説明

インプリント装置及び物品の製造方法

【課題】基板の上の樹脂に型を押し付ける際に型の一部に応力が集中することを抑制し、インプリント装置における重ね合わせ精度の改善に有利な技術を提供する。
【解決手段】基板の上のインプリント材と型とを接触させた状態で当該インプリント材を硬化させ、硬化したインプリント材から前記型を離型することで前記基板にパターンを転写するインプリント処理を行うインプリント装置であって、前記型の前記基板に転写すべきパターンが形成されたパターン面とは反対側の裏面と接触する接触面を含み、前記接触面を介して前記型を保持するチャックと、前記型及び前記基板の少なくとも一方を駆動して前記インプリント材に前記型を押印する押印機構と、を有し、前記接触面は、前記型の裏面に対して前記パターン面とは反対側に湾曲した湾曲面を含むことを特徴とするインプリント装置を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インプリント装置及び物品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイスやMEMS(Micro Electro Mechanical System)などを製造するためのリソグラフィ装置として、インプリント装置が知られている。インプリント装置は、インプリント技術を利用して、基板上の樹脂にパターン(微細な構造)を有するモールドを押し付けた状態で樹脂を硬化させてパターンを転写する装置である。
【0003】
インプリント装置は、32nm程度のハープピッチを有する半導体デバイスの製造に適用することが考えられている。この場合、ITRS(International Technology Roadmap for Semiconductors)によれば、6.4nmの重ね合わせ精度が必要とされている。従って、インプリント装置では、基板上の樹脂にモールドを押し付ける際に、基板上に形成されたパターンの倍率(サイズ)とモールドのパターン(基板上に転写すべきパターン)の倍率とを数nm以下の精度で一致させる必要がある。
【0004】
モールドは、作製時にはパターン面が上向きであるが、使用時にはパターン面が下向きとなる(即ち、姿勢が異なる)ため、重力の影響などでパターンが変形してしまう。また、モールドにパターンを形成する際に、電子ビーム描画装置の光学系の歪曲収差などによってモールドのパターンに歪が生じてしまうこともある。なお、歪を生じることなくモールドのパターンを形成できたとしても、基板上に形成されたパターンに歪(変倍)が生じていれば、重ね合わせ精度が低下してしまう。例えば、成膜やスパッタリングなどの加熱プロセスを経るにつれて基板は拡大又は縮小し、基板上に形成されたパターンの倍率が各方向(例えば、X軸方向とY軸方向)で異なってしまう。実際のプロセスでは、基板に±10ppm程度の変倍が発生し、基板上に形成されたパターンのX軸方向とY軸方向との倍率差も10ppm程度発生している。このような重ね合わせ精度を低下させてしまう要因、即ち、基板上に形成されたパターンの倍率とモールドのパターンの倍率との不一致(例えば、基板上に形成されたパターンに対するモールドの変形(収差))をディストーションと称する。
【0005】
ディストーションが発生した場合、ステッパーやスキャナーなどの露光装置では、基板の変形に応じて露光時の各ショット領域のサイズを変化させている。例えば、スキャナーでは、投影光学系の縮小倍率を基板の倍率(即ち、基板上に形成されたパターンの倍率)に応じて数ppm程度変更すると共に、基板の倍率に応じて基板及びレチクルの走査速度を数ppm程度変化させる。このように、露光装置では、ディストーションが発生したとしても、基板上に転写すべきパターンの倍率を補正することで高精度な重ね合わせを実現している。
【0006】
一方、インプリント装置では、投影光学系を備えていないことに加えて、基板上の樹脂とモールドとが直接接触するため、ディストーションが発生した場合に、露光装置で行われているような補正を適用することができない。そこで、インプリント装置では、モールドのパターンの倍率を基板上に形成されたパターンの倍率に一致させるために、モールド(のパターン)を物理的に変形させる倍率補正機構を備えている。倍率補正機構は、例えば、モールドの外周から外力を与えることで、或いは、モールドを加熱する(即ち、モールドを膨張させる)ことで、モールドを物理的に変形させている。
【0007】
