説明

インターロイキン10産生促進剤

【課題】IL−10の産生を促進させる作用を有し、且つ、長期に渡って摂取可能な安全性の高い医薬、飲食品を提供すること。
【解決手段】IL−12産生誘導能を有さない細菌若しくは酵母又は微生物処理物と、IL−12産生誘導能を有する細菌を組み合わせてなるIL−10産生促進剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インターロイキン(以下、IL−ということもある)10の産生不足による疾患の予防又は治療薬として有用なIL−10産生促進剤に関する。
【背景技術】
【0002】
細菌、ウィルス等の微生物の感染、腫瘍、細胞傷害などに対して生体は免疫反応によって対応するが、その免疫反応は、免疫担当細胞間の直接的あるいは間接的な相互作用により調節されている。そして、免疫応答の調節にはリンパ球、マクロファージ等が産生するインターロイキン、TNF−α等のサイトカインが重要な役割を演じている。
【0003】
現在、インターロイキンに属するサイトカインとしては29種類が知られているが、その一つであるIL−10については次のような作用が確認されている。
【0004】
(1)単球/マクロファージからのIL−1、IL−6、IL−8、IL−12、TNF−α産生を抑制する。
(2)単球/マクロファージからのIL−1レセプターアンタゴニストの産生を増強する。
(3)単球/マクロファージのMHC class II分子、CD86分子の発現を抑制する。
(4)T細胞の増殖を抑制する。
(5)T細胞からのIL−2、IFN−γ、IL−4、IL−5産生を抑制する。
(6)IL−10産生調節性T細胞を誘導する。
(7)好酸球、好中球、マスト細胞からのIL−1、IL−8、TNF−α産生を抑制する。
(8)NK細胞の細胞傷害活性を増強する。
(9)B細胞からのIgE産生を抑制し、IgG産生を増強する。
【0005】
これらの作用があることにより、IL−10は自己免疫疾患、炎症性腸疾患、アレルギー、乾癬、臓器移植時の拒絶反応、ウィルス感染、腫瘍など、多くの疾患の予防、治療に利用可能になるものと期待されている。
【0006】
プロバイオティクスによりIL−10の産生を誘導する試みとしては、ラクトコッカス属乳酸菌によるIL−10産生の誘導(特許文献1)、ラクトバチルス・アシドフィルス菌株によるIL−10産生の誘導(特許文献2)等が報告されているが、これらのいずれについても未だ十分な効果は得られていない。
【特許文献1】特開2005−154387号公報
【特許文献2】特開2004−277381号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従って本発明の目的は、IL−10の産生不足による疾患、例えば自己免疫疾患、炎症性腸疾患、アレルギー、乾癬、臓器移植時の拒絶反応、ウィルス感染、腫瘍等の予防・治療に有用であり、かつ日常的に使用できる安全な医薬、飲食品に利用できるIL−10産生促進剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは上記課題を解決するため鋭意検討した結果、全く意外なことに、(A)IL−12産生誘導能を有さない細菌若しくは酵母又は微生物処理物と、(B)IL−12産生誘導能を有する細菌を組み合わせたときIL−10の産生が顕著に促進されることを見出し、本発明を完成した。
【0009】
すなわち、本発明は(A)IL−12産生誘導能を有さない細菌若しくは酵母又は微生物処理物と、(B)IL−12産生誘導能を有する細菌を組み合わせてなるIL−10産生促進剤を提供するものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明のIL−10産生促進剤は、長期間経口摂取しても安全であり、自己免疫疾患、炎症性腸疾患、アレルギー、乾癬、臓器移植時の拒絶反応、ウィルス感染、腫瘍等のIL−10産生不足による多くの疾患の予防と治療の目的に有効かつ安全に利用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明において、「IL−12産生誘導能を有さない」とは、被験物質をマウス腹腔マクロファージ系に添加して24時間培養後に上清を回収し、上清中のIL−12p70の濃度をELISAで定量したとき、10ng/ml未満であることを意味し、特に3ng/ml未満であるのが好ましい。「IL−12産生誘導能を有する」とは同系においてIL−12p70濃度が10ng/ml以上であることを意味し、特に20ng/ml以上であるのが好ましい。
