説明

インフレータ

【課題】 出力が安定したインフレータの提供。
【解決手段】 加圧ガス室20、点火器34とガス発生剤36を含むガス発生器30、ガス排出孔52のあるディフュザー部50からなり、第1連通路38が第1破裂板40で閉塞されている。加圧ガス室20にはガス孔42をもつキャップ44があり、ガス孔42の最小径がガス発生剤36の最小径と同等以下であるから、燃焼途中のガス発生剤36がキャップ44内に流入してもそこで焼尽され、ガスのみがキャップ44外に流出される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の人員拘束システム用として適したインフレータに関する。
【背景技術】
【0002】
固形ガス発生剤と加圧ガスを組み合わせたハイブリッドインフレータは、側面衝突保護エアバッグ用として使用されることがあり、ガス発生剤を迅速に燃焼させる必要がある。そのため、多数の粒状のガス発生剤が燃焼室に配置された構造のものが知られている。
【0003】
燃焼室内部に充填された粒状のガス発生剤は、点火手段によって着火され、燃焼が開始される。ガス発生剤は、燃焼室内で完全に焼尽させることが必要であるが、多数の粒状のガス発生剤を使用する場合は、燃焼途中のものや未燃焼のものが燃焼室外に出てしまい、出力がばらつき、性能が不安定になる原因となる。
【0004】
特許文献1には、加圧ガスを収容したボトル22と、ガス発生剤を収容したガス発生器ハウジング32を有するハイブリッドインフレータが開示されている。ガス発生器ハウジング32には、粒状のガス発生剤36が収容され、点火手段34によって着火、燃焼させる。加圧ガス室ボトル22には、側面に排出孔42を形成したキャップ44が取り付けられおり、燃焼残渣や破裂板40の破片などを捕集する。
【0005】
特許文献2には、ハイブリッドインフレータが開示されている。第1ガス発生室120と加圧媒質が充填された内部空間103が、ガス発生器ハウジング105に形成された第1連通孔125によって連通されている。この連通孔125は、ガス発生剤124から発生する燃焼ガスを通過させるが、ガス発生剤124の外部への漏出を防止するような大きさである。
【特許文献1】特開2003−226222号公報
【特許文献2】特開2001−341610号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1の発明は、燃焼残渣や破裂板の破片が漏れ出すことを防止することが開示されているが、未焼尽のガス発生剤の漏出を防止すること、またその具体的な手段については開示がない。特許文献2の発明は、重量軽減、製造工程の簡略化及びガス流の制御が解決課題であり、未焼尽のガス発生剤の漏出及びそれによるガス発生器の性能の不安定化については開示がない。
【0007】
つまり、両文献とも、未焼尽のガス発生剤が漏出すること、またそれによって生じる課題については開示しておらず、これら文献が解決しようとする課題は、本発明が解決しようとする課題とは全く異なるものである。
【0008】
本発明は、多数の粒状のガス発生剤成型体と加圧ガスを併用するインフレータにおいて、燃焼途中や未燃焼状態のガス発生剤成型体が発生することを防止して、安定した出力が得られるようにできるインフレータを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
〔請求項1〕
本発明は、課題の解決手段として、
筒状の加圧ガス室ハウジングにより外殻が形成され、加圧ガスが充填された加圧ガス室と、前記加圧ガス室の一端側に接続され、ガス発生器ハウジング内に収容された点火手段とガス発生剤成型体を含むガス発生器と、前記加圧ガス室の他端側に接続されたガス排出孔を有するディフュザー部を有しており、
前記加圧ガス室と前記ガス発生器との間の第1連通路が第1破裂板で閉塞されており、前記加圧ガス室と前記ディフュザー部との間の第2連通路が第2破裂板で閉塞されているものであり、
前記加圧ガス室内には、前記加圧ガス室から第1破裂板を覆うようにして、ガスを通過させる複数のガス孔を有するキャップが被せられおり、前記ガス孔の最小径(dmin)が前記ガス発生剤成型体の最小径(Dmin)及び長さ(L)の大きい方と同等以下のものである、インフレータを提供する。
【0010】
