説明

インクジェット記録装置

【課題】 インクジェットヘッド21内に洗浄液を導入していても、印刷操作をする際には、洗浄液のインクへの置換をせずに、又は最小限に抑えて印刷できるインクジェット記録装置1の提供。
【解決手段】 インクジェットヘッド21と、インク供給手段22と、インクジェットヘッド21に洗浄液を供給する洗浄液供給手段23と、洗浄後のインクジェットヘッド21のインク置換の要否を判定するインク置換判定手段と、インク置換判定手段による判定結果に基づいて、インクジェットヘッド内の洗浄液をインクに置換させるインク置換制御手段とを備え、インク置換判定手段は、インクジェットヘッド21の洗浄時に供給された洗浄液の供給量に応じて、インクによる置換の要否を判定し、インク置換が必要なときは、インク置換し、インク置換が不要と判断したときは、インク置換を行わないインクジェット記録装置1。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット記録装置に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録装置においては、必要に応じてインクジェットヘッドを洗浄することのできる装置が知られている。例えば、特許文献1には、インクとは別のノズルの詰まりを起こしにくい別液体(洗浄液に相当する)をインクジェットヘッドに導入できるようにし、非印字時にはヘッド内に別液体を導入しておくインクジェット記録装置が開示されている。このインクジェット記録装置においては、インクジェットヘッドにキャップをして、別液体を導入するとともに、キャップ内を減圧にしたり加圧したりすることができ、インクジェットヘッド内に強制的な別液体の流れを作って、流路の汚れを洗浄することもできる。また、別液体としては、できるだけインクに近く、詰まりの原因物質を含まない液体として、インクから染料のみを除去した洗浄液が好ましいとしている。
【0003】
特許文献2には、インク流路洗浄液の視認性を得る目的で、水溶性染料等の着色剤を添加することが記載されている。
【特許文献1】特許第3597346号公報
【特許文献2】特開2007−313716号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述のように、インクジェットヘッドのノズルの詰まりを防止・解消するために、洗浄液を使用することは知られている。しかし、洗浄液をインクジェットヘッド内に導入した後、インクジェット記録装置により印字操作をするときは、インクジェットヘッド内にインクを導入し、洗浄液と交換する必要がある。この洗浄液からインクへの交換操作(インク置換)は、インクジェット記録装置の迅速な印刷開始や、インクの節約にとっては好ましくない。ラインヘッドのようにヘッドが大型化し、ヘッド上のノズルの数が増えるほどインクへの交換操作は時間が掛かり、交換インク量も増える場合が多い。特に、ノズルの信頼性を高めるために、洗浄液の導入頻度を高くすれば、インクの交換頻度も高くなり、インクジェット記録装置の迅速な印刷開始や、インクの節約の妨げになる。
【0005】
本発明の目的は、上記問題点を踏まえ、インクジェットヘッド内に洗浄液を導入していても、印刷操作をする際には、インクジェットヘッド内の洗浄液のインクへの置換をせずに、又は最小限に抑えて印刷することのできるインクジェット記録装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、記録媒体上にインクを吐出して画像形成するインクジェットヘッドと、前記インクジェットヘッドにインクを供給するインク供給手段と、前記インクジェットヘッドに洗浄液を供給する洗浄液供給手段と、前記インクジェットヘッドの洗浄時に供給された洗浄液供給量に応じて、洗浄後の前記インクジェットヘッド内をインクで置換するインク置換動作が必要か否かを判定するインク置換判定手段と、前記インク置換判定手段によりインク置換動作が必要と判定されたときには、印刷前に、前記インク供給手段を制御して、前記インク置換動作を行わせ、前記インク置換判定手段によりインク置換が不要と判定されたときには、印刷前に、前記インク置換動作を行わないように制御するインク置換制御手段と、を備えたことを特徴とするインクジェット記録装置である。
【0007】
好ましい本発明は、前記洗浄液は、着色剤を含むことを特徴とする前記インクジェット記録装置である。
