説明

インダクタ部品の製造方法およびインダクタ部品

【課題】スクリーン印刷によってスパイラル導体の導体パターンを印刷する場合であっても、スパイラル形状の導体が適切に形成されたインダクタ部品を安定的に供給することが可能なインダクタ部品の製造方法およびインダクタ部品を提供する。
【解決手段】インダクタ部品の製造方法は、互いに交差する方向に延びる第1及び第2のパターン部分を有するスパイラル形状の導体パターンの形状に対応する開口52aが形成されたマスク52を有するスクリーン版を用いる。そして、グリーンシート上に配置したスクリーン版にスキージを押圧すると共に、第1のパターン部分が延びる方向にスキージを移動させることにより、開口52aを通して導電ペーストをグリーンシートに印刷し、第1のパターン部分に対応する開口52aaの幅W31〜38を、第2のパターン部分に対応する開口52abの幅W41〜49よりも広く設定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スパイラル形状の導体を有するインダクタ部品の製造方法およびインダクタ部品に関する。
【背景技術】
【0002】
インダクタ部品は、例えば、特許文献1に記載されているように、スクリーン印刷によって複数の導体パターンが形成されたグリーンシートを1つの導体パターンが含まれるチップ状に切断し、焼成することによって製造される。スクリーン印刷は、メッシュに導体パターンの形状に対応する開口を有するマスクを形成したスクリーン版を通してその開口に導電ペーストを押し込むことによって行われる。そして、この開口への導電ペーストの押し込みは、スキージをスクリーン版に押圧させた状態で移動させることによって行われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−108966号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、上記スクリーン印刷によってスパイラル形状の導体パターンを形成すると、スキージが移動する方向と交差する方向に形成されるパターン部分に比べて、スキージが移動する方向に沿って形成されるパターン部分が適切に形成されない場合が多い。このため、パターン部分が途中で断線する等、導体が適切に形成されたインダクタ部品を安定的に供給することが困難であるという問題があった。
【0005】
スクリーン印刷において上記のように導体パターンが適切に形成されない原因として以下のようなことが考えられる。すなわち、スクリーン印刷において、スキージ91が移動する方向に対して交差する方向のパターン部分に対応する開口93aには、スキージ91が移動する方向(図7に示す白抜矢印方向)に交差する壁93bがあるので、スキージ91によって開口93aに押し込まれた導電ペースト(図示せず)は、この壁93bに衝突することによって下向きの力を受け、開口93aの深部にまで到達する。このため、導電ペーストは、グリーンシート95上に適切に塗着される。一方、スキージ91の移動方向に沿った(図7の奥行き方向)パターン部分に対応する開口93aには、上述したような壁が存在しないので下向きの力を受けることができず、導電ペーストは、開口93aの深部にまで到達することができない。このため、導電ペーストは、グリーンシート95上に適切に塗着されないことが多くなる。
【0006】
本発明は、スクリーン印刷によってスパイラル形状の導体パターンを形成する場合であっても、スパイラル形状の導体が適切に形成されたインダクタ部品を安定的に供給することが可能なインダクタ部品の製造方法およびインダクタ部品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のインダクタ部品の製造方法は、スクリーン版及びスキージを用いたスクリーン印刷によりグリーンシートに導電ペーストを印刷して、互いに交差する方向に延びる第1及び第2のパターン部分を有するスパイラル形状の導体パターンを形成する工程を備えるインダクタ部品の製造方法であって、スクリーン版として、導体パターンの形状に対応する開口が形成されたマスクを有するスクリーン版を用い、導体パターンを形成する工程では、グリーンシート上に配置したスクリーン版にスキージを押圧すると共に、第1のパターン部分が延びる方向にスキージを移動させることにより、開口を通して導電ペーストをグリーンシートに印刷しており、第1のパターン部分に対応する開口の幅を、第2のパターン部分に対応する開口の幅よりも広く設定したことを特徴とする。
【0008】
このインダクタ部品の製造方法では、導体パターンが適切に印刷されない場合が多いスキージが移動する方向に延びる第1のパターン部分の幅を、スキージが移動する方向と交差する方向に延びる第2のパターン部分の幅よりも広く形成することにより、第1のパターン部分を形成するための導電ペーストの量を増やしている。これにより、第1のパターン部分が断線した状態に印刷されることを回避して、適切な導体が形成されたインダクタ部品を安定的に供給することができる。
