説明

インバータ装置

【課題】各素子を近接配置する必要がなく、部品点数やコストの増大を招くことがなく、容易に実現することが可能であって、スイッチング素子の切換えに伴うサージ電圧を効果的に抑える。
【解決手段】第3及び第2トランジスタ13、12がオンからオフに切換わっても、各寄生インダクタンス56b、55cに電流が流れ続けている。これは、第4ダイオード24のカソードKを第3トランジスタ13のエミッタE近傍に接続し、かつ第1ダイオード21のアノードAを第2トランジスタ12のコレクタC近傍に接続したことから、第4ダイオード24から誘導性負荷17への電流経路が寄生インダクタンス56bを介して形成され、かつ直流抵抗18から第1ダイオード21への電流経路が寄生インダクタンス55cを介して形成されるためである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、直流電圧を交流電圧に変換するインバータ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
図8A、図8Bは、従来のインバータ装置を例示しており、図8Aがインバータ装置の基板上の配線パターンを模式的に示し、図8Bがインバータ装置の配線接続を示している。これらの図に示すようにインバータ装置では、直流電源110と接地間に、第1トランジスタ111と第2トランジスタ112を直列接続して挿入すると共に、第3トランジスタ113と第4トランジスタ114を直列接続して挿入している。そして、第1及び第2トランジスタ111、112を接続する配線115と第3及び第4トランジスタ113、114を接続する配線116との間に、誘導性負荷117と直流抵抗118を直列接続して挿入している。更に、第1乃至第4トランジスタ111〜114には、該各トランジスタとは逆方向に電流をそれぞれ流す第1乃至第4ダイオード121〜124を並列接続している。尚、第1乃至第4トランジスタ111〜114のコレクタ、エミッタ、及びベースには、符号C、E、Bを付している。また、第1乃至第4ダイオード121〜124のアノード及びカソードには、符号A、Kを付している。
【0003】
また、配線115において、直流抵抗118が接続される接続点115aから第1トランジスタ111のエミッタEまでを配線部分115bとし、接続点115aから第2トランジスタ112のコレクタCまでを配線部分115cとしている。これらの配線部分115b、115cには、それぞれの寄生インダクタンス131、132が存する。同様に、配線116において、誘導性負荷117が接続される接続点116aから第3トランジスタ113のエミッタEまでを配線部分116bとし、接続点116aから第4トランジスタ114のコレクタCまでを配線部分116cとしている。これらの配線部分116b、116cには、それぞれの寄生インダクタンス133、134が存する。
【0004】
次に、このようなインバータ装置の基本動作を説明する。この基本動作では、各寄生インダクタンス131〜134の影響を無視する。
【0005】
(ステップ1)図9Aに示すように第3及び第2トランジスタ113、112をオンにして、直流電源110の直流電流isを第3トランジスタ113→誘導性負荷117→直流抵抗118→第2トランジスタ112→接地という経路で流す。このとき、誘導性負荷117に+電圧が発生する。
【0006】
(ステップ2)図9Bに示すように第3及び第2トランジスタ113、112をオフにして、誘導性負荷117に生じた自己誘導電流+iyを接地→第4ダイオード124→誘導性負荷117→直流抵抗118→第1ダイオード121→直流電源110という経路で流す。このときも、誘導性負荷117に+電圧が発生する。
【0007】
(ステップ3)図9Cに示すように第1及び第4トランジスタ111、114をオンにして、直流電源110の直流電流isを第1トランジスタ111→直流抵抗118→誘導性負荷117→第4トランジスタ114→接地という経路で流す。このとき、誘導性負荷117に−電圧が発生する。
【0008】
(ステップ4)図9Dに示すように第1及び第4トランジスタ111、114をオフにして、誘導性負荷117に生じた自己誘導電流−iyを接地→第2ダイオード122→直流抵抗118→誘導性負荷117→第3ダイオード123→直流電源110という経路で流す。このときも、誘導性負荷117に−電圧が発生する。
【0009】
このようなステップ1〜4の動作を繰り返して、直流電源110の直流電圧を交流電圧に変換する。
【0010】
ところで、図8A、図8Bに示すようなインバータ装置において、第1乃至第4トランジスタ111〜114のスイッチング速度が遅かったならば、各配線115の寄生インダクタンス131〜134が問題になることはない。
【0011】
しかしながら、近年、装置の小型化や低価格化を図るべく、スイッチング速度を高速化する傾向にあり、それらの寄生インダクタンスによるサージ電圧が問題になっている。ここで、スイッチング素子に流れる電流をiとし、時間をtとすると、スイッチング素子のスイッチングが速くなる程、電流の変化分di/dtが大きくなる。そして、寄生インダクタンスをLsとし、寄生インダクタンスに生じるサージ電圧をVsとすると、Vs=Ls・di/dtで表されることから、スイッチング素子のスイッチングが速くなる程、サージ電圧Vsが高くなることが分る。このサージ電圧Vsは、絶縁破壊や素子の損傷の原因となり、装置の故障や耐久性の劣化を招く。
【0012】
次に、図8A、図8Bのインバータ装置において、各寄生インダクタンス131〜134を考慮した動作を説明する。
【0013】
(ステップ1)図9Aに示すように第3及び第2トランジスタ113、112をオンにして、直流電源110の直流電流isを第3トランジスタ113→寄生インダクタンス133→誘導性負荷117→直流抵抗118→寄生インダクタンス132→第2トランジスタ112→接地という経路で流す。
【0014】
(ステップ2)図9Bに示すように第3及び第2トランジスタ113、112をオフにする。このとき、誘導性負荷117に生じた自己誘導電流+iyは、接地→第4ダイオード124→寄生インダクタンス134→誘導性負荷117→直流抵抗118→寄生インダクタンス131→第1ダイオード121→直流電源110という経路で流れる。
【0015】
(ステップ3)図9Cに示すように第1及び第4トランジスタ111、114をオンにして、直流電源110の直流電流isを第1トランジスタ111→寄生インダクタンス131→直流抵抗118→誘導性負荷117→寄生インダクタンス134→第4トランジスタ114→接地という経路で流す。