本発明のインフレータをエアバッグ装置に適用したとき、点火手段の作動により、燃焼室内のガス発生剤成型体が燃焼し、大気圧と同等であった燃焼室内の圧力が、燃焼ガスによって上昇し、第1破裂板が破壊され、第1連通路が開放されるため、高温ガスがキャップを通って加圧ガス室内に流入する。そして、加圧ガス室内の圧力の上昇を受けて第2破裂板が破壊され、第2連通路が開放されるため、加圧ガスと高温ガスがディフューザ部を通ってガス排出孔から排出され、エアバッグを膨張させる。
【0011】
ガス発生剤成型体は、燃焼室内で焼尽して、ガスのみが加圧ガス室内に流入することが望ましい。しかし、流量を確保するため及び第1破裂板を確実に破裂させるため、第1連通路は大きく形成されており、一部のガス発生剤成型体が焼尽しないで燃焼途中のままで、第1連通路が開放されて生じるガス流に乗って燃焼室から排出される場合がある。
【0012】
それに対して、本発明のインフレータでは、キャップが設けられ、かつキャップのガス孔とガス発生剤成型体の大きさが関連づけられているため、燃焼室から燃焼途中のガス発生剤成型体が排出された場合でも、燃焼途中のガス発生剤成型体はキャップ内で焼尽された後で、ガスのみが加圧ガス室内に排出される。このため、インフレータの出力が安定する。
【0013】
キャップのガス孔は、円形が好ましいが、楕円形等にしてもよい。円形の場合、最小径(dmin)は直径であり、楕円形の場合、最小径(dmin)は短径である。
【0014】
ガス発生剤成型体は公知のものであり、ディスク状、円柱状、貫通孔を有する円柱状、非貫通孔(窪み)を有する円柱状等のものを用いることができる。ディスク状のものの場合、最小径(Dmin)は直径であり、円柱状のものの場合、最小径(Dmin)は端面の直径である。
【0015】
なお、ガス発生剤成型体が円柱状のものである場合は、Dmin<dminであっても、L>dminであれば、同等の効果が期待できる。このため、ガス孔の最小径(dmin)がガス発生剤成型体の最小径(Dmin)及び長さ(L)の大きい方と同等以下であればよい。固形ガス発生剤が球状であれば、Dmin=L≧dminとなる。
【0016】
〔請求項2〕
本発明は、課題の他の解決手段として、
前記キャップが、開口部側が第1破裂板に被せられ、キャップ底面が前記第1破裂板に正対しており、キャップ周面にのみ複数のガス孔が形成されているものであり、
前記キャップ底面から前記キャップ底面に最も近接した位置にあるガス孔端部までの間隔(W)と、前記ガス発生剤成型体の最小径(Dmin)との関係が、Dmin/2<Wの関係を有している、請求項1記載のインフレータを提供する。
【0017】
上記した動作過程において、第1連通路が開放され、燃焼室から燃焼途中のガス発生剤成型体が排出されたとき、第1破裂板(即ち、第1連通路)に正対するキャップ底面に衝突することになる。このため、Dmin/2<Wの関係を満たしていると、燃焼途中のガス発生剤成型体は、キャップ底面付近で焼尽された後、ガスのみがガス孔を通って加圧ガス室内に流入されることになる。
【0018】
上記関係を有していると、燃焼途中のガス発生剤成型体がキャップ底部付近で留まり易くなる(引っかかり易くなる)。燃焼室外であっても、できるだけ燃焼室近傍で維持しておく方が、ガス発生剤の燃焼には好ましい。それにより、燃焼途中のガス発生剤成型体は焼尽されるため、キャップの外に出ることはない。
【0019】
〔請求項3〕
本発明は、課題の他の解決手段として、
前記キャップが、開口部側が第1破裂板に被せられ、キャップ底面が前記第1破裂板に正対しており、キャップ周面にのみ複数のガス孔が形成されているものであり、
前記キャップ底面から前記キャップ底面に最も近接した位置にあるガス孔端部までの間隔(W)と、前記ガス発生剤成型体の長さ(L)との関係がL/2<Wの関係を有している、請求項1記載のインフレータを提供する。
【0020】
上記関係を有していると、燃焼途中のガス発生剤成型体がキャップ底部付近で留まり易くなる(引っかかり易くなる)。燃焼室外であっても、できるだけ燃焼室近傍で維持しておく方が、ガス発生剤の燃焼には好ましい。それにより、燃焼途中のガス発生剤成型体は焼尽されるため、キャップの外に出ることはない。
【発明の効果】
【0021】
本発明のインフレータによれば、全てのガス発生剤成型体が燃焼室内で焼尽されず、一部が燃焼室外に流出した場合でも、それらはキャップで捕捉され、キャップ内で焼尽され、ガスを発生させる。このため、インフレータ内のガス発生剤成型体は完全に燃焼されるため、設計どおりの出力が安定して発揮される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
