説明

インフレータブルカーテン

【課題】高い気密性と、エアバッグに当接する物体に対して極めて優れた堅牢性を兼ね備え、しかも軽量、コンパクトであり、狭い空間内で所定の展開が可能なインフレータブルカーテンを提供する。
【解決手段】インフレータブルカーテンであって、カーテン本体部を織布からなる一対の本体基布を対向させかつ重ね合わせ部の間に接着性シリコーンを挟んだ状態で縫合されて構成し、前記一対の織布の対向面に、20を超え35g/mを超えない量を施したコーティングからなり、前記本体基布が、420〜600デシテックス以下の太さの糸を用い経緯共打ち込み本数16〜20本/cm以下とした織物であり、基布目付けが210g/m以下、基布強力指数が1400N/cm以上、引裂強力が225N以上、カッター切断時の耐切断強さが3.5N以上であることを特徴とするインフレータブルカーテン。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車輌ルーフサイド部に沿って折り畳まれて収納され、衝撃時エアバッグがカーテン状に下方に向かって膨張展開して車体と搭乗者の間に介在し、搭乗者を保護するインフレータブルカーテンに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、エアバッグ基布として、ガス非透過性の確保と裁断端末からの糸のほつれを防止するためにシリコーンゴムなどをコートしたものがある。この基布はコート材のゴム弾性により折り畳み癖がつき難いという問題があるので、この問題を解消するためKES−FB−2により測定した曲げヒステリシスがコート布の平面内において互いに直交する2方向での曲げの平均で、0.55gf・cm/cm以上とすることで折り畳み癖をつきやすくするという提案がある(特許文献1:特許第3395676号公報)。
この提案の中で、具体的な基布の特性として、繊度420デニールのポリアミド66よりなる平織の織布を用い、この基布にコーティング剤を5〜20g/mコートしたものが記載されている。
【0003】
また、特許文献2(特開2004−124321号公報)にはエアバッグ基布の空気遮断性、耐熱性、収納コンパクト性、およびコート樹脂被膜の接着性の向上について提案されている。
この提案は具体的には、基布に粘度が5〜20Pa・sの樹脂液を、鋭角刃のコーティングナイフを用いたナイフコーターにより、コーティングナイフと基布との接圧を1〜15N/cmでコーティングするというものである。この接圧により基布へのコーティング剤の浸透と表面被覆性を確保するとしている。そして、コーティングによる樹脂の付着量については5〜30g/m、特に収納コンパクト性のためには5〜20g/mとするとされている。また、基布の繊度については100〜600dtexの範囲、収納コンパクト性と強力面とのバランスを考慮すると200〜500dtexが好ましいとされている。
【0004】
しかしながら、前記特許文献1記載の繊度420デニールのポリアミド66よりなる平織の織布にコーティング剤として5〜20g/m以下のシリコーンゴムをコートした基布では、折り畳み癖がつきやすく、経時により所定の展開形状を得ることが困難となるおそれがあり、インフレータブルカーテンには不適当である。
また、前記特許文献1,2記載のエアバッグ基布には、後述する側突事故の際に懸念される変形した車体側部や割れたガラスとの当接、道路面や道路上の設置物との当接によるエアバッグ損傷への備えに関しては何等の問題認識も示されていない。
【0005】
ところで、インフレータブルカーテンは、側突事故から搭乗者を保護するため搭乗者と側方窓部との間の狭い空間部を扁平状で下降展開するのであるが、その方向にはアシストグリップ、ピラーガーニッシュ、シートベルトなどが存在しており、これらに影響されることなく、窓に沿ってスムースな展開が行わなければならない。更に、インフレータブルカーテンは、ルーフサイド部に収納されるが、この収納部は極めて狭いため、折り畳んだエアバッグの嵩、断面積を小さくする必要もある。また、その収納作業が無理なく容易にできることも所定の展開が確実に行われるためにも望まれる。
【0006】
加えて、側突の衝撃で乗員が側方窓部やその付近に激しくぶつかり損傷を与えることのないように、側方窓部に沿って展開し、窓部の全部または一部を覆うインフレータブルカーテンは乗員頭部の保護だけでなく、側突の衝撃により車体が横転しても乗員が車外放出されないように設計されたものもあり、展開後の数秒間以上にわたって袋体内からガスが漏洩することのない高い気密性を保持するため、袋体基布には耐熱性の不通気性材料が被覆されている。
側突事故が発生した場合、側部用エアバッグは、衝突により変形した車体側部や割れた側部窓ガラスに当接したり、衝突の勢いで車両が横転した場合には、道路表面で摩擦したり、道路上の設置物などに当接したりすることもあり、場合によってはエアバッグに損傷を与えることもある。
【0007】
一方、軽量で収納性に優れるエアバッグにする為には、細い糸を使用した軽い基布を用いれば良いが、衝突の際に衝撃的に当接する物体に対する袋体の堅牢性を確保するには太い糸を使用した厚手の基布を使用することになり、双方の課題を満足させる為には、材料選定の難しさがある。
この相反する課題を解決する為、いくつかの提案が為されている。例えば、特許文献3(特開平10−297410号公報)には、エアバッグ袋体の基布の少なくとも片面に気密性の高い樹脂に微細な繊維を混入したコーティング材を塗布する方法が提案されている。この方法は、コーティング材の厚さが薄くても袋体膨張時の基布の目ずれや破断の発生を抑制する効果はあるものの、袋体の外部から基布表面に当接、摩擦、または擦過する物質に対する堅牢性は確保し難く、混入する繊維材料の材質、形状によっては基布が粗硬となり易く、折り畳み容積も小さくすることは難しい。
【0008】
また、特許文献4(特開2002−225660号公報)には、側部用エアバッグにおいて、窓側の基布を乗員側の基布より破裂強力の高い材料、例えば太い糸からなる織物を用いる提案がなされている。これは、車が横転した際でも窓側の基布に破れ難い材料を用いることにより乗員が摩擦、擦過などにより負傷しないようにする方法であるが、乗員側用と窓側用との異なった2種類に材料を準備することになり、効率的な生産方式ではない。また、薄手の基布と厚手の基布を縫合することにより、縫合部での応力バランスにより、逆に乗員側基布の縫合部が破損する可能性もある。