【0008】
好ましい本発明は、前記洗浄液供給手段により供給する洗浄液量を設定する洗浄液量設定手段をさらに備えることを特徴とする前記インクジェット記録装置である。
【0009】
好ましい本発明は、前記洗浄液供給手段によるインクジェットヘッドの洗浄は、複数回の洗浄操作を含むことができ、前記洗浄操作1回ごとの洗浄液量を積算して、合計の洗浄液供給量を算出する洗浄液供給量積算手段をさらに備えることを特徴とする前記インクジェット記録装置である。
【0010】
好ましい本発明は、前記洗浄液量設定手段は、前記画像形成の休止時間に基づいて、洗浄液量を設定することを特徴とする前記インクジェット記録装置である。
【0011】
好ましい本発明は、前記インク置換制御手段は、前記洗浄液供給手段から前記インクジェットヘッドに供給された洗浄液供給量に基づいて、インク置換における置換インク量を設定することを特徴とする前記インクジェット記録装置である。
【0012】
好ましい本発明は、前記インクジェトヘッドは、ラインヘッドタイプのインクジェトヘッドであることを特徴とする前記インクジェット記録装置である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、インクジェットヘッド内に洗浄液を導入していても、印刷操作をする際には、インクへの置換をせずに、又は最小限に抑えて印刷することのできるインクジェット記録装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
(本発明のインクジェット記録装置の具体的実施形態)
本発明のインクジェット記録装置の具体的な実施形態を、図面を参照にして説明する。図1は、本発明のインクジェット記録装置の一態様を表す概略構成図である。図1に示すように、このインクジェット記録装置は、ライン型インクジェット記録装置であり、装置本体1上に、記録用紙上にインクドットを吐出して印刷をするインク吐出部2と、記録用紙を保持し給紙する記録用紙供給部3と、記録用紙を記録用紙供給部3からインク吐出部2により印刷される位置まで搬送し、印刷された記録用紙を記録用紙排紙部5まで搬送する記録用紙搬送部4と、印刷された記録用紙を排紙保持する記録用紙排紙部5とを備える。さらに、このインクジェット記録装置は、印刷休止中のインクジェットヘッドを清掃し、清浄に維持するインクジェットヘッド維持部6と、インク吐出部2を含む装置本体1全体を制御するインクジェット記録装置制御部7とを備えている。なお、当然ではあるが、本発明は、シリアル型インクジェット記録装置にも適用可能である。
【0015】
インク吐出部2は、インクジェットヘッド21と、インクタンク22、インク供給ライン27等を含むインク供給手段と、洗浄液タンク23、洗浄液供給ライン28等を含む洗浄液供給手段とを備えている。インク吐出部2は、通常の印刷動作時は、インクタンク22から供給されたインクを、制御部72(後述する)からのドットパターン信号に従って、インクジェットヘッド21のノズルから吐出し記録用紙に画像を形成(印刷)している。インク吐出部2の洗浄操作及びインク置換操作については、インクジェット記録装置制御部7と合わせて説明する。
【0016】
記録用紙供給部3の記録用紙供給トレイ31に保持されている記録用紙は、引出ローラ32により1枚ずつ引き出され、供給ローラ33により記録用紙搬送部4に供給される。
【0017】
記録用紙搬送部4に供給された記録用紙は、上面を補助ローラ45に抑えられながら搬送ベルト41上に搬送される。搬送ベルト41は、記録用紙を吐出ヘッド21のインク吐出動作とタイミングを合わせながら副走査方向(図1では右から左の方向)へ搬送する。搬送ベルト41は、駆動ローラ42と従動ローラ43とに張架されており、駆動ローラ42の回転動作が制御部72により制御されている。
【0018】
搬送ベルト41上の記録用紙には、インク吐出部2のインクジェットヘッド21のノズルからインクが吐出され、インクによる印刷が実行される。記録用紙は、搬送ベルト41上を印刷されながら搬送され、駆動ローラ42と補助ローラ44の間を通って、記録用紙排紙部5に搬送される。記録用紙排紙部5では、排紙ローラ53と補助ローラ52の間を通って、記録用紙排紙トレイ51上に排紙される。
【0019】