図1により、1つの実施形態を説明する。図1は、本発明のインフレータの軸方向の断面図、図2(a)は図1の部分拡大図、図2(b)は図1のガス発生剤成型体の斜視図である。
【0023】
インフレータ10は、加圧ガス室20と、ガス発生器30、ディフュザー部50とを有している。
【0024】
加圧ガス室20は、筒状の加圧ガス室ハウジング22により外殻が形成されており、アルゴン、ヘリウムの混合物からなる加圧ガスが充填されている。加圧ガス室ハウジング22は、軸方向及び半径方向に対して対称形となっているので、組み立て時に軸方向及び半径方向への向きを調整する必要がない。
【0025】
加圧ガス室ハウジング22の側面には、加圧ガスの充填孔24が形成されており、加圧ガスを充填した後にピン26により閉塞されている。ピン26の先端部26aは加圧ガス室20内に突出されており、突出部はガス発生剤成型体36の燃焼ガス流が衝突される長さを有している。このピン26の突出部の長さを調整することで、ピン26自体に燃焼ガスを衝突させて、燃焼残渣を付着させることができる。図1においては、ピン26の先端部26aが対向する壁面22aに当接するまで延長することができる。
【0026】
ガス発生器30は、ガス発生器ハウジング32内に収容された点火手段(電気式点火器)34とガス発生剤成型体36とを含んでおり、加圧ガス室20の一端側に接続されている。ガス発生剤成型体36が充填された空間が燃焼室35となる。ガス発生器ハウジング32と加圧ガス室ハウジング22は、接合部49において抵抗溶接されている。インフレータ10をエアバッグシステムに組み込むとき、点火手段34は、コネクタ、導線を介して、外部電源に接続される。
【0027】
ガス発生剤成型体36は、公知のものを用いることができる。図示したガス発生剤成型体36は円柱状であるから、最小径(Dmin)は端面の直径となる。
【0028】
加圧ガス室20とガス発生器30との間の第1連通路38は、加圧ガスの圧力を受けて椀状に変形した第1破裂板40で閉塞されており、ガス発生器30内は常圧に保持されている。第1破裂板40は、周縁部40aにおいてガス発生器ハウジング32に抵抗溶接されている。
【0029】
第1破裂板40には、キャップ44が加圧ガス室20側から被せられている。このキャップ44は、第1破裂板40(即ち、第1連通路38)を覆うことにより、ガス発生剤成型体36の燃焼により生じた燃焼ガスが必ずキャップ44を経由してガス孔42から噴出されるように取り付けられている。
【0030】
キャップ44は、断面が円形のものであり、周面44aにのみ複数のガス孔42が形成されており、底面44bは第1破裂板40(即ち、第1連通路38)に正対している。
【0031】
周面44aに形成されたガス孔42は円形であり、直径dminはガス発生剤成形体36の最小径(Dmin)と同等以下の大きさであり、好ましくはガス発生剤成形体36の最小径(Dmin)よりも小さいものである。
【0032】
キャップ底面44bと、キャップ底面44bに最も近接した位置にあるガス孔42a(図2(b)参照)端部までの間隔(W)と、ガス発生剤成型体36の最小径(Dmin)との関係は、Dmin/2<Wであることが好ましく、Dmin/Wがより好ましい。
【0033】
キャップ44は、開口周縁部が外側に折り曲げられたフランジ部46を有しており、フランジ部46においてガス発生器ハウジング32の一部(かしめ部)48をかしめることで固定されている。
【0034】
加圧ガス室20の他端側には、加圧ガス及び燃焼ガスを排出するガス排出孔52を有するディフュザー部50が接続されており、ディフュザー部50と加圧ガス室ハウジング22は、接合部54において抵抗溶接されている。
【0035】
ディフュザー部50は、ガスを通過させる複数のガス排出孔52を有するキャップ状のものである。加圧ガス室20とディフュザー部50との間の第2連通路56は、第2破裂板58で閉塞されており、ディフュザー部50内は常圧に保持されている。第2破裂板58は、周縁部58aにおいてディフュザー部50に抵抗溶接されている。
【0036】
次に、図1、図2に示すインフレータ10を自動車に搭載したエアバッグシステムに組み込んだ場合の動作を説明する。
【0037】
自動車が衝突して衝撃を受けたとき、作動信号出力手段により、点火器34が作動点火して、燃焼室35内のガス発生剤成型体36を燃焼させ、高温の燃焼ガスを発生させる。