【0009】
さらに、特許文献5(特開2003−72505号公報)には、側部用エアバッグにおいて、室内側基布と窓側基布とが縫合されて内袋を構成しており、該室内側基布と窓側基布の外面にそれぞれ外皮基布が重ね合わされ、外皮基布が内袋の縫合部に接着されているエアバッグが提示されている。この先行発明は、外袋によりガラス破片などから保護されると共に、縫製部からのガス漏れも防止されるものであり、堅牢かつ高い気密性が得られるものと推定される。しかし、前記の特許文献と同様、内袋用と外袋用それぞれの基布を必要とし、製造法も複雑となるだけでなく、エアバッグ自体の重量も増え、車両に搭載する場合の収納容積も大きくなる。
【特許文献1】特許第3395676号公報
【特許文献2】特開2004−124321号公報
【特許文献3】特開2003−72505号公報
【特許文献4】特開平10−297410号公報
【特許文献5】特開2002−225660号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
インフレータブルカーテンには、軽量、コンパクト収容性、制限された空間内でのスムースな展開性、気密性の保持、更に側突時、さらには横転時などに予想されるエアバッグへの割れたガラスや変形した車体等の当接による衝撃、摩擦に対する耐久性等の要求があり、搭乗者の保護装置として十分に機能するためにはこれらの要求のすべてが満たされなければならないが,これまでこうした要求を十分に満足するインフレータブルカーテンはなかった。
本発明は、インフレータブルカーテンに求められる高い気密性と、エアバッグに当接する物体に対して極めて優れた堅牢性を兼ね備え、しかも軽量、コンパクトであり、狭い空間内で所定の展開が可能なインフレータブルカーテンを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、鋭意検討した結果、基布本体の繊度、被覆剤の被覆量、被覆面、および強度特性等を選択することにより、気密性を確保しつつ、経時による折り畳み癖を防止するとともに、軽量、コンパクト収納性も維持し、さらに事故時に予想されるガラス等の当接物との接触による衝撃や摩擦による耐性にも優れた、安全性、信頼性を高めたエアバッグカーテンを得ることができることを見出し、本発明に至った。
すなわち、本発明は、
【0012】
[1] 車両のルーフサイド部に格納され、インフレ−タからのガスにより膨張して車両の窓部を覆うように前記ルーフサイド部から下方に向けて展開するインフレータブルカーテンであって、
カーテン本体部を織布からなる一対の本体基布を対向させかつ重ね合わせ部の間に接着性シリコーンを挟んだ状態で縫合されて構成し、
前記一対の織布の対向面に、20g/mを超え35g/mを超えない量を施したコーティングからなり、
前記本体基布が、420デシテックス以上600デシテックス以下の太さの糸を用い経糸緯糸共打ち込み本数16本/センチメートル以上20本/センチメートル以下とした織物であり、基布自体の目付けが210g/m2以下、基布強力指数が1400N/cm以上、引裂強力(JIS L−1096(8.15.1 A−1法))が225N以上、カッター切断時の耐切断強さが3.5N以上(定速伸張型引張試験機使用)、
であることを特徴とするインフレータブルカーテン。
[2] 前記接着性シリコーンが付加型の室温硬化性の接着性シリコーンであり、硬化後のJIS−A硬さが20以下、硬化後の初期破断伸度Eが800%以上であることを特徴とする[1]に記載のインフレータブルカーテン。
[3] 前記接着性シリコーンは、その硬化後に100℃で250時間熱処理した後の破断伸度E(%)と初期破断伸度E(%)との比E/Eが0.8以上であること特徴とする[1]または[2]記載のインフレータブルカーテン。
[4] カーテン本体部の外周縁を一の連続する環縫いで縫合したことを特徴とする[1]乃至[3]いずれか1に記載のインフレータブルカーテン。
に関する。
【発明の効果】
【0013】
本発明のインフレータブルカーテンは、気密性を保持しながら、経時日による折り畳み癖が付きにくく、かつ軽量で、コンパクトに収納可能であり、障害物のある狭い空間内を所定の扁平状に展開することができる。しかも、事故時に想定される割れたガラス、変形した車体、あるいは道路面などの当接物に対する耐傷性にも優れた安全性、信頼性の向上したエアバッグを得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
すでに述べたように、エアバッグカーテンが展開してカバーすべきエリアには傷害物が多い。例えば天井材を押し退け、ピラーガーニッシュをかわし、シートベルトや衝突で室内に向かって移動する窓やピラーに影響を受けずに展開し、所定の膨張厚みを持たねばならない。しかもL/Dは、例えば3000/50と極めて大きく、限られたスペースに収納され得る必要があるし、展開時にバッグについた折り癖によって展開方向性が収納後の経時日により変わることを防止する必要もある。
【0015】
本発明において、シリコーンのコーティング材の付与量は20g/mを超え、35g/mを超えない範囲である。このコート量の範囲は、経糸と緯糸の両方を隠蔽し、かつ組織間に浸透して弾性結合体としても作用するシールとするに十分であり、収納後の時日の経過後にも折り畳癖を出にくくし、収納部への追従性を向上するとともに、展開時には所定の狭い空間内に所定の扁平形状で展開することができる。
【0016】
本発明のインフレータブルカーテンは、袋体の基布に420デシテックス以上600デシテックス(540デニール)以下、好ましくは420デシテックス(380デニール)から470デシテックス(420デニ−ル)までの範囲の糸を用いた織物を使用することが必要である。600デシテックス以下の細い糸を用いることより、薄く、コンパクトに折り畳むことができるエアバッグを提供することができる。600デシテックスを超える太い糸を用いた場合には、折り畳み容積を小さくすることができない。
