガス性などの保存安定性の観点から有機顔料であることが好ましい。
【0050】
具体的には、顔料は、不溶性アゾ顔料、縮合アゾ顔料、アゾレーキ、キレートアゾ顔料などのアゾ顔料、フタロシアニン顔料、ペリレン及びペリノン顔料、アントラキノン顔料、キナクリドン顔料、ジオキサン顔料、チオインジゴ顔料、イソインドリノン顔料、キノフタロン顔料などの多環式顔料、染料キレート、染色レーキ、ニトロ顔料、ニトロソ顔料、アニリンブラック、昼光蛍光顔料などが用いられる。上記顔料は、1種単独でも、2種以上併用して用いることもできる。
【0051】
また、染料としては、例えば、直接染料、酸性染料、食用染料、塩基性染料、反応性染料、分散染料、建染染料、可溶性建染染料、反応分散染料等の通常インクジェット記録に使用する各種染料を使用することができる。
【0052】
白色系色材としては、例えば金属酸化物、硫酸バリウム、炭酸カルシウム等が挙げられる。金属酸化物としては、例えば二酸化チタン、酸化亜鉛、シリカ、アルミナ、酸化マグネシウム等が挙げられる。また、白色系色材には、中空構造を有する粒子を含み、中空構造を有する粒子としては、特に限定されるものではなく、公知のものを用いることができる。中空構造を有する粒子としては、例えば、米国特許第4,880,465号などの明細書に記載されている粒子を好ましく用いることができる。
【0053】
1.2.2.その他の成分
着色インク組成物は、光輝性インク組成物における記載で説明したその他の成分(水、水溶性有機溶剤、界面活性剤、樹脂、浸透溶剤、pH調整剤、防腐剤・防かび剤、防錆剤、キレート化剤等)を含有することができる。その他の成分の具体例については、光輝性インク組成物で説明したので、その説明を省略する。なお、着色インク組成物中におけるその他の成分の含有量は、光輝性インク組成物における記載と同様の範囲内で含むことができる。また、その他の成分が奏する効果についても、光輝性インク組成物において説明した効果と同様である。
【0054】
2.インクジェット記録装置
本実施形態に係るインクジェット記録方法は、インクジェット記録装置を用いて実施することができる。
【0055】
以下、本実施形態に係るインクジェット記録方法に使用可能なインクジェット記録装置(以下、単に「インクジェット記録装置」ともいう。)について、図1〜図2を参照して説明する。なお、以下の説明に用いる各図面では、各部材を認識可能な大きさとするため、各部材の縮尺を適宜変更している。本実施形態では、インクジェット記録装置としてインクジェットプリンター(以下、単に「プリンター」という。)を例示する。なお、本発明はこの装置構成に限定されるわけではない。
【0056】
図1は、本実施形態におけるプリンター1の構成を示す斜視図である。図1に示すプリンター1は、シリアルプリンターである。シリアルプリンターとは、所定の方向に移動するキャリッジにヘッドが搭載されており、キャリッジの移動に伴ってヘッドが移動することにより記録媒体上に液滴を吐出するもののことをいう。
【0057】
図1に示すように、プリンター1は、ヘッド2を搭載すると共にインクカートリッジ3を着脱可能に装着するキャリッジ4と、ヘッド2の下方に配設され記録媒体Pが搬送されるプラテン5と、キャリッジ4を記録媒体Pの媒体幅方向に移動させるキャリッジ移動機構7と、被記録媒体Pを媒体送り方向に搬送する媒体送り機構8と、を有するものである。また、プリンター1は、当該プリンター1全体の動作を制御する制御部CONTを有している。なお、上記媒体幅方向とは、主走査方向(ヘッド走査方向)である。上記媒体送り方向とは、副走査方向(主走査方向に直交する方向)である。
【0058】
制御部CONTは、上述したキャリッジ4、ヘッド2、キャリッジ移動機構7、媒体送り機構8等の各動作の実行タイミング等を制御したり、連携させたりする実行動作を行うことができる。
【0059】
ヘッド2は、インク組成物を微少粒径の液滴にしてノズル孔17から吐出して、記録媒体P上に付着させる。ヘッド2は、上記の機能を有すれば特に限定されず、どのようなインクジェット記録方式を用いてもよい。ヘッド2のインクジェット記録方式としては、例えば、ノズルとノズルの前方に置いた加速電極の間に強電界を印加し、ノズルから液滴状のインクを連続的に吐出させ、インクの液滴が偏向電極間を飛翔する間に印刷情報信号を偏光電極に与えて記録する方式またはインクの液滴を偏向することなく印刷情報信号に対応して吐出させる方式(静電吸引方式)、小型ポンプでインク液に圧力を加え、ノズルを水晶振動子等で機械的に振動させることにより、強制的にインクの液滴を吐出させる方式、インクに圧電素子で圧力と印刷情報信号を同時に加え、インクの液滴を吐出・記録させる方式(ピエゾ方式)、インクを印刷情報信号にしたがって微小電極で加熱発泡させ、インク滴を吐出・記録させる方式(サーマルジェット方式)等が挙げられる。
