説明

インホイールモータ

【課題】電動車両を駆動するために十分な回転力を確保し、かつ、エネルギーの損失を低減すること。
【解決手段】電動車両駆動装置10は、第1モータ11と、第2モータ12と、第1遊星歯車機構20と、第2遊星歯車機構30と、クラッチ装置40と、ホイール軸受50とを含む。第1遊星歯車機構20は、シングルピニオン式の遊星歯車装置である。第2遊星歯車機構30は、ダブルピニオン式の遊星歯車装置である。第1モータ11は、第1サンギア21及び第2サンギア31に連結される。第2モータ12は、第1リングギア24に連結される。クラッチ装置40は、第1キャリア23に連結される。第2キャリア33は、第1リングギア24に連結される。第1リングギア24は、ホイール軸受50に連結される。第2キャリア33は、第2リングギア34と一体で形成され、第2モータ12のロータ12bが外周面に固定されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動車両を駆動するインホイールモータに関する。
【背景技術】
【0002】
電動車両駆動装置のうち、特にホイールを直接駆動するものをインホイールモータという。ここでいうインホイールモータとは、電動車両が備えるホイールの近傍に設けられる駆動装置である。なお、インホイールモータは、必ずしもホイールの内部に収納されていなくてもよい。インホイールモータは、ホイールの内部またはホイール近傍に配置される必要がある。しかしながら、ホイールの内部やホイール近傍は、比較的狭い空間である。よって、インホイールモータは、小型化が要求される。
【0003】
インホイールモータには、減速機構を備える方式のものと、減速機構を備えないダイレクトドライブ方式のものとがある。減速機構を備える方式のインホイールモータは、電動車両の発進時や登坂時(坂道を登る時)に、電動車両を駆動するために十分な回転力を確保しやすい。しかしながら、減速機構を備える方式のインホイールモータは、減速機構を介して回転力をホイールに伝えるため、減速機構での摩擦損失が生じる。減速機構を備える方式のインホイールモータは、モータの出力軸の回転速度がホイールの回転速度よりも常に速い。よって、減速機構を備える方式のインホイールモータは、特に、電動車両が高速で走行する時に、減速機構での摩擦損失によってエネルギーの損失が増大する。
【0004】
一方、ダイレクトドライブ方式のインホイールモータは、減速機構を介さずに回転力をホイールに伝えるため、エネルギーの損失を低減できる。しかしながら、ダイレクトドライブ方式のインホイールモータは、減速機構によって回転力を増幅できない。これにより、ダイレクトドライブ方式のインホイールモータは、電動車両の発進時や登坂時に、電動車両を駆動するために十分な回転力を確保しにくい。電動車両を駆動するために十分な回転力を確保するための技術として、例えば、特許文献1には、インホイールモータではないが、遊星歯車機構を含む減速機構と、2つのモータとを備える技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−081932号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に開示されている技術は、動力循環経路を有する。特許文献1に開示されている技術は、動力循環経路内で回転力をまず電力に変換し、その電力を再度回転力に変換している。よって、特許文献1に開示されている技術は、動力循環経路に発電機及びモータを含む必要がある。しかしながら、上述のように、インホイールモータは、電動車両駆動装置の小型化が要求されており、発電機及びモータを設置するためのスペースをホイール近傍に確保することが困難である。また、特許文献1に開示されている技術は、動力を電力に変換し、さらに電力を動力に変換する。よって、特許文献1に開示されている技術は、エネルギーの変換時にエネルギーの損失が生じる。
【0007】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであり、電動車両を駆動するために十分な回転力を確保し、かつ、エネルギーの損失を低減できるインホイールモータを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、第1の発明に係るインホイールモータは、第1モータと、第2モータと、前記第1モータと連結される第1サンギアと、前記第1サンギアと噛み合う第1ピニオンギアと、前記第1ピニオンギアが自転できるように、かつ、前記第1ピニオンギアが前記第1サンギアを中心に公転できるように前記第1ピニオンギアを保持する第1キャリアと、前記第1キャリアの回転を規制できるクラッチ装置と、前記第1ピニオンギアと噛み合い、かつ、前記第2モータと連結される第1リングギアと、前記第1モータと連結される第2サンギアと、前記第2サンギアと噛み合う第2ピニオンギアと、前記第2ピニオンギアと噛み合う第3ピニオンギアと、前記第2ピニオンギア及び前記第3ピニオンギアがそれぞれ自転できるように、かつ、前記第2ピニオンギア及び前記第3ピニオンギアが前記第2サンギアを中心に公転できるように前記第2ピニオンギア及び前記第3ピニオンギアを保持すると共に、前記第1リングギアと連結される第2キャリアと、前記第3ピニオンギアと噛み合い、かつ、電動車両のホイールと連結される第2リングギアと、を含み、前記第2キャリアは、前記第1リングギアと一体で形成され、前記第2モータのロータが外周面に固定されていることを特徴とする。
【0009】
上記構成により、第1の発明に係るインホイールモータは、第1変速状態と第2変速状態の2つの変速状態を実現できる。第1変速状態では、第1モータは作動し、第2モータは作動せず、クラッチ装置は係合状態である。第1変速状態で、第1の発明に係るインホイールモータは、第2キャリアから第1リングギアに回転力の一部が戻り、さらに第1リングギアに伝わった回転力が第1サンギアを介して第2サンギアに伝わる。すなわち、第1の発明に係るインホイールモータは、回転力が循環する。これにより、第1の発明に係るインホイールモータは、より大きな変速比を実現できる。すなわち、第1の発明に係るインホイールモータは、第1変速状態の時に、第1モータが出力する回転力よりも大きな回転力をホイールに伝達できる。
【0010】
第2変速状態では、第1モータ及び第2モータは作動し、クラッチ装置は非係合状態である。第1の発明に係るインホイールモータは、第2変速状態の際、第2モータから出力される回転力の角速度が変化することで、変速比を連続的に変更できる。これにより、第1の発明に係るインホイールモータは、第1モータの角速度と、出力軸となる第2リングギアの角速度との差を低減できる。これにより、第1の発明に係るインホイールモータは、摩擦損失を低減できる。
【0011】
