説明

インターロイキン−1受容体アンタゴニストを送達するための方法および組成物

インターロイキン−1受容体アンタゴニスト(IL−1ra)に富んだ溶液を生成および使用する方法および組成物。インターロイキン−1受容体アンタゴニストを生成および単離するための方法は、インターロイキン−1受容体アンタゴニストを生産するために、脂肪組織および/または脂肪細胞をポリアクリルアミドビーズとともにインキュベートすることを含む。ポリアクリルアミドビーズからインターロイキン−1受容体アンタゴニストが単離され、インターロイキン−1受容体アンタゴニストに富む溶液を得る。患者において炎症部位を治療するための方法は、インターロイキン−1受容体アンタゴニストに富む溶液を炎症部位に投与することを含む。

【発明の詳細な説明】
【発明の背景】
【0001】
関連出願の相互参照
この出願は、2009年8月27日に提出された米国実用特許出願(U.S. Utility Application)第12/549,015号に基づく優先権を主張し、該米国実用特許出願は、2009年2月27日に提出された米国特許出願第12/394,723号の一部継続出願であり、該米国特許出願は、2008年2月27日提出の米国仮出願第61/031,803号;2008年11月21日提出の米国仮出願第61/116,940号;および2009年2月24日提出の米国仮出願第61/155,048号の利益を主張する。上記各出願に記載された総ての記載内容は引用することにより本明細書の一部とされる。
【0002】
緒言
本技術は、インターロイキン−1受容体アンタゴニストを含んでなる組成物、およびそのような組成物を生成し、単離し、送達するための方法に関する。
【0003】
インターロイキン−1(IL−1)には、リンパ球およびマクロファージを刺激し、食細胞を活性化し、プロスタグランジン生産を増加させ、骨関節の変性に寄与し、骨髄細胞増殖を増加させることができ、多くの慢性炎症状態に関与するサイトカインのファミリーが含まれる。IL−1は、マクロファージ、単球および樹状細胞によって生成され、感染に対する炎症応答の一部である。
【0004】
IL−1の作用様式は、インターロイキン−1受容体アンタゴニストタンパク質(IL−1ra;「IRAP」としても知られる)によって影響を与えることができる。IL−1raは、IL−1と、細胞表面上の同じ受容体と結合し、それによってIL−1がその細胞にシグナルを送るのを妨げる。IL−1raは、単球、マクロファージ、好中球、多形核細胞(PMN)および他の細胞を含む白血球から分泌され、Arend WP, Malyak M, Guthridge CJ, Gabay C (1998) " Interleukin-1 receptor antagonist: role in biology" Annu. Rev. Immunol. 16: 27-55によって記載されているように、種々のIL−1関連の免疫応答および炎症応答を調整することができる。IL−1raの生産は、付着免疫グロブリンG(IgG)、他のサイトカインおよび細菌成分またはウイルス成分を含むいくつかの物質によって刺激を受ける。IL−1raは、関節炎、大腸炎および肉芽腫性肺疾患において重要な天然の抗炎症性タンパク質である。
【0005】
IL−1raは、IL−1が重要な役割を果たす自己免疫疾患である関節リウマチの治療において使用することができ、その疾患と関連がある炎症および軟骨破壊を低減させる。例えば、Kineret(商標)(アナキンラ)は、IL−1raの組換え非グリコシル化型(Amgen Manufacturing, Ltd., Thousand Oaks, California)である。様々な組換え型インターロイキン−1阻害薬および治療の方法は、2003年7月29日発行の米国特許第6,599,873号、Sommer et al.;1991年12月24日発行の米国特許第5,075,222号、Hannum et al.;および2005年9月8日公開の米国出願公開第2005/0197293号、Mellis et al.に記載されている。加えて、体液からIL−1raを生産するための方法は、自己体液の使用を含み、そのような方法は、2003年9月23日発行の米国特許第6,623,472号、Reincke et al.;2004年3月30日発行の米国特許第6,713,246号、Reinecke et al.;および2004年7月6日発行の米国特許第6,759,188号、Reinecke et al.に記載されている。
【0006】
IL−1raを使用する組成物および方法は、当技術分野で公知である。例えば、IL−1raは、2000年8月1日発行の米国特許第6,096,728号、Collins et al.に記載されているように、ヒアルロン酸を含む組成物の一部として送達されている。しかしながら、多くのそのような方法および組成物は、IL−1raの安定性および半減期、並びに提供されるIL−1raの量および割合についての問題に関わっている。それゆえに、IL−1raを送達する改善された方法が望ましく、炎症の管理を含む、インターロイキン−1受容体によって媒介される病態および病変の治療に有用であるであろう。
【発明の開示】
【0007】
概要
本技術は、インターロイキン−1受容体アンタゴニストに富む溶液を生成するための方法およびヒトまたは動物の対象における炎症の部位にそのような溶液を投与するための方法を提供する。そのような溶液を生成するための方法は、ポリアクリルアミドビーズとともに脂肪組織をインキュベートすることを含む。インターロイキン−1受容体アンタゴニストに富む溶液は、その後、そのポリアクリルアミドビーズから分離される。脂肪組織はその対象から得ることができる。
【0008】
ヒトまたは動物の対象においてインターロイキン−1受容体によって媒介される病態(炎症など)を治療する方法は、インターロイキン−1受容体アンタゴニストに富む溶液とフィブリノーゲンを同時投与することを含む。様々な実施形態では、そのような方法は、トロンビンおよび塩化カルシウムの対象への投与をさらに含んでなる。炎症部位は、例えば、関節炎、例えば、変形性関節症と関連している場合がある。好ましくは、IL−1raの溶液は自己由来のものである。
【図面の簡単な説明】
【0009】
本技術は、詳細な説明および添付の図面からより十分に理解されるようになる。
【図1】本技術の実施形態による、IL−1ra溶液を生産するための第1の方法の概略図である。
【図2】本技術の1つの実施形態による、白血球および血小板を含んでなる液体容量を分離するために使用される典型的装置の部分断面図である。
【図3A】本技術の1つの実施形態による、白血球および血小板の容量をポリアクリルアミドビーズとともにインキュベートするための典型的装置の断面図である。
【図3B】本技術の1つの実施形態による、白血球および血小板の容量をポリアクリルアミドビーズとともにインキュベートするための典型的装置の断面図である。
【図4】本技術の方法において使用され得る血液成分分離装置である。
【図5】図4の血液成分分離装置の側面図であり、該装置の主要チャンバーの内部を例示している。
【図6】本技術の実施形態による、IL−1raを送達するための方法の概略図である。
【図7】本技術の1つの実施形態による、IL−1raを送達するための典型的装置の部分断面図である。
【0010】
本明細書において示された図は、ある特定の実施形態を説明するために、本技術のものの間で材料および方法の一般的特徴を例示することを目的としていることに留意すべきである。これらの図は、いかなる所定の実施形態の特徴を正確に反映することはできず、必ずしも特定の実施形態をこの技術の範囲内で定義しまたは限定するものではない。
【0011】
詳細な説明
次の技術の説明は、1以上の発明の対象、製造および使用の性質を単に例示するものであり、この出願においてあるいはこの出願の優先権を主張して提出された他の出願またはそれらの出願から発行される特許において特許請求された任意の特定発明の範囲、用途または使用を限定するものではない。本明細書において示された技術の説明の概説では、次の定義と限定されないガイドラインを考慮する。
【0012】
本明細書において用いられる見出し(「緒言」および「概要」など)および小見出しは、開示の範囲内での主題の一般的構成のみを目的としており、技術またはその任意の態様の開示を限定するものではない。特に、「緒言」において開示される内容は新規技術を含むものであり、先行技術を引用するという性質のものはない。「概要」において開示される内容は、技術またはその任意の実施形態の全範囲を網羅的にまたは完全に開示するものではない。便宜上、この明細書の項中で材料を特定の有用性があるとして分類しまたは論じるが、その材料が任意の所定の組成物において使用される場合に、その材料が本明細書におけるその分類に従って必ずまたは単独で作用するに違いないと断定するものではない。
【0013】
本明細書における参考文献の引用は、それらの参考文献が、先行技術でありまたは本明細書において開示される技術の特許性に関連していることを認めるという性質のものではない。この明細書の「詳細な説明」項において引用される総ての参考文献は、全体として引用することにより本明細書の一部とされる。
【0014】