倍率補正機構の具体的な構成に関しては従来から提案されている(特許文献1参照)。特許文献1に開示された倍率補正機構は、モールドの周辺部の4箇所(4隅)をそれぞれ保持する保持部と、保持部を駆動する(位置決めする)駆動部とを有する。かかる倍率補正機構では、モールドのパターン(形状)が基板上に形成されたパターン(形状)に一致するように、駆動部によって保持部をモールドの押印方向に駆動させることで、重ね合わせ精度の低下を抑制している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2010−080714号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、基板に転写すべきパターンの微細化に伴って、従来の倍率補正機構では、インプリント装置に要求される数nm以下の重ね合わせ精度を実現することができなくなってきている。上述したように、倍率補正機構は、モールドをXY平面内で物理的に変形させることでモールドを目標の形状に補正し、基板上に形成されたパターンの倍率とモールドのパターンの倍率とを一致させている。
【0010】
この際、モールドのパターン部は、モールドの押印方向(Z軸方向)に変形し、その変形量は倍率補正機構がモールドに加える外力の大きさ(補正量)に応じて変化する(図3(a)参照)。この状態からモールドのパターン部を基板の上の樹脂に押し付けると、モールドのパターン部の一部、特に、パターン部の最外周部に応力が集中する(図3(b)参照)。その結果、モールドのパターン部におけるパターンピッチの線形性が崩れ、重ね合わせ精度の低下を招いてしまう。従って、パターン部に生じる応力集中を抑制する必要がある。特に、X軸方向とY軸方向とで異なる倍率補正を行う場合には、パターン部に生じる歪や応力もX軸方向とY軸方向とで異なるため、X軸方向及びY軸方向の応力集中のそれぞれを個別に抑制する必要がある。但し、特許文献1に開示された倍率補正機構のように、4つの保持部をモールドの押印方向に駆動させるだけでは、このような応力集中を十分に抑制することはできない。また、モールドを保持するモールドチャックの周辺には、基板とモールドとの間の距離を計測する計測系などが配置されるため、パターン部に生じる応力集中を抑制する機構を新たに設けることは難しい。
【0011】
本発明は、このような従来技術の課題に鑑みてなされ、基板の上の樹脂に型を押し付ける際に型の一部に応力が集中することを抑制し、インプリント装置における重ね合わせ精度の改善に有利な技術を提供することを例示的目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために、本発明の一側面としてのインプリント装置は、基板の上のインプリント材と型とを接触させた状態で当該インプリント材を硬化させ、硬化したインプリント材から前記型を離型することで前記基板にパターンを転写するインプリント処理を行うインプリント装置であって、前記型の前記基板に転写すべきパターンが形成されたパターン面とは反対側の裏面と接触する接触面を含み、前記接触面を介して前記型を保持するチャックと、前記型及び前記基板の少なくとも一方を駆動して前記インプリント材に前記型を押印する押印機構と、を有し、前記接触面は、前記型の裏面に対して前記パターン面とは反対側に湾曲した湾曲面を含むことを特徴とする。
【0013】
本発明の更なる目的又はその他の側面は、以下、添付図面を参照して説明される好ましい実施形態によって明らかにされるであろう。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、例えば、基板の上の樹脂に型を押し付ける際に型の一部に応力が集中することを抑制し、インプリント装置における重ね合わせ精度の改善に有利な技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の一側面としてのインプリント装置の構成を示す図である。
【図2】図1に示すインプリント装置の動作(インプリント処理)を説明するためのフローチャートである。
【図3】モールドの変形を説明するための図である。
【図4】図1に示すインプリント装置のモールドチャックを説明するための図である。
【図5】図1に示すインプリント装置において、樹脂にモールドを押し付けた状態を示す図である。
【図6】図1に示すインプリント装置のモールドチャックに保持されたモールドの状態を示す図である。
【図7】図1に示すインプリント装置のモールドチャックの具体的な構成を示す図である。
【図8】図1に示すインプリント装置のモールドチャックの具体的な構成を示す図である。
【図9】モールド及びモールドチャックの構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、添付図面を参照して、本発明の好適な実施の形態について説明する。なお、各図において、同一の部材については同一の参照番号を付し、重複する説明は省略する。
【0017】