【0009】
また、本発明のインダクタ部品の製造方法では、第1のパターン部分に対応する開口の幅を、スパイラル形状の導体パターンにおいて外側部分に形成される第1のパターン部分に対応する開口の幅ほど広く設定することが好ましい。
【0010】
ここで、スクリーン印刷によってスパイラル状の導体パターンを印刷する際には、導体パターンの外側部分ほど適切に印刷されないという問題がある。これは、スクリーン版とグリーンシートとの間の付着力の差によるものと考えられる。ここで、図8を用いて、この付着力の差が発生するメカニズムを説明する。図8は、形成される導体パターン96に対応するスクリーン版94及びグリーンシート95の断面図である。すなわち、スクリーン印刷をした際、複数の導体パターン96が形成されるグリーンシート95において導体パターン96が形成される部分(図8に示すX部)は、十分な量の導電ペーストがあるのでスクリーン版94とグリーンシート95とが付着しやすい状態となる。一方、導体パターン96と導体パターン96との間の部分(図8に示すY部)は、導体パターン96が形成される部分(X部)に比べると導電ペーストの量が少なく、スクリーン版94とグリーンシート95とが付着しにくい状態となる。
【0011】
このような付着力の差が発生することによって、グリーンシート95上のスクリーン版94は、図8に示すように、導体パターン96が形成される部分では、グリーンシート95と接近し、導体パターン96と導体パターン96との間では、グリーンシート95と離反しやすい状態となる。このため、スクリーン版94にスキージ91を押圧しながら移動させた際、導体パターン96と導体パターン96との間(Y部)では、グリーンシート95に導電ペーストが十分に塗着されるよりも前にスクリーン版94がグリーンシート95から離れるようになり、この部分に対応する導体パターン96が適切に形成されないと考えられる。
【0012】
なお、この問題を解決するための方法として、スキージの移動速度を遅くして、時間をかけて導体パターンを印刷するという方法も考えられるが、導電ペーストの量が十分にある内側部分の導体パターンが滲んでしまうという新たな問題が発生する。
【0013】
さらに、導体パターンが形成されたグリーンシートを焼成することも、適切な導体が形成されないことの一因であると考えられる。すなわち、スパイラル形状の導体パターンにおける内側部分に形成される第1のパターン部分よりも外側部分に形成される第1のパターン部分の方が長いので、焼成の際の収縮量もその分大きくなる。そして、この導体パターンの収縮とグリーンシートの収縮の時間差により発生する応力が、第1のパターン部分における1箇所に集中して起こった場合には、収縮量が大きいほど大きな応力が第1のパターン部分に作用する。このため、収縮量の絶対値が大きい外側部分に形成される第1のパターン部分ほど大きな応力が作用することとなり、焼成により断線する可能性も高くなる。
【0014】
そこで、本発明のインダクタ部品の製造方法では、第1のパターン部分に対応する開口の幅を、スパイラル形状の導体パターンにおいて外側部分に形成される第1のパターン部分に対応する開口の幅ほど広く設定することが好ましい。これにより、外側部分に形成される第1のパターン部分を形成する導電ペースト量が増えるので、この部分のスクリーン版とグリーンシートとの付着力が高まる。この結果、導体パターンの外側部分においてスクリーン版とグリーンシートとが離れやすくなる状態を回避して、適切な導体パターンを形成することができる。また、第1のパターン部分を形成する導電ペーストの量が増えることにより、適切に第1のパターン部分が形成されるようになり、焼成後においても、断線等のない適切な導体を形成することができる。
【0015】
また、本発明のインダクタ部品の製造方法では、第1のパターン部分に対応する隣り合う開口同士の間隔を、スパイラル形状の導体パターンにおいて外側部分に形成される第1のパターン部分に対応する隣り合う開口同士の間隔ほど広く設定することが好ましい。これにより、隣り合う第1のパターン部分同士の距離が十分に確保されるので、導体パターンを形成する際に導電ペーストの滲みが発生した場合であっても、隣り合う第1のパターン部分同士を短絡するといった不具合を回避することができる。
【0016】
また、本発明のインダクタ部品の製造方法では、マスクは、スキージが移動する方向に延びる開口及び非開口の平面視における面積が、スキージが移動する方向と交差する方向に延びる開口及び非開口の平面視における面積よりも広く形成されていることが好ましい。このような形状のマスクを有するスクリーン版を用いることにより、印刷時におけるスキージの移動に対する抵抗が緩和されると共に、スキージが移動方向に対して円滑にガイドされる。
