説明

インクセット、インクジェット記録方法、インクカートリッジ、記録ユニット、及びインクジェット記録装置

【課題】第1のインクと第2のインクの組み合わせを有するインクセットをインクジェット記録装置に搭載して画像を形成した場合に生じるヨレ現象の発生を抑制することができるインクセット、これを用いたインクジェット記録方法の提供。
【解決手段】親水性基が直接又は他の原子団を介して結合している自己分散型顔料とアンモニウムイオンとを含有する第1のインクと、顔料、酸価が160mgKOH/g以下の樹脂、及びアルカリ金属イオンを含有する第2のインクとの組み合わせを少なくとも有するインクセットであって、前記第1のインク中のアンモニウムイオンの濃度A[mol/L]と、前記第2のインク中のアルカリ金属イオンの濃度B[mol/L]とが、0.03≦A/B≦0.32の関係を満たすインクセット。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクセット、インクジェット記録方法、インクカートリッジ、記録ユニット、及びインクジェット記録装置に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録におけるインクは、一般には水溶性染料を水性媒体に溶解させた染料インクが汎用されているが、近年では、染料に比べて、形成した画像の耐水性や耐光性に優れた顔料を水性媒体に分散させてなる顔料インクも提供されている。顔料インクには、分散剤によって顔料を水性媒体に分散させてなるものや、顔料の表面に親水性基を結合して顔料を分散するタイプの自己分散型顔料を色材として用い、これを水性媒体に分散してなるものがある。例えば、画像濃度が高く、さらにはブリーディングなどの文字品位などにも優れることから、普通紙に文字や図形を記録する際に用いるブラックインクに自己分散型顔料を色材として選択することについての提案がある(特許文献1及び2参照)。
【0003】
また、表面をコーティングした光沢紙などの特殊な記録媒体に画像を形成する際に用いる顔料インクには、耐擦過性や光沢性などを考慮し、樹脂を分散剤として用いて顔料を分散するタイプの樹脂分散型顔料を色材として用いることが有効であるとされている。さらに、近年では、記録媒体の種類によらずに良好な画像品位を得るために、種類の異なる複数の顔料インクを併用することについての提案もある。例えば、樹脂分散型顔料を色材とする樹脂分散型顔料インクと、自己分散型顔料を色材とする自己分散型顔料インクの2種類をインクジェット記録装置に搭載して、画像を形成することが提案されている(特許文献3参照)。
【0004】
【特許文献1】特開2000−198955号公報
【特許文献2】特開2001−089688号公報
【特許文献3】特開2003−213180号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記したような技術動向の中、本発明者らも、記録媒体の種類によらずに良好な画像品位を得ることを目的として、自己分散型顔料インクと樹脂分散型顔料インクの2種のインクを搭載したインクジェット記録装置を用いて様々な検討を行った。具体的には、形成した画像の画像品位、耐水性や耐擦過性の検討、また、当該記録装置における記録耐久性などについて検討を行った。検討の際、自己分散型顔料インクの色材には、親水性基として耐水性に優れた−COONH4が顔料表面に結合した自己分散型顔料を用いた。また、樹脂分散型顔料インクの色材には、水酸化カリウムで1当量に中和された酸価160mgKOH/g以下のアクリル系樹脂により顔料を分散した顔料分散体を用いた。
【0006】
本発明者らは、上記のような2種のインクを用いて様々な検討を行う過程で、下記のような試験を行った。その結果、以下のような現象が起きることを新たに確認した。即ち、各インクを用いて特定の画像を数百枚記録する記録耐久性の試験を行った。そして、該記録耐久性試験前後における画像の劣化の程度を、上記特定の画像を所定の枚数記録するごとに、各ノズルの状態を確認するために記録したノズルチェックパターンを観察することで調査した。上記における特定の画像とは、具体的には、A4サイズの普通紙に形成した1200dpi×1200dpiの記録密度の画像に対して15%デューティのベタ画像である。
【0007】
その結果、各インクを単独でインクジェット記録装置に搭載して記録を行った場合には、上記の画像を数百枚記録しても、画像が劣化するという現象は確認されなかった。しかし、前記自己分散型顔料インクと前記樹脂分散型顔料インクの2種のインクを共にインクジェット記録装置に搭載して、上記したような記録耐久性の試験を行うと、下記のような現象が起こることを確認した。即ち、この場合には、自己分散型顔料インクを用いて記録したノズルチェックパターンにおいて、ヨレが発生し、画像品位が低下するという現象を確認した。このヨレは、記録媒体へインクが付与される位置がずれることによって生じる現象(以下、「ヨレ現象」と呼ぶ)である。また、検討したインクの種類によっては、上記2種のインクを共にインクジェット記録装置に搭載した直後に、吸引回復動作を行っただけでも、このヨレ現象が起こる場合があることもあった。
【0008】
そこで、本発明者らは、上記ヨレ現象を引き起こす要因を明らかにするために詳細な検討を行った。その結果、上記ヨレ現象は、樹脂分散型顔料インクが含有する樹脂の酸価が160mgKOH/g以下の場合に発生することを見出した。さらに、このヨレ現象は、以下に挙げる3つの条件が満たされた場合、より顕著に起こることもわかった。また、上記の課題を解決するためにインクの成分の調整を行った場合には、第1のインクの保存安定性が損なわれる場合があり、上記ヨレ現象の発生の抑制と、第1のインクの保存安定性の両立を図ることも重要な課題であると認識するに至った。
【0009】
1つ目の条件は、記録装置において、自己分散型顔料インクと上記の樹脂分散型顔料インクを吐出する各吐出口列の距離が近い場合である。具体的には、自己分散型顔料インクと樹脂分散型顔料インクを隣り合う吐出口列から吐出して、その後に吸引回復動作を行い、さらにノズルチェックパターンを記録するだけでもヨレ現象が確認された。
【0010】
2つ目の条件は、記録装置が、自己分散型顔料インクと上記の樹脂分散型顔料インクを吐出する各吐出口列を含む吐出口領域を1つのキャップでキャッピングする構造となっている場合である。
【0011】
3つ目の条件は、使用するインクのうちの、樹脂分散型顔料インク中に存在する、顔料に吸着していない樹脂(以下、「フリー樹脂」と呼ぶ)が多い場合である。具体的には、インクを調製する際に、顔料の分散剤の他に樹脂を2質量%より多く添加した場合に、上記のヨレ現象が確認された。
【0012】
したがって、本発明の目的は、自己分散型顔料とアンモニウムイオンとを含有するインクと、顔料と特定の酸価の樹脂及びアルカリ金属イオンを含有するインクを併用してインクジェット画像を形成した場合に生じるヨレ現象の実体を解明することにある。さらに、本発明の目的は、特に、自己分散型顔料とアンモニウムイオンとを含有するインクの保存安定性を損なうことなく、上記ヨレ現象の発生を抑制できるインクセット、該インクセットを用いるインクジェット記録方法を提供することにある。また、上記した効果が得られる、該インクセットを用いる、インクカートリッジ、記録ユニット、及び、インクジェット記録装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記の目的は、以下の本発明によって達成される。即ち、本発明は、親水性基が直接又は他の原子団を介して結合している自己分散型顔料とアンモニウムイオンとを含有する第1のインクと、顔料、酸価が160mgKOH/g以下の樹脂、及びアルカリ金属イオンを含有する第2のインクとの組み合わせを少なくとも有するインクセットであって、前記第1のインク中のアンモニウムイオンの濃度A[mol/L]と、前記第2のインク中のアルカリ金属イオンの濃度B[mol/L]とが、0.03≦A/B≦0.32の関係を満たすことを特徴とするインクセットである。
【0014】
