説明

インビボバイオリアクターを使用する軟骨の修復のための方法および組成物

【課題】椎間板の生体構造を回復し、その機能を改善する改良法を提供する。
【解決手段】不活性構造体、生体コアの双方を組み合わせたハイブリッド構築体を使用する、軟骨の生物学的修復の方法および組成物が記載されている。不活性構造体は、生体コア成分に栄養供給と生育とを施す送達系として作用するだけでなく、細胞分化の誘発剤としても作用することを意図している。この不活性構造体は、同心性で、内部および外部をなし、膨張性/拡張性バルーン様の各バイオポリマーを含む。生体コアは、足場中に播種した、例えばHDFからなる細胞−マトリックス構築体を含む。該方法は、患者の損傷軟骨を外科的に除去し、前記外科的介入後に生成した空洞中にハイブリッド構築体を挿入することを含む。不活性構造体の各バルーンは、例えば関節などの対象領域内で相次いで膨張させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願への相互参照
本願は、2006年2月7日に出願された、「Method for Repairing an Intervertebral Disc」という名称の米国仮特許出願第60/771,172号に対する優先権を主張し、また2006年3月24日に出願された、「Multi−Layered Multi−Compartmental Three−Dimensional Polymeric Scaffold For Intervertebral Disc Repair」という名称の米国仮特許出願第60/785,478号に対する優先権を主張する。
【0002】
発明の分野
本発明は、一般的には、少なくとも医学、外科学、解剖学、生物学、細胞生物学および/または分子生物学の分野に関する。特定の態様では、本発明は、関節軟骨修復などの軟骨修復の分野に関する。より特定すれば、本発明の分野は、機械的応力下で細胞を軟骨細胞様細胞に成長、増殖および/または分化させるための細胞マトリックス封入装具に関する。
【背景技術】
【0003】
関節軟骨は、通常、一旦損傷すると自然には再生されない組織である。最近、損傷した生体組織の一部を試験室で再生することにより、該損傷組織を再建する研究がなされてきた。「組織工学」と定義されるこの手法は、非常に大きな関心を引き起こしてきた。
【0004】
組織工学では、生体組織と特異的に相互作用し、機能的な組織等価物を産生できる生体適合性材料の開発が必要である。組織工学は、患者から所望の組織を採集し、その組織試料から細胞を分離し、細胞を増殖させ、増殖細胞を生分解性ポリマー足場上に播種し、該細胞を所定の期間インビトロで培養し、その細胞/ポリマー構築体を患者に移植して戻すという基本概念を有している。移植後、移植足場中の細胞は、体液の拡散で得られる酸素および栄養素を使用して増殖し、分化することにより、新たな組織を形成する一方で、該足場は溶解してしまう。
【0005】
生体組織の再生に使用される足場は、細胞が材料表面に付着し、三次元組織を形成することを可能とするマトリックスとして機能する材料から、普通構成されている。この材料は、無毒、生体適合性で生分解性とすべきである。前記の物理的要件を満足する最も汎用的な生分解性ポリマーには、ポリグリコール酸(PGA)、ポリ乳酸−co−グリコール酸(PLGA)、ポリ−ε−カプロラクトン(PCL)、ポリアミノ酸、ポリ酸無水物、ポリオルトエステルなどの有機ポリマー、コラーゲン、ヒアルロン酸、アルギネート、アガロース、キトサンなどの天然ヒドロゲル、ポリ(エチレンオキシド)(PEO)、ポリ(ビニルアルコール)(PVA)、ポリ(アクリル酸)(PAA)、ポリ(プロピレンフマレート−co−エチレングリコール)[P(PF−co−EG)]およびそれらのコポリマーなどの合成ヒドロゲルが挙げられる。
【0006】
前記のポリマーは、多孔性足場を作製するためにこれまで研究されてきた。しかし、従来の作製技法では、細胞増殖が十分に支持されない低多孔度の足場が一般に生じる。該足場の表面上の細孔はしばしば遮断され、栄養素が細胞に十分に供給されず、細胞が足場内へ増殖するのが困難である。最近になって、組織工学の分野における微小加工技術の適用によって、ミクロン大の分解能を有する複雑な足場の開発が可能となった。「微量流体足場」と呼称されるこうした足場は、足場内での流体流れを可能にする微小流路の網構造を提供する。微小流路のこの網構造は、足場の個々の区域へ栄養素、可溶性因子の双方を供給することを補助する。
【0007】
該足場は、半透膜で封入することもできる。特許文献1は、半透膜で被包した多孔性足場に関する。この半透膜は、足場外から足場内へ栄養素を選択的に導入し、組織細胞が生成した老廃物を足場外へ排泄もする。この公開には、生体組織を再生するために、この足場内でインビトロで細胞を増殖させる方法が記載されている。
【0008】
特許文献2は、半透膜に封入した糸製マトリックス中に細胞を含有する装具について記載している。この場合には、半透膜は、移植細胞が栄養素を摂取するのを可能にするだけでなく、移植細胞が産生する治療性分子が宿主細胞へ拡散することも可能にする。この装具は、細胞療法、即ち、封入細胞が宿主へ内因性タンパク質を分泌することのために使用される。この装具は、生体人工臓器(例えば、インスリンの分泌による人工すい臓)として機能する。
【0009】
栄養素の拡散が改良された足場の工学におけるこのような進歩にもかかわらず、患者に移植し終えた足場は栄養素の供給を制限される。実際には、栄養素および酸素は、インビボで、椎間板に隣接する脊椎端板中の血管を介して椎間板細胞に送達される。変性椎間板疾患では、脊椎の脊椎端板が十分な機能性を示さず、移植した細胞−足場に対して栄養を十分に拡散することができない。
【0010】
関節軟骨を操作・作製するために、様々な細胞型を使用することができる。存在する軟骨の生検試料に由来する、関節軟骨の一次分化細胞(即ち、軟骨細胞)を使用することができる。異種細胞または死体細胞の入手は病原体を移入する危険性を本質的に伴うので、こうした細胞は、自家源から入手することが多い。骨髄中に見出される胚様細胞である間葉幹細胞(MSC)は、各種の間葉組織、特に軟骨組織に分化できるため、軟骨工学のもう1つの細胞源である。
【0011】
しかし、こうした細胞調達は多くの問題を提起する。椎間板からの軟骨細胞は採集が困難であるが、その理由は、該自家細胞が、患者の椎間板から得られるため、生検を行うために侵襲的処置(腰部手術)を要することである。健常な椎間板から細胞を採集するならば、健常な椎間板の機能が危険に曝される。椎間板切除中の損傷椎間板から細胞を採集するならば、変性組織の異常細胞が得られる。その上、軟骨細胞は脱分化するので、培養で増殖させるのが困難である。他の軟骨由来の軟骨細胞に関しては、耳の弾性軟骨は採集が容易であるが、ヒアリン軟骨しか産生せず、椎間板のような線維軟骨を産生しない。MSCも、骨髄生検を要するので、幾つかの欠点を有している。組織工学には多量の細胞が必要であるが、成体幹細胞を多量に得ることは困難である。
【0012】
夥しい論文で、間葉幹細胞の軟骨形成を刺激する、または軟骨細胞を脱分化する培養条件が報告されてきた。こうした条件は、以下の条件、即ち、高密度マイクロマス培養、低酸素状態、骨形成タンパク質(BMP)(特にBMP−2、4、6および7)、トランスフォーミング増殖因子β(TGF−β)および/またはインスリン増殖因子I(IGF−I)などの増殖因子の補充、アスコルビン酸の補充、アルギネートなどの特定マトリックス上での培養、間欠的静水圧(IHP)などの機械的応力下での培養である(Watt、1988年;Dozinら、1992年;Sullivanら、1994年;Denkerら、1999年;Zur Niedenら、2005年;Zhouら、2004年;Majumdarら、2001年;Barryら、2001年;Elderら、2005年;Mowら、1992年;Dommら、2000年)。
【0013】
ヒト真皮線維芽細胞(HDF)を軟骨細胞様細胞に変換することを報告した研究は、これまで殆どない。米国特許第6489165号は、高密度マイクロマス培養および低酸素状態下でのHDFの軟骨細胞様細胞への変換に関する。French MMら(2004年)は、HDFをプロテオグリカンのアグリカン上で増殖させ、インスリン増殖因子I(IGF−I)を補充した際の該細胞の軟骨細胞への変換を報告した。
【0014】
変性椎間板疾患
変性椎間板疾患(DDD)のために、脊椎外科医4500名が毎年行う700000件の処置が必要とされ、椎間板障害の大多数は若年患者に起こる。したがって、この疾患を治療するために、有効で安全な戦略を開発することが肝要である。
【0015】
椎間板(IVD)は、異なる3組織、即ち輪部、核部および軟骨端板からなる複雑な構造体である。その輪部は、コラーゲン線維の良く組織化された多層構造体である。その核部は、グリコサミノグリカン(親水性高分子)から主になる。軟骨端板は栄養素を供給する。前記組合せは、正常な椎間板が相反する2機能、安定性および柔軟性を行使することを可能にする。
【0016】
椎間板は、衝撃を吸収し、運動を維持し、安定性を保持する。他の軟骨同様に、(2つの椎骨間の関節として作用する)椎間板の生来の修復能は低いが、その理由は、椎間板は無血管であり、端板での受動拡散だけでしか栄養上支えられていないからである。したがって、変性過程が活性化されてしまうと、それは最終的には不可逆的状態と見なされる。損傷を受けてしまうと、変性椎間板は隆起するか、突き出す恐れがあり、そのため除去する必要がある。
【0017】
変性椎間板疾患のために慢性的な腰痛のある患者に対する一般的な外科治療は、椎間板切除、脊椎固定のいずれかである。椎間板切除は、適切な処置であり、輪部内の開窓部を介して変性核部を除去するために、常套的に行われる。それによって、突き出した核部(ヘルニア切開)および変性し、残存した椎間核部断片の双方の除去が可能となる。この処置は、神経系(根または馬尾)の減圧および緩和にとって理想的であるが、脊椎にとっては不十分な手術である。何故なら、その処置は、例えば、固定または関節形成のような追加の侵襲的外科処置を必要とする恐れのある変性カスケードを起こす、潜在的に身体障害性の状態を創り出すからである。椎間板切除は、神経根痛の緩和に良好な短期作用をもたらすが、神経孔狭窄、治療程度の不安定性、背痛に関する成績不良、および/または例えば脊髄狭窄、椎間関節痛などの合併症を伴う椎間板の高さ減少を起こす。
【0018】
脊椎固定は、腰痛に対する最も有効な治療である。それは、椎間板全体を除去し、2個の隣接椎骨を移植片(例えば、ケージ、骨移植片、および/または固定具)の挿入により一体化する(「融合する」)外科処置である。それは、椎間板変性が進行した患者に適応がある。米国だけで毎年20万件余りの脊椎固定が実施されているが、その運動を失わせることにより、脊椎固定は、椎間板の生体力学的性質を変化させ、固定した椎間板に隣接する椎間板上の応力および歪みを増加させる。事実、椎間板切除、固定のいずれも、罹患椎間板、隣接椎間板および周辺組織(椎間関節)の状態を悪化させ、更に変性を起こす。
【0019】
こうした処置の失敗から、例えば、椎間板または椎間板核部の補綴などの非固定技術の開発に対する探索がなされてきた。人工椎間板を用いる椎間板関節形成は、椎間板変性患者に対する新たな治療法である。その利点は、運動を維持し、隣接セグメントの変性発生率を減少させ、固定に関連する合併症を回避し、早期の機能回復を可能にすることである。今日では、2種の装具、即ち全椎間板置換具および核部置換具が市販されているが、いずれにも大きな落とし穴がある。全椎間板置換具は、椎間板全体、即ち輪部、核部および端板を代替するように設計された嵩高い金属製補綴である。こうした補綴では、血管外科医の立会いを要する侵襲的前面(腹膜経由または腹膜後の)操作を使用する。固定の緩み、摩耗屑、隣接椎間板の変性、椎間関節症、およびこの種の補綴の沈下が、これまで報告された。人工核部代用具は、残った椎間板組織およびその機能を保護する。その設計により、後面操作による移植が可能であるが、このような核部補綴の主たる制約は、能力ある天然の輪部の存在が必要なために、椎間板変性が早期または中間期の段階にある患者においてしか使用できないことである。インプラントの突出しは、依然として主要な懸念である。ヒドロゲル系装具として、その代用具は壊れ易いため、腰椎の顕著な生体力学的制約(せん断力)に抗しきれない。不活性材料として、そうしたものは、経時的に機械的性質を失う恐れもあり、これまでに引裂きおよび破断が報告された。核部だけを置換し、損傷した輪部をその場に残しておくと、インプラントの突出し、または椎間板ヘルニアの常習的発生の条件が生まれる。
【0020】
組織工学および再生医療は、DDDの治療に対する新たな選択肢を代表する。組織を再生するために、多様な手法が使用されている。これらの手法は、以下の3群に分類することができる。即ち、1)追加の細胞を用いずに、細胞を引き寄せ、再生を促進するためのシグナルの送出に使用される生体材料、2)組織を形成するために、細胞だけを使用してもよい、および3)組織発現用の骨組みとして作用する生体材料足場と共に、細胞を使用してもよい。関節軟骨の修復に自家軟骨細胞移植(ACT)がここ数年使用されてきたが、椎間板修復のための組織工学は未だその揺籃期にある。集中的な研究が現在なされており、動物試験では、組織工学的に作製した椎間板の妥当性が示されてきた。より興味深いことに、最近の試験的な臨床研究では、ACTが椎間板ヘルニアの効率的な治療法であることが示された。椎間板修復に対するACTの主たる欠点は、椎間板生検試料が必要なことである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0021】
【特許文献1】米国特許出願公開第2006/0147486号明細書
【特許文献2】米国特許第6,627,422号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0022】
したがって、椎間板の生体構造を回復し、その機能を改善する改良法の必要性が存在しており、したがって軟骨修復の改良法の必要性がなお存在している。本発明は、こうした目的および他の目的を満足させようとするものであり、当技術分野における長年来の必要性に対する解決策を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0023】
発明の要旨
