説明

インクジェット記録装置

【課題】流路内における白色無機顔料の付着を要因とする吐出不良を防止する。
【解決手段】少なくとも白色インクを吐出する記録ヘッドを備えるインクジェット記録装置であって、前記白色インクは輻射線重合性化合物、白色無機顔料及び蛍光増白剤を含有し、前記記録ヘッドは前記白色インクの流路を有し、前記流路の内壁面の少なくとも一部にはポリパラキシレン又はその誘導体を含む有機被膜が形成されていることを特徴とするインクジェット記録装置を提供することにより、前記課題を解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット記録装置に係り、特に、白色顔料インクを使用するインクジェット記録装置に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録装置に搭載される記録ヘッド(以下、単に「ヘッド」という。)には着色剤(色材)として顔料を含有するインクを吐出するものがある。このような記録ヘッドでは、インク流路内にインクの顔料成分等が沈殿、堆積してしまうことが知られている。インク流路内に堆積した顔料は、インクの吐出不良を引き起こし、画像品質を低下させる要因となる。特に、酸化チタン等の白色無機顔料を含有する白色インクは、その比重の大きさから顔料成分がインク流路内に沈殿、堆積しやすいという問題がある。
【0003】
このような問題に対し、例えば、インク流路内のインク流量及び流速を該インク流路内に堆積した顔料を拡散させるのに必要な値に一時的に増加させる方法や、インクの吐出口(ノズル)に負圧をかけてインク流路内に堆積した顔料等の異物を吸引除去する際、白色インクの吐出口に有色インクの吐出口にかかる負圧よりも大きな負圧をかける方法が提案されている(特許文献1、2参照)。
【0004】
また、一方では、白色画像の明度や白色度を向上させることを目的として、白色顔料だけでなく蛍光増白剤を含有する白色インクを使用するインクジェット記録装置が知られている(特許文献3、4参照)。
【特許文献1】特開平6−155757号公報
【特許文献2】特開2005−153514号公報
【特許文献3】特開2005−126584号公報
【特許文献4】特開2005−126585号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1、2に記載された発明は、インク流路内に沈殿、堆積した顔料を取り除く方法であって、インク流路内の顔料の付着を防ぐ方法ではない。このため、定期的なメンテナンスが必要となる。また、インクの流れを利用した除去手段であるため、インク流路内に深刻な顔料付着が発生した場合にはそれを除去することは難しい。
【0006】
また、特許文献3、4に記載された発明は、白色画像の明度や白色度を上げることを目的としており、顔料の流路内への付着によるインクの吐出安定性を向上させるものではない。
【0007】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたもので、流路内における白色無機顔料の付着を要因とする吐出不良を防止し、良好な品質の画像記録を行うことのできるインクジェット記録装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記目的を達成するために、請求項1に係る発明は、少なくとも白色インクを吐出する記録ヘッドを備えるインクジェット記録装置であって、前記白色インクは輻射線重合性化合物、白色無機顔料及び蛍光増白剤を含有し、前記記録ヘッドは前記白色インクの流路を有し、前記流路の内壁面の少なくとも一部にはポリパラキシレン又はその誘導体を含む有機被膜が形成されていることを特徴とするインクジェット記録装置を提供する。
【0009】
本発明によれば、着色剤として白色無機顔料を含有する白色インクに蛍光増白剤を添加すると共に、白色インクの流路の内壁面の少なくとも一部にポリパラキシレン又はその誘導体を含む有機被膜(パレリン膜)を形成することにより、流路内の白色無機顔料の付着を防ぐことができ、これを要因とする吐出不良を防止することができる。これにより、白色無機顔料を含有する白色インクを用いて良好な品質の画像記録を実現することができる。また、流路内の顔料付着を解消するためのメンテナンスが不要となり、ランニングコストを低減することができる。
【0010】
また、本発明は、紫外線、可視光線、電子線等の輻射線が照射されると硬化する輻射線硬化型インク、好ましくは、紫外線硬化型インク(UVインク)が用いられる場合に好適であり、記録媒体上に吐出された白色インクの定着性を向上させることができ、画像品質を向上させることができる。
【0011】
「流路」とは、インクが充填される圧力室だけでなく、圧力室と吐出口の間の流路や、圧力室に対してインクを供給するための流路も含む。
【0012】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載のインクジェット記録装置に係り、前記有機被膜の厚みは1μm以上10μm以下であることを特徴とする。
【0013】
有機被膜の厚みは1μm以上10μm以下であることが好ましく、安定した吐出性能を得ることができる。
【0014】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は請求項2に記載のインクジェット記録装置に係り、前記蛍光増白剤の含有量は、前記白色インクの全質量に対し5質量%以上10質量%以下であることを特徴とする。
【0015】
蛍光増白剤の含有量は白色インクの全質量に対し5質量%以上10質量%以下であることが好ましく、安定した吐出性能を得ることができる。
【0016】
