説明

インクジェット記録方法及びインクジェット記録物

【課題】インクジェット記録物におけるグロス調に優れた、インクジェット記録方法を提供する。
【解決手段】紫外線硬化型インクを被記録媒体上に吐出して最表層にグロス調の領域を形成するグロス形成工程を有し、前記グロス形成工程は、前記最表層における前記紫外線硬化型インクのドット径を、前記紫外線硬化型インクの隣り合うドットのドット中心間の距離の21/2倍以上の距離として、少なくとも前記被記録媒体の一部の領域に前記グロス調の領域を形成する工程である、インクジェット記録方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紫外線硬化型インク組成物を用いたインクジェット記録方法及びインクジェット記録物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、インクジェット記録物に高い付加価値を付与するため、グロス調を有するインクジェットプリント記録物の品質向上が試みられている。
【0003】
例えば、特許文献1には、絵図又は/及び文字がプリントされた記録メディア表面に、絵図又は/及び文字を構成する複数のインクのドットの持つ光の屈折率と同じか又はそれに近い光の屈折率を持つクリアコート層を形成することにより、絵図又は/及び文字の表面の光沢を高める技術が開示されている。また、特許文献2には、全ての画素に、総液滴数(カラーインクの液滴数と透明インクの液滴数の合計数)が24滴になるよう、透明インクの液滴数を決めることにより、光沢を高める技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−15691号公報
【特許文献2】特開2006−35688号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1や特許文献2に開示の、紫外線硬化型インクを用いたインクジェット記録物は、その表面にグロス調を形成できない場合がある。そのため、インクジェット記録物の表面状態には問題がある。
【0006】
そこで、本発明は、インクジェット記録物におけるグロス調に優れた、インクジェット記録方法を提供することを目的の一つとする。
【0007】
また、本発明は、上記のインクジェット記録方法を実施することにより得られるインクジェット記録物を提供することを目的の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本願発明者は上記課題を解決するため鋭意検討した。その結果、最表層における紫外線硬化型インクのドット(液滴)の直径(以下、単に「径」という。)を所定の範囲に調節することにより、グロス調(最表層におけるグロス性)が優れたものとなることを見出し、本発明を完成した。
【0009】
即ち、本発明は下記のとおりである。
[1]
紫外線硬化型インクを被記録媒体上に吐出して最表層にグロス調の領域を形成するグロス形成工程を有し、前記グロス形成工程は、前記最表層における前記紫外線硬化型インクのドット径を、前記紫外線硬化型インクの隣り合うドットのドット中心間の距離の21/2倍以上の距離として、少なくとも前記被記録媒体の一部の領域に前記グロス調の領域を形成する工程である、インクジェット記録方法。
[2]
前記紫外線硬化型インクは紫外線硬化型カラーインク及び紫外線硬化型クリアインクを含み、前記グロス形成工程において、前記被記録媒体上に吐出された前記紫外線硬化型カラーインクによるドット上に、前記最表層におけるドットとして、前記紫外線硬化型カラーインクの吐出量を超える量の前記紫外線硬化型クリアインクを吐出する、[1]に記載のインクジェット記録方法。
[3]
前記紫外線硬化型クリアインクのドット径が、隣り合うドットのドット中心間の距離の21/2倍の距離に対して120〜150%の距離である、[2]に記載のインクジェット記録方法。
[4]
前記紫外線硬化型カラーインクのドット径が、隣り合うドットのドット中心間の距離の21/2倍以上の距離である、[2]又は[3]に記載のインクジェット記録方法。
[5]
前記紫外線硬化型クリアインクの吐出量のTotal Dutyが100%〜150%である、[2]〜[4]のいずれかに記載のインクジェット記録方法。
[6]
前記紫外線硬化型カラーインクを、硬化率が30〜75%の条件で硬化する工程を有する、[2]〜[5]のいずれかに記載のインクジェット記録方法。
[7]
[1]〜[6]のいずれかに記載のインクジェット記録方法により得られる、インクジェット記録物。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の一実施形態であるインクジェット記録物の一部(4×4の画素部分)を示す概略図である。
【図2】本発明の一実施形態であるインクジェット記録物の一部(4×4の画素部分)を示す概略図である。
【図3】本発明の一実施形態であるインクジェット記録物の一部(4×4の画素部分)を示す概略図である。
【図4】本発明の一実施形態であるインクジェット記録物の一部(4×4の画素部分)を示す概略図である。
【図5】本発明の一実施形態であるインクジェット記録物の一部(4×4の画素部分)を示す概略図である。
【図6】本発明の比較対照であるインクジェット記録物の一部(4×4の画素部分)を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施の形態に制限されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
【0012】
ここで、本明細書において、「グロス調」とは表面の光沢を高めた表面状態を意味する。「グロス性」とは30cm離れた位置から画像を目視したときの画像表面の凹凸の程度を意味し、グロス性に優れるほど光沢度は大きくなる。「平滑性」とは、インクが付着した被記録媒体上の箇所とインクが付着していない被記録媒体上の箇所との間の凹凸の程度を意味し、目視観察においてインクと被記録媒体との凹凸が目立つか否かという指標で表される。平滑性に優れる場合には画像表面の凹凸が均一に形成されている。
【0013】
また、本明細書において、「カラーインク」とは、無色透明のクリアインクを除くあらゆる有色のインクを指す。「ドット径」は、飛行中の液滴の径ではなく、記録媒体に液滴を着弾させ、紫外線を照射し硬化させた後の最終的なドット径を意味する。すなわち、着弾(付着)後に拡がった液滴の径も考慮した最終的なドット径である。「最表層」は、紫外線硬化型インクの層のうち、最も被記録媒体から離れた層を意味する。「Total Duty」とは、単位面積当たりのインクの総吐出量(総打ち込み量)を意味する。
