説明

インクジェット記録用インク、インクジェット記録方法、及びインクジェット記録装置

【課題】顔料インクであって、優れた印字物の耐擦過性と、優れたインクの保存安定性とを両立できるインクジェット記録用インクの提供。
【解決手段】少なくとも、色材、シラノール基を有する樹脂、及び水溶性溶剤を含有するインクにおいて、該色材が、カチオン性基若しくはスルホン酸基を親水性基として有する自己分散型顔料、又は、カチオン性基若しくはスルホン酸基を親水性基として有するポリマーによって分散されている顔料であり、かつ、インクのpHが2乃至6の範囲であることを特徴とするインクジェット記録用インク。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、とりわけ普通紙に対して、印字物の耐擦過性(耐ラインマーカー性)に優れた画像を与えると共に、インクとしての保存安定性にも優れたインクジェット記録用インク、これを用いたインクジェット記録方法、及びインクジェット記録装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、インクジェット記録に用いられるインク中の色材には、水溶性染料が使用されているが、記録画像の濃度や耐水性を改良するために、色材に顔料を使用し、これを水中に分散させて顔料インクとする技術がある。
【0003】
しかしながら、顔料インクを用いた印字物においては、色材である顔料がメディア表層に存在するため、印字物を指やラインマーカーでなぞった際、印字物が乱れたり、ラインマーカーに顔料が付着したりするなどの問題があり、その改善が望まれている。
【0004】
従来、顔料インクを用いた印字物における耐擦過性を向上すべく様々な検討がなされており、その多くは、インク中にバインダー樹脂を添加し、効果を得ようとするものである(特許文献1参照)。しかし、ただインク中にバインダー樹脂を添加しただけでは、顔料やメディアとの間に十分な密着性を得ることはできない。また、この場合に使用されるバインダー樹脂は、基本的には水溶性の樹脂であることから、印字物をラインマーカーなどで擦過した場合、ラインマーカーの成分に該樹脂が再溶解してしまうなどの問題もある。つまり、上記技術によっては、耐擦過性の本質的な課題の解決に至ってはいない。
【0005】
これに対し、エネルギー線硬化型樹脂を用い、エネルギー線照射により紙面で樹脂を架橋する方法(特許文献2参照)や、印字物に対し別途保護液を塗布する方法(特許文献3参照)などで上記問題を解決する提案がなされている。これらの方法によれば、確かに、印字物の耐擦過性の向上がみられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2001−106951号公報
【特許文献2】特開2003−292855号公報
【特許文献3】特開2004−243625号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、これらの方法は、印字システムの複雑化や高コスト化を招くため、インク自体の構成によって問題解決が図られることが望まれている。
そこで、本発明者らは、外部エネルギーや保護液を必要としない方法での前記課題の解決を検討する中で、1液架橋型のバインダー樹脂としてシラノール基を有する樹脂を用いることに着目した。シラノール基を有する樹脂としては、例えば、シラノール変性ポリビニルアルコールなどが挙げられる。しかし、該樹脂を、従来一般的に使用されている、カルボン酸(塩)を親水性基として有する自己分散型顔料やポリマーを含む顔料インクに含有させた場合、以下のような課題があることがわかった。すなわち、この場合、インク製造時の樹脂の保存安定性は良好となるが、インク製造後における経時的なインクの保存安定性など、インクジェット用顔料インクとしての使いこなしの点において難があった。これは、該樹脂中のシラノール基が、水溶液媒体中においても自己縮合反応が進行してしまうことが原因であると考えられ、結果として、これまで、シラノール基を有する樹脂を顔料インクに使用することはできていなかった。
【0008】
したがって、本発明の目的は、顔料インクでありながら、優れた印字物の耐擦過性と、優れたインクの保存安定性とを両立できるインクジェット記録用インク、該インクを用いたインクジェット記録方法、及びインクジェット記録装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、鋭意検討した結果、顔料及びシラノール基を有する樹脂を含有するインクジェット記録用インクにおいて、顔料種と、インクの物性値とを精密に制御することにより、上記目的が達成されることを見出した。すなわち、本発明は、少なくとも、色材、シラノール基を有する樹脂、及び水溶性溶剤を含有するインクにおいて、該色材が、カチオン性基若しくはスルホン酸基を親水性基として有する自己分散型顔料、又は、カチオン性基若しくはスルホン酸基を親水性基として有するポリマーによって分散されている顔料であり、かつ、インクのpHが2乃至6の範囲であることを特徴とするインクジェット記録用インクである。
【0010】
また、本発明は、前記本発明のインクジェット記録用インクを用い、記録媒体上にインクジェット記録方式により画像を形成するインクジェット記録方法であって、該記録媒体が普通紙であることを特徴とするインクジェット記録方法である。
【0011】
また、本発明の別の態様は、前記本発明のインクジェット記録用インクを用い、インクジェット記録装置により印字を行った後、得られた印字物を80℃以上で加熱する工程を有することを特徴とするインクジェット記録方法である。
