説明

インクジェット記録用の処理液、インクジェット記録用水性インクセット、インクジェット記録方法およびインクジェット記録装置

【課題】 記録画像の光学濃度(OD値)を向上可能で、耐マーカー性および蒸発後の流動性にも優れるインクジェット記録用の処理液を提供する。
【解決手段】 インクジェット記録に用いる処理液であって、
下記成分(A)、下記成分(B)および水を含み、
前記成分(A)の配合量(有効成分量換算)が、前記処理液全量に対し、0.5重量%〜10重量%であり、
前記成分(B)の配合量(有効成分量換算)が、前記処理液全量に対し、0.3重量%〜2重量%であることを特徴とする。

成分(A):ポリアリルアミン
成分(B):ポリアミドポリアミン−エピハロヒドリン共重合体

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット記録用の処理液、インクジェット記録用水性インクセット、インクジェット記録方法およびインクジェット記録装置に関する。
【背景技術】
【0002】
顔料を用いた水性インクの記録画像の光学濃度(OD値)を向上させることを目的として、ポリアリルアミン(PAA)を配合した処理液を用いて、インクジェット記録が実施されることがある(例えば、特許文献1参照)。前記処理液に含まれるPAAは、記録媒体上で水性インク中の顔料を凝集させることができ、この結果、記録画像の光学濃度(OD値)が向上する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平11−314449号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、前記処理液において、顔料凝集剤としてPAAを単独で用いた場合、水性インクが記録媒体の表面に載るが、定着が良好になされないので、PAAを使用しない場合に比べ、耐マーカー性が充分でない。すなわち、記録画像の光学濃度(OD値)の向上と耐マーカー性とがトレードオフの関係にある。また、PAAを含む前記処理液は、蒸発後の流動性も充分でない。蒸発後の流動性が悪いと、例えば、処理液を記録媒体にインクジェットヘッドで吐出する場合、インクジェットヘッドで処理液が一定時間放置され、蒸発すると、流動性がなくなり、吐出不良の原因となる。また、例えば、処理液を記録媒体にスタンプ塗布、刷毛塗り、ローラ塗布等の方式で付与する場合においても、蒸発後の流動性が悪いと、塗布ムラが生じ、インクジェット記録装置における処理液の流路を閉塞するおそれもある。
【0005】
そこで、本発明は、記録画像の光学濃度(OD値)を向上可能で、耐マーカー性および蒸発後の流動性にも優れたインクジェット記録用の処理液を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記目的を達成するために、本発明の処理液は、
インクジェット記録に用いる処理液であって、
下記成分(A)、下記成分(B)および水を含み、
前記成分(A)の配合量(有効成分量換算)が、前記処理液全量に対し、0.5重量%〜10重量%であり、
前記成分(B)の配合量(有効成分量換算)が、前記処理液全量に対し、0.3重量%〜2重量%であることを特徴とする。

成分(A):ポリアリルアミン
成分(B):ポリアミドポリアミン−エピハロヒドリン共重合体

【発明の効果】
【0007】
本発明のインクジェット記録用の処理液は、記録画像の光学濃度(OD値)を向上可能で、耐マーカー性および蒸発後の流動性にも優れる。このため、例えば、本発明の処理液を記録媒体にインクジェットヘッドで吐出する場合、吐出不良が抑制される。また、例えば、本発明の処理液を記録媒体にローラ塗布等の方式で付与する場合、塗布ムラが抑制され、インクジェット記録装置における処理液の流路を閉塞することもない。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】図1は、本発明のインクジェット記録装置の一例の構成を示す概略斜視図である。
【図2】図2(a)および(b)は、本発明のインクジェット記録方法による記録例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明において、「蒸発後の流動性」とは、例えば、開放容器内で処理液を蒸発させた後、前記開放容器を傾けたときの処理液の流動性を言う。
【0010】
本発明において、「耐マーカー性」とは、例えば、水性インクにより記録した文字部を蛍光ペン(マーカー)でなぞったときに文字からのインク流れがなく、文字の滲みおよびペン先がよごれないことを言う。
【0011】
前述のとおり、本発明の処理液は、インクジェット記録に用いる処理液であって、前記成分(A)、前記成分(B)および水を含む。本発明の処理液は、前記成分(A)、前記成分(B)および水以外のその他の成分を含んでもよい。前記成分(A)および前記成分(B)は、記録媒体上において、前記処理液および水性インクが接触した際に、例えば、前記水性インク中の顔料を凝集させる機能を有する。特に、前記成分(A)は、前記成分(B)よりも強い顔料凝集作用を示す。
【0012】
前記処理液全量に対する前記成分(A)の配合量(有効成分量換算)は、0.5重量%〜10重量%である。前記成分(A)の配合量(有効成分量換算)を0.5重量%以上とし、且つ、前記成分(B)の配合量を後述のように調整することで、記録画像の光学濃度(OD値)を向上可能である。また、前記成分(A)の配合量(有効成分量換算)を10重量%以下とし、且つ、前記成分(B)の配合量を後述のように調整することで、耐マーカー性および蒸発後の流動性に優れた処理液を得ることができる。前記成分(A)の配合量(有効成分量換算)は、好ましくは、1重量%〜6重量%であり、より好ましくは、2重量%〜4重量%である。なお、前記「有効成分量換算」とは、例えば、前記成分(A)が水溶液であれば、水を除いた前記成分(A)自身の量である。
【0013】
前記成分(A)は、例えば、市販品を用いてもよい。前記市販品としては、例えば、日東紡績(株)製の「PAA(登録商標)−01」、「PAA(登録商標)−03」、「PAA(登録商標)−08」等があげられる。
【0014】
前記成分(B)は、一般式(1)で表される共重合体であることが好ましい。
【化1】