本発明は、例えば椎間板軟骨および関節軟骨を含めた任意種の軟骨を、生物学的に修復するための方法および組成物に関する。より具体的には、だがそれだけに限らずに、本発明は、インビボバイオリアクターとして作用する不活性構造体と、例えば、特定の実施形態では例示的なヒト真皮線維芽細胞(HDF)に由来する細胞などの、軟骨細胞または軟骨細胞様細胞からなる生体構造体との組合せである埋め込み型装具を用いる、軟骨を生物学的に修復するための方法および組成物に関する。より特定すれば、だがそれだけに限らずに、本発明は、不活性構造体、生体コア双方を組み合わせたハイブリッド構築体に関する。不活性構造体は、生体コア成分に栄養供給と生育とを施す送達系として作用するだけでなく、ある種の態様では細胞分化の誘発剤としても作用する。本発明の実施形態では、この不活性構造体は、2種の拡張性バルーン様バイオポリマー、即ち、外膜(バルーン類似)内に囲い込まれた内膜(やはりバルーン類似)からなる。したがって、該不活性構造体は、2種の概ね同心性の膨張可能膜を含む。この2種の膜は、第1の密閉膜が第2の密閉膜内に構造的に入っているものと更に定義してもよい。特定の実施形態では、その形状は、概ね真球、概ね楕円、概ね球形、概ね球体、概ね円板状、概ね長球、概ね球面、バルーン様などであると見なしてもよい。付加的な特定の実施形態では、その形状は、個体特異的であり、その個体の関節または椎間板領域中にある残存空洞の形状および大きさに一致する。
【0024】
ある種の態様では、本発明は、幹細胞、軟骨細胞などからインビトロで天然組織を生成する。より特定すれば、だがそれだけに限らずに、本発明は、ヒト線維芽細胞を増殖させ、例えば軟骨細胞様細胞に分化させる方法に関する。ある種の実施形態では自家細胞である該細胞は、天然マトリックスを模倣するなどのために、1種または複数のバイオポリマーで作製された足場マトリックス中に入れられる。該足場にインビトロで播種してもよく、ある種の態様では、細胞、マトリックスまたはその両方に増殖因子が供給される。該足場は、媒体の潅流系であり、足場への機械力の適用を可能とするバイオリアクター中に入れられる。その力の送達後、細胞は、特に軟骨生成のための分化をする際に補助される。
【0025】
特定の実施形態では、本発明は、ある種の細胞の軟骨細胞様細胞への分化を用いる。特定の実施形態では、例えばHDFは、低酸素状態(Nicollら、2001年)、高密度マイクロマス培養、およびアグリカン(Frenchら、2004年)などの特定マトリックス上での培養など、特別な培養条件下で軟骨細胞様細胞へ分化される。特定の実施形態では、椎間軟骨細胞のインビボ環境を模倣する要因は、HDFの軟骨形成分化に対する効力ある刺激剤である。例えば、このような要因には、以下のもの、即ち1)三次元性、2)低酸素圧(<5%)、および3)機械的応力、ならびに4)間欠的静水圧が含まれる。特定の実施形態では、三次元アルギネートビーズ培養基中に播種したHDFの細胞生存率および軟骨形成分化が、判定される。別の実施形態では、アルギネートビーズ中で培養したHDFの分化に対する酸素圧の効果が、特徴付けられる。付加的な特定の一実施形態では、アルギネートビーズ中で培養したHDFの分化に対する静水圧縮の効果が、特徴付けられる。
【0026】
細胞の軟骨細胞または軟骨細胞様細胞への分化は、該装具の個体中への移植前のインビトロ分化、または該装具の個体中への移植前のインビトロ分化に加え、移植後のインビボ分化を含めた適当な任意の方法で起こしてもよい。
【0027】
特定の実施形態では、本発明の装具は、椎間板、肘、膝、肩、股、顎の関節などの関節をインビボで再生する方法を提供する。本発明のある種の態様では、生体区画は、HDFから誘導されるような軟骨細胞様細胞を生体材料中に播種した細胞−マトリックス構築体を含む。該生体区画の培養および分化は、ある種の実施形態では、インビトロで開始してもよい。生体コアは、不活性生体材料中に播種した後、移植し、その細胞は、インビボで増殖し、分化し続ける。
【0028】
ある種の実施形態では、本発明の適用の焦点となる軟骨は椎間板軟骨である。本発明の特定の態様では、本発明で利用される細胞は、軟骨形成分化のために機械的歪みを受ける。したがって、本発明の実施形態は、生体コアの増殖および分化を誘発するために、インビボバイオリアクターとして作用する椎間不活性構造体を提供する。更なる実施形態では、本発明は、できる限り侵襲性の少ない手術を用いて体腔中に移植するための、不活性構造体と生体コアとを組み合わせたハイブリッド構築体を提供する。
【0029】
本発明の例示的目的は、変性椎間板を修復すること、例えば、椎間板の生体構造を回復し、その機能を改善することを意図した方法を提供することである。本発明の特定の態様では、内部生体コアの栄養供給および分化を意図した不活性材含有装具で作製した、ハイブリッド構造体を用いて損傷椎間板を修復する方法が提供される。したがって、該不活性構造体は、栄養素および増殖因子の送達系として、また自家真皮線維芽細胞を軟骨細胞様細胞に分化することができるバイオリアクターとして作用する。機械的応力(間欠的静水圧および/または流体せん断応力)の下で、該細胞は、中心部では核部細胞、および周辺部では輪部細胞の特性を獲得することになろう。例示的な線維芽細胞由来の軟骨細胞様細胞は、生検などにより皮膚から採集し、次いで椎間板修復に使用するために、三次元ポリマー足場上に播種してもよい。こうすることで、特定の態様では、自家軟骨細胞の採集に対する侵襲的技法の必要性が回避されよう。栄養送達系として作用する不活性生体材料と、例えば皮膚から容易に採集される生細胞とを組み合わせた、本発明のハイブリッド構築体のある種の態様の利点は、該構築体が、自己維持または再建することができ、例えばできる限り侵襲性の少ない後部外科手法を用いて、椎間板機能を回復し得ることである。
【0030】
本発明のある種の態様では、関節または椎間腔の損傷軟骨は除去され、前記除去でできた腔内にハイブリッド構築体が据え付けられる。本発明の幾つかの実施形態では、該装具は、できる限り侵襲性の少ない外科処置を用いて移植される。特定の実施形態では、典型的な外科技法が採用される。椎間板に対する一般的実施形態において、例えば腰椎における2つの隣接椎骨間から椎間板を除去しなければならないとき、患者の背部から後部で外科処置をする方が侵襲性が少ない。このできる限り侵襲性の少ない処置により、椎間板の変性核部断片を除去するために、輪部内の小開口部を介した体腔を掻爬(輪部切除)して進めることが可能になる。この輪部内小開口部を用いて、本発明では、前記切り口の中を滑らせ、次いで核部除去で生成した区域中に例えばその体腔内から拡張させることのできる、新規な椎間修復用パックを採用する。特定の実施形態では、損傷椎間板の除去および組織工学的に作製した構築体の据付は、同じ後部手術で行われるため、危険性、外科合併症の確率および再介入、ならびに手術時間が最小限になる。
【0031】
本発明の一実施形態では、細胞/足場組成物および封入装具を備えた埋め込み型装具であって、該封入装具が、概ね同心性の第1の膜と、概ね同心性のその第1の膜の外側に同心的である概ね同心性の第2の膜と、概ね同心性のその第1の膜内にある第1の体積と、概ね同心性のその第1の膜の外側にあり、概ね同心性のその第2の膜の内側にある第2の体積と、その第2の体積から物質を抽出するための構造体とを備え、概ね同心性のその第1の膜が、半透膜であって、前記細胞/足場組成物を収容している、埋め込み型装具が存在する。各膜の中心が実質的に接近していれば、一方の膜は、他方の膜に対して概ね同心的であると見なし得る。
【0032】
本発明のある種の態様では、個体は、本発明の埋め込み型装具に加え、別の療法も提供される。例えば、該装具の移植の前、最中および/または後に、個体は1種または複数の抗生物質を受け入れてもよい。例示的な術後療法には、非ステロイド抗炎症薬(NSAID)、単なる痛み止め(鎮痛剤)、および/または必要であれば筋弛緩剤が挙げられ、その後に、例えば、術後第1週、第2週、第3週またはそれより後の週などの後に、術後の機能回復訓練を行ってもよい。
【0033】
幾つかの実施形態では、不活性材料からなる封入装具と軟骨細胞様細胞からなる生体コアとを含む、軟骨修復用のハイブリッド構造体が存在する。この封入装具は、軟骨工学用のインビボバイオリアクターとして作用する。該装具は、増殖因子および栄養素を供給し、生理的負荷系を伝達することにより、軟骨細胞のインビボでの増殖および分化を可能にする。
【0034】
本発明の一実施形態では、細胞/足場組成物および封入装具を備える埋め込み型装具であって、該封入装具が、内側および外側を有する第1の膜と、内側および外側を有し、その内側に第1の膜を封入している第2の膜と、第1の膜の内側に配置されている第1の体積と、第1の膜の外側に配置され、第2の膜の内側に配置されている第2の体積と、第2の体積に流体を添加し、第2の体積から流体を除去し、またはその双方を行うための構造体とを備え、前記細胞/足場組成物は、第1の膜の内側に配置され、第1の膜は、以下の特性:半透性、生体適合性、生分解性および吸収性の1種または複数を有し、第2の膜は、以下の特性:生体適合性、液密性、酸素透過性、吸収性、生分解性および拡張性の1種または複数を有する、埋め込み型装具が存在する。
【0035】
ある特定の実施形態では、該足場は、合成ポリマー、天然ヒドロゲルまたは合成ヒドロゲルからなる。追加のある特定の実施形態では、該合成ポリマーは、ポリグリコール酸、ポリ乳酸、ポリ乳酸−co−グリコール酸、ポリ−ε−カプロラクトンまたはポリ(グリセロール−セバケート)(PGS)である。別の特定の実施形態では、該合成ポリマーは、ポリホスファゼン、ポリ酸無水物またはポリ(オルトエステル)である。特別な実施形態では、該天然ヒドロゲルは、コラーゲン、ヒアルロン酸、アルギネート、アガロース、キトサン、フィブリン、ゼラチン、またはそれらのコポリマーを含む。ある更なる実施形態では、該合成ヒドロゲルは、ポリ(エチレンオキシド)、ポリ(ビニルアルコール)、ポリ(アクリル酸)、ポリ(プロピレンフマレート−co−エチレングリコール)、またはそれらのコポリマーを含む。
【0036】
本発明のある種の態様では、該装具中の細胞は、軟骨細胞または軟骨細胞様細胞が、アグリカン、II型コラーゲン、Sox−9タンパク質、軟骨リンクタンパク質およびパールカンからなる群から選択される分子を分泌する場合などの、軟骨細胞または軟骨細胞様細胞である。特別な事例では、該細胞は、線維芽細胞および/または幹細胞から分化した。例示的な線維芽細胞は、真皮線維芽細胞、腱線維芽細胞、靭帯線維芽細胞、滑膜線維芽細胞、包皮線維芽細胞、またはそれらの混合細胞である。
【0037】
特別な態様では、該第1の膜は、生分解性、生体適合性および吸収性のポリマーからなる。更なる態様では、該第1の膜は、ポリアクリレート、ポリビニリデン、ポリ(塩化ビニル)コポリマー、ポリウレタン、ポリスチレン、ポリアミド、酢酸セルロース、硝酸セルロース、ポリスルホン、ポリホスファゼン、ポリアクリロニトリル、ポリ(アクリロニトリル/co塩化ビニル)、またはそれらの誘導体、コポリマーもしくは混合物からなる。特定の態様では、該第1の膜は高分子電解質の複合体形成により生成する。特定の態様では、該第2の膜は、ポリグリコール酸(PGA)、ポリ乳酸(PLA)、ポリ乳酸−co−グリコール酸(PLGA)、ポリ−ε−カプロラクトン(PCL)、ポリウレタン(PU)、ポリジオキサノン(PDO)、ポリエチレン、ポリ(グリセロールセバケート)(PGS)、またはそれらの誘導体、コポリマーもしくは混合物からなる。追加の実施形態では、該第2の膜の吸収速度は、該第1の膜の吸収速度より遅い。
【0038】
特別な実施形態では、該埋め込み型装具は、1種または複数の栄養素、増殖因子および/または薬剤を含む。幾つかの事例では、該埋め込み型装具は、1種または複数の栄養素、増殖因子および/または薬剤を含んだ細胞培養基本培地を含むと、更に定義してもよい。特定の実施形態では、該培地は、ウシ胎児血清(FBS)、アスコルビン酸および/またはデキサメタゾンで補充されてもよい。栄養素、増殖因子および/または薬剤は、足場、第1の体積、第2の体積、またはある種の事例ではそれらの組合せ中に存在してもよい。該増殖因子は、骨形成タンパク質2(BMP−2)、BMP−4、BMP−6、BMP−7、軟骨由来形態形成タンパク質(CDMP)、トランスフォーミング増殖因子β(TGF−β)、インスリン増殖因子I(IGF−I)、線維芽細胞増殖因子(FGF)、塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)、FGF−2、血小板由来増殖因子(PDGF)、および特定の実施形態ではそれらの混合物からなる群から選択され、該薬剤は、抗生物質、抗真菌剤または抗ウィルス剤の1種または複数と更に定義してもよい。
【0039】
本発明のある種の態様では、該構造体は、1本もしくは複数のチューブ、ならびに/あるいは1本もしくは複数のカテーテルおよび/または1個もしくは複数の貯蔵槽を含む。特別な事例では、該構造体は、第1のチューブ、第2のチューブ、場合により第1の貯蔵槽、および場合により第2の貯蔵槽のうち、1つまたは複数を含むと更に定義される。ある特定の実施形態では、第1および第2のチューブは各々、第2の体積内に位置する第1の端部を含むか、第1および第2のチューブは各々、第1および第2の貯蔵槽に接続された第2の端部を含むか、またはその両方が成り立つ。第1および/または第2のチューブは、例示的な一事例では、第2の膜と同じ材料からなり、第1および/または第2のチューブは、例示的な一事例では、シリコーンゴムからなる。
【0040】
本発明の一実施形態では、本発明による装具を個体の各関節(椎間板など)へ送達することを含む、個体の関節(椎間板など)における損傷軟骨を修復する方法がある。ある特定の態様では、該方法は、適切なエクスビボ条件下で細胞/足場組成物を調製することを更に含む。別の特定の実施形態では、細胞/足場組成物の調製は、適切な条件下で1個または複数の細胞を足場に曝すことと定義される。細胞/足場組成物の調製は、本発明のある種の態様では、少なくとも約2〜3日間で起こり得る。ある特定の実施形態では、適切な条件は、例えば、軟骨形成分化の刺激を可能にするなどの、細胞の増殖を可能にする。適切な条件は、例示的な実施形態では、高密度マイクロマス培養下にあること、低酸素圧(約1.0%〜7.5%の間)下にあること、機械的応力下にあること、ならびに/あるいは増殖因子、アスコルビン酸および/またはデキサメタゾンで補充された培地が供給されることと、更に定義してもよい。
【0041】