【0012】
また、本発明は、前記本発明のインクジェット記録用インクを収容しているインクタンクと、該インクを吐出させるインクジェット記録ヘッドとを少なくとも具備していることを特徴とするインクジェット記録装置である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、顔料を含有するものでありながら、特に印字物の耐ラインマーカー性に優れ、また、インクとして経時的な保存安定性にも問題がなく、インクジェット記録用インクとして高い実用性を備えたインクが提供される。また、本発明によれば、該インクを用い、より耐ラインマーカー性に優れた印字物が得られるインクジェット記録方法、及びインクジェット記録装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】インクジェット記録装置のヘッドの一例を示す縦断面図である。
【図2】インクジェット記録装置のヘッドの一例を示す横断面図である。
【図3】図1に示したヘッドをマルチ化したヘッドの外観斜視図である。
【図4】インクジェット記録装置の一例を示す概略斜視図である。
【図5】インクカートリッジの一例を示す縦断面図である。
【図6】記録ユニットの一例を示す斜視図である。
【図7】インクジェット記録ヘッドの別の構成例を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、好ましい実施の形態を挙げて、本発明をさらに詳細に説明する。なお、以下の記載においては、「インクジェット記録用インク」を単に「インク」と称する。
<インク>
(シラノール基を有する樹脂)
本発明においては、シラノール基は可溶化基として用いられる。本発明で使用されるシラノール基を有する樹脂としては、シラノール変性ポリビニルアルコールを用いることが好ましい。また、本発明においては、シラノール基が下記構造式[化1、2]で示される基であることが好ましく、シラノール基を有する樹脂が下記構造式[化1、2]で示される基を末端に有する単量体を含む成分を適宜重合して得られる樹脂であることが好ましい。また、市販されているものを用いてもよい。本発明においては、シラノール基を有する樹脂の重量平均分子量が500以上200,000以下であることが好ましく、特には1,000以上100,000以下であることが好ましい。分子量が小さすぎると本発明の効果が得られ難くなり、大きすぎると粘度が増大し、インクジェット吐出特性が劣化しやすくなる。
【0016】

(式中、X1、X2は、水素原子、水酸基、炭素数1乃至30の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基、アルキルアルコール基、シクロアルキル基、シクロアルキルアルコール基、フェニル基、フェニルアルコール基を表す。X1、X2は、それぞれ同じものであっても異なるものであってもよい。ただし、X1、X2が共に水酸基の場合を除く。)
【0017】

(式中、X3、X4は、水素原子、炭素数1乃至30の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基、アルキルアルコール基、シクロアルキル基、シクロアルキルアルコール基、フェニル基、フェニルアルコール基を表す。X3、X4は、それぞれ同じものであっても異なるものであってもよい。)
【0018】
本発明において、インク中におけるシラノール基を有する樹脂の含有量は、インク全質量を基準として、0.1質量%以上30質量%以下の範囲とすることが好ましい。0.1質量%未満の場合は、本発明の効果が得られにくくなる場合があり、30質量%を超える場合は、増粘などによりインクジェット吐出が劣化する場合がある。
【0019】
(色材)
本発明で使用される色材、すなわち、後述する自己分散型顔料の出発顔料、及び、後述するポリマーによって分散されるポリマー分散型顔料は、特に限定されず、下記に挙げるようなものが使用可能である。
【0020】
黒色インクに使用される前記顔料としては、カーボンブラックが好適に使用される。例えば、ファーネスブラック、ランプブラック、アセチレンブラック、チャンネルブラックなどのカーボンブラック顔料である。その中でも、一次粒子径が15nm以上40nm以下、BET法による比表面積が50m2/g以上300m2/g以下、DBP吸油量が40ml/100g以上150ml/100g以下、揮発分が0.5質量%以上10質量%以下の特性を持つものが好ましい。
【0021】
カラーインクに使用される前記顔料としては、有機顔料が好適に使用される。具体的には、トルイジンレッド、トルイジンマルーン、ハンザイエロー、ベンジジンイエロー、ピラゾロンレッドなどの不溶性アゾ顔料、リトールレッド、ヘリオボルドー、ピグメントスカーレット、パーマネントレッド2Bなどの水溶性アゾ顔料、アリザリン、インダントロン、チオインジゴマルーンなどの建染染料からの誘導体、フタロシアニンブルー、フタロシアニングリーンなどのフタロシアニン系顔料、キナクリドンレッド、キナクリドンマゼンタなどのキナクリドン系顔料、ペリレンレッド、ペリレンスカーレットなどのペリレン系顔料、イソインドリノンイエロー、イソインドリノンオレンジなどのイソインドリノン系顔料、ベンズイミダゾロンイエロー、ベンズイミダゾロンオレンジ、ベンズイミダゾロンレッドなどのイミダゾロン系顔料、ピランスロンレッド、ピランスロンオレンジなどのピランスロン系顔料、チオインジゴ系顔料、縮合アゾ系顔料、チオインジゴ系顔料、ジケトピロロピロール系顔料、フラバンスロンイエロー、アシルアミドイエロー、キノフタロンイエロー、ニッケルアゾイエロー、銅アゾメチンイエロー、ペリノンオレンジ、アンスロンオレンジ、ジアンスラキノニルレッド、ジオキサジンバイオレットなどの顔料が例示できる。
