説明

インクジェット記録装置、その制御方法、及びその制御プログラム

【課題】複数種類の記録モードを択一的に実行可能であると共に、所定のタイミングで記録ヘッドのインク吸引動作などの所定のインク吐出回復動作を実行するインクジェット記録装置において、インク吐出回復動作が選択されている記録モードに対応して、それを選択したユーザーの意図がなるたけ実現されるように適切に制御されるようにする。
【解決手段】記録開始直前に、選択されている記録モードを判断し(ステップS2,3)、その結果に応じて、前回行なったインク吸引動作からの経過時間のしきい値を異なる値I,II,IIIの何れかに設定し(S4,10,11)、前記経過時間が設定されたしきい値を越えているか否かによりインク吸引動作が必要か否か判断し(S5,12)、必要と判断した場合にのみインク吸引動作を行なう(S6,13)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクを吐出する記録ヘッドにより画像を記録(印刷)するインクジェット記録装置、及びその記録ヘッドのインク吐出回復動作に関わる制御方法並びに制御プログラムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録装置は、記録ヘッドからインクを吐出することによって記録媒体としての紙などのシート(以下、記録シートという)に文字などの画像を記録、すなわち印刷するが、その記録ヘッドはインクが乾燥してノズルのインク吐出口が詰まっていたり、吐出口付近にインクが溜まったりしていると、正確なインク液滴の吐出ができず画像不良を生じる。この対策として、従来のインクジェット記録装置では、記録ヘッドのインク吐出状態を正常な状態に回復するために、画像の記録を開始する直前にポンプの駆動により記録ヘッドのインク吐出口からインクを吸引するインク吸引動作、予めインクを吐出する予備吐出動作、及び記録終了時や記録中にワイパーで記録ヘッドの表面(吐出口面)に付着した紙粉、塵、インクかすなどのゴミを拭い取るワイピング動作などのインク吐出回復動作を自動的に行なう構成が採用されている(特許文献1参照)。また、記録ヘッドのノズルのインクの乾燥を防止するために、記録ヘッドの表面にキャップを被せるキャッピングを行う構成も採用されている。
【0003】
一方、従来のインクジェット記録装置において、インク消費量の少ない「エコノミーモード」、印刷スピードが速い「ハイスピードモード」、適度なスピード+適度な画質の「ハイクォリティーモード」、高画質で画像のきれいな「きれいモード」などの複数種類の記録モードをユーザーの選択に応じて択一的に実行可能とした構成が知られている(特許文献2参照)。
【特許文献1】特開昭63−141754号公報
【特許文献2】特開平06−127049号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述のようなインクジェット記録装置の従来の構成では、記録開始直前に、選択されている記録モードに関係なく、インク吸引動作ないしは予備吐出動作を実行するようになっていた。このため、例えばユーザーがインクの残り容量が少なくなって来たので、インク消費量の少ない「エコノミーモード」を選択し、インク消費量を抑えてドラフト印刷をしたい時でも、印刷開始直前にインク吸引動作ないし予備吐出動作が実行されインクを消費してしまったり、ユーザーが印刷スピードの速い「ハイスピードモード」を選択し、早く印刷物が欲しい時でも、インク吸引動作ないし予備吐出動作が実行されてしまい、その分時間がかかって、印刷物をすぐに手にすることができないというような不都合が生じる場合があった。
【0005】
本発明は、このような問題を解消するためになされたもので、その課題は、上述したようにインク吸引動作や予備吐出動作などのインク吐出回復動作を記録開始直前などの所定のタイミングで行なうと共に、複数種類の記録モードをユーザーの選択に応じて択一的に実行可能なインクジェット記録装置において、上記のインク吐出回復動作がそのときに選択されている記録モードに対応して、記録モードを選択したユーザーの意図がなるたけ実現されるように、適切に制御されるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するため、本発明では、