また、袋体の本体基布自体のの目付は210g/m以下、好ましくは200g/m以下であることが必要で、210g/mを超える目付では袋体の軽量化が図り難い。
【0017】
本発明に使用する基布は、基布の強力を示す指数である強力指数が1400N/cm以上であることが肝要である。耐圧容器としての袋体の強さは、袋体を構成する基布強力に関係し、強力指数が1400N/cm未満の場合は、袋体としての強力が不足する可能性がある。ここで、基布強力指数とは、織物を構成する糸の太さ(dtex)、糸の強度(cN/dtex)、経および緯の織物密度(本/cm)から算出される指数で、下式から求められるものである。
基布強力指数={(糸の太さ)×(経密度+緯密度)}×糸強度
使用した経糸と緯糸の太さが異なる場合は、(糸の太さ)×(密度)を、経、緯それぞれに算出すれば良い。
【0018】
また、本発明に使用する基布は、膨張している袋体表面の耐切創性の指標となる引裂強力(シングルタング法)が225N以上であること、および同定速伸張型引張試験機を用いてカッターにより切断する時の耐切断強さ(評価法は実施例で詳述する)が3.5N以上であることが必要である。これらの強さがいずれも満足しない場合は、耐切創性が不足する場合がある。
【0019】
一般に織物の力学的特性は、織物の密度を高くするにつれ引張強力が高くなるが、引裂強力は逆に低くなる傾向にある。即ち、袋体の耐圧性を向上させる為、太い糸を高密度に打込んだ織物の引張強力は高いが、織物の糸軸方向の強さとなる引裂強力は低くなる。これは、高密度基布が引裂方向の力を受けた時、糸が密に充填されている為糸同士のずれが起こりにくく、糸軸方向の切断力が直接作用し、基布の破壊に繋がる。一方、基布の密度が比較的低い場合、引裂力に対して糸がずれ易く、糸が収束した形となって引裂方向の抵抗力が強くなり、逆に高密度の場合より引裂強力は高まる。
【0020】
軽量、コンパクトでありながら、袋体としての耐圧性を確保する為の強力と、高圧状態で膨張している袋体表面に鋭利な物体が当接した際の耐切断性の両方を確保することが本発明においては重要であり、前記の相反する特性を保有するインフレータブルカーテンを得る為に必要な基布特性項目とその範囲を見出すことにより、初めて、軽量、コンパクトであり、且つ堅牢な側部用エアバッグを得ることができる。
【0021】
さらに、織物を構成する糸のデシテックス(dtex)と織物の打込み密度(本/cm)から求められるカバーファクターは720以上、好ましくは750〜950であることは、本発明を実施する上で好ましい。カバーファクターが720未満の場合には、織物組織が粗い構造になるため、気密性を得るための耐熱性材料の被覆量が多くなり本体基布の目付が重くなる。また、エアバッグが衝撃的に展開する際に織物が目ずれを起こし易く、接合部が損傷する場合もある。一方、カバーファクターが950を超える場合は、引裂強力が低下するだけでなく、織物が極めて粗硬となり、折り畳み容積も小さくすることができない。
【0022】
ここで、織物のカバーファクター(CF)は織物構造の緻密さを示す指数で、織物の経密度および緯密度(NwおよびNf)(本/cm)と、織物に用いられている経糸および緯糸の太さ(DwおよびDf)(デシテックス)との積から求められる。
CF=Nw×√Dw+Nf×√Df
本発明に使用する基布は、織密度として経糸、緯糸ともにその打ち込み本数を16本/cm以上20本/cm以下とすることが好ましい。
【0023】
本発明では少なくとも片面に耐熱性材料を被覆した二枚の本体基布の被覆面同士を重ね合せて袋状に形成し、且つ重ね合わせ部の間に接着性シリコーンを挟んで状態で一体縫合されている。縫合部の縫い目からのガス漏れを接着性シリコーンによりシールする構造である。従い、接着性シリコーンは縫合する縫い目線に沿い、かつ縫い目線の幅に対して適正な幅で塗布する必要がある。その結果、本発明になるエアバッグは、縫合により高い耐圧特性を確保し、接着性シリコーンにより優れた気密性を発現することができる。
【0024】
また、本発明で使用する接着性シリコーンは、付加型もしくは付加型を主体とする硬化性シリコーンで、室温硬化性、熱硬化性いずれでも良いが熱硬化性シリコーンが工程での取り扱いの点で好ましい。すなわち、加熱設備を必要とはするものの、所定の加熱処理を行うことにより接着性シリコーンの特性が安定的に得られ、仕掛かり品を次工程に速やかに流すことが可能となり、工程内在庫品(滞貨)の問題も発生しない。本発明が適用されるエアバッグにあっては、平板状に置くと広い面積を占有し、個々の半製品にさほどの厚みがなくても、多数積層すると相当の体積を占めるので、室温硬化性シリコーンでは硬化半ばの工程内在庫品が生産工場または隣接するストックヤードに山積みされる事態になりやすい。十分な硬化時間を経過しているかどうか管理するための、滞貨の放置時間管理が必要になり、それを誤ると、接着部において不良が発生するリスクがある。概して比較的小さな作業スペースに加熱設備を設置し、仕掛かり品を円滑に次工程に流してやった方が合理的な工程になるので、熱硬化型シリコーンにアドバンテージがある。しかし、上述の課題を認識し、硬化のための保管スペースと管理体制が適切に適用できれば、室温硬化性シリコーンも好ましい選択肢である。しかし、空気中の水分と反応して硬化する縮合型の室温硬化性シリコーン(一液型)は、厚く塗布する場合には硬化が遅い上に、硬化の度合いも均一になり難く、本体基布との密着も不均一になりやすい。また、硬化後の耐熱性も付加型シリコーンと比較すると低い傾向にある。また、溶剤型のシリコーンでは基布に塗布後、溶剤を揮散させる必要があり、溶剤が本体基布を被覆している耐熱性材料を膨潤させたり、本体基布を構成する織物との密着を低下させたりして、気密性が確保できない場合もある。無溶剤のシリコーンではこれらの問題点が全くなく、作業環境の上からも安全に、確実に実施することができる。
【0025】
さらに、本発明では、接着性シリコーンとして硬化後のJIS-A硬度が20以下、好ましくは5〜18であり、初期破断伸度が800%以上、好ましくは1000〜1500%であるものを用いることが好ましい。極めて柔らかいシリコーンを用いることにより接合部が柔軟性を保ち、折り畳みの容積を小さくすることができる。JIS-A硬度が20を超えると接合部の柔軟性が不足し、折り畳み容積も大きくなり易い。