【0022】
また、有機顔料を、カラーインデックス(C.I.)ナンバーにて示すと、C.I.ピグメントイエロー12、13、14、17、20、24、55、74、83、86、93、97、98、109、110、117、120、125、128、137、138、139、147、148、150、151、153、154、155、166、168、180、185、C.I.ピグメントオレンジ16、36、43、51、55、59、61、71、C.I.ピグメントレッド9、48、49、52、53、57、97、122、123、149、168、175、176、177、180、192、202、209、215、216、217、220、223、224、226、227、228、238、240、254、255、272、C.I.ピグメントバイオレット19、23、29、30、37、40、50、C.I.ピグメントブルー15、15:1、15:3、15:4、15:6、22、60、64、C.I.ピグメントグリーン7、36、C.I.ピグメントブラウン23、25、26などが例示できる。上記のような顔料以外でも使用することができるが、特に、これらの顔料の中でも、C.I.ピグメントイエロー13、17、55、74、93、97、98、110、128、139、147、150、151、154、155、180、185、C.I.ピグメントレッド122、202、209、C.I.ピグメントブルー15:3、15:4がさらに好ましい。
【0023】
〔自己分散型顔料〕
本発明で使用可能な自己分散型顔料は、上述した顔料粒子の表面に、親水性基であるカチオン性基若しくはスルホン酸基が、直接若しくは他の原子団を介して化学的に結合した顔料である。具体的には、カチオン性基としては、下記構造式[化3]に示す官能基が挙げられ、スルホン酸基としては、下記構造式[化4]に示す官能基が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0024】

(式中、Rは、炭素原子数1乃至12の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基、置換若しくは未置換のフェニル基、又は置換若しくは未置換のナフチル基を表す。)
【0025】

(式中、「M」は、独立して水素原子、アルカリ金属、有機アミンを示す。アルカリ金属の具体例としては、例えば、Li、Na、K、Rb及びCsなどが挙げられる。また、有機アミンの具体例としては、例えば、メチルアンモニウム、ジメチルアンモニウム、トリメチルアンモニウム、エチルアンモニウム、ジエチルアンモニウム、トリエチルアンモニウム、モノヒドロキシメチルアミン、ジヒドロキシメチルアミン、トリヒドロキシメチルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミンなどが挙げられる。)
【0026】
上記したような種々の官能基(親水性基)は、顔料の表面に直接結合させてもよいし、或いは、他の原子団を顔料表面と上記したような親水性基との間に介在させ、該親水性基を顔料表面に間接的に結合させてもよい。ここで言う他の原子団の具体例としては、例えば、炭素原子数1乃至12の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキレン基、置換若しくは未置換のフェニレン基、置換若しくは未置換のナフチル基などが挙げられる。
【0027】
〔ポリマー分散型顔料〕
本発明で使用可能な顔料を分散させるポリマーとしては、カチオン性基若しくはスルホン酸基を親水性基として有するポリマーが挙げられる。本発明においては、かかるポリマーは顔料を良好に分散し、かつインクジェット吐出の安定性を保つことが重要であり、重量平均分子量が500以上200,000以下であることが好ましく、特には1,000以上100,000以下であることが好ましい。かかるポリマーを構成する成分としては、上記親水性基の他に、疎水性基や非イオン性親水性基などを含有することが好ましい。かかる疎水性基及び非イオン性親水性基は、顔料に分散性を与え、かつインクジェット吐出の安定性を保つことができるものであれば特に限定するものではない。重合比率に関しても同様であり、特に限定するものではないが、親水性基がポリマー全量に対して1質量%以上80質量%以下であることが好ましく、特には3質量%以上70質量%以下の範囲であることが好ましい。
【0028】
カチオン性基を親水性基として有するポリマーとしては、例えば、ビニルモノマーの重合によって得られる重合体であって、得られる重合体の少なくとも一部がカチオン性基を有するものなどが挙げられる。該ポリマーの少なくとも一部を構成するためのカチオン性のモノマーとしては、例えば、下記のような第3級アミンモノマーの塩、及び、これらの4級化された化合物が挙げられる。
【0029】
第3級アミンとしては、例えば、N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート、N,N−ジメチルアミノエチルアクリレート、N,N−ジメチルアミノプロピルメタクリレート、N,N−ジメチルアミノプロピルアクリレート、N,N−ジメチルアクリルアミド、N,N−ジメチルメタクリルアミド、N,N−ジメチルアミノエチルアクリルアミド、N,N−ジメチルアミノエチルメタクリルアミド、N,N−ジメチルアミノプロピルメタクリルアミド、N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミドなどが挙げられる。