複数種類の記録モードをユーザーの選択に応じて択一的に実行可能であると共に、所定のタイミングで記録ヘッドからのインク吐出を回復するための所定のインク吐出回復動作を実行するインクジェット記録装置において、
前回行なった前記インク吐出回復動作からの経過時間の情報を取得する経過時間取得手段と、
前記経過時間のしきい値として前記複数種類の記録モードのそれぞれに対応して異なる値に設定された複数のしきい値を記憶したしきい値記憶手段と、
前記所定のタイミングで、前記経過時間取得手段により取得された経過時間が前記しきい値記憶手段に記憶された複数のしきい値の内で現在選択されている記録モードに対応したしきい値を越えている場合にのみ前記インク吐出回復動作を行なうように制御する制御手段を有することを特徴とする。
【0007】
また、インクジェット記録装置の制御方法及び制御プログラムにおいて、本発明の装置に対応する構成であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明の構成によれば、ユーザーにより選択される記録モードに応じて、所定のタイミングで所定のインク吐出回復動作が行われる割合を異ならせることができ、それにより、記録モードを選択したユーザーの意図が実現されるようにすることができる。例えばインク吐出回復動作を記録ヘッドからのインク吸引動作などのインクを消費する動作とした場合、ユーザーがインク消費量を抑えようとして選択するエコノミーモードでは、インク吐出回復動作が行われる割合を低くすることにより、インク消費量を抑えることができる。また、インク吐出回復動作を行なうタイミングを記録開始直前とした場合、ユーザーが早く印刷物を入手しようとして選択するハイスピードモードでは、さらにインク吐出回復動作が行われる割合を低くすることにより、直ちに印刷を行なってユーザーが早く印刷物を入手し得るようにすることができるなどの利点がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、添付した図を参照して本発明の実施例を説明する。ここでは、記録モードとして、通常モード、前述したエコノミーモード及びハイスピードモードの3種類のモードをユーザーの選択に応じて択一的に実行可能であって、後述する条件に応じて、記録開始直前ないし記録終了後にインク吐出回復動作として前述したインク吸引動作を行うインクジェット記録装置における実施例を示す。
【実施例】
【0010】
図1は、実施例のインクジェット記録装置の制御系の構成を示すブロック図である。1はプログラム可能なマイクロプロセッサなどからなるCPU(中央処理ユニット)であり、CPUバス7を介してCPU1に接続されたROM2に格納された制御プログラムを実行し、記録装置のシステム全体を制御する。CPU1には、CPUバス7を介して、ROM2、サーミスター3、スイッチ4、LED5、及びASIC8が接続されている。
【0011】
ROM2には、CPU1が実行する制御プログラムと共に、各種制御テーブルやフォントデータなどのデータが格納されている。前記の制御プログラムには、後述する図3に制御手順を示すインク吐出回復動作の制御を行なうための制御プログラムも含まれる。また、前記の制御テーブルには、インク吐出回復動作の制御に用いられる前回(過去で最近)インク吸引動作を行なった時点からの経過時間のしきい値テーブル2aが含まれる。このテーブル2aの詳細は後述する。
【0012】
サーミスター3は、記録装置内の記録ヘッド11,12の周辺の温度を測定する。スイッチ4は、記録装置全体の駆動用電源を供給する電源回路24をオン/オフするパワースイッチ4a、リジュームスイッチ4b、及び装置のカバーの開閉を検出するカバースイッチ4cなどのユーザー作動用のスイッチである。LED5は、記録ヘッドのインク残量検出用の発光素子であるLED5aやユーザーに記録装置の状態を知らせる表示用のLEDなどの各種LEDである。
【0013】
ASIC8は、CPU1からの命令に応じて各種制御を行う制御ロジック回路であり、記録ヘッドドライバ10を制御してブラック記録ヘッド11とカラー記録ヘッド12の各ノズルの駆動信号を出力させると共に、インタフェイス20、CPU1、およびRAM22のそれぞれの間のデータ転送を制御し、さらにDCモータドライバ13とパルスモータドライバ16を制御する制御ロジック回路を備えている。