技術の実施形態を示しているが、説明および具体例は、例示のみを目的としたものであり、技術の範囲を限定するものではない。さらに、記述された特徴を有する多数の実施形態の引用は、追加の特徴を有する他の実施形態、または記述された特徴の異なる組合せを組み込んた他の実施形態を排除するものではない。具体例は、この技術の装置およびシステムの作製および使用の方法の例示のために提供され、特に明記されない限り、この技術の所定の実施形態が作製されたまたは検証されたこと、あるいは作製されていないまたは検証されていないことを意味するものではない。
【0015】
本明細書において用いられるように、「好ましい(preferred)」および「好ましくは(preferably)」という単語は、ある特定の状況下である特定の利益を供与する技術の実施形態を意味する。しかしながら、同じまたは他の状況下で、他の実施形態もまた好ましいことがある。さらに、1以上の好ましい実施形態の引用は、他の実施形態が有用でないということを意味するものではなく、技術の範囲の他の実施形態を排除するものではない。
【0016】
本明細書において言及されるように、総ての組成百分率は、特に断りのない限り、全組成の重量基準による。本明細書において用いられるように、「含む(include)」という単語およびその変形は非限定的であることが意図されており、リストにおける項目の引用により、この技術の材料、組成物、装置および方法において同様に有用であり得る他の類似の項目は排除されない。同様に、「できる(can)」および「してよい(may)」という用語およびそれらの変形は非限定的であることが意図されており、ある実施形態がある特定の要素または特徴を含んでなることができるまたは含んでなってよいという引用により、それらの要素または特徴を含まない本技術の他の実施形態は排除されない。
【0017】
本明細書において用いられる「1つの(a)」および「1つの(an)」は、「少なくとも1つの(at least one)」項目が存在すること;可能な場合には、複数の同様の項目が存在し得ることを示している。値に付けられる場合の「約(about)」は、計算または測定では値の多少の不正確さを許容する(値の正確さにいくらか近づいており;その値におおよそまたは合理的に近く;近似的である)ことを示している。いくつかの理由で、「約(about)」によってもたらされる不正確さが当技術分野でこのような通常の意味で理解されない場合には、本明細書において用いられる「約(about)」は、そのようなパラメーターを測定するまたは使用する通常の方法によって起こる可能性がある変動を少なくとも示している。加えて、範囲の開示は、全範囲内での総ての個別値および細分された範囲の開示を含む。
【0018】
本技術は、インターロイキン−1受容体アンタゴニスト(IL−1ra)に関し、IL−1raを生成する方法、そのような方法によって生産されるIL−1raを含んでなる組成物、IL−1raを使用する方法、IL−1raを含んでなる治療方法、ならびにIL−1raの生成、単離および投与のための装置が含まれる。
【0019】
インターロイキン−1受容体アンタゴニストに富む溶液を生成するための方法は、次の側面を含むことができる。いくつかの実施形態では、インターロイキン−1受容体アンタゴニストに富む溶液を生成するための方法は、脂肪細胞を含んでなる液体容量をポリアクリルアミドビーズと接触させることおよびインターロイキン−1受容体アンタゴニストに富む溶液を得るために、液体容量をそのポリアクリルアミドビーズおよび脂肪細胞から分離することを含む。本技術の機構、有用性または機能を限定することなく、ポリアクリルアミドビーズは、脂肪細胞によるIL−1ra生産のアクチベーターとして機能を果たすように思われる。いくつかの点で、ポリアクリルアミドビーズ表面との脂肪細胞の接触は、脂肪細胞によるIL−1ra生産および分泌を刺激するように思われる。また、IL−1ra生産量と白血球濃度との間に相関があるようにも思われ、その点で脂肪組織は白血球を含んでよい。よって、本技術では、脂肪組織および解離脂肪組織を使用して脂肪細胞を得るが、その場合、白血球は脂肪組織およびその脂肪組織から得られる脂肪細胞の両方に存在してよい。
【0020】
前記方法は、次の側面をさらに含むことができる。脂肪細胞の液体容量は、単離脂肪組織の一部であり得る;その場合、例えば、脂肪組織は他の細胞種を含んでよい。脂肪細胞とポリアクリルアミドビーズの接触は、脂肪細胞の液体容量をポリアクリルアミドビーズとともに約30秒から約24時間までに及ぶ期間インキュベートすることを含む。また、その接触は、ポリアクリルアミドビーズとの脂肪細胞の液体容量の接触に加えて、白血球を含んでなる液体容量をポリアクリルアミドビーズと接触させることも含んでよい。白血球の液体容量は、全血、多血小板血漿、または全血および多血小板血漿であり得る。また、白血球は、骨髄から得ることもできる。いくつかの実施形態では、インターロイキン−1受容体アンタゴニストに富む溶液を得るための分離は、インターロイキン−1受容体アンタゴニストに富む溶液を含んでなる上清を得るために、脂肪細胞の液体容量とポリアクリルアミドビーズを遠心分離することを含む。得られた、インターロイキン−1受容体アンタゴニストに富む溶液は、約30,000pg/mL〜約110,000pg/mLのインターロイキン−1受容体アンタゴニストを含み得る。
【0021】
いくつかの実施形態では、患者において炎症性疾患を治療するために有用な、インターロイキン−1受容体アンタゴニストに富む溶液を生成するために方法が提供される。これらの方法は、患者から脂肪組織を得ることおよびポリアクリルアミドビーズを含む濃縮装置アセンブリーにその脂肪組織を装入することを含む。ポリアクリルアミドビーズと脂肪組織の混合物は、インターロイキン−1受容体アンタゴニストの溶液を形成するためにインキュベートされる。濃縮装置アセンブリーは、その後、インターロイキン−1受容体アンタゴニストに富む溶液を得るために、そのポリアクリルアミドビーズおよび脂肪組織からインターロイキン−1受容体アンタゴニストを分離する遠心速度で回転させる。濃縮装置アセンブリーへの装入には、脂肪組織をポリアクリルアミドビーズとともに約30秒〜約24時間の期間インキュベートすることが含まれる。その装入は、白血球を含んでなる液体容量を濃縮装置アセンブリーに装入することをさらに含んでよい。白血球の液体容量は、全血、多血小板血漿、または全血および多血小板血漿の組合せの形であり得る。
【0022】
本技術はまた、患者において1以上の炎症部位を治療する方法も含む。そのような方法は、脂肪細胞を含んでなる液体容量をポリアクリルアミドビーズと接触させることを含む。その後、インターロイキン−1受容体アンタゴニストに富む溶液を得るために、そのポリアクリルアミドビーズおよび脂肪細胞から液体容量が分離される。インターロイキン−1受容体アンタゴニストに富む溶液は、患者の1以上の炎症部位に投与される。使用される脂肪組織は患者から得ることができる;すなわち、自己由来のものであってよい。その方法は、変形性関節症に関連する炎症を治療するために適用することができる。
【0023】
いくつかの実施形態では、本方法は、インターロイキン−1受容体アンタゴニストに富む溶液の投与に加えて、炎症部位にフィブリノーゲン、トロンビンおよびカルシウムを投与することを含む。例えば、方法は、(i)インターロイキン−1受容体アンタゴニストおよびフィブリノーゲンを含んでなる第1の溶液と、(ii)トロンビンおよびカルシウムを含んでなる第2の溶液とを同時投与することを含み得る。
【0024】
本方法において使用されるトロンビンは、全血または血漿およびカルシウム溶液を血液単離装置に装入することを含む方法によって作製し得る。全血または血漿は、少なくとも約20分間、少なくとも約20℃の温度で加熱する。加熱した全血または血漿を遠心分離することによってトロンビンを単離する。全血または血漿は患者から得ることができる。
【0025】
また、患者において炎症性疾患を治療する方法も提供される。そのような方法は、患者から脂肪組織を得ることおよびポリアクリルアミドビーズを含む濃縮装置アセンブリーにその脂肪組織を装入することを含む。ビーズと脂肪組織の混合物は、インターロイキン−1受容体アンタゴニストの溶液を形成するためにインキュベートされる。濃縮装置アセンブリーは、その後、そのポリアクリルアミドビーズからインターロイキン−1受容体アンタゴニストを分離しインターロイキン−1受容体アンタゴニストに富む溶液を得る遠心速度で回転させる。全血は、患者から得られ、カルシウム溶液とともに血液単離装置に装入される。全血は、少なくとも約20分間少なくとも約20℃の温度で加熱する。加熱した全血を遠心分離し凝固画分を得る。その後、インターロイキン−1受容体アンタゴニストに富む溶液と凝固画分は患者の炎症部位に投与される。
【0026】
治療方法は、次の側面をさらに含むことができる。ポリアクリルアミドビーズを含む濃縮装置アセンブリーへの脂肪組織の装入は、脂肪組織とともに白血球を含んでなる液体容量を装入することおよびインターロイキン−1受容体アンタゴニストの溶液を形成するために、ビーズ、脂肪組織および白血球の混合物をインキュベートすることを含むことができる。白血球の液体容量は、全血、多血小板血漿、または全血および多血小板血漿であり得る。また、インターロイキン−1受容体アンタゴニストに富む溶液および凝固画分とともにフィブリノーゲンを患者の炎症部位に投与してもよい。少なくとも1つには変形性関節症が原因となって起こる炎症を治療するためにそれらの方法を使用することができる。
【0027】
次に、図1に関し、IL−1raに富む溶液を生成するための方法100についての概略図を示している。脂肪組織は、ステップ110において患者から単離される。この脂肪組織は、ステップ130で直接使用してよく、またはステップ120で処理して脂肪細胞を準備してもよい。
