説明

インプリント装置、および、物品の製造方法

【課題】離型性能の点で有利なインプリント装置を提供する。
【解決手段】このインプリント装置は、基板10上の未硬化樹脂をテンプレート7中の型7aにより成形して硬化させ、硬化した樹脂12からテンプレート7の撓みを伴う離型を行い、基板10上に樹脂12のパターンを形成する。この場合、インプリント装置は、型7aの外縁7bの領域を引きつけてテンプレート7を保持するテンプレート保持部と、テンプレート保持部に対向し、基板10を保持する基板保持部と、押型または離型を選択的に行うようにテンプレート保持部と基板保持部とを相対的に移動させる駆動機構とを有し、樹脂12のパターンにおける離型の完了する領域が撓みによりパターンの中央の領域からずれるように、テンプレート保持部でテンプレート7を引きつけて離型を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インプリント装置、および、物品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイスや磁気記憶媒体の量産向けリソグラフィー技術として、基板上の未硬化樹脂をテンプレート中の型により成形して硬化させ、基板上に樹脂のパターンを形成する微細加工技術が実用化されつつある。この技術は、インプリント技術とも呼ばれ、基板上に数ナノメートルオーダーの微細な構造体を形成することができる。例えば、インプリント技術の一つとして、光硬化法がある。この光硬化法を採用したインプリント装置では、まず、基板(ウエハ)上のショット領域(インプリント領域)に紫外線硬化樹脂(インプリント樹脂、光硬化性樹脂)を塗布する。次に、この樹脂(未硬化樹脂)を型により成形する。そして、紫外線を照射して樹脂を硬化させたうえで離型することにより、樹脂のパターンが基板上に形成される。
【0003】
このインプリント技術を採用したインプリント装置は、従来のリソグラフィー装置とは異なり、テンプレートの型と基板上の未硬化樹脂とを押し付ける接触式であるため、この押型時には型および基板に強い力が加わる。特に、テンプレートが硬い材質で形成され変形しづらい場合には、型と基板上の樹脂とを引き離す離型工程が短時間で進行することにも起因して、離型力が大きくなり、型を破壊したり、またはインプリント装置の精度劣化に影響を与えたりする可能性がある。そこで、特許文献1は、薄板状のテンプレートを外周で支持し、光照射面を加圧することでテンプレートを基板に向けて凸状に変形させるインプリント方法を開示している。このインプリント方法によれば、押型時にテンプレートを凸状に撓ませて樹脂に押し付けることで、型と樹脂との間の気体を追い出すことができる。更に、離型時にもテンプレートを撓ませることで、型に形成されたパターン領域の端部から中央部にかけて徐々に離型を進行させることができるので、結果的に離型力を低減させることができる。また、特許文献2は、テンプレートを基板に対して斜めに傾けながら離型させるインプリント方法を開示している。この場合も、型に形成されたパターン領域の端部から別の端部にかけて徐々に離型を進行させることで、特許文献1に開示されたインプリント方法と同様に、離型力を低減させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許出願公開第2007/0114686号明細書
【特許文献2】米国特許第6870301号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に示すインプリント方法では、離型時の型と樹脂との接触面積は、パターン領域の中央部に近づくほど小さくなるため、微小な力を受けただけで型と基板とに位置ずれが発生し、樹脂のパターンが破壊される可能性がある。一方、特許文献2に示すインプリント方法では、上記接触面積が極小となる領域は、特許文献1とは異なりパターン領域の端部となる。すなわち、樹脂のパターンの破壊が懸念される領域は、型のパターン領域の中央部付近ではなく端部付近となる。一般的に、パターンの端部付近では、パターンサイズが大きく、かつ、パターン密度が低いため、樹脂のパターンが破壊されたとしても、生産されるデバイスの性能への影響は小さい。しかしながら、この特許文献2に示すインプリント方法を実現するためには、テンプレートの傾きを高精度に制御可能な駆動機構が必要となり、装置全体のコストが上昇する。
【0006】