図1は、本発明の一側面としてのインプリント装置1の構成を示す図である。インプリント装置1は、半導体デバイスなどの製造工程で使用されるリソグラフィ装置である。インプリント装置1は、インプリント材と型とを接触させた状態でインプリント材を硬化させ、硬化したインプリント材から型を離型(剥離)することで基板にパターン(凹凸パターン)を転写するインプリント処理を行う。インプリント装置1は、本実施形態では、型としてモールド3を使用し、インプリント材として樹脂を使用する。また、インプリント装置1は、本実施形態では、樹脂硬化法として、紫外線の照射によって樹脂を硬化させる光硬化法を採用する。また、図1に示すように、モールド3に対して紫外線を照射する方向に平行な方向(軸)をZ軸とし、Z軸に対して直交する方向(軸)をX軸及びY軸とする。
【0018】
インプリント装置1は、照射部4と、モールド3を保持するモールド保持部5と、基板2を保持する基板保持部6と、樹脂供給部7と、アライメント計測部8と、距離検出部9と、制御部10とを有する。また、インプリント装置1は、基板保持部6を保持するためのベース定盤20と、モールド保持部5を保持するためのブリッジ定盤21と、ブリッジ定盤21を支持するための支柱22とを有する。
【0019】
基板2は、モールド3のパターンが転写される基板であって、例えば、単結晶シリコンウエハやSOI(Silicon on Insulator)ウエハなどを含む。基板2には、紫外線硬化型の樹脂が供給(塗布)される。
【0020】
モールド3は、矩形形状の外形を有し、基板2(に供給された樹脂)に転写すべきパターンが3次元形状に形成されたパターン面(基板2に対向する面)を有する。モールド3は、基板2の上の樹脂を硬化させるための紫外線を透過する材料(例えば、石英など)で構成される。
【0021】
照射部4は、インプリント処理を行う際に、モールド3を介して、基板2の上の樹脂に紫外線を照射する。照射部4は、紫外線を発する光源11と、光源11から発せられた紫外線をインプリント処理に適切な紫外線に調整するための複数の光学素子12とを含む。なお、樹脂硬化法として熱硬化法を採用する場合には、照射部4は、樹脂(熱硬化型の樹脂)を加熱する熱源部に置換される。
【0022】
モールド保持部5は、モールド3を保持(固定)して、基板2の上の樹脂にモールド3を押し付ける(押印する)ための機構である。モールド保持部5は、モールドチャック13と、モールドステージ14と、倍率補正機構(変形部)15とを含む。モールドチャック13は、後述するように、モールド3のパターン面とは反対側の裏面と接触する接触面を含み、かかる接触面を介してモールド3を保持(例えば、真空吸着や静電吸着など)する。また、モールドチャック13は、モールドステージ14に載置される。モールドステージ14は、モールド3のパターンを基板2に転写する際に、基板2とモールド3との間の間隔を位置決めするための駆動系を含み、モールド3をZ軸方向(基板2の上の樹脂にモールド3を押印する際の押印方向)に駆動する。モールド3のパターンを基板2に転写する際には、高精度な位置決めが要求されるため、モールドステージ14の駆動系は、粗動駆動系及び微動駆動系で構成される。また、モールドステージ14の駆動系は、Z軸方向だけではなく、X軸方向、Y軸方向及びθ(Z軸周りの回転)方向の位置調整機能やモールド3の傾きを補正するためのチルト機能を備えていてもよい。倍率補正機構15は、モールド3のパターンの倍率(サイズ)を補正する機能を有する。倍率補正機構15は、本実施形態では、モールドチャック13に支持され、モールド3の側面(詳細には、基部の側面)に対して力を付与してモールド3の形状(詳細には、パターン面の形状)を変形させる。
【0023】
基板保持部6は、基板2を保持(固定)し、インプリント処理を行う際に、基板2とモールド3との位置合わせを行うための機構である。基板保持部6は、基板チャック16と、基板ステージ17とを含む。基板チャック16は、基板2を保持(例えば、真空吸着や静電吸着など)し、基板ステージ17に載置される。また、基板チャック16には、モールド3の位置合わせを行う際に用いられる基準マーク23が配置されている。基板ステージ17は、基板2とモールド3との位置合わせを行うための駆動系を含む。基板ステージ17の駆動系は、基板2をX軸方向及びY軸方向に駆動し、粗動駆動系及び微動駆動系で構成される。また、基板ステージ17の駆動系は、X軸方向及びY軸方向だけではなく、Z軸方向及びθ(Z軸周りの回転)方向の位置調整機能や基板2の傾きを補正するためのチルト機能を備えていてもよい。
【0024】
モールドステージ14(の駆動系)及び基板ステージ17(の駆動系)は、本実施形態では、モールド3及び基板2の少なくとも一方を駆動して、基板2の上の樹脂にモールド3を押印する押印機構として機能する。
【0025】
樹脂供給部7は、基板2の上に、紫外線の照射によって硬化する性質を有する紫外線硬化型の樹脂を供給する。樹脂供給部7は、例えば、樹脂を吐出(滴下)するノズルを含むディスペンサヘッドで構成される。基板2の上に供給される樹脂の量は、必要となる厚さや転写するパターンの密度などに応じて決定される。
【0026】
