説明

インスリン分泌促進剤及びエンドセリン産生抑制剤

【課題】 本発明の課題は、天然物質を有効成分として含有するインスリン分泌促進物剤及びエンドセリン-1産生抑制剤を提供することである。
【解決手段】 本発明は、エンサイ又はその抽出物を有効成分として含有するインスリン分泌促進物剤及びエンドセリン-1産生抑制剤に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、糖尿病などの疾患の治療又は予防に利用できるインスリン分泌促進剤、及び高血圧症などの疾患の治療又は予防に、あるいは美白化粧品として利用できるエンドセリン-1産生抑制剤に関する。
【背景技術】
【0002】
インスリンは、膵臓ランゲルハンス島B(βとも言う)細胞(「膵臓B細胞」とも呼ばれる)から分泌されるホルモンである。インスリンの主な生理作用は血糖値を下げることである。筋においては、インスリンは、糖、アミノ酸及びカリウムの取り込みの促進、グリコーゲン合成の促進、並びにタンパク質合成の促進等の効果を有する。脂肪組織では、インスリンは、糖の取り込み及び利用促進、脂肪の合成促進及び分解抑制、並びにタンパク質の合成促進等の効果がある。さらに、肝では、インスリンは、糖新生の抑制、グリコーゲンの合成促進及び分解抑制、並びにタンパク質の合成促進等の効果を有する。
【0003】
ここで、インスリンとは、21個のアミノ酸残基からなるA鎖と30個のアミノ酸残基からなるB鎖とから構成されるペプチドである。当該A鎖とB鎖とは、2箇所でジスルフィド結合により結合されている。インスリンは、膵臓B細胞の粗面小胞体で、前駆体であるプロインスリンとして合成され、インスリンに転換後、B顆粒内に貯蔵され、分泌刺激に応じて血中に放出される。
【0004】
インスリンの分泌は、主としてグルコースにより促進される。また、その他のインスリン分泌促進因子として、マンノースなどの糖、アミノ酸(アルギニン、リジンなど)、ペプチドホルモン(グルカゴン、ガストリック・インビビトリー・ポリペプチドなど)、迷走神経刺激剤、交感神経系β受容体刺激剤、交感神経系のα受容体遮断剤、スルホニル尿素剤などが挙げられる。
【0005】
標的細胞の細胞膜上には、インスリン受容体が存在する。食事などにより血糖値が上がると、インスリンは、膵臓から分泌され、標的細胞の細胞膜上のインスリン受容体に結合することで、血液中のブドウ糖が細胞に取り込まれ、血糖値が正常に保れる。
【0006】
ところで、糖尿病は、インスリンの欠乏又はインスリン作用の不足によってブドウ糖代謝異常が生じ、血液中のブドウ糖が増えすぎて尿の中に糖が溢れてきた状態で、慢性的に高血糖状態が続いている疾患である。この高血糖状態により、神経障害、白内障、腎障害、網膜症、関節硬化症、アテローム性動脈硬化症、糖尿病性壊疽等の種々の合併症を発症することがある。糖尿病には、I型糖尿病(インスリン依存型)とII型糖尿病(インスリン非依存型)がある。
【0007】
I型糖尿病は、主に15才未満の子供に見られ、「若年型糖尿病」とも呼ばれている。I型糖尿病は、膵臓B細胞が何らかの原因でインスリンを分泌できなくなり、高血糖として発症するものである。一方、II型糖尿病は、インスリンの分泌量が低下しているか(インスリン分泌不全)、インスリンの血糖を下げる作用が弱くなって(インスリン抵抗性)発症するものである。II型糖尿病には、遺伝素因のほかに、エネルギーの過剰摂取や栄養の偏った食生活、運動不足及びストレスが大きく関与している。
【0008】
糖尿病の大部分はII型糖尿病である。II型糖尿病が、日本人の糖尿病の90%を占めている。II型糖尿病の治療には、必ずしもインスリンを必要としないが、血糖値をコントロールするためにインスリン投与が必要になる場合がある。
【0009】
ところで、最近、血糖値上昇を抑制するための機能性食品、特に副作用が少なく、安全性の高い天然成分由来の機能性食品の研究が盛んに行われている。例えば、柑橘類から抽出されるノビレチン類(特許文献1)、ブリケリア属の植物抽出物及び該植物から単離されたフラボノイド(ルテオリン、ミリセチン、ジヒドロキシケムフェロール、アピゲニン、ケルセチン)(特許文献2)、オリーブ葉又はその抽出物(ルテオリンを含有する)(特許文献3)、野菜又は果物の抽出物、あるいは該抽出物が含有するヘスペリジン、ヘスペレチン、ナリンジン、ナリンゲニン、ジオスミン、ルチン及びケルセチンなどのフラボノイド(特許文献4)、イソフラボン及びイソフラボン配糖体(特許文献5)、アカメガシワ、エンサイ及びベニバナボロギク等の抽出物(特許文献6)などが血糖値上昇抑制効果を有することが報告されている。