【0016】
(ステップ4)図9Dに示すように第1及び第4トランジスタ111、114をオフにする。このとき、誘導性負荷117に生じた自己誘導電流−iyは、接地→第2ダイオード122→寄生インダクタンス132→直流抵抗118→誘導性負荷117→寄生インダクタンス133→第3ダイオード123→直流電源110という経路で流れる
ここで、ステップ1では、各寄生インダクタンス133、132に電流が流れているが、これに対してステップ2では、第3及び第2トランジスタ113、112がオフになって、各寄生インダクタンス133、132の電流経路が遮断され、各寄生インダクタンス133、132に電流が流れていない。
【0017】
そして、ステップ1から2への切換わりで、各寄生インダクタンス133、132の電流経路が遮断されても、各寄生インダクタンス133、132にエネルギーが保持されているので、これらのエネルギーが放出されて、各寄生インダクタンス133、132にそれぞれの逆起電力が生じ、これらの逆起電力がサージ電圧となって現れる。
【0018】
同様に、ステップ3では、電流が各寄生インダクタンス131、134に流れているが、ステップ4では、第1及び第4トランジスタ111、114がオフになって、各寄生インダクタンス131、134の電流経路が遮断され、各寄生インダクタンス131、134に電流が流れていない。
【0019】
そして、ステップ3から4への切換わりで、各寄生インダクタンス131、134の電流経路が遮断されると、保持されていた各寄生インダクタンス131、134のエネルギーが放出され、各寄生インダクタンス131、134にそれぞれの逆起電力が生じ、これらの逆起電力がサージ電圧となって現れる。
【0020】
これらのサージ電圧は、先に述べたように絶縁破壊や素子の損傷の原因となり、装置の故障や耐久性の劣化を招く。
【0021】
次に、図8A、図8Bのインバータ装置における第1乃至第4トランジスタ111〜114をバイポーラトランジスタから電界効果トランジスタ(以下FETと称する)に置き換えて、図10に示すようなインバータ装置を構成した。そして、この図10のインバータ装置において、シミュレーションにより、図9A〜図9Dと同様の切換え動作を行い、この切換え動作に伴う第1乃至第4FET111〜114の電流波形及び電圧波形をそれぞれの箇所xで測定して求めたので、その結果を図11(a)〜(h)に示す。
【0022】
ただし、直流電源110の電圧を1(KV)とし、第1乃至第4FET111〜114のスイッチング周波数を50(KHz)とし、オンのときの第1乃至第4FET111〜114の抵抗値を0.001(Ω)とし、誘導性負荷117のインダクタンスを100(μH)とし、直流抵抗118の抵抗を10(Ω)とし、各寄生インダクタンス131〜134のインダクタンスを1(μH)とした。
【0023】
図11(a)、(b)は第1FET111の電流波形と電圧波形を示し、図11(c)、(d)は第2FET112の電流波形と電圧波形を示し、図11(e)、(f)は第3FET113の電流波形と電圧波形を示し、図11(g)、(h)は第4FET114の電流波形と電圧波形を示している。
【0024】
先に述べたようにステップ1から2への切換わりで、第3及び第2FET113、112がオフになると、各寄生インダクタンス133、132のサージ電圧が生じ、これらサージ電圧Vsが図11(d)、(f)に示すように第3及び第2FET113、112の電圧波形に現れる。
【0025】
同様に、ステップ3から4への切換わりで、第1及び第4トランジスタ111、114がオフになると、各寄生インダクタンス131、134のサージ電圧が生じ、これらのサージ電圧Vsが図11(b)、(h)に示すように第1及び第4FET111、114の電圧波形に現れる。
【0026】
このようなサージ電圧は、先に述べたようにスイッチング速度が速くなる程に発生し易くなる。そして、近年のインバータ装置では、小型化及び低価格化を図るべくスイッチング速度が高速化されているので、そのようなサージ電圧が大きな弊害となっている。
【0027】
また、SiC、GaAs、GaN等の化合物半導体を含むトランジスタでは、Si等の単体半導体素子と比較して、サージ電圧の耐圧性が低く、このために従前の回路構成をそのまま使うことはできない。
【0028】
このようなサージ電圧に対処すべく、種々の提案がなされている。例えば、特許文献1では、各素子間の配線の寄生インダクタンスを低減するべく、配線長を短くしている。
【0029】
また、特許文献2では、スイッチング素子のゲート電圧やコレクタ電圧を検出し、この検出電圧に応じてスイッチング素子のゲート抵抗を段階的に増大して、電流の変化分di/dtを抑えている。
【0030】
更に、特許文献3では、複数の配線導体を平行平板状に相互に密接させて配置し、各配線導体の電流により発生するそれぞれの磁束を相殺して、各配線導体の寄生インダクタンスを低減させている。
【0031】
また、特許文献4では、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)、アバランシェダイオード、逆電流防止ダイオード、抵抗等からなるスナバ回路をトランジスタと並列に接続して、トランジスタに印加されるサージ電圧を抑制している。
【特許文献1】特開2005−51109号公報
【特許文献2】特開2008−92663号公報
【特許文献3】特開2001−274322号公報
【特許文献4】特開2002−152024号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0032】
しかしながら、特許文献1のような各素子間の配線長を短くすると、各素子が近接配置され、各素子の放熱が困難になったり、各素子間のノイズにより誤動作が生じるという問題があった。
【0033】
また、特許文献2のように検出電圧に応じてスイッチング素子のゲート抵抗を段階的に増大したり、あるいは特許文献4のようにスナバ回路を設けた場合は、素子もしくは部品点数が多くなり、コストが増大した。
【0034】
更に、特許文献3のように各配線導体を平行平板状に相互に密接させて形成することは容易でなく、配線パターンや素子の配置等の制約が大きくて、実現が困難であり、コストが増大した。
【0035】