本発明の別の実施形態は、インクをインクジェット方式で吐出して記録媒体に記録を行うインクジェット記録方法において、使用するインクが、少なくとも、上記インクセットを構成するインクであることを特徴とするインクジェット記録方法である。
【0015】
本発明の別の実施形態は、インクを収容するインク収容部を備えたインクカートリッジにおいて、インク収容部に収容されているインクが、少なくとも、上記インクセットを構成するインクであることを特徴とするインクカートリッジである。
【0016】
本発明の別の実施形態は、インクを収容するインク収容部と、インクを吐出するための記録ヘッドとを備えた記録ユニットにおいて、インク収容部に収容されているインクが、少なくとも、上記インクセットを構成するインクであることを特徴とする記録ユニットである。
【0017】
本発明の別の実施形態は、インクを収容するインク収容部と、インクを吐出するための記録ヘッドとを備えたインクジェット記録装置において、インク収容部に収容されているインクが、少なくとも、上記インクセットを構成するインクであることを特徴とするインクジェット記録装置である。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、本発明で課題とする複数のインクを使用して画像形成した際に生じるヨレ現象の発生を抑制できる、インクセット、インクジェット記録方法、インクカートリッジ、記録ユニット及びインクジェット記録装置が提供される。特に、本発明によれば、本発明で課題とする画像形成の際に生じるヨレ現象が抑制されるとともに、インクセットを構成する自己分散型顔料とアンモニウムイオンとを含有するインクの保存安定性が損なわれることがないインクセットが提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、好適な実施形態を挙げて、本発明を詳細に説明する。以下の説明で使用する第1のインクとは、少なくとも1種の親水性基が直接又は他の原子団を介して結合している自己分散型顔料と、アンモニウムイオンとを含有するインクを意味する。また、第2のインクとは、顔料、酸価160mgKOH/g以下の樹脂及びアルカリ金属イオンを含有し、かつ前記第1のインク中のアンモニウムイオン濃度と第2のインク中のアルカリ金属イオン濃度との比率が特定されてなるインクを意味する。なお、樹脂及び顔料を含有する第2のインク中では、樹脂の少なくとも一部により顔料が分散されており、以下の説明においては、第2のインクは樹脂分散型顔料を含有する、と記載する場合がある。
【0020】
先ず、本発明者らは、第1のインクとアルカリ金属イオンを含有するインクをそれぞれ単独でインクジェット記録装置に搭載して記録耐久性の試験を行っても確認されないヨレ現象が、これら2種のインクを共に搭載して記録を行うと生じる原因について検討した。本発明でいうヨレ現象とは、上記構成の2種のインクを共に記録装置に搭載して記録を行ったような場合に生じる現象であり、上記した組み合わせでは、2種類のインクのうちの第1のインクにより形成された画像がヨレてしまう現象である。かかるヨレ現象に対して、本発明者らは、その原因を追求すべく様々な検討を行った。その結果、以下のことがわかった。
【0021】
例えば、アルカリ金属イオンを含有するインクがアクリル酸系樹脂を含有するものである場合、通常、樹脂には可溶化基としてカルボン酸イオンが存在し、さらに可溶化基のカウンターイオンとしてアルカリ金属イオンがインク中に存在する。そして、記録ヘッドの吸引回復動作により、第1のインクとアルカリ金属イオンを含有するインクがフェイス面(吐出口を有する面)上で混色した場合、以下のような現象が起こる。先ず、アルカリ金属イオンを含有するインク中に存在する樹脂のカウンターイオンの一部が、アルカリ金属イオンから、第1のインクに含まれるアンモニウムイオンに交換される。ここで、記録ヘッドの吸引回復動作とは、ノズルからインクを強制的に吸引排出する動作を言う。上記のアルカリ金属イオンからアンモニウムイオンへの交換の後、水分などの蒸発と共にアンモニウムイオンからアンモニアが脱離することが起こり、カルボン酸イオンの一部がカルボン酸型となる。このことは、インク中の樹脂においてカルボン酸型となった部位が多くなることを意味し、このため、樹脂の溶解性が低下して析出しやすくなる。さらに、アンモニウムイオンやアルカリ金属イオンがカウンターイオンとして結合している樹脂に比べ、再溶解性も著しく低下する。そのため、カルボン酸型となった部位が相対的に多い樹脂が吐出口付近に付着して固化すると、通常のクリーニング動作で除去することが非常に困難となる。なお、通常のクリーニング動作とは、所定のタイミングで、ゴムなどの弾性材料からなる払拭部材(ワイパ)で記録ヘッドのヘッド表面を掃き、付着物を除去する動作のことである。そして、吐出口付近に付着して固化した前記樹脂により、吐出口から吐出される主インク滴が引っ張られるため、主インク滴の直進性が妨げられることがある。前述したようなヨレ現象は、上記のようなことが生じる結果として起こっていることがわかった。
【0022】
上述したように、ヨレ現象が発生する最大の原因は、自己分散型顔料とアンモニウムイオンを含有する第1のインクと、顔料と酸価が160mgKOH/g以下の樹脂及びアルカリ金属イオンを含有するインクが接触することにある。即ち、これら2種のインクが接触することによりイオン交換が起こり、アルカリ金属イオンを含有するインクに含まれる樹脂の溶解性が著しく低下するといった、従来予測すらすることのなかった現象が吐出口付近で起きたためである。
【0023】
なお、本発明者らは検討の過程で、記録耐久性の試験を行った場合に生じたヨレ現象は、アルカリ金属イオンを含有するインクで形成された画像では確認されず、第1のインクで形成された画像のみで確認されるということに気付いた。そこで、本発明者らは、さらに詳細な検討を行った。その結果、これら2種類のインクが接触する場合のアルカリ金属イオンの絶対量と、アンモニウムイオンの絶対量との関係が、本発明の課題に大きく影響を与えているとの結論を得た。即ち、各インクの吐出口付近におけるこれらのイオン量のバランスは、下記に述べるように、それぞれに違いがある。
【0024】
アルカリ金属イオンを含有するインクの吐出口付近には、吸引回復動作の際に付着したアンモニウムイオンを含有する第1のインクが存在する。しかし、アルカリ金属イオンを含有するインクの吐出口付近に存在するアンモニウムイオンの総量は、付着した第1のインク中に含まれているアンモニウムイオンのみであるため、非常に少量である。したがって、アルカリ金属イオンを含有するインクの吐出口付近では、樹脂のカウンターイオンのごく一部しかアンモニウムイオンに交換されないこととなるため、アルカリ金属イオンを含有するインク中における樹脂の溶解性には殆ど影響を及ぼさない。
【0025】
一方、第1のインクの吐出口付近は、吸引回復動作の際に付着したアルカリ金属イオンを含有するインクが存在する。付着したアルカリ金属イオンを含有するインク中のアルカリ金属イオンの総量は非常に少量である。その結果、第1のインクを吐出した際には、アルカリ金属イオン量をはるかに上回る量のアンモニウムイオンにさらされるため、アルカリ金属イオンを含有するインク中の樹脂のカウンターイオンの多くがアンモニウムイオンに交換されやすい状態となる。したがって、水分などの蒸発に伴いアンモニアが脱離し、カルボン酸型となった部位が多くなった樹脂が急激に増加して樹脂が析出することとなり、第1のインクの吐出口付近では上記ヨレ現象が起きることがわかった。
【0026】
そこで、本発明者らは、第1のインクとアルカリ金属イオンを含有するインクとの組み合わせをもつインクセットを用いて画像を形成する際に、これらのインク中における各イオン量の関係に着目して、ヨレ現象を防止できる方法を見出すべく検討を行った。
【0027】
その結果、第1のインクとアルカリ金属イオンを含有するインクを調製する場合に、第1のインク中のアンモニウムイオン量と、後者のインク中のアルカリ金属イオン量との関係が下記のようになるようにすることで、本発明の課題を解決できることを見出した。具体的には、前記第1のインク中におけるアンモニウムイオンの濃度A[mol/L]と、前記第2のインク中におけるアルカリ金属イオンの濃度B[mol/L]とが、0.03≦A/B≦0.32の関係を満たすように、各インクを調製する。
