説明

インジウム混和の増加による、窒化物発光ダイオードの偏光の向上

本発明は、無極性LEDから高偏光比を得るための技術を提供する。その発光層内に高In含有量を有する無極性LEDは、高偏光比を伴う発光特徴を保有する傾向にある。477nm(約28%のIn含有量または組成に対応する)の波長で発光するLEDは、477nmより短い波長で発光するいずれの他の検討されたLEDと比較して、最高偏光比(0.87)を提供することが認められている。無極性III族窒化物基板上に調製された発光ダイオード(LED)構造の発光層中のインジウム(In)含有量の増加は、より少ないIn含有量を含有するLED構造より高い発光偏光比をもたらす。偏光比は、470nmより長い波長において、0.7より高いはずである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の相互参照)
本出願は、米国特許法第119条(e)項の下、2008年2月1日に出願された、Hisashi Masui、Hisashi Yamada、Kenji Iso、James S.Speck、Shuji Nakamura、Steven P.DenBaarsらによる、「ENHANCEMENT OF OPTICAL POLARIZATION OF NITRIDE LIGHT−EMITTING DIODES BY INCREASED INDIUM INCORPORATION」というタイトルの、同時係属中で同一譲受人の米国仮特許出願第61/025,592号、代理人整理番号30794.259−US−P1(2008−323−1)の利益を主張し、その出願は本明細書に参考として援用される。
【0002】
本出願は以下の同時係属中で同一譲受人の米国特許出願に関連する:
本出願と同日に出願された、Hisashi Masui、Hisashi Yamada、Kenji Iso、Asako Hirai、Makoto Saito、James S.Speck、Shuji Nakamura、Steven P.DenBaarsらによる、「ENHANCEMENT OF OPTICAL POLARIZATION OF NITRIDE LIGHT−EMITTING DIODES BY WAFER OFF−AXIS CUT」というタイトルの、米国実用特許出願第xx/xxx,xxx号、代理人整理番号30794.260−US−U1(2008−361−2)で、この出願は、米国特許法第119条(e)項の下、2008年2月1日に出願された、Hisashi Masui、Hisashi Yamada、Kenji Iso、Asako Hirai、Makoto Saito、James S.Speck、Shuji Nakamura、Steven P.DenBaarsらによる、「ENHANCEMENT OF OPTICAL POLARIZATION OF NITRIDE LIGHT−EMITTING DIODES BY WAFER OFF−AXIS CUT」というタイトルの、同時係属中で同一譲受人の米国仮特許出願第61/025,600号、代理人整理番号30794.260−US−P1(2008−361−1)の利益を主張し、これらの出願は本明細書に参考として援用される。
【0003】
(1.本発明の分野)
本発明は、発光ダイオードに関し、より具体的には、インジウム(In)混和の増加による、窒化物発光ダイオードの偏光の向上に関する。
【背景技術】
【0004】
(本発明の背景)
(2.関連技術の説明)
発光ダイオード(LED)は、多くの用途の中でもとりわけ、表示ランプ、局所照明器、および光送信機として、過去30年にわって使用されている。過去10年においては、青色および緑色LED系高輝度アルミニウム−インジウム−窒化ガリウム[(Al,In,Ga)N]が開発され、一般照明およびフルカラーディスプレイ用途に出現し始めている。
【0005】
LED加工の観点において、従来のLEDは、非干渉性かつ非偏光発光のため、ダイがパッケージに取り付けられる際、LEDパッケージの特定のダイ方位を画定することは、必須ではない。一般的LED加工では、ダイ方位は、LEDウエハがダイスカットされる際にのみ重要であって、これは、ウエハ上へのLEDフォトリソグラフィパターニングが、結晶方向に沿って、パターンを配向することによって行なわれる理由である。本配向プロセスは、ダイ分割を信頼性のあるものにし、より高い生産収率をもたらす。
【0006】
絶縁基板(例えば、サファイア)上に調製されるAlInGaN LEDの場合、2つの電気接点がLEDダイの片側に生成され、パッケージに対するダイ方位は、正および負の金属接点の位置の観点から重要である。信頼性のあるダイ分割および電気接点のためのこのような配向は、必ずしもLED加工のみにおいてではなく、いずれの半導体素子にとっても、一般的慣行である。しかしながら、LEDダイ配向は、発光特性の観点から、加工に考慮されてはいない。