一般式(1)において、
a、b、cおよびnは、それぞれ、正の整数であり、
は、ハロゲン化物イオンである。
【0015】
一般式(1)において、aが、4であり、bおよびcが、それぞれ、2であり、Xが、塩化物イオン(Cl)であることが好ましい。
【0016】
前記成分(B)としては、有効成分量25重量%での粘度が、5mPa・秒〜10000mPa・秒であるものを用いることが好ましく、より好ましくは、5mPa・秒〜1000mPa・秒であるものを用いることであり、さらに好ましくは、10mPa・秒〜100mPa・秒のものを用いることである。前記粘度は、ブルックフィールド粘度計を用いて、25℃で測定した値である。
【0017】
前記処理液全量に対する前記成分(B)の配合量(有効成分量換算)は、0.3重量%〜2重量%である。前記成分(B)の配合量(有効成分量換算)を0.3重量%以上とし、且つ、前記成分(A)の配合量を前述のように調整することで、記録画像の光学濃度(OD値)を向上可能で、耐マーカー性にも優れた処理液を得ることができる。また、前記成分(B)の配合量(有効成分量換算)を2重量%以下とし、且つ、前記成分(A)の配合量を前述のように調整することで、蒸発後の流動性に優れた処理液を得ることができる。前記成分(B)の配合量(有効成分量換算)は、好ましくは、0.5重量%〜1.5重量%であり、より好ましくは、0.5重量%〜1重量%である。なお、前記「有効成分量換算」とは、例えば、前記成分(B)が水溶液であれば、水を除いた前記成分(B)自身の量である。
【0018】
前記成分(B)は、例えば、市販品を用いてもよい。前記市販品としては、例えば、東邦化学工業(株)製の「スパラミン C−305」、荒川化学工業(株)製の「アラフィックス(登録商標)255LOX」、田岡化学工業(株)製の「Sumirez Resin 675A」等があげられる。
【0019】
前記水は、イオン交換水または純水であることが好ましい。前記処理液全量に対する前記水の配合量は、例えば、他の成分の残部としてもよい。
【0020】
前記処理液は、さらに、水溶性有機溶剤を含んでもよい。前記水溶性有機溶剤としては、従来公知のものを使用することができる。前記水溶性有機溶剤としては、例えば、多価アルコール、多価アルコール誘導体、アルコール、アミド、ケトン、ケトアルコール、エーテル、含窒素溶剤、含硫黄溶剤、炭酸プロピレン、炭酸エチレン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン等があげられる。前記多価アルコールとしては、例えば、グリセリン、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、ヘキシレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、トリメチロールプロパン、1,5−ペンタンジオール、1,2,6−ヘキサントリオール等があげられる。前記多価アルコール誘導体としては、例えば、エチレングリコールメチルエーテル、エチレングリコールエチルエーテル、エチレングリコール−n−プロピルエーテル、エチレングリコール−n−ブチルエーテル、ジエチレングリコールメチルエーテル、ジエチレングリコールエチルエーテル、ジエチレングリコール−n−プロピルエーテル、ジエチレングリコール−n−ブチルエーテル、ジエチレングリコール−n−ヘキシルエーテル、トリエチレングリコールメチルエーテル、トリエチレングリコールエチルエーテル、トリエチレングリコール−n−プロピルエーテル、トリエチレングリコール−n−ブチルエーテル、プロピレングリコールメチルエーテル、プロピレングリコールエチルエーテル、プロピレングリコール−n−プロピルエーテル、プロピレングリコール−n−ブチルエーテル、ジプロピレングリコールメチルエーテル、ジプロピレングリコールエチルエーテル、ジプロピレングリコール−n−プロピルエーテル、ジプロピレングリコール−n−ブチルエーテル、トリプロピレングリコールメチルエーテル、トリプロピレングリコールエチルエーテル、トリプロピレングリコール−n−プロピルエーテル、トリプロピレングリコール−n−ブチルエーテル等があげられる。前記アルコールとしては、例えば、メチルアルコール、エチルアルコール、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n−ブチルアルコール、sec−ブチルアルコール、イソブチルアルコール、tert−ブチルアルコール、ベンジルアルコール等があげられる。前記アミドとしては、例えば、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等があげられる。前記ケトンとしては、例えば、アセトン等があげられる。前記ケトアルコールとしては、例えば、ジアセトンアルコール等があげられる。前記エーテルとしては、例えば、テトラヒドロフラン、ジオキサン等があげられる。前記含窒素溶剤としては、例えば、ピロリドン、2−ピロリドン、N−メチル−2−ピロリドン、シクロヘキシルピロリドン、トリエタノールアミン等があげられる。前記含硫黄溶剤としては、例えば、チオジエタノール、チオジグリコール、チオジグリセロール、スルホラン、ジメチルスルホキシド等があげられる。前記処理液全量に対する前記水溶性有機溶剤の配合量は、特に制限されない。前記水溶性有機溶剤は、1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。
