説明

インフルエンザ予防剤

【課題】シアリダーゼ阻害活性を有する化合物の薬理上許容されるエステル誘導体を有効成分として含有するインフルエンザ予防剤を提供する。
【解決手段】
シアリダーゼ阻害活性を有する化合物の薬理上許容されるエステル誘導体を有効成分として含有し、受容者の呼吸器へ投与されることを特徴とするインフルエンザの予防剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はシアリダーゼ阻害活性を有する化合物の薬理上許容されるエステル誘導体を有効成分として含有するインフルエンザの予防剤に関する。
【背景技術】
【0002】
インフルエンザはA型またはB型インフルエンザウイルスの感染による流行性の急性呼吸器感染症である。その臨床像は、上気道炎症状に加えて、突然の高熱と全身倦怠感、頭痛、筋肉痛、関節痛などの全身症状を特徴とし、数日の臥床を強いられるような重症感を伴う。インフルエンザは毎年冬季に流行を繰り返し、短期間に集中して数百万人規模で多数の患者が発生する。さらに65歳以上の高齢者、乳幼児、妊婦やさまざまな基礎疾患をもつハイリスク群がインフルエンザに罹患すると、肺炎の合併や入院、死亡の危険が健康成人に比べて数100倍も高くなる。したがってインフルエンザは、患者の健康被害の大きさとその流行規模から社会・経済的にも大きな影響をもたらす重要な疾患として認識されている。
【0003】
インフルエンザの予防方法として従来よりインフルエンザワクチンが使用されている。しかし、ワクチン株と流行株とが異なったり、株が一致したとしても不十分な生体防御惹起能であったり、必ずしもその予防効果は満足いくものではない。さらに、ワクチン接種者に発赤、腫脹、疼痛、発熱、頭痛、悪寒、倦怠感などの副作用が起こることがある。また、卵アレルギーの人には蕁麻疹、発疹、口腔のしびれ、アナフィラキシーショックなどの可能性もあり、ワクチンに安定剤として含まれているゼラチンに対するゼラチンアレルギーも報告されている。その他ギランバレー症候群、急性脳症、痙攣、紫斑などの副作用報告もある。
【0004】
また、アマンタジン、ザナミビル、オセルタミビルのようなインフルエンザ治療剤として知られている薬剤の予防投与も検討されているが、主な感染部位である呼吸器(肺、気道、鼻腔及び口腔組織を含む)においてウイルスの感染予防に充分な濃度が持続できないため、満足できる予防効果は得られていない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
発明者らはインフルエンザを予防する薬剤について長年にわたり鋭意検討を行なった結果、シアリダーゼ阻害活性を有する化合物の薬理上許容されるエステル誘導体は、受容者の呼吸器へ投与されることにより、シアリダーゼ阻害活性を有する化合物自体が同様に投与される場合と比較して、シアリダーゼ阻害活性を有する化合物を受容者の呼吸器組織により高濃度で長時間にわたり滞留させることができるため、インフルエンザの予防剤として極めて有効であることを見出し本発明を完成した。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、下記のインフルエンザ予防剤及び予防方法である。
(1) シアリダーゼ阻害活性を有する化合物の薬理上許容されるエステル誘導体を有効成分として含有し、受容者の呼吸器へ投与されることを特徴とするインフルエンザ予防剤。
(2) (1)において、シアリダーゼ阻害活性を有する化合物の薬理上許容されるエステル誘導体を受容者の呼吸器へ投与されることによりシアリダーゼ阻害活性を有する化合物を受容者の呼吸器組織に滞留させることを特徴とするインフルエンザ予防剤。
(3) (1)または(2)から選ばれるいずれか1項において、シアリダーゼ阻害活性を有する化合物が2−デオキシ−2,3−ジデヒドロ−N−アセチルノイラミン酸誘導体、シクロヘキセンカルボン酸誘導体、シクロペンタンカルボン酸誘導体または、ピロリジン−2−カルボン酸誘導体であるインフルエンザ予防剤。
(4) (1)または(2)から選ばれるいずれか1項において、シアリダーゼ阻害活性を有する化合物が
一般式
【0007】
【化1】


【0008】
[式中、Xはハロゲン原子、水酸基又は炭素数1乃至4個のアルコキシ基を示す。]、
一般式
【0009】
【化2】


【0010】
[式中、Rb1はアミノまたはグアニジノ基を示し、Rb2は炭素数1乃至12個のアルキル基を示す。]、
一般式
【0011】
【化3】


【0012】
[式中、Rc1は水素原子または水酸基を示し、Rc2は炭素数1乃至8個のアルキル基を示し、Rc3はアミノまたはグアニジノ基を示す。]、
または
一般式
【0013】
【化4】