インクジェットヘッド維持部6は、インクジェットヘッド21の印刷休止中にノズルの乾燥を防ぎ、インクジェットヘッド21のよごれや詰まりを清掃してインクジェットヘッド21の機能を正常に保つ機能を有する。インクジェットヘッド21は、印刷休止中はノズルキャップ62の上部に移動してきて、インクジェットヘッド21下部のノズルをノズルキャップ62が覆い、インクジェットヘッド維持部6が図示していない吸引ポンプによりインクジェットヘッド21中のインクをノズルから吸引して廃液タンク61に排出したり、乾燥防止をしたりしている。なお、この吸引ポンプは、インク吐出部2のインク供給手段や洗浄液供給手段の構成要素でもある(詳細は後述する)。
【0020】
インクジェット記録装置制御部7は、表示操作盤71と、CPUを中心に記憶装置(ROM,RAM)などを有する制御部72とを備えている。表示操作盤71は、インクジェット記録装置の運転状況をオペレータに報知する表示盤と、オペレータが操作するための操作盤を兼ねている。制御部72は、装置本体1の印刷動作を制御する印刷制御部と、インク吐出部2のインクジェットヘッド洗浄・インク置換制御部(後述する)とで構成されている。インクジェットヘッド洗浄・インク置換制御部は、追って詳述するが、機能的には、インク置換判定手段、インク供給制御手段、洗浄液量設定手段、洗浄液供給量算出手段などを有している。
【0021】
インク置換判定手段は、印刷休止中にインクジェットヘッド維持部6等においてインクジェットヘッド21が洗浄された後に、印刷を開始するにあたって、インクジェットヘッド21の洗浄時に供給された洗浄液の供給量に応じて、インクによる置換の要否を判定する機能を有する。そして、インク置換判定手段によりインク置換が必要と判定されたときには、インク置換制御手段が、インク供給手段からインクジェットヘッド21にインクを供給させることで、インクジェットヘッド21中の洗浄液がインクに置換される。
【0022】
インク吐出部2のインク供給手段は、ノズルがインクジェットヘッド維持部6に被覆されているインクジェットヘッド21にインクを供給し、画像形成動作(印刷)を開始する前に、インクジェットヘッド21内の洗浄液をインクにより置換する。インク供給手段からのインク置換においては、インクジェットヘッド維持部6の吸引ポンプにより、ノズルキャップを介してインクジェットヘッド21から洗浄液を吸引することで、インクをインクジェットヘッド中に吸引して供給する。この場合、インクジェットヘッド維持部6に含まれるインク吸引ポンプも、機能的にはインク供給手段の一部となる。なお、インク供給手段の構成はこれに限定されるものではなく、例えば、インク吐出部2側からポンプ等によりインクジェットヘッド21中にインクを圧入してもよい。
【0023】
インクジェットヘッド21は、インク置換が終了したら、インクジェットヘッド維持部6から分離して、画像形成位置に移動し印刷を開始することができる。なお、インク置換判定手段によりインク置換が必要ないと判定されたときには、インクジェットヘッド21は、すぐに画像形成位置に移動し印刷を開始することができる。
【0024】
本実施形態のインクジェット記録装置1においては、洗浄液に着色剤を含んでいる。後述するように、本実施形態のインクジェット記録装置1では、洗浄後にインクジェットヘッド21内をインクで置換しない場合があり、その場合、一時的には洗浄液とインクとの混合液により記録紙等に画像形成することになるが、洗浄液に着色剤を含むことにより、洗浄液とインクとの混合液でもインクに近い濃度の画像形成が可能となる。この為、洗浄液に含まれる着色剤は、インクと同じような色や明るさを有することが好ましい。また、洗浄液に着色剤を含むことで、詳細は後述するが、洗浄後に試し印刷を行い、オペレータが試し印刷されたドットを確認することが容易となる。もっとも、着色剤を含まない洗浄液を用いてもよい。
【0025】
洗浄液としては、従来から知られている洗浄液、保持液などを用いればよいが、洗浄液として着色剤を含有する場合は、着色剤としてインク用の顔料や染料を用いることができる。この場合、装置維持の観点から、顔料・染料濃度は通常のインクよりも低くしておくことが好ましい。つまり、洗浄液としては、インクジェット記録装置に使用されるインクから顔料や染料を除去あるいは減少させたものを用いることが好ましい。具体的な洗浄液としては、グリセリン、1,3ブタンジオールなどの多価アルコールと、アセチレンジオール系の非イオン性界面活性剤と、インクに使用される染料とを含む水溶液などが挙げられる。
【0026】
