説明

インバータモジュールおよびインバータ一体型電動圧縮機

【課題】コントロール基板上でのノイズ干渉を確実に抑制できるとともに、樹脂製ゲル材の充填を容易化できるインバータモジュールおよびインバータ一体型電動圧縮機を提供することを目的とする。
【解決手段】パワー系基板と、コントロール基板30とが樹脂ケースを介して一体化されているインバータモジュールにおいて、樹脂ケースの下部に半導体スイッチング素子が実装されたパワー系基板が設けられているとともに、その上部にCPU等の低電圧で動作する制御通信回路が実装されたコントロール基板30が設けられており、コントロール基板30に形成されている高電圧系に繋がるフレームグランド42と、それに隣接されている低電圧回路46との間の領域に、絶縁用貫通穴47が設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動圧縮機のハウジングにインバータ装置が一体に組み込まれている、車両用空調装置に適用して好適なインバータモジュールおよびインバータ一体型電動圧縮機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ハイブリッド車や電気自動車等に搭載される空調装置用の圧縮機として、インバータ装置が一体に組み込まれているインバータ一体型電動圧縮機が知られている。このインバータ一体型電動圧縮機は、電動モータと圧縮機構とが内蔵されているハウジングの外周にインバータ収容部(インバータボックス)が設けられ、その内部に電源から供給される直流電力を交流電力に変換し、ガラス密封端子を介して電動モータに印加するインバータ装置が組み込まれた構成とされている。
【0003】
インバータ装置は、一般に、直流電力を交流電力に変換するIGBT等の複数個の半導体スイッチング素子を有するスイッチング回路が実装されているパワー系基板と、CPU等の低電圧で動作する素子を有する制御通信回路が実装されているコントロール基板とを備えており、両基板が上下2段に配設された構成とされ、それがインバータケースあるいは外枠部内に収容設置されることによって、圧縮機ハウジングの外周部に一体に組み込まれている。
【0004】
上記のインバータ一体型電動圧縮機では、インバータ装置内において高電圧系と低電圧系とが混在しており、電磁ノイズを遮断して制御回路の安定性を向上させる必要があると同時に、厳しい温度条件および振動条件下で使用されるため、インバータ装置においても高い耐振性、防湿性および絶縁性が求められている。そこで、インバータ装置が組み込まれるインバータ収容部内に樹脂製ゲル材を充填し、該樹脂製ゲル材中にコントロール基板を浮かせるように設置したものや、低電圧制御基板とモータ駆動用高電圧回路との間にシールドプレートを設けるとともに、それらの間に樹脂製ゲル材を充填したもの等が提案されている(例えば、特許文献1,2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−315269号公報
【特許文献2】特開2010−112261号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献1のものでは、パワー系基板およびコントロール基板に対して、それぞれ防湿性や絶縁性および耐振性を高めることができるとともに、コントロール基板に貫通穴を設けているため、樹脂製ゲル材の充填性を高めることができる。しかし、かかる構成だけでは、コントロール基板上でのノイズ干渉、すなわち高電圧系に繋がるフレームグランドから低電圧回路側への電磁ノイズの伝播を遮断することができず、ノイズ対策としては不十分であった。
【0007】
また、特許文献2のものでは、低電圧制御基板とモータ駆動用高電圧回路との間にシールドプレートを設け、該シールドプレートに空気抜き兼ゲル材充填用孔を設けた構成とすることにより、樹脂製ゲル材の充填を容易化するとともに、低電圧制御基板とモータ駆動用高電圧回路との間でのノイズ干渉を防止するようにしているが、低電圧制御基板上でのノイズ干渉、すなわち高電圧系に繋がるフレームグランドから低電圧回路側への電磁ノイズの伝播を遮断することができず、ノイズ対策として万全とは云い難かった。
