説明

インクジェット記録用水系インク

【課題】キナクリドン固溶体顔料を含有し、水40〜60重量%の低水分量であっても、保存安定性に優れたインクジェット記録用水系インク、及びその製造方法を提供する。
【解決手段】〔1〕無置換キナクリドンとジクロロキナクリドンからなるキナクリドン固溶体顔料1〜20重量%と水40〜60重量%を含有する水系インクであって、CuKα線源を用いた粉末X線回折により測定した該固溶体顔料の結晶子径が270Å以上であり、かつ(結晶ピーク強度/アモルファス相に起因するハローパターン強度)の比が4以上である、インクジェット記録用水系インク、及び〔2〕前記固溶体顔料を、70〜150℃で24時間以上加熱処理した後、水不溶性ポリマー、有機溶媒及び水を加えた混合物を分散処理して、前記顔料を含有する水不溶性ポリマーからなる粒子の分散体を得た後、有機溶媒を除去し、架橋剤で前記ポリマーを架橋する、前記顔料を含有する架橋ポリマー粒子を含むインクジェット記録用水系インクの製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、キナクリドン固溶体顔料を含有する、保存安定性に優れたインクジェット記録用水系インク、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録方式は、非常に微細なノズルからインク液滴を記録部材に直接吐出し、付着させて、文字や画像を得る記録方式である。この方式は、フルカラー化が容易で、かつ安価であり、記録部材として普通紙が使用可能、被印字物に対して非接触、という数多くの利点があるため普及が著しい。
その中でも、優れた色調、耐候性、耐溶剤性等の特性を示す顔料としてキナクリドン固溶体顔料を用いるインクジェット記録用水系インクが知られている。
【0003】
例えば、特許文献1には、ブルー色領域の演色性を維持しつつ、レッド色領域の演色性を高めて、オフセット印刷のマゼンタ色やインクジェットの染料インキのマゼンタ色に近い色相を提供することを課題とした、2種以上のキナクリドン系化合物からなるキナクリドン固溶体顔料を含有するジェットプリンター用インキが開示されている。
特許文献2には、固溶体マゼンタ顔料を含む水不溶性ビニルポリマー粒子の水分散体を含有する水系インクであって、水不溶性ビニルポリマーが、脂環式(メタ)アクリレートと塩生成基含有モノマーを共重合したものであるインクジェット記録用水系インクが開示されている。
特許文献3には、キナクリドン固溶体顔料、塩生成基含有ポリマー、中和剤、有機溶媒及び水を含む混合体を混練後、水及び/又は有機溶媒を添加して希釈、分散したインクジェット記録用顔料水分散体が開示されている。
しかしながら、上記の顔料分散液又は水系インクは、保存安定性において満足できるものではない。
【0004】
【特許文献1】特開平10−219166号公報
【特許文献2】特開2005−29597号公報
【特許文献3】特開2006−104367号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、キナクリドン固溶体顔料を含有し、水40〜60重量%の低水分量であっても、保存安定性に優れたインクジェット記録用水系インク、及びその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
キナクリドン固溶体顔料は、一般に優れた色調を示す顔料であるが、水系インク中での保存安定性が低く、増粘等が起こり易い。特に、水分量の低いインクでは、通常、親水性有機溶媒が多く配合されており、保存安定性を更に低下させる原因となっている。
本発明者等は、無置換キナクリドンとジクロロキナクリドンからなるキナクリドン固溶体顔料に特定の加熱処理を施すことにより、水分量の低いインクにおいても、保存安定性を向上しうることを見出した。
【0007】
すなわち、本発明は、次の〔1〕及び〔2〕を提供する。
〔1〕無置換キナクリドンとジクロロキナクリドンからなるキナクリドン固溶体顔料1〜20重量%と水40〜60重量%を含有する水系インクであって、CuKα線源を用いた粉末X線回折により測定した該固溶体顔料の結晶子径が270Å以上であり、かつ結晶ピーク強度とアモルファス相に起因するハローパターン強度との比(結晶ピーク強度/アモルファス相に起因するハローパターン強度)が4以上である、インクジェット記録用水系インク。
〔2〕下記工程(1)〜(4)を有する、無置換キナクリドンとジクロロキナクリドンからなるキナクリドン固溶体顔料を含有する架橋ポリマー粒子を含む水系インクの製造方法であって、水の含有量が40〜60重量%である、インクジェット記録用水系インクの製造方法。
工程(1):無置換キナクリドンとジクロロキナクリドンからなるキナクリドン固溶体顔料を、70〜150℃で24時間以上加熱処理する工程
工程(2):水不溶性ポリマー、有機溶媒、工程(1)で加熱処理して得られたキナクリドン固溶体顔料、及び水を含有する混合物を分散処理して、前記顔料を含有する水不溶性ポリマーからなる粒子の分散体を得る工程
工程(3):工程(2)で得られた分散体から前記有機溶媒を除去して、前記顔料を含有する水不溶性ポリマー粒子の水分散体を得る工程
工程(4):工程(3)で得られた水分散体と、分子中に2以上の反応性官能基を有する架橋剤とを混合し、前記水不溶性ポリマーを架橋して着色剤を含有する架橋ポリマー粒子を含む水系インクを得る工程
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、キナクリドン固溶体顔料を含有し、水40〜60重量%の低水分量であっても、保存安定性に優れたインクジェット記録用水系インク、及びその製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明のインクジェット記録用水系インクは、無置換キナクリドンとジクロロキナクリドンからなるキナクリドン固溶体顔料(以下、単に「キナクリドン固溶体顔料」又は「固溶体顔料」ともいう)1〜20重量%と水40〜60重量%を含有する水系インクであって、CuKα線源を用いた粉末X線回折により測定した該固溶体顔料の結晶子径が270Å以上であり、かつ結晶ピーク強度とアモルファス相に起因するハローパターン強度との比(結晶ピーク強度/アモルファス相に起因するハローパターン強度)が4以上であることを特徴とする。
【0010】
〔キナクリドン固溶体顔料〕
本発明で用いられるキナクリドン固溶体顔料は、無置換キナクリドンとジクロロキナクリドンからなる。無置換キナクリドンとしては、α型、β型、γ型のいずれも用いることができるが、保存安定性の観点から、β型又はγ型の無置換キナクリドンが好ましい。
ジクロロキナクリドンの具体例としては、2,9−ジクロルキナクリドン、3,10−ジクロルキナクリドン、4,11−ジクロルキナクリドン等が挙げられる。
キナクリドン固溶体顔料は、色相の観点から、無置換キナクリドン(C.I.ピグメント・バイオレット19等)と2,9−ジクロルキナクリドン(C.I.ピグメント・レッド202等)との組合せからなる固溶体顔料がより好ましい。
キナクリドン固溶体顔料の平均粒径は、保存安定性の観点から、好ましくは0.01〜0.3μm、より好ましくは0.03〜0.2μmである。なお、平均粒径は、透過型電子顕微鏡(TEM)による画像解析(2万倍)により、100個の顔料の長径の平均値より求めることができる。
【0011】
キナクリドン固溶体顔料における、〔無置換キナクリドン/ジクロル置換キナクリドン〕の重量比は、保存安定性、彩度等の観点から、好ましくは5/95〜95/5、より好ましくは10/90〜90/10である。
本発明に用いられるキナクリドン固溶体顔料は、CuKα線源を用いた粉末X線回折により測定した結晶子径が、保存安定性の観点から、270Å以上であり、好ましくは308Å以上であり、より好ましくは310Å以上であり、更に好ましくは320Å以上である。その上限は、製造のし易さの観点から、好ましくは350Å以下であり、好ましくは340Å以下である。これらの観点から、好ましくは270〜350Å、より好ましくは308〜350Å、より好ましくは310〜350Å、更に好ましくは320〜350Å、特に好ましくは320〜340Åである。
固溶体顔料の結晶子径が大きい程、保存安定性に優れると考えられるが、結晶子径が大きくてもアモルファス相が多いと、保存安定性が低下する。
このため、CuKα線源を用いた粉末X線回折測定により求められる、キナクリドン固溶体顔料の結晶ピーク強度とアモルファス相に起因するハローパターン強度との比(結晶ピーク強度/アモルファス相に起因するハローパターン強度)が、保存安定性の観点から、4以上であることが必要であり、5以上であることが好ましい。その上限は、製造のし易さの観点から、6以下がより好ましい。これらの観点から、好ましくは4〜6、より好ましくは5〜6である。
