説明

インフレーションフィルムの製造装置

【課題】インフレーション法による合成樹脂フィルムの製造において、より良く樹脂バブルの安定化を図り、より高速で樹脂バブルを引き上げて生産性良く合成樹脂フィルムを製造しうる製造装置を提供する。
【解決手段】樹脂バブル1を冷却するエアーリングを少なくとも3段配置し、各段のエアーリングから吐出される冷却エアーの風量を、1段目<2段目<3段目となるように調整する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はインフレーション法により連続して合成樹脂フィルムを製造するインフレーションフィルムの製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
合成樹脂をフィルム化する方法としては、比較的簡易な設備で生産が行え、コスト的に有利なインフレーション法が多く用いられている。
【0003】
インフレーション法は、ダイリップよりチューブ状に溶融樹脂を押し出して形成される樹脂バブルに周囲から冷却エアーを吹き付けて冷却しながら上方に引き上げて合成樹脂フィルムを得る方法である。
【0004】
インフレーション法において生産性を上げるためには樹脂バブルの引き上げ速度を速める必要があるが、樹脂バブルの引き上げ速度を速めた場合には、冷却エアーの風量を増やさなければならない。しかしながら、冷却エアーの風量が多すぎる場合には、樹脂バブルが揺れを生じて不安定になってしまう。そのため、例えば特許文献1においては、冷却エアーを吐出するエアーリング本体の温度を低温に維持することで冷却エアーを冷却し、樹脂バブルの冷却効率を上げた装置が開示されている。
【0005】
また、インフレーション法においては、均一な厚みのフィルムを製造するため、ダイリップから押し出された直後に偏肉を調整する手段を設けた装置が提案されている(特許文献2〜5参照)。
【0006】
【特許文献1】特開平5−104623号公報
【特許文献2】特開平8−267572号公報
【特許文献3】特開平10−80948号公報
【特許文献4】特開平11−262948号公報
【特許文献5】特開平11−300827号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、インフレーション法による合成樹脂フィルムの製造において、より良く樹脂バブルの安定化を図り、より高速で樹脂バブルを引き上げて生産性良く合成樹脂フィルムを製造しうる製造装置を提供することにあり、さらには、偏肉を低減した合成樹脂フィルムを生産性良く製造しうる製造装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、ダイリップよりチューブ状に溶融樹脂を押し出して形成した樹脂バブルに該樹脂バブルを取り囲むリング状のエアーリングより冷却エアーを吹き付けて冷却するインフレーションフィルムの製造装置において、
上記エアーリングを少なくとも3段有し、ダイリップに近い側から少なくとも3段のエアーリングにおいて、ダイリップに近い側から遠い側に向かって順に冷却エアーの風量が増すことを特徴とするインフレーションフィルムの製造装置である。
【0009】
上記本発明の製造装置においては、ダイリップに近い側から少なくとも3段のエアーリングにおいて、ダイリップに最も近い1段目のエアーリングと2段目のエアーリングとの間隙よりも、2段目のエアーリングと3段目のエアーリングとの間隙が大であることが好ましい。
【0010】
また、上記本発明においては、ダイリップに最も近いエアーリングの内部が、ダイリップ近傍から外側に向かって放射状に伸びる互いに独立した複数のエアー供給路を有し、各エアー供給路から樹脂バブルに向かって吐出される冷却エアーの風量及び温度の少なくとも一方が供給路毎に独立して制御されることが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明においては、冷却エアーを吹き出すエアーリングを3段以上設けたことにより、樹脂バブルの偏肉調整、冷却、安定化の各作用を各段のエアーリングに分散させて実施することができるため、各作用の制御を容易に行うことができる。
【0012】
さらに、本発明においては、冷却エアーの風量をダイリップに近い側から順に増やすことにより、冷却効率が良く、樹脂バブルも安定することから、ライン速度(樹脂バブルの引き上げ速度)を上昇して生産性を向上させることができる。
【0013】
また、本発明において、ダイリップに近い1段目のエアーリングと2段目のエアーリングとを近接させ、2段目のエアーリングと3段目のエアーリングとを離して設置することにより、2段目までのエアーリングによる冷却エアーの影響を樹脂バブルが受けにくく、樹脂バブルを安定化することができる。
【0014】