【0028】
脂肪組織とは、任意の脂肪組織、白色脂肪組織または褐色脂肪組織のいずれかを意味し、その脂肪組織は、皮下、大網/内臓、乳房、生殖腺の脂肪組織または他の脂肪組織の部位から得られるものでよい。いくつかの実施形態では、脂肪組織は、吸引脂肪組織切除術または脂肪吸引術によって分離されたヒト皮下脂肪から得られるものである。脂肪細胞は、任意の好適な方法を用いて脂肪組織および/または組織部分から単離されたおよび/または遊離されたものでよく、そのような方法には、機械による破壊遠心分離などの当技術分野で公知の方法が含まれる。脂肪細胞はまた、酵素消化を用いて単離することもできる。例えば、脂肪細胞は、脂肪吸引物から単離し、音波処理および/または酵素消化によって処理し、遠心分離によって濃縮することができる。脂肪組織から単離された脂肪細胞は、洗浄し、ペレット化してよい。
【0029】
脂肪組織および脂肪細胞を単離するための方法は、次の側面を含むことができる。約50ccの脂肪組織は、吸引による脂肪吸引チューメセント法によって、吸引ホースおよび脂肪吸引カニューレに取り付けられている専用の収集容器内に収集される。収集容器は、ガーゼタイプのグリッドフィルターを備えていてよく、そのフィルターはチューメセント液を通過させ、固形脂肪組織を保持する。脂肪組織収集後、収集容器は吸引装置から外され、遠心分離装置に再び取り付けられる。フィルターユニットは、およそ100マイクロメートルの孔径を有するフィルターをさらに備えていてよい。一度、脂肪組織が収容されている収集容器が遠心分離装置に取り付けられたら、脂肪組織は音波処理される。音波処理後、装置全体が遠心バケットに挿入される、例えば、300×gで5分間遠心分離機にかけられる。遠心分離後、収集容器はフィルターユニットとともに取り外され、廃棄することができる。脂肪細胞を含有するペレットは、その後、生体適合性溶液、例えば、自己血漿、血漿濃縮物および多血小板血漿などに再懸濁することができる。
【0030】
脂肪組織はまた、消化酵素や、隣接する細胞間の結合を弱めるキレート化剤で処理してよく、目に見えるほどの細胞破砕なしに、脂肪組織を、脂肪細胞を含む単一細胞の懸濁液に分散させることが可能である。解離後、細胞と解離組織の懸濁液から脂肪細胞を単離することができる。
【0031】
脂肪組織の単離および/または分画のための様々な方法および装置には、Leach et al.の米国特許第7,374,678号および同第7,179,391号およびLeach et al.の米国出願公開第2009/0014391号、同第2008/0283474号および同第2007/0208321号によって記載されているものが含まれる。脂肪細胞を単離するために、GPS(商標)Platelet Concentrate System(Biomet, Warsaw, IN)などの装置を使用してよい。これらの方法は、脂肪組織を得るために患者において脂肪吸引を行うことにより脂肪細胞を得ること、その脂肪組織を酵素によって消化すること、およびこれらの装置を使用して脂肪細胞を抽出しことおよび/または洗浄することを含み得る。
【0032】
図1のステップ130において示されるように、脂肪組織および/または脂肪細胞はポリアクリルアミドビーズと接触させる。いくつかの実施形態では、脂肪組織および/または脂肪細胞は、白血球および血小板の液体容量の液体の一部を除去するのに有効な期間、ポリアクリルアミドビーズとともにインキュベートされる。インキュベーションは、約30秒〜約72時間にわたって行ってよく、約20℃〜約41℃の温度で行ってよい。例えば、インキュベーションは、約1分〜約48時間であってよく、約5分〜約12時間であってよく、または約10分〜約6時間であってよい。いくつかの実施形態では、インキュベーションは約37℃で行われる。いくつかの実施形態では、脂肪組織および/または脂肪細胞はインキュベートせず、続いて処理を行うことが必要である場合のみポリアクリルアミドビーズと接触させる。接触は、周囲条件において、例えば、約20〜25℃の温度で行ってよい。
【0033】
ステップ130で使用されるポリアクリルアミドビーズは、ポリアクリルアミドゲルから形成された比較的均一なビーズを生産するための、当技術分野で公知の、管理され標準化されたプロトコールを用いてアクリルアミドモノマーを重合することによって形成することができる。一般的に、ポリアクリルアミドは、好適な二官能性架橋剤、最も一般的にはN,N’−メチレンビスアクリルアミド(ビスアクリルアミド)を用いてアクリルアミドを重合することによって形成される。ゲル重合は、通常、過硫酸アンモニウムによって開始され、反応速度は、触媒(Ν,Ν,Ν’,Ν’−テトラメチルエチレンジアミン(TEMED)など)の添加によって速められる。様々な実施形態では、ポリアクリルアミドビーズは、微アニオン性(負電荷)を付与する、ビーズ1ミリリットル当たり0.5マイクロモルのカルボキシル基を含んでなる。また、ビーズは、pHの変化に対して一般に強く、多くの水性溶液および有機溶液中で安定している。ポリアクリルアミドゲルは、総アクリルアミド濃度を調整することによって、広範囲の孔径で形成することができる。さらに、ポリアクリルアミドビーズは多くのサイズで形成することができ、比較的均一なサイズ分布を有し得る。ビーズサイズは、直径数マイクロメートルから直径数ミリメートルまでに及んでよい。例えば、様々なタイプのBio-Gel(商標)Pポリアクリルアミドゲルビーズ(Bio-Rad Laboratories, Hercules, California, USA)は、約45μm未満から約180μmまでに及ぶ粒径を有する。ポリアクリルアミドビーズは、SNF Floerger (Riceboro, Georgia, USA)、Pierce Biotechnology, Inc. (Rockford, Illinois, USA)およびPolymers, Inc. (Fayetteville, Arkansas, USA)からも入手可能である。
【0034】
一度、重合したら、ポリアクリルアミドビーズは、乾燥させ粉末状形態で保存することができる。乾燥ビーズは、水に不溶であるが、再水和するとかなり膨張し得る。再水和によりポリアクリルアミドビーズはゲルコンシステンシーに戻り、乾燥状態のサイズの約2〜約3倍となる。このように、乾燥ポリアクリルアミドビーズは、液体容量の一部を吸収するために使用してよく、ビーズ孔径より小さい溶質を含み、脂肪細胞および/または脂肪組織によって生産されたIL−1raを濃縮するのに役立つ。例えば、ステップ130で乾燥ポリアクリルアミドビーズを脂肪細胞および/または脂肪組織と合わせることによって、IL−1raの生産を活性化し、また、乾燥ビーズが再水和し膨張するため総液体容量が減少する。
【0035】
本技術の機構、有用性または機能を限定することなく、ポリアクリルアミドビーズは、脂肪細胞によるIL−1ra生産のアクチベーターとして機能を果たす。そのため、乾燥ポリアクリルアミドビーズの場合、脂肪細胞の容量から液体を吸収し、その結果、生成されたIL−1raを濃縮するだけでなく、ビーズはさらに、脂肪細胞によるIL−1ra生産を刺激するための表面として機能を果たす。IL−1ra量の増加は、サンプル容量の減少により単に濃度が上昇したことによるものではなく、IL−1raの生産および/または放出を増加させるための、ポリアクリルアミドビーズによる脂肪細胞の活性化によるものであると思われる。
【0036】
いくつかの実施形態では、IL−1raを生成するために、白血球を含んでなる液体容量、例えば、多血小板血漿および/または全血などもポリアクリルアミドビーズと脂肪組織および/または脂肪細胞に添加してよい。血液を遠心分離し、白血球および血小板を含有する多血小板血漿(PRP)を単離することができ、これは沈降分離後バフィーコート層に存在し得る。ステップ120において多血小板血漿を単離するために使用できる装置の一例を図2に示している。
【0037】
これに関連して、図2で示される装置200は容器205(チューブなど)を備えており、その容器は、血液充填後に遠心機に置かれる。容器205には、アイソレーター210とブイ215を有するブイシステムが備わっている。ブイ215は、遠心分離の際に選択平衡位置に達するように向けられた選択密度を有し;この位置は密度が高い方の血液画分と密度が低い方の血液画分の間にある。ブイ215は、遠心分離の間に容器205内の血液を少なくとも2つの画分に分けるが、それらの画分が実質的に混合することはなく、それらの2画分の間の位置にブイが沈降することによって行われる。これに関連して、アイソレーター210とブイ215は多血小板血漿220を含んでなる層を明確にし、密度が低い方の乏血小板血漿225はアイソレーター210より上に一般的に分画され、密度が高い方の赤血球230はブイ215より下に一般的に分画される。遠心分離後、白血球を含有する多血小板血漿を抽出するために、シリンジまたはチューブをブイシステムの一部と相互に連結し得る。様々な実施形態では、上記装置を使用して、全血より最大約8倍高い血小板濃度と全血より最大約5倍高い白血球濃度を有する多血小板血漿を生成し得る。その多血小板血漿は、全血中に存在する白血球の約80%〜約90%を含んでなり得る。上記装置は市販されており、Biomet Biologies, LLC (Warsaw, Indiana, USA)のGPS(登録商標)II Platelet Concentrate SystemおよびBiomet Biologies, LLC (Warsaw, Indiana, USA)のGPS(登録商標)III Platelet Separation Systemなどがある。