【0007】
内部電気分極は、光電子工学において使用される半導体の中でも、AlInGaN系の特異的特性であって、本特性は、該材料系の六方晶構造に由来する。図1は、その標示付け規約とともに、結晶主軸al 102、a2 104、a3 106、c軸108、および一般的な着目結晶平面(r平面110、a平面112、m平面114、およびc平面116)を伴う、一般的六方晶構造100を図式的に示す。
【0008】
電気分極は、c軸に沿った反転対称の欠如によって、六角形構造内に生成される。例えば、GaNの場合、図2は、GaN結晶200中の原子の配列を例示し、白丸202は、ガリウム(Ga)原子を表し、黒丸204は、窒素(N)原子を表す。図2に示されるGaN200のc軸206に沿って、Ga原子202(陽イオン、正の電荷を帯びている)およびN原子204(陰イオン、負の電荷を帯びている)は、交互に位付けられ、全体として、電気的中性が維持される。また、図2には、a軸208も示される。
【0009】
しかしながら、反転対称の欠如のため、原子が、c軸に沿って、互いに対してその理想的位置から変位されると、本c軸に沿って、内部電場が存在する。AlInGaN系内の原子は、通常、その理想的位置を維持しないため、本分極場は、ほぼ常に、c軸に沿って存在する。このような理由から、c平面は、極性平面と呼ばれる。分極場は、これらの特定の軸に沿った反転対称によって、a軸またはm軸のいずれに沿っても存在しない。このような理由から、a平面およびm平面は、無極性平面と呼ばれる。これらの無極性平面に対して、偏極ベクトル(分極場の方向および強度を表す)は、正味偏極ベクトルがc軸に平行であるため、平面に平行である。
【0010】
AlInGaN材料は、従来、c方向(すなわち、c軸に沿った方向)、したがって、c平面上に成長される。c平面上に成長されるLEDは、極僅かな偏光を示す。本c平面上では、分極場は、面内成分を有さず、LEDの量子井戸(QW)構造中のc平面内の等方性機械応力は、QW内のキャリア再結合の性質を変化させない。
【0011】
近年、aおよびm平面上にAlInGaN LEDを調製することが可能となっている。これらのLEDは、直線偏光発光を呈する。分極場は、平面内の特定の方向(c方向)にあって、QW内の応力は、基板とQWとの間の異なる格子不整合度によって、aまたはm平面内の2つの垂直方向に等方性である。発明者らは、これらの無極性LEDからの発光は、c軸に垂直方向の直線偏光であることを認めている。直線偏光は、波動伝搬に対して垂直の一平面内においてのみ、その電場を有する電磁波である。非偏光は、波動伝搬に対して垂直の平面方向に、その電場を均等に分布させる。偏光の主要用途は、液晶ディスプレイ(LCD)のための背面照明であって、LEDは、従来の冷陰極蛍光灯と比較して、そのコンパクト性およびエネルギー効率により有益である。
【0012】
また、半極性平面上に調製されるAlInGaN LEDも、偏光を放出することが認められている。c軸に平行な偏極ベクトルの射影は、無極性平面場合と同様に、半極性平面上にある。
【0013】
偏光発光は、(Al,In,Ga)Nの無極性および半極性方位に調製されるLEDから、実験的に認められている。あらゆる従来のLEDは、非偏光を放出するが、偏光発光は、LCDのための背面照明等のある用途において有用であると考えられる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
偏光発光の利点を享受するため、高偏光比が好ましい。したがって、LEDにおいて、高偏光比を得るための技術改良の必要性が、当技術分野に存在する。
【課題を解決するための手段】
【0015】
(本発明の概要)
本発明は、無極性LEDから高偏光比を得るための技術を提供する。その発光層内に高In含有量を有する無極性LEDは、高偏光比を伴う発光特徴を保有する傾向にある。477nm(約28%のIn含有量または組成に対応する)の波長で発光するLEDは、477nmより短い波長で発光するいずれの他の検討されたLEDと比較して、最高偏光比(0.87)を提供することが認められている。
【0016】
上述の従来技術における制限を克服し、本明細書の熟読および理解によって明白となるであろう他の制限を克服するために、本発明は、偏光を放出するLEDを開示する。
【0017】
LEDは、1つ以上の発光層を含んでもよく、発光層のIn含有量は、発光層によって発光される偏光の偏光比が0.8超のものである。In含有量を伴う発光層は、III族窒化物層上に形成されてもよく、In含有量は、偏光比を0.8超に増加させるために、III族窒化物層との格子不整合の増加によって、発光層内に歪を増加させる。