【0021】
前記処理液は、着色剤を含んでもよいし、含まなくてもよい。前記処理液が着色剤を含む場合には、記録画像に影響を与えない程度の量であることが好ましい。
【0022】
前記処理液は、必要に応じて、さらに、従来公知の添加剤を含んでもよい。前記添加剤としては、例えば、界面活性剤、pH調整剤、粘度調整剤、表面張力調整剤、酸化防止剤、防黴剤等があげられる。前記粘度調整剤としては、例えば、ポリビニルアルコール、セルロース、水溶性樹脂等があげられる。
【0023】
前記処理液は、例えば、前記成分(A)、前記成分(B)および水と、必要に応じて他の添加成分とを、従来公知の方法で均一に混合することにより調製できる。
【0024】
本発明の処理液と共に使用するインクジェット記録用水性インク(以下、単に「水性インク」または「インク」と言うことがある)は、特に制限されず、例えば、つぎのインクジェット記録用水性インクセットで説明する水性インクを用いることができる。
【0025】
つぎに、本発明のインクジェット記録用水性インクセット(以下、単に「水性インクセット」または「インクセット」と言うことがある)について説明する。本発明の水性インクセットは、インクジェット記録用水性インクおよび処理液を含むインクジェット記録用水性インクセットであって、前記水性インクが、顔料、水および水溶性有機溶剤を含む水性インクであり、前記処理液が、本発明の処理液であることを特徴とする。顔料インクと本発明の処理液とを組み合わせた本発明の水性インクセットは、記録画像の光学濃度(OD値)を向上可能で、耐マーカー性および蒸発後の流動性にも優れる。
【0026】
前記顔料は、例えば、カーボンブラック、無機顔料および有機顔料等があげられる。前記カーボンブラックとしては、例えば、ファーネスブラック、ランプブラック、アセチレンブラック、チャンネルブラック等があげられる。前記無機顔料としては、例えば、酸化チタン、酸化鉄系無機顔料およびカーボンブラック系無機顔料等をあげることができる。前記有機顔料としては、例えば、アゾレーキ、不溶性アゾ顔料、縮合アゾ顔料、キレートアゾ顔料等のアゾ顔料;フタロシアニン顔料、ペリレンおよびペリノン顔料、アントラキノン顔料、キナクリドン顔料、ジオキサジン顔料、チオインジゴ顔料、イソインドリノン顔料、キノフタロン顔料等の多環式顔料;塩基性染料型レーキ顔料、酸性染料型レーキ顔料等の染料レーキ顔料;ニトロ顔料;ニトロソ顔料;アニリンブラック昼光蛍光顔料;等があげられる。また、その他の顔料であっても水相に分散可能なものであれば使用できる。これらの顔料の具体例としては、例えば、C.I.ピグメントブラック1、6および7;C.I.ピグメントイエロー1、2、3、12、13、14、15、16、17、55、78、150、151、154、180、185および194;C.I.ピグメントオレンジ31および43;C.I.ピグメントレッド2、3、5、6、7、12、15、16、48、48:1、53:1、57、57:1、112、122、123、139、144、146、149、166、168、175、176、177、178、184、185、190、202、221、222、224および238;C.I.ピグメントバイオレット196;C.I.ピグメントブルー1、2、3、15、15:1、15:2、15:3、15:4、16、22および60;C.I.ピグメントグリーン7および36等があげられる。
【0027】
前記顔料は、自己分散型顔料であってもよい。前記自己分散型顔料は、例えば、顔料粒子にカルボニル基、ヒドロキシル基、カルボン酸基、スルホン酸基、リン酸基等の親水性官能基およびそれらの塩の少なくとも一種が、直接または他の基を介して化学結合により導入されていることによって、分散剤を使用しなくても水に分散可能なものである。前記自己分散型顔料は、例えば、特開平8−3498号公報、特表2000−513396号公報、特表2008−524400号公報、特表2009−515007号公報等に記載の方法によって顔料が処理されたものを用いることができる。前記自己分散型顔料の原料としては、無機顔料および有機顔料のいずれも使用することができる。また、前記処理を行うのに適した顔料としては、例えば、三菱化学(株)製の「MA8」および「MA100」、デグサ社製の「カラーブラックFW200」等のカーボンブラックがあげられる。前記自己分散型顔料は、例えば、市販品を用いてもよい。