【0010】
しかしながら、上述した物質については、いずれも糖分解酵素の抑制又は動物実験での血糖値上昇抑制効果が示されているのみである。インスリン分泌促進効果が実験により証明されたものはない。
【0011】
なお、従来において、エンサイ抽出物が、インスリン分泌促進効果を有することは知られていなかった。
【0012】
一方、エンドセリン-1は、血管内皮細胞が産生する強力な血管収縮ペプチドであり、21残基のアミノ酸からなる。エンドセリン-1は、血管内皮細胞に存在するエンドセリン変換酵素の働きでビッグエンドセリンから生成される。エンドセリンとしては、エンドセリン-1の他に、2種のイソフォーム、エンドセリン-2及びエンドセリン-3が知られている。
【0013】
これらのエンドセリンは、標的細胞のエンドセリン受容体を介してホスホリパーゼCの活性化、カルシウムチャンネルの開口など多様な細胞内シグナル伝達系を活性化する。その結果、ホルモン・神経伝達物質分泌調節、細胞増殖・分化作用などの様々な作用が奏される。エンドセリンは、平滑筋に直接作用して血管を収縮させる。一方、エンドセリンは、内皮細胞に作用し、プロスタグランジンI2、一酸化窒素などの弛緩因子を産生させることで、間接的に血管を弛緩させる。
【0014】
ところで、エンドセリン-1の濃度上昇は高血圧症や心疾患などの疾患と関連すると考えられている。また、エンドセリン-1は、血管以外にも種々の組織細胞で産生され、様々な生理的役割を担っている。例えば、紫外線が肌にあたるとエンドセリン変換酵素が活発に働き、ケラチノサイトに存在するビッグエンドセリンが分解され、エンドセリン-1が産生される。こうして産生されたエンドセリン-1は、メラノサイトを刺激し、シミ・ソバカスの原因であるメラニンを盛んに合成させる(非特許文献1)。
【0015】
以上のように、エンドセリン-1は、高血圧症や心疾患などの疾患又はシミ・ソバカスの原因であるメラニンの合成に関与している。従って、エンドセリン-1の産生を抑制することができれば、高血圧症や心疾患などの疾患又はシミ・ソバカスを治療又は予防することができる。
【0016】
そこで、エンドセリン-1の産生を抑制すべく、種々のエンドセリン受容体拮抗物質及びエンドセリン変換酵素阻害物質が開発されている。
【0017】
また、赤ワイン抽出物又は赤ワインに含まれるポリフェノール(ピセアタンノール、デルフィニジン、ペツニジンなど)が血管内皮細胞におけるエンドセリン-1の産生を抑制することが報告されている(非特許文献2、3)。他に、大豆イソフラボン(ゲニステイン)がエンドセリン-1の産生を抑制することが知られている(非特許文献4)。
【0018】
現在、市販の美白化粧品の多くは、チロシナーゼ活性を抑制する働きを有する。チロシナーゼは、分子状酸素によりチロシンを酸化してメラニンを生ずる酵素である。一方、カミツレの花から抽出して得られるカミツレエキスには、エンドセリンの働きを抑える作用があり、結果としてメラニンの産生を抑制する。そこで、カミツレエキスを含有する化粧品が新タイプの美白化粧品として販売されている。しかしながら、カミツレエキスが、エンドセリン-1の産生そのものを抑制することは知られていない。
【0019】
なお、従来において、エンサイ抽出物がエンドセリン-1産生抑制効果を有することは知られていなかった。
【0020】
【特許文献1】特開2001-240539号公報
【特許文献2】特表2002-541116号公報
【特許文献3】特開2002-10753号公報
【特許文献4】特表2002-524480号公報
【特許文献5】特開平11-116487号公報
【特許文献6】特開2003-026694号公報
【非特許文献1】ジャーナル オブ インベスティゲイティブ ダーマトロジー(The Journal of Investigative Dermatology),(米国),1993年,100巻,p.23-26
【非特許文献2】ネイチャー(Nature),(英国),2001年,414巻,p.863-864
【非特許文献3】クリニカルサイエンス(Clinical Science),(英国),2002年,103 suppl.48巻,72S-75S
【非特許文献4】アテロスクレロシス(Atherosclerosis)、(アイルランド),2002年,163巻,p.339-347
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0021】
