説明

インクジェット記録装置

【課題】ピーク電力と印刷中の平均消費電力(又は印刷中に消費するトータルの電力)の双方を低減することができるインクジェット記録装置を提供すること。
【解決手段】インクジェット記録装置は、インク滴を吐出するヘッドを搭載したキャリッジと、記録媒体を搬送する搬送ベルトまたは搬送ローラと、キャリッジをガイドロッドに沿って往復移動可能な第一の駆動モータと、搬送ベルトまたは搬送ローラを回転可能な第二の駆動モータと、キャリッジの減速エネルギーを第二の駆動モータに伝達するアシスト機構とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット記録装置の消費電力を低減する技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
インクジェットプリンタ(インクジェット記録装置)の消費電力内訳に関して、キャリッジを走査するモータ(主走査モータ)および紙送りを行うモータ(副走査モータ)の消費電力が大きな割合を占めていることが既に知られている。
【0003】
また、モータの特性として、モータが停止している状態から回転し始めるときに大きな電流(ピーク電流)が必要になることが既に知られている。
【0004】
特許文献1では、電力不足が生じないように電源装置の供給能力を削減する目的で、モータ駆動を開始する際に複数個のモータのピーク電力を確認して、ピーク電力が電源装置の供給可能な電力容量を超えない場合にモータ駆動を開始する構成が開示されている。
【0005】
特許文献2では、給紙搬送部と副走査搬送部との間で種類の異なる複数の駆動源を用いて被記録媒体を搬送する場合に、記録速度の低下を伴ったり、或いは、駆動源としてコストの高いものを使わなければならなくなることを解消すべく、DCブラシレスモータで構成した副走査モータの加速度テーブルとステッピングモータで構成した給紙モータの加速度テーブルを異ならせて、加速時の加速度を異ならせ、また、副走査モータの加速度よりも給紙モータの加速度を遅らせることで、加速時には、副走査モータは時点T1から時点T2までの間に加速度υaで立ち上げる一方、給紙モータは時点T1からT3までの間に加速度υbで立ち上げる。
【0006】
特許文献3では、キャリッジを側板に突き当ててホーム位置検出を行うとき、側板が衝撃で変形したり、検出精度が低下したり、キャリッジ速度を低速化することによってホーム位置検出に時間がかかることを解消すべく、キャリッジの側面には、キャリッジのホーム位置を検出するときに、キャリッジを固定部材としての装置筺体を構成する側板Rに突き当てる突き当て面aを形成した突き当て部材を設け、装置筺体の側板Rには、キャリッジのホーム位置検出を行うときに、側板R側に向かって移動するキャリッジの移動速度をキャリッジの側面aに当接することで減速させる減速手段を設けた。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、今までの複数のモータの駆動タイミングをずらしてピーク電力を低減する手段では、ピークのタイミングをずらすのみのため、消費する電力自体は変わらず、印刷中の平均消費電力(印刷中に消費するトータルの電力)を低減することができないという問題があった。
【0008】
また、上記の特許文献1等では、モータのピーク電力を抑制するに過ぎなく、ピーク電力と印刷中の平均消費電力(又は印刷中に消費するトータルの電力)の双方を低減することができないという問題は解消できていなかった。
【0009】
本発明の目的は、ピーク電力と印刷中の平均消費電力(又は印刷中に消費するトータルの電力)の双方を低減することができるインクジェット記録装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1に記載の発明は、インク滴を吐出するヘッドを搭載したキャリッジと、記録媒体を搬送する搬送ベルトまたは搬送ローラと、キャリッジをガイドロッドに沿って往復移動可能な第一の駆動モータと、搬送ベルトまたは搬送ローラを回転可能な第二の駆動モータと、キャリッジの減速エネルギーを第二の駆動モータに伝達するアシスト機構とを備えることを特徴とするインクジェット記録装置である。
【0011】