【0014】
[インクジェット記録方法]
本発明の一実施形態は、インクジェット記録方法に係る。以下、本実施形態の例として2つの態様を詳細に説明する。
【0015】
〔第一態様〕
本実施形態の第一態様におけるインクジェット記録方法は、グロス調を得るための記録方法である。当該記録方法においては、紫外線硬化型インクを被記録媒体上に吐出して最表層にグロス調の領域を形成するグロス形成工程を有する。そして、前記グロス形成工程においては、前記最表層における前記紫外線硬化型インクのドット径を、前記紫外線硬化型インクの隣り合うドットのドット中心間の距離の21/2倍以上の距離として、少なくとも前記被記録媒体の一部の領域に前記グロス調の領域を形成する。
【0016】
本態様を詳細に説明すると、紫外線硬化型インクを被記録媒体上に吐出して、第1のドットを形成する段階と、第2のドットを形成する段階と、を備え、最表層にグロス調の領域を形成するグロス形成工程を有する。そして、前記第2のドットを形成する段階では、前記第1のドットの中心から当該ドットと隣り合う前記第2のドットの中心までの距離が21/2倍以上の距離となるよう前記第2のドットを形成する。このようにして、少なくとも前記被記録媒体の一部の領域に前記グロス調の領域を形成する。
【0017】
具体的にいえば、当該記録方法においては、最表層の紫外線硬化型インクのドット径を、そのドットに対応する画素の対角線長以上の長さ、即ち外接円直径以上の長さとし、被記録媒体の少なくとも一部の領域にグロス調の領域を形成する。
【0018】
最表層の紫外線硬化型インクのドット径が画素の対角線長未満の長さであると、グロス調を形成できないのに対し、最表層の紫外線硬化型インクのドット径が画素の対角線長以上の長さであると、グロス調を形成できる。このように、本態様においては、最表層の紫外線硬化型インクを吐出する際、その紫外線硬化型インクのドット径を適当に変えることにより、最表層以外の紫外線硬化型インクのドット径によらず(画素の対角線長未満の長さであっても)、グロス調の程度(階調)を自由に調節することができる。
【0019】
最表層の紫外線硬化型インクは、特に限定されず、紫外線硬化型カラーインク(以下、単に「カラーインク」ともいう。)及び紫外線硬化型クリアインク(以下、単に「クリアインク」ともいう。)のいずれも使用可能である。紫外線硬化型インク(組成物)については後述する。
【0020】
後述の実施例欄において、最表層の紫外線硬化型インクのドット径を種々変化させた具体例を説明する(実施例1及び4、比較例1)。ここで、実施例1及び4、比較例1においては最表層の紫外線硬化型インクのドット径は1種に統一しているが、2種以上存在する場合についても1種の場合と同様のことがいえる。
【0021】
最表層の紫外線硬化型インクのドット径が画素の対角線長の120〜150%となる場合が好ましい。当該ドット径が画素の対角線長の120%以上である場合、グロス性に優れたインクジェット記録物が得られる。一方、当該ドット径が画素の対角線長の150%以下である場合、平滑性に優れたインクジェット記録物が得られる。
なお、一つのインクジェット記録物中の最表層の紫外線硬化型インクのドット径は1種であってもよく、2種以上であってもよい。
【0022】
ドット径を調節するための要因としては、例えば、吐出する液滴当たりのインク量、ヘッドの孔径、同一箇所への吐出回数などが挙げられる。具体的にいえば、ヘッドの孔径を大きくする程、発生ドット数は同じでも着弾後のドット径を一層大きくすることができる。
【0023】
また、一画素に吐出するインクドット数を変えることにより、着弾後のドット径を変えることができる。つまり、インクドットを一画素に一つ吐出するとそのドットによる最小のドット径になり、吐出されるドット数を増やしていくとより大きなドット径を形成できる。
なお、この方法による場合、一画素に液滴を複数回、吐出させた後に、まとめて紫外線を照射して硬化させることが好ましい。
【0024】
ドット径を変える方法としては、吐出する液滴当たりのインク量を異ならせることによりドット径を変える方法も挙げられる。この方法の場合、ドット径によってノズル列からインクを吐出させる駆動信号の規格を変えることにより、吐出する液滴当たりのインク量を異ならせる。この方法は、カラーインクとクリアインクとの関係において、クリアインクのノズル列からクリアインクを吐出させる駆動信号を、カラーインクのノズル列を駆動させるための駆動信号とは規格が異なるものとして、別途、駆動信号を生成して駆動することにより、互いに異なるインク量のインクドットを吐出させることもできる。ここで、上記クリアインクは最表層のインクに相当し、上記カラーインクは最表層以外の下地のインクに相当する。
その他にも、記録媒体に液滴が着弾してから、液滴が拡がり紫外線を照射させるまでの時間差を制御することでドット径を調節することもできる。
【0025】
〔第二態様〕
本実施形態の第二態様におけるインクジェット記録方法は、一層優れたグロス調を得るための記録方法である。当該記録方法は、前記紫外線硬化型インクは紫外線硬化型カラーインク及び紫外線硬化型クリアインクを含み、前記グロス形成工程において、前記被記録媒体上に吐出された前記紫外線硬化型カラーインクによるドット上に、前記最表層におけるドットとして、前記紫外線硬化型カラーインクの吐出量を超える量の紫外線硬化型クリアインクを吐出する。つまり、クリアインクでオーバーコートすることにより、一層優れたグロス調を形成できる。
【0026】
上記の第一態様で述べたように、グロス調のインクジェット記録物を得る場合には、画像の最表層に形成されるドットの径を、隣り合うドットのドット中心間の21/2倍以上の距離とすればよい。すなわち、画像の最表層に形成されるドットの径を画素の対角線長以上の長さ、更に言い換えれば外接円直径以上の長さとすればよい。そして、このことはカラー、クリアいずれのインクにおいて同様である点も、上記の第一態様で述べたとおりである。
【0027】
しかし、カラーインクのドットは、形成しようとする画像のパターンに依存して、その径や吐出面積率(吐出された時の単位面積当たりのドットの面積)が決まる。つまり、グロス調のインクジェット記録物を得るために、画像の最表層に形成されるカラーインクのドット径を、対応する画素の対角線長以上の長さとすることが、画像パターンによっては困難となる。
