説明

インサイチュで架橋される一体型アルギン酸塩移植片

【課題】医学分野、特に(皮膚)手術、及び美容分野のいずれにおける、体積を増加させる目的のための充填材の提供。
【解決手段】医学分野、特に(皮膚)手術、及び美容分野のいずれにおける、体積を増加させる目的のための充填材としての、非架橋、高純度、及び高分子量アルギン酸塩溶液(ゾル)の調製における、アルギン酸塩の使用であって、前記アルギン酸塩が、非架橋、高純度、及び高分子量アルギン酸溶液(ゾル)中に0.5%〜2.5%(w/v)アルギン酸塩固形分の濃度で存在し、前記非架橋、高純度、及び高分子量アルギン酸塩溶液が、インビボで注入され、外因性架橋剤を添加することなしに、インサイチュにおける自発的Ca2+架橋を導く使用である。例えば手、顔、及びデコルテのいずれかのしわの治療のため、例えば乳房の(HIV誘導性)脂肪萎縮症の場合は体積を増加させるための、体積減少の治療のため、対応する括約筋系への注入による、例えば胃食道逆流疾患、尿失禁、及び膀胱尿管逆流疾患のいずれか等の選択された疾患の治療のため、並びに特に美容目的の再建手術において使用するための、非架橋、高純度、及び高分子量アルギン酸塩溶液(ゾル)の使用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医学分野、特に(皮膚)手術、及び美容分野のいずれかにおける、体積を増加させるための充填材としての、非架橋、高純度、及び高分子量アルギン酸塩溶液(ゾル)の調製における、アルギン酸塩の使用であって、アルギン酸塩が、非架橋、高純度、及び高分子量アルギン酸溶液(ゾル)中に0.5〜2.5%(w/v)アルギン酸塩固形分の濃度で存在し、非架橋、高純度、及び高分子量アルギン酸塩溶液が、インビボで注入され、外因性架橋剤を添加することなしに、インサイチュにおける自発的なCa2+架橋を導く使用に関する。本発明は更に、例えば手、顔、及びデコルテのいずれかのしわの治療のため、例えば乳房の(HIV誘導性)脂肪萎縮症の場合は体積を増加させるための体積減少の治療のための、対応する括約筋系への注入による、例えば胃食道逆流疾患、尿失禁、及び膀胱尿管逆流疾患等の選択された疾患の治療のための、並びに特に美容目的の再建手術において使用するための、非架橋、高純度、及び高分子量アルギン酸塩溶液(ゾル)の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
医学分野及び美容分野において、特に近年では、審美、疾患、或いは加齢に関連する様々な状況に起因して、体積を増大させることにより皮膚及び筋肉の性質を有利に維持するための、充填材に対する要求が高まっている。かかる審美的状況、或いは疾患、加齢に関連する状況は、特にしわの形成に関連する。しわは、表情を作ることにより幼年期においても形成され、中年期には典型的には日光、熱、環境等の物理的損傷の結果として、老年期には正常な皮膚の加齢の結果として、形成される。しわは、また、例えば脂肪萎縮症、特にHIV誘導性脂肪萎縮症(特に四肢及び頬の脂肪組織の著しい萎縮を導く)の場合等、体内の脂肪組織の変位を導く疾患、例えば組織を被覆している皮層におけるしわの形成に付随する脂肪組織の退縮を伴う脂肪組織萎縮症によっても生じる場合がある。
【0003】
多くの患者による若々しい外観に対する継続的要求に応じるために、現在、しわを治療し、皮膚或いは皮下組織の体積を増加させる各種方法が確立されている。
【0004】
一方では、対象となる筋肉或いは筋肉群の、いわゆる化学的除神経及び不活性化のいずれかを実施してもよい。これに関連して、具体的には、例えば、ボツリヌス毒素A及びその誘導体のいずれか等の、筋肉収縮を誘発するメッセンジャー物質の放出を遮断することができる化合物が用いられている。既知の製剤は、例えばBotox(登録商標)、Dysport(登録商標)、Vistabel(登録商標)、或いはXeomin(登録商標)という名称で販売されている。これらの化合物は、典型的には、治療される筋系の領域で、注入された筋肉及び筋肉群のいずれかを不活性化させ、そのしわ除去(smoothing)効果は、筋系の活性に応じて数ヶ月から1年間持続する。よって、該方法は、定期的に用いられたときにのみ、皮膚の所望のしわ除去に寄与する。
【0005】
既に開発されているしわ治療の他の方法は、いわゆる「充填材」を用いる処理により、治療される皮膚の表面を平らにすることに基づいている。「充填材」による処理の場合、真皮が内因性物質及び外因性物質のいずれかで裏打ちされ、それによって組織が安定化され、任意的に平滑化される。欧州では、主にコラーゲン或いはヒアルロン酸等の生体物質からなる、多数の外因性充填材が入手可能である(例えば、コラーゲンとしては、Zyderm(登録商標)、Zyplast(登録商標)、Atelocollagen(登録商標)、Resoplast(登録商標)、ヒアルロン酸としては、Hylaform(登録商標)、Restylane(登録商標)、Belotero(登録商標)、Perlane(登録商標)、Juvederm(登録商標)、Rofilan Hylan Gel(登録商標)、Hyal−System(登録商標)、Viscontur(登録商標))。
【0006】
この状況では、コラーゲンは、ヒト及び動物の両方で生成される天然タンパク質であり、(ヒトの)結合組織の弾性を保つ。注入用コラーゲン製剤は、典型的には、ブタコラーゲン及びウシコラーゲンのいずれかから得られる。しかし、ブタコラーゲン及びウシコラーゲンを用いると、ヒトでこれらのタンパク質産物に対するアレルギー反応が生じる場合があるため、使用前にアレルギー試験を実施する必要がある。コラーゲン製剤の別の問題点は、コラーゲンが注入部位から皮膚の様々な領域に移動し、移動した領域で発赤及び腫脹を引き起こすことがあるということである(非特許文献1)。
【0007】
ヒアルロン酸(外因性充填材中に存在する場合もある)は、生物のほぼ全ての部分、特に皮膚で生成されるムコ多糖である。化学的には、ヒアルロン酸は、分子量数十万〜数百万ダルトンの直鎖状のポリマー鎖で形成されており、該ポリマー鎖はグリコシド結合を介して結合したN−アセチルグルコサミン及びグルクロン酸からなる二糖類の反復単位を含む。コラーゲン製剤及びヒアルロン酸製剤の臨床的有用性を評価するための比較研究により、ヒアルロン酸に基づく製品であるRestylane(登録商標)において、コラーゲン製剤であるZyderm(登録商標)より遥かに良好な結果が得られたことが示された(非特許文献2)。しかし、ヒアルロン酸製剤の問題点は、目に見える効果を得るために、短期間に最高3回の治療を受けなければならないことである。これは、腫脹(僅か1〜2日後には鎮静化する)を導く場合があり、よってこの治療は非常に複雑なものになる。加えて、ヒアルロン酸製剤及びコラーゲン製剤は、両方とも、注入後2〜3年間、注入された物質が長期間に亘って分解される期間、は合併症が生じることが知られている(非特許文献3、非特許文献4)。最後に、ヒト(及び動物)の体は、ヒアルロン酸を分解する酵素を生成する。よって、ヒアルロン酸単独での治療、或いは実質的にヒアルロン酸を含有する製剤による治療、或いは主構成成分としてヒアルロン酸を含有する製剤による治療では、目に見える効果が速やかに消失し、典型的には比較的高い頻度で治療を繰り返す必要がある。今日、ヒアルロン酸は、架橋ヒアルロン酸の形で用いられることが多い。組織における天然ヒアルロン酸の分解及び目に見える体積増加効果の速やかな消失は、架橋により減少するが、用いられる架橋ヒアルロン酸化合物は、典型的には大幅に化学修飾されているヒアルロン酸であり、それはもはや「天然充填材」とはいえない。
【0008】
しわに注入するための、コラーゲン及びヒアルロン酸のいずれか等の上記外因性充填材の使用の代替物として、液体シリコーンもまた長期に亘って用いられている。しかし、例えば小結節の形成、定期的に再発する蜂巣炎、及び皮膚潰瘍の形成等の多くの有害な副作用が、これに関連して、見出されている。よって、シリコーンによる治療は、もはや推奨されていない(例えば、非特許文献5)。
【0009】
外因性充填材の更なる代替物として、皮膚のしわに注入するための架橋アルギン酸塩に基づく移植片が、ごく最近開発され、しわ治療におけるその使用試験は成功している(特許文献1参照)。これによって、特に、例えば、目に見える効果を得るために複数回治療する必要がある、注入或いは移植後僅か1〜2日で鎮静化する腫脹が発生する等の、上述の問題を防ぐことが可能になった。例えば、特許文献1には、皮膚のしわへ注入するための架橋アルギン酸塩に基づく移植片について記載されており、この移植片は、アルギン酸塩の免疫原性が低いため、注入された充填材の耐用性が実質的により良好であることを保証する。特許文献1は、特に、移植可能なマイクロカプセル及び微粒子のいずれかの形態の架橋アルギン酸塩の使用、或いは「充填材」物質として、例えばしわ等の皮膚の欠陥の治療において使用するために、二価カチオン及び多価カチオンのいずれかで架橋されたアルギン酸塩のゲルの使用について記載している。該移植可能なマイクロカプセル及び微粒子のいずれかは、特に、患者のアレルギー反応及び内因性免疫反応を生じさせない。これらの利点にもかかわらず、アルギン酸塩をインサイチュで架橋すべき場合には、並行して架橋剤を投与することが必要であり、架橋剤は、二重カニューレを必要とし、したがって投与が比較的複雑な製剤である。よって、しわへの注入の分野では、かかる経費を必要とせず、また必要に応じて比較的多量に注入できる物質及び材料を提供することが好ましい。
【0010】
しかし、上記内因性充填材及び外因性充填材のいずれかは、美容用途で知られているだけではなく、例えば、胃食道逆流疾患、尿失禁、及び膀胱尿管逆流疾患等の、対応する括約筋系に注入することにより、選択された疾患を治療するためにも用いることができる。
【0011】
胃食道逆流疾患(「GORD」)(胃食道逆流疾患(「GERD」))は、正常な生理現象であるが、それは重篤な病態生理学的症状を導く場合がある。胃食道逆流疾患は、胃から食道への酸性、酵素的液体の逆流について説明する。それは、胸焼け、げっぷ、及び胃酸の口腔或いは肺への逆流を引き起こす。胃食道逆流疾患は、食道の灼熱感、及び潰瘍の形成に帰結し、正常な上皮組織が病理組織に置き換えられる。健常人では、食物を摂取した後、下部食道括約筋が閉じる。胃食道逆流疾患に罹患している患者では、この現象が起こらない。代わりに、筋肉が典型的に弛緩しており、胃が収縮したとき、胃酸が食道に流れ込み得る。この「GORD」の主な原因に加えて、他の原因の可能性もあり、それも知られている。
【0012】
胃食道逆流疾患(「GORD」)は蔓延している。統計データは、アメリカの人口の約35%が少なくとも月1回胸焼けを感じており、そのうち約5〜10%は毎日感じていることを示している。医学的に確認されている内視鏡検査研究では、アメリカの人口の2%が「GORD」に罹患していることが示されている。「GORD」に罹患するリスクは、40歳から増加する(非特許文献6)。胃食道逆流疾患の最初の徴候は、通常内視鏡検査で視認可能な発赤である。進行期の疾患は、組織の崩壊と、それに続く腫瘍形成及び癌腫(食道腺癌)により認識することができる。びまん性腫瘍形成は、65歳未満の患者の3.5%で発生し、65歳超では患者の20〜30%に発生する(非特許文献7)。
【0013】