【0026】
また、初期破断伸度が800%以上あることで、エアバッグ展開時に衝撃的に発生する接合部の剥離力、剪断力に対して、接合部のシリコーンの伸びにより衝撃を緩和する作用が生じ、優れた縫い目のシール機能を発現することができる。初期破断伸度が800%未満の場合は、十分な緩和作用が期待し難く、シール機能にも劣る。
この緩和作用を長期に亘って発現させるために、接着性シリコーンは高伸度特性が環境により変化することが少ないことが望まれ、硬化後に100℃で250時間処理した後の破断伸度Eと初期破断伸度Eとの比、E/Eが0.8以上、好ましくは0.9以上であることは好ましい。E/Eを0.8以上とすることで、基布同士の重ね合わせ部は常に弾性のある状態で接合されており、急激な展開時にも接合部に生じる衝撃を低減せる効果が大きい。
【0027】
また、本発明では本体基布同士の重ね合せ部、例えば、外周接合部、袋体内部の接合部、インフレーター取付け口周辺など、袋体の内部圧力や袋体の展開時の衝撃力を受ける部分は接着性シリコーンによる接合に加え、さらに縫糸により縫合することが肝要である。即ち、本体基布同士の間に接着性シリコーンを挟んだ状態で接合するとともに縫合することにより、縫合後に縫い目の上下や外周縫合部の縫い代内部にシール剤などを付与することなく堅牢な気密性を確保することができるだけでなく、エアバッグの膨張により接着性シリコーンに発生する引張応力を縫い目が受けることで、該接着性シリコーンに過度の衝撃力が加わることを防ぐことができる。
【0028】
本発明では、エアバッグを構成する二枚の本体基布の重ね合せ部に特定の条件で接着性シリコーンを塗布することは、エアバッグの高い気密性を確保する上で好ましい。例えば、接着性シリコーンの塗布厚さをT(mm)、接着性シリコーンの縫い目線からの塗布代をD(mm)、接着性シリコーンの初期破断伸度をE(%)としたとき、下記式を満足するように塗布すると良い。
a)0.3≦T≦1.5、
b)2≦D≦(E/100 −1)×T/2
塗布厚さTは、a)式に示すように0.3〜1.5mm、好ましくは0.4〜1.4mmの範囲にあることが好ましい。塗布厚さは接着性シリコーンの接着力に影響し、0.3mmより薄いと接着力が不足し、1.5mmを超えると高い接着性が得られるものの、接合部が厚く、粗硬となりエアバッグの収納性を損ない易い。
【0029】
また、接着性シリコーンの縫い目線からの塗布代Dも、エアバッグが膨張した時に該接着性シリコーンが破断することなく縫い目をしっかりシールする為には、b)式に示す適正な範囲に定めることは好ましい。
図4に示す様に、エアバッグが膨張した時、上下2枚の本体基布が剥離するように引張されるため、縫い目線からの塗布代Dを構成する接着性シリコーンも、この動きに追随するように伸ばされ、接着性シリコーンの塗布端間距離もTからTに拡大される。そして、該接着性シリコーンは、塗布端間距離T(充分に引張した時は、長さ2Dにほぼ等しくなる)が破断伸度Eを超えるまで縫い目をシールし、破断伸度E以上に伸ばされると破断し、破断面が縫い目に到達するとシール機能を失う。
縫い目線からの塗布代Dは2mm未満では縫い目線と塗布端が接近し過ぎ、基布の剥離挙動に追随しにくく、場合によっては膨張により拡大する縫い目の影響を受け、縫い目のシール作用を十分に発揮し難い。また、b)式の右辺より大きくなると、破断伸度が大きな接着性シリコーンを用いた場合には、Dが必要以上に大きくなり、接合部の厚さ、容積が大きくなり、エアバッグの収納性を損ない易い。
【0030】
さらに、エアバッグ部位によって接着性シリコーンの塗布厚さTを変えることは、本発明の更に好ましい対応である。特に、外周に位置する接合部(図1の3)の塗布厚さT(out)より袋体の内側に位置する接合部(図1の4a〜4d)の塗布厚さT(in)を厚くすることは好ましく、T(out)とT(in)とが、T(out)≦T(in)≦3×T(out)の関係を満足することは好ましい。袋体内側の接合部は、袋体の膨張により接合部の両側から引張力を受ける。また、袋体を膨張させる為のガスを供給するインフレーター取付け口周辺も、展開初期に大きな衝撃力を受け、取付け口近くの接合部にも大きな引張力が作用する。即ち、接着性シリコーンの塗布厚さTを、大きな応力を受ける部位に厚くし、その他の部位には適正量とすることにより接着性シリコーンを無駄なく使用して、機能を有効に発現させることができる。
【0031】
本発明においては、本体基布の少なくとも片面を被覆する耐熱性材料を使用することが好ましい。この耐熱性材料は、通常、エアバッグ用基布に耐熱性、不通気性などを付与するために用いられている被覆材、例えば、シリコーン樹脂またはゴム、ポリウレタン樹脂またはゴム(シリコーン変性、フッ素変性などを含む)、クロロプレンゴムやハイパロンゴムなどの含塩素系ゴム、フッ素系ゴム、ポリエステル系樹脂またはゴム、ポリアミド系樹脂またはゴム、などの中から接着性シリコーンとの密着性に優れた材料を1種または2種以上選定すればよいが、シリコーン系樹脂またはゴムは好ましい。
【0032】
本体基布へ耐熱性材料を付与する方法は、均一な付与、基布との接着、被覆層の気密性が確保できるものであればよく、コーティング法(ナイフ、キス、リバース、コンマ)、印捺法(スクリーン、ロール、ロータリー)、浸漬法、スプレー法などいずれの加工法でもよい。
耐熱性材料の本体基布への被覆量は、20g/m〜35g/mの範囲であればよいが、場合によっては、織物の両面に被覆してもよい。この場合、片面の被覆量を変えてもよく、両面とも同じ被覆量にしても良い。
【0033】
本体基布被覆層への接着性シリコーンの塗布は、塗布パターンをコテで塗布する方法、エアーによる加圧ノズル塗布法、ピストン押出し塗布法、スクリーン塗布法、などから選べば良いがこれらに限定するものではない。
また、接着性シリコーンの塗布幅は接合部位、接合幅などに応じて選定すればよく、前記したa)式およびb)式の関係、塗布厚さ、縫い目幅などから求まるが、例えば、5〜20mmの範囲とすればよい。