前記市販品としては、例えば、キャボット・スペシャルティ・ケミカルズ社製の「CAB−O−JET(登録商標)200」、「CAB−O−JET(登録商標)250C」、「CAB−O−JET(登録商標)260M」、「CAB−O−JET(登録商標)270Y」、「CAB−O−JET(登録商標)300」、「CAB−O−JET(登録商標)400」、「CAB−O−JET(登録商標)450C」、「CAB−O−JET(登録商標)465M」および「CAB−O−JET(登録商標)470Y」;オリエント化学工業(株)製の「BONJET(登録商標)BLACK CW−2」および「BONJET(登録商標)BLACK CW−3」;東洋インキ製造(株)製の「LIOJET(登録商標)WD BLACK 002C」;等があげられる。
【0028】
前記水性インク全量に対する前記顔料の固形分配合量(顔料固形分量)は、特に限定されず、例えば、所望の光学濃度または色彩等により、適宜決定できる。前記顔料固形分量は、例えば、0.1重量%〜20重量%であり、好ましくは、1重量%〜10重量%であり、より好ましくは、2重量%〜8重量%である。
【0029】
前記水性インクは、着色剤として、前記顔料に加え、さらに染料等を含んでもよい。
【0030】
前記水性インクに用いられる前記水は、イオン交換水または純水であることが好ましい。前記水性インク全量に対する前記水の配合量(水割合)は、例えば、10重量%〜90重量%であり、好ましくは、40重量%〜80重量%である。前記水割合は、例えば、他の成分の残部としてもよい。
【0031】
前記水性インクに用いられる前記水溶性有機溶剤としては、例えば、インクジェットヘッドのノズル先端部における水性インクの乾燥を防止する湿潤剤および記録媒体上での乾燥速度を調整する浸透剤があげられる。
【0032】
前記湿潤剤は、特に限定されず、例えば、メチルアルコール、エチルアルコール、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n−ブチルアルコール、sec−ブチルアルコール、tert−ブチルアルコール等の低級アルコール;ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等のアミド;アセトン等のケトン;ジアセトンアルコール等のケトアルコール;テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル;ポリアルキレングリコール、アルキレングリコール、グリセリン等の多価アルコール;2−ピロリドン;N−メチル−2−ピロリドン;1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン等があげられる。前記ポリアルキレングリコールは、例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等があげられる。前記アルキレングリコールは、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、チオジグリコール、ヘキシレングリコール等があげられる。これらの湿潤剤は、1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。これらの中で、アルキレングリコール、グリセリン等の多価アルコールが好ましい。
【0033】
前記水性インク全量に対する前記湿潤剤の配合量は、例えば、0重量%〜95重量%であり、好ましくは、5重量%〜80重量%であり、さらに好ましくは、5重量%〜50重量%である。
【0034】
前記浸透剤は、例えば、グリコールエーテルがあげられる。前記グリコールエーテルは、例えば、エチレングリコールメチルエーテル、エチレングリコールエチルエーテル、エチレングリコール−n−プロピルエーテル、ジエチレングリコールメチルエーテル、ジエチレングリコールエチルエーテル、ジエチレングリコール−n−プロピルエーテル、ジエチレングリコール−n−ブチルエーテル、ジエチレングリコール−n−ヘキシルエーテル、トリエチレングリコールメチルエーテル、トリエチレングリコールエチルエーテル、トリエチレングリコール−n−プロピルエーテル、トリエチレングリコール−n−ブチルエーテル、プロピレングリコールメチルエーテル、プロピレングリコールエチルエーテル、プロピレングリコール−n−プロピルエーテル、プロピレングリコール−n−ブチルエーテル、ジプロピレングリコールメチルエーテル、ジプロピレングリコールエチルエーテル、ジプロピレングリコール−n−プロピルエーテル、ジプロピレングリコール−n−ブチルエーテル、トリプロピレングリコールメチルエーテル、トリプロピレングリコールエチルエーテル、トリプロピレングリコール−n−プロピルエーテルおよびトリプロピレングリコール−n−ブチルエーテル等があげられる。前記浸透剤は、1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。
【0035】