【0028】
上記のように、画像の形成に用いる第1のインク及び第2のインク中における各イオン量の関係を特定することで、本発明の課題のヨレ現象を解決できる理由は定かではない。これについて、本発明者らは以下のように推測している。
【0029】
上記で述べたように、本発明の課題のヨレ現象は、アルカリ金属イオン量とアンモニウムイオン量の関係に起因して、第2のインクの吐出口付近ではなく、第1のインクの吐出口付近で特異的に発生する現象である。さらに詳述すれば、本発明の課題のヨレ現象は、第2のインク中に含まれているアルカリ金属イオン量と比較して、第1のインクに含まれるアンモニウムイオン量が相対的に多い場合に、これらのイオンが互いに接触することで発生する現象である。
【0030】
このようなことから、本発明者らは、第2のインク中のアルカリ金属イオン量と、第1のインク中のアンモニウムイオン量との相対的な関係を規定することで、樹脂の析出を抑制できると考えた。つまり、第1のインク中のアンモニウムイオン量がある一定量以下であれば、第2のインクが第1のインクの吐出口付近に付着したとしても、第2のインクに含有されていた樹脂を積極的に析出させるだけのアンモニウムイオン量に達しない。この結果、第1のインクの吐出口付近での樹脂の析出を抑制できるという考えである。
【0031】
そこで、本発明者らは、第1のインクが含有する顔料に結合している親水性基の密度を変えることで、該親水性基のカウンターイオンであるアンモニウムイオン量を種々に変えた複数の第1のインクを調製した。そして、これらの第1のインクと第2のインクとを組み合わせて記録耐久性の試験を行った。
【0032】
その結果、先ず、第1のインク中のアンモニウムイオンの濃度A[mol/L]と、前記第2のインク中のアルカリ金属イオンの濃度B[mol/L]とが、A/B≦0.32の関係を満たすことで、ヨレ現象を抑制できることを見出した。つまり、第1のインク中におけるアンモニウムイオン濃度が、第2のインク中のアルカリ金属イオン濃度に対して、0.32倍以下であることで、ヨレ現象を抑制できることを見出した。換言すれば、第1のインク中のアンモニウムイオンの濃度Aを低減させることを要することにもなる。
【0033】
また、ヨレ現象の抑制ということにだけ着目すれば、第1のインク中のアンモニウムイオン濃度は限りなくゼロに近いことが好ましいこととなる。しかし、第1のインク中のアンモニウムイオン濃度を小さくするということは、自己分散型顔料の親水性基の密度が小さくなることにつながる。このため、第1のインク中のアンモニウムイオン濃度を少なくし過ぎると、第1のインク中の顔料の分散安定性、つまり、第1のインクの保存安定性に影響が出ることがある。したがって、このことを勘案すると、ヨレ現象の抑制と第1のインクの保存安定性とを両立させるためには、上記A/Bを以下のようにする必要があるとの結論に至った。即ち、本発明の目的を達成するためには、第1のインク中のアンモニウムイオンの濃度A[mol/L]と、第2のインク中のアルカリ金属イオンの濃度B[mol/L]が、0.03≦A/B≦0.32の関係を満たすことが必要である。
【0034】
これまでに述べてきたように、本発明が課題とするヨレ現象は、第1のインク中のアンモニウムイオン量と、第2のインク中のアルカリ金属イオン量の比率が支配的な要素となって発生する現象ではある。しかし、第1のインク中のアンモニウムイオン量が多くなり過ぎると、A/B≦0.32の関係を満たしていても、ヨレ現象を抑制する効果が充分に得られない場合がある。また、第1のインク中のアンモニウムイオン濃度が低過ぎると、第1のインクの保存安定性が充分に得られない場合がある。このため、第1のインク中のアンモニウムイオン濃度[mol/L]が、0.0035mol/L以上0.034mol/L以下であることが特に好ましい。
【0035】
本発明者らの検討の結果、第2のインクが含有する樹脂の酸価は、樹脂の溶解性を考慮すると、80mgKOH/g以上、さらには90mgKOH/g以上であることが好ましい。一方、本発明が解決する課題であるヨレ現象は、第2のインクが含有する樹脂の酸価が160mgKOH/g以下の場合に発生する現象である。上記したことから、本発明において特に問題とする範囲は、酸価が80mgKOH/g以上160mgKOH/g以下である樹脂を含有する第2のインクとの関連で生じる、第1のインクに生じるヨレ現象である。
【0036】
<第1のインク及び第2のインクを構成する各成分>
次に、第1のインク及び第2のインクを構成する成分について、それぞれ説明する。
【0037】
(第2のインクに用いる樹脂)
第2のインクは、酸価が160mgKOH/g以下の樹脂を含有するが、このようなものであればいずれの樹脂であっても使用できる。前記したように、酸価が80mgKOH/g以上、さらには90mgKOH/g以上の樹脂であることが好ましい。第2のインクに用いる樹脂を構成するモノマー成分及び、各モノマー成分の比率などは、樹脂の酸価が上記したものとなること以外、特に制限されるものではない。
【0038】
本発明で使用する樹脂を形成するモノマー成分としては、以下のものが挙げられる。例えば、芳香族モノマー、アクリル酸エステル系モノマー、メタクリル酸エステル系モノマー、アニオン性基含有モノマー、ポリエチレンオキシド基含有モノマー、炭化水素系モノマーなどが挙げられる。好ましいモノマーの具体的なものとしては、以下のものが挙げられる。例えば、スチレン、ベンジルメタクリレート、メチルアクリレート、ブチルアクリレート、メトキシトリエチレングリコールアクリレート、メトキシポリエチレングリコールアクリレート、メトキシポリエチレングリコールメタクリレートなどである。また、アクリル酸、メタクリル酸などが挙げられる。
【0039】
本発明で使用する第2のインク中の樹脂は、その重量平均分子量が3,000以上10,000以下のものであることが好ましい。重量平均分子量が3,000未満であると、形成した画像において、十分な耐擦過性が得られない場合がある。一方、重量平均分子量が10,000を超えると、樹脂の水性媒体への溶解性が低下するため、樹脂のカウンターイオンの一部がアンモニウムイオンに交換されただけでも析出しやすい状態となり、ヨレ現象がより起こりやすくなる場合がある。
【0040】
第2のインク中における樹脂の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、0.5質量%以上5.0質量%以下、さらには1.0質量%以上4.0質量%以下であることが好ましい。樹脂の含有量を上記した範囲とすることで、形成した画像における耐擦過性を向上する効果が十分に得られるだけの樹脂量を記録媒体の表面上に残すことができる。
【0041】
(第2のインクに用いるアルカリ金属イオン)
本発明で用いる第2のインクは、インク中にアルカリ金属イオンが含有されてなるものであることを要する。本発明は、インクジェット記録に使用するインクセットの、第1のインクが有するアンモニウムイオンと、第2のインクが有するアルカリ金属イオンに起因して引き起こされると考えられるヨレ現象の発生を抑制することを目的としているからである。アルカリ金属イオンは、例えば、前記した樹脂の中和剤として用いられる塩基に起因して、又は、必要に応じて使用されるpH調整剤や塩に起因してインク中に含有されることとなる。樹脂の中和剤としては、水酸化ナトリウム、水酸化リチウム、水酸化カリウムなどのアルカリ金属の水酸化物などの無機アルカリ剤などが使用される。また、塩としては、例えば、硫酸ナトリウム、硫酸リチウム、硫酸カリウムなどの硫酸塩や、安息香酸ナトリウム、安息香酸リチウム、安息香酸カリウムなどの安息香酸塩が挙げられる。なお、第2のインク中におけるアルカリ金属イオン濃度が低過ぎたり、高すぎたりすると、第2のインクの保存安定性が充分に得られなくなる場合がある。このため、第2のインク中のアルカリ金属イオン濃度[mol/L]が、0.0076mol/L以上0.15mol/L以下の範囲となるように調整することが好ましい。特に、第2のインク中に存在するアルカリ金属イオンが、樹脂の中和剤として用いられる塩基に起因する場合は、第2のインク中のアルカリ金属イオン濃度を上記の範囲内とすることがより好ましい。