【0038】
ステップ120において多血小板血漿を単離するために使用し得る装置も、例えば、2002年6月4日発行の米国特許第6,398,972号、Blasetti et al.;2003年11月18日発行の米国特許第6,649,072号、Brandt et al.;2004年9月14日発行の米国特許第6,790,371号、Dolocek;2006年3月14日発行の米国特許第7,011,852号、Sukavaneshvar et al.;2004年12月16日公開の米国出願公開第2004/0251217号、Leach et al.(引用することにより本明細書の一部とされる);2005年5月26日公開の米国出願公開第2005/0109716号、Leach et al.(引用することにより本明細書の一部とされる);2005年9月8日公開の米国出願公開第2005/0196874号、Dorian et al.(引用することにより本明細書の一部とされる);および2006年8月10日公開の米国出願公開第2006/0175242号、Dorian et al.(引用することにより本明細書の一部とされる)に記載されている。
【0039】
他の方法を使用して、多血小板血漿を単離してもよい。例えば、全血は、ブイシステムを使用せずに遠心分離することができ、全血を多段階で遠心分離してもよく、連続フロー式遠心分離法を用いることもでき、また濾過も用いることができる。加えて、血小板のペレット化を妨げるために低速遠心分離ステップを用いて赤血球から血漿を抽出することによって、多血小板血漿を含む血液成分を生産することができる。他の実施形態では、血液の遠心分離により生じるバフィーコート画分を、残留血漿から抽出し、再懸濁して多血小板血漿を形成することができる。
【0040】
GPS(登録商標)Platelet Concentrate and Separation Systemsに加えて、他の市販装置も、ステップ120において多血小板血漿を単離するするために使用してよく、そのような装置には、Medtronic, Inc. (Minneapolis, Minnesota, USA)から市販されているMagellan(商標)Autologous Platelet Separator System; Harvest Technologies Corporation (Plymouth, Massachusetts, USA)から市販されているSmartPReP(商標); DePuy (Warsaw, Indiana, USA); Cytomedix, Inc. (Rockville, Maryland, USA)から市販されているAutoloGel(商標)Process; EmCyte Corporation (Fort Myers, Florida, USA)から市販されているGenesisCS System; およびBiomet 3i, Inc. (Palm Beach Gardens, Florida, USA)から市販されているPCCS Systemが挙げられる。
【0041】
患者から採取された血液は抗凝固薬と混合してよい。好適な抗凝固薬としては、ヘパリン、クエン酸リン酸デキストロース(CPD)、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、抗凝固クエン酸デキストロース溶液(ACD)およびそれらの混合物が挙げられる。抗凝固薬は、対象からの採血に使用されるシリンジに入れてよく、または採血後に血液と混合してもよい。
【0042】
白血球はまた、当技術分野で公知の他の方法を用いて調製してもよい。例えば、全血から、赤血球を溶解することによって、または密度勾配を利用した全血の遠心分離によって(この場合、白血球は遠心管の底に沈降する)白血球を調製してよい。密度遠心分離の例としては、Ficoll-Paque(商標)Plus(GE Healthcare Bio-Sciences, Piscataway, New Jersey, USA)が挙げられる。場合によって、単核および多形核細胞をさらに分離するために、密度勾配を使用してよい。また、全血から濾過を用いて白血球を調製してもよい;例としては、Acelere(商標)MNC Harvest System (Pall Life Sciences, Ann Arbor, Michigan, USA)が挙げられる。白血球は骨髄から得ることもできる。
【0043】
さらに図1に関し、ステップ140において示されるように、ポリアクリルアミドビーズとのインキュベーション後にIL−1raに富んだ溶液はそのポリアクリルアミドビーズと脂肪組織および/または脂肪細胞から単離される。単離は、液体容量を取り除きビーズを残すことによって行ってよい。場合によって、IL−1raに富んだ溶液を取り除く前に、遠心分離によってビーズを沈降させてよい。また、濾過によって分離を行ってもよく、その場合、例えば、遠心力を用いることによってまたは真空を用いることによって、ポリアクリルアミドビーズはフィルターに保持され、IL−1raに富んだ溶液はそのフィルターを通過する。ステップ130におけるポリアクリルアミドビーズとのインキュベーションで乾燥ポリアクリルアミドビーズを利用する場合、ビーズは再水和することで膨張するために液体容量が減少し得る結果、得られたIL−1raに富んだ溶液は濃縮される。濃度の上昇を維持するために、分離ステップ140では、ビーズに圧力がかからないようにまたは膨張したビーズから液体が流れ出ないように細心の注意を払うべきである。例えば、高遠心力または高真空では、ビーズがつぶれおよび/またはビーズの内部容量から液体が流れ出る可能性がある。
【0044】
場合によって、ステップ130による、ポリアクリルアミドビーズとのインキュベーションと、ステップ140による、得られたIL−1raに富んだ溶液の単離とは、単一装置を使用して行ってよい。脂肪組織および/または脂肪細胞をポリアクリルアミドビーズとともにインキュベートするための装置の例を図3Aおよび図3Bに示している。これに関連して、装置300は、上方チャンバー305と下方チャンバー310を備えている。上方チャンバー305には端壁315があり、その端壁を通ってゲルビーズ撹拌器325の撹拌軸320が伸びている。また、装置300には入口330もあり、その入口は端壁315を通って上方チャンバー305に達している。また、装置300には出口335もあり、その出口は導管340と通じている。上方チャンバー305の床にはフィルター345が備わっており、フィルターの上面は乾燥した濃縮用ポリアクリルアミドビーズ350を支えている。
【0045】
使用中、脂肪組織および/または脂肪細胞を含有する流体355は、入口330を介して上方チャンバー305に注入され、ポリアクリルアミドビーズ350と混合される。流体355とポリアクリルアミドビーズ350は、撹拌軸320およびゲルビーズ撹拌器325を回転させて、流体355とビーズ350を混合する手助けをすることによって混合され得る。混合された流体355とポリアクリルアミドビーズ350は、次いで、所望の温度で所望の期間インキュベートされる。装置300は、その後、遠心分離され、その結果、液体は下方チャンバー310に移動し、一方、ポリアクリルアミドビーズ350はフィルター345に保持される。それによって、得られたIL−1ra溶液360からポリアクリルアミドビーズ350が分離され、その溶液は下方チャンバー310に集まる。溶液360は、出口335を介して装置から取り出される。
【0046】
図3の例示的な装置は、2006年8月10日公開の米国出願公開第2006/0175268号、Dorian et al.;および2006年11月2日公開の米国出願公開第2006/0243676号、Swift et al. において開示されており;それらの米国出願公開の双方は引用することにより本明細書の一部とされる。そのような装置はBiomet Biologies, LLC (Warsaw, Indiana, USA)のPlasmax(商標)Plus Plasma Concentratorとして市販されている。
【0047】
さらに図1に関し、ステップ150では、IL−1raに富んだ溶液はヒトまたは動物の対象(患者)に投与される。IL−1raに富んだ溶液を受ける患者は、ステップ110における脂肪組織を得た同じ患者であってよい。この場合、その方法により自己由来のIL−1ra調製物が提供される。投与は、様々な手段を用いて、例えば、シリンジを使用したIL−1raに富んだ溶液の注射、外科的適用、または別の外科的手法との併用適用によって行ってよい。しかしながら、インターロイキン−1受容体の刺激に関連している作用(炎症および変形性関節症による炎症など)に影響を与えるためにIL−1raに富んだ溶液を部位にまたは部位に近接して植え込み、注射し、あるいは投与する任意の生物医学上許容されるプロセスまたは手法を、ステップ150が含み得ると理解される。例えば、自己由来のIL−1raに富んだ溶液は、関節炎による炎症を治療するために、注射を介して患者に投与され得る。注射は、炎症関節の滑膜腔にまたは炎症関節の滑膜腔内に、あるいは関節にまたは関節近くに位置づけられる。
【0048】