【0017】
また、本発明のインダクタ部品は、上述のインダクタ部品の製造方法によって製造される。これにより、導体パターンに断線が生じ難いインダクタ部品が得られることとなり、インダクタ部品の特性を確保することができる。
【0018】
また、本発明のインダクタ部品は、スクリーン版とスキージとを用いたスクリーン印刷により形成された、スキージの移動方向に延びる第1のパターン部分と該第1のパターン部分に交差する方向に延びる第2のパターン部分とを有するスパイラル形状の導体パターンを焼成して得られた導体を備えるインダクタ部品であって、導体は、第1のパターン部分に対応する第1の導体部分と、第2のパターン部分に対応する第2の導体部分と、を有しており、第1の導体部分の幅は、第2の導体部分の幅よりも広く設定されていることを特徴とする。
【0019】
また、本発明のインダクタ部品では、第1の導体部分の幅は、スパイラル形状の導体における外側部分に形成される第1の導体部分ほど広く設定されていることが好ましい。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、スクリーン印刷によってスパイラル形状の導体パターンを印刷する場合であっても、スパイラル形状の導体が適切に形成されたインダクタ部品を安定的に供給することが可能とする。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本実施形態に係るインダクタ部品の製造方法によって製造されるインダクタ部品を含む積層型コモンモードフィルタを示す斜視図である。
【図2】図1に示す素体の構成を示す分解斜視図である。
【図3】図1に示す積層型コモンモードフィルタに含まれるコイル導体を積層方向から見た図である。
【図4】本実施形態に係るインダクタ部品の製造方法の工程に含まれる印刷工程を説明する図である。
【図5】本実施形態に係るインダクタ部品の製造方法で用いられるスクリーン版が有するマスクに設定された開口の状態を示した図である。
【図6】本実施形態に係るインダクタ部品の製造方法において印刷される導体パターン示す平面図である。
【図7】スクリーン版及スキージを用いたスクリーン印刷を説明する図である。
【図8】印刷後の導体パターンに対するスクリーン版の状態を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面を参照しながら、本発明に係るインダクタ部品の製造方法の好適な実施形態について詳細に説明する。
【0023】
図1は、本実施形態に係るインダクタ部品の製造方法によって製造されるインダクタ部品を含む積層型コモンモードフィルタを示す斜視図である。また、図2は、素体の構成を示す分解斜視図である。図1に示すように、積層型コモンモードフィルタ1は、略直方体形状の素体2と、素体2の長手方向の両端部に形成された外部電極3〜6とを備えている。
【0024】
外部電極3,5は、素体2の長手方向の一方の端面2aにおいて、所定の間隔をもって素体2の積層方向に延在しており、外部電極3,5の両端部は、素体2の上面2cおよび底面2dに張り出した状態となっている。外部電極4,6は、素体2の長手方向の他方の端面2bにおいて、所定の間隔をもって素体2の積層方向に延在しており、外部電極4,6の両端部は、素体2の上面2cおよび底面2dに張り出した状態となっている。
【0025】
素体2は、図2に示すように、矩形状のスパイラルパターンを構成する第1コイル導体31および第2コイル導体34が表面に形成された一対の非磁性シート(インダクタ部品)22,26を含む複数の非磁性体層11と、非磁性体層11を挟む一対の磁性体層12,12とが積層された積層体である。素体2は、導電ペーストにより導体パターンを形成したグリーンシートの焼成によって形成されており、実際の積層型コモンモードフィルタ1では、非磁性体層11および磁性体層12を構成する各層同士は、視認できない程度に一体化されている。
【0026】
磁性体層12,12は、それぞれ複数(本実施形態では4枚)の磁性シート21の積層体である。焼成後の各磁性シート21の厚さは、例えば20μm〜40μm程度となっている。磁性体層12,12は、非磁性体層11を積層方向の上下から挟むように配置されており、上述した素体2の上面2cおよび底面2dを構成している。
【0027】
非磁性体層11は、複数層(本実施形態では6層)の非磁性シートの積層体である。より具体的には、非磁性体層11は、コイル導体(導体)31が形成された非磁性シート22、引出導体32が形成された非磁性シート23、第1余白非磁性シート24、引出導体33が形成された非磁性シート25、コイル導体(導体)34が形成された非磁性シート26および第2余白非磁性シート27がこの順に積層されて構成されている。