【0008】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、コントロール基板上でのノイズ干渉を確実に抑制できるとともに、樹脂製ゲル材の充填を容易化できるインバータモジュールおよびインバータ一体型電動圧縮機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記した課題を解決するために、本発明のインバータモジュールおよびインバータ一体型電動圧縮機は、以下の手段を採用する。
すなわち、本発明にかかるインバータモジュールは、電源から供給される直流電力を交流電力に変換して電動モータに印加するパワー系基板と、前記電動モータに印加される交流電力を制御するコントロール基板とが樹脂ケースを介して一体化されているインバータモジュールにおいて、前記樹脂ケースの下部に半導体スイッチング素子が実装された前記パワー系基板が設けられているとともに、その上部にCPU等の低電圧で動作する制御通信回路が実装された前記コントロール基板が設けられており、前記コントロール基板に形成されている高電圧系に繋がるフレームグランドと、それに隣接されている低電圧回路との間の領域に、絶縁用貫通穴が設けられていることを特徴とする。
【0010】
本発明によれば、パワー系基板とコントロール基板とが樹脂ケースを介して一体化されているインバータモジュールにおいて、樹脂ケースの下部に半導体スイッチング素子が実装されたパワー系基板が設けられているとともに、その上部にCPU等の低電圧で動作する制御通信回路が実装されたコントロール基板が設けられており、コントロール基板に形成されている高電圧系に繋がるフレームグランドと、それに隣接されている低電圧回路との間の領域に、絶縁用貫通穴が設けられているため、フレームグランドと低電圧回路との間の領域に設けられている絶縁用貫通穴によって、コントロール基板上でのフレームグランドと低電圧回路との間の絶縁距離を長くすることができ、フレームグランドから低電圧回路側への電磁ノイズの伝播を遮断し、抑制することができる。従って、貫通穴を設けるだけの簡易な構成によりコントロール基板上のフレームグランド付近での絶縁性能を向上し、電磁ノイズが低電圧回路側に伝播されることによるインバータ装置の誤動作等を防止することができる。
【0011】
さらに、本発明のインバータモジュールは、上記のインバータモジュールにおいて、前記パワー系基板は、前記樹脂ケース内にその上面を覆う位置まで充填された熱硬化性樹脂により樹脂封入され、その樹脂封入面から前記コントロール基板の少なくとも一部を覆う位置まで樹脂製ゲル材が充填されており、該樹脂製ゲル材は、前記絶縁用貫通穴を介して充填可能とされていることを特徴とする。
【0012】
本発明によれば、パワー系基板が、樹脂ケース内にその上面を覆う位置まで充填された熱硬化性樹脂により樹脂封入され、その樹脂封入面からコントロール基板の少なくとも一部を覆う位置まで樹脂製ゲル材が充填されており、該樹脂製ゲル材が、絶縁用貫通穴を介して充填可能とされているため、パワー系基板を熱硬化性樹脂で樹脂封入して固めることにより、絶縁性や防湿性の確保のみならず、ヒートショックや振動等に対する耐振強度を確保することができる。また、コントロール基板の一部を覆う位置まで樹脂製ゲル材を充填することにより、コントロール基板の耐振性、絶縁性をも確保することができ、コントロール基板上の部品の振動による破損等を確実に防止することができる。加えて、絶縁用貫通穴を介してコントロール基板の裏面側まで樹脂製ゲル材を充填できるため、樹脂製ゲル材の充填性を高め、コントロール基板の一部を覆う高さ位置まで容易に樹脂製ゲル材を充填することができる。
【0013】
さらに、本発明のインバータモジュールは、上記のインバータモジュールにおいて、前記絶縁用貫通穴は、前記コントロール基板上の前記フレームグランドと、それに隣接する前記低電圧回路との間の領域を遮断し、前記樹脂製ゲル材によって覆われていることを特徴とする。
【0014】
本発明によれば、絶縁用貫通穴が、コントロール基板上のフレームグランドと、それに隣接する低電圧回路との間の領域を遮断し、樹脂製ゲル材によって覆われているため、フレームグランドと低電圧回路との間を絶縁用貫通穴によって遮断し、コントロール基板上でのフレームグランドと低電圧回路との間の絶縁距離を長くすることができる。また、絶縁用貫通穴を樹脂製ゲル材で覆うことによって、その間の絶縁性を一段と向上することができる。従って、フレームグランドから低電圧回路側への電磁ノイズの伝播を確実に遮断して抑制することができ、インバータ装置の誤動作等を防止して信頼性を向上することができる。