本技術によって生産されたIL−1raに富んだ溶液の様々な調製物は、最終分離IL−1ra産物を処理するための滅菌フィルターを含めることによって滅菌してよい。同様に、抗生物質を、インキュベーションの間にポリアクリルアミドビーズに含めてよく、または本明細書において記載される方法における1以上の様々なステップで添加してもよい。
【0049】
本技術は、自己由来のIL−1raに富んだ濃縮血漿溶液を含む、IL−1raに富む溶液を調製するための改善された方法を提供し、そのような方法によって、非自己由来の材料または組換え材料を用いたときに起こる可能性がある免疫学的問題は軽減されおよび/または実質的に排除される。加えて、IL−1raは患者の細胞によって生産されるため、自然翻訳後修飾(グリコシル化など)はすでに存在している。これは大部分の組換えタンパク質には当てはまらず、それらのタンパク質が原核生物宿主で生産されるためである。
【0050】
本技術で生成されたIL−1raに富む溶液は、全血において一般に見られるIL−1raの濃度と比べてIL−1raの濃度が上昇しているとみなすことができる。例えば、本方法および組成物は、約34,000pg/mL〜約108,000pg/mLのIL−1raを含み得るが、全血は約200pg/mL〜約800pg/mLを含み得る。しかしながら、任意の所定の溶液中に存在する濃度は、本方法において使用される脂肪組織、脂肪細胞および/または白血球源中に存在する成分の初期レベルによって変化し得ることおよび濃度の上昇が初期レベルとの比較によるものであると理解される。一般的に、IL−1raは、本溶液中に少なくとも約10,000pg/ml、少なくとも約25,000pg/ml、または少なくとも約30,000pg/mlの濃度で存在し、最大108,000pg/mLまたはそれ以上であり得る。
【0051】
IL−1raに富んだ溶液は、IL−1の作用に影響を与え、インターロイキン−1受容体を介するシグナル伝達を減弱するために、投与される。IL−1raに富んだ溶液は、多くの組織および器官で発現されるインターロイキン−1型受容体とのIL−1の結合を競合的に阻害することにより、天然に存在するIL−1の生物活性(関節炎に関連する炎症および軟骨破壊を含む)を遮断するために使用される。例えば、IL−1によるプロテオグリカン喪失の結果としての骨吸収および組織損傷(軟骨破壊など)は、IL−1raに富んだ溶液の投与によって治療することができる。関節炎を有する患者では、滑膜および滑液において内因性IL−1raが、これら患者においてIL−1濃度を中和するのに有効な濃度で見られない場合があり、そのため、これらの病態およびこれらの部位を治療するために、本IL−1raに富んだ溶液が投与される。投与量、投与および治療頻度は、効果的な治療を達成するために、確立された医療行為に基づいて変更してよい。
【0052】
さらに図1に関し、ステップ150では、IL−1raに富んだ溶液はヒトまたは動物の対象(すなわち、患者)に投与される。IL−1raに富んだ溶液を受ける患者は、ステップ110における脂肪組織を得た同じ患者であってよい。この場合、その方法により自己由来のIL−1ra調製物が提供される。投与は、様々な手段を用いて、例えば、シリンジを使用したIL−1raに富んだ溶液の注射、外科的適用、または別の外科的手法との併用適用によって行ってよい。しかしながら、インターロイキン−1受容体の刺激に関連している作用(炎症など)に影響を与えるためにIL−1raに富んだ溶液を部位内にまたは部位に近接して植え込み、注射し、あるいは投与する任意の生物医学上許容される方法または手法を、ステップ150が含み得ることは理解できる。例えば、自己由来のIL−1raに富んだ溶液は、関節炎による炎症を治療するために、注射を介して患者に投与される。注射は、炎症関節の滑膜腔にまたは炎症関節の滑膜腔内に、あるいは関節にまたは関節近くに位置づけられる。
【0053】
本技術は、さらに、IL−1raを送達するための方法を提供する。そのような送達方法では、IL−1raおよびフィブリノーゲンの溶液を準備する。その場合、フィブリノーゲンは活性化されフィブリンマトリックスを形成し、フィブリンマトリックスが治療部位においてIL−1raを保護し保持する。フィブリンマトリックスは、IL−1raの送達によって、in situで形成され得る。
【0054】
フィブリノーゲンは、凝固因子およびカルシウムによる活性化によって三次元マトリックス中に架橋され得る。好適な凝固因子としては、トロンビン(例えば、ウシ、組換えヒト、混合ヒトまたは自己由来)、自己由来凝固タンパク質およびポリエチレングリコールが挙げられる。カルシウムはカルシウム塩の形態(塩化カルシウムなど)であってよい。
【0055】
いくつかの実施形態では、凝固因子は、自己由来凝固タンパク質を、治療する予定の患者から得られた血液から得られる凝固画分または組成物として含んでなる。好適な凝固画分は、全血または血漿をカルシウム溶液(例えば、エタノール中塩化カルシウム)とともに血液単離装置に装入すること;その全血または血漿を少なくとも約20℃の温度で少なくとも約20分間加熱すること;および凝固画分を分離することからなる方法によって得ることができる。単離は、加熱した全血または血漿を遠心分離することによって行ってよい。好適な分離装置を図4および図5に示している。そのような装置は、Biomet Biologies LLC (Warsaw, Indiana, USA)のClotalyst Autologous Thrombin Collection Systemとして入手可能である。
【0056】
図4および図5に関して、血液分離装置700は、一般的に、円筒壁と、主要チャンバー702を限定する第1の端704および第2の端706とを有する本体を備えている。第1の端704には、第1の出入口708、第2の出入口710、第3の出入口712、ベント713およびフィルター714が存在する。第1の出入口708、第2の出入口710、第3の出入口712およびベント713は各々、第1の端704を通って伸び、装置700外部と主要チャンバー702との間での流体連絡を可能にする。第1の出入口708には、第1のキャップ716を付けることができ、第2の出入口710には、第2のキャップ718を付けることができ、第3の出入口712には、第3のキャップ720を付けることができる。第1の出入口708用の第1の交換キャップ722は、第1の出入口708に第1のテザー724で取り付けることができる。第1の交換キャップ722を使用していない場合には第1のカバー726を第1の交換キャップ722に固定することができる。第2の出入口710用の第2の交換キャップ728は、第2の出入口710に第2のテザー730で取り付けることができる。第2の交換キャップ128を使用していない場合には第2のカバー732を第2の交換キャップ728に固定することができる。
【0057】
第1の出入口708および第2の出入口710各々には止め弁が備わっており、材料(ガラスビーズ740など)が第1の出入口708および第2の出入口710を通って主要チャンバー702から出ないようになっている。止め弁は、任意の好適な弁、例えば、ダックビル弁などであり得る。
【0058】
特に図5に関して、第3の出入口712には伸長チューブ部分734があり、その伸長チューブ部分は主要チャンバー702内に伸びている。伸長部分734は、第1の端704から主要チャンバー702内の最深部まで伸び、主要チャンバー702内からの選択材料(トロンビンおよび他の血液凝固因子など)の回収を可能にしている。例えば、下にさらに記載するように、主要チャンバー702に、全血、試薬(例えば、エタノールまたは他の好適な溶媒に溶解されたカルシウム化合物を含んでなるカルシウム溶液)、抗凝固薬およびガラスビーズを含める場合には、この混合物のインキュベーションおよび遠心分離によって、主要チャンバー702の第2の端706において赤血球、血漿およびガラスビーズをほぼ含んでなる凝固塊が形成する。凝固塊の上部では、第1の端704に最も近い凝固塊の側面において、トロンビンおよび様々な他の凝固因子を含んでなる流出物が形成される。第2の端706における凝固塊は、流出物と視覚的に区別することができる。伸長チューブ部分734を使用してトロンビンおよび他の凝固因子を抽出するために、伸長チューブ部分734は、主要チャンバー702内の凝固塊に最も近い流出物の部分のほぼ高さとなる最深部まで伸びる。
【0059】
伸長部分734の遠位端には先端部736が備わっている。先端部736は、伸長部分734からほぼ直角に伸びている。その先端部にはくぼみまたはノッチ737がある。先端部736あたりの伸長部分734から2つの支柱739が放射状に広がり、主要チャンバー702の内部と接している。支柱739は、主要チャンバー702の内部に対して先端部736を片寄らせ、先端部736を主要チャンバー702内の定位置に保持する。先端部736が主要チャンバー702の内部と接すると、ノッチ737は、主要チャンバー702の内壁と先端部736との間に開口部またはクリアランスを形成し、ノッチ737を通って先端部736内への材料の通過を可能にしている。特に、主要チャンバー702が傾いて先端部736周囲の追加材料がノッチ737まできたときに、先端部736は、伸長部分734を通じて回収される材料の量を最大にする手助けをする。2本の支柱739と先端部736は、主要チャンバー702において伸長部分734を中央に置く手助けをしている。
【0060】