これらの観点から、好ましくは、キナクリドン固溶体顔料の結晶子径が270〜350Åで、かつ(結晶ピーク強度/アモルファス相に起因するハローパターン強度)の比が4〜6であり、より好ましくは、結晶子径が308〜350Åで、かつ(結晶ピーク強度/アモルファス相に起因するハローパターン強度)の比が5〜6である。
なお、CuKα線源を用いた粉末X線回折測定は、具体的には実施例記載の方法により行うことができる。
【0012】
〔キナクリドン固溶体顔料の製造方法〕
本発明に用いられるキナクリドン固溶体顔料の製造方法は特に限定されず、例えば、次の(i)〜(iii)の方法により得られたキナクリドン固溶体顔料を、加熱処理することにより製造することができる。
(i)粗製無置換キナクリドンとキナクリドン系化合物を苛性アルカリの存在化に非プロトン系極性有機溶剤に溶解し、酸で中和再沈する方法(特開昭60−35055号公報参照)。
(ii)可溶化量のアルコール及び塩基の存在下、粗又は補助顔料キナクリドン化合物を粉砕し、得られる固体溶液を単離する方法(特開平2−38463号公報参照)。
(iii)2種以上の2,5−ジアリールアミノテレフタル酸誘導体を縮合環化させた後、顔料化処理(結晶形、大きさ、結晶型の制御)を施す方法(特開平10−219166号公報参照)。
【0013】
加熱処理する際のキナクリドン固溶体顔料の形態は、粉末状、顆粒状、塊状のいずれであってもよく、ウエットケーキ状やスラリー状であってもよいが、加熱処理前の固溶体顔料の固形分(乾燥固形分)の量は、80重量%以上が好ましく、90重量%以上がより好ましい。
キナクリドン固溶体顔料の加熱処理は、固溶体顔料を、好ましくは密閉容器に入れ、静置又は攪拌下で、常圧又は加圧下で行うことができる。
加熱処理の温度は、結晶子径を成長させ、アモルファス相の量を減らして結晶性を高める観点から、好ましくは70℃以上、より好ましくは70〜150℃、更に好ましくは80〜130℃、特に好ましくは85〜120℃である。
加熱処理の時間は、結晶子径を成長させ、アモルファス相の量を減らして結晶性を高める観点から、好ましくは1日(24時間)以上、より好ましくは2日(48時間)以上、、更に好ましくは3日(72時間)以上、特に好ましくは5日以上(120時間)以上であり、製造上の観点から、好ましくは60日以下、より好ましくは30日以下が望ましい。
【0014】
〔水の含有量〕
本発明の水系インクにおいては、水の含有量は、カール抑制の観点から、40〜60重量%であり、好ましくは45〜60重量%、より好ましくは50〜60重量%である。
水の含有量が40重量%未満の場合、水以外に通常、親水性有機溶媒が含まれることになり、保存安定性や吐出安定性が低下し、60重量%を超えるとカール抑制効果が低下する。
【0015】
〔親水性有機溶媒〕
本発明の水系インク中は、キナクリドン固溶体顔料1〜20重量%と水40〜60重量%を含有するが、その他の成分として、親水性有機溶媒を含有することが好ましい。
親水性有機溶媒としては、水100gに対する溶解量が、25℃において50g以上であることが好ましく、60g以上であることがより好ましく、飽和蒸気圧(20℃)が0.001〜1kPaが好ましい。
親水性有機溶媒としては、多価アルコール類、多価アルコールの低級アルキルエーテル類、2−ピロリドン、N−メチルー2−ピロリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、N−エチルモルホリン等の複素環類が挙げられる。
多価アルコール類としては、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、チオジグリコール、ジチオジグリコール、1,2−ヘキサンジオール、1,6−ヘキサンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、1,2,6−ヘキサントリオール、アセチレングリコール誘導体、グリセリン、トリメチロールプロパン等の好ましくは炭素数2〜10、より好ましくは炭素数2〜6の多価(好ましくは水酸基の数2〜6)アルコール類が挙げられる。
【0016】
多価アルコールの低級アルキルエーテル類としては、エチレングリコールモノ−n−ブチルエーテル、ジエチレングリコールモノ−n−ブチルエーテル、トリエチレングリコールモノ−n−ブチルエーテル、テトラエチレングリコールモノ−n−ブチルエーテル、又はジプロピレングリコールモノブチルエーテル等のエチレングリコールモノアルキルエーテル、ジエチレングリコールモノアルキルエーテル、トリエチレングリコールモノアルキルエーテル等に代表される多価(好ましくは水酸基の数2〜6、より好ましくは2〜3)アルコール(好ましくは炭素数2〜6)の低級アルキル(好ましくは炭素数1〜6)エーテル類が挙げられる。また、低級アルキル基としては、炭素数1〜4のアルキル基、即ちメチル基、エチル基、n−プロピル基、iso−プロピル基、n−ブチル基、iso−ブチル基、t−ブチル基がより好ましい。
上記の親水性有機溶媒の中では、グリセリン、1,2−ヘキサンジオール、1,6−ヘキサンジオールの多価アルコール;エチレングリコールモノアルキルエーテル、ジエチレングリコールモノアルキルエーテルの多価アルコールの低級(炭素数1〜4)アルキルエーテル類が更に好ましい。
上記の親水性有機溶媒は、単独で又は二種以上を混合して用いることができる。
本発明の水系インク中の親水性有機溶媒の含有量は、粘度の上昇を抑制しつつ、固溶体顔料の保存安定性を保持する観点から、好ましくは10〜40重量%、より好ましくは15〜35重量%、更に好ましくは15〜30重量%である。
【0017】
〔固溶体顔料の分散体〕
本発明の水系インクは、下記(1)及び(2)の固溶体顔料の水分散体を含有することが好ましい。
(1)固溶体顔料を界面活性剤、顔料誘導体又は水溶性ポリマーで水中に分散させた水分散体
(2)固溶体顔料を含有する水不溶性ポリマー粒子の水分散体
上記の水分散体(1)に用いられる界面活性剤としては、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤及び両性界面活性剤が挙げられ、顔料誘導体としては、イオン性官能基又はイオン性官能基の塩を有する、アゾ誘導体、ジアゾ誘導体、フタロシアニン誘導体、キナクリドン誘導体、イソインドリノン誘導体、ジオキサジン誘導体、ペリレン誘導体、ペリノン誘導体、チオインジゴ誘導体、アントラキノン誘導体、キノフタロン誘導体等が挙げられる。
水溶性ポリマーは、25℃の水100gに溶解させたときに、その溶解量が10gを越えるもの、好ましくは20g以上、更に好ましくは30g以上であるポリマーである。上記溶解量は、水溶性ポリマーがカルボキシ基、アンモニウム基等の塩生成基を有する場合は、その種類に応じて、水溶性ポリマーの塩生成基を酢酸又は水酸化ナトリウムで100%中和した時の溶解量をいう。
【0018】
上記水溶性ポリマーとしては、(i)多核芳香族化合物又は単核芳香族化合物をスルホン化して得られるスルホン化物をホルマリン縮合した後、好ましくは中和して得られる水溶性ポリマー、(ii)カルボキシ基を有する水溶性ポリマー等が好ましい。上記(i)のポリマーとしては、具体的には、β−ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物のナトリウム塩に代表されるポリナフタレンスルフォン酸(塩)が挙げられ、花王株式会社製のデモールNL、デモールN、デモールMS(商品名)等の市販品を用いることができる。上記(ii)のポリマーとしては、ポリアクリル酸に代表される(メタ)アクリル酸(塩)重合体及びその共重合体、スチレンとマレイン酸共重合体のナトリウム塩、ジイソブチレンとマレイン酸共重合体のナトリウム塩に代表されるマレイン酸(塩)重合体及びその共重合体が挙げられ、具体的には、花王株式会社製のポイズ520、ポイズ521、ポイズ530等が好ましい。
上記水溶性ポリマーは、分散性の観点から、その重量平均分子量が2,000〜50,000であることが好ましい。なお、水溶性ポリマーの重量平均分子量は、溶媒として60ミリモル/Lのリン酸及び50ミリモル/Lのリチウムブロマイドを溶解したジメチルホルムアミドを用いたゲルクロマトグラフィー法により、標準物質としてポリスチレンを用いて測定することができる。
これらの中でも、本発明に用いられる水系インクとしては、優れた吐出性、保存安定性、印字濃度等の観点から、(2)固溶体顔料を含有する水不溶性ポリマー粒子の水分散体、すなわち、キナクリドン固溶体顔料が、水不溶性ポリマー粒子に含有されてなる、顔料を含有する水不溶性ポリマー粒子の形態で分散している水分散体を用いることが好ましい。この固溶体顔料を含有する水不溶性ポリマー粒子の水分散体について、以下に説明する。