前記水性インク全量に対する前記浸透剤の配合量は、例えば、0重量%〜20重量%であり、好ましくは、0.1重量%〜15重量%であり、より好ましくは、0.5重量%〜10重量%である。
【0036】
前記水性インクは、必要に応じて、さらに、従来公知の添加剤を含んでもよい。前記添加剤としては、例えば、界面活性剤、pH調整剤、粘度調整剤、表面張力調整剤、防黴剤等があげられる。前記粘度調整剤としては、例えば、ポリビニルアルコール、セルロース、水溶性樹脂等があげられる。
【0037】
前記水性インクは、例えば、顔料、水および水溶性有機溶剤と、必要に応じて他の添加成分とを、従来公知の方法で均一に混合し、フィルタ等で不溶解物を除去することにより調製できる。
【0038】
つぎに、本発明において、インクジェット記録用水性インクセットは、インクカートリッジとして提供することも可能である。例えば、本発明のインクカートリッジは、インク収納部および処理液収納部を有し、インク収納部に本発明の水性インクが収納され、処理液収納部に本発明の処理液が収納されている。本発明のインクカートリッジにおいて、本発明の水性インク以外の水性インクの収納部を有してもよい。
【0039】
本発明のインクカートリッジは、別個独立に形成された水性インクカートリッジおよび処理液カートリッジが集合したインクカートリッジ集合体であってもよいし、インク収納部と処理液収納部とを形成するようにその内部が間仕切りされた一体型のインクカートリッジであってもよい。本発明のインクカートリッジの本体としては、例えば、従来公知のものを使用できる。
【0040】
つぎに、本発明のインクジェット記録方法およびインクジェット記録装置について説明する。
【0041】
本発明のインクジェット記録方法は、インクジェット記録用水性インクおよび処理液を含むインクジェット記録用水性インクセットを用いて記録するインクジェット記録方法であって、記録媒体に前記処理液を付与する工程と、前記記録媒体に前記水性インクをインクジェット方式により吐出して記録する記録工程とを有し、前記水性インクセットとして、本発明のインクジェット記録用水性インクセットを用いることを特徴とする。
【0042】
本発明のインクジェット記録装置は、インクセット収容部と、処理液付与手段と、インク吐出手段とを含むインクジェット記録装置であって、前記インクセット収容部に、本発明のインクジェット記録用水性インクセットが収容され、前記水性インクセットを構成する前記処理液が、前記処理液付与手段によって記録媒体に付与され、前記水性インクセットを構成する前記水性インクが、前記インク吐出手段によって前記記録媒体に吐出されることを特徴とする。
【0043】
本発明のインクジェット記録方法は、例えば、本発明のインクジェット記録装置を用いて実施可能である。前記記録は、印字、印画、印刷等を含む。
【0044】
図1に、本発明のインクジェット記録装置の一例の構成を示す。図示のとおり、このインクジェット記録装置1は、インクカートリッジ集合体2と、インク吐出手段(インクジェットヘッド)3と、ヘッドユニット4と、キャリッジ5と、駆動ユニット6と、プラテンローラ7と、パージ装置8とを主要な構成要素として含む。
【0045】
前記インクカートリッジ集合体2は、処理液カートリッジ2aと、4つの水性インクカートリッジ2bとを含む。前記処理液カートリッジ2aは、本発明の処理液を含む。前記4つの水性インクカートリッジ2bは、イエロー、マゼンタ、シアンおよびブラックの4色の水性インクを、それぞれ1色ずつ含む。
【0046】
前記ヘッドユニット4に設置された前記インクジェットヘッド3は、記録媒体(例えば、記録用紙)Pに記録を行う。前記キャリッジ5には、前記インクカートリッジ集合体2および前記ヘッドユニット4が搭載される。前記駆動ユニット6は、前記キャリッジ5を直線方向に往復移動させる。前記駆動ユニット6としては、例えば、従来公知のものを使用できる(例えば、特開2008−246821号公報参照)。前記プラテンローラ7は、前記キャリッジ5の往復方向に延び、前記インクジェットヘッド3と対向して配置されている。
【0047】
前記ヘッドユニット4に設置された前記インクジェットヘッド3は、記録媒体(例えば、記録用紙)Pに記録を行う。前記キャリッジ5には、前記インクカートリッジ集合体2および前記ヘッドユニット4が搭載される。前記駆動ユニット6は、前記キャリッジ5を直線方向に往復移動させる。前記駆動ユニット6としては、例えば、従来公知のものを使用できる(例えば、特開2008−246821号公報参照)。前記プラテンローラ7は、前記キャリッジ5の往復方向に延び、前記インクジェットヘッド3と対向して配置されている。
【0048】
前記パージ装置8は、前記インクジェットヘッド3の内部に溜まる気泡等を含んだ不良インクを吸引する。前記パージ装置8としては、例えば、従来公知のものを使用できる(例えば、特開2008−246821号公報参照)。
【0049】