出入口708、710および712は、好適な流体送達装置または流体輸送装置(シリンジなど)と協同するようにサイジングされている。例えば、第1の出入口708は、試薬シリンジと協同するようにサイジングすることができ、第1の出入口708から主要チャンバー702内への試薬の通過を可能にしており;第2の出入口710は、血液シリンジと協同するようにサイジングすることができ、第2の出入口710から主要チャンバー702内への血液の通過を可能にしており;第3の出入口712は、シリンジと協同するようにサイジングすることができ、主要チャンバー702内からの血液成分(トロンビンおよび他の凝固因子など)の回収を可能にしている。
【0061】
フィルター714は、主要チャンバー702内から第3の出入口712を通って材料が回収される際に材料を濾過するための任意の好適なフィルターであり得る。フィルター714にはポリエステルスクリーンが含まれ、ポリエステルスクリーンは第1の出入口708および第2の出入口710の上に取り付けられる。ポリエステルスクリーンには開口部があり、開口部のサイズは約15ミクロン〜約25ミクロンの範囲内である。例えば、開口部のサイズは約17ミクロンであり得る。フィルター714の代わりにまたはフィルター714に加えて、伸長部分734内にまたは先端部736にフィルター714と同様のフィルターを準備することもできる。
【0062】
主要チャンバー702は、アクチベーター、例えば、ガラスビーズ740などをさらに含む。負に帯電したガラスビーズ表面は血液凝固因子の凝固および放出を活性化し、それによって主要チャンバー702の第2の端706において凝固塊を形成する。ガラスビーズ740は、任意の好適なタイプのガラスビーズ、例えば、ホウケイ酸ビーズなどであり得る。
【0063】
図5の装置を使用して凝固因子を生産するための例示的な手順は、第1の出入口708からの主要チャンバー702内への、塩化カルシウムおよびエタノールを含んでなる試薬の注入によって開始する。試薬の注入が完了したら、第1の出入口708は第1の交換キャップ722を使用して閉鎖される。抗凝固薬が加えられた血液が第2の出入口710から主要チャンバー702内に注入される。血液の注入が完了したら、第2の出入口710は第2の交換キャップ728を使用して閉鎖される。所望により、シリンジおよび血液分離装置700は約25℃の温度に予熱される。
【0064】
血液成分分離装置700の内容物は、装置700を繰り返し(例えば、約12回)逆さにし、血液をガラスビーズと接触させることによって混合される。混合後、その装置はインキュベートされる。インキュベーションプロセスは、装置700の内容物の約25℃で約15分間の加熱を可能にする温度および期間で行われる。インキュベーション期間が完了したら、主要チャンバー702の第2の端706において赤血球、血漿およびガラスビーズの凝固塊が形成する。インキュベーションの完了後、存在し得るゲルを除去し、分解するのに十分なだけ装置700を振盪させる。その後、残留血液成分からトロンビンを分離するために、装置700を好適な遠心機に入れ約3200RPMで約15分間回転させる。遠心分離後、トロンビンおよび他の凝固因子の流出物は凝固塊から分かれる。遠心分離の完了後、第3のキャップ720は取り外され、第3の出入口712、伸長部分734および先端部736を通って主要チャンバー702内からトロンビンおよび他の凝固因子の流出物を取り出すために、好適な抽出装置(シリンジなど)が使用される。
【0065】
よって、本技術の送達方法は、治療部位においてフィブリンマトリックスを形成するために、IL−1ra、フィブリノーゲン、トロンビンおよびカルシウムの投与を含み得る。外因性フィブリノーゲン、例えば、ウシトロンビンなどを、好ましくは、1,000U/mLで、IL−1raの溶液に添加してよい。また、IL−1ra溶液は、十分な量の内因性フィブリノーゲンをすでに含んでいることもある。IL−1raの溶液および/またはフィブリノーゲンまたはその調製物が抗凝固薬、例えば、ACD−A(抗凝固クエン酸デキストロース溶液)などを含む場合には、フィブリノーゲンを活性化するための(トロンビンとの)カルシウムの添加は、抗凝固薬における任意のキレート剤の有効量を超える。
【0066】
本方法を用いて製造されるIL−1raに富んだ溶液は、脂肪細胞および/または脂肪組織とポリアクリルアミドビーズに全血および/または多血小板血漿がさらに加えられるときに、全血と比べての内因性フィブリノーゲン濃度の上昇をもたらすことができる。例えば、多血小板血漿、脂肪組織、ポリアクリルアミドビーズおよび図3に例示される装置を使用した上記方法の産出物は、全血と比べてIL−1raおよびフィブリノーゲンの両方に富む溶液となる。そのような装置は、Biomet Biologies, LLC (Warsaw, Indiana, USA)のPlasmax(商標)Plus Plasma Concentratorとして市販されており、そのような装置には、2006年8月10日公開の米国出願公開第2006/0175268号、Dorian et al.;および2006年11月2日公開の米国出願公開第2006/0243676号、Swift et al.に記載されている使用装置および方法が含まれ;それらの米国出願公開の双方は引用することにより本明細書の一部とされる。このIL−1raに富みフィブリノーゲンにも富んだ溶液は、最初の全血および脂肪組織を得た患者を治療するために使用し得る;すなわち、自家移植治療。
【0067】
全血、脂肪組織およびポリアクリルアミドビーズと、Plasmax(商標)Plus Plasma Concentratorとを使用した上記方法を用いて調製される、IL−1raに富みフィブリノーゲンにも富んだ溶液は、全血と比べてフィブリノーゲン濃度が約3倍(3×)上昇している溶液を提供する。3×高い濃度のフィブリノーゲンから形成されるフィブリンマトリックス/血餅は、フィブリノーゲン基礎レベルから作製されるフィブリン塊よりも堅固であり、分解および吸収に対してより耐性がある。
【0068】
図6に関しては、IL−1raを送達するための概略図900を示している。ステップ910において、IL−1raの溶液が準備される。IL−1ra溶液は、本開示において記載されている方法を用いて調製してよい。ステップ920ではIL−1ra溶液に外因性フィブリノーゲンが添加される。外因性フィブリノーゲンは、IL−1ra溶液とは異なる供給源(異なる患者など)から調製してよく、またはウシ由来のものでもよい。また、外因性フィブリノーゲンは、IL−1ra溶液とは異なる出発材料から調製してよいが、それでも同じ供給源または患者から調製してよい。例えば、IL−1ra溶液および外因性フィブリノーゲンは、同じ患者から採取された異なる血液サンプルから調製してよい。あるいは、ステップ930で示されるように、IL−1raおよびフィブリノーゲンの両方が濃縮された溶液を、例えば、本明細書において記載されているように、ポリアクリルアミドビーズおよびPlasmax(商標)装置を使用することによって調製する。ステップ940では、トロンビンおよびカルシウムの溶液が準備され、IL−1raの溶液とともに治療部位に併用投与される。その後は、ステップ950で示されるように、合わせられた溶液中のフィブリンがin situで架橋し、治療部位においてマトリックスを形成し、そのマトリックスがIL−1raを保護し、保持し、持続放出する役割を果たす。
【0069】
IL−1raの送達は、IL−1raおよびフィブリノーゲンの第1の溶液と、トロンビンおよびカルシウムの第2の溶液とを対象に同時投与することを含み得る。そのような実施形態では、第1の溶液と第2の溶液は、それらの溶液が混合され治療部位に注射された後に初めてフィブリノーゲンがフィブリンマトリックスを形成するように、投与まで別々に保存される。それらの溶液は、治療部位への送達直前に混合してよく、または治療部位において混合してもよい。
【0070】
図7に関しては、医学的に適切な手順においてデュアルシリンジ装置1000が使用されている。デュアルシリンジ装置1000は、第1のバレル1005と第2のバレル1010を備え、双方のバレルが混合チャンバー1015とつながっている。第1のプランジャー1020は第1のバレル1005内に挿入され、第2のプランジャー1025は第2のバレル1010内に挿入される。第1のプランジャー1020と第2のプランジャー1025は部材1030によって連結されている。混合チャンバー1015はカニューレ1035とつながっている。デュアルシリンジ装置1000には、第1のバレル1005中にIL−1raおよびフィブリノーゲンの第1の溶液1040と、第2のバレル1010中にトロンビンおよびカルシウムの第2の溶液1045とが入っている。同時投与の間、第1のバレル1005と第2のバレル1010双方の内容物が混合チャンバー1015中に押し出されるように、部材1030は混合チャンバー1015に向かって押し進められる。混合された第1の溶液1040と第2の溶液1045は、カニューレ1035を通って移動し、患者の関節1060内の治療部位1055においてフィブリンマトリックス1050を形成する。
【0071】
図7で示される実施形態では、患者の関節1060は、大腿骨1065、脛骨1070、腓骨1075、膝蓋骨1080および軟骨1085を含む膝関節である。しかしながら、治療部位1055はヒト患者または動物の任意の関節内であってよく、そのような関節には肩、肘、手首、足首、股関節および脊椎が含まれると理解される。加えて、本方法は、他の組織(筋肉および腱など)内の部位における炎症を治療するためにも使用してよい。
