説明

インシュリン様成長因子(IGF)I突然変異体

【課題】 腎疾患のようなGH/IGF軸の調節不全を特徴とする疾患の治療のために有用であるインシュリン様成長因子(IGFs)のあるアゴニストを提供する。
【解決手段】天然配列ヒト型IGF−Iの位置16,25,又は49のアミノ酸残基、或いは位置3及び49のアミノ酸残基が、アラニン、グリシン、又はセリン残基で置換されたインシュリン様成長因子Iの突然変異体からなる。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
(発明の分野)
本発明は、多様な疾患の治療の為のインシュリン様成長因子(IGFs)のあるアゴニストの使用に関する。
【0002】
(発明の背景)
インシュリン様成長因子I及びII(各々,IGF−I及びIGF−II)はインビボにおいて、細胞増殖,細胞分化,細胞死の阻害,及びインシュリン様活性を含む多数の作用を媒介する(Clark 及びRobinson, Cytokine Growth Factor Rev., 7: 65-80(1996); Jones 及びClemmons, Endocr. Rev., 16: 3-34(1995))。これらの分裂促進及び代謝応答の殆どは、インシュリン受容体と密接に関連しているαβ異種四量体であるIGF−I受容体の活性化により始まる(McInnes 及びSykes, Biopoly., 43:339-366(1998); Ullrich ら,EMBO J., 5:2503-2512(1986))。両タンパク質は、チロシンキナーゼスーパーファミリーの一員であり、共通の細胞内シグナルカスケードを共有する(Jones 及びClemmons, 同上)。IGF−インシュリンハイブリッド受容体は単離されているが、それらの機能は不明である。IGF−Iとインシュリン受容体は,特定のリガンドとナノモルレベルの親和力で結合する。IGF−Iとインシュリンは、親和力が100−1000倍低いにもかかわらず,各々の非同族受容体と交差反応が可能である(Jones 及びClemmons, 同上)。IGF−I受容体の細胞外部分の一部を表す結晶構造が、最近、報告されている(Garrett 等., Nature, 394: 395-399(1998))。
【0003】
インシュリンとは異なり、IGF−Iの活性と半減期は、6個のIGF−I結合タンパク質(IGFBP1−6)と恐らくは付加的により遠縁の部類のタンパク質によって調節されている(Jones 及びClemmons, 同上; Baxter ら., Endocrinology, 139: 4036(1998))。IGBPは、それらが可溶性なのか又は細胞膜付随なのかによって、IGF活性を阻害又は増強することが可能である(Bach 及びRechler, Diabetes Reviews, 3: 38-61(1995))。IGFBPは、親和性と特異性を変化させることによってIGF−I及びIGF−IIと結合する(Jones 及びClemmons, 同上; Bach 及びRechler, 同上)。例えば、IGFBP−3は同じ親和力でIGF−I及びIGF−IIと結合するのに対して、IGFBP−2及びIGBF−6は、それらがIGF−Iに結合する場合よりも非常に高い親和力でIGF−IIと結合する(Bach 及びRechler,同上; Ohら., Endocrinology, 132, 1337-1344(1993))。
【0004】
古典的なIGFBPは、分子量が22−31kDaで、合計16−20のシステインをアミノ及びカルボキシ末端の保存ドメインに有している(Bach 及びRechler, 同上; Clemmons, Cytokines Growth Factor Rev., 8: 45-62(1997); Martin 及びBaxter, Curr. Op. Endocrinol. Diab., 16- 21(1994))。両システイン高含有領域を接続する中央部のドメインは、単に弱く保存されており、IGFBPに特異的なプロテアーゼの切断部位を有している。(Cherauesk 等., J. Biol. Chem., 270: 11377-11382(1995); Clemmons 等., ; Conover, Prog. Growth Factor Res., 6: 301-309(1995))。IGBFPのさらなる制御は、リン酸化及びグリコシル化によって成される(Bach 及びRechler, 同上; Clemmons 等.,同上)。IGFBPファミリーメンバーの原型の高画像度の構造は入手されていない。しかし、最近、IGF結合活性を保った、IGFBP−5の二つのN末端断片のNMRによる構造が報告されている(Kalus等., EMBO J., 17: 6558-6572(1998))。
【0005】
IGF−Iは、プロインシュリンに対して高い相同性を有する70個のアミノ酸から成る一本鎖タンパク質である。他のインシュリンスーパーファミリーとは異なり、IGFのC領域は翻訳後にタンパク質分解性の除去を受けない。IGF−I(Cooke 等., Biochemistry, 30: 5484-5491(1991); Hua等., J.Mol.Biol., 259: 297-313(1996))、mini−IGF−I(加工によってC鎖を欠いた変異体;DeWolf ら., Protein Science, 5: 2193-2202(1996))、及びIGF−II(Terasawa 等., EMBO J., 13: 5590-5597(1994); Torres等., J.Mol. Biol., 248: 385-401(1995))のNMR解析による構造が報告されている。IGF−Iの特定のエピトープが、受容体及び結合タンパク質と結合することは一般的に認められている。受容体不活性IGF変異体が、結合タンパク質から内因性のIGF−Iをとって代わることができ、その結果として純IGF−I作用をインビボで起せることは、動物モデルにおいて実証されている(Loddick 等., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 95: 1894-1898(1998); Lowman 等., Biochemistry, 37: 8870-8878(1998))。残基Y24、Y29、Y31、及びY60が受容体への結合に関与している一方で、そのIGF変異体はやはりIGFBPへ結合する(Bayne等., J.Biol.Chem., 265: 15648-15652(1990); Bayne等.,J.Biol.Chem., 264: 11004-11008(1989); Cascieri 等., Biochemistry, 27: 3229-3233(1988); Lowman 等., 同上)。
さらに、(1−27、gly、38−70)−hIGF−Iと称される変異体は、ヒトIGF−IのC領域の残基28−37が4残基グリシン架橋によって置換されており、IGFBPと結合するがIGFレセプターとは結合しないことが発見されている(Bar 等., Endocrinology, 127: 3243- 3245(1990))。
【0006】
多数の突然変異誘発研究は、IGF−IのIGFBP結合エピトープの特徴づけに取り組んでいる(Bagly 等., Biochem.J., 259: 665-671(1989); Baxter 等., J.Biol.Chem., 267: 60-65(1992); Bayne等., J.Biol.Chem.,263:6233-6239(1988); Clemmons 等., J.Biol.Chem. 263:12210-12216(1990); Clemmons 等., Endocrinology, 131: 890-895(1992); Oh 等., 同上)。要約すると、N末端の残基3及び4と、残基8−17を含むへリックス領域は、IGFBPとの結合にとって重要であることが発見された。その上に、IGFBP−1、−2、及び−5へ結合する残基49−51に関与するエピトープが同定された(Clemmons等., Endocinology, 同上, 1992)。さらには、N末端の最初の3個のアミノ酸を欠く不完全な形のIGF−I(des(1−3)−IGF−Iと呼ばれる)が25倍低い親和力でIGFBP−3と結合することが証明された(Heading 等., J. Biol. Chem.., 271: 13948-13952(1996); U.S. Pat. Nos. 5,077,276; 5, 164,370; 5,470,828)。
【0007】
N末端へリックス構造の露出したアミノ酸残基の結合への貢献を特徴付けることを試みる為に、幾つかのIGF−Iのアラニン変異体が構築された(Janson 等., Biochemistry., 36: 4108-4117(1997))。しかし、これら変異体タンパク質の円二色性スペクトルは、野生型IGF−Iと比較して構造変化があることを示し、IGFBP結合への貢献を変異した測鎖へ明確に起因させることを困難にした。つい最近の研究では難解な手法が用いられ、IGF−I上のIGFBP−1結合エピトープが異核NMR分光法によって調べられた(Jansson 等., J.Biol.Chem. 273: 24701-24707(1998))。筆者らは、さらに、残基R36、R37、及びR50が機能的にIGFBP−1への結合へ関与していることを同定した。
【0008】
他のIGF−I変異体が開示されている。例えば、特許文献では、WO96/33216は、原型IGF−Iの1−69の残基を有する切断変異体について記述している。EP742,228は、省略型Cドメインを有する自然発生した単鎖IGF−Iに由来する二本鎖IGF−Isuperagonistsについて開示している。IGF−Iアナログの公式:BC,Aで、BはIGF−IのBドメイン又はその機能アナログ、CはIGF−IのCドメイン又はその機能アナログ、nはCドメインのアミノ酸数で6−12個であり、AはIGF−IのAドメイン又はその機能アナログである。
さらに、Cascieri 等., Biochemistry, 27: 3229-3233(1988)は、3個が1型IGF受容体への親和力が低下していた、IGF−Iの4個の変異体について開示した。これらの変異体は:(Phe23、Phe24、Tyr25)IGF−I(1、2型IGF及びインシュリン受容体への親和力がヒトIGF−Iと同等)、(Leu24)IGF−I及び(Ser24)IGF−I(ヒト胎盤1型IGF受容体、胎盤インシュリン受容体、及びラット及びマウス細胞の1型IGF受容体への親和力がIGF−Iよりも低い)、そしてdesoctapeptide(Leu24)IGF−I(位置24の芳香族性の消失がhIGF−Iのカルボキシ末端のD領域の欠損と連結している)。これら4個の変異体は、ヒト血清結合タンパク質へ標準的な親和力を有している。
【0009】
Bayne 等., J.Biol.Chem., 264: 11004-11008(1988)は、IGF−Iの3個の構造アナログを開示している:(1−62)IGF−Iで、IGF−IのC−末端のD領域の8個のアミノ酸を欠くもの、IGF−IのC領域の残基28−37が4残基グリシン架橋によって置換されているもの;及び(1−27,Gly,38−62)IGF−Iで、C領域のグリシン置換とD領域欠失したものである。Peterkofsky 等., Endocrinology, 128: 1769-1779(1991)は、Bayne等のGly変異体(Bayne等., 同上, Vol.264. U.S. Pat. No. 5,714,460 )を使用したデーターを開示し、神経障害の治療の為にIGF−I又はIGF−Iの濃度を増加させる化合物に関するものである。
【0010】
Cascieri 等., J.Biol.Chem. 264: 2199-2202(1989)は、IGF−IのA領域の特定の残基が、インシュリンA鎖上のこれらに相当する残基と置換されている3個のIGF−Iアナログを開示している。これらアナログは:(Ile41、Glu45、Gln46、Thr49、Ser50、Ile51、Ser53、Tyr55、Gln56)IGF−IでA鎖変異体で、その残基41がスレオニンからイソロイシンへ置き換えられ、そしてA領域の残基42−56は置換されている;(Thr49、Ser50、Ile51)IGF−I;及び(Tyr55、Gln56)IGF−I。
【0011】
WO94/04569は、特定の結合分子について開示し、それは天然IGFBP以外で、IGF−Iへ結合が可能であり、そしてIGF−Iの生物活性を増大することが可能である。WO98/45427は1998年10月15日に公開され、Lowman等., 同上、は、ファージディスプレイ法によるIGF−Iアゴニストの同定を開示している。また、WO97/39032は、IGFBPのリガンド阻害剤とその使用方法について開示している。さらに、U.S. Pat No. 5,891, 722 は、遊離IGFBP−1へ結合親和性を有する抗体、膣液の遊離IGFBP−1の存在によって指示される、遊離IGFBP及び膣液中の羊水の存在に基づく胎膜における破裂を検出する装置と方法について開示している。
これらの成果にもかかわらず、IGF−IのIGFBP結合エピトープの概論は、統一的ではなく、解像度が低い。これまでの研究は、殆どが相同的なインシュリンの領域をIGF−I或いは切断タンパク質(例、des(1−3)−IGF−I)挿入することに関したのもで、ミスフォールディングと真の結合決定基に起因される作用を区別するものではなかった。すべてのこれらの研究結果を結びつけることは、放射線標識リガンド結合分析からバイオセンサー分析の範囲の異なった技術を使用してIGF変異体とIGFBPの複合体を分析するという事実から、さらに複雑なことである。
【0012】
GH/IGF/IGFBP系が同化及び代謝恒常性の制御に関与しており、この系の欠如は成長、生理、及び糖血症の制御へ逆作用する(Jones 等., Endocr. Rev., 16: 3-34(1995); Davidson, Endocr. Rev., 8: 115-131(1987); Moses, Curr. Opin. Endo. Diab., 4: 16-25(1997)。さらに最近のデーターは、血漿レベルとGH及びIGH−Iの生物活性の制御においてIGFBPの役割の拡大を示唆しいる(Jones 等., 同上;Lewitt 等., Endrocrinology, 129: 2254-2256(1991); Rosenfield 等., “成長ホルモン非感受性症候群のIGF−1による治療”:インシュリン様成長因子とそれらの制御タンパク質. Eds Baxter RC, Gluckman PD, Rosenfield RG. Excerpta Medica, Amsterdam(1994), pp357-464; Lee 等., Pro.Soc.Exp.Biol.Med.,216:319-357(1997); Cox等., J.Clin.Endocrinol.Metab.,135:1913-1920(1995); Lewitt等., Endrocrinology, 133: 1797-1802(1993))。IGFNBPレベルの交互変化は、IGF過剰又は不足の臨床的症状へつながる可能性があり、そして又GH耐性へ貢献する(Barreca 等., JCEM, 83: 3534-3541(1998); Shmueli等., Hepatology, 24: 127-133(1996); Murphy 等., Prog. Growth Factor Res., 6: 425-432(1996); Rajkumar 等., Endrocrinology, 136: 4039-4034(1995); Hall 等., Acta Endocrinol.(Copenh), 118: 321-326(1998); Ross 等., Clin. Endocrinol., 35: 47-54(1991); Scharf 等., J.Hepatology, 25: 689-699(1996))。
【0013】
IGFとGHの生物活性の制御に最も重要であると思われる二つのIGFBPは、IGFBP−1とIGFBP−3である。IGFBP−3は、血漿においてIGF−IとIGF−IIの全レベルの制御に最も重要であると思われる。IGFBP−3は、GH依存性タンパク質であり、GH欠乏或いは耐性の場合に減少する(Jones 等., 同上; Rosenfild等., 同上 ., Scharf 等., 同上.,) 。IGFBP−1は、一般的にはIGF活性の阻害剤と考えられており、糖尿病、腎疾患、うっ血性心不全、肝疾患、栄養失調、消耗症候群、及び殆どの異化状態などのGH耐性状態の殆どの場合において増加する(Lewitt 等., 1993, 同上; Barreca等., 同上; Scharf等., 同上; Bereket等., Endocrinology, 137: 2238-2245(1996); Crown とHolly, Clin. Nutrit.,14: 321-328(1995); Underwood とBackeljauw, J.Int.Med., 234: 571-577(1993); Thraikill 等., J.Clin.Endo.Metab., 82(4): 1181-1187(1997))。殆どのこれらの疾患の状態は、次の生化学的側面を特徴とする:乱れたグルコース制御、炎症、過剰IGFBP−1レベル、低IGFBP−3レベル、低IGF生物活性、及び過剰GHレベル(Jones等., 同上; Barreca等., 同上; Crown とHolly等., 同上; Bereket等., Clinical Endocrinology, 45(3): 321-326(1996); Batch等., J.Clin.Endo.Metab., 73:964-968(1991); Powell等., The Southwest Pediatric Nephrology Study Group, Kidney Int., 51: 1970-1979(1997))。
【0014】
グルココルチコイドは、タンパク質合成の減少とタンパク質異化の増加(Simmons 等,. J.Clin. Invest., 73: 412-420(1984))、尿中の窒素排泄の増加(Sapir 等., Clin. Sci. Mol. Med., 53: 215-220(1997))と関連している。これらの結果は、部分的には成長ホルモン分泌の減少(Trainer等., J.Endrocrinol.134: 513-517(1991))又は組織レベルへのグルココルチコイドの直接作用(Baron 等., Am.J.Physiol. 263: E489-E492(1992))によって媒介されている可能性があり、その結果として局所的なIGF−1及びIGFBPの生成の妨害(McCarthy等., Endocrinology, 126: 1569-1575(1990); Lee等., 同上)及びインシュリン作用の拮抗作用(Horber等., Diabetes, 40: 141-149(1991))となる。ラットを用いた以前の研究は、グルココルチコイド類似体、例えばデキサメタゾンの異化作用は、組み換え型ヒトIGF−1及びその類似体によって相殺される(Tomas 等., Biochem.J., 282: 91-97(1992))ことが実証されている。さらに、インシュリンがタンパク質の異化分解を回復させることが示されている(Woolfson等., N.Eng.J.Med., 300: 14-17(1979))。
