説明

インストルメントパネル収納部の周辺構造

【課題】インストルメントパネル(以下、「I−パネル」という)に車室内側から加えられた荷重を効率的に吸収し、かつ収納物の車室内への飛び出しを防止可能とするI−パネル収納部の周辺構造を提供する。
【解決手段】I−パネル1に凹形状に形成される収納部2と、収納部2の前壁2bの前方で車幅方向に延びるステアリングサポートメンバ(以下、「S−メンバ」という)4とを備える収納部2の周辺構造において、前壁2bから前方に突出する取付片5,11が設けられ、取付片5,11はS−メンバ4と当接する取付部5a,11aを有し、取付部5a,11aには、取付部5aの前端または取付部11aの後端で開口するU字状の切欠5c,11cが形成され、切欠5c,11cに挿通された締結部材6によって、取付片5,11がS−メンバ4に締付けられ、S−メンバ4の横断面中心4aが、前壁2bの上端上方か、または前壁2bの下端下方に配置されている、収納部2の周辺構造。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両におけるステアリングサポートメンバに支持されるインストルメントパネル収納部の周辺構造に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、自動車などの車両のインストルメントパネル(以下、「I−パネル」という)には、グローブボックス、アッパートレイなどの収納部が設けられている。この収納部は、I−パネルの車室内側から見て車両前方に向かって凹状に形成されている。また、I−パネルの裏側には車幅方向に延びるメンバが設けられており、このメンバによって、収納部の前壁を支持するとともにI−パネルを支持する構造が採用される場合がある。
【0003】
例えば、特許文献1では、収納部として構成されたアッパートレイを高い剛性で支持するとともにI−パネルを支持するように、アッパートレイの前壁がブラケットを介してメンバに高い剛性で取付けられている。
【0004】
また、特許文献2では、収納部として構成されたアッパートレイを変形し易く構成することによって、アッパートレイに作用する荷重を吸収可能とするように、略箱状に形成されたアッパートレイの前壁が、当該前壁の前方に配置されたメンバに取付けられ、さらに略箱状のアッパートレイの辺部および角部を薄肉に形成することによって脆弱部が設けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3619072号公報
【特許文献2】特開2003−104130号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
近年の自動車などの車両では、I−パネルに車室内側から荷重が加えられた場合、その荷重を吸収することが要求されている。しかしながら、特許文献1では、I−パネルのアッパートレイがメンバにより高い剛性で支持されているので、I−パネルに荷重が加えられた場合、その荷重を十分に吸収できない。
【0007】
また、特許文献2では、I−パネルに車室内側から荷重が加えられた場合、アッパートレイの前壁が、アッパートレイの辺部および角部の脆弱部に沿って分離して、車室内側に移動するので、アッパートレイ内の収納物が車室内に飛び出すおそれがあり、問題である。
【0008】
本発明はこのような実状に鑑みてなされたものであって、その目的は、I−パネルに車室内側から加えられた荷重を効率的に吸収し、かつ収納物の車室内への飛び出しを防ぐことを可能とするインストルメントパネル収納部の周辺構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
課題を解決するために、本発明のインストルメントパネル収納部の周辺構造は、車両のインストルメントパネルに車両前方に向かって凹形状に形成される収納部と、前記収納部の前壁の前方で車幅方向に延びるステアリングサポートメンバとを備えているインストルメントパネル収納部の周辺構造において、前記前壁から前方に突出する取付片が設けられ、前記取付片は前記ステアリングサポートメンバと当接する取付部を有し、前記取付部には、該取付部の前端または後端で開口するU字状の切欠が形成され、前記切欠に挿通された締結部材によって、前記取付片が前記ステアリングサポートメンバに締付けられるように構成され、前記ステアリングサポートメンバの横断面中心が、前記前壁の上端より上方か、または前記前壁の下端より下方に配置されている。
【0010】
本発明のインストルメントパネル収納部の周辺構造では、前記前壁と連続する前記取付片の部分が、脆弱部として薄肉に形成されている。
【0011】
本発明のインストルメントパネル収納部の周辺構造では、前記ステアリングサポートメンバを配置した側の前記前壁の端部に位置する前記収納部の辺部が前方に向かって湾曲して形成されている。
【0012】