【0034】
塗布厚さの調整は、一方の本体基布の被覆面に接着性シリコーンを塗布し、他方の本体基布を重ね合せて得られる二枚の積層基布を、一定間隔に調整した二枚の平板、または一対のロール、ブランケットなどにより押圧して行えば良い。また、部分的に塗布厚さを変える場合は、例えば、部位毎の塗布厚さに応じた間隙を厚みゲージで調整した、あるいは部位毎の塗布厚さに予め表面形状を加工した、二枚の平板により押圧すれば良い。
【0035】
既に述べている様に、本発明で使用する接着性シリコーンは、無溶剤型であって、付加型もしくは付加型を主体とする室温硬化性であることが好ましい。該シリコーンは、ペースト状を呈するものの、各種ポリマーを溶剤で溶解、希釈したゴム糊とは異なり、ゴム糊のように溶剤が揮散することが無いため作業環境上からも好ましい。付加型の室温硬化性シリコーンには、シリコーンとその硬化成分(硬化剤、触媒など)とを混合して使用する2液型と硬化時間の短縮が可能な1液型とがあるが目的に応じて用いればよく、室温硬化性ではあるが空気中の水分と反応する一液型の縮合型とは異なり、添加、配合された硬化剤により硬化速度を調整することができ、縮合型と比較して硬化の早さ、均一さに優れる。
無溶剤型で付加型の室温硬化性シリコーンは、熱硬化性シリコーンとの接着性、耐熱性、柔軟性、などの要求特性を満たすものであればよく、例えば、主剤としてビニルジメチルポリシロキサン、架橋剤としてハイドロジェンシラン基(≡Si-H)含有化合物、硬化触媒として白金化合物、などを用いればよいが、これらに限定するものではない。
【0036】
また、接着性シリコーンの粘度、硬化時間、混合後の可使時間(ポットライフ)などは、塗布液の粘度、塗布の作業性、硬化後の特性などを考慮して、シリコーンの種類、分子量、配合する硬化剤の種類、量などにより適宜、選定すればよい。例えば、シリコーンの粘度は50〜500Pa・s、硬化時間は5〜72時間、可使時間は2〜24時間の中から選べばよい。
【0037】
本体基布と耐熱性材料との接着性を向上させるために、予め織物表面または本体基布表面にプライマー処理、プラズマ加工などの前処理を施してもよい。さらに、耐熱性材料の物理特性、基布と該材料との接着性を向上させるため、該材料を基布に付与した後、乾燥、固化する工程で接触または非接触による熱処理、高エネルギー処理(高周波、電子線、紫外線)などを行ってもよい。
また、本発明に用いる接着性シリコーンは、通常は室温で硬化させればよいが、塗布量が著しく多くなる部位、エアバッグ形状が大きい場合など、硬化を促進させたい場合には40〜120℃程度の低温での熱処理、段階的な複次の熱処理、あるいは前記各種の高エネルギー処理を施してもよい。
【0038】
耐熱性材料と接着性シリコーンとの接着性は、両者間の界面剥離でなく接着性シリコーンが凝集破壊する状態が好ましく、エアバッグ展開時に接合部が衝撃を受けてもコーティング層と接着剤層とが剥離することが無ければ、接合部が縫合されている場合でも、縫い目からのガス漏れを防ぐことができる。
本発明に用いる耐熱性材料および接着性シリコーンには、加工性、接着性、表面特性あるいは耐久性などを改良するために通常使用される各種の添加剤、例えば、架橋剤、シランカップリング剤、反応促進剤、反応遅延剤、接着付与剤、耐熱安定剤、酸化防止剤、耐光安定剤、老化防止剤、潤滑剤、平滑剤、粘着防止剤、顔料、撥水剤、撥油剤、酸化チタンなどの隠蔽剤、光沢付与剤、難燃剤、可塑剤、などの一種または二種以上を選択、混合を使用してもよい。
【0039】
特に、本発明で用いる接着性シリコーンに耐久性を付与するには、上記の各種添加剤のうち、反応促進剤、接着付与剤、耐熱安定剤、充填剤などを適宜選定すればよく、たとえば、1)鉄、チタンなどの金属酸化物、水酸化物、カーボンなどの充填剤、2)エポキシ基、アミノ基、イミノ基、カルボキシル基、メルカプト基などの活性基を有し、アルキル置換および/またはアルコキシル置換されたシラン化合物などの接着付与剤などを用いればよいが、これらに限定されたものではない。
【0040】
本体基布同士の重ね合せは、耐熱性材料面同士を合せて行えばよいが、二枚の基布を重ねてもよいし、一枚の基布を折り返して重ねてもよく、場合によっては重ね合わせた二枚の基布の外周部を更に折り返したり、相似形にした二枚の基布の大きい側の基布の外周部を小さい側に「糊しろ」の様に折り返し、重ねてもよい。
また、接合部の縫合の仕様は、接合部を補強することができるものであればよく、通常、エアバッグの縫合に使用される縫い糸番手、例えば、2番手〜10番手の中から選定したものを用いればよい。
【0041】
また、本発明になる縫目仕様は、使用する基布、バッグ仕様、装着部位、要求される接合部強度などに応じて選定すればよく、本縫い、二重環縫い、片伏せ縫い、オーバーロック縫い、安全縫い、千鳥縫い、偏平縫いなどがあり、これらの組み合わせでもよい。また、縫い目線の本数は1〜3本から選べばよく、縫い目線が複数の場合、縫い目線間の距離は2〜6mmの中から選べばよい。
【0042】
本発明においては、基布本体の外周縁は一の連続する環縫いで縫合することが好ましい。一の連続する環縫いとすることで、ステッチに継ぎ目をなくすことができる。すなわち、環縫いにおいては上糸と下糸をともに糸巻きから直接ミシンに送り込み糸巻きに糸がある限り、連続して縫うことができる(下糸をボビンから供給する本縫いでは、ボビンの糸が比較的短い縫合距離で尽きるので、ボビンの取り替えと、先の縫合箇所の続きから少しラップさせて新たに縫い始める必要があるので、その間が二重ステッチになる)。継ぎ目を形成させると、二重のステッチ部ができ、通針が多ければそれだけ基布を傷め、織組織の比均一化を招くので、ワンパス(一筆書き)状に縫うのがよい。好ましくは環(下糸)側を窓側に向ける。下糸が幅広で上糸を囲み、アタックに強く、傷付きや擦れによるエアバッグ基布損傷のリスクを低減できる。
環縫いとしては、環縫い(一重)、多重環縫いを使用糸、被縫基布等から適宜選択できるが、容易に強度が出せ、ステッチのフレキシビリティ等から二重環縫いが好ましい。
【0043】