そこで、本発明は、上記従来の問題点に鑑みてなされたものであり、各素子を近接配置する必要がなく、部品点数やコストの増大を招くことがなく、容易に実現することが可能であって、スイッチング素子の切換えに伴うサージ電圧を効果的に抑えることが可能なインバータ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0036】
上記課題を解決するために、本発明は、直流電源と接地間に第1及び第2スイッチング素子を直列接続して挿入すると共に第3及び第4スイッチング素子を直列接続して挿入し、第1及び第2スイッチング素子間の接続配線と第3及び第4スイッチング素子間の接続配線を誘導性負荷を介して接続し、第1乃至第4スイッチング素子とは逆方向の電流をそれぞれ流す第1乃至第4ダイオードを第1乃至第4スイッチング素子に並列接続しており、第3及び第2スイッチング素子をオンにして、第3及び第2スイッチング素子を通じて誘導性負荷に一方向に直流電源電流を流した後に、第3及び第2スイッチング素子をオフにして、第4及び第1ダイオードを通じて誘導性負荷に一方向の自己誘導電流を流し、引き続いて第1及び第4スイッチング素子をオンにして、第1及び第4スイッチング素子を通じて誘導性負荷に逆方向に直流電源電流を流した後に、第1及び第4スイッチング素子をオフにして、第2及び第3ダイオードを通じて誘導性負荷に逆方向に自己誘導電流を流すという切換え動作を繰り返して、直流電圧から交流電圧への変換を行うインバータ装置において、第1ダイオードのアノードを第1及び第2スイッチング素子間の接続配線における該接続配線と誘導性負荷の接続点よりも第2スイッチング素子近くの部位に接続し、第2ダイオードのカソードを第1及び第2スイッチング素子間の接続配線における該接続配線と誘導性負荷の接続点よりも第1スイッチング素子近くの部位に接続し、第3ダイオードのアノードを第3及び第4スイッチング素子間の接続配線における該接続配線と誘導性負荷の接続点よりも第4スイッチング素子近くの部位に接続し、第4ダイオードのカソードを第3及び第4スイッチング素子間の接続配線における該接続配線と誘導性負荷の接続点よりも第3スイッチング素子近くの部位に接続している。
【0037】
例えば、第1スイッチング素子と第2ダイオードのカソード間の配線上の接続距離が第2スイッチング素子と第2ダイオードのアノード間の配線上の接続距離よりも短く、第2スイッチング素子と第1ダイオードのアノード間の配線上の接続距離が第1スイッチング素子と第1ダイオードのカソード間の配線上の接続距離よりも短く、第3スイッチング素子と第4ダイオードのカソード間の配線上の接続距離が第4スイッチング素子と第4ダイオードのアノード間の配線上の接続距離よりも短く、第4スイッチング素子と第3ダイオードのアノード間の配線上の接続距離が第3スイッチング素子と第3ダイオードのカソード間の配線上の接続距離よりも短くなっている。
【0038】
また、第1スイッチング素子と第1ダイオードのカソード間の配線、第2スイッチング素子と第2ダイオードのアノード間の配線、第3スイッチング素子と第3ダイオードのカソード間の配線、及び第4スイッチング素子と第4ダイオードのアノード間の配線の少なくとも1つをコンデンサを介して接地している。
【0039】
更に、そのコンデンサに直流抵抗を直列接続している。
【0040】
また、直流電源と接地間に直列接続されて挿入される第1及び第2スイッチング素子もしくは第3及び第4スイッチング素子を3組以上備え、各組のスイッチング素子間の接続配線を誘導性負荷を介して接続し、各スイッチング素子とは逆方向の電流をそれぞれ流す各ダイオードを該各スイッチング素子に並列接続している。
【0041】
例えば、第1乃至第4スイッチング素子もしくは第1乃至第4ダイオードは、SiC、GaAs、GaN等の化合物半導体を含んでいる。
【発明の効果】
【0042】
本発明のインバータ装置は、その基本構成が図8A、図8Bのインバータ装置と同様であり、直流電源、第1乃至第4スイッチング素子、第1乃至第4ダイオード、及び誘導性負荷を備えており、第1乃至第4スイッチング素子を選択的に切換えて、誘導性負荷に一方向の電流を流したり逆方向の電流を流すという動作を繰り返し、直流電圧から交流電圧への変換を行う。その上で、特徴的な配線の引き回しを行って、配線の寄生インダクタンスを原因とするサージ電圧の発生を抑えている。すなわち、第1ダイオードのアノードを第1及び第2スイッチング素子間の接続配線における該接続配線と誘導性負荷の接続点よりも第2スイッチング素子近くの部位に接続し、第2ダイオードのカソードを第1及び第2スイッチング素子間の接続配線における該接続配線と誘導性負荷の接続点よりも第1スイッチング素子近くの部位に接続し、第3ダイオードのアノードを第3及び第4スイッチング素子間の接続配線における該接続配線と誘導性負荷の接続点よりも第4スイッチング素子近くの部位に接続し、第4ダイオードのカソードを第3及び第4スイッチング素子間の接続配線における該接続配線と誘導性負荷の接続点よりも第3スイッチング素子近くの部位に接続している。
【0043】
ここで、第3及び第2スイッチング素子をオンにして、第3及び第2スイッチング素子を通じて誘導性負荷に一方向に直流電源電流を流すと、第3スイッチング素子→第3及び第4スイッチング素子間の接続配線→誘導性負荷→第1及び第2スイッチグ素子間の接続配線→第2スイッチング素子という経路で電流が流れる。この後、第3及び第2スイッチング素子をオフにして、第4及び第1ダイオードを通じて誘導性負荷に一方向の自己誘導電流を流すと、第4ダイオード→第3及び第4スイッチング素子間の接続配線→誘導性負荷→第1及び第2スイッチグ素子間の接続配線→第1ダイオードという経路で電流が流れる。
【0044】
従って、第3及び第2スイッチング素子がオン及びオフのいずれのときにも、電流が第3及び第4スイッチング素子間の接続配線と第1及び第2スイッチグ素子間の接続配線に流れる。これは、第4ダイオードのカソードを第3及び第4スイッチング素子間の接続配線における第3スイッチング素子近くの部位に接続し、かつ第1ダイオードのアノードを第1及び第2スイッチング素子間の接続配線における第2スイッチング素子近くの部位に接続しているためである。そして、第3及び第2スイッチング素子がオフになると、誘導性負荷の自己誘導電流が流れつつ速やかに減衰して行く。このため、接続配線の寄生インダクタンスにサージ電圧が生じることはない。
【0045】