特別な実施形態では、該細胞/足場組成物は、例えば静水圧、流体せん断応力またはそれらの組合せでもよい機械的応力を受ける。ある特定の実施形態では、機械的応力は間欠的である。特別な事例では、機械的応力は流体せん断応力であり、足場は微量流体足場である。
【0042】
他の特別な実施形態では、送達ステップは、できる限り侵襲性の少ない手術を用いて該装具を移植することと定義される。例示的な一事例では、個体に該装具を移植した後、椎間板などの関節中の空隙を満たすために、第2の膜を膨張させる。例示的な別の事例では、個体の椎間板に該装具を送達する前に、内因性椎間板の少なくとも一部を個体から除去した。本発明に関係する関節は、特定の実施形態では、椎間板、膝、肩、肘、股または顎の関節でもよい。
【0043】
本発明のある種の態様では、該装具の構造体は、第2の体積内に配置された第1の端部と、第2の端部とを有する第1のチューブ、第2の体積内に配置された第1の端部と、第2の端部とを有する第2のチューブ、第1の貯蔵槽、および第2の貯蔵槽を備え、個体中の椎間板に該装具を送達し、更に第2の膜を膨張させた後、第1および第2のチューブの第2の端部が各々、第1および第2の貯蔵槽に接続される。ある特定の実施形態では、第1および第2の貯蔵槽は、個体の皮下に位置している。本発明の方法は、第1の膜を密封すること、第2の膜を密封すること、またはその双方を行うことを更に含んでもよい。ある特定の態様では、第2の体積の少なくとも一部が交換される。例示的な一実施形態では、本発明の方法は、第1の貯蔵槽を介して第2の体積の少なくとも一部を除去することを更に含む。別の特定の態様では、本発明は、第1もしくは第2の貯蔵槽から流体を除去すること、第2もしくは第1の貯蔵槽各々へ流体を送達すること、または第1もしくは第2の貯蔵槽から流体を除去し、同時に第2もしくは第1の貯蔵槽各々へ流体を送達することを含む。
【0044】
ある種の事例では、細胞/足場組成物は、該装具を個体中に送達する前に第1の膜内に挿入し、または細胞/足場組成物は、該装具を個体中に送達した後に第1の膜内に挿入する。ある特定の実施形態では、第1の膜は、該装具を個体中に送達する前に第2の膜内に挿入し、または第1の膜は、該装具を個体中に送達した後に第2の膜内に挿入する。
【0045】
本発明の一実施形態では、細胞が軟骨細胞または軟骨細胞様細胞である細胞/足場組成物を調製する方法であって、軟骨細胞様細胞に分化できる細胞を足場に曝すこと、該細胞を機械的応力に曝すこと、および場合により、軟骨細胞または軟骨細胞様細胞への分化に適した1種または複数の増殖因子に該細胞を曝すことを含む方法がある。ある特定の実施形態では、機械的応力は間欠的である。
【0046】
更なるある実施形態では、1個または複数の適切な容器に収容されている本発明の装具を含むキットが存在する。特定の実施形態では、該キットは、軟骨細胞、軟骨細胞様細胞、または軟骨細胞もしくは軟骨細胞様細胞に分化できる細胞である細胞を更に含む。
【0047】
追加のある実施形態では、内側および外側を有する膜の内側に封入された細胞/足場組成物と、その膜の内側にある流体の少なくとも一部を交換するための構造体とを備え、その膜が以下の特性:半透性、生体適合性、生分解性および吸収性の1種または複数を有する、埋め込み型装具が存在する。
【0048】
別の実施形態では、不活性材料を含む封入装具および軟骨細胞様細胞を含む生体コアを備え、前記封入装具が生体コアを封入する、軟骨修復用のハイブリッド構造体が存在する。
【0049】
追加のある実施形態では、細胞を封入する装具を備えた軟骨工学用のインビボバイオリアクターであって、前記細胞は、軟骨細胞または軟骨細胞様細胞に分化することができ、前記細胞の封入は、前記細胞のインビボでの増殖および分化に適切な条件をもたらし、前記条件は、前記細胞に対して生理的負荷系を付与する、インビボバイオリアクターが存在する。特定のある実施形態では、生理的負荷系は個体の脊椎からの力を含む。
【0050】
以上では、以下の本発明の詳細な説明に対する理解を深め得るように、本発明の特徴および技術的利点をかなり広く概説してきた。本発明の特許請求の範囲をなす、本発明の追加の特徴および利点は、以下に説明されよう。開示される着想および特定の実施形態は、本発明と同じ目的を実施するための他の構造体を改変または設計する基礎として、容易に利用し得ることは、当業者であれば理解されるはずである。このような等価な構造体は、添付の特許請求の範囲に示したような本発明の趣旨および範囲から逸脱しないことも、当業者であれば認識されるはずである。本発明の編成、運用法双方に関して、本発明に特有であると考えられる新規なその特徴は、更なる目的および利点と共に、付随する図と関連させて検討するとき、以下の説明から理解が深められよう。しかし、各図は、例示および説明のためだけに提示されており、本発明の限界を規定するものとは意図していないことは、明確に理解されたい。本願は、その全体が本明細書に全て組み込まれる多数の参考文献および文書を引用している。
本発明はまた、以下の項目を提供する。
(項目1)
細胞/足場組成物と、
内側および外側を有する第1の膜、
内側および外側を有し、該第1の膜をその内側に封入する第2の膜、
該第1の膜の内側に配置される第1の体積、
該第1の膜の外側に配置され、該第2の膜の内側に配置される第2の体積、ならびに
該第2の体積に流体を添加し、該第2の体積から流体を除去し、またはその双方を行うための構造体
を含んだ封入装具と
を含み、
該細胞/足場組成物が該第1の膜の内側に配置され、該第1の膜が以下の特性:
半透性、
生体適合性、
生分解性、および
吸収性
のうち、1種または複数を有し、
該第2の膜が以下の特性:
生体適合性、
液密性、
酸素に対する透過性、
吸収性、
生分解性、および
拡張性
のうち、1種または複数を有する
埋め込み型装具。
(項目2)
上記足場が、合成ポリマー、天然ヒドロゲル、または合成ヒドロゲルからなる、項目1に記載の埋め込み型装具。
(項目3)
上記合成ポリマーが、ポリグリコール酸、ポリ乳酸、ポリ乳酸−co−グリコール酸、ポリ−ε−カプロラクトン、またはポリ(グリセロール−セバケート)(PGS)である、項目2に記載の埋め込み型装具。
(項目4)
上記合成ポリマーが、ポリホスファゼン、ポリ酸無水物、またはポリ(オルトエステル)である、項目2に記載の埋め込み型装具。
(項目5)
上記天然ヒドロゲルが、コラーゲン、ヒアルロン酸、アルギネート、アガロース、キトサン、フィブリン、ゼラチン、またはそれらのコポリマーを含む、項目2に記載の埋め込み型装具。
(項目6)
上記合成ヒドロゲルが、ポリ(エチレンオキシド)、ポリ(ビニルアルコール)、ポリ(アクリル酸)、ポリ(プロピレンフマレート−co−エチレングリコール)、またはそれらのコポリマーを含む、項目2に記載の埋め込み型装具。
(項目7)
上記細胞が、軟骨細胞または軟骨細胞様細胞である、項目1に記載の埋め込み型装具。
(項目8)
上記軟骨細胞または軟骨細胞様細胞が、アグリカン、II型コラーゲン、Sox−9タンパク質、軟骨リンクタンパク質およびパールカンからなる群から選択される分子を分泌する、項目1に記載の埋め込み型装具。
(項目9)
上記細胞が、線維芽細胞および/または幹細胞から分化した、項目1に記載の埋め込み型装具。
(項目10)
上記線維芽細胞が、真皮線維芽細胞、腱線維芽細胞、靭帯線維芽細胞、滑膜線維芽細胞、包皮線維芽細胞、またはそれらの混合細胞である、項目9に記載の埋め込み型装具。
(項目11)
上記第1の膜が、生分解性、生体適合性および吸収性のポリマーからなる、項目1に記載の埋め込み型装具。
(項目12)
上記第1の膜が、ポリアクリレート、ポリビニリデン、ポリ(塩化ビニル)コポリマー、ポリウレタン、ポリスチレン、ポリアミド、酢酸セルロース、硝酸セルロース、ポリスルホン、ポリホスファゼン、ポリアクリロニトリル、ポリ(アクリロニトリル/co塩化ビニル)、またはそれらの誘導体、コポリマーもしくは混合物からなる、項目1に記載の埋め込み型装具。
(項目13)
上記第1の膜が、高分子電解質の複合体形成により生成する、項目1に記載の埋め込み型装具。
(項目14)
上記第2の膜が、ポリグリコール酸(PGA)、ポリ乳酸(PLA)、ポリ乳酸−co−グリコール酸(PLGA)、ポリ−ε−カプロラクトン(PCL)、ポリウレタン(PU)、ポリジオキサノン(PDO)、ポリエチレン、ポリ(グリセロールセバケート)(PGS)、またはそれらの誘導体、コポリマーもしくは混合物からなる、項目1に記載の埋め込み型装具。
(項目15)
上記第2の膜の吸収速度が、第1の膜の吸収速度より遅い、項目1に記載の埋め込み型装具。
(項目16)
1種または複数の栄養素、増殖因子および/または薬剤を含む、項目1に記載の埋め込み型装具。
(項目17)
1種または複数の栄養素、増殖因子および/または薬剤を含んだ細胞培養基本培地を含むと更に定義される、項目16に記載の埋め込み型装具。
(項目18)
上記培地が、ウシ胎児血清(FBS)、アスコルビン酸および/またはデキサメタゾンで補充される、項目17に記載の埋め込み型装具。
(項目19)
栄養素、増殖因子および/または薬剤が、上記足場、上記第1の体積、上記第2の体積、またはそれらの組合せ中に存在する、項目16に記載の埋め込み型装具。
(項目20)
上記増殖因子が、骨形成タンパク質2(BMP−2)、BMP−4、BMP−6、BMP−7、軟骨由来形態形成タンパク質(CDMP)、トランスフォーミング増殖因子β(TGF−β)、インスリン増殖因子I(IGF−I)、線維芽細胞増殖因子(FGF)、塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)、FGF−2、血小板由来増殖因子(PDGF)、およびそれらの混合物からなる群から選択される、項目16に記載の埋め込み型装具。
(項目21)
上記薬剤が、抗生物質、抗真菌剤または抗ウィルス剤の1種または複数と更に定義される、項目16に記載の埋め込み型装具。
(項目22)
上記構造体が1本または複数のチューブを含む、項目1に記載の埋め込み型装具。
(項目23)
上記構造体が、1本もしくは複数のカテーテルおよび/または1個もしくは複数の貯蔵槽を含む、項目1に記載の埋め込み型装具。
(項目24)
上記構造体が、
第1のチューブ、
第2のチューブ、
場合により第1の貯蔵槽、および
場合により第2の貯蔵槽
のうち、1つまたは複数を含むと更に定義される、項目1に記載の埋め込み型装具。
(項目25)
上記第1および第2のチューブが各々、上記第2の体積内に位置する第1の端部を含むか、該第1および第2のチューブが各々、上記第1および第2の貯蔵槽に接続された第2の端部を含むか、またはその両方である、項目24に記載の埋め込み型装具。
(項目26)
上記第1および/または第2のチューブが、上記第2の膜と同じ材料からなる、項目24に記載の埋め込み型装具。
(項目27)
上記第1および/または第2のチューブが、シリコーンゴムからなる、項目24に記載の埋め込み型装具。
(項目28)
項目1による装具を個体の各関節へ送達することを含む、個体の関節における損傷軟骨を修復する方法。
(項目29)
適切なエクスビボ条件下で上記細胞/足場組成物を調製することを更に含む、項目28に記載の方法。
(項目30)
上記細胞/足場組成物の調製が、適切な条件下で1個または複数の細胞を足場に曝すことと定義される、項目29に記載の方法。
(項目31)
少なくとも約2〜3日間、上記細胞/足場組成物を調製することを更に含む、項目29に記載の方法。
(項目32)
上記適切な条件が、細胞の増殖を可能にする、項目29に記載の方法。
(項目33)
上記適切な条件が、軟骨形成分化の刺激を可能にする、項目29に記載の方法。
(項目34)
上記細胞が、線維芽細胞または幹細胞に由来する軟骨細胞または軟骨細胞様細胞である、項目28に記載の方法。
(項目35)
上記線維芽細胞が、真皮線維芽細胞、腱線維芽細胞、靭帯線維芽細胞、滑膜線維芽細胞または包皮線維芽細胞である、項目34に記載の方法。
(項目36)
上記線維芽細胞が、真皮線維芽細胞である、項目34に記載の方法。
(項目37)
上記適切な条件が、高密度マイクロマス培養下にあること、低酸素圧(約1.0%〜7.5%の間)下にあること、機械的応力下にあること、ならびに/あるいは増殖因子、アスコルビン酸および/またはデキサメタゾンで補充された培地が供給されることと更に定義される、項目29に記載の方法。
(項目38)
上記細胞/足場組成物が、機械的応力を受ける、項目28に記載の方法。
(項目39)
上記機械的応力が、静水圧、流体せん断応力、またはそれらの組合せと定義される、項目38に記載の方法。
(項目40)
上記機械的応力が間欠的である、項目38に記載の方法。
(項目41)
上記機械的応力が流体せん断応力であり、上記足場が微量流体足場である、項目38に記載の方法。
(項目42)
上記送達ステップは、できる限り侵襲性の少ない手術を用いてゼ塩基装具を移植することと定義される、項目28に記載の方法。
(項目43)
上記個体に上記装具を移植した後、関節中の空隙を満たすために上記第2の膜を膨張させる、項目28に記載の方法。
(項目44)
上記関節が椎間板であり、上記個体の椎間板に上記装具を送達する前に、内因性椎間板の少なくとも一部が該個体から除去される、項目28に記載の方法。
(項目45)
上記関節が、椎間板、膝、肩、肘、股または顎の関節である、項目28に記載の方法。
(項目46)
上記第2の体積の少なくとも一部が交換される、項目28に記載の方法。
(項目47)
上記装具の構造体が、
第2の体積内に配置された第1の端部と、第2の端部とを有する第1のチューブ、
第2の体積内に配置された第1の端部と、第2の端部とを有する第2のチューブ、
第1の貯蔵槽、および
第2の貯蔵槽
を備え、個体中の椎間板に該装具を送達し、更に該第2の膜を膨張させた後、該第1および第2のチューブの第2の端部が各々、該第1および第2の貯蔵槽に接続される、
項目28に記載の方法。
(項目48)
上記第1および第2の貯蔵槽が、個体の皮下に位置している、項目47に記載の方法。
(項目49)
上記第1の膜を密封すること、上記第2の膜を密封すること、またはその双方を行うことを更に含む、項目28に記載の方法。
(項目50)
上記第1の貯蔵槽を介して上記第2の体積の少なくとも一部を除去することを更に含む、項目47に記載の方法。
(項目51)
上記第1もしくは第2の貯蔵槽から流体を除去すること、該第2もしくは第1の貯蔵槽各々へ流体を送達すること、または該第1もしくは第2の貯蔵槽から流体を除去し、同時に該第2もしくは第1の貯蔵槽各々へ流体を送達することを更に含む、項目47に記載の方法。
(項目52)