本発明は、安全性の高い天然物質を有効成分として含有するインスリン分泌促進剤及びエンドセリン-1産生抑制剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0022】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意研究を行った結果、インスリン分泌を促進する天然物質及びエンドセリン-1産生を抑制する天然物質について検討したところ、エンサイ抽出物が、膵臓B細胞に働いてインスリン分泌を促進し、且つ血管内皮細胞に働いてエンドセリン-1産生を抑制する効果を有することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0023】
本発明は以下の発明を包含する。
(1)エンサイ又はその抽出物を有効成分として含有するインスリン分泌促進剤。
(2)(1)記載のインスリン分泌促進剤を含有する糖尿病又は糖尿病合併症治療剤。
(3)食品に添加するための(1)記載のインスリン分泌促進剤。
【0024】
(4)エンサイ又はその抽出物を有効成分として含有するエンドセリン-1産生抑制剤。
(5)(4)記載のエンドセリン-1産生抑制剤を含有する高血圧症又は心疾患治療剤。
(6)(4)記載のエンドセリン-1産生抑制剤を含有するシミ又はソバカス治療剤。
【0025】
(7)(4)記載のエンドセリン-1産生抑制剤を含有する化粧品。
(8)食品に添加するための(4)記載のエンドセリン-1産生抑制剤。
(9)エンサイを搾汁又は粉砕することを含む、インスリン分泌促進剤の製造方法。
【0026】
(10)エンサイを搾汁又は粉砕して得られた搾汁又は粉砕物を溶媒抽出に供し、抽出物を得る工程を含むことを特徴とする、(9)記載のインスリン分泌促進剤の製造方法。
【0027】
(11)エンサイを搾汁又は粉砕することを含む、エンドセリン-1産生抑制剤の製造方法。
【0028】
(12)エンサイを搾汁又は粉砕して得られた搾汁又は粉砕物を溶媒抽出に供し、抽出物を得る工程を含むことを特徴とする、(11)記載のエンドセリン-1産生抑制剤の製造方法。
【発明の効果】
【0029】
本発明により、インスリン分泌促進剤及びエンドセリン-1産生抑制剤が提供される。本発明に係るインスリン分泌促進剤及びエンドセリン-1産生抑制剤は、有効成分として生体に無毒な天然物質のエンサイに由来するものを含有することから、医薬又は化粧品として、あるいは特定保健用食品又は機能性食品の添加物として安全に使用できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
以下、本発明を詳細に説明するが、本発明の範囲はこれらの説明に拘束されることはなく、以下の例示以外についても、本発明の趣旨を損なわない範囲で適宜実施し得る。
【0031】
本発明に係るインスリン分泌促進剤及びエンドセリン-1産生抑制剤は、エンサイ又はその抽出物を有効成分として含有するものである。本発明に係るインスリン分泌促進剤をヒト等の動物に投与することにより、膵臓B細胞に働いてインスリン分泌を促進することができる。一方、本発明に係るエンドセリン-1産生抑制剤をヒト等の動物に投与することにより、血管内皮細胞及びケラチノサイト等のエンドセリン-1産生細胞に働いてエンドセリン-1産生を抑制することができる。
【0032】
ここで、「インスリン分泌促進」とは、膵臓B細胞から血中へのインスリン分泌を促進することを意味する。一方、「エンドセリン-1産生抑制」とは、血管内皮細胞及びケラチノサイト等のエンドセリン-1産生細胞においてエンドセリン-1の産生を抑制することを意味する。
【0033】
エンサイとは、ヒルガオ科に属する植物で、学名が「Ipomoea aquatica Forsk」である植物を意味する。エンサイは、沖縄ではウンチェーバーと呼ばれ、また、茎の形から空芯菜とも呼ばれる。エンサイは、沖縄の他に東南アジアで広く栽培されている。本発明に係るインスリン分泌促進剤又はエンドセリン-1産生抑制剤において使用するエンサイは、品種及び産地により特に限定されるものではないが、例えば沖縄産の大葉種又は小葉種等の品種が挙げられる。
【0034】
本発明に係るインスリン分泌促進剤又はエンドセリン-1産生抑制剤においては、エンサイの全体、葉、茎又は根等をそのまま用いることができる。あるいは、エンサイの全体、葉、茎又は根等の搾汁を使用してもよい。また、エンサイの全体、葉、茎又は根等を破砕又は粉砕等により粉末化処理したものを用いてもよい。本発明においては、エンサイの葉、茎又は根を用いることが好ましく、葉及び茎を用いることが特に好ましい。