現在では、「GORD」は、一般にプロトンポンプ阻害剤で治療されており、これを用いて患者の大部分は適切な用量で成功裏に治療することができる。しかし、この治療法は、制酸療法を停止した後高頻度で再発するため、症状の起こらない状態を長期間保ちたい場合、大部分の患者において薬剤による長期療法が必要であるという問題点を有する(非特許文献8)。更に、患者の多くは、将来数十年間に亘って薬剤を服用する準備ができていない。かかる薬剤による長期療法には多額の経費がかかることも更なる問題点である。
【0014】
開腹及び腹腔鏡による胃底皺壁形成に加えて、近年、胃食道逆流疾患の主因、即ち下部食道括約筋の機能不全に治療的にアプローチするために、内視鏡による治療法も用いられている。大部分は3つの異なる基本原理に従っている。1つには、縫合技術(例えば、内視鏡による胃形成、完全造壁(full wall oplication))を用いてもよい。高周波適用も更に可能であり、3番目に、注入及び移植方法(例えば、内因性充填材及び外因性充填材のいずれかの注入、生体高分子注入、或いは移植療法)を用いてもよい。
【0015】
該注入及び移植方法としてはまた、特に、内因性充填材及び外因性充填材のいずれかの注入が挙げられる。天然の従来の充填材のような膨潤性物質を注入することにより括約筋系を支持するという試み、例えばウシコラーゲン及びテフロン(登録商標)ペーストのいずれかの使用は、不運なことに失敗したが、これは物質が元の注入部位から経時的に移動するか、或いは再吸収されて、持続的に治療できなかったためである。
【0016】
該注入及び移植方法(例えば生体高分子注入、移植療法)の更なる代替方法としては、特に、エチレンビニルアルコールポリマーの使用が挙げられる。対応する方法は、現在、エチレンビニルアルコールポリマー(Enteryx(登録商標)、Boston Scientific,USA)を用いて実施されている。これは、生分解性ではなく、化学的に不活性であり、抗原性を有さず、組織に堆積後、永続的に柔軟/弾性的である合成ポリマーである。物質を溶媒(ジメチルスルホキシド)に溶解させた後、ポリマーを、放射線制御下で(筋系の支持、圧力の上昇)、内視鏡注入カニューレを介して特に食道壁に液体状態で注入する。しかし、臨床試験の状況では、注入されたポリマーの50%超が6ヶ月後も注入部位の原位置に留まっていたのは、患者の60%に過ぎず、場合によっては、最初に注入された量の75%がもはや検出不可能であったという問題点が見出された(非特許文献9)。よって、かなりの割合の患者において、ポリマーは経時的に、恐らく壁を通して食道管の管腔に移動することが明らかである。更に、用いられるエチレンビニルアルコールポリマーの溶媒として、ジメチルスルホキシドを使用することは、健康上の理由によって危険であると分類される。生体高分子療法は、これらの結果にもかかわらず、技術的に比較的単純な方法であるため、またこれまで得られた結果のために、魅力的であると思われ続けているが、該方法の非可逆性(合成、非生分解性ポリマー)及び注入された物質の移動は、非常に不利であるとみなさなければならない。
【0017】
上記注入及び移植方法、特に生体高分子注入の代替は、アルギン酸塩の使用に基づいている。例えば、特許文献1は、移植可能なマイクロカプセル及び微粒子のいずれかの形態の架橋アルギン酸塩の使用、或いは「充填材」物質として、胃食道逆流疾患の治療において使用するための、二価カチオン及び多価カチオンのいずれかで架橋されたアルギン酸塩のゲルの使用について記載している。ここでも、該移植可能なマイクロカプセル及び微粒子のいずれかは、アレルギー反応を全く示さないか、或いは患者の内因性免疫反応を生じさせない。しかし、しわ療法については上述したように、特許文献1に開示されているマイクロカプセル及び微粒子のいずれかは、一方、投与前に別々の調製プロセスで調製しなければならず、他方、投与中多額の技術的経費を必要とする。したがって、胃食道逆流疾患の分野でも、より単純な調製及び取扱を可能にする、物質及び材料を提供することが好ましい。
【0018】
これに関連して対象となる更なる疾患は、既に上述した尿失禁である。無意識に排尿してしまう尿失禁は、独立した疾患として、或いは他の疾患の随伴症状として生じる場合がある。尿失禁(ドイツでは600万人を超える人々が罹患している)は、タブーの対象であると見なされることが多いため隠蔽され、医療救済も殆ど求められていない。よって、尿失禁の発生に関する正確な全体像を把握することは困難である。しかし、ドイツでは、65歳超の人口の約11%、80歳超の人口の30%が尿失禁に罹患していると推定されている。より若年層で尿失禁に苦しんでいるのは、大部分が女性である。この理由は、女性の多くが、妊娠及び出産後骨盤底筋系が弱まり、また分娩後骨盤底の運動が非常に軽視されていることが多いためである。中年期には、尿失禁は、前立腺肥大の結果として男性で発生することが多い。社会的負担に加えて、尿失禁患者は、尿路感染、潰瘍、発疹、及び泌尿器敗血症を発症しやすい。米国だけで、毎年100億米ドル超が尿失禁の処理に費やされている。
【0019】
尿失禁の原因は様々である。1つの原因は、膀胱筋系の内括約筋(内尿道括約筋)の弱さである。特定の形態の尿失禁、膀胱尿管逆流疾患(低年齢の小児で発生することが多い)では、更なる原因は、排尿中、尿が膀胱から尿道を通じて腎臓に逆流することである。尿逆流は、瘢痕から一方或いは両方の腎臓の喪失まで、細菌汚染によって永続的に腎臓に損傷を与える場合がある。したがって、腎臓の損傷を避ける方法は、この場合、腎臓感染を避けることである。小児の膀胱尿管逆流は時間とともに自然に寛解するが、それは場合によっては重篤な尿路及び腎臓感染、更には腎不全を引き起こす。
【0020】
かかる疾患の治療法の1つの形態は、薬品を用いた従来の治療ストラテジーに基づく。例えば、膀胱の筋系を弛緩させる抗コリン作用を有する物質が、尿失禁を治療するために、特に内括約筋が弱っているときに、従来法で広く投与されている(例えば、非特許文献10)。しかし、該薬品の重篤な副作用がしばしば問題となる。更に、膀胱尿管逆流疾患、特に、小児で発生する尿失禁の形態は、抗生物質の長期予防的投与により治療することができる。しかし、この場合も、該治療は、不運なことに殆どの場合予測不可能な副作用を伴い、それ故計り知れないリスクを負う。
【0021】
予測不可能な副作用のために、特に小児において望ましくない傾向のある、薬品による治療に加えて、尿失禁、及び特に膀胱尿管逆流疾患の治療には、例えば、人口括約筋の移植(非特許文献11)、コラーゲンの注入(非特許文献12)、及びポリテトラフルオロエチレン(非特許文献13)などの外科的方法もまた用いられている。しかし、胃食道逆流疾患(「GORD」)の治療のように、注入可能なコラーゲンの使用は、ここでも、物質が移動するために頻繁に治療を繰り返さなければならないという点で不都合であり(非特許文献14)、アレルギーの発生を導く場合もある(非特許文献15)。
【0022】
特に小児で発生する尿失禁の形態である、膀胱尿管逆流疾患の治療では、外科的手術の既知の全てのリスクを伴う、逆流の外科的矯正が高頻度で行われている。上記のように、小児における膀胱尿管逆流の症状は、時間とともに改善或いは寛解することがあるが、それは場合によっては重篤な尿路及び腎臓感染、更には腎不全を引き起こす。それ故、かかる場合において、この逆流疾患を治療するための、信頼のおける、有効な、低侵襲の、長期的方法に対する要求が存する。内視鏡治療法は、従来の外科的方法に対して以下のような種々の利点を有する:外来治療である、瘢痕を生じさせない、手術後の閉塞症のリスクが低い、及びコストの観点で必要な経費がほんの僅かである。これまで、筋肉下注入用に種々の物質が既に提案されている(テフロン(登録商標)、ポリジメチルシロキサン(登録商標)、Macroplastique(登録商標)、コラーゲン(ウシ)、Zyplast(登録商標)、自己軟骨細胞、脂肪組織、及び血液)。加えて、製剤Deflux(登録商標)(デキストラノマー/ヒアルロン酸コポリマー)はまた、その間に、FDAにより認可された(非特許文献16)。しかし、尿失禁、特に膀胱尿管逆流疾患の治療にこれまで用いられていた物質は、炎症反応を引き起こすか、場合によっては物質が移動するか、或いは複数回注入することが必要であるという問題点を有することが、提案されている全ての適用例で見出されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0023】
【特許文献1】国際公開第2005/105167号明細書
【非特許文献】
【0024】
【非特許文献1】Millikan,1989,Long term safety and Efficacy with Fibrel in the treatment of cutaneous scars,J Dermatol Surg Oncol,15:837−842
【非特許文献2】Narins et al.,2003,A randomized,double−blind,multicenter comparison of the efficacy and tolerability of restylane versus zyplast for the correction of nasolabial folds.Dermatol.Surg.,29:588−95
【非特許文献3】Hanke et al.,1991,Abscess formation and local necrosis after treatment with Zyderm or Zyplast Collagen Implant.Journal of American Academy of Dermatology,25(No.2,Part1):319−26
【非特許文献4】Moscona et al.,1993,An unusual late reaction to Zyderm I injections:A challenge for treatment. Plastic and reconstructive surgery,92:331−4
【非特許文献5】Edgerton et al.,1976,Indications for and pitfalls of soft tissue augmentation with liquid silicone,Plast.Reconstr.Surg.58:157−65
【非特許文献6】Nebel et al.,1976,Symptomatic gastroesophageal reflux:incidence and precipitating factors,Am.J.Dig.Dis.,21:953−6
【非特許文献7】Reynolds,1996,Influence of pathophysiology,severity, and cost on the medical management of gastroesophageal reflux disease.Am.J.Health−Syst.Pharm 53:5−12
【非特許文献8】Bittinger and Messmann,2003,Neue endoskopische Therapieverfahren bei gastroosophagealer Refluxkrankheit,Z.Gastroenerol 41:921−8)
【非特許文献9】Deviere et al.,2002,Endoscopic implantation of a biopolymer in the lower esophageal sphincter for gastro−esophageal reflux:a pilot study.Gastrointes Endsc 2002,55:335−41