【0014】
RAM22は、CPU1のワークエリアとして使用されると共に、プリントバッファとして使用され、CPU1がROM2に格納されている制御プログラムを実行している間に、ブラック記録ヘッド11とカラー記録ヘッド12によるプリント出力のため、RAM22内のプリントバッファ領域に、インタフェイス20を介してホストコンピュータ21から送られてきた記録データが格納される。インタフェイス20は、記録装置とホストコンピュータ21を仲介するもので、双方向送受信可能な信号経路を備え、ホストコンピュータ21と双方向通信を行い、記録データとコマンドを受信する。そのコマンドには、ユーザーがホストコンピュータ21のプリンタドライバによる画面上などで選択した記録モードを記録装置に指定するコマンドが含まれる。
【0015】
DCモータドライバ13は、ラインフィードモータ14とキャリッジモータ15の制御を司る。ラインフィードモータ14は搬送ローラ41(図2参照)を駆動して、記録シートの搬送と給排出を制御する。キャリッジモータ15はキャリッジ31(図2参照)を駆動して、記録ヘッド11,12の走査行上の記録位置への移動を制御する。
【0016】
パルスモータドライバ16は給紙モータ17と回復モータ18の制御を司る。給紙モータ17は記録シートの給送におけるピックアップを制御する。回復モータ18は、回復ユニット40(図2参照)の駆動源として、記録ヘッド11、12からのインク吸引動作、及びワイピングなどのインク吐出回復動作、及びキャッピングを制御する。
【0017】
記録ヘッドドライバー10によって制御されるブラック記録ヘッド11とカラー記録ヘッド12は、キャリッジに搭載して移動させる取り外し可能なユニットであり、これらのヘッドには記録シート上に記録画像を形成するための複数のインク吐出ノズルが設けられると共に、取り外し可能な記録ヘッドの存在や特性に関する情報をCPU1にフィードバックするためのヘッドダイオード9が設けられる。
【0018】
記録ヘッドドライバー10から送られる駆動信号に基づいて、記録ヘッド11,12の各ノズルの電気熱変換素子が駆動されて熱エネルギーを発生し、それにより各ノズル内のインクに膜沸騰を生起させて各ノズルの吐出口からインクを吐出させる。記録ヘッド11,12の温度によってインクの吐出量が変化するので、記録装置内の記録ヘッド周辺の温度を測定するサーミスタ3と記録ヘッド11,12のヘッドダイオード9からの温度出力が監視される。
【0019】
また、ASIC8には、不揮発性メモリ19、各種センサ6、及びタイマ23が接続されている。
【0020】
不揮発性メモリ19は、記録ヘッド11,12のインクタンク内のインク状況19a、インク消費量の履歴19b、廃インクカウンタ19c、及び前回(過去で最近)記録ヘッドからのインク吸引動作を行なった時点(年月日及び時刻。以下、前回吸引時点ともいう)19dなどの記録装置の各種情報を格納するための不揮発性のメモリである。
【0021】
各種センサ6には以下のセンサ6a〜6fが含まれている。PE(ペーパーエンド)センサ6aは、記録装置内で通過する記録シートの端部を検出する。ASF(自動シート給送)センサ6bは、記録シートを給送する給送ユニットのカムの回転位置を検出する。PG(パージ)センサ6cは記録ヘッドのインク吐出回復動作を行なう回復ユニット40(図2参照)のカムの位置を検出する。インク残検センサ6dは、光学センサであり、キャリッジ31に搭載された記録ヘッドのインクタンクが、キャリッジ31の移動に伴って同センサ上を通る時の光の透過率でインクタンク内のインクの有無を検出する。キャリッジエンコーダ6eは、キャリッジ31の位置情報を読み取るためのセンサである。LF(ラインフィード)センサ6fは記録シートのライン(行)送りの位置情報を読み取るためのセンサである。この他に、カバースイッチ4cに連動する不図示のカバーセンサなどが設けられる。
【0022】
タイマ23は、現時点の時間情報(年月日及び時刻)を得る計時を行なうとともに、各モータ14,15,17,18の制御に関わる時間の計時を行なう。このタイマ23により、前述した不揮発性メモリ19に格納され保存される前回吸引時点19dの情報が得られる。