【0035】
本発明に係るインスリン分泌促進剤又はエンドセリン-1産生抑制剤に使用するエンサイ抽出物は、例えば、エンサイを乾燥した後、遠心破砕器で破砕し、溶媒抽出を行うことで得ることができる。本発明において、エンサイ抽出物とは、上記抽出方法で得られた各種溶媒抽出液、その希釈液、その濃縮液又はその乾燥末を意味する。
【0036】
本発明に係るインスリン分泌促進剤又はエンドセリン-1産生抑制剤に使用するエンサイ抽出物としては、葉、茎又は根の抽出物が好ましく、葉及び茎の抽出物が特に好ましい。例えば、エンサイの葉及び茎を乾燥した後、遠心破砕器で破砕し、溶媒抽出を行い、抽出液を減圧下で乾燥することにより、葉及び茎の抽出物を粉末として得ることができる。
【0037】
エンサイ抽出物を得るために使用される抽出溶媒は、任意の溶媒であってよく、例えば、水、メチルアルコール、エチルアルコール、酢酸エチル及びその他の有機溶媒が挙げられる。あるいは、上記溶媒の2種以上を組み合わせた混合物を、抽出溶媒として用いることができる。
【0038】
エンサイ抽出物を得るための抽出条件として、抽出時間は、15分〜9時間、特に1〜3時間であることが好ましい。また。抽出に使用する抽出溶媒量は、原料に対して質量比で2〜100倍量、特に10〜50倍量とすることが好ましい。
【0039】
エンサイ抽出物を得る際に、溶媒抽出の過程で珪藻土を加えてもよい。珪藻土を加えることで、抽出液を効率良く濾過処理することができる。
【0040】
また、上述したエンサイ抽出物を、濃縮処理することもできる。さらに、エンサイ抽出物を、濾過、遠心分離又は精製処理等に供することで、当該抽出物から夾雑物を除去したものを用いることができる。精製処理方法としては、例えば、順相又は逆相クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー及びゲル濾過が挙げられる。
【0041】
本発明に係るインスリン分泌促進剤又はエンドセリン-1産生抑制剤を、医薬として使用する場合には、上述したエンサイ又はその抽出物単独、又は医薬用成分と組み合わせて製剤化することができる。
【0042】
本発明に係るインスリン分泌促進剤は、膵臓B細胞に働いてインスリンの分泌を促進することから、糖尿病又は糖尿病合併症治療剤として使用することができる。一方、本発明に係るエンドセリン-1産生抑制剤は、血管内皮細胞及びケラチノサイト等のエンドセリン-1産生細胞に働いてエンドセリン-1の産生を抑制することから、高血圧症又は心疾患治療剤、あるいはシミ又はソバカス治療剤として使用することができる。
【0043】
剤形としては、特に限定されるものではないが、例えば、錠剤、粉剤、乳剤、カプセル剤、顆粒剤、細粒剤、散剤、液剤、シロップ剤、懸濁剤、エリキシル剤等の経口剤、又は注射剤、点滴剤、坐剤、吸入剤、経皮吸収剤、経粘膜吸収剤、貼付剤、軟膏剤等の非経口剤が挙げられる。
【0044】
また、エンサイ又はその抽出物と組み合わせることができる医薬用成分としては、例えば、賦形剤、結合剤、崩壊剤、界面活性剤、滑沢剤、流動性促進剤、矯味剤、着色剤及び香料が挙げられる。
【0045】
賦形剤としては、例えば、デンプン、乳糖、白糖、マンニット、カルボキシメチルセルロース、コーンスターチ、無機塩類等が挙げられる。
【0046】
結合剤としては、例えば、結晶セルロース、結晶セルロース・カルメロースナトリウム、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート、カルメロースナトリウム、エチルセルロース、カルボキシメチルエチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、コムギデンプン、コメデンプン、トウモロコシデンプン、バレイショデンプン、デキストリン、アルファー化デンプン、部分アルファー化デンプン、ヒドロキシプロピルスターチ、プルラン、ポリビニルピロリドン、アミノアルキルメタクリレートコポリマーE、アミノアルキルメタクリレートコポリマーRS、メタクリル酸コポリマーL、メタクリル酸コポリマー、ポリビニルアセタールジエチルアミノアセテート、ポリビニルアルコール、アラビアゴム、アラビアゴム末、寒天、ゼラチン、白色セラック、トラガント、精製白糖及びマクロゴールが挙げられる。
【0047】