【0015】
併用療法も開示されている。例えば、Fuller等., Biochem Soc Trans, 19: 277S(1991)は、心臓のタンパク質合成を刺激する為のインシュリンとIGFの使用について示している。Umpleby等., Europ.J.Clin.Invest., 24: 337-344(1994)は、タンパク質合成への影響を判定する為に、一晩飢餓状態にした犬のインシュリンとIGFによる治療を開示した。さらに、U.S. Pat. No. 5,994,303は、窒素バランスとタンパク質の減少を相殺する為のインシュリンとIGF−Iの組み合わせ使用について開示している。
【0016】
腎疾患に関しては、IGF−Iが多様な作用を腎臓で発揮することが報告されている(Hammerman とMiller, Am.J.Physiol., 265: F1-F14(1993))。末端肥大症の患者に観察される腎臓の増大が、腎糸球体の濾過速度の著しい増大に伴うことは、数十年間にわたって認知されてきた(O'SheaとLayish, J.Am.Soc.Nephrol.,3:157-161(1992))。U.S.Pat. No.5,273,961は、急性腎疾患の危険のある哺乳類の予防的治療の方法について開示している。標準的な腎臓の機能を有するヒトペプチドを注入すると、腎糸球体の濾過速度と腎血漿の流量が増加した(Guler等., Acta Endocrinol., 121: 101-106(1989); Guler等., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 86: 2868-2872(1989); Hirschberg等., Kidney Int., 43:387-397(1993); U.S. Pat. No. 5,106,832)。さらに、中程度に腎臓機能が減少したヒトは、短期間(4日間)のIGF−Iの投与に反応し、腎糸球体の濾過速度と腎血漿の流量が増加した。従って、IGF−Iは、慢性腎疾患の状況での強力な治療薬である(O'Shea等., Am. J. Physiol. 264: F917-F922(1993))。
【0017】
IGF−I又はその類似体を使用し、多嚢胞性腎疾患と関連した徴候、腎形成異常症、及び/又は腎形成不全などの腎疾患に苦しむ哺乳類を治療することは、U.S.Pat No. 5,985,830 に開示されている。この特許は、さらにIGF−Iが、慢性的な器官損傷に苦しむ哺乳類の糸球体と腎臓発育を促進する効果的な薬剤であることが開示されている。
さらに、IGF−Iを末期の慢性腎疾患の状況へ投与すると、腎臓の機能が数日間に渡って増強することが可能である。末期の慢性腎疾患が、透析又は移植のみで治療することが可能な状況であること、そしてその発生が急増していることから、これは重要である。糖尿病患者と高齢者は、この状況を有する傾向にある。およそ60%末期慢性腎疾患は患者血液透析、約10%は腹膜透析、そして残りの約30%が移植を受ける。毎年、アメリカでは、50,000人以上の患者が透析治療を始める。毎年、さらなる末期腎疾患になった25%の患者が透析を受けることを拒否する。これら透析を受けている患者の看護の費用は、現在、平均して一月当たり2億ドルである。さらに、患者は透析によって支障のある生活様式を見せる。IGF−Iが末期慢性腎疾患を体験している方々の腎臓機能を増強することが可能であるにもかかわらず、IGF−Iの短期投与によって誘導された腎糸球体の濾過速度と腎血漿の流量の増加は長期投与の間は持続せず、副作用の発生率は高い(Miller等., Kidney International, 46: 201-207(1994))。
【0018】
IGF−Iと高感受性組織との相互作用の動力学は、複雑で完全に理解されていない。循環IGF−Iの生物活性は血漿IGFBPのレベルによって制御され、両物質がIGF−Iの作用を促進及び阻害する(CohickとClemmons, Annu. Rev. Physiol., 55: 131-153(1993); Kupfer等., J.Clin.Invest., 91: 391-396(1993))。さらに、組織に存在するIGFBPは、循環IGF−Iとその受容体の相互作用を制御する。組織IGF−I受容体の密度は、循環IGF−Iのレベルの変化によって変化する。腎臓においては、IGF−I受容体の数は、循環IGF−Iのレベルに反比例している(Hise等., Clin.Sci., 83: 223-239(1991))。
ある環境下において、上昇した循環IGF−Iのレベルが、腎臓機能の長期に渡る変化に関連している又は直接の原因であることは知られている。例えば、末端肥大症患者の循環GHとIGF−Iの上昇を伴うインシュリンとPAHのクリアランスの増大は、一年に渡って持続する(Kkos等., Acta Endocrinol., 21: 226-236(1956))。クレアチンのクリアランスの増大が、GH非感受性のラロン型小人萎縮症へIGF−Iを投与した最初の12日間に起こった。この増大は、次の59日間に渡って進行性であった(Walker等., J.Pediatr., 121: 641-646(1992))。
【0019】
GHは、肝臓においてIGFBP3の合成を刺激する(HammermanとMiller, 同上; CohickとClemmons, 同上; Kupfer等., 同上)。下垂体GHの放出のIGF−Iによる阻害から生じる循環GHのレベルの低下が、IGF−Iを投与されたヒトにおいて循環IGFBP3の低下の結果となると考えられている。GH非感受性のために、IGFBP3のレベルは低く、そしてラロン型小人萎縮症においては、IGF−Iによって増加する(Kenety等., Acta Endocrinol., 128: 144-149(1993))。IGF−Iエフェクタ−系のこの相違や他の点は、これら個人のIGF−Iへの不応性の欠如を説明することが可能である。
【0020】
Walker., 同上は、IGF−Iが尿のカルシュウム排泄又は尿量を増加させることを発見した。Miller等., 同上は、そのような作用を確認しなかった。IGF−Iは,さらに、近傍の尿細管の刷子縁膜を通過するリン酸輸送を促進する(QuigleyとBaum, J.Clin.Invest., 88:368-374(1991))。長期の末端肥大症患者は、顕著な腎肥大と過剰な糸球体濾過速度を有し、ヒトにおける循環GHとIGF−Iの長期に渡る上昇を伴う過剰ろ過が腎臓の傷害とはならないことを示唆した(Ikkos等., 同上; Hoogenberg等., Acta Endocrinol., 129: 151-157(1993))。
慢性腎疾患などの慢性疾患の治療の為の断続的なIGF−Iの投与は、U.S. Pat. Nos. 5,565,428及び5,741,776に開示されている。
【0021】
臨床状況下では、循環IGF−Iのレベルは末期前慢性腎疾患(CRF)において標準であり、末期腎疾患においては僅かに減少する(Power等.,Am.J.Kidney Dis.,10:287-292(1987); Blum等., Pediatr.Nephrol.,5:539-544(1991);Tonshoff等., J.Clin.Endocrinol.Metab.,80:2684-2691(1995); Tonshoff等., Peditar.Nephrol.,10:269-274(1996))。対照的に、IGFBP−1、IGFBP−2、及び低分子IGFBP−3断片は、腎機能不全の程度と関連し、慢性腎疾患の血清中に増加する(Lee等., Pediatr.Res., 26:308-315(1989); Liu等., J.Clin.Endocrinol.Metab., 70:620-628(1990); Powell等., Pediatr. Res., 33: 136-143(1993))。IGF−Iの生物活性は、I型IGF受容体を介して媒介される。IGFBPが、1型IGF受容体と結合するのと同等或いはより高い親和力でIGFと結合しするため、CRF血清中の過剰な不飽和の高親和性IGFBPは、IGFとの結合に関して1型IGF受容体と競合することによって、対象となる組織においてIGFの作用を阻害する能力を有する(Tonshoff等., Prog. Growth Factor Res., 6: 481-491(1996))。実際に、CRFにおけるIGFBPレベルの増加は、インビトロ(Blum等., 同上)とインビボ(Tonshoff等., 同上, 1995)の両方におけるIGF生物活性の阻害剤であると同定されている。
【0022】
CRFでのIGF−IとIGFBPの生成速度については、ほとんど知られていない。標準IGFを越える増加したIGFBPの一群は、CRFで減少したIGF−I分泌速度を示すことが示唆されているが、これは標準条件下において、増加したIGF結合能が直ちに肝臓で生成されたIGFで飽和されることが予想されるためである(Blum, Acta Paediatr. Scand. [Suppl] 379: 24-31(1991))。臨床CRFにおける血漿IGFBPレベルの以前の分析は、増大したIGFBP−2の生成速度は、CRF血漿中の上昇したIGFBPレベルへ貢献するであろうことを同じく示唆した(Tonshoff等., 同上, 1995)。これら二つの仮説は、肝IGF−I遺伝子の発現とIGFBP−1、2、3、及び4の血漿レベルを実験用尿毒症のモデルラットで分析することによって調べられた(Tonshoff等.,Endocinology, 138:938-946(1997))。筆者らは、肝IGF−Iの減少及びIGFBP−1とIGFBP−2遺伝子発現の増加が、実験用尿毒症で生じることを発見した。
腎臓に対するIGF−Iの影響についての完全な考察としては、例えば、Hammerman及びMiller, Am. J. Physiol., 265:F1-F14(1993)及びHammerman及びMiller, J.Am.Soc.Nephrol., 5: 1-11(1994)を参照のこと。
【0023】
腎疾患を含む、GH/IGF軸の調節不全を有する患者の治療には、主に高IGFBP−1レベルであるIGFBPの異常分布のために、IGF−Iによる治療は有効ではない。従って、IGFBP−3への結合能を失わずにIGFBP−1への親和力が減少したIGF−I変異体が、そのような調節不全を特徴とする臨床状況為への唯一で効果的な治療法となる可能性がある。
【0024】
(発明の概要)
従って、一実施態様では、 本発明はIGF−I変異体を提供し、それは天然配列ヒト型IGF−Iの位置16、25、又は49のアミノ酸残基、 又は位置3及び49のアミノ酸残基がアラニン、グリシン、又はセリン残基へ置換されている。
また、ここに提供されているのは、容器、好ましくは製薬的に許容可能な容器に含まれる変異体を含む組成物である。好ましくは、この組成物は無菌である。
さらに、ここに提供されるのは、上記に記載した変異体を哺乳類へ投与することを含む哺乳類のGH/IGF軸の調節不全を特徴とする疾患の治療方法である。哺乳類は、好ましくはヒトで、疾患は好ましくは腎疾患、さらに好ましくは腎不全である。
【0025】
ここに示すペプチドは、単独、或いは特定の治療の為の活性剤、例えば腎疾患の為のBQ−123のような腎臓活性剤と供に投与することが可能である。
また、ここで考察されているのは、ここで取り上げられるペプチドと哺乳類のGH/IGF軸の調節不全を特徴とする疾患の治療の為に組成物を使用する使用者への説明書を含む、製薬的に許容される組成物を含有する容器を含むキットである。疾患が腎疾患である場合は、このキットは任意的にさらに腎臓活性分子を含有する容器を含む。
ここに示すペプチドの同定の為に、ヒトIGF−Iは一価の繊維状ファージミド粒子に表示され(US Pat. Nos. 5,750, 373 及び 5,821,047)、その完全なアラニンスキャンニング突然変異誘発(Cunningham及びWells, Sience, 244: 1081-1085 (1989); US Pat No. 5,834,250)をファージディスプレイ法によりおこなった(「ダーボ−アラスキャン」)(Cunningham等., EMBO J. 13: 2508-2515(1994); Lowman, Methods Mol. Biol., 87: 249-264(1998))。IGF−ファージミド変異体は、IGF−IにあるIGFBP−1及びIGFBP−3の為の結合決定基の地図を描く為に使用された。IGFBP−1或いはIGFBP−3に特異的に結合してインビボにおけるこれらタンパク質のクリアランス半減期の調節し、タンパク質分解安定性の向上させ、又は組織分布の変更をする結合タンパク質特異的IGF変異体を発生する為に、アラニンスキャンニングは結合タンパク質の為の特異的決定基を明らかにする。さらに、多様なIGF−結合抗体、又は他のペプチドやタンパク質でIGF−Iと結合するもののエピトープを地図化することは有益であると言える。
【0026】
(実施態様)
A.定義
ここで使用される治療目的の為の“哺乳類”とは、哺乳類に分類されるすべての動物に関してであり、ヒト、家畜、及び飼育動物、そして動物園、スポーツ用、又はペット動物、例えば犬、馬、猫、羊、豚、牛などを含む。好ましい哺乳類はヒトである。“大人ではない”という用語は、哺乳類において出生時(低体重乳児を含む)から思春期を含み、後者はまだ潜在成長力に達していない場合に相当する。
【0027】
ここで使用される“IGF”は、天然インシュリン様成長因子−I、及び別名des(1−3)IGF−Iとして知られている脳IGFなどのそれらの天然変異体と同様に天然インシュリン様成長因子−IIに相当する。
【0028】
ここで使用される“IGF−I”は、牛、羊、豚、及び馬、好ましくはヒトを含むすべての種の天然インシュリン様成長因子−Iに相当し、外部からの投与について言及する場合は、天然、合成、又は組み換え体であろうと、どのソースからのものについても天然インシュリン様成長因子−Iに相当する。“天然配列”ヒトIGF−Iは、その配列が図4(配列番号:1)に示されており、例えば1987年8月5日に公開されたEP 230,869;1984年12月19日に公開されたEP128,773;又は1988年10月26日に公開されたEP288,451に記載の方法によって調製される。さらに好ましくは、この天然配列IGF−Iは、臨床検査の為に、組み換え体によって生成され,そしてジェネンテク,インコーポレィテッド,サウス サン フランシスコ,カルフォルニアより入手可能である。
【0029】
ここで使用される“IGF−II”は、牛、羊、豚、及び馬、好ましくはヒトを含むすべての種の天然インシュリン様成長因子−Iに相当し、外部からの投与については、天然、合成、又は組み換え体であろうと、どのソースからのものについても天然インシュリン様成長因子−Iに相当する。例えば、EP128,733に記載の方法によって、その調整が可能である。
【0030】
“IGFBP”又は“IGF結合タンパク質”は、循環性であろうとなかろうと(例えば、血清又は組織)、IGF−I又はIGF−IIと会合、又は結合する、或いは複合体となるタンパク質又はポリペプチドに相当する。このような結合タンパク質には、受容体が含まれない。この定義には、IGFBP−1、IGFBP−2、IGFBP−3、IGFBP−4、IGFBP−5、IGFBP−6、Mac25(IGFBP−7)、及びIGFBPと高い相同性を有する他のタンパク質と同様にプロスタサイクリン刺激因子(PSF)又は内皮細胞特異性細胞(ESM−1)が含まれる。Mac25は、例えば、Swisshelm等., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 92:4472-4476(1995)及び Oh等., J. Biol. Chem. 271: 30322-30325(1996)に記載されている。PSFは、Yamauchi等., Biochemical Journal, 303: 591-598(1994)に記載されている。ESM−1は、Lassalle等., J.Biol.Chem. 271: 20458-20464(1996)に記載されている。他の同定されたIGFBPについては、例えば、1990年6月27日に公開されたEP 375,438;1990年5月23日に公開さたEP369,943;1989年10月5日に公開されたWO89/09268;Wood等., Molecular Endocrinology, 2: 1176-1185(1988);Brinkman等., The EMBO J., 2417-2423(1988);Lee等., Mol. Endocrinol., 2:1176-1185(1988);Brewer等., BBRC,152:1289-1297(1988);1988年12月7日に公開されたEP294,021;Baxter等.,BBRC,147:408-415(1987);Leung等., Nature, 330: 537-543(1987);Martin等., J. Biol. Chem., 261: 8754-8760(1986);Baxter等., Comp.Biochem.Physiol., 91B:229-235(1988);1989年9月21日に公開されたWO89/08667;1989年10月19日に公開されたWO89/09792;及びBrinkert等., EMBO J., 8:2497-2502(1989)を参照のこと。
【0031】
“体液”という用語は、哺乳類からの液体の生物学的サンプル、好ましくはヒトからのものに相当する。この体液は、血清、血漿、リンパ液、滑膜液、濾胞性液、羊水液、乳、全血液、尿、脳脊髄液、唾液、痰、涙、発汗、粘液、組織培養培地、組織抽出物、細胞抽出物などの水性液体を含む。
【0032】
ここで使用される“ヒトIGF受容体”は、ヒトにおいて発見されたIGFの為のすべての受容体に相当し、胎盤1型IGF−I受容体のような、ヒトIGF−I及びIGF−IIが結合するヒトの1型及び2型IGF受容体を含む。
“ペプチド”とは、少なくとも2個のアミノ酸を有するIGF−Iアゴニスト/IGF−II変異体を含み、少なくとも50個のアミノ酸を有するポリペプチドを含む。その定義は、ペプチド誘導体、それらの塩類、又は光学異性体を含む。
【0033】