【0028】
また、カラーインクを最表層とするベタ印刷により画像を形成する場合、画像パターンによっては、その最表層のドット径が画素の対角線長未満となる領域が発生し得る。そこで、本願発明者は、良好なグロス性を安定して得る目的で、画像パターンによる制約を受けないクリアインクをカラーインクに重ね塗り(重ね打ち)するという発想に至った。
【0029】
クリアインクのドットは、上記のカラーインクのドットと異なり、画像パターンに関わらず、その径や吐出面積率を決めることができる。つまり、画像の最表層にクリアインクのドットを形成することにより、クリアインクのドット径を一様に画素の対角線長以上の長さとすることもできる。
【0030】
そこで、本願発明者は、カラーインク及びクリアインクそれぞれのドット径に着目し、更に検討を行った。その結果、カラーインクのドット径が画素の対角線長未満となる場合でも、その上に、ドット径が画素の対角線長以上の長さとなるようにクリアインクを形成することにより、均一状のグロス調インクジェット記録物が得られることを知見した。そして、クリアインクは画像パターンに影響を及ぼさないため、インクジェット記録物の全面に亘りグロス調を形成することもできることを見出した。
【0031】
好ましいグロス調を得る観点からいえば、最表層におけるクリアインクのドット径は、隣り合うドットのドット中心間の距離の21/2倍の距離に対して120〜150%の距離であることが好ましい。また、同様の観点より、被記録媒体上に吐出される、すなわち下地におけるカラーインクのドット径は、隣り合うドットのドット中心間の距離の21/2倍以上の距離であることが好ましい。ここで、ドット径を調節する手段は上記第一態様で説明したため、ここでの説明は省略する。
【0032】
上記のとおり、後述の実施例欄において、最表層の紫外線硬化型インクのドット径を種々変化させた具体例を説明する(実施例1及び4、比較例1)。これに加えて、下地のカラーインクの吐出量を一定にした上で、最表層のクリアインクの吐出量を種々変化させた具体例も説明する(実施例1、2、3、及び5)。ここで、これらの実施例において最表層の紫外線硬化型インクのドット径は1種に統一しているが、2種以上存在する場合についても1種の場合と同様のことがいえる。
【0033】
本態様の特徴は、下地のカラーインク層形成時の吐出量を超える量のクリアインクを吐出し塗布して、最表層のクリアインク層を形成する点である。クリアインクの吐出量のTotal Dutyの下限値は、100%であることが好ましく、100%を超えることがより好ましい。一方、当該Total Dutyの上限値は、200%未満であることが好ましく、180%以下であることがより好ましく、170%以下であることがさらに好ましく、150%以下であることがさらにより好ましい。
なお、Dutyは、より具体的にいえば、記録解像度で規定されるドットを形成すべき最小単位(画素)の所定数に対する、実際にドットを形成した画素数(ドット形成画素密度)である。Dutyが100%を超える場合は、1つの画素に複数回ドットが形成されるという画素が存在し、その場合、1つの画素にドットを1回形成するごとに紫外線を照射して、所定のドット径を有するドットを形成し、この工程を複数回行う。複数回のドット形成における1回ごとのDutyの合計が、Total Dutyである。
【0034】
後述の実施例2のように、最表層のクリアインクの吐出量が最表層以外(下地)のインクの吐出量と同じ(Total Duty 100%)であると、クリアインクの吐出しない系(後述の実施例1)とグロス性に差異はない。これに対し、後述の実施例3ではグロス性が一層優れたものとなる。
【0035】
一方、Total Dutyが200%未満であると、グロス性と共に、被記録媒体との平滑性も優れたものとすることができる。Total Dutyが150%である実施例7は、平滑性の観点で、Total Dutyが200%である実施例5よりも優れている。
【0036】
また、本態様のインクジェット記録方法は、硬化率が、好ましくは30〜75%、より好ましくは35〜70%の条件で、カラーインクを硬化する工程を有する。上記範囲のような比較的低い硬化率での硬化を、以降「仮硬化」と称する。本態様においては、異なる色のインク同士が接触するため、形成された画像が滲みやすい。そこで、ドットとして留めて滲みを抑制するために、カラーインクを仮硬化(ピニング)することが好ましい。
なお、クリアインクは、グロス性の観点からいうと、滲んで拡がるほどグロス性に優れるため仮硬化させる必要はない。これに対し、ブリードアウトを抑制する観点からいうと、クリアインクを仮硬化することが好ましい。その際の硬化率は上記カラーインクの場合と同様の範囲が好ましい。
ここで、本実施の形態における硬化率の測定方法を説明する。インクの硬化率とは、インク組成物中の光重合性化合物の転化率を表す。また、インクの硬化率は、仮硬化状態の指標となる光硬化性樹脂の硬化の進行度を表すということもできる。本実施の形態における転化率の測定装置としては、リアルタイム測定可能な赤外分光光度計(NEXUS470、サーモ・ニコレー社(Thermo Nicolet Corp.)製)を用いる。
【0037】
上述したように、後述の実施例欄において、最表層の紫外線硬化型インクのドット径を種々変化させた具体例を説明する(実施例1及び4、比較例1)。
【0038】
一方、後述の実施例8〜9においては、単一でなく複数のドット径からなるカラーインクを吐出し塗布し、その後カラーインクのドット径とは異なるドット径を有するクリアインクを吐出し塗布することにより、グロス調を得るための記録を行っている。当該記録の際のクリアインクの最適なドット径は、グロス調を得るために最適な径である一方、カラーインクの画像形成にとって最適なドット径とは異なる径であることが多い。
【0039】
このように、本実施形態によれば、インクジェット記録物におけるグロス調に優れた、インクジェット記録方法を提供することができる。
【0040】
[インクジェット記録物]
本発明の一実施形態は、インクジェット記録物に係る。当該インクジェット記録物は、上述した実施形態のインクジェット記録方法を実施することにより得られる。詳細にいえば、上述した実施形態により得られるインクジェット記録物は、その少なくとも一部の面がグロス調である。