【0030】
また、第3級アミンと塩を形成するための化合物としては、塩酸、硫酸、酢酸などが挙げられる。また、第3級アミンを4級化するために用いられる化合物としては、塩化メチル、ジメチル硫酸、ベンジルクロライド、エピクロロヒドリンなどが挙げられる。この中でも、塩化メチル、ジメチル硫酸などが、本発明で使用する前記ポリマーを調整するうえで好ましい。
【0031】
上記重合体の構成に用いられるその他のモノマーとしては、例えば、2−ヒドキシエチルメタクリレート、長鎖のエチレンオキサイド鎖を側鎖に有するアクリル酸エステルなどのヒドロキシを有するアクリル酸エステル、スチレン系モノマーなどの疎水性モノマー類、アクリルアミド類、ビニルエーテル類、ビニルピロリドン類、ビニルピリジン類、ビニルオキサゾリン類が挙げられる。疎水性モノマーとしては、スチレン、スチレン誘導体、ビニルナフタレン、ビニルナフタレン誘導体、(メタ)アクリル酸のアルキルエステル、アクリルニトリルなどが挙げられる。
【0032】
一方、スルホン酸基を親水性基として有するポリマーとしては、スチレンスルホン酸及びその塩、ビニルスルホン酸及びその塩を、少なくともポリマーの一部を構成するためのモノマーとする共重合体及びその塩が挙げられる。塩としては、水素原子、アルカリ金属、アンモニウムイオン、有機アンモニウムイオン、ホスホニウムイオン、スルホニウムイオン、オキソニウムイオン、スチボニウムイオン、スタンノニウム、ヨードニウムなどのオニウム化合物などによる塩が挙げられる。また、上記重合体及びその塩に、ポリオキシエチレン基や水酸基などを導入してもよい。また、アクリルアミド、アクリルアミド誘導体、ジメチルアミノエチルメタクリレート、エトキシエチルメタクリレート、ブトキシエチルメタクリレート、エトキシトリエチレンメタクリレート、メトキシポリエチレングリコールメタクリレート、ビニルピロリドン、ビニルアルコール、及びアルキルエーテルなどを適宜付加してもよい。
【0033】
本発明において、インク中における顔料の含有量は、出力したい明度、彩度、濃度などに応じて含有量を調整することが好ましい。ただし、顔料含有量が増加すると、インクの保存安定性の低下や粘度の増大などの問題が生じやすくなるため、インク全質量を基準として、10質量%以下の範囲とすることが好ましい。また、インク中における前記ポリマーの含有量は、顔料100質量部に対し、30質量部以上200質量部以下の範囲とすることが好ましい。
【0034】
(水性媒体)
本発明にかかるインクは、水を必須成分とするが、インク中における水の含有量は、インク全質量に対して、30質量%以上であることが好ましく、また、95質量%以下であることが好ましい。また、本発明においては、水と水溶性溶剤が併用された水性媒体が使用される。水と併用される水溶性溶剤としては、従来、インクジェット用インクに用いられてきたものを用いることができる。水と併用される水溶性溶剤の種類や含有量は特に限定されない。インク中における水溶性溶剤の含有量は、インク全質量に対して、3質量%以上であることが好ましく、また、60質量%以下であることが好ましい。
【0035】
(界面活性剤)
本発明にかかるインクにおいて、よりバランスのよい吐出安定性を得るためには、インク中に界面活性剤を含有させることが好ましく、中でも、カチオン性界面活性剤若しくは、非イオン性界面活性剤を使用することがより好ましい。
【0036】
カチオン性界面活性剤としては、例えば、1級、2級、3級アミン塩型の化合物、具体的には、ラウリルアミン、ヤシアミン、ステアリルアミン、ロジンアミンなどの塩酸塩、酢酸塩など;第4級アンモニウム塩型の化合物、具体的には、ラウリルトリメチルアンモニウムクロライド、セチルトリメチルアンモニウムクロライド、ラウリルジメチルベンジルアンモニウムクロライド、ベンジルトリブチルアンモニウムクロライド、塩化ベンザルコニウムなど;ピリジニウム塩型化合物、具体的には、セチルピリジニウムクロライド、セチルピリジニウムブロマイドなど;イミダゾリン型カチオン性化合物、具体的には、2−ヘプタデセニル−ヒドロキシエチルイミダゾリンなど;高級アルキルアミンのエチレンオキシド付加物、具体的には、ジヒドロキシエチルステアリルアミンなどが好ましい。
【0037】
非イオン性界面活性剤としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、アセチレングリコールのエチレンオキサイド付加物が好ましい。これらの非イオン性界面活性剤のHLB(Hydrophile−Lipophile Balance)値は、10以上である。こうして併用される界面活性剤の含有量は、インク全質量に対して0.01質量%以上5質量%以下の範囲であることが好ましく、より好ましくは0.05質量%以上3質量%以下の範囲である。
【0038】
(その他の添加剤)
また、本発明にかかるインクには、所望の物性値を有するインクとするために、上記した成分の他に必要に応じて、添加剤として、粘度調整剤、消泡剤、防腐剤、防カビ剤、酸化防止剤、pH調整剤などを添加することができる。
【0039】
(インクのpH)
また、本発明のインクのpHは、2乃至6の範囲であることを要し、さらには、2.5乃至5.5の範囲であることが好ましい。この範囲内のpH領域においては、シラノール基の縮合反応が抑制される。このため、本発明のインクにおいては、シラノール基を有する樹脂と、上記自己分散型顔料又はポリマー分散型顔料との共存においても、良好な保存安定性が得られる。