【0012】
本発明において、「微生物」とは細菌菌体、酵母菌体及び不活化ウィルスを含む意味に用いられ、「微生物処理物」とは用いられる細菌、酵母又はウィルスに何らかの処理を加えたものをいい、その処理は特に限定されない。前記処理物としては、具体的には、微生物の超音波などによる破砕液、微生物の酵素処理液、それらを濾過ないし遠心分離など固液分離手段によって分離した固体残渣等が挙げられる。また、細胞壁又はウイルス膜を酵素もしくは機械的手段により除去した処理液、これらの濃縮物、これらの希釈物またはこれらの乾燥物なども含まれる。また、微生物を界面活性剤等によって溶解した後、エタノール等によって沈殿させて得られる核酸含有画分も含まれる。さらに、前記微生物の超音波などによる破砕液、細胞の酵素処理液などに対し、例えば各種クロマトグラフィーによる分離などの分離・精製処理をさらに行ったものも含まれる。さらに、細菌菌体及び酵母菌体では死菌体も含まれ、該死菌体は、例えば、加熱処理、抗生物質などの薬物による処理、ホルマリンなどの化学物質による処理、紫外線による処理、γ線などの放射線による処理により得ることができる。これら処理のうち、特に超音波処理、酵素処理、加熱処理が好ましい。
さらに、前記処理物は、化学的に合成されたもの、例えばDNA、一本鎖RNA、イミダゾキノリン系化合物、イミダゾキノリン系化合物及びリポペプチド等であってもよく、具体的には、非メチル化CpG DNA等のDNA、ポリウリジン等の一本鎖RNAは市販の核酸合成装置により合成することが可能であり、イミダゾキノリン系化合物は、自体公知の方法により製造することが可能であり、Pam3-Cys-Ser-Lys4、Pam2-Cys-Gly-Asp-Pro-Lys-His-Pro-Lys-Ser-Phe等のリポペプチドは公知のペプチド合成法(固相合成法、液相合成法等)を利用して製造することもできる。
【0013】
本発明において、(A)IL−12産生誘導能を有さない細菌若しくは酵母又は微生物処理物としては、菌体消化酵素による消化率が30%以上の細菌若しくは酵母又は微生物処理物が挙げられる。一方、(B)IL−12産生誘導能を有する細菌としては、菌体消化酵素による消化率が10%以下の細菌が挙げられる。
本発明において、「菌体消化酵素による消化率」とは、N−アセチルムラミダーゼの一種であるM−1酵素(EC 3.2.1.17)による消化試験を行った際の被験物質の消化率を意味する。具体的には、以下に示す消化試験を行い、被験物質の消化率を算出することができる。
まず、4mM塩化マグネシウムを含む50mMトリス・マレイト緩衝液(pH7.0)中に被験物質を2mg/mlで懸濁し、M−1酵素を添加(10μg/ml)して37℃で10分反応を行った後、100℃、5分の加熱処理により酵素活性を失活させた。反応液に対してSDS溶液を添加し(終濃度2%)、ボルテックスにて十分攪拌してプロトプラスト状の被験物質を溶解させた後、濁度(OD600)を測定した。消化率の算出には以下の式を用いた。
【0014】
【数1】

【0015】
(A)IL−12産生誘導能を有さない細菌としては、例えば、ラクトバチルス・プランタラム、ラクトバチルス・アシドフィルス、ラクトバチルス・ガッセリ、ラクトバチルス・ジョンソニー、ラクトバチルス・ヘルベティカス、ラクトバチルス・デルブルッキー、ビフィドバクテリウム・ブレーベ、ビフィドバクテリウム・ビフィダム、ビフィドバクテリウム・ロンガム、ビフィドバクテリウム・インファンティス、スタフィロコッカス・アウレウス、大腸菌等が挙げられる。細菌のうち、ラクトバチルス・プランタラム、ラクトバチルス・アシドフィルス、ビフィドバクテリウム・ブレーベ、ビフィドバクテリウム・ビフィダム、スタフィロコッカス・アウレウス、大腸菌が好ましく、(B)IL−12産生誘導能を有する細菌との併用により特に強くIL−10の産生を誘導する点から特にラクトバチルス・プランタラムが好ましい。