【0018】
LEDは、1つ以上の(AlJnGa)N(式中、0≦x≦1、0≦y≦1、0≦z≦1、およびx+y+z=1)半導体を含んでもよく、(AlJnGa)N半導体は、ウルツ鉱結晶の無極性方位上にエピタキシャルに、あるいはGaN基板またはGaN鋳型(GaN鋳型は、例えば、異種基板上に調製されるGaN層である)上にエピタキシャルに調製されてもよい。さらに、(AlJnGa)N半導体は、0≦x<1、0≦y≦1、0≦z≦1、およびx+y+z=1を伴う、GaNではない(AlInGa)N基板または鋳型上にエピタキシャルに調製され、GaNと異なる歪管理のための基盤を設定してもよい。
【0019】
LEDは、量子井戸(QW)構造または二重ヘテロ(DH)構造を含んでもよく、QW(例えば、単一QW構造または多重QW構造)あるいはDH構造は、活性層のバンドギャップより大きいバンドギャップを有する1つ以上の障壁層またはクラッド層間に埋め込まれる発光活性層を含む。
【0020】
活性層は、範囲0<y≦1内のIn含有量(y)を伴うInGaNを含んでもよく、In含有量は、活性層中に誘発される歪を制御し、誘発される歪は、偏光の偏光度を制御する。例えば、活性層は、活性層中のy値より小さいIn含有量(y)値を有する1つ以上のInGaNまたはGaN層間に埋め込まれる(InGa)N(式中、0≦x≦1、0<y≦1、およびx+y=1)を含んでもよい。別の実施例では、活性層は、活性層中の歪を調節し、偏光の偏光度を制御するためのAlInGaNである。活性層は、歪を解放する不整合転位の発生を回避するために、臨界厚より薄くてもよい。
【0021】
本発明は、LEDから放出される光の偏光度を制御するステップを含む、LEDを加工する方法をさらに開示する。制御ステップは、活性層中のIn含有量を変化させ、誘発される歪を制御するステップであってもよい。例えば、活性層が、1つ以上のInGaNまたはGaN障壁層間に埋め込まれる(InGa)N(式中、0≦x≦1、0<y≦1、およびx+y=1)を含む場合、制御ステップは、障壁層のIn含有量は不変のまま、活性層中のIn含有量(y、0<y≦1)を変化させ、誘発される歪を制御するステップを含んでもよい。加えて、本方法は、障壁層のAl含有量は不変のまま、AlInGaNに対する活性層のアルミニウム含有量を変化させ、歪を調節するステップをさらに含んでもよい。
【0022】
さらなる実施例として、制御ステップは、LEDの1つ以上の発光層中のIn含有量を増加させることによって、偏光度を増加させるステップであってもよい。In含有量を伴う発光層は、III族窒化物層上に形成されてもよく、In含有量の増加は、偏光比を増加させるために、III族窒化物層との格子不整合の増加によって、発光層中の歪を増加させる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
次に、図面を参照する(同一参照番号は、全体を通して対応する部品を表す)。
【図1】図1は、一般的六方晶構造および着目結晶平面の概略図である。
【図2】図2は、GaN結晶中の原子の配列を例示し、白丸は、Gaを表し、黒丸は、Nを表す。
【図3】図3は、エレクトロルミネセンス(EL)発光波長(ナノメートル、nm)の関数として、1mA駆動電流における偏光比を例示するグラフであって、ELは、1mA駆動電流に応答して、単一量子井戸(SQW)を含む発光層によって放出され、発光波長は、SQW中のIn組成を変動させることによって変化し、477nmの発光波長は、28%のIn組成に対応し、発光波長およびIn組成は、線形関係を有し、365nmの発光波長は、0%のIn組成に対応する(0.00の偏光比は、c平面LEDを使用して達成可能であることに留意されたい)。
【図4】図4は、LEDを加工し、LEDから放出される光の偏光度を制御する方法を例示する工程図である。
【図5】図5(a)は、LED構造の断面図であり、図5(b)は、図5(a)のLEDの上面図の概略図であって、偏光方向aおよびbを例示し、aおよびbは、直交し、素子表面の同一平面上にある。
【図6】図6(a)および図6(b)は、LCD動作の原理を例示し、従来の技術では、偏光は、第1の偏光子を通過後に得られる。
【発明を実施するための形態】
【0024】
(本発明の詳細な説明)
好ましい実施形態の以下の説明では、本明細書の一部を形成し、本発明が実践され得る特定の実施形態の一例として示される、付随の図面が参照される。他の実施形態が利用されてもよく、構造的変化は、本発明の範囲から逸脱することなく成され得ることを理解されたい。
【0025】
(用語)