【0041】
また、最表層における前記紫外線硬化型インクのドット径は、前記紫外線硬化型インクの隣り合うドットのドット中心間の距離の21/2倍以上の距離である。なお、インクジェット記録物に関する説明のうち、上記のインクジェット記録方法での説明と重複する内容については、ここでの説明を省略している。
【0042】
本実施形態のインクジェット記録物は、上記の記録方法に従い、下記の被記録媒体上に下記の紫外線硬化型インク組成物を吐出し塗布して硬化させることにより得られる。
【0043】
〔紫外線硬化型インク組成物〕
本実施形態における紫外線硬化型インク組成物(以下、単に「インク組成物」ともいう。)は、光重合性化合物及び光重合開始剤を少なくとも含む。インク組成物がカラーインクである場合、このインク組成物はさらに顔料を含む。このようなインク組成物として、例えば、特開2006−274025号公報、特開2008−75067号公報、特開2006−103142号公報、及び特開2009−91399号公報に記載されたインク組成物が利用可能である。以下、インク組成物を構成する各成分を詳細に説明する。
【0044】
(光重合性化合物)
本実施形態のインク組成物に用いられる光重合性化合物は、後述する光重合開始剤の作用により紫外線などの光の照射時に重合し、固化する化合物であれば、特に制限はないが、単官能基、2官能基、及び3官能基以上の多官能基を有する種々のモノマー及びオリゴマーが使用可能である。
【0045】
前記モノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸、イタコン酸、クロトン酸、イソクロトン酸及びマレイン酸等の不飽和カルボン酸やそれらの塩又はエステル、ウレタン、アミド及びその無水物、アクリロニトリル、スチレン、種々の不飽和ポリエステル、不飽和ポリエーテル、不飽和ポリアミド、並びに不飽和ウレタンが挙げられる。また、前記オリゴマーとしては、例えば、直鎖アクリルオリゴマー等の上記のモノマーから形成されるオリゴマー、エポキシ(メタ)アクリレート、脂肪族ウレタン(メタ)アクリレート、芳香族ウレタン(メタ)アクリレート及びポリエステル(メタ)アクリレートが挙げられる。
上記で列挙したものの中でも(メタ)アクリル酸のエステル、即ち(メタ)アクリレートが好ましい。
【0046】
前記(メタ)アクリレートのうち、単官能(メタ)アクリレートとしては、例えば、イソアミル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、イソミリスチル(メタ)アクリレート、イソステアリル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル−ジグリコール(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、ブトキシエチル(メタ)アクリレート、エトキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシプロピレングリコール(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシ−3−フェノキシプロピル(メタ)アクリレート、ラクトン変性可とう性(メタ)アクリレート、t−ブチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニルオキシエチル(メタ)アクリレート、及びイソボルニル(メタ)アクリレートが挙げられる。
【0047】
前記(メタ)アクリレートのうち、2官能(メタ)アクリレートとしては、例えば、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9−ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ジメチロール−トリシクロデカンジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAのEO(エチレンオキサイド)付加物ジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAのPO(プロピレンオキサイド)付加物ジ(メタ)アクリレート、ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、及びポリテトラメチレングリコールジ(メタ)アクリレートが挙げられる。
【0048】
前記(メタ)アクリレートのうち、3官能以上の多官能(メタ)アクリレートとしては、例えば、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、EO変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、グリセリンプロポキシトリ(メタ)アクリレート、カウプロラクトン変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールエトキシテトラ(メタ)アクリレート、及びカプロラクタム変性ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレートが挙げられる。
【0049】
これらの中でも、硬化時の塗膜の伸び性が高く、かつ低粘度であるため、インクジェット記録時の射出安定性が得られやすいという観点から、光重合性化合物として、単官能(メタ)アクリレートを含むことが好ましい。さらに塗膜の硬さが増すという観点から、単官能(メタ)アクリレートと2官能(メタ)アクリレートとを併用することがより好ましい。上記の光重合性化合物は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0050】
さらに、上記単官能(メタ)アクリレートは、芳香環骨格、飽和脂環骨格及び不飽和脂環骨格からなる群より選択される1種以上の骨格を有することが好ましい。前記光重合性化合物が前記骨格を有する単官能(メタ)アクリレートであることにより、インク組成物の粘度を低下させ、かつ、上記のエポキシ基含有ポリマーをインク組成物中に効果的に溶解させることができる。
【0051】