同様に、第1及び第4スイッチング素子をオンにして、第1及び第4スイッチング素子を通じて誘導性負荷に逆方向に直流電源電流を流すと、第1スイッチング素子→第1及び第2スイッチング素子間の接続配線→誘導性負荷→第3及び第4スイッチグ素子間の接続配線→第4スイッチング素子という経路で電流が流れる。この後、第1及び第4スイッチング素子をオフにして、第2及び第3ダイオードを通じて誘導性負荷に逆方向の自己誘導電流を流すと、第2ダイオード→第1及び第2スイッチング素子間の接続配線→誘導性負荷→第3及び第4スイッチグ素子間の接続配線→第3ダイオードという経路で電流が流れる。
【0046】
従って、第1及び第4スイッチング素子がオン及びオフのいずれのときにも、電流が第1及び第2スイッチング素子間の接続配線と第3及び第4スイッチグ素子間の接続配線に流れる。これは、第2ダイオードのカソードを第1及び第2スイッチング素子間の接続配線における第1スイッチング素子近くの部位に接続し、かつ第3ダイオードのアノードを第3及び第4スイッチング素子間の接続配線における第4スイッチング素子近くの部位に接続しているためである。そして、第1及び第4スイッチング素子がオフになると、誘導性負荷の自己誘導電流が流れつつ速やかに減衰して行く。このため、接続配線の寄生インダクタンスにサージ電圧が生じることはない。
【0047】
このように特徴的な配線の引き回しによって、配線の寄生インダクタンスを原因とするサージ電圧の発生を抑えることができる。しかも、各素子を近接配置する必要がなく、部品点数やコストの増大を招くことがなく、容易に実現することが可能である。
【0048】
そのような特徴的な配線の引き回しを行うには、例えば、第1スイッチング素子と第2ダイオードのカソード間の配線上の接続距離が第2スイッチング素子と第2ダイオードのアノード間の配線上の接続距離よりも短く、第2スイッチング素子と第1ダイオードのアノード間の配線上の接続距離が第1スイッチング素子と第1ダイオードのカソード間の配線上の接続距離よりも短く、第3スイッチング素子と第4ダイオードのカソード間の配線上の接続距離が第4スイッチング素子と第4ダイオードのアノード間の配線上の接続距離よりも短く、第4スイッチング素子と第3ダイオードのアノード間の配線上の接続距離が第3スイッチング素子と第3ダイオードのカソード間の配線上の接続距離よりも短くなるようにすればよい。
【0049】
また、そのような特徴的な配線の引き回しにより接続距離が長くなった配線については、コンデンサを介して接地してもよい。これにより、サージ電圧の発生を確実に防止することができる。更に、コンデンサに直流抵抗を直列接続すれば、サージ電圧をより抑えることができる。
【0050】
また、直流電源と接地間に直列接続されて挿入される第1及び第2スイッチング素子もしくは第3及び第4スイッチング素子を3組以上備え、各組のスイッチング素子間の接続配線を誘導性負荷を介して接続し、各スイッチング素子とは逆方向の電流をそれぞれ流す各ダイオードを該各スイッチング素子に並列接続した多相のインバータ装置においても、本発明を適用することができる。
【0051】
例えば、第1乃至第4スイッチング素子もしくは第1乃至第4ダイオードがSiC、GaAs、GaN等の化合物半導体を含んでいる場合は、サージ電圧に対するそれらの素子の耐性が低いので、本発明が有効である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0052】
以下、本発明の実施形態を添付図面を参照しつつ詳細に説明する。
【0053】
図1A、図1Bは、本発明のインバータ装置の第1実施形態を示しており、図1Aが本実施形態のインバータ装置の基板上の配線パターンを模式的に示し、図1Bが本実施形態のインバータ装置の配線接続を示している。
【0054】
本実施形態のインバータ装置は、複数の配線パターンP1〜P4に第1乃至第4トランジスタ11〜14、第1乃至第4ダイオード21〜24、及び第1乃至第4コンデンサ41〜44を振り分けて配置し、これらの素子を相互接続して構成されている。
【0055】
このインバータ装置では、直流電源1と接地間に、第1トランジスタ11と第2トランジスタ12を直列接続して挿入すると共に、第3トランジスタ13と第4トランジスタ14を直列接続して挿入している。従って、直流電源1と接地間に、第1及び第2トランジスタ11、12からなる直列回路と第3及び第4トランジスタ13、14からなる直列回路とを並列接続して挿入しているともいえる。
【0056】
また、第1及び第2トランジスタ11、12を接続する配線部分15と第3及び第4トランジスタ13、14を接続する配線部分16との間に、誘導性負荷17と直流抵抗18を直列接続して挿入している。
【0057】
更に、第1乃至第4トランジスタ11〜14には、該各トランジスタとは逆方向に電流をそれぞれ流す第1乃至第4ダイオード21〜24を並列接続している。
【0058】
ここで、第1ダイオード21のアノードAが配線部分15及び配線部分31を通じて第1トランジスタ11のエミッタEに接続され、また第1ダイオード21のカソードKが配線部分32を通じて第1トランジスタ11のコレクタCに接続されているので、第1ダイオード21が第1トランジスタ11とは逆方向に電流を流す向きで該第1トランジスタ11に並列接続されているといえる。
【0059】
そして、第1ダイオード21のアノードAは、配線部分15における該配線部分15と誘導性負荷17との接続点15aよりも第2トランジスタ12近くの部位、つまり第2トランジスタ12のコレクタC近傍に接続されている。この接続を実現するべく、第2トランジスタ12のコレクタCと第1ダイオード21のアノードA間の配線部分31が、第1トランジスタ11のコレクタCと第1ダイオード21のカソードK間の配線部分32よりも短くされている。
【0060】
第1ダイオード21のカソードKに接続された配線部分32であって、この配線部分32における第1トランジスタ11近くの部位と接地間には第1コンデンサ41が挿入接続されている。
【0061】
また、第2ダイオード22のアノードAが配線部分33を通じて第2トランジスタ12のエミッタEに接続され、第2ダイオード22のカソードKが配線部分34及び配線部分15を通じて第2トランジスタ12のコレクタCに接続されているので、第2ダイオード22が第2トランジスタ12とは逆方向に電流を流す向きで該第2トランジスタ12に並列接続されているといえる。
【0062】
そして、第2ダイオード22のカソードKは、配線部分15における接続点15aよりも第1トランジスタ11近くの部位、つまり第1トランジスタ11のエミッタE近傍に接続されている。この接続を実現するべく、第トランジスタ11のエミッタEと第2ダイオード22のカソードK間の配線部分34が第2トランジスタ12のエミッタEと第2ダイオード22のアノードA間の配線部分33よりも短くされている。