【0019】
〔固溶体顔料を含有するポリマー粒子〕
本発明において、固溶体顔料を含有する水不溶性ポリマー粒子に用いられるポリマーとしては、水不溶性ポリマーが好ましい。ここで、水不溶性ポリマーとは、ポリマーを105℃で2時間乾燥させた後、25℃の水100gに溶解させたときに、その溶解量が10g以下、好ましくは5g以下、更に好ましくは1g以下であるポリマーをいう。溶解量は、ポリマーが塩生成基を有する場合は、その種類に応じて、ポリマーの塩生成基を酢酸又は水酸化ナトリウムで100%中和した時の溶解量である。
用いるポリマーとしては、ポリエステル、ポリウレタン、ビニル系ポリマー等が挙げられるが、その保存安定性の観点から、ビニル単量体(ビニル化合物、ビニリデン化合物、ビニレン化合物)の付加重合により得られるビニル系ポリマーが好ましい。
【0020】
〔ビニル系ポリマー(以下、単に「ビニルポリマー」ともいう)〕
ビニルポリマーとしては、(a)塩生成基含有モノマー(以下「(a)成分」ともいう)と、(b)マクロマー(以下「(b)成分」ともいう)及び/又は(c)疎水性モノマー(以下「(c)成分」ともいう)とを含むモノマー混合物(以下、単に「モノマー混合物」ともいう)を共重合させてなるビニルポリマーが好ましい。このビニルポリマーは、(a)成分由来の構成単位と、(b)成分由来の構成単位及び/又は(c)成分由来の構成単位を有する。より好適なビニルポリマーは、(a)成分由来の構成単位、又は(a)及び(c)成分由来の構成単位を主鎖として有し、(b)成分由来の構成単位を側鎖として有する水不溶性ビニル系グラフトポリマーである。
【0021】
〔(a)塩生成基含有モノマー〕
(a)塩生成基含有モノマーは、得られる分散体の保存安定性を高める観点から用いられる。塩生成基としては、カルボキシ基、スルホン酸基、リン酸基、アミノ基、アンモニウム基等が挙げられる。
塩生成基含有モノマーとしては、特開平9−286939号公報段落〔0022〕等に記載されているカチオン性モノマー、アニオン性モノマー等が挙げられる。
カチオン性モノマーの代表例としては、不飽和アミン含有モノマー、不飽和アンモニウム塩含有モノマー等が挙げられる。これらの中では、N,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N−(N’,N’−ジメチルアミノプロピル)(メタ)アクリルアミド及びビニルピロリドンが好ましい。
アニオン性モノマーの代表例としては、不飽和カルボン酸モノマー、不飽和スルホン酸モノマー、不飽和リン酸モノマー等が挙げられる。
不飽和カルボン酸モノマーとしては、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸、2−メタクリロイルオキシメチルコハク酸等が挙げられる。不飽和スルホン酸モノマーとしては、スチレンスルホン酸、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、3−スルホプロピル(メタ)アクリレート、ビス−(3−スルホプロピル)−イタコン酸エステル等が挙げられる。不飽和リン酸モノマーとしては、ビニルホスホン酸、ビニルホスフェート、ビス(メタクリロキシエチル)ホスフェート、ジフェニル−2−アクリロイルオキシエチルホスフェート、ジフェニル−2−メタクリロイルオキシエチルホスフェート、ジブチル−2−アクリロイルオキシエチルホスフェート等が挙げられる。
上記アニオン性モノマーの中では、保存安定性、吐出安定性の観点から、不飽和カルボン酸モノマーが好ましく、アクリル酸及びメタクリル酸がより好ましい。
【0022】
〔(b)マクロマー〕
(b)マクロマーは、顔料を含有するポリマー粒子の保存安定性を高める観点から用いられる。マクロマーとしては、数平均分子量500〜100,000、好ましくは1,000〜10,000の重合可能な不飽和基を有するモノマーであるマクロマーが好ましく挙げられる。なお、(b)マクロマーの数平均分子量は、溶媒として1mmol/Lのドデシルジメチルアミンを含有するクロロホルムを用いたゲルクロマトグラフィー法により、標準物質としてポリスチレンを用いて測定される。
(b)マクロマーの中では、顔料を含有するポリマー粒子の保存安定性等の観点から、片末端に重合性官能基を有する、スチレン系マクロマー、芳香族基含有(メタ)アクリレート系マクロマー、及びシリコーン系マクロマーからなる郡から選ばれる一種以上が好ましい。
スチレン系マクロマーとしては、スチレン系モノマー単独重合体、又はスチレン系モノマーと他のモノマーとの共重合体が挙げられる。スチレン系モノマーとしては、スチレン、2−メチルスチレン、ビニルトルエン、エチルビニルベンゼン、ビニルナフタレン、クロロスチレン等が挙げられる。
【0023】
芳香族基含有(メタ)アクリレート系マクロマーとしては、芳香族基含有(メタ)アクリレートの単独重合体又はそれと他のモノマーとの共重合体が挙げられる。芳香族基含有(メタ)アクリレートとしては、ヘテロ原子を含む置換基を有していてもよい、炭素数7〜22、好ましくは炭素数7〜18、更に好ましくは炭素数7〜12のアリールアルキル基、又は、ヘテロ原子を含む置換基を有していてもよい、炭素数6〜22、好ましくは炭素数6〜18、更に好ましくは炭素数6〜12のアリール基を有する(メタ)アクリレートであり、ヘテロ原子を含む置換基としては、ハロゲン原子、エステル基、エーテル基、ヒドロキシ基等が挙げられる。例えばベンジル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシ−3−フェノキシプロピルアクリレート、2−メタクリロイロキシエチル−2−ヒドロキシプロピルフタレート等が挙げられ、特にベンジル(メタ)アクリレートが好ましい。
また、それらのマクロマーの片末端に存在する重合性官能基としては、アクリロイルオキシ基又はメタクリロイルオキシ基が好ましく、共重合される他のモノマーとしては、アクリロニトリル等が好ましい。
スチレン系マクロマー中におけるスチレン系モノマー、又は芳香族基含有(メタ)アクリレート系マクロマー中における芳香族基含有(メタ)アクリレートの含有量は、顔料との親和性を高める観点から、好ましくは50重量%以上、より好ましくは70重量%以上である。
【0024】
(b)マクロマーは、オルガノポリシロキサン等の他の構成単位からなる側鎖を有するものであってもよい。この側鎖は、例えば下記式(1)で表される片末端に重合性官能基を有するシリコーン系マクロマーを共重合することにより得ることができる。
CH2=C(CH3)-COOC36-〔Si(CH32O〕t-Si(CH33 (1)
(式中、tは8〜40の数を示す。)。
(b)成分として商業的に入手しうるスチレン系マクロマーとしては、例えば、東亜合成株式会社の商品名、AS−6(S)、AN−6(S)、HS−6(S)等が挙げられる。
【0025】
〔(c)疎水性モノマー〕
(c)疎水性モノマーは、印字濃度の向上の観点から用いられる。疎水性モノマーとしては、アルキル(メタ)アクリレート、芳香族基含有モノマー等が挙げられる。
アルキル(メタ)アクリレートとしては、炭素数1〜22、好ましくは炭素数6〜18のアルキル基を有するものが好ましく、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、(イソ)プロピル(メタ)アクリレート、(イソ又はターシャリー)ブチル(メタ)アクリレート、(イソ)アミル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、(イソ)オクチル(メタ)アクリレート、(イソ)デシル(メタ)アクリレート、(イソ)ドデシル(メタ)アクリレート、(イソ)ステアリル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
なお、本明細書において、「(イソ又はターシャリー)」及び「(イソ)」は、これらの基が存在する場合としない場合の双方を意味し、これらの基が存在しない場合には、ノルマルを示す。また、「(メタ)アクリレート」は、アクリレート、メタクリレート又はそれらの両方を示す。
【0026】
芳香族基含有モノマーとしては、ヘテロ原子を含む置換基を有していてもよい、炭素数6〜22、好ましくは炭素数6〜18、更に好ましくは炭素数6〜12の芳香族基を有するビニルモノマーが好ましく、例えば、前記のスチレン系モノマー(c−1成分)、前記の芳香族基含有(メタ)アクリレート(c−2成分)が挙げられる。ヘテロ原子を含む置換基としては、前記のものが挙げられる。