“GH/IGF軸の調節不全を特徴とする疾患”とは、同化と代謝恒常性の制御に関与しているGH/IGF/IGFBP系の欠陥を伴う、又は陥っている哺乳類の状態に相当する。これらの疾患は、成長、生理、及び/又は糖血症制御に欠陥のあること、及びIGF過剰又は欠乏、及び/又はIGFBP−3レベルの減少及び/又はIGFBP−1レベルの増加によって明らかになるGH耐性及び/又は欠乏の臨床的症状を伴う欠陥を特徴とする。例としては、高血糖性疾患、腎臓疾患、うっ血性心臓疾患、肝疾患、栄養失調、ターナー症候群、エイズによる消耗性疾患のようなタンパク質合成の減少を伴う消耗病候群、哺乳類において重い病気以外の疾患に比較してIGBFBPレベル(例えばIGFBP−1レベル)が増加することを特徴とする異化状態、窒素バランスの減少を伴う疾患、グルココルチコイド過多によって生じるタンパク質異化作用などの疾患がある。グルココルチコイドの過多を伴う一例としては、多量のステロイドホルモン治療にさらされている新生児と思春期前の哺乳類のような、ネフローゼ症候群又は全繊毛萎縮症の子供達のような実質上標準的な成長の維持が切望されている患者である。治療によって頻繁に併発する腎不全症、又は、被験者が大人ではない場合に時に重要だが、他の疾患の治療を受けている患者の好転した成長を促進する体重の減少を最小化するという理由から、例えば異化及び腎疾患を治療する場合には、さらなる相乗作用が関与する。
【0034】
これら疾患の殆どは、次の生化学的側面を特徴とする:乱れたグルコース制御、炎症、過剰IGFBP−1レベル、低IGFBP−3レベル、低IGF生物活性、及び過剰GHレベル。これらの状態の確認は、標準的臨床的手法、例えば、分子レベルのELISA(,酵素結合免疫測定法)、臨床化学、RIA(放射線免疫検定法)、又はバイオアッセイ(生物学的検定法)によって可能である(参照、例えば、Jones等., 同上; Davidson, 同上; Moses, 同上; Lewitt 等., 1991, 同上; Rosenfield等., 同上; Lee等., 1997, 同上; Cox等., 同上; Lewitt等., 1993 同上; Barreca等., 同上; Schmueli等., 同上; Murphy等., 同上; Rajkumar等., 同上; Hall等., 同上; Ross等., 同上; Scharf等., 同上; Bereket等., Endocrinology,同上;Crown及びHolly, 同上; Underwood及びBackelijauw等., 同上; Thraikill等., 同上; Bereket等., Clinical Endocrinology同上; Batch等., 同上; 及びPowell等., 1997同上; )。
【0035】
ここで使用される、用語“高血糖性疾患”は、高インスリン血症及び高脂血症、例えば肥満患者、及びメンデンホール症候群、ウェルナー症候群、妖精症、脂肪萎縮性糖尿病、及び他の脂肪萎縮症などのインシュリン耐糖性糖尿病と同様にI型及びII型糖尿病のようなすべての型の糖尿病に相当する。好ましい高血糖性疾患は糖尿病であり、特にI型及びII型である。“糖尿病”そのものは、不適切なインシュリンの生成と利用が関与する進行性の炭水化物代謝の疾患に相当し、高血糖と糖尿を特徴とする。
【0036】
ここで使用される、用語“高血糖性薬剤”とは、膵臓及びインシュリンによるインシュリンの分泌を起こす分泌促進物質、好ましくは経口投与剤に相当する。ヒトの使用でここにおいてさらに好ましくは、インシュリン及びスルホニル尿素類の高血糖性薬剤である。例としては、グリブリド、glipizide、グリクラジドが含まれる。さらに、インシュリン感受性を促進する薬剤、例えばビグアナイド類がこの定義に入り、そして同じく好ましい。
【0037】
ここで使用される“インシュリン”とは、ウシ、ヒツジ、ブタ、ウマ、好ましくはヒトを含む全ての種、及び天然、合成、又は組み換え体に関わらず全てのソースからの全てのタイプのインシュリンに相当する。例えば、Diabetes Mellitus - Theory and Practice, fourth edition, Harold Rifkin, MD, Ed. (Elsevier, New York, 1990), Chapter29, and U.S. Pharmacist, 18(Nov. Suppl.)p.38-40(1993)に報告されている全てのインシュリン薬剤は、この点で適している。Jens Brange, Galenics of Insuline, The Physico-chemical and Pharaceutical Aspects of Insulin and Insulin Preparations(Springer-Verlag, New York, 1987), page 17-40 において言及されているような、市場にある全ての各型のヒトインシュリンが含まれている。これらには、レギュラーインシュリン、イソフェン・インシュリンとも呼ばれるNPH(Neutral Protamine Hagedorn)インシュリン、70%のNPH−インシュリンと30%のレギュラーインシュリンから成る70/30インシュリン、Semilente インシュリン、UltraLente インシュリン、Lente インシュリン、及びHumalog インシュリンが含まれる。ここで動物への使用として好まれるのは、ヒトインシュリンをヒトの治療へ使用するなど、治療を受ける対象となる特定の種の型のインシュリンである。
【0038】
ここで定義される“腎疾患”とは、任意に透析を必要とする可能性がある前歴の急性或いは慢性腎疾患と関連している腎機能不全症で、限定されないが、例えば、慢性腎臓機能不全、末期慢性腎疾患、一次及び二次糸球体腎炎、ネフローゼ症候群、間質性腎炎、腎盂腎炎など、糖尿病患者のKimmelstiel-Wilson、及び腎移植後の腎不全;同様に急性腎疾患及び虚血による腎尿細管壊死;糖尿病又は自己免疫性腎障害と関連する腎機能障害;臓器移植の為に投与される腎毒性薬又は腎毒性免疫抑制剤への副作用;腎臓移植後の患者の急性拒絶反応;腎多嚢胞病及び関連する徴候;腎形成異常;腎形成不全;先天性腎異常;他の疾患で脊髄のbifida、solitary 腎臓、interuterine 成長阻害、成長異常を伴う小児科の症候群(例えば、ターナー症候群及びダウン症候群)、及び同様な疾患;慢性臓器障害に苦しむ者、小さな腎臓の移植を経験した者(臓器のさらなる成長が除去された場合)、尿細管の中毒に苦しむ対象者、化学療法を経験している対象者(例えば、癌患者)、及び同様な場合;尿毒症、タンパク尿症、及び無尿症のような身体所見を含む。このような疾患は、必ずIGF−Iによる治療から恩恵を受けるであろうし、好ましくは末期前又は末期慢性腎疾患或いは慢性腎不全症である。
ここで使用される“腎臓活性分子”は、電解質の再吸収及び保持を促進、又は他の点では腎疾患を治療する為に作用する。例は下記に提供される。
【0039】
ここで使用される、用語“治療”は、治療上の処置、及び予防的又は再発防止の二者に相当する。治療を要する者とは、疾患を患う傾向にある者、又は疾患と診断された者、或いは疾患を予防する者と供に、すでに疾患を患っている者である。継続治療又は投与とは、一日又はそれ以上の治療の中断を除く、少なくとも一日を基本単位とする治療に相当する。間欠治療又は投与、治療又は投与を断続的方法でおこなうことは、連続的ではない治療に相当し、むしろ本質的には循環である。ここにおける治療法は、連続的でも断続的でもよい。
【0040】
ここで使用される、血清交換及び外因性IGFの組織レベルという文脈中の“活性”又は“生物学的に活性”IGFとは、その受容体に結合する、さもなければ、ここで言及される内因性又は外因性IGFの生物活性のような生物活性を生じさせることに相当する。
【0041】
B.発明を実行する為の様式
ここの本発明は、一つの側面において、野生型ヒトIGF−Iの位置16、25、又は49のアミノ酸、或いは天然配列ヒトIGF−Iの位置3及び49がアラニン、グリシン、及び/又はセリン残基と置換されたことに関する。好ましくは、当該の1個又は2個のアミノ酸がアラニン又はグリシン残基、最も好ましくはアラニンと置換される。
【0042】
本発明のペプチドは、化学合成或いは組み替え技術を用いることによって作製することが可能である。これらの技術は、当該技術分野においては知られている技術である。化学合成、特に固相合成法は、短いペプチド(50残基未満)又はD−チロシン、オルニチン、アミノアジピン酸、及びその類似物などの非天然或いは異常アミノ酸を含むペプチドの合成に好まれる。組み替え法は、長いペプチドに好まれる。組み替え法が選択された場合には、合成遺伝子がデノボ合成される、又は天然遺伝子が、例えばカセット式変異誘発法によって構築される。下記に示されるのは、模範的な一般的組み換え法である。
精製IGF及びそのアミノ酸配列から、例えば組み替えDNA技術によってIGF親分子のペプチジル変異体であるIGF変異体の生成が可能である。これらの技術は、簡略化された形で、天然又は合成であろうと、ペプチドをコードする遺伝子を取り出す;遺伝子を適切なベクターへ挿入する;ベクターを適切な宿主へ挿入する;遺伝子発現の為に宿主を培養する;それによって生産されたそしてペプチドを回収又は単離すことを意図する。好ましくは、回収されたペプチドは、その後、相応する程度まで精製される。
【0043】
若干より詳しくは、ペプチジルIGF変異体をコードするDNAは、適した宿主で発現するようにクローン化及び操作される。親ペプチドをコードするDNAは、ゲノムライブラリー、ペプチドを発現する細胞のmRNA由来のcDNA、又は合成的に構築されたDNA配列によって得ることが可能である(Sambrook等., Molecular Cloning: A Laboratory Manual(2ded.), Cold Spring Harbor Laboratory, N.Y., 1989)。
そして、親DNAは、宿主細胞の形質転換に使用される適切なプラスミド又はベクターへ挿入される。一般には、宿主との関連において、宿主と適合する種由来の複製及びコントロール配列を含むプラスミドベクターが使用される。ベクターは、通常、形質転換細胞の形質選択を提供できるタンパク質又はペプチドをコードする配列と同様に、複製部位を持つ。
例えば、大腸菌は、大腸菌由来のプラスミドであるpBR322を使用することによって形質転換される(Mandel等., J.Mol.Biol.53:154(1970))。プラスミドは、アンピシリン及びテトラサイクリン耐性遺伝子を含み、それ故に選択が容易な方法を提供する。他のベクターは、発現にしばしば重要な異なったプロモーターのような、異なった特徴を含む。例えば、プラスミドpKK223−3、pDR720、及びpPL−lambdaは、tac、trp、又はPプロモーターを持つ、程なく入手可能な発現ベクターである(Pharmacia biotechnology)。
【0044】
好ましいベクターは、pB0475である。このベクターは、宿主間を往復することを可能にするファージ及び大腸菌の為の複製開始点を有し、それによって突然変異誘発及び発現を容易にする(Cunningham等., Science, 243: 1330-1336(1989); U.S.Pat. No. 5,580,723)。他の好ましいベクターは、pR1T5及びpR1T2Tである(Pharmacia Biotechnology)。これらのベクターは、挿入された遺伝子が融合タンパク質として発現できるように、プロテインAのZドメインが適切なプロモーターに続いて含まれている。
他の好ましいベクターは、前記に示したベクターの適切な特徴を組み合わせることによる標準的技術を使用することで構築が可能である。適切な特徴とは、プロモーター、リボゾーム結合部位、decorsin又はornatin遺伝子、或いは遺伝子融合(プロテインAのZドメイン及びdecorsin又はornatinとそのリンカー)、抗生物質耐性マーカー、及び適切な複製開始点を含む。
【0045】
宿主細胞は、原核生物又は真核生物でよい。原核生物は、親IGF−Iポリペプチド、断片置換ペプチド、及びペプチド変異体を生産する為に、DNA配列のクローニング及び発現の為に好まれる。例えば、大腸菌K−12株294(ATCC No.31446)は、大腸菌B、大腸菌X1776(ATCC No.31537)、及び大腸菌c600及びc600hfl、大腸菌W3110(F−、ガンマ、原栄養/ATCC No.27325)、枯草菌のような桿菌、ネズミチフス菌又はセラチア・マルセッセンス菌のような腸内細菌,及び様々なシュードモナス属と同様に使用される。好ましい原核生物は、大腸菌W3110(ATCC27325)である。原核生物において発現された場合、ペプチドはN末端メチオニン又はホルミルメチオニンを含み、グリコシル化されていない。融合タンパク質の場合は、N末端メチオニン又はホルミルメチオニンが融合タンパク質のアミノ末端に、又は融合タンパク質のシグナル配列が存在する。これらの例は、限定的というよりも実証となることを意図されている。
原核生物に加えて、酵母培養菌、又は多細胞生物由来の細胞のような真核生物が使用することができる。基本的には、そのような全ての細胞が機能する。しかし、関心は脊椎動物細胞についてがもっとも大きく、培養(組織培養)での脊椎動物細胞の増殖は再現性のある方法になっている(Tissue Culture, Academic Press, Kruse and Patterson, editors(1973))。このような有用な宿主株化細胞は、VERO及びHeLa細胞、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)由来の株化細胞、W138,293,BHK、COS−7、及びMDCK株化細胞である。
【0046】
前記方法の変形は、所望するペプチドをコードする遺伝子が、ベクター中の他のタンパク質又は他のタンパク質の断片をコードする遺伝子と関連している場合に、遺伝子融合を意図するものである。これは、所望するペプチドが他のタンパク質又はペプチドと融合し、宿主細胞によって生産される結果となる。「他の」タンパク質又はペプチドとは、多くの場合、細胞から分泌が可能なタンパク質又はペプチドのことで、所望するペプチドの培養液からの単離及び精製、そして所望するペプチドが菌体内に止まる場合に生じる宿主細胞を破壊する必要性を除くことを可能にする。もう一つの方法としては、融合タンパク質は細胞内に発現することが可能である。
遺伝子融合は、必須ではないが、後のこれら遺伝子産物の精製のみならず大腸菌における異種ペプチドの発現を容易にする(Harris, Genetic Engineering, Willianson, R., Ed.(Academic Press, London, Vol.4, 1983), p.127; Ljunguist等., Eur.J.Biochem., 186: 557-561(1989)及びLjungquist等., Eur.J.Biochem., 186: 563-569(1989))。プロテインA融合は、プロテインAの結合、より詳しくはプロテインAのZドメインのIgGへの結合が融合タンパク質の精製の為の「親和性取っ手」を提供することから、頻繁に使用される。多くの異種タンパク質が大腸菌内で直接に発現されると分解されることが知られているが、融合タンパク質として発現された場合は安定である(Marston, Biochem J., 240: 1(1986))。
【0047】
融合タンパク質は、メチオニン、又はヒドロキシアミン、アスパラギン及びグリシン残基間を切断する臭化シアンのような化学薬品を使用することによって切断が可能である。標準的な組み替えDNA技術を使用することによって、これらアミノ酸をコードするヌクレオチド塩基対は、所望するペプチドをコードする遺伝子の5' 末端の即前に挿入することができる。
もう一つの方法としては、融合タンパク質のタンパク質分解による切断を使用することが可能である(Cater, Protein Purification: From Molecular Mechanism to Large-Scale Process, Ladish等., eds.(American Chemical Society Symposium Series No.427,1990), Ch13, page 181-193)。
第Xa因子、トロンビン、及びサブチリシン又はその変異体、他の多数のプロテアーゼが、融合タンパク質の切断に首尾よく使用されている。典型的には、プロテアーゼによる切断を受けやすいペプチドリンカーは、「他の」のタンパク質(例えばプロテインAのZドメイン)と所望するペプチドとの間に挿入される。組み替えDNA技術を使用すると、リンカーをコードするヌクレオチド塩基対は、他のタンパク質をコードする遺伝子又は遺伝子断片の間に挿入される。タンパク質分解による正確なリンカーを含む部分精製融合タンパク質の切断は、その結果、天然融合タンパク質、又は還元型或いは変性融合タンパク質についておこなうことができる。
【0048】
ペプチドは、融合タンパク質として発現した場合は、適切に折り畳まれる或いは折り畳まれないことがある。さらに、切断部位を含有する特定のペプチドリンカーは、プロテアーゼへ接触可能又は接触不可能なことがある。これらの要因が、融合タンパク質は変性及び再折り畳みがなされるべきなのか、もしそうならば、これらの手段を切断の前又は後に用いられるべきなのかを確定する。
変性及び再折り畳みが必要な場合は、通常は、ペプチドは塩酸グアニジンのようなカオトロピック剤によって処理され、その後、例えばペプチドが天然構造へと再折り畳むような適切な割合、pH、及び温度において、還元及び酸化型ジチオスレイトール又はグルタチオンを含有する酸化還元緩衝液によって処理される。
【0049】
ペプチドが組み替えDNA技術によって調製されない場合は、ペプチドは、一般的に、Merrifield, J.Am.Chem.Soc., 85: 2149(1963)に記載されているような固相合成法によって調製されるが、当該技術分野において周知である他の同等な化学合成法も使用可能である。固相合成は、保護されたα−アミノ酸を適合する樹脂と連結することによってC末端から開始する。そのような開始物質は、α−アミノ基が保護されたアミノ酸をクロロメチル化された樹脂又はヒドロキシメチル化された樹脂にへエステル結合すること、又はBHA樹脂或いはMBHA樹脂へアミド結合することによって調製が可能である。ヒドロキシメチル化樹脂の調製方法は、Bodansky等., Chem.Ind.(London), 38: 1597-1598(1966)に記載されている。クロロメチル化樹脂は、BioRad Laboratories, Richmond, CA 及び Lab. system, Inc.より入手可能である。そのような樹脂の調製方法は、Stwart等., "Sold Phase Peptide Synthesis"(Freeman & Co., San Francisco 1969), 第1章, pp.1-6 に記載されている。BHA及びMBHA樹脂担体は、商業的に入手可能で、一般的には、合成された所望のポリペプチドが、C末端に置換されていないアミドを有している場合のみに使用される。
【0050】