また、上記構成により、第2モータと第2キャリアとを近接して配置することができ、装置を小型化、軽量化することができる。
【0012】
本発明の好ましい態様としては、前記第1キャリアの外周面の前記第2キャリアの内周面との間に配置され、前記第1キャリアと前記第2キャリアとを相対回転可能な状態で支持する軸受機構が配置されていることが好ましい。これにより、第2モータのロータとステータとの間で振れ周りが生じることを抑制し、動力の伝達を適切に行うことができる。
【0013】
また、上述した課題を解決し、目的を達成するために、第2の発明に係るインホイールモータは、第1モータと、第2モータと、前記第1モータと連結される第1サンギアと、 前記第1サンギアと噛み合う第1ピニオンギアと、前記第1ピニオンギアが自転できるように、かつ、前記第1ピニオンギアが前記第1サンギアを中心に公転できるように前記第1ピニオンギアを保持する第1キャリアと、前記第1ピニオンギアと噛み合い、かつ、電動車両のホイールと連結される第1リングギアと、前記第1モータと連結される第2サンギアと、前記第2サンギアと噛み合う第2ピニオンギアと、前記第2ピニオンギアと噛み合う第3ピニオンギアと、前記第2ピニオンギア及び前記第3ピニオンギアがそれぞれ自転できるように、かつ、前記第2ピニオンギア及び前記第3ピニオンギアが前記第2サンギアを中心に公転できるように前記第2ピニオンギア及び前記第3ピニオンギアを保持する第2キャリアと、前記第2キャリアの回転を規制できるクラッチ装置と、前記第3ピニオンギアと噛み合い、かつ、前記第1キャリアと連結され、かつ、前記第2モータと連結される第2リングギアと、を含み、前記第1キャリアは、前記第2リングギアと一体で形成され、前記第2モータのロータが外周面に固定されていることを特徴とする。
【0014】
上記構成により、第2の発明に係るインホイールモータは、第1変速状態と第2変速状態の2つの変速状態を実現できる。第1変速状態では、第1モータは作動し、第2モータは作動せず、クラッチ装置は係合状態である。第1変速状態で、第2の発明に係るインホイールモータは、第1キャリアから第2リングギアに回転力の一部が戻り、さらに第2リングギアに伝わった回転力が第2サンギアを介して第1サンギアに伝わる。すなわち、第2の発明に係るインホイールモータは、回転力が循環する。これにより、第2の発明に係るインホイールモータは、より大きな変速比を実現できる。すなわち、第2の発明に係るインホイールモータは、第1変速状態の時に、第1モータが出力する回転力よりも大きな回転力をホイールに伝達できる。
【0015】
第2変速状態では、第1モータ及び第2モータは作動し、クラッチ装置は非係合状態である。第2の発明に係るインホイールモータは、第2変速状態の際、第2モータから出力される回転力の角速度が変化することで、変速比を連続的に変更できる。これにより、第2の発明に係るインホイールモータは、第1モータの角速度と、出力軸となる第1リングギアの角速度との差を低減できる。これにより、第2の発明に係るインホイールモータは、摩擦損失を低減できる。
【0016】
また、上記構成により、第2モータと第2キャリアとを近接して配置することができ、装置を小型化、軽量化することができる。
【0017】
本発明の好ましい態様としては、前記第2キャリアの外周面の前記第1キャリアの内周面との間に配置され、前記第1キャリアと前記第2キャリアとを相対回転可能な状態で支持する軸受機構が配置されていることを特徴とする請求項3に記載のインホイールモータ。これにより、第2モータのロータとステータとの間で振れ周りが生じることを抑制し、動力の伝達を適切に行うことができる。
【0018】
また、前記第2モータは、回転軸方向において、前記第1キャリアと前記第2キャリアとが重なる位置に配置されていることが好ましい。上記構成により、第2モータと第2キャリアとを近接して配置することができ、装置を小型化、軽量化することができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明は、電動車両を駆動するために十分な回転力を確保し、かつ、エネルギーの損失を低減できるインホイールモータを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】図1は、実施形態1の電動車両駆動装置の構成と、電動車両駆動装置が第1変速状態の時に回転力が伝わる経路とを示す説明図である。
【図2】図2は、実施形態1の電動車両駆動装置が第1変速状態での各部の各回転速度を示す共線図である。
【図3】図3は、実施形態1の電動車両駆動装置が第2変速状態の時に回転力が伝わる経路を示す説明図である。
【図4】図4は、実施形態1の第1モータ及び第2モータの角速度−回転力特性の一例を示すグラフである。
【図5】図5は、実施形態1の電動車両駆動装置の変速機構の概略構成を示す断面図である。
【図6】図6は、実施形態1の電動車両駆動装置の変速機構を分解して示す説明図である。
【図7】図7は、実施形態2の電動車両駆動装置の構成を示す説明図である。
【図8】図8は、実施形態2の電動車両駆動装置が第1変速状態での各部の各回転速度を示す共線図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、この発明につき図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、この発明を実施するための形態(以下、実施形態という)によりこの発明が限定されるものではない。また、下記実施形態における構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、実質的に同一のものが含まれる。
【0022】
(実施形態1)
図1は、実施形態1の電動車両駆動装置の構成と、電動車両駆動装置が第1変速状態の時に回転力が伝わる経路とを示す説明図である。図1に示すように、インホイールモータである電動車両駆動装置10は、ケーシングGと、第1モータ11と、第2モータ12と、変速機構13と、ホイール軸受50とを含む。ケーシングGは、第1モータ11と、第2モータ12と、変速機構13とを収納する。第1モータ11は、第1回転力TAを出力できる。第2モータ12は、第2回転力TBを出力できる。変速機構13は、第1モータ11と連結される。これにより、変速機構13は、第1モータ11が作動すると、第1回転力TAが伝えられる(入力される)。なお、ここでいうモータの作動とは、モータに電力が供給されて出力軸が回転することをいう。また、変速機構13は、第2モータ12と連結される。これにより、変速機構13は、第2モータ12が作動すると、第2回転力TBが伝えられる(入力される)。そして、変速機構13は、ホイール軸受50と連結され、変速された回転力をホイール軸受50に伝える(出力する)。ホイール軸受50は、電動車両のホイールHが取り付けられる。