請求項2に記載の発明は、請求項1記載のインクジェット記録装置において、印字モードに応じて設定された改行量だけ搬送ベルトまたは搬送ローラがアシスト機構によって回転するようにキャリッジの停止位置を制御することを特徴とする。
【0012】
請求項3に記載の発明は、請求項1記載のインクジェット記録装置において、第二の駆動モータの位置情報を取得するエンコーダと、エンコーダの信号に基づいて搬送ベルトまたは搬送ローラの回転速度を算出するプログラムと、アシスト機構を通じてキャリッジのエネルギーが第二の駆動モータに伝わり、回転を始め、搬送ベルトまたは搬送ローラが設定された閾値以上の回転速度になった時点で第二の駆動モータの駆動を開始する制御を実施することを特徴とする。
【0013】
請求項4に記載の発明は、請求項1記載のインクジェット記録装置において、変位したアシスト機構を元の位置に戻す弾性部材を備えることを特徴とする。
【0014】
請求項5に記載の発明は、請求項1または4記載のインクジェット記録装置において、第一の駆動モータの位置情報を取得する他のエンコーダと、他のエンコーダの信号に基づいてキャリッジの速度を算出するプログラムと、アシスト機構の復元力が第一の駆動モータに伝わり、回転を始め、キャリッジが設定された閾値以上の速度になった時点で第一の駆動モータの駆動を開始する制御を実施することを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、ピーク電力と印刷中の平均消費電力(又は印刷中に消費するトータルの電力)の双方を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本実施の形態のインクジェット記録装置の基本構成について説明する図である。
【図2】インクジェット記録装置の機能ブロックについて説明する図である。
【図3】キャリッジ(紙搬送ローラ(ベルト))の速度とモータ消費電流の関係について説明する図である。
【図4】具体的なキャリッジの減速エネルギーを搬送ベルトに伝達する機構について説明する図である。
【図5】具体的な印刷モードに応じたキャリッジ停止位置制御について説明する図である。
【図6】具体的なアシスト機構の動作と連動してモータ駆動を開始する制御について説明する図である。
【図7】具体的なアシスト機構の復元力を利用してキャリッジを駆動する構成について説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態について図を用いて詳細に説明する。
図1は、本実施の形態のインクジェット記録装置の基本構成について説明する図である。
【0018】
キャリッジ1はガイドロット2で保持されて、主走査モータ3との間に渡されたプーリー4を介して主走査方向に走査する。
【0019】
このキャリッジには、例えばイエロー(Y)、シアン(C)、マゼンタ(M)、ブラック(K)の各色のインク滴を吐出する記録ヘッド9が搭載されていて、記録ヘッドに配列されたインク吐出ノズル10からインクを吐出できる。
【0020】
キャリッジを主走査方向に移動させながら必要な位置でインク滴を吐出することによって記録媒体上に画像を形成する。
【0021】
キャリッジの位置情報は筐体に固定されたエンコーダシート5に等間隔で記録されたパターンを、キャリッジに固定されたエンコーダセンサ6で移動しながら読み取ってカウントを加算/減算することで得る事ができる。このような主走査方向のキャリッジ移動とインク吐出動作を1回行うことで、ノズル列の長さと同じ幅のバンドに対して画像を形成することができ、1バンド分の画像形成が終了したら副走査モータ7を駆動して記録媒体を副走査方向に移動させて、再度1バンド分の画像形成動作をさせるように繰り返せば、記録媒体の任意の場所に画像を形成することができる。
【0022】
図2は、インクジェット記録装置の機能ブロックについて説明する図である。
【0023】
プリンタのハードウェア制御を行うファームウェアや記録ヘッドの駆動波形データはROMに格納されており、ホストPCから印刷ジョブ(画像データ)を受信すると、CPUは画像データをRAMに格納し、記録ヘッドが搭載されたキャリッジを主走査制御部によって記録媒体上の任意の位置に移動する。
【0024】