(インクジェットヘッドの洗浄動作)
本発明のインクジェット記録装置のインク吐出部2は、印刷休止中から次の印刷動作に移行するときに特別の機能を発揮するので、図1及び図2を参照にして、この点を詳しく説明する。図2は、図1に示したインクジェット記録装置におけるインク吐出部2の詳細図である。この実施形態例においては、インク吐出部2は4色のインクを別々に吐出できる4つのインクジェットヘッド21a,21b,21c,21dを備えている。インクジェットヘッド21a,21b,21c,21d(これらを合わせてインクジェットヘッド21という。)は、それぞれノズル29a,29b,29c,29dを備えている。なお、各ノズル29a,29b,29c,29d(これらを合わせてノズル29という。)は、それぞれ複数の(場合によっては数千個の)ノズル孔を有している。
【0027】
通常の印刷動作中は、インクジェットヘッド21は図1に示すように、搬送ベルト41に対向する位置にあり、搬送ベルト41上を搬送されてきた印刷用紙にインクを吐出して印刷を実行する。なお、搬送ベルト41の移動及びインクジェットヘッド21からのインク吐出タイミングは、制御部72の印刷制御部により制御されている。そして、インクジェットヘッド21a,21b,21c,21dは、インク供給ライン27a,27b,27c,27d(これらを合わせてインク供給ライン27という。)を介して、インクタンク22a,22b,22c,22d(これらを合わせてインクタンク22という。)に接続している。なお、印刷動作中は、インク供給バルブ24a,24b,24c,24d(これらを合わせてインク供給バルブ24という。)は開放状態としておけばよい。この実施形態においては、インクタンク22、インク供給ライン27、インク供給バルブ24、及び上記したインクジェットヘッド維持部6の吸引ポンプがインク供給手段を構成している。
【0028】
インクジェットヘッド21a,21b,21c,21dは、洗浄液供給ライン28a,28b,28c,28d(これらを合わせて洗浄液供給ライン28という。)を介して、4個の洗浄液タンク23a,23b,23c,23d(これらを合わせて洗浄液タンク23という。)に接続している。各洗浄液タンク23には、4色のインクに対応した着色剤を含む洗浄剤が貯留されている。例えば、ブラックインクが供給されるインクジェットヘッド21に接続された洗浄液タンク23aには、黒色の着色剤を含む洗浄液が入っている。そして、上述したように、インクジェットヘッド維持部6の吸引ポンプにより、ノズルキャップを介してインクジェットヘッド21から洗浄液を吸引することで、インクジェットヘッド21に洗浄液を供給する。なお、印刷動作中は、洗浄液供給バルブ25a,25b,25c,25d(これらを合わせて洗浄液供給バルブ25という。)は閉止状態であり、洗浄液タンク23の洗浄液はインクジェットヘッド21に流入しない。この実施形態においては、洗浄液タンク23、洗浄液供給ライン28、インク供給バルブ24が洗浄液供給手段を構成している。
【0029】
印刷動作が終了し印刷休止状態になると、インクジェットヘッド21は、制御部72からの指令により、インクヘッド維持部6の上に移動する。そして、インクジェットヘッド21の下部に位置するノズル面がノズルキャップ62により覆われる。この際、ノズル29は、全体として一つのノズルキャップ62により被覆してもよいが、個別のインクジェットヘッド21a,21b,21c,21dに配置されているノズル29a,29b,29c,29d毎に、別々のノズルキャップ62により被覆することが好ましい。
【0030】
ノズルキャップ62により被覆されたインクジェットヘッド21は、インクの空吐出操作や、インクヘッド維持部6に含まれる吸引ポンプによる吸引操作などにより、ノズル29を始めとするインクジェットヘッド21内の清掃をされる。この清掃においては、インク供給ライン27中のインク供給バルブ24をすべて閉止し、洗浄液供給ライン28中の洗浄液供給バルブ25をすべて開放して、インクジェットヘッド21中にインクに代えて洗浄液が流入するようにしてもよい。
【0031】
インクジェットヘッド21の清掃においては、上述のように、インク供給バルブ24を閉止し、洗浄液供給バルブ25を開放して、インクヘッド維持部6に備えたポンプの吸引力を利用してもよいが、洗浄液供給ライン28aに洗浄液供給ポンプを介設し、これを駆動させて、洗浄液を強制的にインクジェットヘッド21に導入してもよい。なお、これらの清掃工程において、洗浄液は、インクジェットヘッド21を清浄に保つための必要最小限の使用に留めることが好ましく、これを可能とする制御動作について、以下説明する。