【0023】
変速機構13は、第1遊星歯車機構20と、第2遊星歯車機構30と、クラッチ装置40とを含む。第1遊星歯車機構20は、シングルピニオン式の遊星歯車機構である。第1遊星歯車機構20は、第1サンギア21と、第1ピニオンギア22と、第1キャリア23と、第1リングギア24とを含む。第2遊星歯車機構30は、ダブルピニオン式の遊星歯車機構である。第2遊星歯車機構30は、第2サンギア31と、第2ピニオンギア32aと、第3ピニオンギア32bと、第2キャリア33と、第2リングギア34とを含む。
【0024】
第1サンギア21は、回転軸Rを中心に回転(自転)できるようにケーシングG内に支持される。第1サンギア21は、第1モータ11と連結される。よって、第1サンギア21は、第1モータ11が作動すると、第1回転力TAが伝えられる。これにより、第1サンギア21は、第1モータ11が作動すると、回転軸Rを中心に回転する。第1ピニオンギア22は、第1サンギア21と噛み合う。第1キャリア23は、第1ピニオンギア22が第1ピニオン回転軸Rp1を中心に回転(自転)できるように第1ピニオンギア22を保持する。第1ピニオン回転軸Rp1は、例えば、回転軸Rと平行である。
【0025】
第1キャリア23は、回転軸Rを中心に回転(自転)できるようにケーシングG内に支持される。これにより、第1キャリア23は、第1ピニオンギア22が第1サンギア21を中心に、すなわち回転軸Rを中心に公転できるように第1ピニオンギア22を保持することになる。第1リングギア24は、回転軸Rを中心に回転(自転)できる。第1リングギア24は、第1ピニオンギア22と噛み合う。また、第1リングギア24は、第2モータ12と連結される。よって、第1リングギア24は、第2モータ12が作動すると第2回転力TBが伝えられる。これにより、第1リングギア24は、第2モータ12が作動すると、回転軸Rを中心に回転(自転)する。
【0026】
クラッチ装置40は、第1キャリア23の回転を規制できる。具体的には、クラッチ装置40は、回転軸Rを中心とした第1キャリア23の回転を規制(制動)する場合と、前記回転を許容する場合とを切り替えできる。以下、クラッチ装置40は、前記回転を規制(制動)する状態を係合状態といい、前記回転を許容する状態を非係合状態という。クラッチ装置40の詳細については後述する。
【0027】
第2サンギア31は、回転軸Rを中心に回転(自転)できるようにケーシングG内に支持される。第2サンギア31は、第1サンギア21を介して第1モータ11と連結される。具体的には、第1サンギア21と第2サンギア31とは、同軸(回転軸R)で回転できるようにサンギアシャフト14に一体で形成される。そして、サンギアシャフト14は、第1モータ11と連結される。これにより、第2サンギア31は、第1モータ11が作動すると、回転軸Rを中心に回転する。
【0028】
第2ピニオンギア32aは、第2サンギア31と噛み合う。第3ピニオンギア32bは、第2ピニオンギア32aと噛み合う。第2キャリア33は、第2ピニオンギア32aが第2ピニオン回転軸Rp2を中心に回転(自転)できるように第2ピニオンギア32aを保持する。また、第2キャリア33は、第3ピニオンギア32bが第3ピニオン回転軸Rp3を中心に回転(自転)できるように第3ピニオンギア32bを保持する。第2ピニオン回転軸Rp2及び第3ピニオン回転軸Rp3は、例えば、回転軸Rと平行である。
【0029】
第2キャリア33は、回転軸Rを中心に回転(自転)できるようにケーシングG内に支持される。これにより、第2キャリア33は、第2ピニオンギア32a及び第3ピニオンギア32bが第2サンギア31を中心に、すなわち回転軸Rを中心に公転できるように第2ピニオンギア32a及び第3ピニオンギア32bを保持することになる。また、第2キャリア33は、第1リングギア24と連結される。これにより、第2キャリア33は、第1リングギア24が回転(自転)すると、回転軸Rを中心に回転(自転)する。第2リングギア34は、回転軸Rを中心に回転(自転)できる。第2リングギア34は、第3ピニオンギア32bと噛み合う。また、第2リングギア34は、ホイール軸受50と連結される。これにより、第2リングギア34が回転(自転)すると、ホイール軸受50は回転する。次に、電動車両駆動装置10における回転力の伝達経路について説明する。
【0030】
電動車両駆動装置10は、第1変速状態と第2変速状態との2つの変速状態を実現できる。まずは、電動車両の発進時や登坂時(坂道を登る時)に用いられる第1変速状態、いわゆるローギア状態を電動車両駆動装置10が実現する場合を説明する。第1変速状態では、第1モータ11は作動する。第1変速状態の時に、第1モータ11が出力する回転力を第1回転力T1とする。また、第1変速状態の時、第2モータ12は作動しない、すなわち空転する。また、クラッチ装置40は係合状態である。すなわち、第1変速状態では、第1ピニオンギア22は、ケーシングGに対して公転できない状態となる。なお、図1に示す第1回転力T1と、循環回転力T3と、合成回転力T4と、第1分配回転力T5と、第2分配回転力T6との各回転力は、各部位に作用するトルクを示し、単位はNmである。
【0031】
第1モータ11から出力された第1回転力T1は、第1サンギア21に入力される。そして、第1回転力T1は、第1サンギア21で循環回転力T3と合流する。循環回転力T3は、第1リングギア24から第1サンギア21に伝えられた回転力である。循環回転力T3の詳細については後述する。これにより、第2サンギア31は、第1回転力T1と循環回転力T3とが合成された合成回転力T4が伝えられる。合成回転力T4は、第2遊星歯車機構30によって増幅される。また、合成回転力T4は、第2遊星歯車機構30によって第1分配回転力T5と第2分配回転力T6とに分配される。第1分配回転力T5は、第2リングギア34に分配された回転力である。第2分配回転力T6は、第2キャリア33に分配された回転力である。
【0032】
第1分配回転力T5は、第2リングギア34からホイール軸受50に伝えられる。これにより、ホイールHは回転し、電動車両は走行する。第2分配回転力T6は、第1遊星歯車機構20に入力される。具体的には、第2分配回転力T6は、第1リングギア24に伝えられる。第2分配回転力T6は、第1遊星歯車機構20によって減少される。具体的には、第2分配回転力T6は、第1リングギア24から第1ピニオンギア22を介して第1サンギア21に伝わる際に変速されることで減少される。また、第2分配回転力T6は、第1リングギア24から第1ピニオンギア22を介して第1サンギア21に伝わる際に、自身(第2分配回転力T6)の回転方向が逆転される。これにより、第2分配回転力T6は、循環回転力T3となって第1サンギア21に伝えられる。
【0033】