ここで、窒化ガリウム(GaN)系材料の本特定の研究分野の慣習に基づく、本開示で使用される用語を明確にすることは有意義である。
【0026】
電気分極および偏光は両方とも、本発明における重要な概念であるが、異なる物理的現象である。但し、両方とも「偏極」と称されている。
【0027】
電気分極は、偏極ベクトルおよび内部分極電場に関し、特定の材料系の結晶構造に基づく。この場合、材料は、「偏極」材料と称される。材料が内部電気分極を有さない場合、「無極性」材料と称される。
【0028】
偏光は、電磁波放出に関し、光は、「偏光」と称される場合が多い。偏光の概念は、電磁波が空間中を伝搬する様子に基づく。
【0029】
平面に垂直な偏極ベクトルを有する極性材料の結晶平面は、「極性」平面と称される。平面に平行な偏極ベクトルを有する平面は、「無極性」平面と称される。平面に対していずれかの他の角度で偏極ベクトルを有する平面は、「半極性」平面と称される。本慣習(極性、無極性、または半極性)が、素子(例えば、LED)に適用される場合、素子がその(極性、無極性、または半極性)結晶平面上に調製されることを意味する。
【0030】
(概要)
無極性および半極性AlInGaN系LEDは、偏光を放出するように示されている一方、従来のLEDは、非偏光のみ放出する。無極性LEDの偏光比の最高報告値は、0.8である(室温測定)。実践用途の場合、依然として、より高い偏光比が必要とされる。本発明は、発光層中のIn含有量を増加させることによって、無極性LEDからのエレクトロルミネセンスにおいて、より高い偏光比を達成する。
【0031】
例えば、本発明は、1つ以上の発光層のためにInGaNを使用してもよく、InGaNは、異なる歪度または量が、異なるIn組成を伴うInGaN層中に導入されるように、GaN上に成長されている。In組成および異なる歪量は、発光波長差によって認められている。
【0032】
GaN層中の歪は、例えば、AlGaN基板を使用して、AlGaN基板の上面にGaN層を成長させることによって変化されてもよい。具体的には、本発明は、GaN基板上に異なるIn組成を伴うInGaNを成長させ、異なる歪度を導入するステップを説明する。例えば、InGaN層とGaN基板との間の大き過ぎる不整合(格子定数の差が大き過ぎることによって生じる)は、歪を弛緩させる不整合転位を導入し、それによって、高In組成を伴っても、非歪InGaN層をもたらす場合がある。
【0033】
(技術説明)
無極性および半極性LEDからの偏光発光が報告されている。偏光比は、偏光度を示す数字であって、0は、光の偏光がなく、1は、完全偏光である。これらの無極性および半極性LEDの偏光比の一般的な値は、0.8である。これらの偏光源を使用する実践的用途の場合、高偏光比が必要とされる。
【0034】
無極性LEDの偏光比を増加させるためのいくつかの方法が存在する。使用されるLED構造および/または基板を変化させることによって誘発される歪は、偏光比に影響を及ぼすであろう。技術は、LED構造中の歪制御層の導入または異種基板の使用を含んでもよい。入念に調製されたLEDチップは、迷光を低減し、偏光比を増加させることが可能である。低温(約100K)で動作するLEDは、偏光比を増加させる別の方法である。しかしながら、これは、光源用途にとって実用的ではない。外部技術、例えば、偏光子の使用が周知であるが、エネルギー効率の観点から好ましくない。
【0035】
本発明に説明される技術は、偏光比を向上させる方法の1つである。発明者らは、発光層中のIn含有量を増加させることによって、偏光比が改良されることを実験的に認めている。
【0036】
図3は、LEDからの発光の偏光比が、無極性LEDの発光層中のIn含有量を増加させることによって増加される様子を例示するグラフであって、発光層は、III族窒化物材料から成る。図3に示されるように、発光波長およびIn含有量は、ほぼ線形関係を有し、例えば、477nmの発光波長は、28%のIn組成に対応し、365nmの発光波長は、0%のIn組成に対応する。さらに、偏光比は、発光波長の増加に伴って増加する傾向にあって、発光層中のIn含有量の増加に直接対応する。具体的には、偏光比は、発光波長およびIn組成の増加に伴って増加する。
【0037】
これらの効果は、理論的に研究されているが、実験的に検証されてはいない。発明者らは、理論的研究に従って、これらの現象が発光層の歪状態に起因すると考える。
【0038】
それでもなお、477nmの波長(約28%のIn含有量に対応する)で発光するLEDは、477nmより短い波長で発光する任意の他の検証されたLEDと比較して、最高偏光比(0.87)を提供することを認めている。したがって、その発光層中に高In含有量を有する無極性LEDは、高偏光比を伴う発光特徴を保有する傾向にある。