【0060】
図2は、本実施形態に係るヘッド2のノズル面15を示す概略図である。図2に示すように、ヘッド2は、ノズル面15を備える。インクの吐出面でもあるノズル面15には、複数のノズル列16が配列されている。複数のノズル列16は、ノズル列毎に、インクを吐出するためのノズル孔17を複数有する。
【0061】
複数のノズル列16は、ノズル列毎に、例えば異なる組成のインクを吐出可能になっている。図2の例では、ノズル列がインクの組成に対応して2列設けられており、各ノズル列が主走査方向に沿って配列されている。具体的には、上述した光輝性インク組成物を吐出可能なノズル列16A、上述した着色インク組成物を吐出可能なノズル列16Bからなる。図2の例では、ノズル列が2列の場合を示したが、これに限定されず、ノズル列を3列以上備えていてもよい。
【0062】
図2の例では、ノズル列16Aおよび16Bは、それぞれ、ノズル面15上で主走査方向に対して交差する副走査方向に延びているが、これに限定されず、ノズル面15内で主走査方向に対して交差する方向に角度を与えられて配置されていてもよい。
【0063】
ノズル孔17は、所定のパターンで複数配列されることにより、ノズル列を形成する。本実施形態では、ノズル孔17は、ノズル面15における副走査方向に複数並べられて配置されているが、これに限定されず、例えばノズル面15における主走査方向と直交する方向に沿ってジグザグ状に配置されていてもよい。なお、ノズル列を構成するノズル孔17の数は、特に限定されるものではい。
【0064】
複数のノズル列16は、副走査方向に向かって、所定数のノズル孔17を含む複数の領域に分割して用いることができる。図2の例では、ノズル列16Aおよび16Bは、副走査方向の上流側T1にある第1群と、該第1群よりも副走査方向の下流側T2にある第2群と、からなる。なお、1つの群を構成するノズル孔17の数は、特に限定されるものではない。また、群を構成するノズル孔17の数は、群毎に同一であっても、異なっていてもよい。また、ノズル列は、3分割以上されて用いられてもよい。
【0065】
上述のようにシリアルヘッドタイプのプリンター(記録装置)を中心に説明したが、この態様に限定されない。具体的には、記録ヘッドが固定化され副走査方向に順に配列されているラインヘッドタイプのプリンター、特開2002−225255号公報に記載されたようなX方向、Y方向(主走査方向、副走査方向)移動する以降機構が設けられたヘッド(キャリッジ)を備えるラテラルタイプのプリンターであっても良い。例えば、surepressL−4033A(セイコーエプソン株式会社製)は、ラテラルタイプのプリンターである。本発明においては、後述するシリアルヘッドのノズル列を分割して画像を記録する記録装置、若しくは、ラテラルタイプの記録装置が、先に吐出される光輝性インク組成物によって光輝性領域を良好に形成した後に、後に吐出される着色インク組成物によって着色光輝性領域を良好に形成できるので好ましい。
【0066】
3.インクジェット記録方法
本発明に係るインクジェット記録方法の一態様は、上述した光輝性インク組成物の液滴を記録媒体に吐出して、該記録媒体上に光輝性領域を形成する工程と、上述した着色インク組成物を前記光輝性領域上に吐出して、前記記録媒体上に着色光輝性領域を形成する工程と、を含む。
【0067】
3.1.記録方法
本実施形態に係るインクジェット記録方法について、上述したプリンター1を用いる場合を例に挙げて説明するが、本発明が当該態様に限定されるわけではない。なお、本発明において「画像」とは、ドット(液滴)群から形成される印字パターンを示し、テキスト印字、ベタ印字も含める。
【0068】
まず、キャリッジ4を主走査方向に移動させながら、ノズル列16Aのノズル孔17から光輝性インク組成物の液滴を吐出させて、記録媒体P上に光輝性インク組成物の液滴を付着させる。これにより、記録媒体P上に、光輝性インク組成物からなる光輝性領域(光輝性画像)を形成する。
【0069】
次に、キャリッジ4を主走査方向に移動させながら、ノズル列16Bのノズル孔17から着色インク組成物の液滴を光輝性領域上に吐出して、着色光輝性領域(着色光輝性画像)の形成された記録物が得られる。着色光輝性領域は、記録媒体上に形成された光輝性画像からなる層と、光輝性画像からなる層上に形成された着色画像からなる層と、を含む画像である。このようにして得られた着色光輝性領域は、着色金属光沢性に優れる。