上記細胞/足場組成物は、上記装具を上記個体中に送達する前に上記第1の膜内に挿入されるか、または該細胞/足場組成物は、該装具を該個体中に送達した後に該第1の膜内に挿入される、項目47に記載の方法。
(項目53)
上記第1の膜は、上記装具を上記個体中に送達する前に上記第2の膜内に挿入されるか、または該第1の膜は、該装具を該個体中に送達した後に該第2の膜内に挿入される、項目47に記載の方法。
(項目54)
細胞が軟骨細胞または軟骨細胞様細胞である細胞/足場組成物を調製する方法であって、
軟骨細胞様細胞に分化できる細胞を足場に曝すこと、
該細胞を機械的応力に曝すこと、および
場合により、軟骨細胞または軟骨細胞様細胞への分化に適した1種または複数の増殖因子に該細胞を曝すこと
を含む方法。
(項目55)
上記機械的応力が間欠的である、項目54に記載の方法。
(項目56)
項目1に記載の装具を含むキットであって、該装具が1個または複数の適切な容器に収容されている、キット。
(項目57)
軟骨細胞、軟骨細胞様細胞、または軟骨細胞もしくは軟骨細胞様細胞に分化できる細胞である細胞を更に含む、項目56に記載のキット。
(項目58)
内側および外側を有する膜の内側に封入された細胞/足場組成物と、
該膜の内側にある流体の少なくとも一部を交換するための構造体と
を備え、該膜は以下の特性:
半透性、
生体適合性、
生分解性、および
吸収性
の1種または複数を有する、
埋め込み型装具。
(項目59)
不活性材料を含む封入装具、および
軟骨細胞様細胞を含む生体コア
を備え、該封入装具が該生体コアを封入する、
軟骨修復用のハイブリッド構造体。
(項目60)
細胞を封入する装具を備えた軟骨工学用のインビボバイオリアクターであって、該細胞は、軟骨細胞または軟骨細胞様細胞に分化することができ、該細胞の封入は、該細胞のインビボでの増殖および分化に適切な条件をもたらし、該条件は、該細胞に対して生理的負荷系を付与する、インビボバイオリアクター。
(項目61)
上記生理的負荷系は個体の脊椎からの力を含む、項目60に記載のバイオリアクター。
【図面の簡単な説明】
【0051】
本発明をより完全に理解するために、付随する図面と結び付けて今や以下の説明に言及する。
【図1】図1は、例示的なL4−L5椎間腔の断面を図示したものである。
【図2】図2は、例示的な脱出組織および変性椎間板組織を含む椎間腔への後部進入路を示す。
【図3】図3は、椎間板除去のための輪部欠損箇所の例示的実施形態を図示したものである。
【図4】図4は、例示的な中線切り口および例示的なHolter−Rickham貯蔵槽(Codman & Shurtleff,Inc.;Raynham,MA)を含む、本発明の実施形態における腹側断面および排液系を示す。
【発明を実施するための形態】
【0052】
発明の詳細な説明
本明細書で使用する場合、「a」または「an」は1つまたは複数を意味し得る。本請求項(複数も)で使用する場合、単語「含む(comprising)」と共に使用する際、単語「a」または「an」は1つまたは複数を意味し得る。本明細書で使用する場合、「別の(another)」は少なくとも第2またはそれより大きい序数を意味し得る。特定の実施形態では、本発明の態様は、例えば、本発明の1つまたは複数の系列「から本質的になる(consist essentially of)」または「からなる(consist of)」こともある。本発明の幾つかの実施形態は、本発明の1つまたは複数の要素、方法ステップおよび/または方法からなるか、または本質的になることもある。本明細書に記載の任意の方法または組成物は、本明細書に記載の他の任意の方法または組成物についても実行できることが想定されている。
【0053】
I.定義
本明細書で使用する場合の用語「バイオリアクター」とは、生物学的変換を起こす系を指す。細胞は、制御して培養され、特定の実施形態では、特定の反応を介して変換される。本発明の幾つかの態様では、バイオリアクターは、以下のパラメーター:温度、培地pH、ガス交換、機械刺激、pO、PCOおよび湿度の1つまたは複数を調節することができる。特定の実施形態では、栄養素を定常的に供給し、老廃物を効率的に除去するために、潅流系がバイオリアクター(潅流バイオリアクター)中に存在する。機械的応力は、軟骨細胞機能の重要な要因である。例えば、細胞および組織の変形、圧縮力およびせん断力、流体流れ、ならびに静水圧変化を含めた機械的応力の組合せが、関節運動中に間欠的に同時に発現される。ある種の態様では、こうした条件がバイオリアクターを用いて再現される。
【0054】
本明細書で使用する場合の用語「カテーテル」とは、体内のある区域から体液を排出するために用いる、柔軟または剛直な場合がある中空チューブを指す。
【0055】
本明細書で使用する場合の用語「軟骨細胞様細胞」とは、初代軟骨細胞ではなく、幹細胞(間葉幹細胞など)または他系統の細胞(線維芽細胞など)に由来する細胞を指す。こうした軟骨細胞様細胞は、軟骨細胞(軟骨の細胞)の表現型を有する。このことは、該細胞が、軟骨細胞の形状(例えば、多角形および/または菱形の細胞)を有するだけでなく、凝集し、例えば硫酸化プロテオグリカン、II型コラーゲンなどの軟骨基質成分を産生することもできる。したがって、軟骨細胞様細胞の例示的なマーカーには、例えば、コンドロイチン硫酸とケラタン硫酸とのプロテオグリカンであるアグリカン、II型コラーゲン、Sox−9タンパク質、軟骨リンクタンパク質、およびヘパラン硫酸プロテオグリカンであるパールカンの1種または複数が含まれる。
【0056】
本明細書で使用する場合の用語「コポリマー」とは、2種以上の異なるモノマーを含むポリマーを指す(ポリマーは、単純な反復モノマーの連結されたひと繋がりで出来る大分子を含んだ天然または合成の化合物)。
【0057】
本明細書で使用する場合の用語「脱分化」とは、特化した細胞または組織が、より単純で胚性の増した非特化形態へ退行することを指す。軟骨細胞がエクスビボで単層に増殖されると、インビボ環境が欠如し(特に三次元性および機械的応力)、脱分化と称する形態および分子の変化を受ける。この過程は、形態の変化と、軟骨細胞特異遺伝子の発現から線維芽細胞で通常発現する遺伝子の発現への変化とを伴う。
【0058】
本明細書で使用する場合の用語「椎間板切除」とは、輪部内の開窓部を介して変性核部の一部または全部を除去する処置を指す。この処置は、手術用顕微鏡を用いてできる限り侵襲性の少ない手法により行われる。この処置で圧縮性の核部脱出(突出し)を除去することにより、その根が解放される。これにより、輪部内の腱切り部(開口部)を介した変性残存核の除去が可能となる。とりわけ、椎間板切除は、実際には、変性核断片の除去を伴うヘルニア切除である。
【0059】
本明細書で使用する場合の用語「封入する」または「封入すること」とは、膜嚢中などのある境界内に囲い込むことを指す。
【0060】
用語「流体せん断応力」とは、せん断応力を発生する、ある表面上での流体の運動を指す。せん断応力は、応力が表面に並行している応力状態である。微量流体足場は、微小流路中での流体流れを可能にする。この流体流れは、足場中に播種されている細胞上に流体せん断応力を引き起こす。
【0061】
本明細書で使用する場合の用語「液密な(hermetic)」とは、例えば融合または密封などにより、液密(liquid−tight)にすることを指す。詳細には、液密膜は、膜内側の液体がその膜から出て行くことを可能としないが、酸素および二酸化炭素が膜通過することを可能とする(膜に入って来る酸素および膜から出て行く二酸化炭素など)。
【0062】
用語「静水圧」とは、静止液体(例えば水)が起こす、または伝達する圧力を指す。椎間板は、様々な負荷運動中に広範囲の椎間板内静水圧に曝され、横たわっているか、くつろいで座っている間に最小値(約0.25MPa)および背中を丸めて重量物を持ち上げている間に最大値(約2.5〜5MPa)を取る。こうした負荷の様々な大きさが、その大きさに応じた椎間板基質回転率の変化により椎間板に影響する。細胞の軟骨形成分化をインビトロで誘発するために、細胞にインビトロで掛けるべき間欠的静水圧(IHP)の最良系を決定する多数の研究が行われてきた。様々な系が試験されてきた。こうした研究では、掛けられるIHPは、0.5MPa〜約5MPaの大きさ範囲および0.01Hz〜1Hzの周波数範囲にある。特定の実施形態では、封入装具は、細胞−マトリックス構築体にインビボの静水圧を伝達するように設計されている。液体(媒体)で満たした外部被包は、様々な負荷運動中に圧縮され、この圧縮下で一部の液媒体が半透性内膜を通って拡散することにより、細胞−マトリックス構築体の潅流が可能となり、細胞−マトリックス構築体内に静水圧が生じる。このシステムでは、適当な生理的静水圧が細胞−マトリックス構築体に掛かり、それは細胞の軟骨形成分化にとって有用である。
【0063】
本明細書で使用する場合の用語「低酸素状態」とは、酸素の欠乏を指す。特定の態様では、それは約20%未満の酸素圧を指す。
【0064】
本明細書で使用する場合の用語「関節」とは、骨格の骨2本が接合する体内領域を指す。
【0065】
本明細書で使用する場合の用語「膜」とは、生物学的物質の異なる種類および/または区域を分離する柔軟な材料層を指す。膜は、天然および/または合成の材料からなっていてもよく、例えば溶液中の物質に対して透過性でもよい。
【0066】
本明細書で使用する場合の用語「微量流体足場」とは、微小流路系を含む材料を指す。
【0067】
本明細書で使用する場合の用語「できる限り侵襲性の少ない手術」とは、個体中の1個または複数の小さな切り口から行う処置を指す。例えば、ある種の態様では、できる限り侵襲性の少ない手術は、特殊な技術、顕微鏡付き微小カメラ、小さな光学繊維閃光、および/または高精細モニターを使用する。個体にとって、できる限り侵襲性の少ない手術とは、従来の観血療法と比較した場合、身体に対する外傷の減少、失血の減少、外科瘢痕(複数も)のサイズ減、および鎮痛剤の必要性減少を意味する。個体は、従来の観血療法を受けた場合より、できる限り侵襲性の少ない手術後、早期に医療施設を退院し、早期に正常活動に復帰するのに適している。
【0068】
本明細書で使用する場合の用語「貯蔵槽」とは、注入小室として作用する装具を指す。特定の実施形態では、貯蔵槽のタイプは、薬物(髄膜炎または脳室炎の場合、例えば抗生物質)を例えば、脳室系(したがって「脳室造瘻術」の用語)中に、静脈(癌対象の化学療法)中に、またはくも膜下脊髄腔(鎮痛にはモルヒネ)中に送達するために、当技術分野で常套的に使用されるタイプでよい。特別な態様では、それは1種の薬物送達系と見なしてもよい。それは以下の幾つかの部分:1)耐水特性を失わずに反復穿刺が可能なシリコーン系(「シラスティック」と称する)材料頂部、2)針で下層組織を傷つけるのを回避するステンレス鋼基材、および3)カテーテルに接続されるシラスティック端部からなる。カテーテルもシラスティックで作製してもよい。その遠位端は当該部位に伸ばし、適当なサイズで切断でき、一方その近位端は貯蔵槽の端部に接続される。その例示的な系は、1〜2cmの小室を規定し、そのため「貯蔵槽」(液槽)の名前が付いている。
【0069】
本明細書で使用する場合の用語「足場」とは、例えば細胞の増殖および/または移動を支持する多孔質生分解性ポリマー構築体を指す。
【0070】
本明細書で使用する場合の用語「播種」とは、足場中に細胞を移植することを指す。細胞は、足場に付着し、次いで足場内で増殖し、分化することになろう。
【0071】
II.発明の一般的実施形態
本発明の一般的実施形態では、装具およびその使用法が提供され、該装具は、多層膜中に封入された軟骨細胞様細胞の細胞−マトリックス構築体を備える。本発明の方法により、任意の軟骨組織を含む任意の組織を少なくとも部分的に修復し得るが、ある特別な例示的実施形態では、椎間板軟骨または関節軟骨が修復される。本発明の例示的方法では、生体コアおよび不活性なコアまたは構造体の組合せを利用し、それによりハイブリッド構造体を提供する。本発明の特別な態様では、該生体コアは、HDFから誘導されるような軟骨細胞様細胞の細胞−マトリックス構築体を含み、該不活性構造体はその生体コアを含み、例えば、できる限り侵襲性の少ない外科処置を用いて患者に移植される。
【0072】
本発明は、細胞源として自家真皮線維芽細胞(HDF)を用いる生物学的軟骨修復法を提供する。本発明は、多層膜中に封入されている軟骨細胞様細胞などの細胞の、細胞−マトリックス構築体を備える装具も提供する。ある特別な実施形態では、本発明は、特殊な装具を用いるインビボでの細胞の増殖および分化に関する。軟骨形成分化は、機械的応力、特別な態様では、例えば間欠的静水圧(IHP)および/または流体せん断応力により誘発される。
【0073】
本発明のある一般的な実施形態は、椎間板用の新たな軟骨を操作・作製するための細胞源としてHDFを使用することであるが、その理由は、こうした細胞が採集し、増殖させるのが容易なためである。その発想は、こうした細胞の軟骨細胞様細胞への分化を誘発することである。HDFの軟骨細胞様細胞への軟骨形成分化には、既にある程度の証拠が存在する。しかし、こうした研究はインビトロだけであり、該細胞を分化させる技法は、特定の増殖因子、低酸素状態、またはアグリカンなどの特定のマトリックスの使用に基づいている。
【0074】
その設計のために、この装具は、例えば以下の一方または両方:1)栄養素と酸素の生細胞への拡散、および/または2)負荷の該細胞上への移動を可能とする。この機械力、特にIHPは、線維芽細胞の軟骨形成分化にとって決定的である。IHPは、軟骨細胞の表現型の誘発および維持に対する最も効力ある刺激である。軟骨細胞が、新たな軟骨をインビトロで操作・作製するために使用する軟骨から採集されると、こうした細胞は増殖させる必要があるが、このために軟骨細胞が脱分化する。IHPは、その細胞を軟骨細胞に再分化させ得ることが示された。軟骨をインビトロで操作・作製するために軟骨細胞を使用している人々は、機械的歪み、特にIHPを分化誘発剤として使用することがしばしばある。しかし、HDFの軟骨形成分化に対するIHPの効果に関する記載は、文献中に全くない。
【0075】