【0023】
次に、図2は、実施例のインクジェット記録装置の機械的構成を示す左側から見た斜視図である。
【0024】
30は、図1中のブラック記録ヘッド11とカラー記録ヘッド12を合わせたものに相当する記録ヘッドであり、順にブラック、シアン、マゼンタ、イエローの各色のインクを貯蔵したインクタンク52〜55を着脱自在に装着して、ブラックのインクのみを使用したモノクロ記録と、上記各色のインクを使用したカラー記録を行なえるようになっている。
【0025】
31は、記録ヘッド30を搭載して移動し、走査するためのキャリッジである。キャリッジ31は、それぞれ左右の両端を左右の側板38,39に位置決め固定されたガイド軸33とガイドレール34により矢印Aの両方向に移動可能に案内され支持されている。
【0026】
キャリッジ31にはタイミングベルト35の一部が固定されており、シャーシ32に位置決め固定された図1中のキャリッジ15の駆動によってタイミングベルト35が走行することにより、記録ヘッド30を搭載したキャリッジ31を矢印A方向に移動させて走査させることができる。
【0027】
36は、キャリッジ31の走査方向(A方向)における絶対位置を示すスケールであって、キャリッジ位置検出手段である図1中のキャリッジエンコーダ6eを構成するものであり、左右の側板38,39間でガイド軸33と平行に設けられている。このスケール36から構成されるキャリッジエンコーダ6eにより、キャリッジ31の走査方向の位置、すなわち記録ヘッド30の走査方向の位置が検出される。
【0028】
40は、記録ヘッド30のインク吐出回復動作を行う回復ユニットであり、記録ヘッド30の図示していない複数のノズルのインク吐出口が配置された吐出口面(図2中で下面)をワイパーで拭ってクリーニングするワイピング機構と、記録ヘッド30の吐出口面にキャップを被せて密閉する不図示のキャッピング機構と、記録ヘッド30をキャッピングした状態で不図示のポンプの駆動により記録ヘッド30の各インク吐出口からインクを吸引するインク吸引機構などからなる。回復ユニット40は、キャリッジ31が矢印A方向に移動する移動範囲の図中で右端の位置、いわゆるホームポジションで対向するようにベースシャーシ37上に位置決め固定されている。
【0029】
44は、自動給送装置であり、不図示の複数枚の記録シートを積載し、1枚ごとに分離して給送する。自動給送装置44から給送された記録シートは、ピンチローラホルダ43と、ベースシャーシ37上に位置決め固定された第1シートガイド部材48とにガイドされ、記録シート搬送手段としての搬送ローラ41とピンチローラ42の当接部へ搬送される。
【0030】
ピンチローラホルダ43により回転自在に支持されたピンチローラ42は不図示のばねの付勢力により搬送ローラ41に圧接している。搬送ローラ41が図1中のラインフィードモータ14の駆動で回転することにより、自動給紙装置44から給送された記録シートが搬送ローラ41とピンチローラ42間に挟み込まれて、ベースシャーシ37上に位置決め固定された第2シートガイド部材47上を矢印A方向に直交する方向で図2中の手前側に向かう方向に搬送される。
【0031】
搬送ローラ41の一方の端部には、搬送ローラ41の回転量を検出する図1中のLFセンサ6fを構成するスケールであるラインフィードエンコーダ46が取り付けられ、左側板38に位置決め固定された位置検出部51によりラインフィードエンコーダ46を介して搬送ローラ41の回転量、すなわち記録シートの搬送量が検出され、これに基づいて記録シートのラインフィード、すなわち1ライン分ずつの搬送が制御される。
【0032】
キャリッジ31がキャリッジモータ15の駆動によって矢印A方向の一方向に1回走行すると共に、その間に記録ヘッド30が駆動されて各インクタンク52〜55の各色のインクを第2シートガイド部材47上の記録シートに対して吐出することにより、記録シートに画像の1ライン分の記録がなされる。その記録が終了したら搬送ローラ41の駆動により記録シートが1ライン分の搬送量だけ搬送される。このような動作の繰り返しにより、記録シートに画像が順次1ラインずつ記録される。記録を受けた記録シートは、ラインフィードモータ14の駆動により回転する排紙ローラ49により搬送されて記録装置外に排出される。