芳香環骨格を有する単官能(メタ)アクリレートとして、例えば、フェノキシエチル(メタ)アクリレート及び2−ヒドロキシ−3−フェノキシプロピル(メタ)アクリレートが挙げられる。また、飽和脂環骨格を有する単官能(メタ)アクリレートとして、例えば、イソボルニル(メタ)アクリレート、t−ブチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート及びジシクロペンタニル(メタ)アクリレートが挙げられる。また、不飽和脂環骨格を有する単官能(メタ)アクリレートとして、例えば、ジシクロペンテニルオキシエチル(メタ)アクリレートが挙げられる。
【0052】
(光重合開始剤)
本実施形態のインク組成物に含まれる光重合開始剤は、紫外線などの光のエネルギーによって、ラジカルやカチオンなどの活性種を生成し、上記光重合性化合物の重合を開始させるものであれば、制限はないが、光ラジカル重合開始剤や光カチオン重合開始剤を使用することができ、中でも光ラジカル重合開始剤を使用することが好ましい。
【0053】
上記の光ラジカル重合開始剤としては、例えば、芳香族ケトン類、アシルホスフィン化合物、芳香族オニウム塩化合物、有機過酸化物、チオ化合物、ヘキサアリールビイミダゾール化合物、ケトオキシムエステル化合物、ボレート化合物、アジニウム化合物、メタロセン化合物、活性エステル化合物、炭素ハロゲン結合を有する化合物、及びアルキルアミン化合物が挙げられる。
【0054】
光ラジカル重合開始剤の具体例としては、アセトフェノン、アセトフェノンベンジルケタール、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2,2−ジメトキシ−2−フェニルアセトフェノン、キサントン、フルオレノン、べンズアルデヒド、フルオレン、アントラキノン、トリフェニルアミン、カルバゾール、3−メチルアセトフェノン、4−クロロベンゾフェノン、4,4’−ジメトキシベンゾフェノン、4,4’−ジアミノベンゾフェノン、ミヒラーケトン、ベンゾインプロピルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンジルジメチルケタール、1−(4−イソプロピルフェニル)−2−ヒドロキシ−2−メチルプロパン−1−オン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、チオキサントン、ジエチルチオキサントン、2−イソプロピルチオキサントン、2−クロロチオキサントン、2−メチル−1−[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルホリノ−プロパン−1−オン、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニルフォスフィンオキサイド、2,4,6−トリメチルベンゾイル−ジフェニル−フォスフィンオキサイド、2,4−ジエチルチオキサントン及びビス−(2,6−ジメトキシベンゾイル)−2,4,4−トリメチルペンチルフォスフィンオキシドが挙げられる。
【0055】
光ラジカル重合開始剤の市販品としては、例えば、IRGACURE 651(2,2−ジメトキシ−1,2−ジフェニルエタン−1−オン)、IRGACURE 184(1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニル−ケトン)、DAROCUR 1173(2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニル−プロパン−1−オン)、IRGACURE 2959(1−[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−フェニル]−2−ヒドロキシ−2−メチル−1−プロパン−1−オン)、IRGACURE 127(2−ヒドロキシ−1−{4−[4−(2−ヒドロキシ−2−メチル−プロピオニル)−ベンジル]フェニル}−2−メチル−プロパン−1−オン}、IRGACURE 907(2−メチル−1−(4−メチルチオフェニル)−2−モルフォリノプロパン−1−オン)、IRGACURE 369(2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−ブタノン−1)、IRGACURE 379(2−(ジメチルアミノ)−2−[(4−メチルフェニル)メチル]−1−[4−(4−モルホリニル)フェニル]−1−ブタノン)、DAROCUR TPO(2,4,6−トリメチルベンゾイル−ジフェニル−フォスフィンオキサイド)、IRGACURE 819(ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニルフォスフィンオキサイド)、IRGACURE 784(ビス(η5−2,4−シクロペンタジエン−1−イル)−ビス(2,6−ジフルオロ−3−(1H−ピロール−1−イル)−フェニル)チタニウム)、IRGACURE OXE 01(1.2−オクタンジオン,1−[4−(フェニルチオ)−,2−(O−ベンゾイルオキシム)])、IRGACURE OXE 02(エタノン,1−[9−エチル−6−(2−メチルベンゾイル)−9H−カルバゾール−3−イル]−,1−(O−アセチルオキシム))、IRGACURE 754(オキシフェニル酢酸、2−[2−オキソ−2−フェニルアセトキシエトキシ]エチルエステルとオキシフェニル酢酸、2−(2−ヒドロキシエトキシ)エチルエステルの混合物)(以上、チバ・ジャパン社(Ciba Japan K.K.)製)、DETX−S(2,4−ジエチルチオキサントン)(日本化薬社(Nippon Kayaku Co., Ltd.)製)、Lucirin TPO、LR8893、LR8970(以上、BASF社製)、及びユベクリルP36(UCB社製)などが挙げられる。
【0056】
上記光重合開始剤は、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
なお、前述の光重合性化合物として光重合性の化合物を用いることで、光重合開始剤の添加を省略することも可能であるが、光重合開始剤を用いた方が、重合の開始を容易に調整することができ、好適である。
【0057】
(色材)
本実施形態のインク組成物として、色材をさらに含んでもよい。前記色材は、顔料及び染料のうち少なくとも一方である。
【0058】
(1.顔料)
本実施形態において、色材として顔料を用いることにより、インク組成物の耐光性を向上させることができる。顔料は、無機顔料及び有機顔料のいずれも使用することができる。
【0059】