請求項4に記載の発明は、請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載のインクジェット記録装置に係り、前記流路の少なくとも一部の隔壁は圧電材料から成り、前記記録ヘッドは、前記隔壁のせん断変形を利用して前記白色インクを吐出することを特徴とする。
【0017】
本発明は、圧電材料から成る隔壁(圧電体)のせん断変形モードを利用した、所謂、ウォールベント型の記録ヘッドに好適であり、特に、安定した吐出性能を得ることができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、着色剤として白色無機顔料を含有する白色インクに蛍光増白剤を添加し、更に、白色インクの流路の内壁面の少なくとも一部にポリパラキシレン又はその誘導体を含む有機被膜(パレリン膜)を形成することにより、流路内の白色無機顔料の付着を防ぐことができ、これを要因とする吐出不良を防止することができる。これにより、白色無機顔料を含有する白色インクを用いて良好な画像品質を実現することができる。また、流路内の顔料付着を解消するためのメンテナンスが不要となり、ランニングコストを低減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、添付図面に従って本発明の好ましい実施の形態について詳説する。
【0020】
〔インクジェット記録装置〕
図1は、本発明の一実施形態としてのインクジェット記録装置の全体構成図である。図2は、本実施形態のインクジェット記録装置の印字部周辺を示す要部平面図である。
【0021】
本実施形態のインクジェット記録装置10は、紫外線硬化型(UV硬化型)インクを用いた装置であり、特に、白色無機顔料及び蛍光増白剤を含有する白色インクを用いることを特徴としている。
【0022】
図1に示すように、インクジェット記録装置10は、インクの色毎に設けられた複数のヘッド12W、12K、12C、12M、12Yを有する印字部12と、各ヘッド12W、12K、12C、12M、12Yに供給するインクを貯蔵しておくインク貯蔵/装填部14と、記録紙16を供給する給紙部18と、記録紙16のカールを除去するデカール処理部20と、前記印字部12のノズル面(インク吐出面)に対向して配置され、記録紙16の平面性を保持しながら記録紙16を搬送する吸着ベルト搬送部22と、印字部12による印字結果を読み取る印字検出部24と、紫外線照射部42と、印画済みの記録紙(プリント物)を外部に排紙する排紙部26と、を備えている。
【0023】
図1では、給紙部18の一例としてロール紙(連続用紙)のマガジンが示されているが、紙幅や紙質等が異なる複数のマガジンを併設してもよい。また、ロール紙のマガジンに代えて、又はこれと併用して、カット紙が積層装填されたカセットによって用紙を供給してもよい。
【0024】
ロール紙を使用する装置構成の場合、図1のように、裁断用のカッター28が設けられており、該カッター28によってロール紙は所望のサイズにカットされる。カッター28は、記録紙16の搬送路幅以上の長さを有する固定刃28Aと、該固定刃28Aに沿って移動する丸刃28Bとから構成されており、印字裏面側に固定刃28Aが設けられ、搬送路を挟んで印字面側に丸刃28Bが配置されている。なお、カット紙を使用する場合には、カッター28は不要である。
【0025】
複数種類の記録紙を利用可能な構成にした場合、紙の種類情報を記録したバーコードあるいは無線タグ等の情報記録体をマガジンに取り付け、その情報記録体の情報を所定の読取装置によって読み取ることで、使用される用紙の種類を自動的に判別し、用紙の種類に応じて適切なインク吐出を実現するようにインク吐出制御を行うことが好ましい。
【0026】
給紙部18から送り出される記録紙16はマガジンに装填されていたことによる巻き癖が残り、カールする。このカールを除去するために、デカール処理部20においてマガジンの巻き癖方向と逆方向に加熱ドラム30で記録紙16に熱を与える。このとき、多少印字面が外側に弱いカールとなるように加熱温度を制御するとより好ましい。
【0027】
デカール処理後、カットされた記録紙16は、吸着ベルト搬送部22へと送られる。吸着ベルト搬送部22は、ローラー31、32間に無端状のベルト33が巻き掛けられた構造を有し、少なくとも印字部12のノズル面及び印字検出部24のセンサ面に対向する部分が平面をなすように構成されている。
【0028】
ベルト33は、記録紙16の幅よりも広い幅寸法を有しており、ベルト面には多数の吸引孔(不図示)が形成されている。図1に示したとおり、ローラー31、32間に掛け渡されたベルト33の内側において印字部12のノズル面及び印字検出部24のセンサ面に対向する位置には吸着チャンバー34が設けられており、この吸着チャンバー34をファン35で吸引して負圧にすることによってベルト33上の記録紙16が吸着保持される。
【0029】
ベルト33が巻かれているローラー31、32の少なくとも一方にモータ(不図示)の動力が伝達されることにより、ベルト33は図1において、時計回り方向に駆動され、ベルト33上に保持された記録紙16は、図1の左から右へと搬送される。
【0030】
なお、吸着ベルト搬送部22に代えて、ローラー・ニップ搬送機構を用いる態様も考えられるが、印字領域をローラー・ニップ搬送すると、印字直後に用紙の印字面にローラーが接触するので、画像が滲み易いという問題がある。従って、本例のように、印字領域では画像面と接触させない吸着ベルト搬送が好ましい。
【0031】