【0028】
焼成後のスパイラル形状のコイル導体31は、非磁性シート22の表面に形成されている。コイル導体31の引出部31aは、素体2の端面2bまで引き出され、外部電極4に接続されている。また、コイル導体31の引出部31bは、非磁性シート22の中央側に延びている。非磁性シート23において、コイル導体31の引出部31bに対応する位置には、非磁性シート23を厚み方向に貫通するスルーホール導体(不図示)が形成されている。
【0029】
焼成後の引出導体32は、非磁性シート23の表面において、コイル導体31と同様に、例えば5μm〜20μm程度の厚さで形成されている。引出導体32の外側端部32aは、素体2の端面2aまで引き出され、外部電極3に接続されている。また、引出導体32の内側端部32bは、非磁性シート23のスルーホール導体に対応する位置に延びている。これにより、コイル導体31は、引出導体32を介して外部電極3に接続されている。
【0030】
焼成後のスパイラル形状のコイル導体34は、非磁性シート26の表面に形成されており、積層方向から見てコイル導体31と磁気結合することができる。コイル導体34の外側端部34aは、素体2の端面2bまで引き出され、外部電極6に接続されている。また、コイル導体34の内側端部34bは、非磁性シート26の中央側に伸びている。非磁性シート26において、コイル導体34の内側端部34bに対応する位置には、非磁性シート26を厚み方向に貫通するスルーホール導体(不図示)が形成されている。
【0031】
焼成後の引出導体33は、非磁性シート25の表面において、コイル導体34と同様に、例えば5μm〜20μm程度の厚さで形成されている。引出導体33の外側端部33aは、素体2の端面2aまで引き出され、外部電極5に接続されている。また、引出導体33の内側端部33bは、非磁性シート26のスルーホール導体に対応する位置まで伸びている。これにより、コイル導体34は、引出導体33を介して外部電極5に接続されている。
【0032】
次に、図3を用いて、コイル導体31およびコイル導体34の構成について詳細に説明する。図3は、本実施形態に係る積層型コモンモードフィルタ1のコイル導体31およびコイル導体34を積層方向から見た図である。
【0033】
図3に示すように、コイル導体31は、矩形状のスパイラル形状の一辺を構成する所定の方向に直線状に延びる第1の導体41及び第1の導体41と直交する方向に直線状に延びる第2の導体43により形成されている。第1の導体41は、複数の第1の導体部分41A,41B,41C,41D,41E,41F,41G,41H(以後、第1の導体部分41A〜41Hと示す)を有している。第2の導体43は、複数の第2の導体部分43A,43B,43C,43D,43E,43F,43G,43H,43I(以後、第2の導体部分43A〜43Iと示す)を有している。
【0034】
第1の導体部分41A〜41Hは、後段にて詳述するスクリーン印刷においてスキージ56の移動方向に延びる第1のパターン部分61A〜61H(図6参照)に対応する導体部分である。第2の導体部分43A〜43Iは、スキージ56の移動方向と直交する方向に延びる第2のパターン部分63A〜63I(図6参照)に対応する導体部分である。なお、第1の導体部分41A〜41Hおよび第2の導体部分43A〜43Iにおける滲みの状態等から、スクリーン印刷時におけるスキージ56の移動方向を特定することが可能である。
【0035】
第1の導体部分41A〜41Dは、その幅W1〜W8が第2の導体部分43A〜43Iにおける幅W11〜W19よりも広く設定されている。さらに、第1の導体部分41A〜41Hは、スパイラル形状のコイル導体31において外側部分に形成される第1の導体部分41A〜41Hほど、その幅W1〜W8が広く設定されている。例えば、図3に示すように、スパイラル形状のコイル導体31における内側部分から外側部分に向かって並んで形成された第1の導体部分41A〜41Dにおいては、その幅W1〜W4の比が1:2:3:4となっており、外側部分に形成されている第1の導体部分ほどその幅が広く設定されている。
【0036】
同様に、スパイラル形状のコイル導体31における内側部分から外側部分に向かって並んで形成された第1の導体部分41E〜41Hにおいても、その幅W5〜W8の比が1:2:3:4となっており、外側部分に形成されている第1の導体部分ほどその幅が広く形成されている。
【0037】
さらに、第1の導体部分41A〜41Hは、スパイラル形状のコイル導体31において外側部分に形成されている第1の導体部分41A〜41Hほど、隣り合う第1の導体部分同士の間隔W21〜W23が広く設定されている。例えば、図3に示すように、スパイラル形状のコイル導体31における内側部分から外側部分に向かって並んで形成された第1の導体部分41A〜41Dにおいては、隣り合う第1の導体部分同士の間隔W21〜W23の比が2:3:4となっており、外側部分に形成されている隣り合う第1の導体部分同士の間隔ほど広く設定されている。