【非特許文献10】Wein,1995,Pharmacology of Incontinence,Urol.Clin.North Am.,22:557−77
【非特許文献11】Lima et al.,1996,Combined use of enterocystopasty and a new type of artificial sphincter in the treatment of urinary incontinence,J.Urology,156:622−4
【非特許文献12】Berman et al.,1997,Comparative cost analysis of collagen injection and facia lata sling cystourethropexy for the treatment of type III incontinence in women,J.Urology,157:122−4
【非特許文献13】Perez et al.,1996,Submucosal bladder neck injection of bovine dermal collagen for stress urinary incontinence in the pediatric population,Urology,156:633−6
【非特許文献14】Khullar et al.,1996,GAX Collagen in the treatment of urinary incontinence in elderly women:A two year follow up. British J. Obtetrics & Gynecology,104:96−9
【非特許文献15】McClelland and Delustro,1996,Evaluation of antibody class in response to bovine collagen treatments in patients with urinary incontinence,J. Urology,155:2068−73
【非特許文献16】Oswald et al.,2002,Prospective comparison and 1−year follow−up of a single endoscopic subureteral polymethylsiloxane versus dextranomer/hyaluronic acid copolymer injection for treatment of vesicoureteral reflux in children,Urology 2002;60:894−7)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0025】
したがって、要約すると、上述の問題点及び特定の要件のいずれかを克服することができ、特にしわ及び体積減少のいずれかの修正或いは治療に好適であり、例えば胃食道逆流疾患、尿失禁、及び膀胱尿管逆流疾患などの、選択された疾患の治療に好適である、改善された内因性充填材及び外因性充填材のいずれかに対する要求が依然として存する。本明細書に概説した問題の解決策は、具体的には特に以下の要件を満たすべきである:
1.充填材は、非常に細いカニューレ(>27ゲージ)を介して容易に注入可能であるべきである、
2.充填材は、移植部位において所望の体積を形成し、それを長期間維持すべきである、
3.移植片は、その幾何学的形状に形成された体積を獲得し、それを保持すべきである、
4.充填材は、注入部位に留まり、移動すべきではない、
5.充填材は、投与時及びインビボにおけるその耐用寿命中、生体適合性でなければならない、
6.充填材は、動物性成分、合成成分、及び非分解性成分を好ましくは含有すべきではない。
【課題を解決するための手段】
【0026】
上記問題は、本発明及び添付の特許請求の範囲により解決される。具体的には、本発明は、医学分野、特に手術、及び(侵襲性)美容分野における、体積を増加させる目的のための充填材としての、非架橋、高純度、及び高分子量アルギン酸塩溶液(ゾル)の調製における、アルギン酸塩の使用であって、アルギン酸塩が、非架橋、高純度、及び高分子量アルギン酸溶液(ゾル)中に具体的には0.5〜2.5%(w/v)アルギン酸塩固形分の濃度で存在し、非架橋、高純度、及び高分子量アルギン酸塩溶液が、インビボで注入され、外因性架橋剤を添加することなしに、自発的なCa2+架橋を導く使用に関する。したがって、上述のアルギン酸塩溶液は、外因性架橋剤を添加することなしに、インビボで注入した後架橋されるのに好適である。
【0027】
以下の図は、単に例として本発明を説明することを意図し、本発明を何ら限定するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】図1は、試験物質1(非架橋アルギン酸塩溶液)の投与の60分後の外植を示す。図1Aは、皮膚の除去後でさえも、皮下注入されたアルギン酸塩溶液が、膨潤物として巨視的に視認可能であることを示す。図1Bは、適用された試験物質が、容易に触知可能であり、寸法安定性があることを示す。図1Cは、投与の僅か60分後に、一旦液体アルギン酸塩溶液が内因性カルシウムにより架橋されると、ゲル状クッションとして外植可能になることを示す。
【図2】図2は、ラットに皮下注入した6ヶ月後の、本発明に従って調製された非架橋、高純度アルギン酸塩溶液(ゾル)の注入部位のH&E染色を示す。図2Aは、アルギン酸塩沈着の概観を示す。図2Bは、コラーゲン線維の埋め込まれている、脂肪組織内のアルギン酸塩沈着の詳細を示す。
【図3】図3は、ウサギへの注入の4週間後の、試験移植片1(AL−018;A、B)及び試験移植片2(AL−019;C、D)の注入部位のコラーゲン染色(van Gieson染色)を示す。図3Aは、皮内注入した試験移植片1内のコラーゲン線維を示し、コラーゲン線維は、元来の真皮性コラーゲン線維束と同様に、均一にルビー様赤色をしている。図3Bは、コラーゲン線維が散在している、皮下注入した試験移植片1の詳細な顕微鏡写真を示す。図3Cは、多数のコラーゲン線維が散在している、皮下注入された試験移植片2を示す。図3Dは、種々の長さのコラーゲン線維が散在している、皮下注入された試験移植片2の詳細な顕微鏡写真を示す。
【図4】図4は、30Gのカニューレによる、1mLのアルギン酸塩溶液の放出圧を示す。容易に分かるように、圧力は範囲全体に亘って均一である(物理的環境に起因して、最初と最後を除き)、即ち、本発明に従って調製された非架橋、高純度アルギン酸塩溶液(ゾル)は、30Gのカニューレから、比較的低圧で、即ち比較的容易に放出され得る。
【図5】図5は、試験期間に亘る、種々の試験移植片(試験物質の注入により、或いはリファレンス物質の移植により生成される)の触知した最大直径及び触知した最小直径の平均値を示す。移植片は、麻酔された動物(ラット)で触知され、移植片の大きさは、ノギスを用いて測定した。試験物質1(非架橋、高分子量アルギン酸塩溶液)、試験物質2(低分子量、非架橋アルギン酸塩溶液)、リファレンス物質1(CellBeads(登録商標)500)、リファレンス物質2(CellBeads(登録商標)500、オートクレーブ済)。データは、以下の移植片部位の測定に由来する:1日目 n=16、2〜7日目 それぞれn=12、14〜28日目 それぞれn=8、残りの日 それぞれn=4。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本発明の範囲において、本発明に係る使用によりインサイチュで形成される充填材は、好ましくは(比較的)固体の、長期間安定な高分子量アルギン酸塩移植片であり、これはまた、一体型アルギン酸塩移植片とも称される。また、好ましくは、本発明に係る使用により調製される一体型アルギン酸塩移植片は、ゲル体である。本発明の範囲内で、長期間安定な一体型アルギン酸塩移植片はまた、好ましくは、(少なくとも)6ヶ月後でさえも、かなりの程度(少なくとも初期体積の50%超)、注入部位に存在する。
【0030】
本発明の範囲において、アルギン酸塩は、通常海洋性褐藻類から単離され、例えばヒアルロン酸の場合とは異なり、人体がそれに対する分解酵素を有しない、自然界に存在する、アニオン性の非分岐多糖類である。それは、ベータ−D−マンヌロン酸及びアルファ−L−グルロン酸のヘテロポリマーブロックにより分離されている、両酸のホモポリマーブロックから構成される。今日既に大量に得られている市販のアルギン酸塩は、工業的に(例えば、紙の生産において)、及び食品添加物として(Eナンバー:400〜405)用いられている(例えば、Askar,1982,Alginate:Herstellung, Eigenschaften und Verwendung in der Lebensmittel industrie.Alimenta 21:165−8)。しかし、それらはまた、次第に薬学、医学、及びバイオテクノロジー分野でも用いられているようになっている。それらは、通常包帯の成分として用いられている(Gilchrist and Martin,1983,Wound treatment with Sorbsan−an alginate fibre dressing.Biomaterials 4:317−20;Agren,1996,Four alginate dressings in the treatment of partial thickness wounds:A comparative experimental study.Br.J.Plast.Surg.49:129−34)。アルギン酸塩は、多くの組織工学及び薬物送達プロジェクトにおいても用いられている(例えば、Uludag et al.,2000,Technology of mammalian cell encapsulation.Advanced Drug Delivery Reviews 42:29−64)。バイオテクノロジー及び医学分野で用いる際に極めて重要なアルギン酸塩の性質は、変力性(ionotropic)ゲルを形成できる能力である。アルギン酸のアルカリ塩は、水溶性であるが、大部分の二価カチオン及び多価カチオンのいずれかを含むアルギン酸塩は、水溶液中で不溶性ゲル(いわゆるヒドロゲル)を形成する。アルギン酸塩の物理的大きさ(physical breadth)の大きな変動は次の多数の要因、即ち、粘度(或いはモル質量分布)、濃度、モノマー比、及び架橋に典型的に用いられるカチオンの親和性によるものである。
【0031】
本発明の範囲内で用いられるアルギン酸塩の生体適合性は、その純度、特に外因性タンパク質及びその断片が存在しないことに実質的に依存する。したがって、全てのアルギン酸塩が、本明細書に記載される使用に好適であるという訳ではない。その理由は、それらがヒトへの移植後、免疫防御反応、例えば線維症及び炎症反応のいずれかを引き起こす恐れのある不純物を含有する場合があるためである(Zimmermann et al.,1992,Production of mitogen−contamination free alginates with variable ratios of mannuronic acid to guluronic acid by free flow electrophoresis,Electrophoresis 13:269−74)。したがって、不純物を含有しないアルギン酸塩を使用することが好ましく、特に好ましくは高純度及び高分子量アルギン酸塩、更により好ましくは高純度、高分子量アルギン酸カリウム或いはアルギン酸ナトリウムを使用することが好ましい。したがって、本発明の範囲において、液状の非架橋、高純度、及び高分子量アルギン酸塩溶液(ゾル)が調製され、これは患者の自然免疫系或いは適応免疫系に如何なる種類の免疫反応も生じさせないことが好ましい。該非架橋、高純度、及び高分子量アルギン酸塩溶液(ゾル)(液体形態で存在する)は、独国特許第198 36 960号明細書に係る、同質の藻類原料及び標準的な方法を使用することにより単離できる(Jork et al.,2000,Biocompatible alginate from freshly collected Laminaria pallida for implantation,Appl.Microbiol.Biotechnol.53:224−229)。生体適合性の要件は、これにより満たされる。