【0014】
[式中、Rd1は炭素数2乃至5個のアルケニル基を示し、Rd2及びRd3は炭素数1乃至6個のアルキル基を示し、Rd4は炭素数1乃至3個のアルキル基を示す。]
で表される化合物であるインフルエンザ予防剤。
(5) (1)乃至(4)から選ばれるいずれか1項において、薬理上許容されるエステル誘導体がシアリダーゼ阻害活性を有する化合物の水酸基における炭素数6乃至20個のアルカノイルエステルまたはシアリダーゼ阻害活性を有する化合物のカルボキシル基における炭素数8乃至20個のアルキルエステルであるインフルエンザ予防剤。
(6) シアリダーゼ阻害活性を有する化合物の薬理上許容されるエステル誘導体を受容者の呼吸器へ投与することを特徴とするインフルエンザ予防方法。
(7) (6)において、シアリダーゼ阻害活性を有する化合物の薬理上許容されるエステル誘導体を受容者の呼吸器へ投与することにより、シアリダーゼ阻害活性を有する化合物を受容者の呼吸器組織に滞留させることを特徴とするインフルエンザ予防方法。
【0015】
上記において、
「シアリダーゼ阻害活性を有する化合物」とは、インフルエンザウイルスが増殖するために必須の酵素であるシアリダーゼ(本酵素はノイラミニダーゼとも呼ばれる)の機能を阻害する作用を有する化合物をいい、例えば特表平5−507068号公報、特開平10−330373号公報、PCT国際公開WO97/06157号公報、WO98/11083号公報等に記載された2−デオキシ−2,3−ジデヒドロ−N−アセチルノイラミン酸誘導体;PCT国際公開WO96/26933号公報等に記載されたシクロヘキセンカルボン酸誘導体;PCT国際公開WO96/33781号公報、WO97/47194号公報等に記載されたシクロペンタンカルボン酸誘導体;PCT国際公開WO99/54299号公報等に記載されたピロリジン−2−カルボン酸誘導体を挙げることができる。これらのうち好適には一般式(Ia)、(Ib)、(Ic)または(Id)で表される化合物である。
【0016】
一般式(Ia)で表される化合物において、
Xの定義における「ハロゲン原子」としては、例えばフッ素、塩素、臭素またはヨウ素原子を挙げることができ、好適にはフッ素または塩素原子であり、もっとも好適にはフッ素原子である。
【0017】
Xの定義における「炭素数1乃至4個のアルコキシ基」としては、例えばメトキシ、エトキシ、プロポキシ、イソプロポキシ、ブトキシ、イソブトキシ、s−ブトキシまたはt-ブトキシ基のような炭素数1乃至4個の直鎖または分枝状アルコキシ基を挙げることができ、好適にはメトキシまたはエトキシ基であり、最も好適にはメトキシ基である。
【0018】
一般式(Ia)で表される化合物として好適なものは、下記の(Ia−1)または(Ia−2)の化合物である。
(Ia−1)Xが炭素数1乃至4個のアルコキシ基である化合物。
(Ia−2)Xがメトキシ基である化合物。
【0019】
一般式(Ib)で表される化合物において、
b1の定義において、好適にはアミノ基である。
【0020】
b2の定義において、「炭素数1乃至12個のアルキル基」としては、例えばメチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、s−ブチル、t−ブチル、ペンチル、イソペンチル、2−メチルブチル、ネオペンチル、1−エチルプロピル、ヘキシル、イソヘキシル、4−メチルペンチル、3−メチルペンチル、2−メチルペンチル、1−メチルペンチル、3,3−ジメチルブチル、2,2−ジメチルブチル、1,1−ジメチルブチル、1,2−ジメチルブチル、1,3−ジメチルブチル、2,3−ジメチルブチル、2−エチルブチル、ヘプチル、1−メチルヘキシル、2−メチルヘキシル、3−メチルヘキシル、4−メチルヘキシル、5−メチルヘキシル、1−プロピルブチル、4,4−ジメチルペンチル、オクチル、1−メチルヘプチル、2−メチルヘプチル、3−メチルヘプチル、4−メチルヘプチル、5−メチルヘプチル、6−メチルヘプチル、1−プロピルペンチル、2−エチルヘキシル、5,5−ジメチルヘキシル、ノニル、3−メチルオクチル、4−メチルオクチル、5−メチルオクチル、6−メチルオクチル、1−プロピルヘキシル、2−エチルヘプチル、6,6−ジメチルヘプチル、デシル、1−メチルノニル、3−メチルノニル、8−メチルノニル、3−エチルオクチル、3,7−ジメチルオクチル、7,7−ジメチルオクチル、ウンデシル、4,8−ジメチルノニル、ドデシル基を挙げることができ、好適には1−エチルプロピル基である。
【0021】
一般式(Ib)で表される化合物として好適なものは、下記の(Ib−1)または(Ib−2)の化合物である。
(Ib−1)Rb1がアミノ基であり、Rb2が1−エチルプロピル基である化合物。
(Ib−2)Rb1がグアニジノ基であり、Rb2が1−エチルプロピル基である化合物。
【0022】
一般式(Ic)で表される化合物において、
c1の定義において、好適には水酸基である。
【0023】
c2の定義において、「炭素数1乃至8個のアルキル基」としては、例えばメチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、s−ブチル、t−ブチル、ペンチル、イソペンチル、2−メチルブチル、ネオペンチル、1−エチルプロピル、ヘキシル、イソヘキシル、4−メチルペンチル、3−メチルペンチル、2−メチルペンチル、1−メチルペンチル、3,3−ジメチルブチル、2,2−ジメチルブチル、1,1−ジメチルブチル、1,2−ジメチルブチル、1,3−ジメチルブチル、2,3−ジメチルブチル、2−エチルブチル、ヘプチル、1−メチルヘキシル、2−メチルヘキシル、3−メチルヘキシル、4−メチルヘキシル、5−メチルヘキシル、1−プロピルブチル、4,4−ジメチルペンチル、オクチル、1−メチルヘプチル、2−メチルヘプチル、3−メチルヘプチル、4−メチルヘプチル、5−メチルヘプチル、6−メチルヘプチル、1−プロピルペンチル、2−エチルヘキシル、5,5−ジメチルヘキシル基のような直鎖状若しくは分枝状アルキル基またはシクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチル、シクロオクチルのような炭素数3乃至8個の飽和環状アルキル基を挙げることができ、好適には1−エチルプロピル基である。
【0024】
c3の定義において、好適にはグアニジノ基である。
【0025】
一般式(Ic)で表される化合物は、好適には、Rc1が水酸基であり、Rc2が1−エチルプロピル基であり、Rc3がグアニジノ基である化合物(Ic−1)である。
【0026】
一般式(Id)で表される化合物において、
d1の定義における「炭素数2乃至5個のアルケニル基」としては、例えばビニル、1−プロペニル、イソブテニル、イソプロペニル、1−メチル−1−プロペニル、1,3−ジメチル−1−プロペニル、1−ブテニル、2−メチル−1−ブテニル、2−ブテニル、1−エチル−1−プロペニル基を挙げることができ、好適にはシス−1−プロペニル、トランス−1−プロペニル、イソブテニル、ビニル基であり、更に好適にはシス−1−プロペニル、ビニル基であり、最も好適にはシス−1−プロペニル基である。
【0027】
d2及びRd3の定義における「炭素数1乃至6個のアルキル基」としては、例えばメチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、s−ブチル、t−ブチル、ペンチル、イソペンチル、2−メチルブチル、ネオペンチル、1−エチルプロピル、ヘキシル、イソヘキシル、4−メチルペンチル、3−メチルペンチル、2−メチルペンチル、1−メチルペンチル、3,3−ジメチルブチル、2,2−ジメチルブチル、1,1−ジメチルブチル、1,2−ジメチルブチル、1,3−ジメチルブチル、2,3−ジメチルブチル、2−エチルブチル基のような直鎖状若しくは分枝状アルキル基を挙げることができ、好適にはメチル、エチルまたはプロピル基である。
【0028】
d4の定義における「炭素数1乃至3個のアルキル基」としては、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル基を挙げることができ、最も好適にはメチル基である。
【0029】
一般式(Id)で表される化合物は、好適には、Rd1がシス−1−プロペニル基であり、Rd2がメチル基であり、Rd3がプロピル基であり、Rd4がメチル基である化合物(Id−1)である。化合物(Id−1)において、Rd2及びRd3が結合する炭素原子の立体配置がS配置である化合物はABT−675として知られる。
【0030】
「薬理上許容されるエステル誘導体」とは、ヒトまたは動物体内で加水分解等の化学的若しくは生物学的方法により開裂しシアリダーゼ阻害活性を有する化合物を生成するように該化合物の水酸基またはカルボキシル基が保護されたエステル誘導体(いわゆる「エステル型プロドラッグ」)をいい、そのようなエステル誘導体か否かは、ラットやマウスのような実験動物に経口、点鼻、経鼻、経肺、静脈注射等により投与し、その後の動物の体液を調べ、シアリダーゼ阻害活性を有する化合物を検出できることにより決定できる。
【0031】
そのような薬理上許容されるエステル誘導体としては、水酸基が脂肪族又は芳香族アシル基で修飾されたエステル誘導体及びカルボキシル基が保護されたエステル誘導体を挙げることができる。
【0032】
脂肪族アシル基としては、例えば、アセチル、プロピオニル、ブタノイル、2-メチルプロピオニル、2,2−ジメチルプロピオニル(ピバロイル)、ペンタノイル、イソペンタノイル、2−メチルブタノイル、ネオペンタノイル、ヘキサノイル、イソヘキサノイル、4−メチルペンタノイル、3−メチルペンタノイル、2−メチルペンタノイル、3,3−ジメチルブタノイル、2,2−ジメチルブタノイル、2,3−ジメチルブタノイル、2−エチルブタノイル、ヘプタノイル、2−メチルヘキサノイル、3−メチルヘキサノイル、4−メチルヘキサノイル、5−メチルヘキサノイル、4,4−ジメチルペンタノイル、オクタノイル、2−メチルヘプタノイル、3−メチルヘプタノイル、4−メチルヘプタノイル、5−メチルヘプタノイル、6−メチルヘプタノイル、2−エチルヘキサノイル、5,5−ジメチルヘキサノイル、ノナノイル、3−メチルオクタノイル、4−メチルオクタノイル、5−メチルオクタノイル、6−メチルオクタノイル、2−エチルヘプタノイル、6,6−ジメチルヘプタノイル、デカノイル、3−メチルノナノイル、8−メチルノナノイル、3−エチルオクタノイル、3,7−ジメチルオクタノイル、7,7−ジメチルオクタノイル、ウンデカノイル、4,8−ジメチルノナノイル、ドデカノイル、トリデカノイル、テトラデカノイル、ペンタデカノイル、3,7,11−トリメチルドデカノイル、ヘキサデカノイル、4,8,12−トリメチルトリデカノイル、1−メチルペンタデカノイル、14−メチルペンタデカノイル、13,13−ジメチルテトラデカノイル、ヘプタデカノイル、15−メチルヘキサデカノイル、オクタデカノイル、1−メチルヘプタデカノイル、ノナデカノイルまたはアイコサノイル基のような炭素数2乃至20個のアルカノイル基;メトキシカルボニル、エトキシカルボニル、プロポキシカルボニル、イソプロポキシカルボニル、ブチルオキシカルボニル、イソブチルオキシカルボニル、s−ブチルオキシカルボニル、t−ブチルオキシカルボニル、ペンチルオキシカルボニル、ヘキシルオキシカルボニル、ヘプチルオキシカルボニル、オクチルオキシカルボニル、ノニルオキシカルボニル、デシルオキシカルボニル、ウンデシルオキシカルボニル、ドデシルオキシカルボニル、トリデシルオキシカルボニル、テトラデシルオキシカルボニル、ペンタデシルオキシカルボニル、ヘキサデシルオキシカルボニル、ヘプタデシルオキシカルボニル、オクタデシルオキシカルボニルまたはノナデシルオキシカルボニル基のような炭素数2乃至20個のアルコキシカルボニル基を挙げることができる。これら脂肪族アシル基のアルキル部分は、3乃至7員環状構造及び2又は3重結合を有していてもよい。
【0033】
芳香族アシル基としては、例えば、ベンゾイル、α−ナフトイル、β−ナフトイルのような炭素数7乃至11個のアリールカルボニル基;2−フェニルアセチル、3−フェニルプロピオニル、4−フェニルブチリル、5−フェニルペンタノイル、6−フェニルヘキサノイル、7−フェニルヘプタノイル、8−フェニルオクタノイル、9−フェニルノナノイル、10−フェニルデカノイル、10−ナフチルデカノイル基のような炭素数8乃至20個のアラルキルカルボニル基を挙げることができる。これら芳香族アシル基のアリ−ル部分は、炭素数1乃至4個のアルキル基、ハロゲン原子または炭素数1乃至4個のアルコキシ基で置換されていてもよい。
【0034】
カルボキシル基が保護されたエステル誘導体のエステル残基としては、例えばメチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、s−ブチル、t−ブチル、ペンチル、イソペンチル、2−メチルブチル、ネオペンチル、1−エチルプロピル、ヘキシル、イソヘキシル、4−メチルペンチル、3−メチルペンチル、2−メチルペンチル、1−メチルペンチル、3,3−ジメチルブチル、2,2−ジメチルブチル、1,1−ジメチルブチル、1,2−ジメチルブチル、1,3−ジメチルブチル、2,3−ジメチルブチル、2−エチルブチル、ヘプチル、1−メチルヘキシル、2−メチルヘキシル、3−メチルヘキシル、4−メチルヘキシル、5−メチルヘキシル、1−プロピルブチル、4,4−ジメチルペンチル、オクチル、1−メチルヘプチル、2−メチルヘプチル、3−メチルヘプチル、4−メチルヘプチル、5−メチルヘプチル、6−メチルヘプチル、1−プロピルペンチル、2−エチルヘキシル、5,5−ジメチルヘキシル、ノニル、3−メチルオクチル、4−メチルオクチル、5−メチルオクチル、6−メチルオクチル、1−プロピルヘキシル、2−エチルヘプチル、6,6−ジメチルヘプチル、デシル、1−メチルノニル、3−メチルノニル、8−メチルノニル、3−エチルオクチル、3,7−ジメチルオクチル、7,7−ジメチルオクチル、ウンデシル、4,8−ジメチルノニル、ドデシル、トリデシル、テトラデシル、ペンタデシル、3,7,11−トリメチルドデシル、ヘキサデシル、4,8,12−トリメチルトリデシル、1−メチルペンタデシル、14−メチルペンタデシル、13,13−ジメチルテトラデシル、ヘプタデシル、15−メチルヘキサデシル、オクタデシル、1−メチルヘプタデシル、ノナデシルまたはアイコシル基のような炭素数1乃至20個のアルキル基;前記のアルキル基において1又は2個の2重結合を有する炭素数2乃至20個のアルケニル基;前記のアルキル基において1又は2個の3重結合を有する炭素数2乃至20個のアルキニル基;ベンジル、フェネチル、3−フェニルプロピル、4−フェニルブチル、5−フェニルペンチル、6−フェニルヘキシル、8−フェニルオクチル、10−フェニルデシルまたは10−ナフチルデシル基のような炭素数7乃至20個のアラルキル基;アセチルオキシメチル、プロピオニルオキシメチル、ブチリルオキシメチル、ペンタノイルオキシメチル、ヘキサノイルオキシメチル、オクタノイルオキシメチル、デカノイルオキシメチル、ドデカノイルオキシメチル、テトラデカノイルオキシメチル、ヘキサデカノイルオキシメチル、オクタデカノイルオキシメチル、1−(アセチルオキシ)エチル、1−(プロピオニルオキシ)エチル、1−(ブチリルオキシ)エチル、1−(ペンタノイルオキシ)エチル、1−(ヘキサノイルオキシ)エチル、1−(オクタノイルオキシ)エチル、1−(デカノイルオキシ)エチル、1−(ドデカノイルオキシ)エチル、1−(テトラデカノイルオキシ)エチル、1−(ヘキサデカノイルオキシ)エチル、1−(オクタデカノイルオキシ)エチル基のような1−(炭素数2乃至20個のアルカノイルオキシ)炭素数1乃至3個のアルキル基;メトキシカルボニルオキシメチル、エトキシカルボニルオキシメチル、プロピルオキシカルボニルオキシメチル、イソプロピルオキシカルボニルオキシメチル、ブチルオキシカルボニルオキシメチル、イソブチルオキシカルボニルオキシメチル、s−ブチルオキシカルボニルオキシメチル、t−ブチルオキシカルボニルオキシメチル、ペンチルオキシカルボニルオキシメチル、2−ペンチルオキシカルボニルオキシメチル、3−ペンチルオキシカルボニルオキシメチル、イソペンチルオキシカルボニルオキシメチル、ネオペンチルオキシカルボニルオキシメチル、シクロペンチルオキシカルボニルオキシメチル、ヘキシルオキシカルボニルオキシメチル、2−ヘキシルオキシカルボニルオキシメチル、3−ヘキシルオキシカルボニルオキシメチル、イソヘキシルオキシカルボニルオキシメチル、シクロヘキシルオキシカルボニルオキシメチル、ヘプチルオキシカルボニルオキシメチル、オクチルオキシカルボニルオキシメチル、デシルオキシカルボニルオキシメチル、ドデシルオキシカルボニルオキシメチル、テトラデシルオキシカルボニルオキシメチル、ヘキサデシルオキシカルボニルオキシメチル、オクタデシルオキシカルボニルオキシメチル、1−(メトキシカルボニルオキシ)エチル、1−(エトキシカルボニルオキシ)エチル、1−(プロピルオキシカルボニルオキシ)エチル、1−(イソプロピルオキシカルボニルオキシ)エチル、1−(ブチルオキシカルボニルオキシ)エチル、1−(イソブチルオキシカルボニルオキシ)エチル、1−(s−ブチルオキシカルボニルオキシ)エチル、1−(t−ブチルオキシカルボニルオキシ)エチル、1−(ペンチルオキシカルボニルオキシ)エチル、1−(2−ペンチルオキシカルボニルオキシ)エチル、1−(3−ペンチルオキシカルボニルオキシ)エチル、1−(イソペンチルオキシカルボニルオキシ)エチル、1−(ネオペンチルオキシカルボニルオキシ)エチル、1−(シクロペンチルオキシカルボニルオキシ)エチル、1−(ヘキシルオキシカルボニルオキシ)エチル、1−(2−ヘキシルオキシカルボニルオキシ)エチル、1−(3−ヘキシルオキシカルボニルオキシ)エチル、1−(イソヘキシルオキシカルボニルオキシ)エチル、1−(シクロヘキシルオキシカルボニルオキシ)エチル、1−(ヘプチルオキシカルボニルオキシ)エチル、1−(オクチルオキシカルボニルオキシ)エチル、1−(デシルオキシカルボニルオキシ)エチル、1−(ドデシルオキシカルボニルオキシ)エチル、1−(テトラデシルオキシカルボニルオキシ)エチル、1−(ヘキサデシルオキシカルボニルオキシ)エチル、1−(オクタデシルオキシカルボニルオキシ)エチル基のような1−(炭素数1乃至20個のアルコキシカルボニルオキシ)炭素数1乃至3個のアルキル基を挙げることができる。
【0035】
水酸基におけるエステルは、好適には炭素数6乃至20個のアルカノイル基であり、カルボキシル基におけるエステルのうち好適なものは、炭素数8乃至20個のアルキル基である。
【0036】
「受容者の呼吸器へ投与される」とは、シアリダーゼ阻害作用を有する化合物の薬理上許容されるエステル誘導体を、例えば点鼻、経鼻、経肺または口腔内投与等によって受容者の呼吸器組織(鼻腔、気道、肺、口腔内等の組織)へ到達させることをいう。
【0037】
受容者の呼吸器組織へ到達したシアリダーゼ阻害活性を有する化合物の薬理上許容されるエステル誘導体は、例えば加水分解等の化学的若しくは生物学的方法により速やかに分解され、シアリダーゼ阻害活性を有する化合物に変換される。
【0038】
「シアリダーゼ阻害活性を有する化合物を受容者の呼吸器組織に滞留させる」とは、シアリダーゼ阻害活性を有する化合物の薬理上許容されるエステル誘導体を受容者の呼吸器へ投与したときの受容者の呼吸器組織におけるシアリダーゼ阻害活性を有する化合物の濃度が、シアリダーゼ阻害活性を有する化合物自体を同様に投与したときの濃度と比較して、より高濃度で長時間にわたり維持されることをいう。
【0039】
シアリダーゼ阻害活性を有する化合物が一般式(Ia)で表される場合、その薬理上許容されるエステル誘導体は、好適には一般式(IIa)で表される。
【0040】
一般式
【0041】
【化5】