(c)成分の中では、印字濃度向上の観点から、スチレン系モノマー(c−1成分)が好ましく、スチレン系モノマーとしては特にスチレン及び2−メチルスチレンが好ましい。(c)成分中の(c−1)成分の含有量は、印字濃度向上の観点から、好ましくは10〜100重量%、より好ましくは20〜80重量%である。
また、芳香族基含有(メタ)アクリレート(c−2)成分としては、ベンジル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート等が好ましい。(c)成分中の(c−2)成分の含有量は、印字濃度及び保存安定性の向上の観点から、好ましくは10〜100重量%、より好ましくは20〜80重量%である。また、(c−1)成分と(c−2)成分を併用することも好ましい。
【0027】
〔(d)水酸基含有モノマー〕
モノマー混合物には、更に、(d)水酸基含有モノマー(以下「(d)成分」ともいう)が含有されていてもよい。(d)水酸基含有モノマーは、保存安定性を高めるという優れた効果を発現させるものである。
(d)成分としては、例えば、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール(n=2〜30、nはオキシアルキレン基の平均付加モル数を示す。以下同じ)(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコール(n=2〜30)(メタ)アクリレート、ポリ(エチレングリコール(n=1〜15)・プロピレングリコール(n=1〜15))(メタ)アクリレート等が挙げられる。これらの中では、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノメタクリレート、ポリプロピレングリコールメタクリレートが好ましい。
【0028】
〔(e)式(2)で表されるモノマー〕
モノマー混合物には、更に、(e)下記式(2)で表されるモノマー(以下「(e)成分」ともいう)が含有されていてもよい。
CH2=C(R1)COO(R2O)q3 (2)
(式中、R1は、水素原子又は炭素数1〜5の低級アルキル基、R2は、ヘテロ原子を有していてもよい炭素数1〜30の2価の炭化水素基、R3は、ヘテロ原子を有していてもよい炭素数1〜30の1価の炭化水素基又は炭素数1〜9のアルキル基を有してもよいフェニル基、qは、平均付加モル数を意味し、1〜60の数、好ましくは1〜30の数を示す。)
(e)成分は、吐出性を向上するという優れた効果を発現する。
式(2)のモノマーに含まれるヘテロ原子としては、例えば、窒素原子、酸素原子、ハロゲン原子及び硫黄原子が挙げられる。
1の好適例としては、メチル基、エチル基、(イソ)プロピル基等が挙げられる。
2O基の好適例としては、オキシエチレン基、オキシトリメチレン墓、オキシプロパン−1,2−ジイル基、オキシテトラメチレン基、オキシヘプタメチレン基、オキシヘキサメチレン基及びこれらの2種以上の組合せからなる炭素数2〜7のオキシアルカンジイル基(オキシアルキレン基)が挙げられる。
3の好適例としては、炭素数1〜30、好ましくは炭素数1〜20、更に好ましくは炭素数1〜8の脂肪族アルキル基、芳香族環を有する炭素数7〜30のアルキル基及びヘテロ環を有する炭素数4〜30のアルキル基、炭素数1〜8のアルキル基を有していてもよいフェニル基が好ましく挙げられる。
【0029】
(e)成分の具体例としては、メトキシポリエチレングリコール(1〜30:式(2)中のqの値を示す。以下、同じ)(メタ)アクリレート、メトキシポリテトラメチレングリコール(1〜30)(メタ)アクリレート、エトキシポリエチレングリコール(1〜30)(メタ)アクリレート、オクトキシポリエチレングリコール(1〜30)(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール(1〜30)(メタ)アクリレート2−エチルヘキシルエーテル、(イソ)プロポキシポリエチレングリコール(1〜30)(メタ)アクリレート、ブトキシポリエチレングリコール(1〜30)(メタ)アクリレート、メトキシポリプロピレングリコール(1〜30)(メタ)アクリレート、メトキシ(エチレングリコール・プロピレングリコール共重合)(1〜30、その中のエチレングリコール:1〜29)(メタ)アクリレート等が挙げられる。これらの中では、オクトキシポリエチレングリコール(1〜30)(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール(1〜30)(メタ)アクリレート2−エチルヘキシルエーテルが好ましい。
【0030】
商業的に入手しうる(d)、(e)成分の具体例としては、新中村化学工業株式会社の多官能性アクリレートモノマー(NKエステル)M−40G、同90G、同230G、日本油脂株式会社のブレンマーシリーズ、PE−90、同200、同350、PME−100、同200、同400、同1000、PP−500、同800、同1000、AP−150、同400、同550、同800、50PEP−300、50POEP−800B、43PAPE600B等が挙げられる。
上記(a)〜(e)成分は、それぞれ単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
【0031】
ビニルポリマー製造時における、上記(a)〜(e)成分のモノマー混合物中における含有量(未中和量としての含有量。以下同じ)又はビニルポリマー中における(a)〜(e)成分に由来する構成単位の含有量は、次のとおりである。
(a)成分の含有量は、得られる分散体の保存安定性の観点から、好ましくは3〜40重量%、より好ましくは4〜30重量%、特に好ましくは5〜25重量%である。
(b)成分の含有量は、特に顔料との相互作用を高める観点から、好ましくは1〜25重量%、より好ましくは5〜20重量%である。
(c)成分の含有量は、印字濃度向上の観点から、好ましくは5〜98重量%、より好ましくは10〜60重量%である。
(d)成分の含有量は、得られる分散体の保存安定性の観点から、好ましくは5〜40重量%、より好ましくは7〜20重量%である。
(e)成分の含有量は、吐出性向上の観点から、好ましくは5〜50重量%、より好ましくは10〜40重量%である。
モノマー混合物中における〔(a)成分+(d)成分〕の合計含有量は、得られる分散体の保存安定性の観点から、好ましくは6〜60重量%、より好ましくは10〜50重量%である。〔(a)成分+(e)成分〕の合計含有量は、得られる分散体の保存安定性及び吐出性の観点から、好ましくは6〜75重量%、より好ましくは13〜50重量%である。また、〔(a)成分+(d)成分+(e)成分〕の合計含有量は、得られる分散体の保存安定性及び吐出性の観点から、好ましくは6〜60重量%、より好ましくは7〜50重量%である。
また、〔(a)成分/[(b)成分+(c)成分]〕の重量比は、得られる分散体の分散安定性及び印字濃度の観点から、好ましくは0.01〜1、より好ましくは0.02〜0.67、更に好ましくは0.03〜0.50である。
【0032】
〔ポリマーの製造〕
前記ポリマーは、塊状重合法、溶液重合法、懸濁重合法、乳化重合法等の公知の重合法により、モノマー混合物を共重合させることによって製造される。これらの重合法の中では、溶液重合法が好ましい。
溶液重合法で用いる溶媒としては、特に限定されないが、極性有機溶媒が好ましい。極性有機溶媒が水混和性を有する場合には、水と混合して用いることもできる。極性有機溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール等の炭素数1〜3の脂肪族アルコール;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類;酢酸エチル等のエステル類等が挙げられる。これらの中では、メタノール、エタノール、アセトン、メチルエチルケトン又はこれらの1種以上と水との混合溶媒が好ましい。
重合の際には、2,2'−アゾビスイソブチロニトリル、2,2'−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)等のアゾ化合物や、t−ブチルペルオキシオクトエート、ジベンゾイルオキシド等の有機過酸化物等の公知のラジカル重合開始剤を用いることができる。ラジカル重合開始剤の量は、モノマー混合物1モルあたり、好ましくは0.001〜5モル、より好ましくは0.01〜2モルである。
重合の際には、さらに、オクチルメルカプタン、2−メルカプトエタノール等のメルカプタン類、チウラムジスルフィド類等の公知の重合連鎖移動剤を添加してもよい。
【0033】
モノマー混合物の重合条件は、使用するラジカル重合開始剤、モノマー、溶媒の種類等によって異なるので一概には決定することができない。通常、重合温度は、好ましくは30〜100℃、より好ましくは50〜80℃であり、重合時間は、好ましくは1〜20時間である。また、重合雰囲気は、窒素ガス雰囲気、アルゴン等の不活性ガス雰囲気であることが好ましい。