【0038】
その後、高温の燃焼ガスによるガス発生器30内の圧力上昇により、第1破裂板40が破壊され、第1連通路38が開放されるため、燃焼ガスはキャップ44内に流入し、ガス孔42から噴出され、加圧ガス室20に流入する。
【0039】
その後、加圧ガス室20内の圧力上昇により、第2破裂板58が破壊されるので、加圧ガス及び燃焼ガスは、第2連通路56を経て、ガス排出孔52から排出され、エアバッグを膨張させる。
【0040】
上記の動作において、燃焼室35内に燃焼途中又は未燃焼状態のガス発生剤成形体36が存在したとき、ガス流に乗り、開放された第1連通路38を通ってキャップ44内に排出される。そして、燃焼途中又は未燃焼状態のガス発生剤成形体36はキャップ底面44bに衝突し、そこで捕捉される。この状態では、未焼尽のガス発生剤36は、燃焼室35の近傍に存在するため、燃焼室35からの燃焼ガス(高温ガス)により、焼尽し易い。つまり、キャップ44のガス孔42を未焼尽のガス発生剤36が通り抜け、第2連通路56の辺りまで流された場合には、高温の燃焼ガスの影響が小さく、途中で燃焼が中断する。
【0041】
このように燃焼途中又は未燃焼状態のガス発生剤成形体36がキャップ44のガス孔42から排出されることが防止され、ガス発生剤36が加圧ガス室20内に到達する前に焼尽する。よって、設計どおりの出力が安定に得られることになる。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明のインフレータの縦断面図。
【図2】(a)は図1の部分拡大図、(b)は図1のガス発生剤の斜視図。
【符号の説明】
【0043】
10 インフレータ
20 加圧ガス室
22 加圧ガス室ハウジング
30 ガス発生器
32 ガス発生器ハウジング
34 点火器
35 燃焼室
36 ガス発生剤成型体
38 第1連通路
40 第1破裂板
42 ガス孔
44 キャップ
44a キャップ周面
44b キャップ底面
50 ディフュザー部
52 ガス排出孔
56 第2連通路
58 第2破裂板



【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒状の加圧ガス室ハウジングにより外殻が形成され、加圧ガスが充填された加圧ガス室と、前記加圧ガス室の一端側に接続され、ガス発生器ハウジング内に収容された点火手段とガス発生剤成型体を含むガス発生器と、前記加圧ガス室の他端側に接続されたガス排出孔を有するディフュザー部を有しており、
前記加圧ガス室と前記ガス発生器との間の第1連通路が第1破裂板で閉塞されており、前記加圧ガス室と前記ディフュザー部との間の第2連通路が第2破裂板で閉塞されているものであり、
前記加圧ガス室内には、前記加圧ガス室から第1破裂板を覆うようにして、ガスを通過させる複数のガス孔を有するキャップが被せられおり、前記ガス孔の最小径(dmin)が前記ガス発生剤成型体の最小径(Dmin)及び長さ(L)の大きい方と同等以下のものである、インフレータ。
【請求項2】
前記キャップが、開口部側が第1破裂板に被せられ、キャップ底面が前記第1破裂板に正対しており、キャップ周面にのみ複数のガス孔が形成されているものであり、
前記キャップ底面から前記キャップ底面に最も近接した位置にあるガス孔端部までの間隔(W)と、前記ガス発生剤成型体の最小径(Dmin)との関係が、Dmin/2<Wの関係を有している、請求項1記載のインフレータ。
【請求項3】
前記キャップが、開口部側が第1破裂板に被せられ、キャップ底面が前記第1破裂板に正対しており、キャップ周面にのみ複数のガス孔が形成されているものであり、
前記キャップ底面から前記キャップ底面に最も近接した位置にあるガス孔端部までの間隔(W)と、前記ガス発生剤成型体の長さ(L)との関係がL/2<Wの関係を有している、請求項1記載のインフレータ。





【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−137475(P2008−137475A)
【公開日】平成20年6月19日(2008.6.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−325311(P2006−325311)
【出願日】平成18年12月1日(2006.12.1)
【出願人】(000002901)ダイセル化学工業株式会社 (1,236)
【Fターム(参考)】