本発明のインストルメントパネル収納部の周辺構造では、前記収納部の辺部における肉厚が、他の収納部の壁における肉厚より薄く形成されている。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、以下の効果を得ることができる。
本発明のインストルメントパネル収納部の周辺構造は、車両のインストルメントパネルに車両前方に向かって凹形状に形成される収納部と、前記収納部の前壁の前方で車幅方向に延びるステアリングサポートメンバとを備えているインストルメントパネル収納部の周辺構造において、前記前壁から前方に突出する取付片が設けられ、前記取付片は前記ステアリングサポートメンバと当接する取付部を有し、前記取付部には、該取付部の前端または後端で開口するU字状の切欠が形成され、前記切欠に挿通された締結部材によって、前記取付片が前記ステアリングサポートメンバに締付けられるように構成され、前記ステアリングサポートメンバの横断面中心が、前記前壁の上端より上方か、または前記前壁の下端より下方に配置されている。
そのため、通常の場合、前記インストルメントパネルの収納部が前記ステアリングサポートメンバによって確実に支持される一方で、前記インストルメントパネルに車室内側から荷重が加えられ、その荷重が収納部に伝わって、収納部に荷重が作用する場合、前記収納部が、前記ステアリングサポートメンバに取付られた前記取付片を変形させながら移動するか、または前記ステアリングサポートメンバから外れて移動することとなる。さらに、前記ステアリングサポートメンバの横断面中心が、前記前壁の上端より上方か、または前記前壁の下端より下方に配置されているので、前記ステアリングサポートメンバから外れた前記収納部が、前記ステアリングサポートメンバの上方または下方に移動することとなる。従って、前記収納部に加えられる荷重を、前記ステアリングサポートメンバにより受け止めることなく、車両前方に逃がすことができ、その結果、前記インストルメントパネルに車室内側から加えられた荷重を効率的に吸収できる。さらに、前記収納部の前壁が前記ステアリングサポートメンバに押されることがないので、前記前壁が車室内側に移動することが防止され、前記収納部内の収納物が車室内に飛び出すことを防止できる。
【0014】
本発明のインストルメントパネル収納部の周辺構造では、前記前壁と連続する前記取付片の部分が、脆弱部として薄肉に形成されているので、前記取付片が変形し易くなっている。そのため、前記収納部が、前記ステアリングサポートメンバに取付られた前記取付片を変形させながら移動するか、または前記ステアリングサポートメンバから外れて移動することをさらに促すことができ、さらに上述の効果が効率的に得られる。
【0015】
本発明のインストルメントパネル収納部の周辺構造では、前記ステアリングサポートメンバを配置した側の前記前壁の端部に位置する前記収納部の辺部が前方に向かって湾曲して形成されているので、前記収納部が、前記ステアリングサポートメンバと接触することを防止するように、前記ステアリングサポートメンバの上方または下方に移動することを促すことができ、さらに上述の効果が効率的に得られる。
【0016】
本発明のインストルメントパネル収納部の周辺構造では、前記収納部の辺部における肉厚が、他の収納部の壁における肉厚より薄く形成されているので、前記インストルメントパネルを成形する際に、前記収納部を変形し難くでき、確実に前記収納部の意図した形状を形成できる。よって、効果的に上述の効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の第1実施形態におけるインストルメントパネルの車室内側の外観を示す斜視図である。
【図2】本発明の第1実施形態におけるインストルメントパネルを裏側から見た斜視図である。
【図3】図2のA−A断面図である。
【図4】図2で示したインストルメントパネルの取付片を拡大して示す斜視図である。
【図5】車室内側から荷重が加えられた場合のインストルメントパネル収納部の周辺構造を示す図2のA−A断面図である。
【図6】本発明の第2実施形態におけるインストルメントパネルの取付片を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の実施形態におけるインストルメントパネル(以下、「I−パネル」という)収納部の周辺構造について以下に説明する。本発明の実施形態では、I−パネルの収納部としてアッパートレイを用いて説明するが、これに限定されず、本発明の実施形態と同様の作用および効果が得られるのであれば、グローブボックス、その他の小物入れであってもよい。さらに、本発明の実施形態では、右ハンドル車について説明するが、これに限定されず、例えば左ハンドル車であってもよい。
【0019】
[第1実施形態]
本発明の第1実施形態におけるインストルメントパネル収納部の周辺構造について説明する。