【0033】
記録を行わないときには、キャリッジ31はホームポジションに移動されており、回復ユニット40により、記録ヘッド30の吐出口面に不図示のキャップが被されている。なお、キャップを被せるキャッピング動作は、記録終了後にキャリッジ31をホームポジションに移動させた後、回復ユニット40の駆動により、記録ヘッド30の吐出口面を不図示のワイパーで拭うワイピングを行なった後に行なう。
【0034】
また、記録開始直前、及び記録終了後に、前回記録ヘッド30のインク吐出口からのインク吸引動作を行なった前回吸引時点からの経過時間と、そのときに選択されている記録モードに応じて、上記インク吸引動作を行なう。なお、以下では実施例の装置が専ら印字、すなわち文字画像の記録(印刷)を行なうプリンタとして、記録開始直前のインク吸引動作を略して印字前吸引といい、記録終了後のインク吸引動作を略して印字後吸引という。
【0035】
この印字前吸引と印字後吸引の制御を行なうために図1中のROM2内のしきい値テーブル2aを用いる。このしきい値テーブル2aは、印字前吸引ないしは印字後吸引を行なうか否かの判断を、前回吸引時点からの経過時間とそのとき選択されている記録モードに基づいて判断するためのテーブルである。
【0036】
しきい値テーブル2aは、図4に示すような内容のものとなっており、本実施例の装置で実行可能である記録モードの通常モード、エコノミーモード、及びハイスピードモードのそれぞれに対応付けて、印字前吸引を行なうか否かを判断するための前回吸引時点からの経過時間のしきい値として、異なるしきい値I,II,IIIが設定され、さらに、ハイスピードモードについては印字後吸引を行なうか否かを判断するための経過時間のしきい値Iが設定されたデータテーブルとなっている。しきい値I,II,IIIの大小関係は、
しきい値I<しきい値II<しきい値III
とする。このようにして、通常モードの場合よりもエコノミーモードの場合の方が、さらに、エコノミーモードの場合よりもハイスピードモードの場合の方が前回吸引時点からの経過時間が長くないと印字前吸引が行なわれず、印字前吸引が行われる割合が低くなるようにしている。
【0037】
なお、上記しきい値I,II,IIIのそれぞれについて、I<II<IIIという大小関係を変えない適当な範囲内で、ユーザーがホストコンピュータ21からの入力で可変に設定できるようにしてもよく、その場合、設定されたしきい値テーブルは不揮発性メモリ19に格納されるものとする。
【0038】
次に、図3は、実施例のインクジェット記録装置において印刷を行なう際の印字前吸引と印字後吸引の制御手順を示すフローチャートであり、この制御手順に対応する制御プログラムがROM2に格納され、CPU1により実行される。
【0039】
図3のステップS1でホストコンピュータ21からの印刷命令に応じて制御の処理がスタートする。その印刷命令には、ユーザーにより選択された記録モードを指定する命令が含まれている。
【0040】
ステップS2では、その命令により指定されている記録モードがハイスピードモードであるか否かを判断し、ハイスピードモードの場合はステップS11へ、ハイスピードモードでない場合はステップS3に進む。
【0041】
ステップS3では、指定されている記録モードがエコノミーモードか否か(通常モードか)判断し、通常モードの場合はステップS4に、エコノミーモードの場合はステップS10に進む。
【0042】
ステップS4では、ROM2内のしきい値テーブル2aから通常モードに対応する印字前吸引についての前回吸引時点からの経過時間のしきい値Iを検索して、これを印字前吸引の制御に用いるしきい値として設定し、その後、ステップS5に進む。
【0043】
ステップS10では、しきい値テーブル2aからエコノミーモードに対応する印字前吸引についての経過時間のしきい値IIを検索して、これを印字前吸引の制御に用いるしきい値として設定し、その後、ステップS5に進む。
【0044】