【0032】
(インクジェットヘッドの洗浄・インク置換制御系の動作)
本実施形態のインクジェット記録装置1においては、インクジェットヘッド21が印刷休止状態になり、ノズル29にインクヘッド維持部6のノズルキャップ62が被せられている状態で、洗浄液によるインクジェットヘッド21の洗浄が行われる。この洗浄液によるインクジェットヘッド21の洗浄は、通常、必要に応じて(オペレータの指示に基づいて)行われるが、印刷休止状態になったらその都度行うようにしてもよい。この場合、ノズル29にノズルキャップ62が被せられたらすぐでもよいし、インクジェットヘッド21が次の印刷動作をする直前でもよい。また、本実施形態のインクジェット記録装置1においては、インクジェットヘッド21が印刷休止状態から印刷状態になるときに、インクジェットヘッド21内のインクによる置換が必要かどうかを判断し、必要な場合には、所定量のインクで置換をしてから印刷動作を開始するようにしている。
【0033】
このインク吐出部2の洗浄及びインク置換の制御について、図3を参照にして説明する。図3は、本発明に係るインクジェットヘッドの洗浄・インク置換制御系のブロック図である。
【0034】
インクジェット記録装置1の制御部72の一部は、インク吐出部2のインクジェットヘッド洗浄・インク置換制御部を構成している。このインクジェットヘッド洗浄・インク置換制御部には、洗浄液量設定手段101、洗浄液供給制御手段102、洗浄液供給量算出手段105、インク置換判定手段106、インク置換制御手段107が含まれている。洗浄液量設定手段101は、表示操作盤109、又は制御部72のうち、装置本体1の印刷動作を制御している印刷制御部110からインクジェットヘッド洗浄の指示、及び何回目の洗浄であるかの情報を受けると、インクジェットヘッドの洗浄液量を設定する。洗浄液量設定手段101は、前記指示に従って、洗浄モード記憶手段112であるROMに記憶されている洗浄モードテーブルから洗浄モードを選択し、洗浄液量を設定する。その際、必要に応じて、タイマー111で測定していた印刷休止時間を取得する。使用できる洗浄モードテーブルの例を表1に示す。なお、洗浄液量の設定は、テーブル以外にも、所定の関数による設定や表示操作盤104から外部入力した設定値で行ってもよい。また、後述するように複数回にわたって洗浄操作が行われる場合があるが、この場合、2回目以降の洗浄操作における洗浄液量は、1回目の洗浄操作における洗浄液量と同じである。もっとも、2回目以降は、1回目の洗浄操作による回復具合によって、洗浄液量を変更できるようにすることが好ましい。
【0035】
【表1】

洗浄液量設定手段101は、設定した洗浄液量を洗浄液供給制御手段102に伝達し、洗浄液供給制御手段102は、洗浄液供給手段107がインクジェットヘッド104に所定量の洗浄液を供給するように制御する。洗浄液供給手段107の洗浄液供給量の制御は、吸引ポンプによる定量供給や、洗浄液供給バルブ25の開放時間制御等により実行できる。そして、所定量の洗浄液がインクジェットヘッド104に供給されインクジェットヘッド104の洗浄が行われる。
【0036】
上述の動作により、1回のインクジェットヘッドの洗浄操作は完了する。ここで、インクジェットヘッドの洗浄結果を評価することが好ましい。装置本体1を印刷動作のスタンバイ状態に戻し、印刷制御部110の制御プログラムにより自動的に、又は表示操作盤109から人為的に、試し印刷の指示を出す。
【0037】
試し印刷を実行した場合は、例えばオペレータが試し印刷結果を評価し、洗浄が不十分であると判断したら、表示操作盤109から洗浄液量設定手段101に再洗浄の指示を出し、上述のインクジェットヘッドの洗浄を繰り返す。なお、試し印刷結果の評価はセンサによる測定等により装置本体1が自動的に実施してもよい。洗浄効果が十分であると判定できれば、インクジェットヘッドの洗浄操作は終了とする。
【0038】
洗浄液量設定手段101により設定された洗浄回数及び洗浄回毎の洗浄液量の情報は、洗浄液供給量算出手段105に伝達される。洗浄液供給量算出手段105は、洗浄回数が1回目であれば、伝達された洗浄液量をそのまま洗浄液供給量とし、洗浄回数が2回目以降であれば、伝達された洗浄液量を前回までの洗浄液供給量に積算して新たな合計の洗浄液供給量とする。なお、実際に洗浄液供給手段103が供給した洗浄液量を測定する洗浄液量測定手段を設け、その測定した洗浄液量をベースにして算出してもよい。