本発明は、例えば、離型性能の点で有利なインプリント装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一側面は、基板上の未硬化樹脂をテンプレート中の型により成形して硬化させ、硬化した樹脂からテンプレートの撓みを伴う離型を行い、基板上に樹脂のパターンを形成するインプリント装置であって、型の外縁の領域を引きつけてテンプレートを保持するテンプレート保持部と、テンプレート保持部に対向し、基板を保持する基板保持部と、押型または離型を選択的に行うようにテンプレート保持部と基板保持部とを相対的に移動させる駆動機構と、を有し、樹脂のパターンにおける離型の完了する領域が撓みによりパターンの中央の領域からずれるように、テンプレート保持部でテンプレートを引きつけて離型を行う、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、例えば、離型性能の点で有利なインプリント装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の実施形態に係るインプリント装置の構成を示す図である。
【図2】第1実施形態に係るチャックおよびテンプレートを示す図である。
【図3】第2実施形態に係るウエハチャックおよびウエハを示す図である。
【図4】第3実施形態に係るチャックおよびテンプレートを示す図である。
【図5】第4実施形態に係るチャックおよびテンプレートを示す図である。
【図6】第5実施形態に係るモールドの押型面を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を実施するための形態について図面等を参照して説明する。
【0011】
(第1実施形態)
まず、本発明の第1実施形態に係るインプリント装置について説明する。図1は、インプリント装置の構成を示す図である。本実施形態におけるインプリント装置は、半導体デバイス等のデバイスの製造に使用され、被処理体であるウエハ上(基板上)の未硬化樹脂をテンプレート中の型で成形しウエハ上に樹脂のパターンを形成する装置である。なお、ここでは光硬化法を採用したインプリント装置としている。また、以下の図においては、ウエハ上の樹脂に対して紫外線を照射する照明系の光軸に平行にZ軸を取り、Z軸に垂直な平面内に互いに直交するX軸およびY軸を取っている。インプリント装置1は、照明系2と、テンプレート保持部3と、ウエハステージ4と、塗布部5、制御部6とを備える。
【0012】
照明系2は、インプリント処理の際に、テンプレート7に対して紫外線8を照射する照明手段である。この照明系2は、不図示であるが、光源と、該光源から射出された紫外線8をインプリントに適切な光に調整するための光学素子とから構成される。また、テンプレート7は、ウエハ10に対する面に、所定のパターン(例えば、回路パターン等の凹凸パターン)が3次元状に形成されたモールド(型)7aを含む。なお、テンプレート7の材質は、石英等、紫外線を透過させることが可能な材料である。
【0013】
テンプレート保持部(型保持部)3は、真空吸着力や静電力によりテンプレート7を引きつけて保持するチャック(テンプレートチャック:吸着機構)11と、テンプレート保持部3を移動させる不図示のテンプレート駆動機構とを含む。テンプレート駆動機構は、具体的には、押型または離型を選択的に行うようにテンプレート保持部3をZ軸方向に駆動する駆動機構である。この駆動機構に採用するアクチュエータとしては、例えば、リニアモータまたはエアシリンダなどが採用可能である。なお、インプリント装置1における押型および離型動作は、上述のようにテンプレート7をZ方向に移動させることで実現してもよいが、ウエハステージ4(ウエハ10)をZ方向に移動させることで実現してもよく、または、その双方を相対的に移動させてもよい。
【0014】
特に、本実施形態のテンプレート保持部3では、チャック11を、離型時においてテンプレート7をウエハ10に向けて凸型に撓ませる変形手段としている。図2は、チャック11と、該チャック11に保持されたテンプレート7を示す図である。このチャック11は、照明系2の光源から射出された紫外線8がウエハ10に向けて照射されるように、中心部(内側)に開口領域20を有する。また、チャック11は、開口領域20の外周に位置するテンプレート7の外縁(外周部表面)7bを、例えば、真空吸着力にて引きつける吸着溝(吸着部)21を含む。この場合、吸着溝21は、外部に設置された不図示の真空装置に接続されており、この真空装置により吸着圧(真空圧)が調整され、また、吸着のON/OFFが切り替えられる。
【0015】