図1に示すように、車両の運転席および助手席(図示せず)の前方にI−パネル1が配置されており、I−パネル1は樹脂成形により作製されている。I−パネル1の助手席前方の部分には、収納部として、前方に向かった凹状かつ略箱状に形成されたアッパートレイ2が設けられている。アッパートレイ2の下側にはグローブボックス3が設けられている。
【0020】
図2および図3を参照すると、アッパートレイ2は、その内部の収納空間2aを画成するように、前壁2b、上壁2c、下壁2d、および一対の側壁2eを有している。この前壁2bおよび上壁2cの間の辺部2fと、前壁2bおよび下壁2dの間の辺部2gとは、前方に向かって湾曲して形成されている。これらの辺部2f,2gの肉厚は、前壁2b、上壁2c、下壁2d、および側壁2eの肉厚より薄く形成されている。
【0021】
アッパートレイ2の前方には、車幅方向に延びるパイプ状のステアリングサポートメンバ(以下、「S−メンバ」という)4が設けられ、このS−メンバ4の横断面中心4aはアッパートレイ2の前壁2bの上端より上方に配置されている。前壁2bの前面には、S−メンバ4を取付けるための取付片5が前方に向かって突設されている。ここで図4を参照すると、取付片5には、その上端で前壁2bからアッパートレイ2の凹む方向と同方向に広がる取付部5aと、取付部5aの車幅方向両端および前壁2bの間で延在する三角リブ部5bとが設けられている。取付部5aには、取付部5aの前端で開口するU字状の切欠5cが形成されている。アッパートレイ2の前壁2bと連続する取付片5の部分は、脆弱部として薄肉に形成されている。
【0022】
再び、図2および図3を参照すると、取付片5の取付部5aは、S−メンバ4と当接する構成となっている。S−メンバ4には、取付片5の切欠5cに対応してスクリュー孔4bが設けられており、取付片5の取付部5aは、切欠5cに挿通された締結部材であるスクリュー6をスクリュー孔4bに締付けることによって、S−メンバ4に取付けられることとなる。
【0023】
ここで、図5を参照して、I−パネル1に車室内側から荷重Fが加えられた場合における、アッパートレイ2の周辺構造の作用を説明する。
I−パネル1に荷重Fが加えられてアッパートレイ2に伝わり、アッパートレイ2に荷重Fが作用する。このとき、アッパートレイ2が前方寄りに移動する。これに対して、高い剛性を有するS−メンバ4は初期位置に留まろうとするので、S−メンバ4に取付けられた取付片5の前端が上方に持ち上げられる。さらに荷重Fが加えられ続けると、スクリュー6が切欠5cから抜けて、取付片5がS−メンバ4から外れる。その後、アッパートレイ2はS−メンバ4の下方を移動する。
【0024】
以上のように本発明の第1実施形態によれば、上述の構成および作用によって、通常の場合、I−パネル1のアッパートレイ2がS−メンバ4によって確実に支持される。その一方で、I−パネル1に車室内側から荷重Fが加えられてアッパートレイ2に伝わり、アッパートレイ2に荷重Fが作用する場合、収納部2が、S−メンバ4に取付られた取付片5を変形させながら移動するか、またはS−メンバ4から外れて移動することとなる。さらに、S−メンバ4の横断面中心4aが、前壁2bの上端より上方に配置されているので、S−メンバ4から外れたアッパートレイ2が、S−メンバ4の下方に移動することとなる。従って、アッパートレイ2に加えられる荷重Fを、S−メンバ4により受け止めることなく、車両前方に逃がすことができ、その結果、I−パネル1に車室内側から加えられた荷重Fを効率的に吸収できる。さらに、アッパートレイ2の前壁2bがS−メンバ4に押されることがないので、前壁2bが車室内側に移動することが防止され、アッパートレイ2内の収納物が車室内に飛び出すことを防止できる。
【0025】
本発明の第1実施形態によれば、前壁2bと連続する取付片5の部分が、脆弱部として薄肉に形成されているので、取付片5が変形し易くなっている。そのため、アッパートレイ2が、S−メンバ4に取付られた取付片5を変形させながら移動するか、またはS−メンバ4から外れて移動することをさらに促すことができる。
【0026】
本発明の第1実施形態によれば、S−メンバ4を配置した側に位置する前壁2bおよび上壁2cの間の辺部2fが、前方に向かって湾曲して形成されているので、アッパートレイ2が、S−メンバ4と接触することを防止するように、S−メンバ4の下方に移動することを促すことができる。
【0027】
本発明の第1実施形態によれば、前壁2bおよび上壁2cの間の辺部2f、並びに前壁2bおよび下壁2dの間の辺部2gにおける肉厚が、前壁2b、上壁2c、下壁2d、および側壁2eの肉厚より薄く形成しているので、I−パネル1を成形する際に、アッパートレイ2を変形し難くでき、確実にアッパートレイ2の意図した形状を形成できる。よって、効果的に上述の効果が得られる。
【0028】