重合反応の終了後、反応溶液から再沈澱、溶媒留去等の公知の方法により、生成したポリマーを単離することができる。また、得られたポリマーは、再沈澱を繰り返したり、膜分離、クロマトグラフ法、抽出法等により、未反応のモノマー等を除去して精製することができる。
【0034】
本発明で用いられるポリマーの重量平均分子量は、印字濃度及び顔料の保存安定性の観点から、5,000〜50万が好ましく、1万〜40万がより好ましく、1万〜30万が更に好ましく、2万〜30万が特に好ましい。なお、ポリマーの重量平均分子量は、実施例で示す方法により測定することができる。
本発明で用いられるポリマーは、(a)塩生成基含有モノマー由来の塩生成基を有している場合は中和剤により中和して用いる。中和剤としては、ポリマー中の塩生成基の種類に応じて、酸又は塩基を使用することができる。例えば、塩酸、酢酸、プロピオン酸、リン酸、硫酸、乳酸、コハク酸、グリコール酸、グルコン酸、グリセリン酸等の酸、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア、メチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、トリエタノールアミン、トリブチルアミン等の塩基が挙げられる。
【0035】
ポリマーの塩生成基の中和度は、保存安定性の観点から、50〜150%であることが好ましく、さらに50〜100%、特に60〜100%であることが好ましい。
ポリマーを架橋させる場合は、架橋前のポリマーの塩生成基の中和度は、保存安定性と架橋効率の観点から、10〜90%であることが好ましく、さらに20〜80%、特に30〜80%であることが好ましい。
ここで中和度は、塩生成基がアニオン性基である場合、下記式によって求めることができる。
{[中和剤の重量(g)/中和剤の当量]/[ポリマーの酸価(KOHmg/g)×ポリマーの重量(g)/(56×1000)]}×100
塩生成基がカチオン性基である場合は、下記式によって求めることができる。
{[中和剤の重量(g)/中和剤の当量]/[ポリマーのアミン価(HCLmg/g)×ポリマーの重量(g)/(36.5×1000)]}×100
酸価やアミン価は、ポリマーの構成単位から、計算で算出することができる。又は、適当な溶剤(例えばメチルエチルケトン)にポリマーを溶解して、滴定する方法でも求めることができる。
【0036】
〔架橋剤〕
本発明においては、キナクリドン固溶体顔料を含有する水不溶性ポリマー粒子の保存安定性を向上させるために、水不溶性ポリマー粒子を構成する水不溶性ポリマーを、分子中に2以上の反応性官能基を有する架橋剤で架橋してなる架橋ポリマーとすることが好ましい。
架橋剤の分子量は、反応のし易さ、及び得られる架橋ポリマー粒子の保存安定性の観点から、120〜2000が好ましく、150〜1500が更に好ましく、150〜1000が特に好ましい。
架橋剤に含まれる反応性官能基の数は、分子量を制御して保存安定性を向上する観点から、2〜6が好ましい。反応性官能基としては、水酸基、エポキシ基、アルデヒド基、アミノ基、カルボキシ基、オキサゾリン基、及びイソシアネート基からなる群から選ばれる1以上が好ましく挙げられる。
架橋剤は、効率よく、ポリマーを表面架橋する観点から、25℃の水100gに溶解させたときに、その溶解量が好ましくは50g以下、更に好ましくは40g以下、より更に好ましくは30g以下である。
【0037】
架橋剤の具体例としては、次の(a)〜(f)が挙げられる。
(a)分子中に2以上の水酸基を有する化合物:例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、グリセリン、ポリグリセリン、プロピレングルコール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ネオペンチルアルコール、ジエタノールアミン、トリジエタノールアミン、ポリプロピレングリコール、ポリビニルアルコール、ペンタエリスリトール、ソルビット、ソルビタン、グルコース、マンニット、マンニタン、ショ糖、ブドウ糖等の多価アルコール。
(b)分子中に2以上のエポキシ基を有する化合物:例えば、エチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、グリセリントリグリシジルエーテル、グリセロールポリグリシジルエーテル、ポリグリセロールポリグリシジルエーテル、トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル、ソルビトールポリグリシジルエーテル、ペンタエリスリトールポリグリシジルエーテル、レゾルシノールジグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、水添ビスフェノールA型ジグリシジルエーテル等のポリグリシジルエーテル。
(c)分子中に2以上のアルデヒド基を有する化合物:例えば、グルタールアルデヒド、グリオキザール等のポリアルデヒド。
(d)分子中に2以上のアミノ基を有する化合物:例えば、エチレンジアミン、ポリエチレンイミン等のポリアミン。
【0038】
(e)分子中に2以上のカルボキシ基を有する化合物:例えば、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、フマル酸、マレイン酸、アジピン酸の等多価カルボン酸。
(f)分子中に2以上のオキサゾリン基を有する化合物:例えば、脂肪族基又は芳香族基に2個以上、好ましくは2〜3個のオキサゾリン基が結合した化合物、より具体的には、2,2’−ビス(2−オキサゾリン)、1,3−フェニレンビスオキサゾリン、1,3−ベンゾビスオキサゾリン等のビスオキサゾリン化合物、該化合物と多塩基性カルボン酸とを反応させて得られる末端オキサゾリン基を有する化合物。
(g)分子中に2以上のイソシアネート基を有する化合物:例えば、有機ポリイソシアネート又はイソシアネート基末端プレポリマー。
有機ポリイソシアネートとしては、例えばヘキサメチレンジイソシアネート、2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート等の脂肪族ジイソシアネート;トリレン−2,4−ジイソシアネート、フェニレンジイソシアネート等の芳香族ジイソシアネート;脂環式ジイソシアネート;芳香族トリイソシアネート;それらのウレタン変性体等の変性体が挙げられる。イソシアネート基末端プレポリマーは、有機ポリイソシアネート又はその変性体と低分子量ポリオール等とを反応させることにより得ることができる。
これらの中では、(b)分子中に2以上のエポキシ基を有する化合物が好ましく、特にエチレングリコールジグリシジルエーテル、トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテルが好ましい。
【0039】
本発明で用いられるポリマーは、架橋剤と反応しうる反応性基(架橋性官能基)を有するが、両者の好適な組合せ例は、次のとおりである。
ポリマーの反応性基がカルボキシ基、スルホン酸基、硫酸基、ホスホン酸基、リン酸基等のアニオン性基の場合は、架橋剤は前記(a)、(b)、(d)、(f)及び(g)化合物が好ましい。ポリマーの反応性基がアミノ基の場合は、架橋剤は前記(b)、(c)、(e)及び(g)化合物が好ましい。ポリマーの反応性基が水酸基の場合は、架橋剤は前記(c)、(e)及び(g)化合物が好ましい。ポリマーの反応性基がイソシアネート基、エポキシ基の場合は、架橋剤は前記(a)、(d)及び(e)化合物が好ましい。
上記の組合せの中では、ポリマーに適度な架橋構造を付与するように制御する観点から、架橋剤が、ポリマーのアニオン性基と反応する官能基を有することが好ましく、(b)分子中に2つ以上のエポキシ基を有する化合物との組合せが特に好ましい。
【0040】
架橋剤と反応しうる反応性基(架橋性官能基)として、カルボキシ基、スルホン酸基、リン酸基等のアニオン性基、アミノ基、水酸基、イソシアネート基、エポキシ基等を有するポリマーは、上記したポリマーの製造において、該反応性基を有するモノマーを含む重合性モノマー組成物を共重合することによって製造することができる。
架橋剤と反応しうる反応性基として、アニオン性基、アミノ基等の塩生成基を有するポリマーとしては、前述の塩生成基含有モノマーを共重合したポリマーを用いることができる。また、架橋剤と反応しうる反応性基として水酸基を有するポリマーとしては、前述の水酸基含有モノマーを共重合したポリマーを用いることができる。