【0032】
高純度アルギン酸塩は、典型的には、化学的に高純度であるアルギン酸塩であると理解される。化学的に高純度であるアルギン酸塩において、典型的には、重金属含量或いは内毒素含量が上限値を超えるべきではない。好ましくは、重金属含量の上限値は、50ppm未満であり、最も好ましくは30ppm未満である。化学的に高純度であるアルギン酸塩の内毒素含量(これは、特にリポ多糖類の発生を意味する)は、好ましくは200IU/g乾燥材料未満、最も好ましくは100IU/g乾燥材料未満、更により好ましくは50IU/g乾燥材料未満であるべきである。特定の実施形態では、化学的に高純度であるアルギン酸塩はまた、アミノ酸含量の上限値を示しており、これに関連してアミノ酸含量は、10ng/mg乾燥材料未満であることが特に好ましく、5ng/mg乾燥材料未満であることがより好ましく、3ng/mg乾燥材料未満であることが更により好ましい。更に好ましい実施形態では、化学的に高純度であるアルギン酸塩は、更に、制限された硫黄原子含量を有する。硫黄原子含量は、かかる場合、典型的には200ppm未満であり、最も好ましくは100ppm未満である。
【0033】
本発明に従って調製された、非架橋、高純度及び高分子量アルギン酸塩溶液(ゾル)のアルギン酸塩は、患者への投与後インサイチュで(即ち、インビボで)、自発的Ca2+誘導性架橋により架橋されるため、インビボで(即ち、投与後)架橋された一体型アルギン酸塩移植片本体が、注入部位で形成される。これまで、例えば国際公開第2005/105167号(Cellmed AG,Germany)、国際公開第2006/044342号、或いは米国特許出願公開第2006/0159823号明細書などの文献に記載されていたこととは対照的に、本発明によれば、非常に驚くべきことに、高分子量アルギン酸塩を用いると、Ca2+及びBa2+などの外因性二価イオンを添加することなしに、体内で生じる自発的架橋により、長期間安定な移植片を得ることができることが見出された。他方、国際公開第2005/105167号は、インビボにおける長期安定性は、実質的にカチオン性架橋に依存しており、Ca2+及びBa2+の二価イオンの添加によりエキソビボで架橋されたゲルは、一価イオンNa及びKとの緩徐なカチオン交換によって、ゆっくりと脱架橋され(典型的には、天然組織及び細胞で生じる)、それにより分解されることを教示している。対照的に、現在、本発明を用いて、本発明に従って形成される一体型アルギン酸塩移植片本体のインビボにおける安定性は、分子量に依存し架橋には依存しないことを示すこともできる。更に、例えば、国際公開第2005/105167号には、非架橋アルギン酸塩ゾルが注入されたとき、非架橋アルギン酸塩ゾルは吸収され、数日或いは数週間で消失することが教示されている。これは、実際に、低分子量アルギン酸塩ゾルには当てはまるが、本発明に係る高分子量アルギン酸塩を選択した場合にはこの限りではない。したがって、可能な限り長い間安定である移植片を得るために、可能な限り高分子量であるアルギン酸塩を、本発明に従って使用することが好ましい。
【0034】
したがって、本発明の範囲内では、非架橋、高純度及び高分子量アルギン酸塩溶液(ゾル)(液体形態で存在する)は、典型的には、200,000ダルトン超、好ましくは250,000ダルトン超、より好ましくは300,000ダルトン超、更により好ましくは400,000超の平均モル質量を有する、高純度及び高分子量アルギン酸塩を含有し、例えば、好ましくは、高純度及び高分子量アルギン酸塩は、200,000〜500,000ダルトンの平均モル質量を有し、より好ましくは高純度及び高分子量アルギン酸塩は、200,000(或いは、300,000、或いは400,000)〜1,000,000ダルトンの平均モル質量を有し、最も好ましくは高純度及び高分子量アルギン酸塩は、200,000(或いは、300,000、或いは400,000)〜5,000,000ダルトンの平均モル質量を有する。
【0035】
アルギン酸塩の平均分子量は、例えば、Ueno et al.,1988,Chem.Pharm.Bull.36,4971−4975;Wyatt,1993,Anal.Chim.Acta;1−40;Wyatt Technologies,1999,“Light scattering University DAWN Course Material”及び“DAWN EOS Manual”Wyatt Technology Corporation,Santa Barbara,California,USAに記載されている方法などの、標準的な方法により測定することができる。
【0036】
0.2%(w/v)アルギン酸塩溶液(ゾル)(本発明に従って調製、液体形態で存在、非架橋、高純度及び高分子量)の0.9%塩化ナトリウム溶液の粘度は、通常、3〜100mPa・sであってもよく、好ましくは20〜30mPa・sである。かかる粘度を選択することにより、以後に記載するように、特に注入用に非常に細いカニューレを選択することが可能になる。
【0037】
本発明に従って調製される、非架橋、高純度及び高分子量アルギン酸塩溶液(ゾル)を調製するための、アルギン酸塩の濃度は、典型的には、液体形態の非架橋、高純度及び高分子量アルギン酸塩溶液(ゾル)の総重量に基づいて、0.5%〜2.5%(w/v)アルギン酸塩固形分、より好ましくは0.6%〜1.0%(w/v)アルギン酸塩固形分である。本発明に従って調製される、非架橋、高純度及び高分子量アルギン酸塩溶液(ゾル)中のアルギン酸塩含量は、当業者に既知の方法により測定することができる。
【0038】
本発明に従って調製される非架橋、高純度及び高分子量アルギン酸塩溶液(ゾル)は、好ましくは、アルギン酸塩溶液(ゾル)の早発性(即ち、具体的には自発性)重合を防ぐために、更に、二価イオン、例えば、Mg2+、Ca2+、Ba2+などのアルカリ土類金属の群の二価イオンをほんの少量或いは微量しか含有せず、特に好ましくは該二価イオンを全く含有しない。例えば、本発明に従って調製される、非架橋、高純度及び高分子量アルギン酸塩溶液(ゾル)は、アルギン酸塩溶液(ゾル)の早発性重合が生じることのない、最高約0.5mg/LのCa2+イオン(約0.00005%のCa2+に相当)、及び0.05mg/LのMg2+イオン(約0.000005%のMg2+に相当)を含有してもよい。換言すれば、本発明に従って調製される、非架橋、高純度及び高分子量アルギン酸塩溶液(ゾル)は、生理学的にインビボで生じるCa2+イオンにより、或いは任意的に生理学的にインビボで生じる他の二価イオンにより、単独でもインサイチュで架橋されるため、外因性架橋剤の添加を必要としない。また、他の二価架橋剤は、本発明に従って調製される、非架橋、高純度及び高分子量アルギン酸塩溶液(ゾル)中で、好ましくは、アルギン酸塩溶液(ゾル)の架橋が早発的に起こらない程度の低濃度でしか生じない。しかし、本発明に従って調製される、非架橋、高純度及び高分子量アルギン酸塩溶液(ゾル)は、かかる他の二価架橋剤を含有しないことが特に好ましい。
【0039】
更なる実施形態によれば、本発明に従って調製される、非架橋、高純度及び高分子量アルギン酸塩溶液(ゾル)はまた、例えば(生理学的)注入溶液、活性成分、及び更なる充填材の少なくともいずれかなどの他の構成成分も含む。本発明に従って調製される、非架橋、高純度及び高分子量アルギン酸塩溶液(ゾル)はまた、更なる構成成分として、インサイチュで形成される一体型アルギン酸塩移植片本体の移動を更に防ぎ、例えば注入/移植部位に、一体型アルギン酸塩移植片本体をより長く留めておくことを可能にする物質を含有してもよい。これらの構成成分の、本発明に従って調製される、非架橋、高純度及び高分子量アルギン酸塩溶液(ゾル)への添加は、必要に応じて、主治医が実施してもよく、本発明に従って調製される、非架橋、高純度及び高分子量アルギン酸塩溶液(ゾル)の調製中に既に実施されていてもよい。
【0040】
本発明に従って調製される、非架橋、高純度及び高分子量アルギン酸塩溶液(ゾル)のアルギン酸塩は、(生理学的)注入溶液に溶解させてもよい。かかる(生理学的)注入溶液としては、典型的には、先行技術で用いることができる任意の注入溶液、例えば、(生理学的に)注入可能な塩化ナトリウム溶液、(生理学的に注入可能な)塩化カリウム溶液、塩化ナトリウム、塩化カリウム、及び任意的に酢酸ナトリウムを含有する溶液、或いは任意的にリンゲル液、乳酸リンゲル液などが挙げられ、かかる溶液はまた、好ましくは、アルギン酸塩溶液(ゾル)の早発性重合を防ぐために、二価イオン、例えば、Mg2+、Ca2+、Ba2+などのアルカリ土類金属の群の二価イオン(或いは他の架橋剤)をほんの少量或いは微量しか含有せず、特に好ましくは該二価イオン(或いは他の架橋剤)を全く含有しない。
【0041】
本発明の更なる実施形態によれば、本発明に従って調製される、非架橋、高純度及び高分子量アルギン酸塩溶液(ゾル)は、追加的に、インサイチュで形成される一体型アルギン酸塩移植片本体の移動を防ぐ物質を含有する。しかし、充填材の周辺組織への拡散及び移動のいずれかは、それ自体インサイチュで形成される一体型アルギン酸塩移植片本体により、好都合なことに既に防がれている。一方では、この性質の理由は、一体型アルギン酸塩移植片本体が、周辺組織に比べて比較的大きく、移動し難い1片の移植片であることである。他方、移植片は、更に、組織内でそれ程容易に変位しない、軟弾性形であるが、硬質形は組織内でより容易に変位し得る。更にこの効果を高めるために、本発明に従って調製される、非架橋、高純度及び高分子量アルギン酸塩溶液(ゾル)に、注入後、インサイチュで形成される一体型アルギン酸塩移植片本体と周辺組織を更に組織学的に結合させる(インサイチュで、例えば、アルギン酸塩に共有結合する)効果を有し、それにより移動を防ぐ物質を添加することも可能である。かかる物質としては、例えば、接着タンパク質(例えば、RGDトリペプチド)が挙げられる。
【0042】
更なる実施形態に従って、本発明に従って調製される非架橋、高純度及び高分子量アルギン酸塩溶液(ゾル)は、如何なる制限をも受けることなく、薬学的活性化合物、栄養素、マーカー物質、及び生存細胞、例えば脂肪吸引により得られた、例えば内因性自己細胞(治療される患者の)から選択される、活性成分を追加的に含有する。これに関連して、薬学的活性化合物は、ビタミン、接着タンパク質、抗炎症物質、抗生物質、鎮痛剤、成長因子、ホルモンの物質類から選択することができ、特に好ましくは、例えば、ヒト成長ホルモン、ウシ成長ホルモン、ブタ成長ホルモン、成長ホルモン放出ホルモン/ペプチド、顆粒球コロニー刺激因子、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子、マクロファージコロニー刺激因子、エリスロポエチン、骨形成タンパク質、インターフェロン及びその誘導体のいずれか、インスリン及びその誘導体のいずれか、アトリオペプチン−III、モノクローナル抗体、腫瘍壊死因子、マクロファージ活性化因子、インターロイキン、腫瘍変性因子、インスリン様成長因子、上皮成長因子、組織プラスミノーゲン活性化因子、MV因子、IMV因子、及びウロキナーゼを含むタンパク質系活性成分及びペプチド系活性成分の少なくともいずれかから選択される。