アライメント計測部8は、基板2の上に形成されたアライメントマークとモールド3に形成されたアライメントマークとの相対的な位置(即ち、X軸方向及びY軸方向の位置ずれ)を計測する。
【0027】
距離検出部9は、基板2とモールド3との間の距離(間隔)を検出する機能を有する。特に、本実施形態では、距離検出部9は、基板2とモールド3との間の距離を検出することで、倍率補正機構15によって変形されたモールド3のパターン面の変形量を検出する。距離検出部9は、例えば、特開2007−139752号にも開示されているように、検出用光源(不図示)からの光を基板2とモールド3との間を干渉させ、かかる干渉光を撮像素子(不図示)で観察することで、基板2とモールド3との間の距離を検出する。
【0028】
制御部10は、CPUやメモリなどを含み、インプリント装置1の全体(インプリント装置1の各部)を制御する。制御部10は、インプリント処理を行う際に、モールド3のパターン面の変形量が予め定められた変形量となるように、モールド3の(パターン面の)変形を制御する。
【0029】
図2を参照して、インプリント装置1の動作(インプリント処理)について説明する。かかる動作は、制御部10がインプリント装置1の各部を統括的に制御することで行われる。また、本実施形態では、同一のモールド3を用いて、複数の基板2のそれぞれに対して、あるレイヤのパターンを転写する場合を例に説明する。
【0030】
S101では、モールド搬送機構(不図示)を介して、インプリント装置1にモールド3を搬入し、かかるモールド3をモールドステージ14、即ち、モールドチャック13に保持させる。
【0031】
S102では、モールドチャック13に保持されたモールド3のアライメントを行う。具体的には、基板チャック16に配置された基準マーク23とモールド3に形成されたアライメントマークとの間の位置ずれ(X軸方向、Y軸方向及びθ方向)をアライメント計測部8で検出する。そして、アライメント計測部8の計測結果に基づいて、基準マーク23に対するモールド3の位置をモールドステージ14で調整する。
【0032】
S103では、基板搬送機構(不図示)を介して、インプリント装置1に基板2を搬入し、かかる基板2を基板ステージ17、即ち、基板チャック16に保持させる。
【0033】
S104では、基板2の上の対象ショット領域に樹脂を供給(塗布)する。具体的には、基板2の対象ショット領域を樹脂供給部7の樹脂供給位置に位置させ、樹脂供給部7から樹脂を供給しながら基板ステージ17を駆動することで対象ショット領域に樹脂を塗布する。ここで、対象ショット領域とは、これからモールド3のパターンを転写するショット領域である。
【0034】
S105では、モールド3のパターンと対向する位置、即ち、モールド3を押し付ける位置(押印位置)に基板2の対象ショット領域が位置するように、基板ステージ17を駆動する。
【0035】
S106では、モールド3のパターンの倍率を補正する。具体的には、距離検出部9によってモールド3のパターン面の変形量を検出しながら、例えば、基板2に形成されたパターンの倍率とモールド3のパターンの倍率とが一致するように、倍率補正機構15によってモールド3(のパターン面の形状)を変形させる。
【0036】
ここで、モールド3の変形について説明する。図3(a)は、モールド3を基板2の対象ショット領域の上の樹脂Rに押し付ける前のモールド3の状態を示している。図3(a)に示すように、モールド3は、基部32と、パターンが形成されたパターン面34aを含むパターン部34とを有する。なお、モールド3の裏面34cには、図3(a)に示すように、キャビティ36が形成されていてもよい。キャビティ36の内部の圧力は、制御部10の制御下において、必要に応じて変化させることが可能である。例えば、キャビティ36の内部の圧力を外部の圧力よりも高くして、パターン面34aが下方向に撓んだ状態でモールド3を基板2の上の樹脂Rに押し付けると、モールド3は、パターン面34aの中心部から樹脂Rに接触することになる。これにより、樹脂Rとモールド3との間に空気が閉じ込められることを抑制し、モールド3のパターンへの樹脂の未充填に起因するパターン欠陥を低減させることができる。
【0037】
図3(a)を参照するに、モールド3のパターン部34は、モールド3の重力や倍率補正機構15からモールド3の側面に付与された力によって変形している。図3(b)は、図3(a)に示す状態を維持しながら、基板2の対象ショット領域の上の樹脂Rにモールド3を押し付けたときのモールド3の状態を示している。図3(b)を参照するに、樹脂Rにモールド3を押し付けると、モールド3のパターン部34(パターン面34a)のうち、樹脂Rと接触している部分は基板2の表面に倣って平面となり、樹脂Rと接触していない部分は変形したままになる。従って、樹脂Rと接触している部分と樹脂Rと接触していない部分、即ち、パターン部34の最外周部34bに応力が集中し、パターンピッチの線形性が崩れ、重ね合わせ精度の低下を招いてしまう。