【0072】
いくつかの実施形態では、デュアルシリンジ装置1000は、混合された第1の溶液1040と第2の溶液1045を投与するため、患者の関節1060の軟組織を突き通すために使用される。例えば、カニューレ1035は中空針(皮下注射針など)であってよい。あるいは、患者の関節1060において切開を行ってカニューレ1035の挿入が可能になるようにし、デュアルシリンジ装置800が治療部位1055に入るようにしてよい。
【0073】
いくつかの実施形態(示されていない)では、デュアルシリンジ装置1000に混合チャンバー1015がなく、その代わりとして2本のカニューレ1035が備わっている。各カニューレは各バレルから治療部位1055に通じている。この場合、第1の溶液1040と第2の溶液1045は、別々のカニューレ1035を通って移動し、治療部位1055において混ざり合い、フィブリンマトリックス1050を形成する。いくつかの実施形態では、デュアルシリンジ装置の代わりに、2つの独立したシングルバレル型シリンジ装置が使用される。
【0074】
本送達方法において形成されたフィブリンマトリックスは、炎症を悪化させることなく治療部位に存在することができる。フィブリンマトリックス内のIL−1raは酵素分解から保護されフィブリンマトリックスと結合し得ることから、そのマトリックスからIL−1raが経時的にゆっくりと放出される。それゆえに、そのような方法は、フィブリンマトリックス担体を含まないIL−1raの注射と比べて、IL−1raの持続的な送達を提供することができる。
【0075】
本技術は、2008年2月27日提出の米国仮出願第61/031,803号、2008年11月21日提出の米国仮出願第61/116,940号および2009年2月24日提出の米国仮出願第61/155,048号の態様を含み得るものであり、2009年2月27日提出の第PCT/US2009/035541号の態様を含んでいる。
【0076】
次の具体例は、この技術の組成物および方法の作製および使用の方法の例示のために提供され、特に明記されない限り、この技術の所定の実施形態が作製されたまたは検証されたこと、あるいは作製されていないまたは検証されていないことを意味するものではない。
【実施例】
【0077】
実施例1
脂肪細胞は次の通り調製する。脂肪組織を小片に細分し(約1cm)、断続的に機械撹拌しながら水浴中37℃で180分間、2mg/mL I型コラゲナーゼ(Worthington Biochemical Corp., Lakewood, N.J.)で消化する。培地または血液由来の溶液を加えることによって消化の効力を失わせることができる。細胞懸濁液を遠心分離機にかけ(300×g、25℃で7分間)、続いて、細胞ペレットから上清の除去を行う。次いで、そのペレットを適合性のある溶液に再懸濁して、脂肪細胞を含んでなる液体容量を準備する。
【0078】
あるいは、ペレットを対象から得た全血とともに懸濁し、Biomet Biologies, Inc. (Warsaw, Ind.)のGPS(商標)Platelet Concentrate Systemに加える。遠心分離後、多血小板血漿層(脂肪細胞も含む)をその装置から抽出する。
【0079】
脂肪細胞(所望により多血小板血漿を含む)を、次いで、ポリアクリルアミドビーズと合わせて、IL−1raの生産を刺激する。脂肪細胞およびポリアクリルアミドビーズをその溶液から分離して、IL−1raに富む溶液を得る。
【0080】
実施例2
IL−1raの治療用組成物を脂肪細胞から生成する。脂肪吸引処置(lipoaspiration/liposuction procedures)からヒト皮下脂肪組織を得、37℃で1時間緩やかに撹拌しながらI型コラゲナーゼ溶液(Worthington Biochemical Corp., Lakewood, N.J.)でその組織を消化することによりヒト脂肪細胞の単離を行う。解離細胞を500μmおよび250μmのNitexフィルターで濾過する。その画分を300×gで5分間遠心分離機にかける。上清を廃棄し、細胞ペレットを適合性のある溶液(血液由来の溶液など)に再懸濁する。
【0081】
図3Aおよび図3Bで示されるような装置において脂肪細胞をポリアクリルアミドビーズと合わせる。脂肪細胞を含有する流体355を、入口330を介して上方チャンバーに注入し、ポリアクリルアミドビーズ350と混合する。流体355とポリアクリルアミドビーズ350は、撹拌軸320およびゲルビーズ撹拌器325を回転させて、流体355とビーズ350を混合する手助けをすることによって混合し得る。混合した流体355とポリアクリルアミドビーズ350を、次いで、所望の温度で所望の期間インキュベートする。装置300を、その後、遠心分離機にかけると、液体は下方チャンバー310に移動し、一方、ポリアクリルアミドビーズ350はフィルター345に保持される。それによって、得られたIL−1ra溶液360からポリアクリルアミドビーズ350が分離され、その溶液は下方チャンバー310に集まる。IL−1raに富んだ溶液360は、出口335を介して装置から取り出し得る。
【0082】
実施例3
IL−1raに富んだ溶液を次の通り作出する。患者から脂肪吸引術により脂肪組織を採取する。ACD−A(Braintree, Massachusetts, USA)(10%)で抗凝固処理した全血(70mL)を患者から採取する。全血測定用に一部(10mL)を確保する。GPS(登録商標)II System (Biomet Biologies, LLC, Warsaw, Indiana, USA)を使用して多血小板血漿(PRP)(6mL)を生産する。Woodell-May JE, Ridderman DN, Swift MJ, Higgins J. "Producing Accurate Platelet Counts for Platelet Rich Plasma: Validation of a Hematology Analyzer and Preparation Techniques for Counting" J Craniofac Surg (2005) Sep. 16(5):749-56に記載されているように、検証済みの手順に従って、全血サンプルおよびPRPサンプルについて全血球計算値(CBC)を収集する。
【0083】
脂肪組織(約5グラム)およびPRP(約5mL)を改良型血漿濃縮装置(Plasmax(商標), Biomet Biologies LLC, Warsaw, Indiana, USA)に加え、装置内でポリアクリルアミド乾燥ビーズとともに室温で24時間インキュベートする。インキュベーション後、血漿濃縮装置を遠心分離機にかけて、IL−1raに富む溶液を分離する。
【0084】
ゼロ時点でのIL−1ra基礎レベルを分析するために、脂肪組織、PRPおよびポリアクリルアミドサンプルを50μLのトロンビンおよび10%CaCl(1,000単位/mL)で活性化する。血餅が形成され、それを室温で30分間インキュベートする。インキュベーション後、血餅を3,000rpmで5分間遠心分離機にかける。血餅から血清を収集し、ELISA分析用に確保する。血漿濃縮装置からのIL−1raに富んだ溶液はトロンビンによる活性化を必要としないため直接試験する。総てのサンプルをIL−1raについて、ELISAキット(IL-1ra Quantikine(商標)Kit, R&D Systems, Minneapolis, Minnesota, USA)を使用して分析する。
【0085】
例示データを平均±標準偏差として示す。統計的有意性をスチューデントt−検定(a=0.05)により評価する。相関分析を用いて、IL−1ra産出物および全血球計算値(CBC)データを比較する。
【0086】
ポリアクリルアミドビーズとの脂肪組織およびPRPのインキュベーションから生成されるIL−1raは、IL−1raレベルの上昇をもたらす。IL−1raの血清基礎値(217±98pg/mL)は、ドナー間で大きな変動があるにしても、Meijer H, Reinecke J, Becker C, Tholen G, Wehling P. "The production of anti-inflammatory cytokines in whole blood by physico-chemical induction" Inflamm. Res. 2003 Oct; 52(10): 404-7に記載されている、別の研究で認められた結果(73±4.8pg/mL)と同様である。ポリアクリルアミドビーズとの脂肪組織およびPRPのインキュベーション後の血漿濃縮装置の産出物では、IL−1ra血清レベルは、血清基礎レベルと比べて統計的に高い。例えば、血漿濃縮装置でのポリアクリルアミドビーズとの脂肪組織およびPRPの24時間のインキュベーションでは、ACS装置での24時間のインキュベーションからすでに報告されているデータ(10,254±165pg/mL)より高いIL−1ra量(約36,000pg/mL)となる。
【0087】
実施例4
脂肪組織(120g)を収集し、GPS(登録商標)III disposables (Biomet Biologies LLC, Warsaw, Indiana, USA)を使用して調製する。単離脂肪組織を改良型血漿濃縮装置(Plasmax(登録商標)、Biomet Biologies LLC, Warsaw, Indiana, USA)に装入し、処理する。産出物を4群に分ける;濃縮血漿中のIL−1ra(トロンビンによる活性化(1M CaCl中1000U/ml)を行う)および濃縮血漿中のIL−1ra(トロンビンによる活性化(1M CaCl中1000U/ml)を行わない)、または無細胞IL−1ra(トロンビンによる活性化を行う)および無細胞IL−1ra(トロンビンによる活性化を行わない)。ELISA(R&D Systems)を使用して経時的にIL−1raを測定する。