【0042】
[式中、R及びRは、同一又は異なって、水素原子又は炭素数2乃至20個のアルカノイル基を示し、Xはハロゲン原子、水酸基、炭素数1乃至4個のアルコキシ基又は炭素数2乃至20個のアルカノイルオキシ基を示し、Rは水素原子又は炭素数1乃至20個のアルキル基を示す。但し、R及びRが水素原子であり、かつXがハロゲン原子、水酸基又は炭素数1乃至4個のアルコキシ基である場合、Rは炭素数8乃至20個のアルキル基を示す。]
一般式(IIa)で表される化合物において、
及びRの定義における「炭素数2乃至20個のアルカノイル基」およびXの定義における「炭素数2乃至20個のアルカノイルオキシ基」のアルカノイル部分は、前述の水酸基におけるエステルの定義におけるのと同様に、炭素数2乃至20個の直鎖又は分枝鎖アルカノイル基であり、好適には炭素数6乃至20個のアルカノイル基であり、さらに好適には炭素数6乃至18個のアルカノイル基であり、より更に好適にはヘキサノイル、オクタノイル、デカノイル、ドデカノイル、テトラデカノイル、ヘキサデカノイルまたはオクタデカノイル基である。
【0043】
の定義における「ハロゲン原子」及び「炭素数1乃至4個のアルコキシ基」は前述のXの定義におけるのと同意義である。
【0044】
の定義における「炭素数1乃至20個のアルキル基」は、前述のカルボキシル基におけるエステルの定義におけるのと同様に、炭素数1乃至20個の直鎖又は分枝状アルキル基である。
【0045】
上記のRの「炭素数1乃至20個のアルキル基」は、R及びRが水素原子であり、Xがハロゲン原子、水酸基または炭素数1乃至4個のアルコキシ基である場合、好適には炭素数8乃至20個のアルキル基であり、更に好適には炭素数10乃至20個のアルキル基であり、より更に好適にはデシル、ドデシル、テトラデシル、ヘキサデシルまたはオクタデシル基である。
【0046】
また、RまたはRが炭素数6乃至20個のアルカノイル基である場合、Rは好適には水素原子または炭素数1乃至4個のアルキル基であり、更に好適には水素原子である。
【0047】
一般式(IIa)で表される化合物として好適なものは、下記の(IIa−A)または(IIa−B)の化合物である。
(IIa−A)Rが炭素数6乃至20個のアルカノイル基であり、Rが水素原子であり、Xがハロゲン原子、水酸基または炭素数1乃至4個のアルコキシ基であり、Rが水素原子である化合物。
(IIa−B)R及びRが水素原子であり、Xがハロゲン原子、水酸基または炭素数1乃至4個のアルコキシ基であり、Rが炭素数8乃至20個のアルキル基である化合物。
【0048】
上記の(IIa−A)の化合物において、下記の(IIa−A−1)乃至(IIa−A−6)の化合物は更に好適である。
(IIa−A−1)上記の(IIa−A)の化合物において、Rが炭素数6乃至18個のアルカノイル基である化合物。
(IIa−A−2)上記の(IIa−A)の化合物において、Rがヘキサノイル、オクタノイル、デカノイル、ドデカノイル、テトラデカノイル、ヘキサデカノイルまたはオクタデカノイル基である化合物。
(IIa−A−3)上記の(IIa−A)の化合物において、Xが炭素数1乃至4個のアルコキシ基である化合物。
(IIa−A−4)上記の(IIa−A)の化合物において、Xがメトキシ基である化合物。
(IIa−A−5)上記の(IIa−A)の化合物において、Rが炭素数6乃至18個のアルカノイル基であり、Xが炭素数1乃至4個のアルコキシ基である化合物。
(IIa−A−6)上記の(IIa−A)の化合物において、Rがヘキサノイル、オクタノイル、デカノイル、ドデカノイル、テトラデカノイル、ヘキサデカノイルまたはオクタデカノイル基であり、Xがメトキシ基である化合物。
【0049】
上記の(IIa−B)の化合物において、下記の(IIa−B−1)乃至(IIa−B−6)の化合物は更に好適である。
(IIa−B−1)上記の(IIa−B)の化合物において、Rが炭素数10乃至20個のアルキル基である化合物。
(IIa−B−2)上記の(IIa−B)の化合物において、Rがデシル、ドデシル、テトラデシル、ヘキサデシルまたはオクタデシル基である化合物。
(IIa−B−3)上記の(IIa−B)の化合物において、Xが炭素数1乃至4個のアルコキシ基である化合物。
(IIa−B−4)上記の(IIa−B)の化合物において、Xがメトキシ基である化合物。
(IIa−B−5)上記の(IIa−B)の化合物において、Rが炭素数10乃至20個のアルキル基であり、Xが炭素数1乃至4個のアルコキシ基である化合物。
(IIa−B−6)上記の(IIa−B)の化合物において、Rがデシル、ドデシル、テトラデシル、ヘキサデシルまたはオクタデシル基であり、Xがメトキシ基である化合物。
【0050】
シアリダーゼ阻害活性を有する化合物が一般式(Ib)で表される場合、その薬理上許容されるエステル誘導体は、好適には一般式(IIb)で表される。
【0051】
一般式
【0052】
【化6】