【0063】
第2ダイオード22のカソードKには第2コンデンサ42が接続されており、配線部分33が第2ダイオード22及び第2コンデンサ42を通じて接地されている。
【0064】
更に、第3ダイオード23のアノードAが配線部分16及び配線部分35を通じて第3トランジスタ13のエミッタEに接続され、また第3ダイオード23のカソードKが配線部分36を通じて第3トランジスタ13のコレクタCに接続されているので、第3ダイオード23が第3トランジスタ13とは逆方向に電流を流す向きで該第3トランジスタ13に並列接続されているといえる。
【0065】
そして、第3ダイオード23のアノードAは、配線部分16における接続点16aよりも第4トランジスタ14近くの部位、つまり第4トランジスタ14のコレクタC近傍に接続されている。この接続を実現するべく、第4トランジスタ14のコレクタCと第3ダイオード23のアノードA間の配線部分35が第3トランジスタ13のコレクタCと第3ダイオード23のカソードK間の配線部分36よりも短くされている。
【0066】
第3ダイオード23のカソードKに接続された配線部分36であって、この配線部分36における第3トランジスタ13近くの部位と接地間には第3コンデンサ43が挿入接続されている。
【0067】
また、第4ダイオード24のアノードAが配線部分37を通じて第4トランジスタ14のエミッタEに接続され、第4ダイオード24のカソードKが配線部分38及び配線部分16を通じて第4トランジスタ14のコレクタCに接続されているので、第4ダイオード24が第4トランジスタ14とは逆方向に電流を流す向きで該第4トランジスタ14に並列接続されているといえる。
【0068】
そして、第4ダイオード24のカソードKは、配線部分16における接続点16aよりも第3トランジスタ13近くの部位、つまり第3トランジスタ13のエミッタE近傍に接続されている。この接続を実現するべく、第3トランジスタ13と第4ダイオード24のカソードK間の配線部分38が第4トランジスタ14のエミッタEと第4ダイオード24のアノードA間の配線部分37よりも短くされている。
【0069】
第4ダイオード24のカソードKには第4コンデンサ44が接続されており、配線部分37が第4ダイオード24及び第4コンデンサ44を通じて接地されている。
【0070】
このような配線構成においては、比較的長い配線部分の寄生インダクタンスを無視することができないので、各配線部分15b、15c、16b、16c、32、33、36、37の寄生インダクタンスにそれぞれの符号55b、55c、56b、56c、52、53、56、57を付している。
【0071】
次に、本実施形態のインバータ装置の動作を、寄生インダクタンスの影響を踏まえて説明する。
【0072】
(ステップ1)図2Aに示すように第3及び第2トランジスタ13、12をオンにして、直流電源1の直流電流isを第3トランジスタ13→寄生インダクタンス56b→誘導性負荷17→直流抵抗18→寄生インダクタンス55c→第2トランジスタ12→接地という経路で流す。このとき、誘導性負荷17に+電圧が発生する。
【0073】
(ステップ2)図2Bに示すように第3及び第2トランジスタ13、12をオフにする。このとき、誘導性負荷17に自己誘導電流+iyが生じるが、接地→寄生インダクタンス57→第4ダイオード24→寄生インダクタンス56b→誘導性負荷17→直流抵抗18→寄生インダクタンス55c→第1ダイオード21→寄生インダクタンス52→直流電源1という電流の帰還経路が形成されるので、この帰還経路を通じて自己誘導電流+iyが流れ、誘導性負荷17の+電圧が維持される。第4及び第1ダイオード24、21は、帰還ダイオードの機能を果たす。
【0074】
(ステップ3)図2Cに示すように第1及び第4トランジスタ11、14をオンにして、直流電源1の直流電流isを第1トランジスタ11→寄生インダクタンス55b→直流抵抗18→誘導性負荷17→寄生インダクタンス56c→第4トランジスタ14→接地という経路で流す。このとき、誘導性負荷17に−電圧が発生する。
【0075】
(ステップ4)図2Dに示すように第1及び第4トランジスタ11、14をオフにする。このとき、誘導性負荷17に生じた自己誘導電流−iyが生じるが、接地→寄生インダクタンス53→第2ダイオード22→寄生インダクタンス55b→直流抵抗18→誘導性負荷17→寄生インダクタンス56c→第3ダイオード23→寄生インダクタンス56→直流電源1という電流の帰還経路が形成され、この帰還経路を通じて自己誘導電流−iyが流れ、誘導性負荷17の−電圧が維持される。第2及び第3ダイオード22、23は、帰還ダイオードの機能を果たす。
【0076】
このようなステップ1〜4の動作を繰り返して、直流電源1の直流電圧を交流電圧に変換する。
【0077】
ここで、図2A及び図2Bから明らかなようにステップ1では、各寄生インダクタンス56b、55cに電流が流れ、ステップ2でも、同一の各寄生インダクタンス56b、55cに電流が流れている。すなわち、ステップ1から2への切換わりで、第3及び第2トランジスタ13、12がオンからオフに切換わっても、各寄生インダクタンス56b、55cに電流が流れ続けている。これは、第4ダイオード24のカソードKを第3トランジスタ13のエミッタE近傍に接続し、かつ第1ダイオード21のアノードAを第2トランジスタ12のコレクタC近傍に接続したことから、第4ダイオード24から誘導性負荷17への電流経路が寄生インダクタンス56bを介して形成され、かつ直流抵抗18から第1ダイオード21への電流経路が寄生インダクタンス55cを介して形成されるためである。
【0078】
そして、第3及び第2トランジスタ13、12がオフになったデッドタイムでは、誘導性負荷17の自己誘導電流が直流電源1へと流れつつ速やかに減衰して行く。このため、各配線部分16b、15cの寄生インダクタンス56b、55cにサージ電圧が生じることは殆どない。
【0079】
同様に、図2C及び図2Dから明らかなようにステップ3では、各寄生インダクタンス55b、56cに電流が流れ、ステップ4でも、同一の各寄生インダクタンス55b、56cに電流が流れており、ステップ3から4への切換わりで、第1及び第4トランジスタ11、14がオンからオフに切換わっても、各寄生インダクタンス55b、56cに電流が流れ続けている。これは、第2ダイオード22のカソードKを第1トランジスタ11のエミッタE近傍に接続し、かつ第3ダイオード23のアノードAを第4トランジスタ14のコレクタC近傍に接続したことから、第2ダイオード22から直流抵抗18への電流経路が寄生インダクタンス55bを介して形成され、かつ誘導性負荷17から第3ダイオード23への電流経路が寄生インダクタンス56cを介して形成されるためである。