【0038】
そこで、本実施形態では、図4(a)に示すように、モールド3の裏面34cと接触する接触面13aが湾曲面で構成されるように、モールドチャック13を構成している。接触面13aを構成する湾曲面は、モールド3の裏面34cに対してパターン面34aとは反対側に湾曲した形状を有する。例えば、接触面13aを構成する湾曲面は、基板2の上の樹脂にモールド3を押印する際の押印方向(Z軸方向)と倍率補正機構15がモールド3に力を付与する方向(X軸方向)とに直交する軸(Y軸)を中心としてωy方向に湾曲した形状を有する。
【0039】
図4(a)に示すモールドチャック13でモールド3を保持すると、モールド3(のパターン面34a)は、図4(b)に示すように、接触面13aを構成する湾曲面に倣って湾曲(変形)する。また、モールドチャック13の内部には、モールド3の裏面34cに対して、接触面13aを構成する湾曲面を介してかかる湾曲面における接線に直交する方向(略押印方向)に力を付与する付与部28が設けられている。従って、制御部10の制御下において、付与部28からモールド3の裏面34cに力を付与することで、モールド3のパターン面34aの変形量(湾曲量)を調整(制御)することが可能である。
【0040】
付与部28がモールド3の裏面34cに付与する力(即ち、付与部28によるモールド3のパターン面34aの変形量)は、例えば、基板2の上のアライメントマークとモールド3の上のアライメントマークとの相対的な位置に基づいて制御される。基板2の上のアライメントマークとモールド3の上のアライメントマークとの相対的な位置は、上述したように、アライメント計測部8で計測することが可能である。従って、アライメント計測部8の計測結果に基づいて、モールド3のパターン面34aの変形量が予め定められた変形量となるように、付与部28がモールド3の裏面34cに付与する力を制御すればよい。
【0041】
また、付与部28がモールド3の裏面34cに付与する力は、基板2の上のアライメントマークとモールド3の上のアライメントマークとの相対的な位置、及び、倍率補正機構15によるモールド3の変形量にも基づいて制御されてもよい。モールド3の変形量は、上述したように、距離検出部9で検出することが可能である。従って、アライメント計測部8の計測結果及び距離検出部9の検出結果に基づいて、モールド3のパターン面34aの変形量が予め定められた変形量となるように、付与部28がモールド3の裏面34cに付与する力を制御すればよい。なお、モールド3の変形量は、モールド3の側面の変位を計測する変位センサや倍率補正機構15に設けられた力センサなどを用いて検出してもよい。
【0042】
このようなモールドチャック13の構成及び付与部28の制御によって、本実施形態では、モールド3は、図5に示すように、パターン面34aが任意の形状に変形(湾曲)した状態でモールドチャック13に保持され、樹脂Rに押し付けられることになる。従って、モールド3のパターン部34の一部、具体的には、最外周部34bに応力が集中することが抑制され、重ね合わせ精度の低下を低減(防止)することができる。
【0043】
図5では、モールドチャック13の接触面13aは、モールド3をωy方向に湾曲させる形状を有しているが、図6に示すように、モールド3をωy方向及びωx方向に湾曲させる形状を有していてもよい。換言すれば、モールドチャック13の接触面13aは、モールド3の中心を通り、モールド3の押印方向(Z軸方向)に平行な軸AX0に対して、互いに直交する2方向の軸AX1及びAX2を中心として湾曲する湾曲面で構成されていてもよい。このような場合、複数の付与部28を設けて、ωy方向及びωx方向のそれぞれのモールド3の変形量(湾曲量)を個別に調整するようにしてもよい。
【0044】
また、モールドチャック13の接触面13aは、モールド3の中心を通り、モールド3の押印方向に平行な軸AX0と、軸AX0に対して直交する軸AX1又はAX2とによって形成される面に対して対称な形状を有している。従って、モールドチャック13に保持されたモールド3も接触面13aの形状に倣って、軸AX0と、軸AX1又はAX2とによって形成される面に対して対称となる。但し、基板2のエッジ部付近のショット領域にインプリント処理を行う場合などには、モールド3(のパターン面34a)の形状がモールド3の中心CPを通る軸に対して非対称となるように、付与部28によってモールド3の変形量を調整することもある。
【0045】
例えば、基板2の上の樹脂にモールド3を押し付けた際に、図5に示す位置P1から+X軸方向のパターン面34aのみが樹脂に押し付けられ、位置P1から−X軸方向のパターン面34aが基板2からはみ出す場合がある。このような場合、X軸方向に配置した複数の付与部28のそれぞれによるモールド3の変形量を+X軸側と−Y軸側とで相対的に変えることで、ωy方向の湾曲に関する中心軸は、+X軸方向にシフトする。これにより、基板2の上の樹脂とモールド3との接触領域の境界付近に応力が集中することを抑制することが可能となり、重ね合わせ精度の低下を低減(防止)することができる。