【0039】
(可能性として考えられる修正例および変形例)
本発明の可能性として考えられる修正例は、LED構造内に歪制御層を導入することである。理論および実験によると、高偏光比が発光層中の高歪によって生じるのに伴って、歪制御層の導入が、偏光比を変化させるであろう。例えば、発光InGaN層の片側または両側にAlGaN層を挿入することは、InGaN層中の歪を増加させるであろう。これは、AlGaNがGaNより小さい格子定数を有し、InGaN層がより大きい格子不整合を被るためである。これらの歪制御層は、InGaN発光層の近傍に挿入される必要はないが、InGaN層中の歪が向上されるように、LED構造内のいずれかの場所に挿入される。
【0040】
本発明は、レーザ等の他の素子に適用されてもよい。
【0041】
(プロセスステップ)
図4は、LEDから放出される光の偏光度(例えば、偏光比)を制御するステップを例示する工程図である。本方法は、以下のステップを含む。
【0042】
ブロック400は、活性層(例えば、1つ以上の発光層)中のIn含有量を変化または制御し、LEDの活性層から放出される光の偏光度または偏光比を制御するステップを表す。制御ステップは、活性層中のIn含有量を変化させ、誘発される歪を制御するステップであってもよい。例えば、制御ステップは、LEDの発光活性層中のIn含有量を増加させることによって、偏光度(または、偏光比)を増加させるステップであってもよい。通常は、活性層は、1つ以上のInGaNまたはGaN障壁層間に埋め込まれる(InGa)N(式中、0≦x≦1、0<y≦1、およびx+y=1)を含む。この場合、ステップは、障壁層のIn含有量は不変のまま、LEDの活性層中のIn含有量を変化させ、誘発される歪を制御するステップを含んでもよい。通常は、In含有量を伴う発光層は、III族窒化物層上に形成(例えば、成長)され、In含有量の増加は、偏光比を増加させるために、III族窒化物層との格子不整合の増加によって、発光層中の歪を増加させる。
【0043】
ブロック402は、障壁層のAl含有量は不変のまま、活性層がAlInGaNを含有するように、活性層のアルミニウム(Al)含有量を変化させ、歪を調節するステップを表す(任意ステップ)。ブロック404は、LED内の発光層の片側または両側に、1つ以上の歪制御層を導入し、偏光比または偏光度を変化させるステップを表す(任意ステップ)。
【0044】
ブロック406は、方法の最終結果、すなわち、LEDを表す。LEDは、例えば、無極性(または、半極性)LEDであってもよい。
【0045】
図5(a)は、偏光502を発光するLED500の断面図である。LED500は、1つ以上の(AlInGa)N(式中、0≦x≦1、0≦y≦1、0≦z≦1、およびx+y+z=1)半導体層504に基づいてもよいし、またはそれを含んでもよい。(AlInGa)N半導体504は、ウルツ鉱結晶等の基板または鋳型506上にエピタキシャルに調製(例えば、成長)されてもよい。例えば、基板または鋳型506は、0≦x<1、0≦y≦1、0≦z≦1、およびx+y+z=1を伴うGaNまたは(AlInGa)N等のIII族窒化物を含んでもよい。GaN鋳型506は、サファイア、尖晶石、SiC、およびSi等の異種基板510上に調製されるGaN層であってもよい。加えて、(AlInGa)N半導体504は、ウルツ鉱結晶の無極性方位(例えば、a平面またはm平面等の無極性平面508)上にエピタキシャルに調製(例えば、成長)されてもよい。
【0046】
基板または鋳型506が、(AlInGa)Nである(但し、GaNではない)場合、基板または鋳型506は、偏光502の偏光度を制御する(AlInGa)N半導体504中の歪を設定してもよい。GaNではない(AlInGa)N基板506または鋳型(式中、0≦x<1、0≦y≦1、0≦z≦1、およびx+y+z=1)は、GaNと異なる歪管理の別の基盤を設定可能である。
【0047】
LEDは、In含有量を伴う活性層512を含み、In含有量は、活性層512中の誘発される歪を制御し(例えば、In含有量を変化させることによって)、誘発される歪は、活性層512によって放出される偏光502の偏光度を制御する。例えば、活性層(例えば、発光層)512のIn含有量は、発光層512によって放出される偏光502の偏光比が0.8超であるようなものであってもよい。通常は、In含有量を伴う発光層512は、III族窒化物層514a、506上に形成(例えば、成長)され、In含有量は、偏光比を0.8超に増加させるために、III族窒化物層514a、506との格子不整合の増加によって、発光層512中の歪を増加させる。
【0048】