前記パージ装置8の前記プラテンローラ7側の位置には、前記パージ装置8に隣接してワイパ部材20が配設されている。前記ワイパ部材20は、へら状に形成されており、前記キャリッジ5の移動に伴って、前記インクジェットヘッド3のノズル形成面を拭うものである。図1において、キャップ18は、処理液および水性インクの乾燥を防止するため、記録が終了するとリセット位置に戻される前記インクジェットヘッド3の複数のノズルを覆うものである。
【0050】
本例のインクジェット記録装置1においては、前記インクカートリッジ集合体2は、ヘッドユニット4と共に、1つのキャリッジ5に搭載されている。ただし、本発明は、これに限定されない。前記インクジェット記録装置において、前記インクカートリッジ集合体2の各カートリッジは、ヘッドユニット4とは別のキャリッジに搭載されていてもよい。また、前記インクカートリッジ集合体2の各カートリッジは、前記キャリッジ5には搭載されず、インクジェット記録装置内に配置、固定されていてもよい。これらの態様においては、例えば、前記インクカートリッジ集合体2の各カートリッジと、前記キャリッジ5に搭載された前記ヘッドユニット4とが、チューブ等により連結され、前記インクカートリッジ集合体2の各カートリッジから前記ヘッドユニット4に前記処理液および前記水性インクが供給される。
【0051】
このインクジェット記録装置1を用いたインクジェット記録は、例えば、つぎのようにして実施される。まず、前記インクジェットヘッド3から、前記記録用紙Pに本発明の処理液を付与(吐出)する。前記処理液の付与は、前記記録用紙Pの記録面の全面でもよく、一部でもよい。一部に付与する場合、前記記録用紙Pの記録面の少なくとも水性インクによる記録部分が付与部となる。一部に付与する場合、付与部の大きさは、記録部分よりも大きい方がよい。例えば、図2(a)に示すように、前記記録用紙Pに対し、文字(X)を記録する場合は、前記文字の線幅よりも大きな線幅で付与部30を形成するように処理液を付与することが好ましい。また、図2(b)に示すように、前記記録用紙Pに対し、図柄を記録する場合は、前記図柄よりも大きな付与部40を形成するように処理液を付与することが好ましい。
【0052】
つぎに、前記インクジェットヘッド3から、前記記録用紙Pの前記処理液の付与部に、前記水性インクを吐出する。前記処理液の吐出から、前記水性インクの吐出までの時間は、特に制限されない。例えば、前記水性インクの吐出は、前記処理液の吐出と同一走査内で実施すればよい。前記記録用紙P上において、前記処理液および前記水性インクが接触することで、記録画像の光学濃度(OD値)および耐マーカー性が向上する。
【0053】
本例のように、前記記録用紙Pに前記処理液を先に付与した後、前記水性インクを吐出することが好ましい。これにより、例えば、前記水性インク中の顔料の凝集効率を高めることができる。ただし、本発明は、これに限定されない。本発明では、前記記録用紙Pに前記水性インクを先に吐出した後、前記処理液を付与してもよいし、前記記録用紙Pへの前記処理液の付与と前記水性インクの吐出とを同時に行ってもよい。
【0054】
本例のインクジェット記録装置1では、前記インク吐出手段が、前記処理液付与手段を兼ねている。ただし、本発明は、これに限定されない。本発明において、前記処理液の付与は、例えば、スタンプ塗布、刷毛塗り、ローラ塗布等の方式により実施してもよい。本発明の処理液は、インク吐出手段で加熱され、蒸発しても、流動性を失うことがないため、吐出安定性に優れる。また、本発明の処理液は、蒸発後の流動性に優れるため、スタンプ塗布、刷毛塗り、ローラ塗布等の方式で記録媒体に付与する場合においても、塗布ムラを生じることがなく、インクジェット記録装置における流路を閉塞するおそれもない。
【0055】
このようにして記録された前記記録用紙Pは、前記インクジェット記録装置1から排紙される。図1においては、前記記録用紙Pの給紙機構および排紙機構の図示を省略している。
【0056】
図1に示す装置では、シリアル型インクジェットヘッドを採用するが、本発明は、これに限定されない。前記インクジェット記録装置は、ライン型インクジェットヘッドを採用した装置であってもよい。
【実施例】
【0057】
つぎに、本発明の実施例について比較例と併せて説明する。なお、本発明は、下記の実施例および比較例により限定および制限されない。
【0058】
(処理液の調製)
処理液組成(表2〜10)の各成分を、均一に混合して、処理液1〜106を得た。
【0059】
(水性インクの調製)
水性インク組成(表1)における、自己分散型カーボンブラックの水分散体を除く成分を、均一に混合しインク溶媒を得た。つぎに、前記自己分散型カーボンブラックの水分散体に前記インク溶媒を加え、均一に混合した。その後、得られた混合物を、東洋濾紙(株)製のセルロースアセテートタイプメンブレンフィルタ(孔径3.00μm)でろ過することで、インクジェット記録用水性インクを得た。
【0060】
【表1】