図2に示すように、印字部12は、最大紙幅に対応する長さを有するライン型ヘッドを紙搬送方向(副走査方向)と直交する方向(主走査方向)に配置した、いわゆるフルライン型のヘッドとなっている。印字部12を構成する各ヘッド12W、12K、12C、12M、12Yは、本インクジェット記録装置10が対象とする最大サイズの記録紙16の少なくとも一辺を超える長さにわたってインク吐出口(ノズル)が複数配列されたライン型ヘッドで構成されている。
【0032】
記録紙16の搬送方向(紙搬送方向)に沿って上流側(図1の左側)から白(W)、黒(K)、シアン(C)、マゼンタ(M)、イエロー(Y)の順に各色インクに対応したヘッド12W、12K、12C、12M、12Yが配置されている。記録紙16を搬送しつつ各ヘッド12W、12K、12C、12M、12Yからそれぞれ色インクを吐出することにより記録紙16上にカラー画像を形成し得る。
【0033】
このように、紙幅の全域をカバーするフルラインヘッドがインク色毎に設けられてなる印字部12によれば、紙搬送方向(副走査方向)について記録紙16と印字部12を相対的に移動させる動作を一回行うだけで(すなわち、一回の副走査で)記録紙16の全面に画像を記録することができる。これにより、ヘッドが紙搬送方向と直交する方向(主走査方向)に往復動作するシャトル型ヘッドに比べて高速印字が可能であり、生産性を向上させることができる。
【0034】
尚、ここで主走査方向及び副走査方向とは、次に言うような意味で用いている。即ち、記録紙の全幅に対応したノズル列を有するフルラインヘッドで、ノズルを駆動する時、(1)全ノズルを同時に駆動するか、(2)ノズルを片方から他方に向かって順次駆動するか、(3)ノズルをブロックに分割して、ブロック毎に片方から他方に向かって順次駆動するか、等のいずれかのノズルの駆動が行われ、用紙の幅方向(紙搬送方向と直交する方向)に1ライン(1列のドットによるライン又は複数列のドットから成るライン)の印字をするようなノズルの駆動を主走査と定義する。そして、この主走査によって記録される1ライン(帯状領域の長手方向)の示す方向を主走査方向という。
【0035】
一方、上述したフルラインヘッドと記録紙とを相対移動することによって、上述した主走査で形成された1ライン(1列のドットによるライン又は複数列のドットから成るライン)の印字を繰り返し行うことを副走査と定義する。そして、副走査を行う方向を副走査方向という。結局、記録紙の搬送方向が副走査方向であり、それに直交する方向が主走査方向ということになる。
【0036】
また本例では、WKCMYの5色の構成を例示したが、インク色や色数の組み合わせについては本実施形態には限定されず、必要に応じて淡インク、濃インクを追加してもよい。例えば、ライトシアン、ライトマゼンタ等のライト系インクを吐出するヘッドを追加する構成も可能である。
【0037】
図1に示したように、インク貯蔵/装填部14は、各ヘッド12W、12K、12C、12M、12Yに対応する各色のインクを貯蔵するタンクを有し、各タンクは図示を省略した管路を介して各ヘッド12W、12K、12C、12M、12Yと連通されている。また、インク貯蔵/装填部14は、インク残量が少なくなるとその旨を報知する報知手段(表示手段、警告音発生手段等)を備えるとともに、色間の誤装填を防止するための機構を有している。
【0038】
印字部12の後段には、紫外線照射部42が設けられている。紫外線照射部42は、各ヘッド12W、12K、12C、12M、12Yから吐出された記録紙16上のインクに紫外線を照射してインクを定着させる。
【0039】
紫外線照射部42には、各ヘッド12W、12K、12C、12M、12Yと同様に記録紙16の最大紙幅に対応する長さを有し、紙搬送方向(副走査方向)と略直交する方向(主走査方向)に延在するように固定されている。例えば、紫外線光源(UV光源)として、紫外線LED素子、紫外線LD素子等の発光素子をライン状に配列させた構成から成る。かかる構成によれば、発光素子別に選択的に発光制御が可能であるため、点灯させる発光素子や発光光量を容易に調整でき、紫外線の照射エリアについて所望の照射範囲及び光量(強度)分布を実現できる。
【0040】
各発光素子から発光される紫外線の漏れ光や反射光が各ヘッド12W、12K、12C、12M、12Yのノズル面に照射されないような配置構成となっていることが好ましい。紫外線照射によるノズル目詰まり等の吐出不良を防止することができる。例えば、各ヘッド12W、12K、12C、12M、12Y、又は、紫外線照射部42に遮光部材を設けて、紫外線の漏れ光や反射光がノズル面に照射されないようにしてもよい。
【0041】
紫外線照射部42の後段には、印字検出部24が設けられている。印字検出部24は、印字部12の打滴結果を撮像するためのイメージセンサ(ラインセンサ等)を含み、該イメージセンサによって読み取った打滴画像からノズルの目詰まりその他の吐出不良をチェックする手段として機能する。
【0042】
本例の印字検出部24は、少なくとも各ヘッド12W、12K、12C、12M、12Yによるインク吐出幅(画像記録幅)よりも幅の広い受光素子列を有するラインセンサで構成される。このラインセンサは、赤(R)の色フィルタが設けられた光電変換素子(画素)がライン状に配列されたRセンサ列と、緑(G)の色フィルタが設けられたGセンサ列と、青(B)の色フィルタが設けられたBセンサ列とからなる色分解ラインCCDセンサで構成されている。なお、ラインセンサに代えて、受光素子が二次元配列されて成るエリアセンサを用いることも可能である。
【0043】
印字検出部24は、各色のヘッド12W、12K、12C、12M、12Yにより印字されたテストパターンを読み取り、各ヘッドの吐出検出を行う。吐出判定は、吐出の有無、ドットサイズの測定、ドット着弾位置の測定等で構成される。
【0044】