アミノ酸は、ペプチド結合の形成に関する技術分野のにおいて周知の技術を使用することによりペプチド鎖と連結される。一つの方法は、カルボキシル基のペプチド断片の遊離N末端アミノ基との反応をさらに受けやすくする誘導体へとアミノ酸を変換することを含む。例えば、アミノ酸は、保護されたアミノ酸のクロロギ酸エチル、クロロギ酸フェニル、sec−クロロギ酸ブチル、クロロギ酸イソブチル、塩化ピバロイル、又は類似の酸塩化物との反応によって混合無水酸化物への変換が可能である。他の選択としては、アミノ酸は、2,4,5−トリクロロフェニルエステル、ペンタクロロフェニルエステル、ペンタフルオロフェニルエステル、p−ニトロフェニルエステル、N−ヒドロキシスクシニミドエステル、又はエステル型の1−ヒドロキシベンゾトリアゾールなどの活性型エステルへ変換へ可能である。
その他のカップリング法は、N,N'−ジシクロヘキシルカルボジイミド又はN,N'−ジイソプロピルカルボジイミドなどの適したカップリング剤を使用することを含む。他のカップリング剤で、当該技術に熟練している者に明らかなものは、E.Gross & J.Meienhofer, The Peptide: Analysis, Structure, Biology, Vol.I: Major Method of Peptide Bond Formation(Academic Press, New York, 1979)に記載されている。
【0051】
ペプチド合成に使用される各々のアミノ酸のα−アミノ酸基は、側鎖がそれらの活性α−アミノ機能に関与することを防ぐ為に、カップリング反応中は保護されるべきことが認識されなければならない。あるアミノ酸が反応性の側鎖機能基(例えば、メルカプト(スルフヒドリル)、アミノ、カルボキシ、及び水酸基(ヒドロキシ))を有し、そのような機能基は、初期とそれに続くカップリング段階において、適した保護基によって化学反応から同じく保護されなければならないことも認識されなければならない。当該技術分野で知られている適した保護基は、Gross & .Meienhofer, The Peptide: Analysis, Structure, Biology, Vol.3:" Protection of Functional Groups in Peptide Synthesis"(Academic Press, New York, 1981)に記載されている。
【0052】
ペプチド合成に使用される特定の側鎖保護基の選択では、次の一般的規則が順守される。
α−アミノ保護基は(a)カップリング反応が用いられている条件下においては、α−アミノ機能を不活性にする、(b)側鎖保護基を除かない及びペプチド断片の構造を改変しない条件下においては、カップリング反応後は容易に除去可能でなけれならない、(c)カップリング直前の活性化においては、ラセミ化の可能性を除去しなければならない。側鎖保護基は(a)カップリング反応が用いられている条件下においては、側鎖機能基を不活性にする、(b)α−アミノ保護基を除去の際に用いられている条件下では、安定でなけれならない、(c)ペプチド鎖の構造を改変しない条件下では、所望のアミノ酸ペプチドの完成時には容易に除去可能でなければならない。
【0053】
ペプチド合成に有用な保護基が、それらの除去の為に使用される薬剤との反応性によって変わることは、当該技術分野に熟練した者には明らかなことである。例えば、トリフェニルメチル及び2−(p−ビフェニニル)イソプロピキシルカルボニルのようなある保護基は、温和な酸性の条件においては、非常に弱くそして開裂する可能性がある。t−ブチルロキシカルボニル(BOC)、t−アミロキシカルボニル、アダマンチル−オキシカルボニル、及びp−メトキシベンジルオキシカルボニルのような他の保護基は、不安定とは言えず、トリフロオロ酢酸塩、塩酸、又は酢酸中の三フッ化ホウ素などの中程度の強酸性をそれらの除去の為に必要とする。さらには、ベンゾイルオキシカルボニル(CBZ又はZ)、ハロベンゾイルオキシカルボニル、p−ニトロベンゾイルオキシカルボニル、シクロアルキルオキシカルボニル、及びイソプロピルオキシカルボニルなどの他の保護基は、やはり不安定とは言えず、フッ化水素、臭化水素、又はトリフルオロ酢酸中のホウ化トリフルオロ酢酸などの強酸をそれらの除去の為に必要とする。
有用なアミノ酸保護基の種類は:
【0054】
(1)α-アミノ酸基については、(a)芳香族ウレタン型保護基、例えばフルオレニルメチルカルボニル(FMOC)CBZ、及び置換されたCBZ、例えばp-クロロベンジルオキシカルボニル、p-6-ニトロベンジルオキシカルボニル、p-ブロモベンジルカルボニル及びp-メトキシベンジルオキシカルボニル、o-クロロベンジルオキシカルボニル、2,4-ジクロロベンジルオキシカルボニル、2,6-ジクロロベンジルオキシカルボニルなど;(b)脂肪族ウレタン型保護基、例えばBOC、t-アミルオキシカルボニル、イソプロピルオキシカルボニル、2-(p-ビフェニリル)-イソプロピルオキシカルボニル、アリールオキシカルボニルなど;(c)シクロアルキルウレタン型保護基、例えばシクロペンチルオキシカルボニル、アダマンチルオキシカルボニル、及びシクロへキシルオキシカルボニル;及び(d)アリールカルボニル。好ましいα-アミノ保護基はBOC及びFMOCである。
(2)Lysに存在する側鎖アミノ基については、保護は、BOC、p-クロロベンジルオキシカルボニル等といった上記(1)に述べた任意の基によってなされる。
(3)Argのグアニジド基については、保護は、ニトロ、トシル、CBZ、アダマンチルオキシカルボニル、2,2,5,7,8-ペンタメチルクロマン-6-スルホニル又は2,3,6-トリメチル-4-メトキシフェニルスルホニル、又はBOCによってなされる。
(4)Ser、Thr、又はTyrのヒドロキシル基については、保護は、例えば、Cl−C4アルキル、例えばt-ブチル;ベンジル(BZL);置換BZL、例えばp-メトキシベンジル、p-ニトロベンジル、p-クロロベンジル、o-クロロベンジル、及び2,6-ジクロロベンジル。
(5)Asp又はGluのカルボキシル基については、保護は、例えば、BZL、t-ブチル、シクロへキシル、シクロペンチルなどの基を用いたエステル化によってなされる。
(6)Hisのイミダゾール窒素については、トシル部が好ましく使用される。
(7)Tyrのフェノール性ヒドロキシル基については、テトラヒドロピラニル、tert-ブチル、トリチル、BZL、クロロベンジル、4-ブロモベンジル、又は2,6-ジクロロベンジルなどの保護基が好ましく使用される。好ましい保護基は2,6-ジクロロベンジルである。
(8)Asn又はGlnの側鎖アミノ基については、キサンチル(Xan)が好ましく用いられる。
(9)Metについては、アミノ酸は好ましくは保護せずに残す。
(10)Cysのチオ基については、p-メトキシベンジルが典型的に用いられる。
【0055】
C-末端アミノ酸、例えばLysは、N-アミノ位置において適切に選択された保護基、Lysの場合はBOCによって保護される。BOC-Lys-OHは、最初にベンジルヒドリルアミン又はクロロメチル化樹脂に、Horiki等, Chemistry Letters, 165-168 (1978)に記載された方法に従って又はイソプロピルカルボジイミドを用いて約25℃で2時間攪拌しながら結合させる。BOC保護アミノ酸の樹脂支持体への結合に続いて、α-アミノ酸保護基を、塩化メチレン中のトリフルオロ酢酸(TFA)又はTFA単品を用いるなどして除去する。脱保護は、約0℃から室温までの温度で実施する。他の標準的な開裂試薬、例えばジオキサン中のHCl、及び特定のα-アミノ保護基の除去条件は文献に記載されている。
【0056】
α-アミノ保護基の除去の後、残ったα-アミノ及び側鎖保護アミノ酸を望まれる順序で段階的に結合させる。合成において各アミノ酸を別々に添加する代わりに、固相合成機に添加する前に互いに結合させてよいものもある。適当なカップリング試薬は当業者の技量の範囲内である。カップリング試薬として特に好ましいのは、N,N'-ジシクロヘキシルカルボジイミド又はジイソプロピルカルボジイミドである。
各保護アミノ酸又はアミノ酸配列は固相反応器に過剰に導入し、ジメチルホルムアミド(DMF)又はCHCl又はそれらの混合物の媒体中でカップリングを適切に実施させる。不完全なカップリングが生じた場合、次のアミノ酸のカップリングに先立つN-アミノ保護基を除去する前にカップリング方法を繰り返す。合成の各段階でのカップリング反応の成功を監視してもよい。合成を監視する好ましい方法は、Kaiser等, Anal. Biochem., 34: 595 (1970)に記載されたニンヒドリン反応である。カップリング反応は、周知の方法、例えばBIOSEARCH 9500(商品名)ペプチド合成機を使用して自動的に実施できる。
【0057】
所望のペプチド配列が完成したら、保護ペプチドを樹脂支持体から切断し、全ての保護基を除去しなければならない。切断反応及び保護基の除去は、同時に又は段階的に好ましく達成される。樹脂支持体がクロロメチル化ポリスチレン樹脂である場合、ペプチドを樹脂に繋留している結合は、C末端残基の遊離カルボキシル基と樹脂マトリクス上に存在する多数のクロロメチル基の一つの間のエステル結合である。繋留結合は、エステル結合を切断でき樹脂マトリクスを透過できることが知られた試薬によって切断できる。
【0058】
一つの特に便利な方法は、液体無水フッ化水素での処理による。この試薬はペプチドを樹脂から切断するだけでなく、全ての保護基を除去するであろう。従って、この試薬を使用することは、完全に保護されたペプチドを直接に生じる。クロロメチル化樹脂を使用した場合、フッ化水素処理は遊離のペプチド酸の形成をもたらす。ベンズヒドリルアミン樹脂を使用した場合、フッ化水素処理により直接に遊離のペプチドアミンとなる。アニソール及びジメチルスルホキシドの存在下での0℃で1時間のフッ化水素との反応は、同時に側鎖保護基を除去し、樹脂からペプチドを解放する。
保護基を除去することなくペプチドを切断することが望まれる場合、保護ペプチド−樹脂にメタノール分解を施して、C-末端カルボキシル基がメチル化された保護ペプチドを生成させることができる。このメチルエステルは、次いで、温和なアルカリ条件下で遊離のC-末端カルボキシル基を与える。次いで、ペプチド鎖上の保護基を液体フッ化水素などの強酸で処理することにより除去する。メタノール分解についての特に有用な技術は、Moore等, Peptides, Proc. Fifth Amer. Pept. Symp., M. Goodman及びJ. Meinhofer, 編, (John Wiley, N.Y., 1977), p. 518-521のものであり、そこでは保護ペプチド−樹脂がクラウンエーテルの存在下でメタノール及びシアン化カリウムで処理される。
【0059】
クロロメチル化樹脂を使用した場合に保護されたペプチドを樹脂から切断する他の方法は、加アンモニア分解又はヒドラジンでの処理である。必要ならば、得られるC-末端アミド又はヒドラジドは加水分解して遊離のC-末端カルボキシル部とでき、保護基は従来技術により除去できる。
また、N-末端α-アミノ基に存在する保護基も、保護ペプチドが支持体から切断される前又は後に優先的に除去してよいと認められる。
本発明のポリペプチドの精製は、典型的には従来の手法、例えば分離用HPLC(逆相HPLCを含む)又は他の周知のクロマトグラフィ技術、例えばゲル浸透、イオン交換、分配クロマトグラフィ、アフィニティクロマトグラフィ(モノクローナル抗体カラムを含む)、又は向流分配によって達成される。
【0060】
本発明のペプチドは、重合によって安定化させてもよい。これは、モノマー鎖を多官能性架橋試薬で直接的に、又は多官能性ポリマーを介して間接的に架橋させることにより達成される。通常は、2つの実質的に同一のポリペプチドが、二官能性架橋試薬を用いてそれらのC-又はN-末端において架橋する。試薬は、末端アミノ及び/又はカルボキシル基を架橋するために使用される。一般に、両末端カルボキシル基又は両末端アミノ基が互いに架橋するが、適切な架橋試薬を選択することにより、一方のポリペプチドのアルファアミノが他方のポリペプチドの末端カルボキシル基と架橋する。好ましくは、ポリペプチドはそれらのC-末端においてシステインで置換されている。この分野で良く知られた条件下で、末端システイン間でジスルフィド結合が形成され、それによりポリペプチド鎖が架橋される。例えば、ジスルフィド架橋は、遊離のシステインの金属触媒酸化により又は適切に修飾されたシステイン残基の求核置換によって便利に形成される。架橋試薬の選択は、ポリペプチドに存在するアミノ酸の反応性側鎖の個性に依存するであろう。例えば、ジスルフィド架橋は、システインがポリペプチドのC-末端以外のさらなる部位に存在する場合には好ましくないであろう。また、この範囲には、メチレン架橋で架橋したペプチドも包含される。
【0061】
N-末端アミノ及びCー末端カルボキシル基以外の、ペプチド上の好適な架橋部位は、リジン残基上に見られるイプシロンアミノ基、並びにペプチドの内部残基又はフランキング配列に導入された残基の側鎖に位置するアミノ、イミノ、カルボキシル、スルフヒドリル及びヒドロキシル基を含む。外部から添加された架橋試薬を介する架橋は、例えば、当業者に馴染み深い多くの試薬を用いて、例えば、ポリペプチドのカルボジイミド処理を介して適当に達成される。好適な多官能性(通常は二官能性)架橋試薬の他の例は文献に見いだされる。
本発明のペプチドは、環化によって立体配置的に安定化させてもよい。ペプチドは通常、一のペプチドの−及びC-末端ドメインを本発明の他のペプチドの対応するドメインに共有結合させることにより環化され、2又はそれ以上の反復ペプチド配列を含み、各反復ペプチドが実質的に同じ配列を有するシクロ-オリゴマーを形成する。さらに、環化したペプチド(シクロ-オリゴマー又はシクロ-モノマーのいずれか)は、架橋して1−3の環状構造を形成し、その中には2から6のペプチドが含まれる。ペプチドは好ましくはα-アミノ及び主鎖カルボキシル基(頭部から尾部)を介して共有結合せず、−及びC-末端ドメインに位置する残基の側鎖を介して架橋する。よって結合部位は一般に残基の側鎖間になるであろう。
【0062】
ここで考慮されるようなモノ-又はポリ環化ペプチドを調製するために、多くの好適な方法自体は知られている。Lys/Asp環化は、Lys/AspについてFmoc/9-フルオレニルメチル(OFm)側鎖保護を持つ固相支持体上でNa-Boc-アミノ酸を用いて達成され;この方法は、環化に続くピペリジン処理によって完了する。
Glu及びLys側鎖も、環状又は二環状ペプチドの調製において架橋され;このペプチドはp-メチルベンズヒドリルアミン樹脂上の固相化学によって合成される。ペプチドは樹脂から切断されて脱保護される。環状ペプチドは、希釈メチルホルムアミド中のジフェニルホスホリルアジドを用いて形成される。これに代わる方法については、Schiller等, Peptide Protein Res., 25: 171-177 (1985)を参照のこと。米国特許第4,547,489号参照。
【0063】
ジスルフィド架橋又は環化されたペプチドは従来の方法により生成される。Pelton等(J. Med. Chem., 29: 2370-2375 (1986))の方法は、シクロ-モノマーの調製についてPelton等に記載された希釈反応混合物よりも濃厚な溶液中で反応を実施することにより多くの割合でシクロ-オリゴマーが生成されることを除いて好ましい。同じ化学は、ダイマー又はシクロ-オリゴマー又はシクロ-モノマーの合成に有用である。また有用なのはチオメチレン架橋である。Lebl及びHruby, Tetrahedron Letters, 25: 2067-2068 (1984)。また、Cody等, J. Med. Chem., 28: 583 (1985)参照。
望ましい環状又は重合性ポリペプチドは、ゲル濾過に次ぐ逆相高圧液体クロマトグラフィ又は他の従来の手法により精製される。ペプチドは滅菌濾過され、従来からの薬理学的に許容される媒体中に処方される。
【0064】
ここに記載するプロセス必要とされる出発材料は文献で知られているか、又は周知の方法及び周知の出発材料から調製できる。
4つの異なる置換基に結合した炭素原子から生成されたペプチドが不斉の場合、ペプチドはジアステレオマー、エナンチオマー又はそれらの混合物として存在しうる。上記の合成は、出発材料又は中間体としてラセミ化合物、エナンチオマー又はジアステレオマーを用いてもよい。そのような合成から得られるジアステレオマー生成物は、クロマトグラフィ又は結晶化法によって分離しうる。同様に、エナンチオマー混合物は、同様の技術又はこの分野で知られた他の技術によって分離してよい。各不斉炭素原子は、存在する場合は、2つの立体配置R又はSの一方でよく、それらともに本発明の範囲内である。
【0065】
本発明のペプチドは、経口、非経口(例えば、筋肉内、腹腔内、静脈内、又は皮下注射或いは注入、又は移植)、経鼻、肺、膣、直腸、舌下、又は投与の局所的方法を含む全ての適切な方法による哺乳類への投与が可能であり、各々の投与方法に適した投薬形態を定式化することができる。具体的なの投与方法は、例えば、ペプチドを使用することによる副作用で感知又は予知されるもの全て、投与されているペプチドの種類、及び治されるべき特定の種類の疾患を含む患者の病歴によって決まる。最も好ましくは、投与は、連続注入(例えば、遅放出装置、又は浸透ポンプ或いは皮膚用パッチ剤のような小型ポンプ)、又は注射(例えば、静脈又は皮下の方法)による。
治療に使用されるペプチドは定式化され、そして良い医療診断、患者個人の臨床状況(特にペプチドによる治療の副作用)、疾患の種類、ペプチドの到達部位、投与方法、投与予定、及び開業医が把握している他の要因を考慮することと一致する方法で投薬される。従って、ここにおける目的の為のペプチドの有効量は、このような考慮によって定められ、量は哺乳類と所望する効果にとって薬の生物学的利用能とならなければならない。
【0066】
好ましい投与とは、IGF−Iの効果を再生するための、約4−8週間に渡る1日に2回の慢性投与である。注射が好ましいが、連続皮下(SC)注入のための輸液用器具を使用することによる慢性輸液も用いることができる。静脈内嚢溶液も用いることができる。問題の疾患への適切な投与量を選択するための重要な要因は、測定により得られた結果で、糖尿病の場合では、例えば、標準範囲を概算するための血中ブドウ糖の減少、又は医師によって判断される疾患の治療方法を評価する他の基準である。
一般的な考え方としては、一服の非経口投与された薬学的に有効なペプチドの量は、用量反応曲線によって測定可能な範囲にある。例えば、IGFBPに結合したIGF又は血中IGFは、服用を決めるための治療を受けている哺乳類の体液によって測定が可能である。代替方法としては、増加するペプチドを患者へ投与し、IGF−I及びIGF−IIのために患者の血清レベルを調べることができる。下記の実施例3にある、ヒト血清中のIGFBPをIGF−Iトレーサーに置換することを参照のこと。
特に、ペプチドの適切な服用を決める一つの方法は、体又は血中などの生物的体液中のIGFレベルの測定を伴う。それらを測定する方法は、RIA及びELISAを含むすべての方法によっておこなうことが可能である。IGFレベルを測定した後、単回投与又は複数回投与の使用により体液はペプチドと接触する。この接触段階の後、IGFレベルは体液中で再測定される。体液中のIGFレベルが所望する効力が生じるための十分な量によって低下した場合、その場合は、その分子の服用は最高の効力が生じるように調製可能である。この方法は、インビトロ又はインビボで実行できる。好ましくは、この方法は、インビボで実行される、すなわち体液が哺乳類から抽出され、IGFレベルが測定された後、ここでのポリペプチドは単回又は複数回投与の使用によって投与され(すなわち、接触回数は哺乳類への投与によって達成される)、そしてIGFレベルは、哺乳類から抽出された体液から測定される。