【0070】
本実施形態に係るインクジェット記録方法において、着色インク組成物は、記録媒体上の光輝性インク組成物の液滴と混ざり合わないタイミングで吐出されることが好ましい。つまり、光輝性画像からなる層の表面を十分に乾燥させた後、光輝性画像からなる層の表面に着色インク組成物の液滴を付着させればよい。こうすることで、光輝性領域中の光輝性顔料の配列の乱れを低減できるので、着色金属光沢性に一層優れた着色光輝性領域(着色光輝性画像)が得られる。
【0071】
本発明において、着色金属光沢性とは、着色剤に由来する色相を備えつつ、光輝性顔料に由来する金属光沢を備えている状態のことをいう。また、金属光沢とは、金属特有のツヤ感や光沢感等のことをいい、例えば、光輝性の低いツヤ消しの金属光沢も含む。
【0072】
着色金属光沢性は、[(C45°)/(C0°)]によって判断できる。[(C45°)/(C0°)]とは、着色光輝性領域に対する法線方向を0°として、該着色光輝性領域に45度の角度で光を照射した際に、−45度の角度で反射した光を基に測定される着色光輝性領域の彩度(C45°)と、0度の角度で反射した光を基に測定される着色光輝性領域の彩度(C0°)と、の比のことをいう。[(C45°)/(C0°)]が1以上であると、着色金属光沢性に優れている。また、[(C45°)/(C0°)]は、1以上7以下であることが好ましく、2以上7以下であることがより好ましく、3以上7以下であることがより一層好ましく、4以上7以下であることが特に好ましい。[(C45°)/(C0°)]が1未満であると、光輝性顔料に由来する金属光沢と着色剤に由来する色相とのバランスが崩れ、着色金属光沢性が低下する傾向にある。
【0073】
上記の「C45°」および「C0°」は、変角分光測色計を用いて測定できる。具体的には、「C45°」は、変角分光測色計の測定条件を、C光源、視野角2度とし、投光角度45度としたときに、−45度の角度で反射される光を受光することにより測定される彩度(C)である。また、「C0°」は、変角分光測色計の測定条件を、C光源、視野角2度とし、投光角度45度としたときに、0度の角度で反射される光を受光することにより測定される彩度(C)である。変角分光測色計としては、例えば、日本電色工業株式会社製の変角分光色差計「GC−5000」が挙げられる。なお、彩度(C)は、L表色系として国際照明委員会(CIE)で規定されている。
【0074】
本実施形態に係るインクジェット記録方法において、光輝性領域に含まれる光輝性顔料の量[W1(mg/inch)]と、着色光輝性領域に含まれる着色剤の量[W2(mg/inch)]との比(W2/W1)が、0.1以上1.5以下であることが好ましく、0.1以上1.0以下であることがより好ましく、0.2以上0.8以下であることがより一層好ましく、0.2以上0.7以下であることがさらに好ましく、0.25以上0.7以下であることが特に好ましい。上記比(W2/W1)が上記範囲内にあると、とりわけ下限を下回らずにあることで、着色金属光沢性に優れた画像が得られる。また、上記比(W2/W1)が上記範囲内にあると、とりわけ上限を超えずにあることで、光輝性に優れた画像が得られる。
【0075】
本実施形態に係るインクジェット記録方法において、着色光輝性領域における60°鏡面光沢度は、100以上であることが好ましく、120以上であることがより好ましい。60°鏡面光沢度が100以上であると、着色光輝性領域の光輝性が優れる傾向にある。60°鏡面光沢度は、日本工業規格(JIS)Z8741:1997に準じて、例えば、コニカミノルタ株式会社製の光沢度計「MultiGloss268」(商品名)を用いて測定することができる。
【0076】
本実施形態に係るインクジェット記録方法において、光輝性領域(着色される前の領域)における60°鏡面光沢度は、250以上であることが好ましく、300以上であることがより好ましく、350以上であることが一層好ましい。60°鏡面光沢度が250以上であると、その後着色された場合に着色光輝性領域の光輝性が優れる傾向にある。
【0077】
3.2.ノズル列の分割
本実施形態に係るインクジェット記録方法は、ノズル列を所定数のノズル孔を含む群毎に分割する態様を好ましく用いることができる。以下、ノズル列を分割して使用する場合のインクジェット記録方法について、図2を参照しながら説明する。
【0078】
図2で示すように、ノズル列16Aおよび16Bは、副走査方向の上流側T1にある第1群と、該第1群よりも副走査方向の下流側T2にある第2群に分割して使用する。