【0015】
さらに、本発明にかかるインバータ一体型電動圧縮機は、電動モータおよび圧縮機構が内蔵されているハウジングの外周にインバータ収容部が設けられ、その内部に直流電力を交流電力に変換して前記電動モータに印加するインバータ装置が一体に組み込まれているインバータ一体型電動圧縮機において、前記インバータ収容部内に、上述のいずれかのインバータモジュールを含むインバータ装置が一体に組み込まれていることを特徴とする。
【0016】
本発明によれば、ハウジングの外周に設けられているインバータ収容部の内部に直流電力を交流電力に変換して電動モータに印加するインバータ装置が一体に組み込まれているインバータ一体型電動圧縮機において、インバータ収容部内に、上述のいずれかのインバータモジュールを含むインバータ装置が一体に組み込まれているため、インバータ装置を構成しているコントロール基板上でのフレームグランドから低電圧回路側への電磁ノイズの伝播を遮断し、抑制することができる。従って、コントロール基板上のフレームグランド付近での絶縁性能を高め、電磁ノイズが低電圧回路側に伝播されることによるインバータ装置の誤動作等を防止し、インバータ装置、ひいてはインバータ一体型電動圧縮機の信頼性の向上をすることができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明のインバータモジュールによると、フレームグランドと低電圧回路との間の領域に設けられている絶縁用貫通穴によって、コントロール基板上でのフレームグランドと低電圧回路との間の絶縁距離を長くすることができ、フレームグランドから低電圧回路側への電磁ノイズの伝播を遮断し、抑制することができるため、貫通穴を設けるだけの簡易な構成によりコントロール基板上のフレームグランド付近での絶縁性能を向上し、電磁ノイズが低電圧回路側に伝播されることによるインバータ装置の誤動作等を防止することができる。
【0018】
本発明のインバータ一体型電動圧縮機によると、インバータ装置を構成しているコントロール基板上でのフレームグランドから低電圧回路側への電磁ノイズの伝播を遮断し、抑制することができるため、コントロール基板上のフレームグランド付近での絶縁性能を高め、電磁ノイズが低電圧回路側に伝播されることによるインバータ装置の誤動作等を防止し、インバータ装置、ひいてはインバータ一体型電動圧縮機の信頼性の向上をすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の一実施形態に係るインバータ一体型電動圧縮機の側面図である。
【図2】図1に示すインバータ一体型電動圧縮機に組み込まれているインバータモジュールの斜視図である。
【図3】図2に示すインバータモジュールの縦断面相当図である。
【図4】図2に示すインバータモジュールを構成しているコントロール基板の平面配置図である。
【図5】図4中のA部の拡大平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に、本発明の一実施形態について、図1ないし図5を参照して説明する。
図1には、本発明の一実施形態に係るインバータ一体型電動圧縮機の側面図が示されている。インバータ一体型電動圧縮機1は、外殻を構成するハウジング2を備えている。ハウジング2は、図示省略の電動モータが収容されているモータハウジング3と、図示省略の圧縮機構が収容されている圧縮機ハウジング4とがボルト5で一体に締め付け結合されることにより構成されている。モータハウジング3および圧縮機ハウジング4は、耐圧容器であり、アルミダイカスト製とされている。
【0021】
ハウジング2の内部に収容されている図示省略の電動モータおよび圧縮機構は、モータ軸を介して連結され、電動モータの回転によって圧縮機構が駆動されるように構成されている。モータハウジング3の一端側(図1の右側)には、冷媒吸入ポート6が設けられており、この冷媒吸入ポート6からモータハウジング3内に吸い込まれた低温低圧の冷媒ガスは、電動モータの周囲をモータ軸線L方向に沿って流通後、圧縮機構に吸い込まれて圧縮される。圧縮機構により圧縮された高温高圧の冷媒ガスは、圧縮機ハウジング4内に吐き出された後、圧縮機ハウジング4の一端側(図1の左側)に設けられている吐出ポート7から外部へと送出されるように構成されている。