よって、本発明によれば、従来よりも高速度で樹脂バブルを引き上げて生産性良く合成樹脂フィルムを製造することができる。
【0015】
さらに本発明においては、1段目のエアーリングとして、放射状に複数の供給路を設けて個別に冷却エアーの風量や温度を制御することにより、ダイリップから押し出された直後の樹脂バブルの偏肉調整を精度良く実施することができる。本発明においては、複数段のエアーリングの風量、さらにはエアーリング間の間隙を調整することによって樹脂バブルの安定化が図られているため、上記複数の供給路により偏肉を調整した樹脂バブルを高速で引き上げても、偏肉調整した樹脂バブルが効率良く冷却されて、偏肉が低減された合成樹脂フィルムを生産性良く製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明の製造装置について、好ましい実施形態を挙げて説明する。
【0017】
図1は、本発明の製造装置の好ましい実施形態を示す鉛直方向の部分断面模式図であり、図中1は樹脂バブル、3はダイリップ、4〜6はエアーリング、4a〜6aはエアーリング4〜6のエアー吐出口、8はエアー供給口、7,9,10はエアーリング4〜6の内周壁である。
【0018】
本発明においては、従来のインフレーションフィルムの製造装置と同様に、溶融樹脂をダイリップ3より押し出して樹脂バブル1を形成し、該樹脂バブル1を上方に引き上げながら、該樹脂バブル1を取り囲むリング状のエアーリング4〜6より冷却エアーを樹脂バブル1に吹き付けて樹脂バブル1を冷却する。引き上げられた樹脂バブル1は上方にて不図示の巻き取り装置に巻き取られる。
【0019】
本発明の製造装置においては、樹脂バブル1を冷却するエアーリングを少なくとも3段有することを特徴とする。図1の例はエアーリングを3段設けた構成例であり、ダイリップ3に近い側から1段目4、2段目5、3段目6と呼ぶ。
【0020】
本発明において、このように3段以上のエアーリングを設けることにより、最も樹脂温度が高く、偏肉調整が容易な1段目のエアーリング4において樹脂バブル1の偏肉調整を行い、次いで2段目のエアーリング5において、偏肉調整した樹脂バブル1を直ちに冷却して偏肉を低減した状態を保持し、さらに3段目のエアーリング6において樹脂バブル1の揺れを防止して安定化し、偏肉調整した樹脂バブル1の高速での引き上げを可能にする。
【0021】
本発明において、上記3段のエアーリング4〜6において、各エアーリングの風量が1段目4<2段目5<3段目6となるように調整することにより、冷却効率を高め、確実に樹脂バブル1を安定化することができる。好ましくは、2段目5の風量が1段目4の風量の1.5〜10倍、より好ましくは2〜5倍、3段目6の風量が2段目4の風量の3〜15倍程度である。
【0022】
また、上記3段のエアーリング4〜6において、隣接するエアーリング間の間隙が、1段目4と2段目5の間隙t1よりも2段目5と3段目6と間隙t2が大になるように設置することにより、2段目5までの冷却エアーの影響を受けることなく、3段目6において樹脂バブル1の安定化を良好に図ることができる。好ましくは、t2がt1の5〜15倍である。
【0023】
図1に示した例においては、各段のエアーリングのエアー吐出口4a,5a,6aは構造上エアーをほぼ鉛直上方に吹き出しており、このような構造のエアーリングにおいては、エアー吐出口4a,5a,6aは水平面に平行であり、鉛直方向に高さを有していない。よって、1段目と2段目の間隙t1は、1段目のエアー吐出口4aが位置する内周壁7の先端から、2段目のエアー吐出口5aが位置する内周壁9の先端までの距離とし、2段目と3段目の間隙t2は、2段目のエアー吐出口5aが位置する内周壁9の先端から、3段面のエアー吐出口6aが位置する内周壁10の先端までの距離とする。
【0024】
また、図3に示すように、エアー吐出口が水平方向より傾斜し、エアーが鉛直方向より内側に傾いて吹き出している場合には、図中、破線で示される1段目のエアー吐出口4aの鉛直方向上端から2段目のエアー吐出口5aの鉛直方向下端までを1段目と2段目の間隙t1とする。即ち、図3においてはエアーリング5を構成する内周壁9の下端より上端までである。また、2段目と3段目の間隙t2も同様に、エアー吐出口5aの鉛直方向上端より、エアー吐出口6a(不図示)の鉛直方向下端までの距離とする。尚、図1の例においては、各エアーリング吐出口4a,5a,6aが水平面に平行であるため、鉛直方向上端と下端とが一致していると言える。また、図3のθ1,θ2で示される、エアー吐出口の水平面からの傾斜角は0〜90°であり、図1はθ=0°の場合である。エアーの吐出方向としては、樹脂バブル1に対して水平方向からエアーを当てると樹脂バブル1が膨らみにくくなるため、図1の如く、鉛直方向に吹き出すことが好ましい。尚、図3には3段目のエアーリング6のエアーリング吐出口6aを図示していないが、係るエアーリング吐出口6aにおいても、水平面からの傾斜角は0〜90°であり、図1に示すように、鉛直方向に吹き出すことが好ましい。