本発明の実施形態では、該装具に対する構成要素が少なくとも以下の2つ:1)細胞(例えばHDF)が足場中に播種されている(足場に付着しない細胞は洗い落としてもよい)、細胞−マトリックス構築体、2)封入装具が存在する。特定の実施形態では、インビボ封入装具は、同心性の2枚の膜からなり、それらに関して特定の実施形態では、1)内膜は、細胞−足場構築体を包み込む半透膜であり(この半透膜は、小分子に対して透過性であるため、栄養素および酸素の拡散と老廃物の除去とを可能にするが、例えば、コラーゲン、グリコサミノグリカンなどの高分子に対しては不透過性であり、そこで、天然の細胞外マトリックスを形成するこうした高分子は、足場内に保持される)、2)外膜は、液密性であるが、酸素に対して透過性であり、しかもできる限り侵襲性の少ない後部外科処置を介して移植されるために、拡張性であり膨張性である(特定の実施形態では、拡張したとき、外膜は椎間板切除後の空洞に適合する、例えばその空洞に正確に適合することになろう)。外膜は、細胞に栄養供給する媒体で満たされている。その被包内に閉じ込められた流体は、IHPを生細胞に伝達する流体環境を形成する。手術後のおよそ翌日、その個体が立ち上がり、再び歩き始めることができるとき、何らかの負荷が脊髄に、特に有益なレベルで掛けられる。したがって、生体コアは、媒体で満たされている被包を介した生理的負荷の下で、適正な周期的静水圧系を受けるが、この系はHDFの増殖および変換にとって有用である。こうして、ある種の態様では、その個体は、該装具を実装してから約1日、約2日、約3日、約4日、または該装具の移植から約5日以上のうちには歩行する。
【0076】
特定の実施形態では、媒体で満たされている外膜は、媒体を恒常的に変えるために排液系と接続されている。HDFの軟骨形成分化は、機械的応力、特に間欠的静水圧(IHP)および/または流体せん断応力によりインビトロで、次いでインビボで誘発される。例示的な共培養条件は、以下の通り、即ち例えば、高密度マイクロマス培養、BMP−2補充、アスコルビン酸および低酸素状態である。
【0077】
本発明は、当該分野における問題の多くを解決する。栄養素および増殖因子は、その場の媒体により細胞−マトリックス構築体へ供給される。そうすることで、周囲の天然組織(端板)からの栄養素の拡散に関する問題で、こうした構造体の変性のために普通不足しているその拡散の問題が回避される。HDFの軟骨形成分化にとって重要な増殖因子は、媒体に添加される。特定の態様では、軟骨細胞の採集に侵襲的技法を使用することを回避するHDFが採用される。HDFまたは他の任意の細胞は、短期間インビトロで予備分化され、インビボで増殖および分化を継続する。流体で満たされている外部被包を有する封入装具は、HDFの軟骨形成分化にとって理想的な生理的負荷および圧縮力を提供することになろう。
【0078】
III.ハイブリッド構築体
本発明は、椎間板などの関節中の軟骨を修復するためにハイブリッド構築体を採用する。ハイブリッド構築体の例示的な実施形態は本明細書に記載されており、ある種の態様では、ハイブリッド構築体は、ヒト、イヌ、ネコ、ウマ、ブタ、ヒツジ、ヤギなどの哺乳動物に移植するための埋め込み型装具である。特別な態様では、ハイブリッド構築体は、少なくとも、細胞および足場を含む生体コアと不活性構造体とからなる。
【0079】
A.細胞/足場組成物
細胞/足場組成物と呼称し得る生体コアは、細胞−マトリックス構築体であり、足場(マトリックスと呼称し得る)中に播種した細胞を含む。ある特定の実施形態では、該足場は、微量流体足場であるアルギネートビーズを含む(微量流体足場は、例えば、任意の生分解性バイオポリマー[有機生分解性ポリマー:ポリ(L−乳酸)(PLA)、ポリ(グリコール酸)(PGA)、ポリ−乳酸−co−グリコール酸(PLGA);天然ヒドロゲル(コラーゲン、HA、アルギネート、アガロース、キトサン、組合せのコラーゲン/HA、キトサン/GAG、コラーゲン/GAG);および/または合成ヒドロゲル(ポリ(エチレンオキシド)(PEO)、ポリ(ビニルアルコール)(PVA)、ポリ(アクリル酸)(PAA)、ポリ(プロピレンフマレート−co−エチレングリコール)(P(PF−co−EG))]で作製できよう)。特定の実施形態では、ペプチドまたは多糖類などの細胞接着リガンドが使用される。ペプチド配列は、細胞受容体に結合できることもある。こうしたペプチドは、例示的なアミノ酸配列のアルギニン−グリシン−アスパラギン酸(RGD)、アルギニン−グルタミン酸−アスパラギン酸−バリン(REDV)、チロシン−イソロイシン−グリシン−セリン−アルギニン(YIGSR)またはイソロイシン−リジン−バリン−アラニン−バリン(IKVAV)を含むことができようし、足場に付着し得るが、該リガンドおよび/または増殖因子は、細胞の運命を調節するためにその足場に組み込んでもよい。実際に、増殖因子は、足場に組み込み、または例えば外膜中の媒体に含めることができる。その足場材料は生分解性でもよく、生分解速度は操作することができる。
【0080】
本発明に従って上記に説明した通り、HDFは、例えばインビトロ、インビボ、インビトロとその後のインビボの双方のいずれかで、機械的応力下で軟骨細胞様細胞に分化される。上記に説明した通り、重要な共培養条件には、例えば、高細胞密度培養、増殖因子(BMP−2)、および/またはアスコルビン酸が含まれる。HDFは、低酸素圧およびインスリン増殖因子I(IGF−I)を用いるアグリカン上での培養の下でも、軟骨細胞様細胞に分化することができる。前述のように、バイオリアクターは、HDFのインビトロでの増殖および分化を誘発するために使用される。本発明の特別な態様では、本発明の不活性構造体は、インビボでの分化を誘発するために使用される。本発明の特定の実施形態では、アルギネートビーズ中のHDF、または微量流体足場中に播種したHDF、または他の任意のポリマー足場中に播種したHDFは、不活性構造体の一部をなす半透膜中に封入される。半透膜の機能は、ECMタンパク質の産生を集中させるために軟骨細胞−マトリックス構築体を封入することである。この膜は、例えばO、栄養素/老廃物およびCOの通過を可能にする。
【0081】
特定の実施形態では、足場は、細胞の増殖および/または移動を支持するための多孔質生分解性ポリマー構築体を指す。この材料は、特定の実施形態では、無毒性、生体適合性で生分解性である。
【0082】
例示的な実施形態では、アルギネートが足場のために使用される。アルギネートは、海草から単離された天然多糖である。それは、D−マンヌロネートおよびL−グルロネートのモノマーから構成される多糖である。カルシウムイオンで架橋すると、それは生体適合性で生分解性のゲルを形成する。アルギネートは、再生医療内で組織用マトリックス材料として十分に確立されている。それは、軟骨工学用のヒドロゲル足場のインビボでの可能性を評価するために、他のヒドロゲルより広範に使用されてきた。アルギネートのマクロビーズ(1〜3mm大)またはアルギネートのミクロビーズ(250〜500μm)は、本発明において使用することができる。アルギネートのミクロビーズが好ましい。こうした小型ビーズの方が、表面対体積比が高いという利点を有し、そのため必須栄養素の良好な輸送を可能とし、また脆さも低い。アルギネートは生体適合性であり、人間向け使用について米国食品医薬品局に認可されている。
【0083】
HDFは、アルギネートマクロビーズ(下記の通り)中に、または優先的にはアルギネートミクロビーズ中に播種してもよい。アルギネートミクロビーズを生成するために、当技術分野で公知の様々な技法がある。そうしたものは、静電液滴の生成により普通作製される。例えば、HDFは、以下のようにアルギネートミクロビーズ中に播種することができる。アルギネート粉末(Sigma,St Louis,MO)を2.2%w/wの濃度でWFI水中に溶解し、次いでHDFの培地中懸濁液と混合して、1.5%w/wアルギネートおよび10細胞/mlの最終濃度を得る。次いで、静電液滴の生成によりアルギネートミクロビーズを作製する。手短に言えば、細胞/アルギネート懸濁液を、正に帯電した鈍いステンレス鋼針からシリンジポンプによる14.0ml/hの一定流速で押し出し、生成液滴をゲル化浴(1.5w/vCaCl)中に集める。NaイオンがCa2+イオンで交換されるので、アルギネート液滴は硬化し、捕捉細胞と共に不溶性ミクロビーズを形成する。ゲル化を完了するために、ミクロビーズをゲル化浴中に30分放置する。
【0084】
特別な実施形態では、微量流体足場も使用し得る。そうしたものは、ミクロン寸法の分解能を有する複雑な足場である。こうした足場は、その足場内での流体流れを可能にする微小流路の網構造を提供する。この網構造は、栄養素および可溶性因子の双方を足場の各区画へ供給する補助となる。こうした足場は、様々なバイオポリマーで作製することができる。それらは、ポリグリコール酸(PGA)、ポリ乳酸(PLA)、ポリ乳酸−co−グリコール酸(PLGA)などの合成ポリマー、ポリ(エチレンオキシド)(PEO)、ポリ(ビニルアルコール)(PVA)、ポリ(アクリル酸)(PAA)、ポリ(プロピレンフマレート−co−エチレングリコール)(P(PF−co−EG))などの合成ヒドロゲル、または生分解性エラストマーであるポリ(グリセロール−セバケート)(PGS)で作製することができる。本発明では、この微量流体足場は半透膜で封入されている。この半透膜は、栄養素および増殖因子を含有する媒体の足場内への潅流を可能にする。微小流路の網構造内を循環することにより、媒体は、足場中に播種した細胞に流体せん断応力を掛けることになろう。この機械力は、HDFの軟骨形成分化にとって決定的である。
【0085】
B.不活性構造体
本発明では、ハイブリッド構築体はその組成の一部として不活性構造体を用いる。不活性構造体の機能は、例えば、生物学的(栄養素および/または増殖因子の送達)および/または機械的(細胞/足場組成物上などへ機械力を伝達するためで、このような力はIHPおよび/または流体せん断応力を含み得る)の場合もある。不活性構造体は、細胞/足場組成物へ機械的歪みを伝達し、媒体を供給する(半透膜を介した潅流により)ことによって、「インビボバイオリアクター」として機能し得る。
【0086】
ある種の実施形態では、不活性構造体の機能は、以下の機能:1)生体コアを液密に封じ込めること、2)ある種の分子(例えば、栄養素、増殖因子など)が、ある種の物理化学的条件(例えば、静水圧、浸透濃度、温度など)下で拡散(ときには特殊な「促進拡散」)により、通過することを可能にすることによって、半透膜として作用すること、3)生体区画へ負荷を伝達し、かつ動的な機械的応力(静水圧)を分与して、細胞分化の誘発剤として作用すること、および/または4)インビボバイオリアクターとして作用することのうち、1つまたは複数を含む。
【0087】
特定の実施形態では、不活性構造体は封入装具と見なし得る。ある種の実施形態では、それは、三次元足場組成物中に播種した細胞に機械的応力を掛けるように設計される。封入装具の外膜は、流体(媒体)で満たされる。該被包内に閉じ込められた流体は、周期的静水圧を生細胞へ伝達する流体環境を形成する。例えば患者が立ち上がると、流体で満たされているその外部被包を介して生細胞へ伝達される、何らかの負荷が脊椎に掛かる。この膜は、HDFなどの細胞の軟骨形成分化にとって適当な生理的負荷および圧縮力をもたらす。微量流体足場に埋め込んだ細胞の場合、微小流路内を循環する媒体も細胞に流体せん断応力を掛ける。この流体せん断応力は、細胞の軟骨形成分化を誘発するもう1つの力である。
【0088】
特定の実施形態では、膜は一般にバルーン形をしており、追加の実施形態では、膜同士が相互に一般に同心性である。更なる特定の実施形態では、不活性構造体は、2種の拡張性バルーン状バイオポリマー、即ち、外部バルーン「E」内に閉じ込められている内部バルーン「I」を備える。したがって、不活性構造体は、相次いで膨張し、膨張作用を有することのできる2枚の同心性被包を備える。ある種の態様では、X枚の膜を装具中で利用する場合もあり、Xは1より大きい任意の整数である。即ち、X個のバルーンが、玉ねぎ中の各層のように同心的に設置され、その各々が特定機能を有する空間を画定する場合もある(例えば、老廃物、媒体、酸素のために、および/またはその移植片を天然組織に接続するために)。
【0089】
一実施形態では、外部のバルーン、層または被包「E」は、空洞中に設置してしまうと、封じ込めることのできる生体適合性、弾力性、膨張性、液密性、拡張性および/または吸収性(「E」の完全吸収時間が時間T)の材料を含む。特定の実施形態では、外部バルーン「E」は、以下の作用:1)細胞(細胞−マトリックス構築体、または細胞の溶液もしくは移植片の形態で)を閉じ込める第2の内部のバルーンまたは層または被包「I」を受け入れること、2)椎間板切除で生じた空洞を満たすために、媒体(例えば液体)で膨張され、またはその壁を拡張する(例えば膨潤により)こと、および3)腱切り口を介して体腔からその「ヘルニア」または脱出を防止するために、該構築体に負荷が掛かると、輪部欠陥を閉じることのうち、1つまたは複数を有することができる、または有している。
【0090】
一実施形態では、内部のバルーンまたは層「I」は、外部層中に設置してしまうと、生体コアを封じ込めることのできる生体適合性、弾力性、膨張性、半透性および/または吸収性(「I」の完全吸収時間をTとすると、時間T<T)の材料を含む。内部バルーン(被包、膜または層)「I」は、以下の作用:1)生体コアを液密に包み込むこと、2)ある種の分子(例えば、栄養素、増殖因子など)が、ある種の物理化学的条件(例えば、静水圧、浸透濃度、温度など)下で拡散(ときには特殊な「促進拡散」)により、通過することを可能にすることによって、半透膜として作用すること、および3)動的な機械的歪みを生体コアと分有するように、該コアへ負荷を伝達し、それにより細胞分化の誘発剤として作用することを有することができる、または有している。
【0091】
本発明のある態様に従えば、外部区画媒体(例えば液体など)または膨潤壁(例えば水和ヒドロゲルなど)の組合せにより、「E」および内部半透性被包は、内部生体コアに供給できる栄養素および増殖因子の送達系を提供する。これらの被包は、生体コアに対する静水圧を含めた機械力も伝達する。
【0092】
不活性構造体は、HDFなどの細胞で作製されている生体コアを包み込み、それに栄養供給し、それを分化させることを意図した封入装具である。
【0093】
ある好ましい実施形態では、不活性構造体は、2種の拡張性バルーン状バイオポリマー膜、即ち、外膜「E」内に閉じ込められている内膜「I」を備える。したがって、不活性構造体は、相次いで膨張させることを意図した2枚の同心性被包を含む。静止位置では、2枚の被包「I」および「E」は、平坦、変形性、有形であり、相互に適合している。移植してしまうと、両者は密閉することができる。特定の実施形態では、不活性構造体の組成は、組織工学系の選択により決定し得る。
【0094】