【0067】
服用を決定するもう一つの方法は、ペプチドへの抗体又はLIFAフォーマットにおけるもう一つのペプチドの検出方法を使用することである。これは、IGFBPへ結合している内因性又は外因性IGF及びIGFBPへ結合しているペプチドの量の検出を可能にする。
服用を決めるもう一つの方法は、血中の“遊離”又は活性IGFのレベルを測定することであろう。ある用途においては、“遊離”IGFのレベルは、効力及び有効服用量又は服用の適切な指標である。
【0068】
例えば、一つの方法は、IGF結合タンパク質に結合した内因性又は外因性IGF、又はここにおけるペプチドの総量の検出、或いは生物体液中の非結合IGFレベルの検出することが記載されている。この方法は、次を含む:
(a)体液を1)ペプチドの存在下において、IGF結合部位がIGF結合タンパク質との結合に利用可能な状態でペプチド上に残存するような固相担体へ付着したポリペプチド(例えば、ペプチド上のエピトープの第一抗体)に対して特異的なペプチドを検出する媒介と接触させ、その結果によって媒介とIGF結合タンパク質間に複合体を形成する;及び2)一定の期間中に、IGF結合タンパク質上の全ての利用可能なIGF結合部位を飽和するの十分なペプチドと接触させ、その結果によって飽和複合体を形成する;
(b)ペプチドがIGF結合タンパク質と結合している時に、結合に利用可能なIGF結合タンパク質(IGFBP上のエピトープに特異的な第二抗体のような)へ特異的な検出可能なラベルされた第二の媒介と飽和複合体を接触させる;及び
(c)生物体液中のIGFBPの指標として結合しているラベル化媒介の総量、及びそれから体液中に存在する結合したペプチドの総量、IGF結合タンパク質、結合したIGF,又は活性IGFの指標として結合しているラベル化媒介の総量の数量的な分析。
前記の方法により投薬量を決定すると、一般的に、使用するペプチドの総量の見積もりが可能である、すなわち、前記に記したように、この方法はかなりの治療上の自由裁量が前提としているが、患者の体重のkgに基づいて、約10μg/kg/日から200μg/kg/日が使用可能である。例えば、慢性腎疾患の治療においては、一日の投与量は、好ましくは約10から160μg/kg、より好ましくは20から100μg/kg、そして最も好ましくは約25から75μg/kgである。
【0069】
さらなる方法が、特定のIGFBP上のIGFの分布を見積もるために提供されている、例えば、IGFBP−1又はIGFBP−3に関してLIFAフォーマットを使用ことである。
ペプチドは、徐放性システムによって適正に投与される。徐放性組成物の適正な例は、造形品の形の半浸透性ポリマー基質、例えばフイルム、又はマイクロカプセルを含む。半浸透性ポリマー基質は、ポリ乳酸(U.S. Pat. No. 3,773,919. EP58, 481)、L-グルタミン酸とγ-エチル-L-グルタミン酸の共重合体(Sidman等., Biopolymers, 22,547-556(1983))、ポリ(2-ヒドロキシエチルメタクリル酸)(Langer等., J.Biomed.Mater.Res., 15:167-277(1981), 及びLanger, Chem.Tech., 12: 98-105(1982))、エチレンビニル酢酸(Langer等., 同上)又はポリ-D-(-)-3-ヒドロキシ酪酸(EP 133,988)を含む。徐放性組成物は、また、リポソーム包含ペプチドを含む。ペプチドを包含するリポソームは、それ自体で知られている方法で調整される:DE 3,218,121;Epstein等., Pro. Natl. Acad. Sci. U.S.A., 82: 3688-3692(1985);Hwang等., Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A., 77: 4030-4034(1980);EP 52,322;EP 36,676;EP 88, 046;EP 143,949;EP 142,641;Japanese Pat. Appln. 83-118008;U.S. Pat. Nos. 4,485,045 及び4,544,545;及びEP 102,324。通常、リポソームは脂質含有量が約30モルパーセントコレステロールを越える小さな単層形(約200から800オームストロング)で、その選択された部分は最も効果的な治療のために調節されている。
【0070】
長い寿命を有するポリエチレングリコール化されたペプチドを、例えば、1995年11月30日に公開されたWO95/32003に記載の共役技術に基づいて利用することも可能である。
非経口投与のためには、一実施態様は、ペプチドは、一般的に、製薬的、或いは非経口的に許容可能な担体、すなわち使用投薬量及び濃度が投与対象者にとって無毒、そして製剤中の他の成分と共存可能な担体と供に所望する純度でそれぞれを単位投与量の注射可能な形態(溶液、懸濁液、又は乳濁液)の中で混合することによって製剤化される。例えば、製剤は、好ましくは酸化剤、及びポリペプチドに対して有害だと知られている他のペプチドを含まない。
一般的に、製剤は、ペプチドを均等且つ密接に液体担体又は細粒固体担体、或いは両方と接触させることによって調製される。そして、必要ならば、産物は所望の製剤形態へ成形される。好ましくは、担体は非経口担体で、さらに好ましくは、溶液は、受給者の血液と等張である。そのような担体媒介物の例としては、水、生理食塩水、リンガー液、緩衝化された溶液、デキストロース液を含む。非溶液媒介物、不揮発性油及びオレイン酸エチルなどもここでは有用である。
【0071】
担体は、等張性及び化学的安定性を高める物質のような微量の添加物を適当に含んでいる。このような物質は、使用投与量及び濃度において投与対象者へは無毒であり、リン酸、クエン酸、コハク酸などの緩衝液、及び有機酸とそれらの塩類;アスコルビン酸などの抗酸化剤;低分子量(10残基より少ない)ポリペプチド、例えばポリアルギニン又はトリペプチド;血清アルブミン、ゼラチン、又はイムノグロブリンなどのタンパク質;ポリビニルピロリドンなどの親水性ポリマー;グリシン;グルタミン酸、アスパラギン酸、ヒスチジン、又はアルギニンのようなアミノ酸;単糖類、二糖類、及びセルロース又はその誘導体、グルコース、マンノース、トレハロース、又はデキストリンを含む他の炭水化物;EDTA(エチレンジアミン4酢酸)などのキレート剤;マンニトール又はソルビトールなどの糖アルコール;ナトリウムなどの対イオン;ポリソルベート、poloamers、又はポリエチレングリコール(PEG);及び/又は塩類、例えばNaCl、KCl、MgCl、CaClなどを含む。
ペプチドは、一般的に、これら媒介物中でpH4.5又はおよそ4.5から8で製剤化される。前記の賦形剤、担体、又は安定化剤のいくつかの使用が、塩類やペプチドを形成する結果となることは理解される。最終調製は、安定な液体又は凍結乾燥固形物となる。
【0072】
製薬的組成物としてのペプチドの典型的な製剤形態が、下記に論じられている。一般に受け入れている製薬的な慣習を必要とするように、遊離酸又は塩基の形或いは製薬的に許容可能な塩としての、およそ0.5から500mgのペプチド又はペプチドの混合物は、製薬的に許容可能な媒介物、担体、賦形剤、結合剤、保存剤、安定剤、香料、などと混合される。これら組成物の活性成分の総量はこのようなので、示唆された範囲内の適正な投薬量が得られる。
治療投与に使用されるペプチドは、無菌でなければならない。無菌性は、無菌濾過膜(例えば、0.2ミクロンの膜)による濾過によって容易に達成する。一般的に、治療組成物は、例えば静脈注射用の溶液袋、又は皮下注射針により穴をあけることが可能な栓を有するバイアルなど、無菌引き込み口を有する容器へ配置される。
【0073】
通常、ペプチドは、例えば、封管されたアンプル又はバイアルに、水溶液又は再構成用の凍結乾燥製剤として、単一又は多投与量容器に貯蔵される。凍結乾燥製剤の例としては、10-mLバイアルを5mLの無菌濾過済みの1%(W/V)ペプチド水溶液で満たし、この混合物を凍結乾燥する。注入液は、静菌性の注射用水を使用する凍結乾燥ペプチドの再構成によって調製する。
ここにおけるペプチドと、血中IGFを増加させる又はペプチドの効果を促進する一つ或いはさらに他の適正な試薬による併用療法も、本発明の一部である。一般的に、これらの試薬は、ここにおけるペプチドが生成IGFを放出することを可能にする。例えば、ペプチドとの組み合わせでは、他の活性分子を投与することが望ましい。例えば、消耗又は異化状態のためには、ペプチドはMEGASETMのような食欲促進剤と共に投与することが可能である。
その上、ペプチドは適正に投与され、投与のための受容体又は抗体或いは抗体断片と結合する。
さらなる併用療法は、ヒト成長ホルモン、IGFBP−3、IGFBP−5のような成長ホルモンを含む。
【0074】
高血糖性疾患の治療では、ペプチドは、スルホニル尿素又は全ての種類のインシュリンのような高血糖剤の有効量とと共に適切に投与される。高血糖剤は、非経口、鼻腔内、経口、又は他の全ての効果的なルートを含む全ての適切な手法によって哺乳類へ投与される。最も好ましくは、投与は経口ルートである。例えば、アップジョンより1.25、2.5、5mg錠剤濃度で市販されているMICRONASETM錠剤(グリブリド)は、経口投与に適している。この疾患に処方されるII型糖尿病用の通常継続投与量は、一般的には、1.25から20mg/日又はおよそその範囲で、単回投与又は適正と判断される一日当たりの分割投与で与えられる(Physician's Desk Reference, 2563-2565(1995))。処方に使用可能なグリブリドを基礎とする錠剤の他の例は、GLYNASETM商標薬(アップジョン)及びDIABETATM商標薬(ヘキスト-ルセル)を含む。GLUCOTROLTM(プラット)は、グリピシド(1-シクロヘキサン-3-[p-[2-(5-メチルピラジンカルボキシアミド)エチル]フェニル]スルフォニル]尿素)錠剤の登録商標で、5及び10mg効力の両方が入手可能で、さらには食事療法に続き低血糖症の治療を必要とするII型糖尿病患者、又は他のスルホニル尿素へ反応しなくなった患者へ処方される(Physician's Desk Reference, 1902-1903(1995))。ビグアナイド剤(メトホルミン及びフェンホルミン)又はtroglitozoneのようなスルホニル尿素以外の低血糖剤、或いはインシュリンの作用へ影響する他の薬剤の使用も可能である。
【0075】
うっ血性心臓疾患の治療においては、体血管抵抗の低減及び循環性うっ血の軽減に対して、ACE阻害剤がここにおけるペプチドとともに有用である可能性がある。ACE阻害剤は、これら登録商標で命名されたものには限定されないが、Accupril(登録商標、quinapril)、Altrace(登録商標、ramipril)、Capoten(登録商標、captopril)、Lotensin(登録商標、benazepril)、Monopril(登録商標、fosinopril)、Prinivil(登録商標、lisinopril)、Vasotec(登録商標、enalapril)、及びZestril(登録商標、lisinopril)を含む。ACE阻害剤の一例は、登録商標Capoten(登録商標)で売られている。無商標ではcaptoprilとなるこのACE阻害剤は、化学的には1-[(2S)-3-メルカプト-2-メチルプロピオニル]-L-プロリンと表される。
腎疾患では、ペプチドは、例えば心房性ナトリウム利尿ペプチド(ANP)、ANP類似体、又は受容体活性を有する或いは有しないそれの全ての変異体、urodilatin、ヒトB型ナトリウム利尿性ペプチド(BNP)、アンジオテンシン受容体アンタゴニスト、バソプレシン及びその類似体のような電解質の再吸収と保持を促進する腎活性分子、及び抗体又はペプチドアンタゴニストのようなエンドセリンアンタゴニストとともに適切に投与される。一例は、BQ−123(Ihara等., Life Science, 50: 247-250(1992); JP 51-94254A 1993年8月3日公開; Webb等., Biochem. Biophys. Res. Comm., 185: 887-892(1992))で、エンドセリンA受容体の潜在的及び特異的遮断剤であり、エンドセリン−1、CT−1ではなく、マウスLIF、又はフェニレフリンによって誘導される肥大性活性のみを遮断する環状ペンタペプチドである。その他の例は、Ihara等., Biochem. Biophys. Res. Comm., 178: 132-137(1991)によって記載されているBQ−123の親化合物である。さらなる例は、EP 647,236;EP647,449;EP633,259(phenyl-sulfonyl-amino-pyrimidine derivaties);EP601,386(sulfonamide compounds);U.S. Pat. No.5,292,740(phenylsulfonylamidopyrimidines);及びU.S. Pat.No. 5,270,313(phenyl-sulfonyl-aminopyrimidine derivaties)に記載のものを含む。その上、アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害剤は、腎疾患のIGF−I治療に関連して有益である。
【0076】
さらに、食事及び運動療法などのIGFの状況を操作する他の方法も本発明の一部としての併用療法と考えられている。例えば、ペプチドを、ケト酸補助剤などの栄養補助剤との組み合わせる又は組み合わせないENSURETMなどの高カロリーの食事又は食物とともに投与できる。
ここにおける発明は、ペプチドをコードする核酸を使用する哺乳類のための遺伝子治療を使用することも意図している。一般的には、遺伝子治療は、哺乳類のIGFレベルを増加(過剰発現)させるために使用される。ペプチドをコードする核酸は、この目的のために使用される。一度、アミノ酸配列が明らかになると、遺伝子コードの縮重を使用することによって幾つかの核酸分子を作ること、及びその中から遺伝子治療ヘ使用するものを選択することが可能である。
遺伝子治療の目的の為に、核酸(選択的にベクターに含まれる)を患者の細胞へ導入する二つの主要な方法がある:インビボ及びエキソビボである。インビボデリバリーにおいては、普通は、核酸は直接にプチドを必要とする患者の部位ヘ注入される。エキソビボの治療においては、患者の細胞が取り出され、核酸はこれら単離された細胞へ導入され、そして改良された細胞は患者へ直接又は、例えば、患者へ移植される多孔質膜によってカプセル化される。U.S. Patent Nos. 4,892,538 及び5,283,187を参照のこと。
【0077】
生細胞へ核酸を導入することを可能にする多様な技術がある。技術は、核酸をインビトロで培養細胞へ転移するのか、又はインビボで意図された細胞へ転移するのかによって変わる。インビトロで哺乳類細胞へ核酸を転移するのに適した技術は、リポソーム、エレクトロポレーション(電気穿孔法)、マイクロインジェクション(微量注入法)、細胞融合、DEAE−デキストラン、リン酸カルシウム沈降法などを含む。遺伝子のエキソビボ輸送に頻繁に使用されるベクターは、レトロウイルスである。
最近、好まれるインビボの核酸転移技術は、ウイルスベクターによるトランスフェクション(アデノウイルス、,単純疱疹Iウイルス、又はアデノ随伴ウイルスなど)及び脂質を基礎とするシステム(遺伝子の脂質媒介転移に有用な脂質は、DOTMA、DOPE、及びDC−Chol、など)である。ある状況では、細胞表層膜又は標的細胞ヘ特異的な抗体、標的細胞上の受容体へのリガンドなどの標的細胞を標的とする薬剤を核酸のソースへ供給することが望ましい。リポソームが使用された場合は、エンドサイトーシス(飲食作用)と関連している細胞表層膜タンパク質と結合するタンパク質は、標的化及び/又は取り込みを容易にすることに使用される、例えば、キャプシドタンパク質又はそれの断片、特定の細胞の向性、サイクリングで内部移行を受けるタンパク質への抗体、及び細胞内局在化を標的とし、細胞内半減期を増進するタンパク質。受容体媒介エンドサイトーシスの技術は、例えば、Wu等., J.Biol.Chem., 262:4429-4432(1987);及びWanger等., Proc.Natl.Acad.Sci.USA, 87:3410-3414(1990)に記載されている。最近、知られている遺伝子標識及び遺伝子治療の手順は、Anderson等., Science,256:808-813(1992)を参照のこと。WO93/25673及びそれに引用されている参考文献も参照のこと。
【0078】
本発明のために、キットも意図されている。典型的なキットは、製薬的に許容可能な緩衝液にあるペプチドを含むペプチド製剤の為の容器、好ましくはバイアル、及び使用者へ製薬的薬剤を哺乳類のGH/IGF軸の調節不全を特徴とする疾患の治療へ使用することを指示した製品折り込み広告又はラベルのような取扱い説明書を含む。キットは、選択的に、腎疾患のための腎活性分子のような組合せ分子のための容器、好ましくはバイアルを含む。
本発明は、下記の実施例の参照によってさらに十分に理解できる。しかし、それらは、本発明の範囲を制限するように解釈されるべきではない。ここにおいて言及された全ての文献及び特許の引用文は、参考文献によって明白に含まれている。
【0079】
実施例1
IGF−I及び構造変異体のアラニン−スキャンニング突然変異誘発
序:
アラニン−スキャンニング突然変異誘発法(上掲のCunningham及びWells)を用いてIGF−Iの各側鎖のβ炭素を越えた部分を取り除いた。ついでIGFBP−1又はIGFBP−3に対するペプチドの結合の自由エネルギーへのこれらの原子の寄与を競合ファージELISA法によって検査した。このアッセイでは、IGFBP−1又はIGFBP−3を用いてIGF−ファージ変異体がIGFBP−1又はIGFBP−3被覆免疫吸着プレートへ結合するのを阻害する。結合タンパク質の滴定列から結合性(IC50)を計算することができる。幾つかの変異体はまたBIACORETMアッセイにおける直接結合性についても調べた。
実施例では、通常のαアミノ酸は、中間体と最終生成物を指すとき、標準的な一文字又は三文字アミノ酸コードによって記述される。通常のαアミノ酸とはmRNAの指示下でタンパク質内に導入されるアミノ酸を意味する。標準的な略語はメルクインデクス、10版、pp Misc-2−Misc-3に列挙されている。特に断らない限り、通常のαアミノ酸はα炭素原子において自然のもしくは「L」立体配置を有している。「D」がコードの先にくる場合は、これは通常のαアミノ酸とは反対の鏡像異性体を表している。ノルロイシン(Nle)及びオルニチン(Orn)のような改変された又は普通でないαアミノ酸は米国特許商標庁オフィシャルガゼット1114TMOG、1990年5月15日に記載されているように示した。以下に記載するIGF変異体を用いた実験の結果に基づいて、ここに請求されたタイプの分子が治療される患者における活性IGF量を増加させるであろうと予測される。