【0046】
図2に戻って、S108では、モールドチャック13に設けられた付与部28によってモールド3の裏面34aに力を付与し、モールド3のパターン面34aの変形量を調整(制御)する。かかる調整については、上述した通りであるため、ここでの詳細な説明は省略する。
【0047】
S108では、モールドステージ14をZ軸方向に駆動して、基板2の対象ショット領域の上の樹脂にモールド3を押印する(即ち、対象ショット領域の上の樹脂とモールド3とを接触させる)。なお、基板ステージ17をZ軸方向に駆動して、基板2の対象ショット領域の上の樹脂にモールド3を押印してもよい。
【0048】
S109では、基板2のアライメントを行う。具体的には、基板2の上のアライメントマークとモールド3の上のアライメントマークとの間の位置ずれをアライメント計測部8で計測する。そして、アライメント計測部8の計測結果に基づいて、かかる位置ずれが最小となるように、モールド3に対する基板2の位置を基板ステージ17で調整する。基板2のアライメントは、モールド3を押印することで基板2とモールド3との位置がX軸方向及びY軸方向にずれてしまう場合などに有効となる。また、基板2のアライメントは、モールド3を押印する動作の間継続して行ってもよい。
【0049】
S110では、基板2の対象ショット領域の上の樹脂を硬化させるために、対象ショット領域の上の樹脂にモールド3を押し付けた状態において、対象ショット領域の上の樹脂に対して照射部4から紫外光を照射する。
【0050】
S111では、モールドステージ14をZ軸方向に駆動して、基板2の対象ショット領域の上の硬化した樹脂からモールド3を離型(剥離)する。これにより、基板2の対象ショット領域にモールド3のパターンが転写される。なお、基板ステージ17をZ軸方向に駆動して、基板2の対象ショット領域の上の硬化した樹脂からモールド3を離型してもよい。
【0051】
S112では、基板2の上の全てのショット領域にモールド3のパターンを転写したかどうかを判定する。全てのショット領域にモールド3のパターンを転写していない場合には、S104に移行して、次の対象ショット領域に樹脂を供給する。また、全てのショット領域にモールド3のパターンを転写している場合には、S113に移行する。
【0052】
S113では、基板搬送機構を介して、インプリント装置1から、全てのショット領域にモールド3のパターンが転写された基板2を搬出する。
【0053】
S114では、モールド3のパターンを転写すべき基板2があるかどうかを判定する。モールド3のパターンを転写すべき基板2がある場合には、S103に移行して、次の基板をインプリント装置1に搬入する。また、モールド3のパターンを転写すべき基板2がない場合には、S115に移行する。
【0054】
S115では、モールド搬送機構を介して、インプリント装置1からモールド3を搬出し、動作を終了する。
【0055】
このように、本実施形態では、モールドチャック13が湾曲面で構成された接触面13aを介してモールド3を保持することで、モールド3のパターン面34aを湾曲させている。また、モールドチャック13の内部に設けられた付与部28によってモールド3の裏面34aに力を付与し、モールド3のパターン面34aの変形量が予め定められた変形量となるように、モールド3のパターン面34aの形状を調整(制御)している。従って、本実施形態では、従来技術と比較して、モールド3のパターン面34aの形状を高精度に調整することが可能となると共に、モールド3のパターン部34の一部(最外周部34b)に応力が集中することを抑制することができる。これにより、インプリント装置1は、インプリント装置に要求される数nm以下の重ね合わせ精度を実現することができる。
【0056】
図7(a)及び図7(b)を参照して、モールドチャック13の具体的な構成について説明する。図7(a)は、基板側から見たモールドチャック13の平面図であり、図7(b)は、図7(a)に示すモールドチャック13のA−A断面図である。
【0057】
モールドチャック13は、図7(a)及び図7(b)に示すように、基部26と、保持部27と、付与部28とを含む。基部26は、モールドステージ14に接続される。保持部27は、モールド3の裏面34aと接触する接触面13aを形成し、真空吸着や静電吸着などによってモールド3を保持する。例えば、保持部27は、モールド3の対角線上のエリアに配置され、付与部28は、保持部27の間に配置される。ここでは、保持部27及び付与部28のそれぞれは、接触面13aの4箇所に配置されている。
【0058】