このように、第1モータ11から第1サンギア21に入力された第1回転力T1は、増幅されつつ、増幅された回転力の一部が第1分配回転力T5として出力される。そして、増幅された回転力の残りの回転力は、第2キャリア33から第1リングギア24及び第1ピニオンギア22を介して循環回転力T3として第1サンギア21に伝えられる。第1サンギア21に伝えられた循環回転力T3は、第1回転力T1と合流して合成回転力T4となり第2サンギア31に伝えられる。
【0034】
以上のように、電動車両駆動装置10は、第1遊星歯車機構20と第2遊星歯車機構30との間で、回転力の一部が循環する。これにより、電動車両駆動装置10は、より大きな変速比を実現できる。すなわち、電動車両駆動装置10は、第1変速状態の時に、より大きな回転力をホイールHに伝達できる。以下に、第1回転力T1から第2分配回転力T6の値の一例を説明する。
【0035】
第2サンギア31の歯数をZ1とし、第2リングギア34の歯数をZ4とし、第1サンギア21の歯数をZ5とし、第1リングギア24の歯数をZ7とする。以下に、電動車両駆動装置10の各部に作用する回転力(図1に示す循環回転力T3、合成回転力T4、第1分配回転力T5、第2分配回転力T6)の第1回転力T1に対する比を数式で示す。なお、下記の式(1)〜式(4)で負の値となるものは、第1回転力T1とは逆方向の回転力である。
【0036】
【数1】

【数2】

【数3】

【数4】

【0037】
一例として、歯数Z1を31、歯数Z4を71、歯数Z5を37、歯数Z7を71とする。また、第1回転力T1を75Nmとする。すると、循環回転力T3は154.0Nm、合成回転力T4は229.0Nm、第1分配回転力T5は524.4Nm、第2分配回転力T6は−295.4Nmとなる。このように、電動車両駆動装置10は、一例として第1モータ11が出力する第1回転力T1を6.99倍に増幅してホイールHに出力できる。次に、共線図を用いて第1変速状態での各部の角速度を説明する。
【0038】
図2は、実施形態1の電動車両駆動装置が第1変速状態での各部の各回転速度を示す共線図である。以下、一例として、第1サンギア21の角速度をV[rad/s]とする。また、負の値となる角速度は、第1回転力TAとは逆方向の回転であることを示す。図2に示すように、第1サンギア21の角速度はV[rad/s]である。第1キャリア23は、クラッチ装置40により回転が規制されている。よって、第1キャリア23の角速度は0[rad/s]である。第1リングギア24の角速度は0.521V[rad/s]である。第2サンギア31は、第1サンギア21と連結されている。よって、第2サンギア31の角速度はV[rad/s]である。第2キャリア33は、第1リングギア24と連結されている。よって、第2キャリア33の角速度は0.521V[rad/s]である。
【0039】
第2遊星歯車機構30は、ピニオンギアを2つ有するダブルピニオン式の遊星歯車機構であるため、第2サンギア31から第2リングギア34に伝わる回転力は第2キャリア33で反転する。回転力は、第2キャリア33から第2リングギア34へ伝わる際、第2サンギア31から第2キャリア33へ伝わる時の変化率に−1を乗算した変化率で反転して伝わる。すなわち、図2中では、θ1とθ2とが等しくなる。これにより、第2リングギア34の角速度は0.143V[rad/s]となる。以上により、変速機構13の変速比は、V/0.143V=6.99となる。次に、第2変速状態について説明する。
【0040】
図3は、実施形態1の電動車両駆動装置が第2変速状態の時に回転力が伝わる経路を示す説明図である。第2変速状態では、第1モータ11は作動する。第2変速状態の時に、第1モータ11が出力する回転力を第1回転力T7とする。また、第2変速状態では、第2モータ12は作動する。第2変速状態の時に、第2モータ12が出力する回転力を第2回転力T8とする。また、クラッチ装置40は非係合状態である。すなわち、第2変速状態では、第1ピニオンギア22は、ケーシングGに対して回転できる状態となる。これにより、第2変速状態では、第1遊星歯車機構20と第2遊星歯車機構30との間における回転力の循環が遮断される。また、第2変速状態では、第1キャリア23が自由に公転(回転)できるため、第1サンギア21と第1リングギア24とは相対的に自由に回転(自転)できる。なお、図3に示す合成回転力T9は、ホイール軸受50に伝えられるトルクを示し、単位はNmである。
【0041】
第2変速状態では、第1回転力T7と第2回転力T8との比は、第2サンギア31の歯数Z1と第2リングギア34の歯数Z4との比で定まる。第1回転力T7は、第2キャリア33で第2回転力T8と合流する。これにより、第2リングギア34に合成回転力T9が伝わる。第1回転力T7と、第2回転力T8と、合成回転力T9とは、下記の式(5)を満たす。
【0042】
【数5】

【0043】
ここで、第1サンギア21と第1リングギア24とは、互いに反対方向に回転(自転)するため、第2サンギア31と第2キャリア33とも、互いに反対方向に回転(自転)する。第2サンギア31の角速度を一定とした場合、第2キャリア33の角速度が速くなるほど、第2リングギア34の角速度は遅くなる。また、第2キャリア33の角速度が遅くなるほど、第2リングギア34の角速度は速くなる。このように、第2リングギア34の角速度は、第2サンギア31の角速度と、第2キャリア33の角速度とによって連続的に変化する。すなわち、電動車両駆動装置10は、第2モータ12が出力する第2回転力T8の角速度が変化することで、変速比を連続的に変更できる。
【0044】
また、電動車両駆動装置10は、第2リングギア34の角速度を一定にしようとする際に、第1モータ11が出力する第1回転力T7の角速度と、第2モータ12が出力する第2回転力T8の角速度との組み合わせを複数有する。すなわち、第2モータ12が出力する第2回転力T8の角速度が変化することで、第1モータ11が出力する第1回転力T7の角速度が変化しても、第2リングギア34の角速度を一定に維持できる。これにより、電動車両駆動装置10は、第1変速状態から第2変速状態に切り替わる際に、第2リングギア34の角速度の変化量を低減できる。結果として、電動車両駆動装置10は、変速ショックを低減できる。
【0045】
次に、第2モータ12が出力する第2回転力T8について説明する。第2モータ12は、下記の式(6)を満たす第2回転力T8以上の回転力を出力する必要がある。なお、下記の式(6)中の、1−(Z4/Z1)は、第2サンギア31と第2リングギア34との間の回転力比を示す。
【0046】
【数6】

【0047】
したがって、第1モータ11が任意に回転する際に第2リングギア34の回転力及び角速度を調節するためには、第1回転力TAと、第2回転力TBと、歯数Z1と、歯数Z4とは、下記の式(7)を満たせばよい。なお、第1回転力TAは第1モータ11の任意の角速度での回転力であり、第2回転力TBは第2モータ12の任意の角速度での回転力である。