【0080】
そして、第1及び第4トランジスタ11、14がオフになったデッドタイムでは、誘導性負荷17の自己誘導電流が直流電源1へと流れつつ速やかに減衰して行く。このため、各配線部分15b、16cの寄生インダクタンス55b、56cにサージ電圧が生じることは殆どない。
【0081】
一方、本実施形態では、第1ダイオード21のアノードAを第2トランジスタ12のコレクタC近傍に接続したことから、第1ダイオード21のカソードKと第1トランジスタ11のコレクタC間の配線部分32が長くなっている。同様に、第2ダイオード22のカソードKを第1トランジスタ11のエミッタE近傍に接続したことから、第2ダイオード22のアノードAと第2トランジスタ12のエミッタE間の配線部分33が長くなり、また第3ダイオード23のアノードAを第4トランジスタ14のコレクタC近傍に接続したことから、第3ダイオード23のカソードKと第3トランジスタ13のコレクタC間の配線部分36が長くなり、更に第4ダイオード24のカソードKを第3トランジスタ13のエミッタE近傍に接続したことから、第4ダイオード24のアノードAと第4トランジスタ14のエミッタE間の配線部分37が長くなっている。
【0082】
このような長くなった各配線部分32、33、36、37の寄生インダクタンス52、53、56、57は、無視することができない程に大きく、サージ電圧の発生原因となる。
【0083】
例えば、図2B及び図2Cから明らかなようにステップ2では、各寄生インダクタンス52、57に電流が流れており、ステップ3では、同一の各寄生インダクタンス52、57に電流が流れておらず、ステップ2から3への切換わりで、各寄生インダクタンス52、57にそれぞれのサージ電圧が発生する可能性がある。
【0084】
また、図2D及び図2Aから明らかなようにステップ4では、各寄生インダクタンス53、56に電流が流れており、ステップ1では、同一の各寄生インダクタンス53、56に電流が流れておらず、ステップ4から1への切換わりで、各寄生インダクタンス53、56にそれぞれのサージ電圧が発生する可能性がある。
【0085】
ところが、先に述べたように各配線部分32、33、36、37を第1乃至第4コンデンサ41〜44を介して接地しているので、該各配線部分の寄生インダクタンス52、53、56、57の急峻な電圧変化を伴う電流成分を第1乃至第4コンデンサ41〜44を通じて接地側に流すことができ、電流の変化分di/dtを抑えて、各寄生インダクタンス52、53、56、57のサージ電圧を抑止することができる。
【0086】
このように本実施形態のインバータ装置では、ステップ1から2への切換わりで、第3及び第2トランジスタ13、12がオンからオフに切換わっても、各寄生インダクタンス56b、55cに電流が流れ続け、かつ第3及び第2トランジスタ13、12がオフになってからは、誘導性負荷17の自己誘導電流が速やかに減衰して行く。このため、各配線部分16b、15cの寄生インダクタンス56b、55cにサージ電圧が殆ど生じることはない。
【0087】
同様に、ステップ3から4への切換わりで、第1及び第4トランジスタ11、14がオンからオフに切換わっても、各寄生インダクタンス55b、56cに電流が流れ続け、かつ第1及び第4トランジスタ11、14がオフになってからは、誘導性負荷17の自己誘導電流が速やかに減衰して行く。このため、各配線部分15b、16cの寄生インダクタンス55b、56cにサージ電圧が殆ど生じることはない。
【0088】
また、配線の引き回しにより長くなった各配線部分32、33、36、37を第1乃至第4コンデンサ41〜44を介して接地しているので、該各配線部分の寄生インダクタンス52、53、56、57のサージ電圧を抑止することができる。
【0089】
しかも、各素子を近接配置する必要がなく、部品点数やコストの増大を招くことがなく、容易に実現することが可能である。
【0090】
更に、サージ電圧を効果的に抑制することができるので、第1乃至第4トランジスタ11〜14もしくは第1乃至第4ダイオード21〜24として、SiC、GaAs、GaN等の化合物半導体を含む耐圧性の低いものを適用することができる。
【0091】
次に、図1A、図1Bのインバータ装置における第1乃至第4トランジスタ11〜14をバイポーラトランジスタから電界効果トランジスタ(以下FETと称する)に置き換えて、図3に示すようなインバータ装置を構成した。そして、この図3のインバータ装置において、シミュレーションにより、図2A〜図2Dと同様の切換え動作を行い、この切換え動作に伴う第1乃至第4FET11〜14の電流波形及び電圧波形をそれぞれの箇所xで測定して求めたので、その結果を図4(a)〜(h)に示す。
【0092】
ただし、直流電源1の電圧を1(KV)とし、第1乃至第4FET11〜14のスイッチング周波数を50(KHz)とし、オンのときの第1乃至第4FET11〜14の抵抗値を0.001(Ω)とし、誘導性負荷17のインダクタンスを100(μH)とし、直流抵抗18の抵抗を10(Ω)とし、各寄生インダクタンス55b、55c、56b、56cのインダクタンスを1(μH)とし、各寄生インダクタン52、53、56、57のインダクタンスを5(μH)とし、第1乃至第4コンデンサ41〜44の容量を10(μH)とした。
【0093】
図4(a)、(b)は第1FET11の電流波形と電圧波形を示し、図4(c)、(d)は第2FET12の電流波形と電圧波形を示し、図4(e)、(f)は第3FET13の電流波形と電圧波形を示し、図4(g)、(h)は第4FET14の電流波形と電圧波形を示している。
【0094】
先に述べたようにステップ1から2への切換わりで、第3及び第2FET13、12がオフになっても、各寄生インダクタンス56b、55cに電流が流れ続け、誘導性負荷17の自己誘導電流が速やかに減衰して行くため、各配線部分16b、15cの寄生インダクタンス56b、55cにサージ電圧が殆ど生じることはなく、図4(d)、(f)に示すように第3及び第2FET13、12の電圧波形にもサージ電圧が現れない。
【0095】