保持部27の表面を含む接触面13aは、上述したように、湾曲面で構成されている。モールドチャック13の接触面13aを構成する湾曲面には、モールド3を保持した際にモールド3が湾曲するために、1μm〜5μm程度の湾曲量が必要となる。
【0059】
付与部28は、ピエゾアクチュエータやリニアモータなどのアクチュエータ281と、予圧バネ282と、接触面13a(を構成する湾曲面)に接続する接続板283とを含む。付与部28では、予圧バネ282により予圧が加えられたアクチュエータ281が接触面13aを構成する湾曲面における接線に直交する方向に駆動(伸縮)することで、接続板283及び接触面13aを介して、モールド3の裏面34cに力を付与する。
【0060】
付与部28がモールド3の裏面34cに付与する力、即ち、付与部28によるモールド3のパターン面34aの変形量は、実際には、以下の手順で決定すればよい。まず、基板2に形成されたパターンの倍率とモールド3のパターンの倍率とが一致するように、倍率補正機構15によってモールド3のパターン面34aを変形させる。次いで、倍率補正機構15によるモールド3のパターン面34aの変形量を(例えば、距離検出部9を用いて)検出する。そして、倍率補正機構15によるモールド3のパターン面34aの変形量に基づいて、モールド3のパターン面34aの変形量が予め定められた変形量となるように、付与部28によるモールド3のパターン面34aの変形量を決定する。ここで、予め定められた変形量とは、モールド3のパターン部34の一部(最外周部34b)に応力が集中することを抑制するために必要となるモールド3のパターン面34aの変形量である。但し、モールド3を保持する際に必要な変形量(湾曲量)が一定である場合、即ち、湾曲面で構成された接触面13aに倣ってモールド3が湾曲するだけでよい場合には、付与部28は不要となる。
【0061】
このような構成によって、モールドチャック13に保持されたモールド3のωx方向及びωy方向のそれぞれの変形量(湾曲量)を個別に調整することができる。また、モールド3の裏面34aに力を直接付与するため、アクチュエータ281の構成がコンパクトになり、保持部27とは異なるエリアに付与部28を配置することが可能となる。従って、保持部27の厚さ方向のスペースを確保することができ、保持部27の表面を含む接触面13aの平面度を高精度に加工する上で有利となる。なお、アクチュエータ281としてピエゾアクチュエータを用いれば、高応答性、且つ、高分解能な付与部28を実現することができる。
【0062】
また、モールドチャック13は、図8(a)及び図8(b)に示すような構成であってもよい。図8(a)は、基板側から見たモールドチャック13の平面図であり、図8(b)は、図8(a)に示すモールドチャック13のA−A断面図である。
【0063】
図8(a)及び図8(b)に示すモールドチャック13には、アクチュエータ281、予圧バネ282及び接続板283を含む付与部28の代わりに、気体や液体などの流体を封入する気室285及び調整部286を含む付与部28aが設けられている。気室285は、接触面13aを構成する湾曲面に沿った面285aを有するようにモールドチャック13の内部に形成される。調整部286は、例えば、圧力制御装置やバルブなどを含み、気室285に封入される流体の圧力を調整する。付与部28aでは、調整部286で気室285に封入される流体の圧力を変化(調整)することで、面285a及び接触面13aを介して、モールド3の裏面34cに力が付与される。また、面285aは、気室285に封入される流体の圧力の変化によって変形するように、ダイヤフラム構造となっている。このように、流体の圧力を利用することで、シンプルな構成で、且つ、コスト、耐久性及び保守性に有利な付与部を構成することができる。
【0064】
また、モールドチャック13の接触面13aを湾曲面で構成するのではなく、図9に示すように、モールド3の裏面34cを湾曲面で構成しても同様の効果を得ることができる。モールド3の裏面34cを構成する湾曲面は、パターン面側(即ち、モールドチャック13の接触面側とは反対側)に湾曲した形状を有する。モールド3の裏面34cを構成する湾曲面の具体的な形状については、上述したモールドチャック13の接触面13aと同様であるため、ここでの説明は省略する。モールド3の裏面34cを湾曲面で構成した場合には、モールドチャック13の接触面13aを湾曲面で構成する必要はなく、平面で構成すればよい。但し、モールド3の裏面34cに力を付与する付与部28は、上述したように、モールドチャック13に設けられる。
【0065】