無機顔料としては、ファーネスブラック、ランプブラック、アセチレンブラック、チャネルブラック等のカーボンブラック(C.I.ピグメントブラック7)類、酸化鉄、酸化チタンを使用することができる。
【0060】
また、有機顔料として、不溶性アゾ顔料、縮合アゾ顔料、アゾレーキ、キレートアゾ顔料等のアゾ顔料、フタロシアニン顔料、ペリレン及びペリノン顔料、アントラキノン顔料、キナクリドン顔料、ジオキサン顔料、チオインジゴ顔料、イソインドリノン顔料、キノフタロン顔料等の多環式顔料、染料キレート(たとえば、塩基性染料型キレート、酸性染料型キレート等)、染色レーキ(塩基性染料型レーキ、酸性染料型レーキ)、ニトロ顔料、ニトロソ顔料、アニリンブラック、昼光蛍光顔料が挙げられる。上記顔料は1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
また、カラーインデックスに記載されていない顔料であっても水に不溶であればいずれも使用できる。
【0061】
(2.染料)
本実施形態において、色材として染料を用いることができる。染料としては、特に限定されることなく、酸性染料、直接染料、反応性染料及び塩基性染料が使用可能である。前記染料として、例えば、C.I.アシッドイエロー17,23,42,44,79,142、C.I.アシッドレッド52,80,82,249,254,289、C.I.アシッドブルー9,45,249、C.I.アシッドブラック1,2,24,94、C.I.フードブラック1,2、C.I.ダイレクトイエロー1,12,24,33,50,55,58,86,132,142,144,173、C.I.ダイレクトレッド1,4,9,80,81,225,227、C.I.ダイレクトブルー1,2,15,71,86,87,98,165,199,202、C.I.ダイレクドブラック19,38,51,71,154,168,171,195、C.I.リアクティブレッド14,32,55,79,249、C.I.リアクティブブラック3,4,35が挙げられる。
【0062】
(溶剤)
本実施形態のインク組成物は、溶剤(溶媒、希釈剤)を含んでもよい。なお、本実施形態のインク組成物は、全硬化型、即ち、インク組成物の大部分が、重合し、硬化するものであるため、溶剤も光重合性化合物であることが好ましい。
例えば、前記溶剤としては、前述の光重合性化合物を用いることができる。
【0063】
(調整剤(その他の成分))
本実施形態のインク組成物は、上記に挙げた成分以外の成分を含んでもよい。例えば、界面活性剤を含んでもよい。
【0064】
界面活性剤としては、例えばシリコーン系界面活性剤として、ポリエステル変性シリコーンやポリエーテル変性シリコーンを用いることができ、ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサン又はポリエステル変性ポリジメチルシロキサンを用いることが特に好ましい。具体例としては、BYK−347、BYK−348、BYK−UV3500、3510、3530、3570(ビックケミー・ジャパン株式会社から入手可能)を挙げることができる。
【0065】
また、重合禁止剤を添加してもよい。重合禁止剤を添加することにより、インク組成物の保存安定性が向上する。重合禁止剤としては、例えば、ヒンダードアミン系重合禁止剤のIRGASTAB UV10(チバ・スペシャリティ・ケミカルズ社から入手可能)などを用いることができる。
【0066】
さらに、分散剤、重合促進剤、スリップ剤、浸透促進剤及び湿潤剤(保湿剤)、並びにその他の添加剤を含んでも良い。その他の添加剤としては、例えば定着剤、防黴剤、防腐剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、キレート剤、pH調整剤及び増粘剤が挙げられる。
【0067】
〔被記録媒体〕
本実施形態における被記録媒体としては、非吸収性の被記録媒体であれば特に制限はないが、例えば、ポリ塩化ビニル(塩ビフィルム)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリプロピレン、及びポリエチレンなどの樹脂材料、ガラス、並びに金属を用いることができる。
【実施例】
【0068】
以下、本実施の形態を実施例及び比較例によってさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0069】
[実施例1]
〔インクジェット記録物の作製〕
ポリエチレンテレフタレート(以下、「PET」と表記する。)フィルム(ルミラー#125E20、東レ株式会社製)を用意し、そこに720dpiで構成されるヘッドユニットを備えた評価記録装置を用いてベタ印刷を行った。当該記録装置の特徴を下記に列挙する。
【0070】
使用したヘッドユニットは、2個のプリンタヘッドで構成されたノズル解像度720dpiであり、走査方向720dpiの記録方法にて印刷可能なものであった。画素の対角線長は、(1/720)×21/2(約49.9)μmであった。
毎分30mでPETフィルムを搬送し、搬送方向に対して720×720dpiの解像度でドットを記録した。吐出重量は14ngであった。硬化用光源は、出力240W/cmの高圧水銀ランプを使用した。硬化エネルギーは、300mJ/cmとした。
【0071】
PETフィルム上にカラーインク(ブラック)を吐出し、インクを全て塗布した後、硬化を行い、画像を形成した(インクジェット記録物を得た。)。
【0072】
〔測定・評価項目〕
(1.グロス性)
コニカミノルタ製の光沢計GM−60を使用した。20°光沢を読み取ることにより、光沢度を測定し、グロス性を評価した。また、目視にて評価を行った。評価基準は下記のとおりである。なお、下記評価基準中「グロス調」とは、インク硬化物内の凹凸状態を示す。結果を下記表1に示す。
AA 光沢があった(グロス調)。また、30cmの距離で凹凸が見えなかった。
A 光沢は割りとあった(グロス調)。また、30cmの距離で凹凸が目立たなかった。
B 光沢がなかった(グロス調でない。)。また、30cmの距離で凹凸が目立った。
【0073】
(2.平滑性)
目視にて評価を行った。評価基準は下記のとおりである。なお、下記評価基準中「平滑性」とは、インク硬化物及びPETフィルムを含めた凹凸状態を示す。結果を下記表1に示す。
A インク硬化物とPETフィルムとの凹凸が目立たなかった。
B インク硬化物とPETフィルムとの凹凸が目立った。
【0074】
[実施例2〜7、比較例1]