【0048】
【数7】

【0049】
図4は、実施形態1の第1モータ及び第2モータの角速度−回転力特性の一例を示すグラフである。モータの出力軸の角速度と、その角速度で出力できる最大回転力とは、互いに関係する。この関係をモータの角速度−回転力特性(回転数−トルク特性、NT特性)という。よって、第1回転力TAと、第2回転力TBと、歯数Z1と、歯数Z4とは、第1モータ11の出力軸の角速度が0から想定される最大角速度Nmaxの範囲内で、上記の式(7)を満たす必要がある。図4に示す角速度−回転力特性は、第1モータ11の出力軸の角速度が0から想定される最大角速度Nmaxの範囲内で、第1回転力TAと、第2回転力TBと、歯数Z1と、歯数Z4とが上記の式(7)を満たす場合の第1モータ11及び第2モータ12の角速度−回転力特性の一例である。次に、クラッチ装置40について説明する。
【0050】
クラッチ装置40は、ワンウェイクラッチ装置である。ワンウェイクラッチ装置は、第1方向の回転力のみを伝達し、第1方向とは逆方向である第2方向の回転力を伝達しない。すなわち、ワンウェイクラッチ装置は、図1及び図3に示す第1キャリア23が第1方向に回転しようとする際に係合状態となり、第1キャリア23が第2方向に回転しようとする際に非係合状態となる。
【0051】
本実施形態の場合、クラッチ装置40は、第1変速状態、すなわち第2モータ12が作動していない状態であって、電動車両を前進させるように第1モータ11が回転力を出力する場合に、図1に示す第1キャリア23が回転(自転)する方向に内輪41が回転すると係合状態となる。すなわち、上述の第1方向は、電動車両を前進させるように第1モータ11が回転力を出力し、かつ、第2モータが作動していない際に第2部材としての内輪41が回転する方向である。この状態で、第2モータ12が作動すると、第2キャリア33の回転方向は逆転する。これにより、クラッチ装置40は、第2変速状態の時、すなわち第2モータ12が作動し、かつ、電動車両を前進させるように第1モータ11が回転力を出力する場合に非係合状態となる。以上により、クラッチ装置40は、第2モータ12が作動するか否かによって従動的に係合状態と非係合状態とを切り替えできる。
【0052】
次に、図5及び図6を用いて電動車両駆動装置10の変速機構13の一例を説明する。図5は、実施形態1の電動車両駆動装置の変速機構の概略構成を示す断面図である。図6は、実施形態1の電動車両駆動装置の変速機構を分解して示す説明図である。以下、上記で説明した構成要素については、図中において同一の符号で示し、重複する説明は省略する。また、図5には、第1モータ11と第2モータ12とサンギアシャフト14とも示す。電動車両駆動装置10は、さらに、軸受15と、軸受16と、キャリア軸受52と、を有する。
【0053】
図5に示すように、第1モータ11は、第1ステータ11aと、第1ロータ11bと、第1モータ出力軸11cと、を有する。第1ステータ11aは、筒状部材であり、径方向外側がケーシングGに固定されている。第1ステータ11aは、第1ステータコアに第1インシュレータを介して巻きつけられた第1コイルが複数配置されている。第1ロータ11bは、第1ステータコア11aの径方向内側に配置される。第1ロータ11bは、第1ロータコアと、第1マグネットとを含む。第1ロータコアは、筒状部材である。第1マグネットは、第1ロータコアの外周部に複数設けられる。第1モータ出力軸11cは、棒状部材である。第1モータ出力軸11cは、第1ロータ11bの第1ロータコアと連結される。また、第1モータ11には、第1ロータコアに第1ロータコアの回転角度を検出する第1レゾルバが設けられる。
【0054】
第2モータ12は、第2ステータ12aと、第2ロータ12bと、を有する。第2ステータ12aは、筒状部材であり、径方向外側がケーシングGに固定されている。第2ステータ12aは、第2ステータコアに第2インシュレータを介して巻きつけられた第2コイルが複数配置されている。
【0055】
第2ロータ12bは、第2ステータ12aの径方向内側に設けられる。第2ロータ12bは、クラッチ装置40と共にケーシングGによって、回転軸Rを中心に回転できるように支持される。第2ロータ12bは、第2ロータコア12bと、第2マグネット12bと、バランスディスク12bと、ボルト12bと、ナット12bと、を有する。
第2ロータコア12bは、筒状部材である。第2マグネット12bは、第2ロータコア12bの外周部に複数設けられる。バランスディスク12bは、第2ロータコア12bの回転不釣り合いを調整する部材であり、第2ロータコア12bの軸方向の両端に配置されている。また、第2マグネット12bとバランスディスク12bとは、ボルト12bとナット12bで第2ロータコア12bに固定されている。また、第2モータ12には、第2ロータコア12bに第2ロータコア12bの回転角度を検出する第2レゾルバが設けられる。
【0056】
サンギアシャフト14は、第1モータ出力軸11cと連結しており、第1モータ出力軸11cと共に回転する。サンギアシャフト14は、変速機構13の内部に挿入されており、第1サンギア21と第2サンギア31と連結している。また、サンギアシャフト14は、第1キャリア23と第2キャリア33を相対回転可能な状態で支持している。また、サンギアシャフト14のホイールH側には、軸受15と軸受16とを有する。軸受15は、転がり玉軸受であり、サンギアシャフト14と図示しないハブ軸受のハウジングとを相対回転可能な状態で支持している。軸受16は、サンギアシャフト14と第2遊星歯車機構30の第2キャリア33とを相対回転可能な状態で支持している。
【0057】
変速機構13は、上述したように、第1遊星歯車機構20と、第2遊星歯車機構30と、クラッチ装置40と、を有する。第1遊星歯車機構20は、第2遊星歯車機構30よりも電動車両の車体側に配置されている。つまり、第2遊星歯車機構30は、第1遊星歯車機構20よりホイールH側に配置されている。また、第2遊星歯車機構30は、第3ピニオンギア32bの外周側に第2リングギア(図示省略)が配置されている。第2リングギアは、上述したようにホイール軸受50と連結している。変速機構13は、第1モータ11及び第2モータ12の回転を伝達し、第2リングギアを回転させホイール軸受50を回転させることで、ホイールHを回転させる。
【0058】
第2遊星歯車機構30の第2キャリア33は、第1遊星歯車機構20の外周に延在する突出部33aを有する。突出部33aは、第1遊星歯車機構20の第1キャリア23と対面する位置に配置されている。つまり第2キャリア33の突出部33aは、第1遊星歯車機構20の第1キャリア23、第1サンギア21等と回転軸方向における位置が重なる位置に配置されている。突出部33aは、第1リングギア24の機能を備え、外周面に第2モータ12の第2ロータ12bの各部が固定され、内周面に内歯車33bが形成されている、突出部33aは、内歯車33bが第1ピニオンギア22と係合している。