まず、図2(a)に示すテンプレート7は、離型力によって少なくとも一部の領域が撓みやすいように、比較的薄い厚さとしている。この場合、上記開口領域20の幅に相当するX方向の長さ領域が、テンプレート7の撓み領域22となり、撓み領域22の重心位置23は、図中一点鎖線で示す中心線となる。なお、本実施形態では、半導体デバイス製造に対応するため、テンプレート7の外形寸法を、例えば、約200mm四方とし、押型面を有するモールド(パターン領域)7aの外形寸法は、約26mm×約33mmとしている。これに対して、図2(b)に示すテンプレート7´は、その外周部に、内側の撓み領域24の厚さよりも厚い壁部7cを有し、全体的に箱形の形状となっている。この場合、チャック11は、この壁部7cの垂直面を吸着溝21により吸着させることで、テンプレート7´を保持する。ここで、本実施形態でのテンプレート7におけるモールド7aの形成位置は、撓み領域22、24の重心位置23と、モールド7aの中心位置とが一致しない場所としている。特に、モールド7aは、図2の各図に示すように、テンプレート7において撓み領域22、24の重心位置23に接触しない位置に形成することが望ましい。
【0016】
ウエハ10は、例えば、単結晶シリコンからなる被処理体であり、この被処理面には、モールド7aにより成形される紫外線硬化樹脂(以下、単に「樹脂」と表記する)が塗布される。また、ウエハステージ4は、ウエハ10を例えば真空吸着により保持し、かつ、XY平面内を移動可能な基板保持部として機能する。ウエハステージ4を駆動するためのアクチュエータとしては、例えば、リニアモータを採用可能である。また、塗布部(ディスペンサ)5は、ウエハ10上に樹脂12(未硬化樹脂)を塗布する塗布手段である。ここで、樹脂12は、紫外線8を受光することにより硬化する性質を有する光硬化性樹脂(インプリント材)であって、半導体デバイスの製造工程等により適宜選択される。
【0017】
制御部6は、インプリント装置1の各構成要素の動作および調整等を制御しうる。制御部6は、例えば、コンピュータ等で構成され、インプリント装置1の各構成要素に回線を介して接続され、プログラム等にしたがって各構成要素の制御を実行しうる。本実施形態では、制御部6は、少なくともテンプレート保持部3、およびチャック11の吸着溝21に接続された真空装置の動作を制御する。なお、制御部6は、インプリント装置1の他の部分と一体で構成してもよいし、インプリント装置1の他の部分とは別の場所に設置してもよい。
【0018】
次に、インプリント装置1によるインプリント処理について説明する。まず、制御部6は、基板搬送装置13によりウエハステージ4にウエハ10を載置および固定させた後、ウエハステージ4を塗布部5の塗布位置へ移動させる。その後、塗布部5は、塗布工程としてウエハ10の所定のショット(インプリント領域)に樹脂(未硬化樹脂)12を塗布する。次に、制御部6は、ウエハ10上の塗布面がモールド7aの直下に位置するようにウエハステージ4を移動させる。次に、制御部6は、モールド7aの押型面とウエハ10上の塗布面との位置合わせ、および不図示の形状補正機構によるテンプレート7の形状補正等を実施した後、テンプレート駆動機構を駆動させ、ウエハ10上の樹脂12にモールド7aを押型する(押型工程)。このとき、樹脂は、モールド7aの押型によりモールド7aに形成されたパターンに沿って流動する。この状態で、照明系2は、硬化工程としてテンプレート7の背面(上面)から紫外線8を照射し、テンプレート7を透過した紫外線8により樹脂が硬化する。そして、樹脂12が硬化した後、制御部6は、テンプレート駆動機構を再駆動させ、モールド7aをウエハ10から離型させる(離型工程)。これにより、ウエハ10上のショットの表面には、モールド7aのパターンに倣った3次元形状の樹脂12の層が形成される。
【0019】
次に、本実施形態の特徴であるテンプレート保持部3の動作および作用について説明する。まず、上記硬化工程が完了した後、制御部6は、離型工程としてテンプレート保持部3(チャック11)を垂直方向(Z方向)上部へ徐々に上昇させる。このとき、モールド7aは、上述のように、テンプレート7の撓み領域22の重心位置23から図中の右側にずれた領域に位置しているため、離型は、モールド7aの形成領域の図中の右側の端部から開始される。すなわち、離型の進行方向は、撓み領域22の外側から重心位置23に向かい、この撓みにより、離型の完了する領域は、パターンの中央の領域からずれる。このように、離型動作は、モールド7aにおける形成領域の外周全体からではなく、外周の一端部から開始されることになるので、インプリント装置1は、モールド7aおよびウエハ10上の樹脂12に作用する離型力を低減させることができる。また、モールド7aと樹脂12との接触面積が極小となる領域がモールド7aの形成領域の端部に位置することになるので、樹脂12に形成された微細パターンが万が一破壊されたとしても、製造されるデバイスの性能への影響を最小限とすることができる。