(A)IL−12産生誘導能を有さない酵母としては、特に限定されないが、例えば、サッカロマイセス・セルビシエ、シゾサッカロマイセス・ポンベ、カンジダ・アルビカンスが挙げられ、サッカロマイセス・セルビシエを好適に用いることができる。
【0016】
(A)IL−12産生誘導能を有さない微生物処理物としては、特に限定されないが、ラクトバチルス・プランタラム、ラクトバチルス・アシドフィルス、ビフィドバクテリウム・ブレーベ、ビフィドバクテリウム・ビフィダム、スタフィロコッカス・アウレウス、大腸菌等の細菌、サッカロマイセス・セルビシエ、シゾサッカロマイセス・ポンベ、カンジダ・アルビカンス等の酵母及びインフルエンザウイルス等の不活化ウィルス等の微生物の処理物が挙げられる。このうち、TLR2、TLR4、TLR7、TLR8又はTLR9のリガンドとなり得る処理物が好ましく、当該処理物としては、例えば、ペプチドグリカン、プロトプラスト、ザイモサン、リポテイコ酸、細胞壁テイコ酸、リポポリサッカライド、DNA(非メチル化CpG DNA等)、一本鎖RNA(ポリウリジン等)、イミダゾキノリン化合物(ガルディモッド等)、リポタンパク質、リポペプチド(Pam3-Cys-Ser-Lys4、Pam2-Cys-Gly-Asp-Pro-Lys-His-Pro-Lys-Ser-Phe等)、リポマンナン、リポアラビノマンナン、ムラミルジペプチド、マイコバクテリウムボビス、OK−432、丸山ワクチン等が挙げられ、ペプチドグリカン、プロトプラスト、ザイモサン、リポテイコ酸、細胞壁テイコ酸、リポポリサッカライド、DNA(非メチル化CpG DNA等)、イミダゾキノリン化合物(ガルディモッド等)がさらに好ましく、(B)IL−12産生誘導能を有する細菌との併用により特に強くIL−10の産生を誘導する点及び取り扱いやすさ等から特にペプチドグリカン、プロトプラスト、リポテイコ酸、リポポリサッカライド、DNA、イミダゾキノリン化合物が好ましい。このイミダゾキノリン化合物としては、例えばガルディモッド、イミクイモッド、R848等が挙げられ、特にガルディモッドが好ましい。また、このDNAとしては特に限定されないが、非メチル化CpG DNAを好適に用いることができる。
【0017】
(B)IL−12産生誘導能を有する細菌としては、例えばラクトバチルス・カゼイ、ラクトバチルス・ラムノーサス、ラクトバチルス・ゼアエ等のラクトバチルス・カゼイグループに属する細菌が挙げられる。(A)IL−12産生誘導能を有さない細菌若しくは酵母又は微生物処理物との併用により特に強くIL−10の産生を誘導する点から、特にラクトバチルス・カゼイが好ましい。
【0018】
成分(A)や(B)に細菌又は酵母を使用する場合、細菌又は酵母の形態は特に制限されず、生菌又は加熱菌体(死菌体)のいずれでもよく、又凍結乾燥したものであってもよく、あるいはこれらを含む培養物として利用することもできる。ここで、本発明の成分(A)、(B)は各々1種でもよいし、2種以上用いてもよい。
【0019】
本発明の成分(A)と(B)を組み合わせると、全く意外にも強力なIL−10産生促進作用を奏する。従って、本発明のIL−10産生促進剤は、自己免疫疾患、炎症性腸疾患、アレルギー、乾癬、臓器移植時の拒絶反応、ウィルス感染、腫瘍等の様々な疾病の治療や改善、或いはその予防等の目的に利用できる。
ここで、IL−10産生促進作用を有するとは、次式により求められるIL−10産生増加能が130%以上のものを意味し、好ましくは150%以上のものを意味する。
【0020】
【数2】

【0021】