【0038】
同様に、スパイラル形状のコイル導体31における内側部分から外側部分に向かって並んで形成された第1の導体部分41E〜41Hにおいても、隣り合う第1の導体部分同士の間隔W24〜W26の比が2:3:4となっており、外側部分に形成されている隣り合う第1の導体部分同士の間隔ほど広く設定されている。
【0039】
一方、第2の導体部分43A〜43Iは、どの位置に形成されていてもその幅W11〜W19は全て等しく形成されている。また、第2の導体部分43A〜41Iは、隣り合う第2の導体部分同士の間隔が全て等しくなるように形成されている。
【0040】
なお、コイル導体34については、上述したコイル導体31の構成と同じであるのでここではその詳細な説明を省略する。
【0041】
続いて、本実施形態に係るインダクタ部品の製造工程を含む、積層型コモンモードフィルタ1の製造方法について詳細に説明する。
【0042】
まず、非磁性シート22,26を構成する非磁性グリーンシートおよび磁性シート21を構成する磁性グリーンシートをそれぞれ用意する。非磁性グリーンシートは、例えばFeとZnOとCuOとの混合粉を原料としたスラリーを、ドクターブレード法によってフィルム上に塗布して形成する。FeとZnOとCuOとの混合粉の代わりに、誘電体材料(TiOとCuOとNiOとMnCOとの混合粉等)や、酸化物セラミック材料(Al、SiO、ZrO、フォルステライト、ステアタイト、コージライト等、またはこれらの混合粉)を用いてもよい。
【0043】
また、磁性グリーンシートは、例えば、フェライト(例えば、Ni−Cu−Zn系フェライト、Ni−Cu−Zn−Mg系フェライト、Cu−Zn系フェライト、又は、Ni−Cu系フェライト等)粉末を原料としたスラリーを、ドクターブレード法によってフィルム上に塗布して形成する。
【0044】
次に、所定の非磁性グリーンシートにおけるスルーホール導体の形成予定位置に、レーザ加工等によってスルーホールを形成する。スルーホールの形成後、非磁性グリーンシートに、コイル導体31、引出導体32、コイル導体34および引出導体33に対応する導体パターンを形成する。各導体パターンは、例えば、銀もしくはニッケルを主成分とする導電ペーストをスクリーン印刷した後、乾燥することによって形成される。各スルーホールには、各導体パターンの形成の際に導電ペーストが充填される。
【0045】
以下、本実施形態に係るインダクタ部品を製造する製造方法に含まれる印刷工程について、図4(a)、図4(b)、図5、図6を用いて詳述する。図4は、本実施形態に係るインダクタ部品の製造方法の工程に含まれる印刷工程を説明する図である。図5は、本実施形態に係るインダクタ部品の製造方法で用いられるスクリーン版が有するマスクの平面図である。また、図6は、本実施形態のインダクタ部品に係る製造方法において印刷される導体パターン示す平面図である。
【0046】
印刷工程は、図4(a)、図4(b)に示すように、スクリーン版53及びスキージ56を用いたスクリーン印刷によりグリーンシート54に導電ペースト55を印刷して、図5に示すような、互いに交差する方向に延びる第1のパターン61と第2のパターン63とを有するスパイラル形状の導体パターン66を形成する。第1のパターン61は、複数の第1のパターン部分61A,61B,61C,61D,61E,61F,61G,61H(以後、第1のパターン部分61A〜61Hと示す)を有している。第2のパターン63は、第2のパターン部分63A,63B,63C,63D,63E,63F,63G,63H,63I(以後、第2のパターン部分63A〜63Iと示す)を有している。
【0047】
具体的には、まず、グリーンシート54及びスクリーン版53の準備をし、図4(a)、図5に示すように、グリーンシート54上に導体パターン66の形状に対応する開口52aが形成されたマスク52とメッシュ51とを有するスクリーン版53を配置する。マスク52は、第1のパターン部分61A〜61Hに対応する第1開口52aaと第2のパターン部分63A〜63Iに対応する第2開口52abとを有している。
【0048】
スクリーン版53は、第1のパターン部分61A〜61Hに対応する第1開口52aaが延びる方向とスキージ56の移動方向とが一致するように配置される。そして、第1のパターン部分61A〜61Hに対応する第1開口52aaの幅を、第2のパターン部分63A〜63Iに対応する第2開口52abの幅よりも広く設定する。
【0049】
次に、図4(a)、図4(b)に示すように、スクリーン版53の表面に導電ペースト55を載置する。次に、グリーンシート上54に配置したスクリーン版53にスキージ56を押圧すると共に、第1開口52aaが延びる方向にスキージ56を移動させることにより、開口52aを通して導電ペースト55をグリーンシート54に印刷する。