LED500は、QW構造またはDH構造を含んでもよく、QWまたはDH構造は、活性層512のバンドギャップより大きいバンドギャップを有する1つ以上の障壁層514a、514bまたはクラッド層間に埋め込まれる薄発光活性層512を含む。したがって、活性層512は、例えば、単一QW構造または多重QW構造であってもよい。
【0049】
活性層512は、範囲0<y≦1内のIn含有量yを伴うInGaNを含んでもよく、In含有量は、活性層512中の誘発される歪を制御し、誘発される歪は、偏光502の偏光度を制御する。例えば、活性層512は、活性層512のy値より小さいy値を有する1つ以上のInGaNまたはGaN層514a、514b間に埋め込まれる(InGa)N(式中、0≦x≦1、0<y≦1、およびx+y=1)であってもよい。別の実施例では、活性層512は、障壁層514a、514bは不変のまま、Al、したがって、AlInGaNをさらに含み、歪を調節してもよい。活性層512中のAl含有量は、活性層512中の歪を調節し、活性層によって放出される偏光502の偏光度を制御してもよい。活性層512は、十分に薄く(臨界厚516より薄い)維持され、歪を解放し得る不整合転位の発生を回避してもよい(例えば、通常は、偏光度を制御する活性層512中の歪の解放を回避する)。
【0050】
また、活性領域512によって放出される光502を伝送する素子500の上表面518が示される。
【0051】
図5(b)は、図5(a)の(表面518の垂線に沿った)概略上面図であって、表面518の垂直方向に放出される光502の偏光比を例示する。光502(ρ)の偏光比は、ρ=(I+I)/(I−I)として一般的に定義され、式中、IおよびIは、それぞれ、面内方向aおよびbに平行(すなわち、素子表面518に平行またはその同一平面上にある)の極性(電場)を有する光502の強度である(aおよびb方向は、互いに直交する)。言い換えると、Iは、方向aに偏光を有する光502の強度であって、Iは、方向bに偏光を有する光502の強度である。ρがゼロ、すなわち、I=Iの時、光502は、非偏光である。IがIと等しくない時、光502は、(部分的に)直線偏光される。IまたはIがゼロ(すなわち、ρが単位元)である時、光502は、(完全に)直線偏光される。
【0052】
議論を容易にするために(aおよびbが表面518に平行であるように)、図5(a)は、表面518に垂直に出現する光502のみ示す。しかしながら、他の角度および他の表面から出現する光も可能である。したがって、本発明の偏光比の測定は、表面518に垂直に放出される光502を観察することによって行なわれたが、偏光aおよびbは、通常は、観察方向(すなわち、光502の伝搬方向)に対して決定される。したがって、光502が表面512に垂直に伝搬しない場合、aおよびbは、必ずしも表面518に平行ではない。実際、光502は、表面512から任意の方向に伝搬し、偏光aおよびbは、観察方向(視線の位置)に対するものである。
【0053】
(利点および改良点)
本発明は、In含有量を増加させることによって、LED内のエレクトロルミネセンスの偏光の向上を検証した。本発明は、素子の発光層中のIn含有量の増加にのみ依存する(歪制御層が挿入されない限り)。故に、材料成長の追加プロセス、無菌室処理、または素子パッケージングは、必要とされない。In含有量の変化は、偏光度ではなく、発光波長を変化させるために一般に使用されている。
【0054】
本発明の特定の用途の1つは、LCDの背面照明のためのものである。LCDは、フラットパネルディスプレイにおける成長技術である。自己発光素子ではないため、LCDは、ディスプレイユニット内に光源を必要とする。光源は、現在、冷陰極蛍光灯からLEDに変化しつつあり、したがって、LED市場の本部門は、増加するであろうことが期待される。
【0055】
LCD600は、図6(a)および図6(b)に示されるように、偏光技術に基づく。液晶602の薄層は、電気的制御された偏光回転子として作用する。直線偏光604が、液晶層602上に入射すると、光604は、液晶602を電気的に動作608させることによって、通過(図6(a)の光出力606)または遮断(光出力606がない、図6(b))され得る。LCDユニット600が必要とするものは、光源610によって放出される源光614の好ましくない偏光成分を濾光するためのプラスチックシートである、線形偏光子612と組み合わせた光源610である。例えば、図6(b)は、交流(AC)電圧608が液晶602に印加されると、光出力616が偏光子618によって遮断されるように、液晶602が、偏光604を回転させないことを示す。図6(a)は、印加されるAC電圧608の不在下、液晶602が偏光604を回転させ、偏光子618を通過し、光出力606を形成する偏光を有する光620を形成することを示す。また、図6(a)および図6(b)には、配向膜622が示される。