【0020】
以上のように、本実施形態によれば、離型工程におけるモールド7aとウエハ10上の樹脂12とに作用する離型力を低減させることができるので、樹脂12に形成された微細パターンに発生する破壊等の不具合を最小限に抑えることが可能となる。さらに、インプリント装置1は、テンプレート7をウエハ10に対して傾けるような複雑な機構を必要としないため、安価とすることができる。
【0021】
なお、上記の構成では、テンプレート7におけるモールド7aの形成位置を、撓み領域22の重心位置23からずれた位置としているが、本実施形態は、これに限定しない。例えば、モールド7aがテンプレート7の中心位置に形成されている場合には、チャック11は、予めモールド7aの中心位置が撓み領域22の重心位置23からずれるようにテンプレート7の吸着位置をずらす(偏心させる)構成もあり得る。この場合、実際にどの程度テンプレート7を偏心させたかを計測するためのテンプレート位置計測器を設置することが望ましい。さらに、モールド7aがテンプレート7の中心位置に形成されている場合の上記以外の構成として、例えば、テンプレート7の厚みに分布を与える構成や、テンプレート7に切り欠きを設ける構成などが挙げられる。
【0022】
(第2実施形態)
次に、本発明の第2実施形態に係るインプリント装置について説明する。図3は、本実施形態に係るウエハチャック30と、該ウエハチャック30に吸着保持されたウエハ10を示す図である。本実施形態のインプリント装置の特徴は、テンプレート7を撓ませるのではなく、ウエハステージ4に設置されたウエハチャック(吸着機構)30によりウエハ10を引きつける領域を可変とし、ウエハ10を撓ませることで離型力を低減させる点にある。なお、図3において、図2における構成要素と同一のものには同一の符号を付し、説明は省略する。ここで、テンプレート31は、第1実施形態におけるテンプレート7の撓み領域22の厚さよりも厚く、垂直方向に撓みにくい厚さか、または垂直方向に撓みにくい剛性を有する材質で形成されている。また、ウエハチャック30は、ウエハステージ4上に設置され、例えば真空吸着力によりウエハ10を吸着保持する。ウエハチャック30の表面であるウエハ10の載置面には、ウエハ10を略全面において吸着させるための複数の吸着溝(吸着部)32を有する。この吸着溝32も、チャック11の吸着溝21と同様に、外部に設置された不図示の真空装置に接続されており、この真空装置により吸着圧(真空圧)が調整され、また、吸着のON/OFFが切り替えられる。
【0023】
この場合、制御部6は、離型時において、ショット位置に応じて吸着溝32の吸着圧を部分的に弱めるように設定することで、ウエハ10の撓み領域33の重心位置34を、テンプレート31のモールド31aの中心位置から外れた領域に位置するように調整する。例えば、制御部6は、通常のウエハ10の保持時には、真空装置を介して全ての吸着溝32の吸着圧を−70kPaに設定し、一方、離型時には、ウエハ10の撓み領域33の範囲内に相当する吸着溝32の吸着圧のみを−10kPaに設定する。制御部6は、このように吸着圧を切り替えた後、テンプレート保持部3をウエハ10に対して垂直方向に徐々に上昇させることで、第1実施形態と同様にモールド31aの形成領域の図中の右側の端部から離型が開始される。すなわち、離型の進行方向は、ウエハ10の撓み領域33の外側からその撓み領域の重心位置34に向かい、この撓みにより、離型の完了する領域は、パターンの中央の領域からずれる。これにより、本実施形態によれば、第1実施形態と同様の効果を奏する。なお、本実施形態と第1実施形態との動作を組み合わせることで、テンプレート31とウエハ10との両方を撓ませる方法もあり得る。
【0024】
(第3実施形態)