【0022】
ハウジング2には、例えば、モータハウジング3の一端側(図1の右側)の下部および圧縮機ハウジング4の一端側(図1の左側)の下部の2箇所と、圧縮機ハウジング4の上部側1箇所との計3箇所に、取り付け脚8A,8B,8Cが設けられている。インバータ一体型電動圧縮機1は、この取り付け脚8A,8B,8Cが車両のエンジンルーム内に設置されている走行用原動機の側壁等にブラケットおよびボルトを介して固定設置されることにより車両側に搭載されるようになっている。
【0023】
モータハウジング3の外周部には、その上部に所定の容積を有するインバータ収容部9が一体に成形されている。このインバータ収容部9は、上面が開放された所定高さの周囲壁により囲われたボックス形状とされており、側面には、2つの電源ケーブル取り出し口10が設けられている。また、インバータ収容部9の上面は、カバー部材11がネジ止め固定されることにより密閉されるようになっている。
【0024】
インバータ収容部9の内部には、車両に搭載されている図示省略の電源ユニットもしくはバッテリから電源ケーブルを介して供給される直流電力を三相交流電力に変換し、モータハウジング3の内部に収容されている電動モータに印加するインバータ装置20が収容設置されている。インバータ装置20は、以下に詳述するインバータモジュール21や図示省略の平滑コンデンサ(ヘッドキャパシタ)、インダクタコイル等の電気部品から構成されている。図2には、インバータモジュール21の斜視図が示され、図3には、図2に示すインバータモジュール21の縦断面相当図が示されている。
【0025】
インバータモジュール21は、アルミ合金製板材等からなるパワー系基板23(図3参照)が底部にインサート成形によって一体化されている矩形状の樹脂ケース22を備えている。パワー系基板23には、IGBT等からなる複数個の半導体スイッチング素子等により構成されるスイッチング回路が実装されている。また、樹脂ケース22には、パワー系基板23のほか、高電圧電源ラインが接続されるP−N端子24、電動モータに三相交流電力を給電するU−V−W端子25、アース26およびアース端子27、パワー系基板23と後述のコントロール基板30との間を接続する多数の接続端子28等がバスバーを介して接続され、一体にインサート成形されている。
【0026】
樹脂ケース22は、上記の如く矩形状とされ、インバータ収容部9の電源ケーブル取り出し口10が設けられている側面に沿う一辺にP−N端子24が突出され、これに隣接する圧縮機ハウジング4側に近い一辺にU−V−W端子25が突出されている。また、樹脂ケース22の4コーナー部には、インバータ収容部9の底面にボルトを介して締め付け固定される固定脚部29が一体に成形されている。この固定脚部29には、ボルトが貫通されるように上記アース端子27が設けられ、樹脂ケース22をインバータ収容部9の底面にボルトを介して固定することにより、パワー系基板23およびコントロール基板30の後述するフレームグランド42(図5に、その接続ランドが示されている。)がハウジング2に筐体接地されるように構成されている。
【0027】
樹脂ケース22内の上部には、パワー系基板23との間に所定の隙間を保ってコントロール基板(CPU基板)30が配設されており、該コントロール基板30は、多数の接続端子28およびアース26によって支持されている。コントロール基板30には、CPU等の低電圧で動作する素子等により構成される制御通信回路が実装されており、パワー系基板23に実装されているスイッチング回路を動作させ、電動モータに印加される交流電力を制御するように構成されている。
【0028】
このコントロール基板30上には、制御通信回路を構成するトランス31、電解コンデンサ32等の大型電装部品の以外にも、図4に示されるように、CPU33、EEPROM34、発振回路35、リセットIC回路36、ゲートIC回路37等々の電装部品および回路が多数配設されている。なお、コントロール基板30には、インバータ収容部9を貫通するように複数本の制御通信用電線および通信線38がグロメット39を介して接続されている。