記録ヘッド制御部は、主走査エンコーダから得られるキャリッジの位置情報に連動し、RAMに格納された画像データ、ROMに格納された記録ヘッド駆動波形、および制御信号を記録ヘッド駆動部に転送する。
【0025】
記録ヘッド駆動部は、記録ヘッド制御部より転送されたデータをもとに、記録ヘッドを駆動し、インク滴を吐出する。
【0026】
図3は、キャリッジ(紙搬送ローラ(ベルト))の速度とモータ消費電流の関係について説明する図である。
【0027】
モータの特性上、加速時(起動時)に大きな電流が必要となる。
また、インクジェットプリンタは、キャリッジと紙搬送を交互に駆動・停止を繰り返すため、モータ加速回数が多い。
さらに、インクジェットプリンタのモータの消費電力において、加速時(起動時)に消費する割合が多い。
【0028】
図4は、具体的なキャリッジの減速エネルギーを搬送ベルトに伝達する機構について説明する図である。
【0029】
構成としては、キャリッジ1が衝突することで押し込まれるラック16と、ラック16と噛み合って回転するギア17と、押し込まれたラックを元の位置に戻すスプリング15とを備えている。ギア17と搬送ベルト14はワンウェイクラッチで接続されており、紙搬送方向にギアが回転した場合のみ搬送ベルトが連動して回転する。なお、ラックがスプリングで戻る場合も、ギアが回転するがワンウェイクラッチが空転するため搬送ベルトは
回転しない。
【0030】
動作としては、(1)キャリッジがラックを押し込む、(2)ラックと連動してギアが回転する、ギアと連動して搬送ベルトが回転する、(3)キャリッジが移動すると、スプリングによりラックが元の位置に戻る。
【0031】
図5は、具体的な印刷モードに応じたキャリッジ停止位置制御について説明する図である。
【0032】
インクジェットプリンタでは、印刷モード(画質)によって改行量(紙送り量)が異なる。例えば、高速モードでは、ヘッド幅分紙送りを実施し、高画質モードでは、ヘッド幅よりも短い量紙送りを実施してインク滴を重ねて印刷することで高画質化している。
【0033】
印刷モードによって異なる改行量に合わせてキャリッジ停止位置を制御して、ラックの押し込み量を調整することで、副走査モータを駆動することなく搬送ベルトを回転させることができる。
【0034】
改行時に搬送ベルト用のモータを駆動しないので、印刷中の平均消費電力を低減できる。
【0035】
図6は、具体的なアシスト機構の動作と連動してモータ駆動を開始する制御について説明する図である。
【0036】
アシスト機構を介してキャリッジのエネルギーを搬送ベルトに伝達する。
副走査エンコーダの信号を監視し、得られた信号から搬送ベルトの回転速度を算出する。
搬送ベルトの回転速度が閾値を超えたら副走査モータの駆動を開始する。
モータ起動時に必要な大きな消費電流を抑制することができる。すなわちピーク電流を抑制できる。
ピーク電流が低減でき、モータ駆動時間も短くなることから印刷中の平均消費電力も抑制できる。
アシスト機構を利用した改行量を小さくすることで、マシン幅を大きくせずに消費電力低減できる。
【0037】
図7は、具体的なアシスト機構の復元力を利用してキャリッジを駆動する構成について説明する図である。
【0038】
ラックを元の位置に戻すスプリングのバネ圧をキャリッジを移動可能な程度に高くする。
キャリッジがラック押し込み方向に動作中、または副走査モータが紙搬送方向に回転中はスプリングの復元力と反対方向に力が加わっているため、スプリングは復元しない。
キャリッジが停止、および副走査モータが停止すると(スプリングの復元力よりも力が弱くなると)、スプリングの復元力によってキャリッジがラック押し込み方向とは逆向きに駆動し始める。
主走査エンコーダの信号を監視し、得られた信号からキャリッジの速度を算出する。
キャリッジの速度が閾値を超えたら主走査モータの駆動を開始する。
スプリングの復元力によりキャリッジが一定速度になった状態で主走査モータの駆動を開始する。
モータ起動時に必要な大きな消費電流を抑制することができる(ピーク電流を抑制できる)。
ピーク電流が低減でき、モータ駆動時間も短くなることから印刷中の平均消費電力も抑制できる。
【0039】
以下に、各請求項ごとの効果を記載する。