【0042】
(色材)
本発明のインクセットを構成する第1のインク及び第2のインクに用いる色材は顔料である。顔料は、例えば、下記に挙げるようなカーボンブラックや有機顔料などを用いることができる。
【0043】
〔カーボンブラック〕
カーボンブラックは、例えば、ファーネスブラック、ランプブラック、アセチレンブラック、チャンネルブラックなどのカーボンブラック顔料で、例えば、以下の市販品などを用いることができる。なお、本発明で用いることができるカーボンブラックは、これらに限定されるものではなく、公知のカーボンブラックを用いることができる。また、マグネタイト、フェライトなどの磁性体微粒子やチタンブラックなどを用いてもよい。
レイヴァン:7000、5750、5250、5000、3500、2000、1500、1250、1200、1190ULTRA−II、1170、1255(以上コロンビア製)。ブラックパールズ:L、リーガル:400R、330R、660R、モウグル:L、モナク:700、800、880、900、1000、1100、1300、1400、ヴァルカン:XC−72R(以上キャボット製)。カラーブラック:FW1、FW2、FW2V、FW18、FW200、S150、S160、S170、プリンテックス:35、U、V、140U、140V、スペシャルブラック:6、5、4A、4(以上デグッサ製)。No.25、No.33、No.40、No.47、No.52、No.900、No.2300、MCF−88、MA600、MA7、MA8、MA100(以上三菱化学製)。
【0044】
〔有機顔料〕
有機顔料は、例えば、以下のものを用いることができる。
トルイジンレッド、トルイジンマルーン、ハンザイエロー、ベンジジンイエロー、ピラゾロンレッドなどの水不溶性アゾ顔料。リトールレッド、ヘリオボルドー、ピグメントスカーレット、パーマネントレッド2Bなどの水溶性アゾ顔料。アリザリン、インダントロン、チオインジゴマルーンなどの建染染料からの誘導体。フタロシアニンブルー、フタロシアニングリーンなどのフタロシアニン系顔料。キナクリドンレッド、キナクリドンマゼンタなどのキナクリドン系顔料。ペリレンレッド、ペリレンスカーレットなどのペリレン系顔料。イソインドリノンイエロー、イソインドリノンオレンジなどのイソインドリノン系顔料。ベンズイミダゾロンイエロー、ベンズイミダゾロンオレンジ、ベンズイミダゾロンレッドなどのイミダゾロン系顔料。ピランスロンレッド、ピランスロンオレンジなどのピランスロン系顔料。インジゴ系顔料。縮合アゾ系顔料。チオインジゴ系顔料。フラバンスロンイエロー、アシルアミドイエロー、キノフタロンイエロー、ニッケルアゾイエロー、銅アゾメチンイエロー、ペリノンオレンジ、アンスロンオレンジ、ジアンスラキノニルレッド、ジオキサジンバイオレットなど。
【0045】
また、有機顔料をカラーインデックス(C.I.)ナンバーにて示すと、例えば、以下のものを用いることができる。
C.I.ピグメントイエロー:12、13、14、17、20、24、74、83、86、93、109、110、117、120、125、128、137、138、147、148、151、153、154、166、168。C.I.ピグメントオレンジ:16、36、43、51、55、59、61。C.I.ピグメントレッド:9、48、49、52、53、57、97、122、123、149、168、175、176、177、170、192、215、216、217、220、223、224、226、227、228、238、240。C.I.ピグメントバイオレット:19、23、29、30、37、40、50。C.I.ピグメントブルー:15、15:3、15:1、15:4、15:6、22、60、64。C.I.ピグメントグリーン:7、36。C.I.ピグメントブラウン:23、25、26などが例示できる。勿論、上記以外でも公知の有機顔料を用いることができる。
【0046】
(第1のインクに用いる顔料)
第1のインクに用いる顔料は、上記で挙げたような顔料に、少なくとも1種の親水性基が直接又は他の原子団を介して結合している自己分散型顔料である。このような顔料としては、例えば、自己分散型カーボンブラックを挙げることができる。さらに、自己分散型カーボンブラックの一例として、アニオン性基がカーボンブラック表面に結合したアニオン性カーボンブラックを挙げることができる。本発明で用いる第1のインクは、インク中にアンモニウムイオンが含有されてなるものであることを要する。本発明は、インクジェット記録に使用するインクセットの、第1のインクが有するアンモニウムイオンと、第2のインクが有するアルカリ金属イオンに起因して引き起こされると考えられるヨレ現象の発生を抑制することを目的としているからである。なお、アンモニウムイオンは、後述するように、顔料表面に結合したアニオン性基に起因してインク中に含まれる場合がある。
【0047】
(アニオン性カーボンブラック)
アニオン性カーボンブラックは、例えば、−COOM、−SO3M、−PO3HM、−PO32などの、少なくとも1種のアニオン性基がカーボンブラックの表面に結合したものが挙げられる。上記式中、Mは、水素原子、アンモニウム、又は、有機アンモニウムである。中でも特に、−COOMや−SO3Mがカーボンブラックの表面に、必要に応じて他の原子団を介して結合してアニオン性に帯電したカーボンブラックは、インク中における分散性が良好であるため特に好ましい。なお、上記で「M」として表したもののうち、有機アンモニウムの具体例は、以下のものが挙げられる。例えば、メチルアンモニウム、ジメチルアンモニウム、トリメチルアンモニウム、エチルアンモニウム、ジエチルアンモニウム、トリエチルアンモニウム、メタノールアンモニウム、ジメタノールアンモニウム、トリメタノールアンモニウムなどである。
【0048】
本発明においては特に、上記したアニオン性基の対イオン(上記で「M」として表したもの)として、アンモニウム又は有機アンモニウムであるものを用いることが特に好ましい。上述した通り、本発明で用いる第1のインクはアンモニウムイオンを含有することを要する。ここで、アニオン性基の対イオンとしてアンモニウムを含む自己分散型顔料を用いることで、インク中ではアニオン性基に結合した対イオンが解離して、アンモニウムイオンとなることができる。したがって、上記アニオン性基の対イオンがアンモニウム又は有機アンモニウムであれば、他の成分を添加することなく、第1のインクに必要な、インクがアンモニウムイオンを含有するという構成を容易に満足させることができるためである。
【0049】
また、前記した他の原子団の具体例は、例えば、アルキレン基、芳香環などが挙げられる。アルキレン基の具体例は、例えば、メチレン基、エチレン基、プロピレン基などが挙げられる。また、芳香環の具体例は、例えば、ベンゼン環、ナフタレン環などが挙げられる。
【0050】
なお、上記で述べた通り、第1のインク中のアンモニウムイオン濃度が低過ぎると、第1のインクの保存安定性が充分に得られなくなる場合がある。このため、第1のインク中のアンモニウムイオン濃度[mol/L]が、0.0035mol/L以上0.034mol/L以下の範囲となるように調整することが好ましい。
【0051】
〔第2のインクに用いる顔料〕
第2のインクに用いる顔料は、樹脂により顔料を分散させる樹脂分散タイプの樹脂分散型顔料である。上記したように、本発明においては、顔料及び樹脂を含有してなり、樹脂の少なくとも一部により顔料が分散されているインクのことを樹脂分散型顔料インクとしている。分散剤として用いる樹脂は、特に限定されないが、上記に挙げたような酸価が160mgKOH/g以下の水溶性樹脂を用いることができる。また、該樹脂の中和剤として前記に挙げたようなアルカリ金属を含む中和剤を使用することができる。
【0052】
(水性媒体)