本発明において成分(A)と(B)との組み合わせによって、IL−10産生が促進されるメカニズムは明らかではないが、成分(A)及び(B)のマクロファージにおける消化性の差が影響していることが考えられる。すなわち、成分(A)はマクロファージ内で速やかに消化され、菌体等の消化産物がマクロファージ内に速やかに蓄積し、成分(B)は逆にゆっくりと消化され、マクロファージ内に長時間菌体のまま保持される。ここで本発明者らはマクロファージによる消化性とIL−12産生誘導能には負の相関があることを見出しており、易消化性である成分(A)はIL−12産生をほとんど誘導せず、難消化性である成分(B)は強くIL−12を誘導する。マクロファージからのIL−10産生は、複数のステップにより制御されているが、菌体等の消化産物と未消化の菌体は各々別のステップのトリガーになっており、両者、つまり成分(A)、(B)共に存在するとマクロファージからのIL−10産生が強く誘導されるものと考えられる。また、TLRリガンドも、上記の菌体等の消化産物と同様に、未消化の菌体とは別のステップのトリガーになっていると考えられる。
【0022】
特に、上記成分(A)及び(B)がヒトの腸内フローラを構成するものであったり、酪農乳製品に古くから利用されてきた乳酸菌やビフィズス菌からなるものである場合は、長期間経口摂取しても安全であるだけでなく、整腸作用、抗腫瘍作用、抗変異作用、血圧低下作用、抗潰瘍作用、コレステロール低下作用等、乳酸菌やビフィズス菌に期待される周知の有用作用を複合的に作用させることができ、好適に利用することができる。
【0023】
さらに、本発明のIL−10産生促進剤は炎症性サイトカインであるIL−12の産生を抑制する効果を奏することが明らかになっており、上記各種疾患の治療や改善、或いはその予防がさらに容易になることが期待される。
【0024】
本発明のIL−10産生促進剤は経口投与又は非経口投与のいずれも使用できるが、経口投与が望ましい。投与に関しては、有効成分である成分(A)及び(B)を投与方法に適した固体又は液体の医薬用無毒性担体と混合して、慣用の医薬品製剤の形態で投与することができる。
【0025】
本発明のIL−10産生促進剤の有効成分である成分(A)及び(B)を使用する際の投与量に厳格な制限はない。対象者や適用疾患等の様々な使用態様によって得られる効果が異なるため、適宜投与量を設定することが望ましいが、その好適な投与量は成分(A)、(B)(細菌又は酵母)については乾燥重量で1日当たり1μg〜10g(菌体数では106〜1013cfu)、より好ましくは1mg〜1g(菌体数では109〜1012cfu)である。また成分(A)(微生物処理物)については1日当たり1μg〜10g、より好ましくは1mg〜1gである。このとき、成分(A)と(B)との配合比率に厳格な制限はないが、成分(A):成分(B)は1:0.03〜30が好ましく、より好ましくは1:0.3〜10である。
【0026】
このような製剤としては、例えば、錠剤、顆粒剤、散剤、カプセル剤等の固体剤、溶液剤、懸濁剤、乳剤等の液剤、凍結乾燥剤等が挙げられる。これらの製剤は製剤上の常套手段により調製することができる。上記の医薬用無毒性担体としては、例えば、澱粉、デキストリン、脂肪酸グリセリド、ポリエチレングリコール、ヒドロキシエチルデンプン、エチレングリコール、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、アミノ酸、ゼラチン、アルブミン、水、生理食塩水等が挙げられる。また、必要に応じて、安定化剤、湿潤剤、乳化剤、結合剤、等張化剤、賦形剤等の慣用の添加剤を適宜添加することもできる。
【0027】