請求項1記載の発明によれば、キャリッジの減速エネルギーを利用して駆動モータBの加速を行うことにより、モータ加速時に必要なピーク電流を抑制することができる。その結果、印刷中の平均消費電力(又は印刷中に消費するトータルの電力)も低減できる。
【0040】
請求項2記載の発明によれば、駆動モータBを動作させることなく改行動作を行うことができ、消費電力を低減できる。
【0041】
請求項3記載の発明によれば、駆動モータBが回転している状態から電流を流すことにより、加速時(起動時)に必要な大きな消費電流を抑制することができる。また、請求項2の構成では、一定量アシスト機構で搬送ベルトを回転させる必要があるためマシン幅が大きくなってしまうが、請求項3の構成では、従来の構成からマシン幅を大きく変えることなく実現することができる。
【0042】
請求項4記載の発明によれば、キャリッジの減速エネルギーを駆動モータBに伝達する際に変位した箇所を元に戻すことができる。
【0043】
請求項5記載の発明によれば、駆動モータAが回転している状態から電流を流すことにより、加速時(起動時)に必要な大きな消費電流を抑制することができる。
【0044】
なお、上述する各実施の形態は、本発明の好適な実施の形態であり、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更実施が可能である。
【符号の説明】
【0045】
1 キャリッジ
2 ガイドロット
3 主走査モータ
4 プーリー
5 エンコーダシート
6 エンコーダセンサ
7 副走査モータ
9 記録ヘッド
10 インク吐出ノズル
【先行技術文献】
【特許文献】
【0046】
【特許文献1】特開2008−109343号公報
【特許文献2】特許第4325956号公報
【特許文献3】特開2007−331272号公報

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インク滴を吐出するヘッドを搭載したキャリッジと、
記録媒体を搬送する搬送ベルトまたは搬送ローラと、
前記キャリッジをガイドロッドに沿って往復移動可能な第一の駆動モータと、
前記搬送ベルトまたは搬送ローラを回転可能な第二の駆動モータと、
前記キャリッジの減速エネルギーを前記第二の駆動モータに伝達するアシスト機構と
を備えることを特徴とするインクジェット記録装置。
【請求項2】
印字モードに応じて設定された改行量だけ前記搬送ベルトまたは搬送ローラが前記アシスト機構によって回転するように前記キャリッジの停止位置を制御することを特徴とする請求項1記載のインクジェット記録装置。
【請求項3】
前記第二の駆動モータの位置情報を取得するエンコーダと、
前記エンコーダの信号に基づいて前記搬送ベルトまたは搬送ローラの回転速度を算出するプログラムと、
前記アシスト機構を通じて前記キャリッジのエネルギーが前記第二の駆動モータに伝わり、回転を始め、前記搬送ベルトまたは搬送ローラが設定された閾値以上の回転速度になった時点で前記第二の駆動モータの駆動を開始する制御を実施することを特徴とする請求項1記載のインクジェット記録装置。
【請求項4】
変位した前記アシスト機構を元の位置に戻す弾性部材を備えることを特徴とする請求項1記載のインクジェット記録装置。
【請求項5】
前記第一の駆動モータの位置情報を取得する他のエンコーダと、
前記他のエンコーダの信号に基づいてキャリッジの速度を算出するプログラムと、
前記アシスト機構の復元力が前記第一の駆動モータに伝わり、回転を始め、前記キャリッジが設定された閾値以上の速度になった時点で前記第一の駆動モータの駆動を開始する制御を実施することを特徴とする請求項1または4記載のインクジェット記録装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−111111(P2012−111111A)
【公開日】平成24年6月14日(2012.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−261424(P2010−261424)
【出願日】平成22年11月24日(2010.11.24)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】