崩壊剤としては、例えば、結晶セルロース、メチルセルロース、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、カルメロース、カルメロースカルシウム、カルメロースナトリウム、クロスカルメロースナトリウム、コムギデンプン、コメデンプン、トウモロコシデンプン、バレイショデンプン、部分アルファー化デンプン、ヒドロキシプロピルスターチ、カルボキシメチルスターチナトリウム及びトラガントが挙げられる。
【0048】
界面活性剤としては、例えば、大豆レシチン、ショ糖脂肪酸エステル、ステアリン酸ポリオキシル、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール、セスキオレイン酸ソルビタン、トリオレイン酸ソルビタン、モノステアリン酸ソルビタン、モノパルミチン酸ソルビタン、モノラウリン酸ソルビタン、ポリソルベート、モノステアリン酸グリセリン、ラウリル硫酸ナトリウム及びラウロマクロゴールが挙げられる。
【0049】
滑沢剤としては、例えば、コムギデンプン、コメデンプン、トウモロコシデンプン、ステアリン酸、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、含水二酸化ケイ素、軽質無水ケイ酸、合成ケイ酸アルミニウム、乾燥水酸化アルミニウムゲル、タルク、メタケイ酸アルミン酸マグネシウム、リン酸水素カルシウム、無水リン酸水素カルシウム、ショ糖脂肪酸エステル、ロウ類、水素添加植物油及びポリエチレングリコールが挙げられる。
【0050】
流動性促進剤としては、例えば、含水二酸化ケイ素、軽質無水ケイ酸、乾燥水酸化アルミニウムゲル、合成ケイ酸アルミニウム及びケイ酸マグネシウムが挙げられる。
【0051】
また、本発明に係るインスリン分泌促進剤又はエンドセリン-1産生抑制剤の剤形が、液剤、シロップ剤、懸濁剤、乳剤又はエリキシル剤である場合には、矯味矯臭剤、着色剤等を含有してもよい。
【0052】
さらに、本発明に係るインスリン分泌促進剤又はエンドセリン-1産生抑制剤は、更なる成分を含んでいてもよい。本発明に係るインスリン分泌促進剤又はエンドセリン-1産生抑制剤が含むことができる成分としては、例えば、機能性食品等に含有されている各種のポリフェノール類、食物繊維、オリゴ糖類、アミノ酸類及び高度不飽和脂肪酸類が挙げられる。
【0053】
一方、本発明に係るエンドセリン-1産生抑制剤を、美白化粧品等の化粧品として使用する場合には、剤形としては、特に限定されるものではないが、例えば、化粧水、乳液、クリーム、パック、パウダー、スプレー、軟膏、分散液及び洗浄料等が挙げられる。当該化粧品には、エンサイ又はその抽出物の他に、水性成分、油性成分、植物抽出物、動物抽出物、粉末、賦形剤、界面活性剤、油剤、アルコール、pH調整剤、防腐剤、酸化防止剤、増粘剤、甘味剤、色素及び香料等を任意に組み合わせて配合することができる。
【0054】
本発明に係るインスリン分泌促進剤又はエンドセリン-1産生抑制剤を医薬又は化粧品として使用する場合には、本発明に係るインスリン分泌促進剤又はエンドセリン-1産生抑制剤におけるエンサイ又はその抽出物の含有量は、投与目的、投与経路、剤形等によって適宜変更し得るが、例えば、含有量は製剤全重量に対して0.5〜90重量%であることが好ましい。
【0055】
本発明に係るインスリン分泌促進剤又はエンドセリン-1産生抑制剤の投与回数及び投与量は、特に限定されるものではなく、例えば、病気の種類、患者の年齢、性別、体重又は症状の程度、あるいは投与方法などに応じて適宜決定することができる。投与回数は、通常、経口投与で、1日1回〜3回である。
【0056】
例えば、本発明に係るインスリン分泌促進剤を軽症の糖尿病患者に経口投与する場合には、本発明に係るインスリン分泌促進剤に含まれるエンサイ又はその抽出物の投与量は、1日当たり1mg/kg体重〜200mg/kg体重であることが好ましい。一方、例えば、本発明に係るエンドセリン-1産生抑制剤を軽症の高血圧症患者に経口投与する場合には、本発明に係るエンドセリン-1産生抑制剤に含まれるエンサイ又はその抽出物の投与量は、1日当たり1mg/kg体重〜200mg/kg体重であることが好ましい。
【0057】
本発明に係るインスリン分泌促進剤又はエンドセリン-1産生抑制剤の使用形態は、使用目的に応じた任意の形態であってよく、例えば経口投与が可能である。あるいは、本発明に係るエンドセリン-1産生抑制剤を化粧品として使用する場合には、典型的には、皮膚に直接塗布する。
【0058】
本発明に係るインスリン分泌促進剤又はエンドセリン-1産生抑制剤は、常法に従って、清涼飲料及び乳酸飲料等の飲料、スープ、ジャム、菓子類等の食品に添加することができる。