本発明のインクセットを構成する第1のインク及び第2のインクはいずれも、上記した成分に加えて、水及び水溶性有機溶剤の混合溶媒である水性媒体を含有するものであることが好ましい。水は、脱イオン水(イオン交換水)を用いることが好ましい。インク中の水の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、50.0質量%以上95.0質量%以下であることが好ましい。また、インク中の水溶性有機溶剤の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、3.0質量%以上50.0質量%以下であることが好ましい。
【0053】
水溶性有機溶剤は、例えば、以下に挙げるものを用いることができる。1,3−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,2−ヘキサンジオール、1,6−ヘキサンジオールなどのアルカンジオール類。ジエチレングリコールモノメチル(又はエチル)エーテル、トリエチレングリコールモノエチル(又はブチル)エーテルなどのグリコールエーテル類。エタノール、イソプロパノール、n−ブタノール、イソブタノール、第2ブタノール、第3ブタノールなどの炭素数1乃至4のアルキルアルコール類。N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミドなどのカルボン酸アミド類。アセトン、メチルエチルケトン、2−メチル−2−ヒドロキシペンタン−4−オンなどのケトン、又は、ケトアルコール。テトラヒドロフラン、ジオキサンなどの環状エーテル類。グリセリン。エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、1,2−又は1,3−プロピレングリコール、1,2−又は1,4−ブチレングリコール、ポリエチレングリコールなどのアルキレングリコール類。チオジグリコール、1,2,6−ヘキサントリオール、アセチレングリコール誘導体などの多価アルコール類。2−ピロリドン、N−メチル−2−ピロリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、N−メチルモルホリンなどの複素環類、ジメチルスルホキシドなどの含硫黄化合物。
【0054】
(その他の成分)
本発明のインクセットを構成する第1のインク及び第2のインクはいずれも、保湿性維持のために、上記した成分の他に、尿素、尿素誘導体、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタンなどの保湿性固形分を含有してもよい。尿素、尿素誘導体、トリメチロールプロパンなどの、保湿性固形分のインク中の含有量は、一般には、インク全質量を基準として、0.10質量%以上20.0質量%以下、さらには3.0質量%以上10.0質量%以下の範囲であることが好ましい。
【0055】
また、本発明のインクセットを構成する第1のインク及び第2のインクはいずれも、上記成分以外にも必要に応じて、pH調整剤、防錆剤、防腐剤、防黴剤、酸化防止剤、還元防止剤、水溶性樹脂の中和剤、塩などの、種々の添加剤を含有してもよい。例えば、水溶性樹脂の中和剤として塩基を用いてもよく、その場合には、前記したように、水酸化ナトリウム、水酸化リチウム、水酸化カリウムなどのアルカリ金属塩の水和物などの無機アルカリ剤などを用いることができる。また、塩は、硫酸塩(例えば、硫酸カリウムや硫酸アンモニウムなど)や安息香酸塩(例えば、安息香酸アンモニウムなど)などが挙げられる。
【0056】
<インクセット>
上記で述べた構成を有する本発明のインクセットは、インクジェット記録に用いる、つまりインクジェット用インクセットであることが特に好適である。その結果、本発明のインクセットをインクジェット記録に用いた場合に、前記したヨレ現象を生じることなく高品位画像を与える。勿論、本発明のインクセットは、第1のインクと第2のインクとの組み合わせを有していればよく、これら以外に、他のインクを組み合わせてなるセットであってもよい。
【0057】
<インクカートリッジ>
本発明のインクセットを用いてインクジェット記録を行うのに好適なインクカートリッジは、少なくとも上記したインクセットを構成する各インクをそれぞれに収容してなるインク収容部を備えていることを特徴とする。インクセットを構成する各インクを収容するインクカートリッジは、各インクのインク収容部が複数一体になったインクカートリッジは勿論のこと、単独のインクカートリッジを複数組み合わせて用いる場合も含む。さらに、インクカートリッジ及び記録ヘッドを一体としたものも含む。つまり、本発明においては、複数のインクカートリッジ、又は複数のインクを一体に収容するインクカートリッジを、インクジェット記録装置に対して着脱可能であるように用いることを、実質的にインクセット、としている。
【0058】
(インクセットの形態)
本発明においては、前記インクカートリッジを、以下のように組み合わせて用いる場合も、インクセットの一例として挙げられる。シアンインク、マゼンタインク、イエローインク、及びブラックインクを一体に収容するインクカートリッジを用いる場合。又は、シアンインク、マゼンタインク、及びイエローインクを一体に収容するインクカートリッジを、さらに別のブラックインクを収容するインクカートリッジと組み合わせて用いる場合。さらに、インクセットにおいて、単独のインクカートリッジを複数組み合わせて用いる場合の具体例には、以下の形態のものが挙げられる。シアンインク、マゼンタインク、及びイエローインクをそれぞれ収容する独立したインクカートリッジと、さらに別のブラックインクを収容するインクカートリッジとを組み合わせて用いる場合。ブラックインク、淡シアンインク、及び淡マゼンタインクをそれぞれ収容するインクカートリッジを組み合わせて用いる場合。レッドインクを収容する単独のインクカートリッジを追加して用いる場合。グリーンインクを収容する単独のインクカートリッジを追加して用いる場合。いずれにしても、本発明は、インクカートリッジを用いるインクジェット記録装置や、複数のインクを一体に収容するインクカートリッジにおいて、共に用いる他のインクに対する1のインクの特性を相対的に規定するものである。したがって、上記で挙げた形態に限られるものではなく、どのような形態であってもよい。
【0059】
<インクジェット記録方法>
本発明のインクジェット記録方法は、インクをインクジェット方式で吐出して記録媒体に記録を行うインクジェット記録方法において、使用するインクが、少なくとも本発明のインクセットを構成するインクの組み合わせを含むことを特徴とする。本発明のインクジェット記録方法で使用するインクジェット方式としては、インクに力学的エネルギーを作用することによりインクを吐出する記録方法や、インクに熱エネルギーを作用することによりインクを吐出する記録方法などがある。特に、本発明においては、熱エネルギーを利用するインクジェット記録方法を好ましく用いることができる。
【0060】
<記録ユニット>
本発明の記録ユニットは、インクを収容するインク収容部と、インクを吐出するための記録ヘッドとを備えてなり、前記インク収容部に収容されているインクが、少なくとも本発明のインクセットを構成する各インクであることを特徴とする。
【0061】
<インクジェット記録装置>
本発明のインクジェット記録装置は、インクを収容するインク収容部と、インクを吐出するための記録ヘッドとを備えてなり、インク収容部に収容されているインクが、少なくとも本発明のインクセットを構成するインクであることを特徴とする。特に、記録ヘッドが、熱エネルギーをインクに付与することにより、インクを吐出するインクジェット記録装置である場合に、より顕著な効果を得ることができる。
【0062】
以下に、インクジェット記録装置の機構部の概略構成を説明する。インクジェット記録装置は、各機構の役割から、給紙部、搬送部、キャリッジ部、排紙部、クリーニング部、及びこれらを保護し、意匠性を持たせる外装部で構成される。以下、これらの概略を説明する。
【0063】
図1は、インクジェット記録装置の斜視図である。また、図2及び図3は、インクジェット記録装置の内部機構を説明するための図であり、図2は右上部からの斜視図、図3はインクジェット記録装置の側断面図をそれぞれ示したものである。
【0064】