同様に、ステップ3から4への切換わりで、第1及び第4FET11、14がオフに切換わっても、各寄生インダクタンス55b、56cに電流が流れ続け、誘導性負荷17の自己誘導電流が速やかに減衰して行くため、各配線部分15b、16cの寄生インダクタンス55b、56cにサージ電圧が殆ど生じることはなく、図4(h)、(b)に示すように第1及び第4FET11、14の電圧波形にもサージ電圧が現れない。
【0096】
図5は、図3のインバータ装置において第1乃至第4コンデンサ41〜44にそれぞれの直流抵抗を61〜64を直列接続して付加した変形例を示す図である。各直流抵抗61〜64は、各寄生インダクタンス52、53、56、57に生じたサージ電圧を熱に変換して放出するために設けられている。
【0097】
この変形例のインバータ装置においても、シミュレーションにより、図2A〜図2Dと同様の切換え動作を行い、この切換え動作に伴う第1乃至第4FET11〜14の電流波形及び電圧波形をそれぞれの箇所xで測定して求めたので、その結果を図6(a)〜(h)に示す。
【0098】
図6(a)、(b)は第1FET11の電流波形と電圧波形を示し、図6(c)、(d)は第2FET12の電流波形と電圧波形を示し、図6(e)、(f)は第3FET13の電流波形と電圧波形を示し、図6(g)、(h)は第4FET14の電流波形と電圧波形を示している。
【0099】
図6(a)〜(h)からも明らかなように第3及び第2FET13、12がオフになっても、第3及び第2FET13、12の電圧波形にサージ電圧が現れず、また第1及び第4FET11、14がオフに切換わっても、第1及び第4FET11、14の電圧波形にもサージ電圧が現れない。
【0100】
図7は、本発明のインバータ装置の第2実施形態における基板上の配線パターンを模式的に示している。
【0101】
本実施形態のインバータ装置は、3相インバータ装置であり、複数の配線パターンP1〜P5に第1乃至第6トランジスタ71〜76、第1乃至第6ダイオード91〜96、及び第1乃至第6コンデンサ101〜106を振り分けて配置し、これらの素子を相互接続して構成されている。
【0102】
このインバータ装置では、直流電源1と接地間に、第1トランジスタ71と第2トランジスタ72を直列接続して挿入し、第3トランジスタ73と第4トランジスタ74を直列接続して挿入し、第5トランジスタ75と第6トランジスタ76を直列接続して挿入している。
【0103】
また、第1及び第2トランジスタ71、72を接続する配線部分81、第3及び第4トランジスタ73、74を接続する配線部分82、第5及び第6トランジスタ75、76を接続する配線部分83に誘導性負荷84の3端子をそれぞれ接続している。誘導性負荷84の3端子のうちの1つと配線部分83間には直流抵抗85が挿入されている。
【0104】
更に、第1乃至第6トランジスタ71〜76には、該各トランジスタとは逆方向に電流をそれぞれ流す第1乃至第6ダイオード91〜96を並列接続している。
【0105】
また、第1乃至第6ダイオード91〜96のカソードK側を第1乃至第6コンデンサ101〜106を介して接地している。
【0106】
このような構成のインバータ装置においては、第1、第3、及び第5ダイオード91、93、96のアノードを第2、第4、及び第6トランジスタ72、74、76のコレクタC近傍に接続し、また第2、第4、及び第6ダイオード92、94、96のカソードKを第1、第3、及び第5トランジスタ71、73、75のエミッタE近傍に接続している。このため、第1及び第2トランジスタ71、72のオンオフの切換え、第3及び第4トランジスタ73、74のオンオフの切換え、第5及び第6トランジスタ75、76のオンオフの切換えに際しては、第2、第4、及び第6トランジスタ72、74、76のコレクタC近傍の配線部分に電流が流れ続け、また第1、第3、及び第5トランジスタ71、73、75のエミッタE近傍の配線部分にも電流が流れ続け、これらの配線部分の寄生インダクタンスを原因とするサージ電圧が生じることはない。
【0107】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は係る例に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと解される。
【0108】
例えば、上記各実施形態では、配線の引き回しにより長くなった配線部分をコンデンサを介して接地しているが、長くなった配線部分が存在しなかったり、長くなった配線部分が存在しても、この配線部分の寄生インダクタンスの影響がないのであれば、コンデンサを介して接地する必要がない。
【0109】
また、直流電源と接地間に複数組のスイッチング素子を直列接続して挿入し、各組のスイッチング素子間の接続配線を誘導性負荷を介して接続し、各スイッチング素子とは逆方向の電流をそれぞれ流す各ダイオードを該各スイッチング素子に並列接続した多相のインバータ装置においても、本発明を適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0110】
【図1A】本発明のインバータ装置の第1実施形態における基板上の配線パターンを模式的に示す図である。
【図1B】第1実施形態のインバータ装置の配線接続を示す回路図である。
【図2A】第1実施形態のインバータ装置のステップ1の動作における電流の流れを示す図である。
【図2B】第1実施形態のインバータ装置のステップ2の動作における電流の流れを示す図である。
【図2C】第1実施形態のインバータ装置のステップ3の動作における電流の流れを示す図である。
【図2D】第1実施形態のインバータ装置のステップ4の動作における電流の流れを示す図である。
【図3】図1Bにおけるバイポーラトランジスタを電界効果トランジスタに置き換えて構成されたインバータ装置を示す回路図である。
【図4】(a)乃至(h)は、図3のインバータ装置における第1乃至第4FETの電流波形及び電圧波形を示す図である。
【図5】図3におけるコンデンサに直流抵抗を直列接続して構成されたインバータ装置を示す回路図である。
【図6】(a)乃至(h)は、図5のインバータ装置における第1乃至第4FETの電流波形及び電圧波形を示す図である。
【図7】本発明のインバータ装置の第2実施形態における基板上の配線パターンを模式的に示す図である。
【図8A】従来のインバータ装置における基板上の配線パターンを模式的に示す図である。
【図8B】従来のインバータ装置の配線接続を示す回路図である。
【図9A】従来のインバータ装置のステップ1の動作における電流の流れを示す図である。
【図9B】従来のインバータ装置のステップ2の動作における電流の流れを示す図である。