【0039】
インク置換判定手段106は、洗浄液供給量算出手段105からの洗浄液供給量の情報に基づいて、インクジェットヘッド104内の洗浄液に対しインク置換が必要か否かの判定をする。インク置換判定手段106は、インク置換が必要と判断した場合は、インク置換制御手段107に、インク供給手段108に対するインク供給の指示をする。これにより、インクジェットヘッド104内がインクで置換される。
【0040】
ここで、インク置換制御手段107は、インク置換制御の指示を受けて、置換インク量を設定する。置換インク量の設定は、洗浄液供給量算出手段105から取得した洗浄液供給量の情報に基づいて行う。インク供給手段108は、図示していないインク供給ポンプによる定量供給や、インク供給バルブ24の開放時間制御、インクジェットヘッド維持部に配置した吸引ポンプの吸引時間制御などにより所定量のインクを供給できる。
【0041】
インク置換判定手段106におけるインク置換の要否、インク置換制御手段107における置換インク量の設定には、例えば、記憶装置に洗浄液供給量とインク置換の要否及び置換インク量の関係を記憶させておき、これに従って判断、又は設定すればよい。インク置換の要否及び置換インク量の関係を表すテーブルを表2として例示する。なお、洗浄モード記憶手段112に洗浄液供給量をパラメータとした関数を記憶させておき、洗浄液供給量とこの関数から算出してもよい。
【0042】
【表2】

インク置換制御手段107は、置換インク量を設定したら、この置換インク量に基づいてインク供給手段108にインク供給をさせて、インクジェットヘッド104のインク置換を実行させる。インク置換においては、インクジェットヘッドのノズルに被せてあるノズルキャップ62側からインクジェットヘッド内の洗浄液を吸引ポンプで吸引して置換してもよいし、インク供給ライン27に設けたポンプや、インクタンク22に設けた加圧装置などにより、インクジェットヘッドにインクを供給して置換してもよい。インク供給手段108によるインク置換が終了したら、印刷制御部110は、インク置換制御手段107からの情報を得て、装置本体1を印刷動作のスタンバイ状態とする。また、表示操作部109にその旨の表示をする。
【0043】
一方、インク置換判定手段106は、インク置換が不要と判断した場合は、印刷制御部110にその旨伝達し、印刷制御部110は、装置本体1を印刷動作の待機状態とする。また、表示操作部109にその旨の表示をする。
【0044】
本発明のインクジェット記録装置においては、例えば、印刷の休止期間やインクジェット記録装置の設置環境温度を指標として洗浄液量を決定する洗浄液量設定手段を備えることにより、インクジェットヘッドの環境状況や印刷休止履歴に応じて、洗浄液量を必要最小限とすることができる。また、洗浄過程において洗浄効果を評価する工程を設け、少量の洗浄液で洗浄し、その評価結果に基づいて再度の洗浄の可否を設定できるので、最小限の洗浄液で効率的に洗浄を実施することができる。
【0045】
そして、洗浄における洗浄液量を少量に抑えることにより、インクジェットヘッドのインクによる置換を行わなくても、インクジェットヘッド中のインクがそれほど薄まらず、印刷物の画像品質に問題を発生させずに済む。このため必要なときだけ、必要最小限の量のインクで置換し、インクジェット記録装置として置換するインクの量や置換時間を抑制することができる。高速印刷の要望に応えてインクジェットヘッドが大型化し、特にラインヘッドタイプのインクジェットヘッドの場合は、置換するインクの量や置換時間が印刷の生産効率上問題となる場合が多いが、本形態のインクジェット記録装置は、このようなラインヘッドタイプのインクジェットヘッドの場合にも好適である。
【0046】
(インク吐出装置の洗浄制御フロー)
インクジェットヘッド21の洗浄制御のフローについて、図4のフロー図を参照にして説明する。なお、適宜、図1〜3についても参照する。インクジェットヘッド21の洗浄は、インクジェットヘッド21が印刷を休止しており、ノズル29がノズルキャップ62でカバーされているときに実行する。インクジェットヘッド21の洗浄制御は、装置本体1に備えられている制御部72により実行される。