【0059】
また、第2キャリア33は、突出部33aの基端の径方向内側の面に軸受取付部33cが形成されている。また、第1キャリア23も軸受取付部33cと対面する係方向外側の面に軸受取付部23aが形成されている。
【0060】
キャリア軸受52は、軸受取付部23aと軸受取付部33cとの間に配置されている。キャリア軸受52は、転がり玉軸受であり、内周面及び電動車両の車体側の面(第1サンギア21側の面)が軸受取付部23aと接し、外周面及びホイールH側の面(第2サンギア31側の面)が軸受取付部33cと接している。キャリア軸受52は、第1キャリア23と第2キャリア33との間で生じるラジアル荷重、アキシアル荷重、モーメント荷重を支持し、第1キャリア23と第2キャリア33とをサンギアシャフト14と同一軸上に回転可能な状態で支持している。第1キャリア23と第2キャリア33との位置が回転軸に対してずれないように回転可能な状態で両者の間隔を維持している。
【0061】
次に、本実施形態のクラッチ装置40について説明する。クラッチ装置40は、スプラグ式ワンウェイクラッチであり、第1内輪41と、第1外輪42と、クラッチ機構43と、第1軸受44と、第2軸受45と、を有する。
【0062】
第1内輪41は、筒形形状であり、径方向内側の面(内周面)が第1キャリア23に連結され、径方向外側の面(外周面)がクラッチ機構43と第1軸受44と第2軸受45とに連結されている。第1外輪42は、第1内輪41の径方向外側に配置されている。第1外輪42は、筒形形状であり、内周面がクラッチ機構43と第1軸受44と第2軸受45とに連結されている。また、第1外輪42は、ケーシングGに固定されている。なお、クラッチ機構43と第1軸受44と第2軸受45とは、いずれも内周面と外周面とを相対的に回転させることができる部材であり、第1内輪41と第1外輪42とは相対回転可能な状態で配置されている。
【0063】
クラッチ機構43は、スプラグ式ワンウェイクラッチであり、第1内輪41と、第1外輪42との間に配置された伝達部を含む。伝達部は、カム、スプラグ等で構成される。クラッチ機構43は、第1内輪41と第2外輪42とが一方向のみに相対回転可能な機構である。クラッチ機構43は、第1内輪41に第1方向の回転力が作用すると、伝達部が第1内輪41及び第1外輪42と噛み合う。これにより、第1内輪41と第1外輪42との間で回転力が伝達される。これにより、クラッチ機構43を介して第1内輪41と第1外輪42との間で力が伝達する状態となり、第1キャリア23は、ケーシングGから反力を受ける。よって、クラッチ機構43は、第1キャリア23の回転を規制できる。また、クラッチ機構43は、第1内輪41に第2方向の回転力が作用すると、伝達部が第1内輪41及び第1外輪42と噛み合わない。これにより、第1内輪41と第1外輪42との間で回転力が伝達されず、第1キャリア23は、ケーシングGから反力を受けない。よって、クラッチ装置40は、第1キャリア23の回転を規制しない。このようにして、クラッチ機構40は、ワンウェイクラッチ装置としての機能を実現する。なお、クラッチ機構43は、第1内輪41を第1部材、第1外輪42を第2部材として用いたが、第1内輪41と伝達部との間に第2内輪を設け、第1外輪42と伝達部との間に第2外輪を設けてもよい。
【0064】
ここで、クラッチ機構43は、伝達部の機構として種々の機構を用いることができ、ローラクラッチ装置でもカムクラッチ装置でもよい。但し、カムクラッチ装置は、回転力(トルク)容量がローラクラッチ装置よりも大きい。すなわち、カムクラッチ装置は、内輪41と外輪42との間で伝達できる力の大きさがローラクラッチ装置よりも大きい。よって、クラッチ装置40は、カムクラッチ装置である方が、より大きな回転力を伝達できる。
【0065】
また、クラッチ機構43は、ワンウェイクラッチ装置ではなく、シリンダ内のピストンを作動流体によって移動させることで2つの回転部材を係合させたり、電磁アクチュエータによって2つの回転部材を係合させたりする方式のクラッチ機構でもよい。但し、このようなクラッチ機構は、ピストンを移動させるための機構が必要となったり、電磁アクチュエータを作動させるための電力が必要となったりする。しかし、クラッチ機構43は、ワンウェイクラッチ装置ならば、ピストンを移動させるための機構を必要とせず、電磁アクチュエータを作動させるための電力も必要としない。クラッチ機構43は、ワンウェイクラッチ装置ならば、第1内輪41または第1外輪42(本実施形態では第1内輪41)に作用する回転力の方向が切り替えられることで、係合状態と非係合状態とを切り替えできる。よって、クラッチ装置40は、ワンウェイクラッチ装置である方が、部品点数を低減でき、かつ、自身(クラッチ装置40)を小型化できる。
【0066】
第1軸受44は、クラッチ機構43よりもホイール側に配置された転がり玉軸受であり、内輪41と外輪42とを相対回転可能な状態で支持している。なお、第1軸受44は、第1内輪41が、第1軸受44の内輪となり、第1外輪42が、第1軸受44の外輪となる。つまり、第1軸受44の内輪とクラッチ装置40の第1内輪41とが一体となり、第1軸受44の外輪とクラッチ装置40の第1外輪42とが一体となる。第2軸受45は、クラッチ機構43よりも電動車両の車体側に配置された転がり玉軸受であり、内輪41と外輪42とを相対回転可能な状態で支持している。
【0067】
このようにクラッチ装置40は、クラッチ機構43の両側に第1軸受44と第2軸受45を配置している。つまり、第1軸受44と第2軸受45とでクラッチ機構43を挟んだ構成としている。これにより、クラッチ機構40は、クラッチ機構40に係るラジアル荷重、アキシアル荷重等を第1軸受44と第2軸受45とで受けることができる。
【0068】
上記の構成により、電動車両駆動装置10は、ホイールを保持し、かつ、第1モータ11及び第2モータ12から出力された回転力を前記ホイールに伝えることで、電動車両を走行させることができる。
【0069】
また、電動車両駆動装置10は、変速機構13の第2キャリア33に突出部33aを設け、突出部33aを第1キャリア23の外周面側に配置して第1リングギア24して用いることで、つまり、第2キャリア33と第1リングギア24との機能を1つの部材で実現し、第2モータ12を第2キャリア33の外周側に配置することで、軸方向における変速機構13の大きさを小さくすることができ、装置を小型化、軽量化することができる。また、第2モータ12のロータ12bを第2キャリア33と連結する機構とすることで、第2モータ12から出力される動力を第2キャリア33に伝達するための部材を省略することができ、装置を小型化、軽量化することができる。
【0070】