【0050】
これにより、グリーンシート54上には、図6に示すような、スキージ56が移動する方向に延びる第1のパターン部分61A〜61Hが形成され、スキージ56が移動する方向と直交する方向に延びる第2のパターン部分63A〜63Iが形成される。また、第1のパターン部分61A〜61Hは、その幅W31〜W38が第2のパターン部分63A〜63Iにおける幅W41〜W49よりも広く形成される。
【0051】
さらに、本実施形態では、図5に示すように、第1のパターン部分61A〜61Hに対応する第1開口52aの幅を、スパイラル形状の導体パターン66において外側部分に形成される第1のパターン部分61A〜61Hに対応する第1開口52aaほど、その幅W31〜W38が広くなるように設定する。例えば、図5に示すように、第1のパターン部分61A〜61Hに対応する開口52aaにおいては、その幅W31〜W34の比を1:2:3:4に設定する。
【0052】
さらに、本実施形態では、図5に示すように、スパイラル形状の導体パターン66において外側部分に形成される隣り合う第1のパターン部分61A〜61H同士の間隔に対応する隣り合う第1開口52aa同士の間隔W51〜W58ほど広くなるようにその間隔を設定する。例えば、図5に示すように、隣り合う第1のパターン部分61A〜61H同士の間隔に対応する隣り合う第1開口52aa同士の間隔W51〜W53においては、その間隔の比を2:3:4に設定する。
【0053】
一方、第2のパターン部分63A〜63Iに対応する第2開口52abの幅は全て等しく設定されている。また、隣り合う第2のパターン部分63A〜63I同士の間隔に対応する隣り合う第2開口52ab同士の間隔も全て等しく設定されている。
【0054】
これにより、グリーンシート54上には、図6に示すような、第1のパターン部分61A〜61Hは、スパイラル形状の導体パターン66において外側部分に形成される第1のパターン部分61A〜61Hほど、その幅W31〜W38が広く形成される。例えば、図5に示すように、スパイラル形状の導体パターン66における内側部分から外側部分に向かって並んで形成された第1のパターン部分61A〜61Dにおいては、その幅W31〜W34の比が1:2:3:4となっており、外側部分に形成される第1のパターン部分ほどその幅が広く形成される。
【0055】
また、隣り合う第1のパターン部分61A〜61H同士の間隔W51〜W56は、スパイラル形状の導体パターン66において外側部分に形成されている隣り合う第1のパターン部分61A〜61H同士の間隔W51〜W56ほど広く形成される。例えば、図5に示すように、スパイラル形状の導体パターン66における内側部分から外側部分に向かって並んで形成された隣り合う第1のパターン部分61A〜61Dの間隔W51〜W53においては、その間隔の比が2:3:4となっており、外側部分に形成される隣り合う第1のパターン部分の間隔ほど広く形成される。
【0056】
さらに、マスク52は、図5に示すように、印刷方向に一致するように配置された開口52a及び非開口部52bの平面視における面積(例えば、図5に示すA1、A2、A3の領域)が、印刷方向に直交する方向に一致するように配置された開口52a及び非開口部52bの平面視における面積(例えば、図5に示すB1、B2の領域)よりも広くなるように形成されている。
【0057】
以上に示した印刷工程によって導体パターンが形成された後、乾燥工程を経て各グリーンシートを順次積層して圧着し、チップ単位に切断する。その後、例えば800℃〜900℃の温度で所定時間の焼成を行い、素体2を得る。その後、素体2の端面2a,2bに外部電極3〜6を形成する。これにより、図1、図2に示した積層型コモンモードフィルタ1が完成する。
【0058】
外部電極3〜6は、素体2の端面2a,2bに銀、ニッケルもしくは銅を主成分とする電極ペーストを転写した後、例えば700℃程度にて焼き付けを行い、更に電気めっきを施すことによって形成される。電気めっきには、Cu/Ni/Sn、Ni/Sn、Ni/Au、Ni/Pd/Au、Ni/Pd/Ag、又は、Ni/Ag等を用いることができる。
【0059】
以上に示したように、本実施形態に係るインダクタ部品の製造方法では、導体パターン66の形状に対応する開口52aが形成されたマスク52を有するスクリーン版53を用いてスクリーン印刷を行い、第1のパターン部分61A〜61Hに対応する第1開口52aaの幅を、第2のパターン部分63A〜63Iに対応する第2開口52abの幅よりも広く設定している。これにより、導体パターン66が適切に印刷されない場合が多いスキージ56が移動する方向に延びる第1のパターン部分61A〜61Hの幅W31〜W38が、スキージ56が移動する方向と交差する方向に延びる第2のパターン部分63A〜63Iの幅W41〜W49よりも広く形成されるので、第1のパターン部分61A〜61Hを形成する導電ペースト55の量が増える。この結果、第1のパターン部分61A〜61Hが断線した状態に印刷されることを回避して、適切な導体31が形成された非磁性シート22を安定的に供給することができる。