【0047】
制御部72の洗浄液量設定手段101は、洗浄開始指示を受信すると(ステップS1)、インクジェットヘッドの休止時間、すなわち前回最後に印刷動作をしてからの時間をタイマー等から取得する(ステップS2)。また、印刷制御部110からは、洗浄開始指示とともに洗浄回数データが送信される。洗浄回数データとは、印刷開始前のインクジェットヘッド21の洗浄操作により、インクジェットヘッド21が正常になるまでの洗浄の繰り返し回数をいう。
【0048】
洗浄液量設定手段101は、インクジェットヘッドの休止時間を取得すると、これに基づいて、ROM等の洗浄モード記憶手段112に記憶されている洗浄モードテーブル等から洗浄モードを取得する(ステップS3)。洗浄モードテーブルは、例えば表1に示すように、インクジェットヘッドの休止時間に対応して、インクジェットヘッドに供給すべき洗浄液量を設定してある。
【0049】
洗浄液量設定手段101は、取得した洗浄モードからインクジェットヘッドに供給すべき洗浄液量を算出して、洗浄液供給制御手段102を介して、洗浄液供給手段103に所定の洗浄液量を供給させ、インクジェットヘッドの洗浄を実行させる(ステップS4)。
【0050】
洗浄液供給時間や使用した洗浄液の供給量等に基づき、洗浄液供給手段107によるインクジェットヘッドの洗浄が終了する。ここで、使用した洗浄液の供給量を記憶しておく(ステップS5)。
【0051】
これで、インクジェットヘッドは、一応、印刷可能な状態となる。そこで、装置本体1は、印刷制御部110又は、表示操作盤109からの指示により、試し印刷を実行する(ステップS6)。試し印刷結果をオペレータが観察して、画像品質に問題がなく正常な印刷が可能と判定された場合は、洗浄液供給量算出ステップS8に移る(ステップS7のYES)画像品質に問題があると判定した場合、特に、一部のノズルの詰まり等による画像の荒れ(ドット抜け)、色相又は明度(濃さ)不良などの問題がある場合は(ステップS7のNO)、ステップ3に戻って再度洗浄操作を実行する。試し印刷結果において、画像の荒れ等が激しい場合は、インクジェットヘッドの洗浄が特に不十分と考えられるので、ステップ3の洗浄モードの取得において、インクジェットヘッドの休止時間に拘らず洗浄液量の多いモードを選択させてもよい。
【0052】
洗浄液供給量算出手段105は、洗浄回数データ及び供給した洗浄液量から総洗浄液量である洗浄液供給量を算出して記憶しておく(ステップS8)。この算出する洗浄液供給量は、洗浄回数が複数回あった場合は、累積の洗浄液量である。
【0053】
次に、インク置換判定手段103によって洗浄液に対するインク置換の必要性を判定する(ステップS9)。インク置換の必要性の判定は、洗浄の要否判断テーブルを参照して行う。洗浄の要否判断テーブルは、例えば、表2に示すように、ステップS8で算出した洗浄液供給量に対応して、洗浄の要否又はインクジェットヘッドに供給すべきインク量を設定してある。
【0054】
表2を参照して、ステップS8で算出した洗浄液供給量が所定値(表2の例では、40ml)を超えていれば、インク置換の必要性ありと判定して(ステップS9のYES)、さらに、インク置換制御手段107により表2から洗浄液との置換に必要な供給インク量を取得する。
【0055】
インク置換制御手段107は、算出したインク供給量のインク置換指示を、インク供給手段108に発信し、インクジェットヘッド104にインクを供給させインク置換させる(ステップS10)。インク置換制御手段107は、例えばインク供給時間に基づき、インク置換を終了する(ステップS11)。その後、印刷が行われる。
【0056】
一方、インク置換判定手段103は、ステップS8で算出した洗浄液供給量が所定値(表2の例では、40ml)を超えていなければ、インク置換の必要性なしと判定し(ステップS9のNo)、インク置換動作を行わない。つまり、この場合は、印刷前にインク置換動作が行われることがない。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】本発明に係るインクジェット記録装置の概略構成図
【図2】本発明に係るインク吐出装置の構成図
【図3】本発明に係るインクジェットヘッドの洗浄・インク置換制御のブロック図
【図4】本発明に係るインクジェットヘッドの洗浄制御のフロー図
【符号の説明】
【0058】
1 :インクジェット記録装置(装置本体)