【0079】
まず、キャリッジ4を主走査方向に移動させながら、第1ノズル列16Aの第1群から光輝性インク組成物の液滴を吐出させて、記録媒体P上に光輝性インク組成物の液滴を付着させる。これにより、記録媒体P上に、光輝性インク組成物からなる第1光輝性領域が得られる。
【0080】
次に、副走査方向の下流側T2方向に、副走査方向の第1群の長さ分だけ記録媒体Pを移動させる。そして、キャリッジ4を主走査方向に移動させながら、第2ノズル列16Bの第2群から着色インク組成物の液滴を吐出させて、記録媒体Pに形成した第1光輝性領域上に着色インク組成物の液滴を付着させることによって、第1着色光輝性領域が得られる。このとき、第1光輝性領域は、記録媒体Pを第1群の長さ分だけ移動させる間に、その表面が十分に乾燥する。これにより、第1光輝性領域上に形成される第1着色光輝性領域は、インクの混ざり合いを良好に抑えられ、光輝性顔料が良好に配列し、着色金属光沢性に優れたものとなる。
【0081】
また、第1着色光輝性領域の形成時(キャリッジ4の同一走査時)に、第1ノズル列16Aの第1群から光輝性インク組成物の液滴を再度吐出させて、記録媒体P上に光輝性インク組成物の液滴を付着させる。これにより、第1光輝性領域が記録されていない部分(第1の光輝性領域の副走査方向の上流側)には、第2光輝性領域が形成される。
【0082】
次に、副走査方向の下流側T2方向に、副走査方向の第2群の長さ分だけ記録媒体Pを移動させる。そして、キャリッジ4を主走査方向に移動させながら、第2ノズル列16Bの第2群から着色インク組成物の液滴を吐出させて、記録媒体Pに形成した第2光輝性領域上に着色インク組成物の液滴を付着させることによって、第2着色光輝性領域が得られる。このとき、第2光輝性領域は、記録媒体Pを第2群の長さ分だけ移動させる間に、その表面が十分に乾燥する。これにより、第2光輝性領域上に形成される第2着色光輝性領域は、インクの混ざり合いを良好に抑えられ、光輝性顔料が良好に配列し、着色金属光沢性に優れたものとなる。
【0083】
このようにして、第1着色光輝性領域および第2着色光輝性領域からなる着色光輝性領域が形成された記録物が得られる。
【0084】
本実施形態では、第1着色光輝性領域および第2着色光輝性領域からなる着色光輝性領域の記録方法を示したが、これに限定されず、第1着色光輝性領域のみを形成したり、さらに第1着色光輝性領域および第2着色光輝性領域を形成する工程を繰り返したりすることで、所望のパターンの着色光輝性領域を形成できる。また、ノズル列を3分割以上にして用いる場合にも、同様に行うことができる。
【0085】
本実施形態に係るインクジェット記録方法は、ノズル列を分割して使用することによって、記録の高速化を図ることができる。また、ノズル列を分割して使用すると、記録媒体のバックフィードを行わない、もしくは記録媒体のバックフィードの回数を減らすことができる。これにより、記録媒体のバックフィードによって生じやすい印刷位置のずれを低減できる。
【0086】
4.記録媒体
本実施形態に係るインクジェット記録方法に用いる記録媒体としては、普通紙、インク受容層等を有する専用紙等の紙のほか、例えば、インクが付与される表面を含む領域が、各種プラスチック、セラミックス、ガラス、金属や、これらの複合材料で構成された基材等が挙げられる。
【0087】
また、本実施形態に係る記録媒体に含まれる塩素濃度は、10質量%以下であることが好ましく、5質量%以下であることがより好ましく、3質量%以下であることがより一層好ましく、2質量%以下であることが特に好ましい。記録媒体に含まれる塩素濃度が10質量%以下であると、着色光輝性領域の光沢度(60°鏡面光沢度)が経時的に低下しにくくなる傾向にある。記録媒体の塩素濃度の測定は、特に限定されることは無いが、例えばSEM−EDXを用いて行うことができる。
【0088】
以下、着色光輝性領域の光沢度と記録媒体に含まれる塩素との関係について、光輝性顔料として銀粒子を用いた場合を例にして説明する。
【0089】
銀粒子を含有する光輝性インク組成物を記録媒体に付着させた際、光輝性インク組成物の溶媒として用いられる水の中に、遊離塩素が発生して溶解する。該遊離塩素は、記録媒体に含有される塩素から生じる。ここで塩素と銀は、各々が非イオン状態でもイオン状態でも直接反応し塩化銀を形成する事は、一般化学として公知であり、光輝性顔料として使用された銀粒子の一部は、塩化銀となる。
【0090】