ステップS5では、タイマ23から得られる現時点の時間情報と、不揮発性メモリ19内の前回吸引時点19dの時間情報に基づいて、前回吸引時点から現時点までの経過時間を求め、その経過時間がステップS4(通常モードの場合)又はステップS10(エコノミーモードの場合)で設定された経過時間のしきい値(I又はII)を越えて(上回って)いるか否かにより、印字前吸引が必要か判断する。
【0045】
そして、経過時間がしきい値を越えておらず印字前吸引が必要でないと判断した場合はステップS6を飛ばしてステップS7に進むが、しきい値を越えていて印字前吸引が必要と判断した場合はステップS6で回復ユニット40を駆動して記録ヘッド30のインク吐出口からのインク吸引動作を行い、その後、ステップS7に進む。
【0046】
ステップS7では、通常モード(ステップS4経由の場合)、又はエコノミーモード(ステップS10経由の場合)で印刷を行なう。なお、印刷を行なう前に、回復ユニット40の駆動によって記録ヘッド30の吐出口面から不図示のキャップが外されることは勿論である。
【0047】
印刷が終了したら、ステップS8において、印刷終了時点からの経過時間がキャッピングを行なうべき所定のキャッピング時間になったか否か調べてキャッピング時間になるのを待ち、キャッピング時間になったらステップS9で回復ユニット40を駆動してワイピングを行なった後にキャッピングを行い、その後、ステップS20で処理を終了する。
【0048】
一方、ステップS2でハイスピードモードが選択されている場合は、ステップS11において、しきい値テーブル2aからハイスピードモードに対応する印字前吸引についての経過時間のしきい値IIIを検索して、これを印字前吸引の制御に用いるしきい値として設定し、ステップS12に進む。
【0049】
ステップS12では、前回吸引時点から現時点までの経過時間がステップS11で設定されたしきい値IIIを越えているか否かにより、印字前吸引が必要か判断する。そして、必要でないと判断した場合はステップS13を飛ばしてステップS14に進むが、必要と判断した場合はステップS13で回復ユニット40を駆動してインク吸引動作を行い、その後、ステップS14に進む。
【0050】
ステップS14では、ハイスピードモードで印刷を行ない、印刷が終了したらステップS15に進む。
【0051】
ステップS15では、印刷終了時点からの経過時間が前述したキャッピング時間になったか否か調べてキャッピング時間になるのを待ち、キャッピング時間になったら、ステップS16に進む。
【0052】
ステップS16では、しきい値テーブル2aからハイスピードモードに対応する印字後吸引についての経過時間のしきい値Iを検索して、これを印字後吸引の制御に用いるしきい値として設定し、ステップS17に進む。
【0053】
ステップS17では、前回吸引時点から現時点までの経過時間がステップS16で設定されたしきい値Iを上回っているか否かにより、印字前吸引が必要か判断する。そして、必要でないと判断した場合はステップS18を飛ばしてステップS19に進むが、必要と判断した場合はステップS18で回復ユニット40を駆動してインク吸引動作を行い、その後、ステップS19に進む。
【0054】
ステップS19では、回復ユニット40を駆動してワイピングを行なった後にキャッピングを行い、その後、ステップS20で処理を終了する。
【0055】
なお、ステップS6、S13、またはS18でインク吸引動作を行った場合、吸引動作が終了した時点の時間情報をタイマ23から取得し、そのデータを不揮発性メモリ19の前回吸引時点19dのデータに上書きして、前回吸引時点19dのデータを更新しておく。
【0056】
以上のような制御によれば、上述した前回吸引時点からの経過時間のしきい値I,II,IIIの設定により、エコノミーモードが選択されている場合は、通常モードが選択されている場合よりも前回吸引時点からの経過時間が長くないと印字前吸引が行なわれず、印字前吸引が行われる割合が低くなる。したがって、エコノミーモードを選択したユーザーの意図に合わせてインク消費量を抑えることができる。
【0057】
また、ハイスピードモードが選択されている場合は、さらに、エコノミーモードが選択されている場合よりも経過時間が長くないと印字前吸引が行なわれず、直ちに印刷が開始される割合が高くなる。したがって、ハイスピードモードを選択したユーザーの意図に合わせて、印字前吸引よりも印刷を優先させてユーザーが早く印刷物を入手し得るようにすることができる。