【0059】
また、本発明に係るインスリン分泌促進剤又はエンドセリン-1産生抑制剤を用いて、いわゆる特定保健用食品(例えば、糖尿病予防食品)又は機能性食品を製造することができる。特定保健用食品又は機能性食品は、本発明に係るインスリン分泌促進剤又はエンドセリン-1産生抑制剤を、目的に応じて適量を含有することができる。例えば、特定保健用食品又は機能性食品の全重量に対して、本発明に係るインスリン分泌促進剤又はエンドセリン-1産生抑制剤に含まれるエンサイ又はその抽出物が1.0〜100重量%含有されるように、本発明に係るインスリン分泌促進剤又はエンドセリン-1産生抑制剤を添加する。
【0060】
さらに、本発明に係るインスリン分泌促進剤を、ペットフードや飼料等に添加する。次いで、本発明に係るインスリン分泌促進剤を含むペットフードや飼料をペット又は家畜等の動物に給餌することで、動物の糖尿病及び/又は糖尿病合併症を治療又は予防することができる。一方、本発明に係るエンドセリン-1産生抑制剤を、ペットフードや飼料等に添加する。次いで、本発明に係るエンドセリン-1産生抑制剤を含むペットフードや飼料をペット又は家畜等の動物に給餌することで、動物の高血圧症や心疾患を治療又は予防することができる。
【0061】
本発明に係るインスリン分泌促進剤及びエンドセリン-1産生抑制剤は、例えば、以下のようにin vitroで薬理評価を行なうことができる。
【0062】
in vitroでのインスリン分泌促進の薬理評価としては、例えば、インスリンを発現し且つ分泌する細胞系を用いた方法が挙げられる。ラットの膵臓B株細胞RINm5F(ATCC CRL-2058)などの細胞系に、本発明に係るインスリン分泌促進剤を作用又は接触させる。次いで、作用又は接触させた細胞を培養し、培養後、培養上清を回収する。さらに、回収した培養上清を、例えばELISAやウエスタンブロッティングに供する。
【0063】
本発明に係るインスリン分泌促進剤に作用又は接触させていない細胞に比べて、本発明に係るインスリン分泌促進剤に作用又は接触させた細胞において、インスリン分泌量が、統計的に有意差で増加した場合、例えば、1.2〜100倍、好ましくは2〜100倍増加した場合、in vitroレベルでインスリンの分泌を促進することができたと判断することができる。
【0064】
一方、in vitroでのエンドセリン-1産生抑制の薬理評価としては、例えば、エンドセリン-1を発現する細胞系を用いた方法が挙げられる。ブタ大動脈内皮細胞などの細胞系に、本発明に係るエンドセリン-1産生抑制剤を作用又は接触させる。次いで、作用又は接触させた細胞を培養し、培養後、細胞及び/又は培養上清を回収する。さらに、回収した細胞及び/又は培養上清から、タンパク質を抽出する。あるいは、培養上清をそのまま使用してもよい。得られたタンパク質又は培養上清を、例えばELISAやウエスタンブロッティングに供する。
【0065】
本発明に係るエンドセリン-1産生抑制剤に作用又は接触させていない細胞に比べて、本発明に係るエンドセリン-1産生抑制剤に作用又は接触させた細胞において、エンドセリン-1タンパク質量が、統計的に有意差で低下した場合、例えば2/3〜1/100に、好ましくは1/2〜1/100に低下した場合、in vitroレベルで産生を抑制することができたと判断することができる。
【0066】
本発明に係るインスリン分泌促進剤において有効成分として含有するエンサイ又はその抽出物は、インスリンの分泌を促進することから、その有効量をヒト等の動物に投与することにより、生体内においてインスリンの分泌を促進することができる。上述したように、糖尿病は、インスリンの欠乏又はインスリン作用の不足によってブドウ糖代謝異常が生じ、血液中のブドウ糖が増えすぎて尿の中に糖が溢れてきた状態で、慢性的に高血糖状態が続いている疾患である。従って、本発明に係るインスリン分泌促進剤を用いることで、糖尿病及び/又は糖尿病合併症の治療又は予防に使用することができる。
【0067】
一方、本発明に係るエンドセリン-1産生抑制剤において有効成分として含有するエンサイ又はその抽出物は、エンドセリン-1の産生を抑制することから、その有効量をヒト等の動物に投与することにより、生体内においてエンドセリン-1の産生を抑制することができる。上述したように、エンドセリン-1の濃度上昇は、高血圧症や心疾患などの疾患と関連すると考えられている。また、ケラチノサイトから産生されるエンドセリン-1は、メラノサイトを刺激し、シミ・ソバカスの原因であるメラニンを盛んに合成させる(非特許文献1)。従って、本発明に係るエンドセリン-1産生抑制剤を用いて、高血圧症や心疾患などの疾患又はシミ・ソバカスを治療又は予防することができる。