本発明に使用する縫糸は、一般に化合繊縫糸と呼ばれるものや工業用縫糸として使用されているものの中から適宜選定すればよく、例えば、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン46、ポリエステル、ビニロン、アラミド、カーボン、ガラスなどがあり、紡績糸、フィラメント合撚糸、フィラメント樹脂加工糸のいずれでもよい。
【0044】
また、本発明の織物を構成する繊維糸条は特に限定するものではなく、例えば、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン46、ナイロン610、ナイロン612などの単独またはこれらの共重合、混合により得られる脂肪族ポリアミド繊維、ナイロン6T、ナイロン9Tに代表される脂肪族アミンと芳香族カルボン酸の共重合ポリアミド繊維、ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートなどの単独またはこれらの共重合、混合により得られるポリエステル繊維、パラフェニレンテレフタルアミド、およびこれと芳香族エーテルとの共重合物などに代表されるアラミド繊維、全芳香族ポリエステル繊維、ビニロン繊維、超高分子量ポリエチレン系繊維、ポリテトラフルオロエチレンを含むフッ素系繊維、ポリサルフォン繊維、ポリフェニレンサルファイド系繊維(PPS)、ポリエーテルエーテルケトン系(PEEK)繊維、ポリイミド繊維、ポリエーテルイミド繊維、高強力レーヨンを含むセルロース系繊維、アクリル系繊維、炭素繊維、ガラス繊維、シリコーンカーバイド(SiC)繊維、アルミナ繊維、などから適宜選定すればよく、場合によっては、スチールに代表される金属繊維などの無機繊維を含んでもよい。
【0045】
これらの繊維糸条には紡糸性や加工性、材質の耐久性を改善するために通常使用されている各種の添加剤、例えば、耐熱安定剤、酸化防止剤、耐光安定剤、老化防止剤、潤滑剤、平滑剤、顔料、撥水剤、撥油剤、酸化チタンなどの隠蔽剤、光沢付与剤、難燃剤、可塑剤などの一種または二種以上を使用してもよい。また、場合によっては、加撚、嵩高加工、捲縮加工、捲回加工などの加工を施してもよい。さらに糸条の形態は、長繊維のフィラメント、短繊維の紡績糸、これらの複合糸など、特に限定するものでない。
【0046】
繊維糸条の単糸太さは1〜7dtexの範囲から選べばよく、3.5dtex以下の細い糸を用いることにより、織物が柔らかくなり、エアバッグの折畳み容積を小さくすことができる。また、繊維糸条の強度は7cN/dtex以上、好ましくは8〜10cN/dtexの高強度糸を用いることはエアバッグの耐圧性、耐切創性を向上させる上で好ましい。
【0047】
本発明の織物を製造する織機は通常の工業用織物を製織するのに用いられる各種織機から適宜選定すればよく、例えば、シャトル織機、ウォータージェット織機(WJL)、エアージェット織機(AJL)、レピア織機、プロジェクタイル織機などから選べばよい。織物の組織も、平織、斜々子織(バスケット織)、綾織、格子織(リップ・ストップ織)、あるいはこれらの複合組織など、いずれでもよいが、引裂強力を高める上で、斜々子織、格子織は好ましい。
【0048】
本発明になるエアバッグは、車輌の側方衝撃から乗員を保護するためのインフレータブルカーテンで、とりわけ側方窓部周辺の車体内部(フロントピラー、ルーフサイドレール部、センターピラー部、リアピラー部など)に折り畳み状態で収納され、側突時にインフレーターから噴出したガスによって側方窓部近く(車室内におけるフロントピラー、センターピラーまたはリアピラーからルーフサイドレール下方空間)でカーテン状に展開する側部保護用エアバッグである。
【0049】
本発明になるエアバッグのインフレーター取付け口周辺の補強に用いられる補強布は、袋体に用いられたものと同じ織物でもよいが、別途、準備した補強用織物、例えば、ナイロン66の940デシテックス、470デシテックスなどを用いて作成された、本発明のエアバッグ用織物より厚手織物の単独または複数枚を用いてもよい。ここでいう補強布は、インフレーターから噴出する熱ガスを遮蔽するための防炎布を含むものとし、補強布に耐熱性を付与するために、シリコーン樹脂、フッ素樹脂などの耐熱性樹脂、耐熱性ゴムなどを塗布してもよいし、アラミド繊維などの耐熱性繊維を用いた織物を使用してもよい。
【0050】
また、本発明においては、インフレータブルカーテンを収納するに当たっては、以下のような態様で行うことが好ましい。
すなわち、折畳まれたカーテン本体部を収納する可撓性の筒状体を備え、このカーテン本体部は、ロール状に折れた展開下部と、この展開下部に沿って往復して重ねられ一の周方向に開放部を具備した展開上部とを設けて折畳まれて筒状体に収納されてアッセンブリ体を形成し、
このアッセンブリ体は、ルーフサイド部の曲がりくねった空間部に沿って、かつ、開放部を展開方向に向けて配設する。
【0051】
インフレータブルカーテンをこうしたアッセンブリ体として収納することで展開上部が筒状体の内面に沿って定位し、展開方向にあるピラーガーニッシュなどの存在により、長手方向にまっすぐにならず、曲がりくねったスペースにも適応することができる。
そして、本発明のインフレータブルカーテンは折り癖が付きにくいので、経時的にふんわりとした形態を維持することができる。筒状体に収納され筒状体の内面に展開上部が沿わされ、展開時押圧され定位し、カーテン本体部の外面にコーティングがないので展開時の滑りがよいとともに、内面への押圧作用により筒状体に対するバッグの位置のずれが出にくく、たとえば筒状体の破断予定部とバッグ展開上部(及び展開下部)の位置関係が狂いにくく、所定の方向に安定して展開し固体間のばらつきが少ない。また外面にコーティングをしていないので挿入作業も容易であるとともに、展開動作はきわめて速い動きで対筒状体、対室内部品(ピラーガーニッシュ、ルーフ(ヘッド)ライニングなど)との摩擦抵抗が少なく、狭い空間内で所定の展開を確保することができる。
【0052】
本発明のエアバッグは、側突保護用のインフレータブルカーテンを対象としているが、場合によっては追突保護用のヘッドレスト用バッグ、幼児保護用ミニバッグ、シートベルト用バッグ(エアーベルト)など機能的に適応し得る部位にも適用することもでき、形状、容量などは要望される要件を満足するようにすればよい。