下記表1に示したドット径のカラーインク(ブラック)を吐出して塗布し、照射を行うことによりインクを硬化させてドット形成を行った後、下記表1に示したドット径のクリアインクを更に吐出し塗布し、インクを全て塗布し、それから硬化を行ってドット形成した点以外は、実施例1と同様にして実験を行った。
なお、実施例5及び実施例7は、クリアインクによる上記のドット形成を2回行った。ここで、実施例2〜7、及び比較例1において、ドット形成を複数回行う場合は、各回のドット形成における照射量は、少なくとも、ドットの拡がりが止まりドット径が固定され、かつ、インク間の混色が発生しない程度のものであればよい。ただし、最終回のドット形成の後には、充分な照射によって記録物を使用できる程度に、インクの硬化が行われていることが好ましい。
【0075】
【表1】

【0076】
実施例1では、画素に外接するカラードットのみを形成した。実施例1における塗布した状態(ドットパターン)は、図1に示すように、カラーインクで画素内が一様に埋まった状態であり、且つ隣り合うドット同士に重なりがあった。図1は、本発明の一例であるインクジェット記録物の一部(4×4の画素部分)を示す概略図である。
【0077】
実施例2では、実施例1で作製した記録物の上に、画素に外接するクリアドットを形成した。実施例3では、実施例1で作製した記録物の上に、画素に外接するドット径より大きなクリアドットを形成した。実施例4では、画素に内接するドット径より小さなカラードットの上に、実施例3と同じドット径のクリアドットを形成した。実施例5では、実施例3で作製した記録物の上に、実施例3と同じドット径のクリアドットを更に重ねて形成した。比較例1では、実施例1で作製した記録物の上に、実施例4のカラードットと同じドット径のクリアドットを形成した。
【0078】
図1〜5は、本発明の一実施形態であるインクジェット記録物の一部(4×4の画素部分)を示す概略図である。一方、図6は、本発明の比較対照であるインクジェット記録物の一部(4×4の画素部分)を示す概略図である。
ここで、上記の図1〜図6は、画像側からインクジェット記録物の一部(4×4の画素部分)を見たときの平面図である。図面中、有色の円はカラーインクのドットを表し、無色で且つ外周を縁取った円はクリアインクのドットを表す。有色の円同士の重なり部分はより濃い色で表している。一方、無色の円同士の重なり部分は斜線を付している。さらに、図5は、後述するように、他の図よりもクリアインクのDutyが大きいため、無色の円全体に斜線を付した上で、無色の円同士の重なり部分にはより狭い間隔で斜線を付している。
【0079】
実施例1(図1)及び実施例4(図4)より、最表層のドット径を画像の外接円直径以上とすることによって、グロス調を形成できることが分かった。また、実施例3と実施例4を比較すると、最表層のクリアドットの径が画像の外接円の直径以上である場合に、その下のカラードットの径が、画素の外接円の直径よりも小さい場合に比べて、画素の外接円の直径と同じ大きさの場合に、グロス調に一層優れることが分かった。
なお、クリアドット径が画素の外接円の直径以上の大きさであればクリアドットにより被記録媒体表面が覆われるため、クリアドットの下のカラードットの径が画素の外接円の直径の大きさ以上であると実施例3のグロス調が得られるものと推測される。ただし、カラードットは記録すべき画像によってドットサイズを制御するものであり、画素の外接円よりも大きなカラードットを形成しても、画像の画質に寄与するものではなく、通常、最大でも画素の外接円の直径と同じ大きさのカラードットを形成すれば十分有益である。
これに対し、比較例1(図6)より、最表層のドット径が画像の外接円の直径未満であると、グロス調を形成できないことが分かった。
【0080】
また、下地のカラーインク層を覆うことのできる吐出量以上のクリアインクでオーバーコートすることにより、一層優れたグロス調を形成できることが分かった。具体的にいえば、まず、実施例2(図2)では、下地と同じ吐出量ではカラーのグロス調と差はなかった。次に、実施例3(図3)では、下地を覆うことのできる量以上の吐出量の場合、一層優れたグロス調が形成できた。さらに、実施例6ではクリアインクの径を画素の外接円の直径の150%相当としたが、実施例3と同等の優れたグロス調が形成でき、かつ平滑性の悪化も見られなかった。
また、実施例5(図5)では、クリアインクを吐出しすぎると、グロス調は良好である一方、被記録媒体との平滑性という観点で劣る傾向にあった。これに対して、クリアインクのTotal Dutyを150%にした実施例7では平滑性の悪化はなかった。
【0081】
補足すると、実施例7では、1つの画素にクリアドットを1回形成した画素と、1つの画素にクリアドットを2回形成した画素とを、同数存在させた。また、この実施例では、隣接する4×4の画素部分のうち、1つの画素にクリアドットを1回形成した画素を、縦方向及び横方向に1つ置きの画素に配置し、1つの画素にクリアドットを2回形成した画素を、同様に1つ置きの画素に配置した。
ここで、クリアインクのTotal Dutyは下記の式で示される。
100×A/C+200×B/C=クリアインクのTotal Duty(%)
上式中、C、A、及びBはそれぞれ以下の意味である。
C:被記録媒体の所定の一部分における画素数
A:被記録媒体の所定の一部分における、1つの画素にクリアドットを1回形成した画素数
B:被記録媒体の所定の一部分における、1つの画素にクリアドットを2回形成した画素数
なお、上記「被記録媒体の所定の一部分」とは、縦方向及び横方向に隣接する画素群であり、例えば上述の4×4(16個)の画素であるが、画素数は、これに限られることなく、16画素より少ない画素数や多い画素数である一部分でもよい。
実施例7のように、クリアインクのTotal Dutyが100%を超えて200%未満の場合、1つの画素にクリアドットを1回形成した画素と、1つの画素にクリアドットを2回形成した画素とが、被記録媒体の所定の一部分に混在(分散)している状態になっている。この分散状態は、実施例7のものには限らず、1つの画素にクリアドットを形成する回数が等しい画素が、縦方向及び横方向の少なくともいずれかに隣接していてもよい。
なお、好ましくは、被記録媒体中、クリアインクのTotal Dutyを等しくする縦方向及び横方向に隣接する所定の一部分に亘り、同様の分散状態となっていることである。
【0082】
[実施例8〜9]