【0058】
しかも、ハイスピードモードでの印刷終了後に、前回吸引時点からの経過時間に応じて、印字後吸引がなされるので、吐出回復性能が損なわれることはない。
【0059】
なお、以上説明した実施例の装置は、インク吐出回復動作としてインク吸引動作を行なうものとしたが、例えば予備吐出動作などの他のインク吐出回復動作を行なう装置についても、そのインク吐出回復動作の制御に本発明の技術を適用でき、また、例えばインク吸引動作と予備吐出動作など複数種類のインク吐出回復動作を組み合わせて行なう装置の場合にも適用できることは勿論である。また、本発明を適用できるインク吐出回復動作を行なうタイミングは、記録開始直前ないし記録終了後に限らず、記録の途中で行なうものとしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】本発明の実施例によるインクジェット記録装置の制御系の構成を示すブロック図である。
【図2】同インクジェット記録装置の機械的構成を示す斜視図である。
【図3】同インクジェット記録装置における記録ヘッドのインク吐出回復動作の制御手順を示すフローチャート図である。
【図4】インク吐出回復動作の制御に用いられる前回のインク吸引動作からの経過時間のしきい値テーブルの内容を示す表図である。
【符号の説明】
【0061】
1 CPU
2 ROM
2a しきい値テーブル
8 ASIC
11,12,30 記録ヘッド
19 不揮発性メモリ
19d 前回吸引時点
21 ホストコンピュータ
22 RAM
23 タイマ
31 キャリッジ
40 回復ユニット
41 搬送ローラ
44 自動給送装置


【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数種類の記録モードをユーザーの選択に応じて択一的に実行可能であると共に、所定のタイミングで記録ヘッドからのインク吐出を回復するための所定のインク吐出回復動作を実行するインクジェット記録装置において、
前回行なった前記インク吐出回復動作からの経過時間の情報を取得する経過時間取得手段と、
前記経過時間のしきい値として前記複数種類の記録モードのそれぞれに対応して異なる値に設定された複数のしきい値を記憶したしきい値記憶手段と、
前記所定のタイミングで、前記経過時間取得手段により取得された経過時間が前記しきい値記憶手段に記憶された複数のしきい値の内で現在選択されている記録モードに対応したしきい値を越えている場合にのみ前記インク吐出回復動作を行なうように制御する制御手段を有することを特徴とするインクジェット記録装置。
【請求項2】
前記複数種類の記録モードの内で特定の記録モードについては、前記しきい値として異なる第1と第2のしきい値が設定され、前記しきい値記憶手段に記憶されており、
前記制御手段は、前記所定のタイミングで、前記特定の記録モードが選択されている場合、前記経過時間取得手段により取得された経過時間が前記第1のしきい値を越えている場合は前記インク吐出回復動作を行ない、越えていない場合は、その後の特定のタイミングで、前記取得された経過時間が前記第2のしきい値を越えていたら前記インク吐出回復動作を行なうように制御することを特徴とする請求項1に記載のインクジェット記録装置。
【請求項3】
前記所定のタイミングとして記録開始直前に、前記所定のインク吐出回復動作として、少なくとも、記録ヘッドのインク吐出口からインクを吸引する動作、及び/又は予め記録ヘッドからインクを吐出する動作を行なうことを特徴とする請求項1又は2に記載のインクジェット記録装置。
【請求項4】
前記特定のタイミングとして記録終了後に、前記所定のインク吐出回復動作として、少なくとも、記録ヘッドのインク吐出口からインクを吸引する動作を行なうことを特徴とする請求項2に記載のインクジェット記録装置。
【請求項5】
複数種類の記録モードをユーザーの選択に応じて択一的に実行可能であると共に、所定のタイミングで記録ヘッドからのインク吐出を回復するための所定のインク吐出回復動作を実行するインクジェット記録装置の制御方法であって、