【0043】
本発明に従って調製される非架橋、高純度及び高分子量アルギン酸塩溶液(ゾル)は、活性成分を安定化するための水溶性補助物質、例えば、アルブミン及びゼラチンのいずれかを含むタンパク質、例えばグリシン、アラニン、プロリン、グルタミン酸、アルギニン、及びこれらの塩のいずれかを含むアミノ酸、例えば、グルコース、ラクトース、キシロース、ガラクトース、フルクトース、マルトース、スクロース、デキストラン、マンニトール、ソルビトール、トレハロース、及び硫酸コンドロイチンを含む炭水化物、例えばリン酸塩を含む無機塩、例えばTWEEN(登録商標)(ICI)、ポリエチレングリコールを含む湿潤剤、並びにこれらの混合物のいずれかを更に追加的に含有していてもよい。
【0044】
上述の活性成分は、典型的には、本明細書に記載の非架橋、高純度及び高分子量アルギン酸塩溶液(ゾル)の調製中、先行技術で知られている方法で添加される。活性成分は、好ましくは、本発明に従って調製される非架橋、高純度及び高分子量アルギン酸塩溶液(ゾル)のハンドリングが悪くならないよう(例えば溶液の粘度)選択される、即ち、具体的には、標準的な、例えば本明細書に記載する27、30、及び33ゲージのいずれかのカニューレを用いることが可能である。
【0045】
別の実施形態によれば、本発明に従って調製される非架橋、高純度及び高分子量アルギン酸塩溶液(ゾル)は、アルギン酸塩に加えて、充填材の性質を有する少なくとも1種の更なる物質を含有する。充填材の性質を有する少なくとも1種の更なる物質が、非架橋、高純度及び高分子量アルギン酸塩溶液(ゾル)中で生じるとき、充填材の性質を有する少なくとも1種の更なる物質は、好ましくは総充填材重量の5〜50%(w/w)の量、より好ましくは総充填材重量の5〜40%(w/w)の量、更により好ましくは総充填材重量の5〜30%(w/w)の量、最も好ましくは総充填材重量の5〜20%(w/w)の量、アルギン酸塩溶液(ゾル)に懸濁される。
【0046】
本発明に従って調製される非架橋、高純度及び高分子量アルギン酸塩溶液(ゾル)中の、充填材の性質を有する少なくとも1種の更なる物質は、好ましくは、如何なる制限をも受けることなく、可溶形態のヒアルロン酸、コラーゲン及びポリアクリルアミドからなる群より選択される。充填材の性質を有する少なくとも1種の更なる物質がヒアルロン酸である場合、ヒアルロン酸は、好ましくは、本発明に従って調製される非架橋、高純度及び高分子量アルギン酸塩溶液(ゾル)中に、可溶性、非架橋、高純度ヒアルロン酸の形で、総充填材重量に基づいて5〜50%(w/w)の濃度で存在する。
【0047】
本発明の状況では、ヒアルロン酸は、典型的には、10,000Da〜10,000,000Daの範囲の分子量を有する、好ましくは25,000Da〜5,000,000Daの範囲の分子量を有する、最も好ましくは50,000Da〜3,000,000Daの範囲の分子量を有する、ヒアルロン酸、及びその塩のいずれか、例えば、ヒアルロン酸ナトリウム、ヒアルロン酸カリウム、及びヒアルロン酸アンモニウムのいずれかから選択することができる。
【0048】
特定の実施形態によれば、ヒアルロン酸及びその塩のいずれかは、300,000Da〜3,000,000Daの範囲の分子量、好ましくは400,000Da〜2,500,000Daの範囲の分子量、より好ましくは500,000Da〜2,000,000Daの範囲の分子量、最も好ましくは600,000Da〜1,800,000Daの範囲の分子量を有していてもよい。
【0049】
別の特定の実施形態によれば、ヒアルロン酸及びその塩のいずれかは、10,000Da〜800,000Daの範囲の分子量、好ましくは20,000Da〜600,000Daの範囲の分子量、より好ましくは30,000Da〜500,000Daの範囲の分子量、更により好ましくは40,000Da〜400,000Daの範囲の分子量、最も好ましくは50,000Da〜300,000Daの範囲の分子量を有していてもよい。
【0050】
ヒアルロン酸及びその塩のいずれかの量は、当業者に既知の方法、例えば、カルバゾールプロセス(Bitter and Muir,1962,Anal.Biochem.4:330−334)を用いて測定することができる。ヒアルロン酸及びその塩のいずれかの平均分子量は、同様に、標準的な方法、例えばUeno et al.,1988,Chem.Pharm.Bull.36,4971−4975;Wyatt,1993,Anal.Chim.Acta;1−40;並びにWyatt Technologies,1999,“Light scattering University DAWN Course Material”及び“DAWN EOS Manual”Wyatt Technology Corporation,Santa Barbara,California,USAに記載の方法により測定することができる。
【0051】
同様に好ましくは、本発明に従って調製される非架橋、高純度及び高分子量アルギン酸塩溶液(ゾル)中の、充填材の性質を有する少なくとも1種の更なる物質は、不溶性物質(充填材の性質を有する)であってもよい。
【0052】
不溶性物質(充填材の性質を有する)は、好ましくは、10μm〜150μmの粒径を有する。特に好ましくは、これらの不溶性物質の粒形は、10〜80μmの直径を有する、実質的に円形である。この場合、「実質的に円形」とは、具体的には、広義で球形に類似する形状を意味する。これに関連して、本発明に従って調製される非架橋、高純度及び高分子量アルギン酸塩溶液(ゾル)中の不溶性物質は、好ましくは、カルシウムヒドロキシアパタイト、例えばPMMA微粒子の形態のポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリ−L−乳酸微粒子、HEMA粒子、カルシウムヒドロキシアパタイト粒子などからなる群より選択される。
【0053】
また好ましくは、上記不溶性物質(充填材の性質を有する)は、繊維質である。かかるステープル繊維は、好ましくは、直径1〜80μm、長さ10〜200μmである。更により好ましくは、ステープル繊維は、直径5〜40μm、長さ20〜100μmである。繊維は、典型的には、体内で分解され得る組織適合性ポリマーから成り、好ましくは、如何なる制限をも受けることなく、コラーゲン線維、ポリ乳酸及びそのコポリマー(グリシンとの)、共有結合ヒアルロン酸、アルギニン酸、アクリル酸エステルポリマー及びメタクリル酸エステルポリマー、並びにこれらのコポリマーからなる群より選択される。
【0054】
これに加えて、或いはこれに代えて、本発明に従って調製される非架橋、高純度及び高分子量アルギン酸塩溶液(ゾル)中の、充填材の性質を有する少なくとも1種の更なる物質は、例えば、内因性自己細胞(治療される患者の)などの細胞、血漿タンパク質、及び脂肪吸引物質などを含む、自己構成成分からなる群より選択することができる。
【0055】
本発明に従って調製される非架橋、高純度及び高分子量アルギン酸塩溶液(ゾル)は、1以上の上述の構成成分を含有していてもよいが、但し該構成成分は、相互に生体適合性であり、化学的に安定であり、互いに、或いは存在するアルギン酸塩、及び形成される一体型アルギン酸塩移植片のいずれかについて、何らかの(破壊的)相互作用を示さない。具体的には、本発明に従って調製される非架橋、高純度及び高分子量アルギン酸塩溶液(ゾル)は、上述の構成成分の1以上に起因して、患者への投与前に全体的に或いは部分的に架橋されないことが好ましい。また、更なる構成成分は、典型的には、本発明に従って調製される非架橋、高純度及び高分子量アルギン酸塩溶液(ゾル)の粘度を上記好ましい範囲外にする作用を有していてはならない。
【0056】
本発明に従って調製される非架橋、高純度及び高分子量アルギン酸塩溶液(ゾル)は、通常、無菌条件下で調製され、容器に充填される。これに加えて、或いはこれに代えて、本発明に従って調製される非架橋、高純度及び高分子量アルギン酸塩溶液(ゾル)は、体積が著しく減少しない限り、先行技術に係る好適な方法を用いて、最後に滅菌してもよい。本発明に従って調製される非架橋、高純度及び高分子量アルギン酸塩溶液(ゾル)はまた、凍結状態で保存してもよい。本発明に従って調製される非架橋、高純度及び高分子量アルギン酸塩溶液(ゾル)の調製が、速やかに、単純に、且つ無菌で行われるという点は、具体的にはビーズ/粒子の調製に関する先行技術に示されている物質に対する、本発明の基本的な利点である。
【0057】
本発明の特定の実施形態によれば、本発明は、特に、例えば顔面筋の領域などの顔領域、デコルテ、及び手のしわの治療のため、例えば乳癌及び豊胸手術後などに、乳房の体積を増加させる(例えば脂肪萎縮症の場合)ための、体積減少の治療のため、特に美容目的、或いは、例えば胃食道逆流疾患、尿失禁、及び膀胱尿管逆流疾患などの選択された疾患を、再建手術、及び腫瘍治療のいずれかにおける使用では、例えば対応する括約筋系に注入することにより括約筋系を支持することにより治療するために、本明細書に記載の非架橋、高純度及び高分子量アルギン酸塩溶液(ゾル)の調製においてアルギン酸塩を使用することを含む。
【0058】
本発明はまた、特に、医学分野、特に(皮膚科学)手術、及び美容分野(例えば、体積増加の目的のため)における充填材としての、非架橋、高純度及び高分子量アルギン酸塩溶液(ゾル)の調製におけるアルギン酸塩の使用であって、アルギン酸塩が、非架橋、高純度及び高分子量アルギン酸塩溶液(ゾル)中に約0.5%〜2.5%(w/v)アルギン酸塩固形分の濃度で存在し、非架橋、高純度及び高分子量アルギン酸塩溶液が、インビボで注入されて、外因性架橋剤を添加することなしに、インサイチュにおける自発的Ca2+架橋を導く使用について記載する。具体的には、本発明は、特に、例えば顔面筋の領域などの顔領域、デコルテ、及び手のしわの治療のため、例えば乳癌及び豊胸手術後などに、乳房の体積を増加させる(例えば脂肪萎縮症の場合)ための、体積減少の治療のため、特に美容目的、或いは、例えば胃食道逆流疾患、尿失禁、及び膀胱尿管逆流疾患などの選択された疾患を、再建手術、及び腫瘍治療のいずれかにおける使用では、例えば対応する括約筋系に注入することにより括約筋系を支持することにより治療するために、非架橋、高純度及び高分子量アルギン酸塩溶液(ゾル)の調製においてアルギン酸塩を使用することについて記載する。
【0059】
本発明に従って調製される非架橋、高純度及び高分子量アルギン酸塩溶液(ゾル)は、典型的には、注入により液剤として患者に投与される。本発明に従って調製される非架橋、高純度及び高分子量アルギン酸塩溶液(ゾル)の投与は、好ましくは、患者の好適な注入部位に、経皮注入、皮内注入、真皮下注入、皮下注入、及び筋肉内注入のいずれかで注入することより行われる。注入部位及び投与される注入体積の選択は、治療される症状、或いは治療される疾患、特に好ましくは本明細書に記載の治療される症状及び疾患のいずれかに依存する。
【0060】