【0029】
上記の構成を有するインバータモジュール21において、パワー系基板23およびコントロール基板30の耐振性、防湿性および絶縁性を確保するため、樹脂ケース22内にパワー系基板23の上面を覆うようにエポキシ系樹脂等の熱硬化性樹脂40を充填し、パワー系基板23を樹脂封入している。これは、ワイヤボンディングされているIGBT等の半導体スイッチング素子により構成されているスイッチング回路を熱硬化性樹脂40により強固に固め、絶縁性および防湿性を確保するとともに、高度なサーマルサイクル、ヒートショック、振動等に対しても信頼性の高い耐振強度を確保するためである。熱硬化性樹脂40は、図3に示されるように、樹脂ケース22の高さ方向の中間部より僅かに高い位置まで充填されている。
【0030】
熱硬化性樹脂40の樹脂封入面上には、シリコンゲル等の樹脂製ゲル材41が充填されている。この樹脂製ゲル材41は、熱硬化性樹脂40の封入面とコントロール基板30との間に満充填されている(図3参照)。この樹脂製ゲル材41は、主としてコントロール基板30の振動を吸収し、その耐振性を確保するとともに、絶縁性を確保するためのものであるが、場合によっては、コントロール基板30の表面上数ミリの高さ位置まで充填することにより、コントロール基板30の上面に実装されている少なくともCPU等のマイコン構成部品や発振回路等の一部を覆うようにしてもよい。これによって、コントロール基板30の上面に実装されているCPU等のマイコン構成部品や発振回路等の電装部品に対しての防湿効果をも高めることができる。
【0031】
また、コントロール基板30には、図4および図5に示されるように、アース26およびアース端子27を介してハウジング2に筐体接地されるフレームグランド42が形成されており、このフレームグランド42の接続ランドに隣接して半導体スイッチング素子への信号送信用弱電端子(スルーホール)43やゲートドライバ用の弱電端子(スルーホール)44および抵抗45等の低電圧回路46が配設されている。高電圧系に繋がるフレームグランド42の接続ランドと半導体スイッチング素子への信号送信用弱電端子43等の低電圧回路46との間の領域には、電磁ノイズを遮断するための絶縁用貫通穴47が設けられ、該領域を遮断している。
【0032】
上記絶縁用貫通穴47は、フレームグランド42の接続ランドと低電圧回路46との間の絶縁距離を可能な限り長くできる穴であればよく、本例のような丸穴に限らず、長穴や角穴、あるいは様々な形状の変形穴としてもよい。また、絶縁用貫通穴47は、1箇所に限らず、他のフレームグランド42のランドと低電圧回路との間にも設け、複数個としてもよい。さらに、この絶縁用貫通穴47は、熱硬化性樹脂40の樹脂封入面とコントロール基板30との間に、樹脂製ゲル材41を満充填するための充填穴に兼用化された構成とされている。
【0033】
斯くして、本実施形態によれば、以下の作用効果を奏する。
車両に搭載の電源ユニットから電源ケーブルを介してインバータ収容部9内に設置されているインバータ装置20に給電された直流電力は、インバータモジュール21のP−N端子24を経てパワー系基板23上のスイッチング回路に入力され、コントロール基板30によって制御される半導体スイッチング素子等からなるスイッチング回路の動作により指令周波数の三相交流電力に変換された後、U−V−W端子25を介してモータハウジング3内の電動モータに印加される。
【0034】
これによって、電動モータが制御指令周波数で回転駆動され、圧縮機構が作動される。圧縮機構の作動により、冷媒吸入ポート6から低温低圧の冷媒ガスがモータハウジング3内に吸い込まれる。この冷媒は、電動モータの周囲をモータ軸線L方向に圧縮機ハウジング4側へと流動されて圧縮機構に吸い込まれる。圧縮機構により高温高圧状態に圧縮された冷媒は、圧縮機ハウジング4内に吐き出された後、吐出ポート7を経て電動圧縮機1の外部へと送出される。
【0035】
この間、冷媒吸入ポート6からモータハウジング3内に吸い込まれ、モータ軸線L方向に流動される低温低圧の冷媒ガスは、モータハウジング3のハウジング壁を介してインバータ収納部9の底面に密着されて設置されているインバータモジュール21のパワー系基板23から吸熱し、パワー系基板23上に実装されている半導体スイッチング素子等の発熱部品を強制冷却している。これによって、インバータ装置20の耐熱性能が確保されるようになっている。