【0061】
[実施例1〜62および比較例1〜44]
前記処理液1〜106を、前記インクジェット記録用水性インクと組み合わせて用いて、(a)記録画像の光学濃度(OD値)評価および(b)耐マーカー性評価を、下記の方法により行った、また、前記処理液1〜106の(c)蒸発後の流動性評価を、下記の方法により行った。なお、(a)記録画像の光学濃度(OD値)評価および(b)耐マーカー性評価に用いるサンプルは、つぎのようにして準備した。
【0062】
〔評価サンプルの作製〕
普通紙(XEROX社製の4200)上に、実施例および比較例の処理液を、バーコーター((株)安田精機製作所製のバーコーターのロッドNo.0)を用いて均一に広げた。処理液の塗布量は、0.9mg/cmとした。ついで、ブラザー工業(株)製のインクジェットプリンタ搭載デジタル複合機DCP−330Cを使用して、前記インクジェット記録用水性インクを用いて前記普通紙上に解像度600dpi×600dpiで黒単色パッチを記録した。
【0063】
(a)記録画像の光学濃度(OD値)評価
作製1日後に、前記評価サンプル中の5箇所の光学濃度(OD値)を、Gretag Macbeth社製の分光測色計SpectroEye(光源:D50、視野角:2°、濃度:ANSI T、白色基準:Abs)により測定し、下記の評価基準に従って評価した。
【0064】
記録画像の光学濃度(OD値)評価 評価基準
G :光学濃度(OD値)の平均値が1.30以上
NG:光学濃度(OD値)の平均値が1.30未満
【0065】
(b)耐マーカー性評価
作製1日後に、蛍光ペンで前記評価サンプル中の文字部を荷重1Nで2度なぞり、文字の滲みおよびペン先のよごれを目視で観察し、下記の評価基準に従って評価した。
【0066】
耐マーカー性評価 評価基準
AA:文字からのインク流れが無かった
A :文字からのインク流れがかすかに見られた
C :文字からのインク流れが顕著に見られた
【0067】
(c)蒸発後の流動性
実施例および比較例の処理液5gを、開放瓶(口径:20.2mm)に注入した。その開放瓶を、温度60℃、相対湿度40%の恒温槽中に5日間保存した。前記保存後、前記開放瓶内の処理液の状態を目視で観察し、下記の評価基準に従って評価した。
【0068】
蒸発後の流動性評価 評価基準
AA:流動性あり(開放瓶を傾けたときに処理液に動きがあった)
A :流動性あり(衝撃を与えたら、処理液に動きがあった)
C :流動性なし(開放瓶を傾けても、処理液に動きがなかった)
【0069】
実施例1〜62および比較例1〜44の処理液の組成および評価結果を、表2〜10に示す。なお、表2には、前記普通紙に処理液を付与せず、前記インクジェット記録用水性インクのみで行った(a)記録画像の光学濃度(OD値)評価および(b)耐マーカー性評価の結果を、ブランクとして示す。
【0070】
【表2】