【実施例】
【0053】
以下実施例に基づき本願発明をさらに具体的に説明する。なお、実施例の中でエアバッグ用基布およびエアバッグの性能評価は以下の方法によった。
(1)エアバッグ用基布
(a)引裂強力
JIS L−1096(8.15.1 A−1法)に準じてシングルタング法により基布の引裂強力を測定した。但し、測定は経、緯それぞれN=3とし、最初の異常値を除く極大値の大きい方から3ヶ所の値を平均し、経、緯それぞれの値から平均値とした。
【0054】
(b)耐切断強さ
図5に示す装置を使用した日本化学繊維協会法に準じ基布の耐切断強さを測定した。上部掴みでU字形に二つ折りして重ね合わせた基布の端部を挟み、下部掴みで、カッターナイフ(オルファ社製品H型カッター、材質SK−2、刃厚0.7mm)を取り付けた治具を挟んで、引張速度50cm/分で基布を切断した。測定は、経、緯それぞれN=3とし、経と緯それぞれの値から平均値とした。
【0055】
(2)エアバッグの展開試験
エアバッグを長さ方向に略平行に、蛇腹状に10回折畳んで不織布製の細長い筒状体に差し入れ、展開試験用の架台に固定した。架台には上記(1)の(b)に記載した基布の耐切断強さの測定に使用したカッターナイフを、刃先が展開時のエアバッグ各膨張部(図1の5a〜5e)の中央付近の表面に当接するように5ヶ所に固定した。
インフレーター挿入部に、固定金具と共にインフレーター(タンク圧150kpa、アトランチックリサーチ社製ハイブリッド型インフレーター)を固定し、バッグを室温にて展開した。展開後、バッグ本体基布表面の損傷の有無を観察した。
(3)エアバッグの折畳み厚さ
エアバッグを長さ方向に略平行に、蛇腹状に10回折畳んだ状態で厚さを測定し、実施例2の場合を100として相対比較をおこなった。
【0056】
実施例1
ナイロン66繊維470dtex/72f(糸強度8.6cN/dtex)の糸を用い、織密度が経、緯いずれも18.5本/cmの平織物を作成した。この織物を精練、熱セットし、次いで織物の片面に熱硬化性シリコーン樹脂を30g/m(固型分換算)を塗布し、乾燥、熱処理を行い、コーティング基布を得た。コーティング後の織物の密度は経、緯いずれも19.3本/cmであり、織物の目付けはコーティング前(織物自体)が185g/m、コーティング後が215g/mであった。
次に、エアバッグの本体基布として図1に示す形状にコ−ティング基布を2枚裁断した。エアバッグ全体の寸法(前部の吊紐は除く)は、長さが165cm、高さが55cmであり、裁断布2は裁断布1の中央部分を接合線に沿って削除した形状とした。
裁断布2のコーティング面上に、付加型の室温硬化性シリコーン(東レダウ社製、CF9712)を塗布し、その上に裁断布1のコーティング面を重ね合せ、更に、間隔を調整した二枚の平板の間に重ね合わせた二枚の基布を挟んで、接着性シリコーンの塗布厚さを0.8mm、塗布幅を11mmとした。重ね合せた二枚の基布を室温で24時間放置した後、図1に示す様に外周および内部接合部の接着性シリコーン塗布部の上を縫合した。縫い糸は上糸がナイロン66の5番手糸、下糸がナイロン66の8番手糸で、縫い仕様は二重環縫い二列(針間は2.4mm)、運針数3.5針/cmとした。縫い目からの塗布代Dは、4.3mmであった。使用した基布とエアバッグの特性を表1に示す。基布の引裂強力、耐切断強さは十分にあり、エアバッグはコンパクトに折畳むことができ、展開後の損傷はなかった。
【0057】
実施例2
実施例1において、ナイロン66繊維580dtex/144f(糸強度8.4cN/dtex)の糸を用いて、織密度が経、緯いずれも16.3本/cmであり、織物の目付けは、コーティング前(織物自体)が205g/m、コーティング後が235g/mであった。
また、接着性シリコーンの塗布厚さが1.0mm、塗布幅が約13.5mmとなるようにし、縫い糸の上下糸を8番糸とし、運針数を4.0針/cmとした以外は実施例1に準じてエアバッグを作成し、特性を評価した。この時、縫い目からの塗布代Dは、5.5mmであった。表1に示す様に、使用した基布の切断強さは十分あり、得られたエアバッグは、コンパクト性に優れ、展開後の本体基布は僅かな毛羽立ち以外の損傷はなかった。
【0058】
比較例1
実施例1において、コーティング後の織物の密度が経、緯いずれも21.3本/cm、コーティング前(織物自体)の目付けが221g/m、コーティング後が251g/mである基布を使用して、実施例1に準じてエアバッグを作成し、評価を行った。表1に示すように、本発明の範囲にある太さの糸を使用した場合でも織物密度高すぎると、使用した基布の引裂強力が低下し、展開後のエアバッグ表面に小さな損傷がみられ、折り畳み容積が大きく、コンパクト性が不足する。
【0059】
比較例2
ナイロン66繊維700dtex/144f(糸強度8.6cN/dtex)の糸を用いて、50g/mを塗布したコーティング後の織物密度が経、緯いずれも15.7本/cm、コーティング前(織物自体)の目付けが235g/m、コーティング後が285g/mである基布を使用して、実施例1に準じてエアバッグを作成し、評価を行った。表1に示すように、本発明の範囲から外れる太い糸を使用した場合には、基布の切断強さおよびエアバッグの堅牢性にはいずれも問題がないが、折り畳み容積が大きく、コンパクト性が不足する。
【0060】
比較例3
実施例2において、強度が8.6cN/dtexである糸を使用し、コーティング後の織物密度が経、緯いずれも22.4本/cmとした以外は、全て、実施例2に準じてエアバッグを作成し、評価した。表1に示すように、本発明の範囲にある太さの糸を使用しても、基布の耐切断強さが不足する場合には、展開時に鋭利な物体と接触、摩擦することで、基布表面が破断する。
【0061】
【表1】

【0062】
実施例3
基布:420d、打ち込み本数:18.1×18.1本/cm、シリコーンコーティング:ナイフコーティング、付与量21g/m
カーテンバッグの本体パネルを切り出し、外周及び内部を接合してセルを形成させた。使用糸は上糸にナイロン66の1260d糸を下糸にナイロン66の840d糸を使用して運針数3.5針/cmの環縫いとして、基布パネルの内側にコート面を向けて、図6に示すインフレータブルカーテンを縫製した。なお、図7は図6A−A線断面図である。これを、いわゆるパラソル折りしてサックに入れる。