このようにして生成されたプリント物は、排紙部26から排出される。本来プリントすべき本画像(目的の画像を印刷したもの)とテスト印字とは分けて排出することが好ましい。このインクジェット記録装置10では、本画像のプリント物と、テスト印字のプリント物とを選別してそれぞれの排出部26A、26Bへと送るために排紙経路を切り換える選別手段(不図示)が設けられている。なお、大きめの用紙に本画像とテスト印字とを同時に並列に形成する場合は、カッター(第2のカッター)48によってテスト印字の部分を切り離す。カッター48は、排紙部26の直前に設けられており、画像余白部にテスト印字を行った場合に、本画像とテスト印字部を切断するためのものである。カッター48の構造は前述した第1のカッター28と同様であり、固定刃48Aと丸刃48Bとから構成されている。また、図示を省略したが、本画像の排出部26Aには、オーダー別に画像を集積するソーターが設けられている。
【0045】
〔インクジェット記録ヘッド〕
次に、ヘッド12W、12K、12C、12M、12Yの構造について説明する。尚、各ヘッド12W、12K、12C、12M、12Yの構造は共通しているので、以下では、これらを代表して符号50によってヘッドを示すものとする。
【0046】
図3は本実施形態のヘッド50の構成図であり、(a)はノズル面に平行な部分断面図、(b)は(a)中3b−3b線に沿う断面図である。
【0047】
本実施形態のヘッド50は、インク滴の吐出口となるノズル51、ノズル51に連通しインクが充填される圧力室52、及び圧力室52にインクを供給するための供給口53を備え、圧電基板54、天板56、ノズルプレート58及び背面板60から主に構成されている。尚、図示は省略するが、ヘッド50のノズル面には多数のノズル51が形成されている。
【0048】
圧電基板54は、圧電材料であるチタン酸ジルコン酸鉛(Pb(Zr,Ti)O)で構成される上部基板54aと下部基板54bを接着剤62により接着して形成されている。上部基板54aと下部基板54bは、図3の(a)の矢印A、A′の方向に逆方向に分極されている。このようにチタン酸ジルコン酸鉛で構成される基板(PZT基板)は、圧電定数や高周波応答性等の圧電特性に優れているので好ましい。他の圧電材料として、BaTiO、PbTiO等を使用することも可能である。
【0049】
圧電基板54には、圧力室52に相当する溝部64が上部基板54a側に開口するように形成されている。溝部64は上部基板54aと下部基板54bの間をまたがる深さであって、圧電基板54の対向する両側面を開口するように細溝状に構成されている(図3の(b)参照)。
【0050】
溝部64の内壁面には電極66が設けられている。電極66は、例えば、金、銀、アルミニウム、パラジウム、ニッケル、チタンから成る金属の薄膜であり、メッキ、真空蒸着、スパッタリング等の方法で形成することができる。
【0051】
天板56は、溝部64の開口部分を塞ぐように、上部基板54aの下部基板54bとは反対側の面に接着剤62を介して圧電基板54に接着される。天板56は機械的強度が高く、耐インク性を備えたものであればよいが、特に、セラミックス基板を用いるのが好ましく、吐出駆動時に所定の変位を行う圧電基板54との接合した状態での使用を考慮すると、圧電性セラミックス基板を用いることが好ましい。具体的には、酸化アルミニウム、酸化ジルコン、窒化シリコン、窒化アルミニウム、石英等を主成分とする基板が挙げられるが、この中でも酸化アルミニウムを主成分とする基板は、絶縁特性に優れ、基板が薄くても熱膨張やストレスによる破壊を防ぐことができるので特に好ましい。
【0052】
ノズルプレート58は、例えば、ポリイミド、ポリカーボネイト等のプラスチック材料で構成され、圧力室52に対応するノズル(貫通孔)51が穿孔形成されている。ノズルプレート58は、ノズル面側から見た溝部64の略中心にノズル51が配置されるように位置合わせされた状態で、圧電基板54の溝部64が開口する一側面に接着剤62により接着される(図3の(b)参照)。
【0053】
背面板60には、圧力室52に対応する供給口(貫通孔)53が穿孔形成されている。ノズルプレート58の場合と同様に、ノズル面側から見た溝部64の略中心に供給口53が配置されるように位置合わせされた状態で、圧電基板54の溝部64が開口する他の側面(ノズルプレート58が接合される面とは反対側の面)に接着剤62により接着される(図3の(b)参照)。尚、インク供給口53は図1のインク貯蔵/装填部14と不図示の供給路を介して連通しており、図1のインク貯蔵/装填部14に貯蔵されるインクが圧力室52に供給されるように構成されている。
【0054】
圧力室52は、圧電基板54、天板56、ノズルプレート58、及び背面板60の各基板に囲まれて構成される流路(空間)である。圧力室52の内壁面(即ち、各基板の圧力室52の構成面)には、保護膜68が設けられている。
【0055】
本発明において、保護膜68としてパリレン膜が用いられる。パリレン膜は、ポリパラキシレン樹脂及び/又はその誘導体樹脂から成る有機被膜であり、固体のジパラキシレンダイマー又はその誘導体を原料として、CVD法(気相合成法)により形成する。即ち、ジパラキシレンダイマーが気化、熱分解して発生したジラジカルパラキシレンモノマーが基板上に吸着して重合反応し、被膜を形成するものである。パレリン膜の厚さは、吐出安定性の観点から、1μm以上10μm以下の範囲であることが好ましい。
【0056】
かかる構成により、圧電基板54を構成する上部基板54a及び下部基板54bの分極方向に垂直な方向の電界が印加されると、圧電材料の厚み滑り変位によるせん断モード変形によって、図3の(a)の破線で示すように、隣接する圧力室52、52間の隔壁は圧力室52の容積を減少させる方向に変位する。これにより、圧力室52内部のインクは加圧され、この圧力室52に連通するノズル51からインク滴が吐出される。また、電界の印加が解除されると、隣接する圧力室52、52間の隔壁が元の状態に復帰し、供給口53から圧力室52内部にインクが供給される。