架橋剤と反応しうる反応性基としてエポキシ基を有するポリマーとしては、エポキシ基を有するモノマー、具体的にはグリシジル(メタ)アクリレートを共重合したポリマーを用いることができる。架橋剤と反応しうる反応性基としてイソシアネート基を有するポリマーとしては、(i)イソシアネート基を有するモノマー、例えばイソシアネートエチル(メタ)アクリレートを共重合したポリマー、(ii)不飽和ポリエステルポリオールとイソシアネートから得られるイソシアネート末端プレポリマーを共重合したポリマー等を用いることができる。
【0041】
〔顔料を含有する架橋ポリマー粒子〕
本発明の水系インクは、水の含有量が40〜60重量%であり、親水性有機溶媒等の溶媒、グリセリン等の湿潤剤等を含有することから、顔料を含有するポリマー粒子を架橋剤で架橋してなる、顔料を含有する架橋ポリマー粒子(以下、「顔料含有架橋ポリマー粒子」ともいう)を用いることが好ましい。
本発明の顔料含有架橋ポリマー粒子は、該架橋ポリマー1g当たり、塩基で中和されたアニオン性基を0.5mmol/g以上含有することが好ましい。
塩基で中和されたアニオン性基の具体例としては、カルボキシイオン(−COOM1)、スルホン酸イオン(−SO31)、リン酸イオン(−PO312)等が挙げられる。
上記化学式中、M1は、同一でも異なってもよく、リチウム、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属;アンモニウム;モノメチルアンモニウム基、ジメチルアンモニウム基、トリメチルアンモニウム基;モノエチルアンモニウム基、;トリメタノールアンモニウム基等の有機アンモニウム等である。
塩基としては、水酸化ナトリウム等のアルカリ水酸化物、アルカリ土類水酸化物、アミン、トリエタノールアミンなどの有機アミン、塩基性アミノ酸等である。
塩基で中和されたアニオン性基は、解離して、アニオンのイオン同士の電荷反発により、顔料含有架橋ポリマー粒子の安定性に寄与すると考えられる。
【0042】
顔料含有架橋ポリマー粒子同士の電荷反発により、低含水量でも保存安定性を向上させる観点から、該架橋ポリマー1g当たり、塩基で中和されたアニオン性基の量は好ましくは0.5〜5mmol/g、好ましくは0.7〜3mmol/g、より好ましくは0.7〜2mmol/g、更に好ましくは0.7〜1.5mmol/g、特に好ましくは1.0〜1.5mmol/gである。上記範囲内であれば、顔料濃度が高く、水分量が少ない水系インクにおいても保存安定性が高い。
従って、本発明の水系インクは、下記工程(1)〜(4)を有する、無置換キナクリドンとジクロロキナクリドンからなるキナクリドン固溶体顔料を含有する架橋ポリマー粒子を含む水系インクの製造方法であって、水の含有量が40〜60重量%である方法により製造することが好ましい。
工程(1):無置換キナクリドンとジクロロキナクリドンからなるキナクリドン固溶体顔料を、70〜150℃で24時間以上加熱処理する工程
工程(2):水不溶性ポリマー、有機溶媒、工程(1)で加熱処理して得られたキナクリドン固溶体顔料、及び水を含有する混合物を分散処理して、前記顔料を含有する水不溶性ポリマーからなる粒子の分散体を得る工程
工程(3):工程(2)で得られた分散体から前記有機溶媒を除去して、前記顔料を含有する水不溶性ポリマー粒子の水分散体を得る工程
工程(4):工程(3)で得られた水分散体と、分子中に2以上の反応性官能基を有する架橋剤とを混合し、前記水不溶性ポリマーを架橋して着色剤を含有する架橋ポリマー粒子を含む水系インクを得る工程
【0043】
工程(1)では、前述したように、無置換キナクリドンとジクロロキナクリドンからなるキナクリドン固溶体顔料を、加熱処理する。
工程(2)では、前記ポリマーを有機溶媒に溶解させ、次に固溶体顔料、水、及び必要に応じて中和剤、界面活性剤等を、得られた有機溶媒溶液に加えて混合し、水中油型の分散体を得る方法が好ましい。混合物中、固溶体顔料は、5〜50重量%が好ましく、10〜40重量%がより好ましく、有機溶媒は、10〜70重量%が好ましく、10〜50重量%がより好ましく、水不溶性ポリマーは、2〜40重量%が好ましく、3〜20重量%がより好ましく、水は、10〜70重量%が好ましく、20〜70重量%がより好ましい。
前記ポリマーと固溶体顔料との合計量に対する顔料量の重量比〔固溶体顔料/(水不溶性ポリマー+固溶体顔料)〕は、保存安定性の観点から、55/100〜90/100であることが好ましく、70/100〜85/100であることがより好ましい。
水不溶性ポリマーが塩生成基を有する場合、中和剤を用いることが好ましい。中和剤を用いて中和する場合の中和度には、特に限定がない。通常、最終的に得られる水分散体の液性が中性、例えば、pHが4.5〜10であることが好ましい。前記水不溶性ポリマーの望まれる中和度により、pHを決めることもできる。中和剤としては、前記のものが挙げられる。また、水不溶性ポリマーを予め中和しておいてもよい。
有機溶媒としては、エタノール、イソプロパノール、イソブタノール等のアルコール系溶媒、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジエチルケトン等のケトン系溶媒及びジブチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル系溶媒が挙げられる。好ましくは、水100gに対する溶解量が20℃において、好ましくは5g以上、更に好ましくは10g以上であり、より具体的には、好ましくは5〜80g、更に好ましくは10〜50gのものであり、特に、メチルエチルケトン及びメチルイソブチルケトンが好ましい。
【0044】
工程(2)における混合物の分散方法に特に制限はない。本分散だけで水不溶性ポリマー粒子の平均粒径を所望の粒径となるまで微粒化することもできるが、好ましくは予備分散させた後、さらに剪断応力を加えて本分散を行い、水不溶性ポリマー粒子の平均粒径を所望の粒径とするよう制御することが好ましい。工程(1)の分散は、5〜50℃が好ましく、10〜35℃が更に好ましく、分散時間は1〜30時間が好ましく、2〜25時間が更に好ましい。
混合物を予備分散させる際には、アンカー翼等の一般に用いられている混合撹拌装置を用いることができる。混合撹拌装置の中では、ウルトラディスパー〔浅田鉄鋼株式会社、商品名〕、エバラマイルダー〔株式会社荏原製作所、商品名〕、TKホモミクサー〔プライミクス株式会社、商品名〕等の高速攪拌混合装置が好ましい。
本分散の剪断応力を与える手段としては、例えば、ロールミル、ビーズミル、ニーダー、エクストルーダ等の混練機、高圧ホモゲナイザー〔株式会社イズミフードマシナリ、商品名〕、ミニラボ8.3H型〔Rannie社、商品名〕に代表されるホモバルブ式の高圧ホモジナイザー、マイクロフルイダイザー〔Microfluidics社、商品名〕、ナノマイザー〔ナノマイザー株式会社、商品名〕等のチャンバー式の高圧ホモジナイザー等が挙げられる。これらの装置は複数を組み合わせることもできる。これらの中では、固溶体顔料の小粒子径化の観点から、高圧ホモジナイザーが好ましい。
【0045】
工程(3)では、得られた分散体から、公知の方法で有機溶媒を留去して水系にすることで、固溶体顔料を含有する水不溶性ポリマー粒子の水分散体を得ることができる。得られた水不溶性ポリマー粒子を含む水分散体中の有機溶媒は実質的に除去されていることが好ましい。残留有機溶媒の量は0.1重量%以下が好ましく、0.01重量%以下であることがより好ましい。
得られた固溶体顔料を含有する水不溶性ポリマー粒子の水分散体は、固溶体顔料を含有する水不溶性ポリマーの固体分が水を主溶媒とする中に分散しているものである。ここで、水不溶性ポリマー粒子の形態は特に制限はなく、少なくとも固溶体顔料と水不溶性ポリマーにより粒子が形成されていればよい。例えば、水不溶性ポリマーに固溶体顔料が内包された粒子形態、水不溶性ポリマー中に固溶体顔料が均一に分散された粒子形態、水不溶性ポリマー粒子表面に固溶体顔料が露出された粒子形態等が含まれる。
【0046】
工程(4)では、保存安定性の観点から、固溶体顔料を含有するポリマー粒子と架橋剤とを混合して水不溶性ポリマーを架橋させて固溶体顔料含有架橋ポリマー粒子を得ることが好ましい。これにより、水不溶性ポリマー粒子の外延部を架橋することができ、粒子から離脱するポリマーを固着させることができるため、保存安定性の観点から好ましい。より好ましくは、固溶体顔料を含有するポリマー粒子の水分散体と架橋剤とを混合して、水不溶性ポリマーを架橋させ、固溶体顔料含有架橋ポリマー粒子の水分散体を得る方法である。ポリマーが水不溶性であるため、架橋剤の水への溶解量が前述の通りであることが、水不溶性ポリマー粒子の外延部を架橋する際の、架橋効率の観点から好ましい。