また、電動車両駆動装置10は、第1キャリア23と第2キャリア33との間にキャリア軸受52を設けることで、第1キャリア23と第2キャリア33とがサンギアシャフト14に対して振れ回ることを抑制することができる。これにより、第2キャリア33に固定されている第2モータ12のロータ12bをサンギアシャフト14に対して適切に支持することができ、ロータ12bがサンギアシャフト14に対して振れ回ることを抑制することができる。これにより、ケーシングGに固定されているステータ12aと第2キャリア33に固定されたロータ12bとの回転精度が悪化することを抑制することができ、モータトルクを好適に伝達することができる。
【0071】
なお、本実施形態では、第1モータ11と、第2モータ12と、第1サンギア21と、第1キャリア23と、第1リングギア24と、第2サンギア31と、第2キャリア33と、第2リングギア34と、ホイール軸受50とがすべて同軸上に配置されているが、電動車両駆動装置10は、必ずしもこれらの構成要素が同軸上に配置されなくてもよい。また、本実施形態の電動車両駆動装置10は、第2リングギア34がホイール軸受50に直接連結されているが、第2リングギア34が歯車や継手を介してホイール軸受50に連結されてもよい。
【0072】
(実施形態2)
図7は、実施形態2の電動車両駆動装置の構成を示す説明図である。図7に示す実施形態2の電動車両駆動装置60は、実施形態1の電動車両駆動装置10と変速機構の構成が異なる。以下、実施形態1の電動車両駆動装置10が有する構成要素と同様の構成要素は、同一の符号を付して説明を省略する。電動車両駆動装置60は、変速機構63を含む。変速機構63は、第1モータ11と連結されて第1モータ11が出力した回転力が伝えられる(入力される)。また、変速機構63は、第2モータ12と連結されて第2モータ12が出力した回転力が伝えられる(入力される)。そして、変速機構63は、ホイール軸受50と連結され、変速された回転力をホイール軸受50に伝える(出力する)。ホイール軸受50は、電動車両のホイールHが取り付けられる。
【0073】
変速機構63は、第1遊星歯車機構70と、第2遊星歯車機構80と、クラッチ装置90とを含む。第1遊星歯車機構70は、シングルピニオン式の遊星歯車機構である。第1遊星歯車機構70は、第1サンギア71と、第1ピニオンギア72と、第1キャリア73と、第1リングギア74とを含む。第2遊星歯車機構80は、ダブルピニオン式の遊星歯車機構である。第2遊星歯車機構80は、第2サンギア81と、第2ピニオンギア82aと、第3ピニオンギア82bと、第2キャリア83と、第2リングギア84とを含む。第2遊星歯車機構80は、第1遊星歯車機構70よりも第1モータ11及び第2モータ12側に配置される。
【0074】
第2サンギア81は、回転軸Rを中心に回転(自転)できるようにケーシングG内に支持される。第2サンギア81は、第1モータ11と連結される。よって、第1モータ11が作動すると、第2サンギア81は、第1回転力TAが伝えられる。これにより、第2サンギア81は、第1モータ11が作動すると、回転軸Rを中心に回転する。第2ピニオンギア82aは、第2サンギア81と噛み合う。第3ピニオンギア82bは、第2ピニオンギア82aと噛み合う。第2キャリア83は、第2ピニオンギア82aが第2ピニオン回転軸Rp2を中心に回転(自転)できるように第2ピニオンギア82aを保持する。第2キャリア83は、第3ピニオンギア82bが第3ピニオン回転軸Rp3を中心に回転(自転)できるように第3ピニオンギア82bを保持する。第2ピニオン回転軸Rp2は、例えば、回転軸Rと平行である。第3ピニオン回転軸Rp3は、例えば、回転軸Rと平行である。
【0075】
第2キャリア83は、回転軸Rを中心に回転できるようにケーシングG内に支持される。これにより、第2キャリア83は、第2ピニオンギア82a及び第3ピニオンギア82bが第2サンギア81を中心に、すなわち回転軸Rを中心に公転できるように第2ピニオンギア82a及び第3ピニオンギア82bを保持することになる。第2リングギア84は、回転軸Rを中心に回転(自転)できる。第2リングギア84は、第3ピニオンギア82bと噛み合う。また、第2リングギア84は、第2モータ12と連結される。よって、第2モータ12が作動すると、第2リングギア84は、第2回転力TBが伝えられる。これにより、第2リングギア84は、第2モータ12が作動すると、回転軸Rを中心に回転(自転)する。
【0076】
第1サンギア71は、回転軸Rを中心に回転(自転)できるようにケーシングG内に支持される。第1サンギア71は、第2サンギア81を介して第1モータ11と連結される。具体的には、第1サンギア71と第2サンギア81とは、同軸(回転軸R)で回転できるようにサンギアシャフト64に一体で形成される。そして、サンギアシャフト64は、第1モータ11と連結される。これにより、第1サンギア71は、第1モータ11が作動すると、回転軸Rを中心に回転する。
【0077】
第1ピニオンギア72は、第1サンギア71と噛み合う。第1キャリア73は、第1ピニオンギア72が第1ピニオン回転軸Rp1を中心に回転(自転)できるように第1ピニオンギア72を保持する。第1ピニオン回転軸Rp1は、例えば、回転軸Rと平行である。第1キャリア73は、回転軸Rを中心に回転できるようにケーシングG内に支持される。これにより、第1キャリア73は、第1ピニオンギア72が第1サンギア71を中心に、すなわち回転軸Rを中心に公転できるように第1ピニオンギア72を保持することになる。
【0078】
また、第1キャリア73は、第2リングギア84と連結される。これにより、第1キャリア73は、第2リングギア84が回転(自転)すると、回転軸Rを中心に回転(自転)する。第1リングギア74は、第1ピニオンギア72と噛み合う。また、第1リングギア74は、ホイールHと連結される。これにより、第1リングギア74が回転(自転)すると、ホイールHは回転する。クラッチ装置90は、第2キャリア83の回転を規制できる。具体的には、クラッチ装置90は、回転軸Rを中心とした第2キャリア83の回転を規制(制動)する場合と、前記回転を許容する場合とを切り替えできる。次に、参考として、共線図を用いて第1変速状態での各部の角速度を説明する。
【0079】
図8は、実施形態2の電動車両駆動装置が第1変速状態での各部の各回転速度を示す共線図である。以下、一例として、第2サンギア81の角速度をV[rad/s]とする。また、Z1と、Z4と、Z5と、Z7とは、実施形態1のものと同一である。図8に示すように、第2サンギア81の角速度はV[rad/s]である。第2キャリア83は、クラッチ装置90により回転が規制されている。よって、第2キャリア83の角速度は0[rad/s]である。第2遊星歯車機構80は、ピニオンギアを2つ有するダブルピニオン式の遊星歯車機構であるため、第2サンギア81から第2リングギア84に伝わる回転力は第2キャリア83で反転する。回転力は、第2キャリア83から第2リングギア84へ伝わる際、第2サンギア81から第2キャリア83へ伝わる時の変化率に−1を乗算した変化率で反転して伝わる。すなわち、図8中では、θ3とθ4とが等しくなる。これにより、第2リングギア84の角速度は0.437V[rad/s]である。