【0040】
<インクジェット記録方法>
本発明のインクは、インクジェット記録方式により記録媒体に画像を形成するインクジェット記録方法に用いられる。インクジェット記録方法としては、インクに力学的エネルギーを作用させてインクを吐出する方式の記録方法、及びインクに熱エネルギーを加えてインクの発泡によりインクを吐出する方式の記録方法がある。中でも、熱エネルギーを利用したサーマルジェット方式を用いることが好ましい。また、本発明のインクを用いるインクジェット記録方法においては、インクジェット記録装置により印字を行った後、得られた印字物を80℃以上で加熱する工程を有することが好ましい。これにより、紙面でのシラノール基同士の縮合反応による架橋化が促進され、その結果、記録画像において、より優れた耐擦過性(耐ラインマーカー性)が得られるようになる。また、本発明のインクを用いるインクジェット記録方法においては、さらに、前記記録媒体として普通紙を用いることが好ましく、この場合、耐ラインマーカー性が向上する効果を特に顕著に得ることができる。
【0041】
<インクジェット記録装置>
次に、上記した本発明のインクを用いて記録を行うのに好適な、本発明のインクジェット記録装置の一例を以下に説明する。先ず、熱エネルギーを利用したインクジェット記録装置の主要部であるサーマルインクジェット記録ヘッドの構成の一例を図1及び図2に示す。
【0042】
図1は、インク流路に沿ったヘッド13の断面図であり、図2は、図1のA−B線での切断面図である。ヘッド13は、インクを通す流路(ノズル)14を有するガラス、セラミック、シリコン又はプラスチック板などと発熱素子基板15とを接着して得られる。発熱素子基板15は、保護層16、電極17−1及び17−2、発熱抵抗体層18、蓄熱層19、基板20より構成されている。保護層16は、酸化シリコン、窒化シリコン、炭化シリコンなどで形成される。電極17−1及び17−2は、アルミニウム、金、アルミニウム−銅合金などで形成される。発熱抵抗体層18は、HfB2、TaN、TaAlなどの高融点材料から形成される。蓄熱層19は、熱酸化シリコン、酸化アルミニウムなどで形成される。基板20は、シリコン、アルミニウム、窒化アルミニウムなどの放熱性のよい材料で形成される。
【0043】
上記ヘッド13の電極17−1及び17−2にパルス状の電気信号が印加されると、発熱素子基板15のnで示される領域が急速に発熱し、この表面に接しているインク21に気泡が発生する。そして、気泡の圧力でメニスカス23が突出し、インク21がヘッドのノズル14を通して吐出し、吐出オリフィス22よりインク小滴24となり、記録媒体25に向かって飛翔する。図3には、図1に示したヘッドを多数並べたマルチヘッドの一例の外観図を示す。このマルチヘッドは、マルチノズル26を有するガラス板27と、図1に説明したものと同じような発熱ヘッド28を接着して作られている。
【0044】
図4に、このヘッドを組み込んだインクジェット記録装置の一例を示す。図4において、61は、ワイピング部材としてのブレードであり、その一端はブレード保持部材によって保持固定されており、カンチレバーの形態をなす。ブレード61は、記録ヘッド65による記録領域に隣接した位置に配置され、また、本例の場合、記録ヘッド65の移動経路中に突出した形態で保持される。
【0045】
62は、記録ヘッド65の突出口面のキャップであり、ブレード61に隣接するホームポジションに配置され、記録ヘッド65の移動方向と垂直な方向に移動して、インク吐出口面と当接し、キャッピングを行う構成を備える。さらに、63は、ブレード61に隣接して設けられるインク吸収体であり、ブレード61と同様、記録ヘッド65の移動経路中に突出した形態で保持される。上記ブレード61、キャップ62及びインク吸収体63によって吐出回復部64が構成され、ブレード61及びインク吸収体63によって吐出口面に水分、塵埃などの除去が行われる。
【0046】
65は、吐出エネルギー発生手段を有し、吐出口を配した吐出口面に対向する記録媒体にインクを吐出して記録を行う記録ヘッド、66は、記録ヘッド65を搭載して記録ヘッド65の移動を行うためのキャリッジである。キャリッジ66は、ガイド軸67と摺動可能に係合し、キャリッジ66の一部は、モーター68によって駆動されるベルト69と接続(不図示)している。これにより、キャリッジ66は、ガイド軸67に沿った移動が可能となり、記録ヘッド65による記録領域及びその隣接した領域の移動が可能となる。
【0047】
51は、記録媒体を挿入するための給紙部、52は、不図示のモーターにより駆動される紙送りローラーである。これらの構成により記録ヘッドの65吐出口面と対向する位置へ記録媒体が給紙され、記録が進行につれて排紙ローラー53を配した排紙部へ排紙される。以上の構成において記録ヘッド65が記録終了してホームポジションへ戻る際、吐出回復部64のキャップ62は、記録ヘッド65の移動経路から退避しているが、ブレード61は移動経路中に突出している。その結果、記録ヘッド65の吐出口がワイピングされる。
【0048】
なお、キャップ62が、記録ヘッド65の吐出面に当接してキャッピングを行う場合、キャップ62は、記録ヘッドの移動経路中に突出するように移動する。記録ヘッド65が、ホームポジションから記録開始位置へ移動する場合、キャップ62及びブレード61は、上記したワイピングの時の位置と同一の位置にある。この結果、この移動においても記録ヘッド65の吐出口面はワイピングされる。上述の記録ヘッドのホームポジションへの移動は、記録終了時や吐出回復時ばかりでなく、記録ヘッドが記録のために記録領域を移動する間に所定の間隔で記録領域に隣接したホームポジションへ移動し、この移動に伴って上記ワイピングが行われる。