【0056】
偏光子612の透過率は、通常は、80%であって、したがって、光614の20%は、偏光子612によって損失される。1つ以上の偏光LED(光源610として)がLCD適用される場合、偏光子612は、もはや必要とされず、ディスプレイ輝度が、大幅に増加される。加えて、ディスプレイユニット600の重量が減少される。これらの利点を達成するために、高偏光比が、LED610のために必要とされる。本発明は、本目的に寄与する単純な技術である。
【0057】
(参考文献)
以下の参考文献が本明細書中で参考として援用される。
【0058】
1. K.Okamoto,et al.,“Dislocation−free−m−plane InGaN/GaN light−emitting diodes on m−plane GaN single crystals”,Jpn.J.Appl.Phys.45,L1197(2006)。この論文は、バルクGaN基板上に加工された無極性のLEDについて0.77の偏光比を報告している。
【0059】
2. H.Tsujimura,et al.,“Characteristics of polarized electroluminescence from m−plane InGaN−based light emitting diodes”,Jpn.J.Appl.Phys.46,L1010(2007)。この論文は、バルクGaN基板上に加工された無極性のLEDについて0.8の最大偏光比を報告している。
【0060】
3. S.Nakagawa,“Temperature dependence of polarized electroluminescence from nonpolar m−plane InGaN−based light emitting diodes”,Appl.Phys.Lett.91,171110(2007)。この論文は、偏光比における温度の影響を報告している。報告された最高数は0.98(100Kにて測定)。室温においては偏光比として0.85が報告されている。
【0061】
4. A.A.Yamaguchi,“Anisotropic optical matrix elements in strained GaN quantum wells”,Jpn.J.Appl.Phys.46,L789(2007)。この論文は、無極性および他の入射面において偏光の理論的計算を提供する。
【0062】
5. Hisashi Masui,Hisashi Yamada,Kenji Iso,Shuji Nakamura,Steven P.DenBaars,“Optical polarization characteristics of m−oriented InGaN/GaN light−emitting diodes with various indium compositions in single−quantum−well structure”,J.Phys.D:Appl.Phys.41(2008)225104(7pp)。
【0063】
(結論)
ここで、本発明の好ましい実施形態の説明を結論付ける。本発明の1つ以上の実施形態の上述の説明は、例示および説明の目的のために提示されている。本発明を包括的または開示される正確な形態に限定することを意図するものではない。多くの修正例および変形例が、上述の教示に照らして可能である。本発明の範囲は、本発明を実施するための形態によってではなく、本明細書に添付の請求項によって限定されることが意図される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
偏光を放出する、発光ダイオード(LED)。
【請求項2】
前記LEDは、1つ以上の発光層から成り、該発光層のインジウム(In)含有量は、該発光層によって放出される前記偏光の偏光比が0.8超のものである、請求項1に記載のLED。
【請求項3】
前記発光層は、III族窒化物層上に形成され、該発光層の前記In含有量は、前記偏光比を0.8超に増加させるために、該III族窒化物層との格子不整合の増加によって、該発光層中の歪を増加させる、請求項2に記載のLED。
【請求項4】
前記LEDは、1つ以上の(AlInGa)N(式中、0≦x≦1、0≦y≦1、0≦z≦1、およびx+y+z=1)半導体から成る、請求項1に記載のLED。
【請求項5】
前記(AlInGa)N半導体は、ウルツ鉱結晶の無極性方位上にエピタキシャルに調製される、請求項4に記載のLED。
【請求項6】
前記(AlInGa)N半導体は、GaN基板またはGaN鋳型上にエピタキシャルに調製される、請求項4に記載のLED。