【0057】
本実施形態によれば、着色剤として白色無機顔料を含有する白色インクに所定量の蛍光増白剤を添加すると共に、圧力室52の内壁面に保護膜68としてポリパラキシレン樹脂又はその誘導体樹脂を含む所定厚さの有機被膜(パレリン膜)を形成することによって、圧力室52の内壁面に対する白色無機顔料の付着を防ぐことができる。吐出安定性の観点から、蛍光増白剤の含有量は白色インクの全質量に対し5質量%以上10質量%以下であることが好ましい。また、同様の観点から、パレリン膜の厚さは1μm以上10μm以下であることが好ましい。これにより、白色無機顔料の付着を要因とする吐出不良を防止することができ、白色無機顔料を含有する白色インクを用いて良好な品質の画像記録を実現することができる。また、圧力室52の内壁面に対する顔料付着を解消するためのメンテナンスが不要となり、ランニングコストを低減することができる。
【0058】
尚、本実施形態では、圧力室52の内壁面に保護膜68としてパレリン膜を形成する態様を例示したが、本発明の実施に際しては保護膜68の形成位置は特に限定されるものではなく、圧力室52とノズル51間の流路や、圧力室52に対してインクを供給するための流路(即ち、図1のインク貯蔵/装填部と供給口53間の流路)等の各種流路に保護膜(パレリン膜)68が形成されていてもよい。
【0059】
〔制御系の構成〕
次に、インクジェット記録装置10の制御系について説明する。
【0060】
図4は、インクジェット記録装置10のシステム構成を示す要部ブロック図である。インクジェット記録装置10は、通信インターフェース70、システムコントローラ72、画像メモリ74、モータドライバ76、ヒータドライバ78、プリント制御部80、画像バッファメモリ82、ヘッドドライバ84、光源ドライバ85等を備えている。
【0061】
通信インターフェース70は、ホストコンピュータ86から送られてくる画像データを受信するインターフェース部である。通信インターフェース70には、シリアルインターフェースやパラレルインターフェースを適用することができる。この部分には、通信を高速化するためのバッファメモリ(不図示)を搭載してもよい。
【0062】
ホストコンピュータ86から送出された画像データは通信インターフェース70を介してインクジェット記録装置10に取り込まれ、一旦画像メモリ74に記憶される。画像メモリ74は、通信インターフェース70を介して入力された画像を一旦格納する記憶手段であり、システムコントローラ72を通じてデータの読み書きが行われる。画像メモリ74は、半導体素子からなるメモリに限らず、ハードディスクなど磁気媒体を用いてもよい。
【0063】
システムコントローラ72は、通信インターフェース70、画像メモリ74、モータドライバ76、ヒータドライバ78等の各部を制御する制御部である。システムコントローラ72は、中央演算処理装置(CPU)及びその周辺回路等から構成され、ホストコンピュータ86との間の通信制御、画像メモリ74の読み書き制御等を行うとともに、搬送系のモータ88やヒータ89を制御する制御信号を生成する。
【0064】
モータドライバ76は、システムコントローラ72からの指示に従ってモータ88を駆動するドライバ(駆動回路)である。ヒータドライバ78は、システムコントローラ72からの指示に従って紫外線照射部42その他各部のヒータ89を駆動するドライバである。
【0065】
プリント制御部80は、システムコントローラ72の制御に従い、画像メモリ74内の画像データから印字制御用の信号を生成するための各種加工、補正などの処理を行う信号処理機能を有し、生成した印字制御信号(ドットデータ)をヘッドドライバ84に供給する制御部である。プリント制御部80において所要の信号処理が施され、該画像データに基づいてヘッドドライバ84を介してヘッド50のインク滴の吐出量や吐出タイミングの制御が行われる。これにより、所望のドットサイズやドット配置が実現される。
【0066】
また、プリント制御部80は、光源ドライバ85を介して紫外線照射部42の紫外線光源(UV光源)のオン・オフや照射量、照射時間等の制御を実行する。ヘッド50の制御や記録紙16の搬送制御と連動してもよい。
【0067】
プリント制御部80には画像バッファメモリ82が備えられており、プリント制御部80における画像データ処理時に画像データやパラメータなどのデータが画像バッファメモリ82に一時的に格納される。なお、図4において画像バッファメモリ82はプリント制御部80に付随する態様で示されているが、画像メモリ74と兼用することも可能である。また、プリント制御部80とシステムコントローラ72とを統合して1つのプロセッサで構成する態様も可能である。
【0068】
ヘッドドライバ84は、プリント制御部80から与えられるドットデータに基づいて各色のヘッド50を吐出駆動させるための駆動信号を生成し、ヘッド50に生成した駆動信号を供給する。ヘッドドライバ84にはヘッド50の駆動条件を一定に保つためのフィードバック制御系を含んでいてもよい。
【0069】
光源ドライバ85は、プリント制御部80から光源ドライバ85へ送り出される制御信号に基づいて、紫外線照射部42の紫外線光源を駆動するための駆動信号を生成し、紫外線光源に対して駆動信号を供給する。ヘッドドライバ84と同様に、光源ドライバ85には紫外線光源の駆動条件を一定に保つたものフィードバック制御系を含んでもよい。
【0070】