【0025】
エアーリング4〜6からそれぞれ供給する冷却エアーの温度としては、特に限定されないが、通常0〜60℃である。冷却エアーの温度は各エアーリングにおいて個別に設定しても良いが、操作が煩雑になることや、また、上記したように風量の調整やエアーリング間の間隙を設定することによって製膜性向上やフィルムの偏肉防止を図ることができることから、冷却エアーの温度は一定温度とすることが好ましい。また、後述するように、1段目のエアーリングにおいては、周方向で風量や温度を調整できるように複数本の供給路を形成することが好ましいが、このような場合においても、温度は1段目、2段目と同じ温度に設定し、風量を調整することが好ましく、温度を調整する場合であっても、基準となる温度は1段目、2段目と同じ温度とすることが望ましい。
【0026】
また、本発明の効果はエアーリングを3段用いることで得られるが、本発明がこれに限定されるものではなく、図1の3段目以降にさらなるエアーリングを設置しても良い。
【0027】
本発明においては、1段目のエアーリング4で樹脂バブル1の偏肉を調整するが、該エアーリング4として好ましい形態を図2に示す。図2は係るエアーリングの内部を上方から見た模式図である。
【0028】
エアーリング4〜6はいずれも中心部が空洞のリング状であり、この空洞部にダイリップ3が位置しており、図1に示すように樹脂バブル1は上方に向かうほど内径が広がるため、エアーリング4〜6も上段ほど空洞部の内径が大きくなる。
【0029】
図2に示したエアーリング4においては、内周壁7近傍から外側に向かって放射状に伸びる境界壁11によって内部が放射状に分割され、互いに独立した複数のエアー供給路12が形成されている。冷却エアーの供給口8は各エアー供給路12の外周側に設けられており、エアー供給路12毎に独立して風量及び温度の少なくとも一方が制御される。よって、樹脂バブル1は周方向において吹き付ける冷却エアーの風量や温度が選択的に制御されるため、精度良く偏肉調整を行うことができる。また、このような複数本のエアー供給路が形成されていないエアーリングであれば、エアーリング内で生じる周方向での風量や温度の偏りを調整することができないが、係るエアーリング4であれば、同じ風量、温度で冷却エアーを供給する場合でも、エアー供給路毎に冷却エアーの風量や温度を制御するため、周方向での風量や温度の偏りが生じにくいという効果が得られる。
【0030】
係るエアーリング4において、エアー供給路12の本数は多いほどより正確な偏肉調整が行えるが、エアー供給路12が多いほど装置が複雑化し、制御が困難になるため、2〜168本の範囲で選択することが好ましい。
【0031】
また、境界壁11の内側端部が内周壁7に近すぎる場合には、隣接するエアー供給路12間で風量、温度に差が有る場合に、樹脂バブル1に当たるエアーの風量、温度が急激に変化する領域が形成され、樹脂バブル1の偏肉調整効果が得られにくくなるため、好ましくない。また、離れすぎている場合にはエアー供給路12を複数設けて個々に冷却エアーを制御した効果が低減するため、好ましくは境界壁11の内側端部がエアーリングの内径、即ち内周壁7の外径(図2のd3)より3〜25%の距離だけ水平方向に離れていることが好ましい。言い換えれば、内周壁7の外径d3の106〜150%の直径d4を有する内周壁7の同心円上に境界壁11の内側端部が位置するように構成すればよい。
【0032】
尚、1段目のエアーリング4はダイリップ3の直上に位置することで、高温状態の溶融樹脂を冷却しつつ偏肉調整することができるため、好ましい。また、ダイリップ3に近いほど少量の冷却エアーで偏肉調整を行うことができるため、コスト低減の上でも好ましい。よって、1段目のエアーリング4は、内周壁7が樹脂バブル1に触れない範囲で可能な限りダイリップ3の近くに設ける。
【0033】
図2のエアーリング4において偏肉調整する具体的な手法としては、得られた合成樹脂フィルムの偏肉を測定し、エアーリング4におけるエアーリング供給路12の位置を特定し、厚い部分は風量を減らして固化速度を遅らせ、薄い部分は風量を増やして固化速度を速める。これにより、上方に引き上げられながら樹脂バブル1の内径が広がる際に、厚い部分の方が薄い部分よりも広がって、厚さの差が低減される。
【0034】
また、エアーリング供給路12の冷却エアーの温度を調整して偏肉調整する場合には、樹脂バブル1の厚い部分の冷却エアーの温度を薄い部分よりも高く設定することで、上記と同様に厚い部分がより広がって厚さの差が低減される。
【0035】