【表3】

【表4】

【表5】

【表6】

【表7】

【表8】

【表9】

【表10】

【0071】
表2〜6に示すとおり、実施例1〜62では、記録画像の光学濃度(OD値)評価、耐マーカー性評価、蒸発後の流動性評価の結果が、良好であった。
【0072】
一方、表7〜10に示すとおり、処理液全量に対する成分(A)の配合量(有効成分量換算)が10重量%を超える比較例1および36では、耐マーカー性の評価の結果が劣っていた。同様に、処理液全量に対する成分(A)の配合量(有効成分量換算)が10重量%を超える比較例10〜15、27、28および37では、耐マーカー性評価に加え、蒸発後の流動性評価の結果も劣っていた。
【0073】
また、処理液全量に対する成分(A)の配合量(有効成分量換算)が0.5重量%未満である比較例2、3、29および38では、記録画像の光学濃度(OD値)評価の結果が劣っていた。
【0074】
そして、処理液全量に対する成分(B)の配合量(有効成分量換算)が2重量%を超える比較例4、16、20〜23、30〜35、40〜44では、蒸発後の流動性評価の結果が劣っていた。
【0075】
さらに、処理液全量に対する成分(B)の配合量(有効成分量換算)が0.3重量%未満である比較例5では、記録画像の光学濃度(OD値)評価の結果が劣っていた。同様に、処理液全量に対する成分(B)の配合量(有効成分量換算)が0.3重量%未満である比較例6〜9、18、19、25および26では、耐マーカー性評価の結果が劣っていた。同様に、処理液全量に対する成分(B)の配合量(有効成分量換算)が0.3重量%未満である比較例17および24では、記録画像の光学濃度(OD値)評価および耐マーカー性評価の双方の結果が劣っていた。
【0076】
さらに、処理液全量に対する成分(A)の配合量(有効成分量換算)が0.5重量%未満であり、且つ、処理液全量に対する成分(B)の配合量(有効成分量換算)が2重量%を超える比較例39では、記録画像の光学濃度(OD値)評価および蒸発後の流動性評価の結果が劣っていた。
【産業上の利用可能性】
【0077】
以上のように、本発明のインクジェット記録用の処理液は、記録画像の光学濃度(OD値)を向上可能で、耐マーカー性および蒸発後の流動性にも優れる。本発明の処理液の用途は、特に限定されず、各種のインクジェット記録に広く適用可能である。
【符号の説明】
【0078】
1 インクジェット記録装置
2 インクカートリッジ集合体
3 インク吐出手段(インクジェットヘッド)
4 ヘッドユニット
5 キャリッジ
6 駆動ユニット
7 プラテンローラ
8 パージ装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インクジェット記録に用いる処理液であって、
下記成分(A)、下記成分(B)および水を含み、
前記成分(A)の配合量(有効成分量換算)が、前記処理液全量に対し、0.5重量%〜10重量%であり、
前記成分(B)の配合量(有効成分量換算)が、前記処理液全量に対し、0.3重量%〜2重量%であることを特徴とする処理液。

成分(A):ポリアリルアミン
成分(B):ポリアミドポリアミン−エピハロヒドリン共重合体

【請求項2】
インクジェット記録用水性インクおよび処理液を含むインクジェット記録用水性インクセットであって、
前記水性インクが、顔料、水および水溶性有機溶剤を含む水性インクであり、
前記処理液が、請求項1記載の処理液であることを特徴とするインクジェット記録用水性インクセット。
【請求項3】
インクジェット記録用水性インクおよび処理液を含むインクジェット記録用水性インクセットを用いて記録するインクジェット記録方法であって、
記録媒体に前記処理液を付与する工程と、
前記記録媒体に前記水性インクをインクジェット方式により吐出して記録する記録工程とを有し、
前記水性インクセットとして、請求項2記載のインクジェット記録用水性インクセットを用いることを特徴とするインクジェット記録方法。
【請求項4】
インクセット収容部と、処理液付与手段と、インク吐出手段とを含むインクジェット記録装置であって、
前記インクセット収容部に、請求項2記載の水性インクセットが収容され、
前記水性インクセットを構成する前記処理液が、前記処理液付与手段によって記録媒体に付与され、
前記水性インクセットを構成する前記水性インクが、前記インク吐出手段によって前記記録媒体に吐出されることを特徴とするインクジェット記録装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−86380(P2012−86380A)
【公開日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−232583(P2010−232583)
【出願日】平成22年10月15日(2010.10.15)
【出願人】(000005267)ブラザー工業株式会社 (13,856)
【Fターム(参考)】