次に、本発明の第3実施形態に係るインプリント装置について説明する。図4は、本実施形態に係るチャック(テンプレートチャック)40と、該チャック40に保持されたテンプレート7を示す図である。特に、図4(a)は、チャック40の吸着面41をテンプレート7の吸着側から見た平面図である。また、図4(b)は、図2に対応し、図4(a)に示すA−A´断面を示す図であり、一方、図4(c)は、同様に図2に対応し、図4(a)に示すB−B´断面を示す図である。本実施形態のインプリント装置の特徴は、チャック40が吸着面積の異なる複数の吸着溝42を有し、押型および硬化時、または離型時に応じて吸着溝42における吸着のON/OFFを切り替える、すなわち、テンプレートを引きつける領域が可変である点にある。なお、図4の各図において、図2における構成要素と同一のものには同一の符号を付し、説明は省略する。まず、図4(a)に示すように、チャック40は、その吸着面41に、4つの吸着溝42a〜42dを有する。これらの吸着溝42a〜42dは、ロ型の吸着面41を形成する四方の面において、それぞれ隣接した2つの面に連なり、かつ、1つの面に2種類の吸着溝が隣り合って配置されるようなL字型の形状を有する。特に、チャック40は、一方の隣接する吸着面41a、41bの外周側に形成される第1吸着溝42aと、その内側に形成される第2吸着溝42bとを有する。また、チャック40は、他方の隣接する吸着面41c、41dの外周側に形成される第3吸着溝42cと、その内側に形成される第4吸着溝42dとを有する。この場合、それぞれ吸着面41の内側に形成される第2吸着溝42bと第4吸着溝42dとの溝幅を同一とする。これに対して、第1吸着溝42aの溝幅は、第2吸着溝42b(第4吸着溝42d)の溝幅よりも狭く設定しており、結果的に第1吸着溝42aの吸着面積は、第2吸着溝42bの吸着面積よりも小さい。一方、開口領域43を基準として第1吸着溝42aに対向する第3吸着溝42cの溝幅は、第2吸着溝42bの溝幅よりも広く設定しており、結果的に第3吸着溝42cの吸着面積は、第2吸着溝42bの吸着面積よりも大きい。
【0025】
ここで、押型時および硬化時において、モールド7aをテンプレート7の撓み領域44の重心位置45からずれた領域に位置させると、テンプレート7とウエハ10上の樹脂12とを互いに押し付ける力が偏る可能性がある。そこで、本実施形態では、制御部6は、押型時および硬化時には、テンプレート7の撓み領域44の重心位置45をモールド7aの中心位置と一致または近づけることで、パターンの位置精度を向上させる。この場合、制御部6は、図4(b)に示すように、真空装置を介して、第1、第2および第3吸着溝42a、42b、42cの吸着をONとして、このときの吸着圧を50kPaに設定し、一方、第4吸着溝42dの吸着をOFFとする。そして、制御部6は、この状態のまま押型動作および硬化処理を実行する。
【0026】
一方、離型時には、制御部6は、第1実施形態と同様にモールド7aをテンプレート7の撓み領域44の重心位置45からずれた領域に位置させることで離型力を低減させる。この場合、制御部6は、図4(c)に示すように、真空装置を介して、第1、第3および第4吸着溝42a、42c、42dの吸着をONとし、一方、第2吸着溝42bの吸着をOFFとする。これにより、図4(a)のB−B´の指示線上にも示すように、この場合のテンプレート7の撓み領域46の重心位置47は、モールド7aからずれた位置となるので、上記実施形態と同様の効果を奏する。
【0027】
(第4実施形態)
次に、本発明の第4実施形態に係るインプリント装置について説明する。図5は、本実施形態に係るチャック(テンプレートチャック)50と、該チャック50に保持されたテンプレート7を示す図である。特に、図5(a)は、チャック50の吸着面51をテンプレート7の吸着側から見た平面図である。また、図5(b)および図5(c)は、図5(a)に示すA−A´断面を示す図である。本実施形態のインプリント装置の特徴は、吸着面51に複数の吸着溝52を形成し、ウエハ10の端部(縁)に所望のショットが位置する場合に吸着溝52の吸着のON/OFFを適宜切り替えることで、ウエハ10の内側から端部に向けて離型を進行させる点にある。なお、図5の各図において、図2における構成要素と同一のものには同一の符号を付し、説明は省略する。まず、図5(a)に示すように、チャック50は、その吸着面51に、計28個の吸着溝52a〜52n、52a´〜52n´を有する。これらの各吸着溝52は、ロ型の吸着面51を形成する四方の各面において、1つの面に7種類の吸着溝が隣り合って配置される形状を有する。特に、チャック40は、第1吸着面51aに形成される第1〜7吸着溝52a〜52gと、第2吸着面51bに形成される第15〜21吸着溝52a´〜52g´とを有する。同様に、チャック40は、第3吸着面51cに形成される第8〜14吸着溝52h〜52nと、第4吸着面51bに形成される第22〜28吸着溝52h´〜52n´とを有する。ただし、本実施形態の各吸着溝52の溝幅は、全て同一とする。
【0028】