サックの径は28mm(周長90mm)で長さ約1.1mである全長に対して均一径である。これを車体のパネルを模した実験台に取り付け折り畳み癖付きの状況を確認した。同様の試料についてLE110型インフレ−タ(ダイセル化学製、出力210kPa)を接続し展開実験を行った。その結果、展開は良好であり、折り畳み癖付きも少なかった。
【0063】
実施例4
シリコーンの付与量を34g/mとする以外は、実施例3と同様にして、インフレータブルカーテンを縫製し、実験を行った。その結果、折り畳み癖付き少く、展開結果も良好であった。
【0064】
実施例5
図6のA−A線断面説明図である図8に示すように縫製部において接着剤をサンドイッチした以外は実施例4と同様にしてインフレータブルカーテンを縫製し、実験を行った。その結果も実施例4と同様であった。
【0065】
比較例4
シリコーン付与量を18g/mとした以外は実施例3と同様にしてインフレータブルカーテンを縫製し、実験を行った。その結果、基布のしなやかさが失われ折り畳癖が発生した。また、織組織の「目」にシリコーンが入り込むものの糸の織り組織における突出部分の「濡れ」が少なくなっている。
【0066】
比較例5
シリコーン付与量を37g/mとした以外は、実施例3と同様にして、インフレータブルカーテンを縫製し、実験を行った。その結果、基布のしなやかさが失われ織り嵩が大きく、収納スペースへの追従性が悪くなった。湾曲部分において折り畳癖が大きかった。自己保形力が大きく湾曲箇所でサック(筒状体)内のズレが生じた。
【0067】
比較例6
315dのナイロン66基布を使用し、打ち込み本数は24.4×24.4本/cm、シリコーンは25g/mとした基布を使用した以外は、実施例3と同様にしてインフレータブルカーテンを縫製し、実施例3と同様に実験を行った。その結果、基布のしなやかさがなく折られたカーテンバッグモジュールが硬くかつ織り嵩が大きく、収納スペースへの追従性が悪くなりルーフライニングの浮き上がりを生じた。また湾曲部分において折り癖が大きかった。比較例5と同様に自己保形力が大きく湾曲箇所でサック(筒状体)内のズレが生じた。
【0068】
比較例7
840dのナイロン66基布を使用し、打ち込み本数は18.1×18.1本/cmとし、シリコーンは27g/mとした以外は実施例3と同様にして、インフレータブルカーテンを縫製し、実施例3と同様に実験を行った。その結果、基布のしなやかさがなく折られたカーテンバッグモジュールが硬くかつ織り嵩が大きく、実施例3のサックでは挿入作業が容易でなく、折り癖が著しかった。収納スペースへの追従性が悪くなった。湾曲部分において曲がりにくく、ルーフライニングの浮き上がりを生じた。
【0069】
比較例8
315dの基布を用いた比較例6に準じ、さらに本縫いで縫製した。一度に縫える距離は約10mであるので、バッグの外周の縫製を5回にわけて行った。二重ステッチになる縫いの不連続部約20mm長の箇所においてサックが膨出していびつになり、ルーフサイド部の湾曲部にそのいびつの箇所が一致するとルーフライニングが合わなくなった。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】本発明のエアバッグを側方窓部から見た展開前の説明図。
【図2】展開後の図1のA−A線断面図。3の外周部及び4a、4bの斜線は接着層を示す。
【図3】エアバッグの接着、縫合した外周接合部の説明図。
【図4】本発明の外周接合部での接着性シリコーンの説明図。1)は展開前、2)は展開時の状態を示す。
【図5】基布の耐切断強さの測定する装置の説明図。
【図6】実施例3に記載の図1とは別のエアバッグの説明図。
【図7】図6A−A線断面図。
【図8】実施例5を説明する図6A−A線断面図。
【符号の説明】
【0071】
1,2 エアバッグ本体基布
3 エアバッグ本体基布の外周接合部
4a〜4d 本体基布同士の内部の接合部
5a〜5e エアバッグの膨張部
6および7 本体基布に被覆した耐熱性材料
8 接着性シリコーン
9 縫製糸
10 インフレーター取付け口
D 縫い目からの接着性シリコーンの塗布代

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両のルーフサイド部に格納され、インフレ−タからのガスにより膨張して車両の窓部を覆うように前記ルーフサイド部から下方に向けて展開するインフレータブルカーテンであって、
カーテン本体部を織布からなる一対の本体基布を対向させかつ重ね合わせ部の間に接着性シリコーンを挟んだ状態で縫合されて構成し、
前記一対の織布の対向面に、20g/mを超え35g/mを超えない量を施したコーティングからなり、
前記本体基布が、420デシテックス以上600デシテックス以下の太さの糸を用い経糸緯糸共打ち込み本数16本/センチメートル以上20本/センチメートル以下とした織物であり、基布自体の目付けが210g/m以下、基布強力指数が1400N/cm以上、引裂強力(JIS L−1096(8.15.1 A−1法))が225N以上、カッター切断時の耐切断強さが3.5N以上(定速伸張型引張試験機使用)、
であることを特徴とするインフレータブルカーテン。
【請求項2】
前記接着性シリコーンが付加型の室温硬化性の接着性シリコーンであり、硬化後のJIS−A硬さが20以下、硬化後の初期破断伸度Eが800%以上であることを特徴とする請求項1に記載のインフレータブルカーテン。
【請求項3】
前記接着性シリコーンは、その硬化後に100℃で250時間熱処理した後の破断伸度E(%)と初期破断伸度E(%)との比E/Eが0.8以上であること特徴とする請求項1または2記載のインフレータブルカーテン。
【請求項4】
カーテン本体部の外周縁を一の連続する環縫いで縫合したことを特徴とする請求項1乃至3いずれか1に記載のインフレータブルカーテン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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