本発明に従って調製される非架橋、高純度及び高分子量アルギン酸塩溶液(ゾル)の投与は、通常、典型的には20〜33ゲージ、好ましくは26〜33ゲージの直径を有するカニューレを用いる注入により行われる。それ故、本発明に従って調製される非架橋、高純度及び高分子量アルギン酸塩溶液(ゾル)は、好ましくは、上述の種類のカニューレを備えるシリンジを用いて投与されるべきである。例えば、27〜33ゲージの直径を有する市販のカニューレが特に好ましい。代わりに、本発明に従って調製される非架橋、高純度及び高分子量アルギン酸塩溶液(ゾル)は、先行技術で知られている好適な他の技術、例えば内視鏡技術及び腹腔鏡技術のいずれかを用いることにより、投与してもよい。注入は、単回注入、例えば皮膚及び括約筋系のいずれかの同領域或いは異なる領域(典型的には隣接する領域)への反復注入及び複数回注入のいずれかにより行うことができる。
【0061】
投与される、本発明に従って調製される非架橋、高純度及び高分子量アルギン酸塩溶液(ゾル)の注入体積は、通常、0.1〜100mLの範囲、好ましくは0.1〜50mLの範囲、より好ましくは0.1〜40mLの範囲、更により好ましくは0.1〜30、0.1〜20、或いは0.1〜10mL、最も好ましくは0.1〜1、0.1〜2、或いは0.1〜5mLの範囲である。投与される注入体積の量は、同様に、例えば大量の体積減少を充填する場合、100mL超であってもよい。投与される注入体積の選択要件は、典型的には、治療される組織が、本発明に従って調製される非架橋、高純度及び高分子量アルギン酸塩溶液(ゾル)の架橋がインサイチュで、即ち、組織内で、限定された期間内に、例えば数時間以内(例えば、0〜24時間、好ましくは0〜10時間、より好ましくは0〜1、0〜2、或いは0〜5時間)に生じ得るよう、血液とともに灌流すること、及びCa2+イオンとともに供給されることの少なくともいずれかである。好適な手段により、治療を行う医師は、患者のCa2+代謝が、治療前、治療と並行して、或いは治療後に、平衡状態にあることを保証できる。かかる方法は、好ましくは、先行技術に記載されている架橋剤とアルギン酸塩溶液(ゾル)との同時投与を含まないが、任意的に、例えば、適切な食事、カルシウムに富む製品の経口摂取などの他の方法を使用する。投与される注入体積の選択はまた、治療を行う医師の判断に依存する。したがって、安全かつ有効量の、本発明に従って調製される非架橋、高純度及び高分子量アルギン酸塩溶液(ゾル)が、典型的には投与される。本明細書で使用するとき、「安全かつ有効量」とは、治療する症状及び疾患のいずれかに有意な変化を生じさせるのには十分であるが、重篤な副作用を避けるのに十分な程少量である(合理的利益/リスク比の)、即ち、合理的な医学的判断の範囲内である、本発明に従って調製される非架橋、高純度及び高分子量アルギン酸塩溶液(ゾル)の量を意味する。したがって、安全かつ有効量の、本発明に従って調製される非架橋、高純度及び高分子量アルギン酸塩溶液(ゾル)は、典型的には、主治医の知識及び経験の範囲内で、治療する具体的な症状及び疾患のいずれか、治療する患者の年齢及び体調、症状の重篤度、治療期間、同時に行っている何らかの治療の性質その他各種要因に応じて変わる。本発明に従って調製される非架橋、高純度及び高分子量アルギン酸塩溶液(ゾル)は、ヒトの医学及び獣医学の両方の目的のために用いることができる。
【0062】
第1の代替案によれば、本発明に従って調製される非架橋、高純度及び高分子量アルギン酸塩溶液(ゾル)は、しわの治療のために用いられる。しわの治療は、慣習的に、例えば、加齢、環境的影響、体重減少、妊娠、疾患、特にHIV感染、外科的手術、及び挫瘡により引き起こされる皮膚の欠陥の治療を含む。具体的には、しわの治療は、顔面のしわ、特に顔面筋領域のしわ、額のしわ、眉間のしわ、心配じわ(worry wrinkle)、眼瞼下垂、目尻のしわ、法令線の治療、口唇に注入するための使用、並びに手及びデコルテ領域のしわの治療を含む。治療は、典型的には、罹患皮膚領域への皮内注入及び皮下注入により実施される。この目的のために、本発明に従って調製される非架橋、高純度及び高分子量アルギン酸塩溶液(ゾル)は、好ましくは、20ゲージ〜33ゲージ、より好ましくは26ゲージ〜33ゲージの直径のカニューレを備えるシリンジを通して注入される。或いは、本発明に従って調製される非架橋、高純度及び高分子量アルギン酸塩溶液(ゾル)は、先行技術で知られている他の好適な技術により投与してもよい。注入は、単回注入、皮膚の同領域及び異なる領域(例えば隣接する領域)への反復注入或いは複数回注入を用いることにより実施できる。しわの治療では、好ましくは、ほんの少量、より好ましくは0.1mL〜10mLの範囲、更により好ましくは0.1mL〜5mL、0.1mL〜2mL、或いは僅か0.1mL〜1mLの範囲を、所望の総体積が注入されるまで、各穿刺で注入する。それにより、皮膚の層状支持(肉付きのよさ)及び引き締め効果が得られ、これにより対応する領域におけるしわの(部分的な)消失と体積減少の(部分的な)解消の少なくともいずれかが生じる。注入はまた、0.1mL〜10mL或いはそれ以上の体積が、最終的に増大するように、1回、繰り返し、或いは多数回行ってもよい。体積増大は通常各回の投与毎にもたらされる。投与は、好ましくは、同時に必要な体積分を注入しながら、注入カニューレ/針をゆっくりと抜去することによって行われる。この注入方法は、より深いしわの場合特に好適である。本明細書に記載のようなしわへの注入に対する本発明に係る使用は、如何なる時点でも、従来の治療方法と組み合わせることができる。かかる治療法としては、例えば、従来の外科的治療法及び医学的治療法の少なくともいずれかが挙げられる。
【0063】
第2の代替案によれば、本発明に従って調製される非架橋、高純度及び高分子量アルギン酸塩溶液(ゾル)は、胃食道逆流疾患の治療に用いられる。典型的には、本発明の範囲内の治療は、本発明に従って調製される非架橋、高純度及び高分子量アルギン酸塩溶液(ゾル)を、下部食道括約筋及びその周辺組織のいずれかの壁領域に注入することにより実施される。それにより、括約筋の体積は、注入された本発明に従って調製される非架橋、高純度及び高分子量アルギン酸塩溶液(ゾル)の体積に比例して増加する。それにより、括約筋の内腔が減少し、よって筋肉がより強く収縮することにより、食道に胃酸が逆流するのを防ぐ。注入は、好ましくは、例えば、直接注入、或いは内視鏡技術及び腹腔鏡技術のいずれかの使用等の、先行技術に対応する標準的な技術により実施することが好ましい。胃食道逆流疾患の治療のための、本明細書に記載の本発明に係る使用はまた、従来の治療法と組み合わせることができる。該治療法としては、例えば、従来の外科的治療法及び医学的治療法の少なくともいずれかが挙げられる。
【0064】
第3の代替案によれば、本発明に従って調製される非架橋、高純度及び高分子量アルギン酸塩溶液(ゾル)を用いて、尿失禁及び膀胱尿管逆流疾患を治療することができる。本発明に従って調製される非架橋、高純度及び高分子量アルギン酸塩(ゾル)の使用はまた、尿失禁及び膀胱尿管逆流疾患の一過性、非慢性発生形態の場合にも好適である。これらの疾患の治療は、典型的には、本発明に従って調製される非架橋、高純度アルギン酸塩溶液(ゾル)を、尿道括約筋、膀胱括約筋、及び尿路筋系のいずれかに注入することにより実施される。それにより、括約筋の体積は、注入された本発明に従って調製される非架橋、高純度アルギン酸塩溶液(ゾル)の体積に比例して増加する。結果として、この場合も、括約筋の内腔が減少するため、筋肉がより強く収縮することが可能になり、その結果として尿失禁が減少する可能性がある。この場合も、注入は、例えば、直接注入、或いは内視鏡技術及び腹腔鏡技術のいずれかの使用等の、先行技術に対応する標準的な技術により実施することが好ましい。尿失禁及び膀胱尿管逆流疾患を治療するための、本明細書に記載の本発明に係る使用は、同様に、従来の治療法と組み合わせることができる。かかる治療法としては、例えば、従来の外科的治療法及び医学的治療法の少なくともいずれかが挙げられる。
【0065】
第4の代替案によれば、本発明に従って調製される非架橋、高純度及び高分子量アルギン酸塩溶液(ゾル)を、再建手術、特に美容目的の再建手術で用いることができる。かかる場合としては、例えば、組織内で体積欠失及び体積減少のいずれかが生じた場合、例えば、腫瘍組織が外科的に除去されるか、或いは組織が欠損して、組織内に腔、即ち空洞が残り、美容上の理由により、その充填及び隠匿の少なくともいずれかが必要である場合が挙げられる。また、事故、手術、及び例えばHIV等の疾患のいずれか後に、罹患身体部及び組織のいずれかの構造的(美容的)再建が必要な場合も挙げられる。
【0066】
第5の代替案によれば、本発明に従って調製される非架橋、高純度及び高分子量アルギン酸塩溶液(ゾル)は、顔面(HIV誘導性)リポジストロフィーの治療、特に(HIV誘導性)脂肪萎縮症の治療にも用いることができる。本発明に関連して、(HIV誘導性)脂肪萎縮症は、例えばHIV感染患者を、ヌクレオシド逆転写酵素阻害剤(NRTI)で治療した結果としての、脂肪組織の退縮を伴う脂肪組織の萎縮により特に特徴付けられる疾患である。病理学的には、この疾患は、特に四肢領域、即ち腕及び足の少なくともいずれかがHIVに感染した場合だけではなく、臀部及び頬領域が感染した場合にも現出し、この場合急速な、場合によっては恐ろしい外面の変化が生じるため、患者の精神障害、及び結果的には社会的疎外感を導くことが多い。(HIV誘導性)脂肪萎縮症の治療は、皮膚の対応する領域、特に顔面領域、例えば大頬骨領域等への注入により効果が生じ得る。注入部位、及び本発明に従って調製される非架橋、高純度及び高分子量アルギン酸塩溶液(ゾル)の投与量の選択は、疾患の重篤度に依存し、典型的には主治医の判断により行われ、好ましくは上述の値の範囲内である。
【0067】
更に、最後の代替案によれば、本発明に従って調製される非架橋、高純度及び高分子量アルギン酸塩溶液(ゾル)はまた、腫瘍疾患の治療、例えば腫瘍の塞栓形成による治療にも用いることができる。具体的には、本発明に従って調製される非架橋、高純度及び高分子量アルギン酸塩溶液(ゾル)を、腫瘍への供給を確保するために腫瘍により特異的に形成される血管、例えば新たに形成された動脈に注入することにより、これらの血管を遮断し、その結果として腫瘍細胞への供給を断ち切り、腫瘍細胞を殺すことが可能である。これに関連して、腫瘍疾患は、例えば、黒色腫、悪性黒色腫、結腸癌腫、リンパ腫、肉腫、芽腫、腎癌腫、胃腸腫瘍、神経膠腫、前立腺腫瘍、膀胱癌、直腸腫瘍、胃癌、食道癌、膵臓癌、肝臓癌、乳癌腫(乳癌)、子宮癌、頚癌、ヘパトーム、例えば乳頭腫ウイルス誘導性癌腫(例えば、頚癌腫(頚癌))等の、種々のウイルス誘導性腫瘍、腺癌、ヘルペスウイルス誘導性腫瘍(例えば、バーキットリンパ腫、EBV誘導性B細胞リンパ腫)、B型肝炎誘導性腫瘍(肝細胞性癌腫)、HTLV−1誘導性リンパ腫、HTLV−2誘導性リンパ腫、聴神経神経鞘腫、肺癌腫(肺癌、気管支癌腫)、小細胞肺癌腫、咽頭癌、肛門癌腫、神経膠芽腫、直腸癌腫、星状細胞腫、脳腫瘍、網膜芽腫、基底細胞癌、髄芽腫、膣癌、精巣癌、甲状腺癌、ホジキンリンパ腫、髄膜腫、シュナイダー肺疾患、下垂体腫瘍、カルチノイド、神経鞘腫、棘細胞癌、バーキットリンパ腫、咽頭癌、腎臓癌、胸腺腫、体癌腫、骨癌、非ホジキンリンパ腫、尿道癌、頭頚部の腫瘍、乏突起膠腫、外陰癌、腸管癌、結腸癌腫、食道癌腫(食道癌)、疣贅合併症、小腸腫瘍、頭蓋咽頭腫、卵巣癌腫、軟部腫瘍、卵巣癌(卵巣癌腫)、膵臓癌腫(膵臓癌)、子宮内膜癌腫、肝転移、陰茎癌、舌癌、胆嚢癌、白血病、形質細胞腫、蓋腫瘍(lid tumour)、前立腺癌(前立腺腫瘍)等からなる群より選択されるが、これらに限定されない。
【0068】