【図9C】従来のインバータ装置のステップ3の動作における電流の流れを示す図である。
【図9D】従来のインバータ装置のステップ4の動作における電流の流れを示す図である。
【図10】図8Bにおけるバイポーラトランジスタを電界効果トランジスタに置き換えて構成された従来のインバータ装置を示す回路図である。
【図11】(a)乃至(h)は、図10の従来のインバータ装置における第1乃至第4FETの電流波形及び電圧波形を示す図である。
【符号の説明】
【0111】
1 直流電源
11〜14 第1乃至第4トランジスタ
15、16、31〜38 配線部分
17 誘導性負荷
18 直流抵抗
21〜24 第1乃至第4ダイオード
41〜44 第1乃至第4コンデンサ
52、53、56、57、55a、55c、56a、56c 寄生インダクタンス
61〜64 直流抵抗

【特許請求の範囲】
【請求項1】
直流電源と接地間に第1及び第2スイッチング素子を直列接続して挿入すると共に第3及び第4スイッチング素子を直列接続して挿入し、第1及び第2スイッチング素子間の接続配線と第3及び第4スイッチング素子間の接続配線を誘導性負荷を介して接続し、第1乃至第4スイッチング素子とは逆方向の電流をそれぞれ流す第1乃至第4ダイオードを第1乃至第4スイッチング素子に並列接続しており、第3及び第2スイッチング素子をオンにして、第3及び第2スイッチング素子を通じて誘導性負荷に一方向に直流電源電流を流した後に、第3及び第2スイッチング素子をオフにして、第4及び第1ダイオードを通じて誘導性負荷に一方向の自己誘導電流を流し、引き続いて第1及び第4スイッチング素子をオンにして、第1及び第4スイッチング素子を通じて誘導性負荷に逆方向に直流電源電流を流した後に、第1及び第4スイッチング素子をオフにして、第2及び第3ダイオードを通じて誘導性負荷に逆方向に自己誘導電流を流すという切換え動作を繰り返して、直流電圧から交流電圧への変換を行うインバータ装置において、
第1ダイオードのアノードを第1及び第2スイッチング素子間の接続配線における該接続配線と誘導性負荷の接続点よりも第2スイッチング素子近くの部位に接続し、
第2ダイオードのカソードを第1及び第2スイッチング素子間の接続配線における該接続配線と誘導性負荷の接続点よりも第1スイッチング素子近くの部位に接続し、
第3ダイオードのアノードを第3及び第4スイッチング素子間の接続配線における該接続配線と誘導性負荷の接続点よりも第4スイッチング素子近くの部位に接続し、
第4ダイオードのカソードを第3及び第4スイッチング素子間の接続配線における該接続配線と誘導性負荷の接続点よりも第3スイッチング素子近くの部位に接続したことを特徴とするインバータ装置。
【請求項2】
第1スイッチング素子と第2ダイオードのカソード間の配線上の接続距離が第2スイッチング素子と第2ダイオードのアノード間の配線上の接続距離よりも短く、
第2スイッチング素子と第1ダイオードのアノード間の配線上の接続距離が第1スイッチング素子と第1ダイオードのカソード間の配線上の接続距離よりも短く、
第3スイッチング素子と第4ダイオードのカソード間の配線上の接続距離が第4スイッチング素子と第4ダイオードのアノード間の配線上の接続距離よりも短く、
第4スイッチング素子と第3ダイオードのアノード間の配線上の接続距離が第3スイッチング素子と第3ダイオードのカソード間の配線上の接続距離よりも短いことを特徴とする請求項1に記載のインバータ装置。
【請求項3】
第1スイッチング素子と第1ダイオードのカソード間の配線、第2スイッチング素子と第2ダイオードのアノード間の配線、第3スイッチング素子と第3ダイオードのカソード間の配線、及び第4スイッチング素子と第4ダイオードのアノード間の配線の少なくとも1つをコンデンサを介して接地したことを特徴とする請求項2に記載のインバータ装置。
【請求項4】
コンデンサに直流抵抗を直列接続したことを特徴とする請求項3に記載のインバータ装置。
【請求項5】
直流電源と接地間に直列接続されて挿入される第1及び第2スイッチング素子もしくは第3及び第4スイッチング素子を3組以上備え、各組のスイッチング素子間の接続配線を誘導性負荷を介して接続し、各スイッチング素子とは逆方向の電流をそれぞれ流す各ダイオードを該各スイッチング素子に並列接続したことを特徴とする請求項1に記載のインバータ装置。
【請求項6】
第1乃至第4スイッチング素子もしくは第1乃至第4ダイオードは、SiC、GaAs、GaN等の化合物半導体を含むことを特徴とする請求項1に記載のインバータ装置。

【図1A】
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【図1B】
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【図2A】
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【図2B】
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【図2C】
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【図2D】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8A】
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【図8B】
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【図9A】
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【図9B】
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【図9C】
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【図9D】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2010−136505(P2010−136505A)
【公開日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−308779(P2008−308779)
【出願日】平成20年12月3日(2008.12.3)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】