また、本発明のIL−10産生促進剤は、上記のような医薬品製剤として用いるだけでなく、飲食品等として用いることもできる。この場合には、本発明の成分(A)及び(B)をそのまま、または種々の栄養成分を加えて、飲食品中に含有せしめればよい。この飲食品は、自己免疫疾患、炎症性腸疾患、アレルギー、乾癬、臓器移植時の拒絶反応、ウィルス感染、腫瘍等の改善、予防等に有用な保健用食品又は食品素材として利用でき、これらの飲食品又はその容器には、前記の効果を有する旨の表示を付してもよい。具体的に本発明のIL−10産生促進剤を飲食品に配合する場合は、飲食品として使用可能な添加剤を適宜使用し、慣用の手段を用いて食用に適した形態、例えば、顆粒状、粒状、錠剤、カプセル、ペースト等に成形してもよく、また種々の食品、例えば、ハム、ソーセージ等の食肉加工品、かまぼこ、ちくわ等の水産加工品、パン、菓子、バター、粉乳、発酵飲食品に添加して使用したり、水、果汁、牛乳、清涼飲料、茶飲料等の飲料に添加して使用してもよい。なお、飲食品には動物の飼料も含まれる。
【0028】
さらに飲食品としては、有効成分である細菌又は酵母を含有する発酵乳、乳酸菌飲料、発酵豆乳、発酵果汁、発酵植物液等の発酵乳製品が好適に用いられる。これら発酵乳飲食品の製造は定法に従って製造することができる。例えば発酵乳は、殺菌した乳培地に成分(A)及び(B)を接種培養し、これを均質化処理して発酵乳ベースを得る。この時、他の微生物と同時に接種培養してもよい。次いで別途調製したシロップ溶液を添加混合し、ホモゲナイザー等で均質化し、更にフレーバーを添加して最終製品とすることができる。このようにして得られる発酵乳は、プレーンタイプ、ソフトタイプ、フルーツフレーバータイプ、固形状、液状等のいずれの形態の製品とすることもできる。
【0029】
また、本発明のIL−10産生促進剤においては、成分(A)、(B)は同時に投与してもよく、或いは、成分(A)又は(B)のどちらか一方を先に投与してもよい。特に同時に投与するのが好ましく、ヒトを含むあらゆる哺乳動物に適用できる。従って、成分(A)のみを含有する組成物と成分(B)のみを含有する組成物を別個にしてもよく、成分(A)及び(B)を含有する組成物としてもよい。
【実施例】
【0030】
以下、試験例及び実施例を挙げて本発明の内容をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらにより何ら制約されるものではない。
【0031】
試験例1
(1)細菌及び微生物処理物
ラクトバチルス・カゼイ(YIT 9029)、ビフィドバクテリウム・ブレーベ(YIT 4065)、ビフィドバクテリウム・ビフィダム(YIT 4007)、ラクトバチルス・ラムノーサス(ATCC 7469)、ラクトバチルス・プランタラム(ATCC 14917)、ラクトバチルス・アシドフィルス(ATCC 4356)について、ラクトバチルス属乳酸菌は200mlのDifcoTM Lactobacilli MRS培地(BD社)を用いて、また、ビフィズス菌は1%グルコースを含む200mlのGAM培地(ニッスイ)を用いて、それぞれ37℃で20時間培養した。菌体は遠心分離(8000回転、10分)により集菌し、滅菌ミリQ水を用いて遠心洗浄を3回繰り返した後、200mlの滅菌ミリQ水に懸濁して、100℃で30分間の加熱処理をした後、凍結乾燥した。ホルマリン固定化スタフィロコッカス・アウレウス(商品名:パンソルビン)はカルビオケミ社より、ホルマリン固定化大腸菌(ATCC 11303)及びスタフィロコッカス・アウレウス由来のペプチドグリカンはシグマ社より、酵母(サッカロマイセス・セルビシエ)由来のザイモサンはモレキュラープローブ社よりそれぞれ購入した。
細菌由来のプロトプラストの調製方法としては、特に限定されないが、具体的には以下に示す方法を好適に用いることができる。グラム陽性菌加熱死菌体を4mMの塩化マグネシウムを含む50mMトリス・マレイト緩衝液(pH7.0)に懸濁し、M−1酵素を添加して37℃で16時間反応させて、細胞壁を消化させた。遠心分離により不溶性成分を回収してプロトプラストとした。
細菌由来の細胞壁テイコ酸の調製方法としては、特に限定されないが、具体的には以下に示す方法を好適に用いることができる。ラクトバチルス・プランタラムやスタフィロコッカス・アウレウス等の細胞壁にテイコ酸を含有するグラム陽性菌加熱死菌体を4mMの塩化マグネシウムを含む50mMトリス・マレイト緩衝液(pH7.0)に懸濁し、M−1酵素を添加して37℃で16時間反応させて、細胞壁を消化させた。遠心分離により不溶性成分を除去した後、上清をミリQ水に対して透析した後、凍結乾燥して粗細胞壁テイコ酸画分とした。