実施例8〜9においては、カラーインクのドット径とクリアインクのドット径との関係を検討した。
【0083】
実施例8においては、カラーインクのドット径として、49.9μmのものに加えて25.2μm及び5.5μmのものを追加した点以外は、実施例3と同様にして画像を形成した(インクジェット記録物を得た)。
【0084】
また、実施例9においては、カラーインクのドット径が25.2μmのものに加えて49.9μm及び5.5μmのものを追加した点以外は、実施例6と同様にして画像を形成した(インクジェット記録物を得た)。
【0085】
ここで、実施例8〜9における各インク径は、下記の関係にある。
実施例9のクリアインクのドット径>実施例8のクリアインクのドット径>カラーインクの大ドット径>カラーインクの中ドット径>カラーインクの小ドット径
【0086】
カラーインクの大ドットの存在領域は画像中、色の濃い部分に相当する。カラーインクの小ドットの存在領域は画像中、色の薄い部分に相当する。カラーインクの中ドットは、両者の中間部分に相当し、階調性を滑らかにする役割、即ちトーンを変える役割を果たす。カラーインクで形成すべき画像データの画素毎の濃度に応じて、大ドットから小ドットまでを選択して各画素にドットを形成している。
実施例8〜9における評価結果を下記表2に示す。
【0087】
【表2】

【0088】
上記表2より、下地のカラーインクのドット径を2種以上としても、1種単独の場合(実施例3〜4)の場合と同等の評価結果が得られることが分かった。カラーインクのDutyは、カラー画像の種類に応じて、カラー画像の場所により0〜100%の場所が存在する。カラーインクのDuty 0〜100%によって、カラー画像の記録が可能である。カラーインクのDutyが0〜100%であるため、平滑性はAの評価が得られた。グロス性については、カラー画像の場所によって違いが見られたが、AA又はAの評価が得られた。前述の実施例3と実施例4の比較から、カラーインクのドット径がこの評価に影響を与えていることが推測される。カラー画像のドット径は、カラー画像の濃度によって決まるものの、デザイン画像など所定パターンのカラー画像を印刷する場合、実施例4のカラードット径よりも、実施例3のカラードット径を用いることで、グロス性はAの評価が得られる。
【0089】
実施例8〜9では、カラードット径とクリアドット径が異なっている。通常のインクジェットプリンタでは、同一規格の複数のノズル列にカラーインクとクリアインクをそれぞれ充填して、同一規格の駆動信号で駆動してノズルからインクを吐出させることで、インクジェットプリンタの製造や駆動制御を簡単なものとすることができる。この場合、カラーインクとクリアインクの液滴当たりのインク量は同等なものとなり、ドット径も同等なものとなる。
【0090】
これに対して、実施例8〜9では、クリアインクのドット径はグロス性を得るために最適なものであり、一方、カラーインクのドット径はカラー画像の濃度や階調性などの画質を得るために最適なものである。よって、クリアドット径をカラードット径とは異なるものとして、カラー画像の画質とグロス性を両立させている。さらに、複数種類の径のカラードットを使用することで、カラー画像の画質を向上させている。この場合、クリアドット径は複数種類のカラードット径のいずれとも異なるものとしている。具体的にいえば、実施例8〜9では、駆動信号をカラーインクとクリアインクとでそれぞれ専用の規格のものを用意し使用した。なお、カラードットは、複数種類の径のカラードットを使用することで、カラー画像の画質を向上させることができるものであり、径は3種類に限られるものではない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
紫外線硬化型インクを被記録媒体上に吐出して最表層にグロス調の領域を形成するグロス形成工程を有し、
前記グロス形成工程は、前記最表層における前記紫外線硬化型インクのドット径を、前記紫外線硬化型インクの隣り合うドットのドット中心間の距離の21/2倍以上の距離として、少なくとも前記被記録媒体の一部の領域に前記グロス調の領域を形成する工程である、インクジェット記録方法。
【請求項2】
前記紫外線硬化型インクは紫外線硬化型カラーインク及び紫外線硬化型クリアインクを含み、
前記グロス形成工程において、前記被記録媒体上に吐出された前記紫外線硬化型カラーインクによるドット上に、前記最表層におけるドットとして、前記紫外線硬化型クリアインクを吐出する、請求項1に記載のインクジェット記録方法。
【請求項3】
前記紫外線硬化型クリアインクのドット径が、隣り合うドットのドット中心間の距離の21/2倍の距離に対して120〜150%の距離である、請求項2に記載のインクジェット記録方法。
【請求項4】
前記紫外線硬化型カラーインクのドット径が、隣り合うドットのドット中心間の距離の21/2倍以上の距離である請求項2又は3に記載のインクジェット記録方法。
【請求項5】
前記紫外線硬化型クリアインクの吐出量のTotal Dutyが100%〜150%である、請求項2〜4のいずれか1項に記載のインクジェット記録方法。
【請求項6】
前記紫外線硬化型カラーインクを、硬化率が30〜75%の条件で硬化する工程を有する、請求項2〜5のいずれか1項に記載のインクジェット記録方法。
【請求項7】
前記紫外線硬化型クリアインクによるドットのドット径が、前記紫外線硬化型カラーインクによるドットのドット径とは異なるものである、請求項2〜6のいずれか1項に記載のインクジェット記録方法。
【請求項8】
前記紫外線硬化型カラーインクによるドットとして、ドット径の異なる複数種類のドットを形成する、請求項2〜7のいずれか1項に記載のインクジェット記録方法。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1項に記載のインクジェット記録方法により得られる、インクジェット記録物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−240530(P2011−240530A)
【公開日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−112543(P2010−112543)
【出願日】平成22年5月14日(2010.5.14)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】