工程(4)では、用いる架橋剤により、触媒、溶媒、温度、時間は適宜選択して決定することができる。架橋反応の時間は、好ましくは0.5〜10時間、より好ましくは1〜5時間、架橋反応の温度は、好ましくは40〜95℃である。
架橋剤(分子中に2以上の反応性官能基を有する化合物)の使用量は、保存安定性の観点から、〔架橋剤/水不溶性ポリマー〕の重量比で、好ましくは0.3/100〜50/100、より好ましくは0.3/100〜35/100、より好ましくは2/100〜30/100、更に好ましくは5/100〜25/100、特に好ましくは5/100〜20/100である。
架橋ポリマー粒子の安定性を向上させる観点から、架橋剤の使用量は、該水不溶性ポリマー1g当たりの前記架橋剤の使用量(架橋剤のモル数×架橋剤1分子が有する反応性官能基の数)が、好ましくは0.1〜3mmol/g、より好ましくは0.4〜2.5mmol/g、より好ましくは0.7〜2.5mmol/g、更に好ましくは0.7〜2.0mmol/g、特に好ましくは0.7〜1.5mmol/gである。
【0047】
ここで、下記式(3)から求められる架橋ポリマーの架橋率(モル%)は、保存安定性の観点から、好ましくは10〜80モル%、より好ましくは20〜80モル%、更に好ましくは30〜60モル%である。架橋率は、架橋剤の使用量と反応性基のモル数、ポリマーの使用量と架橋剤の反応性基と反応できるポリマーの反応性基のモル数から計算で求めることができる値である。
架橋率(モル%)=[架橋剤の反応性基のモル数×100/ポリマーが有する架橋剤と反応できる反応性基のモル数] (3)
式(3)において、「架橋剤の反応性基のモル数」とは、使用する架橋剤の重量を反応性基の当量で除した値である。即ち、使用する架橋剤のモル数に架橋剤1分子中の反応性基の数を乗じたものである。
架橋ポリマーと顔料との合計量に対する顔料量の重量比〔顔料/(架橋ポリマー+顔料)〕は、保存安定性の観点から、好ましくは55/100〜90/100、より好ましくは70/100〜85/100である。
【0048】
〔インクジェット記録用水系インク〕
本発明のインクジェット記録用水系インクは、固溶体顔料を含有する架橋ポリマー粒子を含む水分散体に、インクジェット記録用水系インクに通常用いられる親水性有機溶媒、湿潤剤、浸透剤、分散剤、粘度調整剤、消泡剤、防黴剤、防錆剤等を添加して調製することができる。
本発明のインクジェット記録用水系インクは、良好な吐出性を維持するために、インク粘度(20℃)として好ましくは2〜20mPa・s、より好ましくは5〜15mPa・sである。
本発明の水系インクの好ましい表面張力(20℃)は、水系インクとしては、好ましくは20〜50mN/m、より好ましくは27〜45mN/mである。また、水系インクのpHは好ましくは4〜12、より好ましくは5〜11である。
水系インク中の顔料含有ポリマー粒子及び/又は顔料含有架橋ポリマー粒子の含有量は、印字濃度と保存安定性の観点から、好ましくは3〜30重量%、より好ましくは4〜30重量%、より好ましくは6〜25重量%、更に好ましくは8〜20重量%、特に好ましくは10〜15重量%である。
水系インク中の固溶体顔料の含有量は、印字濃度と保存安定性の観点から、好ましくは1〜20重量%、より好ましくは5〜12重量%、更に好ましくは6〜10重量%である。なお、水系インクを調製する前の水分散体中の顔料の含有量は、印字濃度と保存安定性の観点から、好ましくは10〜50重量%、より好ましくは15〜40重量%である。
また、顔料含有ポリマー粒子及び/又は顔料含有架橋ポリマー粒子の平均粒径は、プリンターのノズルの目詰まり防止及び保存安定性の観点から、好ましくは10〜500nm、より好ましくは30〜300nm、更に好ましくは50〜200nmである。なお、平均粒径の測定は、レーザー粒子解析システム(大塚電子株式会社製、ELS−8000)を用いて、フィルターを3%としたときのコリレータ感度が8000〜13000になるようにイオン交換水でインクを希釈し、インク中の顔料含有ポリマー粒子の平均粒径を測定した。測定条件は、温度が25℃、入射光と検出器との角度が90°、積算回数が200回であり、分散溶媒の屈折率として水の屈折率(1.333)を入力した。
【実施例】
【0049】
以下の製造例、実施例及び比較例において、「部」及び「%」は特記しない限り「重量部」及び「重量%」である。なお、ポリマーの重量平均分子量、ポリマー粒子の平均粒径、インク粘度、結晶子径の測定、及び(結晶ピーク強度/アモルファス相に起因するハローパターン強度)比の算出は、以下の方法により行った。
(1)ポリマーの重量平均分子量の測定
溶媒として、60mmol/Lのリン酸と50mmol/Lのリチウムブロマイドを含有するN,N−ジメチルホルムアミドを用いたゲルクロマトグラフィー法〔東ソー株式会社製GPC装置(HLC−8120GPC)、東ソー株式会社製カラム(TSK-GEL、α−M×2本)、流速:1mL/min〕により、標準物質としてポリスチレンを用いて測定した。
【0050】
(2)着色剤含有架橋ポリマー粒子の平均粒径の測定
大塚電子株式会社のレーザー粒子解析システムELS−8000(キュムラント解析)を用いて測定した。測定条件は、温度25℃、入射光と検出器との角度90°、積算回数100回であり、分散溶媒の屈折率として水の屈折率(1.333)を入力する。測定濃度は、約5×10-3重量%で行った。
(3)インク粘度
粘度は、東機産業株式会社製のE型粘度計「VISCOMETER ELS−80L」を用い、測定条件として測定温度20℃、測定時間1分、ローター回転数100rpmで、ローター(1°34′×R24)を使用して行った。
【0051】
(4)固溶体顔料の粉末X線測定による結晶子径の測定、及び(結晶ピーク強度/アモルファス相に起因するハローパターン強度)比の算出
CuKα線をX線源とした粉末X線回折装置(株式会社リガク製、RINT2500)を使用し,管電圧を40kV、管電流を120mA、走査範囲(2θ)を5°〜40°、発散スリットを1°、散乱スリットを自動とし、受光スリットを0.3mmとした条件で測定した。また、サンプリング幅を0.01°、スキャンスピードを10°/minとした。プロファイルフィッティングは、MDI社製の粉末X線回折パターン解析ソフトJADE5.0+を用いて行った。プロファイルの平滑化は Savitzky-Golay 法に従った。バックグランドは理想的な位置に固定した。
結晶子径は2θが20°〜30°の範囲における最大ピークから、半値幅法によりシェラーの式に従い、シェラー定数を0.9として計算により求めた。
(結晶ピーク強度/アモルファス相に起因するハローパターン強度)の比は、図1に示すように、2θが20°〜30°の範囲における最大ピーク強度における2θ値から−0.6°した2θ値での強度をA値、最大ピーク値での2θ値から+0.6°した2θ値での強度をB値とし、A値とB値を結んだ直線と最大ピーク強度における2θ値とが交わる点での強度をC値とすると、アモルファス相に起因するハローパターン強度はC値で表され、結晶ピーク強度は、最大ピーク強度値からC値を減じた値で表される。よって、(結晶ピーク強度/アモルファス相に起因するハローパターン強度)の比は、〔(最大ピーク強度値−C値)/C値〕の比として求められる。
【0052】
製造例1(ポリマーの製造)
反応容器内に、MEK(メチルエチルケトン)20部及び重合連鎖移動剤(2−メルカプトエタノール)0.03部、表1に示すモノマー混合物200部のうち10%を入れて混合し、窒素ガス置換を十分に行い、混合溶液を得た。
一方、滴下ロートに、表1に示すモノマー混合物の残りの90%を仕込み、前記重合連鎖移動剤0.27部、MEK60部及びラジカル重合開始剤(2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル))1.2部を入れて混合し、十分に窒素ガス置換を行い、混合溶液を得た。
窒素雰囲気下、反応容器内の混合溶液を攪拌しながら65℃まで昇温し、滴下ロート中の混合溶液を3時間かけて徐々に滴下した。滴下終了から65℃で2時間経過後、前記ラジカル重合開始剤0.3部をMEK5部に溶解した溶液を加え、更に65℃で2時間、70℃で2時間熟成させ、ビニル系ポリマー(P−1)溶液を得た。得られたポリマーの重量平均分子量と酸価を表1に示す。なお、ポリマーの酸価(KOHmg/g)は、メタクリル酸の割合と分子量から算出することができる。
【0053】
【表1】

【0054】
なお、表1に示すモノマーの詳細は、以下のとおりである。
・スチレンマクロマー:東亜合成株式会社製、商品名:AS−6S、数平均分子量:6000、重合性官能基:メタクロイルオキシ基
・ポリエチレングリコールモノメタクリレート(エチレンオキシド平均付加モル数=9):新中村化学工業株式会社製、商品名:NKエステルM−90G