この場合、ウエハ10のX方向左側の端部に位置するショットに対する離型時には、制御部6は、図5(b)に示すように、モールド7aをテンプレート7の撓み領域53の重心位置54から右側にずれた領域に位置させる。このとき、制御部6は、例えば、真空装置を介して第1〜3、および8〜14吸着溝52a〜52c、52h〜52nの吸着をONとし、一方、第4〜7吸着溝52d〜52gの吸着をOFFとする。これに対して、ウエハ10のX方向右側の端部に位置するショットに対する離型時には、制御部6は、図5(c)に示すように、テンプレート7のモールド7aをテンプレート7の撓み領域55の重心位置56から左側に外れた領域に位置させる。このとき、制御部6は、例えば、真空装置を介して第1〜7、および12〜14吸着溝52a〜52g、52l〜52nの吸着をONとし、一方、第8〜11吸着溝52h〜52kの吸着をOFFとする。そして、制御部6は、テンプレート保持部3をウエハ10に対して垂直方向に徐々に上昇させることで、ウエハ10の内側から端部に向けて離型を進行させる。なお、第2吸着面51bおよび第4吸着面51dの各吸着溝52は、テンプレート7の撓みの程度に基づいて、テンプレート7の中心位置を基準としてそれぞれ対称となるいずれかの位置の吸着溝52の吸着をONまたはOFFと設定すればよい。これにより、本実施形態によれば、モールド7aとウエハ10上の樹脂12の接触面積が極小となる領域がウエハ10の端部近傍となり、結果的に上記実施形態と同様の効果を奏する。なお、ウエハ10の端部のショットに形成される樹脂パターン形成領域は、限られた領域のものしかデバイス(製品)として利用されないため、この樹脂パターンに欠陥が生じたとしても許容される場合が多い。
【0029】
(第5実施形態)
次に、本発明の第5実施形態に係るインプリント装置について説明する。図6は、本実施形態に係るテンプレート7に形成したモールド7aの押型面をウエハ10側から見た模式図である。特に、図6(a)は、以下の図との比較のために、通常のモールド7aの押型面における、上記各実施形態のインプリント装置で離型したときの離型の進行方向60を示す図である。この場合、離型の進行は、例えば、右下の端部の領域から開始し、左上の端部の領域で完了する。そのため、左上の端部では、モールド7aとウエハ10上の樹脂12との接触面積が極小となり、場合によっては、形成された樹脂パターンが微小な力で破壊される可能性がある。一般に、この端部で樹脂パターンが破壊されたとしても、デバイス性能への影響が低いが、万が一樹脂パターンがこの端部から大幅に破壊されると、デバイス性能に影響する場合もある。そこで、本実施形態のインプリント装置では、モールドは、矩形に対して張り出し部を付加した形状の外形を有する。図6(b)および図6(c)は、それぞれ張り出し部61a、61bを有するモールド62a、62bを示す図である。ここで、張り出し部61aは、丸型、一方、張り出し部61bは、突起型の形状をそれぞれ有する。このような張り出し部61a、61bを設けることにより、モールド62a、62bにおける離型が完了する端部では、ウエハ10上の樹脂12との接触面積を大きくすることができる。なお、張り出し部61の形状は、接触面積を大きくするものであれば、この形状に限定されず、また、張り出し部61の寸法も、モールドの寸法や、隣接するモールドとの間隔などの条件により適宜決定してよい。このように、本実施形態によれば、離型の進行方向60に起因した樹脂パターンの破壊を防止することができる。
【0030】
(物品の製造方法)
物品としてのデバイス(半導体集積回路素子、液晶表示素子等)の製造方法は、上述したインプリント装置を用いて基板(ウエハ、ガラスプレート、フィルム状基板)にパターンを形成する工程を含む。更に、該製造方法は、パターンが形成された基板をエッチングする工程を含みうる。なお、パターンドメディア(記録媒体)や光学素子等の他の物品を製造する場合には、該製造方法は、エッチングの代わりに、パターンが形成された基板を加工する他の処理を含みうる。本実施形態の物品の製造方法は、従来の方法に比べて、物品の性能・品質・生産性・生産コストの少なくとも1つにおいて有利である。
【0031】
以上、本発明の好ましい実施形態について説明したが、本発明は、これらの実施形態に限定されず、その要旨の範囲内で種々の変形および変更が可能である。
【0032】
例えば、上記第3および第4実施形態における複数の吸着溝42、52の形状および設置本数は、これに限定するものではない。これらの形状および設置本数は、上記効果を奏するように、例えば、発生する離型力と、テンプレート7の撓み領域を好適に撓ませるために必要な吸着圧との関係などにより、適宜変更可能である。