【0053】
[式中、Rb1はアミノまたはグアニジノ基を示し、Rb2は炭素数1乃至12個のアルキル基を示し、Rは炭素数8乃至20個のアルキル基を示す。]
b1及びRb2は、好適には前述の化合物(Ib)におけるのと同様である。
【0054】
の炭素数8乃至20個のアルキル基は、前述の化合物(IIa)のRにおけるのと同様であり、好適には炭素数10乃至20個のアルキル基であり、更に好適にはデシル、ドデシル、テトラデシル、ヘキサデシルまたはオクタデシル基である。
【0055】
シアリダーゼ阻害活性を有する化合物が一般式(Ic)で表される場合、その薬理上許容されるエステル誘導体は、好適には一般式(IIc)で表される。
【0056】
一般式
【0057】
【化7】

【0058】
[式中、Rc1は水素原子または水酸基を示し、Rc2は炭素数1乃至8個のアルキル基を示し、Rc3はアミノまたはグアニジノ基を示し、Rは炭素数8乃至20個のアルキル基を示す。]
c1、Rc2及びRc3は、好適には前述の化合物(Ic)におけるのと同様である。
【0059】
の炭素数8乃至20個のアルキル基は、前述の化合物(IIa)のRにおけるのと同様であり、好適には炭素数10乃至20個のアルキル基であり、更に好適にはデシル、ドデシル、テトラデシル、ヘキサデシルまたはオクタデシル基である。
【0060】
シアリダーゼ阻害活性を有する化合物が一般式(Id)で表される場合、その薬理上許容されるエステル誘導体は、好適には一般式(IId)で表される。
【0061】
一般式
【0062】
【化8】