スタフィロコッカス・アウレウス由来のリポテイコ酸、大腸菌由来のリポポリサッカライド、ウイルス由来一本鎖RNAと類似の構造を持つイミダゾキノリン誘導体であるガルディモッド、及び非メチル化CpG DNAはいずれもインビボジェン社より購入した。
【0032】
(2)マウス腹腔マクロファージの調製と培養
日本SLC社より購入した9週齢のメスのBALB/cマウスの腹腔内に4%チオグリコレート(ディフコ社)溶液2mlを投与した。4日後に腹腔内に誘導されてくる細胞をハンクス溶液(シグマ社)10mlを用いて回収し、腹腔マクロファージとした。腹腔マクロファージはハンクス溶液で3回洗浄後、10%牛胎児血清を含むRPMI 1640培地(シグマ社)に懸濁した。96ウエル培養プレート(ヌンク社)に腹腔マクロファージ(1×105個/ウエル/0.2ml)をまき、細菌(10μg/ml)または微生物処理物(1又は10μg/ml)を単独で、または、混合して添加して37℃で培養した。24時間後の培養上清を回収し、IL−12p70及びIL−10の濃度をELISAで定量した。ELISAでのIL−12p70及びIL−10の濃度の定量方法について以下に説明する。96ウエルELISAプレートに抗マウスIL−12抗体(クローン9A5、200倍希釈、ファーミンジェン社)または抗マウスIL−10抗体(クローンJES5−SXC1、500倍希釈、ファーミンジェン社)を4℃で一晩吸着させた。1%牛血清アルブミンでブロッキングした後、20倍または4倍に希釈した培養上清または標準IL−12p70(ファーミンジェン社)またはIL−10(ファーミンジェン社)を添加して室温で90分間反応させた。0.05%トライトンX100を含むリン酸緩衝化食塩水で洗浄後、ビオチン標識抗マウスIL−12抗体(クローンC17.8、1000倍希釈、ファーミンジェン社)またはビオチン標識抗マウスIL−10抗体(クローンJES5−2A5、2000倍希釈、ファーミンジェン社)を添加して室温で90分間反応させた。0.05%トライトンX100を含むリン酸緩衝化食塩水で洗浄後、ストレプトアビジン標識ペルオキシダーゼ(20000倍希釈、セロテック社)を添加して室温で30分間反応させた。0.05%トライトンX100を含むリン酸緩衝化食塩水で洗浄後、TMB試薬を添加して室温で10分間反応させ、1N硫酸を加えて反応を停止し、450nmの吸光値を測定した。標準IL−12p70またはIL−10から検量線を作成し、培養上清中の濃度を算出した。
【0033】
(3)試験結果
成分(A)及び(B)を単独で添加した場合のIL−10、12の産生量、成分(A)と成分(B)とを組み合わせて添加した場合のIL−10、12の産生量、成分(A)同士、成分(B)同士を組み合わせて添加した場合のIL−10、12の産生量を表1に示した。成分(A)とラクトバチルス・カゼイとを組み合わせて添加した場合、両成分単独でのIL−10誘導量を加算した値以上に相乗的にIL−10産生が強く誘導された。IL−10産生の相乗的な誘導は成分(A)がラクトバチルス・プランタラム、ペプチドグリカン、プロトプラスト、リポテイコ酸、細胞壁テイコ酸、DNA、イミダゾキノリン化合物である場合に特に顕著であった。また、ラクトバチルス・プランタラムとラクトバチルス・ラムノーサスとを組み合わせて添加した場合も同様に相乗的にIL−10産生が強く誘導された。IL−10産生の相乗的な誘導効果は成分(B)がラクトバチルス・カゼイである場合に特に顕著であった。一方、成分(A)同士、成分(B)同士を組み合わせて添加した場合はIL−10産生の相乗的な誘導効果は認められなかった。
【0034】
【表1】

【0035】
試験例2
(1)N−アセチルムラミダーゼ処理