【符号の説明】
【0033】
1 インプリント装置
3 テンプレート保持部
4 ウエハステージ
7 テンプレート
7a モールド
7b 外縁
10 ウエハ
12 樹脂

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上の未硬化樹脂をテンプレート中の型により成形して硬化させ、硬化した樹脂から前記テンプレートの撓みを伴う離型を行い、前記基板上に樹脂のパターンを形成するインプリント装置であって、
前記型の外縁の領域を引きつけて前記テンプレートを保持するテンプレート保持部と、
前記テンプレート保持部に対向し、前記基板を保持する基板保持部と、
押型または離型を選択的に行うように前記テンプレート保持部と前記基板保持部とを相対的に移動させる駆動機構と、を有し、
前記樹脂のパターンにおける前記離型の完了する領域が前記撓みにより前記パターンの中央の領域からずれるように、前記テンプレート保持部で前記テンプレートを引きつけて前記離型を行う、
ことを特徴とするインプリント装置。
【請求項2】
基板上の未硬化樹脂をテンプレート中の型により成形して硬化させ、硬化した樹脂から前記基板の撓みを伴う離型を行い、前記基板上に樹脂のパターンを形成するインプリント装置であって、
前記テンプレートを保持するテンプレート保持部と、
前記テンプレート保持部に対向し、前記基板を保持する基板保持部と、
押型または離型を選択的に行うように前記テンプレート保持部と前記基板保持部とを相対的に移動させる駆動機構と、を有し、
前記樹脂のパターンにおける前記離型の完了する領域が前記撓みにより前記パターンの中央の領域からずれるように、前記基板保持部で前記基板を引きつけて前記離型を行う、
ことを特徴とするインプリント装置。
【請求項3】
前記樹脂のパターンにおける前記離型の完了する領域が、前記撓みにより前記パターンの端部の領域となるように構成されている、ことを特徴とする請求項1または2に記載のインプリント装置。
【請求項4】
前記型は、前記テンプレートの外形の中央の領域からずれた領域に配置されている、
ことを特徴とする請求項1に記載のインプリント装置。
【請求項5】
前記テンプレート保持部は、前記テンプレートを引きつける領域が可変であり、
前記樹脂のパターンにおける前記離型の完了する領域が前記撓みにより前記パターンの中央の領域からずれるような前記テンプレート保持部の領域で、前記テンプレートを引きつけて前記離型を行う、ことを特徴とする請求項1に記載のインプリント装置。
【請求項6】
前記基板保持部は、前記基板を引きつける領域が可変であり、
前記樹脂のパターンにおける前記離型の完了する領域が前記撓みにより前記パターンの中央の領域からずれるような前記基板保持部の領域で、前記基板を引きつけて前記離型を行う、ことを特徴とする請求項2に記載のインプリント装置。
【請求項7】
前記樹脂のパターンにおける前記押型の開始する領域が前記テンプレートの撓みにより前記パターンの中央の領域となるように、前記テンプレート保持部で前記テンプレートを引きつけた状態で前記テンプレートを撓ませて前記押型を行う、ことを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項に記載のインプリント装置。
【請求項8】
前記基板の縁にインプリント領域が位置する場合、前記樹脂のパターンにおける前記離型の完了する領域が前記縁の領域となるように前記離型を行う、ことを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1項に記載のインプリント装置。
【請求項9】
矩形に対して張り出し部を付加した形状の外形を有する型を用い、
前記離型の完了する前記端部の領域は、前記張り出し部に対応する領域である、ことを特徴とする請求項3に記載のインプリント装置。
【請求項10】
請求項1乃至9のいずれか1項に記載のインプリント装置を用いて基板上に樹脂のパターンを形成する工程と、
前記工程で前記パターンを形成された基板を加工する工程と、
を含むことを特徴とする物品の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−134214(P2012−134214A)
【公開日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−282891(P2010−282891)
【出願日】平成22年12月20日(2010.12.20)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】