外部被包「E」は、膨張性(できる限り侵襲性の少ない後部手法により平坦に移植し、次いで生体コアを担持させ、次いで媒体溶液で膨張させるため)、弾力性(生体コア上に負荷分担量を伝達するため)、拡張性(その拡張を可能とし、椎間板切除から生じる空洞を満たすため)、Oに対して透過性であるが、液密性(相対的低酸素状態はHDF変換の有用なパラメーターであるが、天然椎間板内のO圧は適切に低い)、生分解性(移植片が残存する天然椎間板と再接続することを可能とするため)、生体適合性(炎症反応を最小限とするため)、吸収性(時間T1)、またはそれらの組合せである材料を含む。
【0095】
特定の実施形態では、「E」は、関節中にあって、例えば、一対の隣接椎骨間にある体腔の掻爬から生じる空洞中、および残存する椎間板組織内に配置し得る。それは、負荷の下で椎間板高さを維持する機械的能力も有し得る。追加の実施形態では、「E」は、生体コアを閉じ込める第2の内部バルーン「I」を受け入れる。「E」は、流体溶液(例えば媒体)で膨張して、周辺の小室(椎間板切除から生じる空洞)から残存する椎間板組織まで伸長し、空洞を満たし得る。「E」は、例えば等圧系下などで、媒体の変更(例えば、代謝老廃物の除去ならびに/あるいは栄養素および/または増殖因子の補充)を可能とするように構成されている。ある種の態様では、「E」は、例えば周期的静水圧(細胞の軟骨細胞様細胞への分化にとって有用である)で生体コア上へ負荷分担量を伝達することにより、インビボバイオリアクターとして作用する。特別な実施形態では、「E」の構成が、その特性のために相対的低酸素状態を生じる(低酸素状態または乳酸などの低酸素状態模倣剤は、HDFの軟骨細胞様細胞への変換を誘発する)。「E」は、腱切り口を介して体腔からその「ヘルニア」または脱出を防止するために、該構築体に負荷が掛かると、輪部欠陥(腱切り開口部)を閉じることもし得る。
【0096】
本発明のある種の態様では、内膜「I」は、生体適合性、弾力性、膨張性(媒体が消費される間に、生体コアは増殖し、外膜の内壁へと拡張する)、半透性(栄養素、増殖因子などの制御放出系)、生分解性(修復組織の長期性質を妨害しないように)、および吸収性(時間T<T)である膜からなる。「E」は、生体コアが未成熟のうちの媒体の漏出および損失を回避するだけでなく、脆弱な「I」を何らかの直接的な機械的歪みから保護するためにも、「I」の後で吸収されなければならない。ある種の他の態様では、「I」は、生体コアを液密に包み込み、また、ある種の分子(例えば、栄養素、増殖因子など)が、ある種の物理化学的条件(例えば、静水圧、浸透濃度、温度など)下で拡散(ときには特殊な「促進拡散」)により、通過することを可能にすることによって、半透膜を介して内部生体コアに供給できる栄養素および増殖因子の送達系として作用する。
【0097】
これらの2枚の膜(「E」および「I」)は、2つの体積VおよびVを画定する。これらの2種の体積は、椎間腔の輪郭および負荷分担量に応じて、異なる形状(球状、円筒状、円錐状など)を有してもよい。特定の実施形態では、該装具はその体腔の形状に一致する。
【0098】
体積Vは、膜「E」を膜「I」から隔てる空間と定義される。特定の実施形態では、それは、半透膜「I」などを介して細胞に送達すべき栄養素および増殖因子(媒体)を含む。それは、機械的歪み、例えば周期的静水圧系または高い流体せん断応力(高含水量による)を生体コアへ伝達できる(HDFなどの細胞の軟骨形成分化を誘発する)、負荷支持性構造体としても作用する。
【0099】
体積Vは、内部半透膜「I」により外方向に制限がある空間と定義され、HDF由来の細胞などの軟骨細胞様細胞で作製されている生体コアを含む。
【0100】
生体コアが生存できる(例えば、自己維持ができる)ようになるまで、V中に閉じ込められた媒体は、代謝により蓄積した任意の有毒老廃物(例えば、遊離ラジカルおよび/または乳酸)、ならびに細胞増殖の結果として出る他の任意の細胞性の屑またはごみを除去するために、恒常的な変化を受け得る。このような変化は、その内容物の栄養素および/または増殖因子による補充を可能にする。特定の実施形態では、この処置は、週毎または月毎に1回または複数回、例えば、1週につき2回などの1週につき少なくとも1回のように、定期的に行われる。追加の特定の実施形態では、それには、Vを排液するための追加の特徴部を「E」に装備する必要がある。ある種の態様では、この排液系は、1本または複数のチューブおよび1槽または複数の貯蔵槽で作製してもよく、特別な実施形態では、2本のチューブおよび2槽の貯蔵槽を含む。第1のチューブは、使用済み媒体の除去に使用してもよく、第2のチューブは、新しい媒体の注入に使用してもよい。これらのチューブ(またはカテーテル)各々は、Vに液密に接続される近位端および貯蔵槽に接続される遠位端を含む。こうしたカテーテルは、例えば「E」と同じ材料、シリコーンゴムのいずれかで作製できよう。その長さは、貯蔵槽から該装具に及ぶことができる限り、任意の適当な長さでもよい。それは約10〜15センチメートルの間に含み得るもので、手術部位の深さおよびその生体構造データ(患者の形態)に従って、遠位端を適切な長さに切ることにより術前に設置される。その外径は任意の適当な長さでもよく、特定の実施形態では、腱切り開口部から出るのに十分に小さく、隣接根を圧縮または傷害しないなどのために、その長さが約2.5ミリメートルであり、1.2ミリメートルの内径を可能にする。
【0101】
チューブは、椎間板切除処置の最後で、バイオリアクターの移植、膨張および密閉の後、ならびに皮膚の閉鎖前に移植し得る。それらは、各チューブ(カテーテル)の遠位端に接続し得る。各貯蔵槽が、皮膚から針で届く(経皮穿刺)ことができるように、皮下に配置し得る。
【0102】
一実施形態では、操作・作製した生体コアは「I」で予備封入し、次いで「E」の中へ滑らせて入れる。媒体が消費される間に、生体コアは被包「E」の内壁へと増殖する。被包「E」は吸収され、その移植片は残存する天然椎間板と再接続する。
【0103】
1.内部半透膜
内部被包は、例えば、生体コアを含み、制御放出系を含めており(半透膜特性により生体コアへ媒体の供給を可能とするため)、拡張性であり(媒体が消費される間に、生体コアは外膜の内壁へと増殖する)、および/または生分解性である(修復組織の長期性質を妨害しないように)。
【0104】
特定の実施形態では、内膜は細胞−足場組成物を包む半透膜である。この半透膜は、小分子に対して透過性であり、そのため栄養素および酸素の拡散ならびに老廃物の除去を可能とする。しかし、この膜は、コラーゲン、グリコサミノグリカンなどの高分子に対して不透過性である。そこで、天然細胞外マトリックスを形成するこうした高分子は、足場内に保持される。この膜はまた、細胞−マトリックス構築体を宿主環境から隔離し、バイオポリマー足場に対する宿主の炎症性および免疫性の反応から保護する。
【0105】
様々なポリマーおよびポリマーブレンドが、この膜を製造するために使用することができるが、そうしたものには、それだけに限らないが、ポリアクリレート(アクリルコポリマーを含む)、ポリビニリデン、ポリ塩化ビニルコポリマー、ポリウレタン、ポリスチレン、ポリアミド、酢酸セルロース、硝酸セルロース、ポリスルホン(ポリエーテルスルホンを含む)、ポリホスファゼン、ポリアクリロニトリル、ポリ(アクリロニトリル/co塩化ビニル)、PTFE、ならびに前記したものの誘導体、コポリマーおよび混合物が挙げられる。
【0106】
一実施形態では、該半透膜は高分子電解質の複合体形成により生成する。即ち、反対に荷電したポリマー間の相互作用を介して、ポリアニオン(PA)およびポリカチオン(PC)が高分子電解質複合体(PEC)を形成する。該アニオン成分は、それだけに限らないが、アルギン酸ナトリウム、硫酸セルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒアルロン酸などの生体適合性ポリマーでもよく、該カチオン成分は、それだけに限らないが、例えばキトサン、ポリ(L−リジン)、ポリ(L−オルニチン)、ポリ(メチレン−co−グアニジン)、ポリ(ビニルアミン)、ポリ(エチレンイミン)、ポリ(DADMAC)、ポリ(N−ビニルピロリドン)などのポリマーで作製してもよい。
【0107】
半透性PEC膜による細胞−マトリックス構築体の封入を実施するために、細胞−マトリックス構築体を先ずアニオン溶液中、次いでカチオン溶液中に浸漬する。アニオン成分およびカチオン成分の性質に依存して変動する反応時間の後で、機械的に安定な半透膜が形成される。反応条件(ポリマー濃度、反応時間)に応じて、足場は、膜内に緊密に包まれるか、または間隙で膜から隔てられる。
【0108】
体積Vは、内部半透膜「I」により外方向に制限がある空間と定義され、例えばHDF由来の軟骨細胞様細胞で作製されている生体コアを含む。
【0109】
2.外膜
外膜は、できる限り侵襲性の少ない後部外科処置により移植し、かつ拡張した際に椎間板切除後の空洞に正確に適合するために、拡張性、弾性および/または膨張性とし得る。この膜は液密であるが、酸素に対して透過性であり、栄養素および増殖因子を細胞に供給する媒体で満たされる。この被包内に閉じ込められた流体は、生細胞にIHPを伝達する流体環境を形成する。患者が立ち上がると、流体で満たされているその膜を介して生細胞へ伝達される何らかの負荷が、脊髄に掛かる。この膜は、負荷を支持するために機械的な抵抗力がある。
【0110】
外膜は、生体適合性で生分解性のポリマーで作製し得る。様々なポリマーが、この膜を製造するために使用することができるが、そうしたものには、それだけに限らないが、ポリグリコール酸(PGA)、ポリ乳酸(PLA)、ポリ乳酸−co−グリコール酸(PLGA)、ポリ−e−カプロラクトン(PCL)、ポリウレタン(PU)、ポリジオキサノン(PDO)、ポリエチレン、ポリ(グリセロールセバケート)(PGS)、ならびに前記したものの誘導体、コポリマーおよび混合物が挙げられる。一実施形態では、その膜は拡張性、生体適合性で生分解性のポリウレタンからなる。
【0111】
この膜は、宿主の周囲組織と直接接触しており、宿主の炎症反応を回避するために生体適合性である。膜の生体適合性を改良するために、それだけに限らないが、ヒアルロン酸による膜の被覆などの様々な技法を使用することができる。
【0112】
IV.本発明に利用される細胞
本発明のある種の実施形態では、その細胞が軟骨細胞または軟骨細胞様細胞に分化できる限り、任意の細胞を用いてもよい。特定の実施形態では、該細胞は実際には軟骨細胞であるが、幹細胞(例えば間葉幹細胞)、または真皮線維芽細胞、腱線維芽細胞、靭帯線維芽細胞、滑膜線維芽細胞などの線維芽細胞から誘導してもよい。自家細胞を利用し得るが、代替的な実施形態では、同種細胞も使用される。特定の実施形態では、その同種細胞は、疾患についてアッセイを済ませており、人体感染について適切であると見なされる。本発明のある種の態様では、その1個または複数の細胞は自家性であるが、代替的な実施形態では、その細胞は同種である。細胞が自家性でない場合、本発明で使用する前に、当技術分野で標準的な手段により細胞を処理し、潜在的に有害な物質、病原体などを除去してもよい。特別な態様では、例えばBMP−2、4、6および/または7を含めた増殖因子でトランスフェクトするなど、1種または複数の核酸で細胞をトランスフェクトしてもよい。
【0113】
特別な態様では、ヒト真皮線維芽細胞の軟骨細胞様分化は、以下の事項:アルギネート中での細胞播種、アグリカン、パールカンなどの細胞外マトリックスタンパク質中での細胞播種、低酸素状態(低酸素、または1種もしくは複数の低酸素模倣剤、例えば、乳酸、デスフェリオキサミンメシレート(DFX)、塩化コバルト(CoCl)、ニッケルなど)、高密度マイクロマス培養、1種または複数の増殖因子の存在(例えば、少なくともBMP−2を含む骨形成タンパク質(BMP)、トランスフォーミング増殖因子β(TGF−β)、インスリン増殖因子I(IGF−I)、ならびに線維芽細胞増殖因子(FGF)、特に塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)およびFGF−2、血小板由来増殖因子(PDGF)、軟骨由来形態形成タンパク質(CDMP)を含む)、アスコルビン酸、デキサメタゾン、副甲状腺ホルモン関連タンパク質(PTHrP)、ヘッジホッグタンパク質のソニックヘッジホッグ(SHH)およびインディアンヘッジホッグ(IHH)の存在のうち、1つまたは複数を用いることにより促進し得る。機械的応力下での培養を用いてもよい。高密度マイクロマス培養は、発生中の肢における軟骨形成の開始中に起こる細胞濃縮段階を模倣した培養技法である。
【0114】
本発明の特別な態様では、ヒト真皮線維芽細胞が、皮膚の(特定の実施形態では)直径約3mmもの小さなパンチ生検、例えば円形生検皮膚試料などから少なくとも非侵襲的に採集できるため、使用される。また、ヒト真皮線維芽細胞は、培養において容易に増殖でき、特別な培養条件下で軟骨細胞様細胞に分化できる。
【0115】
本発明に従って、自家HDFは、患者の皮膚組織のパンチ生検(6mm)から採集する。実験室において、皮下脂肪および深部真皮をハサミで切除する。残存組織は、ミンチにし、0.25%トリプシン中4℃で終夜インキュベートする。次いで、真皮および表皮の各断片を機械的に分離する。生検試料の真皮断片をミンチにし、その小片を用いて移植片培養を開始する。外植片から採集した線維芽細胞は、37℃、8%CO中、10%子ウシ血清含有ダルベッコMEM(DMEM)中で増殖させる。特別な態様では、これらの細胞は、軟骨細胞に分化する前に増殖させる。
【0116】
幾つかの態様では、研究所(Cascade Biologicsなど)などからの商業的に購入したHDFを使用し得る。その細胞は、成体HDFまたは新生児HDFとし得る。例えば、新生児包皮の線維芽細胞は非常に便利な細胞源である。これらの細胞は、商業的に使用されており、容易に入手でき、増殖させ易い。
【0117】
V.細胞の増殖および軟骨細胞または軟骨細胞様細胞への分化
機械的応力/歪みは軟骨形成にとって重要な要因である。本発明では、1種または複数の機械的歪みを使用し、特別な実施形態では、間欠的静水圧(IHP)をHDFの軟骨形成分化の誘発剤として使用する。IHPは、軟骨細胞表現型の誘発および維持のための効力ある刺激として知られている。最近の研究によれば、IHPは、BMP−2で培養したマウス胚線維芽細胞の軟骨誘導を刺激することが示された。IHPは、HDFの軟骨形成分化も誘発することができる。HDFは、低酸素圧下で軟骨細胞様細胞へ分化できることが知られている。したがって、本発明のある実施形態によれば、機械的応力、特にIHPおよびせん断流体応力は、例えば、三次元マトリックスおよび低酸素圧において培養した線維芽細胞の軟骨形成分化を誘発する。