【0060】
また、本実施形態に係るインダクタ部品の製造方法では、第1のパターン部分61A〜61Hに対応する第2開口52aaの幅を、スパイラル形状の導体パターン66において外側部分に形成される第1のパターン部分61A〜61Hに対応する第2開口52aaほど広く設定している。これにより、導体パターン66の外側部分に形成される第1のパターン部分を形成する導電ペースト55の量が増えるので、導体パターン66の外側部分におけるスクリーン版53とグリーンシート54との付着力が高まる。この結果、導体パターン66の外側部分においてスクリーン版53とグリーンシート54とが離れやすくなる状態を回避でき、導体パターン66の外側部分においても適切な第1のパターン部分を形成することができる。また、導体パターン66の外側部分における第1のパターン部分を形成する導電ペースト55の量が増えることにより、導体パターン66の外側部分であってもグリーンシート54上に適切な第1のパターン部分が形成されるようになり、焼成後においても、断線等のない適切な導体を形成することができる。
【0061】
また、本実施形態に係るインダクタ部品の製造方法では、第1のパターン部分61A〜61Hに対応する開口52aa同士の隣り合う間隔を、スパイラル形状の導体パターン66において外側部分に形成される第1のパターン部分61A〜61Hに対応する開口52aa同士の隣り合う間隔ほど広く設定している。これにより、隣り合う第1のパターン61部分同士の距離が十分に確保されるため、導体パターン66を形成した際に導電ペースト55の滲みが発生した場合であっても、隣り合う第1のパターン部分61A〜61H同士を短絡するといった不具合を回避することができる。なお、隣り合う第1のパターン部分61A〜61Hのうち外側部分の第1のパターン部分に対応する開口52aaの幅に合わせてその間隔を設定してもよい。これにより、導体ペーストの滲み量を考慮した間隔とすることができるので上述した効果がより大きくなる。
【0062】
また、本実施形態に係るインダクタ部品の製造方法では、マスク52は、スキージ56が移動する方向に合わせて配置された開口52aa及び非開口52baの平面視における面積が、スキージ56が移動する方向と直交する方向に合わせて配置された開口52ab及び非開口52bbの平面視における面積よりも広く形成されている。このような形状のマスク52を有するスクリーン版53を用いることにより、スクリーン印刷をする際のスキージ56の移動に対する抵抗が緩和されると共に、スキージ56が移動方向に対して円滑にガイドされる。
【0063】
以上、本発明を上記実施形態に基づいて詳細に説明した。しかし、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で以下のような様々な変形が可能である。
【0064】
上記実施形態では、スパイラル形状の導体パターン66において外側部分に形成される第1のパターン部分61A〜61Hに対応する第1開口52aaほど、その幅W31〜W38が広くなるように設定したが、これに限定されるものではない。第1のパターン部分61A〜61Hに対応する第1開口52aaの幅を、第2のパターン部分63A〜63Iに対応する第2開口52abの幅よりも広く設定さえすれば、第1開口52aaは、その幅が全て等しくなるように設定してもよい。
【0065】
また、第1開口52aaは、図5に示すその幅W31〜W34の比を、例えば1:2:2:3と設定してもよく、第1開口52aaは、導体パターン66に対応した開口パターンの内側部分よりも外側部分の第1開口52aaの幅が狭くならない範囲で設定してもよい。この点については、第1開口52aa同士の間隔W51〜W56の設定についても同様である。
【0066】
上記実施形態では、第1のパターン部分61A〜61Hと第2のパターン部分63A〜63Iとから成るスパイラル形状の導体パターン66を形成する例を挙げて説明したがこれに限定されるものではなく、例えば、第1のパターン部分61A〜61Hと第2のパターン部分63A〜63Iとが、1/4円弧状のパターン部分や面取り状のパターン部分を介して繋がった導体パターンを形成してもよい。
【0067】
また、上記実施形態では、本発明に係るインダクタ部品の製造方法を、積層型コモンモードフィルタ1の製造方法に適用した例を用いて説明したがこれに限定されるものではなく、例えば、積層インダクタ、積層チップビーズ、インダクタ部品を含む積層型複合部品の製造方法に適用することも可能である。