給紙を行う際には、先ず、給紙トレイM2060を含む給紙部において所定枚数の記録媒体が、給紙ローラM2080と分離ローラM2041から構成されるニップ部に送られる(図1及び図3参照)。記録媒体はニップ部で分離され、最上位の記録媒体のみが搬送される。搬送部に送られた記録媒体は、ピンチローラホルダM3000及びペーパーガイドフラッパーM3030に案内されて、搬送ローラM3060とピンチローラM3070とのローラ対に送られる。搬送ローラM3060とピンチローラM3070とからなるローラ対は、LFモータE0002の駆動により回転され、この回転により記録媒体がプラテンM3040上を搬送される(以上、図2及び図3参照)。
【0065】
画像を形成する際には、キャリッジ部は記録ヘッドH1001(図4参照)を目的の画像形成位置に配置して、電気基板E0014(図2参照)からの信号にしたがって記録媒体にインクが吐出される。なお、記録ヘッドH1001についての詳細な構成は後述する。記録ヘッドH1001により記録を行いながらキャリッジM4000(図2参照)が列方向に走査する主走査と、搬送ローラM3060(図2及び図3参照)が記録媒体を行方向に搬送する副走査とを交互に繰り返すことにより、記録媒体に画像を形成する。最後に、記録媒体は、排紙部で第1の排紙ローラM3110と拍車M3120とのニップに挟まれ(図3参照)、搬送されて排紙トレイM3160(図1参照)に排出される。
【0066】
クリーニング部は、記録ヘッドH1001のクリーニングを行う。クリーニング部は、キャップM5010(図2参照)を記録ヘッドH1001の吐出口に密着させた状態で、ポンプM5000(図2参照)を作動すると、記録ヘッドH1001からインクなどを吸引する。また、キャップM5010を開いた状態で、キャップM5010に残っているインクを吸引すると、インクの固着やその他の弊害が起こらないようになっている。
【0067】
(記録ヘッドの構成)
ヘッドカートリッジH1000の構成について説明する(図4参照)。ヘッドカートリッジH1000は、記録ヘッドH1001と、インクカートリッジH1900を搭載する手段、及びインクカートリッジH1900から記録ヘッドにインクを供給する手段を有する。そして、ヘッドカートリッジH1000は、キャリッジM4000(図2参照)に対して着脱可能に搭載される。
【0068】
図4は、ヘッドカートリッジH1000にインクカートリッジH1900を装着する様子を示した図である。インクジェット記録装置は、例えば、7種のインクで画像を形成する。したがって、インクカートリッジH1900も7色分が独立に用意されている。そして、図4に示すように、それぞれのインクカートリッジは、ヘッドカートリッジH1000に対して着脱可能となっている。なお、インクカートリッジH1900の着脱は、キャリッジM4000(図2参照)にヘッドカートリッジH1000が搭載された状態で行うことができる。
【0069】
図5は、ヘッドカートリッジH1000の分解斜視図である。ヘッドカートリッジH1000は、記録素子基板、プレート、電気配線基板H1300、タンクホルダーH1500、流路形成部材H1600、フィルターH1700、シールゴムH1800などで構成される。記録素子基板は第1の記録素子基板H1100及び第2の記録素子基板H1101で構成され、プレートは第1のプレートH1200及び第2のプレートH1400で構成される。
【0070】
第1の記録素子基板H1100及び第2の記録素子基板H1101はSi基板であり、その片面にインクを吐出するための複数の記録素子(ノズル)がフォトリソグラフィ技術により形成されている。各記録素子に電力を供給するAlなどの電気配線は、成膜技術により形成されており、個々の記録素子に対応した複数のインク流路もまた、フォトリソグラフィ技術により形成されている。さらに、複数のインク流路にインクを供給するためのインク供給口が裏面に開口するように形成されている。
【0071】
図6は、第1の記録素子基板H1100及び第2の記録素子基板H1101の構成を説明する正面拡大図である。H2000〜H2600は、それぞれ異なるインクを供給する記録素子の列(以下吐出口列ともいう)である。第1の記録素子基板H1100には、3色分の吐出口列H2000〜H2200が形成されている。第2の記録素子基板H1101には、4色分の吐出口列H2300〜H2600が形成されている。各吐出口列は、記録媒体の搬送方向に1,200dpi(dot/inch;参考値)の間隔で並ぶ768個のノズルによって構成され、約2ピコリットルのインクを吐出する。各吐出口における開口面積は、およそ100μm2に設定されている。
【0072】
以下、図4及び図5を参照して説明する。前記した第1の記録素子基板H1100及び第2の記録素子基板H1101は第1のプレートH1200に接着固定されている。ここには、第1の記録素子基板H1100及び第2の記録素子基板H1101にインクを供給するためのインク供給口H1201が形成されている。さらに、第1のプレートH1200には、開口部を有する第2のプレートH1400が接着固定されている。この第2のプレートH1400は、電気配線基板H1300と第1の記録素子基板H1100及び第2の記録素子基板H1101とが電気的に接続されるように、電気配線基板H1300を保持する。
【0073】
電気配線基板H1300は、第1の記録素子基板H1100及び第2の記録素子基板H1101に形成されている各ノズルからインクを吐出するための電気信号を印加する。この電気配線基板H1300は、第1の記録素子基板H1100及び第2の記録素子基板H1101に対応する電気配線と、この電気配線端部に位置し、インクジェット記録装置からの電気信号を受け取るための外部信号入力端子H1301とを有する。外部信号入力端子H1301は、タンクホルダーH1500の背面側に位置決め固定されている。
【0074】
インクカートリッジH1900を保持するタンクホルダーH1500には、流路形成部材H1600が、例えば、超音波溶着により固定され、インクカートリッジH1900から第1のプレートH1200に通じるインク流路H1501を形成する。インクカートリッジH1900と係合するインク流路H1501のインクカートリッジ側端部には、フィルターH1700が設けられており、外部からの塵埃の侵入を防止し得るようになっている。また、インクカートリッジH1900との係合部にはシールゴムH1800が装着され、係合部からのインクの蒸発を防止し得るようになっている。
【0075】
さらに、上記したように、タンクホルダー部と記録ヘッドH1001とを接着などで結合することで、ヘッドカートリッジH1000が構成される。なお、タンクホルダー部は、タンクホルダーH1500、流路形成部材H1600、フィルターH1700、及びシールゴムH1800から構成される。また、記録ヘッドH1001は、第1の記録素子基板H1100及び第2の記録素子基板H1101、第1のプレートH1200、電気配線基板H1300及び第2のプレートH1400から構成される。
【0076】
なお、ここでは記録ヘッドの一形態として、電気信号に応じた膜沸騰をインクに生じさせるための熱エネルギーを生成する電気熱変換体(記録素子)を用いて記録を行うサーマルインクジェット方式の記録ヘッドについて述べた。この代表的な構成や原理については、例えば、米国特許第4,723,129号明細書、同第4,740,796号明細書に開示されている基本的な原理を用いて行うものが好ましい。この方式は、いわゆる、オンデマンド型、コンティニュアス型のいずれにも適用することができる。
【0077】
サーマルインクジェット方式は、オンデマンド型に適用することが特に有効である。オンデマンド型の場合には、インクを保持する液流路に対応して配置されている電気熱変換体に、記録情報に対応していて核沸騰を超える急速な温度上昇を与える少なくとも一つの駆動信号を印加する。このことによって、電気熱変換体に熱エネルギーを発生せしめ、インクに膜沸騰を生じさせて、結果的にこの駆動信号に一対一で対応したインク内の気泡を形成できる。この気泡の成長及び収縮により吐出口を介してインクを吐出することで、少なくともひとつの滴を形成する。駆動信号をパルス形状とすると、即時、適切に気泡の成長及び収縮が行われるので、特に応答性に優れたインクの吐出が達成でき、より好ましい。