【0063】
[式中、Rd1は炭素数2乃至5個のアルケニル基を示し、Rd2及びRd3は炭素数1乃至6個のアルキル基を示し、Rd4は炭素数1乃至3個のアルキル基を示し、Rは炭素数8乃至20個のアルキル基を示す。]
d1、Rd2、Rd3及びRd4は、好適には前述の化合物(Id)におけるのと同様である。
【0064】
の炭素数8乃至20個のアルキル基は、前述の化合物(IIa)のRにおけるのと同様であり、好適には炭素数10乃至20個のアルキル基であり、更に好適にはデシル、ドデシル、テトラデシル、ヘキサデシルまたはオクタデシル基である。
【0065】
一般式(IIa)、(IIb)、(IIc)及び(IId)で表される化合物は分子内にアミノ基またはグアニジノ基を有し、また、一般式(IIa)で表される化合物はRが水素原子のときカルボキシル基を有するので、薬理的に毒性を示さない酸又は塩基と結合して薬理上許容される塩を形成することができる。
【0066】
「薬理上許容される塩」としては、例えばフッ化水素酸塩、塩化水素酸塩、臭化水素酸塩、ヨウ化水素酸塩のようなハロゲン化水素酸塩;硝酸塩、過塩素酸塩、硫酸塩、りん酸塩のような無機酸塩;メタンスルホン酸塩、エタンスルホン酸塩、トリフルオロメタンスルホン酸塩のようなアルカンスルホン酸塩;ベンゼンスルホン酸塩、p−トルエンスルホン酸塩のようなアリールスルホン酸塩;酢酸塩、トリフルオロ酢酸塩、クエン酸塩、酒石酸塩、しゅう酸塩、マレイン酸塩のような有機酸塩;グリシン塩、リジン塩、アルギニン塩、オルニチン塩、グルタミン酸塩、アスパラギン酸塩のようなアミノ酸塩;リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩のようなアルカリ金属塩;カルシウム塩、マグネシウム塩のようなアルカリ土類金属塩;アルミニウム塩、鉄塩、亜鉛塩、銅塩、ニッケル塩、コバルト塩のような金属塩;アンモニウム塩、t−オクチルアミン塩、ジベンジルアミン塩、モルホリン塩、グルコサミン塩、エチレンジアミン塩、グアニジン塩、ジエチルアミン塩、トリエチルアミン塩、ジシクロヘキシルアミン塩、プロカイン塩、エタノールアミン塩、ジエタノールアミン塩、ピペラジン塩、テトラメチルアンモニウム塩のような有機アミン若しくは有機アンモニウム塩等を挙げることができ、好適にはリチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩のようなアルカリ金属塩;酢酸塩、トリフルオロ酢酸塩のような有機酸塩;または塩酸塩、硫酸塩のような無機酸塩である。
【0067】
一般式(IIa)、(IIb)、(IIc)及び(IId)で表される化合物は、大気中に放置したり、水又は有機溶媒と混和することによって水又は溶媒と結合し、水和物又は溶媒和物を形成する場合がある。
【0068】
これらの薬理上許容される塩、水和物及び溶媒和物も本発明の予防剤の有効成分に含まれる。
【発明の効果】
【0069】
シアリダーゼ阻害活性を有する化合物の薬理上許容されるエステル誘導体は、受容者の呼吸器へ投与されることにより、シアリダーゼ阻害活性を有する化合物自体が同様に投与された場合と比較して、シアリダーゼ阻害活性を有する化合物を受容者の呼吸器組織により高濃度で長時間にわたり滞留させることができるため、インフルエンザの予防剤として極めて有効である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0070】
一般式(Ia)、(Ib)、(Ic)及び(Id)で表される化合物及び一般式(IIa)、(IIb)、(IIc)及び(IId)で表される化合物又はその薬理上許容される塩は、特表平5−507068号公報、特開平10−330373号公報、PCT国際公開WO97/06157号公報、WO98/11083号公報;PCT国際公開WO96/26933号公報;PCT国際公開WO96/33781号公報、WO97/47194号公報;PCT国際公開WO99/54299号公報等に記載された方法或いはそれらに準ずる方法によって製造することができる。
【0071】
シアリダーゼ阻害活性を有する化合物のエステル誘導体をインフルエンザの予防剤として使用する場合には、それ自体あるいは適宜の薬理学的に許容される、賦形剤、希釈剤等と混合し、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、シロップ剤、軟膏剤、液剤、懸濁剤、エアゾール剤、トローチ剤等によって投与することができる。
【0072】
これらの製剤は、賦形剤(例えば、乳糖、白糖、ブドウ糖、マンニット、ソルビットのような糖類;トウモロコシデンプン、馬鈴薯デンプン、α−デンプン、デキストリン、カルボキシメチルデンプンのようなデンプン誘導体;結晶セルロース、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースカルシウム、内部架橋カルボキシメチルセルロースナトリウムのようなセルロース誘導体;アラビアゴム;デキストラン;プルラン;軽質無水珪酸、合成珪酸アルミニウム、メタ珪酸アルミン酸マグネシウムのような珪酸塩類;リン酸カルシウムのようなリン酸塩類;炭酸カルシウムのような炭酸塩類;硫酸カルシウムのような硫酸塩類等)、結合剤(例えば、前記の賦形剤;ゼラチン;ポリビニルピロリドン;マグロゴール等)、崩壊剤(例えば、前記の賦形剤;クロスカルメロースナトリウム、カルボキシメチルスターチナトリウム、架橋ポリビニルピロリドンのような化学修飾された、デンプンまたはセルロース誘導体等)、滑沢剤(例えば、タルク;ステアリン酸;ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウムのようなステアリン酸金属塩;コロイドシリカ;ビーガム;ビーズワックス、ゲイロウのようなワックス類;硼酸;グリコール;フマル酸、アジピン酸のようなカルボン酸類;安息香酸ナトリウムのようなカルボン酸ナトリウム塩;硫酸ナトリウムのような硫酸類塩;ロイシン;ラウリル硫酸ナトリウム、ラウリル硫酸マグネシウムのようなラウリル硫酸塩;無水珪酸、珪酸水和物のような珪酸類;前記の賦形剤におけるデンプン誘導体等)、安定剤(例えば、メチルパラベン、プロピルパラベンのようなパラヒドロキシ安息香酸エステル類;クロロブタノール、ベンジルアルコール、フェニルエチルアルコールのようなアルコール類;塩化ベンザルコニウム;フェノール、クレゾールのようなフェノール類;チメロサール;無水酢酸;ソルビン酸等)、矯味矯臭剤(例えば、通常使用される、甘味料、酸味料、香料等)、懸濁化剤(例えば、ポリソルベート80、カルボキシメチルセルロースナトリウム等)、希釈剤、製剤用溶剤(例えば、水、エタノール、グリセリン等)等の添加物を用いて周知の方法で製造される。
【0073】
本発明のインフルエンザ予防剤は、経口的または非経口的に投与することができるが、シアリダーゼ阻害活性を有する化合物のエステル誘導体がインフルエンザウイルスの主たる感染経路である受容者の呼吸器組織(口腔、鼻腔、気道、肺の組織)へ送達され得る投与方法、例えば点鼻、経鼻、経肺、口腔内投与等によって投与することが好ましい。一般に、化合物は溶液または懸濁液の形あるいは乾燥粉末として投与しうる。溶液および懸濁液は水性であり、例えば、水のみ(例えば、無菌または発熱物質非含有水)、あるいは水および生理学的に許容される補助溶媒(例えば、エタノール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、例えばPEG 400)から一般に製造される。そのような溶液または懸濁液は他の賦形剤、例えば防腐剤(例えば、塩化ベンザルコニウム)、ポリソルベートのような可溶化剤/表面活性剤(例えば、Tween 80、Span 80、塩化ベンザルコニウム)、緩衝剤、等張性調節剤(例えば、塩化ナトリウム)、吸収促進剤および増粘剤をさらに含有していてもよい。懸濁液は懸濁化剤(例えば、微結晶質セルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム)をさらに含有していてもよい。液剤または懸濁剤は一般的な手段、例えばスポイト、ピペットまたは噴霧器で鼻腔または口腔に直接施す。配合物は一回のみの投与量または多数回投与量の形で提供しうる。後者の場合、投与量計量手段を設けるのが望ましい。スポイトまたはピペットの場合、これは患者が適切な所定容量の液剤または懸濁剤を投与することによってなしうる。噴霧器の場合、これは、例えば、計量噴霧スプレーポンプの手段によってなしうる。気道または肺への投与は、化合物をクロロフルオロカーボン(CFC)、例えばジクロロジフルオロメタン、トリクロロフルオロメタンまたはジクロロテトラフルオロエタン、二酸化炭素または他の適当なガスのような適当な噴射剤と共に加圧パックの形にされたエアゾール配合物によってなしうる。エアゾールはまたレシチンのような表面活性剤を含有していると好都合である。薬剤の投与量は、計量バルブを備えることによって制御しうる。あるいは、化合物は、乾燥粉末、例えば、ラクトース、デンプン、デンプン誘導体(例えばヒドロキシプロピルメチルセルロース)、およびポリビニルピロリジン(PVP)のような適当な粉末基剤に化合物を混合した粉末混合物の形で提供してもよい。粉末担体が鼻腔内でゲルを形成すると好都合である。粉末組成物は、例えばゼラチンでできた、カプセルもしくはカートリッジ、またはブリスターパック(粉末を吸入器によってこれらから投与しうる)のような単位投与量形態で提供しうる。鼻内配合物を含めた気道または肺へ投与するための配合物では、化合物の粒子サイズは一般に小さく、例えば5ミクロン以下である。そのような粒子サイズは、超微粉化によるような当業界で公知の方法によって得られる。望ましいときには、活性成分を持続放出するようにしてある配合物を用いてもよい。
【0074】
シアリダーゼ阻害活性を有する化合物のエステル誘導体は、他の治療薬、例えばアマンタジン、リマンタジン、リバビリンのような抗インフルエンザ薬と組み合わせて使用することもできる。そのような組み合わせの個々の成分は、別々のまたは一緒にした医薬配合物の形で、順次または同時に投与しうる。本発明の化合物を、同じウイルスに対して活性な第二治療剤と共に用いるとき、各化合物の投与量は、各化合物を単独で使用するときに用いる投与量と同じでも異なっていてもよい。
【0075】
本発明のインフルエンザ予防剤の投与は、インフルエンザ流行シーズンに開始し、1週間に1乃至7回、必要に応じて増減しながら行うことができる。即ち、流行が身近に迫った場合や、集団生活を行っている場、あるいは、不特定多数が集合する場、例えば保育園、幼稚園、学校、会社、病院、老人ホーム、映画館、図書館、コンサート会場、スポーツ観戦会場など、で生活をし、働いたり、あるいは行ったりする場合には、投与頻度を上げたり、事前に投与することが可能である。投与頻度をあげるとは、例えば投与を1日1回にしたりすることであり、事前投与とは、感染の可能性のある行動の前あるいは行動の後、インフルエンザ発症の前に投与することである。
【0076】
その使用量は使用される予防剤の種類、インフルエンザの流行の程度、投与される者の体重・年齢等の状態により異なるが、例えば、化合物(II)を使用する場合、1回当たり下限0.1mg(好適には1mg)、上限1000mg(好適には、500mg)を成人に対して、1週当り1乃至7回投与することが望ましい。
【0077】
本発明のインフルエンザ予防剤によるウイルス感染予防効果は次のような方法で評価することができる。
【0078】
例えば、本発明の有効成分を、溶液、懸濁液または粉末状態でヒト、マウス、ラット、フェレット、ブタ、トリなどの脊椎動物の呼吸器へ点鼻、経鼻、経肺、吸入等の投与方法によって適量を投与する。その直後から1ヶ月後の適当な時期に1回、インフルエンザウイルスを吸入あるいは鼻への滴下により感染させる。その後、インフルエンザ症状、例えば発熱、頭痛、全身倦怠感、関節痛、筋肉痛、せき、痰などの呼吸器症状や、咽喉ぬぐい液、鼻汁、肺洗浄液などに含まれるウイルス量や、あるいは生死などを観察あるいは測定し、本発明のインフルエンザ予防剤の予防効果を知ることができる。
【0079】
あるいは、インフルエンザ流行地域で、ヒトに本発明の有効成分を経口、直腸、鼻、局所(口内および舌下を含む)、膣もしくは非経口(筋肉内、皮下および静脈内を含む)または吸入により気道(鼻を通過することを含む)へ適量を投与する群を作成する。一方で本発明の化合物を投与しない一群を作成する。一定期間後に、両群でのインフルエンザに感染しその症状を発症した割合を統計学的に検証し、本発明のインフルエンザ予防剤の予防効果を知ることもできる。
【0080】
マウスを使い予防効果を検証する場合には、生理食塩水に溶解した本発明の有効成分を鼻腔内に適量滴下することで、経鼻的に投与し、その直後から1ヶ月後の適当な時期にインフルエンザウイルスを同様の方法で経鼻的に感染させる。感染後、マウスの肺を取り出し肺中のウイルス量を測定することにより、予防効果を知ることができる。使用するインフルエンザウイルスがマウスに対し致死的感染を起こす場合には、マウスの生死を観察することにより予防効果を知ることができる。
【0081】
なお、予防効果を評価する方法はここに記したことに限定されない。
【実施例】
【0082】
以下に製造例、製剤例及び試験例を示し、本発明を更に詳細に説明する。
(製造例1)
5−アセタミド−4−グアニジノ−9−O−オクタノイル−2、3、4、5−テトラデオキシ−7−O−メチル−D−グリセロ−D−ガラクト−ノン−2−エノピラソン酸水和物結晶
【0083】
【化9】