【0049】
図5は、記録ヘッドにインク供給部材、例えば、チューブを介して供給されるインクを収容したインクカートリッジ45の一例を示す図である。ここで40は、供給用インクを収納したインク収容部、例えば、インク袋であり、その先端にはゴム製の栓42が設けられている。この栓42に針(不図示)を挿入することにより、インク袋40中のインクをヘッドに供給可能にする。44は、廃インクを受容するインク吸収体である。インク収容部としてはインクとの接液面がポリオレフィン、特にポリエチレンで形成されているものが好ましい。
【0050】
本発明で使用されるインクジェット記録装置としては、上述のようにヘッドとインクカートリッジとが別体となったものに限らず、図6に示すような、それらが一体になったものにも好適に用いられる。図6において、70は、記録ユニットであり、この中にはインクを収容したインク収容部、例えば、インク吸収体が収納されており、かかるインク吸収体中のインクが複数オリフィスを有するヘッド部71からインク滴として吐出される構成になっている。インク吸収体の材料としては、ポリウレタンを用いることが本発明にとって好ましい。また、インク吸収体を用いず、インク収容部が内部にバネなどを仕込んだインク袋であるような構造でもよい。72は、カートリッジ内部を大気に連通させるための大気連通口である。この記録ユニット70は、図4に示す記録ヘッド65に換えて用いられるものであって、キャリッジ66に対して着脱自在になっている。
【0051】
次に、力学的エネルギーを利用したインクジェット記録装置の好ましい一例としては、以下の構成のオンデマンドインクジェット記録ヘッドを有するものが挙げることができる。該記録ヘッドは、複数のノズルを有するノズル形成基板と、ノズルに対向して配置される圧電材料と導電材料からなる圧力発生素子と、この圧力発生素子の周囲を満たすインクを備える。そして、印加電圧により圧力発生素子を変位させ、インクの小液滴をノズルから吐出させる。このインクジェット記録装置の主要部である記録ヘッドの構成の一例を図7に示す。
【0052】
ヘッドは、インク室(不図示)に連通したインク流路80と、オリフィスプレート81と、インクに直接圧力を作用させる振動板82と、この振動板82に接合され、電気信号により変位する圧電素子83と、基板84とから構成されている。また、オリフィスプレート81は、所望の体積のインク滴を吐出するためのものであり、基板84は、オリフィスプレート81、振動板82などを指示固定するためのものである。
【0053】
図7において、インク流路80は、感光性樹脂などで形成される。オリフィスプレート81においては、ステンレス、ニッケルなどの金属を電鋳やプレス加工による穴あけなどにより吐出口85が形成される。振動板82はステンレス、ニッケル、チタンなどの金属フイルム及び高弾性樹脂フイルムなどで形成される。圧電素子83は、チタン酸バリウム、PZTなどの誘電体材料で形成される。以上のような構成の記録ヘッドは、圧電素子83にパルス状の電圧を与え、歪み応力を発生させる。そして、そのエネルギーが、圧電素子83に接合された振動板を変形させ、インク流路80内のインクを垂直に加圧しインク滴(不図示)をオリフィスプレート81の吐出口85より吐出して記録を行うように動作する。このような記録ヘッドは、図4に示したものと同様なインクジェット記録装置に組み込んで使用される。インクジェット記録装置の細部の動作は、先述と同様に行うもので差しつかえない。
【実施例】
【0054】
次に、実施例及び比較例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。なお、以下の記載で「部」及び「%」とあるのは特に断りのない限り、質量基準である。また、以下のインク組成の記載において、水の量を「残部」としたが、これは、インク組成の合計量が100%となるように水で調整したことを意味している。
【0055】
<実施例1>
〔カチオン性基を親水性基として有する自己分散型顔料が分散したブラックインク〕
比表面積が220m2/gでDBP吸油量が70ml/100gであるカーボンブラック10gと、3−アミノ−N−エチルピリジニウムブロマイド3.06gとを水72gに添加し、よく混合した後、これに硝酸1.62g滴下して70℃で攪拌した。数分後、水5gに1.07gの亜硝酸ナトリウムを溶かした溶液を加え、さらに1時間攪拌した。得られたスラリーを、東洋濾紙No.2(アドバンテック社製)で濾過し、顔料粒子を十分に水洗し、90℃のオーブンで乾燥させた後、この顔料に水を足して顔料濃度10%の顔料水溶液を調製した。以上の方法により、下記式で表したカチオン性の親水性基が、表面に直接結合した自己分散型カーボンブラックが分散されてなる顔料分散液1を得た。
【0056】

【0057】
下記処方で各成分を加えて所定の濃度(合計100部)にし、これらを十分に混合撹拌し、さらに、酢酸と硝酸にてpHを4.0に調整した後、ポアサイズ2.5μmのミクロフィルター(富士フイルム社製)にて加圧濾過し、インク1を得た。
・顔料分散液1 30部
・グリセリン 14部
・トリエチレングリコール 6部
・2−プロパノール 2部
・シラノール変性ポリビニルアルコール
(商品名:R2105 クラレ社製) 2部
・アセチレングリコールエチレンオキサイド付加物