記録物中に形成された塩化銀は、銀塩写真フィルムにおける感光材料として好適に使用されている事からも明らかな様に、紫外線に対する感光性を持つとされている。光による記録物の光沢度の低下は、記録物中に形成された塩化銀が光により感光された結果、部分的に粗大な銀の再結晶物が記録物表面に形成され、該粗大結晶物による可視光の表面散乱により発生すると考えられる。
【0091】
そのため、塩素濃度が高い記録媒体に、光輝性顔料の一例として銀粒子を含有する光輝性インク組成物を用い光輝性領域を記録すると、記録直後は非常に優れた金属光沢が得られるものの、記録物に光が当たることで、既存のカラーインク(シアン、マゼンタ、イエロー、ブラック、等)と比較して、光沢度が低下する場合がある。特に、着色光輝性領域では、理由は定かではないが、着色剤と塩化銀が接することにより、塩化銀の感光性が増加して、より顕著に光沢度の低下が生じる場合がある。
【0092】
なお、着色光輝性領域の光沢度と記録媒体に含まれる塩素との関係について、光輝性顔料として銀粒子を用いた場合を例にして説明したが、これに限定されず、銀以外の光輝性顔料を用いた場合であっても同様の現象が生じる場合がある。
【0093】
5.実施例
以下、本発明を実施例および比較例によってさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0094】
5.1.インクの調製
5.1.1.光輝性インク組成物の調製
(1)銀インク組成物の調製
ポリビニルピロリドン(PVP、重量平均分子量10000)を70℃の条件下で15時間加熱して、その後室温で冷却をした。そのPVP1000gを、エチレングリコール溶液500mlに添加してPVP溶液を調整した。別の容器にエチレングリコールを500ml入れ、硝酸銀128gを加えて電磁攪拌器で十分に攪拌をして硝酸銀溶液を調整した。PVP溶液を120℃の条件下でオーバーヘッドミキサーを用いて攪拌しつつ、硝酸銀溶液を添加して約80分間加熱して反応を進行させた。そして、その後室温で冷却をさせた。得られた溶液を遠心分離機で2200rpmの条件下で10分間遠心分離を行った。その後、分離が出来た銀粒子を取り出して、余分なPVPを除去するためエタノール溶液500mlに添加した。そして、さらに遠心分離を行い、銀粒子を取り出した。さらに、取り出した銀粒子を真空乾燥機で35℃、1.3Paの条件下で乾燥させた。
【0095】
このようにして製造された銀粒子10質量%を用いて、表1に示す材料組成にて光輝性インクを調製した。表中Agインクとは、顔料として銀を含有する光輝性インク組成物を表す。
【0096】
表1に記載の成分は、具体的には、以下のものを用いた。
(光輝性顔料)
・銀粒子(上記製造方法を参照、体積平均粒子径20nm)
(着色剤)
・PB15:3(ピグメントブルー15:3、シアン顔料)
・PV19(ピグメントバイオレッド19、マゼンタ顔料)
・PY74(ピグメントイエロー74、イエロー顔料)
(樹脂)
・スチレン−アクリル酸共重合体エマルジョン(Tg85℃、体積平均粒子径130nm)
(水溶性有機溶剤)
・グリセリン
・1,2−ヘキサンジオール
・トリメチロールプロパン
(界面活性剤)
・シリコーン系界面活性剤(ビックケミー・ジャパン株式会社製、商品名「BYK−348」)
・アセチレングリコール系界面活性剤(日信化学工業株式会社製、商品名「オルフィンE1010」)
(pH調製剤)
・トリエタノールアミン
【0097】
【表1】

【0098】
5.1.2.着色インク組成物の調製
(1)顔料分散液の調製
まず、撹拌装置、還流管、温度センサー、滴下ロートを備えた2000mlのセパラブルフラスコ内を充分に窒素置換した後、ジエチレングリコールモノメチルエーテル200.0質量部をセパラブルフラスコに入れて攪拌しながら80℃に昇温した。次いで、滴下ロートにジエチレングリコールモノメチルエーテル200.0質量部、シクロヘキシルアクリレート(以下、「CHA」と呼ぶ)483.0質量部、メタクリル酸(以下、「MAA」と呼ぶ)66.6質量部、アクリル酸(以下、「AA」と呼ぶ)50.4質量部及びt−ブチルパーオキシ(2−エチルヘキサノエート)(以下、「BPEH」と呼ぶ)4.8質量部を入れ、80℃で4時間かけてセパラブルフラスコ中に滴下した。滴下終了後、80℃で1時間保持した後、BPEH0.8質量部を加え、さらに80℃で1時間反応を行った。熟成を終了させた後、減圧蒸留によりジエチレングリコールモノメチルエーテルを除去した。その後、メチルエチルケトン(以下、「MEK」と呼ぶ)600.0質量部を加え、樹脂固形分50%のインクジェットインク用ポリマー組成物溶液を得た。このようにして得られたインクジェットインク用ポリマー組成物溶液の一部を取り、105℃の強熱乾燥機で1時間乾燥した後、得られたインクジェットインク用ポリマー組成物の固形物の酸価は130mgKOH/gであり、重量平均分子量は34,000であった。次に、インクジェットインク用ポリマー組成物溶液120.0質量部に対して30%水酸化ナトリウム水溶液6.0質量部を加えて、高速ディスパーで5分間攪拌し、さらに顔料濃度25質量%のC.I.ピグメントイエロー74を含む分散液を、480.0質量部を加えて、高速ディスパーで1時間攪拌し、顔料分散液を得た。