【0118】
機械的応力は、インビトロ、インビボ、エクスビボ、インビトロに続くインビボ、またはそれらの組合せで実施することができる。ある実施形態では、分化はインビトロで開始され、次いでマトリックス中に播種したその軟骨細胞様細胞がインビボで移植され、増殖および分化を継続することになろう。本発明の特定の態様では、不活性構造体は、HDFのインビボ分化を誘発するために生理的負荷系を提供することを意図している。
【0119】
本発明の特定の態様では、細胞は、軟骨細胞または軟骨細胞様細胞への分化を受けるように誘発される。このような分化は、足場上などでのインビボ送達前、またはインビボでの送達後に起こしてもよい。特定の実施形態では、細胞は、軟骨細胞への分化を促進する条件を受ける。ある更なる特定の実施形態では、条件には機械的応力が含まれる。機械力による遺伝子の調節が、流体の高いせん断または圧力負荷を明らかに受けている血管内皮細胞および軟骨細胞について、広範に研究されてきた。本発明の特定の実施形態では、機械的応力はHDFの軟骨形成分化を刺激する。このような機械的応力は任意の種類でもよいが、特定の実施形態では、静水圧および/または流体せん断応力を含む。追加の特定の実施形態では、該応力は定常的または間欠的である。
【0120】
本発明では、機械的応力、特に周期的静水圧およびせん断流体応力は、三次元マトリックス中に播種した線維芽細胞の軟骨形成分化を誘発する。HDFの軟骨形成分化を刺激する共培養条件の選択は、当技術分野で公知のデータに基づく。高細胞密度培養、BMP−2およびアスコルビン酸使用培養、低酸素圧培養などの様々な例示的要因は、軟骨形成を刺激することが知られており、機械的応力以外の補助要因の本発明における単なる例として使用されている。
【0121】
椎間板の軟骨は採集が困難である。自家細胞は患者の椎間板から得られるため、生検を行うために侵襲的処置(腰部手術)が必要となる。細胞を健常な椎間板から採集すれば、正常な椎間板の機能が危うくなる。細胞を椎間板切除中の損傷椎間板から採集すれば、変性組織の異常細胞が得られる。その上、軟骨細胞は、脱分化するので培養で増殖させるのが困難である。耳の弾性軟骨などの他の軟骨由来の軟骨細胞は、採集し易いが、ヒアリン軟骨だけを産生し、椎間板のような線維軟骨を産生しない。組織工学に普通使用される幹細胞も、骨髄生検が必要なために幾つかの欠点を有する。組織工学には多量の細胞が必要であり、十分量の成体幹細胞を得ることは困難である。
【0122】
細胞調達手段として自家HDFを使用する論拠は、以下の事項:1)HDFは、例えば、直径3.0mmの円形皮膚試料ほどの小さなパンチ生検から、非侵襲的に採集することができること、2)別のドナーからの汚染(B型肝炎ウィルス、ヒト免疫不全ウィルス、クロイツフェルト・ヤコブ病など)の危険性が存在しないこと、および3)HDFは、培養で容易に増殖し、特別な培養条件下で軟骨細胞様細胞に分化することができることから導き出される。例えば、腱または靭帯などの他の線維芽細胞集団も、使用することができよう。ある実施形態では、自家線維芽細胞が好ましい。
【0123】
HDFの軟骨形成分化を刺激する培養条件の選択は、当技術分野で公知のデータに基づく。例えば、高細胞密度培養、BMP−2およびアスコルビン酸使用培養、アルギネートマトリックス中細胞播種などの様々な要因が、軟骨形成を支持する。細胞/足場組成物における細胞のインビトロでの増殖および/または分化には、インビボで使用する前に少なくとも2日以上掛かり得る。ある種の事例では、細胞の少なくとも一部が分裂していることを確認するために、細胞のチェックまたはモニターをすることもある。分裂していないか、および/または足場に直接もしくは間接に張り付いていない細胞は、除去してもよい。
【0124】
他の実施形態では、HDFはヒドロゲル中に埋め込まれ、そのヒドロゲルは、特定の実施形態では、コラーゲン、ヒアルロン酸(HA)、コラーゲン/HAの組合せ、アルギネート、キトサンなどの天然ヒドロゲル、ポリ(エチレンオキシド)(PEO)、ポリ(ビニルアルコール)(PVA)、ポリ(アクリル酸)(PAA)、ポリ(プロピレンフマレート−co−エチレングリコール)(P(PF−co−EG))などの合成ヒドロゲル、およびポリペプチド、もしくはポリ(L−乳酸)(PLA)、ポリ(グリコール酸)(PGA)、ポリ−乳酸−co−グリコール酸(PLGA)などの他の生分解性ポリマー、またはこうした前記ポリマーのいずれかの組合せである。次いで、当技術分野における適当な任意のインビトロバイオリアクターを用いて、周期的静水圧縮を加える。
【0125】
VI.損傷軟骨の修復法
ある種の実施形態では、本発明は任意の損傷軟骨を修復する方法を包含するが、特別な態様では、該軟骨は椎間板または任意の関節中にある。例えば腰椎において、2個の隣接椎骨間から椎間板を除去しなければならない場合の椎間板の実施形態では、患者の背部から後部外科処置をする方が侵襲性が少ない。このできる限り侵襲性の少ない処置により、椎間板核部の変性断片を除去するために、輪部内の小開口部(腱切り術)を介して体腔の掻爬を進めることが可能となる。輪部開窓は小さいので、本発明は、前記の切り口に滑り込ませ、次いで核部除去で生成した体腔内の空間中に拡張される椎間構築体を提供する。損傷椎間板の除去および該構築体の設置は、同じ後部手法において行われる。
【0126】
前記のように、不活性構造体は、2種の拡張性バルーン「I」および「E」で作製されている。静止位置では、2種のバルーン「I」および「E」は、平坦、変形性、有形であり、相互に適合している。バルーン「I」をバルーン「E」の内側に入れてしまえば、両者を輪部開口部から椎間腔の中に設置し、次いで、例えば椎間腔の輪郭および負荷分担量に応じた形状(球状、円柱状、円錐状など)の2種の体積(V>V)を画定するように、相次いで膨張させる。
【0127】
特別な態様では、満たすべき第1のバルーンは、残存する体腔の体積に関係なく、内部バルーン「I」である。体積Vは、生体コアを受け容れ、収容する該構築体のコアを表わす。生体コアで満たされてしまうと、バルーン「I」は液密に密閉される。即ち、被包「I」を被包「E」の中に入れてしまえば、両者を輪部開口部から椎間腔の中に配置し、次いで相次いで膨張させる。「I」は、生体コアの移植と共に設置し、次いで密閉すべき第1のものである。その後、体積Vが、掻爬後の天然椎間板残部の内表面と一致する、またはそれに準じる輪郭となるまで、外部バルーン「E」を膨張させる。残存椎間板のこの内表面は、掻爬を行った程度に応じて、核部組織の残部または天然輪部の内壁のいずれにもなり得る。
【0128】
椎間板構築体を設置するための第2の実施形態では、「E」を椎間腔の中に配置し、次いで「I」を「E」の中に入れ、両者を前記のように相次いで膨張させる。第3の実施形態では、「E」を椎間板切除空洞の中に配置し、次いで予備封入済み生体コアを「E」の中に入れた後、「E」を媒体で満たす。
【0129】
椎間板切除で生じる空洞の体積は、外部バルーン「E」の設置前に、適切な流体体積を選択し、注入できるように評価し得る。空洞体積は、例えば、流体(例えば水)をその中へ空洞が満たされるまで導入し、次いでシリンジで空洞から流体を抜き取り、それにより空洞体積を実質的に正確に測定することによって、測定することができよう。
【0130】
ある種の態様では、不活性構造体の組成は、例えば、作製材料、孔特性、吸収性および機械的性質に左右される、例えば、非分解性ポリマー、分解性ポリマーまたは天然由来ヒドロゲル(例えば、コラーゲン、フィブリン、アガロース、アルギネートなど)などの組織工学系の選択に依存する。
【0131】
生体コアまたは区画(V)は、自家性のヒト真皮線維芽細胞(HDF)、例えば、患者の皮膚から採集され、足場(アルギネートビーズなど、もしくは微量流体足場、または他の任意のポリマー足場)中に播種された線維芽細胞に由来し、支持区画(V)から栄養供給される軟骨細胞様細胞で作製されている。栄養送達系として作用する不活性生体材料と皮膚から容易に採集される生細胞との両者を組み合わせた、このハイブリッド構築体の利点は、自己維持または再建をすることができ、できる限り侵襲性の少ない後部外科手法を用いて椎間板機能を回復し得ることである。体積Vは、層「E」を層「I」から隔て、細胞に送達すべき栄養素および増殖因子(媒体)を含む(送達系)空間と定義される。この体積は、液媒体でそれを満たした結果、または水和した(媒体は高水分率からなる)後に、その壁から膨潤した(例えばヒドロゲルとしての拡張性親水性生体材料)結果のいずれかの場合がある。
【0132】
増殖因子は、半透性内膜「I」を通して送達し得る。増殖因子の例には、例えば、軟骨由来形態形成タンパク質(CDMP)、骨形成タンパク質(BMP)、トランスフォーミング増殖因子β(TGF−β)、およびインスリン増殖因子I(IGF−I)、線維芽細胞増殖因子(FGF)、血小板由来増殖因子(PDGF)が挙げられる。
【0133】
高い流体せん断および/または圧力負荷などの機械的歪みは、内層「I」に、したがって外層「E」および外部区域Vを介してVに伝達される。この機械的歪みは、内層の内側で細胞の軟骨形成分化を誘発する。
【0134】
次いで排液系を設置するが、その際、腱切り開口部を通って体腔から出て行く各カテーテルを、隣接根から注意深く遠ざける、または有害な衝突が起こらないように、少なくともその根に沿って配置する。
【0135】
経筋肉路は、手術部位から、皮膚開口部から離れた皮下位置まで、導入具を用いて実施する。各チューブは、前記の経筋肉路の「トンネル中に通し(tunnelized)」、次いで対応する貯蔵槽に接続する。2個の貯蔵槽は、皮膚中央の切り口から離れ、中線から2または3cmの所に位置し、容易に触知し、識別できるように皮下に配置する。皮膚の各切り口は閉じる。
【0136】
このようなできる限り侵襲性の少ない後部外科手法の後で通例のように、患者は、手術後の早くも翌日に立ち上がるように求められ、再び歩き始めることができる。したがって、そのインプラントは、生理的負荷の下で適正な周期的静水圧系を受けるが、この系はHDFの増殖および変換にとって肝要である。
【0137】
週毎または月毎に1回または複数回など定期的に、媒体を変更し得る。排液系によって、体積Vに適当量の新たな媒体を供給することにより、生体コアに供給を継続するだけでなく、十分な体積を維持し、したがって適正な圧力系を維持することも可能になる。その個体は伏臥する。各貯蔵槽に針で同時に穿刺する。これらの針各々にシリンジを押し込み、ピストンを押し下げることにより、新たな媒体を徐々に注入し、同時にもう一方のシリンジから引き上げることにより、同量の流体を除去する。その結果、内圧はほぼ同じに維持され、そのため体積Vがつぶれたり、または反対に体積Vに、生体コアに不可逆的な損傷を起こす恐れのある過剰な圧力を掛けることが回避される。この処置は、例えば、排出していく流体の色および外観が注入している流体と同じとなったときに、停止する。除去した使用済み媒体からの試料を、細菌学的、病理学的および化学的目的のために採取することもある。
【0138】
生体コアが自己維持をすることができ、椎間板切除後の空間を満たしたとき、チューブ、貯蔵槽を共に除去することができる。あるいは、チューブを遠位端に繋いだまま、貯蔵槽の一方だけまたは両方とも、局所麻酔下で除去することができる。別の代替的実施形態では、双方ともそのままにすることができる。
【0139】
特定の実施形態では、手術から数週または数カ月以内(例えば、手術後約6週間)などに追跡調査用MRIを実施して、移植片の成長を評価し、椎間板の治癒状態を記録する。
【0140】
別の実施形態では、前述したように操作・作製した生体コアは予備封入され、放出される。
【0141】
こうした前記機能は、2つの異なる技術を備えた2種の同心膜に依存した本発明の不活性構造体によりもたらされる。外部被包は、負荷の下で椎間板高さを維持する機械的能力があり、膨張性であり(できる限り侵襲性の少ない後部手法により移植し、媒体溶液を受け入れるため)、弾力性であり(移植片上に負荷分担量を伝達するため)、拡張性であり(その拡張を可能とし、椎間板切除から生じる空洞を満たすため)、液密性であり(媒体の漏出、瘢痕組織の脊柱管中への突き出し、または輪部欠陥−腱切り術−からのヘルニアの常習的発生を回避するため)、生分解性であり(移植片が残存する天然椎間板と再接続することを可能とするように、被包が吸収される)、および生体適合性である(炎症反応を最小限とするため)。それは、例えば、外科処置の最後に皮下に挿入する1個または複数のRickham貯蔵槽に接続した、1本または複数のカテーテルで排液し得る。
【0142】
これらの貯蔵槽は、代謝により蓄積した任意の有毒老廃物(例えば、遊離ラジカルまたは乳酸)、ならびに増殖の結果として出る他の任意の細胞屑を除去することを意図している。該貯蔵槽によって、体積Vに適当量の新たな媒体を供給することにより、生体コアに供給を継続するだけでなく、十分な体積を維持し、したがって適正な圧力系を維持することも可能になる。生体コアが自己維持をすることができ、椎間板切除後の空間を満たしたとき、該貯蔵槽を除去する。
【0143】
ハイブリッド構造体の様々な構成要素および特徴、ならびに上記した、損傷軟骨の修復法およびHDFを軟骨細胞様細胞に増殖させる方法は、本発明の範囲に入る他の実施形態を提供するように、様々な方法で組み合わせることができることに留意されたい。
【0144】
VII.本発明の代替的実施形態
別の実施形態では、2枚の概ね球状(例えば)の同心性被包を有する代わりに、該装具は、同じ前記特性(特に拡張性および/または膨張性)を有する独特の外部被包「E」で作製され、包まれていない生体コア(膜で封入も包み込みもされていない)を受け入れることができよう。実際にこの実施形態では、この生体コアは、細胞マトリックス構築体であり、「E」の中に直接配置される。次いで、体積Vは、空洞と一致するまで、媒体液溶液で拡張される。
【0145】
したがって別の実施形態では、2個の「同心性」バルーンを有する代わりに、該装具は、操作・作製した生体コアを収容するための同じ前記特性(特に拡張性および/または膨張性)を有する独特の外部バルーン「E」からなる。生体コアが膜「E」内に放出された後、体積Vは、膜「E」が空洞の境界に達するまで、媒体液溶液で拡張される。この移植片を包み込む障壁も膜も、もはやない。媒体が消費される間に、生体コアはバルーン/層/膜「E」の内壁へと拡張する。その被包は吸収され、移植片は残存する天然椎間板と再接続する。