【0088】
非凝固サンプルは、24時間かけて平均47.1±2.1ngを生産する(p=0.34)。無細胞サンプルは、変化することなく、24時間かけて33.7±1.5ngを生産する(p=0.38)。一度、凝固したら、IL−1raの溶出は遅延し、10時間後に28%しか溶出されない。無細胞サンプルでの放出も遅延するが、10時間後には利用可能なIL−1raの100%が溶出される。
【0089】
本明細書において記載される実施例および他の実施形態は、例示であり、本技術の組成物および方法の総ての範囲の説明において限定することを目的としていない。特定の実施形態、材料、組成物および方法の等価の変更、修飾および変形は、本技術の範囲内で行うことができ、実質的に同様の結果を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インターロイキン−1受容体アンタゴニストに富む溶液を生成するための方法であって、
(a)脂肪細胞を含んでなる液体容量をポリアクリルアミドビーズと接触させること;および
(b)該液体容量を該ポリアクリルアミドビーズおよび該脂肪細胞から分離して、インターロイキン−1受容体アンタゴニストに富む溶液を得ること
を含んでなる、方法。
【請求項2】
脂肪細胞を含んでなる液体容量が、単離された脂肪組織の一部である、請求項1に記載のインターロイキン−1受容体アンタゴニストに富む溶液を生成するための方法。
【請求項3】
前記接触が、脂肪細胞を含んでなる液体容量をポリアクリルアミドビーズとともに約30秒〜約24時間の期間インキュベートすることを含んでなる、請求項1に記載のインターロイキン−1受容体アンタゴニストに富む溶液を生成するための方法。
【請求項4】
前記接触が、白血球を含んでなる液体容量をポリアクリルアミドビーズと接触させることをさらに含んでなる、請求項1に記載のインターロイキン−1受容体アンタゴニストに富む溶液を生成するための方法。
【請求項5】
前記白血球を含んでなる液体容量が、全血、多血小板血漿、または全血および多血小板血漿である、請求項4に記載のインターロイキン−1受容体アンタゴニストに富む溶液を生成するための方法。
【請求項6】
前記分離が、脂肪細胞の液体容量およびポリアクリルアミドビーズを遠心分離し、インターロイキン−1受容体アンタゴニストに富む溶液を含んでなる上清を得ることを含んでなる、請求項1に記載のインターロイキン−1受容体アンタゴニストに富む溶液を生成するための方法。
【請求項7】
インターロイキン−1受容体アンタゴニストに富む溶液が、約30,000pg/mL〜約110,000pg/mLのインターロイキン−1受容体アンタゴニストを含んでなる、請求項1に記載のインターロイキン−1受容体アンタゴニストに富む溶液を生成するための方法。
【請求項8】
患者において炎症性疾患を治療するためのインターロイキン−1受容体アンタゴニストに富む溶液を生成するための方法であって、
(a)患者から脂肪組織を得ること;
(b)ポリアクリルアミドビーズを含む濃縮装置アセンブリーに該脂肪組織を装入し、ポリアクリルアミドビーズおよび脂肪組織の混合物をインキュベートし、インターロイキン−1受容体アンタゴニストの溶液を形成すること;
(c)インターロイキン−1受容体アンタゴニストを該ポリアクリルアミドビーズおよび脂肪組織から分離する遠心速度で該濃縮装置アセンブリーを回転させ、インターロイキン−1受容体アンタゴニストに富む溶液を得ること
を含んでなる、方法。
【請求項9】
前記装入が、脂肪組織をポリアクリルアミドビーズとともに約30秒〜約24時間の期間インキュベートすることを含んでなる、請求項8に記載のインターロイキン−1受容体アンタゴニストに富む溶液を生成するための方法。
【請求項10】
前記装入が、白血球を含んでなる液体容量を濃縮装置アセンブリーに装入することをさらに含んでなる、請求項8に記載のインターロイキン−1受容体アンタゴニストに富む溶液を生成するための方法。
【請求項11】
前記白血球を含んでなる液体容量が、全血、多血小板血漿、または全血および多血小板血漿である、請求項10に記載のインターロイキン−1受容体アンタゴニストに富む溶液を生成するための方法。
【請求項12】
患者における炎症部位の治療方法であって、
(a)脂肪細胞を含んでなる液体容量をポリアクリルアミドビーズと接触させること;
(b)該液体容量を該ポリアクリルアミドビーズおよび該脂肪細胞から分離し、インターロイキン−1受容体アンタゴニストに富む溶液を得ること;および
(c)該インターロイキン−1受容体アンタゴニストに富む溶液を、患者における炎症部位に投与すること
を含んでなる、方法。
【請求項13】
前記脂肪組織が、患者から由来のものである、請求項12に記載の患者における炎症部位の治療方法。
【請求項14】
前記炎症が、変形性関節症に関連する、請求項12に記載の患者における炎症部位の治療方法。
【請求項15】
前記投与が、炎症部位にフィブリノーゲン、トロンビン、およびカルシウムを投与することをさらに含んでなる、請求項12に記載の患者における炎症部位の治療方法。
【請求項16】
前記投与が、(i)インターロイキン−1受容体アンタゴニストおよびフィブリノーゲンを含んでなる第1の溶液と、(ii)トロンビンおよびカルシウムを含んでなる第2の溶液とを同時投与することを含んでなる、請求項12に記載の患者において炎症部位の治療方法。
【請求項17】
前記トロンビンが、
(a)全血または血漿およびカルシウム溶液を血液単離装置に装入すること;
(b)該全血または血漿を少なくとも約20℃の温度で少なくとも約20分間加熱すること;および
(c)加熱した全血または血漿を遠心分離することによってトロンビンを単離すること
を含んでなる方法によって作製される、請求項15に記載の患者における炎症部位の治療方法。
【請求項18】
前記全血または血漿が、患者から得られる、請求項17に記載の患者における炎症部位の治療方法。
【請求項19】
患者における炎症性疾患の治療方法であって、
(a)患者から脂肪組織を得ること;
(b)ポリアクリルアミドビーズを含む濃縮装置アセンブリーに該脂肪組織を装入し、ビーズおよび脂肪組織の混合物をインキュベートして、インターロイキン−1受容体アンタゴニストの溶液を形成すること;
(c)インターロイキン−1受容体アンタゴニストを該ポリアクリルアミドビーズから分離する遠心速度で該濃縮装置アセンブリーを回転させ、インターロイキン−1受容体アンタゴニストに富む溶液を得ること;
(d)患者から全血を得ること;
(e)該全血およびカルシウム溶液を血液単離装置に装入すること;
(f)該全血を少なくとも約20℃の温度で少なくとも約20分間加熱すること;
(g)加熱した全血を遠心分離し、凝固画分を得ること;および
(h)該インターロイキン−1受容体アンタゴニストに富む溶液および該凝固画分を、患者における炎症部位に投与すること
を含んでなる、方法。
【請求項20】
前記装入が、前記脂肪組織とともに白血球を含んでなる液体容量を、ポリアクリルアミドビーズを含む前記濃縮装置アセンブリーに装入し、ビーズ、脂肪組織、および白血球の混合物をインキュベートして、インターロイキン−1受容体アンタゴニストの溶液を形成することをさらに含んでなる、請求項19に記載の患者における炎症性疾患の治療方法。
【請求項21】
前記白血球を含んでなる液体容量が、全血、多血小板血漿、または全血および多血小板血漿である、請求項20に記載のインターロイキン−1受容体アンタゴニストに富む溶液を生成するための方法。
【請求項22】
前記投与が、患者における炎症部位にフィブリノーゲンを投与することをさらに含んでなる、請求項19に記載のヒト対象における炎症性疾患の治療方法。
【請求項23】
前記炎症部位が、少なくとも1つには変形性関節症によるものである、請求項19に記載のヒト対象における炎症性疾患の治療方法。
【請求項24】
対象における炎症の治療に用いる組成物であって、請求項1〜11のいずれか一項に記載の方法によって作製される、組成物。
【請求項25】
前記液体容量が、対象から得られる全血または血漿である、請求項24に記載の組成物。
【請求項26】
前記炎症が、変形性関節症によるものである、請求項24に記載の組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公表番号】特表2013−502929(P2013−502929A)
【公表日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−526988(P2012−526988)
【出願日】平成22年8月26日(2010.8.26)
【国際出願番号】PCT/US2010/046821
【国際公開番号】WO2011/031524
【国際公開日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【出願人】(510206198)バイオメット、バイオロジクス、リミテッド、ライアビリティー、カンパニー (4)
【氏名又は名称原語表記】BIOMET BIOLOGICS, LLC
【Fターム(参考)】