【0099】
なお、C.I.ピグメントブルー15:3、C.I.ピグメントバイオレッド19についても上記と同様にして顔料分散液を得た。
【0100】
(2)着色インク組成物の調製
上記のように調製された顔料分散液を用いて、表1に示す材料組成にて色毎に着色インク組成物を調製した。各着色インク組成物は、表中に示す材料を容器中に入れ、マグネチックスターラーにて2時間混合撹拌した後、孔径5μmのメンブランフィルターにて濾過してゴミや粗大粒子等の不純物を除去することにより調製した。表中、Cインクとは、シアンインク組成物を示し、Mインクとは、マゼンタインク組成物を示し、Yインクとは、イエローインク組成物を表す。
【0101】
5.2.評価試験
以下の評価試験は、表1に記載のインク組成物が充填されたカートリッジを搭載したインクジェットプリンターPX−G930(商品名、セイコーエプソン株式会社製)を用いて行った。
【0102】
5.2.1.実施例1〜20および比較例1の評価サンプルの作製
実施例1〜実施例20の評価サンプルは、次のようにして作製した。まず、上記プリンターから光輝性インク組成物の液滴を吐出して、記録媒体A(セイコーエプソン株式会社製、商品名「写真用紙〈光沢〉」)に光輝性領域を形成した。次に、上記プリンターから着色インク組成物を光輝性領域上に吐出して、記録媒体A上に着色光輝性領域を形成した。このようにして、実施例1〜実施例20に係る評価サンプルを得た。また、付与する際には、「3.2.ノズル列の分割」に記載の通りノズル列を分割して使用し、先立って光輝性インク組成物を付与した後に、着色インク組成物を光輝性インク組成物が記録された領域に付与した。
【0103】
一方、比較例1の評価サンプルは、光輝性インク組成物を吐出せずに、着色インク組成物のみを記録媒体A上に吐出して、着色画像を形成した。このようにして、比較例1に係る評価サンプルを得た。
【0104】
なお、光輝性インク組成物および着色インク組成物は、表2および表3に示すDuty値で吐出した。ここで、本明細書において、「Duty値」とは、下式で算出される値である。
【0105】
Duty(%)=実吐出ドット数/(縦解像度×横解像度)×100
(式中、「実吐出ドット数」は単位面積当たりの実吐出ドット数であり、「縦解像度」および「横解像度」はそれぞれ単位面積当たりの解像度である。)
【0106】
【表2】

【0107】
【表3】

【0108】
表2および表3中、W1は、光輝性領域に含まれる光輝性顔料の量[W1(mg/inch)]を示し、W2は、着色光輝性領域に含まれる着色剤の量[W2(mg/inch)]を示す。
【0109】
(1)着色金属光沢性
上記のようにして得られた評価サンプルの着色光輝性領域(比較例1においては、着色画像)の「C45°」および「C0°」を、変角分光色差計GC−5000(商品名、日本電色工業株式会社製)に用いて測定した。得られた値を基に[(C45°)/(C0°)]を算出し、下記評価基準にしたがって着色金属光沢性を評価した。なお、変角分光色差計での測定条件は、測定光源C、視野角度2°、投光角度45°とした。
S:着色剤に由来する色相の再現性、光輝性顔料に由来する金属光沢性に優れ、かつ、これらのバランスに優れている([(C45°)/(C0°)]≧5)
A:着色剤に由来する色相の再現性、光輝性顔料に由来する金属光沢性に優れ、かつ、これらのバランスが良好である(5>[(C45°)/(C0°)]≧4)
B:着色剤に由来する色相の再現性、光輝性顔料に由来する金属光沢性が良好であり、かつ、これらのバランスが良好である(4>[(C45°)/(C0°)]≧3)
C:着色剤に由来する色相の再現性、光輝性顔料に由来する金属光沢性がやや良好であり、かつ、これらのバランスがやや良好である(3>[(C45°)/(C0°)]≧2)
D:着色剤に由来する色相の再現性および光輝性顔料に由来する金属光沢性の少なくとも一方に優れず、かつ、これらのバランスにも優れない(2>[(C45°)/(C0°)])
【0110】
(2)60°鏡面光沢度