【実施例】
【0146】
以下の実施例は、本発明の好ましい実施形態を示すために含まれている。以下の実施例に開示する技法は、本発明の実施において良好に機能することが本発明者により判明した技法を表し、したがってその実施に対する好ましい方式を構成すると見なすことができることを、当業者であれば理解されたい。しかし、本発明の開示に鑑みて、開示している特定の実施形態では多くの変更を加え、それでもなお、本発明の趣旨および範囲から逸脱せずに類似または同様の結果を得ることができることを、当業者であれば理解されたい。
【0147】
(実施例1)例示的な材料および方法
本発明で使用するための材料および方法の例示的な実施形態を本実施例で説明する。
【0148】
細胞培養
患者から採集した自家HDFを用いてインプラントを構築するが、例えば、新生児包皮の線維芽細胞が実験目的に便利な細胞源であるので、それを用いて予備研究を行う。患者から採集した自家細胞を用いた更なる研究は、当該処置がこの細胞で有効であることを示すために行う。
【0149】
新生児包皮HDFは、Cascade Biologics(Portland,Oregon)から入手し、10%FBS(Invitrogen)および抗生物質を含有する、DMEM(Invitrogen,Carlsbad,CA,USA)によりインビトロで増殖させる。以下に記載のように、HDFの懸濁液をアルギネート中または単層培養中に播種する。
【0150】
アルギネートゲルの培養物を生成するために、2% wt/vol中粘度アルギネート(Sigma−Aldrich,St.Louis,MO)中、細胞を高密度(10細胞/ml)に懸濁し、液滴25mLを100mM CaCl、0.9%NaCl溶液中で架橋させる。次いで、10%FBSおよび抗生物質を含有するDMEM中で生成したアルギネートビーズを十分に洗浄する。組換えヒト骨形成タンパク質2(BMP−2)100ng/mlおよびアスコルビン酸50mgを補充した、10%FBSおよび抗生物質を含有するDMEM中にアルギネートビーズを浸漬する。このような条件、即ち高細胞密度と、BMP−2およびアスコルビン酸を用いた培養とは、軟骨形成を刺激することが知られているので選択した(Watt、1988年;Dozinら、1992年;Sullivanら、1994年;Denkerら、1999年;Zur Niedenら、2005年;Zhouら、2004年)。
【0151】
単層培養を生成するために、酸素濃度20%のプラスチック製フラスコ中、10%FBSを含有し、BMP−2もアスコルビン酸も含まないDMEM中にHDFを播種する。この細胞は対照として役立つ。
【0152】
5%および20%O下での培養
細胞埋め込みアルギネートビーズを、O/CO調節インキュベーター中、5%O、5%COおよび90%Nの雰囲気下(低酸素圧)、またはCO調節インキュベーター中、20%O、5%COおよび75%N下(大気酸素圧)に保ち、3週間培養する。次いで、軟骨形成分化の評価を行う(例えば、実施例3を参照されたい)。
【0153】
静水圧縮
細胞埋め込みアルギネートビーズを加圧群および対照群に分割し、各群のビーズを、酸素および二酸化炭素に透過性の柔軟なポリエチレン/ナイロンバッグに別々に入れる。これらのバッグを媒体15mlで満たし、空気を完全に排除するために熱融着させる。
【0154】
加圧群のバッグは、周期的静水圧縮を掛けるように設計した新開発装具内に配置する(Elderら、2005年)。この装具は、等しい三次元培養の条件下、広い生理的範囲の負荷系の比較を可能にする。それは、介在Oリングを締め付けるボルトで蓋に接続した、大きなシリンダー型ステンレス鋼ベースからなる。水圧シリンダーを蓋に溶接することにより、その内部をチャンバーの内部と連続させる。シリンダーおよびチャンバーを水で完全に満たすことにより、シリンダーのピストンに加えた力(MTSサーボ油圧式試験機で発生した)で静水圧縮が迅速に実現するようにする。温度調節した循環水浴中にチャンバーを浸漬することにより、安定な37℃を維持する。対照群のバッグは、同じ水浴中の別の満水ステンレス鋼チャンバー中に配置する。
【0155】
加える圧力の大きさおよび周波数は、多能性間葉細胞の軟骨形成分化(Elderら、2005年)および脱分化軟骨細胞の再分化(Dommら、2000年)を刺激することが以前に実証された生理的範囲(Mowら、1992年)に入るように選択される。短期および長期の加圧を試験し、軟骨形成の定量的および定性的評価によって、軟骨誘導性静水加圧の成功モデルを短期および長期の静水加圧の間に決定する。
【0156】
例示的な系は、以下のものを含む。
【0157】
加える最小圧力0.3MPaおよび最大圧力5.0MPaの1.0Hz静水加圧正弦波形。短期加圧に対しては、細胞は1h/日、7日間加圧される。長期加圧に対しては、細胞は4h/日、7日間加圧される。毎日、負荷の完了後直ちに培養物を圧力容器から取り出し、組織培養インキュベーター内の水浴へ戻す。
【0158】
周期的静水圧縮を受け、特定の条件(低酸素状態、軟骨形成媒体、高細胞密度など)下で培養したHDFの細胞生存率および軟骨形成分化を、当技術分野で標準的な技法を用いて評価する。
【0159】
別の実施形態では、線維芽細胞の軟骨細胞への変換を周期的静水圧およびせん断応力で誘発する。この場合、微量流体足場中に細胞を播種する。
【0160】
軟骨形成分化の評価を行う(例えば、実施例3を参照されたい)。
【0161】
(実施例2)アルギネートビーズにおけるHDFの細胞生存率の評価
本発明の特定の態様では、軟骨形成培地中で培養したアルギネートビーズ中のHDFの生存率を、光学顕微鏡および/または生存率試験により試験する。光学顕微鏡は、HDFの形態および増殖を調べるために使用される。例示的な生存率試験では、溶解性緩衝液(0.55M クエン酸Na、1.5M NaClおよび0.5M EDTA)中にアルギネートビーズを溶解し、細胞を遠心分離し、そのペレットをコラゲナーゼで1h処理する。細胞をDMEM中に再懸濁し、例えばNeubauerチャンバーおよびトリパンブルー排除法を用いて生存率を決定する。
【0162】
(実施例3)軟骨形成分化の評価
特定の実施形態では、HDFの特性は、I、IIIおよびV型のコラーゲンの産生により決定し、一方、軟骨細胞の特性は、II、IX、XIのコラーゲンの産生、および硫酸化プロテオグリカンの産生により決定する。
【0163】
軟骨形成分化は、硫酸化グリコサミノグリカン(sGAG)含量、ならびにIおよびII型コラーゲン産生をウェスタンブロットで測定することにより評価する。コラーゲン合成速度は、[H]−プロリンの取込みにより測定する。
総DNAおよびsGAG含量
アルギネートビーズ中の細胞は、55mMクエン酸Na、0.9%NaCl溶液を用いてアルギネートから回収する。次いで、細胞を0.5% v/v Nonidet P−40緩衝液(50mM Tris−Cl、100mM NaCl、5mM MgCl)300μl中で溶解する。その溶解物をミクロ遠心管に移し、回転させた後、上清分量100μl中のDNAを、子ウシ胸腺DNAを標準としたHoescht色素法(DNA Quantification Kit,Sigma,St.Louis,MO)を用いて測定する。残存する溶解緩衝液を除去し、sGAGを2% v/vパパイン、20mM酢酸ナトリウム(pH6)100μl中で60℃、終夜消化する。次いで、総sGAG含量を、ウシ気管から精製したコンドロイチン4−硫酸を標準として用いて、ジメチルメチレンブルー沈降法(Blyscan Glycoaminoglycan Assay,Biocolor,Ltd.)により測定する。各試料について、sGAG含量をDNA含量に対して正規化する。
【0164】
I型およびII型コラーゲンに対するウェスタンブロット
各試料のビーズ5個を緩衝液(55mMクエン酸ナトリウム、150mM NaCl)400ml中に溶解する。コラーゲン可溶化のために、0.25M酢酸100μlおよびペプシン溶液(1mg/ml 50mM酢酸:P−6887,Sigma)100μlを添加し、その混合物を4℃、24h維持する。次いで、10xストック溶液TBS(1M Tris、2M NaClおよび50mM CaCl、pH8)100μlおよびすい臓エラスターゼ(1mg/ml TBS;Sigma E−6883)100mlを添加し、試料を37℃、30分インキュベートする。試料を9000xgで10分遠心分離する。上清を集める。ウシI型コラーゲン、ウシII型コラーゲン(Sigma)または試料(各々総タンパク質5mg含有、Bio−Radタンパク質アッセイで定量化)25μlを試料緩衝液6μlと混合し、95℃、5分変性した後、7%アクリルアミドゲル上に載せる。電気泳動を行う。ゲルをブロット膜上に移す。その膜をブロッキングバッファー(TBST緩衝液中10%粉ミルク)中、終夜ブロックし、次いでマウスモノクローナル抗体抗I型コラーゲン抗体(COL−1,ab6308,Abcam Inc)またはマウスモノクローナル抗体抗II型コラーゲン(5B2.5,ab3092,Abcam Inc)と4℃、終夜インキュベートする。その膜をTBST緩衝液で洗浄する。ヤギ抗マウスビオチン結合二次抗体を1h添加した(1:500)後、1:1000希釈のストレプトアビジン−HRPを1h添加する。AmershamのECLを用いてブロットを発現させる。
【0165】
H]−プロリン取込みの測定
コラーゲン産生速度を決定したアルギネートビーズにおいて、培地を除去し、10%FBS、抗生物質、アスコルビン酸25mg、10μCi/mlの[H]プロリン、およびβ−アミノプロピオニトリル(β−APN)100μg/mlを補充したDMEMで置き換えることにより、コラーゲンの架橋形成を抑制する。24hのインキュベーション期間後、[H]プロリンのコラーゲン中への取込みを測定する。ビーズをパパイン溶液[0.125mg/ml(2.125単位/ml、Sigma)、0.1M NaHPO、0.01M EDTA、pH6.5]1ml中で65℃、終夜消化する。各試料200ml pfをシンチレーション液2mlに添加し、シンチレーションカウンターを用いて測定する。
【0166】
各試料500μlをPBS500μlと混合し、DNA含量を決定するために使用する。試料およびブランク(PBS1ml含有)を超音波ビームで15秒間処理する。RNAse0.5mlおよびプロナーゼ0.5mlを添加し、37℃、30分インキュベートする。次いで、臭化エチジウム0.5mlを添加し、試料を30分インキュベートした後、それを蛍光光度計で測定する。
【0167】
H]−プロリンの取込みを総DNA含量に対して正規化する。
【0168】
(実施例4)例示的な研究設計
本発明の特定の態様では、播種したHDFの細胞生存率および軟骨形成分化を三次元アルギネートビーズ培養で決定する。詳細には、アルギネートビーズ中に播種し、20%O下、軟骨形成培地(BMP−2およびアスコルビン酸を補充した培地)中で培養したHDFの細胞生存率および軟骨形成分化を、20%O下、10%FBSを有するDMEM中単層培養のHDFと、上記の例示的方法を用いて比較する。
【0169】
本発明の別の態様では、アルギネートビーズ中で培養したHDFの分化に対する酸素圧の効果を決定する。軟骨形成培地中のアルギネートビーズ中に播種したHDFは、3週間、2つの異なる酸素圧:1)O/CO調節インキュベーター中、5%O、5%COおよび90%Nの低酸素圧、ならびに2)CO調節インキュベーター中、20%O、5%COおよび75%Nの大気酸素圧において、培養する。
【0170】
軟骨形成分化は、上記の例示的方法を用いて比較する。
【0171】
本発明の追加のある実施形態では、アルギネートビーズ中で培養したHDFの分化に対する静水圧縮の効果を決定する。軟骨形成培地中のアルギネートビーズ中に播種したHDFは、異なる刺激:1)7日間の静水圧を1h/日(最小0.3MPa、最大5.0MPaの1.0Hz正弦波静水圧縮)および20%O、2)7日間の静水圧を4h/日(最小0.3MPa、最大5.0MPaの1.0Hz正弦波静水圧縮)および20%O、3)7日間の静水圧を1h/日(最小0.3MPa、最大5.0MPaの1.0Hz正弦波静水圧縮)および5%Oと、7日間の静水圧を4h/日(最小0.3MPa、最大5.0MPaの1.0Hz正弦波静水圧縮)および5%Oを受ける。
【0172】
軟骨形成分化は、上記の例示的方法を用いて評価し得る。
【0173】
参考文献
本明細書に記載した全ての特許および刊行資料は、本発明が関わる技術分野の技術者の水準を示している。全ての特許および刊行資料は、各個々の刊行資料が、参照により組み込まれていることが明確かつ個別に示された場合と同程度に、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0174】
【数1】

【0175】
【数2】

【0176】
【数3】

本発明およびその利点を詳細に説明してきたが、添付の特許請求の範囲に規定するような本発明の趣旨および範囲から逸脱せずに、様々な変更、代用および改変を本明細書においてなし得ることを理解されたい。更に、本願の範囲は、本明細書に記載したプロセス、機械、製造物、物質組成、手段、方法および工程の特別な実施形態に限定することを意図していない。本発明の開示から当業者であれば容易に理解されようが、本明細書に記載の対応する実施形態と、実質的に同じ機能を発揮し、または実質的に同じ結果を実現する、現存するまたは今後開発されると見込まれるプロセス、機械、製造物、物質組成、手段、方法または工程は、本発明に従って利用し得る。したがって、添付の特許請求の範囲は、その範囲内にこのようなプロセス、機械、製造物、物質組成、手段、方法または工程を包含することを意図している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
明細書中に記載の発明。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−31707(P2013−31707A)
【公開日】平成25年2月14日(2013.2.14)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2012−241637(P2012−241637)
【出願日】平成24年11月1日(2012.11.1)
【分割の表示】特願2008−554464(P2008−554464)の分割
【原出願日】平成19年2月5日(2007.2.5)
【出願人】(508238060)スパイナルサイト, エルエルシー (2)
【Fターム(参考)】