【実施例】
【0068】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。但し、本発明はこれら実施例にその技術的範囲が限定されるものではない。
〔実施例1〕 エンサイ抽出物の製造
エンサイの葉及び茎からなる植物体500gを細切りし、凍結乾燥機により乾燥した。凍結乾燥後、細切りした断片を、遠心粉砕器(MRK-Retschm, ZM-100)を用いて粉砕し、0.5mmのスクリーンを通過させた。
【0069】
次いで、スクリーンを通過した試料0.5gに蒸留水25mlを加え、電磁スターラーにより400rpmで60分間攪拌した。さらに、15,000rpmで20分間の遠心分離を行い、不溶物を沈殿させ、上清を回収した。この上清を遠心式エバポレーターで濃縮し、さらに真空ポンプによる減圧下で乾燥することにより、粉末175mgを得た。
【0070】
〔実施例2〕 エンサイ抽出物のインスリン分泌促進活性
ラットの膵臓B株細胞RINm5F(ATCC CRL-2058)を、RPMI1640培地(グルタミン300mg/lを含む、大日本製薬より購入)に炭酸水素ナトリウム2g/l、非働化処理したウシ胎児血清10%、ストレプトマイシン100μg/ml及びペニシリン100 units/mlを添加した培地で、24穴(1穴2cm2)のマイクロプレートにて、5%CO2存在下、37℃で3日間培養した。3日間の培養後、古い培地を捨て、各穴当たり1mlの新しい培地を加え、更に1日間培養した。
【0071】
次にプレートの各穴の培地を捨て、クレブス-リンゲル重炭酸(KRB)緩衝液(NaCl 129mM、NaHCO3 5mM、KCl 4.8mM、KH2PO4 1.2mM、CaCl21.0mM、MgSO4 1.2mM、グルコース 2.8mM、 ウシ血清アルブミン0.1%、HEPES 10mM、PH 7.4)1mlを使用し、各穴を2回洗浄した。その後、KRB緩衝液360μlに試料(0.88〜7mg/mlのエンサイ抽出物(実施例1で得られた粉末)、対照として蒸留水、又は陽性対照として1μMグルカゴン)40μlを加えた溶液400μlを各穴に添加し、5%CO2存在下、37℃で0〜180分間静置した。なお、試料添加時における細胞数は1穴あたり1.2 x 106個であった。
【0072】
次いで、各穴より上清200μlを回収して、遠心分離により混入した細胞を除去した。細胞を除去した後の上清を希釈した後、上清中のインスリン濃度を、レビス インスリン-ラットELISAキット(シバヤギ社より購入)を用いた酵素免疫測定法により測定した。その結果を表1及び図1に示す。
【0073】
表1は、120分の静置後の上清中のインスリン濃度を、n = 3の平均値(平均値±標準偏差、群間に有意差が認められた場合は*p<0.05、**p<0.01、***p<0.001)で示した。図1は、試料添加後の各時間における上清中のインスリン濃度を、n = 3の平均値(平均値±標準偏差、群間に有意差が認められた場合は*p<0.05、**p<0.01、***p<0.001)で示した。
【0074】
表1及び図1から判るように、グルカゴンと同様に、エンサイ抽出物は、インスリン分泌促進効果を有することが認められた。
【0075】
なお、MTT(臭化3-[4,5-ジメチルチアゾール-2-イル]-2,5-ジフェニルテトラゾリウム)キット(Roche)により細胞増殖に対するエンサイ抽出物の影響を検討したところ、表1及び図1の濃度範囲では細胞増殖に対して影響のないことが確認できた。
【0076】
【表1】

【0077】
〔実施例3〕 エンサイ抽出物のエンドセリン-1産生抑制活性
ブタ大動脈内皮細胞(継代数2、25cm2培養フラスコ入り、大日本製薬(セルシステムズ社)より購入)を、CS-C培地(D-MEM培地とハムF12培地とを1:1に等比混合した培地に、10%ウシ胎児血清、15mM HEPES、酸性FGF及びヘパリンを添加した培地、セルシステムズ社より購入)に分散させ、コラーゲンをコーティングした24穴(1穴2cm2)のプレート1枚に添加して、5%CO2存在下、37℃で4日間培養した。
【0078】
4日間の培養後、プレートの各穴の培地を捨て、クレブス-リンゲル重炭酸(KRB)緩衝液(NaCl 129mM、NaHCO3 5mM、KCl 4.8mM、KH2PO4 1.2mM、CaCl21.0mM、MgSO4 1.2mM、グルコース2.8mM、 ウシ血清アルブミン0.1%、HEPES 10mM、PH 7.4)1mlを用いて、各穴を2回洗浄した。