印字検出部24は、図1で説明したように、ラインセンサを含むブロックであり、記録紙16に印字された画像を読み取り、所要の信号処理などを行って印字状況(吐出の有無、打滴のばらつきなど)を検出し、その検出結果をプリント制御部80に提供する。プリント制御部80は、必要に応じて印字検出部24から得られる情報に基づいてヘッド50に対する各種補正を行う。
【0071】
〔インクの説明〕
次に、本実施形態に用いられるインクについて説明する。
【0072】
本実施形態に用いられるインクは、紫外線が照射されると硬化する紫外線硬化型インクであり、主成分として、重合性化合物、重合開始剤、着色剤を少なくとも含むものである。本発明においては、特に、着色剤として白色無機顔料と共に蛍光増白剤を含有する白色インクを用いることを特徴としている。紫外線硬化型インクは、重合性化合物として、ラジカル重合性化合物を含有するラジカル重合系の紫外線硬化型インク(ラジカル重合型インク)と、カチオン重合性化合物を含むカチオン重合系の紫外線硬化型インク(カチオン重合型インク)とに大別される。以下、これらのインクを構成する各々の材料について説明する。
【0073】
<重合性化合物(輻射線硬化型モノマー及びオリゴマー)>
ラジカル重合型インクに用いられる重合性化合物は、分子内に、アクリロイル基、メタクリロイル基、アリル基、ビニル基、内部二重結合性基(マレイン酸など)などの重合性基を有することが好ましく、なかでも、アクリロイル基、メタクリロイル基を有する化合物が、低エネルギーで硬化反応を生起させることができるので好ましい。
【0074】
カチオン重合型インクに用いられる重合性化合物としては、脂環式エポキシ化合物、脂肪族系エポキシ化合物、オキセタン誘導体、ビニルエーテル類等の化合物が挙げられる。
【0075】
重合性化合物は1つの液体中において、1種のみを用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0076】
着色剤を含む液体に含有させる重合性化合物の含有率としては、液体中に50〜99質量%の範囲が好ましく、70〜99質量%の範囲がより好ましく、80〜99質量%の範囲がさらに好ましい。
【0077】
<重合開始剤(硬化開始剤、反応開始剤)>
ラジカル重合型インクに用いられる重合開始剤としては、アセトフェノン誘導体、ベンゾインエーテル誘導体、ベンジルジアルキルケタール誘導体、アシルフォスフィンオキサイド誘導体等の化合物が挙げられる。
【0078】
カチオン重合型インクに用いられる重合開始剤としては、アリールジアゾニウム塩、ジアリールヨウドニウム塩、トリアリールスルホニウム塩、フェナシルスルホニウム塩等のオニウム塩系の重合開始剤、または鉄アレーン錯体、スルホン酸エステル、シラノール/アルミニウム錯体等の非イオン系の重合開始剤が挙げられる。
【0079】
インク内の重合開始剤の含有率は、経時安定性と硬化性、硬化速度との観点から、0.5〜20質量%が好ましく、1〜15質量%がより好ましく、3〜10質量%が更に好ましい。
【0080】
重合開始剤は、1種あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。また、本発明の効果を損なわない限りにおいて、感度向上の目的で公知の増感剤と併用することもできる。
【0081】
<着色剤(色材)>
本発明において、白色インクの着色剤には公知の白色無機顔料が用いられる。白色無機顔料として、硫酸バリウム、炭酸カルシウム、シリカ、ケイ酸カルシウム、アルミナ、アルミナ水和物、酸化チタン、酸化亜鉛、タルク、クレイ等が挙げられる。これらのうち、隠蔽性、着色性、分散性の観点から酸化チタンを用いることが特に好ましい。
【0082】
本発明において、白色無機顔料を単独で用いてもよいし、或いは、2種以上組み合わせてもよい。
【0083】
一方、本発明に用いられる白色以外の有色インク(本実施形態の場合、黒、シアン、マゼンダ、イエローの各色インク)の着色剤には特に制限はなく、インクの使用目的に適合する色相、色濃度を達成できるものであれば、公知の水溶性染料、油溶性染料及び顔料から適宜選択して用いることができる。なかでも、本発明のインクジェット記録用インクを構成する液体は、非水溶性の液体であって水性溶媒を含有しないことがインク打滴安定性及び速乾性の観点から好ましく、そのような観点からは、非水溶性の液体に均一に分散、溶解しやすい油溶性染料や顔料を用いることが好ましい。
【0084】
有色インクに使用可能な油溶性染料には特に制限はなく、任意のものを使用することができる。着色剤として油溶性染料を用いる場合の染料の含有量は、固形分換算で0.05〜20質量%の範囲であることが好ましく、0.1〜15質量%が更に好ましく、0.2〜6質量%が特に好ましい。着色剤として顔料を用いる態様もまた、複数種の液体の混合時に凝集が生じやすいという観点から好ましい。
【0085】
また有色インクに使用される顔料としては、有機顔料、無機顔料のいずれも使用できるが、黒色顔料としては、カーボンブラック顔料等が好ましく挙げられる。また、一般には黒色、及び、シアン、マゼンタ、イエローの3原色の顔料が用いられるが、その他の色相、例えば、赤、緑、青、茶、白等の色相を有する顔料や、金、銀色等の金属光沢顔料、無色又は淡色の体質顔料なども目的に応じて用いることができる。
【0086】
また、シリカ、アルミナ、樹脂などの粒子を芯材とし、表面に染料又は顔料を固着させた粒子、染料の不溶レーキ化物、着色エマルション、着色ラテックス等も顔料として使用することができる。
【0087】
さらに、樹脂被覆された顔料を使用することもできる。これは、マイクロカプセル顔料と呼ばれ、大日本インキ化学工業社製、東洋インキ社製などから市販品としても入手可能である。
【0088】