【0036】
一方、電動圧縮機1に組み込まれているインバータ装置20には、電動圧縮機1が搭載されている車両の走行振動やその駆動源の振動、あるいは電動圧縮機1自体の回転振動等が直接入力される。このため、インバータ装置20を構成しているインバータモジュール21、パワー系基板23、コントロール基板31、更には両基板23,31上に設置されている電装部品や回路等に対してもその振動が伝播されることになる。
【0037】
しかるに、パワー系基板23は、樹脂ケース22と一体にモジュール化され、インバータ収容部9の底面に固定脚部29がボルトで強固に締め付け固定されている。また、パワー系基板23の表面に実装されている半導体スイッチング素子等の部品や回路は、絶縁性および防湿性を有するエポキシ系の熱硬化性樹脂40により樹脂封入され、強固に保護されている。このため、パワー系基板21に対しては、絶縁性および防湿性を十分確保することができるとともに、高度なサーマルサイクル、ヒートショック、振動等に対する耐振強度を高め、耐振性を確保することができる。
【0038】
また、パワー系基板23の上部に配設されているコントロール基板30は、その下面と熱硬化性樹脂40の樹脂封入面との間に満充填されるとともに、コントロール基板31の一部を覆う位置まで充填されている樹脂製ゲル材41によって弾性支持されている。このため、コントロール基板30に加わる振動を樹脂製ゲル材41で吸収することができ、従って、コントロール基板30に伝播される振動を十分に低減し、コントロール基板30が加振されることによる部品の破損や脱落等を防止することができる。
【0039】
さらに、樹脂ケース22の下部および上部に配設されているパワー系基板23およびコントロール基板30は、その間に熱硬化性樹脂40および樹脂製ゲル材41等の樹脂層を形成するとともに、十分な絶縁距離を確保しているため、両基板間でのノイズ干渉を防止することができるとともに、コントロール基板30に形成されている高電圧系に繋がるフレームグランド42と、それに隣接する低電圧回路46との間の領域に設けられている絶縁用貫通穴47によって、コントロール基板30上でのフレームグランド42と低電圧回路46との間の絶縁距離を長くすることができ、フレームグランド42から低電圧回路46側への電磁ノイズの伝播を遮断し、抑制することができる。
【0040】
特に、電磁ノイズによる影響を受け易いIGBT等の半導体スイッチング素子への信号送信用弱電端子(スルーホール)43に対する電磁ノイズの伝播を効果的に遮断し、抑制することができる。このため、コントロール基板30上の特定された位置に貫通穴47を設けるだけの簡易な構成によって、コントロール基板30上のフレームグランド42付近での絶縁性能を向上し、電磁ノイズが低電圧回路46側に伝播することによるインバータ装置20の誤動作等を防止することができる。
【0041】
また、上記絶縁用貫通穴47を、熱硬化性樹脂40の樹脂封入面とコントロール基板30との間に樹脂製ゲル材41を充填するための充填穴に兼用化しているため、該絶縁用貫通穴47を介してコントロール基板30の裏面側まで確実に樹脂製ゲル材41を満充填することができ、従って、樹脂製ゲル材41の充填性を高め、コントロール基板30の一部を覆う高さ位置まで容易に樹脂製ゲル材41を充填することができる。
【0042】
さらに、絶縁用貫通穴47は、コントロール基板30上のフレームグランド42と低電圧回路46との間の領域を遮断するように設けられ、樹脂製ゲル材41によって覆われているため、フレームグランド42と低電圧回路46との間を遮断する絶縁用貫通穴47によってフレームグランド42と低電圧回路46との間の絶縁距離を長くすることができるとともに、絶縁用貫通穴47を樹脂製ゲル材41で覆うことによって、その間の絶縁性を一段と向上することができる。従って、フレームグランド42から低電圧回路46側へのノイズ伝播を確実に遮断し抑制することができ、インバータ装置20の誤動作等を防止してその信頼性を高めることができる。
【0043】