【0078】
また、前記のサーマルインクジェット方式に限らず、下記に述べるような、力学的エネルギーを利用したインクジェット記録装置も好ましく用いることができる。かかる形態のインクジェット記録装置は、複数のノズルを有するノズル形成基板と、ノズルに対向して配置される圧電材料と導電材料からなる圧力発生素子と、この圧力発生素子の周囲を満たすインクを備えてなる。そして、印加電圧により圧力発生素子を変位させ、インクをノズルから吐出する。
【0079】
インクジェット記録装置は、上記したように、記録ヘッドとインクカートリッジとが別体となったものに限らず、それらが分離不能に一体になったものを用いてもよい。さらに、インクカートリッジは記録ヘッドに対して分離可能又は分離不能に一体化されてキャリッジに搭載されるもの、また、インクジェット記録装置の固定部位に設けられて、チューブなどのインク供給部材を介して記録ヘッドにインクを供給するものでもよい。また、記録ヘッドに対して、好ましい負圧を作用させるための構成をインクカートリッジに設ける場合には、以下の構成とすることができる。即ち、インクカートリッジのインク収容部に吸収体を配置した形態、又は可撓性のインク収容袋とこれに対してその内容積を拡張する方向の付勢力を作用するばね部とを有した形態などとすることができる。また、インクジェット記録装置は、上記したようなシリアル型の記録方式を採るもののほか、記録媒体の全幅に対応した範囲にわたって記録素子を整列させてなるラインプリンタの形態をとるものであってもよい。
【実施例】
【0080】
以下、実施例及び比較例を用いてさらに具体的に説明するが、本発明は、その要旨を超えない限り、これらに限定されるものではない。なお、以下の記載で「部」又は「%」とあるものは、特に断りのない限り質量基準である。
【0081】
<顔料分散液の調製>
(顔料分散液Aの調製)
5.5gの水に5gの濃塩酸を溶かした溶液に、5℃に冷却した状態で4−アミノフタル酸1.5gを加える。次に、この溶液の入った容器をアイスバスに入れて液を撹拌することにより溶液を常に10℃以下に保った状態にし、これに、5℃の水9gに亜硝酸ナトリウム1.8gを溶かした溶液を加えた。この溶液をさらに15分間撹拌後、比表面積が220m2/gでDBP吸油量が105mL/100gであるカーボンブラック6gを撹拌下で加えた。その後、さらに15分間撹拌した。得られたスラリーをろ紙(商品名:標準用濾紙No.2;アドバンテック製)でろ過した後、粒子を十分に水洗し、110℃のオーブンで乾燥させ、自己分散型カーボンブラックを調製した。さらに、上記で得られた自己分散型カーボンブラックを塩酸で処理した後、アンモニア水を用いて中和処理することで、自己分散型カーボンブラックAを調製した。その後、上記で得られた自己分散型カーボンブラックAに水を加えて顔料濃度が10.0質量%となるように分散させて、顔料分散液を調製した。上記の方法により、カーボンブラック粒子表面に−C63−(COONH4)2基が導入されてなる自己分散型カーボンブラックAが水中に分散された状態の顔料分散液Aを得た。顔料分散液A中のアンモニウムイオンの量を、アンモニウムイオン電極を接続したイオンメーター(Orion290A+;サーモエレクトロン製)を用いて測定したところ、1,500ppmであった。
【0082】
(顔料分散液Bの調製)
顔料分散液Aの調製において、4−アミノフタル酸の量を1.4gに変更したこと以外は同様にして、顔料分散液Bを調製した。顔料分散液B中のアンモニウムイオンの量を、上記と同様に測定したところ、1,450ppmであった。
【0083】
(顔料分散液Cの調製)
4−アミノフタル酸1.5gを1.1gに変更した以外は顔料分散液Aの製造方法と同様の方法で顔料分散液Cを調製した。顔料分散液C中のアンモニウムイオンの量を、上記と同様に測定したところ、1,000ppmであった。
【0084】
(顔料分散液Dの調製)
4−アミノフタル酸1.5gを0.25gに変更した以外は顔料分散液Aの製造方法と同様の方法で顔料分散液Dを調製した。顔料分散液D中のアンモニウムイオンの量を、上記と同様に測定したところ、150ppmであった。
【0085】
(顔料分散液Eの調製)
4−アミノフタル酸1.5gを0.21gに変更した以外は顔料分散液Aの製造方法と同様の方法で顔料分散液Eを調製した。顔料分散液E中のアンモニウムイオンの量を、上記と同様に測定したところ、100ppmであった。
【0086】
(顔料分散液Fの調製)
4−アミノフタル酸1.5gを1.7gに変更した以外は顔料分散液Aの製造方法と同様の方法で顔料分散液Fを調製した。顔料分散液F中のアンモニウムイオンの量を、上記と同様に測定したところ、1,600ppmであった。
【0087】
(顔料分散液Gの調製)
顔料分散液の調製で用いたと同様のカーボンブラック10部と、分散剤として下記のブロック共重合体2.5部と、イオン交換水87.5部とを混合し、ペイントシェーカーを用いて3時間分散させた。上記で使用したブロック共重合体は、スチレン/メトキシトリエチレングリコールメタクリレート/アクリル酸のブロック共重合体であり、酸価160mgKOH/g、1当量の水酸化カリウムで中和した重量平均分子量10,000のものである。上記の分散処理後、遠心分離処理によって粗大粒子を除去し、さらに、ポアサイズ3.0μmのミクロフィルター(富士フィルム製)にて加圧ろ過し、樹脂分散型カーボンブラックを調製した。その後、顔料濃度が10.0質量%となるように水で調整して、顔料濃度10.0質量%、樹脂濃度2.5質量%の顔料分散液Gを得た。
【0088】
<樹脂水溶液の調製>
酸価160mgKOH/g、重量平均分子量7,500のスチレン/n−ブチルアクリレート/アクリル酸のランダム共重合体を、水酸化カリウムで1当量に中和した。その後、固形分が10.0質量%となるように水で調整して、樹脂水溶液を得た。
【0089】
<インクの調製>
表1の上段に示す各成分を混合し、十分撹拌した後、ポアサイズ2.5μmのミクロフィルター(ポール製)にて加圧ろ過して、各インクを調製した。インクBK1−1〜BK1−6は、自己分散型顔料を含むインクである。また、インクBK2−1及びBK2−2は、分散剤として樹脂を含むインクである。自己分散型顔料を含むインク組成中に含有されるアンモニウムイオンの濃度A[mol/L]と、分散剤として樹脂を含むインク組成中に含有されるアルカリ金属イオン濃度B[mol/L]を、下記の方法で測定した。
【0090】
(自己分散型顔料を含むインク中のアンモニウムイオン濃度の定量)
上記で得られた自己分散型顔料を含むインクBK1−1〜BK1−6中のアンモニウムイオン濃度を定量した。先ず、各インクの比重を、浮き型の比重計(商品名:標準比重計;テックジャム製)を用いて、25℃で測定した。各インクの比重を表1の下段に示した。そして、各インクの調製に用いた顔料分散液中のアンモニウムイオン量とインクの比重とから、各インク中のアンモニウムイオン濃度A[mol/L]を求めた。得られた結果を表1の下段に示した。
【0091】
(樹脂を含むインク中のアルカリ金属イオン濃度の定量)
上記で得られた樹脂を含むインクBK2−1及びBK2−2中のアルカリ金属イオン濃度、即ち、カリウムイオン濃度を定量した。先ず、各インクの比重を、浮き型の比重計(商品名:標準比重計;テックジャム製)を用いて、25℃で測定した。各インクの比重を表1の下段に示した。そして、各インク中のカリウムイオン量[ppm]を、カリウムイオン電極を接続したイオンメーター(Orion290A+;サーモエレクトロン製)を用いて測定した。そして、各インク中のカリウムイオン量とインクの比重とから、各インク中のカリウムイオン濃度B[mol/L]を求めた。得られた結果を表1の下段に示した。
【0092】

【0093】

【0094】
<評価>