本発明における液体中に含まれる顔料粒子の体積平均粒子径は、光学濃度と保存安定性とのバランスといった観点からは、30〜250nmの範囲であることが好ましく、さらに好ましくは50〜200nmである。ここで、顔料粒子の体積平均粒子径は、例えば、LB−500(HORIBA(株)製)などの測定装置により測定することができる。
【0089】
着色剤として顔料を用いる場合の含有量は、光学濃度と噴射安定性の観点から、インク中において、固形分換算で0.1質量%〜20質量%の範囲であることが好ましく、1質量%〜10質量%の範囲であることがより好ましい。
【0090】
着色剤は1種のみならず、2種以上を混合して使用してもよい。また、液体毎に異なった着色剤を用いても、同じであってもよい。
【0091】
ラジカル重合型インク、カチオン重合型インクともに、着色剤に用いられる材料には特に制限はなく、インクの使用目的に適合する色相、色濃度を達成できるものであれば、上記記載の油溶性染料及び顔料から適宜選択して用いることができる。
【0092】
<蛍光増白剤>
公知の各種蛍光増白剤を用いることができる。例えば、ベンゾオキサゾール系、クマソン系、ピラゾリン系等が挙げられるが、特に、ベンゾオキサゾリナフタレン系、ベンゾオキサゾリルスチルベン系を用いることが好ましい。
【0093】
本発明における白色インク中の蛍光増白剤の含有量は、吐出安定性の観点から、白色インクの全質量に対して、5質量%以上10質量%以下であることが好ましい。
【0094】
本発明において、蛍光増白剤は単独で用いても、或いは2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0095】
<その他の添加剤>
ラジカル重合型インク、カチオン重合型インクともに、その他の添加剤としては、分散剤、溶剤やポリマー、表面張力調整剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、退色防止剤、pH調整剤等の公知の添加剤を併用することができる。
【0096】
<エネルギー付与工程>
本発明において重合性化合物の重合を進行させるための露光光源としては、紫外線、可視光線などを使用することができる。また、光以外の放射線、例えば、α線、γ線、X線、電子線などでエネルギー付与を行うこともできるが、これらのうち、紫外線、可視光線を用いることがコスト及び安全性の点から好ましく、紫外線を用いることが更に好ましい。硬化反応に必要なエネルギー量は、重合開始剤の種類や含有量などによって異なるが、一般的には、1〜500mJ/cm程度である。
【0097】
ラジカル重合型インクは、光(UV)照射により重合開始剤がラジカルを発生することで重合を開始するものであり、安価であり、現在インクジェットのインクとして一般に用いられている。
【0098】
カチオン重合型インクは、光(UV)照射により重合開始剤が酸を発生することで重合を開始するものであり、硬化時の体積収縮が少なく、臭気や皮膚刺激性が少ないが、高価であるといった特徴を有している。
【実施例】
【0099】
次に、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0100】
[評価用インクの調製]
表1に記載の組成のものを加圧ニーダーにより配合し、次いでロールミルによって練肉・分散を行って白色顔料分散物1を得た。
【0101】
【表1】

【0102】
次に、表2に記載の組成のものを混合した後にフィルターでろ過して、白色無機顔料、重合性化合物、及び重合開始剤を含有する白色顔料分散物2を調製した。
【0103】
【表2】

【0104】
更に、白色顔料分散物2に下記式で示される蛍光増白剤を表3に記載の割合で混合し、評価用インクとしてインク101〜インク106を調製した(表3)。尚、これらのインクはいずれもカチオン重合型インクである。
【0105】
【化1】

【0106】
【表3】

【0107】
[評価用ヘッドの作製]
評価用ヘッドとして、表4に記載の各ヘッド(評価用ヘッド)201〜209を製作した。
【0108】
【表4】

【0109】
各評価用ヘッド201〜209は、本実施形態のヘッド50(図3参照)と保護膜68以外は同一構造となっている。評価用ヘッド201〜207は、本実施形態のヘッド50と同様に、保護膜68としてパレリン膜を圧力室52の内壁面全体に形成したものであり、その膜厚がそれぞれ異なっている。一方、評価用ヘッド208は、保護膜68としてポリイミド膜(膜厚5.0μm)を形成したものである。また、評価用ヘッド209は、保護膜54が全く形成されていないものである。
【0110】
[評価方法]
このようにして得られた各々の評価用インク及び評価用ヘッドを適宜組み合わせながら、評価用ヘッドに評価用インクを充填した後、評価用ヘッドを固定した状態でPETフィルムを一定速度で搬送しながら、PETフィルムに対して評価用ヘッドの全ノズルから1万滴連続打滴を行い、各々の組み合わせ毎に評価サンプルを10枚ずつ作成した。そして各評価サンプルに対して不吐出の有無を目視で確認し、その結果を集計することで不吐出発生頻度を評価した。この評価実験では、不吐出発生ノズル数/全ノズル数を不吐出発生率として、評価サンプル10枚の平均値をとった。本評価実験の判定基準として、不吐出発生率が0〜0.5%の場合を○、0.5〜1.0%を△、1.0%以上を×とした。評価実験結果を表5に示す。
【0111】
【表5】

【0112】
[評価1]
比較例1〜5及び実施例1は、蛍光増白剤を含有しないインク101及び蛍光増白剤を5wt%含有するインク103と、保護膜68が形成されないヘッド209、保護膜68としてポリイミド膜が形成されるヘッド208、及びパレリン膜が形成されるヘッド204とを組み合わせたものである。
【0113】