【請求項7】
前記GaN鋳型は、異種基板上に調製されるGaN層である、請求項6に記載のLED。
【請求項8】
前記(AlInGa)N半導体は、0≦x<1、0≦y≦1、0≦z≦1、およびx+y+z=1を伴う、GaNではない、(AlInGa)N基板または鋳型上に調製され、GaNと異なる歪管理のための基盤を設定する、請求項4に記載のLED。
【請求項9】
前記LEDは、量子井戸(QW)構造または二重ヘテロ(DH)構造から成り、該QWまたはDH構造は、発光活性層であって、該活性層のバンドギャップより大きいバンドギャップを有する1つ以上の障壁層またはクラッド層間に埋め込まれる、発光活性層を含む、請求項1に記載のLED。
【請求項10】
前記活性層は、該活性層のIn含有量(y)値より小さいy値を有する1つ以上のInGaNまたはGaN層間に埋め込まれる(InGa)N(式中、0≦x≦1、0<y≦1、およびx+y=1)を含む、請求項9に記載のLED。
【請求項11】
前記活性層は、単一QW構造または多重QW構造である、請求項9に記載のLED。
【請求項12】
前記活性層は、範囲0<y≦1内のインジウム(In)含有量yを伴うInGaNを含み、該In含有量は、該活性層中で誘発される歪を制御し、該誘発される歪は、前記偏光の偏光度を制御する、請求項9に記載のLED。
【請求項13】
前記活性層は、臨界厚より薄く、歪を解放する不整合転位の発生を回避する、請求項9に記載のLED。
【請求項14】
前記活性層は、歪を調節するためのAlInGaNである、請求項9に記載のLED。
【請求項15】
発光ダイオード(LED)から放出される光の偏光度を制御することを含む、LEDを加工する方法。
【請求項16】
前記制御ステップは、活性層中のインジウム(In)含有量を変化させ、誘発される歪を制御するステップを含む、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
(1)前記LEDは、活性層を含み、
(2)該活性層は、1つ以上のInGaNまたはGaN障壁層間に埋め込まれる(InGa)N(式中、0≦x≦1、0<y≦1、およびx+y=1)を含み、
(3)前記制御ステップは、該障壁層のIn含有量は不変のまま、該活性層中の前記In含有量(y、0<y≦1)を変化させ、前記誘発される歪を制御することを含む、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記障壁層のAl含有量は不変のまま、AlInGaNに対する前記活性層のアルミニウム(Al)含有量を変化させ、歪を調節することをさらに含む、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記制御ステップは、前記LEDの1つ以上の発光層中のインジウム(In)含有量を増加させることによって、前記偏光度を増加させることを含む、請求項15に記載の方法。
【請求項20】
III族窒化物層上に前記In含有量を伴う発光層を形成することをさらに含み、該In含有量の増加は、偏光比を増加させるために、該III族窒化物層との格子不整合の増加によって、該発光層中の歪を増加させる、請求項18に記載の方法。
【請求項21】
発光ダイオード(LED)から発光させるための方法であって、
該LEDの発光領域から発光させることを含み、該発光領域のインジウム含有量は、該光の偏光比が0.8超のものである、方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5(a)】
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【図5(b)】
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【図6】
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【公表番号】特表2011−511463(P2011−511463A)
【公表日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−545261(P2010−545261)
【出願日】平成21年2月2日(2009.2.2)
【国際出願番号】PCT/US2009/032892
【国際公開番号】WO2009/097622
【国際公開日】平成21年8月6日(2009.8.6)
【出願人】(592130699)ザ リージェンツ オブ ザ ユニバーシティ オブ カリフォルニア (364)
【氏名又は名称原語表記】The Regents of The University of California
【Fターム(参考)】