【0084】
(1)特開平10−330373号公報の実施例35(i)の化合物、5−アセタミド−4−(N,N’−ビス−t−ブチロキシカルボニル)グアニジノ-9-O-オクタノイル-2,3,4,5−テトラデオキシ−7−O−メチル−D−グリセロ−D−ガラクト−ノン−2−エノピラノソン酸ジフェニルメチル(3.46g、4.1mmol)を塩化メチレン(27ml)、トリフルオロ酢酸(14ml)に溶解し、室温で終夜攪拌した。反応液を減圧下濃縮乾固した後、トルエン(5ml)で3回共沸乾固した。得られた油状物を酢酸エチル(10ml)に溶解した。一方、本溶液を飽和重曹水(50ml)に注加し、20%炭酸ナトリウム水溶液を加えpH8.5にした。室温で3時間攪拌した後、塩酸(3ml)でpH5.0に調整し、室温で1時間攪拌した。更に氷冷下1時間撹拌後、結晶を吸引ろ過し、外温50℃にて10時間真空乾燥した。空気中で1日間放置し、標記目的化合物を結晶として得た。(0.97g、51%)
赤外線吸収スペクトル(KBr)νmax cm-1: 3412, 2929, 2856, 1676, 1401, 1320, 1285, 1205, 1137, 722.
H核磁気共鳴スペクトル(400MHz, CD3OD)δppm: 5.88(1H, d, J=2.5 Hz), 4.45 (3H, m), 4.27 (1H, dd, J=10.0 Hz, 10.0 Hz), 4.15 (1H, m), 3.47 (2H, m), 3.42 (3H, s), 2.37 (2H, t, J=7.4 Hz), 2.10 (3H, s), 1.31 (2H, m), 1.20-1.40 (8H, m), 0.85-0.95 (3H, m).
13C核磁気共鳴スペクトル(100MHz, CD3OD)δppm: 176.5, 173.7, 164.7, 158.9, 146.7, 108.7, 80.1, 78.0, 69.3, 66.8, 61.4, 52.4, 35.1, 32.8, 30.2, 30.1, 26.0, 23.7, 22.8, 14.4.
(2)標記化合物は次の方法によっても得られた。
【0085】
特開平10−330373号公報の実施例35(ii)の化合物、5−アセタミド−4−グアニジノ−9−O−オクタノイル−2、3、4、5−テトラデオキシ−7−O−メチル−D−グリセロ−D−ガラクト−ノン−2−エノピラソン酸トリフルオロ酢酸塩(3.0g、5.1mmol)を逆相カラムクロマトグラフィー(ナカライテスク社製コスモシル75C18PREP、100g)に付し、メタノール−水(0:1、1:1、2:1)を用いてメタノール含量を上げながら溶出させた。目的物を含む分画を減圧下濃縮し、析出した結晶を吸引ろ過し、減圧下乾燥した。空気中で1日間放置し、標記目的化合物を結晶として得た(1.2g、49%)。なお、得られた化合物の物性データは上記(1)で得られたものと完全に一致した。
(製造例2)
(3R,4R,5S)−4−アセタミド−5−アミノ−3−(1−エチルプロポキシ)−1−シクロヘキセン−1−カルボン酸テトラデカン
【0086】
【化10】

【0087】
(1)(3R,4R,5S)−4−アセタミド−5−N−t−ブトキシカルボニルアミノ−3−(1−エチルプロポキシ)−1−シクロヘキセン−1−カルボン酸エチル
(3R,4R,5S)−4−アセタミド−5−アミノ−3−(1−エチルプロポキシ)−1−シクロヘキセン−1−カルボン酸エチル(GS4104)(WO96/26933号公報に記載された化合物)(600mg、1.92mmol)を、ジメチルホルムアミド(3mL)に溶解し、窒素雰囲気下、ジ−t−ブチルジカーボネート(440mg、2.02mmol)を加え、氷冷下、トリエチルアミン(294μL、2.11mmol)を加え、0℃で1時間攪拌した。
【0088】
反応液に酢酸エチル(30mL)を加え、さらに飽和塩化アンモニウム水(10mL)を加えて分液した。得られた有機相を分離し、飽和食塩水(10mL)、次いで水道水(10mLX2)で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥した後、減圧下、溶剤を留去して標記目的化合物(800mg、収率99%)を白色アモルファスとして得た。
【0089】
赤外線吸収スペクトル(CHCl3)νmax: 3692, 3607, 3434, 2981, 2938, 2878, 1811, 1750, 1705, 1602, 1511, 1505, 1458, 1393, 1369, 1321 cm-1;
H核磁気共鳴スペクトル(400 MHz, CDCl3)δppm: 0.88 (3H, t, J = 7.3 Hz), 0.90 (3H, t, J = 7.3 Hz), 1.29 (3H, t, J = 7.3 Hz), 1.42 (9H, s), 1.46-1.56 (4H, m), 1.98 (3H, s), 2.25-2.33 (1H, m), 2.75 (1H, dd, J = 17.6, 5.9 Hz), 3.33-3.38 (1H, m), 3.76-3.84 (1H, m), 3.94-3.97 (1H, m), 4.04-4.11 (1H, m), 4.17-4.25 (2H, m), 5.10 (1H, d, J = 9.8 Hz), 5.76 (1H, d, J = 9.8 Hz), 6.79 (1H, s);
質量分析スペクトル(FAB)m/e: 413 ([M+H]+).
(2)(3R,4R,5S)−4−アセタミド−5−N−t−ブトキシカルボニルアミノ−3−(1−エチルプロポキシ)−1−シクロヘキセン−1−カルボン酸カリウム塩
製造例2(1)で製造した(3R,4R,5S)−4−アセタミド−5−N−t−ブトキシカルボニルアミノ−3−(1−エチルプロポキシ)−1−シクロヘキセン−1−カルボン酸エチル(790mg、1.92mmol)をメタノール(5mL)に溶解し、水酸化カリウム水溶液(6N、0.5mL、3mmol)を加え、40℃で1時間攪拌した。
【0090】
減圧下、溶剤を留去して、粗製の標記目的化合物を得た。これを以下の反応に用いた。
【0091】
H核磁気共鳴スペクトル(400 MHz, D2O)δppm: 0.71 (3H, t, J = 7.3 Hz), 0.77 (3H, t, J = 7.3 Hz), 1.30 (9H, s), 1.26-1.37 (2H, m), 1.38-1.48 (2H, m), 1.89 (3H, s), 2.10-2.18 (1H, m), 2.75 (1H, dd, J = 17.6, 4.9 Hz), 3.37-3.42 (1H, m), 3.55-3.62 (1H, m), 3.63-3.70 (1H, m), 4.10-4.15 (1H, m), 6.29 (1H, s).
(3)(3R,4R,5S)−4−アセタミド−5−N−t−ブトキシカルボニルアミノ−3−(1−エチルプロポキシ)−1−シクロヘキセン−1−カルボン酸テトラデカン
製造例2(2)で製造した(3R,4R,5S)−4−アセタミド−5−N−t−ブトキシカルボニルアミノ−3−(1−エチルプロポキシ)−1−シクロヘキセン−1−カルボン酸カリウム塩(400mg、0.946mmol)をジメチルホルムアミド(3mL)に溶解し、1−ブロモテトラデカン(1.12mL、3.70mmol)を加え、50℃で3時間攪拌した。
【0092】
減圧下、溶剤を留去して、粗製の標記目的化合物を得た。
【0093】
得られた粗製の標記目的化合物をシリカゲルカラムクロマトグラフィ−(ヘキサン:酢酸エチル、4:1−2:1、v/v)を用いて精製し、標記目的化合物(430mg、収率78%)を白色オイルとして得た。
【0094】
赤外線吸収スペクトル(CHCl3) νmax: 3434, 2963, 2928, 2872, 2855, 1705, 1525, 1511, 1503, 1465, 1438, 1393, 1368, 1322 cm-1;
H核磁気共鳴スペクトル(400 MHz, CDCl3)δppm: 0.88 (3H, t, J = 7.3 Hz), 0.90 (3H, t, J = 7.3 Hz), 1.25-1.38 (25H, m), 1.42 (9H, s), 1.46-1.56 (4H, m), 1.60-1.68 (2H, m), 1.98 (3H, s), 2.25-2.33 (1H, m), 2.75 (1H, dd, J = 17.6, 5.9 Hz), 3.33-3.38 (1H, m), 3.76-3.84 (1H, m), 3.94-3.97 (1H, m), 4.04-4.11 (1H, m), 4.17-4.25 (2H, m), 5.10 (1H, d, J = 9.8 Hz), 5.76 (1H, d, J = 9.8 Hz), 6.79 (1H, s);
質量分析スペクトル(FAB) m/e: 581 ([M+H]+);
高分解能質量分析スペクトル(FAB) Calcd for C33H61O6N2: 581.4530; found 581.4526 ([M+H]+).
(4)(3R,4R,5S)−4−アセタミド−5−アミノ−3−(1−エチルプロポキシ)−1−シクロヘキセン−1−カルボン酸テトラデカントリフルオロ酢酸塩
製造例2(3)で製造した(3R,4R,5S)−4−アセタミド−5−N−t−ブトキシカルボニルアミノ−3−(1−エチルプロポキシ)−1−シクロヘキセン−1−カルボン酸テトラデカン(430mg、0.740mmol)を塩化メチレン(6mL)に溶解し、トリフルオロ酢酸(2mL)を加え、2時間室温で攪拌した。
【0095】
減圧下、溶剤を留去して、粗製の標記目的化合物を得た。
【0096】
得られた粗製の標記目的化合物を逆相クロマトグラフィー(コスモシル、水:メタノール、1:0−1:1−1:8、v/v)を用いて精製し、標記目的化合物(376mg、収率85%)を白色アモルファスとして得た。
【0097】
赤外線吸収スペクトル(KBr) νmax: 3279, 3060, 2960, 2926, 2874, 2854, 2094, 1715, 1667, 1554, 1466, 1434, 1375, 1349, 1331, 1301 cm-1;
H核磁気共鳴スペクトル(400 MHz, CD3OD) δppm: 0.89 (3H, t, J = 7.3 Hz), 0.93 (3H, t, J = 7.3 Hz), 1.24-1.43 (25H, m), 1.46-1.60 (4H, m), 1.64-1.72 (2H, m), 2.03 (3H, s), 2.40-2.48 (1H, m), 2.92 (1H, dd, J = 17.6, 5.9 Hz), 3.40-3.46 (1H, m), 3.48-3.55 (1H, m), 3.96 (1H, dd, J = 11.7, 8.8 Hz), 4.13-4.25 (3H, m), 6.85 (1H, s);
質量分析スペクトル(FAB) m/e: 481 ([M+H]+);
高分解能質量分析スペクトル(FAB) Calcd for C28H53O4N2: 481.4006; found 481.3990 ([M+H]+)。
【0098】
(製造例3)
(3R,4R,5S)−4−アセタミド−5−アミノ−3−(1−エチルプロポキシ)−1−シクロヘキセン−1−カルボン酸オクタデカン
【0099】
【化11】