(商品名:アセチレノールEH 川研ファインケミカル社製) 0.3部
・水 残部
【0058】
<実施例2>
実施例1のインク処方において、pHを2.0に調整した以外は、実施例1と同様の手法によりインクを調製し、インク2を得た。
【0059】
<実施例3>
実施例1のインク処方において、pHを6.0に調整した以外は、実施例1と同様の手法によりインクを調製し、インク3を得た。
【0060】
<実施例4>
〔スルホン酸基を親水性基として有する自己分散型顔料が分散したブラックインク〕
比表面積が220m2/gでDBP吸油量が70ml/100gであるカーボンブラック10gと、p−アミノベンゼンスルホン酸3.41gとを水72gに添加し、よく混合した後、これに硝酸1.62を滴下して70℃で攪拌した。数分後、5gの水に1.07gの亜硫酸ナトリウムを溶かした溶液を加え、さらに1時間攪拌した。得られたスラリーを東洋濾紙No.2(アドバンテック社製)で濾過し、顔料粒子を十分に水洗し、90℃のオーブンで乾燥させた後、この顔料に水を足して顔料濃度10%の顔料水溶液を調製した。以上の方法により、表面にフェニル基を介してスルホン酸基が結合した自己分散型カーボンブラックが分散されてなる顔料分散液2を得た。
【0061】
下記処方で各成分を加えて所定の濃度(合計100部)にし、これらを十分に混合撹拌し、さらに、酢酸と硝酸にてpHを5.5に調整した後、ポアサイズ2.5μmのミクロフィルター(富士フイルム社製)にて加圧濾過し、インク4を得た。
・顔料分散液2 30部
・グリセリン 14部
・トリエチレングリコール 6部
・2−プロパノール 2部
・シラノール変性ポリビニルアルコール
(商品名:R2105 クラレ社製) 2部
・アセチレングリコールエチレンオキサイド付加物
(商品名:アセチレノールEH 川研ファインケミカル社製) 0.3部
・水 残部
【0062】
<実施例5>
〔カチオン性基を親水性基として有するポリマー分散型ブラック顔料インク〕
比表面積が230m2/gでDBP吸油量が70ml/100gであるカーボンブラック20gと、スチレン−N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート共重合体10gと、メチルエチルケトン30gとをよく混合した。その後、酢酸を中和剤として転送乳化を行い、メチルエチルケトンを除去して、最終的に、顔料濃度10%、ポリマー濃度5%の、カチオン性基を有するポリマーによってカーボンブラックが分散されてなる顔料分散液3を得た。
【0063】
下記処方で各成分を加えて所定の濃度(合計100部)にし、これらを十分に混合撹拌しさらに、酢酸と硝酸にてpHを4.0に調整した後、ポアサイズ2.5μmのミクロフィルター(富士フイルム社製)にて加圧濾過し、インク5を得た。
・顔料分散液3 30部
・グリセリン 14部
・トリエチレングリコール 6部
・2−プロパノール 2部
・シラノール変性ポリビニルアルコール
(商品名:R2105 クラレ社製) 2部
・アセチレングリコールエチレンオキサイド付加物
(商品名:アセチレノールEH 川研ファインケミカル社製) 0.3部
・水 残部
【0064】
<比較例1>
実施例1のインク処方で、シラノール変性ポリビニルアルコールを、ポリビニルアルコール(PVA)(商品名:PVA105 クラレ社製)に変更した以外は、実施例1と同様の手法によりインクを調製し、インク6を得た。
【0065】
<比較例2>
〔カルボン酸基を親水性基として有するポリマー分散型ブラック顔料インク〕
比表面積が220m2/gでDBP吸油量が70ml/100gであるカーボンブラック20gと、スチレンアクリル酸共重合体(酸価180mgKOH/g、重量平均分子量2万)10gと、メチルエチルケトン30gとをよく混合した。その後、水酸化カリウムを中和剤として転送乳化を行い、メチルエチルケトンを除去して、最終的に、顔料濃度10%、ポリマー濃度5%のカルボン酸基を親水性基として有するポリマーによってカーボンブラックが分散されてなる顔料分散液4を得た。
【0066】
下記処方で各成分を加えて所定の濃度(合計100部)にし、これらを十分に混合撹拌し、さらに、水酸化カリウムにてpHを8.0に調整した後、ポアサイズ2.5μmのミクロフィルター(富士フイルム社製)にて加圧濾過し、インク7を得た。
・顔料分散液4 30部
・グリセリン 14部
・トリエチレングリコール 6部
・2−プロパノール 2部
・PVA(商品名:PVA105 クラレ社製) 2部
・アセチレングリコールエチレンオキサイド付加物
(商品名:アセチレノールEH 川研ファインケミカル社製) 0.3部
・水 残部
【0067】
<比較例3>
実施例1のインク処方において、pHを6.5に調整した以外は、実施例1と同様の手法によりインクを調製し、インク8を得た。
【0068】
<比較例4>
実施例1のインク処方において、pHを1.5に調整した以外は、実施例1と同様の手法によりインクを調製し、インク9を得た。
【0069】
<比較例5>
〔カルボン酸基を親水性基として有する自己分散型顔料が分散したブラックインク〕
水10.6gに濃塩酸10gを溶かした溶液に、5℃においてp−アミノ安息香酸3.16gを加えた。この溶液をアイスバスで10℃に保ちながら攪拌し、5℃の水17.6gに亜硝酸ナトリウム3.56gを加えた溶液を加えた。さらに15分間攪拌した後、比表面積が220m2/gでDBP吸油量が70ml/100gであるカーボンブラック40gを混合した状態のまま加えた。その後、さらに15分間攪拌した後、得られたスラリーを東洋濾紙No.2(アドバンテック社製)で濾過し、顔料粒子を十分に水洗し、90℃のオーブンで乾燥させた後、この顔料に水を足して顔料濃度10%の顔料水溶液を調製した。以上の方法により、表面にフェニル基を介してカルボン酸基が結合した自己分散型カーボンブラックが分散されてなる顔料分散液5を得た。