【0079】
洗浄後、KRB緩衝液360μlに試料(1.5〜6 mg/mlのエンサイ抽出物(実施例1で得られた粉末)、又は対照として蒸留水)40μlを加えた溶液400μlを各穴に添加し、5%CO2存在下、37℃で0.5〜8時間静置した。なお、試料添加時における細胞数は1穴あたり4.0 x 105個であった。
【0080】
次いで、各穴より上清200μlを回収して、遠心分離により混入した細胞を除去した。細胞を除去した後の上清中のエンドセリン-1濃度を、エンドセリン-1 ELISAシステム(アマシャムバイオサイエンス社より購入)を用いた酵素免疫測定法により測定した。その結果を表2及び図2に示す。
【0081】
表2は、3時間の静置後の上清中のエンドセリン-1濃度を、n = 3の平均値(平均値±標準偏差、群間に有意差が認められた場合は*p<0.05、**p<0.01、***p<0.001)で示した。図2は、0.5〜8時間までの各時間における上清中のエンドセリン-1濃度を、n = 3の平均値(平均値±標準偏差、群間に有意差が認められた場合は*p<0.05、**p<0.01、***p<0.001)で示した。
【0082】
表2及び図2から判るように、エンサイ抽出物はエンドセリン-1産生抑制効果を有することが認められた。
【0083】
実施例2と同様に、MTT(臭化3-[4,5-ジメチルチアゾール-2-イル]-2,5-ジフェニルテトラゾリウム)キット(Roche)により細胞増殖に対するエンサイ抽出物の影響を検討したところ、表2及び図2の濃度範囲では細胞増殖に対して影響のないことが確認できた。
【0084】
【表2】

【図面の簡単な説明】
【0085】
【図1】図1は、エンサイ抽出物を添加した場合のRINm5F細胞の培養上清中のインスリン濃度変化を示す図である。
【図2】図2は、エンサイ抽出物を添加した場合のブタ大動脈内皮細胞の培養上清中のエンドセリン-1濃度変化を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンサイ又はその抽出物を有効成分として含有するインスリン分泌促進剤。
【請求項2】
請求項1記載のインスリン分泌促進剤を含有する糖尿病又は糖尿病合併症治療剤。
【請求項3】
食品に添加するための請求項1記載のインスリン分泌促進剤。
【請求項4】
エンサイ又はその抽出物を有効成分として含有するエンドセリン-1産生抑制剤。
【請求項5】
請求項4記載のエンドセリン-1産生抑制剤を含有する高血圧症又は心疾患治療剤。
【請求項6】
請求項4記載のエンドセリン-1産生抑制剤を含有するシミ又はソバカス治療剤。
【請求項7】
請求項4記載のエンドセリン-1産生抑制剤を含有する化粧品。
【請求項8】
食品に添加するための請求項4記載のエンドセリン-1産生抑制剤。
【請求項9】
エンサイを搾汁又は粉砕することを含む、インスリン分泌促進剤の製造方法。
【請求項10】
エンサイを搾汁又は粉砕して得られた搾汁又は粉砕物を溶媒抽出に供し、抽出物を得る工程を含むことを特徴とする、請求項9記載のインスリン分泌促進剤の製造方法。
【請求項11】
エンサイを搾汁又は粉砕することを含む、エンドセリン-1産生抑制剤の製造方法。
【請求項12】
エンサイを搾汁又は粉砕して得られた搾汁又は粉砕物を溶媒抽出に供し、抽出物を得る工程を含むことを特徴とする、請求項11記載のエンドセリン-1産生抑制剤の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−36670(P2006−36670A)
【公開日】平成18年2月9日(2006.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−217275(P2004−217275)
【出願日】平成16年7月26日(2004.7.26)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成15年度、独立行政法人産業技術総合研究所委託研究「地域中小企業支援型研究開発(エンサイを原料とした血糖値上昇抑制製品の開発)」、産業再生法第30条の適用を受ける特許出願
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【出願人】(595102178)沖縄県 (36)
【出願人】(501295844)有限会社アロエース (1)
【Fターム(参考)】