【0100】
(1)(3R,4R,5S)−4−アセタミド−5−N−t−ブトキシカルボニルアミノ−3−(1−エチルプロポキシ)−1−シクロヘキセン−1−カルボン酸オクタデカン
製造例2(2)で製造した(3R,4R,5S)−4−アセタミド−5−N−t−ブトキシカルボニルアミノ−3−(1−エチルプロポキシ)−1−シクロヘキセン−1−カルボン酸カリウム塩(400mg、0.946mmol)をジメチルホルムアミド(3mL)に溶解し、1−ブロモオクタデカン(1.26mL、3.70mmol)を加え、50℃で3時間攪拌した。
【0101】
減圧下、溶剤を留去して、粗製の標記目的化合物を得た。
【0102】
得られた粗製の標記目的化合物をシリカゲルカラムクロマトグラフィ−(ヘキサン:酢酸エチル、4:1−2:1、v/v)を用いて精製し、標記目的化合物(335mg、収率55%)を白色オイルとして得た。
【0103】
赤外線吸収スペクトル(CHCl3) νmax: 3691, 3607, 3434, 2961, 2927, 2855, 1705, 1602, 1511, 1505, 1465, 1438, 1393, 1368, 1322 cm-1;
H核磁気共鳴スペクトル (400 MHz, CDCl3) δ0.88 (3H, t, J = 7.3 Hz), 0.90 (3H, t, J = 7.3 Hz), 1.25-1.38 (33H, m), 1.42 (9H, s), 1.46-1.56 (4H, m), 1.60-1.68 (2H, m), 1.98 (3H, s), 2.25-2.33 (1H, m), 2.74 (1H, dd, J = 17.6, 5.9 Hz), 3.32-3.37 (1H, m), 3.75-3.83 (1H, m), 3.93-3.97 (1H, m), 4.04-4.11 (1H, m), 4.10-4.18 (2H, m), 5.04 (1H, d, J = 8.8 Hz), 5.69 (1H, d, J = 8.8 Hz), 6.79 (1H, s);
質量分析スペクトル(FAB) m/e: 637 ([M+H]+);
高分解能質量分析スペクトル(FAB) Calcd for C37H69O6N2: 637.5155; found 637.5154 ([M+H]+).
(2)(3R,4R,5S)−4−アセタミド−5−アミノ−3−(1−エチルプロポキシ)−1−シクロヘキセン−1−カルボン酸オクタデカントリフルオロ酢酸塩
製造例3(1)で製造した(3R,4R,5S)−4−アセタミド−5−N−t−ブトキシカルボニルアミノ−3−(1−エチルプロポキシ)−1−シクロヘキセン−1−カルボン酸オクタデカン(330mg、0.518mmol)を塩化メチレン(6mL)に溶解し、トリフルオロ酢酸(2mL)を加え、2時間室温で攪拌した。
【0104】
減圧下、溶剤を留去して、粗製の標記目的化合物を得た。
【0105】
得られた粗製の標記目的化合物を逆相クロマトグラフィー(コスモシル、水:メタノール、1:0−1:1−1:10、v/v)を用いて精製し、標記目的化合物(246mg、収率73%)を白色アモルファスとして得た。
【0106】
赤外線吸収スペクトル (KBr) νmax: 3278, 3055, 2959, 2925, 2854, 1715, 1668, 1556, 1466, 1434, 1375, 1350, 1331, 1301 cm-1;
H核磁気共鳴スペクトル(400 MHz, CD3OD) δppm: 0.89 (3H, t, J = 7.3 Hz), 0.93 (3H, t, J = 7.3 Hz), 1.24-1.43 (33H, m), 1.46-1.60 (4H, m), 1.64-1.72 (2H, m), 2.03 (3H, s), 2.39-2.48 (1H, m), 2.92 (1H, dd, J = 17.6, 5.2 Hz), 3.40-3.46 (1H, m), 3.48-3.55 (1H, m), 3.96 (1H, dd, J = 11.7, 8.8 Hz), 4.12-4.25 (3H, m), 6.85 (1H, s);
質量分析スペクトル(FAB) m/e 537 ([M+H]+);
高分解能質量分析スペクトル(FAB) Calcd for C32H61O4N2: 537.4632; found 537.4625 ([M+H]+).
(製剤例1)液剤1
製造例1の化合物が10%(W/W)、塩化ベンザルコニウムが0.04%(W/W)、フェネチルアルコールが0.40%(W/W)、精製水が89.56%(W/W)となるように液剤を調整する。
(製剤例2)液剤2
製造例1の化合物が10%(W/W)、塩化ベンザルコニウムが0.04%(W/W)、ポリエチレングリコール400が10%(W/W)、プロピレングリコールが30%(W/W)、精製水が39.96%(W/W)となるように液剤を調整する。
(製剤例3)散剤
製造例1の化合物が40%(W/W)、ラクトースが60%(W/W)となるように散剤を調整する。
(製剤例4)エアゾール剤
製造例1の化合物が10%(W/W)、レシチンが0.5%(W/W)、フロン11が34.5%(W/W)、フロン12が55%(W/W)となるようにエアゾール剤を調整する。
(試験例1)
5-アセタミド-4-グアニジノ-9-O-オクタノイル-2、3、4、5-テトラデオキシ-7-メトキシ-D-グリセロ-D-ガラクト-ノン-2-エノピラソン酸(化合物A)のインフルエンザ予防効果
5−6週令のBalb/Cマウス(メス)をクロロホルム/エーテル(1:1)で充満した麻酔瓶の中にいれ、麻酔をかけた。麻酔マウスに生理食塩水に溶解した化合物A(エステル誘導体)の溶液50μLを投与量が0.3μmol/kgとなるよう鼻腔内に滴下投与した。その投与から10日あるいは7日あるいは5日あるいは3日あるいは4時間後に同様に麻酔したマウスにインフルエンザウイルスA/PR/8/34株(1,500 plaque formation units)を感染させた。感染後20日までマウスの生死を観察した。
【0107】
図1はその結果を示したもので、横軸に感染後の日数、縦軸に生存率を示した。黒四角は本発明化合物の非投与マウスの生存率プロットを示し、黒三角は10日前、黒丸は7日前、白三角は5日前、白四角は3日前、白丸は4時間前にそれぞれ本発明の化合物Aを投与したマウスの生存率プロットを示す。
【0108】
結果として、非投与マウスが感染後6日までに全数が死亡するのに対し、10日前投与マウス、7日前投与マウスは全数が死亡するのに、それぞれ8日、11日を要した。5日前、3日前、4時間前投与マウスは感染後20日の時点でも生存マウスがおり、その時点での生存率はそれぞれ、50%、83%、100%であった。これらの結果は、化合物A(水酸基におけるエステル誘導体)が予防的投与において優れた効果を示すことを証明している。
(試験例2)
5-アセタミド-4-グアニジノ-9-O-オクタノイル-2、3、4、5-テトラデオキシ-7-メトキシ-D-グリセロ-D-ガラクト-ノン-2-エノピラソン酸(化合物A)を投与したマウスの肺組織における5-アセタミド-4-グアニジノ-2、3、4、5-テトラデオキシ-7-メトキシ-D-グリセロ-D-ガラクト-ノン-2-エノピラソン酸(化合物B)の濃度の持続効果
5−6週令のBalb/Cマウス(メス)をクロロホルム/エーテル(1:1)で充満した麻酔瓶の中にいれ、麻酔をかけた。麻酔マウスに生理食塩水に溶解した化合物A(エステル誘導体)の14C標識体を0.3μmol/kgおよび1μmol/kg、あるいは化合物B(活性体)の14C標識体を4μmol/kgとなるように各々鼻腔内に滴下投与した。投与後マウスの肺組織および上気道部を摘出し、液体シンチレーションカウンターおよび薄層クロマトグラフィーを用いて、72時間までの化合物Aおよび化合物Bの濃度を測定した。なお、化合物A及び化合物Bの化学構造式は下記の通りであり、化合物Aはシアリダーゼ阻害活性を有する化合物Bの9位水酸基におけるエステル誘導体である。
【0109】
図2及び図3はその結果を示したもので、横軸に投与後の時間、縦軸に化合物濃度を示した。図2において、黒四角は化合物A(エステル誘導体)を0.3μmol/kg、黒三角は化合物A(エステル誘導体)を1μmol/kg、白丸は化合物B(活性体)を4μmol/kg、各々投与した後の肺組織中に検出される化合物B(活性体)の濃度推移を示す。図3において、白四角は化合物A(エステル誘導体)を0.3μmol/kg、白三角は化合物A(エステル誘導体)を1μmol/kg、各々投与した後の肺組織中に検出される化合物A(エステル誘導体)の濃度推移を示す。
【0110】
結果として、化合物B(活性体:シアリダーゼ活性を有する化合物)自体を投与すると、該化合物Bは速やかに肺組織から消失した。これに対して、化合物A(エステル誘導体)を投与すると、化合物A(エステル誘導体)は化合物B(活性体)へ速やかに変換されるとともに、化合物B(活性体)の肺組織における濃度が長期にわたり持続した。
(試験例3)
インフルエンザ予防効果
5−6週令のBalb/Cマウス(メス)をクロロホルム/エーテル(1:1)で充満した麻酔瓶の中にいれ、麻酔をかけた。麻酔マウスに生理食塩水に溶解した被検化合物(化合物A乃至J)の溶液50μLを投与量が1.0μmol/kgとなるよう鼻腔内に滴下投与した。その投与から7日後に同様に麻酔したマウスにインフルエンザウイルスA/PR/8/34株(500 plaque formation units)を感染させた。感染後20日までマウスの生死を観察した。
【0111】
結果として、化合物B、G及びJ(活性体)を投与したマウスは、それぞれ、11日目、13日目、8日目に全例が死亡した。また、化合物I(エチルエステル)を投与したマウスは9日目に全例が死亡した。これに対して、化合物A、C、D、E,F及びH(長鎖エステル誘導体)を投与したマウスは感染後20日の時点で、それぞれ、63%、25%、75%、50%、50%、50%のマウスが生存した。これらの結果は、カルボキシル基における長鎖エステル誘導体が予防的投与において優れた効果を示すことを証明している。
【0112】
【化12】