2 :インク吐出部
21,21a,21b,21c,21d :インクジェットヘッド
22,22a,22b,22c,22d :インクタンク
23,23a,23b,23c,23d :洗浄液タンク
24,24a,24b,24c,24d :インク供給バルブ
25,25a,25b,25c,25d :洗浄液供給バルブ
27,27a,27b,27c,27d :インク供給ライン
28,28a,28b,28c,28d :洗浄液供給ライン
29,29a,29b,29c,29d :ノズル
3 :記録用紙供給部
31 :記録用紙供給トレイ
32 :引き出しローラ
33 :供給ローラ
4 :記録用紙搬送部
41 :搬送ベルト
42 :駆動ローラ
43 :従動ローラ
44,45 :補助ローラ
5 :記録用紙排紙部
51 :記録用紙排紙トレイ
52 :補助ローラ
53 :排紙ローラ
6 :インクジェットヘッド維持部
61 :廃液タンク
62 :ノズルキャップ
7 :インクジェット記録装置制御部
71 :表示操作盤
72 :制御部(CPU)
101 :洗浄液量設定手段
102 :洗浄液供給制御手段
103 :洗浄液供給手段
104 :インクジェットヘッド
105 :洗浄液供給量算出手段
106 :インク置換判定手段
107 :インク置換制御手段
108 :インク供給手段
109 :表示操作盤
110 :インクジェットヘッド駆動手段
111 :タイマー
112 :洗浄モード記憶手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
記録媒体上にインクを吐出して画像形成するインクジェットヘッドと、
前記インクジェットヘッドにインクを供給するインク供給手段と、
前記インクジェットヘッドに洗浄液を供給する洗浄液供給手段と、
前記インクジェットヘッドの洗浄時に供給された洗浄液供給量に応じて、洗浄後の前記インクジェットヘッド内をインクで置換するインク置換動作が必要か否かを判定するインク置換判定手段と、
前記インク置換判定手段によりインク置換動作が必要と判定されたときには、印刷前に、前記インク供給手段を制御して、前記インク置換動作を行わせ、前記インク置換判定手段によりインク置換が不要と判定されたときには、印刷前に、前記インク置換動作を行わないように制御するインク置換制御手段と、
を備えたことを特徴とするインクジェット記録装置。
【請求項2】
前記洗浄液は、着色剤を含むことを特徴とする請求項1に記載のインクジェット記録装置。
【請求項3】
前記洗浄液供給手段により供給する洗浄液量を設定する洗浄液量設定手段をさらに備えることを特徴とする請求項1又は2に記載のインクジェット記録装置。
【請求項4】
前記洗浄液供給手段によるインクジェットヘッドの洗浄は、複数回の洗浄操作を含むことができ、
前記洗浄操作1回ごとの洗浄液量を積算して、合計の洗浄液供給量を算出する洗浄液供給量積算手段をさらに備えることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載のインクジェット記録装置。
【請求項5】
前記洗浄液量設定手段は、前記画像形成の休止時間に基づいて、洗浄液量を設定することを特徴とする請求項3又は4に記載のインクジェットヘッド記録装置。
【請求項6】
前記インク置換制御手段は、前記洗浄液供給手段から前記インクジェットヘッドに供給された洗浄液供給量に基づいて、インク置換における置換インク量を設定することを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載のインクジェット記録装置。
【請求項7】
前記インクジェトヘッドは、ラインヘッドタイプのインクジェトヘッドであることを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載のインクジェット記録装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−58400(P2010−58400A)
【公開日】平成22年3月18日(2010.3.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−227287(P2008−227287)
【出願日】平成20年9月4日(2008.9.4)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】