【0080】
材料と方法:
ファージミドベクターの作成と突然変異誘発
成熟ヒトIGF−Iをコードする遺伝子を、PCRプライマー5'-AGCTGCTTTGATATGCATCTCCCGAAACTCTGTGCGGT-3'(配列番号:4)及び5'-GAGCGATCTGGGTCTAGACAGATTTAGCGGGTTTCAG-3'(配列番号:5)を用いてpBKIGF2B(米国特許第5342763号)から増幅した。得られた断片をNsiI及びXbaIで切断し、先にNsiI及びXbaIで消化させたpH0753中に結合させた。pH0753はphGHam−g3の派生体(Lowman等, Biochemistry, 30: 10832-10838 (1991))であり、アルカリホスファターゼプロモータ(PhoA)の更なるXbaI部位がオリゴヌクレオチド5'-AAAAGGGTATGTAGAGGTTGAGGT-3'(配列番号:6)を用いて欠失させられている。IGF−1オープンリーディングフレームを含む連結ベクターpH0753は、pIGF−g3と命名した。これは、大腸菌バクテリオファージM13由来の遺伝子IIIタンパク質の断片(残基249−406)に融合した二重突然変異G1S−A70Vを有するIGF−1をコードしている。このIGFBP−1及び−3へのIGF−I変異体の結合性は野生型IGF−Iとは区別できないことが分かった。アラニン突然変異誘発は鋳型として一本鎖プラスミドpIGF−g3を用いて実施した(Kunkel等, Methods Enzymol., 204: 125-139 (1991))。システインとアラニンを除くIGF−Iの全ての残基が個々にアラニンに置換された。得られた作成物をDNA配列決定によって検証した。
【0081】
IGFBP−1及び−3へのファージにディスプレイされたIGF変異体の結合性(ファージELISA)
免疫吸着プレート(Nunc, MAXISOR PTM, 96ウェル)を、pH7.2のPBSバッファー中1μg/mLのIGFBP−1又はIGFBP−3を100μl/ウェルで用いて4℃にて一晩かけて被覆した。ついでプレートを室温で2時間の間0.5%のTWEEN20TM/PBS(また結合バッファーとして使用)で阻害した(ウシ血清アルブミンのようなタンパク質様阻害剤は潜在的なIGF又はIGFBP汚染を防止するために避けた)。ファージミドベクターで新しく形質転換した大腸菌細胞(XL1-Blue, Stratagene)をM13−VCSヘルパーファージ(Stratagene)の存在下で5mLの2YT培地(上掲のSambrook等)中で一晩かけて増殖させた。ファージ粒子を収集し、Cabilly, S. (編), Combinatorial Peptide Library Protocols (Humena Press Inc.: Totowa, NJ, 1009), pp.249-264中のLowman, H.B., 「Pharge Dsiplay of Peptide Libraries on Protein Scaffolds」に記載されたようにしてPBSバッファー中に再懸濁させた。ついで、ファージ濃度を基準化し、各変異体に対して0.2−0.4の最大ELISAシグナルを生じさせた(上掲のCabilly, S. (編)のLowman)。可溶型競合体の3倍連続希釈物を、先に決定した濃度でファージを含む結合バッファー(0.5%のTWEENTM20/PBS)で非吸着マイクロタイタープレート(Nunc, F, 96ウェル)上に調製した。競合タンパク質の希釈範囲はIGFBP−1に対して5μmとIGFBP−3に対して500nMで出発して10の規模まで広げた。阻止後、固定化した標的を含むプレートを0.05%のTWEENTM/PBSバッファーで洗浄し、ついで室温で1時間の間80μl/ウェルの前もって混合されているファージ−競合体溶液と共にインキュベートした。洗浄後、結合したファージを、0.5%のTWEENTM/PBS中に一次ウサギ抗ファージポリクローナル抗体と二次ヤギ抗ウサギモノクローナル抗体−西洋わさびペルオキシダーゼ抱合体を含む溶液を80μl/ウェル用いて検出した。o−フェニレンジアミン(Sigma)とテトラメチルベンジジン(Kirkegaard及びPerry)を色素生産物質として使用し、生成物をそれぞれ492及び450nmで検出した。IC50値は、結合データを基準飽和曲線に一致させることにより決定された(上掲のCabilly, S. (編)のLowman)。各IGF−I変異体の少なくとも二つの個々のクローンが検定された。表Iの数は個々に評価されたIC50値の平均±標準偏差を表している。
【0082】
IGFBP−1及びIGFBP−3の発現と精製
Mortensen等, Endocrinology, 138: 2073-2080 (1997)により記載されているようにして、ヒトIGFBP−1をCHO細胞中で発現させ、条件培地から精製した。組換えヒトIGFBP−3をまたクローニングし、哺乳動物細胞で発現させた(Wood等, Mol. Endocrinology, 2: 1176-1185 (1988))。条件培地からの精製は、IGFアフィニティーカラム(Martin及びBaxter, J. Biol. Chem., 261:8754-8760 (1986))を用いて、本質的にIGFBP−1に対して記述された手順に従った。
【0083】
可溶型IGF−I変異体の発現と精製
プラスミドpBKIGF2B(米国特許第5342763号)はPphoAプロモータの制御下でlamBのリーダーペプチドに融合したヒト野生型IGF−Iを発現する。部位特異的突然変異誘発の簡単化のために、ファージf1複製起点(F1 ori)をプラスミドpBKIGF2B中に導入した。そのために、f1 oriを含む466bpのBamHI断片をpH0753から切除し(上掲のLowman,1991)、プラスミドpBKIGF2BをEcoRIで線形化した。ベクターと断片の双方をクレノー酵素で処理して、平滑末端連結に先立って付着末端制限部位を充填した。M13VCSヘルパーファージの存在下で一本鎖ファージミドDNAをつくり出す能力について正しい作成物を選択した。得られたファージミドベクターをpBKIGF2B−f1−oriと名付け、Kunkel等, Methods Enzymol., 204: 125-139 (1991)の手順を使用して対象のIGF−Iala−変異体を作成するために鋳型として用いた。突然変異誘発の各工程はDNA配列決定により確認した。
IGF−I変異体の発現は、IGF−I野生型に対して記述されているようなもの(Joly等, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 95: 2773-2777 (1998))であったが、オキシドレダクターゼの一過性の過剰発現が伴わなかった。精製手順は、過去のプロトコールに基づき(Cleland, J. L. (編), Protein Folding In Vivo and In Vitro (American Chemical Society, Washington,DC, 1993), pp.178-188)中の Chang及びSwartz, "Single-Step Solubilization and Folding of IGF-1 Aggregates from Escherichia coli)、僅かに適合化させた。典型的には、6gの湿った細胞ペースト(24時間成長させた2リットルの低ホスフェート培地と等価)を5mMのEDTAを含むpH7.5の25mMのトリス-HClの150ml中に再懸濁させた。細胞をマイクロフルイダイザー(Microfluidics Corp., Newton, MA)中で溶解させ、蓄積したIGF−I凝集物を含む屈折粒子を12000xgで遠心分離により収集した。屈折粒子を溶解バッファーで2回、1%のN−ラウロイル−サルコシン(Sigma)を含む溶解バッファーで2回洗浄して膜タンパク質を抽出し、溶解バッファーで再び2回洗浄した。洗浄した屈折体を、2Mの尿素、100mMのNaCl、20%のMeOH、及び2mMのDTTを含むpH10.4の50mMのCAPS(3−(シクロヘキシルアミノ)−1−プロパンスルホン酸;Sigma)バッファー中におよそ2mg/mlで再懸濁させた。この手順は屈折体の可溶化と続くIGF−I変異体の酸化リフォールディングを組み合わせるものである(上掲のChangとSwartz)。室温で3時間後、リフォールディング溶液を、50kDaの分子量カットオフ性を持つマイクロコンセントレーター膜(Centricon, Amicon)を通して濾過した。殆どの単量体IGF−Iが溶出液中に回収される一方、より高分子の汚染物は未透過物中に集中していた。この時点で、IGF−I画分は、SDS-PAGE分析から判断したところ、>95%の純度であった。IGFスワップ(二つの非天然ジスルフィドを含む;Hober等, Biochemistry, 31: 1749-1756 (1992);Miller等, Biochemistry, 32: 5203-5213 (1993))から正しくジスルフィド結合したIGF−Iを分離するために、リフォールディング溶液を5%の酢酸で酸性化し、4ml/分でDynamaxTMC18半調製用HPLCカラム(Varian;10.0mmID)に充填した。バッファーはHO/0.1%TFA(A)及びアセトニトリル/0.1%TFA(B)であった。ジスルフィド異性体の分離は次の勾配:0−30%Bを20分、30−45%Bを60分を適用して達成された。IGF−スワップに対する未変性IGF−Iの比は各変異体に対して通常は約2:1であり、IGF−スワップは未変性IGF−Iより先の勾配で溶出した。各変異体の分子量は質量分析により検証した。HPLC精製後に、試料を凍結乾燥し、100mMのHEPESバッファー、pH7.4中におよそ1mg/mlで再構成した。
【0084】
バイオセンサーによる反応速度測定
IGFBP−1とIGFBP−3に対するIGF変異体の結合親和性を、BIACORETM−2000リアルタイム反応速度相互作用分析システム(Biacore, Inc., Piscataway, NJ)を使用して会合(k)速度と解離(k)速度を測定することにより決定した。カルボキシメチル化デキストランバイオセンサーチップ(CM5, BIAcore Inc.)をEDC(N-エチル-N'-(3-ジメチルアミノプロピル)-カルボイミドヒドロクロリド)及びNHS(N-ヒドロキシスクシンイミド)で活性化させた。固定化については、20mMの酢酸ナトリウム、pH4.8中のIGF変異体を50μg/mlの濃度でバイオセンサーチップに注入し、およそ450−600RU(共鳴応答単位)の共有的に結合したタンパク質を生成した。未反応群は1Mのエタノールアミンの注入で阻害した。反応速度の測定を、25℃で20μl/分の流量を用いて、流れるバッファー(PBS、0.05%Tween20、0.1%卵白アルブミン、0.1%アジ化ナトリウム)中IGFBP−1かIGFBP−3の何れかの2倍の連続希釈物(1μMで開始)を注入することにより実施した。会合速度(k)と解離速度(k)はBIACORETM評価ソフトウェア3.0バージョンにおいて1:1のラングミュアー(Langmuir)TM会合モデルを用いて別個に計算した。平行解離定数(K)はk/kとして計算した。
【0085】
結果
IGF−1の一価ファージディスプレイ
IGF−Iの70のアミノ酸残基の迅速かつ包括的なアラニンスキャンのために、タンパク質がファージM12の表面に一価的にディスプレイされるかどうかが最初に決定された(Bass等, Proteins, 8:309-314 (1990))。ファージディスプレイ技術は迅速な一本鎖DNA突然変異誘発の利点を、対応するファージ粒子の単なる単離によって、得られた変異体タンパク質の簡単な生成と組み合わせるものである(例えば上掲のCunningham等, 1994)。成熟ヒトIGF−IがM13遺伝子III産物のカルボキシ末端ドメインに融合されたベクターが作成された。この作成物は大腸菌の細胞膜周辺腔に融合タンパク質を向かわせ、タンパク質の一価ディスプレイを可能にするstIIシグナル配列を含んでいる(上掲のBass等;上掲のLowman等, 1991)。クローニングのために、IGF−1の最初のアミノ酸と最後のアミノ酸を変えた:得られた変異体G1S−A70Vは続くアラニンスキャンニング突然変異誘発のための鋳型作成物として使用した。
IGF−I G1S−A70Vをディスプレイするファージ粒子を単離し、IGFBFに対するその親和性についての結合競合ファージELISA法において検定したとき、その実験で決定されたIC50はIGFBP−1に対しては8.5nM、IGFBP−3に対しては0.5nMであった(図.1)。これらの値は野生型IGF−Iを使用するBIACORETM実験により決定された解離定数(上掲のHeding等)とよく一致している。放射性イムノアッセイ(RIA)により測定された野生型IGF−I親和性は、IGFBP−1に対して〜2.8nM、IGFBP−3に対して〜0.8nMであり、更にファージELISA法から導かれたIC50値を裏付けている。また、IGF−I G1S−A70Vをディスプレイするファージ粒子は、マイクロタイタープレート上に固定した11の独立したモノクローナルマウス抗IGF−I抗体によって効率的に捕捉された。これらの結果を併せると、ディスプレイされたIGF変異体が正しく折り畳まれ、ファージ粒子の表面に接近可能であることが示唆される。
【0086】
IGFBP−1とIGFBP−3へのIGF−I結合のAla−スキャンニング突然変異誘発
G1S−A70VIGF−Iの全ての残基を、4固の未変性アラニン及び6個のシステインを除いて、記述したG1S−A70VIGF−IgIIIベクターを鋳型として使用して、個々にアラニンで置換した。また、単一変異体S1G及びV70A及び野生型IGF−Iを修復する二重変異体を作成した。これらの作成物の各々が大腸菌において発現され、ファージにディスプレイされた。IGFBP−1とIGFBP−3への結合性に対するIC50値は図1に示したような競合ファージELISA法によって測定した。各変異体の少なくとも二つの異なったクローンを試験した。得られたIC50値は表1に列挙し、G1S−A70Vに対する各変異体に対するIC50の減少又は増加は図2にグラフで表す。
【0087】


【0088】
アラニン変異体の大部分はファージELISA法においてIC50値の僅かな変化を生じただけであった。重要なことは、野生型IGF−Iがバックグラウンドにおいてアラニン置換が実施されたG1S−A70Vと同じ親和性をIGFBP−1とIGFBP−3に対して示したことである。アラニンに変化したときほんの僅かな残基だけが有意な(>10倍)親和性の損失を引き起こした:IGFBP−1結合に対してはE3、G7、L10、V11、F25、R36、P39、F49及びP63;IGFBP−3結合に対してV11、R36、P39、及びP63。グリシンとプロリンのala−置換はタンパク質骨格の構造的な攪乱に至りうることを述べておく(Di Cera, Chem. Rev., 98: 1563-1591 (1998))。
結合親和性におけるほんの僅かな緩やかな改善がアラニン置換によって見出された。S1A,D12A及びD45AはIGFBP−1結合性においておよそ2倍の増加を示す一方、S35A及びT41AはIGFNBP−3に対して同様の効果を示した。しかしながら、IC50値の2倍の変化がこれらの実験における精度の限界である。
【0089】
IGFBP特異性決定因子
E3A、G7A、L10A、F25A及びF49はIGFBP−1対IGFBP−3の結合において差次的な効果を示した。これらの5つのIGF−I単一アラニン変異体において、IGFBP−1の相対IC50はIGFBP−3のものとは4倍以上異なっていた(図2;表1、相対的特異性)。E3AとF49Aはこの群において最も大きな相対特異性因子を示した。E3のアラニン置換はIGFBP−3の親和性には実質的に効果を持っておらず(1.4倍)、IGFBP−1への結合は34倍弱くされている。更に劇的なことには、F49Aの親和性はIGFBP−1に対しては100倍以上減少しているがBP−3に対しては3.6倍だけである。この結果は、ファージELISA法による直接の比較において示した。IGF−I F49Aをディスプレイするファージ粒子を可溶型IGFBP−1(図3A)又はIGFBP−3(図3B)の存在下でIGFBP−3被覆ウェルに添加した。IGF−I G1S−A70Vをディスプレイしている対照ファージと比較して、F49Aの結合曲線はIGFBP−1競合において10以上シフトした(図3A)。これに対して、結合曲線はIGFBP−3競合においては同様であり、IC50値の差異はファクター4未満であった(図3B)。よって、E3とF49はIGF−I分子においてIGFBP−1結合のための二つの主要な特異性決定因子である。
残基G7、L10及びF25は、アラニンによって置換されたときIGFBP−3に対するよりもIGFBP−1に対する親和性の顕著な損失を示したが、両方のIGFBPの結合に対して重要であると思われた。IGFBP−3に対しては、IGFBP−3に対してよりもIGFBP−1に対してより強く結合する変異体のような、有意な特異性決定因子は特定されなかった。しかし、変異E9A、D12A、F23A、Y24A、T29A、S34A及びD45AはIGFBP−1結合性についてよりもIGFBP−3に対して僅かに大きな(約2倍)効果を有していた。
【0090】
精製された可溶型IGF変異体のBIACORETM測定
ファージELISA法によって得られた結果の妥当性の確認のために、特異的アラニン変異体を発現させ、BIACORETM装置を用いた反応速度分析のために精製した。野生型IGF−Iの解離定数(K)はIGFBP−1に対しては13nMで、IGFBP−3に対しては1.5nMであると決定された(図5Aと5B;表2)。IGFBPに対する親和性の差異は、IGFBP−3に対するIGF−Iの10倍速い会合速度(k)のためである(3.2x10対3.2x10−1−1)。これらの結果はファージELISAによって測定された絶対IC50値とよく対応している(図1A及び1B;表I)。予想されるように、二重変異体G1S−A70Vは野生型とは本質的に区別ができない反応速度パラメータを示した(表2)。
V11A、R36A及びP39Aは、これらの変異体はファージに正しくディスプレイされなかったので、抗体認識実験(上を参照)に基づいて試験した。R36AとP39Aは双方の結合タンパク質に対して野生型の反応速度を示したが、V11AはIGFBP−1とIGFBP−3の双方に対して親和性の5倍の減少を示した。