本発明の製造装置は、ダイリップ3の外径が70〜300mm程度で、最終的に外径が600〜3000mm程度のフィルムを製造する装置に好ましく適用される。
【実施例】
【0036】
図1の構造を有する3段のエアーリングを備えたインフレーションフィルムの製造装置を用いて、厚さ12μm、外径2500mmのフィルムを製造した。装置の構成は以下の通りであり、樹脂素材としてはエチレン・酢酸ビニル共重合体(EVA;三井・デュポンポリケミカル(株)製「エバフレックス」)を用いた。尚、1段目のエアーリングについては、48本のエアー供給路に同量、同温度のエアーを供給した。
【0037】
ダイリップ3の外径d1:200.00mm
1段目のエアーリング4の内周壁7の内径d2:225.00mm
1段目のエアーリング4の内周壁7の外径d3:236.60mm
1段目のエアーリング4内のエアー供給路12:48本
境界壁11の内側端部が描く内径d4:256.00mm
1段目と2段目のエアーリング4,5の間隙t1:19.00mm
2段目と3段目のエアーリング5,6の間隙t2:181.00mm
エアー吐出口4aの幅w1:4.20mm
エアー吐出口5aの幅w2:6.95mm
エアー吐出口6aの幅w3:10.00mm
溶融樹脂温度:200℃
エアー温度:40℃
【0038】
表1に示した風量条件でフィルムを製造し、各条件において、下記の評価を行った。結果を表1に示す。
【0039】
〔フィルム膜厚精度〕
自動膜厚計(横河電気(株)製、「BalloonGage」、型名:BG01F1A−J1−NN3−C2−L/B1A/Z)を用い、得られたフィルムの周方向における膜厚の最大値と最小値の差(R)を測定し、下記の基準で評価した。尚、測定はフィルムの長尺方向において10点測定した。
◎:Rが2μm未満
○:Rが2μm以上4μm未満
△:Rが4μm以上
−:製膜不可
【0040】
〔バブル安定性〕
製膜時の樹脂バブル1の状態を目視にて観察し、判断した。
◎:樹脂バブルがほとんど揺れない。
○:樹脂バブルが若干揺れる。
△:樹脂バブルが大きく揺れる。
−:製膜不可
【0041】
〔ライン速度〕
製膜時のフィルムの巻き取り速度を変え、ほぼ同じ状態のフィルムが得られる速度を判定した。
◎:100m/min以上が可能。
○:70m/min以上100m/min未満が可能。
△:70m/min未満で可能。
−:製膜不可
【0042】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明の製造装置の一実施形態の鉛直方向の部分断面図である。
【図2】本発明で用いられる1段目のエアーリングの内部の構造を模式的に示す平面図である。
【図3】本発明の製造装置の他の実施形態の1段目及び2段目のエアーリングのエアー吐出口近傍の鉛直方向の部分断面図である。
【符号の説明】
【0044】
1 樹脂バブル
3 ダイリップ
4〜6 エアーリング
4a〜6a エアー吐出口
7,9,10 エアー吐出口内周壁
8 エアー供給口
11 境界壁
12 エアー供給路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ダイリップよりチューブ状に溶融樹脂を押し出して形成した樹脂バブルに該樹脂バブルを取り囲むリング状のエアーリングより冷却エアーを吹き付けて冷却するインフレーションフィルムの製造装置において、
上記エアーリングを少なくとも3段有し、ダイリップに近い側から少なくとも3段のエアーリングにおいて、ダイリップに近い側から遠い側に向かって順に冷却エアーの風量が増すことを特徴とするインフレーションフィルムの製造装置。
【請求項2】
ダイリップに近い側から少なくとも3段のエアーリングにおいて、ダイリップに最も近い1段目のエアーリングと2段目のエアーリングとの間隙よりも、2段目のエアーリングと3段目のエアーリングとの間隙が大である請求項1に記載のインフレーションフィルムの製造装置。
【請求項3】
ダイリップに最も近いエアーリングの内部が、ダイリップ近傍から外側に向かって放射状に伸びる互いに独立した複数のエアー供給路を有し、各エアー供給路から樹脂バブルに向かって吐出される冷却エアーの風量及び温度の少なくとも一方が供給路毎に独立して制御される請求項1または2に記載のインフレーションフィルムの製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−238765(P2008−238765A)
【公開日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−86416(P2007−86416)
【出願日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【出願人】(000003296)電気化学工業株式会社 (1,539)
【Fターム(参考)】