【0070】
下記処方で各成分を加えて所定の濃度(合計100部)にし、これらを十分に混合撹拌しさらに、酢酸と硝酸にてpHを5.5に調整した後、ポアサイズ2.5μmのミクロフィルター(富士フイルム社製)にて加圧濾過し、インク10を得た。
・顔料分散液5 30部
・グリセリン 14部
・トリエチレングリコール 6部
・2−プロパノール 2部
・シラノール変性ポリビニルアルコール
(商品名:R2105 クラレ社製) 2部
・アセチレングリコールエチレンオキサイド付加物
(商品名:アセチレノールEH 川研ファインケミカル社製) 0.3部
・水 残部
上記で調製したインクの構成を表1に示した。
【0071】

【0072】
<評価>
実施例及び比較例で調製したインク1〜10を用い、下記の評価方法及び評価基準により、印字物の耐擦過性(耐ラインマーカー性)及び、インクの保存安定性の評価を行った。評価結果を表2に示す。
【0073】
[評価1:耐ラインマーカー性]
インクをカラーBJプリンター(商品名:BJ−F900、キヤノン社製)に搭載されているBJカートリッジの空インクタンクに充填した。このインクを充填したカートリッジをBJ−F900にセットし、1200×1200dpiにて、普通紙である記録紙(商品名:EW−100、キヤノン社製)に、2cm×2cmのベタ印字を行った。得られた印字物を、(i)25℃、50%環境下で1時間放置後、又は、(ii)80℃のオーブンで1時間放置後、ベタ印字部を三菱社製ラインマーカーにてなぞり、印字物及びペン先の状態を確認した。耐ラインマーカー性の評価基準は、以下の通りである。
AA:印字物に滲みや白地部分の汚れが認められず、ペン先も汚れていない。
A:印字物に白地部分の汚れが認められないが、ペン先がやや汚れている。
B:印字物に白地部分の汚れが認められ、ペン先も汚れている。
C:印字物に白地部分の激しい汚れが認められ、ペン先も激しく汚れている。
【0074】
[評価2:インクの保存安定性]
インクをガラス製のサンプル瓶に入れ、20℃で3ヶ月間放置した。インクの状態変化を、放置前後の粘度変化率(%)((放置前の粘度−放置後の粘度)/放置前の粘度×100)で評価した。また、このインクを上記BJカートリッジの空インクタンクに充填し、上記BJ−F900を用いて上記と同様のベタ印字を行った。インクの保存安定性の評価基準は、以下の通りである。
AA:粘度変化率は10%未満であり、正常に印字される。
A:粘度変化率は10%以上であるが、正常に印字される。
B:粘度変化率は10%未満であるが、正常に印字されない。
C:粘度変化率が10%以上であり、正常に印字されない。
【0075】

【0076】
上記表2の各評価結果より、実施例1〜5における本発明のインクは、いずれも、印字物の耐ラインマーカー性に優れ、また、経時的なインクの保存安定性にも問題がなく、インクジェット用インクとして高い実用性を備えたものであることが確認された。また、本発明のインクを印字した後、印字物を80℃以上で加熱することにより、印字物の耐ラインマーカー性がより優れたものとなることが確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも、色材、シラノール基を有する樹脂、及び水溶性溶剤を含有するインクにおいて、該色材が、カチオン性基若しくはスルホン酸基を親水性基として有する自己分散型顔料、又は、カチオン性基若しくはスルホン酸基を親水性基として有するポリマーによって分散されている顔料であり、かつ、インクのpHが2乃至6の範囲であることを特徴とするインクジェット記録用インク。
【請求項2】
インクのpHが、2.5乃至5.5の範囲である請求項1に記載のインクジェット記録用インク。
【請求項3】
前記シラノール基を有する樹脂が、シラノール変性ポリビニルアルコールである請求項1又は2に記載のインクジェット記録用インク。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか1項に記載のインクジェット記録用インクを用い、記録媒体にインクジェット記録方式により画像を形成する記録方法であって、該記録媒体が普通紙であることを特徴とするインクジェット記録方法。
【請求項5】
請求項1乃至3のいずれか1項に記載のインクジェット記録用インクを用い、インクジェット記録装置により印字を行った後、得られた印字物を80℃以上で加熱する工程を有することを特徴とするインクジェット記録方法。
【請求項6】
請求項1乃至3のいずれか1項に記載のインクジェット記録用インクを収容しているインクタンクと、該インクを吐出させるインクジェット記録ヘッドとを少なくとも具備していることを特徴とするインクジェット記録装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−270190(P2010−270190A)
【公開日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−121557(P2009−121557)
【出願日】平成21年5月20日(2009.5.20)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】