更に、可溶型IGF変異体T4Aを試験することが決定された。この残基は以前の刊行物(上掲のBayne等, J. Biol. Chem., 263; 上掲のClemmons等, 1990)においてはIGFBP結合に関連していたが、ここでのファージアッセイでは穏やかな効果を示していた。野生型IGF−Iに対するT4AのK値の増加はファージELISA法により測定されたIC50比よりおよそ2−3倍高かった(表2)。ファージ及びバイオセンサー分析により得られた結果の間の大きな矛盾はF16Aに対して見られた。この場合、二つの方法は因子4だけ異なっていた。
最初のα−へリックス(螺旋)領域における変異はIGFタンパク質構造に不安定化効果を有していることが示されている(上掲のJansson等, 1997)。如何なる理論にも制約を受けるものではないが、ファージの表面上のg3融合タンパク質は再び折り畳まれ精製された可溶型タンパク質よりも更に安定であるかもしれないと思われる。これは、二つの残基が構造的に感受性のN末端へリックスの外側に位置しているF25AとF49Aに対して得られたBIACORETMの結果によって裏付けられている。KとIC50におけるそれぞれの変化はこれらの二つの変異体に対してすばらしく一致している(表2)。IGFBPへの結合に対するF49Aの差次的効果はBIACORETM分析によって確認された。70倍の親和性の減少がIGFBP−1結合に対して測定され(図5C;表2)、IGFBP−3結合性は4倍だけ減少した(図5D;表2)。
【0091】

【0092】
N末端IGF−I残基の役割
驚いたことに、IGFBP−3の相互作用は、IGFBP−3がおよそ10倍高い親和性をもってIGF−Iに結合するという事実にも拘わらず、IGFBP−1との相互作用よりも、アラニン置換に影響を受ける度合いは一般にかなり少なかった。P63Aとは別に、何れのアラニン変異体もIGFBP−3親和性の>6倍の低減を示さなかった(図2と表1)。
バイオセンサーの実験においてdes(1−3)−IGF−Iが25倍低減した親和性でもってIGFBP−3に結合することが過去に示されている(上掲のHeding等)。IGF−Iのこの天然に生じる型は最初の3つのN末端残基を欠いており、おそらくはIGFBP結合性の低減のために分裂促進能力の増加を示す(上掲のBagley等)。最初の3つアミノ酸側鎖の何れもIGFBP−3の結合に対するエネルギーを助長しないにもかかわらず(表1)、des(1−3)−IGF−IがIGFBP−3結合において妥協されるので、如何なる理論に制約されるものではないが、バックボーン相互作用が関与しているかも知れないとの仮説が立てられる。
この仮説は、最初の3個のN末端アミノ酸を置換する三重アラニン変異体(Ala(1−3)-IGF−I)をファージ上にディスプレイすることにより試験された。その領域のバックボーンがIGFBP−3との相互作用に寄与しているならば、この変異体は結合できなければならない。しかし、IGFBP−1への結合性はE3側鎖の欠落のために低減していなければならない(表1)。位置1及び2におけるIGFBP−1との潜在的なバックボーンの相互作用を試験するため、対照としてdes(1−2)−IGF−I変異体を産生した。予想されたように、Ala(1−3)-IGF−IはE3Aと同様にIGFBP−1親和性を減少させたが、IGFBP−3親和性における変化は示さなかった(表1;図2)。des(1−2)−IGF−Iに対しては、双方の結合タンパク質に対して親和性の差は観察されなかった。des(1−3)−IGF−I(上掲のHeding等)に関する知見と併せると、これらの結果は、如何なる理論にも限定されるものではないが、IGF−Iの残基3及び4の間のペプチドバックボーンがIGFBP−3との重要な相互作用を媒介する。
【0093】
検討
IGF−Iの表面上の機能性IGFBP−1及びIGFBP−3結合エピトープがアラニンスキャンニング突然変異誘発により証明された。両方の結合エピトープは図6に示されている。個々のIGF−I側鎖相互作用はIGFBP−3に対してよりもIGFBP−1への結合に対して更に重要な役割を果たしている。二つの主要な結合部分がIGFBP−1に対して見いだされる(図6A)。一つが(G7、L10、V11、L14、F25、I43、及びV44からなる)N末端ヘリックスの上面に位置し、一つが(E3、T4、L5、F16、V17及びL54からなる)下面に位置している。これらの二つの結合部分はF49とR50によって架橋されている。IGFBP−3に対しては、結合エピトープはより散在性であり、G22、F23及びY24を含むようにずれている(図6B)。IGFBP−3の結合性は一般にアラニン置換にはあまり感受性ではない。実際、親和性の最も大なる減少は(P63Aの他、以下参照)G7Aに対して見られる6倍の減少である。最もありそうなことは、如何なる理論にも制約を受けるものではないが、IGF−I主鎖バックボーンから派生する相互作用がIGFBP−3の結合性に寄与していることである。この仮説は更にAla(1−3)−IGF変異体での実験により実証される。単一及び三重アラニン置換はIGFBP−3結合性への効果を持たないが、最初の3個のアミノ酸の欠失の結果、25倍の親和性の減少した(上掲のBagley等;上掲のClemmons等;上掲のHeding等)。要約すると、IGF−Iは異なった結合様式を用いてIGFBP−1とIGFBP−3に結合する;数個のアミノ酸側鎖の相互作用がIGFBP−1への結合に重要である一方、バックボーン相互作用がIGFBP−3への結合に対して主要な活動的な役割を担うように思われる。
【0094】
最近の刊行物では、異核NMRスペクトロスコピーによるIGFBP−1に対するIGF−Iの結合エピトープが調査されている(上掲のJansson等, 1998)。著者はとりわけIGF−I残基29、30、36、37、40、41、63、65、及び66が30℃でのIGFBP−1との複合体生成時に化学シフトによる攪乱を受けることを見いだしている。更に、Janssonと共同研究者はR36、R37及びR50が機能性結合エピトープの一部であると特定し、BIACORETM実験でそのアラニン変異体を試験した。著者により観察された親和性の最も大きな変化はR50Aに対する3倍の減少であった。しかし、ホルモンの最初のNMRでの研究において既に観察されているIGF−Iの構造上の柔軟性のために(上掲のCooke等)、Jansson等は、F49を含み、多くの残基をNMRスペクトルに完全には指定することはできなかった。
タンパク質−タンパク質界面の同様な研究において、僅かな側鎖残基だけが大部分の自由結合エネルギーに寄与することが見いだされた(Clackson及びWells, Science, 267:383-386 (1995); Kelley等, Biochemistry, 34: 10383-10392 (1995))。同じことがIGF−IGFBP−1相互作用に対しても当てはまる。しかし、ここでは、VIIa因子への組織因子の結合に対して注目されたように、重要な側鎖から派生した結合自由エネルギー値の大きさ(ΔΔG)は成長ホルモンの場合よりも小さい(上掲のKelley等)。支配的なΔΔGの寄与を持つ残基は成長ホルモン-レセプター界面におけるようにIGF−I表面上でクラスター形成しないが(上掲のClackson及びWells)、連続的なIGFBP−1結合エピトープをなお形成した(図6A)。これに対して、IGF−I上のIGFBP−3結合エピトープは不連続であり、側鎖は非常に穏やかな個々の結合エネルギーを導いた。
【0095】
IGF−IにおけるアラニンによるP63の置換により、競合ファージELISAにおいて使用された濃度範囲で測定できない両方の結合タンパク質の親和性の減少が生じた。しかし、残基P63は主結合エピトープに対してIGF−I分子の反対側に位置している。更に、グリシンとプロリンのアラニン置換が構造変化に至りうることが着目された(上掲のDi Cera)。また、上掲のJansson等, 1998は、IGF−IのC末端部分は直接のIGFBP−1接触には関与していないが、むしろ複合体生成時に間接的な立体配置変化を受けると結論した。IGF−1上の抗体結合部位の広範な特徴付けはManes等, Endocrinology, 138: 905-915 (1997)によりなされている。彼らは、C末端Dドメインを認識する抗体との複合体におけるIGF−IへのIGFBP−1又は−3の同時の結合を示した。これらの結果は、残基P63で始まるDドメインがIGFBP−1又は−3の結合に関与していないという以前の知見を更に裏付けている(上掲のBayne等, 1988)。
【0096】
ファージELISAにより得られたIC50比とBIACORETMの結果の間の主たる矛盾は残基F16で観察された。既に述べたように、アラニンによるこの残基の置換によりIGF−I分子の構造変化が誘導された(上掲のJansson等, 1997)。同じ効果がBIACORETMの結果におけるKで見られたが、親和性の減少はファージELISA実験ではそれ程顕著ではなかった(表2を参照)。双方のBIACORETMの測定では精製工程の間に再び折り畳まれたIGF−F16Aが使用された(上掲のJansson等, 1997)。しかし、ファージディスプレイでは、対象のタンパク質は大腸菌の分泌機構によって自然に転位置される。一価ファージディスプレイにおける低タンパク質量(ファージ粒子当たり<1分子)は凝集を嫌い誤って折り畳む。また、切断したg3ファージタンパク質へIGF−Iを融合させるとペプチドの未変性の構造に安定化効果を働かせるかもしれない。
循環中のIGF−Iの大部分はIGFBP−3と酸不安定サブユニット(ALS)と名付けられた第3のタンパク質との複合体として見いだされる(上掲のBachとRechler;Clemmons, Cytokine Growth Factor Rev., 8:45-62 (1997); 上掲のJonesとClemmons)。150kDの分子量のこの三元複合体は脈管構造壁を横断できず、IGFに対する循環リザーバとして作用する。この機構によってIGF−Iの半減期が劇的に増加する(Simpson等, Grwoth Horm IGF Res, 8: 83-95 (1998))。IGFBP−3の量はIGF−Iによってポジティブに調節される。これに対してIGFBP−1の役割はそれ程明確ではない。このクラスの結合タンパク質は一般にはIGFBP−3程豊富ではなく、その量はインスリンによりネガティブに調節される(上掲のBachとRechler;上掲のClemmons, 1997; 上掲のJonesとClemmons)。
【0097】
ここでの結果に基づいて、IGF−IのIGFBP特異的変異体が得られる。幾つかのアラニン変異の組み合わせが、IGFBP−3の高親和性結合性を保持しながら非常に弱くIGFBP−1に結合する変異体を産生する。IGFBP−3にもはや結合しないIGFBP−1特異的変異体のデザインはIGF−Iのファージディスプレイと特定の位置でのアミノ酸の無作為化を含みうる(上掲のCunningham等;LowmanとWells, J. Mol. Biol., 243:564-578 (1993))。
【0098】
結論:
IGFBP−1とIGFBP−3への結合に対して重要なIGF−Iの残基を同定した。特定のIGFBPに対する結合特異性を決定する幾つかの残基が見いだされた。最近の刊行物(上掲のLoddick;上掲のLowman等, 1998)では、生物学的利用能のある「遊離の」IGF−Iの増加プールが結合タンパク質から内在性IGF−Iを置換することにより産生された動物実験が報告されている。IGFBP特異的IGF−I変異体はここに記載したように診断のためにまた治療のために使用することができる。
【0099】
実施例2
腎疾患の治療に関するある種の変異体の特徴付け
IGF−I変異体の作成
実施例1(及びDubaquieとLowman, Biochemistry, 38: 6386 (1999))において、IGFBP−1、IGFBP−3、又は双方の結合タンパク質への結合親和性が低減されたIGF−I変異体が同定された。特に、IGF−Iの全アラニンスキャンニング突然変異誘発は、IGFBP−1への結合のための特異性決定因子としてグルタミン酸3(E3)及びフェニルアラニン49(F49)、並びにある程度フェニルアラニン16(F16)及びフェニルアラニン25(F25)を同定した。ファージディスプレイアラニンスキャンニングの結果は、位置3と49の側鎖の双方がIGFBP−1との複合体生成のためのかなりの結合エネルギーに選択的に寄与する一方(E3Aに対して〜30倍、F49Aに対して〜100倍の親和性の損失)、IGFBP−3に対する結合エネルギーにおけるその寄与は検出できないか(E3A)、僅かである(F49Aに対して〜4倍)ことが示唆された(実施例1と上掲のDubaquieとLowmanを参照)。
IGFBP−3に対する更に改善された特異性は、点突然変異の効果が結合自由エネルギーへの寄与に対してしばしば相加的であるので、IGF−Iの累積性突然変異によって達成される可能性が高かった(Wells, Biochemistry 29: 8509 (1990))。従って、IGF−Iの二重変異体であるE3A/F49Aは単一の分子に点突然変異E3A及びF49Aを組み合わせることにより作成した。F16Aはより小なるIGFBP-特異性効果を示したが(実施例1及び上掲のDubaquieとLowman)、二重変異体F16A/F49Aもまた作成した。
【0100】
また作成したのは、結合実験のためのIGF−Iの部位特異的固定化を容易にするために、単一の推定不対システイニルチオールを含むIGF−Iの新しい点突然変異Y31Cである。Y31Cは、IGFBP−1とIGFBP−3に対する結合エピトープの外側にあるので選択された(上掲のDubaquieとLowman)。この固定化技術により、注入された分析物(すなわちIGF結合タンパク質)が結合するための均一なリガンド集団が確保される(CunninghamとWells, J. Mol. Biol., 234: 554 (1993))。過去に用いられていたアミン結合に対するこの方法の利点は、IGF−IのN末端が阻害されず、チップマトリックスへの全ての潜在的なアミン結合がないことである。これは、IGF−IのN末端の側鎖と相互作用すると信じられている(上掲のDubaquieとLowman)IGFBP−1の結合分析に対して特に重要でありうる。ファージにディスプレイされたY31CはIGFB−1とIGFBP−3の双方に対して野生型様の親和性を示し、残基31の回りの領域が得セプター結合において重要であるが結合タンパク質との接触を形成しないという考えを裏付けている(上掲のJ. Biol. Chem., 264: 11004 (1988); 上掲のBayne等, J. Biol. Chem., 265: 15648 (1989))。
F49Aを含むIGF−Iの単一アラニン変異体並びにE3A/F49A二重変異体を発現させ、精製し、再び折り畳んで、HPLC分析によって判断して適切なジスルフィド異性体を得た(ここの実施例1及び上掲のDubaquieとLowman)。これらの変異体を特異的結合タンパク質結合・レセプター活性化アッセイにおいて試験した。
【0101】
IGFBP−1及びIGFBP−3結合親和性
IGFBP−1とIGFBP−3に対するこれら変異体の結合親和性をBIACORETM分析を使用して野生型IGF−Iのものと比較した。固定化したIGF−I又は変異体に対するIGFBP−3結合での反応速度実験(表3)を実施例1及び上掲のDubaquieとLowmanに記載されているようにして実施し、F49AIGF−I及び野生型IGF−Iと比較した。この実験では、二重変異体E3A/F49Aは野生型よりIGFBP−3への結合親和性が約20倍弱く、二重変異体F16A/F49Aは約66倍弱かった(表3)。
【0102】

【0103】
IGF−IへのIGFBP−1の結合の測定に対しては、ジスルフィド結合を介してセンサーチップ表面に固定化された単一システインIGF−I変異体Y31Cを使用して反応速度実験を実施した(BIACORETMシステム・マニュアル・サプリメント5a−1, Pharmacia (1991))。結果は、バイオセンサーチップに非特異的アミン結合を介して固定された野生型IGF−Iを使用して測定された結合親和性と一致している(表4)(実施例1及び上掲のDubaquieとLowman)。
【0104】

【0105】
IGFBP-1に対するF49A及びE3A/F49Aの結合は正確な反応速度の測定のためにはあまりに弱かった。従って、対応する親和性を推定するために競合結合実験(1998年10月15日公開の国際公開第98/45427号)を実施した。上述したようなBIACORETMバイオセンサーチップに固定化された単一のシステインIGF−I変異体Y31Cを用いた。最大半減抑制濃度値(IC50)を生じる競合結合実験を次のようにして実施した:50nMのIGFBP−1を所望のIGF変異体の希釈列と共にインキュベートした。これらのタンパク質混合液をシステイン結合IGF−IY31C(200応答単位)を含むB1チップに5μL/分で注入した。結合したIGFBP−1の量を、20分の注入後の非特異的結合を引くことにより決定し、IGF変異体濃度に対してプロットした(図7)。結果を表5に示す。
【0106】

【0107】
野生型IGF−Iに比較して、F49AとE3A/F49AはIGFBP−1に対して激しく低下した結合親和性を有していた。F49Aは1.6±0.2μM(表5)のIC50でIGFBP−1に結合し、IGFBP−3に対して6.3±1.7nMの高親和性解離定数(K)を保持した(表3)。IGFBP−1へのE3A/F49Aの結合は、64±9μM(表V)の推定IC50で、更に弱いことが分かり、IGFBP−3に対してはほんの中程度に低減した親和性(K=22.2±10.3nM)を持っていた(表3)。これらのインビトロ測定は何れのIGF変異体も生理的条件下でIGFBP−1に安定に結合するであろうことを示唆している。
【0108】
IGFのI型レセプターの活性化のKIRAアッセイ
キナーゼレセプター活性化アッセイ(KIRA)はリガンドによる細胞外刺激時の細胞質IGFレセプターリン酸化の度合いを特異的かつ定量的に監視する(Sadick等, J. Pharm. Biomed. Analysis, 19(6): 883-891 (1998))。幾つかのIGF変異体G1S/A70V、T4A、V11A、F16A、F25A、F16A/F49A、R36A、P39A及びF49Aをレセプター活性化の単一濃度アッセイにおいて試験した。F16A/F49Aを除くこれら変異体のIGFBP−1及びIGFBP−3結合親和性は表II及び上掲のDubaquieとLowmanに示されている。表6はBIACORETM測定からの相対的親和性と特異性をまとめているものである。
KIRAアッセイに対しては、変異体濃度は、光学密度測定に基づき、大まかに13nM(「高濃度」)又は1.3nM(「低濃度」)と推定された。各IGF変異体に対して得られた信号を野生型IGF−Iの基準希釈列の信号と比較し、KIRAアッセイにおいて観察された活性に対応する見かけのIGF−I濃度によって報告した(図8A−8B)。正確な相対的効力は測定されなかったが、これらの結果は、試験した全ての変異体がIGFのI型レセプターを活性化する能力を維持していることを示している。
【0109】