これまで説明したように、インプリント装置1は、数nm以下の重ね合わせ精度を実現し、高いスループットで経済性よく高品位な半導体デバイスや液晶表示素子などの物品を提供することができる。物品としてのデバイス(半導体デバイス、液晶表示素子等)の製造方法について説明する。かかる製造方法は、インプリント装置1を用いて基板(ウエハ、ガラスプレート、フィルム状基板等)にパターンを転写(形成)するステップを含む。かかる製造方法は、パターンが転写された基板をエッチングするステップを更に含む。なお、かかる製造方法は、パターンドットメディア(記録媒体)や光学素子などの他の物品を製造する場合には、エッチングステップの代わりに、パターンが転写された基板を加工する他の加工ステップを含む。
【0066】
以上、本発明の好ましい実施形態について説明したが、本発明はこれらの実施形態に限定されないことはいうまでもなく、その要旨の範囲内で種々の変形及び変更が可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板の上のインプリント材と型とを接触させた状態で当該インプリント材を硬化させ、硬化したインプリント材から前記型を離型することで前記基板にパターンを転写するインプリント処理を行うインプリント装置であって、
前記型の前記基板に転写すべきパターンが形成されたパターン面とは反対側の裏面と接触する接触面を含み、前記接触面を介して前記型を保持するチャックと、
前記型及び前記基板の少なくとも一方を駆動して前記インプリント材に前記型を押印する押印機構と、
を有し、
前記接触面は、前記型の裏面に対して前記パターン面とは反対側に湾曲した湾曲面を含むことを特徴とするインプリント装置。
【請求項2】
前記チャックの内部に配置され、前記型の裏面に対して、前記湾曲面を介して前記湾曲面における接線に直交する方向に力を付与する付与部と、
前記型に形成されたマークと前記基板に形成されたマークとの相対的な位置を計測する計測部と、
前記計測部の計測結果に基づいて、前記チャックに保持された前記型の前記パターン面の変形量が予め定められた変形量となるように、前記付与部が前記型の裏面に付与する力を制御する制御部と、
を更に有することを特徴とする請求項1に記載のインプリント装置。
【請求項3】
前記型の側面に対して力を付与して前記パターン面を変形させる変形部と、
前記変形部によって変形された前記パターン面の変形量を検出する検出部と、
を更に有し、
前記制御部は、前記計測部の計測結果及び前記検出部の検出結果に基づいて、前記チャックに保持された前記型の前記パターン面の変形量が予め定められた変形量となるように、前記付与部が前記型の裏面に付与する力を制御することを特徴とする請求項2に記載のインプリント装置。
【請求項4】
前記湾曲面は、前記型の中心を通り、前記インプリント材に前記型を押印する際の押印方向に平行な軸に対して、互いに直交する2方向の軸を中心として湾曲していることを特徴とする請求項1乃至3のうちいずれか1項に記載のインプリント装置。
【請求項5】
前記湾曲面は、前記型の中心を通り、前記インプリント材に前記型を押印する際の押印方向に平行な軸と、当該軸に対して直交する軸とによって形成される面に対して対称に湾曲していることを特徴とする請求項1乃至4のうちいずれか1項に記載のインプリント装置。
【請求項6】
前記付与部は、
前記湾曲面に接続する接続板と、
前記接続板を前記湾曲面における接線に直交する方向に駆動するアクチュエータと、
を含むことを特徴とする請求項2に記載のインプリント装置。
【請求項7】
前記付与部は、
前記湾曲面に沿った面を有するように前記チャックの内部に形成され、流体を封入する気室と、
前記気室に封入される流体の圧力を調整する調整部と、
を含むことを特徴とする請求項2に記載のインプリント装置。
【請求項8】
基板の上のインプリント材と型とを接触させた状態で当該インプリント材を硬化させ、硬化したインプリント材から前記型を離型することで前記基板にパターンを転写するインプリント処理を行うインプリント装置であって、
前記型は、
前記型の前記基板に転写すべきパターンが形成されたパターン面と、
前記パターン面とは反対側の裏面と、
を有し、
前記インプリント装置は、
前記型の裏面と接触する接触面を含み、前記接触面を介して前記型を保持するチャックと、
前記型及び前記基板の少なくとも一方を駆動して前記インプリント材に前記型を押印する押印機構と、
を有し、
前記型の裏面は、前記パターン面側に湾曲した湾曲面を含むことを特徴とするインプリント装置。
【請求項9】
請求項1乃至8のうちいずれか1項に記載のインプリント装置を用いて基板の上にパターンを転写するステップと、
前記パターンが転写された前記基板を加工するステップと、
を有することを特徴とする物品の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−110162(P2013−110162A)
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−251920(P2011−251920)
【出願日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】