【図面の簡単な説明】
【0113】
【図1】図1は5-アセタミド-4-グアニジノ-9-O-オクタノイル-2、3、4、5-テトラデオキシ-7-メトキシ-D-グリセロ-D-ガラクト-ノン-2-エノピラソン酸(化合物A)のマウスにおけるインフルエンザ予防効果を示したものである。
【0114】
横軸はインフルエンザウイルス感染後の日数を示し、縦軸は生存率を示す。黒四角は化合物A(エステル誘導体)の非投与マウスの生存率プロットを示し、黒三角は感染の10日前、黒丸は7日前、白三角は5日前、白四角は3日前、白丸は4時間前にそれぞれ化合物A(エステル誘導体)を投与したマウスの生存率プロットを示す。
【図2】図2は5-アセタミド-4-グアニジノ-9-O-オクタノイル-2、3、4、5-テトラデオキシ-7-メトキシ-D-グリセロ-D-ガラクト-ノン-2-エノピラソン酸(化合物A)を投与したマウスの肺組織における5-アセタミド-4-グアニジノ-2、3、4、5-テトラデオキシ-7-メトキシ-D-グリセロ-D-ガラクト-ノン-2-エノピラソン酸(化合物B)の濃度の持続効果を示したものである。
【0115】
横軸に投与後の時間、縦軸に化合物濃度を示した。黒四角は化合物A(エステル誘導体)を0.3μmol/kg、黒三角は化合物A(エステル誘導体)を1μmol/kg、白丸は化合物B(活性体)を4μmol/kg、各々投与した後の肺組織中の化合物B(活性体)の濃度推移を示す。
【図3】図3は5-アセタミド-4-グアニジノ-9-O-オクタノイル-2、3、4、5-テトラデオキシ-7-メトキシ-D-グリセロ-D-ガラクト-ノン-2-エノピラソン酸(化合物A)を投与したマウスの肺組織における該化合物Aの濃度推移を示したものである。
【0116】
横軸に投与後の時間、縦軸に化合物濃度を示した。白四角は化合物A(エステル誘導体)を0.3μmol/kg、白三角は化合物A(エステル誘導体)を1μmol/kg、各々投与した後の肺組織中の化合物A(エステル誘導体)の濃度推移を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シアリダーゼ阻害活性を有する化合物の薬理上許容されるエステル誘導体を有効成分として含有し、受容者の呼吸器へ投与されることを特徴とするインフルエンザ予防剤。
【請求項2】
請求項1において、シアリダーゼ阻害活性を有する化合物の薬理上許容されるエステル誘導体を受容者の呼吸器へ投与されることにより、シアリダーゼ阻害活性を有する化合物を受容者の呼吸器組織に滞留させることを特徴とするインフルエンザ予防剤。
【請求項3】
請求項1又は2から選ばれるいずれか1項において、シアリダーゼ阻害活性を有する化合物が2−デオキシ−2,3−ジデヒドロ−N−アセチルノイラミン酸誘導体、シクロヘキセンカルボン酸誘導体、シクロペンタンカルボン酸誘導体またはピロリジン−2−カルボン酸誘導体であるインフルエンザ予防剤。
【請求項4】
請求項1又は2から選ばれるいずれか1項において、シアリダーゼ阻害活性を有する化合物が一般式
【化1】


[式中、Xはハロゲン原子、水酸基又は炭素数1乃至4個のアルコキシ基を示す。]、
一般式
【化2】


[式中、Rb1はアミノまたはグアニジノ基を示し、Rb2は炭素数1乃至12個のアルキル基を示す。]、
一般式
【化3】


[式中、Rc1は水素原子または水酸基を示し、Rc2は炭素数1乃至8個のアルキル基を示し、Rc3はアミノまたはグアニジノ基を示す。]、
または一般式
【化4】


[式中、Rd1は炭素数2乃至5個のアルケニル基を示し、Rd2及びRd3は炭素数1乃至6個のアルキル基または炭素数2乃至6個のアルケニル基を示し、Rd4は炭素数1乃至3個のアルキル基またはアリル基を示す。]で表される化合物であるインフルエンザ予防剤。
【請求項5】
請求項1乃至4から選ばれるいずれか1項において、薬理上許容されるエステル誘導体がシアリダーゼ阻害活性を有する化合物の水酸基における炭素数6乃至20個のアルカノイルエステルまたはシアリダーゼ阻害活性を有する化合物のカルボキシル基における炭素数8乃至20個のアルキルエステルであるインフルエンザ予防剤。
【請求項6】
請求項1乃至2から選ばれるいずれか1項において、薬理上許容されるエステル誘導体が、一般式
【化5】


[式中、R及びRは、同一又は異なって、水素原子又は炭素数6乃至20個のアルカノイル基を示し、Xはハロゲン原子、水酸基、炭素数1乃至4個のアルコキシ基又は炭素数2乃至20個のアルカノイルオキシ基を示し、Rは水素原子又は炭素数8乃至20個のアルキル基を示す。但し、R及びRが水素原子であり、かつXがハロゲン原子、水酸基又は炭素数1乃至4個のアルコキシ基である場合、Rは炭素数8乃至20個のアルキル基を示す。]で表される化合物であるインフルエンザ予防剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−297320(P2008−297320A)
【公開日】平成20年12月11日(2008.12.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−197714(P2008−197714)
【出願日】平成20年7月31日(2008.7.31)
【分割の表示】特願2001−125659(P2001−125659)の分割
【原出願日】平成13年4月24日(2001.4.24)
【出願人】(307010166)第一三共株式会社 (196)
【Fターム(参考)】