【0110】
表6は、F49Aに加えて、F16AとF25Aは共にIGFBP−1に対する親和性が大幅に減少しているがIGFBP−3に対してはその度合いは少ないことを示している。両方ともなおKIRAアッセイに基づく生物活性を保持している(図8)。
F49AとE3A/F49Aの相対的効力を決定するために、KIRAアッセイにおいて連続希釈を使用してI型IGFレセプターを活性化するその能力を測定した。図9A−9Bに示されているように、F49AとE3A/F49Aは共に野生型IGF−Iとは区別できないIGFレセプター活性化曲線を示している。最大半減有効濃度(EC50)は、F49Aに対して20.0±1.3ng/ml、E3A/F49Aに対して18.9±0.2ng/ml、野生型IGF−Iに対して19.8±0.6ng/mlであった。これらの結果は、両方のIGF変異体が十分に生物活性であることを強く示唆している。
【0111】
ラットにおけるIGF−I変異体の血液浄化と腎臓蓄積
活性IGF分子の腎臓への蓄積は慢性もしくは急性腎不全において潜在的に有益であろう。これれあの病状はIGFBP−1とIGFBP−2が異常に高レベルで、IGF−I剛性の低減が組み合わされ、最終的に異化作用を導くことにより特徴付けられる(上掲のToenshoff等, 1997)。
F49A及びE3A/F49A IGF−Iの予備的薬理学的性質を評価するために、両方のタンパク質を放射標識し、ラットに静脈内投与した。図10Aは両方の分子が動物の血液から除去される速度の時間経過を示す。そのIGFBP親和性の低減から予測されるように、双方の変異体は野生型ヒトIGF−Iと比較してより速い速度で除去された。興味深いことに、二重変異体(E3A/F49A)は単一変異体(F49A)よりも速く除去され、血清中の主要な結合タンパク質IGFBP−3に対するそれぞれの親和性とよく相関している(表3)。図10Bは異なった器官中のIGF変異体に対する血液対組織比を示している。大多数の放射標識IGF分子が腎臓において検出されたが、肝臓、脾臓、心臓、及び膵臓における放射能レベルは更に低かった。変異体F49AとE3A/F49Aが野生型IGF−Iと比較して腎臓において統計的に有意なより高レベルで蓄積することは明らかである。
【0112】
IGF−I変異体の円偏光二色性分析
F49AとE3A/F49A IGF−Iの円偏光二色性スペクトルを分析して、導入された変異がタンパク質構造に主要な変化をもたらすかどうかを試験した。構造的な不安定化はタンパク分解の感受性の増加に至り、IGF変異体のより速やかな血液浄化速度に対する別の説明を提供する。しかしながら、図11に示されているように、両方の変異体は野生型IGF−Iに対して記録されたものと実質的に同一のスペクトルを有している。IGF−IのNMRスペクトロスコピーから予想されるように、CDスペクトルはα−ヘリックスとランダムコイルの双方のエレメントを明らかにする(Coole等, Biochemistry, 30: 5484 (1991))。IGF−Iの熱安定性は、おそらくは室温で既に存在する比較的高い含量(〜30%)のランダムコイルのために、円偏光二色によって精確に決定することはできない(Jansson等, Biochemistry, 36: 4108 (1997))。両方の変異体のCDスペクトルが野生型IGF−Iからの有意な逸脱を示していないという事実は、導入された変異がIGF−Iの全体構造を変えないことの表れである。
【0113】
結論
上に提示した証拠から、単一及び二重変異体F16A、F16G、F16S、F25A、F25G、F25S、F49A、F49G、F49S、E3A/F49A、E3A/F49G、E3G/F49A、E3G/F49G、E3A/F49S、E3S/F49A、E3S/F49A、E3S/F49S、E3G/F49S、及びE3S/F49G IGF−Iは、アラニン置換変異体がIGFBP−3と結合する能力を大幅に喪失することなくIGFBP−1に対して低い親和性を示し多くの試験において生物活性であるので、GH/IGF軸調節不全により特徴付けられる疾患を治療するのに有効であると予想される。更に、かかる変異体は、F49AとE3A/F49Aが野生型IGF−Iと比較してまた他の器官と比較して腎臓に統計的に有意なより高いレベルで蓄積し、アラニン置換変異体がIGFBP−1にほんの僅かに結合するだけで、実験的尿毒症においてIGFBP−1及びIGFBP−2遺伝子の発現の増大が見られるので(上掲のToenshoff等, 1997)、腎疾患の治療に効果的であると予想される。
【0114】
実施例3
ヒトの治療
この実施例は、IGFBPの一又は複数に結合する外来性に投与されるペプチドが如何にして内在性IGFを置換するかの原理とヒトへの使用に対するここでのペプチドの服用方法を示す。
この実験では12週間の間4種の用量(10、20、40又は80μg/kg)で毎日2回の注射によって組換えヒトIGF−I又はプラセボをヒトII型糖尿病患者に投与した。血液試料を治療前、治療中に2週間毎に、治療の12週後(EP)に採取した。10μg/日のIGF−Iで治療された患者から採取された試料ではIGF−IIを測定しなかった以外は、IGF−I、IGF−II及びIGFBP−3の濃度を全ての試料について測定した。
【0115】
国際公開第98/45427号の図43は患者の血液中のIGF−I濃度を示している。予期できなかった知見は、40及び80μgのIGF−Iを投与する「プラトー」効果であった;これら二種の用量で同じIGF−I全血液濃度に達した。
国際公開第98/45427号の図44は患者の血液中のIGF−II濃度を示している。IGF−Iの上昇量と対照的に、IGF−IIの量はIGF−I濃度の上昇に対するほぼ鏡像的なパターンで低下する。上昇するIGF−I濃度のプラトー効果と同様に、現象するIGF−II濃度もまたプラトーに達した。
国際公開第98/45427号の図45は患者の血液中のIGFBP−3濃度を示している。血液中のIGF−I及びIGF−IIのパターンの明らかな変化と対照的に、IGFBP−3の濃度は統計的に有意な又は明らかな変化パターンを示さなかった。
国際公開第98/45427号の図43と図44の考察から、全IGF濃度(IGF−IプラスIGF−II)が治療では殆ど変化を示していないことが明らかにされる。これは、IGF−1の濃度の上昇がIGF−IIの濃度の低下に密接に合致するためである。3つの図の全の考察により、患者の血液中のIGF−I及びIGF−II濃度の用量依存的変化はIGFBP−3結合タンパク質能の低下により達成されなかったことが分かる(IGFBP−3は血液中の主要な結合タンパク質である)。
IGF−IIの濃度の低下とIGF−I及びIGF−II濃度のプラトー化の明白な説明は、IGF結合タンパク質能力が有限量であり、この実験において用いられたIGF−Iの用量が結合タンパク質からのIGF−IIの用量依存的な置換を引き起こしたことである。
【0116】
活性なIGFの濃度を亢進させる能力を持つ分子は全てこの実施例においてIGF−Iに対して示されたものと同様な活性を示すと予想することはこの実施例の知見の論理的な拡張である。また、用いられたIGF−Iの用量と立証されたIGFBP及びIGF−1及びIGF−IIの濃度から、活性な内在性IGFの量を増大させるにはどれくらいのペプチドが与えられなければならないかを計算することは簡単である。IGF−Iに対するモルサイズ、IGFBPへのペプチドの親和性及びその生物学的利用能がヒトにおいて活性なIGFを増加させた用量に達するために考慮される他の変量である。
本発明を止む終えずある特定の方法と材料を参照してここで検討した。これら特定の方法と材料の検討は本発明の範囲に対して限定をなすものでは決してなく、本発明の目的を達成するために好適な全ての代替の材料と方法まで拡張されるものと理解されるべきである。
【図面の簡単な説明】
【0117】
【図1A−1B】IGFBP-1(図1A)及びIGFBP-3(図1B)に結合する変異体、G1S-A70V IGF-IのファージELISAを示す図である。1μg/mlのIGFBP-1(図1A)又はIGFBP-3(図1B)でコートしたミクロタイタープレートを、G1S-A70Vを表示するファージ粒子とともに、表示した量の可溶性競合タンパク質、IGFBP-1(図1A)又はIGFBP-3(図1B)の存在下でインキュベートした。競合物の半最大阻害濃度(IC50)、即ち、その特定の実験においてファージミドの半最大結合をもたらす競合物の阻害濃度を各IGFBPについて示した。
【図2A−2B】ファージELISAにより試験したIGF-I変異体についてのIGFBP親和性の低下又は向上を示す図である。各IGF-Iアラニン変異体の相対的IC50値(IC50mut/IC50G1S-A70V)(IGF-IG1S-A70V)に対する結合性タンパク質についての各変異体の親和性変化)をIGFBP-1(黒棒)及びIGFBP-3(白棒)について示した。データは下記の表1から取った。相対的IC50<1は親和性の向上;値>1は親和性の低下を示す。星印は、これら特定の変異体が、抗体結合性で判断した場合、ファージ上に表示されていなかったことを示す。
【図3A−3B】競合的ファージELISAにおける、ファージ上に表示されたIGF-I変異体F49Aの、各々IGFBP-1及びIGFBP-3に対する結合特異性を示す図である。F49A(四角)を表示するファージミド粒子は、IGFBP-3でコートしたプレートに、表示した量の可溶性IGFBP-1(図3A)又はIGFBP-3(図3B)の存在下で結合した。野生型様IGF-I変異体G1S-A70V(丸印)を表現するファージで同じ実験を平行して行った。絶対的なIC50値については下記の表I及びIIを参照のこと。データ点は、平均+-標準偏差、n=2である。免疫吸着プレートを1μg/mlのIGFBP-3でコートし、野生型IGF-Iファージ(WT、丸印)及び異fg-F49Aファージ(F49A、四角)を平行して用いて下記の実施例に記載したようにELISAを実施した。実験は2回行い、データ点は平均+-標準偏差で示した。実際の実験におけるIC50値を図に示した。
【図4】天然配列ヒトIGF-I(wtIGFと称する)(配列番号:1)、天然配列ヒトプロインシュリン(プロインシュリンと称する)(配列番号:2)、及び天然配列ヒトインシュリン(インシュリン(B鎖)に次いでインシュリン(A鎖)と称する)(配列番号:3)の配列アラインメントを示す図である。星印及び傍点は、各々3つの配列間での表示したアミノ酸位置での配列同一性及び配列相同性を示す。
【図5A−5D】固定化IGF-I変異体へのIGFBP結合のバイオセンサー分析を示す。センサーグラムは、固定化した野生型IGF-I(図5A、5B)又はF49A変異体(図5C、5D)へのIGFBP-1(図5A、5C)又はIGFBP-3(図5B、5D)の結合について示した。核実験のリガンド濃度は、1μM、500nM、及び250nMであった。速度論的パラメータについては表IIを参照のこと。
【図6A−6B】各々IGF-I表面上のIGFBP-1及びIGFBP-3についての機能的結合エピトープのモデルを示す図である。アミノ酸鎖は、それらの結合エネルギー(表I)に対する相対的寄与に従って分類し、次のように色分けした:効果無し(灰色);見かけの親和性の2−5倍の低下(黄色);5−10倍(橙色);10−100倍(明赤色);>100倍(暗赤色)。利用可能なら場合は、下記の表IのファージELISA実験からの数を使用した。V11A、R36A及びP39A変異体(表2)に代えてBIAcore(商品名)データを使用した。IGF-IのNMR構造(Cooke等, 上掲)を、プログラムInsight II(商品名)(MSI, San Diego, CA)を用いて表現した。IGFBP-1についての結合エピトープ(図6)は、N-末端螺旋(残基8−17)の「上」及び「下」表面に位置し、エネルギー的に重要な残基F49によって連結されている。IGFBP-3については(図6B)、個々のIGF-I側鎖は極くわずかしか結合エネルギーに寄与しない。結合性エピトープはN-末端から移動し、新たにG22、F23、Y24を包含する。
【図7】E3A/F49A(四角)及びF49A(丸印)のために、競合的BIACORETM結合実験によって決定した結合IGFBP−1の総量をIGF変異体濃度に対してプロットした図である。
【図8A−8B】各々は、IGF−KIRA光学密度(OD)分析を使用した、幾つかのIGF−I変異体の13nM(高濃度)及び1.3nM(低濃度)変異体濃度における算出されたIGF−I活性をnM単位で示した図である。各々のIGF変異体から得られたシグナルは、その野生型IGF−Iの標準希釈系と比較され、観察された活性に一致する見かけのIGF−I濃度によって報告された。
【図9A−9B】KIRA検定の連続希釈を使用して測定された野生型IGF−Iに加えて、F49AIGF−I(図.9A)及びE3A/F49A(図.9B)のIGF受容体活性化曲線を示している図である。変異体は四角で表され、そして野生型IGF−Iは丸印で表されている。
【図10A−10B】放射線標識されてラットへ静脈投与されたF49A及びE3A/F49AIGF−Iの予備的薬理学的特性の評価を示した図である。図10Aは、両分子が動物の血液から消失した割合の時間経過を示し、四角は野生型IGF−Iを表し、丸印はE3A/F49AIGF−Iを表し、そしてダイヤモンド印はF49AIGF−Iを表す。図10Bは、異なった器官、すなわち腎臓、肝臓、脾臓、心臓、及び膵臓におけるこれら二つのIGF変異体の組織と血液の比率を5、15、30分において表し、実線は野生型IGF−Iを表し、点線はE3A/F49AIGF−Iを表し、そして縞模様の線はF49AIGF−Iを表す。
【図11】野生型IGF−I(丸印)、F49AIGF−I(四角)、及びE3A/F49AIGF−I(ダイヤモンド)の円偏光二色性スペクトルを示している。
【図1A】

【図1B】

【図2A】

【図2B】

【図3A】

【図3B】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
天然配列ヒト型IGF−Iの位置16、25、又は49のアミノ酸残基、或いは位置3及び49のアミノ酸残基が、アラニン、グリシン、又はセリン残基で置換されたインシュリン様成長因子Iの変異体。
【請求項2】
天然配列ヒト型IGF−Iのアミノ酸残基がアラニン又はグリシンで置換された請求項1に記載の変異体。
【請求項3】
天然配列ヒト型のIGF−Iのアミノ酸残基が、アラニンで置換された請求項1に記載の変異体。
【請求項4】
請求項1に記載した変異体を担体に含んでなる組成物。
【請求項5】
腎臓活性分子をさらに含む請求項4の組成物。
【請求項6】
担体が無菌である請求項4に記載の組成物。
【請求項7】
請求項1の変異体の有効量を哺乳類へ投与することを含む、哺乳類の成長ホルモン/インシュリン様成長因子(GH/IGF)軸調節不全を特徴とする疾患の治療方法。
【請求項8】
疾患が高血糖性傷、腎臓疾患、うっ血性心不全、肝不全、栄養失調、消耗病症群、又は異化状態で、その時の哺乳類のインシュリン様成長因子結合タンパク質IGFBP−1のレベルがこれら疾患ではない状態時のレベルに対して増加した場合の請求項7に記載の方法。
【請求項9】
疾患が腎疾患である請求項7に記載の方法。
【請求項10】
腎臓疾患が慢性又は急性である請求項9に記載の方法。
【請求項11】
腎臓活性分子の有効量を投与することをさらに含む請求項9に記載の方法。
【請求項12】
哺乳類がヒトである請求項7に記載の方法。
【請求項13】
両アミノ酸残基がアラニンへ置換された請求項7に記載の方法。
【請求項14】
請求項1に記載の変異体を含む製薬的組成物と、組成物を哺乳類の成長ホルモン/インシュリン様成長因子軸の調節不全を特徴とする疾患の治療へ使用する為の使用者向け取り扱い説明書を含んでなる容器からなる一式。
【請求項15】
疾患が高血糖性傷害、腎疾患、うっ血性心不全、肝不全、栄養失調、消耗病症群、又は異化状態で、その時の哺乳類のインシュリン様成長因子結合タンパク質−1のレベルが、これら疾患時のレベルに対して増加した場合の請求項14に記載の一式。
【請求項16】
疾患が腎疾患である請求項14に記載のキット。
【請求項17】
腎臓活性分子を含む容器をさらに含む請求項16に記載のキット。
【請求項18】
疾患が慢性又は急性腎疾患である請求項16に記載のキット。
【請求項19】
哺乳類がヒトである請求項14に記載のキット。
【請求項20】
変異体の両アミノ酸残基がアラニン残基に置換された請求項14に記載のキット。

【図4】
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【図5A】
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【図5B】
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【図5C】
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【図5D】
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【図6A】
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【図6B】
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【図7】
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【図8A】
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【図8B】
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【図9A】
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【図9B】
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【図10A】
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【図10B】
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【図11】
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【公開番号】特開2006−328074(P2006−328074A)
【公開日】平成18年12月7日(2006.12.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−171517(P2006−171517)
【出願日】平成18年6月21日(2006.6.21)
【分割の表示】特願2000−592321(P2000−592321)の分割
【原出願日】平成12年1月5日(2000.1.5)
【出願人】(596168317)ジェネンテック・インコーポレーテッド (372)
【氏名又は名称原語表記】GENENTECH,INC.
【Fターム(参考)】