有利なことに、上述の全ての応用及び代替案において、本発明に従って調製及び使用される非架橋、高純度及び高分子量アルギン酸塩溶液(ゾル)の注入により、インサイチュで生成される一体型アルギン酸塩移植片は、生体適合性であり、細胞及びコラーゲン線維のいずれかの成長にとって優れた接着基部を提供する。とはいえ、個別の場合において不適合である場合は、形成される一体型アルギン酸塩移植片を、任意的に、EDTA及びクエン酸溶液のいずれか、或いは他の錯体形成剤溶液を、好ましくは形成されている一体型アルギン酸塩移植片に直接注入することにより再び溶解させてもよい。
【0069】
最後に、本発明はまた、本発明に従って調製される非架橋、高純度アルギン酸塩溶液(ゾル)と、任意的に1以上の本明細書に記載の投与用注入カニューレと、任意的に使用説明書と、を含むキットを提供する。
【0070】
本発明の利点
医学分野、特に手術、及び美容分野における、体積を増加させる目的のための充填材としての、本明細書に記載の非架橋、高純度、及び高分子量アルギン酸塩溶液(ゾル)の調製における、アルギン酸塩の使用は、先行技術に対して顕著な利点を有する。本発明の主な利点は、以下のように要約することができる:
a)低注入圧における、本発明に従って調製される液体、非架橋、高純度及び高分子量アルギン酸塩溶液(ゾル)の注入が単純である、
アルギン酸塩ゾルと、Ca2+塩及びBa2+塩のいずれかとの同時注入に対する基本的な利点は、特に以下のものである:
・最大33ゲージの標準的な注入カニューレ/針を用いることができる、
・二重チャンバ、混合チャンバ、及び二重カニューレのいずれかを用いることなく、単純な予充填シリンジを直接使用できる、
・結果として、注入部位及び注入体積に関して、ハンドリングがより簡単でより正確になる、
・針内における早発性架橋の結果としての注入可能性障害が生じない、
・インサイチュで、他のポリマー、充填材、活性成分、及び特に細胞、具体的には自己細胞を添加することが容易に可能である、
ビーズ調製品の注入に対する基本的な利点は、特に以下のものである:
・アルギン酸塩溶液(ゾル)の無菌調製が、ビーズ及び粒子のいずれかの調製と比べて非常に簡単であり、特に安価である、
・注入体積の形状で一体的に存在するため、移植片本体が良好に成形される、
・作製工程(ビーズ形成、架橋剤槽における架橋)、その後の洗浄工程が不要である、
・第3の物質(上記)の混合が簡単である、
b)注入中及び注入直後に形成され得る、正確に所望の形状を有する、安定な、架橋された、一体型アルギン酸塩移植片本体がインサイチュにおいて形成される、
c)体積減少もその後の修正の必要性も伴うことなく、注入体積に対応する安定な移植片体積が形成される、
d)アルギン酸塩を適切に選択することにより、長期安定性を有し、6ヶ月超も持続する移植片が形成される、
e)ヒアルロン酸、コラーゲン等の、他の可溶性活性成分及びポリマーのいずれかの添加が容易に可能である、
f)ヒドロキシアパタイト、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリ−L−乳酸微粒子等の、異なるインビボ安定性を有する、固体、不溶性粒子及びマイクロファイバーの添加も容易に可能である、
g)また、主治医によって、インサイチュでさえも、自己細胞、タンパク質、脂質等を添加することが容易に可能である。
【0071】
加えて、最も重要なことは、臨床結果が非常に優れていることである。ビーズ移植片とは異なり、本発明に係るアルギン酸塩ゾルの注入により、コラーゲン線維の成長によって、移植片体積が緩徐に置換され得る(実験セクション参照)。したがって、一体型アルギン酸塩移植片は、周辺組織に対する適合性が高いだけでなく、透過性及び適合性が高いことから、細胞の優れたプレースホルダー(placeholder)でもある。移植片本体の長期耐久性により、対応するプレースホルダーは、成長が緩徐な組織でさえも確実に存在する。
【実施例】
【0072】
以下の実施例は、1例として本発明を説明することを意図し、如何なる方法によっても本発明を限定するものではない。
【0073】
1.1%(w/v)アルギン酸塩溶液の調製
0.25gの乾燥、高純度アルギン酸塩(純度>99%、分子量>500,000g/モル)を、クリーンルーム条件下で、25mLの0.9% NaCl溶液に添加した。次いで、密封した試験管を、アルギン酸ナトリウムが完全に溶解するまで、室温で回転させた。再び無菌濾過(0.2μmのシリンジフィルタ)した後、1mLのシリンジにそれぞれ500μLの溶液を充填し、最終産物(シリンジ)を5℃±3℃で保存した。30Gの針を注入に用いた。
【0074】
2.アルギン酸塩カプセルの調製(比較例)
25mLのNaCl溶液に、同一のアルギン酸塩を0.15gだけ添加したこと以外は、実施例1と同様にしてアルギン酸塩溶液を調製した。完全に溶解させるために、溶解が完了するまで、試験管回転装置上の密封容器内で再び回転させた。
【0075】
無菌濾過(0.2μmのフィルタ)後、従来の滴下装置を用いて、滴径を制御しながら、100mMのCaCl溶液及び20mMのBaCl溶液のいずれかからなる沈殿槽に溶液を滴下した。
【0076】
次いで、カプセル(ビーズ)を、10mLのリンゲル液で5回洗浄した。次いで、得られた、平均直径450μmのカプセル(ビーズ)を、リンゲル液に入れ、1mLの予充填シリンジに、それぞれ500μLを充填した。
【0077】
予充填シリンジ(無菌条件下で調製)を、5℃±3℃で保存した。
21Gの針を注入に用いた。
【0078】
3.ラットに対する皮下試験
a)皮下移植
皮下適合性試験の国際ガイドラインによって推奨されているラットを適宜選択し、準備し、麻酔下で、試験物質及びリファレンス物質(液体アルギン酸塩溶液及び調製したビーズ、実施例2の調製を参照)を皮下注入した。
【0079】
この目的のために、生成物が針の抜去位置から2cmの距離に分布するような方法で、0.40±0.05mLの種々の試験物質及びリファレンス物質(液体アルギン酸塩溶液及び調製したビーズ、実施例2の調製を参照)を、動物の4箇所の試験部位に皮下注入した。抜去中及び抜去後、対応する細長い膨潤物が現れた。次いで、注入部位に刺青で印をつけた。
【0080】
動物の状態、及び注入部位の状態を、始めは2日毎に、その後週2回調べた。
【0081】
b)移植直後の外植
試験物質及びリファレンス物質の投与により、容易に触知可能な膨潤物が生じた。
【0082】
この研究に加えて実施した実験では、注入の60分後、本発明に従って調製された高純度、非架橋及び高分子量アルギン酸塩溶液(試験物質1)を再び外植した。その時点で、試験物質は既に内因性カルシウムにより架橋されており、ゲル状クッションとして外植することができた(図1参照)。
【0083】
図1に見られるように、試験物質1(非架橋アルギン酸塩溶液)の投与により、投与の60分後、完全に架橋された移植片が生じた。皮下注入したアルギン酸塩溶液はまた、皮膚の除去後膨潤物として巨視的に視認可能である(図1A参照)。更に、投与された試験物質1は容易に触知可能であり、寸法的に安定である(図1B)。この試験は更に、液体アルギン酸塩溶液が投与の僅か60分後に、内因性カルシウムにより架橋されており、ゲル状クッションとして外植し得ることを示す(図1C参照)。
【0084】
4.移植部位の外植及び病理
7日後、3ヶ月後、及び6ヶ月後に、各回6匹のラットを安楽死させた。全ての注入部位を切開し移植片の存在及び性質について確認した。
【0085】
移植片を視覚的に、及びCa2+含量について調査した。3種全ての期間後、全ての移植片は十分視認可能であり、境界が明確であり、単離することができた。外植されたビーズのCa2+含量の測定は、概略値としてのみ測定可能であった、その理由は外植されたビーズの血清含量が異なる可能性があるためである。
【0086】
アルギン酸塩溶液(総体積約0.4mL)から形成される一体型移植片のCa2+値は、7日後の最初の外植時でさえも外的Ca2+で架橋されたビーズのCa2+値と等しく、そのCa2+含量は6ヶ月の観察期間に亘って一定に保たれていた(250〜330mgCa2+/g(移植片))。
【0087】
組織病理学的調査により、更に、一体型移植片は、少なくともCa2+架橋ビーズと同程度には組織適合性であることが示された。
【0088】
1週間後の結果
1週間後、アルギン酸塩溶液のラットへの皮下注入により、ビーズの移植片と比べて、僅かに炎症反応を示した(マクロファージ、リンパ球、及び形質細胞の僅かな浸潤、及びより少ない程度の巨細胞の浸潤)が、ビーズ移植片と比べて、リンパ球の浸潤は少なかった。多形核細胞及び壊死は観察されなかった。アルギン酸塩溶液のラットへの注入後、ほんの僅かな線維症及び線維増殖症が見られた。明らかにコラーゲン線維である、らせん状繊維が、アルギン酸塩沈着物内で検出できる。
【0089】
アルギン酸塩溶液の注入後、僅かな血管新生、かろうじて検出できる程度の分解、及びフィブリン封入を観察することができた。アルギン酸塩溶液の注入の結果として、アルギン酸塩のカプセル化、及び組織の変性は見られなかった。
【0090】
3ヶ月後の結果
注入されたアルギン酸塩溶液により引き起こされる炎症反応は、3ヶ月後には巨細胞が発生しなかったことを除き、3ヶ月後も1週間後と同様の性質を有していた。
【0091】
アルギン酸塩沈着物周辺の線維増殖症及び線繊症の程度は低下し、3件の症例のうち2件で、僅かに、存在する線維性組織がフィブリン内に薄いカプセルを形成したことが観察された。1週間後と同様、僅かな血管新生が見られた。
【0092】
6ヶ月後の結果
注入の6ヶ月後、アルギン酸塩は依然として固体として存在して、埋め込まれたコラーゲン線維と網状沈着物を形成し(図2参照)、良好な生体適合性を示した。アルギン酸塩移植片により引き起こされる炎症反応及び線維性反応は両方、3ヶ月後の生体適合性と比べて、アルギン酸塩溶液の注入6ヶ月後の方が実質的に良好であった。注入部位はいずれも線維性反応を示さず、炎症応答は少数の形質細胞及びマクロファージのみから成っていた。更なる炎症応答は誘導されなかった(図2参照)。図2は、ラットへの皮下注入6ヶ月後の、アルギン酸塩の注入部位のH&E染色を示す。図2Aは、アルギン酸塩沈着物の概略を示し、図2Bは、コラーゲン線維の埋め込まれている、脂肪組織内におけるアルギン酸塩沈着物の網状成長物の詳細を示す。それ故、全体として、インサイチュで内因性Ca2+によってのみ架橋されたアルギン酸塩移植片の生体適合性は、明らかに非常に良好である。
【0093】
5.ウサギの皮下試験
本発明に従って上記のように調製した、200μLの1%高純度アルギン酸塩溶液を、30Gの針を用いて、1mLのシリンジにより、剃毛したウサギの背中の左右6箇所の注入部位に注入した。
【0094】
試験の目的は、2種のアルギン酸塩製剤と、化学的に架橋された微粒子多糖類の市販比較製品の、安定性及び局所耐用性を評価することであった。本明細書で用いた試験の設計は、この種の試験の国際的指針により推奨されているものである。
【0095】
6.実施例5の試験結果
4週間後及び12週間後に安楽死させた後切除した注入部位を、組織病理学的に調査した。全ての注入部位において、アルギン酸塩ヒドロゲル体は、試験動物の皮下組織に埋め込まれていた。物質は、高度に組織と一体化しており、試験移植片の耐用性は非常に良好であった。
【0096】