また、取付片5を構成する取付部5aが、アッパートレイ2の前壁2bからアッパートレイ2の凹む方向と同方向に広がるように形成され、さらに取付片5を構成する三角リブ部5bが、取付部5aの車幅方向両端および前壁2bの間で延在するように形成されているので、取付片5をI−パネル1と一体成形した場合、取付片5は、アッパートレイ2を含むI−パネル1の型抜き方向に同方向に沿って形成できる。そのため、取付片5を作製するために、I−パネル1を作製するための金型にスライド型などを設ける必要がなく、I−パネル1の金型費用を低減できる。
【0029】
[第2実施形態]
本発明の第2実施形態について以下に説明する。第2実施形態の基本的な構成は、第1実施形態と同様になっている。第1実施形態と同様な要素は、第1実施形態と同様の符号および名称を用いて説明する。ここでは、第1実施形態と異なる構成について説明する。
【0030】
第2実施形態では、図6に示すように、S−メンバ4を取付けるための取付片11が前方に向かって突設されている。取付片11には、その上端でアッパートレイ2の凹む方向と同方向に広がる取付部11aが設けられている。取付部11aは、アッパートレイ2の前壁2bと間隔を空けて配置されているが、取付部11aの車幅方向両端および前壁2bの間で延在する三角リブ部11bによって、前壁2bと連続して形成されている取付部11aには、取付部11aの後端で開口するU字状の切欠11cが形成されている。アッパートレイ2の前壁2bと連続する取付片11の部分は、脆弱部として薄肉に形成されている。
【0031】
取付片11の取付部11aは、S−メンバ4と当接する構成となっている。取付片11の取付部11aは、切欠11cに挿通された締結部材であるスクリュー6を、S−メンバ4のスクリュー孔4bに締付けることによって、S−メンバ4に取付けられる構成となっている。
【0032】
なお、第2実施形態におけるアッパートレイ2の周辺構造の作用および効果は、第1実施形態と同様である。
【0033】
ここまで本発明の実施形態について述べたが、本発明は既述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想に基づいて各種の変形および変更が可能である。
【0034】
例えば、本発明の実施形態の第1変形例として、S−メンバ4の横断面中心4aがアッパートレイ2の前壁2bの下端より下方に配置されていてもよい。本発明の実施形態と同様の効果が得られる。
【0035】
本発明の実施形態の第2変形例として、第1実施形態および第2実施形態の場合に、S−メンバ4を配置した側に位置する前壁2bおよび上壁2cの間の辺部2fのみが、湾曲して形成されていてもよい。また、上述の第1変形例の場合には、S−メンバ4を配置した側に位置する前壁2bおよび下壁2dの間の辺部2gのみが、前方に向かって湾曲して形成されていてもよい。本発明の実施形態と同様の効果が得られる。
【符号の説明】
【0036】
1 インストルメントパネル(I−パネル)
2 アッパートレイ
2b 前壁
2f,2g 辺部
4 ステアリングサポートメンバ(S−メンバ)
4a 横断面中心
4b スクリュー孔
5,11 取付片
5a,11a 取付部
5c,11c 切欠
6 スクリュー
F 荷重


【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両のインストルメントパネルに車両前方に向かって凹形状に形成される収納部と、
前記収納部の前壁の前方で車幅方向に延びるステアリングサポートメンバとを備えているインストルメントパネル収納部の周辺構造において、
前記前壁から前方に突出する取付片が設けられ、
前記取付片は前記ステアリングサポートメンバと当接する取付部を有し、
前記取付部には、該取付部の前端または後端で開口するU字状の切欠が形成され、
前記取付部の切欠に挿通された締結部材によって、前記取付片が前記ステアリングサポートメンバに締付けられるように構成され、
前記ステアリングサポートメンバの横断面中心が、前記前壁の上端より上方か、または前記前壁の下端より下方に配置されている、インストルメントパネル収納部の周辺構造。
【請求項2】
前記収納部の前壁と連続する取付片の部分が、脆弱部として薄肉に形成されている、請求項1に記載されたインストルメントパネル収納部の周辺構造。
【請求項3】
前記ステアリングサポートメンバを配置した側の前記前壁の端部に位置する前記収納部の辺部が前方に向かって湾曲して形成されている、請求項1または2に記載されたインストルメントパネル収納部の周辺構造。
【請求項4】
前記収納部の辺部における肉厚が、他の収納部の壁における肉厚より薄く形成されている、請求項3に記載されたインストルメントパネル収納部の周辺構造。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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