ラクトバチルス・プランタラム(ATCC 14917)、ラクトバチルス・アシドフィルス(ATCC 4356)、ラクトバチルス・カゼイ(YIT 9029)、ラクトバチルス・ラムノーサス(ATCC 7469)を4mM塩化マグネシウムを含む50mMトリス・マレイト緩衝液(pH7.0)中に懸濁し(2mg/ml)、N−アセチルムラミダーゼ(M−1酵素、生化学工業)を添加(10μg/ml)して37℃で10分反応させた。100℃、5分の加熱処理により酵素活性を失活させた後、反応液に対して1/4容量の10%SDS溶液を添加し、ボルテックスにて十分攪拌してプロトプラスト状の被験物質を溶解させた。その後、600nmの吸光度を測定し、消化率を算出した。
さらに、菌株保存機関より入手したラクトバチルス・カゼイ4株、ラクトバチルス・ラムノーサス4株、ラクトバチルス・ゼアエ1株、ラクトバチルス・ファーメンタム3株、ラクトバチルス・ガッセリ4株、ラクトバチルス・ジョンソニー4株、ラクトバチルス・アシドフィルス4株、ラクトバチルス・デルブルッキー4株、ラクトバチルス・ヘルベティカス4株、ラクトバチルス・プランタラム4株の36株の乳酸桿菌について、同様にN−アセチルムラミダーゼ処理による消化率を調べた。また、マウス腹腔マクロファージ培養系にこれらの乳酸桿菌を添加(10μg/ml)して24時間培養し、上清中に誘導されるIL−12量をELISAで測定した。
【0036】
(2)試験結果
ラクトバチルス・プランタラム(ATCC 14917)、ラクトバチルス・アシドフィルス(ATCC 4356)、ラクトバチルス・カゼイ(YIT 9029)、ラクトバチルス・ラムノーサス(ATCC 7469)のN−アセチルムラミダーゼ処理による消化率を表2に示した。
N−アセチルムラミダーゼ処理による成分(A)の消化率は43.5%以上であり、成分(B)の消化率は5.7%以下であった。
【0037】
【表2】

【0038】
乳酸菌36株のN−アセチルムラミダーゼ処理による消化率を横軸に、マウス腹腔マクロファージ培養系におけるIL−12誘導量を縦軸にプロットし、図1に示した。
36株の乳酸菌について、N−アセチルムラミダーゼ処理による消化率とIL−12誘導活性を調べ、両者の関係を解析したところ、消化率とIL−12誘導量との間に負の相関(r=0.747)が認められた。すなわち、菌体消化酵素による消化率が高いものはIL−12誘導活性が弱く、逆に、菌体消化酵素による消化率が低いものはIL−12誘導活性が強いことがわかった。
【0039】
実施例1 錠剤の製造(1)
下記の処方で各種成分を混合して造粒、乾燥、整粒した後に、打錠して錠剤を製造した。
(処方) (mg)
ラクトバチルス・プランタラム 10
ラクトバチルス・カゼイ 10
微結晶セルロース 100
乳糖 80
ステアリン酸マグネシウム 0.5
メチルセルロース 12
【0040】
実施例2 錠剤の製造(2)
下記の処方で各種成分を混合して造粒、乾燥、整粒した後に、打錠して錠剤を製造した。
(処方) (mg)
リポテイコ酸 10
ラクトバチルス・カゼイ 10
微結晶セルロース 100
乳糖 80
ステアリン酸マグネシウム 0.5
メチルセルロース 12
【0041】
実施例3 錠剤の製造(3)
下記の処方で各種成分を混合して造粒、乾燥、整粒した後に、打錠して錠剤を製造した。
(処方) (mg)
非メチル化CpG DNA 10
ラクトバチルス・カゼイ 10
微結晶セルロース 100
乳糖 80
ステアリン酸マグネシウム 0.5
メチルセルロース 12
【0042】
実施例4 清涼飲料の製造
下記の処方で処方したものを加熱殺菌後、褐色瓶にホットパック充填を行い、清涼飲料水を得た。
(処方) (g)
ビフィドバクテリウム・ブレーベ 0.4
ラクトバチルス・カゼイ 0.4
香料 0.8
クエン酸 0.2
果糖 4
スクラロース 0.001
水 94.199
【0043】
実施例5 発酵乳製品の製造(1)
15%脱脂乳に3%グルコースを添加し、120℃で3秒間殺菌した後、ラクトバチルス・カゼイ(Lactobacillus casei)YIT 9029株を1%接種し、37℃でpH3.6まで培養してヨーグルトベース210gを得た。一方、砂糖97g、クエン酸鉄0.2g、ラクトバチルス・アシドフィルス1gを水に溶解し、水を加え全量を790gとし、この溶液を110℃で3秒間殺菌し、シロップを得た。上記のようにして得られたヨーグルトベースとシロップを混合し、香料を1g添加した後、15Mpaで均質化して容器に充填して発酵乳製品を得た。この発酵乳製品中のラクトバチルス・カゼイの初発菌数は108cfu/mlであった。