4週間後に切除した部位の、対応するvan Gieson染色を図3A〜Dに示す。図3は、ウサギへの注入4週間後、試験移植片1(A、B)及び試験移植片2(C、D)の注入部位のコラーゲン染色(van Gieson染色)を示す。具体的には、図3Aは、皮内注入した試験移植片内のコラーゲン線維を示し、該コラーゲン線維は、元来真皮性コラーゲン線維束と同様に、均一にルビー様赤色をしている。図3Bは、コラーゲン線維が散在している、皮下注入した試験移植片1の詳細な顕微鏡写真を示す。図3Cは、多数のコラーゲン線維が散在している、皮下注入された試験移植片2を示し、図3Dは、種々の長さのコラーゲン線維が散在している、皮下注入された試験移植片2の詳細な顕微鏡写真を示す。
【0097】
したがって、本発明に従って調製された一体型アルギン酸塩移植片は、周辺組織に対して非常に適合性が高いだけでなく、コラーゲン線維の成長も促進することを示すことができた。
【0098】
12週間後の結果は、4週間後の結果と類似していた、即ち、一体型アルギン酸塩移植片は、完全に無傷であることが見出された。場合によっては、移植片は線維芽細胞の薄膜に取り囲まれている。
【0099】
結果として、本発明に従って注入されたアルギン酸塩溶液は、内因性Ca2+により急速に架橋され、形成された一体型アルギン酸塩移植片は、注入の4週間後及び12週間後も完全に無傷であることが見出される。一体型アルギン酸塩移植片の適合性は、全ての場合において、市販製品(リファレンス製品、ビーズ)と同程度に良好であり、更に成長したコラーゲン線維も明確に視認可能であった。
【0100】
7.(美容用)充填材の放出圧
以下の試験では、製品に依存したシリンジにかかる圧力で測定した。実験/実施例1に記載したような、アルギン酸塩ゾルの種々のバッチについて研究した。必要な圧力は、30Gの針(図4参照)、即ち容易に制御可能な範囲内で測定したとき、6つ全てのサンプルにおいて7〜8ニュートンであった。
【0101】
他方、2種の異なる、市販ヒアルロン酸製剤の放出圧は、いずれの場合も、27Gの針及び30Gの針のいずれかで25ニュートン超であった。
【0102】
8.一体型アルギン酸塩移植片の機械的安定性
試験の構成は実施例3と同様にした。本試験の目的は、アルギン酸塩とは無関係に、実施例2のアルギン酸塩ビーズと比べて、一体型アルギン酸塩移植片の安定性を示すことであった。
【0103】
図5は、ノギスを用いて触診により測定した、90日間に亘ってモニタした移植片の大きさを示す。試験物質1は、本発明で請求しているような、高分子量アルギン酸塩(MW>500,000g/mol)である。試験物質2は、120,000ダルトン未満の平均MWを有する低分子量アルギン酸塩である。リファレンス物質1及びリファレンス物質2は、平均直径が500μmであることを除いて、実施例2に記載したアルギン酸塩ビーズである。
【0104】
図5は、これに関連して、試験期間における種々の試験移植片(試験物質及びリファレンス物質)の触診による最大直径及び最小直径の平均値を示す。移植片は、麻酔下の動物で触診し、移植片の大きさをノギスで測定した。
試験物質1(非架橋アルギン酸塩溶液)
試験物質2(低分子量非架橋アルギン酸塩溶液)
リファレンス物質1(CellBeads(登録商標)500)
リファレンス物質2(CellBeads(登録商標)500、オートクレーブ済)
データは、以下の移植片部位の測定に由来する:1日目 n=16、2〜7日目 それぞれn=12、14〜28日目 それぞれn=8、残りの日 それぞれn=4。
【0105】
要約すると、この実施例は、インビボで架橋された一体型アルギン酸塩移植片のインビボにおける耐久性の効果を明確に示している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
医学分野及び美容分野のいずれかにおける、体積を増加させるための充填材としての非架橋、高純度、及び高分子量アルギン酸塩溶液(ゾル)の調製における、アルギン酸塩の使用であって、前記アルギン酸塩が、前記非架橋、高純度、及び高分子量アルギン酸溶液(ゾル)中に0.5%〜2.5%(w/v)アルギン酸塩固形分の濃度で存在し、インビボで注入された前記非架橋、高純度、及び高分子量アルギン酸塩溶液(ゾル)が、外因性架橋剤を添加することなしに、インサイチュにおいて自発的なCa2+架橋を導くことを特徴とする使用。
【請求項2】
アルギン酸塩が、200,000ダルトン超の平均モル質量を有する、高純度及び高分子量アルギン酸塩、好ましくは200,000〜5,000,000ダルトンの平均モル質量を有する高純度及び高分子量アルギン酸塩、より好ましくは200,000〜1,000,000ダルトンの平均モル質量を有する高純度及び高分子量アルギン酸塩、最も好ましくは200,000〜500,000ダルトンの平均モル質量を有する高純度及び高分子量アルギン酸塩から選択される請求項1に記載の使用。
【請求項3】
高純度及び高分子量アルギン酸カリウム、或いは高純度及び高分子量アルギン酸ナトリウムをアルギン酸塩として用いる請求項1及び2のいずれかに記載の使用。
【請求項4】
注入後、一体型アルギン酸塩移植片本体が、注入部位においてインサイチュで形成される請求項1から3のいずれかに記載の使用。
【請求項5】
非架橋、高純度及び高分子量アルギン酸塩溶液(ゾル)が、総重量に基づいて、0.6〜%1.0%(w/v)アルギン酸塩固形分の濃度で存在する請求項1から4のいずれかに記載の使用。
【請求項6】
非架橋、高純度及び高分子量アルギン酸塩溶液(ゾル)のアルギン酸塩が、生理学的注入溶液に懸濁している請求項1から5のいずれかに記載の使用。
【請求項7】
非架橋、高純度及び高分子量アルギン酸塩溶液(ゾル)が、薬学的活性化合物、栄養素、マーカー物質、生存細胞、並びに水溶性補助物質及び安定化剤からなる群より選択される活性成分を含有する請求項1から6のいずれかに記載の使用。
【請求項8】
薬学的活性化合物が、ビタミン、接着タンパク質、抗炎症物質、抗生物質、鎮痛剤、成長因子、ホルモンの物質群から選択され、特に好ましくは、ヒト成長ホルモン、ウシ成長ホルモン、ブタ成長ホルモン、成長ホルモン放出ホルモン/ペプチド、顆粒球コロニー刺激因子、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子、マクロファージコロニー刺激因子、エリスロポエチン、骨形成タンパク質、インターフェロン及びその誘導体のいずれか、インスリン及びその誘導体のいずれか、アトリオペプチン−III、モノクローナル抗体、腫瘍壊死因子、マクロファージ活性化因子、インターロイキン、腫瘍変性因子、インスリン様成長因子、上皮成長因子、組織プラスミノーゲン活性化因子、MV因子、IMV因子、及びウロキナーゼを含むタンパク質系活性成分及びペプチド系活性成分から選択される請求項7に記載の使用。
【請求項9】
水溶性補助物質及び安定剤のいずれかが、アルブミン及びゼラチンのいずれかを含むタンパク質、グリシン、アラニン、グルタミン酸、アルギニン、リジン及びこれらの塩のいずれかを含むアミノ酸、グルコース、ラクトース、キシロース、ガラクトース、フルクトース、マルトース、スクロース、デキストラン、マンニトール、ソルビトール、トレハロース、及び硫酸コンドロイチンを含む炭水化物、リン酸塩を含む無機塩、TWEEN(登録商標)(ICI)、及びポリエチレングリコールを含む湿潤剤、並びにこれらの混合物のいずれかからなる群より選択される請求項7に記載の使用。
【請求項10】
充填材の性質を有する少なくとも1種の更なる物質が、非架橋、高純度及び高分子量アルギン酸塩溶液(ゾル)中に存在する請求項1から9のいずれかに記載の使用。
【請求項11】
充填材の性質を有する少なくとも1種の更なる物質が、非架橋、高純度及び高分子量アルギン酸塩溶液(ゾル)中に、総充填材重量の5〜50重量%(w/w)の量で存在する請求項10に記載の使用。
【請求項12】
充填材の性質を有する少なくとも1種の更なる物質が、可溶形態のポリアクリルアミド、コラーゲン、並びにヒアルロン酸及びその塩、からなる群より選択される請求項10及び11のいずれかに記載の使用。
【請求項13】
ヒアルロン酸が、10,000Da〜10,000,000Daの範囲の分子量、好ましくは25,000Da〜5,000,000Daの範囲の分子量、最も好ましくは50,000Da〜3,000,000Daの範囲の分子量を有する、非架橋、高純度ヒアルロン酸及びその塩のいずれかである請求項12に記載の使用。
【請求項14】
非架橋、高純度ヒアルロン酸の塩が、ヒアルロン酸ナトリウム、ヒアルロン酸カリウム、及びヒアルロン酸アンモニウムから選択される請求項12及び13のいずれかに記載の使用。
【請求項15】
充填材の性質を有する少なくとも1種の更なる物質が、非架橋、高純度及び高分子量アルギン酸塩溶液(ゾル)に不溶性である、10〜150μmの粒径を有する固体の不溶性物質である請求項10及び11のいずれかに記載の使用。
【請求項16】
不溶性物質が、実質的に円形である粒形を有し、10〜80μmの直径を有する、PMMA微粒子、ポリ乳酸粒子、HEMA粒子、カルシウムヒドロキシアパタイト粒子である請求項15に記載の使用。
【請求項17】
不溶性物質が、繊維状形態である請求項15及び16のいずれかに記載の使用。
【請求項18】
直径5〜40μm、長さ20〜100μmのステープル繊維を、不溶性物質として用いる請求項15から17のいずれかに記載の使用。
【請求項19】
繊維が、体内で分解可能な組織適合性ポリマーからなる請求項17及び18のいずれかに記載の使用。
【請求項20】
繊維が、コラーゲン、ポリ乳酸及びそのコポリマー(グリシンとの)、共有結合を介して架橋されたヒアルロン酸、アルギン酸、アクリル酸エステルポリマー、並びにメタクリル酸エステルポリマーのいずれかからなる請求項17から19のいずれかに記載の使用。
【請求項21】
充填材の性質を有する少なくとも1種の更なる物質が、細胞、血漿タンパク質、及び脂肪吸引物質のいずれかを含む、自己構成成分から選択される請求項11及び12のいずれかに記載の使用。
【請求項22】
形成される一体型アルギン酸塩移植片本体が、EDTA溶液、クエン酸溶液、及び錯体形成剤溶液のいずれかを注入することにより、再び溶解し得る或いは再び溶解する請求項1から21のいずれかに記載の使用。
【請求項23】
しわの治療のための請求項1から22のいずれかに記載の使用。
【請求項24】
括約筋系を支持するための請求項1から22のいずれかに記載の使用。
【請求項25】
胃食道逆流疾患の治療のための請求項1から22のいずれかに記載の使用。
【請求項26】
尿失禁の治療のための請求項1から22のいずれかに記載の使用。
【請求項27】
膀胱尿管逆流疾患の治療のための請求項1から22のいずれかに記載の使用。
【請求項28】
再建手術における請求項1から22のいずれかに記載の使用。
【請求項29】
腫瘍の治療のための請求項1から22のいずれかに記載の使用。
【請求項30】
美容用途のための請求項1から22のいずれかに記載の使用。

【図4】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図5】
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【公表番号】特表2011−509724(P2011−509724A)
【公表日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−542565(P2010−542565)
【出願日】平成21年1月9日(2009.1.9)
【国際出願番号】PCT/EP2009/000094
【国際公開番号】WO2009/090020
【国際公開日】平成21年7月23日(2009.7.23)
【出願人】(510196970)セルメド アクチエンゲゼルシャフト (1)
【Fターム(参考)】