保護膜68が形成されていない場合(比較例1、2)、不吐出発生率は2%以上とかなり高めとなり、不吐出がかなり生じやすいことが確認された。また、保護膜68としてポリイミド膜が形成されている場合(比較例3、4)、比較例1、2に比べて低くなるものの、不吐出発生率が高くなることが確認された。また、保護膜68としてパレリン膜が形成され、且つ、蛍光増白剤を含有しないインクが用いられる場合(比較例5)も同様に、不吐出発生率が高くなることが確認された。
【0114】
これに対し、保護膜68としてパレリン膜が形成され、且つ、蛍光増白剤を含有するインクが用いられる場合(実施例1)、不吐出発生率が0.25%とかなり低く、不吐出がほとんど発生しないことが確認された。
【0115】
[評価2]
比較例6〜9及び実施例2〜4は、蛍光増白剤を5wt%含有するインク103と、保護膜68として形成されるパレリン膜の被膜厚さが異なるヘッド201〜207とを組み合わせたものである。
【0116】
被膜厚さが1μm未満の場合(比較例6、7)、不吐出発生率は2%以上とかなり高めとなり、不吐出がかなり生じやすいことが確認された。これは、被膜にピンホールが発生しやすく、均一な被膜を得ることが困難であるため、不吐出が起こりやすいものと考えられる。また、被膜厚さが10μmより大きい場合(比較例8、9)、不吐出発生率は極端に高くなることが確認された。特に、比較例9の被膜厚さが30μmの場合には全く吐出が行われなかった。これは、膜剛性が高くなりすぎて圧電基板54の変形を阻害する要因となり、十分な吐出力を得られないためである。
【0117】
これに対し、被膜厚さが1〜10μmの場合(実施例2〜4)、いずれも不吐出発生率が0.5%未満となり、不吐出がほとんど発生しないことが確認された。特に、被膜厚さが5μmの場合の不吐出発生率が0.28%と最も低く、良好な画像品質を得るためには、実施例3のような組み合わせが好ましいことが分かった。
【0118】
[評価3]
比較例10、11及び実施例5〜7は、蛍光増白剤の含有比率が異なるインク102〜106と、保護膜68として厚さ5μmのパレリン膜が形成されたヘッド204とを組み合わせたものである。
【0119】
蛍光増白剤の含有比率が全体の5wt%未満の場合(比較例10)、不吐出発生率は0.67%とやや高めとなることが確認された。これは、顔料の付着防止効果を得るのに十分な蛍光増白剤がインク中に含有されていないためであると考えられる。また、蛍光増白剤の含有比率が全体の10wt%より大きい場合(比較例11)、不吐出発生率が1.23%と高く、不吐出が生じやすいことが確認された。
【0120】
これに対し、蛍光増白剤の含有比率が全体の5〜10wt%の場合(実施例5〜7)、いずれも不吐出発生率が0.5%未満となり、不吐出がほとんど発生しないことが確認された。
【0121】
以上の評価結果より、本発明の実施例によれば、白色無機顔料を含有する白色インクを用いても、吐出不良の発生頻度が低くなり、安定した吐出性能を得られることを確認した。 また、ラジカル重合型インクでもカチオン重合型インクと同様の効果が得られた。
【0122】
以上、本発明のインクジェット記録装置について詳細に説明したが、本発明は、以上の例には限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、各種の改良や変形を行ってもよいのはもちろんである。
【図面の簡単な説明】
【0123】
【図1】本実施形態のインクジェット記録装置の全体構成図
【図2】インクジェット記録装置の印字部周辺を示した要部平面図
【図3】ヘッドの一部断面図
【図4】インクジェット記録装置のシステム構成を示す要部ブロック図
【符号の説明】
【0124】
10…インクジェット記録装置、42…紫外線照射部、50…ヘッド、51…ノズル、52…圧力室、53…供給口、54…圧電基板、56…天板、58…ノズルプレート、60…背面板、64…溝部、66…電極、68…保護膜、80…プリント制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも白色インクを吐出する記録ヘッドを備えるインクジェット記録装置であって、
前記白色インクは輻射線重合性化合物、白色無機顔料及び蛍光増白剤を含有し、
前記記録ヘッドは前記白色インクの流路を有し、
前記流路の内壁面の少なくとも一部にはポリパラキシレン又はその誘導体を含む有機被膜が形成されていることを特徴とするインクジェット記録装置。
【請求項2】
前記有機被膜の厚みは1μm以上10μm以下であることを特徴とする請求項1に記載のインクジェット記録装置。
【請求項3】
前記蛍光増白剤の含有量は、前記白色インクの全質量に対し5質量%以上10質量%以下であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のインクジェット記録装置。
【請求項4】
前記流路の少なくとも一部の隔壁は圧電材料から成り、
前記記録ヘッドは、前記隔壁のせん断変形を利用して前記白色インクを吐出することを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載のインクジェット記録装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−253565(P2007−253565A)
【公開日】平成19年10月4日(2007.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−84027(P2006−84027)
【出願日】平成18年3月24日(2006.3.24)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】