【0044】
実施例6 発酵乳製品の製造(2)
15%脱脂乳に3%グルコースを添加し、120℃で3秒間殺菌した後、ラクトバチルス・カゼイ(Lactobacillus casei)YIT 9029株を1%接種し、37℃でpH3.6まで培養してヨーグルトベース210gを得た。一方、砂糖97g、クエン酸鉄0.2g、ペプチドグリカン1gを水に溶解し、水を加え全量を790gとし、この溶液を110℃で3秒間殺菌し、シロップを得た。上記のようにして得られたヨーグルトベースとシロップを混合し、香料を1g添加した後、15Mpaで均質化して容器に充填して発酵乳製品を得た。この発酵乳製品中のラクトバチルス・カゼイの初発菌数は108cfu/mlであった。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】乳酸菌36株のN−アセチルムラミダーゼ処理による消化率と、マウス腹腔マクロファージ培養系におけるIL−12誘導量との関係を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)インターロイキン12産生誘導能を有さない細菌若しくは酵母又は微生物処理物と、(B)インターロイキン12産生誘導能を有する細菌を組み合わせてなるインターロイキン10産生促進剤。
【請求項2】
(A)インターロイキン12産生誘導能を有さない細菌若しくは酵母又は微生物処理物が、菌体消化酵素による消化率が30%以上のものである請求項1記載のインターロイキン10産生促進剤。
【請求項3】
(B)インターロイキン12産生誘導能を有する細菌が、菌体消化酵素による消化率が10%以下のものである請求項1又は2記載のインターロイキン10産生促進剤。
【請求項4】
(A)インターロイキン12産生誘導能を有さない細菌又は酵母が、ラクトバチルス・プランタラム、ラクトバチルス・アシドフィルス、ビフィドバクテリウム・ブレーベ、ビフィドバクテリウム・ビフィダム、スタフィロコッカス・アウレウス、大腸菌及びサッカロマイセス・セルビシエから選ばれる1種以上のものである請求項1〜3の何れか1項記載のインターロイキン10産生促進剤。
【請求項5】
(A)インターロイキン12産生誘導能を有さない微生物処理物が、TLR2、TLR4、TLR7、TLR8又はTLR9のリガンドである請求項1〜3の何れか1項記載のインターロイキン10産生促進剤。
【請求項6】
(A)インターロイキン12産生誘導能を有さない微生物処理物が、ペプチドグリカン、プロトプラスト、ザイモサン、リポテイコ酸、細胞壁テイコ酸、リポポリサッカライド、DNA及びイミダゾキノリン化合物から選ばれる1種以上のものである請求項1〜3、及び5の何れか1項記載のインターロイキン10産生促進剤。
【請求項7】
(B)インターロイキン12産生誘導能を有する細菌が、ラクトバチルス・カゼイグループに属する細菌である請求項1〜6の何れか1項記載のインターロイキン10産生促進剤。
【請求項8】
(B)インターロイキン12産生誘導能を有する細菌が、ラクトバチルス・カゼイである請求項1〜7の何れか1項記載のインターロイキン10産生促進剤。

【図1】
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【公開番号】特開2008−31153(P2008−31153A)
【公開日】平成20年2月14日(2008.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−155229(P2007−155229)
【出願日】平成19年6月12日(2007.6.12)
【出願人】(000006884)株式会社ヤクルト本社 (132)
【Fターム(参考)】