・ポリプロピレングリコールモノメタクリレート(プロピレンオキシド平均付加モル数=9):日本油脂株式会社製、商品名:ブレンマーPP−500
【0055】
調製例1〜9(キナクリドン固溶体顔料の製造)
無置換キナクリドンと2,9−ジクロロキナクリドンからなる固溶体顔料〔チバ・ジャパン株式会社製、商品名:クロモフタルジェットマゼンタ2BC、無置換キナクリドン/2,9−ジクロロキナクリドン(重量比)=2/8〕を、ステンレスの密閉容器に入れ、窒素ガスを充填した後、静置下で、表2に示す条件で加熱処理を行い、固溶体顔料I〜IX(表1及び図2において、PIG I〜IV、それらの加熱処理品をPIG I-1〜IV-1 と表記する)を調製した。
【0056】
実施例1
製造例1で得られたポリマー(P−1)溶液を減圧乾燥させて得られたポリマー25部をMEK87.5部と混合し、その中に固溶体顔料I(PIG I)100部を加えよく混合し、更に5N水酸化ナトリウム水溶液7.0部、25%アンモニア水溶液7.5部を加え、ディスパー(浅田鉄工株式会社製、ウルトラディスパー)を用いて、20℃でディスパー翼を7000rpmで回転させ60分間攪拌した。得られた混合物をイオン交換水にて40%水溶液になるように希釈し、それをマイクロフルイダイザー(Microfluidics 社製、商品名)で180MPaの圧力で20パス分散処理した。
得られた分散液にイオン交換水250部を加え、攪拌した後、減圧下で60℃でMEKを完全に除去し、更に一部の水を除去し、5μmのフィルター(アセチルセルロース膜、外径:2.5cm、富士フイルム株式会社製)を取り付けた容量25mLの針なしシリンジ(テルモ株式会社製)で濾過し、粗大粒子を除去することにより、固形分濃度が30%の顔料含有ビニル系ポリマー粒子の水分散体を得た。
次に得られた水分散体40gに、架橋剤(商品名:デナコールEX321、エポキシ当量140、水100gへの溶解量約27g(25℃)、ナガセケムテックス株式会社製)を0.4g加え、90℃下で1時間攪拌した後、冷却し、前記5μmフィルターを用いて濾過して、顔料含有架橋ポリマー粒子の水分散体を得た。
【0057】
(架橋ポリマー粒子の架橋率の算出)
架橋ポリマー粒子の架橋率(モル%)の算出は、下記式(3)により行った。
架橋率(モル%)=[架橋剤の反応性基のモル数×100/ポリマーが有する架橋剤と反応できる反応性基のモル数] (3)
実施例1では、水不溶性ポリマー2.4gに架橋剤(デナコールEX−321、エポキシ当量140)0.4gを反応させた。従って、架橋剤の反応性基のモル数は、0.4/140=0.00286となる。
ここで、架橋剤(デナコールEX−321)はカルボキシ基と反応するため、架橋剤と反応できるポリマーの反応性基のモル数は、ポリマーが有するメタクリル酸(分子量86)のモル数であり、2.4×0.21/86=0.00586となる。
よって、水不溶性架橋ポリマー粒子の架橋率は、0.00286×100/0.00586=49(モル%)となる。
ポリマー1g当たりの架橋剤の使用量(架橋剤のモル数×架橋剤1分子が有する反応性官能基の数)は、0.00286/2.4×1000=1.19mmol/gである。
(水系インクの製造)
得られた顔料含有架橋ポリマー粒子の水分散体31.25部に、トリエチレングリコールモノブチルエーテル22.2部、グリセリン5部、サーフィノール465(日信化学工業株式会社製)1部、プロキセルXL2(アビシア株式会社製)0.3部、水16部を混合し、水分量が50%(全量は75.75部)になるように調製した。
得られた混合液を5.0μmのフィルター(アセチルセルロース膜、外径:2.5cm、富士フイルム株式会社製)を取り付けた容量25mLの針なしシリンジで濾過し、粗大粒子を除去することにより、水系インクを得た。
【0058】
実施例2〜5、及び比較例1〜4
実施例1の固溶体顔料I(PIG I)に代えて、表2に示す固溶体顔料を用いた以外は、実施例1と同様にして、水分量が50%の水系インクを得た。
【0059】
次に、実施例及び比較例で得られた水系インクについて、保存安定性を以下の方法により評価した。平均粒径は保存前の値である。結果を表2に示す。
(保存安定性の評価)
密閉された実施例記載のインクを70℃で一週間放置し、粘度の測定方法により、それらの変化率を測定し、下記の基準により評価した。B以上が実用可能である。
粘度の変化率=[(保存後の粘度−保存前の粘度)/保存前の粘度]×100
(評価基準)
A:粘度の変化率が±10%以内
B:粘度の変化率が±10%を超えて、±15%以内
C:粘度の変化率が±15%を超えている
【0060】
【表2】

【0061】
表2から、水分量が低くかつ顔料濃度が高い水系インクの場合、比較例1〜4のインクは、キナクリドン固溶体顔料の結晶子径が小さいか、又は(結晶ピーク強度/アモルファス相に起因するハローパターン強度)の比が小さいため、保存安定性に劣るのに対して、実施例1〜3のインクは、固溶体顔料の結晶子径が270Å以上であり、かつ前記強度比が4以上であるため、保存安定性に優れていることが分かる。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】固溶体顔料の粉末X線測定による(結晶ピーク強度/アモルファス相に起因するハローパターン強度)の比の算出法を示す説明図である。
【図2】実施例1〜5及び比較例1〜4で用いた固溶体顔料(PIG I〜IV、及びPIG I-1〜IV-1)の結晶子径と(結晶ピーク強度/アモルファス相に起因するハローパターン強度)比の関係をプロットした図である。点線内は、本発明の好適範囲を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
無置換キナクリドンとジクロロキナクリドンからなるキナクリドン固溶体顔料1〜20重量%と水40〜60重量%を含有する水系インクであって、CuKα線源を用いた粉末X線回折により測定した該固溶体顔料の結晶子径が270Å以上であり、かつ結晶ピーク強度とアモルファス相に起因するハローパターン強度との比(結晶ピーク強度/アモルファス相に起因するハローパターン強度)が4以上である、インクジェット記録用水系インク。
【請求項2】
キナクリドン固溶体顔料が、70〜150℃で24時間以上加熱処理されたものである、請求項1に記載のインクジェット記録用水系インク。
【請求項3】
キナクリドン固溶体顔料が、水不溶性ポリマー粒子に含有されている、顔料を含有する水不溶性ポリマー粒子の形態である、請求項1又は2に記載のインクジェット記録用水系インク。
【請求項4】
水不溶性ポリマー粒子を構成する水不溶性ポリマーが、分子中に2以上の反応性官能基を有する架橋剤で架橋してなる架橋ポリマーである、請求項3に記載のインクジェット記録用水系インク。
【請求項5】
水不溶性ポリマー粒子を構成する水不溶性ポリマーが水不溶性グラフトポリマーである、請求項3又は4に記載のインクジェット記録用水系インク。
【請求項6】
親水性有機溶媒を10〜40重量%含有する、請求項1〜5のいずれかに記載のインクジェット記録用水系インク。
【請求項7】
下記工程(1)〜(4)を有する、無置換キナクリドンとジクロロキナクリドンからなるキナクリドン固溶体顔料を含有する架橋ポリマー粒子を含む水系インクの製造方法であって、水の含有量が40〜60重量%である、インクジェット記録用水系インクの製造方法。
工程(1):無置換キナクリドンとジクロロキナクリドンからなるキナクリドン固溶体顔料を、70〜150℃で24時間以上加熱処理する工程
工程(2):水不溶性ポリマー、有機溶媒、工程(1)で加熱処理して得られたキナクリドン固溶体顔料、及び水を含有する混合物を分散処理して、前記顔料を含有する水不溶性ポリマーからなる粒子の分散体を得る工程
工程(3):工程(2)で得られた分散体から前記有機溶媒を除去して、前記顔料を含有する水不溶性ポリマー粒子の水分散体を得る工程
工程(4):工程(3)で得られた水分散体と、分子中に2以上の反応性官能基を有する架橋剤とを混合し、前記水不溶性ポリマーを架橋して着色剤を含有する架橋ポリマー粒子を含む水系インクを得る工程

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−275125(P2009−275125A)
【公開日】平成21年11月26日(2009.11.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−128125(P2008−128125)
【出願日】平成20年5月15日(2008.5.15)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】