先に調製した、自己分散型顔料を含むBK1−1〜1−6の各インク及び樹脂を含むBK2−1〜2−2の各インクを用い、表2に示したように、これらのインクを組み合わせて実施例及び比較例のインクセットとした。これらのインクセットを用い、PPC用紙オフィスプランナー(キヤノン製)に、下記の記録装置を用い、下記のようにして画像を形成して各インクセットの評価を行った。この際、記録装置には、記録信号に応じた熱エネルギーをインクに付与することによりインクを吐出するオンデマンド型記録ヘッドを有するインクジェット記録装置PIXUS PRO9000(キヤノン製)を用いた。そして、当該装置のグリーンのポジションに自己分散型顔料を含むインクを、レッドのポジションに樹脂を含むインクを装着し、下記のようにして評価を行った。なお、試験に使用したインクジェット記録装置においては、グリーンインクを吐出する吐出口列とレッドインクを吐出する吐出口列とは、同一の吸引キャップで同時に吸引回復動作を行う構成となっている。
【0095】
各インクセットを構成する、自己分散型顔料を含むインクと樹脂を含むインクとをそれぞれ、上記インクジェット記録装置の前記したポジションに搭載した後、吸引回復動作を1回行った。その後、PIXUS PRO9000のノズルチェックパターンを記録して、得られたノズルチェックパターンを目視で確認して、下記に示したヨレ現象の評価基準に従い、ヨレ現象の発生についての評価を行った。この時点でヨレ現象の評価結果がAであった場合には、そのインクセットを用いて、上記した記録媒体に、1200dpi×1200dpiの記録密度で記録デューティを15%としたベタ画像をデフォルトモードで10枚連続して記録した。その後、PIXUS PRO9000のノズルチェックパターンを記録して、上記と同様にヨレ現象の評価を行った。この時点でのヨレ現象の評価結果がAであった場合には、そのインクセットを用いて、引き続き上記の記録媒体に、上記と同様にして画像を90枚記録した。記録後、PIXUS PRO9000のノズルチェックパターンを記録して、上記と同様にヨレ現象の評価を行った。この時点でもヨレ現象の評価結果がAであった場合、そのインクセットを用いて、引き続き上記の記録媒体に、上記と同様にして画像を100枚記録した。記録後、PIXUS PRO9000のノズルチェックパターンを記録して、上記と同様にヨレ現象の評価を行った。
【0096】
上記したようにして、下記に示したヨレ現象の評価基準にしたがってした評価結果がBとなるまで、100枚単位で連続して記録を繰り返し、上記と同様にして評価を行った。表2に、ヨレ現象の評価結果がBとなるまでに形成した画像の枚数を示した。したがって、得られた結果の枚数が多いインクセットほど、ヨレ現象の発生が抑制され、安定して良好な画像を形成することが可能であったことを示している。
【0097】
また、ヨレ現象の評価結果がBとなった時点で、その記録ヘッドをインクジェット記録装置から取り外して、吐出口周辺の状態を光学顕微鏡で観察した。そして、吐出口周辺に生じた堆積物の状態によって下記の評価基準で評価を行った。得られた吐出口周辺の状態の評価結果を表2に示した。
【0098】
(ヨレ現象の評価基準)
A:チェックパターンに乱れがなく、正常に記録できる。
B:チェックパターンに若干の乱れがある。
【0099】
(吐出口周辺の状態の評価基準)
A:吐出口周辺の一部に樹脂の塊が確認された。
B:吐出口周辺に全体的に樹脂の塊が確認された。
【0100】

【0101】
(インクの保存安定性の評価)
実施例及び比較例の各インクセットを構成する自己分散型顔料を含むインクの保存安定性について評価を行った。先ず、インクの粘度及びインク中の顔料の平均粒径を測定した。その後、各インクセットを構成する自己分散型顔料を含むインクをそれぞれテフロン(登録商標)製の容器に入れて密栓し、60℃のオーブン中で4週間保存した。その後、テフロン(登録商標)製容器をオーブンから取り出し、インクが常温に戻った後に、60℃での保存後のインクの粘度及びインク中の顔料の平均粒径を測定した。このようにして得られた粘度及び平均粒径の値から、60℃、4週間の保存前後での、インクの粘度の変化率及び顔料の平均粒径の変化率を求めた。その結果、他のインクと比較して、比較例2の自己分散型顔料を含むインクBK1−4は、顔料の平均粒径の変化率が15%と大きかった。なお、インクの粘度は、RE80L型粘度計(東機産業製)を用いて25℃で測定した。また、インク中の顔料の平均粒径はELS−8000(大塚電子製)を用いて、25℃で測定した。
【図面の簡単な説明】
【0102】
【図1】インクジェット記録装置の斜視図である。
【図2】インクジェット記録装置の機構部の斜視図である。
【図3】インクジェット記録装置の断面図である。
【図4】ヘッドカートリッジにインクカートリッジを装着する状態を示す斜視図である。
【図5】ヘッドカートリッジの分解斜視図である。
【図6】ヘッドカートリッジにおける記録素子基板を示す正面図である。
【符号の説明】
【0103】
M2041:分離ローラ
M2060:給紙トレイ
M2080:給紙ローラ
M3000:ピンチローラホルダ
M3030:ペーパーガイドフラッパー
M3040:プラテン
M3060:搬送ローラ
M3070:ピンチローラ
M3110:排紙ローラ
M3120:拍車
M3160:排紙トレイ
M4000:キャリッジ
M5000:ポンプ
M5010:キャップ
E0002:LFモータ
E0014:電気基板
H1000:ヘッドカートリッジ
H1001:記録ヘッド
H1100:第1の記録素子基板
H1101:第2の記録素子基板
H1200:第1のプレート
H1201:インク供給口
H1300:電気配線基板
H1301:外部信号入力端子
H1400:第2のプレート
H1500:タンクホルダー
H1501:インク流路
H1600:流路形成部材
H1700:フィルター
H1800:シールゴム
H1900:インクカートリッジ
H2000〜H2600:吐出口列

【特許請求の範囲】
【請求項1】
親水性基が直接又は他の原子団を介して結合している自己分散型顔料とアンモニウムイオンとを含有する第1のインクと、顔料、酸価が160mgKOH/g以下の樹脂、及びアルカリ金属イオンを含有する第2のインクとの組み合わせを少なくとも有するインクセットであって、
前記第1のインク中のアンモニウムイオンの濃度A[mol/L]と、前記第2のインク中のアルカリ金属イオンの濃度B[mol/L]とが、0.03≦A/B≦0.32の関係を満たすことを特徴とするインクセット。
【請求項2】
前記第1のインク中のアンモニウムイオンの濃度が、0.0035mol/L以上0.034mol/L以下である請求項1に記載のインクセット。
【請求項3】
インクをインクジェット方式で吐出して記録媒体に記録を行うインクジェット記録方法において、使用するインクが、少なくとも、請求項1又は2に記載のインクセットを構成するインクであることを特徴とするインクジェット記録方法。
【請求項4】
インクを収容するインク収容部を備えたインクカートリッジにおいて、インク収容部に収容されているインクが、少なくとも、請求項1又は2に記載のインクセットを構成するインクであることを特徴とするインクカートリッジ。
【請求項5】
インクを収容するインク収容部と、インクを吐出するための記録ヘッドとを備えた記録ユニットにおいて、インク収容部に収容されているインクが、少なくとも、請求項1又は2に記載のインクセットを構成するインクであることを特徴とする記録ユニット。
【請求項6】
インクを収容するインク収容部と、インクを吐出するための記録ヘッドとを備えたインクジェット記録装置において、インク収容部に収容されているインクが、少なくとも、請求項1又は2に記載のインクセットを構成するインクであることを特徴とするインクジェット記録装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−91492(P2009−91492A)
【公開日】平成21年4月30日(2009.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−264788(P2007−264788)
【出願日】平成19年10月10日(2007.10.10)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】