前回行なった前記インク吐出回復動作からの経過時間のしきい値として前記複数種類の記録モードのそれぞれに対応して異なる複数のしきい値を設定して記憶しておき、
前記所定のタイミングで、前記経過時間が前記記憶した複数のしきい値の内で現在選択されている記録モードに対応したしきい値を越えている場合にのみ前記インク吐出回復動作を行なうように制御することを特徴とするインクジェット記録装置の制御方法。
【請求項6】
前記複数種類の記録モードの内で特定の記録モードについては、前記しきい値として異なる第1と第2のしきい値を設定して記憶しておき、
前記所定のタイミングで、前記特定の記録モードが選択されている場合、前記経過時間が前記第1のしきい値を越えている場合は前記インク吐出回復動作を行ない、越えていない場合は、その後の特定のタイミングで、前記経過時間が前記第2のしきい値を越えていたら前記インク吐出回復動作を行なうように制御することを特徴とする請求項5に記載のインクジェット記録装置の制御方法。
【請求項7】
前記所定のタイミングとして記録開始直前に、前記所定のインク吐出回復動作として、少なくとも、記録ヘッドのインク吐出口からインクを吸引する動作、及び/又は予め記録ヘッドからインクを吐出する動作を行なうように制御することを特徴とする請求項5又は6に記載のインクジェット記録装置の制御方法。
【請求項8】
前記特定のタイミングとして記録終了後に、前記所定のインク吐出回復動作として、少なくとも、記録ヘッドのインク吐出口からインクを吸引する動作を行なうように制御することを特徴とする請求項6に記載のインクジェット記録装置の制御方法。
【請求項9】
複数種類の記録モードをユーザーの選択に応じて択一的に実行可能であると共に、所定のタイミングで記録ヘッドからのインク吐出を回復するための所定のインク吐出回復動作を実行するインクジェット記録装置の制御プログラムであって、
前回行なった前記インク吐出回復動作からの経過時間のしきい値として前記複数種類の記録モードのそれぞれに対応して異なる値に設定された複数のしきい値を記憶したしきい値記憶手段を用い、
前記所定のタイミングで、前記経過時間が前記しきい値記憶手段に記憶された複数のしきい値の内で現在選択されている記録モードに対応したしきい値を越えている場合にのみ前記インク吐出回復動作を行なうように制御するための制御手順を含むことを特徴とするインクジェット記録装置の制御プログラム。
【請求項10】
前記複数種類の記録モードの内で特定の記録モードについては、前記しきい値として異なる第1と第2のしきい値が設定され、前記しきい値記憶手段に記憶されるものとして、
前記所定のタイミングで、前記特定の記録モードが選択されている場合、前記経過時間が前記第1のしきい値を越えている場合は前記インク吐出回復動作を行ない、越えていない場合は、その後の特定のタイミングで、前記経過時間が前記第2のしきい値を越えていたら前記インク吐出回復動作を行なうように制御するための制御手順を含むことを特徴とする請求項9に記載のインクジェット記録装置の制御プログラム。
【請求項11】
前記所定のタイミングとして記録開始直前に、前記所定のインク吐出回復動作として、少なくとも、記録ヘッドのインク吐出口からインクを吸引する動作、及び/又は予め記録ヘッドからインクを吐出する動作を行なうように制御するための制御手順を含むことを特徴とする請求項9又は10に記載のインクジェット記録装置の制御プログラム。
【請求項12】
前記特定のタイミングとして記録終了後に、前記所定のインク吐出回復動作として、少なくとも、記録ヘッドのインク吐出口からインクを吸引する動作を行なうように制御するための制御手順を含むことを特徴とする請求項10に記載のインクジェット記録装置の制御プログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−167929(P2006−167929A)
【公開日】平成18年6月29日(2006.6.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−359285(P2004−359285)
【出願日】平成16年12月13日(2004.12.13)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】