上記のようにして得られた評価サンプルの着色光輝性領域(比較例1においては、着色画像)の60°鏡面光沢度を、光沢度計(コニカミノルタ株式会社製、商品名「MultiGloss268」)を用い、JIS Z8741:1997にしたがって測定した。
【0111】
(3)光輝性(目視)
上記のようにして得られた評価サンプルの着色光輝性領域(比較例1においては、着色画像)の光輝性を常用光源D50において複数の異なる角度から目視にて観察した。評価基準は、次の通りである。
A:非常に高い光輝性を感じる
B:明確な光輝性を感じる
C:低い光輝性を感じる
D:光輝性を感じない
【0112】
(4)総合判定
以上の評価試験の結果を、総合的に評価した。評価基準は、次の通りである。
A:最も低い評価がA
B:最も低い評価がB
C:最も低い評価がC
D:最も高い評価がD
【0113】
5.2.2.実験例1〜実験例5
(1)評価サンプルの作製
実験例1〜実験例4の評価サンプルは、表4に示す条件で上記プリンターから光輝性インク組成物の液滴を吐出して、記録媒体A〜Dに光輝性領域を形成した。このようにして、実験例1〜実験例4に係る評価サンプルを得た。
【0114】
用いた記録媒体の種類は、次の通りである。また、記録媒体に含まれる塩素濃度は以下の条件によって測定した。測定装置は、SEM−EDX:SEMは走査型電子顕微鏡としての日立製作所製S−4700、EDXは堀場製作所製のSuper Xerophy Model MS−818XI、である。測定条件は、加速電圧を15kV、エミッション電流を15μA、ワーキングディスタンスを15mm、SamplingTimeを300sとした。測定結果を表5に示す。
・記録媒体A(セイコーエプソン株式会社製、商品名「写真用紙〈光沢〉」)
・記録媒体B(セイコーエプソン株式会社製、商品名「写真用紙クリスピア〈高光沢〉」)
・記録媒体C(セイコーエプソン株式会社製、商品名「写真用紙エントリー〈光沢〉」)
・記録媒体D(富士フィルム株式会社製、商品名「画彩 写真仕上げPro」)
【0115】
【表4】

【0116】
【表5】

【0117】
(2)60°鏡面光沢度の低下率
上記のようにして得られた評価サンプルの光輝性領域の60°鏡面光沢度を、光沢度計(コニカミノルタ株式会社製、商品名「MultiGloss268」)を用い、JIS Z8741:1997にしたがって測定した。なお、後述するオゾン曝露前の測定値(初期の60°鏡面光沢度)を表4に示す。
【0118】
その後、オゾンウェザーメーターOMS−H型(商品名、スガ試験機株式会社製)を用い、温度23.0℃、湿度50%RH、およびオゾン濃度5ppmの条件下で、評価サンプルを16時間オゾンに暴露した。
【0119】
オゾン暴露後の評価サンプルの光輝性領域における60°鏡面光沢度を光沢度計(コニカミノルタ株式会社製、商品名「MultiGloss268」)を用いて測定し、上記初期値(オゾン曝露前の60°鏡面光沢度)からの降下率(%)を求めた。
【0120】
5.3.評価結果
表2〜表3の評価結果に示すように、実施例1〜20の評価サンプルの作製によって得られた着色金属光輝性領域は、いずれも、着色金属光沢性に優れていた。
【0121】
一方、表3の評価結果に示すように、比較例1では、光輝性インクを使用していない。そのため、着色金属光沢性を備えていなかった。
【0122】
実験例1〜実験例4に係る評価サンプルの評価結果(表4および表5)から、記録媒体に含まれる塩素濃度が高くなると、経時的に画像の光沢度が低下する傾向にあることが示された。この評価結果から、着色光輝性領域を記録した場合でも、記録媒体に含まれる塩素濃度によって光沢性や着色金属光沢性が低下するといえる。なお、記録媒体Aの塩素濃度は、記録媒体Bおよび記録媒体Dの塩素濃度よりも低くなっているが、記録媒体Aの鏡面光沢度の低下率は、記録媒体Bおよび記録媒体Dの鏡面光沢度の低下率よりも高くなっており、塩素濃度と鏡面光沢度の低下率との関係が逆転している。この理由としては、記録媒体の層の構成やインク受容層の厚み等が記録媒体の種類毎に異なっており、塩素を多く含有する箇所が記録媒体毎に一定の差異があることが挙げられる。つまり、記録媒体毎の塩素濃度が最も高い領域の濃度を比較すると、記録媒体Aの方が記録媒体Bおよび記録媒体Dよりも高くなると強く推察される。
【0123】
5.4.その他
実施例4のインク組成物の付与方法を、上述のノズルの分割付与から、以下のように変更した。すなわち、光輝性インク組成物と着色インク組成物を同一着弾地点に同一のキャリッジ走査タイミングで付与した(つまり、着弾地点で互いのインク滴が混ざり合うように付与した)。その結果、得られた記録物は、60°鏡面光沢度や光輝性等は極めて不良であった。本願発明がノズルの分割付与に限定されるわけではないが、本願発明の着色光輝性、60°鏡面光沢度等が良好な値を示すためには、ノズル分割をした付与方法を用いる事が好ましいことがわかった。