【0068】
また、上記実施形態では、本発明に係るインダクタ部品を、積層型コモンモードフィルタ1に適用した例を用いて説明したがこれに限定されるものではなく、積層インダクタ、積層チップビーズ、インダクタ部品を含む積層型複合部品に適用することも可能である。
【符号の説明】
【0069】
1…積層型コモンモードフィルタ、2…素体、21…磁性シート、22,23,25,26…非磁性シート、31,34…コイル導体、41…第1の導体、41A,41B,41C,41D,41E,41F,41G,41H…第1の導体部分、43…第2の導体、43A,43B,43C,43D,43E,43F,43G,43H,43I…第2の導体部分、51…メッシュ、52…マスク、52a…開口、52aa…第1開口、52ab…第2開口、52b…非開口、52ba…第1非開口、52bb…第2非開口、53…スクリーン版、54…グリーンシート、55…導電ペースト、56…スキージ、61…第1のパターン、61A,61B,61C,61D,61E,61F,61G,61H…第1のパターン部分、63…第2のパターン、63A,63B,63C,63D,63E,63F,63G,63H,63I…第2のパターン部分、66…導体パターン。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スクリーン版及びスキージを用いたスクリーン印刷によりグリーンシートに導電ペーストを印刷して、互いに交差する方向に延びる第1及び第2のパターン部分を有するスパイラル形状の導体パターンを形成する工程を備えるインダクタ部品の製造方法であって、
前記スクリーン版として、前記導体パターンの形状に対応する開口が形成されたマスクを有するスクリーン版を用い、
前記導体パターンを形成する前記工程では、前記グリーンシート上に配置した前記スクリーン版に前記スキージを押圧すると共に、前記第1のパターン部分が延びる方向に前記スキージを移動させることにより、前記開口を通して前記導電ペーストを前記グリーンシートに印刷しており、
前記第1のパターン部分に対応する前記開口の幅を、前記第2のパターン部分に対応する前記開口の幅よりも広く設定したことを特徴とするインダクタ部品の製造方法。
【請求項2】
前記第1のパターン部分に対応する前記開口の幅を、前記スパイラル形状の導体パターンにおいて外側部分に形成される前記第1のパターン部分に対応する前記開口の幅ほど広く設定したことを特徴とする請求項1に記載のインダクタ部品の製造方法。
【請求項3】
前記第1のパターン部分に対応する隣り合う前記開口同士の間隔を、前記スパイラル形状の導体パターンにおいて外側部分に形成される前記第1のパターン部分に対応する隣り合う前記開口同士の間隔ほど広く設定したことを特徴とする請求項2に記載のインダクタ部品の製造方法。
【請求項4】
前記マスクは、前記スキージが移動する方向に延びる前記開口及び非開口の平面視における面積が、前記スキージが移動する方向と交差する方向に延びる前記開口及び非開口の平面視における面積よりも広く形成されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のインダクタ部品の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載のインダクタ部品の製造方法によって製造されるインダクタ部品。
【請求項6】
スクリーン版とスキージとを用いたスクリーン印刷により形成された、前記スキージの移動方向に延びる第1のパターン部分と該第1のパターン部分に交差する方向に延びる第2のパターン部分とを有するスパイラル形状の導体パターンを焼成して得られた導体を備えるインダクタ部品であって、
前記導体は、前記第1のパターン部分に対応する第1の導体部分と、前記第2のパターン部分に対応する第2の導体部分と、を有しており、
前記第1の導体部分の幅は、前記第2の導体部分の幅よりも広く設定されていることを特徴とするインダクタ部品。
【請求項7】
前記第1の導体部分の幅は、前記スパイラル形状の導体における外側部分に形成される第1の導体部分ほど広く設定されていることを特徴とする請求項6に記載のインダクタ部品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−103343(P2011−103343A)
【公開日】平成23年5月26日(2011.5.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−257243(P2009−257243)
【出願日】平成21年11月10日(2009.11.10)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】