【0080】
第1サンギア71は、第2サンギア81と連結されている。よって、第1サンギア71の角速度はV[rad/s]である。第1キャリア73は、第2リングギア84と連結されている。よって、第1キャリア73の角速度は0.437V[rad/s]である。また、第1リングギア74の角速度は0.143V[rad/s]となる。以上により、変速機構63の変速比は、V/0.143V=6.99となる。このように、電動車両駆動装置60は、実施形態1の電動車両駆動装置10と同様の原理により、実施形態1の電動車両駆動装置10が奏する効果と同様の効果を奏する。
【0081】
また、電動車両駆動装置60も、よりホイール側に配置される第1遊星歯車機構70の第1キャリア73を第2モータ12(サンギアシャフトに連結していない側のモータ)に対面する位置に配置し、第1キャリア73と第2リングギア84とを一体の部材として第1キャリアの外周に第2モータのロータを固定する構成とすることで、上記と同様に装置を小型化、軽量化する効果を奏することができる。このように、電動車両駆動装置は、変速機構の構成によらず、第2モータ12(サンギアシャフトに連結していない側のモータ)を、ホイール側に配置されるキャリアの外周面に配置することで、同様の効果を得ることができる。
【符号の説明】
【0082】
10、60 電動車両駆動装置
11 第1モータ
12 第2モータ
12a 第2ステータ
12b 第2ロータ
12b 第2ロータコア
12b 第2マグネット
13、63 変速機構
14、64 サンギアシャフト
15、16 軸受
20、70 第1遊星歯車機構
21、71 第1サンギア
22、72 第1ピニオンギア
23、73 第1キャリア
23a 軸受取付部
24、74 第1リングギア
30、80 第2遊星歯車機構
31、81 第2サンギア
32a、82a 第2ピニオンギア
32b、82b 第3ピニオンギア
33、83 第2キャリア
33a 突出部
33b 内歯車
33c 軸受取付部
34、84 第2リングギア
40、90 クラッチ装置
41 第1内輪
42 第1外輪
43 クラッチ機構
44 第1軸受
45 第2軸受
50 ホイール軸受
52 キャリア軸受
H ホイール
R 回転軸
Rp1 第1ピニオン回転軸
Rp2 第2ピニオン回転軸
Rp3 第3ピニオン回転軸
T1、T7、TA 第1回転力
T3 循環回転力
T4 合成回転力
T5 第1分配回転力
T6 第2分配回転力
T8、TB 第2回転力
T9 合成回転力
Z1、Z4、Z5、Z7 歯数

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1モータと、
第2モータと、
前記第1モータと連結される第1サンギアと、
前記第1サンギアと噛み合う第1ピニオンギアと、
前記第1ピニオンギアが自転できるように、かつ、前記第1ピニオンギアが前記第1サンギアを中心に公転できるように前記第1ピニオンギアを保持する第1キャリアと、
前記第1キャリアの回転を規制できるクラッチ装置と、
前記第1ピニオンギアと噛み合い、かつ、前記第2モータと連結される第1リングギアと、
前記第1モータと連結される第2サンギアと、
前記第2サンギアと噛み合う第2ピニオンギアと、
前記第2ピニオンギアと噛み合う第3ピニオンギアと、
前記第2ピニオンギア及び前記第3ピニオンギアがそれぞれ自転できるように、かつ、前記第2ピニオンギア及び前記第3ピニオンギアが前記第2サンギアを中心に公転できるように前記第2ピニオンギア及び前記第3ピニオンギアを保持すると共に、前記第1リングギアと連結される第2キャリアと、
前記第3ピニオンギアと噛み合い、かつ、電動車両のホイールと連結される第2リングギアと、
を含み、
前記第2キャリアは、前記第1リングギアと一体で形成され、前記第2モータのロータが外周面に固定されていることを特徴とするインホイールモータ。
【請求項2】
前記第1キャリアの外周面の前記第2キャリアの内周面との間に配置され、前記第1キャリアと前記第2キャリアとを相対回転可能な状態で支持する軸受機構が配置されていることを特徴とする請求項1に記載のインホイールモータ。
【請求項3】
第1モータと、
第2モータと、
前記第1モータと連結される第1サンギアと、
前記第1サンギアと噛み合う第1ピニオンギアと、
前記第1ピニオンギアが自転できるように、かつ、前記第1ピニオンギアが前記第1サンギアを中心に公転できるように前記第1ピニオンギアを保持する第1キャリアと、
前記第1ピニオンギアと噛み合い、かつ、電動車両のホイールと連結される第1リングギアと、
前記第1モータと連結される第2サンギアと、
前記第2サンギアと噛み合う第2ピニオンギアと、
前記第2ピニオンギアと噛み合う第3ピニオンギアと、
前記第2ピニオンギア及び前記第3ピニオンギアがそれぞれ自転できるように、かつ、前記第2ピニオンギア及び前記第3ピニオンギアが前記第2サンギアを中心に公転できるように前記第2ピニオンギア及び前記第3ピニオンギアを保持する第2キャリアと、
前記第2キャリアの回転を規制できるクラッチ装置と、
前記第3ピニオンギアと噛み合い、かつ、前記第1キャリアと連結され、かつ、前記第2モータと連結される第2リングギアと、
を含み、
前記第1キャリアは、前記第2リングギアと一体で形成され、前記第2モータのロータが外周面に固定されていることを特徴とするインホイールモータ。
【請求項4】
前記第2キャリアの外周面の前記第1キャリアの内周面との間に配置され、前記第1キャリアと前記第2キャリアとを相対回転可能な状態で支持する軸受機構が配置されていることを特徴とする請求項3に記載のインホイールモータ。
【請求項5】
前記第2モータは、回転軸方向において、前記第1キャリアと前記第2キャリアとが重なる位置に配置されていることを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載のインホイールモータ。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2012−6582(P2012−6582A)
【公開日】平成24年1月12日(2012.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−113500(P2011−113500)
【出願日】平成23年5月20日(2011.5.20)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】