また、以上に述べたインバータモジュール21を含むインバータ装置20を一体に組み込むことによって、過酷な電磁ノイズ条件下、温度条件および振動条件下で使用される車載用のインバータ一体型電動圧縮機1にあって、使用環境の影響を最も受けやすいインバータ装置20でのノイズ干渉を抑制することができるとともに、耐振強度、防湿性および絶縁性を向上することができるため、インバータ一体型電動圧縮機1の信頼性向上と搭載性の向上を図ることができる。
【0044】
なお、本発明は、上記実施形態にかかる発明に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において、適宜変形が可能である。例えば、上記した実施形態では、インバータ収容部9をモータハウジング3と一体成形した例について説明したが、必ずしも一体に成形する必要はなく、別に成形したインバータ収容ケースを一体に組み付けた構成としてもよい。また、圧縮機構については、特に制限されるものではなく、如何なる形式の圧縮機構を用いてもよい。
【0045】
さらに、インバータモジュール21の構成についても様々変形が可能であり、特に、上記実施形態では、電磁ノイズの影響を受け易い半導体スイッチング素子への信号送信用弱電端子(スルーホール)43を含む低電圧回路46とフレームグランド42との間の領域に絶縁用貫通穴47を設けた例について説明したが、必要に応じてCPU33、EEPROM34、発振回路35、リセットIC回路36、ゲートIC回路37等の低電圧回路がフレームグランド42と隣接して配設された場合に、その間に絶縁用貫通穴47を設けるようにしてもよい。
【符号の説明】
【0046】
1 インバータ一体型電動圧縮機
2 ハウジング
9 インバータ収容部
20 インバータ装置
21 インバータモジュール
22 樹脂ケース
23 パワー系基板
30 コントロール基板
40 熱硬化性樹脂
41 樹脂製ゲル材
42 フレームグランド
46 低電圧回路
47 絶縁用貫通穴


【特許請求の範囲】
【請求項1】
電源から供給される直流電力を交流電力に変換して電動モータに印加するパワー系基板と、前記電動モータに印加される交流電力を制御するコントロール基板とが樹脂ケースを介して一体化されているインバータモジュールにおいて、
前記樹脂ケースの下部に半導体スイッチング素子が実装された前記パワー系基板が設けられているとともに、その上部にCPU等の低電圧で動作する制御通信回路が実装された前記コントロール基板が設けられており、
前記コントロール基板に形成されている高電圧系に繋がるフレームグランドと、それに隣接されている低電圧回路との間の領域に、絶縁用貫通穴が設けられていることを特徴とするインバータモジュール。
【請求項2】
前記パワー系基板は、前記樹脂ケース内にその上面を覆う位置まで充填された熱硬化性樹脂により樹脂封入され、その樹脂封入面から前記コントロール基板の少なくとも一部を覆う位置まで樹脂製ゲル材が充填されており、該樹脂製ゲル材は、前記絶縁用貫通穴を介して充填可能とされていることを特徴とする請求項1に記載のインバータモジュール。
【請求項3】
前記絶縁用貫通穴は、前記コントロール基板上の前記フレームグランドと、それに隣接する前記低電圧回路との間の領域を遮断し、前記樹脂製ゲル材によって覆われていることを特徴とする請求項2に記載のインバータモジュール。
【請求項4】
電動モータおよび圧縮機構が内蔵されているハウジングの外周にインバータ収容部が設けられ、その内部に直流電力を交流電力に変換して前記電動モータに印加するインバータ装置が一体に組み込まれているインバータ一体型電動圧縮機において、
前記インバータ収容部内に、請求項1ないし3のいずれかに記載のインバータモジュールを含むインバータ装置が一体に組み込まれていることを特徴とするインバータ一体型電動圧縮機。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−87630(P2012−87630A)
【公開日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−232677(P2010−232677)
【出願日】平成22年10月15日(2010.10.15)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】