【0124】
本発明は、前述した実施形態に限定されるものではなく、種々の変形が可能である。例えば、本発明は、実施形態で説明した構成と実質的に同一の構成(例えば、機能、方法および結果が同一の構成、あるいは目的および効果が同一の構成)を含む。また、本発明は、実施形態で説明した構成の本質的でない部分を置き換えた構成を含む。また、本発明は、実施形態で説明した構成と同一の作用効果を奏する構成または同一の目的を達成することができる構成を含む。また、本発明は、実施形態で説明した構成に公知技術を付加した構成を含む。
【符号の説明】
【0125】
1…プリンター、2…ヘッド、3…インクカートリッジ、4…キャリッジ、5…プラテン、7…キャリッジ移動機構、8…媒体送り機構、15…ノズル面、16…複数のノズル列、17…ノズル孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光輝性顔料を含有する光輝性インク組成物の液滴を記録媒体に吐出して、該記録媒体上に光輝性領域を形成する工程と、
着色剤を含有する着色インク組成物を前記光輝性領域上に吐出して、前記記録媒体上に着色光輝性領域を形成する工程と、
を含み、
前記着色光輝性領域に対する法線方向を0度として、該着色光輝性領域に45度の角度で光を照射した際に、−45度の角度で反射した光を基に測定される前記着色光輝性領域の彩度(C45°)と、0度の角度で反射した光を基に測定される前記着色光輝性領域の彩度(C0°)と、の比[(C45°)/(C0°)]が、1以上である、インクジェット記録方法。
【請求項2】
請求項1において、
前記着色光輝性領域の60°鏡面光沢度が、100以上である、インクジェット記録方法。
【請求項3】
請求項1または請求項2において、
前記光輝性領域の60°鏡面光沢度が、250以上である、インクジェット記録方法。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれか1項において、
前記記録媒体中に含まれる塩素の濃度が、10質量%以下である、インクジェット記録方法。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4のいずれか1項において、
前記光輝性領域に含まれる光輝性顔料の量[W1(mg/inch)]と、前記着色光輝性領域に含まれる着色剤の量[W2(mg/inch)]と、の比(W2/W1)が、0.1以上1.5以下である、インクジェット記録方法。
【請求項6】
請求項1ないし請求項5のいずれか1項において、
さらに、前記光輝性インク組成物および前記着色インク組成物が、水を含有する、インクジェット記録方法。
【請求項7】
請求項1ないし請求項6のいずれか1項において、
複数のノズル孔からなるノズル列を備えたヘッドと、
前記ヘッドを主走査方向に走査させるキャリッジと、
を有し、
前記ノズル列は、前記光輝性インク組成物を吐出するための前記ノズル孔を前記主走査方向と交差する副走査方向に複数並べてなる第1ノズル列と、前記着色インク組成物を吐出するための前記ノズル孔を前記副走査方向に複数並べてなる第2ノズル列と、含み、
前記第1ノズル列および前記第2ノズル列は、前記副走査方向に向かって、所定数の前記ノズル孔を含む群毎に分割して用いられ、
前記群は、前記副走査方向の上流側にある第1群と、該第1群よりも前記副走査方向の下流側にある第2群と、を備え、
前記光輝性領域を形成する工程は、前記第1ノズル列の前記第1群から前記光輝性インク組成物を吐出させることにより行われ、
前記着色光輝性領域を形成する工程は、前記第2ノズル列の前記第2群から前記着色インク組成物を吐出させることにより行われる、インクジェット記録方法。
【請求項8】
請求項1ないし請求項7のいずれか1項に記載のインクジェット記録方法により得られた記録物。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−52654(P2013−52654A)
【公開日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−194071(P2011−194071)
【出願日】平成23年9月6日(2011.9.6)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】